説明

拡散炉の保護装置及び保護方法

【課題】簡素な構造で地震の際の被害を低減することができる縦型拡散炉の保護装置及び保護方法を提供する。
【解決手段】P波検知部51は、P波が到来するとその旨をP波解析部52に知らせる。P波解析部52は、P波検知部51からP波が到来したことを知らされると、到来したP波の波形及び振幅等からその後にS波が到来した時の、縦型拡散炉54が設置されている地域の震度を予測する。そして、予測結果が震度5以上であるか否かを判断する。この結果、震度が5以上となるという結果が得られている場合には、気圧制御部53にその旨を知らせる。気圧制御部53は、P波解析部52から震度が5以上になるという予測結果を知らされると、拡散炉内の気圧を低下させる。つまり、真空ポンプによる排気の程度を変更することなく、供給されるガスの量を減少させることにより、拡散炉内の気圧を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造等に用いられる拡散炉の保護装置及び保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程では、不純物の導入等の際に縦型拡散炉が使用される。この縦型拡散炉の内部には、処理対象である半導体ウェハが挿入される炉心管、その周囲に配置されたヒータ等が設けられている。また、半導体ウェハは石英ボートに固定された炉心管に挿入され、石英ボートは保温筒とよばれる基台上に載せられる。
【0003】
このような構造の縦型拡散炉では、これまで、通常の運転時に大きな問題は生じていない。しかしながら、震度の大きい地震が発生すると膨大な被害が生じてしまう。例えば、石英ボートが保温筒から落下して破損してしまう。また、石英ボートが炉心管の内壁に衝突して石英ボート及び/又は炉心管が破損してしまう。更に、半導体ウェハが石英ボートから落下して割れてしまうこともある。
【0004】
そして、縦型拡散炉は、半導体装置を製造する工場内では、中核の一部を担っているため、縦型拡散炉が故障すると、そこで製造が滞ってしまい、生産効率を大幅に低下させてしまう。このため、縦型拡散炉の耐震対策は重要であり、また、例え被害が出たとしても、できるだけ小さく抑えて早急に復旧可能とすることが要望されている。
【0005】
特許文献1に地震対策をとった縦型拡散炉が開示されているが、機械的に複雑な構成を採用しているため、その製造に要する時間及びコストが上昇してしまう。
【0006】
【特許文献1】特開平11−74205号公報
【特許文献2】特開平11−159571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、簡素な構造で地震の際の被害を低減することができる拡散炉の保護装置及び保護方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す発明の諸態様に想到した。
【0009】
本願発明に係る拡散炉の保護装置には、地震の第一波を検出する検出手段と、前記検出手段により第一波が検出されると、当該第一波の内容を解析し、その解析結果から当該第一波に続く第二波が到来した時の震度が5以上になるか予測する解析手段と、が設けられている。更に、前記解析手段により震度が5以上になると予測されると、当該第二波が到来する前に前記拡散炉内の気圧を低下させる気圧制御手段が設けられている。
【0010】
本願発明に係る拡散炉の保護方法では、地震の第一波を検出すると、当該第一波の内容を解析し、その解析結果から当該第一波に続く第二波が到来した時の震度が5以上になるか予測し、震度が5以上になると予測すると、当該第二波が到来する前に前記拡散炉内の気圧を低下させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、所定の第一波を検知すると、第二波が到来する前に拡散炉内の気圧を低下させるため、部品同士の密着度が向上して振動に伴う衝突及び落下が生じにくくなる。この結果、地震に伴う被害を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る縦型拡散炉の保護装置を示すブロック図である。
【0013】
本実施形態に係る保護装置50には、地震の第一波(P波:Primary wave)を検知するP波検知部51、P波検知部が検知したP波の解析を行うP波解析部52及びP波解析部52による解析結果に応じて縦型拡散炉54内の気圧を制御する気圧制御部53が設けられている。これらの各部は、例えば、コンピュータ(CPU)及びこれがアクセス可能なROM等に記憶されたプログラム等により構成されている。P波解析部52は、P波検知部51がP波を検知すると、その波形及び振幅等の解析を行い、P波の後に第二波(S波:Secondary wave)が到達した時の震度を予測する。この予測は、P波そのものだけでなく、縦型拡散炉54の構造及び縦型拡散炉54が設置されている地域の地盤の構成を考慮して予め作成しておいたデータベース等を用いて行われる。
【0014】
ここで、縦型拡散炉54の概要について説明する。図2は、縦型拡散炉54の構造を示す模式図である。縦型拡散炉54では、炉壁7の内部に、石英製の炉心管2、石英製の基台(保温筒)3及びヒータ4が設けられている。基台3は、炉壁7内で上下動され、その上には石英ボート12が載置される。石英ボート12には、半導体ウェハ11を3箇所で支持する支持部12aが形成されている。また、炉壁7の下部には、原料及び窒素ガスが供給される供給用配管5、並びに真空ポンプ等に繋がれた排気用配管6が連結されている。そして、供給用配管5には、原料ガス用のバルブ及び窒素ガス用のバルブが設けられ、排気用配管6にもバルブが設けられている。
【0015】
なお、図示していないが、基台3を上下方向に移動させる機構も設けられており、基台3には石英製の部材が接している。
【0016】
次に、保護装置50の動作について説明する。P波検知部51は、常時P波の到来を監視しており、P波が到来するとその旨をP波解析部52に知らせる。P波解析部52は、P波検知部51からP波が到来したことを知らされると、到来したP波の波形及び振幅等からその後にS波が到来した時の、縦型拡散炉54が設置されている地域の震度を予測する。そして、予測結果が震度5以上であるか否かを判断する。この結果、震度が5以上となるという結果が得られている場合には、気圧制御部53にその旨を知らせる。一方、震度が5以上にならないという結果、即ち震度が4以下となるという結果が得られている場合には、その時点で処理を終了する。
【0017】
その一方で、縦型拡散炉54では、原料ガス及び窒素ガスが供給用配管5から供給されつつ、排気用配管6に連結された真空ポンプにより供給された分だけのガスを排気している。つまり、炉壁7内の気圧は常圧とされている。そして、気圧制御部53は、P波解析部52から震度が5以上になるという予測結果を知らされると、例えば供給用配管5に設けられている原料ガス用のバルブを閉じることにより、炉壁7内の気圧を低下させる。つまり、真空ポンプによる排気の程度を変更することなく、供給されるガスの量を減少させることにより、炉壁7内の気圧を低下させる。この結果、石英ボート12と基台3との密着度が高まると共に、基台3とその下の石英製の部材との密着度及び半導体ウェハ11と支持部12aとの密着度も高まる。従って、大きな揺れに襲われても、石英ボート12は基台3から落下しにくくなる。また、多少の固有振動数の相違はあるものの、石英ボート12は実質的に基台3及び炉心管2に追従して揺れることになるため、石英ボート12が炉心管2の内壁に衝突しにくくなる。更に、半導体ウェハ11も石英ボート12から落下しにくくなる。
【0018】
このように、本実施形態では、所定のP波が到来すると炉壁7内の気圧を低下させてS波の到来に備えるので、S波が到来しても地震の被害を大幅に低減することができる。従って、震度が5以上の揺れがあっても、全く被害が生じないか、被害が生じても早期に復旧が可能な程度とすることができる。この結果、震度が5以上の地震に襲われても、半導体装置の製造工場の停止期間を著しく短縮することが可能となる。震度5を判断の基準としているのは、これまで、震度が4以下であれば大きな被害はほとんど報告されていないからである。
【0019】
また、本実施形態では、気圧を低下させる際にも炉壁7内に不活性ガスである窒素ガスを供給し続けているため、外気の巻き込み等に伴う汚染物質の混入を抑制することができる。なお、不活性ガスとしてArガス等を供給してもよい。
【0020】
なお、気圧制御部53による気圧の低下を真空に近いものにまでする必要はなく、例えば常圧の2割〜5割程度にまで減圧すればよい。減圧後の圧力は200hPa〜250hPaとすることが好ましい。これは、200hPa未満まで低下させると、過剰な減圧によって石英ボート12等が破損する虞があるからである。一方、250hPaよりも高い場合には、減圧の効果が十分に得られない虞があるからである。
【0021】
また、本願発明に係る保護装置は、縦型の拡散炉だけでなく横型の拡散炉の保護に適用することも可能である。
【0022】
以下、本発明の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0023】
(付記1)
拡散炉を地震から保護する保護装置であって、
地震の第一波を検出する検出手段と、
前記検出手段により第一波が検出されると、当該第一波の内容を解析し、その解析結果から当該第一波に続く第二波が到来した時の震度が5以上になるか予測する解析手段と、
前記解析手段により震度が5以上になると予測されると、当該第二波が到来する前に前記拡散炉内の気圧を低下させる気圧制御手段と、
を有することを特徴とする拡散炉の保護装置。
【0024】
(付記2)
前記気圧制御手段は、前記気圧を低下させる際に前記拡散炉内に不活性ガスを供給することを特徴とする付記1に記載の拡散炉の保護装置。
【0025】
(付記3)
前記気圧制御手段は、前記不活性ガスとして窒素ガスを供給することを特徴とする付記2に記載の拡散炉の保護装置。
【0026】
(付記4)
前記気圧制御手段は、前記拡散炉内の気圧を200hPa乃至250hPaまで低下させることを特徴とする付記1乃至3のいずれか1項に記載の拡散炉の保護装置。
【0027】
(付記5)
拡散炉を地震から保護する保護方法であって、
地震の第一波を検出すると、当該第一波の内容を解析し、その解析結果から当該第一波に続く第二波が到来した時の震度が5以上になるか予測する解析ステップと、
前記解析ステップにおいて震度が5以上になると予測すると、当該第二波が到来する前に前記拡散炉内の気圧を低下させる気圧制御ステップと、
を有することを特徴とする拡散炉の保護方法。
【0028】
(付記6)
前記気圧制御ステップにおいて、前記気圧を低下させる際に前記拡散炉内に不活性ガスを供給することを特徴とする付記5に記載の拡散炉の保護方法。
【0029】
(付記7)
前記気圧制御ステップにおいて、前記不活性ガスとして窒素ガスを供給することを特徴とする付記6に記載の拡散炉の保護方法。
【0030】
(付記8)
前記気圧制御ステップにおいて、前記拡散炉内の気圧を200hPa乃至250hPaまで低下させることを特徴とする付記5乃至7のいずれか1項に記載の拡散炉の保護方法。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る縦型拡散炉の保護装置を示すブロック図である。
【図2】縦型拡散炉54の構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0032】
2:炉心管
3:基台
4:ヒータ
5:供給用配管
6:排気用配管
7:炉壁
11:ウェハ
12:石英ボート
12a:支持部
50:保護装置
51:P波検知部
52:P波解析部
53:気圧制御部
54:縦型熱拡散炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡散炉を地震から保護する保護装置であって、
地震の第一波を検出する検出手段と、
前記検出手段により第一波が検出されると、当該第一波の内容を解析し、その解析結果から当該第一波に続く第二波が到来した時の震度が5以上になるか予測する解析手段と、
前記解析手段により震度が5以上になると予測されると、当該第二波が到来する前に前記拡散炉内の気圧を低下させる気圧制御手段と、
を有することを特徴とする拡散炉の保護装置。
【請求項2】
前記気圧制御手段は、前記気圧を低下させる際に前記拡散炉内に不活性ガスを供給することを特徴とする請求項1に記載の拡散炉の保護装置。
【請求項3】
前記気圧制御手段は、前記不活性ガスとして窒素ガスを供給することを特徴とする請求項2に記載の拡散炉の保護装置。
【請求項4】
拡散炉を地震から保護する保護方法であって、
地震の第一波を検出すると、当該第一波の内容を解析し、その解析結果から当該第一波に続く第二波が到来した時の震度が5以上になるか予測する解析ステップと、
前記解析ステップにおいて震度が5以上になると予測すると、当該第二波が到来する前に前記拡散炉内の気圧を低下させる気圧制御ステップと、
を有することを特徴とする拡散炉の保護方法。
【請求項5】
前記気圧制御ステップにおいて、前記気圧を低下させる際に前記拡散炉内に不活性ガスを供給することを特徴とする請求項4に記載の拡散炉の保護方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−258561(P2007−258561A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83075(P2006−83075)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】