説明

成分濃度測定装置及び成分濃度測定方法

【課題】本発明は、安定駆動モードでの使用を可能にし、180°移相器を用いずに背景成分から発生する光音響信号を差分除去することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る成分濃度測定装置91は、波長の異なる連続光を出力する第1の光源10及び第2の光源11と、第1の光源10及び第2の光源11からの連続光を、順に、予め定められた一定周波数で同一の出力端子から出力する光スイッチ15と、光スイッチ15から出力された第1の光源10及び第2の光源11からの光によって被測定物101から発生する測定用音波を検出する音波検出部17と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響法を用いた対象成分の成分濃度測定装置及び成分濃度測定方法に関し、特に、被測定物を人間又は動物とした非侵襲な成分濃度測定装置及び成分濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化が進み、成人病に対する対応が大きな課題になりつつある。血糖値などの検査においては血液の採取が必要なために患者にとって大きな負担となるので、血液を採取しない非侵襲な成分濃度測定装置が注目されている。
【0003】
非侵襲な成分濃度測定装置として、光音響法が提案されている。光音響法は、皮膚内に電磁波を照射し、測定対象とする血液成分、例えば、グルコース分子に電磁波を吸収させ、グルコース分子からの熱の放射によって局所的に熱膨張を起こし、熱膨張によって生体内から発生した音波を観測する。しかし、グルコースと電磁波の相互作用は小さく、また生体に安全に照射しうる電磁波の強度には制限があり、生体の血糖値測定においては、十分な効果をあげるにいたっていない。
【0004】
図4及び図5は、従来の光音響法による成分濃度測定装置を示す構成例である。背景成分及び対象成分が混合されてなる溶液における対象成分の濃度を測定する。
【0005】
図4に示す第1の従来例は、異なる波長の2つの光源を用い、連続的に強度変調することで高精度化を試みている。異なる波長の光源、即ち第1の光源201及び第2の光源202はそれぞれ駆動電源203及び駆動電源204により駆動され、連続光を出力する。
【0006】
第1の光源201及び第2の光源202が出力する光は、モータ214により駆動され一定回転数で回転するチョッパ板213により断続される。ここでチョッパ板213は不透明な材質により形成され、モータ214の軸を中心とする第1の光源201及び第2の光源202の光が通過する円周上に、互いに素な個数の開口部が形成されている。
【0007】
上記構成により、第1の光源201及び第2の光源202の各々が出力する光は互いに素な変調周波数f1及び変調周波数f2で強度変調された後、合波器211により合波され、1の光束として被測定物101に照射される。
【0008】
被測定物101の内部には、第1の光源201の光により変調周波数f1の光音響信号が発生し、第2の光源202の光により変調周波数f2の光音響信号が発生し、これらの光音響信号は、音響センサ212により検出され、音圧に比例した電気信号に変換され、その周波数スペクトルが、周波数解析器215により観測される。
【0009】
2つの光源の波長はすべてグルコースの吸収波長に設定されており、各波長に対応する光音響信号の強度は、血液中に含まれるグルコースの量に対応した電気信号として測定される。予め光音響信号の測定値の強度と別途採血した血液によりグルコースの濃度を測定した値との関係を記憶しておいて、前記光音響信号の測定値からグルコースの量を測定している。
【0010】
図5に示す第2の従来例でも、連続的に強度変調した光源を用いている。第1の光源110は、波長λの測定光を発生する。第2の光源111は、波長λの参照光を発生する。発振器114は、第1の光源110及び第2の光源111から出力される光を強度変調するための変調信号を出力する。180°移相器113は、発振器114からの変調信号のうち一方を反転して出力する。駆動回路112aは第1の光源110を駆動させる。駆動回路112bは、180°移相器113で反転された変調信号を基に第2の光源111を駆動させる。第1の光源110は、駆動回路112aからの信号により波長λの測定光を強度変調して出力する。第2の光源111は、駆動回路112bからの信号により波長λの参照光を強度変調して出力する。これにより、異なる2波長λ及びλ光のそれぞれを同一周波数で逆位相の信号により電気的に強度変調して出力する。
【0011】
ここで、2つの波長λ及び波長λは、対象成分の呈する吸収の差が、背景成分の呈する吸収の差よりも大きい波長である。また、波長λは、対象成分が特徴的な吸収を呈する波長に設定する。波長λ及び波長λは、対象成分の呈する吸収の差がそれ以外の成分の呈する吸収の差よりも大きい2波長であってもよい。これにより、水や測定対象とする成分以外の成分による吸収の影響を少なくして成分濃度測定装置の測定精度をよくすることができる。
【0012】
2つの波長λ及び波長λの各々を電気的に強度変調する変調周波数を、被測定物で発生する音波の検出に関わる共鳴周波数と同一の周波数で変調することにより、音波の測定値における吸収係数に関わる非線形性に配慮して選択された2波長の光に対する音波を測定し、これらの測定値から、一定に保ちがたい多数のパラメータの影響を排除して、高精度に被測定物内に発生する音波を検出することができる。
【0013】
2つの波長λ及び波長λの光により被測定物101の内部で光音響信号が発生し、これらの光音響信号は、音響センサ117により検出され、音圧に比例した電気信号に変換され、位相検波増幅器119によって観測される。2波長に対応する光音響信号の強度の差は、血液中に含まれるグルコースの量に対応した電気信号として測定される。
【特許文献1】特開平10−189号公報
【特許文献2】特開2007−89662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記のように、従来の成分濃度測定装置は、ある変調周波数で強度変調する必要があった。光音響法に用いる光源として一般的なDFB(Distributed Feedback)レーザを用いた場合、レーザ強度安定性は連続光モードにて約0.1%/hである。従来技術では、DFBレーザをある周波数で駆動電流によって電気的に変調する必要があり、強度安定性は約0.1%/hに低下する。このため、安定して駆動できるモードでは使用できない場合があった。
【0015】
また、2つの光源を逆相に設定する180°移相器の遅延安定度は約数nsであり、光音響信号の差分信号がドリフトする場合があった。このため、逆相に設定する180°移相器113の遅延に起因して、背景成分から発生する光音響信号が差分除去できない場合があった。
【0016】
そこで、本発明は、安定駆動モードでの使用を可能にし、180°移相器を用いずに背景成分から発生する光音響信号を差分除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明に係る成分濃度測定装置は、波長の異なる連続光を出力する複数の光源と、前記複数の光源からの連続光を、順に、予め定められた一定周波数で同一の出力端子から出力する光スイッチと、前記光スイッチから出力された前記複数の光源からの光によって被測定物から発生する測定用音波を検出する音波検出部と、を備えることを特徴とする。
【0018】
各光源が連続光を出力するので、安定駆動モードでの使用を可能にする。また、光スイッチが各光源からの連続光を一定周波数で交互に出力することで、連続する2つの波長の光を同一周波数かつ逆相で合成された測定用合成光を同一の出力端子から出力することができる。これにより、背景成分から発生する光音響信号を、音波検出部で検出する測定用音波から、180°移相器を用いずに差分除去することができる。
【0019】
本発明に係る成分濃度測定装置では、前記複数の光源は、背景成分及び対象成分が混合されてなる溶液における前記背景成分の呈する吸収が相等しい異なる波長を出力することをことが好ましい。
背景成分の呈する吸収が相等しいので、測定用合成光によって被測定物から発生する測定用音波から、背景成分から発生する光音響信号を差分除去した差分光音響信号(s−s)を得ることができる。
【0020】
本発明に係る成分濃度測定装置では、前記複数の光源の少なくとも1つは、背景成分及び対象成分が混合されてなる溶液における前記対象成分の呈する吸収が極大となる波長であることが好ましい。
対象成分の呈する吸収が極大であることで、対象成分から発生する音波の測定効率を高めることができる。
【0021】
本発明に係る成分濃度測定装置では、前記音波検出部の検出した測定用音波を、前記光スイッチの出力する前記一定周波数の整数倍成分の位相と同期するように検波する位相同期検波手段をさらに備えることが好ましい。
測定用音波の検波を光スイッチにおける一定周波数と位相同期検波することで、測定用音波以外の雑音を排除することができる。
【0022】
本発明に係る成分濃度測定装置では、前記被測定物の温度を検出する温度検出部をさらに備えることが好ましい。
被測定物の温度から、その温度における背景成分や対象成分の吸光度を用いることができる。これにより、吸光度の温度依存性の影響を排除した対象成分の濃度を測定することができる。
【0023】
本発明に係る成分濃度測定装置では、前記音波検出部の検出した測定用音波の振幅を、前記温度検出部の検出した温度に基づいて補正する温度補正部をさらに備えることが好ましい。
温度補正部をさらに備えることで、測定用音波における被測定物の温度による影響を除去することができる。
【0024】
上記課題を解決するために、本発明に係る成分濃度測定方法は、複数の光源が、波長の異なる連続光を出力する光出力ステップと、光スイッチが、前記光出力ステップで出力した連続光を、順に、予め定められた一定周波数で同一の出力端子から出力する光スイッチステップと、音波検出部が、前記光スイッチステップで出力された前記複数の光源からの光によって被測定物から発生する測定用音波を検出する音波検出ステップと、を順に有することを特徴とする。
【0025】
光出力ステップにおいて、各光源が連続光を出力するので、安定駆動モードでの使用を可能にする。また、光スイッチステップにおいて、光スイッチが各光源からの連続光を一定周波数で交互に出力することで、連続する2つの波長の光を同一周波数かつ逆相で合成された測定用合成光を同一の出力端子から出力することができる。これにより、背景成分から発生する光音響信号を、音波検出ステップで検出した測定用音波から、180°移相器を用いずに差分除去することができる。
【0026】
本発明に係る成分濃度測定方法では、前記音波検出ステップの前若しくは後又は前記音波検出ステップと同時に、温度検出部が、前記被測定物の温度を検出する温度検出ステップをさらに有することが好ましい。
温度検出ステップをさらに有することで、被測定物の温度から、その温度における背景成分や対象成分の吸光度を用いることができる。これにより、吸光度の温度依存性の影響を排除した対象成分の濃度を測定することができる。
【0027】
本発明に係る成分濃度測定方法では、前記音波検出ステップの前若しくは後又は前記音波検出ステップと同時に、前記被測定物の温度を検出する温度検出ステップと、前記音波検出ステップの後に、前記音波検出ステップで検出した測定用音波の振幅を、前記被測定物の温度に基づいて補正する温度補正ステップをさらに有することが好ましい。
温度補正ステップをさらに有することで、測定用音波における被測定物の温度による影響を除去することができる。これにより、被測定物の温度の影響を受けない差分光音響信号を得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、本発明に係る成分濃度測定装置及び成分濃度測定方法は、安定駆動モードでの使用を可能にし、180°移相器を用いずに背景成分から発生する光音響信号を差分除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0030】
図1は、本実施形態に係る成分濃度測定装置の構成概略図である。成分濃度測定装置91は、光音響法を用いて、背景成分及び対象成分が混合されてなる溶液における対象成分の濃度を測定するための構成を備える。例えば、成分濃度測定装置91は、第1の光源10と、第2の光源11と、第1の光源10の駆動回路12aと、第2の光源11の駆動回路12bと、駆動回路12a及び12bに電圧を供給する定電圧電流源13と、光スイッチ15と、光スイッチ15に一定周波数のクロック信号を入力する発振器14と、光スイッチ15からの出力光を被測定物101に向けて出射する光出射部16と、被測定物101から発生する音波を検出する音波検出部17と、音波検出部17の検出した音波を増幅する前置増幅器18と、前置増幅器18の増幅した音波を位相検波する位相検波増幅器19と、位相検波増幅器19の検波した光音響信号を出力する光音響信号出力端子20とを備える。
【0031】
第1の光源10及び第2の光源11は、波長の異なる連続光を出力する。連続光を出力することで、安定駆動モードでの第1の光源10及び第2の光源11の使用が可能になる。連続光を出力する光源は、例えば、色素レーザ、チタンサファイアレーザ又はErドープファイバレーザ等のレーザ光源、又は、白色光源である。連続光の光強度を安定化させるため、第1の光源10及び第2の光源11が発生する光の一部を受光するフォトデテクタ(不図示)を設けることが好ましい。フォトデテクタ(不図示)の受光する光の強度を定電圧電流源13や駆動回路12a及び12bにフィードバックすることで、光強度を安定化することができる。
【0032】
第1の光源10の出力する光の波長λ及び第2の光源11の出力する光の波長λは、背景成分の呈する吸収が相等しい異なる波長である。例えば、被測定物101が生体であり、対象成分が血液中のグルコースであれば、背景成分の呈する吸収は、水の呈する吸収とすることができる。
【0033】
そして、第1の光源10及び第2の光源11のうちの少なくとも1つは、対象成分の呈する吸収が極大となる波長であることが好ましい。例えば、被測定物101が生体であり、対象成分が血液中のグルコースであれば、第1の光源10は、グルコースの呈する吸収が極大となる波長である波長1600nm又は2100nmであることが好ましい。この場合、第1の光源10の出力する連続光が波長λの測定光となり、第2の光源11の出力する連続光が波長λの参照光となる。
【0034】
第1の光源10及び第2の光源11から出力する連続光の波長を上記波長に設定するため、レーザ光源であれば、特定波長の光を発生するレーザ媒体、温度又は駆動電流を選択する。また、白色光源のように発生する光の波長帯域が広い光源であれば、バンドパスフィルタなどの波長可変フィルタを用いて出力光をフィルタリングする。
【0035】
発振器14は、任意の周波数のパルス列を発生する機能をもち、一定周波数のクロック信号を出力する。光スイッチ15は、クロック信号により駆動され、第1の光源10及び第2の光源11を発振器14からの一定周波数で切り替える。
【0036】
光スイッチ15は、第1の光源10及び第2の光源11からの連続光を、順に、予め定められた一定周波数で同一の出力端子から出力する。ここで、一定周波数は、発振器14から入力される。例えば、光スイッチ15は、入力端子を2個、出力端子を1個備え、第1の光源10からの波長λの測定光と、第2の光源11からの波長λの参照光が、光伝達手段である光ファイバを介して入力される。そして、音響光学変調器(AOM)又は電気光学変調器(EOM)を用い、発振器14からのクロック信号に従って、入力端子の接続を切り替える。こうすることで、測定光と参照光を一定周波数かつ逆相で混合した測定用合成光を出力端子から出力することができる。これにより、180°移相器を用いずに背景成分から発生する光音響信号を差分除去することができる。光スイッチ15としては、AOM又はEOMのなかでも導波路型又はバルク結晶型を用いることができる。また、AOM又はEOMに限らず、ファイバ型、微小電気機械システム(MEMS)、マッハツェンダー型、TO(Theromo−Optec)型も光スイッチ15として用いることができる。
【0037】
図2は、光スイッチと光音響信号の関係の一例を示す説明図であり、(a)は発振器からのクロック信号、(b)は第1の光源10からの測定光及びその光音響信号、(c)は第2の光源11からの参照光及びその光音響信号を示す。図2(b)において、破線は測定光、実線は測定光によって発生する光音響信号sを表す。図2(c)において、破線は参照光、実線は参照光によって発生する光音響信号sを表す。クロック信号に従って光スイッチから出力された測定光と参照光は、同一周波数かつ逆相の測定用合成光となっている。このため、測定光と参照光を合成した測定用合成光を被測定物に照射することで、背景成分によって発生した光音響信号を差分除去した差分光音響信号(s−s)を測定することができる。
【0038】
図1に示す光スイッチ15の出力端子から出力された測定用合成光は、光伝達手段である光ファイバを介して光出射部16に入力される。光出射部16は、光スイッチ15の出力した光を被測定物101に向けて出射する。被測定物16の形状に合わせて、光ファイバの先端に直角プリズム、ファイバコリメータ又はフィルールを接着してもよい。例えば、温度伝導窓21が被測定物101の形状に沿って湾曲した支持体の場合、直角プリズムの形状を当該湾曲形状に合わせる。
【0039】
図1に示す音波検出部17は、第1の光源10及び第2の光源11からの光によって被測定物101から発生する音波を検出する。定電圧電流源13が駆動回路12a及び12bに電圧を供給するとき、測定用合成光が被測定物101に照射されるので、測定用合成光によって発生した測定用音波を検出することで差分光音響信号(s−s)が測定できる。定電圧電流源13が駆動回路12aに電圧を供給せず、定電圧電流源13が駆動回路12bにのみ電圧を供給するとき、参照光が被測定物101に照射されるので、参照光によって発生した規格化用音波を検出することで光音響信号sが測定できる。
【0040】
位相検波増幅器19は、位相同期検波手段としての機能を備える。例えば、位相検波増幅器19には発振器14から一定周波数のクロック信号が入力され、クロック信号の位相と同期するように音波検出部17の検出した音波を検波する。測定用音波は光スイッチ15の切り替え周波数の1/2の周波数で発生するので、光スイッチ15の切り替え周波数と共通のクロック信号の位相と同期させることで、測定用音波以外の雑音を排除することができる。
【0041】
成分濃度測定装置91は、さらに、被測定物101の温度を検出することが好ましい。被測定物101の温度から、背景成分や対象成分の吸光度の温度シフト量を見積もることができる。この場合、被測定物101の温度を伝導する温度伝導窓21と、温度伝導窓21の温度を検出する温度検出部22と、温度検出部22の検出した温度を出力する温度信号出力端子23とを備える。そして、温度検出部22が温度伝導窓21を介して検出した被測定物101の温度を温度信号出力端子23から出力する。
【0042】
成分濃度測定装置91は、さらに、対象成分の濃度を、被測定物101の温度に基づいて補正することが好ましい。対象成分の測定濃度における吸光度の温度シフトによる影響を排除することができる。この場合、音波検出部17の後段、例えば、位相検波増幅器19の後段に温度補正部(不図示)を設ける。温度補正部(不図示)は、温度に対応した背景成分や対象成分の補正曲線を予め格納しており、温度信号出力端子23の出力した被測定物101の温度に対応する背景成分や対象成分の補正値を読み出す。そして、読み出した補正値を用いて、位相検波増幅器19の出力する測定用音波を補正する。これにより、対象成分の測定濃度における吸光度の温度シフトによる影響を排除した差分光音響信号を光音響信号出力端子20から出力することができる。なお、上記補正は、温度補正部(不図示)が行ってもよいし、人が行ってもよい。
【0043】
本実施形態に係る成分濃度測定方法について、図1を用いて説明する。本実施形態に係る成分濃度測定方法は、光出力ステップと、光スイッチステップと、音波検出ステップと、を順に有する。成分濃度測定方法では、温度検出ステップ及び温度補正ステップをさらに有することが好ましい。温度検出ステップは、音波検出ステップの前若しくは後又は音波検出ステップと同時に行う。温度補正ステップは、音波検出ステップ及び温度検出ステップの後に行う。
【0044】
光出力ステップでは、第1の光源10及び第2の光源11が、波長の異なる連続光を出力する。例えば、第1の光源10は波長λの測定光を出力する。第2の光源11は波長λの参照光を出力する。測定光と参照光は、光ファイバによって光スイッチ15の入力端子に入力される。
【0045】
光スイッチステップでは、光スイッチ15が、光出力ステップで出力した連続光を、順に、予め定められた一定周波数で同一の出力端子から出力する。例えば、発振器14が、予め定められた一定周波数のクロック信号を、光スイッチ15に入力する。光スイッチ15は、クロック信号に従って入力端子との接続を切り替える。光スイッチ15の出力端子は、測定光と参照光を一定周波数で交互に出力する。これにより、測定光と参照光を一定周波数かつ逆相で混合した測定用合成光が光スイッチ15から出力される。
【0046】
光スイッチ15からの測定用合成光は、光伝達手段である光ファイバによって被測定物101への光出射部16へ伝達される。光出射部16からの光は温度伝導窓21を通して、被測定物101に到達する。被測定物101に存在する溶液に含まれる背景成分及び対象成分によって、測定用合成光は吸収される。背景成分及び対象成分が測定用合成光を吸収することで、光音響効果によって測定用音波が発生する。
【0047】
音波検出ステップでは、音波検出部17が、光スイッチステップで出力された第1の光源10及び第2の光源11からの光によって被測定物101から発生する測定用音波を検出する。音波検出部17によって電気信号に変換された音波信号は、前置増幅器18において増幅され、位相検波増幅器19に入力される。位相検波増幅器19は、発振器14からのクロック信号の位相と同期するように振幅及び位相が抽出し、差分光音響信号(s−s)を光音響信号出力端子20へ出力する。
【0048】
以上の動作によって、第1の光源10の出力する波長λの測定光と第2の光源11の出力する波長λの参照光を用いて測定用合成光を生成し、測定用合成光を被測定物101に照射し、測定用合成光によって被測定物101で発生した測定用音波から差分光音響信号(s−s)を測定することができる。
【0049】
また、第1の光源10への電源を停止し、第2の光源11のみを駆動させれば、第2の光源11から出力された参照光のみが被測定物101に照射され、規格化用音波が音波測定部17で検出される。そして、規格化用音波から得られた光音響信号sが光音響信号出力端子20へ出力される。このとき、光スイッチ15は、測定用音波の時と同一定周波数のクロック信号で出力光を切り替えれば、測定用音波と同一周波数の規格化用音波が測定できる。
【0050】
光音響信号出力端子20から出力された差分光音響信号(s−s)及び光音響信号sを用いることで、背景成分から発生する光音響信号を差分除去した測定精度の高い対象成分の濃度を測定することができる。
【0051】
本実施形態に係る成分濃度測定方法が温度検出ステップをさらに有する場合、温度検出ステップでは、温度検出部22が、被測定物101の温度を検出する。例えば、被測定物101において光熱変換によって発生した熱は、温度伝導窓21を伝導して温度検出部22によって温度が検出される。そして、温度検出部22の検出した温度は、温度信号出力端子23へ出力される。温度信号出力端子23から出力される被測定物101の温度を用いて、測定光及び参照光から発生した差分光音響信号(s−s)及び光音響信号sの温度シフトを補正することができる。補正は、温度補正部(不図示)やその他の演算装置を用いて行う。演算装置は、成分濃度測定装置91外であってもよい。
【0052】
本実施形態に係る成分濃度測定方法が温度補正ステップをさらに有する場合、温度補正ステップでは、温度補正部(不図示)が、音波検出ステップで検出した測定用音波の振幅を、被測定物101の温度に基づいて補正する。例えば、温度に対応した背景成分や対象成分の補正曲線を光出力ステップの前に予め格納しておく。そして、温度補正ステップにおいて、音波検出ステップで音波検出部17から出力した測定用音波と、温度検出ステップで温度信号出力端子23から出力した被測定物101の温度を取得する。取得した被測定物101の温度から、測定用音波の振幅を補正する。温度補正ステップは、測定用音波だけでなく、参照光によって発生した規格化用音波についても行うことが好ましい。温度補正ステップを行うことで、対象成分の測定濃度における吸光度の温度シフトによる影響を排除した差分光音響信号(s−s)及び光音響信号sを光音響信号出力端子20から出力することができる。なお、温度補正ステップは、温度補正部(不図示)が行うだけでなく、人が行ってもよい。
【0053】
なお、本実施形態では、複数の光源が2個である場合について説明したが、3個以上であってもよい。例えば複数の光源が3個の場合、各光源の出力波長において背景成分の呈する吸収が相等しければ、各波長を組み合わせた複数種類の差分光音響信号を測定することができる。複数の光源を3個以上とすることで、より多くの波長における対象成分や背景成分の吸光度を測定することができ、対象成分の測定精度を高めることができる。また、複数の光源が4個以上である場合、吸光度の異なる複数種類の差分光音響信号を測定することができる。
【0054】
次に、図3を用いて本実施形態における第1の光源10の出力する波長λ及び第2の光源11の出力する波長λの設定例について説明する。図3は、溶液の吸光度の一例であり、(a)はグルコース水溶液の吸光度及び吸収係数、(b)は水に対するグルコースの吸光度差及び比吸光度を示す。以下、溶液をグルコース水溶液、対象成分をグルコースとして、グルコース水溶液におけるグルコース濃度を定量分析する際の波長設定について例示する。
【0055】
まず、図3(b)に示すグルコース水溶液から水を差分した差分スペクトルから、対象成分であるグルコースの吸収が最大となる波長を第1の光源の波長λとする。水溶液では主たる背景吸収となる成分は水であるため、背景吸収から発生する音波を差分することにより除去するためには、第2の光源の波長λを、図3(a)に示す水の吸収スペクトルから、波長λと等しい吸光度を呈する波長とすればよい。
【0056】
次に、図1に示す光音響信号出力端子20から出力される差分光音響信号(s―s)及び光音響信号sを用いて、対象成分であるグルコースの濃度Mを測定する方法について説明する。
波長λ及び波長λの各々に対して、背景成分の吸収係数α(b)、α(b)及び対象成分のモル吸収係数α(0)、α(0)を知るとき、波長λでの光音響信号s及び波長λでの光音響信号sを含む連立方程式は、次の数式(1)のように表される。
【数1】

ここで、Cは、変化し制御又は予想が困難な係数である。例えば、図1における、音響結合、音波検出部17の感度、光出射部16と被測定物101の間の距離(以下rと定義する)、被測定物101の比熱、被測定物101の熱膨張係数、被測定物101での音速、発振器14の発振周波数、さらに、吸収係数に依存する未知数である。
【0057】
数式(1)から係数Cを消去すると、次の数式(2)のように表され、光音響信号s及びs、対象成分のモル吸収係数α(0)、α(0)並びに背景成分の吸収係数α(b)より対象成分の濃度Mを求めることができる。
【数2】

ここで、数式(2)の後段の変形にはs≒sという性質を用いている。
【0058】
以上より、対象成分のモル吸収係数α(0)、α(0)は既知であることから、光音響信号出力端子20から出力される差分光音響信号(s―s)及び光音響信号sを測定することで、対象成分であるグルコースの濃度Mを測定することができる。本実施形態では、第1の光源10及び第2の光源11が連続光を出力するので、出力強度の安定性を維持することができる。さらに、差分光音響信号(s―s)及び光音響信号sの測定時間差を小さくすることで、数式(2)に基づく濃度Mの算出誤差をさらに小さくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
人間又は動物に存在する溶液の非侵襲な成分濃度測定装置、及び、人間又は動物から採取した溶液の成分濃度測定装置に関する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施形態に係る成分濃度測定装置の構成概略図である。
【図2】光スイッチと光音響信号の関係の一例を示す説明図であり、(a)は発振器からのクロック信号、(b)は第1の光源からの測定光及びその光音響信号、(c)は第2の光源からの参照光及びその光音響信号を示す。
【図3】溶液の吸光度の一例であり、(a)はグルコース水溶液の吸光度及び吸収係数、(b)は水に対するグルコースの吸光度差及び比吸光度を示す。
【図4】従来の光音響法による第1の成分濃度測定装置を示す構成例である。
【図5】従来の光音響法による第2の成分濃度測定装置を示す構成例である。
【符号の説明】
【0061】
10 第1の光源
11 第2の光源
12a、12b 駆動回路
13 定電圧電流源
14 発振器
15 光スイッチ
16 光出射部
17 音波検出部
18 前置増幅器
19 位相検波増幅器
20 光音響信号出力端子
21 温度伝導窓
22 温度検出部
23 温度信号出力端子
91 成分濃度測定装置
101 被測定物
110 第1の光源
111 第2の光源
112a、112b 駆動回路
113 180°移相器
114 発振器
115 光分岐
117 音響センサ
119 位相検波増幅器
201 第1の光源
202 第2の光源
203、204 駆動電源
211 合波器
212 音響センサ
213 チョッパ板
214 モータ
215 周波数解析器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長の異なる連続光を出力する複数の光源と、
前記複数の光源からの連続光を、順に、予め定められた一定周波数で同一の出力端子から出力する光スイッチと、
前記光スイッチから出力された前記複数の光源からの光によって被測定物から発生する測定用音波を検出する音波検出部と、を備えることを特徴とする成分濃度測定装置。
【請求項2】
前記複数の光源は、背景成分及び対象成分が混合されてなる溶液における前記背景成分の呈する吸収が相等しい異なる波長を出力することを特徴とする請求項1に記載の成分濃度測定装置。
【請求項3】
前記複数の光源の少なくとも1つは、背景成分及び対象成分が混合されてなる溶液における前記対象成分の呈する吸収が極大となる波長であることを特徴とする請求項1又は2に記載の成分濃度測定装置。
【請求項4】
前記音波検出部の検出した測定用音波を、前記光スイッチの出力する前記一定周波数の整数倍成分の位相と同期するように検波する位相同期検波手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の成分濃度測定装置。
【請求項5】
前記被測定物の温度を検出する温度検出部をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の成分濃度測定装置。
【請求項6】
前記音波検出部の検出した測定用音波の振幅を、前記温度検出部の検出した温度に基づいて補正する温度補正部をさらに備えることを特徴とする5に記載の成分濃度測定装置。
【請求項7】
複数の光源が、波長の異なる連続光を出力する光出力ステップと、
光スイッチが、前記光出力ステップで出力した連続光を、順に、予め定められた一定周波数で同一の出力端子から出力する光スイッチステップと、
音波検出部が、前記光スイッチステップで出力された前記複数の光源からの光によって被測定物から発生する測定用音波を検出する音波検出ステップと、を有することを特徴とする成分濃度測定方法。
【請求項8】
前記音波検出ステップの前若しくは後又は前記音波検出ステップと同時に、温度検出部が、前記被測定物の温度を検出する温度検出ステップをさらに有することを特徴とする請求項7に記載の成分濃度測定方法。
【請求項9】
前記音波検出ステップ及び前記温度検出ステップの後に、温度補正部が、前記音波検出ステップで検出した測定用音波の振幅を、前記被測定物の温度に基づいて補正する温度補正ステップをさらに有することを特徴とする請求項8に記載の成分濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−219800(P2009−219800A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70259(P2008−70259)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】