説明

成膜方法

【課題】非エロージョン部の発生を防止する。
【解決手段】本発明の成膜方法は、磁界形成手段20を横方向daに往復移動しながら、縦方向dbに往復移動し、ターゲット15をスパッタリングしている。横方向daの往復移動の速度は、基板7の移動速度の1/10以下、かつ、150mm/分以上にされ、縦方向dbの往復移動の速度は、基板7がターゲット15の表面と対向しながら100mm移動する間に、0.3往復以上する大きさにされており、このような移動速度では、非エロージョン部の発生が少なく、基板7に形成される薄膜の面内分布も向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリングによる成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LCD(液晶ディスプレイ)等の表示装置のガラス基板に薄膜を形成するために、スパッタリング装置が用いられている。
スパッタリング装置は、真空槽の内部に配置されたターゲットを有しており、スパッタ効率を上げるために、ターゲットの裏面側に磁石を配置する。
磁石が形成する磁力線の、水平磁場がゼロとなる部分はプラズマ密度が高くなるので、その部分でターゲットが多くスパッタリングされる。
【0003】
近年、LCD等の分野では、パネルコストを下げるために基板が大型化し、基板の大型化に伴いターゲットも大型化している。
大型化したターゲットの使用効率を上げるために、従来より、スパッタリング中の磁石を揺動(往復移動)させる成膜方法が採用されているが、従来の成膜方法では、かた掘れが発生し、ターゲットの使用効率は十分にあがらず、非エロージョン部からのパーティクルの発生や、異常放電が起こるという問題もあった。
【0004】
磁石の揺動パターンをセンサー、モーターパルス等で確認調整し、非エロージョン部の抑制、かた掘れの改善をする方法もあるが、スパッタリング装置にかかる費用が高くなり、実用的ではない。
【特許文献1】特開2000−104167号公報
【特許文献2】特開2005−68468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、異常放電やパーティクルの発生を抑制し、かつ、ターゲットの使用効率が高い成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者等が磁石の移動速度について検討したところ、従来の成膜方法のように、基板の移動方向と平行な横方向の移動速度と、基板の移動方向と直交する縦方向の移動速度との比が1:1では、磁石がターゲットに対して同一の軌跡を通るMG揺動パターンとなり、外周部に発生する非エロージョン部が増加する。また、常にスパッタされる部分が発生し、局部的に掘れ、使用効率を低下させる。
非エロージョン部はパーティクルの発生の原因となり、その影響で、ノジュールと呼ばれる低級酸化物が発生し、異常放電回数も増加する。
【0007】
本発明者等が鋭意検討を行った結果、縦方向の移動速度を、横方向の移動速度よりも早くすれば、磁石が形成する磁力線が、ターゲット表面の同じ場所を通る確率が低くなり、ターゲットの特定の場所が他の場所よりも多量にスパッタリングされる片掘れ部が小さくなり、非エロージョン部が大幅に減少することが分かった。
【0008】
係る知見に基づいて成された本発明は、ターゲットが配置された真空槽内部を真空雰囲気にし、前記ターゲットの表面をスパッタリングし、成膜面が前記ターゲットの表面と対向するように基板を移動させ、前記基板の前記成膜面上に薄膜を形成する際に、前記ターゲットの裏面に配置された磁石を、前記ターゲットの表面と平行な平面内で、前記基板の移動方向に沿った横方向に往復移動をさせながら前記基板の移動方向とは垂直な縦方向にも往復移動させる成膜方法であって、前記横方向の往復移動の速度は、前記基板の移動速度の1/10以下、かつ、150mm/分以上であり、前記縦方向の往復移動の速度は、前記基板が、その表面が前記ターゲットの表面と対向しながら100mm移動する間に、0.3往復以上する大きさにされた成膜方法である。
本発明は請求項1記載の成膜方法であって、前記縦方向の往復移動の速度は、前記横方向の往復移動の速度の2倍以上20倍以下である成膜方法である。
【0009】
尚、横方向の移動速度は、横方向の往復移動で移動した距離を、当該横方向の往復移動に要した時間で除した値であり、縦方向の移動速度は、縦方向の往復移動で移動した距離を、当該縦方向の往復移動に要した時間で除した値である。基板の移動速度とは、基板が表面をターゲット表面と対面させた状態で移動する時の平均速度である。
【発明の効果】
【0010】
非エロージョン部を少なくできるのでパーティクルの発生を抑制し、ノジュールの発生も抑制でき、異常放電の発生を減少できる。かた掘れも改善でき、ターゲットの使用効率が改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明に用いるスパッタリング装置1の断面図である。
このスパッタリング装置1は真空槽11を有しており、真空槽11の内部には、ターゲット15と、基板搬送機構13とが配置され、ターゲット15の基板搬送機構13が配置された側と反対側には磁石搬送機構25が配置されている。
【0012】
ここでは、磁石搬送機構25は真空槽11の内部に配置されているが、真空槽11が透磁性を有する場合は、磁石搬送機構25を真空槽11外部に配置してもよい。
【0013】
基板搬送機構13は、基板7を真空槽11内で移動させ、ターゲット15の表面上を通過させるように構成されている。図1、2の符号Dは基板7がターゲット15の表面上を通過する時の移動方向を示している。
【0014】
磁石搬送機構25には磁界形成手段20が取り付けられており、磁石搬送機構25は、磁界形成手段20を、ターゲット15の表面と平行な面内で、基板7の移動方向Dと平行な横方向daに往復移動させると同時に、該移動方向Dと直交する縦方向dbにも往復移動させる。
【0015】
磁界形成手段20はターゲット15よりも小さく、磁界形成手段20の横方向daの長さと縦方向dbの長さは、それぞれターゲット15の横方向daの長さと縦方向dbの長さよりも小さくなっている。従って、磁界形成手段20は、ターゲット15の裏面内で横方向daにも縦方向dbにも往復移動可能になっている。
【0016】
ここでは、磁界形成手段20はリング状のリング磁石22と、リング磁石22のリング内周に配置された中心磁石23とを有しており、往復移動の範囲は、横方向daの往復移動の終点と、縦方向dbの往復移動の終点で、それぞれリング磁石22のリング外周が、ターゲット15の縁の真下に位置するようになっている。
【0017】
リング磁石22と中心磁石23は、互いに異なる極性の磁極をターゲット15の裏面に向けてヨーク21に固定されており、その磁極間に形成される磁力線はターゲット15の表面を通り、磁界形成手段20が移動すると、磁力線も一緒に移動し、磁力線のターゲット15表面と平行な水平磁場成分もターゲット15表面上を移動する。
【0018】
次に、このスパッタリング装置1を用いた成膜方法について説明する。
真空槽11には真空排気系19とガス供給系18とが接続されている。真空排気系19で真空槽11内部を真空排気する。
【0019】
真空槽11内部の真空雰囲気を維持したまま、成膜対象物である基板7を真空槽11内部に搬入し、薄膜が形成されるべき表面(成膜面)が、ターゲット15表面と対面するように、基板搬送機構13に保持させる。
【0020】
真空槽11内部の真空排気を続けながら、ガス供給系18からスパッタガスを供給し、真空槽11内部に所定圧力の成膜雰囲気を形成する。
ターゲット15は電源5に接続されている。
【0021】
真空槽11内部の成膜雰囲気を維持し、磁界形成手段20を横方向daに往復移動させながら、縦方向dbにも往復移動させた状態で、ターゲット15に電源5から電圧を印加してターゲット15をスパッタリングし、ターゲット15のスパッタリングと、磁界形成手段20の横方向da及び縦方向dbの往復移動を続けながら、基板7を搬送し、ターゲット15表面上を通過させる。
【0022】
基板7の移動方向Dと直交する方向の長さは、ターゲット15の移動方向Dと直交する方向の長さよりも短くなっており、基板7がターゲット15表面上を通過する時には、基板7の移動方向Dと直交する方向の一端から他端まで薄膜が形成される。
【0023】
基板7の移動方向Dの長さは、ターゲット15の移動方向Dの長さよりも長いが、基板7がターゲット15表面上を通過することで、基板7の移動方向Dの一端から他端まで薄膜が形成される。従って、大型の基板7であっても、全面に成膜可能である。
【0024】
本発明では、磁界形成手段20の横方向daの移動速度は基板7の移動速度の1/10以下にされ、縦方向dbの移動速度は基板7がターゲット15表面上を100mm移動する間に、縦方向dbの往復移動を0.3回以上する大きさになっている。
【0025】
この移動速度では、基板7上の任意の位置がターゲット15の移動方向Dの一端から他端まで移動する間(通過時間)に、磁界形成手段20が横方向daにも縦方向dbにも2往復以上し、基板7表面に形成される薄膜の面内分布が、横方向daで±2%以下、縦方向dbで±3%以下とばらつきが小さくなる。
【0026】
一例を述べると、縦方向dbに1回往復移動する時の距離が80mmであり、縦方向の往復移動速度が1500mm/秒であり、ターゲット15の移動方向Dの長さが300mmであり、基板7の移動速度が2000mm/秒であり、ターゲット15の通過時間が9秒の場合、基板7の任意の位置がターゲット15の移動方向Dの一端から他端まで移動し終わるまでに、磁界形成手段20は約2.81往復する。
【0027】
磁界形成手段20の移動速度が遅いと、プラズマの密度が高い領域外に堆積する量が増加し、再スパッタされず、ノジュール発生の原因となるが、上述したように、横方向daの移動速度は150mm/分以上にされ、縦方向dbの移動速度は横方向daの移動速度の2倍以上にされているから、ノジュールの発生が少なく、異常放電の発生が改善される。
【0028】
縦方向dbの移動速度の上限は特に限定されないが、横方向daの移動速度の20倍を超える程高くするには、大型のモーターが必要となり、スパッタリング装置1のコストが高くなるので好ましくない。
【0029】
磁界形成手段20が横方向daに往復移動しながら、縦方向dbに往復移動する時に、同じ経路を通らないように、横方向daの往復移動の周波数と、縦方向dbの往復移動の周波数の最小公倍数は、できるだけ大きな値にすることが望ましい。
【0030】
本発明に用いるターゲット15の一例を述べると、縦方向dbの長さが3500mm、横方向daの長さが300mmの長方形である。そのようなターゲット15を用いてスパッタリングする場合、例えば、基板7の移動速度は2000mm〜3000mm、磁界形成手段20の横方向daの移動速度は150mm/分、縦方向dbの移動速度は1600mm/分である。
【0031】
真空槽11中に酸素ガスや窒素ガスのような反応ガスを、スパッタガスと一緒に供給しながら、ターゲット15のスパッタリングを行っても良い。例えば、In23やZnO等の透明導電材料を主成分とするターゲット15を用いて、透明導電膜を成膜する場合には、反応ガスとして酸素ガスを供給する。
【0032】
磁界形成手段20は特に限定されず、永久磁石、電磁石のいずれを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に用いるスパッタリング装置の一例を説明する断面図
【図2】磁界形成手段の移動を説明するための平面図
【符号の説明】
【0034】
1……スパッタリング装置 7……基板 11……真空槽 15……ターゲット 20……磁界形成手段(磁石) D……基板の移動方向 da……横方向 db……縦方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットが配置された真空槽内部を真空雰囲気にし、
前記ターゲットの表面をスパッタリングし、
成膜面が前記ターゲットの表面と対向するように基板を移動させ、前記基板の前記成膜面上に薄膜を形成する際に、
前記ターゲットの裏面に配置された磁石を、前記ターゲットの表面と平行な平面内で、前記基板の移動方向に沿った横方向に往復移動をさせながら前記基板の移動方向とは垂直な縦方向にも往復移動させる成膜方法であって、
前記横方向の往復移動の速度は、前記基板の移動速度の1/10以下、かつ、150mm/分以上であり、
前記縦方向の往復移動の速度は、前記基板が、その表面が前記ターゲットの表面と対向しながら100mm移動する間に、0.3往復以上する大きさにされた成膜方法。
【請求項2】
前記縦方向の往復移動の速度は、前記横方向の往復移動の速度の2倍以上20倍以下である請求項1記載の成膜方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−46730(P2009−46730A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213899(P2007−213899)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】