説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】基板表面に形成された高アスペクト比の微細構造内の側面及び底面に、金属層を形成する際のカバレッジに優れた成膜装置及び成膜方法の提供。
【解決手段】微細構造が形成された基板表面4に、スパッタリングによって金属層を形成する成膜装置1であって、基板4と金属層の母材をなすターゲット5とを対向させて、両方を収納する内部空間を有するチャンバー2と、チャンバー2内を減圧する排気手段と、チャンバー2内にスパッタガスを導入するガス導入手段と、ターゲット5のスパッタ面5a前方に磁場を発生させる第一磁場発生手段6と、ターゲット5に負の直流電圧を印加する直流電源7と、ターゲット5から基板4へ向かう方向に磁場Bを発生させる第二磁場発生手段10と、が少なくとも備えられたことを特徴とする成膜装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細構造が形成された基板表面に、スパッタリングによって、金属層を形成する成膜装置及び成膜方法に関する。より詳しくは、本発明は、微細構造が形成された基板表面へ向かう磁場を発生させつつ、スパッタリングによって、該微細構造内の側面及び底面に、金属層を形成する成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を構成するシリコン基板等に形成された、微細孔(ビア)、微細溝(トレンチ)、スルーホール等の微細構造の側面及び底面に、金属層を形成する場合、CVDやスパッタリング等の成膜方法が用いられている(特許文献1参照)。
近年の半導体装置における配線パターン等の微細化に伴い、深さと幅の比(アスペクト比)が5を超えるような高アスペクト比の微細構造内の側面及び底面に被覆性よく成膜できること、即ち、カバレッジの向上が強く要求されている。
CVDで成膜する場合、カバレッジには優れるが、コストが高くなるという問題がある。一方、より低コストなスパッタリングで成膜する場合、カバレッジに劣る問題がある。特に高アスペクト比の微細構造においては、カバレッジの低下が問題となっている。このため、カバレッジに優れるスパッタリングによる成膜方法の開発が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−1505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、基板表面に形成された高アスペクト比の微細構造内の側面及び底面に、金属層を形成する際のカバレッジに優れた成膜装置及び成膜方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に記載の成膜装置は、微細構造が形成された基板表面に、スパッタリングによって金属層を形成する成膜装置であって、前記基板と前記金属層の母材をなすターゲットとを対向させて、両方を収納する内部空間を有するチャンバーと、前記チャンバー内を減圧する排気手段と、前記チャンバー内にスパッタガスを導入するガス導入手段と、前記ターゲットのスパッタ面前方に磁場を発生させる第一磁場発生手段と、前記ターゲットに負の直流電圧を印加する直流電源と、前記ターゲットから前記基板へ向かう方向に磁場を発生させる第二磁場発生手段と、が少なくとも備えられたことを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の成膜装置は、請求項1において、前記第二磁場発生手段は、前記チャンバーの側壁において、前記ターゲットと前記基板との中点よりも、該ターゲット側に設置されていることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の成膜装置は、請求項1又は2において、前記基板に高周波電力を印加する高周波電源を備えたことを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の成膜方法は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の成膜装置を用いて、前記第二磁場発生手段によって、30〜600Gauss(ガウス)の磁場を発生させつつ、前記ターゲットをスパッタリングすることによって、前記基板の表面に形成された微細構造内の側面及び底面に、前記金属層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の成膜装置及び成膜方法によれば、前記第二磁場発生手段で発生された、前記ターゲットから前記基板へ向かう方向の磁場(磁力線)によって、スパッタ粒子が前記基板へ方向付けることができる。この結果、前記基板表面に形成された高アスペクト比の微細構造内の深部の側面及び底面まで、前記スパッタ粒子が到達させることができ、カバレッジの良い金属層を形成することができる。さらに、前記第二磁場発生手段が、前記成膜装置のチャンバーの側面において、前記ターゲットと前記基板との中点よりも、該ターゲット側に設置されていることにより、磁場強度の傾斜が発生し、スパッタ粒子は更に基板側に拡散されやすくなり、高アスペクト比の微細構造の深部の側面及び底面までスパッタ粒子が到達しやすくなるため、カバレッジが一層優れた金属層を形成できる。
本発明の成膜装置が前記基板に高周波電力を印加する高周波電源を備えた場合、バイアススパッタを行うことができる。バイアススパッタによって、スパッタ粒子及び不活性ガスの荷電粒子を、前記基板へ仕向けることができる。この結果、前記磁場によるスパッタ粒子の方向付けを更に加速することができる。さらには、高周波電力の印加によるセルフバイアスによって前記微細構造内の底面に形成された膜を再スパッタすることによって、前記微細構造内の側面及び底面コーナー部に形成された金属層のカバレッジを一層良好にすることができる。
本発明の成膜方法において、前記基板表面に形成された微細構造が、アスペクト比5以上の微細孔又は微細溝である場合であっても、カバレッジに優れた金属層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】(a)本発明にかかる成膜装置の一例を示す概略断面図、(b)(a)の成膜装置を備えた成膜装置システムの一例を示す概略平面図。
【図2】本発明の成膜装置を用いて形成した金属層を示す模式断面図。
【図3】本発明にかかる成膜装置の別の一例を示す概略断面図。
【図4】本発明の成膜装置を用いて形成した金属層を示すSEM画像であり、(a)は、アスペクト比5の微細孔の側面部のカバレッジ17.4%を示し、(b)は、該微細孔の底面のカバレッジ17.1%を示す。
【図5】比較例の成膜装置を用いて形成した金属層を示すSEM画像であり、(a)は、アスペクト比5の微細孔の側面部のカバレッジ3.7%を示し、(b)は、該微細孔の底面のカバレッジ3.5%を示す。
【図6】本発明の成膜装置における第二磁場発生手段の磁場強度と、形成された金属層のカバレッジの関係の一例を示すグラフ。
【図7】比較例の成膜装置を用いて形成した金属層を示す模式断面図。
【図8】本発明の成膜装置における第二磁場発生手段の磁場強度と、形成された金属層のカバレッジの関係の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施形態について図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲に置いて種々の変更が可能である。
【0009】
図1(a)は、本発明にかかる成膜装置1の一例(第一実施形態)を示す概略断面図である。第一実施形態の成膜装置1は所謂マグネトロンスパッタ装置であり、減圧可能な処理室であるチャンバー2を備える。チャンバー2の形状は特に制限されず、例えば略円筒状が挙げられる。チャンバー2の天井部には、ターゲット載置部を有するカソード3が配置されている。該ターゲット載置部には、処理すべき基板4の表面に形成しようとする金属層の組成に応じて適宜選択された材料からなるターゲット5が取付けられている。ターゲット5のスパッタ面5a前方にトンネル状の磁場を発生する第一磁場発生手段6がカソード3の上部に配置されている。
【0010】
チャンバー2は、内部を減圧するための排気手段として、ターボ分子ポンプやロータリーポンプ等の排気ポンプ(不図示)を有し、所望の真空度に調整される。また、チャンバー2は、内部にスパッタガスを導入するガス導入手段として、マスフローコントロラーで制御されたガス源に連通するガス管(不図示)が接続されており、所望のスパッタガスを導入することができる。該スパッタガスとしては、例えばArガス等の不活性ガスやNガス等のプロセスガスが挙げられる。
【0011】
ターゲット5の形状は特に制限されず、処理すべき基板4の形状に対応させて、スパッタ面5aの面積が基板4の表面積より大きくなるように所望の形状(例えば円盤状)とすることができる。
ターゲット5の材料、即ち基板4の表面に形成される金属層の材料としては、目的に応じた材料を選択すればよく、例えばTi,Cu,W,Ni,Ta,Cr,Mo,Al、及びこれらの金属の合金が挙げられる。
ターゲット5及びカソード3はDC電源7に接続されており、所定の負電位が印加される。
【0012】
第一磁場発生手段6は、スパッタ面5aと背向する側(上側)に配置され、ターゲット5に平行に配置されたヨーク6aと、ヨーク6aの下面にターゲット5側の極性を交互に変えて配置した磁石6b、6cとから構成されている。なお、磁石6b、6cの形状や個数は、放電の安定性やターゲット5の使用効率の向上等の観点からターゲット5の前方に形成しようとする磁場に応じて適宜選択され、例えば薄片状や棒状のものまたはこれらを適宜組み合わせて用いるようにしてもよく、また、第一磁場発生手段6がターゲット5の背面側で往復運動や回転運動するように構成してもよい。
【0013】
チャンバ2の底部には、ターゲット5に対向させてステージ8が配置され、基板4を位置決め保持できるようになっている。また、基板4に高周波電力を印加する高周波電源9(RF電源)がステージ8に接続されている。
【0014】
チャンバー2の側壁2aには、チャンバー2の周りを囲むように、第二磁場発生手段10が配置されている。第二磁場発生手段10としては、ターゲット5から基板4へ向かう方向の磁力線xを有する磁場Bを発生できるものであれば特に限定されず、例えばソレノイドコイルが挙げられる。該ソレノイドコイルの個数、導線の径や巻数は、例えばターゲット5の寸法、ターゲット5と基板4との間の距離、ソレノイドコイルに接続された電源装置の電流値や発生させようとする磁場の強度に応じて適宜設定される。
【0015】
図1(a)におけるチャンバー2内の点線は、第二磁場発生手段10によって発生された磁力線xの大よその形状を示す。この点線で表される磁力線xの向きは、上下のどちらがN極又はS極であってもよいが、図1(a)では、上側がN極で、下側がS極である場合を示す。ベクトルBは、複数の磁力線xによって形成される磁場Bの向きを示す。第二磁場発生手段は、ターゲット5及び基板4を結ぶ中心線に対して線対称となるように配置されているため、形成される磁場Bは、該中心線に対して線対称となる。そのため、磁場Bは、ターゲット5から基板4へ向かうベクトルBで表すことができる。
【0016】
図1(a)における第二磁場発生手段10は、チャンバー2の側壁2aにおいて、ターゲット5と基板4との中点Vよりもターゲット5側に設置されている。この配置にすることによって、ターゲットから基板方向に対して磁場強度の傾きが発生し、この傾きによって、スパッタ粒子が更に拡散されやすくなる。これにより基板4の表面の微細構造内の側面及び底面に形成される金属層のカバレッジを良好にすることができる。このメカニズムについては必ずしも明らかでないが、チャンバー2における磁力線の極大点Gが基板4から所定の距離以上に離れていることが重要であると推測される。
【0017】
したがって、第二磁場発生手段10の配置としては、第二磁場発生手段10の中心(第二磁場発生手段が発生する磁力線xの極大点G)が、ターゲット5と基板4との中点Vよりもターゲット5側にあることが好ましく、ターゲット5と基板4とを三等分する点(三等分点)のうち、ターゲット5側の三等分点よりもターゲット5側にあることがより好ましい。
【0018】
一方、第二磁場発生手段10の中心(磁力線yの極大点G)が該中点V上にある例として、図3に示す成膜装置100(本発明の第二実施形態)が挙げられる{図1(a)に示す成膜装置1と同じ構成には同じ符号を付してある}。この成膜装置100の第二磁場発生手段10によって発生される磁場Bにおける磁力線yの大よその形状を点線で表してある。この磁力線yの極大点Gは、ターゲット5と基板4との中点に位置しているため、本発明の第一実施形態の成膜装置1よりも、成膜性(微細構造内の側面及び底面に形成される金属層のカバレッジ)に劣る。つまり、本発明の第一実施形態の成膜装置1の方が、成膜性に優れる。
【0019】
この理由として、本発明の第一実施形態の成膜装置1では、前述のように、前記極大点Gが前記中点Vよりもターゲット5側に設置されており、スパッタ粒子の拡散が促進されるような磁場強度の傾きが発生しているためであると考えられる。このため、基板表面に形成された微細構造の底面にスパッタ粒子がより到達し易くなり、カバレッジが一層向上すると考えられる。
したがって、第一実施形態の成膜装置1における第二磁場発生手段10の配置の方が、第二実施形態の成膜装置100における第二磁場発生手段10の配置よりも好ましい。
【0020】
図1(b)は、成膜装置システム30の模式平面図を示す。成膜装置システム30は、基板4(ウエハー)の搬送室T、ロード・アンロード室(L/UL室)、エッチング室(E2室)、第一スパッタ室(S3室)、及び第二スパッタ室(S4室)を備えている。S3室及びS4室には、上記成膜装置1がそれぞれ設置されている。
【0021】
L/UL室、E2室、S3室、及びS4室は隔壁Wによって、搬送室Tとは区切られており、内部を真空雰囲気にすることができる。これにより、例えばE2室からS3室へ基板を搬送する際に、該基板を大気に曝すことなく行える。
【0022】
隔壁W内に備えられたハンドラH0は、基板を保持したまま回動し、E2室、S3室、S4室、L/UL室の間で、基板を搬送する。また、搬送室Tにおける移載機は、ハンドラH1と、基板(ウエハー)のカセットC1,C2とを有している。ハンドラH1は、基板を保持したまま移動し、カセットにセットされた基板をL/UL室に搬入し、スパッタ処理された基板をL/UL室から搬出してカセットに戻す。
【0023】
次に、上記成膜装置1を備えた成膜装置システム30を用いた成膜方法について説明する。図2に示す基板4は、表面にアスペクト比5(深さ/幅の比)の微細孔11が形成されている。この基板4を移載機カセットC1にセットして、ハンドラH1によってL/UL室に搬入する。つづいて、ハンドラH0によってE2室に搬入し、基板表面の酸化層をエッチングにて除去する。その後、ハンドラH0によってS3室における成膜装置1のステージ8に載置して位置決めする。ステージ8は駆動部Mによって昇降可能に駆動され、基板4を載置後、チャンバー2内に基板4を設置する。
【0024】
チャンバー2の排気手段を作動させて、所定の真空度(例えば、10−5Pa台)まで真空引きする。第二磁場発生手段10であるソレノイドコイルを作動させて、ターゲット5から基板4へ向かう磁場Bを発生させる。チャンバー2内にアルゴンガスなど(スパッタガス)を所定の流量で導入しつつ、DC電源7よりターゲット5に所定の負電位を印加(電力投入)してチャンバー2内にプラズマ雰囲気を形成する。さらに、第一磁場発生手段6からの磁場でスパッタ面5a前方で電離した電子及びスパッタリングによって生じた二次電子が捕捉され、スパッタ面5a前方におけるプラズマが発生する。
【0025】
さらに、第二磁場発生手段10で磁場Bを発生させると、スパッタ面5a前方におけるプラズマを高密度とすることができ、イオン化効率を高められる。このプラズマ中のアルゴンイオンが、スパッタ面5aに衝突してスパッタ面5aがスパッタリングされ、スパッタ面5aから基板4に向かって、Ti製のターゲット5からTi原子やTiイオンが飛散する。アルゴンイオン、Tiイオン、及びTi原子からなるスパッタ粒子は、第二磁場発生手段10による磁場Bのターゲット5から基板4へ向かう磁力線に沿って飛行し、基板4方向に誘導される。すなわち、該磁力線によって、スパッタ粒子の、微細孔11の深さ方向に向けた直進性が高められる。その結果、基板4の表面4a、並びに微細孔11内の深部の側面11a及び底面11bに到達して、カバレッジの優れたTiからなる金属層12を形成することができる。ここで、前記磁力線は基板4の表面に対して適度な傾きを有するため、スパッタ粒子は、更に直進性が高くなるので底面11bのカバレッジをよくすることができる。
【0026】
このスパッタリングの際、高周波電源9によって基板4に高周波(RF)電力を印加してバイアススパッタとすることが好ましい。Tiからなる金属層12にArが吸蔵されることを防いで金属層の性質を良好にすることができると共に、再スパッタ効果(金属層を形成したスパッタ粒子が、金属層から一時的に叩き出されて、再度金属層を形成すること)によって、微細孔11内の側面11a及び底面11bのカバレッジを向上させることができる。
【0027】
本明細書における「カバレッジ」とは、(微細孔11内の側面11a又は底面11bに形成された金属層の厚さ/基板表面4aに形成された金属層12の厚さ)×100%として定義される。
以下では、(微細孔11内の側面11aに形成された金属層の厚さ/基板表面4aに形成された金属層12の厚さ)×100%を、サイドカバレッジと呼ぶことがある。サイドカバレッジの中でも、特に、(微細孔11内の側面11aにおける底面近傍(コーナー部)に形成された金属層の厚さ/基板表面4aに形成された金属層12の厚さ)×100%を、コーナー部のカバレッジと呼ぶことがある。
また、(微細孔11内の底面11bに形成された金属層の厚さ/基板表面4aに形成された金属層12の厚さ)×100%を、ボトムカバレッジと呼ぶことがある。
【0028】
第二磁場発生手段による磁場Bの強度(Gauss:ガウス)としては、30〜600ガウスが好ましく、150〜550ガウスがより好ましく、350〜500ガウスがさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、カバレッジを良好にすることができる。また、上記範囲の上限値以上であると、磁場によって供給された荷電粒子による基板のチャージアップが起こり、異常放電や基板温度の上昇を引き起こす恐れがある。
【0029】
磁場Bの強度とカバレッジとの上記関係が生じる原因は、次のように考えられる。
一般に荷電粒子(電子、イオン化されたスパッタ粒子)は、磁場B(磁力線)に沿って回転運動を行うが、小さく軽い電子は弱い磁場(数ガウス程度)にて、すぐに磁化される。しかし、電子に比べて大きく重いスパッタ粒子は数十ガウス程度にて磁化される。このことから、カバレッジを向上させるためにはイオン化されたスパッタ粒子が磁化される程度の磁場が必要になると考えられる。
【0030】
例えばアルミニウム(Al)や、その合金(例えばAl−Si系)等の比較的軽いスパッタ粒子は、数十ガウス程度で磁化による効果が得られると考えられる。従って、軽いスパッタ粒子を使用する場合は、第二磁場発生手段による磁場Bの強度は、30〜300ガウス程度が好ましく、60〜200ガウスがより好ましく、80〜150ガウスがさらに好ましい。
【0031】
一方、例えばチタン(Ti)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、タリウム(Ta)、タングステン(W)等の比較的重いスパッタ粒子は、数百ガウス程度で磁化による効果が得られると考えられる。従って、重いスパッタ粒子を使用する場合は、第二磁場発生手段による磁場Bの強度は、150〜600ガウス程度が好ましく、250〜550ガウスがより好ましく、350〜500ガウスがさらに好ましい。
【0032】
なお、「磁化」は、荷電粒子がその他の粒子と衝突する間に1回転以上磁場に沿って回転している状態として定義される。
[参考文献]
書籍名:東北大学基礎電子工学入門講座・第4巻 気体放電
著者:八田吉典
発行者:金山豊作
発行所:株式会社 近代科学社
3.14.2項 プラズマに対する外部磁界の影響
【0033】
S3室でTiからなる金属層12を形成した後、ステージ8を下げてチャンバー2から離脱させ、ハンドラH0によってS4室における成膜装置1のステージ8に載置して位置決めする。S4室の成膜装置1におけるターゲット5は銅製である。前述のS3室の成膜装置1におけるTiからなる金属層12の上に、銅からなる金属層14を積層して形成することができる(図2)。この銅からなる金属層14は、前述のTiからなる金属層12の場合と同様の成膜方法で形成できる。
【0034】
このようにして形成された金属層12及び14(図2)のカバレッジは、第二磁場発生装置を備えていない成膜装置(比較例)を使用して形成した金属層13(図7)のカバレッジよりも明らかに優れる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
本発明の成膜装置1を備えた前述の成膜装置システム30を使用して、深さ100μm幅20μm(アスペクト比5)の微細孔11が表面に形成されたシリコン基板4を用いた場合の成膜方法の具体例を以下に示す。
【0036】
搬送室Tの移載機によって、シリコン基板4をL/UL室に搬送し、E2室において基板表面の酸化層をアルゴンガスでエッチングして除去した。その後、シリコン基板4をS3室に移して、成膜装置1のステージ8に載置し、チャンバー2内にセットした。このとき、Ti製のターゲット5とシリコン基板4との距離は100mm〜200mmとした。
【0037】
チャンバー2の圧力をアルゴンガスを用いて0.1〜0.5Pa程度に設定し、カソード3に接続されたDC電源7の投入Powerを1.0〜8.0kW程度に設定し、第二磁場発生手段であるコイルの導線に20〜60A程度の電流を流して、微細孔11の深さ方向に磁場を発生させた。さらに、高周波電源9によってシリコン基板4に100〜500W程度印加してセルフバイアスを発生させた。
【0038】
このようにして、シリコン基板4の表面、並びに、微細孔11内の側面11a及び底面11bに、Tiからなる金属層12を形成した。第二磁場発生手段による磁場を600ガウスとしたときに形成された金属層12の断面のSEM画像を図4に示し、第二磁場発生手段による磁場を0ガウスとしたときに形成された金属層12の断面のSEM画像を図5に示す。また、第二磁場発生手段による磁場を0〜600ガウスで変化させた時の、カバレッジ{側面11a(コーナー部)のカバレッジ、及び底面11b(ボトム部)のカバレッジ}の変化を図6に示す。
【0039】
以上の結果から、微細孔11の深さ方向に磁場を印加することによって、スパッタ粒子の直進性を高めて、微細孔11内部への着膜量及びカバレッジを向上できることが明らかである。さらに、シリコン基板4にバイアス電圧を印加することによって、微細孔11の側面11a及び底面11bに形成された金属層12を再スパッタして、微細孔11の底面11bの周縁部(最も金属層が形成され難いと一般にいわれているコーナー部)の着膜量及びカバレッジを向上できることが明らかである。また、磁場によって、スパッタ粒子のイオン化率が高くなり、基板側に印加された電界による再スパッタの効率が高くなっていることがわかる。
図6から、第二磁場発生手段による磁場強度を150ガウス以上とすると、コーナー部のカバレッジ及びボトムカバレッジが共に、急激に向上し、500〜600ガウスでカバレッジの向上が頭打ちになることが明らかである。
【0040】
(実施例2)
ターゲット5をAl製に変更し、第二磁場発生手段による磁場を0〜105ガウスで変化させた以外は、実施例1と同様に行って、シリコン基板4の表面、並びに、微細孔11内の側面11a及び底面11bに、Alからなる金属層12を形成した。
この場合における、カバレッジ{側面11a(コーナー部)のカバレッジ、及び底面11b(ボトム部)のカバレッジ}の変化を図7に示す。
【0041】
図8から、第二磁場発生手段による磁場強度を30ガウス以上とすると、カバレッジが急激に向上することが明らかである。特に、コーナー部のカバレッジ向上が顕著である。
【符号の説明】
【0042】
1…成膜装置、2…チャンバー、2a…側壁、3…カソード、4…基板、4a…基板表面、5…ターゲット、5a…スパッタ面、6…第一磁場発生手段、6a…ヨーク、6b…磁石、6c…磁石、7…DC電源、8…ステージ、M…駆動部、x…磁力線、y…磁力線、G…磁力線の極大点、9…高周波電源、10…第二磁場発生手段(ソレノイドコイル)、11…微細孔、11a…微細孔の側面、11b…微細孔の底面、12…金属層(Ti層)、13…金属層、14…金属層(Cu層)、30…成膜装置システム、T…搬送室、L/UL…ロード/アンロード室、E2…エッチング室、S3…第一スパッタ室、S4…第二スパッタ室、H0…ハンドラ、H1…ハンドラ、W…隔壁、C1…移載機カセット、C2…移載機カセット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細構造が形成された基板表面に、スパッタリングによって金属層を形成する成膜装置であって、
前記基板と前記金属層の母材をなすターゲットとを対向させて、両方を収納する内部空間を有するチャンバーと、
前記チャンバー内を減圧する排気手段と、
前記チャンバー内にスパッタガスを導入するガス導入手段と、
前記ターゲットのスパッタ面前方に磁場を発生させる第一磁場発生手段と、
前記ターゲットに負の直流電圧を印加する直流電源と、
前記ターゲットから前記基板へ向かう方向に磁場を発生させる第二磁場発生手段と、
が少なくとも備えられたことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記第二磁場発生手段は、前記チャンバーの側壁において、前記ターゲットと前記基板との中点よりも、該ターゲット側に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記基板に高周波電力を印加する高周波電源を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の成膜装置を用いて、
前記第二磁場発生手段によって、30〜600Gauss(ガウス)の磁場を発生させつつ、前記ターゲットをスパッタリングすることによって、
前記基板の表面に形成された微細構造内の側面及び底面に、前記金属層を形成することを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−1761(P2012−1761A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137465(P2010−137465)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】