説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】 表面に凹部を有する対象物について、空孔を生じることなく速やかに成膜することが可能な技術を提供することを目的としている。
【解決手段】 本発明の装置は、表面に凹部を有する対象物に成膜する装置である。その装置は、対象物を収容する密閉容器と、密閉容器に原料ガスを導入するガス導入口と、密閉容器内の原料ガスを液化する液化手段と、密閉容器内の対象物を加熱する加熱手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に成膜する技術に関する。特に表面に凹部を有する対象物に成膜する装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物である半導体ウェハの表面に成膜する技術が従来から知られている。この種の技術では、対象物を収容した反応室に原料ガスを導入して、対象物の表面において原料ガスに分解反応を生じさせて、対象物の表面に成膜する。このような技術が、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−332548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
対象物の表面にホールやトレンチなどの凹部が形成されている場合、膜の成長速度を上げると、凹部の隅々まで原料が行き渡る前に外側から膜が形成されてしまい、凹部に形成される膜に空孔を生じてしまう。凹部に形成される膜に空孔を生じることなく、速やかに成膜することが可能が技術が必要とされている。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決する。本発明は、表面に凹部を有する対象物について、空孔を生じることなく速やかに成膜することが可能な技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、表面に凹部を有する対象物に成膜する装置として具現化される。その成膜装置は、対象物を収容する密閉容器と、密閉容器に原料ガスを導入するガス導入口と、密閉容器内の原料ガスを液化する液化手段と、密閉容器内の対象物を加熱する加熱手段とを備えている。
【0007】
本発明の成膜装置では、密閉容器に対象物を収容して、原料ガスを導入する。その後に、密閉容器内の原料ガスを液化させると、対象物の表面に液化した原料が結露する。この際に、対象物の表面の凹部においても、凹部の内側表面に液化した原料が結露する。その後に、対象物を加熱することで対象物の表面温度が上昇し、対象物の表面に付着した原料による成膜反応が促進され、対象物の表面に膜が形成される。この成膜装置によれば、成膜速度を速めた場合であっても、対象物の表面の凹部の内側表面に液化した原料が行き渡っているので、凹部に形成される膜に空孔を生じてしまうことがない。
【0008】
上記の成膜装置では、液化手段が、密閉容器内の原料ガスを加圧する加圧装置であることが好ましい。
【0009】
加圧によって原料ガスが高圧となると、原料ガスは液化する。この成膜装置によれば、簡易な構成で、密閉容器内の原料ガスを液化することができる。
【0010】
上記の成膜装置では、液化手段が、密閉容器内の原料ガスを冷却する冷却装置であることが好ましい。
【0011】
冷却によって原料ガスが低温となると、原料ガスは液化する。この成膜装置によっても、簡易な構成で、密閉容器内の原料ガスを液化することができる。
【0012】
なお、密閉容器内の原料ガスを冷却する際には、密閉容器を冷却することで内部の原料ガスを冷却してもよいし、対象物を冷却することで表面近傍の原料ガスを冷却してもよい。いずれの場合であっても、対象物の表面に液化した原料ガスが結露し、その後に加熱手段が対象物を加熱することで、凹部に形成される膜に空孔を生じることなく成膜することができる。
【0013】
上記の成膜装置では、加熱手段が、密閉容器内の対象物にマイクロ波を照射するマイクロ波照射装置であることが好ましい。
【0014】
この成膜装置によれば、液化した原料を再び蒸発させてしまう前に、対象物の温度を上昇させて、表面に付着した原料の成膜反応を促進することができる。
【0015】
本発明は、表面に凹部を有する対象物に成膜する方法としても具現化される。その成膜方法は、密閉容器に対象物を収容する工程と、密閉容器に原料ガスを導入する工程と、密閉容器内の原料ガスを液化する工程と、密閉容器内の対象物を加熱する工程とを備えている。
【0016】
上記の成膜方法では、液化する工程において、密閉容器内の原料ガスを加圧することで原料ガスを液化することが好ましい。
【0017】
上記の成膜方法では、液化する工程において、密閉容器内の原料ガスを冷却することで原料ガスを液化することが好ましい。
【0018】
上記の成膜方法では、加熱する工程において、密閉容器内の対象物にマイクロ波を照射することで対象物を加熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、表面に凹部を有する対象物について、空孔を生じることなく速やかに成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に説明する実施例の主要な特徴を最初に整理する。
(特徴1) 密閉容器は、気密性、及び耐圧性を有している。
(特徴2) 密閉容器は、例えば石英やアルミナのように、マイクロ波を透過し、かつ断熱性の高い材料で形成されている。
(特徴3) 原料ガスはジシラン(Si2H6)ガスである。
【実施例1】
【0021】
図1に、実施例1の成膜装置100の構成を示す。成膜装置100は、半導体ウェハWの表面に成膜する装置である。半導体ウェハWの表面には複数のトレンチが形成されている。
【0022】
図1に示すように、成膜装置100は、主に、密閉容器102と、ガス導入管104と、給気ポンプ106と、排気管130と、排気ポンプ134と、マイクロ波照射装置108を備えている。
【0023】
密閉容器102は、半導体ウェハWを収容する容器であり、断熱性に優れた保温容器110と耐圧性に優れた圧力容器112を備えている。圧力容器112は、保温容器110を取り囲むように形成されている。圧力容器112と保温容器110の境界部の一部に、マイクロ波照射装置108が配置されている。
【0024】
保温容器110は、本体部114と保温蓋116によって構成されている。保温容器110は、石英で形成されている。石英は、マイクロ波を透過し、かつ断熱性に優れた特性を有している。なお、保温容器110は、石英に限られず、例えばアルミナで形成することもできる。本体部114の内部には、半導体ウェハWを収容するための収容部118が形成されている。収容部118には、半導体ウェハWを支える支持台120が形成されている。
【0025】
本体部114には、収容部118に半導体ウェハWを搬入するための導入部122が形成されている。収容部118は、導入部122を通して本体部114の外部に繋がっている。収容部118を密閉する際には、保温蓋116によって本体部114の導入部122を塞ぐ。これによって、保温容器110により断熱性が高く維持された収容部118が形成される。
【0026】
マイクロ波照射装置108は、保温容器110に向けてマイクロ波を照射する装置であり、本体部114の外周面114aに配置されている。マイクロ波照射装置108から照射されたマイクロ波は、保温容器110を透過して収容部118に収容された半導体ウェハWへと照射される。
【0027】
圧力容器112は、本体部124と密閉蓋126によって構成されている。圧力容器112は、耐圧性に優れた素材で形成されている。本体部124は、保温容器110の本体部114の外周面114aとマイクロ波照射装置108を取り囲むように形成されている。本体部124のうち、保温容器110の本体部114の導入部122が形成された部位には、開口部128が形成されている。保温容器110の収容部118を密閉する際には、保温蓋116によって本体部114の導入部122を塞いだ後に、密閉蓋126によって開口部128を塞ぐ。これによって、保温容器110内には、より断熱性が高く維持されるとともに、圧力容器112により耐圧性が高く維持された収容部118が形成される。
【0028】
ガス導入管104は、その一端が収容部118内で開口しており、他端が密閉容器102の外部のジシランガス供給源(図示せず)に連通している。給気ポンプ106はガス導入管104上に設けられている。給気ポンプ106は、ジシランガス供給源から密閉容器102の内部の収容部118へ供給されるジシランガスの圧力を調整する。ガス導入管104には、給気弁105が設けられている。
【0029】
排気管130は、その一端が収容部118内で開口しており、他端が密閉容器102の外部で開放している。排気ポンプ134は排気管130上に設けられている。排気ポンプ134は、収容部118の内部から空気や残留ガスを吸引して、密閉容器102の外部に排出する。排気管130には、排気弁132が設けられている。
【0030】
成膜装置100は、さらに温度センサ134を備えている。温度センサ134は、収容部118内のガスの温度を測定する。
【0031】
図2を参照しながら、成膜装置100による半導体ウェハWの成膜処理について説明する。
【0032】
ステップS202では、収容部118に半導体ウェハWを搬入し、支持台120に載置する。半導体ウェハWの搬入後、保温蓋116によって本体部114の導入部122を塞ぎ、密閉蓋126によって本体部124の開口部128を塞ぐ。
【0033】
ステップS204では、排気弁132を開き、排気ポンプ134を駆動して収容部118内の空気を吸引する。収容部118内が所定の真空度に到達すると、排気弁132を閉じて排気ポンプ134を停止する。
【0034】
ステップS206では、給気弁105を開いて、給気ポンプ106を駆動して収容部118内へジシランガスを導入する。ステップS206において、給気ポンプ106はジシランガスの給気圧を1気圧に調整している。
【0035】
ステップS208では、給気ポンプ106によって、ジシランガスの供給圧を4気圧程度まで高める。これによって、ステップS206で収容部118内に導入されたジシランガスが液化し、半導体ウェハWの表面に液化したジシランが結露する。半導体ウェハWの表面のトレンチの内側表面にも、液化したジシランが付着する。給気ポンプ106による収容部118内のジシランガスの加圧がなされた後、給気弁105を閉じて、給気ポンプ106を停止する。
【0036】
ステップS210では、マイクロ波照射装置108によって、収容部118内の半導体ウェハWにマイクロ波を照射する。これにより、半導体ウェハWが加熱されて、半導体ウェハWの表面温度が上昇する。半導体ウェハの表面温度が300℃程度まで上昇すると、半導体ウェハWの表面に結露したジシランの分解反応が起こり、半導体ウェハWの表面から外側に向けて成膜されていく。半導体ウェハWのトレンチにおいても、内側表面に付着したジシランの分解反応が起こり、膜が形成されていく。半導体ウェハWのトレンチの内側表面には液化したジシランが行き渡っているので、半導体ウェハWのトレンチにおいても空孔のない膜が形成される。なおステップS210においては、マイクロ波照射装置108が照射するマイクロ波の強度は、温度センサ134の検出温度に基づいて調整される。マイクロ波の照射を開始してから所定の時間が経過すると、半導体ウェハWの表面の成膜が完了したと判断して、マイクロ波照射装置108によるマイクロ波の照射を終了する。
【0037】
ステップS212では、排気弁132を開き、排気ポンプ134を駆動して、収容部118内の残留ガスを吸引する。
【0038】
ステップS214では、密閉蓋126と保温蓋116を開いて、収容部118から半導体ウェハWを搬出する。
【0039】
本実施例の成膜装置100では、収容部118に導入したジシランガスを給気ポンプ106による加圧によって液化する。これによって、半導体ウェハWの表面に液化したジシランが結露する。半導体ウェハWのトレンチの内側表面にも、液化したジシランが付着する。その後に、半導体ウェハWを加熱することによって、表面に付着したジシランが分解反応を起こして、半導体ウェハWの表面から外側に向けて成膜される。半導体ウェハWのトレンチの内側表面にも液化したジシランが行き渡っているので、半導体ウェハWのトレンチにおいても空孔のない膜を形成することができる。
【実施例2】
【0040】
図3に、第2実施例の成膜装置300の構成を示す模式図を示す。成膜装置300の構成は実施例1の成膜装置100の構成と大部分で同様である。以下では実施例1の成膜装置100と同様の構成要素については同一の参照符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0041】
成膜装置300の収容部118には、実施例1の支持台120の代わりに、半導体ウェハWを支持する冷却台320が形成されている。冷却台320はペルティエ素子を用いた冷却機構を有しており、上部に載置された半導体ウェハWを冷却することができる。
【0042】
本実施例の成膜装置300による半導体ウェハWの成膜処理では、図2のステップS208で収容部118内のジシランガスを液化する際に、給気ポンプ106でジシランガスを加圧する代わりに、冷却台320によって半導体ウェハWを冷却する。これによって、半導体ウェハWの表面近傍のジシランガスの温度が低下し、半導体ウェハWの表面に液化したジシランガスが結露する。その後のステップS210において半導体ウェハWにマイクロ波を照射すると、半導体ウェハWの表面温度が上昇し、表面に結露したジシランの分解反応が促進されて、半導体ウェハWの表面への成膜がなされる。本実施例においても、半導体ウェハWのトレンチの内側表面に液化したジシランが行き渡っているので、トレンチに形成される膜に空孔を生じることがない。
【0043】
なおステップS208で収容部118内のジシランガスを液化する際に、給気ポンプ106による収容部118内のジシランガスの加圧と、冷却台320による半導体ウェハWの冷却(すなわち半導体ウェハWの表面近傍のジシランガスの冷却)を同時に行う構成としてもよい。このような構成とした場合、単に給気ポンプ106によって加圧する場合に比べて、低い圧力でジシランガスを液化することができる。また、このような構成とした場合、単に冷却台320によって冷却する場合に比べて、高い温度でジシランガスを液化することができる。
【0044】
なお上記した各実施例では、マイクロ波照射装置108を用いて半導体ウェハWにマイクロ波を照射して、半導体ウェハWを加熱する場合について説明した。これ以外にも、例えばフラッシュランプを用いて半導体ウェハWを加熱する構成としてもよい。
【0045】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は実施例1の成膜装置100の構成を模式的に示す図である。
【図2】図2は実施例1の成膜装置100の動作を説明するフローチャートである。
【図3】図3は実施例2の成膜装置300の構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0047】
100 成膜装置
102 密閉容器
104 ガス導入管
105 給気弁
106 給気ポンプ
108 マイクロ波照射装置
110 保温容器
112 圧力容器
114 本体部
114a 外周面
116 保温蓋
118 収容部
120 支持台
122 導入部
124 本体部
126 密閉蓋
128 開口部
130 排気管
132 排気弁
134 温度センサ
134 排気ポンプ
300 成膜装置
320 冷却台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹部を有する対象物に成膜する装置であって、
対象物を収容する密閉容器と、
密閉容器内に原料ガスを導入するガス導入口と、
密閉容器内の原料ガスを液化する液化手段と、
密閉容器内の対象物を加熱する加熱手段と
を備える成膜装置。
【請求項2】
前記液化手段が、密閉容器内の原料ガスを加圧する加圧装置である請求項1の成膜装置。
【請求項3】
前記液化手段が、密閉容器内の原料ガスを冷却する冷却装置である請求項1または2の成膜装置。
【請求項4】
前記加熱手段が、密閉容器内の対象物にマイクロ波を照射するマイクロ波照射装置である請求項1から3の何れか一項の成膜装置。
【請求項5】
表面に凹部を有する対象物に成膜する方法であって、
密閉容器に対象物を収容する工程と、
密閉容器内に原料ガスを導入する工程と、
密閉容器内の原料ガスを液化する工程と、
密閉容器内の対象物を加熱する工程と
を備える成膜方法。
【請求項6】
前記液化する工程において、密閉容器内の原料ガスを加圧することで原料ガスを液化する請求項5の成膜方法。
【請求項7】
前記液化する工程において、密閉容器内の原料ガスを冷却することで原料ガスを液化する請求項5または6の成膜方法。
【請求項8】
前記加熱する工程において、密閉容器内の対象物にマイクロ波を照射することで対象物を加熱する請求項5から7の何れか一項の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−147279(P2010−147279A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323572(P2008−323572)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】