説明

抗アレルギー剤および抗炎症剤

【課題】安全性が高く容易に製造することができ、医薬品や機能性食品、化粧品、浴用品、医薬部外品に配合可能な新しい抗アレルギー剤、抗炎症剤の提供。
【解決手段】5−ヒドロキシメチルフルフラールが、β-ヘキソサミニダーゼ阻害活性、好塩基球細胞脱顆粒阻害活性および肥満細胞脱顆粒阻害活性を有し、抗アレルギー作用、抗炎症作用を有するため、5−ヒドロキシメチルフルフラールを有効成分として含有する抗アレルギー剤、抗炎症剤、好塩基球脱顆粒阻害剤、肥満細胞脱顆粒阻害剤、β−ヘキソサミニダーゼ放出阻害剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトあるいは動物用の機能性食品、医薬品、化粧品、浴用品、医薬部外品として利用できる抗アレルギー剤、抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体には本来、外部からの異質なものを排除し恒常性を保つための免疫機能が備わっている。ところが、この免疫機能が体を障害するように働く場合があり、この過度の免疫機能による障害反応の一種を特にアレルギーと呼ぶ。
【0003】
アレルギーは微生物、植物、動物、薬物、化学物質、食物等に由来する原因物質に対して免疫担当細胞が過剰反応し、活性化した好塩基球、肥満細胞、Tリンパ球、Bリンパ球などから放出される生理活性物質により体内の組織が障害されるものである。
【0004】
アレルギーは反応してから発症するまでの時間により、数分〜数十分の比較的短時間で障害反応が現れる即時型アレルギーと、数時間後から障害反応が見られその後数日にわたってゆっくり進行する遅延型アレルギーに分けられる。
【0005】
血液中に存在する好塩基球や、血管周辺や結合組織に存在する肥満細胞は、ヒスタミン等を含む顆粒を持ち、これらの細胞が脱顆粒することによってヒスタミンと共にβ-ヘキソサミニダーゼ等の酵素を遊離し、喘息、アトピー性湿疹、花粉症などの即時的アレルギー反応を誘起することが知られている。また、これら脱顆粒により放出される物質は炎症を起こす物質としてもよく知られている。
【0006】
このように、肥満細胞や好塩基球は即時型アレルギーへの関与が強く、これら細胞の脱顆粒を阻害することによってアレルギーを軽減することができるものと考えられている。したがって、効果的な好塩基球細胞脱顆粒阻害剤あるいは肥満細胞脱顆粒阻害剤を開発して、有用な抗アレルギー剤を提供することが望まれている。
【0007】
抗アレルギー剤として、これまでに、即時型アレルギーであるI型アレルギーには肥満細胞からの脱顆粒やケミカルメディエーター遊離を抑制する薬剤や、ヒスタミンとH1受容体の結合を抑制する薬剤、脂質型ケミカルメディエーターであるトロンボキサンA2を抑制する薬剤、ロイコトリエンを抑制する薬剤などが開発されているが、その長期投与と副作用から十分満足できるものはない。特に抗アレルギー剤は、治療ばかりではなくその用途として予防目的で長期に使用されることも多く、その安全性は特に重要である。
【0008】
本発明での抗アレルギー剤とは予防あるいは改善剤の両方を意味する。
【0009】
5−ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF)は一般的にフルクトースが加熱されて生成する化合物として知られている。また、フルクトースが含まれる組成物だけでなく、フルクトースが最終的に生成する組成物であれば5-HMFが生成し、例えば、グルコースは異性化されてフルクトースとなり、またグルコースとフルクトースの2炭糖であるスクロース(ショ糖)やデンプンも5-HMFの供給源となる。すなわち、グルコースやフルクトース分子を含む食品あるいは天然物や成分を加熱あるいは調理した場合、5-HMFが生成する。これまで、5-HMFは糖の劣化物として見られる場合が多かった。5-HMFの効果効能に関する報告は少ないが、5-HMFおよびその誘導体の血流改善効果に関する報告(特許文献1)、抗菌剤(特許文献2)、喫煙癖や飲酒癖の離脱剤として利用する報告(特許文献3)、5-HMFを含む食品(特許文献4)などがある。さらに、米国では鎌形赤血球病の治療薬として認可されている。
【0010】
しかし5-HMFの抗アレルギー作用や抗炎症作用に関する報告は見当たらず、機能性食品としての利用もない。また、5-HMFの好塩基球細胞脱顆粒阻害活性あるいは肥満細胞脱顆粒阻害活性、β-ヘキソサミニダーゼ遊離阻害活性が存在するという報告もこれまでにない。
【0011】
5-HMFは、植物または植物抽出物を適当な条件で保存もしくは加熱することによっても生成する。これまで、梅干を処理することで5-HMFとクエン酸が結合したムメフラールと名づけられた誘導体が生成することが報告されている(特許文献5)。また、クコの抗アレルギー作用について報告されているが(特許文献6)、クコが5-HMFを含有することや5-HMFの抗アレルギー作用や抗炎症作用、およびβ-ヘキソサミニダーゼ放出阻害に関する記述は全くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第2979305号
【特許文献2】特開2005-82528号公報
【特許文献3】特表2005-528419号公報
【特許文献4】特開2008-193933号公報
【特許文献5】特開2004-194628号公報
【特許文献6】WO2005/092357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、安全性が高く容易に製造することができ、医薬品や機能性食品、化粧品、浴用品、医薬部外品に配合可能な新しい抗アレルギー剤、抗炎症剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、5-HMFが、β-ヘキソサミニダーゼ阻害活性、好塩基球細胞脱顆粒阻害活性および肥満細胞脱顆粒阻害活性を有し、抗アレルギー作用、抗炎症作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の特徴は以下のとおりである。
[1]5−ヒドロキシメチルフルフラールを有効成分として含有する抗アレルギー作用を有する組成物。
[2]好塩基球細胞および/または肥満細胞の脱顆粒を阻害することを特徴とする、[1]に記載の組成物。
[3]好塩基球細胞の脱顆粒を阻害することを特徴とする、[2]に記載の組成物。
[4]肥満細胞の脱顆粒を阻害することを特徴とする、[2]に記載の組成物。
[5]β-ヘキソサミニダーゼの放出を阻害することを特徴とする、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の組成物。
[6]植物全草あるいは植物抽出物を含有することを特徴とする、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の組成物。
[7] [1]〜[6]に記載の組成物を含有することを特徴とする、医薬品。
[8]アレルギーの治療及び予防に用いる、[7]に記載の医薬品。
[9]炎症の治療及び予防に用いる、[7]に記載の医薬品。
[10] [1]〜[6]に記載の組成物を配合することを特徴とする機能性食品。
[11] [1]〜[6]に記載の組成物を配合することを特徴とする化粧品、浴用品、または、医薬部外品。
[12] [1]〜[6]に記載の組成物を配合することを特徴とする飼料。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、副作用が少ない、抗アレルギー剤或いは抗アレルギー機能性食品を得ることができる。これらは、アレルギーによる体の不快感をなくし、アレルギーの治療並びに予防に有効であり、また、化粧品、浴用品、医薬部外品としても用いることができる
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例3に係る、LC-EAW低分子画分のβ-hexosaminidase遊離阻害活性の図である。
【図2】本発明の実施例3に係る、5-HMFのβ-hexosaminidase遊離阻害活性の図である。
【図3】本発明の実施例4に係る、5-HMFのβ-hexosaminidase遊離アッセイ時における毒性評価の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の抗アレルギー剤、抗炎症剤は、5-HMFを有効成分とするものであり、それを含有する抽出液または抽出物でもよいし、それに公知の担体や助剤、飲食物材料、薬剤学的に許容される他の製剤素材などを添加した組成物でもよい。5-HMFを含む抽出液または抽出物としては、植物あるいは動物、微生物等の天然物、あるいは加工食品でもよい。その配合量に関しては特に規定するものではないが、これらの製品における本発明の抽出物の濃度は、所望の効果を奏する範囲内で適宜選択することができる。
【0019】
また、例えば、天然物である植物からの抽出物は、植物体の各種部分(全草、花、葉など)をそのまま或いは粉砕後、抽出溶媒で抽出したものでもよい。
【0020】
抽出溶媒としては、水単独、または、水を主体としそれにアルコール類(例えばエタノール、メタノールの低級アルコール、あるいはプロピレンアルコールなどの多価アルコール)などの極性有機溶媒を、単独であるいは2種以上の液を任意に組み合わせて使用することが出来る。
【0021】
また、各々の溶媒抽出物を組み合わせても使用できる。水との混合比に特に制限はない。水を主体として抽出した場合、有機溶媒を主体として抽出する場合と比べ、溶媒としての極性が異なるため抽出される成分も異なる。用いる抽出溶媒の量としては、植物に対して下限値は一般的に0.1重量、好ましくは0.5重量、より好ましくは2重量であり、上限値は一般的に100重量、好ましくは50重量、より好ましくは10重量である。
【0022】
また、製造方法は特に限定されるものではないが、通常、常温・常圧下で抽出溶媒を用いて行えばよく、この場合、抽出時間は特に制限されないが、1時間〜14日が好ましい。抽出後は濃縮乾固或いは油脂等により溶液状、ペースト状、ゲル状、粉状としてもよい。場合によっては30〜120℃の条件下で抽出することや、オートクレーブ、二酸化炭素等による超臨界条件での抽出も可能であり、抽出時間は適宜設定すれば良い。必要であれば、さらに活性炭カラムやイオン交換樹脂等により、任意の操作で精製することもできる。
【0023】
本発明の一つの実施態様としては、クコ属植物を熱水で抽出した抽出物を使用することができる。抽出に使用する熱水の量は、クコ属植物に含まれる活性成分を十分に溶解しうる量であることが好ましい。
【0024】
本発明でいうアレルギーとは、アレルギー疾患全般を指し特に限定しないが、好ましくは即時型アレルギーを指し、喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎などがあげられる。さらに抗アレルギー剤は、治療ばかりではなくその用途として予防目的で長期に使用されることも多く、その安全性は特に重要である。本発明での抗アレルギー剤とは予防あるいは改善剤の両方を意味する。
【0025】
本発明の5-HMFはβ-ヘキソサミニダーゼ放出阻害活性を持つことから、好塩基球あるいは肥満細胞からの脱顆粒阻害作用を有するため、β-ヘキソサミニダーゼ放出阻害剤、好塩基球細胞脱顆粒阻害剤あるいは肥満細胞脱顆粒阻害剤として使用することができ、さらに抗アレルギー剤あるいは抗炎症剤として有用である。すなわち、β-ヘキソサミニダーゼは、好塩基球あるいは肥満細胞から脱顆粒に伴い遊離する物質の一つである。したがってβ-ヘキソサミニダーゼ放出アッセイにより、細胞からの脱顆粒によって遊離したβ-ヘキソサミニダーゼを測定することで、抗アレルギー作用および抗炎症作用を評価することが可能である。
【0026】
本発明において好塩基球細胞脱顆粒阻害活性あるいは肥満細胞脱顆粒阻害活性は、脱顆粒により遊離したβ-ヘキソサミニダーゼ活性により測定する。β-ヘキソサミニダーゼ活性は、後述の実施例3に示したKU812のような好塩基球細胞を用いマウス抗DNP-IgE抗体で細胞を感作した後、抗原であるDNP-BSAを使い放出されたβ-ヘキソサミニダーゼ活性を測定する。また、β-ヘキソサミニダーゼ活性測定に肥満細胞を使用してもよい。
【0027】
細胞毒性測定法については、特に方法は限定されないが例えばMTT[3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide]アッセイを用いて評価することができる。MTT アッセイは、細胞内のコハク酸脱水素酵素によって生じたMTTホルマザン量が生存細胞数と比例することを利用した方法であり、MTTをRBL2H3細胞などの培養細胞に添加し、MTTホルマザン量を吸光度測定することにより細胞毒性を評価することができる。
【0028】
本発明の抗アレルギー剤、抗炎症剤は、5-HMFを有効成分とするものであり、それを含む抽出液または抽出物でもよいし、公知の担体や助剤、飲食物材料、薬剤学的に許容される他の製剤素材などを添加した組成物でもよい。その配合量に関しては特に規定するものではないが、これらの製品における本発明の抽出物の濃度は、所望の効果を奏する範囲内で適宜選択することができる。
【0029】
本発明の抗アレルギー剤、抗炎症剤の投与方法としては経口、経腸または他の非経口的投与方法のいずれをも選ぶことができる。具体的な製剤形態としては特に限定されず、投与目的や投与経路等に応じて、たとえば錠剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤、又は坐剤、軟膏剤、注射剤、局所投与のクリーム若しくは点眼薬などの非経口剤をあげることができる。配合量に関しては特に規定するものではないが、所望の効果を奏する範囲内で適宜選択することができる。
【0030】
本発明による製剤の担体としては経口、経腸、その他非経口的に投与するために適した有機または無機の固体または液体の任意成分を含有することができる。任意成分としては、一般に製剤に使用される結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤等の添加物を含有させることができる。結合剤の好適な例としてはデンプン、トレハロース、デキストリン、アラビアゴム末などが挙げられる。賦形剤の好適な例としては、しょ糖、乳糖、ブドウ糖、コーンスターチ、マンニト−ル、結晶セルロース、ゼラチン、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、植物性および動物性脂肪ならびに油、ペクチンなどが挙げられる。滑沢剤の好適な例としてはステアリン酸、タルク、ロウ、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。崩壊剤の好適な例としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチなどが挙げられる。安定剤の好適な例としては油脂、プロピレングリコールなどが挙げられる。乳化剤の好適な例としては、アニオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。緩衝剤の好適な例としてはリン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液が挙げられる。
【0031】
本発明の抗アレルギー剤、抗炎症剤を医薬部外品として製剤化して用いる場合は、必要に応じて他の添加剤などを添加して、例えば、軟膏、リニメント剤、エアゾール剤、クリーム、石鹸、洗顔料、全身洗浄料、化粧水、ローション、入浴剤などに使用することができ、局所的に用いることができる。
【0032】
本発明の抗アレルギー剤、抗炎症剤は、製剤中に0.001〜100重量%含ませることができる。含有量は、好ましくは0.01〜100重量%、より好ましくは0.1〜90重量%である。
【0033】
これら製剤の投与量としては、当該抽出物換算で成人一人一日当たり、好ましくは0.001〜100mg/kg体重、より好ましくは0.01〜20mg/kg体重を1回ないし数回に分けて投与する。
【0034】
また本発明の抗アレルギー剤、抗炎症剤はその他の医薬を含むことができる。この場合、5-HMFは必ずしもその製剤中の主成分でなくてもよい。
【0035】
さらに本発明の抗アレルギー剤または抗炎症剤は機能性食品、化粧品または浴用剤へ含有でき、その含有量としては特に規定するものではないが、通常0.0001重量%以上、好ましくは0.01〜100重量%が良い。本発明の5-HMFを化粧品に含有させ、抗アレルギー剤あるいは抗炎症剤として用いる場合は0.01〜10重量%にすることができる。
【0036】
本発明の抗アレルギー剤または抗炎症剤は、飲食品に含ませることによってその飲食品をアレルギーまたは炎症の予防及び/又は改善を目的とした機能性食品にすることができる。本特許でいう機能性食品とは、アレルギーまたは炎症を抑制して体調を整えたり、生活の質を向上させることを特徴とする。対象となる飲食品の種類は、抽出物の抗アレルギー作用、抗炎症作用が阻害されないものであれば特に限定されない。例えば、ジュース、清涼飲料水、茶などの飲料、パンやもちなどの加工食品、あめなどの菓子類、カップラーメンなどのインスタント食品、バター、サラダ油などの油脂類、ドレッシング、マヨネーズ、ソース、醤油やみりんなどの調味料、ふりかけ、みそなどの広範な飲食品に含ませることができる。また、サプリメントとして、錠剤やカプセル等の摂取しやすい形態として利用することもできる。機能性食品として、他の栄養成分を加えることはさらに有用であり、例えばビタミン、ミネラル、タンパク質、炭水化物、脂質、食物繊維などが挙げられる。また、機能性食品として有効な成分、たとえば乳酸菌や不飽和脂肪酸、ポリフェノールなど、疾患の予防や改善に役立つ素材を加えることもできる。
【実施例】
【0037】
以下に製造例および実施例、処方例を記載して、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例によって、本発明の範囲は限定的に解釈されるものではない。
【実施例1】
【0038】
クコ抽出物の分画
クコの実30gを蒸留水300mlにて105℃で15分間抽出した。この熱水抽出物を酢酸エチル200mlと蒸留水200mlを用いて分配し、さらに水層をブタノール1Lで分配して、酢酸エチル可溶部(LC-EA, 4.4g)、ブタノール可溶部(LC-BuOH, 1.0g)および水可溶部(LC-W, 9.2g)を得た。さらに、酢酸エチル可溶部4.0gをクロロホルムと蒸留水を割合1:1で計1Lにて分離し、クロロホルム層(LC-EACHCl3、17.5mg)、不溶層(LC-EAIN、403.7mg)及び水層(LC-EAW、2.41g)を得た。各分配画分について1H NMR及び13C NMRスペクトルの測定を行った結果、水層に芳香族化合物由来シグナルが観測された。さらに水層(1910 mg)をSephadex LH20(φ2.2×120cm)カラムを用い、メタノール/水(1:1)の溶離液にて順に7つのフラクションに分離し、LC-EAW-1(32.3 mg, 0-100 ml)、LC-EAW-2(327 mg, 101-150 ml)、LC-EAW-3(992 mg, 151-200 ml)、LC-EAW-4(166 mg, 201-250 ml)、LC-EAW-5(6.3 mg, 251-300 ml)、LC-EAW-6(2.3 mg, 301-350 ml)、LC-EAW-7(4.5 mg, 351-450 ml)を得た。
【実施例2】
【0039】
抗アレルギー成分の構造決定
実施例1で得たLC-EAW-5、LC-EAW-6及びLC-EAW-7フラクションを1H NMRスペクトルを測定した結果、6-8ppmに芳香族化合物を示唆するシグナルが観測された。代表としてLC-EAW-5を、さらに同じ溶媒条件下でAVANCE 600 NMR Spectrometer (Bruker)による13C NMR及びEI-MSスペクトル測定して、この芳香族化合物の同定を進めた。LC-EAW-5の1H NMRスペクトルにおいて、δH9.60(s)にアルデヒドプロトンδH7.40(d、J=3.6 Hz)とδH6.70(d、J=3.6 Hz)にフラン環由来のメチレンプロトン、δH4.64(m)にオキシメチレンプロトンのシグナルが確認された。一方、13C-NMRスペクトルにおいて、δc110.6とδc159.6およびδc122.4とδc153において、フラン環の存在が推定された。これらのスペクトルデータについてAldrich Library of 13C and 1H FT-NMR Spectra (Volume I, 297-300)で検索したところ、5-hydroxymethy furfural (5-HMF)のそれと良い一致が認められた。
【0040】
そこでHPLCを用いて、LC-EAW-5と市販標準品5-HMFの保持時間を比較したところ、LC-EAW5において11.3分、市販標準品5-HMFにおいても11.3分という同じリテンションタイムにおけるピークが検出された。さらにLC-EAW-5と5-HMFのco-injectionを行った結果、保持時間の一致が確認された。HPLC条件は、カラム:ODS-120A,φ7.8 ×300mm(TOSOH)、流速:1.0 ml/min、溶離液:50%MeOH、50%H2O、検出:222,254,280 nmである。
【0041】
また、LC-EAW-5のEI-MSスペクトルより、m/z 126(M+)に分子イオンピークが観測され、HREIMS[m/z 126, 0326 (M+), Δ+1.0mmu]より、LC-EAW-5の化学構造式はC6H6O3であることが明らかになった。以上の結果よりLC-EAW-5は5-HMFであると同定した。
【実施例3】
【0042】
β-ヘキソサミニダーゼ遊離アッセイ
10% FBS、MEM 9.4g/L、2 mM L-グルタミン、10% NaHCO3(pH 7.0〜7.4)で調製した培地にラット好塩基球白血病細胞(RBL-2H3)細胞(JCRB Cell Bank, Japan)を播種し、5%CO2下、37℃で培養した。次に、培養したRBL-2H3をフラスコから剥がし、上記培地と同じ培地を用い細胞濃度5×105 cells/mlになるよう調製し、1mg/mlマウス抗DNP-IgE抗体(Sigma、Japan)を最終的に 0.3 μg/mlになるように加えた。よく混合した後、96穴プレートに100 μl/wellずつ播き、5%CO2下、37℃ 炭酸ガスインキュベーター内にて一晩インキュベートし、細胞を感作させた。翌日、細胞を200 μlのPBSで2回洗浄後、β-ヘキソサミニダーゼ放出バッファー(116.9 mM NaCl, 5.4 mM KCl, 0.8 mM MgSO4・7H2O, 5.6 mM グルコース, 25 mM HEPES, 2.0 mM CaCl2, 1.0 mg/ml BSAからなる溶液を、10%NaHCO3でpH 7.7に調整し、フィルター滅菌したもの)60 μlと実施例1で作成したクコ抽出物の低分子画分(LC-EAW-5、LC-EAW-6、または、LC-EAW-7)(終濃度 1 μg/ml、10 μg/ml、100 μg/ml)または、5-HMF(ナカライテスク社)(終濃度0.1 μg/ml、0.3 μg/ml、0.5 μg/ml、1.0 μg/ml、5.0 μg/ml)あるいはコントロール(PBS)を5 μl加え、5%CO2下、37℃ 炭酸ガスインキュベーター内にて10分間インキュベートした。次に、4 μg/ml DNP-BSA(Cosmo Biotechnology Co. Japan)を5 μl加え、5%CO2下、37℃ 炭酸ガスインキュベーター内にて1時間インキュベートした後、上清20 μl に基質溶液(85.5 mgのp-nitrophenyl-N-acetyl β-D-glucosamideを50 mlの50 mM クエン酸バッファー(pH 4.5;クエン酸でpH調製)に加え溶解したもの)80 μlを加え、37 ℃で30分間インキュベートした。その後、反応停止液(100 mM炭酸バッファー;Na2CO3 1.06 g/ 100ml, NaHCO3 0.84 g/100 ml) 100 μlを加えた後、マイクロプレートリーダーにて405 nmの吸光度(A405)を測定した。このとき、β-ヘキソサミニダーゼ遊離阻害率を次の式で算出した。
【0043】
阻害率 ( % ) = [ 1 − ( S − B ) / ( C − b ) ] × 100
S:サンプルを細胞に加えた時のA405
B:細胞非存在下でサンプルを加えた時のA405
C:コントロール(PBSを細胞に加えた時)のA405
b:細胞非存在下でPBSを加えた時のA405
結果を図1に示した。図中の「Keto」は、Ketotifen fumarate (Sigma Aldrich Co., USA)を示す。クコ抽出物の低分子画分それぞれがβ-ヘキソサミニダーゼの遊離を有意に阻害した。
【0044】
また、本発明の5-HMFは抗アレルギー作用の指標である好塩基球からのβ-ヘキソサミニダーゼの遊離を有意に阻害した(図2)。図中の「Keto」は、Ketotifen fumarate (Sigma Aldrich Co., USA)を示す。
【実施例4】
【0045】
細胞毒性評価アッセイ(MTTアッセイ)
MTT アッセイはコハク酸脱水素酵素によってMTTホルマザンに還元されるMTT[3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide]試薬を培地に添加し、そのホルマザン量と生存細胞数は比例することを利用して、吸光度を基に5-HMFのβ-ヘキソサミニダーゼ遊離アッセイ時における毒性を評価した。
【0046】
RBL2H3細胞を5.0×105 cells/mlに調製し、96穴プレートに100 mlずつ播種して24時間おき細胞をプレートに接着させた。翌日、培地を除いた後、5-HMF(ナカライテスク社)(終濃度0.3 μg/ml、0.5 μg/ml、1.0 μg/ml、5.0 μg/ml、10.0 μg/ml、培地で希釈)を100 mlずつ添加し、37℃、5%CO2濃度のインキュベーターに24時間サンプル処理行った。さらにMTT試薬(Dojin Laboratories, Kumamo, Japan)(5 mg/ml PBS)を10 mlずつ添加し、24時間遮光して培養した後、10%SDS溶液を100 ml 添加し、一晩CO2インキュベーターに放置し、MTTホルマザンを完全に溶解させた。それをマイクロプレートリーダーにて波長570 nmの吸光度を測定し、MTTホルマザン産生量を測定し、5-HMF処理における細胞の生存率を求めた。ヒト好塩基球様白血病細胞株KU812細胞(Riken Cell Bank)の場合は、1.0×106 cells/mlに調製した細胞液を96穴プレートに50 ml ずつ播種し、24時間培養後に、細胞溶液に対し5-HMF(終濃度0.01 μg/ml、0.1 μg/ml、0.3 μg/ml、1.0 μg/ml、10.0 μg/ml、培地で希釈)を50 mlずつ添加して同様な手順で570 nmの吸光度を測定した。コントロール(PBS)処理時の吸光度を100%とし、それに対する5-HMF処理時の吸光度のパーセンテージを求め細胞生存率とした。
【0047】
結果を図3に示した。当アッセイ条件において、5-HMFはヒトおよびラットの細胞に対して毒性を示さなかった。
【実施例5】
【0048】
5-HMF含有錠剤の製造
5-HMF 1重量部
乳糖 35重量部
結晶セルロース 59重量部
ショ糖脂肪酸エステル 5重量部
上記組成で混合、打錠して、5-HMFを含有する機能性食品用錠剤を製造した。
【実施例6】
【0049】
5-HMF含有ソフトカプセルの製造
5-HMF 2重量部
オリーブ油 93重量部
グリセリン脂肪酸エステル 5重量部
上記組成で混合し、ゼラチン製カプセルに充填して、5-HMFを含有する機能性食品用カプセル剤を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
安全性の高い抗アレルギー剤、抗炎症剤を簡便な方法で提供することができ、また、本発明の抗アレルギー剤、抗炎症剤は、医薬品、機能性食品、化粧品、浴用品、医薬部外品等に配合することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−ヒドロキシメチルフルフラールを有効成分として含有する抗アレルギー作用を有する組成物。
【請求項2】
好塩基球細胞および/または肥満細胞の脱顆粒を阻害することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
好塩基球細胞の脱顆粒を阻害することを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
肥満細胞の脱顆粒を阻害することを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
β-ヘキソサミニダーゼの放出を阻害することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
植物全草あるいは植物抽出物を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の組成物を含有することを特徴とする、医薬品。
【請求項8】
アレルギーの治療及び予防に用いる、請求項7に記載の医薬品。
【請求項9】
炎症の治療及び予防に用いる、請求項7に記載の医薬品。
【請求項10】
請求項1〜6に記載の組成物を配合することを特徴とする機能性食品。
【請求項11】
請求項1〜6に記載の組成物を配合することを特徴とする化粧品、浴用品、または、医薬部外品。
【請求項12】
請求項1〜6に記載の組成物を配合することを特徴とする飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−248107(P2010−248107A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98151(P2009−98151)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】