説明

指紋画像生成装置

【課題】隆線領域を表す隆線画素値と谷線領域を表す谷線画素値に二値化される二値指紋画像の生成において、幅の広い汗腺孔領域が存在しても、その汗腺孔領域を谷線領域とする誤りを抑制可能な指紋生成装置を提供する。
【解決手段】指紋画像生成装置1は、指紋の凹凸が多値で表された多値指紋画像に対応する隆線幅を取得する隆線幅取得手段16と、多値指紋画像の少なくとも一部の画素に対する第1の二値化閾値を、隆線幅が大きいほど隆線と判定し易い値に設定する第1の閾値設定手段17と、多値指紋画像を第1の二値化閾値にて二値化する二値化手段18とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指紋画像生成装置に関し、より詳しくは、多値の指紋画像から隆線領域と谷線領域に二値化される二値指紋画像を生成する指紋画像生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、入退室管理、情報機器へのアクセス、預貯金の引き出しなどにおけるセキュリティについて関心が高まっている。そのような中で、従来から用いられている鍵、パスワード認証などよりも確実で、より高度なセキュリティを提供できる個人認証方法として、バイオメトリクス認証(生体認証)が特に注目を集めている。
【0003】
そのようなバイオメトリクス認証の一つである指紋認証では、指紋センサから得られる指紋の凹凸紋様を濃淡で表した指紋画像から特徴情報を抽出し、その特徴情報と、予め登録された特徴情報とを比較して一致度を求め、その一致度に基づいて個人認証を行う方法が知られている。
【0004】
指紋画像から特徴情報を抽出する方法の一つとして、指紋センサから得た多値画像に対してノイズ除去、ムラ補正などの処理を行って画質を補正し、その後指紋画像全体の平均画素値又はその平均画素値を調整した二値化閾値を用いて二値化した画像から、指紋隆線の分岐点・端点を特徴点として得る方法がある。
【0005】
一例として、指内部特性検出型光学式指紋センサで指紋画像を取得すると、凸部である隆線部が相対的に低画素値で、凹部である谷線部は相対的に高画素値となる多値指紋画像が得られる。したがって、上記の二値化処理では、隆線部が低画素値、谷線部が高画素値として二値化される。ここで、特徴情報を抽出するにあたっては、隆線部と谷線部が明瞭に区別できることが望ましい。しかし、指紋の隆線上には、凹部である汗腺孔が存在する。汗腺孔は、多値指紋画像上では谷線部と同様、相対的に高画素値となる。そのため、二値化処理において、例えば多値指紋画像全体の平均画素値を閾値として使用すると、汗腺孔領域も谷線領域と同様に高画素値となって谷線領域と区別がつかなくなる。その結果、特徴情報の抽出において擬似特徴点が抽出され、指紋認証の精度を低下させる要因となっていた。
【0006】
この様子を図1を用いて説明する。図1(a)は、指紋画像を二値化した二値指紋画像の一部を概略的に示し、図1(b)は、図1(a)の二値指紋画像に対して細線化処理を行った細線化二値指紋画像を概略的に示す。図1(a)において、黒色で表される線状領域100は隆線領域であり、白色で表される線状領域110は谷線領域である。また、線状領域100に重なるように存在する白色領域120は、誤って谷線領域と同様に高画素値とされた汗腺孔領域である。図1(a)のように、汗腺孔領域120が隆線領域100上に存在すると、この二値指紋画像を細線化処理した場合、図1(b)に示すように、隆線領域100が一本の線とならず、汗腺孔領域120に相当する部分がループ150として残ってしまう。このループ150によって生じた分岐点が、擬似特徴点として抽出されることにより、指紋認証の精度が低下する。
【0007】
このような問題に対し、“汗腺孔とは小さいものであり、且つ隆線領域に囲まれているものである”という知識を前提とした判定処理を行って汗腺を一つ一つ検出する指紋認証装置が開発されている。例えば、特許文献1に記載された個人照合装置は、二値化され、細線化処理された指紋画像から抽出された分岐点が汗腺孔の存在により生じたものか否かを上記の判定処理を用いて識別し、汗腺孔に起因する分岐点を除去することで、汗腺孔に起因する特徴点の誤抽出を抑制している。また、特許文献2に記載された汗腺孔部分判別装置では、二値化された指紋画像について隆線領域に囲まれた領域に基づいて汗腺孔を示す領域を検出し、検出した領域を隆線と同値に置き換えることで汗腺を除去した指紋画像を生成している。
【0008】
一方、指紋センサにおいて指紋を読み取る際の指押圧が高い場合、隆線が押し潰されて太く広がった指紋画像が生成される。上記のように、汗腺孔は隆線の領域内に存在するため、隆線が潰れて太くなったときは、汗腺孔領域も拡がってしまい、正常に指紋を読み取った場合と比べて汗腺が肥大化し、且つ歪んで現れた指紋画像となる。このような指紋画像を二値化すると、汗腺孔によって隆線の輪郭が削剥されてしまう場合がある(図1(a)の130を参照)。このような場合、細線化後の指紋画像には、削剥された部分が隆線の分岐160となって出現し、本来存在しないはずの分岐点及び端点を生じさせてしまう。
【0009】
しかしながら、上記のような指紋認証装置は、汗腺が隆線に囲まれていることを前提としているため、隆線の輪郭が削剥された領域が汗腺に起因したものか否かを識別することができない。したがって、正確な隆線紋様を表す指紋画像を得ることができず、指紋の一致・不一致を誤判定してしまい、認証精度が低下する可能性があった。
【0010】
【特許文献1】特開平2−17579号公報
【特許文献2】特開2001−243467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の問題点に鑑み、本発明の目的は、汗腺孔領域を谷線領域とする誤りを低減できる二値指紋画像の生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の問題に鑑み、本発明に係る指紋の凹凸が多値で表された多値指紋画像から隆線領域を表す隆線画素値と谷線領域を表す谷線画素値との二値で表された二値指紋画像を生成する指紋画像生成装置は、多値指紋画像に対応する隆線幅を取得する隆線幅取得手段と、多値指紋画像の少なくとも一部の画素に対する第1の二値化閾値を、隆線幅が大きいほど隆線と判定し易い値に設定する第1の閾値設定手段と、多値指紋画像を第1の二値化閾値にて二値化する二値化手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
隆線幅に基づいて二値化閾値を最適化することにより、隆線領域上に存在する幅の広い汗腺孔領域についても、誤って谷線領域とすることなく、二値指紋画像を作成することができる。なお、上記において多値指紋画像とは、指紋の濃淡を3段階以上の階調で表現する画像をいい、代表的には64階調、256階調、又は1024階調などで指紋の濃淡を表現する画像である。
【0014】
また本発明に係る指紋画像生成装置は、さらに多値指紋画像を隆線画素値と谷線画素値の何れかに判定するための第2の二値化閾値を設定する第2の閾値設定手段を有し、二値化手段は、多値指紋画像を第2の二値化閾値にて二値化して仮の二値指紋画像を生成し、隆線幅取得手段は、仮の二値指紋画像に基づいて前記隆線幅を算出することが好ましい。
一度ある基準に基づいて隆線領域と谷線領域に二値化することにより、隆線幅を正確に算出することができる。
【0015】
上記の場合において、第1の閾値設定手段は、隆線幅が所定値以上の場合、多値指紋画像の少なくとも一部の画素に対する第1の二値化閾値を、第2の二値化閾値よりも隆線領域と判定し易い値に設定することが好ましい。
幅の広い汗腺孔の存在する可能性が高い、幅の広い隆線を含む多値指紋画像に対して隆線領域と判定し易い二値化閾値を設定することにより、隆線領域上に存在する幅の広い汗腺孔領域についても、誤って谷線領域とすることなく、二値指紋画像を作成することができる。
【0016】
また本発明に係る指紋画像生成装置は、さらに多値指紋画像の全体領域に設定した局所領域が隆線候補領域であるか否かを判定する判定手段を有し、第1の閾値設定手段は、隆線候補領域に含まれる画素を一部の画素として第1の二値化閾値を設定することが好ましい。隆線領域に含まれる可能性の高い画素に限定して隆線と判定し易くすることにより、谷線領域を誤って隆線領域とすることを防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、汗腺孔領域を谷線領域とする誤りを低減できる二値指紋画像の生成装置を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を適用した第1の実施形態である指紋画像生成装置について、図を参照しつつ説明する。
図2は、本発明を適用した第1の実施形態である指紋画像生成装置1の機能ブロック図である。図2に示すように、指紋画像生成装置1は、画像入出力部10及び画像生成部11を有する。そして、指紋画像生成装置1は、画像入出力部10から多値指紋画像Mを受け取る。そして、受け取った指紋画像は画像生成部11に送られる。画像生成部11は、受け取った多値指紋画像Mに基づいて二値指紋画像Bを生成する。そして生成された二値指紋画像Bは、画像入出力部10を通じて、外部の機器又は磁気ディスクなどの記録媒体に出力される。
【0019】
まず、指紋画像生成装置1における二値化処理の概略を説明する。
なお本実施形態では、一例として、多値指紋画像は横200画素×縦240画素の大きさを有する。そして多値指紋画像の各画素は0−255の256階調で表され、指紋の隆線領域は画素値が低く、指紋の谷線領域は画素値が高く表現されるものとする。ここでいう画素値とは、画像上の各画素における輝度値に相当し、画素値が低い画素は低輝度、画素値が高い画素は高輝度で表される。
【0020】
図3(a)は、隆線幅が標準的な場合の多値指紋画像の一部領域の概略を示し、図3(b)は、図3(a)のA−A’における、隆線と谷線を横切る方向の画素値プロファイルの概略を示す。また図3(c)は、隆線幅が太い場合の多値指紋画像の一部領域の概略を示し、図3(d)は、図3(c)のB−B’における、隆線と谷線を横切る方向の画素値プロファイルの概略を示す。なお図3(b)及び図3(d)において、横軸は指紋画像上の位置、縦軸は画素値(輝度値)を表す。
図3(b)に示すように、谷線領域300は、相対的に高い画素値を有する。一方、隆線領域310は、相対的に低い画素値を有する。また汗腺孔領域320は、隆線領域310内に含まれ、隆線領域310の他の部分と比較して高い画素値を有する。そのため、例えば、二値化閾値を指紋画像全体の平均画素値とすると、汗腺孔領域320は、二値化閾値よりも高い画素値を有する場合がある。そのため、この二値化閾値を用いて谷線領域と隆線領域に二値化すると、汗腺孔領域320を誤って谷線領域としてしまう可能性がある。一方、二値化閾値を不用意に高い画素値に設定すると、今度は谷線領域300の一部を隆線領域としてしまう問題が生じる。
【0021】
そこで、指紋画像生成装置1は、まず多値指紋画像の指紋領域全体から、隆線領域310に相当する低画素値の部分を判別する基準値を求める。次に多値指紋画像の任意の場所に局所領域を設定する。そして局所領域の平均画素値を求める。その平均画素値が相対的に低ければ、局所領域は隆線領域を表す可能性が高いと考えられるため、指紋画像生成装置1は、局所領域を隆線候補領域とする。そして隆線候補領域に対して、指紋画像生成装置1は、基準値よりも高い画素値の二値化閾値を設定する。そして指紋画像生成装置1は、その二値化閾値を用いて二値化処理を行う。すなわち、隆線候補領域内の着目画素について、その画素値と二値化閾値との比較を行い、その画素値が二値化閾値より小さければ隆線領域と判定する。隆線候補領域では、二値化閾値が高めの画素値に設定されていることにより、隆線領域の他の部分よりも相対的に高い画素値を有する汗腺孔領域も隆線領域に区分されるように二値化することができる。
【0022】
しかし、図3(c)及び図3(d)に示すように、指紋読み取り時の押圧が高いことで隆線が潰れてしまい、幅の広い汗腺孔領域330が存在すると、その汗腺孔領域330に含まれる画素値は、標準の汗腺孔領域320に含まれる画素値と比較してもさらに高くなる。そのため、上記のように設定した二値化閾値を用いて二値化しても、汗腺孔領域330については、誤って谷線領域に区分するように二値化してしまうことがある。
そこで指紋画像生成装置1は、多値指紋画像の隆線領域の幅を算出し、その幅が所定の閾値よりも広い場合、再二値化を行う。再二値化を行う際には、上記の隆線候補領域に対する再二値化閾値を上記の二値化閾値よりもさらに高い値に設定する。そして指紋画像生成装置1は、再二値化閾値を用いて再度元の多値指紋画像に対して二値化を行う。最後に指紋画像生成装置1は、二値化の際、隆線領域に区分されず、谷線領域に区分された微小な汗腺孔領域を隆線領域に区分し直すために、多数決フィルタ処理を行って二値指紋画像において周囲を隆線領域で囲まれた谷線領域を示す画素を隆線領域を示す画素に変更する。
このように、指紋画像生成装置1は、隆線領域の幅が広い場合には、隆線候補領域内の画素に対する二値化閾値をさらに高めて二値化することにより、汗腺孔領域の幅が広い場合でも、汗腺孔領域を隆線領域に区分するように二値化することができる。
【0023】
以下、指紋画像生成装置1の各部について詳細に説明する。
画像入出力部10は、指紋画像生成装置1と外部機器とを接続するインターフェースであり、イーサネット(登録商標)、USB、SCSI、RS−232Cなどの規格に準拠した通信ポート、電子回路及びドライバソフトウェアなどで構成される。そして画像入出力部10は、外部機器より送られてきた多値指紋画像Mをデジタルデータとして取得し、画像生成部11に渡す。また、画像生成部11で生成された二値指紋画像Bを外部機器又は磁気記録媒体などに出力する。
【0024】
画像生成部11は、取得した多値指紋画像Mに基づいて二値指紋画像Bを生成するものであり、中央演算装置(CPU)、数値演算プロセッサ、ROM又はRAMのような半導体メモリなどで構成される。また画像生成部11は、画像生成部11が備える半導体メモリ又は図示しない磁気記録媒体などから読み込まれたプログラムにしたがって、所定の動作を実行する。また画像生成部11は、基準値設定手段12、局所領域設定手段13、隆線候補領域判定手段14、閾値設定手段15、隆線幅取得手段16、閾値再設定手段17、二値化手段18、及び穴埋め手段19を有する。
以下それぞれの手段について説明する。
【0025】
基準値設定手段12は、多値指紋画像Mを受け取ると、その指紋領域全体の平均画素値Iを基準値として算出する。なお、多値指紋画像M中に指紋以外の部分が含まれる場合もある(例えば、指紋画像を指紋センサで読み取る際に、指よりも指紋センサの読取り領域の方が大きい場合)。このような場合、指紋以外の部分に相当する領域は、以下の処理において不要である。そこでそのような領域を除去した残りの領域を指紋の全体領域として、以下の処理を行う。指紋以外の部分に相当する領域は、ほぼ最大画素値となり、谷線領域の画素値よりも高くなるため、そのような領域の除去は、最大画素値よりも僅かに低い閾値T1を用い、その閾値T1よりも高い画素値を有する画素を除去することで行われる。
【0026】
局所領域設定手段13は、多値指紋画像M中の任意の画素を着目画素Cとして設定する。そして局所領域設定手段13は、着目画素Cを中心とする局所領域Lを設定する。図4(a)及び図4(c)に、この様子を示す。なお、局所領域Lは、隆線1本の幅と略等しいか、それよりも若干広くなるような幅に設定することが好ましい。後述するように、局所領域Lに含まれる画素から、局所領域Lが隆線領域310と谷線領域300の何れに相当するかを判断するための、局所領域Lを代表する画素値情報(局所代表値)を取得するためである。局所領域Lを拡げすぎると、どのように局所領域Lを設定しても、局所領域L中に含まれる隆線領域と谷線領域の比率がほぼ同等となり、局所領域Lが隆線領域310に相当するのか、谷線領域300に相当するのか分からなくなってしまう。逆に局所領域Lを余りに狭く設定すると、局所領域L中に含まれる画素が殆ど汗腺孔領域に相当する場合が生じ、隆線領域の画素値情報を正確に取得することができないため好ましくない。本実施形態では、標準的な指紋における隆線領域の幅が約3〜5画素、隆線が太い指紋における隆線領域の幅が6〜8画素となる多値指紋画像Mに対して、局所領域Lを7×7画素の領域とした。
【0027】
隆線候補領域判定手段14は、局所領域Lに含まれる多値指紋画像Mの画素値に基づいて算出された局所代表値と所定の基準値との比較結果に基づいて、局所領域Lが隆線領域である可能性が高い隆線候補領域であるか否かを判定する。
図4を用いて、局所領域Lが隆線候補領域に相当するか否かの判定の原理を説明する。図4(a)は、隆線の幅が標準的な場合の多値指紋画像Mにおいて、汗腺孔領域320の画素を着目画素Cとして局所領域Lを設定した場合の様子を示す。また図4(b)は、図4(a)のC−C’における局所領域Lの画素値プロファイルの概略を示す。さらに図4(c)は、多値指紋画像Mの谷線領域の画素を着目画素Cとして局所領域Lを設定した場合の様子を示す。図4(d)は、図4(c)のD−D’における局所領域Lの画素値プロファイルの概略を示す。図4(b)及び図4(d)のグラフの横軸は位置座標を表し、縦軸は画素値を表す。
【0028】
まず、隆線候補領域判定手段14は、局所領域L内の平均画素値Iを局所領域Lの代表値(局所代表値)として算出する。そして隆線候補領域判定手段14は、基準値である指紋画像の全体領域の平均画素値Iと局所領域Lの平均画素値Iとの差分値I(=I−I)を算出する。ここで差分値Iが正の場合、すなわち局所領域L内の平均画素値Iの方が、指紋領域全体の平均画素値Iより低い場合、図4(a)に示すように、局所領域Lは隆線領域310に設定されている可能性が高い。そのため、隆線候補領域判定手段14は、局所領域Lを隆線候補領域と判定する。
一方、差分値Iが負の場合、すなわち局所領域L内の平均画素値Iの方が、指紋領域全体の平均画素値Iより高い場合、図4(c)に示すように、局所領域Lは谷線領域300に設定されている可能性が高いと考えられる。そのため、隆線候補領域判定手段14は、局所領域Lを隆線候補領域ではない(谷線候補領域)と判定する。
【0029】
閾値設定手段15は、隆線候補領域と判定された局所領域Lに含まれる多値指紋画像Mの画素に対する二値化閾値ThdBINを、隆線候補領域でないと判定された局所領域Lに含まれる多値指紋画像Mの画素に対する二値化閾値よりも隆線領域と判定し易い値に設定する。ここで、隆線領域と判定し易い値とは、二値化対象の画素の値が谷線領域よりの画素値であっても、その画素を隆線領域に分別する値を意味する。
【0030】
具体的には、以下のように二値化閾値ThdBINを設定する。
まず、隆線候補領域判定手段14が局所領域Lが隆線候補領域であると判定した場合、閾値設定手段15は、以下のように二値化閾値ThdBINを設定する。
ThdBIN = I+I (1)
(1)式より、差分値Iが正の場合、すなわち、指紋全体領域の平均画素値Iよりも局所領域Lの平均画素値Iの方が低い場合は、図4(b)に示すように、汗腺孔領域320に含まれる画素の画素値よりも高くなるように、二値化閾値ThdBINは指紋全体領域の平均画素値Iよりも高めに設定される。特に、Iが大きいほど、すなわち、局所領域Lの平均画素値Iが低いほど、局所領域Lは隆線領域310に相当する可能性が高いので、二値化閾値ThdBINもより高い値に設定される。
【0031】
一方、隆線候補領域判定手段14は局所領域Lが隆線候補領域ではないと判定した場合、閾値設定手段15は、谷線領域に含まれる画素の画素値よりも低い値となるように二値化閾値ThdBIN=Iと設定する。このように、局所領域Lが隆線候補領域の場合とそうでない場合とで二値化閾値ThdBINを別の値に設定することで、汗腺孔領域320を隆線領域310に正しく区分することができ、且つ谷線領域300を隆線領域310に誤って区分することを防止できる。
また、閾値設定手段15は、差分値Iが負の場合、すなわち、指紋全体領域の平均画素値Iよりも局所領域Lの平均画素値Iの方が高い場合にも、(1)式にしたがって二値化閾値ThdBINを設定してもよい。この場合I<0であるため、二値化閾値ThdBINは平均画素値Iよりも低く設定される。したがって、ノイズなどによって着目画素Cの値が理想的な場合よりも低い画素値を有する場合であっても、正しく谷線領域300に区分することができる。
【0032】
二値化手段18は、二値化閾値ThdBINと、着目画素Cの画素値Iを比較する。そして二値化手段18は、多値指紋画像Mの着目画素Cに対応する二値指紋画像Bの画素の画素値Bを以下のように算出する。
≧ThdBINの場合、B=255
<ThdBINの場合、B=0
ここで、二値指紋画像Bにおいては、画素値‘255’を谷線画素値とし、‘0’を隆線画素値とする。つまり、Bの値が‘255’であることは、その画素が谷線画素であることを示す。一方、Bの値が‘0’であることは、その画素が隆線画素であることを示す。
なお、Bの値は、‘0’と‘255’の組み合わせに限られず、二値指紋画像Bを表現するデータ形式で扱うことが可能な任意の二つの異なる値、例えば‘0’と‘1’を使用することができる。
【0033】
画像生成部11は、上記の局所領域設定手段13、隆線候補領域判定手段14、閾値設定手段15及び二値化手段18の処理を多値指紋画像Mに含まれる全ての画素を着目画素として順次実行することにより、二値指紋画像Bを生成する。
【0034】
二値指紋画像Bが生成されると、画像生成部11の隆線幅取得手段16は、入力された多値指紋画像Mの隆線の幅を示す隆線幅情報を取得する。そして幅の広い汗腺孔を誤って谷線領域に区分することを防止するため、再二値化の必要があるか否かを判断する。隆線幅情報は、多値指紋画像Mから生成した二値指紋画像Bの隆線領域の幅Wを求めることで取得する。そして、求めた隆線領域の幅Wが所定の閾値Thd以上となるか否かで際二値化の必要性を判定する。
隆線幅取得手段16は、係る判定を行うために、二値指紋画像Bを複数の分割領域D(i=1,2,...,n)に分割し、各分割領域D毎に平均隆線幅Wを算出する。そして隆線幅取得手段16は、それら各分割領域D毎に算出した平均隆線幅Wをさらに平均して隆線幅Wを算出する。なお各分割領域Dは、複数の隆線を含むように局所領域Lよりも大きい領域を有する。また、各分割領域Dは、その領域に含まれる隆線が略平行な直線となる程度の大きさとする。本実施形態では、各分割領域Dを32×32画素の大きさに設定した。
【0035】
次に隆線幅取得手段16は、各分割領域D内に含まれる隆線領域の垂直方向の平均隆線幅W及び水平方向の平均隆線幅Wを算出する。この様子を図6を参照しつつ説明する。
図6(a)は、分割領域を垂直方向に走査して平均隆線幅Wを算出する場合の様子を示し、図6(b)は、分割領域を水平方向に走査して平均隆線幅Wを算出する場合の様子を示す。
図6(a)及び図6(b)において、610は隆線領域(すなわち画素値‘0’)である。隆線幅取得手段16は、最初に隆線画素連続合計数Nsum及び隆線合計数Nを0に初期化する。そして隆線幅取得手段16は、図6(a)の矢印に示すように、分割領域Dの上端から下端までの走査を1回の走査として、分割領域Dを画像左端から画像右端まで順に走査する。隆線幅取得手段16は、各回の走査において、画素値‘0’の画素を連続して検出すると、その連続する画素値‘0’の画素数を隆線画素連続合計数Nsumに加算する。また、画素値‘0’の連続が終了したときに隆線合計数Nを1インクリメントする。走査が終了すると、隆線幅取得手段16は、隆線画素連続合計数Nsum及び隆線合計数Nから、分割領域Dにおける垂直方向の平均隆線幅W(=Nsum/N)を算出する。
【0036】
また図6(b)に示すように、隆線幅取得手段16は、隆線画素連続合計数Nsum及び隆線合計数Nを0に初期化した後、同図中の矢印に示すように、分割領域Dの左端から右端までの走査を1回の走査として、分割領域Dを画像上端から画像下端まで順に走査する。そして隆線幅取得手段16は、各走査において、画素値‘0’の画素を連続して検出すると、その連続する画素値‘0’の画素数を隆線画素連続合計数Nsumに加算する。また、画素値‘0’の連続が終了したときに隆線合計数Nを1インクリメントする。走査が終了すると、隆線幅取得手段16は、隆線画素連続合計数Nsum及び隆線合計数Nから、分割領域Dにおける水平方向の平均隆線幅W(=Nsum/N)を算出する。
【0037】
隆線幅取得手段16は、垂直方向の平均隆線幅W及び水平方向の平均隆線幅Wを算出すると、その小さい方の値を分割領域Dにおける平均隆線幅Wとする。小さい方の値を採用するのは、隆線領域の長手方向に対する直交方向に近い角で走査した方の値を採用するためであり、そうすることによって隆線幅を正確に評価できるためである。
最後に隆線幅取得手段16は、各分割領域Dの平均隆線幅Wをさらに平均して二値指紋画像Bの隆線幅W(=ΣW/n)を算出し、閾値Thdと比較する。隆線幅Wが閾値Thd未満であれば、隆線幅取得手段16は、再二値化は必要なしと判断する。一方、隆線幅Wが閾値Thd以上であれば、隆線幅取得手段16は、再二値化が必要と判断する。なお、閾値Thdは、幅の広い汗腺孔の存在する隆線の幅が二値指紋画像B上でどれだけの幅を有するかに基づいて経験的に決定される。本実施形態では、閾値Thdを6とした。
【0038】
閾値再設定手段17は、隆線幅取得手段16が再二値化を必要と判断した場合、二値化閾値ThdBINの代わりに再二値化閾値ThdBINRを算出する。閾値再設定手段17は、隆線候補領域と判定された局所領域Lに含まれる多値指紋画像Mの画素に対する再二値化閾値ThdBINRを、閾値設定手段15で設定した二値化閾値よりもさらに高い値に設定することで、幅の広い汗腺孔領域についても、正しく隆線領域に区分できるようにする。
図5を用いてこの様子を説明する。図5(a)は、隆線の幅が太い場合の多値指紋画像Mにおいて、汗腺孔領域の画素を着目画素Cとして局所領域Lを設定した場合の様子を示し、図5(b)は、図5(a)のE−E’における局所領域Lの画素値プロファイルの概略を示す。図5(b)のグラフの横軸は位置座標を表し、縦軸は画素値を表す。なお図3、図4と同様に、図5(a)において、300は谷線領域、310は隆線領域、330は幅の広い汗腺孔領域を示す。
【0039】
具体的には、局所領域設定手段13で設定された着目画素Cを中心とする局所領域Lについて、隆線候補領域判定手段14で隆線候補領域と判断された場合、閾値再設定手段17は、以下のように再二値化閾値ThdBINRを設定する。
ThdBIN = I+t×I (2)
ここでIは多値指紋画像Mの指紋領域全体の平均画素値であり、Iは平均画素値Iとその局所領域Lの平均画素値Iとの差(I=I−I)であり、tは1よりも大きい定数である。なお、局所領域Lが隆線候補領域であると判断された場合とは、二値化閾値ThdBINを設定する場合と同様、I>0の場合である。
(2)式より、図5(b)に示すように、(1)式により算出された二値化閾値ThdBINでは、幅の広い汗腺孔領域330に含まれる画素の画素値を上回ることができない場合でも、Iに加算する値をさらに高めた再二値化閾値ThdBINRであれば、その画素値よりも高くなるように設定することができる。そのため、幅の広い汗腺孔領域330についても、正しく隆線領域に区分することが可能となる。
なお、(2)式における定数tは、t>2であることが好ましい。幅の広い汗腺孔領域330が局所領域中に含まれると、相対的に局所領域中の平均画素値Iの値が高くなって指紋領域全体の平均画素値Iとの差Iが小さくなり、tの値が小さいと再二値化閾値ThdBINRを十分に高く設定することができないためである。またtの上限については特に制限はないが、再二値化閾値ThdBINRが多値指紋画像Mにおける指紋領域内の最大画素値を超える場合、全ての画素が再二値化閾値ThdBINRよりも低い画素値を有することになるため、実質上隆線候補領域=隆線領域とすることになる。本実施形態では、t=5とした。
さらに、(2)式の定数tは、隆線領域の幅が広くなるにつれて高い値となるように、隆線の幅Wの関数としてもよい。
【0040】
一方、閾値再設定手段17は、隆線候補領域判定手段14が局所領域Lを隆線候補領域ではないと判定した場合、二値化閾値ThdBINと同様に再二値化閾値ThdBINR=Iと設定する。或いは、隆線候補領域判定手段14が局所領域Lを隆線候補領域ではないと判定した場合、閾値再設定手段17は、(2)式を用いて再二値化閾値ThdBINRを算出してもよい。さらに、局所領域Lが隆線候補領域の場合とそうでない場合とで、定数tの値を変更してもよい(ただしt>1)。このように、非隆線候補領域についても(2)式を用いて再二値化閾値ThdBINRを算出することにより、再二値化閾値ThdBINRが二値化閾値ThdBINより低い値に設定されるので、ノイズが加わった場合でも谷線領域を誤って隆線領域に区分することを防止できる。
再二値化閾値ThdBINRが算出されると、二値化手段18は二値化閾値ThdBINの代わりに再二値化閾値ThdBINRを用いて、着目画素Cに相当する二値指紋画像B中の対応画素の画素値Bを決定する。そして再度二値指紋画像Bを生成する。
上記に説明したように、図5に示す如く隆線が太いことに起因して汗腺孔領域330の画素値が高く、二値化閾値ThdBINによる二値化では汗腺孔領域330を隆線領域に区分できない場合であっても、再二値化処理によって汗腺孔領域330を隆線領域310に正しく区分することができ、且つ谷線領域を誤って隆線領域310に区分することを防止できる。
【0041】
穴埋め手段19は、再二値化が実行された場合、再度生成された二値指紋画像Bの谷線画素を着目画素C’として、その周囲の画素との間で多数決フィルタ処理を行う。多数決フィルタ処理を行うことにより、穴埋め手段19は、孤立点として残った汗腺孔領域を、隆線領域に修正する。
具体的には、穴埋め手段19は、二値指紋画像B内の任意の谷線画素(すなわち、画素値=255の画素)を着目画素C’とする。そして、着目画素C’を中心とする8近傍のうち、n画素以上が隆線画素(すなわち、画素値=0の画素)である場合、着目画素C’の画素値を隆線画素値に修正する。なお、本実施形態においては、一例としてn=5とした。これは、2〜3画素程度の集団で孤立した谷線画素も隆線画素に修正できるようにするためである。しかし、nの値として5よりも大きい他の値も使用することができる。
【0042】
穴埋め手段19は、上記の処理を二値指紋画像B内の全ての谷線画素について行い、二値指紋画像Bに残った谷線領域の孤立点と判定された汗腺孔領域を隆線画素に修正する。
なお、穴埋め手段19は、多数決フィルタ処理を行う代わりに、モルフォロジー演算のクロージング演算をおこなってもよい。
【0043】
なお、上記において、指紋画像生成装置1では、予めムラ補正された多値指紋画像Mに基づいて二値指紋画像Bを生成することが好ましい。
また、隆線候補領域判定手段14が、局所領域Lが隆線候補領域か否かを判定する手順は上記に限られない。例えば、隆線候補領域判定手段14は、指紋画像の全体領域の平均画素値Iと局所領域Lの平均画素値Iの比I(=I/I)を判定基準として用いてもよい。この場合、隆線候補領域判定手段14は、I>1であれば局所領域Lを隆線候補領域と判定する。一方、I≦1であれば、隆線候補領域判定手段14は、局所領域Lを隆線候補領域ではないと判定する。
また、二値化閾値ThdBINは、上記のものに限られない。例えば、二値化閾値ThdBINは、Iが正の場合、予め定めた所定値C(ただしC>0)をIに加えるようにしてもよい。
【0044】
また、上記では、二値化閾値ThdBINを決定するための判断基準として、局所領域Lの平均画素値Iを局所代表値として使用したが、他の基準を用いて二値化閾値ThdBINを決定してもよい。例えば、局所領域L内の画素値の中央値Iを、平均画素値Iの代わりに局所代表値として使用することができる。あるいは、局所領域L内の画素値を加重平均して算出した重み付き平均画素値Iを平均画素値Iの代わりに使用することができる。そのような重み付けは、経験的に適切なものを求めることができるが、例えばガウシアンフィルタ型の重み付けを使用することができる。さらに、ノイズによる悪影響を軽減するために、局所領域L内の最大画素値及び最小画素値を除いた残りの画素値を用いて平均画素値Iを算出するようにしてもよい。
【0045】
同様に、指紋画像生成装置1は、基準値として指紋画像全体の平均画素値Iを使用する代わりに、指紋画像の周辺部を除いた残りの領域の平均値I’を使用することもできる。さらに、予め定めた一定の画素値を基準値として使用することもできる。ただし、予め定めた一定の画素値を基準値とてして使用する場合には、多値指紋画像Mが一定の許容範囲内の画素平均値及び分散を有するように正規化されていることが好ましい。
さらに、上記では、着目画素C毎に局所領域Lを設定し、隆線候補領域か否か判定した上で二値化閾値ThdBINを算出していたが、一度局所領域Lを設定し、二値化閾値ThdBINを算出すると、局所領域L内の複数の画素に対してその二値化閾値ThdBINを用いるようにしてもよい。このようにすることで、平均画素値Iの算出回数を減らせるため、二値化指紋画像Bの生成に要する時間を短縮することができる。
【0046】
また、上記の実施形態では、一旦二値指紋画像Bを生成した後に、隆線の幅Wが所定の閾値Thdよりも広い場合にはさらに高い値を有する再二値化閾値を用いて再度二値指紋画像Bを生成するように構成した。しかし、予め多値指紋画像Mに対応した隆線幅情報(隆線の幅W)を取得し、その値によって二値化閾値ThdBIN(又はThdBINR)を設定することにより、一度の二値化で二値指紋画像Bを生成するようにしてもよい。この場合、隆線領域の幅Wが所定の閾値Thdを超えたときは上記の閾値再設定手段17で二値化閾値ThdBINRを算出し、隆線領域の幅Wが所定の閾値Thd以下のときは閾値設定手段15で二値化閾値ThdBINを算出するように構成し、何れか算出された方の二値化閾値を用いて二値化を行うように構成してもよい。あるいは、二値化閾値の設定について、上記(2)式の定数tを隆線の幅Wの関数t(W)で置き換えた別の二値化閾値設定手段のみを使用するようにしてもよい。この場合、関数t(W)は、隆線の幅Wが標準的な値の場合には、t(W)=1とし、隆線の幅Wが広くなるにつれて大きな値となるようにすることが好ましい。例えば、上記のように指紋画像上で標準的な隆線の幅Wが3〜5画素で、太い隆線の幅Wが6〜8画素の場合、W=3のときt(W)=1とし、以降Wの値が1画素増えるにつれて、t(W)も1ずつ大きな値を取るような関数(t(W)=W−2)とすることができる。
【0047】
なお上記のように、一度の二値化で二値指紋画像Bを生成する場合には、隆線の幅Wの算出に二値指紋画像Bを使用することができない。そこで隆線幅取得手段16は、隆線画素連続合計数Nsum及び隆線合計数N算出の際、二値指紋画像Bの代わりに多値指紋画像Mを使用する。そして隆線幅取得手段16は、多値指紋画像Mの指紋領域全体の平均画素値I以下の画素値を有する画素を、二値指紋画像Bの隆線画素の代わりに使用する。また、画像入出力部10にて、多値指紋画像Mとともに対応する隆線幅情報(隆線の幅Wのデータ)を入力する構成とし、隆線幅取得手段16をこのデータから隆線の幅Wを取得するように構成してもよい。
【0048】
次に、図7〜図10を参照して、本発明を適用した第1の実施形態である指紋画像生成装置1の動作を説明する。
図7〜図10は、指紋画像生成装置1の二値指紋画像Bの生成についての動作フローチャートである。そして、指紋画像生成装置1は、画像生成部11内のCPUがプログラムにしたがって制御することにより、以下に説明する動作を実行する。
【0049】
図7に示すように、指紋画像生成装置1の画像生成部11は、まず、画像入出力部10から多値指紋画像Mを取得する(ステップS101)。そして、取得した多値指紋画像Mを、画像生成部11の構成要素であるRAMに一時的に格納する。また、生成する二値指紋画像Bの大きさに相当するメモリ領域を確保し、初期化する。次に、画像生成部11の基準値設定手段12は、多値指紋画像Mの指紋領域全体の平均画素値Iを算出し、画像生成部11のRAMに一時的に記憶する(ステップS102)。次に、画像生成部11の局所領域設定手段13は、多値指紋画像Mから着目画素Cを設定する(ステップS103)。さらにその着目画素Cを中心として局所領域Lを設定する(ステップS104)。その後、画像生成部11の隆線候補領域判定手段14は、RAMに格納されている多値指紋画像Mのうち、局所領域Lに相当する画素の値を参照して局所領域L内の平均画素値Iを算出する(ステップS105)。そして隆線候補領域判定手段14は、画像生成部11のRAMに格納されている指紋画像全体の平均画素値Iを参照し、局所領域L内の平均画素値Iとの差分値I(=I−I)を算出する(ステップS106)。
【0050】
次に、図8に示すように、隆線候補領域判定手段14は、局所領域Lが主に隆線領域に相当するのか、谷線領域に相当するのかを判定するために、差分値Iが正か否かを調べる(ステップS107)。そして隆線候補領域判定手段14は、差分値Iが正の場合、局所領域Lは隆線領域上に設定されている可能性が高いため、隆線候補領域であると判定する。そして画像生成部11の閾値設定手段15は、上記の(1)式にしたがって、平均画素値Iよりも高い値となるように二値化閾値ThdBIN(=I+I)を決定する(ステップS108)。一方、ステップS107において、隆線候補領域判定手段14は、差分値Iが0以下の場合、局所領域Lは隆線候補領域ではないと判定する。そして画像生成部11の閾値設定手段15は、平均画素値Iを二値化閾値ThdBIN(=I)に決定する(ステップS109)。上述したように、隆線候補領域と同様、上記の(1)式にしたがって、平均画素値Iよりも低い値になるように二値化閾値ThdBINを決定してもよい。
【0051】
二値化閾値ThdBINが決定されると、画像生成部11の二値化手段18は、着目画素Cの画素値Iと、二値化閾値ThdBINを比較する(ステップS110)。そして、着目画素Cの画素値Iが二値化閾値ThdBIN未満であれば、二値指紋画像Bにおける、着目画素Cに対応する画素の画素値Bを隆線画素値に設定するため、画像生成部11のRAMに確保した二値指紋画像Bのメモリ領域の画素Bに対応するメモリアドレスに値‘0’を書き込む(ステップS111)。一方、ステップS110において、着目画素Cの画素値Iが二値化閾値ThdBIN以上であれば、二値指紋画像Bにおける、着目画素Cに対応する画素の画素値Bを谷線画素値に設定するため、RAMの画素Bに対応するメモリアドレスに値‘255’を書き込む(ステップS112)。
【0052】
その後、画像生成部11は、多値指紋画像M中の全ての画素について、ステップS103〜S112の処理を終えたか否かを判定する(ステップS113)。何れかの画素について、処理が終了していなければ、制御をステップS103の前へ戻す。そして未だ処理を終えていない画素の何れかを新たに着目画素Cに設定する。
【0053】
一方、ステップS113において、全ての画素について処理を終えていれば、画像生成部11は、二値指紋画像Bの生成を一旦終了する。
次に、図9に示すように、画像生成部11の隆線幅取得手段16は、一旦生成された二値指紋画像Bに基づいて隆線の幅Wを算出する(ステップS114)。隆線の幅Wが算出されると、隆線幅取得手段16は、隆線の幅Wと所定の閾値Thdを比較する(ステップS115)。隆線幅Wが閾値Thd未満であれば、隆線幅取得手段16は、再二値化は必要なしと判断し、生成された二値指紋画像Bを最終的な出力画像とする。そして画像生成部11は、画像入出力部10を通じて、二値指紋画像Bを出力する(ステップS116)。その後指紋画像生成装置1は処理を終了する。
【0054】
一方、隆線幅Wが閾値Thd以上であれば、隆線幅取得手段16は、上記二値化処理では、誤って谷線領域に区分されてしまった汗腺孔領域が存在する可能性があるため(図3(c)(d)及び図5を参照)、再二値化が必要と判断する。
この場合、画像生成部11は、ステップS103〜S113と同様の処理であるステップS117〜S127を実行し、二値化閾値を変えて二値化をやり直す。すなわち、画像生成部11の局所領域設定手段13は、多値指紋画像Mから着目画素Cを設定し(ステップS117)、着目画素Cを中心として局所領域Lを設定する(ステップS118)。次に、局所領域L内の平均画素値Iを算出する(ステップS119)。そして指紋画像全体の平均画素値Iと、局所領域L内の平均画素値Iとの差分値I(=I−I)を算出する(ステップS120)。
【0055】
次に、図10に示すように、隆線候補領域判定手段14は、差分値Iが正か否かを調べる(ステップS121)。そして隆線候補領域判定手段14は、差分値Iが正の場合、局所領域Lは隆線領域上に設定されている可能性が高いため、隆線候補領域であると判定する。そして画像生成部11の閾値再設定手段17は、上記の(2)式にしたがって、平均画素値Iよりも高く、且つ先に算出した二値化閾値ThdBIN(=I+I)よりも高い値となるように再二値化閾値ThdBINR(=I+t×I(ただしt>1))を決定する(ステップS122)。一方、ステップS121において、差分値Iが0以下の場合(すなわち、局所領域Lは隆線候補領域ではないと判定された場合)、閾値再設定手段17は、平均画素値Iを再二値化閾値ThdBINR(=I)に決定する(ステップS123)。上述したように、隆線候補領域と同様、上記(2)式にしたがって、平均画素値よりも低く、且つ先に算出した二値化閾値ThdBIN(=I+I)よりも低い値になるように、再二値化閾値ThdBINR(=I+t×I)を決定してもよい。
【0056】
再二値化閾値ThdBINRが決定されると、画像生成部11の二値化手段18は、着目画素Cの画素値Iと、再二値化閾値ThdBINRを比較する(ステップS124)。そして、着目画素Cの画素値Iが再二値化閾値ThdBINR未満であれば、二値指紋画像Bにおける、着目画素Cに対応する画素の画素値Bを隆線画素値に設定するため、画像生成部11のRAMに確保した二値指紋画像Bのメモリ領域の対応するメモリアドレスに値‘0’を上書きする(ステップS125)。一方、ステップS124において、着目画素Cの画素値Iが再二値化閾値ThdBINR以上であれば、二値指紋画像Bにおける、着目画素Cに対応する画素の画素値Bを谷線画素値に設定するため、RAMの対応するメモリアドレスに値‘255’を上書きする(ステップS126)。
【0057】
その後、画像生成部11は、多値指紋画像M中の全ての画素について、ステップS117〜S126の処理を終えたか否かを判定する(ステップS127)。何れかの画素について、処理が終了していなければ、制御をステップS117の前へ戻す。そして未だ処理を終えていない画素の何れかを新たに着目画素Cに設定する。
【0058】
一方、ステップS127において、全ての画素について処理を終えていれば、画像生成部11の穴埋め手段19は、上記にしたがって谷線画素を順次着目画素C’として多数決フィルタ処理を行い、谷線領域の孤立点を隆線領域に変更する(ステップS128)。全ての谷線画素について多数決フィルタ処理を終えると、画像生成部11は、二値指紋画像Bの更新を終了する。そして、画像入出力部10を通じて、二値指紋画像Bを出力する(ステップS129)。そして指紋画像生成装置1は処理を終了する。
【0059】
なお、上記の動作フローにおいて、処理を高速化するために、画像生成部11は、ステップS105及びS106で算出した各局所領域Lの平均画素値I及び指紋領域全体の平均画素値IとIの差Iを、それぞれRAMに一時的に記憶するようにしてもよい。この場合、画像生成部11は、再二値化を行う際、着目画素Cが設定されると、ステップS119及びS120の処理を行う代わりに、その着目画素Cに対応するI及びIをRAMから取得して使用することができる。
【0060】
以上説明してきたように、本発明を適用した第1の実施形態である指紋画像生成装置1は、多値指紋画像Mの指紋領域全体の画素値から求めた基準値と、隆線領域又は谷線領域の一部を含む局所領域Lから求めた局所代表値との比較結果に基づいて、局所領域Lが隆線領域に相当する可能性が高いか否かを判定する。そして、局所領域Lが隆線領域に相当する可能性が高い場合(隆線候補領域である場合)には、二値化閾値ThdBINを基準値よりも高い値に設定し、一方局所領域Lが隆線領域に相当しないと考えられる場合には、二値化閾値ThdBINを基準値(若しくは基準値以下)に設定することで、汗腺孔領域を正しく隆線領域に区分しつつ、谷線領域を誤って隆線領域に区分することのない二値指紋画像を生成することができる。
さらに、隆線の幅Wが広い場合には、隆線候補領域に対してのみ、より高い再二値化閾値ThdBINRを適用して再度二値化を行うことで、幅の広い汗腺孔領域が存在する場合にも、谷線領域を誤って隆線領域に区分することなく、汗腺孔領域を正しく隆線領域に区分することができる。
【0061】
次に、本発明を適用した第2の実施形態である指紋認証装置について、図を参照しつつ説明する。
図11は、本発明を適用した第2の実施形態である指紋認証装置2の機能ブロック図である。図11に示すように、指紋認証装置2は、操作・表示部21、指紋入力部22、記憶部23、処理部24及び出力部32を有する。そして、指紋認証装置2は、操作・表示部21において指紋認証を行う操作者に対する操作ガイダンス及び情報の表示を行い、そのガイダンスにしたがって指紋入力部22に置かれた指から入力指紋を読み取って多値指紋画像Mを生成する。そして、生成した多値指紋画像Mは処理部24に送られる。処理部24は、受け取った多値指紋画像Mに対してムラ補正を行い、そのムラ補正済みの多値指紋画像Mに基づいて二値指紋画像を生成し、さらに二値指紋画像の細線化を行う。なお、二値指紋画像の生成については、上記の指紋画像生成装置1の画像生成部11と同様の処理を行う。
【0062】
その後、処理部24は、細線化された二値指紋画像に基づいて特徴抽出を行って特徴点リスト(以下、入力特徴点リストという)Fを作成する。さらに処理部24は、その指紋画像から作成した入力特徴点リストFを、記憶部23に予め登録されているその操作者の識別番号INと関連付けられた特徴点リスト(以下、登録特徴点リストという)Fと照合する。照合結果は出力部32を介して出力される。出力部32には、例えば電気錠の施解錠制御装置が接続される。そして、電気錠の施解錠制御装置は、出力部32から受信した照合結果が認証に成功したことを示す信号であれば、電気錠の解錠を行い、逆に認証に失敗したことを示す信号であれば、電気錠の施錠を維持する。
【0063】
本発明を適用した第2の実施形態である指紋認証装置2は、指紋画像全体の平均画素値Iと局所領域L内の平均画素値Iの差に基づいて二値化閾値ThdBINを調節することにより、汗腺孔領域を誤って谷線領域に区別することなく、正しく隆線領域に区分した二値指紋画像を生成することができる。さらに隆線幅が広い場合には、隆線領域である可能性の高い隆線候補領域に対して、二値化閾値ThdBINよりも高い値を有する再二値化閾値ThdBINRを用いて再二値化することにより、幅の広い汗腺孔領域が存在しても正しく隆線領域に区分した二値指紋画像を生成することができる。そのため指紋認証装置2は、擬似特徴点を抽出するリスクを低減することができる。その結果として、指紋認証装置2は、高い認証精度を達成することができる。
【0064】
以下、指紋認証装置2の各部について詳細に説明する。
操作・表示部21は、指紋認証装置2の操作者、すなわち被照合者が、識別番号INの入力、行いたい動作の選択(例えば、特定の部屋への入室)などの操作を行うものである。また操作・表示部21は、操作のガイダンスを表示又は音声指示するものであり、タッチパネルディスプレイとスピーカで構成される。また、タッチパネルの代わりに、キーボード又はマウスのような入力デバイスと液晶ディスプレイのような単純な表示デバイスで構成してもよい。なお、ガイダンスの音声指示を行わない場合には、スピーカを省略してもよい。
操作・表示部21で入力された識別番号INなどのデータは、処理部24で呼び出す登録指紋データの特定などに使用される。
【0065】
指紋入力部22は、照合処理に使用する指紋画像を生成するものであり、載置された指を撮像してデジタル信号に変換するCCDカメラをモジュール化した指紋センサ、指紋センサへの指の載置を検出する載置センサ、撮像時に指を照明するLED、操作者に指の載置位置を正しく認識させるための指ガイド部材を有する。本実施形態では、一例として指紋センサとして指内部特性検出型光学式のものを使用した。しかし、本発明で使用可能な指紋センサはこれに限られない。例えば、指紋センサとして、全反射法光学式、光路分離法光学式、表面突起不規則反射式などの光学式センサ、静電容量式、電界式、感圧式、超音波方式などの非光学式センサを使用してもよい。
【0066】
指紋入力部22では、載置センサが指紋センサ上に指が載置されたことを検出すると、指紋センサがその指を撮像し、入力指紋の多値指紋画像Mを生成する。本実施形態では、上記の第1の実施形態の場合と同様に指紋画像の各画素は0−255の256階調で表され、指紋の隆線領域は画素値が低く(若しくは黒く)、指紋の谷線領域は画素値が高く(若しくは白く)表現される。
【0067】
記憶部23は、予め登録された操作者の識別番号INと登録特徴点リストFを関連付けた登録指紋データを記憶するものであり、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリ、ハードディスクなどの磁気記録媒体、CD−ROM、DVD−R/Wなどの光記録媒体を有する。
【0068】
登録特徴点リストFは、予め登録された利用者の指紋画像から作成した特徴点リストであり、隆線の分岐点、端点などの各特徴点の位置をリスト形式にしたものである。登録特徴点リストFは、後述する処理部24による入力特徴点リストFの作成と同じ方法で作成される。特徴点リストの詳細及び作成方法については、後述する。
【0069】
また記憶部23は、処理部24が使用するプログラム、各種設定ファイル、パラメータなども記憶する。これらは、指紋認証装置2の起動時など、所定のタイミングで必要に応じて処理部24により読み出される。
【0070】
処理部24は、指紋入力部22から取得した指紋画像と記憶部23から取得した登録特徴点リストに基づいて指紋の照合を行うものであり、中央演算装置(CPU)、数値演算プロセッサ、ROM又はRAMのような半導体メモリなどで構成される。また処理部24は、記憶部23から読み込まれたプログラムにしたがって、所定の動作を実行する。さらに処理部24は、操作・表示部21、指紋入力部22、記憶部23、及び出力部32と接続されており、それら各部に所定の制御信号を出力して制御を行う。また処理部24は、指紋の照合及び各部の制御を行うために、制御部25、画像補正部26、特徴抽出部30及び照合部31を有する。
【0071】
処理部24は、操作・表示部21から操作者の識別番号INが入力されると、その識別番号IN(以下入力識別番号という)が記憶部23に登録されているか否か探索する。そして処理部24は、一致する識別番号INが登録されていれば、その入力識別番号INと関連付けられた登録特徴点リストFを記憶部23から読み出す。また処理部24の画像補正部26は、指紋入力部22から取得した多値指紋画像Mに対してムラ補正を行った後、そのムラ補正済みの多値指紋画像Mに基づいて二値指紋画像Bを生成する。さらに画像補正部26は、二値指紋画像Bに対して細線化を行い、細線化二値指紋画像Bを生成する。そして処理部24は、特徴抽出部30において、細線化二値指紋画像Bから入力指紋の入力特徴点リストFを作成する。入力特徴点リストFが作成されると、処理部24の照合部31は、入力特徴点リストFと登録特徴点リストFとに基づいて照合を行う。最後に処理部24は、認証に成功したか否かに関する照合結果を操作・表示部21に表示させ、また照合結果を示す信号を出力部32を介して電気錠制御装置など外部の機器へ出力する。
【0072】
以下、処理部24の各部について詳細に説明する。
制御部25は、記憶部23から読み込まれたプログラム及び操作・表示部21からの入力信号にしたがって、操作・表示部21、指紋入力部22、記憶部23及び出力部32の各部の制御、指紋画像など各種データの受け渡しなどを行う。また、制御部25は、処理部24内の画像補正部26、特徴抽出部30及び照合部31による処理を制御する。
【0073】
画像補正部26は、操作者の指紋画像から照合に利用する入力特徴点リストFを作成するために、多値指紋画像Mに前処理を施す。そのために、画像補正部26は、多値指紋画像Mの濃度ムラを補正するためのムラ補正部27、隆線領域と谷線領域とに二値化した二値指紋画像Bを生成する指紋二値化部28及び二値指紋画像Bの隆線領域を細線化して細線化二値指紋画像Bを生成する細線化部29を有する。なお、指紋二値化部28は、上記の指紋画像生成装置1の画像生成部11と同様の構成を有し、同様の処理を行って二値指紋画像Bを生成する。
【0074】
ムラ補正部27は、指を指紋入力部22に載置する際における、指の中央部の押圧力と周辺部の押圧力の差異などにより生じる多値指紋画像Mの濃度ムラを補正し、指紋画像全体の濃度を均一化する。
例えば、ムラ補正部27は、多値指紋画像Mを32×32画素程度の部分領域に分割し、各部分領域について平均画素値及び画素値の分散を算出する。そして、ムラ補正部27は、その平均画素値及び画素値の分散が、多値指紋画像M全体の平均画素値及び画素値の分散と略等しくなるように画素値を変換する(画像解析ハンドブックp.478、高木幹雄、東京大学出版を参照)。
【0075】
指紋二値化部28は、ムラ補正部27でムラ補正が行われた多値指紋画像Mに基づいて、隆線領域と谷線領域に二値化した二値指紋画像Bを生成する。なお、上記のように、指紋二値化部28は、指紋画像生成装置1の画像生成部11と同様の構成を有し、同様の処理を行って二値指紋画像Bを生成するので、ここでは詳細を省略する。
なお以下では、説明の便宜上、二値指紋画像B及び細線化二値指紋画像Bにおける隆線画素の値を‘0’、谷線画素の値を‘255’で表す。
【0076】
細線化部29は、指紋二値化部28で生成された二値指紋画像Bに対して、隆線領域を細線化するように細線化処理を行う。そして隆線領域が1画素の幅で連続する線となる細線化二値指紋画像Bを生成する。細線化部29は、例えば、隣接する複数の画素が‘0’の値を有する所定のマスクパターンを複数準備し、それらマスクパターンを順次適用して、何れかのマスクパターンに当てはまれば、その画素の画素値を‘0’から‘255’へ変換する方法を使用することができる。しかし、細線化部29は、上記の細線化方法に限られず、公知の種々の方法を使用することができる。
【0077】
特徴抽出部30は、画像補正部26において生成された細線化二値指紋画像Bに基づいて、特徴点を抽出し、入力特徴点リストFを作成する。ここで特徴点とは、隆線領域の端点、分岐点などである。
【0078】
図12は、細線化された指紋画像における特徴点の概略を示す。
図12において、黒く示された部分は細線化された隆線領域を表す。また、図12において、隆線領域の終端となっている部分900及び910が、隆線の端点であり、隆線が1本から2本に分岐している部分920が分岐点である。これらの特徴点の位置、数は、個人毎に異なるため、指紋の照合を行うための非常に有益な情報となる。
【0079】
特徴点を表す情報は、特徴点の種類(端点か分岐点か)、位置、方向、信頼度の各要素を有する。ここで端点Pは、例えば、隆線画素(すなわち、画素値‘0’)のうちで、且つ隣接する8近傍画素のうち、1画素だけが隆線画素である画素とすることができる。また分岐点Pは、隆線画素のうちで、隣接する8近傍画素のうち、3画素が隆線画素であり、且つそれら8近傍画素中の隆線画素同士が隣接していない画素とすることができる。また特徴点の位置は、端点P又は分岐点Pの細線化二値指紋画像B上の座標値(X,Y)で表される。ただしXは細線化二値指紋画像B上の水平方向座標値、Yは細線化二値指紋画像B上の垂直方向座標値である。
【0080】
特徴点の方向θは、その特徴点における隆線の方向を表す。また特徴点の方向θは、図12に示すように、例えば細線化二値指紋画像Bの水平方向軸と時計回りの方向になす角で表される。特徴点が端点Pの場合、特徴点の方向θは、その端点Pと隣接する隆線画素を結んだ直線と、細線化二値指紋画像Bの水平方向軸とのなす角として求めることができる。また特徴点が分岐点Pの場合、分岐点Pと、分岐点Pから2画素の距離にある隆線画素との線分を求める(そのような線分は3本あるはずである)。次に、それぞれの線分同士のなす角を求める。そして、最もなす角が狭い2本の線分の2等分線を求める。その2等分線と細線化二値指紋画像Bの水平方向軸とのなす角を特徴点の方向θとすることができる。なお、特徴点の方向θの求め方は上記に限られるものではなく、他の公知の方法を用いてもよい。
【0081】
特徴点の信頼度Tは、その特徴点の存在、位置、方向の信頼性を示す値である。例えば、指紋画像では、局所的に見ると複数の隆線が略平行に並んでいる。そのため、複数の特徴点が含まれる局所的な領域を考えると、その領域内では、それぞれの特徴点の方向θは、ほぼ同じ方向となる。そこで、以下のように信頼度Tを設定することができる。まず、着目する特徴点を中心とした局所的な領域(例えば、32×32画素程度)を設定する。次に、その局所的な領域中に含まれる各特徴点の方向θの平均値θavを算出する。そして、その平均値θavと、着目特徴点の方向θとの差の絶対値を信頼度とする。
なお、抽出する特徴量は、上記のものに限られない。例えば、各特徴点間の位置関係、隣接する特徴点間の間に存在する隆線又は谷線の本数などを特徴量として抽出してもよい。
特徴抽出部30は、上記のように一つの細線化二値指紋画像Bから抽出した特徴点のそれぞれについて、その特徴点の情報を予め定められた形式にしたがってリストとして作成する。
【0082】
照合部31は、操作者の指紋画像から特徴抽出部30において抽出した入力特徴点リストFと、記憶部23から読み出した登録特徴点リストFとを照合する。照合の具体的な方法として、特徴量の類似度を算出する公知の方法、例えばマニューシャ・マッチング法を使用することができる。具体的には、まず、入力特徴点リストFに含まれている幾つかの特徴点について、登録特徴点リストFに含まれている特徴点のいずれかとの位置の差の平均が最小となるような、座標値の平行移動量Δd及び回転補正角Δθを求める。そして、入力特徴点リストFに含まれる各特徴点に対して、その平行移動量Δd及び回転補正角Δθを加えて、入力特徴点リストFと登録特徴点リストFとを位置合わせする。
【0083】
次に、入力特徴点リストFに含まれる各特徴点について、登録特徴点リストFに含まれる各特徴点のうち、特徴点の種類が同じで、位置が最も近いものとの距離、方向の差の絶対値、信頼度に基づいて得点を算出する。この得点は、距離が近いほど高くなるように設定する。同様に、方向の差の絶対値が小さいほど、また信頼度が高いほど得点は高くなるように設定する。
【0084】
各特徴点についての得点が算出されると、照合部31は、その得点の合計を類似度Sとして算出する。そして、照合部31は、算出された類似度Sが予め定められた照合閾値Thdを超えていれば、認証に成功したと判定し(すなわち、操作者の指紋(入力指紋)は、登録されている指紋と一致する)、逆に算出された類似度Sが予め定められた照合閾値Thd以下であれば、認証に失敗したと判定する(すなわち、操作者の指紋は、登録されている指紋と一致しない)。
【0085】
出力部32は、指紋認証装置2と外部の機器(例えば、電気錠の施解錠制御装置)を接続し、信号の入出力を行うインターフェースであり、イーサネット(登録商標)、USB、SCSI、RS−232Cなどの規格に準拠した通信ポート、電子回路及びドライバソフトウェアなどで構成される。
出力部32は、処理部24の照合結果を示す信号などを外部機器に出力する。
【0086】
次に、本発明を適用した第2の実施形態である指紋認証装置2の動作を説明する。
図13は、指紋認証装置2における、指紋認証の動作を示すフローチャートである。なお、以下に説明する指紋認証装置2の動作は、処理部24に読み込まれたプログラムにしたがって、処理部24の制御部25により実行される。
【0087】
まず、指紋認証装置2は、例えば図示しない近赤外線センサなどにより、操作者の接近を検知すると、所定のガイダンスを操作・表示部21に表示し、操作者にそのガイダンスにしたがって指紋認証作業を行うよう促すとともに、指紋認証動作を開始する。
【0088】
最初に、指紋認証装置2は、操作・表示部21から操作者の入力識別番号INを取得する(ステップS201)。なお、操作者が識別番号INを入力する前に、指紋入力部22の載置センサが指を検知した場合には、指紋認証装置2は、操作・表示部21を通じて識別番号の入力を促すメッセージを表示する。次に、指紋認証装置2は、取得した入力識別番号INが記憶部23に登録されているか否か検索する(ステップS202)。入力識別番号INが記憶部23に登録されている場合、指紋認証装置2は、操作者の指紋画像を取得するために、指を指紋入力部22の所定位置に置くように操作・表示部21を通じて操作者に対するガイダンスを行う(ステップS203)。一方、ステップS202において、取得した入力識別番号INが登録されていなければ、指紋認証装置2は、操作・表示部21を通じて識別番号未登録のエラーメッセージを表示する(ステップS204)。そして、制御を最初に戻す。
【0089】
ステップS203の後、指紋入力部22の載置センサが指を検知すると指紋入力部22は操作者の多値指紋画像Mを取得する(ステップS205)。多値指紋画像Mを取得すると、処理部24の画像補正部26は、その多値指紋画像Mに対するムラ補正を行う(ステップS206)。その後、処理部24の画像補正部26は、二値指紋画像Bを生成する(ステップS207)。なお、二値指紋画像Bの生成手順は、上記の図7〜図10に示す指紋画像生成装置1の動作フローと同様である。その際、上記のように画像補正部26に含まれる指紋二値化部28が、多値指紋画像M中の隆線領域と谷線領域を区別するように二値化し、特に汗腺孔領域を隆線領域とするように二値化する。二値指紋画像Bが生成されると、画像補正部26の細線化部29は、隆線領域が細線化された細線化二値指紋画像Bを生成する(ステップS208)。
【0090】
ステップS208において、細線化二値指紋画像Bが生成されると、処理部24の特徴抽出部30は、その細線化二値指紋画像Bから隆線領域の端点P、分岐点Pなどの特徴点を抽出し、入力特徴点リストFを作成する(ステップS209)。そして、入力特徴点リストFが作成されると、処理部24は、記憶部23から入力識別番号INに関連付けられた登録特徴点リストFを読み出し、照合部31で入力特徴点リストFと登録特徴点リストFの類似度Sを算出する(ステップS210)。
【0091】
そして照合部31は、ステップS210において算出された類似度Sと所定の照合閾値Thdを比較する(ステップS211)。ステップS211において、類似度Sが照合閾値Thd以下の場合、処理部24は、認証に失敗したと判定する。そして指紋認証装置2は、操作・表示部21に認証に失敗したことを示すメッセージを表示する(ステップS212)。そして、再度操作者の指紋画像を取得するために、制御をステップS203の前に戻す。この後、しばらく経っても指の載置を検出できないときは、処理を終了させて待機状態に戻る。
【0092】
一方、類似度Sが照合閾値Thdよりも大きい場合、処理部24の照合部31は、認証に成功したと判定する。そして指紋認証装置2は、操作・表示部21に認証に成功したことを示すメッセージを表示するとともに、必要に応じて照合結果を示す信号を出力部32を通じて外部機器に送信する(ステップS213)。そして指紋認証装置2は、動作を終了する。
【0093】
なお、所定回数連続して認証に失敗した場合、指紋認証装置2は、操作・表示部21を通じて操作者に警告メッセージを表示するようにしてもよい。さらに指紋認証装置2は、そのような場合、出力部32を通じて、監視センタ(図示せず)などに指紋認証装置2自身の識別情報及び警告情報を通知するようにしてもよい。
【0094】
以上説明してきたように、本発明を適用した第2の実施形態である指紋認証装置2は、隆線領域上に存在する汗腺孔領域を正確に隆線領域に区分するように二値化した二値指紋画像Bを生成し、その二値指紋画像Bを細線化した細線化二値指紋画像Bに基づいて特徴点の抽出を行うので、誤って抽出される擬似特徴点の数を減らすことができる。また、擬似特徴点の数が少ないため、高い認証精度を達成することができる。
【0095】
なお、上記の実施形態では、指紋の隆線領域は画素値が低く(若しくは黒く)、指紋の谷線領域は画素値が高く(若しくは白く)表現されることとしたが、指紋センサとして光路分離法光学式を使用した場合のように、指紋の隆線領域は画素値が高く(若しくは白く)、指紋の谷線領域は画素値が低く(若しくは黒く)表現される場合でも本発明を適用することができる。この場合、上記の説明において画素値の大小を逆にする(例えば、〜以上という表現は〜以下と置き換える)ことで同様に取り扱うことができる。
【0096】
また、上記の実施形態では、指紋の照合を特徴点ベースの類似度に基づいて判定したが、本発明の指紋画像生成装置は、別の方法で指紋の照合を行う場合にも適用することができる。例えば、指紋の照合を指紋画像同士のパターンマッチングに基づいて行う場合にも本発明の指紋画像生成装置を適用することができる。この場合、入力指紋画像から本発明の指紋画像生成装置を適用して隆線と谷線に分離した二値画像を生成し、生成した二値画像を、予め登録された者の二値指紋画像とパターンマッチングを行い、一致度が所定の閾値を超えれば認証に成功したと判定することができる。
以上のように、本発明の範囲内で、実施される形態に合わせて様々な変更を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】(a)は、指紋画像を二値化した二値化画像の一部を概略的に示す図であり、(b)は、(a)の二値化画像に対して細線化処理を行った細線化画像を概略的に示す図である。
【図2】本発明を適用した第1の実施形態である指紋画像生成装置の機能ブロック図である。
【図3】(a)は隆線の幅が標準的な場合の多値指紋画像の一部領域の概略を示す図であり、(b)は(a)のA−A’における、隆線と谷線を横切る方向の画素値プロファイルの概略を示す図であり、(c)は隆線の幅が太い場合の多値指紋画像の一部領域の概略を示す図であり、(d)は(c)のB−B’における、隆線と谷線を横切る方向の画素値プロファイルの概略を示す図である。
【図4】(a)は、隆線の幅が標準的な場合の多値指紋画像の隆線領域とほぼ一致するように局所領域を設定した場合の様子を示す図であり、(b)は(a)のC−C’における局所領域の画素値プロファイルの概略を示す図であり、さらに(c)は、多値指紋画像の谷線領域とほぼ一致するように局所領域を設定した場合の様子を示す図であり、(d)は(c)のD−D’における局所領域の画素値プロファイルの概略を示す図である。
【図5】(a)は、隆線の幅が太い場合の多値指紋画像の隆線領域とほぼ一致するように局所領域を設定した場合の様子を示す図であり、(b)は(a)のE−E’における局所領域の画素値プロファイルの概略を示す図である。
【図6】(a)は、分割領域を垂直方向に走査して平均隆線幅Wを算出する場合の概略を示し、(b)は、分割領域を水平方向に走査して平均隆線幅Wを算出する場合の概略を示す図である。
【図7】本発明を適用した第1の実施形態である指紋画像生成装置における、細線化二値画像生成の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明を適用した第1の実施形態である指紋画像生成装置における、細線化二値画像生成の動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明を適用した第1の実施形態である指紋画像生成装置における、細線化二値画像生成の動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明を適用した第1の実施形態である指紋画像生成装置における、細線化二値画像生成の動作を示すフローチャートである。
【図11】本発明を適用した第2の実施形態である指紋認証装置の機能ブロック図である。
【図12】細線化された指紋画像における特徴点の概略を示す図である。
【図13】本発明を適用した第2の実施形態である指紋認証装置における、指紋認証の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0098】
1 指紋画像生成装置
10 画像入出力部
11 画像生成部
12 基準値設定手段
13 局所領域設定手段
14 隆線候補領域判定手段
15 閾値設定手段(第2の閾値設定手段)
16 隆線幅取得手段
17 閾値再設定手段(第1の閾値設定手段)
18 二値化手段
19 穴埋め手段
2 指紋認証装置
21 操作・表示部
22 指紋入力部
23 記憶部
24 処理部
25 制御部
26 画像補正部
27 ムラ補正部
28 指紋二値化部
29 細線化部
30 特徴抽出部
31 照合部
32 出力部
100 隆線領域
110 谷線領域
120、130 汗腺孔領域
140 隆線領域
150、160 擬似特徴点
300 谷線領域
310 隆線領域
320、330 汗腺孔領域
610 隆線領域
900、910 特徴点(端点)
920 特徴点(分岐点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指紋の凹凸が多値で表された多値指紋画像から隆線領域を表す隆線画素値と谷線領域を表す谷線画素値との二値で表された二値指紋画像を生成する指紋画像生成装置であって、
前記多値指紋画像に対応する隆線幅を取得する隆線幅取得手段と、
前記多値指紋画像の少なくとも一部の画素に対する第1の二値化閾値を、隆線幅が大きいほど隆線と判定し易い値に設定する第1の閾値設定手段と、
前記多値指紋画像を前記第1の二値化閾値にて二値化する二値化手段と、
を備えることを特徴とする指紋画像生成装置。
【請求項2】
さらに前記多値指紋画像を隆線画素値と谷線画素値の何れかに判定するための第2の二値化閾値を設定する第2の閾値設定手段を有し、
前記二値化手段は、前記多値指紋画像を前記第2の二値化閾値にて二値化して仮の二値指紋画像を生成し、
前記隆線幅取得手段は、前記仮の二値指紋画像に基づいて前記隆線幅を算出する、請求項1に記載の指紋画像生成装置。
【請求項3】
前記第1の閾値設定手段は、前記隆線幅が所定値以上の場合、前記多値指紋画像の少なくとも一部の画素に対する前記第1の二値化閾値を、前記第2の二値化閾値よりも前記隆線領域と判定し易い値に設定する、請求項2に記載の指紋画像生成装置。
【請求項4】
さらに前記多値指紋画像の全体領域に設定した局所領域が隆線候補領域であるか否かを判定する判定手段を有し、
前記第1の閾値設定手段は、前記隆線候補領域に含まれる画素を前記一部の画素として前記第1の二値化閾値を設定する、請求項1〜3の何れか一項に記載の指紋画像生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−206875(P2007−206875A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−23446(P2006−23446)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000108085)セコム株式会社 (596)
【Fターム(参考)】