説明

拡張テープ収縮装置

【課題】ワークや接着フィルムの特性を低下させることなく、拡張テープの拡張された箇所を収縮させることができる拡張テープ収縮装置を提供すること。
【解決手段】拡張テープ収縮装置5は、ワークと環状フレームとの間の拡張テープの拡張された箇所へ熱風を噴射する熱風噴射部541と、熱風噴射部541が熱風を噴射する際に、熱風が噴射される拡張テープの拡張された箇所とワーク1との境界領域へ冷風を吹き付ける冷風噴射部542と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハなどのワークを、多数のチップに分割する際に用いる拡張テープ収縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程においては、ワーク(被加工物)表面に分割予定ラインが格子状に形成され、この分割予定ラインによって区画された複数の領域それぞれにIC,LSIなどのデバイスが形成される。その後、ワークは、切削装置などの分割装置によって分割予定ラインに沿って分割され、個々のチップに分割される。
【0003】
チップを実装、積層するために、分割されたワークの裏面にはDAF(Die Attach Film)とよばれる接着フィルムが貼り付けられている。そして、拡張テープを介してこの接着フィルム面を環状フレームに支持した状態で、拡張テープを放射状に延伸することにより、拡張テープが拡張され、分割予定ラインに沿って接着フィルムが貼着された個々のチップに分離される。
【0004】
一方、接着フィルムは粘性を有するため、接着フィルム面が貼着された拡張テープを拡張しても、接着フィルムが伸びてしまい切断されないことがある。そこで、接着フィルムを冷却する冷却手段を備え、接着フィルムを冷却しながら拡張テープを拡張することで、接着フィルムを確実に切断する接着フィルムの破断装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、拡張テープを拡張した後における搬送時にチップが互いに接触しないようにするため、ワークの外周と、環状フレームの内周との間の環状領域における拡張テープを熱風により加熱し、この環状領域における拡張テープの弛みを収縮する分割処理方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−27250号公報
【特許文献2】特開2002−334853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、拡張テープの弛みを収縮するために拡張テープを熱風で加熱する場合、その熱風が拡散してワークや接着フィルムが加熱されることにより、ワークや接着フィルムの特性が低下する事態が発生し得る。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ワークや接着フィルムの特性を低下させることなく、拡張テープの拡張された箇所を収縮させることができる拡張テープ収縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の拡張テープ収縮装置は、接着フィルムが貼り付けられたワークを、拡張テープを介して開口部に支持する環状フレームを保持するフレーム保持手段と、前記環状フレームと前記ワークとを、前記ワークの表面と垂直に交わる方向において離反させて前記拡張テープを拡張し、前記ワークを分割予定ラインに沿って分割する分割手段と、前記拡張テープを加熱して、前記ワークと前記環状フレームとの間の前記拡張テープの拡張された箇所を収縮させる加熱手段と、を有する拡張テープ収縮装置であって、前記加熱手段は、前記拡張テープの拡張された箇所へ熱風を噴射する熱風噴射部と、前記熱風噴射部が前記熱風を噴射する際に、前記熱風が噴射される前記拡張テープの拡張された箇所と分割された前記ワークとの境界領域へ冷風を吹き付ける冷風噴射部と、を有することを特徴とする。
【0010】
この拡張テープ収縮装置によれば、ワークと環状フレームとの間の拡張テープの拡張された箇所へ熱風を噴射する熱風噴射部と、熱風噴射部が熱風を噴射する際に、熱風が噴射される拡張テープの拡張された箇所と分割されたワークとの境界領域へ冷風を吹き付ける冷風噴射部と、を備えている。この構成により、ワークや接着フィルム側への熱風の回り込みを防止することができ、ワークや接着フィルムの加熱を抑制しつつ、ワークと環状フレームとの間の拡張テープの拡張された箇所を十分に加熱することができる。この結果、ワークや接着フィルムの特性を低下させることなく、拡張テープの拡張された箇所を収縮させることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ワークや接着フィルムの特性を低下させることなく、拡張テープの拡張された箇所を収縮させることができる拡張テープ収縮装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係るワークが環状フレームに支持されている状態を示す斜視図(a)および断面模式図(b)である。
【図2】本発明の実施の形態に係る拡張テープ収縮装置の斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る拡張テープ収縮装置により拡張テープの拡張された箇所を収縮する過程を(a)〜(c)の順に示す説明図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る拡張テープ収縮装置により拡張テープの拡張された箇所を収縮する過程を(a)〜(c)の順に示す説明図である。
【図5】加熱手段によって加熱される領域を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
(1)ワークについて
図1は、本発明の実施の形態に係るワーク1が環状フレーム2に支持されている状態を示す(a)斜視図および(b)断面模式図である。このワーク1の表面には、分割予定ラインが格子状に形成され、この分割予定ラインによって区画された複数のチップ11それぞれにIC,LSIなどのデバイスが形成されている。また、ワーク1の裏面には、接着フィルム3が貼着されている。
【0014】
ここで、ワーク1としては、例えば、シリコン(Si),ガリウムヒソ(GaAs),シリコンカーバイト(SiC)などの半導体ウェーハや、チップ実装用としてウェーハの裏面に設けられるDAFなどの粘着部材、あるいは、半導体製品のパッケージ、または、セラミック,ガラス,サファイア(Al)系の無機材料基板、LCDドライバなどの各種電子部品、さらには、ミクロンオーダーの加工位置精度が要求される各種加工材料などが挙げられる。
【0015】
裏面に接着フィルム3が貼着されたワーク1は、環状フレーム2の開口部の中心に、拡張テープ4を介して支持されている。
【0016】
拡張テープ4は、常温では伸縮性を有し、かつ、所定温度(例えば、70℃)以上に加熱すると収縮する性質を有する基材の片面に、粘着層が形成されたものが用いられる。基材としては、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィンなどの合成樹脂シートが挙げられる。
【0017】
ワーク1は、環状フレーム2に支持された状態で、切削装置などの分割装置によって分割予定ラインに沿って分割加工され、個々のチップ11に分割される。この場合の分割加工は、ワーク1を個々のチップ11に分離するための予備加工であり、切削加工やレーザ加工といった手段が適用される。
【0018】
分割加工が施されたワーク1は、次に説明する拡張テープ収縮装置によって、拡張テープ4が放射状に延伸されることにより、拡張テープ4が拡張され、分割予定ラインに沿って接着フィルム3が貼着された個々のチップ11に分離(破断)される。
【0019】
(拡張テープ収縮装置について)
図2は、本発明の実施の形態に係る拡張テープ収縮装置5の斜視図である。この拡張テープ収縮装置5は、分割手段51と、上下に配置されたフレーム保持手段52,53と、加熱手段54と、を備えている。
【0020】
フレーム保持手段52,53は、矩形状であって、中央には、径が等しい円形状の開口部521,531が形成されている。これら開口部521,531の径は、環状フレーム2の内径程度に設定されている。フレーム保持手段52は、4つの昇降シリンダ522によって、昇降する。この昇降シリンダ522は、例えばエアシリンダで構成されており、環状フレーム2が着脱される下降位置と、環状フレーム2がフレーム保持手段53に接触する上昇位置との間で、フレーム保持手段52を昇降させることができる。一方、フレーム保持手段53は、位置が固定されている。
【0021】
分割手段51は、環状フレーム2に張られた拡張テープ4を拡張するものであり、拡張テープ4に対し下方から接触する拡張ドラム511と、拡張ドラム511を昇降させる昇降シリンダ512から構成されている。拡張ドラム511は、円筒状に形成されており、上端縁には、拡張テープ4に接触した際に、拡張テープ4との摩擦を軽減するための複数のコロ部材514(図3参照)が回転自在に取り付けられている。また、拡張ドラム511の内側には、吸着部513が形成されている。この吸着部513により、拡張テープ4は、部分的に吸着固定される。
【0022】
加熱手段54は、下方に熱風を噴射する熱風噴射部541と、下方に冷風を噴射する冷風噴射部542と、を備えている。熱風噴射部541から噴射される熱風とは、拡張テープ4を加熱により収縮させることができる温度の風のことをいう。また、冷風噴射部542から噴射される冷風とは、熱風噴射部541から噴射される熱風よりも、相対的に温度が低い風のことをいい、例えば常温の風も含まれる。
【0023】
(拡張テープ収縮装置5による拡張テープ4の収縮動作について)
図3,図4は、拡張テープ収縮装置5の動作説明図であり、図3(a)はフレーム保持手段52に環状フレーム2を載せた状態、図3(b)はフレーム保持手段52,53により環状フレーム2が保持された状態、図3(c)は拡張ドラム511により拡張テープ4が拡張された状態、図4(a)は拡張テープ4が拡張された状態、図4(b)は拡張テープ4に熱風543が噴射された状態、図4(c)は拡張テープ4の収縮が完了した状態、をそれぞれ示している。
【0024】
まず、図3(a)に示すように、ワーク1を支持した環状フレーム2が、フレーム保持手段52の上に置かれる。このとき、ワーク1は、開口部521の中で浮いた状態となる。フレーム保持手段52は、フレーム保持手段53から下方に離れた下降位置にあり、拡張ドラム511は基準位置に位置している。この状態から、昇降シリンダ522により、フレーム保持手段52が上昇位置に向けて上昇する。
【0025】
続いて、図3(b)に示すように、フレーム保持手段52が上昇して、環状フレーム2がフレーム保持手段52,53によって挟まれ、その高さ位置に保持される。この状態から、昇降シリンダ512により、拡張ドラム511が拡張位置に向けて上昇する。
【0026】
続いて、図3(c)に示すように、拡張ドラム511が上昇して、コロ部材514が回転しながら拡張テープ4を押し上げることにより、拡張テープ4が放射状に延伸され、ワーク1も拡張テープ4とともに所定の拡張位置まで突き上げられる。拡張テープ4の突き上げ方向はワーク1の表面と垂直に交わる方向であり、ワーク1は固定状態の環状フレーム2から上方に離反する。
【0027】
この結果、拡張テープ4が拡張され、ワーク1が分割予定ラインに沿って個々のチップ11に分離されると同時に、ワーク1に貼着された接着フィルム3も個々のチップ11の外縁に沿って分離される。したがって、拡張テープ4上には、接着フィルム3が貼着された複数のチップ11が、互いに離反した状態で貼着した状態となっている。
【0028】
続いて、図4(a)に示すように、拡張ドラム511が基準位置まで下降する。一方、吸着部513は、その上面が環状フレーム2とほぼ同じ高さになるまで下降する。このとき、ワーク1と環状フレーム2との間の拡張テープ4は拡張された状態となっている。
【0029】
続いて、図4(b)に示すように、加熱手段54の熱風噴射部541から、拡張テープ4の拡張された箇所へ一点鎖線で示す熱風543を噴射し、拡張テープ4の拡張された箇所を加熱する。同時に、加熱手段54の冷風噴射部542から、拡張テープ4の拡張された箇所とワーク1との境界領域へ二点鎖線で示す冷風544を噴射する。このように加熱された拡張テープ4は、図4(c)に示すように収縮する。
【0030】
図5は、加熱手段54によって加熱される領域を示す上面図である。加熱手段54は、熱風噴射部541から、環状フレーム2とワーク1との間の拡張テープ4の拡張された箇所545へ熱風を噴射し、拡張テープ4の拡張された箇所545を加熱する。同時に、冷風噴射部542から、拡張テープ4の拡張された箇所545とワーク1との境界領域546へ冷風を噴射する。図5において、境界領域546は、ワーク1と吸着部513とを跨った領域として示されている。しかし、境界領域546はこれに限定されず、熱風噴射部541からの熱風を遮断できれば、任意の領域に設定できる。例えば、拡張テープ4の拡張された箇所545と、ワーク1との間の領域に境界領域546を設定することができる。加熱手段54は、ワーク1の周囲を矢印Aで示す方向に移動しながら、環状である拡張テープ4の拡張された箇所545全体を加熱する。
【0031】
この構成により、ワーク1やワーク1の裏面に貼着された接着フィルム3(図5において不図示)側への熱風の回り込みを防止することができ、ワーク1や接着フィルム3の加熱を抑制しつつ、拡張テープ4の拡張された箇所545を十分に加熱することができる。この結果、ワーク1や接着フィルム3の特性を低下させることなく、拡張テープ4の拡張された箇所545を収縮させることが可能となる。
【0032】
また、本実施の形態においては、冷風が噴射される境界領域546に、ワーク1の外縁部の一部を含めたので、ワーク1やワーク1の裏面に貼着された接着フィルム3の加熱をより効果的に抑制することが可能となる。
【0033】
加熱手段54の熱風噴射部541から噴射される熱風の流量と、冷風噴射部542から噴射される冷風の流量との関係は、冷風噴射部542から噴射される冷風の流量が、熱風噴射部541から噴射される熱風の流量の半分となるように設定すると好適である。冷風の流量をこのように設定すると、熱風による拡張テープ4の加熱を妨げることなく、冷風を噴射しない場合と比較して、境界領域546におけるワーク1や接着フィルム3の温度を約20度下げることができる。
【0034】
また、拡張テープ4の拡張された箇所545の加熱は、拡張テープ4を部分的に吸着部513に吸着して保持した状態のまま行われる。したがって、拡張テープ4のうち、吸着部513に保持されている部分、すなわち拡張テープ4の拡張された箇所545の内側のワーク1が貼着されている部分は収縮が生じない。よって、拡張テープ4の拡張によって分離されたチップ11の間隔は確保されるため、隣り合うチップ11が接触することはない。
【0035】
以上説明したように、実施の形態に係る拡張テープ収縮装置5によれば、拡張テープ4の拡張された箇所545へ熱風543を噴射する熱風噴射部541と、熱風噴射部541が熱風543を噴射する際に、熱風543が噴射される拡張テープ4の拡張された箇所545と分割されたワーク1との境界領域546へ冷風544を吹き付ける冷風噴射部542と、を備えている。この構成により、ワーク1や接着フィルム3側への熱風の回り込みを防止することができ、ワーク1や接着フィルム3の加熱を抑制しつつ、拡張テープ4の拡張された箇所545を十分に加熱することができる。この結果、ワーク1や接着フィルム3の特性を低下させることなく、拡張テープ4の拡張された箇所545を収縮させることが可能となる。
【0036】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0037】
例えば、上記実施の形態においては、拡張テープ収縮装置5によって、拡張テープ4を拡張し、ワーク1を接着フィルム3が貼着された個々のチップ11に分離(破断)する場合について説明している。しかしながら、上記構成に限定されるものではなく、ワーク1は、拡張テープ収縮装置5に搬送される前に、個々のチップ11に分離(破断)済みであってもよい。すなわち、拡張テープ4を拡張し、ワーク1を接着フィルム3が貼着された個々のチップ11に分離(破断)するチャンバーと、拡張テープ4を拡張した後、加熱により拡張テープ4を収縮させるチャンバーは、別のチャンバーであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上説明したように、本発明は、ワークや接着フィルムの特性を低下させることなく、拡張テープの拡張された箇所を収縮させることができるという効果を有し、特に、半導体ウェーハなどのワークを、多数のチップに分割する際に有用である。
【符号の説明】
【0039】
1 ワーク
11 チップ
2 環状フレーム
3 接着フィルム
4 拡張テープ
5 拡張テープ収縮装置
51 分割手段
511 拡張ドラム
512 昇降シリンダ
513 吸着部
514 コロ部材
52,53 フレーム保持手段
521,531 開口部
522 昇降シリンダ
54 加熱手段
541 熱風噴射部
542 冷風噴射部
543 熱風
544 冷風
545 拡張テープの拡張された箇所
546 境界領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着フィルムが貼り付けられたワークを、拡張テープを介して開口部に支持する環状フレームを保持するフレーム保持手段と、
前記環状フレームと前記ワークとを、前記ワークの表面と垂直に交わる方向において離反させて前記拡張テープを拡張し、前記ワークを分割予定ラインに沿って分割する分割手段と、
前記拡張テープを加熱して、前記ワークと前記環状フレームとの間の前記拡張テープの拡張された箇所を収縮させる加熱手段と、
を有する拡張テープ収縮装置であって、
前記加熱手段は、
前記拡張テープの拡張された箇所へ熱風を噴射する熱風噴射部と、
前記熱風噴射部が前記熱風を噴射する際に、前記熱風が噴射される前記拡張テープの拡張された箇所と分割された前記ワークとの境界領域へ冷風を吹き付ける冷風噴射部と、
を有することを特徴とする拡張テープ収縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−9464(P2012−9464A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141171(P2010−141171)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】