説明

成膜装置用構成部品およびその洗浄方法

構成部品に形成された付着膜dを従来よりもさらに短時間で剥離し、洗浄液Sによるダメージを軽減することが可能な構造を有する成膜装置用構成部品及びこの構成部品の洗浄方法。上記構成部品の母材金属1よりも電気化学的に卑な金属膜層2を溶射、蒸着、スパッタリング、ラミネート等の方法により、母材金属1の表面に形成し、あるいは上記母材金属1よりも電気化学的に貴な第2金属膜層3を上記溶射等の方法により、金属膜層2の表面に形成することにより、金属膜層2が母材金属1もしくは第2金属膜層3との間で局部電池が形成され、母材金属1自体は洗浄液Sによるダメージを受けずに、極めて短時間で母材金属1に堆積した付着膜dを剥離することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、基板上に成膜材料を用いて各種薄膜を形成する成膜装置の構成部品及びこの構成部品の洗浄方法に関する。
【背景技術】
LSI(大規模集積回路)、太陽電池、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどに使用されている半導体部品は、その製造工程において、成膜材料を蒸着、スパッタリング、CVD、その他の方法によって、基板上に薄膜形成させる成膜装置を利用している。
上記成膜材料は、薄膜形成時に成膜装置内の基板マスクなどの防着板やウェハの支持枠などの構成部品の表面にも付着膜を形成する。
上記付着膜は、成膜装置内で基板を交換し成膜処理を繰り返すことによって厚く堆積し、ある時点でその堆積膜が破壊したり、発塵などの原因となり、成膜途上の基板に塵埃が付着して目的とする膜の特性を害するおそれがあり、製造される半導体製品の歩留まりを低下させる。
そこで、特開平3−87357号公報で開示されているように、上記構成部品の表面を切削加工、エンボス加工などの機械的加工処理やブラスト処理などを施して、付着膜が厚く形成されても破壊・剥離脱落しにくい構造にする工夫がなされてきた。
成膜装置に上記処理された構成部品を利用すれば、薄膜形成時には付着膜が破壊・剥離脱落し難いという点では好ましい。
しかし、付着膜を除去して構成部品を再生利用する場合には、そもそも付着膜が破壊・剥離脱落しにくい構造となっているため、機械的な除去方法では困難が伴う。
また、付着膜を洗浄液で溶解する化学的な除去方法では、付着膜が堆積した上記構成部品を洗浄液に2日程度浸漬する必要があり、洗浄液の種類及び付着膜の種類によって付着膜よりも構成部品の方がより多く溶解するという不都合があった。
そこで、従来、特開平11−124661号公報で開示されているように、構成部品自体の溶解を抑えて付着膜を除去するために、上記構成部品の母材金属(例えば、アルミニウムもしくはアルミニウム合金)の表面に、この母材金属と比較して無機酸の洗浄液に溶解し易い金属(例えば、銅もしくは銅合金)からなる下層易溶性金属膜を形成し、さらにその上に多孔性金属膜を形成した構成部品が提供されていた。
この構成部品に付着膜が堆積した場合、洗浄液は構成部品の端部ならびに堆積膜の表面欠陥部から上記多孔性金属膜を経由して下層易溶性金属膜に到達し、この下層易溶性金属膜をいちはやく溶解し、従来よりも短時間で構成部品から付着膜を剥離させることができる。
しかしながら、上記従来の構成部品では、洗浄液が上記多孔性金属膜を経由して下層易溶性金属膜を溶解し、構成部品から付着膜を剥離するまでの所要時間は5〜15時間であり、従来よりは洗浄液に浸漬する時間が短縮できたとはいえ、依然として構成部品を洗浄液に長時間浸漬しなければならず、母材金属に少なからずダメージを与えるおそれがあった。
さらに、母材金属がダメージを受けるのは、上記下層易溶性金属膜の材料の選択の仕方も原因になっていた。
すなわち、上記下層易溶性金属膜の材料としては、母材金属と比べて、無機酸の洗浄液に溶解しやすい金属、例えば銅もしくは銅合金などが選択されていたが、母材金属がアルミニウムもしくはアルミニウム合金の場合、自然電位による測定データではそのアルミニウムもしくはアルミニウム合金よりも銅もしくは銅合金の方が貴な金属であるために、その電位差により長時間洗浄液に浸漬すると、母材金属であるアルミニウムもしくはアルミニウム合金と下層易溶性金属膜である銅もしくは銅合金との間で局部電池が形成され、母材金属の溶解がすすむおそれがあった。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、上記構成部品に形成された付着膜を従来よりもさらに短時間で剥離し、洗浄液による母材金属へのダメージを軽減することが可能な構造を有する成膜装置用構成部品及びこの構成部品の洗浄方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
上記問題点を解決するため、本発明にかかる成膜装置用構成部品は、基板上に薄膜を形成する成膜装置の構成部品において、上記構成部品の母材金属よりも電気化学的に卑な金属膜層を溶射、蒸着、スパッタリング、ラミネート等の方法により、母材金属の表面に形成したことを特徴とする。
この構成によれば、上記処理をした構成部品を洗浄液に浸漬した場合、母材金属と上記金属膜層との自然電位の電位差により、両者間で局部電池が形成され、局部電流が母材金属から金属膜層に流れる。
一方、洗浄液中では、金属膜層が優先的に溶解して金属イオンとなって洗浄液中に滞留する。
一般に、二つの金属間で局部電池が形成される場合、両者の自然電位の電位差が大きい卑な金属ほど溶解速度は加速する。
従って、上記金属膜層の材料の選択は、母材金属や付着膜との上記電位差を考慮して適宜選択すればよい。
なお、上記母材金属よりも電気化学的に貴な第2金属膜層を溶射、蒸着、スパッタリング、ラミネート等の方法により、上記金属膜層の表面に形成することによって、下層の金属膜層では、第2金属膜層との間でも局部電池が形成されるため、母材金属側との界面及び第2金属膜層との界面の双方から溶解が進む。
このとき、第2金属膜層と下層の金属膜層との間の電位差が、母材金属と下層の金属膜層との間の電位差よりも大きくなるため、第2金属膜層との界面付近でより激しく溶解が進むことになる。
ところで、付着膜によっては、母材金属よりも電位が高い場合(例えば、付着膜がモリブデンであり、母材金属がアルミニウムもしくはアルミニウム合金である場合)があり、また、上記第2金属膜層を設けた場合には、母材金属よりも第2金属膜層のほうが電位が高いため、これらの場合には母材金属が卑な金属となり、付着膜若しくは第2金属膜層の電位より、母材金属の電位が低くなるために、母材金属が洗浄液によって溶解されるおそれがある。
そこで、このような場合には、母材金属に正の電界を印加し、母材金属が付着膜もしくは第2金属膜層よりも貴な金属として振舞うように不動態化させることによって溶解を阻止するようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明にかかる構成部品を部分拡大した断面図であり、(a)は金属膜層を母材金属の表面に形成させて洗浄液に浸漬した場合の断面図、(b)は金属膜層の表面に第2金属膜層を形成させて洗浄液に浸漬した場合の断面図、(c)は母材金属に正の電界を印加して付着膜を除去する洗浄方法を説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
図1(a)は、母材金属1の表面に金属膜層2を形成させた成膜装置用構成部品の拡大断面図である。母材金属1によって構成される構成部品としては、例えば成膜装置内の基板マスクなどの防着板やウェハの支持枠などがある。
成膜装置内で成膜材料によって基板上に薄膜を形成させると、基板以外の上記構成部品にも付着膜dが付着する。
この付着膜dは、上記成膜装置内で基板を交換して成膜処理を繰り返すことによって厚く堆積し、ある時点でその付着膜dが破壊したり、発塵などの原因となり、成膜途上の基板に塵埃が付着して目的とする膜の特性を害するおそれがある。
この付着膜dを取り除くためには、母材金属1を洗浄液Sに浸漬して除去すればよいが、付着膜dに洗浄液Sが浸透して剥離するまでには相当の時間(2日程度)母材金属1を洗浄液Sに浸漬しなければならず、洗浄液Sによって母材金属1もダメージをうけるおそれがある。
さらに、母材金属1の表面に下層易溶性金属膜を形成し、さらにこの下層易溶性金属膜の表面に多孔性金属膜を形成することによって、洗浄液Sへの浸漬時間を短縮することが考えられるが、この場合でも、母材金属1から付着膜を剥離するまでの所要時間は5〜15時間であり、依然として構成部品を洗浄液Sに長時間浸漬しなければならず、母材金属1に少なからずダメージを与えるおそれがあった。
また、上記下層易溶性金属膜の材料としては、母材金属1と比べて、洗浄液Sに溶解しやすい金属、例えば銅合金などが選択される。母材金属1がアルミニウム合金の場合、表1で示すとおり、自然電位による測定データではアルミニウム合金(硫酸1mol/l液中でJIS A5052は、−0.70)よりも銅合金(硫酸1mol/l液中で−0.06)の方が貴な金属であるために、長時間洗浄液に浸漬すると、その電位差によりアルミニウム合金と銅合金との間で局部電池が形成され、母材金属1が酸化して溶解がすすむおそれがあった。
なお、貴な金属とは、表1で基準とする金属よりも上に位置する金属をいい、卑な金属とは、表1で基準とする金属よりも下に位置する金属をいう。従って、ある金属が、貴な金属か、卑な金属かは、基準とする金属によって相対的に決まるものである。
本発明は、母材金属1よりも卑な金属を含む金属膜層2を溶射、蒸着、スパッタリング、ラミネート等の方法により、母材金属1の表面に形成することにより、洗浄液Sに浸漬した場合に、母材金属1と金属膜層2との間で局部電池を形成させ、金属膜層2の溶解を促進し、短時間(およそ45分)で金属膜層2とともに付着膜dを母材金属1から剥離させることができるようなった。
すなわち、母材金属1と金属膜層2との間の電位差により、両者間で局部電池が形成され、局部電流が母材金属1から金属膜層2に流れる。
一方、洗浄液S中では、金属膜層2が優先的に溶解して金属イオンとなって洗浄液S中に滞留する。
例えば、金属膜層2にAl−5%In(自然電位は、硫酸1mol/l液中で−1.17)を使用し、母材金属1がAl合金(JIS A5052の自然電位は、硫酸1mol/l液中で−0.70)である場合、そのうえに99.99%AL(4N−Al)(自然電位は、硫酸1mol/l液中で−0.86)の付着膜dが堆積すると、硫酸液中では、母材金属1と金属膜層2との間で局部電池が形成され、金属膜層2はイオン化されて硫酸液中に溶解する。
なお、金属膜層2は、洗浄液S中における自然電位E(Vvs.SCE)に基づいて母材金属1と局部電池を構成しやすい金属、合金を適宜選択して形成すればよい。
図1(b)を参照して、3は、母材金属1よりも貴な金属を含む第2金属膜層3を溶射、蒸着、スパッタリング、ラミネート等の方法により、上記金属膜層2の表面に形成したものである。
この場合、洗浄液S中では、金属膜層2は、母材金属1との間で局部電池が形成されるほか、第2金属膜層3との間でも局部電池が形成されるため、母材金属1側との界面及び第2金属膜層3との界面の双方から溶解が進むので、図1(a)の金属膜層2だけの場合に比べ、より早く付着膜dの剥離が可能になる。
例えば、金属膜層2にAl−5%In、第2金属膜層3にAl合金(JIS A2017の自然電位は、硫酸1mol/l液中で−0.56)を使用し、母材金属1がAl合金(JIS A5052)である場合、そのうえに99.99%Al(4N−Al)の付着膜dが堆積すると、硫酸液中では、母材金属1と金属膜層2との間、及び第2金属膜層3と金属膜層2との間でそれぞれ局部電池が形成され、金属膜層2はイオン化されて硫酸液中に溶解する。
なお、このとき金属膜層2が溶解して母材金属1から付着膜dが剥離されるまでの所要時間はおよそ15分であった。
図1(c)を参照して、4は母材金属1をアノードとして機能させるために、正の電界を印加する電源であり、電源4の負極側はカソード5に接続されている。
付着膜dの種類によっては、母材金属1よりも電位が高い場合があり、また、第2金属膜層3を設けた場合は、母材金属1よりも第2金属膜層3のほうが電位が高いため、これらの場合には母材金属1が卑な金属となり、母材金属1が洗浄液Sに溶解するおそれがある。
そこで、このような場合には、母材金属1に電源4によって正の電界を印加し、母材金属1が付着膜dもしくは第2金属膜層3よりも貴な金属として振舞うように不動態化させることによって溶解を阻止するようにすればよい。
以上の説明から明らかなように、本発明は、構成部品の母材金属の表面に、母材金属と局部電池を形成する上記金属膜層を設け、あるいは、金属膜層の表面に、金属膜層と局部電池を形成する上記第2金属膜層を設けることにより、母材金属自体は洗浄液によりダメージを受けずに、極めて短時間で母材金属に堆積した付着膜を剥離することが可能となり、構成部品の再生利用を促進するとともに、部品寿命の延長に貢献する。
【産業上の利用可能性】
以上のように、本発明にかかる成膜用構成部品およびその洗浄方法は、成膜装置用構成部品に形成された付着膜を従来よりも短時間で剥離し、洗浄液による母材金属へのダメージを軽減させ、また、本発明にかかる構成部品および洗浄方法が、構成部品の寿命の延長につながり、成膜装置のランニングコストの低減ならびに省資源に貢献するので、基板マスクなどの防着板やウェハの支持枠など、成膜材料から蒸着、スパッタリング、CVD、その他の方法によって基板上に薄膜を形成する成膜装置の構成部品および洗浄方法に用いるのに適している。
【表1】

【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に薄膜を形成する成膜装置の構成部品において、上記構成部品の母材金属よりも電気化学的に卑な金属膜層を溶射、蒸着、スパッタリング、ラミネート等の方法により、母材金属の表面に形成したことを特徴とする成膜装置用構成部品。
【請求項2】
上記母材金属よりも電気化学的に貴な第2金属膜層を溶射、蒸着、スパッタリング、ラミネート等の方法により、上記金属膜層の表面に形成したことを特徴とする請求項1記載の成膜装置用構成部品。
【請求項3】
成膜装置によって薄膜を形成したときに、請求項1若しくは請求項2記載の構成部品に堆積した成膜材料からなる付着膜を除去するために、この構成部品を洗浄液に浸漬することを特徴とする成膜用構成部品の洗浄方法。
【請求項4】
洗浄液に浸漬した上記構成部品の母材金属に正の電界を印加することを特徴とする請求項3記載の成膜装置用構成部品の洗浄方法。

【国際公開番号】WO2004/074545
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502737(P2005−502737)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001799
【国際出願日】平成16年2月18日(2004.2.18)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】