説明

成膜方法およびプラズマディスプレイパネル

【目的】成膜対象基板の所望する部位に成膜材料を成膜する際に、マスクの位置合わせや、レーザ走査位置の位置合わせを不要とし、容易な成膜処理を実現する。
【構成】成膜対象となる基板にレーザ光を照射して成膜材料をアブレーションさせて成膜対象基板の成膜対象面に溶射する成膜方法にて、成膜材料から成るターゲット基板と、成膜対象となる基板の成膜面との間にあらかじめ形成すべき成膜パターンに対応した間隙寸法差を形成し、その寸法差による成膜条件の違いを利用して、パターニングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工用レーザ光に対して実質的に透明な成膜対象基板の成膜面に成膜材料層を形成する成膜方法、ならびに、当該成膜方法にて形成した成膜材料層を電極の少なくとも一部として用いるプラズマディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景として、まず、プラズマディスプレイパネルの構成を述べる。ガス放電パネルとして、3電極面放電構造のプラズマディスプレイパネル(PDP)が商品化されている。現在、実用化されているプラズマディスプレイパネルの構造図を図1に示す。プラズマディスプレイパネル1は、前面基板11と背面基板12を張り合わせた構造であり、前面基板11には、透明電極13とバス電極14からなる複数の表示電極15が隣接する電極間で面放電を発生するように配置されている。各表示電極は、誘電体層16で覆われ、かつ、誘電体層16の表面にはMgO膜の保護膜20(図1には図示せず)が形成されている。
【0003】
背面基板12には、前面基板11の表示電極15と直交する複数のアドレス電極17とそれらを覆う誘電体層24(図1には示さず)が形成されている。アドレス電極17の間の誘電体層24上には、発光領域(放電空間)を仕切るためのストライプ状の隔壁18が設けられ、隔壁18で区分けされた領域(セル)には、領域ごとに赤、緑、青の蛍光体19が塗布されている。重ねあわされて周囲を封止された前面基板11と背面基板12との間の放電空間にはNe−Xeガスが封入されている。
【0004】
図2に、断面から見た発光領域(セル)の放電時の様子を示す。隣接する2本の表示電極15の間に電圧を印加することで、発光領域に放電21が生じXeが励起され、真空紫外線22を放出する。真空紫外線22があらかじめ塗布された蛍光体19に照射されることで可視光23を発する。このように、発光領域に対応する表示電極に電圧を印加することで真空紫外線22を制御して可視光23を発することで、ディスプレイとして動作する。
【0005】
上述の構造を持つ背面基板12の製造法は、基板上にアドレス電極17の電極パターンを形成し、その電極パターンに整合(アライメント)させるように隔壁18を形成してゆくプロセスが一般的である。隔壁18の形成方法としては、さまざまな方法が提案され実施されているが、代表的なものとしては、スクリーン印刷法、サンドブラスト法、埋め込み法、フォトリソ法、転写法などがあるが、その中でもサンドブラスト法によってガラス基板の表面に直接隔壁を形成する方法が、今後の低コスト化の面で期待されている。
【0006】
すなわち、このサンドブラスト法による隔壁形成方法は、切削粒子によってガラス基板表面を直接切削する方法であり、図3に一連の処理工程を示す。図3Aは加工前のガラス基板30を示し、図3Bはガラス基板30上に感光性ドライフィルム31をラミネートした工程を示す。図3Cは露光現像により隔壁パターン32以外の部分の感光性ドライフィルムを除去した工程を示す。次の図3Dは、切削用ノズルから切削粒子を噴射して、サンドブラストにて、感光性ドライフィルム31で覆われた隔壁パターン以外の部分を切削してガラス基板表面に溝を形成する工程を示す。次の図3Eは感光性ドライフィルム31を除去して、その除去跡に隔壁33が形成されたガラス基板を示している。
【0007】
このようなサンドブラスト法で隔壁を形成したガラス基板の隔壁内に、電極を形成する方法についてもいくつか存在する。特許文献1では、感光性ドライフィルム(感光性レジスト層)を露光現像することにより隔壁間に電極を埋め込む溝を形成し、金属材料を埋め込む手段が記載されている。
【0008】
さらに、レーザ光を利用した方法が特許文献2と特許文献3に開示されている。特許文献2では、加工対象材料とターゲットとを間隔を開けて配置し、加工対象材料を介してターゲットにレーザ光を照射し、アブレーションを生じさせて加工対象材料に加工を行うことが記載されている。特許文献3では、導電膜を基板表面全体に渡って形成させ、その後、その導電膜に対して、所望の部位(電極を形成したい部位)以外のところにレーザ光を照射して不要な導電膜を除去する方法が記載されている。
【0009】
また、非特許文献1では、所望のパターンに材料を成膜するために、レーザ光を所望の電極配線パターンに走査して照射することでターゲット材料を基板上に成膜する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2000−215795号公報
【特許文献2】特許第3401425号公報
【特許文献3】特開2000−299066号公報
【非特許文献1】光技術コンタクト VOL.39,NO.12,pp.708−715,2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1に記載の電極形成方法では、特許文献3と同様に、走査位置の位置合わせが困難であり、特に電極を形成したい部位があらかじめ基板上に定められているような場合にはこの問題が顕著に現れていた。電極を形成したい部位とは、例えば、PDP背面基板における隔壁間の溝の底部などに相当する。また、特にPDP基板の電極形成のように、30インチを超えるような大型基板に微細な描画を行う場合は、基板のたわみや前工程での焼成収縮等により、描画位置(電極形成位置)の位置合わせがさらに困難になることがあった。マスクを設け、マスクを介してレーザ光を照射する場合であっても、マスクと電極を形成したい所望の位置を合わせることが必要であった。
【0011】
さらに、特許文献1の方法では、隔壁間に電極を埋め込む溝を形成するために、溝を形成する部分のみ感光性ドライフィルム(感光性レジスト層)が無くなるようにパターニングする必要があった。また、サンドブラスト法にて隔壁を形成した場合には、切削粒子による切削のためにガラス表面が荒れ、その荒れたガラス表面に電極を形成するため、電極の密着性が悪く断線が生じやすいという問題があった。
【0012】
特許文献2に記載の方法は、加工対象材料とターゲットとを間隔を開けて加工しているため、プラズマディスプレイパネルのような大型の基板を加工対象とした場合に、基板にたわみが生じて適切な加工が出来ない場合があった。また、ターゲットを加工対象の一部のみに加工する場合には、マスクに代表されるような電極パターニングがあらかじめ必要であることは、非特許文献1、特許文献1、特許文献2も同様である。
【0013】
さらに、特許文献3に記載の方法は、導電膜を基板表面全体に渡って形成するために、導電膜材料の利用効率が悪いという問題があった。またレーザ走査位置の位置合わせも困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明は上記のような課題を解決するために、レーザ光による溶射を利用する成膜方法において、成膜対象基板の成膜面と対向するターゲット基板との間にあらかじめ形成すべき成膜パターンに対応した間隙寸法差を形成し、その寸法差による成膜条件の違いを利用して選択的な成膜を行うことを特徴とするものである。
【0015】
前記間隙寸法差は、プラズマディスプレイパネルの場合、背面側ガラス基板をあらかじめ切削加工して設けられた複数のセル形成溝として与えられ、本願発明によれば、その溝の底面に効果的に電極となる成膜材料層を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本願の方法は、ターゲット基板と所望の成膜対象基板上の成膜位置との間隔寸法を、ターゲット材料が溶射される最短距離あるいは最長距離を考慮して調整することにより、所望の成膜位置を気にすることなくレーザ光を照射でき、容易に所望の位置のみに成膜材料の成膜が可能となる。これにより、マスクやレーザ走査位置の位置あわせを不要とし、マスクを必要とせずに、一回の照射で多くの成膜処理が可能である。さらに、本発明を用いることにより、成膜材料を必要以上に塗布することや、不要な材料を除去するプロセスが省かれ、成膜材料の利用効率を高める効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下の実施例にて、本発明を具体的に説明するが、膜厚、材料などはこれらに限定されない。
<第一の実施例>
本発明の第一の実施例を、図5と図6を参照しながら説明する。この実施例では、成膜後の成膜材料層を電極として用いる例であり、成膜対象基板(この場合、電極形成対象基板)となるガラス基板53の平面上の所望の部位に銅電極を形成する。成膜材料である銅から構成されるターゲット基板51の表面は凹凸を有している。ターゲット基板に凹凸を形成する方法としては、旋盤などで機械的に加工することでも良いし、鋳型に溶融した成膜材料を流し込んで形成することでも良い。
【0018】
銅で構成されたターゲット基板51の凹凸を有する面と、ガラス基板53の成膜対象面とを対向させて重ね合わせる。ここで、銅で構成されたターゲット基板51は強固であるため、ターゲット基板51上にガラス基板53を載せても、ターゲット基板51の凸部が損傷することや凹むことはなく、したがって、ターゲット基板51の凹部の最底部とガラス基板53の距離が、ガラス基板53のどの部分でもほぼ同じ距離に保たれる。
【0019】
なお、ターゲット基板51の材料としては、銅の他に金、銀、白金、クロム、ニッケル、アルミニウムなど導電性のある物質が利用できる。このような成膜材料を電極として成膜する場合は、ArまたはHe雰囲気下で成膜(電極形成)処理を実施することが好ましい。特に、銅を成膜材料として用いる場合は、大気中や窒素雰囲気中であれば酸化現象や窒化現象が生じて、銅の抵抗率が上昇する懸念があるので、酸素、窒素濃度がより低い雰囲気であることが望ましい。雰囲気はプラズマガス種が存在する雰囲気であればよく、勿論、空気雰囲気であってもよい。
【0020】
さらに、ガラス基板53の電極を形成したい部位52と、ターゲット基板51の凹部における最底部との距離が、レーザ光照射によるプラズマ発生によってターゲット基板51の成膜材料が溶射できる距離L1よりも長くなるように、雰囲気圧力とレーザ光61の強度とをあらかじめ調整しておく。
【0021】
雰囲気圧力の制御およびレーザ光61の強度の調整後、図6に示すように、矢印A方向から、レーザ光61をガラス基板53に入射し、ガラス基板53を通してターゲット材料51に照射することで、ターゲット基板51の凹部において銅のアブレーションが生じ、プラズマ62が発生し、ターゲット基板51の凹部の最底部からL1以上の距離を有するガラス基板53の部位にアブレーションされた銅が溶射される。図5と図6を比較すればわかるように、成膜材料が溶射された部位63は、電極を形成したい部位52にほぼ一致する。
【0022】
このように、ターゲット基板51上に凹凸を形成することによって、成膜対象面が平面であるガラス基板53上の所望の部位のみに成膜材料を溶射することが可能になる。この方法は、プラズマディスプレイパネルの前面基板の電極形成に利用することができる。
【0023】
なお、レーザ光の照射方法は連続照射でもパルス照射でも良く、レーザ光61の出力は、レーザ熱でターゲットである成膜材料の溶融が生じない100kW/cm2以下とする必要があるが、1W/cm2程度の照射で成膜処理(電極形成処理)は可能である。
【0024】
レーザ光の波長は、350nm以上の領域の波長を利用することが、プラズマディスプレイパネルの基板を製造する場合には適切である。これは、プラズマディスプレイパネルの背面基板ガラスに一般的に用いられるソーダライムガラスや高歪点ガラスが、350nm以下の波長を透過しにくいためであるが、ガラス基板53の材料を透過する波長を持つレーザ光61であれば、波長の長さを限定するものではない。
【0025】
本発明においても、電極を形成したい部位52と、ターゲット基板51の凹部における最底部との距離が、レーザ照射によりターゲット基板51の成膜材料が溶射できる最短距離よりも長くなるように、雰囲気のガス圧とレーザ光61の強度とをあらかじめ調整する必要がある。
【0026】
しかしながら、本発明を用いることにより、同じ隔壁の溝深さを有するガラス基板に対しては、この調整を最初の基板の電極形成処理前に一度実施することで、その後の基板の電極形成処理時にはそれらの調整が不要となる。従来のレーザ走査位置の位置あわせのように、ガラス基板53ごとに微調整する必要はなくなるとともに、マスクも不要である。
【0027】
なお、ガラス基板に溶射された電極の膜厚が不足している場合には、電解または非電解鍍金にて膜厚を厚くする処理を実施しても良い。プラズマディプレイパネルに必要な電極膜厚は1〜数μm必要であるので、鍍金処理を施し、膜厚を確保することが望ましい。
<第二の実施例>
本発明の第二の実施例を図7、図8、図9を参照しながら説明する。この実施例は、成膜された成膜材料層を電極として用いるために、隔壁が形成されたガラス基板73の隔壁間に形成される溝の底部72に、銅電極を形成する例である。図7におけるプラズマディスプレイパネルにて用いられる背面基板の隔壁間に形成された溝の深さL2は150μmから200μmを有する場合が多くなっている。勿論、この深さの値に本発明が限定されるものではない。
【0028】
銅で構成された平坦なターゲット基板71と、ガラス基板73の隔壁を有する面とを対向させて重ね合わせる。ここで、銅で構成されたターゲット基板71は強固であるため、ターゲット基板71上にガラス基板73を載せても、ガラス基板73の隔壁頂部がターゲット基板71に入り込まないので、ガラス基板73にたわみが生じることもなく、したがって、ターゲット基板71と、ガラス基板73の電極を形成したい部位72との距離が、ガラス基板73のどの部分でもほぼ同じ距離に保たれる。
【0029】
さらに、ガラス基板の隔壁間の電極を形成したい部位72と、ターゲット基板71の表面との最短距離L1が、レーザ光照射によるプラズマ発生によってターゲット基板71の銅が溶射できる最短距離に一致するように、雰囲気圧力とレーザ光61の強度とをあらかじめ調整しておく。このように調整することで、ターゲット基板71からの距離がL1に満たない隔壁の溝には、銅が溶射されない。
【0030】
雰囲気圧力の制御およびレーザ光61の強度の調整後、図8で示されるように、矢印A方向から、ガラス基板73を通して、ターゲット基板71にレーザ光61を照射する。
【0031】
レーザ光61をガラス基板73に入射し、ガラス基板73を通して、ターゲット基板71に照射すると、ターゲット基板71とガラス基板の隔壁で挟まれた間隙(空間)にて銅のアブレーション(蒸発)が生じ、プラズマ62が発生し、ターゲット基板71の材料である銅が、ガラス基板73の隔壁の溝の底部のうち、ターゲット基板71の表面からL1以上の距離が離れた部位のみに溶射される。ターゲット基板71から銅がプラズマ発生によって溶射される最短距離をL1の長さになるように調整しているため、L1の距離以内の部位には銅が溶射されない。
【0032】
銅が数百nmの厚さでガラス基板73の隔壁の溝に溶射されると、溶射された部位においては、溶射された銅に遮られてレーザ光61がガラス基板73を透過しない。ターゲット基板71からの距離がL1以上離れたガラス基板73の部位72のすべてに銅が溶射されると、プラズマ発生に十分な空間がないためプラズマが発生しなくなる。これにより、所望の電極形成部位のすべてにおいて電極形成処理が終了したことになる。プラズマ発生の有無は、目視でも検知可能であるし、プラズマの発光波長の発光強度をモニターして検知することも可能である。言うまでもなく、ガラス基板73の隔壁頂部とターゲット基板71が接している部分と、ガラス基板73の隔壁の溝内とターゲット基板71までとの距離がL1に満たない部分とは、プラズマ発生に十分な空間がないためプラズマは発生せず、銅が溶射されない。
【0033】
プラズマ発生の有無を検知することにより、電極を形成したいガラス基板73の所望の部位全体に、成膜材料である銅が溶射されたかどうかを容易に判断することができる。図9が、電極形成処理が終了した模様を示す図である。ターゲット基板71の表面からL1の距離を越える部位のみにて成膜材料である銅が溶射されている。このように、レーザの走査位置の細かい位置合わせを必要とせずに、レーザ光61をガラス基板73全体に入射させることによって、所望する部位のみに電極を容易に形成することができる。
【0034】
さらに、本実施例では、ガラス基板上の隔壁をサンドブラスト法にて形成したガラス基板を対象としたが、これは平面を有するガラス基板に複数の隔壁材料を接着して隔壁を形成した基板であっても良く、ガラス基板を切削した基板に限定した発明でないことは言うまでもない。本実施例は、プラズマディスプレイパネルの背面基板の隔壁間に電極を形成する場合に有効である。
【0035】
また、隔壁の形状はストライプ状に限らず、蛇行型、格子型、梯子形状、ストライプ状の形状から直交する方向に突出部を設けた形状など、複雑な形状になればなるほど、本願発明は効果を発揮できる。本願は隔壁の形状がどのような形状であってもガラス基板とターゲット基板に間隙があれば電極を形成できるという優れた効果を有するものである。
<第三の実施例>
次に、本発明の第三の実施例を、図10と図11を参照しながら説明する。この実施例では、成膜材料層を電極として用いるために、第二の実施例と同様に、隔壁が形成されたガラス基板73の隔壁間に形成される溝の底部72に、銅電極を形成する例である。本実施例では、成膜材料である銅で構成されたターゲット基板101の表面も凹凸を有している。まず、図10で示されるように、このターゲット基板101の凹凸を有する面上に、ガラス基板73の隔壁を有する面を対向させるように載せる。この際には、ターゲット基板の凸部がガラス基板73の隔壁の溝内に収まるように重ね合わせる。次に、ターゲット基板101の凸部の頂上から電極を形成したい隔壁溝底部の部位72までの距離が、プラズマが発生する最短距離L1よりも長くなるように、雰囲気圧力とレーザ光61の強度を調整する。
【0036】
図11に示すように、矢印A方向から、レーザ光61をガラス基板73と通してターゲット材料101に照射することで、ターゲット基板101において銅のアブレーションが生じ、プラズマ62が発生し、L1以上の距離を持つ部位のみに銅が溶射される。図10と図11を比較すればわかるように、溶射された銅の部位91の位置は、電極を形成したい部位72にほぼ一致する。
【0037】
本実施例は、第二の実施例同様に、プラズマディスプレイパネルの背面基板の隔壁の溝の底部に電極を形成する場合に有効である。
【0038】
なお、前述の各実施例ではレーザ光を透過する成膜対象基板としてガラス基板を例にあげたが、ガラスに限定されるものではないことは言うまでもなく、レーザ光を透過する性質を有する基板であれば何でも良い。
【0039】
次に、前述した各実施例に共通するレーザ光61の照射の方法についていくつかの例を述べる。プラズマディスプレイパネルで用いられるガラス基板は42インチを超える大きさのものも製造され、ガラス基板と同じ面積を持つターゲット基板を用意するのは困難である。そこで、図12に示すようなレーザ照射方法を採用することができる。
【0040】
図12Aは、ガラス基板73よりも面積が小さなターゲット基板71を用意し、固定したターゲット基板71上にガラス基板73を載せ、レーザ照射機構121を矢印B方向(ガラス基板の移動方向と直交する方向)移動させながら、ガラス基板73を通してターゲット基板71にレーザ照射をして成膜処理を実施する。そして、矢印B方向の照射が終了次第、ガラス基板73を矢印Bとは直交する方向(太い矢印方向)に移動させ、同時に、ターゲット基板71をガラス基板73とは逆方向に移動させる方法である。これによりガラス基板73と同じ大きさのターゲット基板71を用意することなく、ガラス基板73の広い範囲に渡ってレーザ照射が可能となる。なお、図12Aにおける搬送用ローラ122の上をガラス基板73を移動させることで、大量のガラス基板73に対して成膜処理をすることが可能となる。
【0041】
なお、ターゲット基板71の成膜材料が溶射されるごとにターゲット基板71の厚みが部分的に薄くなる問題がある。すなわち、何度も溶射された部位は、溶射されていない部位に比べ、ターゲット基板71と、電極あるいは反射防止膜を形成したいガラス基板73の部位との距離が大きくなり、電極形成精度が劣る。これを防ぐために、ガラス基板73とターゲット基板71の移動方向を逆にしている。
【0042】
レーザ光62の照射方法としては、レーザ照射機構121があらかじめ定めた方向(例えば電極の長手方向である図12Aの矢印B方向)にそって、レーザ光をガラス基板73を通してターゲット基板71に照射する。加工点出力が4kWで集光径が0.6mmφのレーザ照射機構121を用いた場合は、本発明を用いることで1W/cm2程度の照射で成膜材料の溶射が可能であり、単純に4kW/1Wの4000で平方根をとった場合に集光径は63倍となり、約38mmの幅を一度に照射可能となる。
【0043】
プラズマディスプレイパネルの背面基板の各隔壁間の距離(セルのピッチ間隔)を300μmとしたときでは、レーザ光を電極の長手方向(図12Aの矢印B方向)へ一回照射した場合に、一度に約127本の電極が形成できることになる。
【0044】
前述したとおり、ターゲット基板71の成膜材料が溶射されるごとにターゲット基板71の厚みが部分的に薄くなる問題を防ぐために、電極の長手方向(図12Aの矢印B方向)にそって1回の照射が終了するごとに、ターゲット基板72も前回溶射されていない部分が溶射対象となるように図12Aの太い矢印で示す横方向に順次移動させることが好ましい。本願は、電極の部位を気にすることなくレーザ光の照射が可能であるため、移動距離はさきほどの計算によると38mmで良い。勿論、この移動距離は38mmに限定されるものではなく、条件によって異なる。また、ターゲット基板71の表面のすべてが溶射対象として利用されたあとは、ガラス基板73との距離を適切に保つため、上方向(矢印C方向)にターゲット基板71を移動し、ガラス基板73と密着するように調整することがさらに好ましい。勿論、定期的に、ターゲット基板71の表面を旋盤などで機械的に加工してターゲット基板71の表面を平らにするプロセスを実施しても良い。
【0045】
図12Bは、ターゲット基板71が円筒形状のものである。これも図12Aと同様に、成膜処理を進めるごとにガラス基板73を移動させることで、大きなターゲット基板71を用意することなく、ガラス基板73の広い範囲に渡ってレーザ照射が可能となる。この例でも同様に、長手方向一列の照射が終わるたびに、円筒を必要分、回転させることが望ましい。この円筒部分の回転は、ガラス基板73と連動していても良い。この図12Bの方法では、図12Aの方法よりもターゲット基板71が小型化されるとともに、ガラス基板73と連動して円筒部が回転することにより、作業の効率化が実施できる。
【0046】
図12Cは、ガラス基板73よりも小さいターゲット基板71を複数個、並べた上にガラス基板73を載せてレーザ照射を行う方法である。この例も、ガラス基板73と同じ大きさのターゲット基板71を用意することなく、レーザ照射機構121を矢印B方向あるいは矢印D方向に移動させてガラス基板73の表面を満遍なくレーザ光を入射させることで、ガラス基板73の広い範囲に渡ってレーザ照射が可能となる。この例では、ガラス基板73を移動させる手間が不要となり、かつ、ガラス基板73の大きさに合わせてターゲット基板71の数を調整することができるという効果がある。
【0047】
以上が本発明の実施例を示したものである。また、本発明は以下の付記を有する。
(付記1)
加工用レーザ光に対して実質的に透明な成膜用対象基板の成膜面に対向して加工用レーザ光を吸収する成膜材料のターゲット基板を配置し、前記成膜対象基板の成膜面の反対側から加工用レーザ光を照射してターゲット基板の溶射膜を成膜面に形成する成膜方法において、
前記成膜対象基板の成膜面と前記ターゲット基板との間に、形成すべき溶射膜のパターンに応じた部分的な間隙寸法差をあらかじめ設けた状態でレーザ光照射を行い、前記間隙寸法差に応じた溶射膜の選択的付着によって成膜面に所定パターンの成膜材料層を形成することを特徴とした成膜方法。(1)
(付記2)
前記成膜対象基板が、あらかじめ表面に複数の溝を形成したプラズマディスプレイパネル用のガラス基板から成り、溝に対向して配置した成膜材料のターゲット基板からの溶射により溝の底面に電極となる成膜材料層を形成することを特徴とした請求項1記載の成膜方法。(2)
(付記3)
前記複数の溝の深さがターゲット基板の間でレーザ光照射時に発生するプラズマの到達寸法間にあることを特徴とする請求項2記載の成膜方法。(3)
(付記4)
前記成膜対象基板とターゲット基板との双方を所定間隔を保って1ライン上で互いに反対方向に移動させながら前記ラインと直交する方向の幅にわたってレーザ光照射を行うことを特徴とする請求項1乃至3に記載の成膜方法。(4)
(付記5)
前記両基板の間隙がAr雰囲気あるいはHe雰囲気であることを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載の成膜方法。
(付記6)
前記請求項1乃至請求項5に記載の方法にて形成した成膜材料層を電極の少なくとも一部として用いるプラズマディスプレイパネル。(5)
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように本発明の方法を用いることで、基板上の所望の位置に、マスクの位置合わせや、レーザ走査の位置合わせをすることなく、容易に成膜材料を基板上に形成することができる。特に、プラズマディスプレイパネルの背面基板における隔壁間のアドレス電極を形成する場合に多大な効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】3電極面放電型プラズマディスプレイパネルの構成を示した図である。
【図2】断面から見た発光領域(セル)の放電時の様子を示した図である。
【図3】サンドブラスト法にて基板上に隔壁を形成するプロセスを示した図である。
【図4】図3(C)の斜視図である。
【図5】第一の実施例におけるガラス基板とターゲット基板の設置形態を示した図である。
【図6】第一の実施例における成膜材料の溶射の模様を示した図である。
【図7】第二の実施例におけるガラス基板とターゲット基板の設置形態を示した図である。
【図8】第二の実施例における成膜材料の溶射の模様を示した図である。
【図9】第二の実施例における電極形成処理終了時の模様を示した図である。
【図10】第三の実施例におけるガラス基板とターゲット基板の設置形態を示した図である。
【図11】第三の実施例における成膜材料の溶射の模様を示した図である。
【図12】レーザ光の照射方法を示した図である。
【符号の説明】
【0050】
1 プラズマディスプレイパネル
11 前面基板
12 背面基板
13 透明電極
14 バス電極
15 表示電極
16、24 誘電体層
17 アドレス電極
18、33 隔壁
19 蛍光体
20 保護膜
21 放電
22 真空紫外線
23 可視光
31 感光性ドライフィルム
32 隔壁パターン
51、71、101、122 ターゲット基板
52、72 電極を形成したい部位
53、73 ガラス基板
61 レーザ光
62 放電
63、91 成膜材料が溶射された部位
121 レーザ照射機構
122 搬送用ローラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工用レーザ光に対して実質的に透明な成膜用対象基板の成膜面に対向して加工用レーザ光を吸収する成膜材料のターゲット基板を配置し、前記成膜対象基板の成膜面の反対側から加工用レーザ光を照射してターゲット基板の溶射膜を成膜面に形成する成膜方法において、
前記成膜対象基板の成膜面と前記ターゲット基板との間に、形成すべき溶射膜のパターンに応じた部分的な間隙寸法差をあらかじめ設けた状態でレーザ光照射を行い、前記間隙寸法差に応じた溶射膜の選択的付着によって成膜面に所定パターンの成膜材料層を形成することを特徴とした成膜方法。
【請求項2】
前記成膜対象基板が、あらかじめ表面に複数の溝を形成したプラズマディスプレイパネル用のガラス基板から成り、溝に対向して配置した成膜材料のターゲット基板からの溶射により溝の底面に電極となる成膜材料層を形成することを特徴とした請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記複数の溝の深さがターゲット基板の間でレーザ光照射時に発生するプラズマの到達寸法間にあることを特徴とする請求項2記載の成膜方法。
【請求項4】
前記成膜対象基板とターゲット基板との双方を所定間隔を保って1ライン上で互いに反対方向に移動させながら前記ラインと直交する方向の幅にわたってレーザ光照射を行うことを特徴とする請求項1乃至3に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記請求項1乃至請求項4に記載の方法にて形成した成膜材料層を電極の少なくとも一部として用いるプラズマディスプレイパネル。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−199990(P2006−199990A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11349(P2005−11349)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(503411576)株式会社次世代PDP開発センター (65)
【Fターム(参考)】