説明

成形用工具、成膜装置および成膜方法

【課題】成形用部材の圧造の繰り返しに対する耐久性を有する成形用工具、この成形用工具を製造する成膜装置および成膜方法を提供すること。
【解決手段】成形対象部材を圧造し、成形対象部材を所定形状に成形する成形用工具1であって、所定形状に対応する凸形状をなして表面が硬質膜で覆われ、基端面からの突出角度が異なる複数の斜面からなる側面部(第1斜面11bおよび第2斜面11c)と、側面部の先端に位置する頭頂部11aとを有する成形部11と、成形部11の土台をなす基部12と、を備え、側面部における硬質膜の最小膜厚の最大膜厚に対する膜厚比を0.7以上とすることによって、圧造の繰り返しに対する耐久性を向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用部材に対して所定の形状を形成させる成形用工具、この成形用工具を製造する成膜装置および成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ねじ穴等を成形する成形用工具は、所望の凸形状をなす部分が加工用部材を圧造することで、加工用部材にねじ穴と頭部を成形する。また、成形用工具は、真空中で蒸発源から放射状に発せられる金属イオン等の成膜用材料によって表面に硬質膜が成膜され、ステンレス等を圧造する部分の表面の耐摩耗性や耐熱性等を高めている。
【0003】
図13は、従来の成形用工具の構成を示す模式図である。図13に示す成形用工具100は、成形対象部材であるねじのねじ穴と頭部を圧造して、成形対象部材を所定形状に成形する成形用工具100であって、所定形状に対応する形状をなし、表面が成膜された硬質膜を有する成形部111と、成形部111の土台をなす略柱状の基部112と、を有する。
【0004】
成形部111は、成形対象部材を圧造し、成形対象部材に所定の形状を形成させるための凸状をなす。成形部111は、凸状に突出した頂点部分である頭頂部111aと、凸状の側面部を構成する第1斜面111bおよび第2斜面111cと、頭頂部111a、第1斜面111bおよび第2斜面111cの基端面となる底面111dとを有する。底面111dは、底部が平面形状をなす凹状をなし、成形対象部材の頭部を圧造する。
【0005】
上述した成形用工具を長寿命化させる技術として、硬質膜としてDLC被膜(ダイヤモンド状カーボン被膜)で被覆することで長寿命化を可能とする技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−112229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1が開示する技術によって製造された成形用工具であっても、従来の成形用工具に蒸着させる装置の構成では、蒸発源から発せられる成膜用材料の進行方向が一方向のみであるため、凸形状の表面に成膜された膜厚が不均一となり、この成膜のむらによって成形用工具の十分な寿命を確保することができなかった。
【0008】
具体的には、従来の成形用工具に蒸着させる装置の構成では、蒸発源から発せられる成膜用材料の進行方向が一方向のみであるとともに、成形用工具の成膜方向が固定されているため、成膜される膜厚は、蒸発源からの距離および成膜用材料の進行方向に対する角度によって異なる。成形部111の底面111dが蒸発源に向くように成膜した場合、膜厚は、頭頂部111a>第1斜面111b>底面111d>第2斜面111cとなる。実際、従来の成形用工具では、第1斜面111aの膜厚が7μmに対して第2斜面111bの膜厚が3μmとなり、膜厚が薄い第2斜面111bが先に磨耗して基材が露出することで成形用部材に形成されたねじ穴または頭部の寸法不良を引き起こしていた。この結果、成形用工具の十分な寿命を確保することができないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、成形用部材への圧造の繰り返しに対する耐久性を有する成形用工具、この成形用工具を製造する成膜装置および成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる成形用工具は、成形対象部材を圧造し、該成形対象部材を所定形状に成形する成形用工具であって、前記所定形状に対応する凸形状をなして表面が硬質膜で覆われ、基端面からの突出角度が異なる複数の斜面からなる側面部と、前記側面部の先端に位置する頭頂部とを有する成形部と、前記成形部の土台をなす基部と、を備え、前記硬質膜は、前記側面部における最小膜厚の最大膜厚に対する膜厚比が0.7以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる成形用工具は、上記の発明において、前記膜厚比が0.75以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる成膜装置は、上記の発明にかかる成形用工具の表面を成膜する成膜装置であって、前記成形部の表面を成膜する成膜用材料を蒸発させる蒸発源と、蒸発させた前記成膜用材料と反応して前記硬質膜を形成させる反応ガスまたはプラズマ発生のための希ガスを導入する導入部と、前記成形部が前記蒸発源と対向可能に前記基部を保持する略柱状の保持部材と、所定の軸のまわりに回転可能であるとともに、前記保持部材を前記軸と平行な軸のまわりに回転させる回転機構と、前記保持部材内部に設けられ、前記成形部の前記蒸発源に対する角度を変更させる角度変更機構と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる成膜装置は、上記の発明において、前記角度変更機構は、前記保持部材の外周の一点を支点として前記保持部材の軸方向に往復動させることを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる成膜装置は、上記の発明において、前記角度変更機構は、前記保持部材の外周の一点を支点として前記保持部材の周方向に往復動させることを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる成膜装置は、上記の発明において、前記回転機構は、前記保持部材に設けられ、該保持部材の長手方向に垂直な方向に延びる爪部と、前記爪部と接触することによって前記保持部材を回転させる接触部材と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる成膜方法は、上記の発明にかかる成形用工具の表面を成膜する成膜方法であって、前記成形部の表面を成膜する成膜用材料を蒸発させる蒸発源と対向可能に前記保持部材を保持する保持ステップと、前記成形用工具を回転させる回転ステップと、前記成形用工具の前記成形部の前記蒸発源に対する角度を変更させる角度変更ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる成形用工具は、側面部の最小膜厚/最大膜厚との膜厚比が0.7以上となるようにしたので、成形対象部材の圧造に対する耐久性の向上を図ることができるという効果を奏する。また、この成形用工具を製造する成膜装置および成膜方法は、側面部の最小膜厚/最大膜厚との膜厚比が0.7以上となるような膜厚で成形用工具の表面を被覆させるようにしたので、成形用部材への圧造の繰り返しに対する耐久性を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態にかかる成形用工具の構成を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態にかかる成形用工具と従来の成形用工具との打鋲回数とq寸法との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の実施の形態にかかる成膜装置を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態にかかる接触部および爪部を示す模式図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態にかかる接触部および爪部を示す模式図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態にかかる保持部材を模式的に示す部分断面図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態にかかる昇降部を示す模式図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態にかかる昇降部を模式的に示す斜視図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態にかかる成膜装置の支柱が上昇した場合を示す模式図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態にかかる成膜装置の支柱が下降した場合を示す模式図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態にかかる成膜装置の揺動部を示す模式図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態にかかる成膜装置の揺動部を示す模式図である。
【図13】図13は、従来の成形用工具の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎず、従って、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明の一実施の形態にかかる成形用工具の構成を示す模式図である。図1に示す成形用工具1は、成形対象部材であるねじのねじ穴と頭部を圧造して、成形対象部材を所定形状に成形する成形用工具1であって、所定形状に対応する形状をなし、表面が成膜された硬質膜を有する成形部11と、成形部11の土台をなす略柱状の基部12と、を有する。
【0021】
成形部11は、成形対象部材を圧造し、成形対象部材に所定の形状を形成させるための凸状をなす。成形部11は、凸状に突出した頂点部分である頭頂部11aと、凸状の側面部を構成する第1斜面11bおよび第2斜面11cと、頭頂部11a、第1斜面11bおよび第2斜面11cの基端面となる底面11dとを有する。なお、本実施の形態では、底面11dと平行な断面が十字形状をなすのものとして説明するが、角形をなすものであってもよい。底面11dは、底部が平面形状をなす凹状をなし、成形対象部材の頭部を圧造する。
【0022】
成形部11を被覆する硬質膜は、所定の硬度、耐摩耗性、耐熱性などを有するセラミック膜が好ましく、例えば、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、炭窒化チタン(TiCN)等が挙げられる。
【0023】
ここで、表1は、第1斜面と第2斜面との膜厚比(第2斜面/第1斜面)と寸法不良発生時の打鋲回数を示している。また、図2は、成形用工具によって成形対象部材に形成された形状におけるq寸法と打鋲回数とを示すグラフである。なお、q寸法は、ゲージ沈み深さを示す寸法である。また、図2のグラフにおいて、従来の成形用工具として膜厚比が0.43のものを例示する一方、本願の成形用工具として膜厚比が0.72のものを例示している。
【表1】


表1に示すように、膜厚の差が大きいほど、少ない打鋲回数でq寸法が寸法不良となる。また、膜厚比が0.72の場合、q寸法が寸法不良となるまでの打鋲回数は、6.0万回であり、0.96の場合、打鋲回数は6.1万回となっている。この結果より、膜厚比が0.7以上の場合は、大差のない打鋲回数で成形用工具を使用することができると解する。したがって、膜厚比を0.7以上で成膜することによって、所定の膜厚に対する安定した打鋲回数を確保することができる。硬質膜分布のばらつきを考慮した場合、膜厚比が0.75以上であればより好ましい。
【0024】
また、図2に示すように、膜厚比が0.72の場合、膜厚比が0.43の場合と比して、一定のq寸法を長く維持することができる。打鋲回数の増加によって第1斜面および第2斜面の硬質膜が摩擦によって磨耗し、成形用工具の基材表面が露出する。成形用工具の基材は、硬質膜と比して硬度や耐摩耗性が低いため、基材が露出することによって圧造の繰り返しによる磨耗速度が大きくなり、q寸法の急速な低下を引き起こす。膜厚比が小さい場合、一方(最小膜厚側)の硬質膜が先に消失し、成形用工具の基材表面が露出するため、短時間で急速にq寸法が低下し始める。一方、膜厚比が1.0に近いほど、最小膜厚部における基材露出時間が長くなるため、急速なq寸法の低下開始までの打鋲回数が増大する。
【0025】
上述した本実施の形態にかかる成形用工具は、側面部の最小膜厚/最大膜厚との膜厚比を0.7以上としたため、成形対象部材の圧造に対する耐久性の向上をさせることができる。なお、膜厚比は、第1斜面11bおよび第2斜面11cの膜厚比を例に説明したが、頭頂部11a、第1斜面11b、第2斜面11cおよび底面11dの中の最大膜厚と最小膜厚との比であってもよい。
【0026】
つぎに、上述した成形用工具を製造するための成膜装置および成膜方法の一例を説明する。図3は、本実施の形態にかかる成膜装置を示す模式図である。図3に示す成膜装置2は、図示しない駆動機構および吸排機構等によって内部が真空状態に保たれる真空チャンバ20と、成形部11の表面を成膜する成膜用材料を蒸発させる蒸発源21と、保持部材3を支持し、所定の軸のまわりに回転可能な回転テーブル22と、真空チャンバ20の外部に設けられ、回転テーブル22を回転駆動させる駆動部23と、保持部材3(保持部30)を回転させるための自転補助部24と、蒸発させた成膜用材料と反応して硬質膜を形成させる反応ガスまたはプラズマ発生のための希ガスを導入する導入部25とを備える。
【0027】
蒸発源21は、成形用工具1に向けて(図3、破線矢印)成膜用材料を蒸発させ、成形用工具1の少なくとも成形部11に硬質膜を成膜する。蒸発源21から放出された成膜用材料は、導入部25から導入された反応ガスと反応しながら放射上に飛散し、蒸発源21と成形用工具1との間に負荷されたバイアス電圧によって成形部11に衝突し、付着・堆積して硬質膜を形成する。自転補助部24は、棒状の接触部材24aを有する。
【0028】
また、成膜装置2は、成形部11が蒸発源21と対向可能に成形用工具1を保持する保持部材3を有する。保持部材3は、略筒状をなし、回転テーブル22の外縁付近に底面と直交する方向に立設され、略筒の高さ方向の中心軸のまわりに回転可能に支持されている。保持部材3は、側面側において成形用工具1を保持する保持部30と、接触部材24aと接触可能な棒状をなし、接触部材24aと接触することによって保持部30を上述した中心軸のまわりに回転させる複数の爪部31とを備える。
【0029】
爪部31は、図4,5に示すように、回転テーブル22の回転によって接触部材24aと接触し、回転テーブル22の回転方向と反対方向に回転する。図5の破線は、図4における保持部材3の位置を示す。図4,5に示す場合、保持部30は、回転テーブル22が1回転するごとに、8分の1回転することとなる。なお、図4,5では、爪部31が保持部30の外周を8分の1等分するように配置しているが、等分数および間隔は任意に設定することが可能である。
【0030】
図6は、保持部材3を模式的に示す部分断面図である。図6に示す保持部材3は、上述した保持部30および爪部31と、保持部30の内部に設けられる支柱32と、支柱32を昇降および回転可能に支持する支持部材33と、支柱32を昇降させる昇降部34と、支柱32に接続され、成形用工具1を収容して保持する工具保持部材36と、支柱32を支柱32の長軸周りに回転させて成形用工具1を揺動させる揺動部37とを備える。また、保持部材3と回転テーブル22との間にはベアリングB1,B2が配設され、回転テーブル22の回転動力が保持部30に伝達することを防止するとともに、保持部30の回転動力が支持部材33に伝達することを防止している。
【0031】
工具保持部材36は、棒状をなし、保持部30に設けられた孔30aを介して保持部30の外部と連通し、保持部30の外部側の端部に、成形用工具1(基部12)を収容して保持する工具収容部36aを有する。工具収容部36aは、成形用工具1の成形部11が外部側に突出するように保持する。
【0032】
支柱32は、支柱32の側面から径方向に突出し、下面が昇降部34の上面と接するローラ部32cと、工具保持部材36を回動可能に固定する固定部32dとを有する。また、支柱32は、揺動支柱32aと昇降支柱32bに分離嵌合し、後述する昇降変位は揺動支柱32aに伝達するが揺動変位は昇降支柱32bに伝達されないようになっている。
【0033】
図7,8は、昇降部34を示す模式図である。昇降部34は、自転補助部24と爪部31による保持部材3(保持部30)の回転によって(図4,5参照)、図7(a)に示すように、保持部30に設けられた歯車35が保持部30に連動して移動する。歯車35は、支持部材33に形成された歯部33aと歯合可能な歯部35aと、昇降部34の側面に形成された歯部34aと歯合する歯部35bとを有し、保持部30の底面に固定された軸35cを中心軸として回転する。
【0034】
このとき、保持部30の回転に連動して支柱32回りに移動する歯部35aは、歯部33aと歯合することによって回転する(図7(b))。また、歯車35は、歯部35aの回転に連動する歯部35bの回転によって昇降部34を回転させる(図7(b),(c))。ここで、昇降部34の回転角は、歯部33a,35a,35b,34aの半径、および歯部33aの周方向の長さを変更することによって調節することができる。
【0035】
昇降部34は、図8に示すように、ローラ部32cと接触する面において傾斜が設けられている。ローラ部32cは、この傾斜にそって支柱32の長手方向に昇降可能であり、ローラ部32cの昇降に連動して支柱32(昇降支柱32d)が昇降する。図7に示す歯車35の回転によって昇降部34が回転し、ローラ部32cが当接する面が昇降運動することによって、支柱32が昇降する。このとき、昇降部34の底部には、歯車35の回転によって回転できるようベアリングB3が設けられている。
【0036】
上述した支柱32(昇降支柱32b)の昇降によって、図9,10に示すように、揺動支柱32aが昇降し、この昇降に連動して工具保持部材36の工具収容部36aを、保持部30の外周に設けられた孔30aを支点として保持部30の軸方向に往復動させて、蒸発源21に対する成形用工具1の角度を変更する。図9は、支柱32(揺動支柱32a)が上昇した場合を示す模式図であり、図10は、支柱32(揺動支柱32a)が下降した場合を示す模式図である。
【0037】
工具保持部材36は、図9に示すように、揺動支柱32aが上昇すると、孔30aを支点として回転する。工具収容部36aは、工具保持部材36の回転によって、端部側が下降する方向に回転する。これにより、工具収容部36aが保持する成形用工具1は、先端側が下降して、蒸発源21に対する角度が変更される。
【0038】
また、工具保持部材36は、図10に示すように、支柱32が下降すると、孔30aを支点として回転する。工具収容部36aは、工具保持部材36の回転によって、端部側が上昇する方向に回転する。これにより、工具収容部36aが保持する成形用工具1は、先端側が上昇して、蒸発源21に対する角度が変更される。なお、図10の破線は、図9における工具保持部材36の位置を示す。
【0039】
図11,12は、揺動部37を示す模式図である。揺動部37は、保持部30の底面に固定された軸37fを中心軸として回転可能な歯車37aと、軸37fを中心軸として歯車37aに連動して回転するカム37bと、支柱32(揺動支柱32a)に固定されるとともに、接触ローラ37d,37eを支持する揺動支持部37cとを有する。
【0040】
歯車37aは、図7に示す歯車35と同様に、支持部材33の外周面に形成された歯部33bと歯合可能である。歯部33bによって歯車37aが回転すると、連動してカム37bも回転する。このとき、カム37bは、回転中心がカム37bの形状中心からずれて配置されており、接触ローラ37d,37eと接触している。揺動支持部37cは、カム37bの回転よる接触ローラ37d,37eの移動によって揺動運動を行なう。なお、歯部33a,33bは支柱32の軸方向に対して高さが異なっており昇降部34と揺動部37が独立して制御可能になっている。
【0041】
カム37bが接触ローラ37d側に突出している場合、図11に示すように、カム37bによる接触ローラ37dの移動した量に応じて揺動支柱32aが周方向に回転する。このとき、工具保持部材36は、孔30aを支点として回転しており、成形用工具1の蒸発源21に対する向きが変わる。
【0042】
また、図12に示すように、保持部30が回転することで歯車37aが歯部33bと歯合し、揺動部37の回転移動によって歯車37aが回転すると、カム37bも歯車37aに連動して回転する。揺動支柱32aは、カム37bの回転による接触ローラ37d,37eの移動した量に応じて周方向に回転する。揺動支柱32aの回転に連動して、揺動支柱32aに固定された固定部32dも回転する。このとき、工具保持部材36は、孔30aを支点として回転しており、成形用工具1の蒸発源21に対する向きが変わる。なお、図12の破線は、図11における工具保持部材36および接触ローラ37d,37eの位置を示す。
【0043】
上述した自転補助部24、昇降部34および揺動部37は、それぞれ回転テーブル22および保持部30の回転によって動作する。このとき、爪部31、歯部33a,33bの形成領域を調節することによって、成形用工具1の成形部11の蒸発源21に対する配置、角度を段階的に動かすことが可能となる。また、歯車35(歯部35a)、歯車37aがそれぞれ歯部33a、歯部33bと歯合していない状態では、歯車37a、歯車35にはブレーキが付加されて支柱32c,32dが勝手に動かないようになっている。
【0044】
例えば、図4,5に示す保持部30は、回転テーブル22が8回転することで1回転する。このとき、保持部30が1回転する間に、昇降部34が1回転し、揺動部37が2回転するように歯部33a,33bを配置すると、成形用工具1は、保持部30の1回転中に、昇降部34によって上昇と下降とをそれぞれ1回行なうとともに、揺動部37によって保持部30の周方向に対する回転(時計回り、反時計回り)をそれぞれ2回ずつ繰り返す。より具体的には、昇降部34の回転と揺動部37の回転とのタイミングを調節することによって、成形用工具1が上昇中に、時計回りおよび反時計回りの回転を1回ずつ行なわせるとともに、下降中に、時計回りおよび反時計回りの回転を1回ずつ行なわせることが可能である。
【0045】
上述した本実施の形態にかかる成形用工具を製造する成膜装置および成膜方法は、成形部が形成される面の角度にかかわらず、最小膜厚/最大膜厚との膜厚比が0.7以上となるような膜厚で成形用工具の表面を被覆させるようにしたので、成形対象部材との圧造に対する耐久性の向上を図ることが可能となる。
【0046】
また、従来の成形用工具に蒸着させる装置の構成では、蒸発源から発せられる成膜用材料の進行方向が一方向のみであるとともに、成形用工具の成膜方向が固定されているため、図3に示す構成で成形用工具が固定された場合、膜厚は、頭頂部11a>第1斜面11b>底面11d>第2斜面11cとなり、膜厚比も小さくなってしまう。また、膜厚を調整するために成形用工具の角度を変更させる場合、真空チャンバを開けて工具の配設および成膜の作業を複数回行なわなければならず、手扱いや大気中のゴミ等による硬質膜表面の汚染によって硬質膜の密着強度の低下を引き起こすおそれがあるとともに、再成膜処理による真空引き、加熱、冷却および大気開放の繰返しによって成膜に時間を要する。これに対し、本実施の形態にかかる成膜装置では、形成用工具を揺動および昇降によって成膜用材料の進行方向に対する角度を変更させて、膜厚の差を小さくすることが可能となるとともに、作業にかかる時間を増加させずに成膜処理を行なうことができる。
【0047】
なお、本実施の形態において、回転テーブル22および自転補助部24、爪部31によって回転機構を構成し、昇降部34および揺動部37によって角度変更機構を構成する。
【0048】
以上のように、本発明にかかる成形用工具、成膜装置および成膜方法は、繰り返し使用することで圧造等により磨耗する成形用工具またはその工具を成膜する成膜装置に有用である。
【符号の説明】
【0049】
1,100 成形用工具
2 成膜装置
3 保持部材
11,111 成形部
11a,111a 頭頂部
11b,111b 第1斜面
11c,111c 第2斜面
11d,111d 底面
12,112 基部
21 蒸発源
22 回転テーブル
23 駆動部
24 自転補助部
30 保持部
31 爪部
32 支柱
33 支持部材
34 昇降部
35 歯車
36 工具保持部材
37 揺動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形対象部材を圧造し、該成形対象部材を所定形状に成形する成形用工具であって、
前記所定形状に対応する凸形状をなして表面が硬質膜で覆われ、基端面からの突出角度が異なる複数の斜面からなる側面部と、前記側面部の先端に位置する頭頂部とを有する成形部と、
前記成形部の土台をなす基部と、
を備え、
前記硬質膜は、前記側面部における最小膜厚の最大膜厚に対する膜厚比が0.7以上であることを特徴とする成形用工具。
【請求項2】
前記膜厚比が0.75以上であることを特徴とする請求項1に記載の成形用工具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成形用工具の表面を成膜する成膜装置であって、
前記成形部の表面を成膜する成膜用材料を蒸発させる蒸発源と、
蒸発させた前記成膜用材料と反応して前記硬質膜を形成させる反応ガスまたはプラズマ発生のための希ガスを導入する導入部と、
前記成形部が前記蒸発源と対向可能に前記基部を保持する略柱状の保持部材と、
所定の軸のまわりに回転可能であるとともに、前記保持部材を前記軸と平行な軸のまわりに回転させる回転機構と、
前記保持部材内部に設けられ、前記成形部の前記蒸発源に対する角度を変更させる角度変更機構と、
を備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
前記角度変更機構は、前記保持部材の外周の一点を支点として前記保持部材の軸方向に往復動させることを特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記角度変更機構は、前記保持部材の外周の一点を支点として前記保持部材の周方向に往復動させることを特徴とする請求項3または4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記回転機構は、
前記保持部材に設けられ、該保持部材の長手方向に垂直な方向に延びる爪部と、
前記爪部と接触することによって前記保持部材を回転させる接触部材と、
を備えたことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一つに記載の成膜装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の成形用工具の表面を成膜する成膜方法であって、
前記成形部の表面を成膜する成膜用材料を蒸発させる蒸発源と対向可能に前記保持部材を保持する保持ステップと、
前記成形用工具を回転させる回転ステップと、
前記成形用工具の前記成形部の前記蒸発源に対する角度を変更させる角度変更ステップと、
を含むことを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−7219(P2012−7219A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145629(P2010−145629)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】