説明

成膜装置および光電変換素子の製造方法

【課題】厚み方向にGaのダブルグレーデッド構造を有し、かつ面内均一性を有するCIGS膜を効率的に製造する。
【解決手段】膜用基板を一方向に搬送する基板搬送機構16を備え、成膜用基板Sの搬送方向Aに沿って最上流に、In蒸着源21とGa蒸着源22とが交互に配置されてなる行列状のIn-Ga第1蒸着源群31を配置し、制御部15により、搬送方向Aの最上流と最下流との間にGa/(In+Ga)比が最小、かつその最小のGa/(In+Ga)比が最上流または最下流でのGa/(In+Ga)比の半分以下となる領域が存在するように、各蒸着源21〜23、25からの蒸発量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CIGS系太陽電池等の光電変換素子に用いられるCIGS系化合物半導体膜を成膜するための成膜装置およびCIGS系化合物半導体膜を備えた光電変換素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、光吸収により起電力(電流)を生じる半導体からなる光電変換層を裏面電極と表面電極(透明電極)とで挟んだ積層構造を有する。従来、バルクの単結晶Siまたは多結晶Si、あるいは薄膜のアモルファスSiを用いたSi系太陽電池が主流であったが、次世代の太陽電池として、光電変換層にカルコパイライト系のCuInSe2(CIS)、Cu(In,Ga)Se2(以下、単に「CIGS」ということがある。)を用いたものが検討されている。このCIGSを光電変換層に用いた太陽電池は、効率が比較的高く、光吸収率が高いため薄膜化できることから、盛んに研究されている。
【0003】
CIGSを光電変換層に用いた太陽電池は、例えば、裏面電極上に、光電変換層として、p型のCIGS層を形成し、このp型のCIGS層上にn型のCdS層を形成し、さらにこのCdS層上に透明電極が形成された積層構造を有している。このような太陽電池構造においては、p型のCIGS層とn型のCdS層とによりp−n接合が構成されることとなる。
【0004】
既に、光電変換層に用いられるCIGS層の形成方法や装置について種々提案されている。光電変換層の形成法の主な方法としては、多元蒸着法、セレン化法が知られている。
ここでは、多元蒸着法について検討する。多元蒸着法とは、Cu、In、Ga、Se原料をそれぞれ別々のルツボから蒸発させて成膜する手法である。
【0005】
さらに、多元蒸着法としてはバイレイヤー法および3段階法という方法がある。3段階法とは、第1段階では、In、Ga、Seを供給して(In,Ga)Se膜を形成し、第2段階では、CuとSeのみを供給して膜全体の組成がCu過剰組成になるまで膜形成を行い、第3段階で再びIn、Ga、Seを供給して、最終的な組成が(In,Ga)過剰組成となるようにする方法である。
【0006】
一方、バイレイヤー法とは、Cu(In,Ga)Se2:CuxSeからなるCu含量の多い、相分離された化合物混合物を基材上に生成する工程と、この混合物中のCuxSeを(In,Ga)およびSeに曝すことによって、あるいは(In,Ga)ySezに曝すことによって、CuxSeをCuw(In,Ga)ySezに転化する工程とによりCu(In,Ga)Se2薄膜を形成する方法である(特許文献1参照)。
【0007】
また、CIGS系太陽電池において、光電変換率を向上させる研究も多々進められており、変換効率の向上には、CIGS光電変換層に、III族元素(In,Ga)の組成傾斜構造としてグレーデッドバンド構造を作り込むことが有効であることが知られている(特許文献2、3参照)。
【0008】
CIGSは、InとGaの組成比によりバンドギャップを制御することができる。CIGS膜の深さ方向でInとGaの組成比を変化させてグレーデッドバンドギャップを形成することにより、CIGS膜を用いた薄膜太陽電池の高効率化を図ることができる。例えば、pn接合側の表面(光入射側の主面)から裏面に向けて、GaとInの組成比の指標であるGa/(In+Ga)が徐々に増加する分布とすれば、バンドギャップが表面から裏面に向けて拡大するシングルグレーデッドバンドギャップを形成することができる。バンドギャップの変化によって、CIGS膜内部に電界が生じ、その電界により、光励起されたキャリアがCIGS膜の表面に形成されるpn接合へと輸送されるため変換効率が向上すると考えられている。
【0009】
また、上記のグレーデッドバンドギャップに加えて、CIGS膜の光入射側の表層部にGa濃度の高い層を形成することにより、pn接合界面でのバンドギャップを拡大し、開放端電圧を向上させるダブルグレーデッドバンドギャップを形成できる。ダブルグレーデッドバンドギャップによれば、より高い変換効率を達成することができる。
【0010】
他方、CIGS層の成膜の効率化を図るため、基板を移動させつつ成膜する成膜方法および成膜装置などが提案されている(特許文献4、5等)。
【0011】
例えば、特許文献4は、CIGS系太陽電池をロール・トゥ・ロール方式で製造する製造装置が提案されており、CIGS膜の成膜装置として、ロール・トゥ・ロール式多元同時蒸着成膜装置が提案されている。
【0012】
特許文献4に記載の装置では、各元素の蒸着源が元素毎に基板の搬送方向に垂直なライン状に並べられているために、各元素が順番に基板上に堆積することとなり、その結果、各元素の濃度はその蒸着源位置で最大となる。
【0013】
一方、特許文献5には、CIGS膜の膜厚方向の組成分布、特にIII族元素であるInとGaの膜厚方向の組成分布を良好なものとするために、In蒸着源と、Ga蒸着源とをマトリクス状に配置した製造装置が提案されている。この装置においては、マトリクス状に配列されたIn,Gaの蒸着源と、ライン状に複数配置されたCu蒸着源、ライン状に複数配置されたSe蒸着源を1つの蒸着源群とし、この蒸着源群が搬送方向に複数配置されており、InとGaとの組成比を膜厚方向に均一なものとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表平8−510359号公報
【特許文献2】国際公開第2004/090995号パンフレット
【特許文献3】特開2004−158556号公報
【特許文献4】米国特許第7194197号明細書
【特許文献5】特開2005−116755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献4のようなロール・トゥ・ロール式多元同時蒸着成膜装置は、大面積の成膜に適しているが、各蒸発源からの蒸発量は、各蒸発源の開口部分で最大となる分布を有しているため、特許文献4の装置のように、各元素の蒸発源がそれぞれライン状に配置された構成においては、面内に均一なCIGS層を得ることができず、十分な光電変換効率を達成することができないという問題があることが本発明者らの検討により明らかになった。
【0016】
また、特許文献5の成膜方法および装置では、マトリクス状に配置されたIn,Gaの蒸着源、Cu蒸着源およびSe蒸着源からなる蒸着源群を複数配置することにより膜厚方向におけるIn、Gaを均一なものとする効果が得られるが、逆に、III族元素(In,Ga)の組成傾斜構造の形成に対応することができず、CIGS膜にダブルグレーデッド構造を作り込めないために、変換効率を向上させることができないという欠点があった。
【0017】
さらに、CIGS層の高速化に当たっては、特許文献1に記載のバイレイヤー法による成膜が好ましいと考えられるが、現状では、光電変換効率の高い良好なCIGS層を形成することが可能なバイレイヤー法に適する成膜装置が実現されていない。
【0018】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、厚み方向にダブルグレーデッド構造を有し、かつ面内均一性を有するCIGS膜を効率的に製造することができる成膜装置および、高い光電変換率を有する光電変換素子を効率的に製造する光電変換素子の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の成膜装置は、Cu、In、Ga、Seを含む化合物半導体膜を成膜用基板の一面に成膜する成膜装置であって、
蒸着室と、該蒸着室内において、前記成膜用基板を一方向に搬送する基板搬送機構と、前記蒸着室内に配置された、前記Cu、In,Ga、Seそれぞれを蒸着させるための複数のCu蒸着源、複数のIn蒸着源、複数のGa蒸着源およびSe蒸着源と、前記各蒸着源からの各元素の蒸発量を制御する制御部とを備え、
前記成膜用基板の搬送方向に沿って最上流に、前記In蒸着源と前記Ga蒸着源とが交互に配置されてなる行列状のIn−Ga第1蒸着源群が配置されており、
前記制御部が、前記搬送方向の前記最上流と最下流との間にGa/(In+Ga)比が最小、かつ該最小のGa/(In+Ga)比が前記最上流または前記最下流でのGa/(In+Ga)比の半分以下となる領域が存在するように、前記各蒸着源からの蒸発量を制御するものである。
【0020】
「前記最上流でのGa/(In+Ga)比」とは、前記In−Ga第1蒸着源群が配置された領域におけるGa/(In+Ga)比である。前記最上流と最下流との間に存在するGa/(In+Ga)比が最小となる領域とは、前記最上流の蒸着源群と前記最下流の蒸着源群の間に存在する領域である。
【0021】
前記複数のCu蒸着源、前記複数のIn蒸着源および前記複数のGa蒸着源が、前記成膜用基板の搬送方向に沿って上流側から順に、
前記In−Ga第1蒸着源群、
前記Cu蒸着源と前記Ga蒸着源とが交互に配置されてなる行列状のCu−Ga第1蒸着源群、
前記Cu蒸着源と前記In蒸着源とが交互に配置されてなる行列状のCu−In蒸着源群、
前記Cu蒸着源と前記Ga蒸着源とが交互に配置されてなる行列状のCu−Ga第2蒸着源群、および
前記In蒸着源と前記Ga蒸着源とが交互に配置されてなる行列状のIn−Ga第2蒸着源群を構成するようにして配置されていることが望ましい。
【0022】
本発明の成膜装置においては、前記制御部が、前記最小のGa/(In+Ga)比が0となるように、前記各蒸着源からの蒸発量を制御するものであることが好ましい。
【0023】
また、前記制御部が、下流域におけるCuの蒸発量を、上流域におけるCuの蒸発量と比較して相対的に抑制させた条件で、前記各元素の上記前記基板の一面に供給するように、前記各蒸着源からの蒸発量を制御するものであることが好ましい。
【0024】
ここで、上流域は、搬送方向の上流側であり前記最上流からGa/(In+Ga)比が最上流または最下流の半分以下となる領域までを含むものとし、下流域は、該上流域に引き続く搬送方向下流側の領域をいうものとする。
【0025】
前記各蒸着源群の前記各行列状の各蒸着源の列が前記成膜用基板の前記搬送方向と交差するように配置されていればよいが、特には、前記各蒸着源群の前記各行列状の各蒸着源の列が前記成膜用基板の前記搬送方向と略垂直に交わるように配置されていることが望ましい。
【0026】
前記Cu−Ga第2蒸着源群におけるCu蒸着源数を、前記Cu−Ga第1蒸着源群におけるCu蒸着源数よりも少なく配置してもよい。
【0027】
前記Se蒸着源は、前記各蒸着源群の前記行列状の各蒸着源の列間に、該列に沿って延びるライン上に複数の開口を有するライン状蒸着源であることが好ましい。
【0028】
前記蒸着室に、前記成膜用基板を加熱する加熱手段を備えていることが望ましい。
【0029】
前記蒸着室の下流側に、該蒸着室と連結された、前記化合物半導体膜が成膜された前記成膜用基板を冷却する冷却室を備え、該冷却室に、Se蒸着源を備えていることが望ましい。
【0030】
前記冷却室に、前記成膜用基板を冷却する冷却手段を備えていることが望ましい。
【0031】
本発明の装置としては、前記蒸着室の上流側に該蒸着室に連結して配置された、前記成膜用基板を収納する処理前基板収納部と、該成膜用基板を加熱する加熱手段とを備えた基板導入室と、
前記冷却室の下流側に該冷却室に連結して配置された、前記化合物半導体膜が成膜された前記成膜用基板が収納される処理済基板収納部を備えた基板排出室とをさらに備え、
前記基板導入室、前記蒸着室、前記冷却室および前記基板排出室が直線状に配置され、
前記基板搬送機構が、前記成膜用基板を前記各室に亘って前記一方向にインライン状に移動させるものであることが望ましい。
【0032】
また、本発明の別の態様の装置としては、前記蒸着室の上流側に該蒸着室に連結して配置された、前記成膜用基板を巻き出す巻出ロールと、該成膜用基板を加熱する加熱手段とを備えた基板導入室と、
前記冷却室の下流側に該冷却室に連結して配置された、前記化合物半導体膜が成膜された前記成膜用基板を巻き取る巻取りロールを備えた基板排出室とをさらに備え、
前記基板導入室、前記蒸着室、前記冷却室および前記基板排出室が直線状に配置され、
前記移動手段が、前記巻出しロールから前記成膜用基板を巻き出させ、前記各室を経た前記成膜用基板を前記巻取りロールで巻き取らせるものであることが望ましい。
【0033】
本発明の光電変換素子の製造方法は、Cu(In,Ga)Se2化合物半導体からなる光電変換層を備えた光電変換素子の製造方法であって、
一面に裏面電極を備えた基板を一方向に搬送させつつ、該搬送方向に沿って配置された複数のCu蒸着源、複数のIn蒸着源、複数のGa蒸着源およびSe蒸着源から前記基板の一面側に前記各元素の蒸気を供給して、前記裏面電極上に前記光電変換層を成膜する蒸着成膜工程を有し、
該蒸着成膜工程において、前記基板の搬送方向の最上流において、前記Se蒸着源および前記In蒸着源と前記Ga蒸着源とが交互に配置されてなる行列状のIn−Ga第1蒸着源群を用いて、In、GaおよびSeを前記基板の一面側に供給すると共に、前記搬送方向の前記最上流と最下流との間にGa/(In+Ga)比が最小、かつ該最小のGa/(In+Ga)比が前記最上流または前記最下流でのGa/(In+Ga)比の半分以下となる領域が存在するように、前記各蒸着源からの蒸発量を制御しつつ、
前記最上流を含む上流域において、Cu(In,Ga)Se2、CuxSeの互いに相分離された化合物からなる混合物を前記裏面電極上に生成させ、
前記上流域に続く、前記最下流を含む下流域において、前記CuxSeをCu(In、Ga)Se2に転化させることにより、前記光電変換層を成膜することを特徴とする。
【0034】
前記最小のGa/(In+Ga)比を0とすることが好ましい。
【0035】
前記下流域におけるCuの蒸発量を、前記上流域におけるCuの蒸発量と比較して相対的に抑制させた条件で、前記各元素の上記前記基板の一面に供給することが好ましい。
【0036】
なお、本発明の光電変換素子の製造方法における上記蒸着成膜工程には、本発明の成膜装置を好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の成膜装置によれば、成膜用基板の搬送方向に沿って最上流に、In蒸着源とa蒸着源とが交互に配置されてなる行列状のIn−Ga第1蒸着源群が配置されているので、面内均一性の高い膜を成膜することができると共に、成膜初期にInとGaとを混合した成膜がなされるために、良質な結晶のカルコパイライト構造の形成が安定的にできるため膜剥がれが生じず、高い歩留まりで生産できる。
【0038】
また、蒸着源からの蒸発量を制御する制御部を備え、制御部が搬送方向の最上流と最下流との間にGa/(In+Ga)比が最小、かつ該最小のGa/(In+Ga)比が最上流または最下流でのGa/(In+Ga)比の半分以下となる領域が存在するように、各蒸着源からの蒸発量を制御するので、Gaの良好なダブルグレーデッド構造を形成することができる。
【0039】
本成膜装置を用いれば、良好なGaのダブルグレーデッド構造を備え、かつ膜剥がれを生じないCIGS膜を作製することができるので、光電変換効率の高い光電変換素子を高効率に作製することができる。
【0040】
また、基板を一方向に搬送させる搬送機構を備え、基板を一方向に搬送させつつCIGS膜を成膜させることができるよう構成されているので、効率的な成膜を行うことができ、スループットの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】第1の実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す断面図
【図2】第1の実施形態の成膜装置における蒸着源の配置例を示す平面図
【図3】第2の実施形態に係る成膜装置の概略構成を示す断面図
【図4】光電変換素子(太陽電池セル)の概略構成を示す断面図
【図5】比較例の成膜装置における蒸着源の配置を示す平面図
【図6】実施例の方法で作製した光電変換素子の光電変換素子膜厚方向における二次イオン質量分析結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、視認しやすくするため、各図中、各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0043】
「第1の実施形態の成膜装置」
図1は、本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の概略構成を模式的に示す図である。
本実施形態の成膜装置1は、成膜用基板Sに対してCIGS系半導体膜(以下において単に「CIGS膜」と表記する。)を成膜するためのインライン式多元同時蒸着成膜装置であり、直線状に順に連結配置された、基板導入室10、蒸着室11、冷却室13および基板排出室14からなる4つのチャンバーと、成膜用基板Sを導入室10から排出室14に直線状に移動させる基板搬送機構16と、蒸着条件等を制御する制御部15とを備えている。
【0044】
基板導入室10および基板排出室14は、それぞれ成膜用基板S(S’)を導入するためのチャンバーおよび排出するためのチャンバーである。基板導入室10には、CIGS膜蒸着前の成膜用基板Sを収納する処理前基板収納部として、複数枚の基板を収納可能な基板収納トレイ17が備えられ、基板排出室14には、CIGS膜成膜済みの成膜用基板S’を収納する処理済基板収納部として、複数枚の基板を収納可能な基板収納トレイ18が備えられている。
【0045】
基板導入室10、蒸着室11、冷却室13および基板排出室14は、必要に応じて排気装置(図示せず)によって略真空に排気される。例えば、基板導入室10および排出室14には内部を真空排気する排気ポンプとして、ターボ分子ポンプが備えられ、蒸着室11および冷却室13には内部を真空排気する排気ポンプとしての油拡散ポンプが備えられている。
【0046】
基板搬送機構16は、搬送方向Aの上流側である基板導入室10から下流側である基板排出室14に向かって基板Sを直線的に移動させるための機構であり、たとえば、ローラなどを備えた構成とすることができる。本実施形態においては、基板搬送機構16は、基板Sの幅方向の両端を支えるべく2列に且つ基板搬送方向に沿って配列された2列式のコンベヤから構成されている。
【0047】
基板導入室10、蒸着室11の基板搬送機構16の上方には基板加熱用のヒーター19a、19bがそれぞれ設置されている。この基板加熱用のヒーター19a、19bは、基板の搬送方向Aに沿って温度を変化させることができ、基板の温度をその移動位置に応じた所定温度に調整する。
【0048】
蒸着室11の基板搬送機構16の下方には、In、Ga、Cuの各蒸着源21〜23からなる蒸着源群31〜35およびSe蒸着源25が配置されており、冷却室13にはSe蒸着源25のみが配置されている。各蒸着源には、たとえば、蒸着用の坩堝を用いることができる。各蒸着源は、蒸気噴出開口を2以上備えるものであってもよい。
【0049】
制御部15は、蒸着室11における蒸着条件、基板搬送機構16による基板の搬送速度等を制御するものであり、具体的にはコンピュータにより構成されるものである。
制御部15は、蒸着室11における蒸着条件が、搬送方向Aの最上流と最下流との間にGa/(In+Ga)比が最小、かつ該最小のGa/(In+Ga)比が最上流または最下流でのGa/(In+Ga)比の半分以下となる領域が存在するように、各蒸着源21〜23および25からの蒸発量を制御する。なお、ここでは、最上流でのGa/(In+Ga)比と最下流でのGa/(In+Ga)比とがほぼ同等となるようにしている。ただし、最上流でのGa/(In+Ga)比、最下流でのGa/(In+Ga)比は同等である必要はない。最小のGa/(In+Ga)比は最上流と最下流の少なくともいずれかGa/(In+Ga)のいずれか一方の半分以下であればよく、他方は、上述の最小のGa/(In+Ga)比よりも大きければよい。
制御部15は、その他にヒーター19a、19bの温度制御、基板の搬送速度の制御など、成膜条件全般に関わる制御を行う。
【0050】
図2は、図1に示す成膜装置1における、蒸着源の配置を模式的に示す平面図である。
蒸着室11には、基板搬送方向上流側から、In蒸着源21とGa蒸着源22とが交互に配置されてなる行列状(マトリックス状)のIn−Ga第1蒸着源群31、Ga蒸着源22とCu蒸着源23とが交互に配置されてなる行列状のGa−Cu第1蒸着源群32、In蒸着源21とCu蒸着源23とが交互に配置されてなる行列状のIn−Cu蒸着源群33、Ga蒸着源22とCu蒸着源23とが交互に配置されてなる行列状のGa−Cu第2蒸着源群34、In蒸着源21とGa蒸着源22とが交互に配置されてなる行列状のIn−Ga第2蒸着源群35が、搬送方向に沿って順次配置されている。
【0051】
搬送方向の最上流にIn−Ga第1蒸着源群31、最下流にIn−Ga第2蒸着源群35が配置されているので、この最上流および最下流においてGa/(In+Ga)比がほぼ同等となるように容易に制御することができる。また、最上流および最下流の間に、少なくともInを含む領域としてIn−Cu蒸着源群33が配置され、このIn−Cu蒸着源群33の領域においてはGaが含まれないため、この領域でのGa/(In+Ga)比を0とすることができる。上記の配置により、制御部15において各蒸着源の制御は非常に容易なものとなる。なお、上記配置でなくとも、制御部15により、この最上流と最下流との間にGa/(In+Ga)比が最小、かつその最小のGa/(In+Ga)比が最上流または最下流の比の半分以下となる領域が存在するように制御することが可能な配置であればよい。
なお、上下流間にGa/(In+Ga)比が最小となる領域があれば、Gaのダブルグレーデッド構造とすることができるが、成膜の膜厚方向にGaの濃度を大きく変化させるためには、本実施形態のように上下流間にGa/(In+Ga)比が0となる領域を設けることが好ましい。
【0052】
図2に示すように、各蒸着源群31〜35は、その列方向(行の並び方向)が基板搬送方向Aと垂直に交差するように配置されている。
また、蒸着源群31,32、33および35は、いずれもそれぞれ2種の蒸着源が行方向および列方向に交互に配置された4×2行列状配置されてなるものであり、蒸着源群34は、4×1行列状配置されてなるものである。
【0053】
一方、Se蒸着源25は、Se蒸気を放出する複数の開口25bを有するライン状の導管25aと、この導管25aに接続されSe蒸気を供給するSe貯留タンク25cとを備えてなる。本実施形態においては、複数のSe蒸着源25が、そのライン状の導管25aが蒸着源群31〜35の各列間に列方向に沿うように配置されている。なお、各開口25bに対応する位置に個別にSe蒸着用坩堝などのSe蒸着源を備えるようにしてもよい。
【0054】
このように、搬送方向上流側から、In−Ga第1蒸着源群31、Ga−Cu第1蒸着源群32、In−Cu蒸着源群33、Ga−Cu第2蒸着源群34、In−Ga第2蒸着源群35の順に配置し、制御部15により、搬送方向Aの最上流と最下流との間に、Ga/(In+Ga)比が最小、かつそのGa/(In+Ga)比が最上流または最下流でのGa/(In+Ga)比の半分以下となるように、各蒸着源21〜23および25からの蒸発量を制御することによって、成膜下面側から膜厚方向にGa/(In+Ga)が徐々に小さくなり、再び成膜表面側に向けて徐々に大きくなるようなプロファイルのIII族(Ga,In)の組成分布を有するダブルグレーデッド構造を有するCIGS膜を容易に形成することができる。
【0055】
また、各蒸着源群において、各元素の蒸着源が交互に配置された行列状配置とされていることにより、面内での組成均一性を高めることができる。
特に、最上流にIn蒸着源21とGa蒸着源22とを交互に配したIn−Ga第1蒸着源群31を備え、成膜初期段階でGa、SeのみではなくInを同時に蒸着させることにより結晶性の良いカルコパイライト構造が安定に作製されるため、CIGS膜の成膜用基板からの膜剥がれが生じない。CIGS膜の膜剥がれを抑制することができることから、歩留まりの向上効果を得ることができる。
【0056】
また、制御部15はGa−Cu第2蒸着源群34およびIn−Ga第2蒸着源群35を含む下流域37におけるCuの蒸発量を、In−Ga第1蒸着源群31、Ga−Cu第1蒸着源群32、In−Cu蒸着源群33を含む上流域36におけるCuの蒸発量と比較して相対的に抑制させた条件で、各元素を成膜用基板Sの一面に供給するように、各蒸着源からの蒸発量を制御するものであることが好ましく、これにより、バイレイヤー法によるCIGS膜の形成により適したものとなる。
なお蒸発量の制御は、蒸着源の温度制御により行うことができる。また、配置するCu蒸着源の数を上流域より下流域を少なくすることにより、下流域でのCu蒸発量を上流域よりも減ずるようにしてもよい。
【0057】
また、本装置は、インライン方式の成膜装置であることから、非常に効率的な成膜を実現することができる。
【0058】
以上の構成の成膜装置1において成膜用基板S上にCIGS膜を成膜する方法について説明する。
【0059】
成膜用基板Sは、基板搬送機構16により搬送可能な基板であれば、特に制限されない。太陽電池用の光電変換層としてCIGS膜を成膜する場合には、例えば、一主面上にMo膜を堆積した矩形のガラス基板を成膜用基板Sとして用いることができる。
【0060】
図1に示す成膜装置1においては、まず、基板導入室10において、収納トレイ17から成膜用基板Sが基板搬送機構16によりヒーター19a下に搬送され、ヒーター19aにより基板Sが加熱される。この加熱された基板Sは基板搬送機構16により矢印A方向に直線的に搬送される。
【0061】
蒸着室11において、基板Sはヒーター19bで加熱されると共に、基板Sの蒸着源に対向する一面に蒸着源群からCu、In、GaおよびSeが供給される。基板Sの一面には、上流域36において最上流のIn−Ga第1蒸着源群31上でIn、GaおよびSeが主に供給され、その次にGa−Cu第1蒸着源群32上でGa、CuおよびSeが主に供給され、さらにIn−Cu蒸着源群33上でIn、CuおよびSeが主に供給されることとなる。
【0062】
さらに、上記上流域36に引き続く下流域37において、まずCu−Ga第2蒸着源群34上においてCu、GaおよびSeが主に供給され、その次にIn−Ga第2蒸着源群35上においIn、GaおよびSeが主に供給されることとなる。
【0063】
制御部15は、本実施例においては、In−Ga第1蒸着源群31とのIn−Ga第2蒸着源群35におけるGa/(In+Ga)比がほぼ同等となるように制御している。また、本実施形態においては、Ga蒸着源が含まれないIn−Cu蒸着源群33が中間領域に配置されており、この領域ではGa/(In+Ga)が0となる。
さらに制御部15は、上流域36で、基板Sの一面に、Cu(In,Ga)Se2、CuxSeの各化合物が互いに相分離された状態で混合されてなる混合物(以下において、Cu(In,Ga)Se2:CuxSeと表記する。)であって、Cu含有量の多い混合物が生成されるように、各蒸着源の温度を制御し、下流域37で、Cu蒸着源23からのCu蒸発量を上流域におけるCu蒸発量よりも抑制し、基板Sに堆積するCuが微量になるようにし、上流域で先に堆積されているCuxSeをCu(In,Ga)Se2に転化させるように、各蒸着源の温度を制御する。ここで、「Cu含有量の多い」とは、目的とするCIGS膜の化学量論比と比較してCuが多いものであることを意味する。
【0064】
なお、CIGS膜においては、Seが抜けやすいため、蒸着室11の全域においてSeは所望のCIGS膜の化学量論比よりも過剰に供給されるように、Se蒸着源の温度を制御する。
【0065】
CIGS膜が成膜された成膜済基板S’は、冷却室13に搬送される。
冷却室13においては、蒸着室11を経てCIGS膜が蒸着された基板S’のCIGS膜面に、Se蒸着源25によりSeを供給させつつ、基板S’を放射冷却させる。この冷却室13においては、基板温度を350℃程度まで冷却させる。冷却中にCIGS膜面にSeを供給することにより、CIGS膜からのSeの再蒸発を防止して、Se欠陥発生を抑制することができる。
【0066】
その後、基板S’は、基板排出室14に搬送されてさらに冷却された後、成膜済基板収納トレイ18に収納される。
【0067】
本実施形態の成膜装置1においては、以上のようにして、成膜用基板上にCIGS膜を形成することができる。
【0068】
本実施形態の成膜装置1を用いて、上記成膜方法によりCIGS膜を成膜すれば、成膜装置1における蒸着源の配置構成により、膜厚方向にIII族(Ga,In)の組成分布を有するダブルグレーデッド構造を有し、かつ面内での組成均一性の高いCIGS膜を形成することができる。また、このとき、蒸着室11において、Cu含有量の多い混合物(Cu(In,Ga)Se2:CuxSe2)を生成する工程、CuxSe2をCu(In,Ga)Se2に転化する工程の2段階の工程を経ることにより、より良好な品質のCIGS膜を形成することができる。
【0069】
本成膜装置により成膜されるCIGS膜は、太陽電池等の光電変換素子の光電変換層として好適である。このようなダブルグレードデッド構造を有し、かつ面内組成均一性が高く、品質の良好なCIGS膜を備えた光電変換素子においては、高い光電変換率を達成することが可能となる。
したがって、本成膜装置は、CIGS膜を光電変換層として備える光電変換素子の製造方法に好適に用いることができる。
【0070】
なお、上記実施形態においては、蒸着室11および冷却室13において、複数の開口を有するライン状導管25aにSe貯留タンク25cからSeが供給される構成のSe蒸着源25を備えるものとしたが、基板表面に供給されるSeの一部または全部は、蒸着時の雰囲気ガスから供給されてもよい。なお、この場合には、雰囲気ガス供給手段がSe蒸着源に相当するものとなる。
【0071】
また、上記実施形態においては、Cu、In、Ga、Se蒸着源のみ備えているが、必要に応じて、Cu、In、Ga、Se以外の他の元素をさらに基体上に供給するように他の元素の蒸着源を備えていてもよい。例えば、Seの一部をSに置換してCu(In,Ga)SeS膜を成膜する構成とすることができる。
【0072】
上記実施形態においては、各蒸着源群は各蒸着源を4×2あるいは4×1の行列状配置したものとしたが、各蒸着源群において、各蒸着源により形成される行列の行数、列数は任意であり、必要に応じて設計変更可能である。幅広の基板への成膜に対応する場合には、行数をさらに増やせばよい。面内均一性を高めるためには、各蒸着源群は、蒸着源を3行以上、2列以上とした行列状配置であることが望ましい。
【0073】
蒸着源からの供給量は、蒸着源の温度制御による制御することができる。光電変換層としては、膜全体としてのInとGaとが、Ga/(In+Ga)=0.33〜0.45程度、特には、0.38前後であることが高光電変換効率を得ることができ好ましい。
【0074】
「第2の実施形態の成膜装置」
図3は、本発明の第2の実施形態に係る成膜装置の概略構成を模式的に示す図である。
本実施形態の成膜装置2は、可撓性を有する基板に対してCIGS膜を成膜するためのロール・トゥ・ロール式多元同時蒸着成膜装置であり、直線状に順に連結配置された、基板導入室10、蒸着室11、冷却室13および基板排出室14からなる4つのチャンバーと、成膜用基板Sを導入室10から排出室14に直線状に移動させる基板搬送機構50とを備えている。第1の実施形態の成膜装置1と同等の構成要素には同一符号を付して詳細な説明は省略し、第1の実施形態の装置と異なる点について主として説明する。
【0075】
本実施形態の成膜装置2は、長尺な可撓性基板Sを巻回した巻出しロール56が基板導入室10に設置されており、巻出しロール56から巻き出され、蒸着室11において化合物半導体膜が成膜された成膜済み基板S’を巻き取る巻取りロール57が基板排出室14に設置されている。
【0076】
基板導入室10、基板排出室14には、それぞれ基板Sをガイドするためのガイドロール58、59が備えられている。
【0077】
本構成の装置2においては、この巻出しロール56、巻取りロール57およびこれらを駆動する図示しない駆動手段、およびガイドロール58、59により基板搬送機構50が構成されている。
【0078】
また、本成膜装置2においては、冷却室13に、基板を冷却する冷却手段として、冷却ロール55が備えられている。冷却室13では、基板温度を350℃程度まで冷却することが望ましく、放射冷却のみで冷却する場合20−30分要するが、このように冷却手段を備えることにより、この冷却時間を短縮することが可能となり、スループットを向上させることができる。
【0079】
本実施形態においては、冷却室13において冷却ロールを1つ備えたものとしたが、冷却室内に複数の冷却ロールを備えていてもよい。
また、本実施形態の装置2においては、さらに、巻取りロール57が配置された基板排出室14に備えられているガイドロール59を、冷却ロールを兼ねるものとしてもよい。
【0080】
なお、上述の第1の実施形態のようなインライン式成膜装置1においても、冷却室13に冷却手段を備えた構成とすることもできる。しかしながら、急激な冷却により損傷が生じるような基材(例えば、ガラス基材)を成膜用基板として用いている場合には、冷却手段による冷却をするのは適さない。
【0081】
本実施形態の成膜装置2は、処理対象となる成膜用基板が可撓性を有するものであり、基板がロール・トゥ・ロールで搬送されることを除き、第1実施形態の成膜装置1と同様であり、同様の方法でCIGS膜を成膜することができる。
【0082】
本成膜装置2においては、蒸着源の配列方法は、第1実施形態のものと同様とすることができ、第1の実施形態の成膜装置1と同様の効果を得ることができる。
【0083】
また、本装置2は、可撓性基板に対して、ロール・トゥ・ロール方式でCIGS膜を成膜することができるため、非常に効率的な成膜を実現することができる。
【0084】
次に、本発明の成膜装置を用いてCIGS膜を成膜する工程を有する本発明の光電変換素子の製造方法の実施形態について説明する。
【0085】
図4は、光電変換素子の一実施形態の層構成を模式的に示す断面図である。光電変換素子40は、基板41上に、裏面電極42、光電変換層43、バッファ層44、窓層45、透明電極46をこの順に積層してなり、光電変換層43として、CIGS膜を備えている。また、裏面電極42の一部表面および透明電極46の一部表面には集電電極47、48が形成されている。
【0086】
本発明の光電変換素子40の製造方法の実施形態を説明する。
【0087】
まず、基板41の一面にスパッタ法等により裏面電極42を形成する。この一面に裏面電極42を備えた基板41を、一方向に搬送させつつ、この搬送方向に沿って配置された複数のCu蒸着源、複数のIn蒸着源、複数のGa蒸着源およびSe蒸着源から基板41の一面側に各元素の蒸気を供給して、裏面電極42上に光電変換層43を成膜する。
【0088】
光電変換層(CIGS膜)43は、上述の成膜装置1(または2)において、裏面電極42を備えた基板41を成膜用基板として、上述の方法にしたがって成膜することができる。
【0089】
その後、光電変換層43上に、CBD法(化学浴析出法)、スパッタ法等によりバッファ層44を形成し、さらに、スパッタ等により窓層45、透明電極46および集電電極47、48を順次形成することにより、光電変換素子40を製造することができる。
【0090】
以下、光電変換素子40の基板および各層について説明する。
【0091】
(基板)
基板41としては、ソーダガラス、高歪点ガラス、無アルカリガラスなどのガラス基板、金属基板、絶縁膜付き金属基板、樹脂基板(ポリイミド)などを用いることができる。
【0092】
特には、可撓性を有する絶縁膜付き金属基板が好ましく、金属基板上に陽極酸化により複数の微細孔が形成されてなる絶縁性酸化膜付き金属基板が好適である。陽極酸化被膜により高い絶縁性を有し、かつ可撓性を有する金属基板であれば、大面積での素子形成および集積化の実現が容易となる。
【0093】
金属基板として、陽極酸化により金属基板表面上に生成する金属酸化膜が絶縁体であるような材料を用いれば、表面を陽極酸化させることにより、上述の絶縁膜付き金属基板を容易に得ることができる。そのような材料としては、具体的には、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)等、並びにそれらの合金が挙げられる。コストや太陽電池に要求される特性の観点から、アルミニウムが最も好ましい。
【0094】
また、ステンレスや軟鋼にアルミニウム薄膜を圧接した構造のクラッド材を金属基板として用い、アルミニウムの表面に陽極酸化を行うことにより得られる絶縁膜付き金属基板を用いることもできる。
【0095】
(裏面電極)
裏面電極42の主成分としては特に制限されず、Mo,Cr,W,およびこれらの組合せが好ましく、Mo等が特に好ましい。裏面電極42の膜厚は制限されず、200〜1000nm程度が好ましい。
【0096】
(光電変換層)
光電変換層43の主成分は、Cu(In、Ga)Se2からなるカルコパイライト型の化合物半導体である。Seを一部Sに置換したものであってもよい。
光電変換層43の膜厚は特に制限されず、1.0〜3.0μmが好ましく、1.5〜2.5μmが特に好ましい。
【0097】
(バッファ層)
バッファ層44は、CdS、In(S,OH)、ZnS、Zn(S,O)、あるいはZn(S,O,OH)、を主成分とする層からなる。バッファ層44の膜厚は特に制限されず、10〜500nmが好ましく、15〜200nmがより好ましい。
【0098】
(窓層)
窓層45は、光を取り込む中間層である。窓層45の組成としては特に制限されず、i−ZnO等が好ましい。窓層45の膜厚は、15〜200nmが好ましい。なお、窓層は任意の層であり、窓層45のない光電変換素子としてもよい。
【0099】
(透明電極)
透明電極46は、光を取り込むと共に、裏面電極42と対になって、光電変換層43で生成された電流が流れる電極として機能する層である。透明電極46の組成は、特に制限されず、ZnO:Al等のn−ZnO等が好ましい。また、透明電極46の膜厚は特に制限されず、50nm〜2μmが好ましい。
【0100】
(集電電極)
集電電極47、48は、裏面電極42および透明電極46間に生じる電力を効率的に外部に取り出すための電極である。集電電極47、48の主成分は特に制限されず、Al等が挙げられる。その膜厚は特に制限されず、0.1〜3μmが好ましい。
【0101】
光電変換素子40は、太陽電池として好ましく使用することができる。
例えば、上記の光電変換素子1を多数集積化し、必要に応じて、カバーガラス、保護フィルム等を取り付けて、太陽電池とすることができる。
【0102】
なお、多数の光電変換素子(セル)が集積化された太陽電池においては、セル毎に取出し電極を設ける必要はない。集積化太陽電池は、例えば、可撓性の長尺基板を用いてロール・トゥ・ロール方式にて、基板上に各層を形成する工程、集積化のためのパターニング(スクライブ)プロセスを含む光電変換素子形成工程、および素子形成された基板を1モジュールに切断する工程等を経て形成される。なお、ロール・トゥ・ロール方式による製造を行う場合には、スクライブ処理や、各処理工程での基板の巻き取り工程を伴うため、導電層と光電変換層との間の剥離の問題がより顕著となるので、導電層と光電変換層との高い密着性を有する本発明の光電変換素子が非常に有効である。
【0103】
なお、本発明の製造方法で作製される光電変換素子は、太陽電池のみならずCCD等の他の用途にも適用可能である。
【実施例】
【0104】
実施例および比較例の方法でそれぞれCIGS層を成膜する工程を経て、図4に示した構成の太陽電池セルを作製し、各セルについての光電変換率を測定して比較した。
【0105】
(太陽電池セル形成)
基板41としてソーダガラス基板を用い、裏面電極42としてMoをスパッタ法により形成した。このときのMo電極42の膜厚は0.8μmとした。
Mo電極42上に光電変換層43として、後記実施例および比較例の各条件下でそれぞれCIGS膜(2μm)を成膜した。
【0106】
上記CIGS膜成膜後、化学浴析出(CBD:Chemical Bath Deposition)法によりバッファ層44としてCdS(50nm)を成膜してpn接合を形成した。
引き続き、窓層45としてZnO(10nm)を、透明電極46としてZnO:Al膜(膜厚0.3μm)をスパッタリング法により連続成膜した。
最後に、Mo電極42および透明電極46の表面に、スパッタ法にて、アルミニウムからなる集電電極47、48を形成して図4に示す太陽電池を作製した。
【0107】
(実施例)
図2に示す蒸着源配列構成を有する成膜装置により、Mo電極42上にp型半導体層としてカルコパイライト構造のCIGS膜43を成膜した。CIGS膜43成膜時には、基板温度を550℃に加熱するものとし、蒸着室11の各蒸着源の温度は、上流域36の蒸着源群31〜33においてはCu蒸着源:1360℃、Ga蒸着源:1090℃、In蒸着源:1055℃とし、下流域37の蒸着源群34、35の蒸着源の温度は、Cu蒸着源:1220℃、Ga蒸着源:1075℃、In蒸着源:1030℃とした。なお、蒸着室11および冷却室13における各Se蒸着源の温度は280℃とした。
【0108】
(比較例)
図5に示す蒸着源配置構成を有する成膜装置により、Mo電極42上にp型半導体層としてカルコパイライト構造のCIGS膜43を成膜した。他の条件は実施例と同様とした。
図5に示す蒸着源配置は、同一の蒸着源がそれぞれ1列に配置されてなるCu蒸着源列61、Ga蒸着源列62、Cu蒸着源列61、In蒸着源列63、Cu蒸着源列61、In蒸着源列63、Cu蒸着源列61、Ga蒸着源列62が搬送方向上流側からこの順に配置されてなるものである。
【0109】
<変換効率>
実施例および比較例の方法により成膜されたCIGS層を有する各太陽電池セルについて、ソーラーシミュレーターを用いて、Air Mass(AM)=1.5、100mW/cm2の擬似太陽光を用いた条件下で、エネルギー変換効率を測定した。
【0110】
比較例の太陽電池セルでは、変換効率が13%であったのに対し、実施例のものは変換効率が14.5%であり、変換効率が1.5%程度高いという結果が得られた。これは、実施例により成膜された光電変換層の面内組成均一性が比較例のものに比して良好であるためと考えられる。
【0111】
なお、比較例の方法で、8枚の成膜基板上にCIGS層を成膜したところ、成膜終了後に6枚でCIGS層の剥離が生じた。一方、実施例の方法で、8枚の成膜基板上にCIGS膜を成膜したところ、8枚すべてで剥離は生じなかった。
【0112】
<二次イオン質量分析>
実施例の方法で成膜基板上にCIGS層を成膜した試料について、膜厚方向の二次イオン質量分析を行った結果を図6に示す。なお、図6は、CIGS標準試料により定量したものである。また、定量値CIGS層内のみ有効である。
【0113】
図6に示す通り、本実施例の方法によれば、CIGS層の膜厚方向にGaの濃度が大小大と変化するダブルグレーデッド構造を形成することができた。なお、Gaの濃度は、膜厚方向中央領域のボトム濃度は上下領域のピーク濃度に対して7割程度であった。一方、Inの濃度は、膜厚方向全域に亘ってほぼ均一となった。図2に示すように、Ga−Cu第1蒸着源群32、およびGa−Cu第2蒸着源群34にはIn蒸着源を含まないが、Inは拡散速度が速いためにその濃度は膜厚方向にほぼ均一なものとなったと考えられる。他方、GaはInと比較して拡散速度が遅く、In−Cu蒸着源群33のようにGa蒸着源を含まない領域を備えることにより、ダブルグレーデッド構造となるようにGaの膜厚方向濃度分布を設けることができたと考えられる。
【符号の説明】
【0114】
1、2 成膜装置
10 基板導入室
11 蒸着室
13 冷却室
14 基板排出室
15 制御部
16、50 基板搬送機構
17 蒸着前基板収納トレイ
18 成膜済基板収納トレイ
19a〜19c 基体加熱機構
21 In蒸着源
22 Ga蒸着源
23 Cu蒸着源
25 Se蒸着源
25a ライン状導管
25b 開口
25c Se貯留タンク
31 In−Ga第1蒸着源群
32 Ga−Cu第1蒸着源群
33 In−Cu蒸着源群
34 Ga−Cu第2蒸着源群
35 In−Ga第2蒸着源群
36 上流域
37 下流域
40 光電変換素子(太陽電池セル)
41 ガラス基板
42 下部電極(裏面電極)
43 光電変換層
44 バッファ層
45 窓層
46 透明電極
47、48 集電電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu、In、Ga、Seを含む化合物半導体膜を成膜用基板の一面に成膜する成膜装置であって、
蒸着室と、該蒸着室内において、前記成膜用基板を一方向に搬送する基板搬送機構と、前記蒸着室内に配置された、前記Cu、In,Ga、Seそれぞれを蒸着させるための複数のCu蒸着源、複数のIn蒸着源、複数のGa蒸着源およびSe蒸着源と、前記各蒸着源からの各元素の蒸発量を制御する制御部とを備え、
前記成膜用基板の搬送方向に沿って最上流に、前記In蒸着源と前記Ga蒸着源とが交互に配置されてなる行列状のIn−Ga第1蒸着源群が配置されており、
前記制御部が、前記搬送方向の前記最上流と最下流との間にGa/(In+Ga)比が最小、かつ該最小のGa/(In+Ga)比が前記最上流または前記最下流でのGa/(In+Ga)比の半分以下となる領域が存在するように、前記各蒸着源からの蒸発量を制御するものであることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記複数のCu蒸着源、前記複数のIn蒸着源および前記複数のGa蒸着源が、前記成膜用基板の搬送方向に沿って上流側から順に、
前記In−Ga第1蒸着源群、
前記Cu蒸着源と前記Ga蒸着源とが交互に配置されてなる行列状のCu−Ga第1蒸着源群、
前記Cu蒸着源と前記In蒸着源とが交互に配置されてなる行列状のCu−In蒸着源群、
前記Cu蒸着源と前記Ga蒸着源とが交互に配置されてなる行列状のCu−Ga第2蒸着源群、および
前記In蒸着源と前記Ga蒸着源とが交互に配置されてなる行列状のIn−Ga第2蒸着源群を構成するようにして配置されていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記制御部が、前記最小のGa/(In+Ga)比が0となるように、前記各蒸着源からの蒸発量を制御するものであることを特徴とする請求項1または2記載の成膜装置。
【請求項4】
前記制御部が、下流域におけるCuの蒸発量を、上流域におけるCuの蒸発量と比較して相対的に抑制させた条件で、前記各元素を前記基板の一面に供給するように、前記各蒸着源からの蒸発量を制御するものであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の成膜装置。
【請求項5】
前記各蒸着源群の前記各行列状の各蒸着源の列が前記成膜用基板の前記搬送方向と略垂直に交わるように配置されていることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の成膜装置。
【請求項6】
前記Cu−Ga第2蒸着源群におけるCu蒸着源数が、前記Cu−Ga第1蒸着源群におけるCu蒸着源数よりも少ないことを特徴とする請求項2から5いずれか1項記載の成膜装置。
【請求項7】
前記Se蒸着源が、前記各蒸着源群の前記行列状の各蒸着源の列間に、該列に沿って延びるライン上に複数の開口を有するライン状蒸着源であることを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の成膜装置。
【請求項8】
前記蒸着室に、前記成膜用基板を加熱する加熱手段を備えていることを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の成膜装置。
【請求項9】
前記蒸着室の下流側に、該蒸着室と連結された、前記化合物半導体膜が成膜された前記成膜用基板を冷却する冷却室を備え、
該冷却室に、Se蒸着源を備えていることを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載の成膜装置。
【請求項10】
前記冷却室に、前記成膜用基板を冷却する冷却手段を備えていることを特徴とする請求項9記載の成膜装置。
【請求項11】
前記蒸着室の上流側に該蒸着室に連結して配置された、前記成膜用基板を収納する処理前基板収納部と、該成膜用基板を加熱する加熱手段とを備えた基板導入室と、
前記冷却室の下流側に該冷却室に連結して配置された、前記化合物半導体膜が成膜された前記成膜用基板が収納される処理済基板収納部を備えた基板排出室とをさらに備え、
前記基板導入室、前記蒸着室、前記冷却室および前記基板排出室が直線状に配置され、
前記基板搬送機構が、前記成膜用基板を前記各室に亘って前記一方向にインライン状に移動させるものであることを特徴とする請求項9または10記載の成膜装置。
【請求項12】
前記蒸着室の上流側に該蒸着室に連結して配置された、前記成膜用基板を巻き出す巻出ロールと、該成膜用基板を加熱する加熱手段とを備えた基板導入室と、
前記冷却室の下流側に該冷却室に連結して配置された、前記化合物半導体膜が成膜された前記成膜用基板を巻き取る巻取りロールを備えた基板排出室とをさらに備え、
前記基板導入室、前記蒸着室、前記冷却室および前記基板排出室が直線状に配置され、
前記移動手段が、前記巻出しロールから前記成膜用基板を巻き出させ、前記各室を経た前記成膜用基板を前記巻取りロールで巻き取らせるものであることを特徴とする請求項9または10記載の成膜装置。
【請求項13】
Cu(In,Ga)Se2化合物半導体からなる光電変換層を備えた光電変換素子の製造方法であって、
一面に裏面電極を備えた基板を一方向に搬送させつつ、該搬送方向に沿って配置された複数のCu蒸着源、複数のIn蒸着源、複数のGa蒸着源およびSe蒸着源から前記基板の一面側に前記各元素の蒸気を供給して、前記裏面電極上に前記光電変換層を成膜する蒸着成膜工程を有し、
該蒸着成膜工程において、前記基板の搬送方向の最上流において、前記In蒸着源と前記Ga蒸着源とが交互に配置されてなる行列状のIn−Ga第1蒸着源群および前記Se蒸着源を用いて、In、GaおよびSeを前記基板の一面側に供給すると共に、前記搬送方向の前記最上流と最下流との間にGa/(In+Ga)比が最小、かつ該最小のGa/(In+Ga)比が前記最上流または前記最下流でのGa/(In+Ga)比の半分以下となる領域が存在するように、前記各蒸着源からの蒸発量を制御しつつ、
前記最上流を含む上流域において、Cu(In,Ga)Se2、CuxSeの互いに相分離された化合物からなる混合物を前記裏面電極上に生成させ、
前記上流域に続く、前記最下流を含む下流域において、前記CuxSeをCu(In、Ga)Se2に転化させることにより、前記光電変換層を成膜することを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項14】
前記最小のGa/(In+Ga)比を0とすることを特徴とする請求項13記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項15】
前記下流域におけるCuの蒸発量を、前記上流域におけるCuの蒸発量と比較して相対的に抑制させた条件で、前記各元素の上記前記基板の一面に供給することを特徴とする請求項13または14記載の光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−142342(P2012−142342A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292260(P2010−292260)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】