説明

振動および音波輻射抑制のための能動型/受動型分布式吸収器

【課題】 家屋または商業用建物の壁または天井構成物の中に配置して遮音断熱効果を得る分布式振動吸収器を提供する。
【解決手段】 複数の互いに分離した個別のマスを全体に分布させた断熱遮音材料から成る弾性層を用いて振動または音波輻射の抑制を達成する。その弾性層をプリフォーム層として、または吹きつけで、振動または音波輻射抑制対象の構造物に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は概括的には振動吸収器に関し、より詳しくは、振動および音波輻射の抑制のための能動型/受動型の分布式振動吸収器に関する。
【背景技術】
【0002】
能動型および受動型の騒音抑制技術は周知であり、航空機などの振動体における振動およびそれに伴う音波の輻射を軽減したり抑制したりするために用いられている。多くの場合、能動型の騒音軽減技術で振動および騒音は十分に軽減されるが、高コストで複雑な抑制システムを要する。同様に、受動型の騒音軽減技術も振動および騒音を軽減するものとして知られているが、それら受動型のシステムは通常大型であって重量が大きく、低周波数の振動には効果がない。
【0003】
基本的に能動型の振動抑制システムは振動体からの振動または騒音を検出するセンサを用いる。そのセンサが振動または騒音を信号に変換し、その信号を反転して増幅する。反転した信号を次にアクチュエータ(すなわちスピーカ)に饋還し、そのアクチュエータから前記反転した信号を振動体に供給して振動または騒音を抑制する。能動型の抑制システムは通常は1000Hz以下などの低い周波数に有効である。
【0004】
この能動型抑制システムを適切に利用するためには、その能動型抑制システムの機能の発揮に適切なセンサおよびアクチュエータを選ぶことが重要である。すなわち、適切でないセンサまたはアクチュエータを選んだ場合は、この能動型抑制システムは信号の反転および増幅を適切に行うことができず、したがって振動体の振動および騒音を十分に軽減することができない。また、センサおよびアクチュエータを、相互間の関係および振動体の振動との関係を適切に保った状態で振動体に適切に位置づけることも、この能動型振動抑制システムの機能発揮に重要である。例えば、センサおよびアクチュエータの上記位置づけが適切でなければ、振動体の振動の消去をもたらすための反転信号の適切な増幅ができなくなる。また、信号反転の可能な適切な饋還回路を設けることも非常に重要である。すなわち、饋還回路によって振動抑制の効果および周波数範囲が決まるからである。
【0005】
能動型抑制システムと対照的に、受動型抑制システムはより単純でコスト安であるのが普通である。しかし、その種の抑制システムは嵩張り、通常は500Hz以上の周波数だけで効果を発揮する。この種のシステムが振動体の振動の波長と同程度の寸法になるのはそのような比較的高い周波数においてである。
【0006】
能動型振動抑制システムと受動型振動抑制システムとを組み合わせることも振動抑制システムの具体化の際に通常行われている。しかし、そのような能動型/受動型混成振動抑制システムが受動型システム以上の減衰量改善を得るには、抑制のためのエネルギーを追加する必要がある。
【0007】
振動体の振動を抑制するためのもう一つの手法として点調整型の振動吸収器がある。しかし、点調整型の吸収器が抑制できる振動は一つの周波数だけであり、したがって振動体の広い領域にわたる振動の抑制についてはその機能は限られたものとなる。
【0008】
【特許文献1】US 5 485 053
【特許文献2】US 5 719 945
【特許文献3】US 6 958 567
【特許文献4】US 5 968 645
【特許文献5】US 6 645 435
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の目的は、分布式の能動型振動吸収器および分布式の受動型振動吸収器を提供することである。
【0010】
この発明のもう一つの目的は、振動を検出するセンサと、抑制信号を抽出するメカニズムと、この抑制信号を用いて振動吸収器の正饋還抑制や負饋還抑制を行うメカニズムとを含む分布式の能動型振動吸収器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明によると、複数の共振層を有する分布式能動型振動吸収器が得られる。一つの実施例では、好ましくは単位面積あたりの剛性の小さい能動型弾性層を第1層に含める。第2層はマス層であり、上記能動型弾性層の波状部の各々の頂部に接着してある。これら能動型弾性層とマス層との組合せにより共振層を構成する。複数の共振層を互いに積層して、これら共振層には同一または互いに異なる寸法および形状(例えば、玉軸受、薄い長方形平板など)のセグメント化したマス(互いに結合されておらず、一体化「層」を形成しないマス)を備えることができる。もう一つの実施例では、上記能動型または受動型の振動層に、発泡体、硝子繊維、ウレタン、ゴムなどの弾性材料を備え、上記マス層をその弾性材料の中に分布させるか弾性材料の表面に貼り付ける。マス層は互いに異なる寸法、厚さおよび形状のセグメント化マス部分で構成することもできる。また、上記弾性材料の中に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、圧電性セラミックその他のエレクトロメカニカルデバイスなどのアクチュエータを埋め込むこともできる。
【0012】
上記能動型弾性層の剛性は小さく、主平面と垂直な方向への動きを可能にする。また、この能動型弾性層はその主平面と垂直な方向への動きを生ずるように電気的に駆動できる。これによって、マス層の動きを制御器により誘発したり変化させたりすることができ、システム全体の動的特性の改善を達成することができる。これら二つの組合せ層は、その主構造および剛性に応じてある共振周波数、すなわち、好ましくはその主構造の共振周波数近傍の共振周波数を備える。
【0013】
上記能動型弾性層は曲がったポリフッ化ビニリデン(PVDF)層で構成できるが、圧電性セラミック、PZTゴム、エレクトロメカニカルデバイスなどでも同様に構成できる。また、この能動型弾性層を完全に曲がったPVDFで構成し、波状部を円柱状にして管状体でマス層を保持するようにすることもできる。この能動型弾性層の表面には電圧印加によりこの弾性層を活性化できるように第1および第2の電極を設ける。電圧印加により弾性層内に電界を生ずる。この電界の影響により機械的に伸縮する圧電性材料でこの能動型弾性層を構成することもこの発明は想定している。そのために、マス層の二つの面の間の距離は電界印加時の弾性層伸縮の際に変化する。
【0014】
マス層の重さは上記振動構造物全体の重さの約10%以下とし、その厚さは振動構造物の単位面積あたりの重さに比例した値にするのが好ましい。しかし、マス層の重さを振動構造物全体の10%以上にすることもできる。また、小振幅のモード寄与を示す振動構造物の場合に比べて大振幅のモード寄与を示す振動構造物の場合のマス層面積を大きくすることもこの発明は想定している。
【0015】
このマス層は一定の厚さで一定の質量の層にすることもでき、振動体のモード寄与に応じて変えた厚さで一定の質量の層にすることもできる。とくに可変の厚さの場合は振動構造物の局部的に変わる応答特性にマス層を整合させるのが好ましい。
【0016】
また、この振動構造物の変動し得る応答特性への整合を容易にするために、このデバイスの軸方向にマス層をセグメント化することもできる。
【0017】
さらに他の実施例では、上記能動型弾性層をこの層の軸方向の動きを防ぐように互いに接着した複数のプラスチック薄板で構成することもできる。
【発明の効果】
【0018】
したがって、この分布式能動型振動吸収器(DAVA)は不要振動や不要音波を軽減するように機械的にも電気的にも調整できる。第1の層は剛性の小さい能動材料で構成し、より密度の高い材料で構成した第2の層の動きを可能にする。複数の共振周波数を有する複数の層で構成できるこれらの層、または互いにセグメント化した複数の層を、運動エネルギー再分割の大域的変化を生ずるように設計することもできる。さらに、この発明の分布式能動型振動吸収器(DAVA)は複数の周波数にわたって振動体構造の全領域または大きい領域について振動を抑制することができ、電気的に駆動できる。
【0019】
もう一つの好ましい実施例では、この発明は振動体構成の広い領域にわたって振動および音波輻射を抑制する振動吸収器であって、分布式弾性素子(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、圧電性セラミック、金属、重合体、エレクトロメカニカルデバイスなど)、すなわち前記振動体構成の領域沿いにそれぞれ分布させた分布式弾性素子と関連づけた少なくとも二つのマスのマトリクスを含み、それら分布式弾性素子と関連づけたそれぞれのマスを前記振動体構成から間隔を隔てて配置した振動吸収器を提供する。
【0020】
さらにもう一つの実施例では、この発明は振動吸収器を製造する方法であって、少なくとも、振動吸収に用いる際の対象周波数を特定する過程と、複数のマス(例えば、6グラム乃至8グラムの範囲の重量のマスなど)を一つのブランケット(例えば、全部同質の材料で構成したブランケット、または特定の位置に少なくとも一つのマスを配置した複数の層から成る層状のブランケットなど)の中の多様な厚さ方向位置および多様なマス相互間間隔で上記ブランケットを上記対象周波数に最適調整できるように配置する過程とを含む方法を提供する。オプションとして、この発明の振動吸収器製造方法には層の厚みや層の形状を変える過程を含めることもできる。また、オプションとして、上記マスを上記ブランケットの中に結合剤で挿入することもできる。さらにまた、別のオプションとして、上記マスを上記ブランケットの中に機械的に挿入することもできる。この振動吸収器製造方法の好ましい実施例では、上記マスを含む形成ずみの振動体吸収器の重量は16平方フィートあたり約300乃至400グラムの範囲とする。振動吸収器製造においては、多様な大きさおよび多様な重量のマスをブランケットに含めることができる。
【0021】
さらに他の実施例の振動吸収器は発泡材料の立体で構成し、その立体のx−y平面方向の特定の複数の位置およびz(深さ)方向の特定の複数の位置に複数のマスをそれぞれ配置する。それら特定のx−y平面方向の位置およびz軸方向の位置におけるその発泡材料の物理的または化学的属性によって、上記対象周波数における振動の抑制が可能になる。上記発泡材料の立体は複数の発泡材料層の積層体として形成することもできる。その場合は、別々の層の別々の位置に複数のマスを分布させることができる(その結果、z軸方向(深さ)の位置も別々になる)。また、上記発泡材料立体に複数の開孔を形成してそれら開孔に複数のマスを挿入し、そのあとで被覆材料で開孔を閉じることもできる。それら開孔をスリットとし、マス挿入後に追加の被覆材なしに発泡剤そのもので被覆することもできる(いずれにしても、マスを覆う被覆材は不可欠でなく、種々の手法を採用できる)。以下の実施例では発泡材料の単一の面に開孔を設けているが、これら開孔を裏側の面に形成できることは容易に理解されよう。上記マスとしては、金属材料(鉛、鋼鉄など)や非金属材料(ゲル、液体、繊維など)など広範囲の材料を選ぶことができる。
【0022】
この発明のもう一つの実施例では、例えば壁構成物または天井構成物の断熱および遮音材料としてこの振動吸収器を用いる。その実施例では、例えば、家屋または商業用建物の壁構成物または天井構成物の中の間柱の間に配置する遮音材または断熱材の中に複数のマスを分布させる。それらマスの分布は、製造過程の途中で断熱遮音材料ロールを作る際に形成することができ、また、マスを断熱遮音材の小片とともに所要スペースに吹き付けて壁構成物または天井構成物の断熱または遮音材形成と同時にマスの所要分布を達成するようにすることもできる。なお、壁構成物および天井構成物はこの発明の重要な応用分野であるが、この発明の上述の考え方は運搬手段(船舶、車輌、航空機など)や産業機械における遮音にも拡張応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
この発明の分布式能動型振動吸収器(DAVA)は、振動中の構造物の振動を減衰させるのに用い得る質量に限るのが好ましい。通常は、この発明のDAVAの重量は上記構造物の全体の質量の10%以下にするが、用途によってはDAVAの重量をその構造物全体の質量の10%以上にすることもできる。動きの最も大きい領域、すなわちモード寄与が潜在的に大きい領域に対しては、動きの小さい領域に比べてDAVAの質量を大きくする必要がある。分布式吸収器の局部共振が擾乱の励起周波数に近い領域ではDAVAの効率は高くなる。それ以外の領域については、この共振周波数は励起周波数よりも高くなることもあり低くなることもある。局部的には、DAVAの共振周波数は既知の点吸収器の共振周波数とほぼ同じになり、その局部的割当て質量は全体の質量に比べてごく小さくなる。したがって、局部剛性は全体の剛性に比べてごく小さくなる。この発明のDAVAは分布式のシステム、すなわち複数の周波数にわたり振動体の領域の全体または大部分の振動を抑制できる分布式システムであり、好ましくは電気駆動式にする。
【0024】
図1はこの発明の第1の実施例の分布式能動型振動吸収器(DAVA)の概略図を示す。この好ましい実施例は二層構造を備える。第1の層14は電気的に励起可能で単位面積あたりの剛性の小さい能動型弾性層であり、厚さ約10μmのフッ化ポリビニリデン(PVDF)で構成するのが好ましい。この第1の層14は、圧電性セラミック、PZTゴム、金属、エレクトロメカニカルデバイスなどで構成することもできる。また、この能動型弾性層14は埋込みずみの電気式アクチュエータ(例えば層14)付きの点線15で示した弾性体(例えば発泡体)で構成することもできる。例えば音響装置用発泡体、ゴム、ウレタン、音響装置用ガラス繊維などほぼ任意の材料が使用可能であり、電気式アクチュエータはPVDF、PZTゴム、金属(バネ用の鋼材などバネ作用を有するもの)、重合体(プラスチックなど弾性またはバネ作用を備えるもの)、圧電性セラミック、それ以外のエレクトロメカニカルデバイスで構成できる。
【0025】
以下の説明では例示のために能動型弾性層14を用いた場合を説明する。しかし、上述の材料もしくはそれら以外の任意の材料、または振動抑制技術の分野で周知の材料の多層構成で上述の層を構成することもできる。実施例全体を通じて同一の構成要素は同一の参照数字を付けて示してある。
【0026】
さらに図1を参照すると、上述の能動型弾性層14は、動きの振幅を大きくしシステムの剛性を減らすために、曲がった形(例えば波状)にするのが好ましい。この発明の実施例では、能動型弾性層14は軽量であり、曲げに耐性があり、好ましくは段ボール紙と同様の特性を備えるのが好ましい。第2の層16は分布式マス層(例えば吸収層)、すなわち一定の厚さを備え薄い鉛板で構成可能な分布式マス層で構成する。しかし、よく理解されるとおり、この層16のマス分布には、構造物12の全体または大部分の領域にわたり種々のマスまたは雑多な形状のセグメント化したマスが含まれる分布もあり、鋼、アルミニウム、鉛、ガラスファイバ複合体などの適当な薄板材料もこの発明の実施の際に用いることができる。均一でないマス分布を用いた実施例では、その変動するマス分布によりDAVAの局部特性を変動させて、基体の局部変動応答特性に理想的に整合するようにする。なお、このDAVAが能動型弾性層とマス層とから成る二層構造に限られず、例えば少なくとも一つの能動型弾性層および少なくとも一つのマス層を有する三層以上の層構造などの多層構造にもできることはよく理解されよう。
【0027】
上述のマス層16は、その重量が構造物12の重量の10%になるように設計する。一方、マス層16の厚さは構造物12の単位面積あたりの重さに直接に左右される。例えば鋼鉄製のビームまたは板については、均一の鉛層の厚さの最大値は能動型弾性層14の重さを無視して次式、すなわち
/h=(ρ/ρ10%=78000/1130010%=7%
で算出できる。
【0028】
すなわち、厚さ6.35mmの鋼製ビームについては、この発明のDAVAのマス層16の厚さの最大値は0.44mmである。この算出結果は、DAVAで構造物12(例えば桁)の表面の全部または大部分を覆ったとの仮定による。この重さ制限により、曲がったPVDF層などの能動型弾性層14の剛性はごく小さくなる。例えば、厚さ1mmのマス層16(鉛で構成)では、厚さ2mmの能動型弾性層14の剛性は、共振周波数設計値1000Hzを達成するために9e+5N/mになる。しかし、上述のとおり、このDAVAは振動構造物の領域の全体または大部分につき複数の周波数にわたって振動を抑制することができる。
【0029】
上に略述したとおり、この発明のこれ以外の実施例は能動型弾性層14およびマス層16の複数層を含み得る。例えば、少なくとも二つの能動型弾性層14を少なくとも二つのマス層16と交互に重ね合わせることができる。さらに他の実施例は、能動型弾性層14の各々を別々に調整するとともにマス層16の各々に別々のマスを含ませて、振動構造体の互いに異なる周波数を抑制するようにする。この発明の上述の実施例がこれらの例に限定されることはなく、より多数または少数の能動型弾性層14(互いに異なる周波数を抑制するように調整ずみ)を含むことができ、またより多数または少数のマス層16(互いに異なる質量の)を含むことができるのはもちろんである。
【0030】
例えば、能動型弾性層14などのアクチュエータの両側には電極15として作用する二つの銀の薄膜を設けるのが好ましい。電極17(能動型弾性体の任意の部位に配置できるが両側に配置するのが好ましい)に電圧をかけると、能動型弾性体14の内部に電界が生ずる。この能動型弾性体14は電界の印加により機械的に伸縮する圧電性材料で構成するのが好ましい。
【0031】
図2は電気的励起の下における能動型弾性層14の動きを示す。図2は、図1に示した能動型弾性層14を二つのプラスチック薄板18にエポキシで接着した点であって構造体12およびマス層16(鉛またはそれ以外の適切な材料で構成)に接触している点をも示し得る。能動型弾性層14の両側の二つのプラスチック薄板18が軸方向の動きを防止する。線30は遊休時の能動型弾性層14を表し、線32は電圧−V印加時の能動型弾性層14を表す。また、線34は電圧+V印加時の能動型弾性層14を表す。図2から明確に判るとおり、能動型弾性層14の長さは能動型弾性層14への電圧印加時に変化し、その結果、マス層16の両側の二つの面の間の距離が変化する。上記DAVAの構成により、能動型弾性層14の平面内の動きがその弾性層14の平面外の動きに変換される。図2は、互いに異なる強さの歪力の影響で生ずる能動型弾性層14の形状の曲がり方を誇張して示している。実際には能動型弾性層14の動きは小さく、したがって直線的であるとみなされる。
【0032】
分析の単純化のために、上記波形部材、例えば能動型弾性層14(図1参照)は、複数のバネを構成しているものと理解されたい。これらのバネはマス層16がなければ容易に圧縮されるが、マス層16を取り付けたのちは、容易には圧縮されない。また、マス層16がいったん取り付けられると複数のバネにその影響力が分布する。
【0033】
図3は機械的励起の下での能動型弾性層14の動きを示す。より詳細に述べると、線40は遊休状態における能動型弾性層14を表し、線42はマイナスの負荷をかけた状態における能動型弾性層14を表す。また、線44はプラスの負荷をかけた状態における能動型弾性層14を表す。DAVAに機械的な力で制約を加えた場合は、能動型弾性層14の長さは変化しないもののその形状は変化する。なお、シミュレーションにおいてはマス層16の曲げ剛性は、この層16の剪断を無視するので考慮外とする。
【0034】
なお、単位面積あたりの剛性が小さいこと、一方、振動構造物全体の広い領域にわたり分布しているDAVA全体の剛性が大きいことが重要である。また、DAVAの剛性(および質量)、したがって共振周波数がDAVAの用途に応じて調整できることが重要である。しかし、曲げの剛性は能動型弾性層14の波形部分の空間的波の長さおよびその波の振幅に左右され、その波の長さが長いほど垂直方向の曲げ剛性が小さくなる。さらに、垂直方向におけるDAVAの曲げ剛性は極めて大きく、好ましくは蜂巣状構造と同程度とする。さらに、DAVAの横方向剛性は局部的には小さく、大域的には同程度の質量の点吸収器と同じ大きさにする。したがって、このDAVAは、能動型弾性層14の個々の層は可撓性を備えるものの、大域的には非常に潰れにくい。
【0035】
この能動型弾性層14の横方向剛性、したがって共振周波数はこの弾性層14の高さ、波状部分の波の長さ、厚さ、および両電極間の電気的分路によって調整できる。より詳細に述べると、能動型弾性層14の厚さを大きくすればDAVAの横方向の剛性は小さくなる。振動構造物の広い領域に整合した形状のデバイス(本件発明の場合のように)にするためには、この厚みはそれほど大きくすることはできない。変化させることのできる二番目のパラメータは能動型弾性層14の波状部の波の長さであり、この長さを大きくすれば弾性層14の横方向剛性は小さくなる。このパラメータの変化にも制限がある。すなわち、この波の長さは擾乱波の波長に比べて小さくする必要があり、この要件を満たさなければDAVAの分布型特性が無くなるからである。
【0036】
DAVAの剛性に影響を及ぼすように調整できるもう一つのパラメータは能動型弾性層14の厚さである。例えば、層14を薄くすればその層14の剛性は小さくなる。能動型弾性層14の横方向剛性を変化させる最後の手法は層14の圧電性特性を用いる手法である。例えば、電気的分路により層14の剛性に僅かな変化を与えることができる。すなわち、能動型弾性層14に駆動入力を印加することによって、この層14がより小さい剛性またはより大きい剛性を備える振舞を示すように制御することができる。
【0037】
DAVAはPVDF薄板または同様の薄板をその主方向沿いに上述のとおり切断することによって作成する(PVDFには、励起を受けた状態で大きい歪力を示す方向があり、この方向が吸収器およびその吸収器利用の振動構造物の主振動方向である)。次に、そのPVDF薄板の端部で銀電極1乃至2mmを除去する。好ましい実施例では、銀電極17の除去に好適な溶剤としてアセトンを用いる。三番目の工程は電極17の各々に接続したコネクタを設ける工程である。図4はDAVAへの接続の概要を示す。より詳細に述べると、能動型弾性層14の一端の二つの領域をリベット20の支持のために選ぶ。これらの領域は片方の側だけに電極17を備える。リベット20が一つの電極17のみと接触状態を保つように上記領域の各々について一つの電極17を除去する。リベット20の直径よりも僅かに小さい孔をこれら領域に設け、リベット20の各々の上部をリベットプライアーを用いて適切な位置付けでワイヤ22に鑞付けする。他の実施例は、接続をより強固にするために能動型弾性層14の裏側にもう一つのプラスチック片を設けることもできる。その場合は、リベット20は周知のリベットプライアーでリベット孔の中に固定する。他方の電極にもう一つのワイヤ(図示してない)を接続した上、2本のワイヤをコネクタに接続する。DAVAのPVDF能動部分を駆動する電圧は高くなるので、上記接続の形成には精度が重要である。上記以外の多様な電気接続をこの発明の範囲内で用い得ることは当業者には理解されよう。
【0038】
能動型弾性層は、振動抑制対象の構造物に応じて適切な規格に適合させて波状に形成できるようにするのが好ましい。この目的の達成には多様な手法がある。一つの好ましい手法は、ひと組の鋼鉄製ピンの間にPVDFをセットしてそのまま数日間保持しておくやり方である。振動抑制の対象である構造物にPVDFを接着する際、および上記マス層をPVDFに接着する際にプラスチック薄板(図示してない)をPVDFの両面(上面および底面)に接着することができる(例えば、接着剤その他の適切な材料を波状部分への薄板の貼合せのあとプラスチック薄板に均一に塗布するなどの手法により)。また、これらプラスチック薄板をPVDFと振動制御対象構造物や取付マス板との間の電気絶縁体として作用させることもできる。さらに、波形PVDFを発泡体その他の弾性材料の中に配置することもできる。この目的は、PVDF表面に弾性体を堆積させる手法や弾性材料の中にPVDFを挿入する手法などにより達成できる。上述のとおり、PVDFの代わりに、代替のアクチュエータ材料(例えば、金属、圧電性セラミックなど)を用いることもできる。また、PVDFを完全に曲げてマス板支持用の管状構成にすることもできる。受動型構成ではプラスチック製または鋼鉄製のバネを、波形バネ層の場合と同様に、上述の管状構成の形成に用いることができる。
【0039】
図5は点吸収器と比較したDAVAの性能の測定に用いる実験装置の構成を示す。この実験は上記シミュレーションの微調整および確認も併せて行う。雑音発生器40は周波数範囲0乃至1600Hzの白色雑音信号を生ずる。この信号を増幅器42で増幅し、セットアップ変圧器44に加える。この変圧器44の出力をPZT小片の駆動に用い、支持台に載せたビームをそのPZT小片で駆動する。ビーム沿いにそれと垂直な方向の速度をレーザ速度計で測定し、その測定値出力をデータ捕捉システム48(例えば、パーソナルコンピュータと捕捉カードと関連ソフトウェアとの組合せ)に捕捉する。それらデータの事後処理にパーソナルコンピュータ50を用いる。
【0040】
図6は上記ビームの平均二乗速度を表す。このデータはビームの平均運動エネルギーに関連づけることができ、各点の速度の二乗を加算してそれら点の数(例えば23個の点)で除算することによって算出する。この平均二乗速度を励起電圧1ボルトあたりの数値に正規化し、100Hzから1600Hzの範囲について表示してある。この周波数範囲にはビームの第1のモードの生ずる40Hzは含まれていない。図6に示した線のうち線50以外の線はすべて同じ質量(例えば、局部吸収器も分布式吸収器も100g)の振動抑制システムを示す。線50はビームのみについての測定値を表し、ビームの第2乃至第6のモードを示している。線52は100g点吸収器を備えるビームの振舞を示す。この吸収器の共振周波数は850Hzであり、この共振周波数は第5のモードに影響を及ぼす。このモードはより小さいピーク値の二つの共振に分割される。なお、点吸収器はその吸収器の取付点における振動を軽減するものの、実際にはビームの平均二乗速度を上げる。より精密な微調整を施すことによって(吸収器の共振周波数1000Hz)、これらピーク値は横軸沿いに少し右方向に動き、1000Hz近傍に中心を置くようになる。線54はDAVA付きのビームの振舞を表す。この実験においては、DAVAは受動型デバイスとして用いてある。このDAVAがもたらす振動抑制は、点吸収器とは異なることが判る。ほぼ全ての周波数、とくにモード共振ピーク点で、このDAVAは点吸収器よりも優れた大域的ビーム振動抑制をもたらす。同様の結果が図7のシミュレーション結果にも示されている。図6の線50,52および54は図7の線50,52および54と同じである。第3,第4および第6のモードについても著しい抑制が得られる。これに比較して点吸収で得られる抑制はごく小さいことに注目されたい。図6および図7に線55で示した追加のマスは共振周波数にごく僅かの変化を与えるだけであり、振動抑制への影響も僅かである。同じマスを分布式にした場合はDAVAほどの振動抑制をもたらすことはない。上述のことから理解されるとおり、このDAVAは、ビーム振動抑制に、概念的には点吸収器と同様ではあるが分布領域にわたり動的効果(反作用力)を用いて動作するので、その性能は改善されている。
【0041】
図6および図7はこの発明の二つのタイプの吸収器、例えば点吸収器およびDAVAの間の差を明確に示す。例えば、点吸収器は単一の周波数における応答、および振動構造物上の単一の点における応答を軽減するのに高効率を示す。エネルギーは他の周波数領域に移され、二つの新たな共振が生ずる。一方、DAVAはこの欠点を伴わず、ビームの平均二乗振動エネルギーはビームの共振周波数すべてについて減少し、新たな共振の発生はない。したがって、このDAVAにおいては、互いに異なる周波数でいくつかのモードを同時に抑制することが潜在的に可能である。この特性は、板状材料などモードからみて密度の高い構造物の振動抑制に有用である。
【0042】
図8はこの発明のDAVAを用いて行った能動型振動抑制実験を示す。この抑制システムは三つの加速度計60を誤差センサとして備えるとともに、帯域フィルタ64および正饋還LMSコントローラ62(C40DSPボードに具体化する)を備える。この場合も振動測定をレーザ速度計46によって行う。また、擾乱は、この場合も、コントローラ62の具体化に用いるDSPからの白色雑音である。コントローラ62は、DAVAの能動部分でビームを抑制することによって、誤差センサからの信号を最小に留めようとする。コントローラの入力および出力はすべて帯域フィルタ64によりフィルタ処理する。制御アルゴリズムは、LMSアルゴリズム、すなわち振動抑制技術の分野で周知であり、ひと組の既知の入力の下での誤差信号を最小にするようにN個の適応型フィルタを最適化するLMSアルゴリズムで構成する。このアルゴリズムはリニアシステムの設計に用いることができる。システム入力のN個の過去の値に関連づけるべき最適重みづけ値を得るために勾配法を用いる。勾配サーチに用いる誤差信号はシステムの実際の出力と適応フィルタの出力との間の差である。
【0043】
図9はDAVAの性能の試験のためのコントローラおよび試験器具の配置を示す。この実験では擾乱信号を基準信号としても用い、DAVAと図8の誤差センサ(加速度計)60の各々との間の伝達関数の推算値でフィルタ処理する必要がある。それらの伝達関数はLMSアルゴリズムを用いてシステム特定により得られ、コントローラソフトウェアがDAVAへの能動入力を用いて誤差センサ位置における振動を最小にする。この能動型抑制実験における諸パラメータを表1に示す。
【0044】
【表1】

誤差センサ60はビーム60の中心から−7.5インチ、−1.5インチおよび5.5インチの位置にそれぞれ配置した。振動測定は、ビーム上の位置1インチごとに(全体で例えば23ヶ所に)レーザ速度計を用いて行った。
【0045】
上記ビームの位置の各々における応答の速度振幅値の二乗の和をとりその平均値をとって平均二乗速度を算出する。したがって、この平均二乗速度の値はビーム内の振動の全エネルギーに比例する値になり、その値を図10に示してある。より詳細に述べると、図10はこの発明のDAVA(質量分布一定)による能動型抑制実験の結果を示す。線70は他のデバイスを全く付着させていない状態でのビームの振舞を示し、したがって比較のための基線を示す。線72はDAVAを受動デバイスとして(制御信号を印加することなく)装着した場合のビームの振舞を示す。受動型DAVA付きの場合の実験結果は共振周波数全部におけるビームの全エネルギーがかなり弱められていることを示している。この受動型抑制構成で得られる平均二乗速度の減少は100−1600Hzの周波数範囲で10dBである。すなわち、これらの実験結果はDAVAの二つの重要な受動型素子の側面、すなわちビーム全体を通じた振動の抑制、および複数の周波数における同時並行の抑制を示している。これらの結果は、通常一つの部位および一つの周波数だけで振動抑制をもたらすに過ぎない従来の点振動吸収器と対照的である。能動型抑制を起動させると、さらに3dBの追加の平均二乗速度抑制が得られる。DAVAにより能動型抑制を施したビームの振舞を線74で示す。この能動型抑制システムの性能は、共振ピーク値を600Hzで、すなわち抑制前のピーク値が最大となる600Hzで例えば20dBも低下させる点で好ましい。中程度の共振値では能動型抑制は振動を増加させる(抑制溢出と呼ぶ)が、これはより良質のコントローラおよびより多数のセンサの利用により容易に補正できる。能動型制御を起動させると、上記構造物は非共振となり、このDAVAによる振動抑制効果がより著しくなる。周波数400Hz以下ではPVDFおよび振動吸収器そのものの応答特性のために能動型抑制は得られない。電磁式アクチュエータなど上記以外の能動素子を用いれば、能動型振動抑制作用の得られる周波数を下げることができる。
【0046】
DAVAの効率を上げるために、マス分布を最適化する。すなわち、振動抑制効果を強めるためには、マス層16をビームの全体の長さまたはその大半の範囲の長さに沿って変化させるのが好ましい。マス分布を変化させることによってDAVAの局部特性を変化させ、振動抑制対象の構造物の局部的に変動する特性に理想的に適合するようにする。しかし、ビーム/DAVA応答特性はビームの長さ沿いに複雑な変化を示すので、マス分布の選択に最善のプロセスを導き出す必要が生ずることがある。
【0047】
図11は最適マス分布を備えるDAVAを示す。DAVAの各部分の上部の符号は圧電性駆動小片(擾乱)に対するPVDF弾性薄板14の極性を表す。なお、この最適化過程に用いるビーム応答は、擾乱の位置に大きく左右され、DAVAの最大動的応答効果は擾乱と正反対の方向に生ずる。マス層16の厚さは変動するが質量は一定にする。この厚さ変動は一つの連続した素子に生じさせることもでき、図11に示したとおりの複数の個別部分の重ね合わせによって生じさせることもできる。
【0048】
もう一つの構成では、互いに異なるマス層特性を備える複数のマス共振層を用い得る。図12は、バネ材154としての発泡体の中に埋め込んだ二つの共振マス層150および152を備えるこの種の構成を示す。マス層は連続的な層でも別々の部分から成る層でも差し支えない。この種のデバイスは二つの共振点を備え、振動抑制の周波数範囲が広いという利点を有する。図12は、マス層152が比較的薄い部位で大きい厚さを備えるマス層150を示す。マス層150または152の厚さを変えることにより、振動吸収器に互いに異なる共振特性を与え、同じ相対位置で軸方向にマス層150および152の厚さを互いに変えることにより、互いに異なる二つの共振を同時に制御対象にすることができる。
【0049】
図13に示したもう一つの構成では、マス層160,162および164をセグメント化して発泡体などのバネ材の中の互いに異なる深さの位置に配置する。深さが異なることにより、それらマス層セグメントの質量を支持するバネ材の剛性が変化する。この構成により、多様な埋込み深さおよびその深さにおける多様なバネ強度に伴い、複数の共振周波数が得られる。これら複数の共振周波数のために、この発明のデバイスが効果を発揮できる周波数範囲が広くなる。なお、上記セグメント化した埋込みマス層は任意の多様な形状で差し支えない。また、上述のバネ材には上記のものとは異なる材料(例えばゴム、ガラス繊維、バネ金具、ウレタンなど)も用いることができる。図13は、互いに異なる多数のマス層を用い得ること、それらマス層を個別化(すなわちセグメント化)できること、およびそれらマス層が互いに異なる厚さの複数のセグメントを含み得ることを示す。これらの層160,162および164は特定の位置で特定の周波数における微調整を可能にするように制御しながら形成できるが、多数の共振周波数に適合した振動吸収デバイスを構成するようにランダムに形成するのがより好ましい。また、図13に示したデバイスは、次に述べるとおり、能動型および受動型の両方の振動抑制システムに用いることができる。
【0050】
図12および13に示した実施例の変形では、曲がった圧電性重合体、セラミック、電磁式アクチュエータなどの能動素子を、マス素子の動きを変える能動的変化を与えるようにバネ材料の中に埋め込むことができる。その種のデバイスは、上述の電気式駆動との連携の形で用いると性能を改善できる。より詳しく述べると、弾性層の中の一つ以上のレベルに位置する非均一マスと組み合わされた能動型抑制は、多数の用途において著しく改善した振動抑制を可能にする。
【0051】
図14は鑽孔を施した材料(例えば鑽孔を施した鉛薄板、鋼薄板など)でマス層170を構成したこの発明のデバイスのもう一つの実施例を示す。この構成の振動吸収器は、鑽孔172を通じて伝搬する表面への入射音響波を吸収するとともに、弾性層174の下の基体構成物の振動を抑制することができる。この実施例は、マス層170が音波源として作用することを防止する(すなわち、応用分野によっては、マス層の一体化した「層」が振動抑制対象の構成物からの音響信号を伝達してそれらの信号が弾性材料を経て外部環境に放射される)。さらに、外部環境からの振動または音響信号は上記鑽孔を通過して、(弾性層174の下の)上記構成物からの振動の抑制に加えて、この振動吸収器により抑制される。図12および13に関連づけて上に述べたとおり、図14の構成は能動型デバイスおよび受動型デバイスの両方に利用できる(すなわち、印加電圧の影響により伸縮できる埋込みPVDF、圧電セラミックその他の材料から成る能動型デバイス、およびマス層172および弾性層174のみから成る(埋込みバネ材料(例えば金属など)をも含み得る)受動型デバイス)。さらに、図14の構成は、図13および図15に示したとおり、弾性材料層の中の一つ以上の平面に埋め込んだセグメント化マス層との組合せで用いることもでき、それらセグメント化したマス層の寸法、形状および重さは多様であり得る。
【0052】
図15は弾性層184の中にセグメント化したマス層180および182を埋め込んだ構成の振動吸収器を示す。図15は種々の大きさおよび形状のセグメント化マス層を用いることを示している。これらのマス層は、共振周波数の広い範囲にわたり振動抑制効果を得るようにランダムに分布させることができ、また、この振動吸収器の中の特定の部位における周波数応答を特定の複数周波数に微調整するように所定のパターンで配置することもできる。これらマス層の一部は球軸受形の球にすることができ、また他の一部は薄い長方形平板にすることができる。マス層の形状は互いに異なる振動周波数への応答特性に互いに異なる影響を及ぼし、その影響の与え方はメーカーが調整できる。
【0053】
図12乃至図15に示した振動吸収器は多様な手法で製造でき、最も単純な手法は、発泡体層を設ける過程と、一体化マス層またはセグメント化マス層を堆積させる過程と、これら発泡体プロセス過程とマス層堆積過程とを数回にわたり繰り返す過程とから成る手法である。代替的に、弾性層の形成中にマス層を弾性材料の中に埋め込むこともできる。さらに、上記弾性層を適当な位置で切開して、その切開部経由で弾性層にマス層断片を挿入することもできる。その挿入過程のあとは、その材料の弾性によりマス層は正しい位置に保持され切開面は閉じられる。
【0054】
図16は、能動型バネ層をPVDF、プラスチック用の材料などの管190で構成したDAVA、すなわち振動吸収器を能動型応用および受動型応用について示す。管状の形は波形に曲がった形の究極の拡張であって振動吸収器の平面沿いに曲率を保持しているから、電圧励起によりマス層への法線方向入力がもたらされる。しかし、管状の構成になっているので、これら管の直径は、管の内側および外側に圧入され吸出される液体の粘性損失に起因するDAVA、すなわち振動吸収器の振動抑制をもたらすように、より容易に調整し寸法設定することができる。
【0055】
この発明の振動吸収器(少なくとも二つのマス、すなわち振動構造体の領域沿いにそれぞれ分布した分布式弾性素子と関連づけた少なくとも二つのマスのマトリクスを含み、それら分布式弾性素子に関連づけたそれぞれのマスを振動構造体から間隔を隔てて配置した振動吸収器など)は、弾性材料(例えば、音響装置用発泡体、音響装置用ガラス繊維、ガラス繊維詰め物、分布式バネ材、ウレタン、ゴムなど)をそれら弾性素子をその中に埋め込んだ形でオプションとして含み得る。この発明の振動吸収器の例としては、上記弾性材料としてゴムを含み、上記分布式弾性素子としてフッ化ポリビニリデンを含む振動吸収器、並びに前記弾性材料を全部同質のウレタンで構成し前記分布式弾性素子をフッ化ポリビニリデンで構成した振動吸収器が挙げられる。また、この発明の振動吸収器は、少なくとも一つの軸方向沿いに波状構造を有する分布式弾性素子をオプションとして含み得る。
【0056】
この発明の振動吸収器では、分布式弾性素子の表面にマスを接着することができる。この発明の振動吸収器に用いるマスは分散配置の個別マス切片で構成できる。複数の個別マス切片を振動吸収器に用いた場合は、それらマス切片の少なくとも二つを互いに異なる大きさ、寸法、厚さのものとする。複数のマス切片および弾性材料で構成した振動吸収器では、上記個別マス切片をその弾性材料の中の互いに異なる少なくとも二つの平面内に埋め込むなどの手法により弾性材料に埋め込む。また、複数のマス切片および弾性材料で構成した振動吸収器では、少なくとも一つのマス切片を弾性材料の一つの表面に配置し、もう一つのマス切片を弾性材料に埋め込むこともできる。二つのマス切片および弾性材料を用いて構成した振動吸収器では、弾性材料の中の互いに異なる平面でそれら二つのマス切片を埋め込むことができる。さらに、二つのマス切片と弾性材料とを用いて構成した振動吸収器では、第1の個別マス切片をその弾性材料の表面に、第2の個別マス切片を弾性材料の中に埋め込んだ形でそれぞれ配置することができる。
【0057】
振動吸収器に用いる分布式弾性素子に一つ以上の管状素子を含めることができる。これら管状素子は、例えば、フッ化ポリビニリデン(PVDF)、金属、プラスチックなどで構成する。
【0058】
振動吸収器に含めるマスには鑽孔を施すこともできる。例えば、その鑽孔はマス層上面からの振動や音響を軽減または消去するに十分な量とし、またはマス層を通じて分布式弾性素子に周囲環境からの音響が透過できるようにするに十分な量とする。
【0059】
振動吸収器に用いるマスは、金属(例えば鉛、鋼鉄など)、プラスチック、セラミック、ガラス繊維、カーボン固体、ゲルなどで構成できる。マトリクス中の二つ以上のマスなど二つ以上のマスを用いる場合は、それらマスは同じものでも互いに異なるものでも差し支えない。
【0060】
この発明の振動吸収器は、例えば、一つ以上の均一な幾何学的形状の複数のマスから成るマトリクス、一つ以上の不規則な形状の複数のマスから成るマトリクス、深さや相互間間隔の互いに異なる複数のマスから成るマトリクスなどで構成できる。
【0061】
この発明の理解の一助として上記以外の例を次に述べるが、これらの例はこの発明を限定するものではない。
【0062】
後述の実施例を参照してこの発明の振動抑制用および音響抑制用不均一(HG)ブランケットを次に説明する。
【0063】
例[1]乃至例[4]のブランケットは、音響抑制用または振動抑制用材料を用いた任意の用途に利用できる。この発明のブランケットは、雑音抑制に従来慣用されているメラミン/ポリウレタン発泡体(反射および反響の軽減のための吸収材として用いられているのみである)の代わりに用いることができる。例[1]乃至例[4]に挙げるHGブランケットは、振動構造体由来の振動の軽減、透過損失の達成、および反響の軽減など複数の用途に利用できるので有利である。
【0064】
この発明のさらに他の実施例では、このHGブランケットを、種々の位置で種々の深さに埋め込んだ少なくとも二つのマスを有する弾性材料およびその弾性材料の中の種々の深さに埋め込んだ一つ以上の薄い連続した材料で構成する。その連続した薄い層は、柔軟性マスバリア、弾性金属薄板、重合体薄板、またはこれら材料の組合せで構成する。この連続した薄い層は一定の長さのセグメントにセグメント化できるが、そのセグメント長は層の厚さよりもずっと大きくする。この実施例では、HGブランケットを支持体なしで空間に懸けられる構成にすることができる。その場合は、埋込みマス層は音響透過損失をさらに助長するように埋込み薄層に作用する。この構成のものは性能が良好であることが実験で確かめられた。従来技術による音響または振動抑制器構成は取付先の構造物(航空機胴体など)を必要としていたが、上述の実施例の構成はそのような取付先構成と一体化したものとなっている。
【0065】
この発明のさらにもう一つの実施例では、上述のHGブランケットを、例えば、家屋および商業用建物の壁構成物または天井構成物の中、産業機械などの外被の中、水上、陸上または空中運搬手段の扉、翼、船体などの中に、音響防壁として配置する。このHGブランケットは、市販されている断熱材または遮音材で構成でき、後述のとおり埋込みマスを含めることができる。それらマスは遮音材ロールの形成時に分布させることができ、二つ以上の層で分布させることもでき、製造時に単にランダムに分布させることもできる。それらマスは互いに異なる大きさ、重さおよび形状のものでも構成できる。この発明の特定の改変では、上述のマスを遮音材とともに対象箇所に吹き付けて、それらマスが壁構成物または天井構成物などの構造物の中に遮音材とともに同時並行的にランダムに分布されるようにすることもできる。
【0066】
例[1]
図17および図17Aを参照すると、例[1]のHGブランケットは、発泡体層171,172,173および174を、それら発泡体層の一つ以上の層の各々の上に(図17および図17Aには四層ブランケットを示してあるが層数が4以上であっても4未満であっても差し支えないことは明らかであろう)マスを配置して積み重ねて構成する。これら層171,172,173および174を接着剤などで互いに接着する。これら層171,172,173および174の厚さは均一でも互いに異なっていてもよい。これら層171,172,173および174はマス179の深さと関連づけられた厚さおよび層数を有する。また、これら層171,172,173および174の構成材料は互いに同一でも互いに異なっていても差し支えない。ガラス繊維詰め物などの音響装置材料をこれら層171,172,173および174の発泡体材料の代わりに用いることもできる。
【0067】
層172と層172との間の界面接着剤178などの接着剤を各層相互間の接着に用いることができる。発泡材の図示の部分177に示すとおり、発泡体はマス179の表面全体と接触状態にあっても表面の一部と接触状態にあってもよい。
【0068】
例[2]
図18に示した例[2]のHGブランケットは特定の深さおよび位置に配置したマス189を含む。マス189を配置する深さは、材料181(発泡体、ガラス繊維詰め物など)の剛性およびマス189の重量を勘案して、周波数目標値で埋込みマス189が共振する深さとする。一方、マス189の配置位置は目標のモード形状に基づいて定める。材料181の剛性(発泡体剛性など)は測定値または計算値を用いる。
【0069】
マス189の深さでそのマス189の共振周波数が定まる。また、その位置で抑制対象の振動構造物のモード形状が定まる。設計対象のブランケットの各々について、複数の埋込みマス189の位置および深さのひと組を特定する。
【0070】
例[3]
図19および19Aに示した例[3]のHGブランケットは、音響装置材料191(発泡体、ガラス繊維詰め物)の複数の層と、その音響装置材料層191に設けた孔192に配置したマス199とを含む。孔192の上側には、マス199をその孔の中に保持するように、音響装置材料(発泡体、ガラス繊維詰め物)でできた栓193を取り付ける。マス199を接着剤などで孔に保持することもできる。図19Aは、孔192を設け、マス199を挿入し、栓193を挿入し、その栓を固定することによって形成して完成したHGブランケット1999を示す。図19は、図19Aのブランケット1999の製造の少し前の工程における状態を示す。
【0071】
代わりの手法として、音響装置材料191(発泡体、ガラス繊維詰め物など)にスリットを形成し、そのスリットを通じてマスを所要の深さまで挿入する(栓は不要)手法もある。その場合はスリットを接着剤で閉じてマスを内部に保持するようにする。
【0072】
例[4]
図20に示したこの発明の例[4]のHGブランケットは、図形、湾曲セクション、長方形、L型セクション、および箱型などの形状を備える。円形状HGブランケット200Cは埋込みマス209と音響装置材料201(発泡体など)を備える。湾曲セクションHGブランケット200Yはマス209と音響装置材料201とを含む。長方形HGブランケット200Rはマス209と音響装置材料201とを備える。L型セクションHGブランケット200Lはマス209と音響装置材料201とを備える。箱型HGブランケット200Bは内側が中空であり、マス2009と音響装置材料201とを備える。
【0073】
例[5]
図21に示した埋込みマス219および音響装置材料211(発泡剤、ガラス繊維詰め物など)を備えるこの発明のHGブランケットの表面の形状は、畝状、曲面状曲線、ピーク状(単一ピークまたは複数ピーク)にすることができる。これらの表面形状は上述の例[1]乃至例[4]にも適用できる。曲線状または波状の表面の例を表面212として示す。鋸歯状表面の例を表面213として示す。表面214は楔状表面の例である。
【0074】
上述の例[1]乃至例[4]は発明の範囲の限定を意図するものではない。音響装置材料と埋込みマスとを含む多様な基体を構成できる。振動吸収効果を意図した音響装置材料およびマス包含マトリクスの形成において、マスの形状は、球状、円板状など均一または不均一の形状とすることができる。それらマスの形状は均一でも互いに異なるものでもよい。また、寸法も重さも同一または互いに異ならせることができる。マスの構成材料としては、金属、プラスチック、セラミック、ガラス繊維、カーボンなどの固体、ゲル状、繊維状材料が挙げられる。これらマスを音響装置材料中の種々の深さに相互間間隔を不均一にして配置する。
【0075】
マスの材質、重さ、寸法および配置は振動吸収器使用時の主要対象周波数に応じて選ぶ。振動吸収器(HGブランケットなど)は、特定の周波数または周波数の組における透過損失や吸収をできるだけ大きくするように調整する。マスの寸法、形状および重量が音響および振動の反作用に影響を及ぼす。マスの配置のしかたは、それらマスのセットの一部を特定の深さに配置することによってブランケットの「同調」をとることができるので、特に重要である。特定の応用分野では、マスを基体材料(すなわち音響装置材料)の端部に配置することによってHGブランケットの性能を高めることができる。
【0076】
この振動吸収器(すなわちHGブランケット)は、全部同質の単一体としてまたは各々の特定の位置にマスを配置した複数の層の積層体として形成できる。それら複数の層の厚さおよび形状(正方形、円形、長円形、長方形など)は、所望の用途に適合した結合構造にするように選択できる。HGブランケットの形状は、層状体の場合も全部同質体の場合も、例えば、円形、湾曲状、方形、Lセクション、箱型にすることができる。HGブランケット層の数は、用途、厚さ、重量、周波数、挿入マスの所要数などで定まる。HGブランケットに含まれる上記層の厚さは調整プロセスの要件に応じて互いに同一にし、または互いに異ならせる。層状体の場合も全部同質体の場合も、マスは結合剤または機械的手段で挿入できる。
【0077】
このHGブランケットは、機械的クランプもしくは締付ネジを用い、または接着剤を用いるなどして、振動抑制用に構造体またはデバイスに取り付けまたは貼り付ける。調整は上述の手法を用いて事前に行うか、設置現場で構造体またはデバイスへのHGブランケット取付または貼付のあとマス(鉛または金属製の重りなど)をそのブランケットの中の種々の位置や深さ(上記構造体により近い点またはより離れた点など)の開孔やスリットに挿入して実験的に行う。
【0078】
例[6]
図22Aおよび図22Bは、発泡体402の中に配置した薄い連続マス層400および半連続(例えばセグメント化した)マス層400’をそれぞれ示す。発泡体402は上述のとおり一枚岩状(単一の全部同質の厚い層)にも多層状にも構成できる。薄マス層400および400’は、金属、プラスチック、薄い弾性体マスなど多様な材料の任意のもので構成できる。この薄マス層の主要機能は、例えばx−y平面で発泡体の長さおよび幅に広がりを与え、ある程度の剛性を与えることである。発泡体の中に埋め込んだ柔軟なマスを含むだけの柔軟マスバリアを低周波音響信号および騒音の吸収に従来用いてきたが、この発明は発泡体402の中のx−y平面およびz軸方向に分布した複数の埋込みマス404を含むことにより吸収特性を大幅に改善できる。上述のとおり、複数の埋込みマス404は、図22Aおよび図22Bに示したデバイスで振動抑制可能な振動の周波数の調整を可能にする。それは、埋込みマスが振動(例えば音響信号および騒音)を軽減するよう連続マス層400または半連続マス層400’と協動するからである。これらの図に示した構成は連続マス層400または半連続マス層400’の表裏両面側に埋め込んだ複数のマス402を示しているが、これら複数のマス402を表面側だけまたは裏面側だけに配置しても差し支えないことは理解されよう。前述の理由で、図22Aおよび図22Bに示した柔軟マスバリアが従来技術によるものに比べてかなり軽量であることが理解されよう。すなわち、この発明の構成は複数の埋込みマス404とマス層400または400’との間のバネ/マス関係に基づく振動軽減作用を利用しており、これによってより軽量の連続マス層400または半連続マス層400’が可能になるからである。図22Bの構成は、間隔405を設けることによるセグメント化により、ユーザ側の使用または用途に応じて必要となる多様な形状に曲げることができる。
【0079】
図22Aおよび22Bに示したブランケット型デバイスなどの材料は、航空機胴体など振動構造体への直接取付という態様でなく単体で据置または吊り下げ態様で使うことができる。例えば、この材料をテントの構築に用い、そのテントの中または外で生じた音響または騒音のテント材透過を柔軟材料400および400’の振動エネルギー吸収作用により防止し、複数の埋込みマスの上述の作用により振動エネルギーをさらに軽減することにより静寂なテントを提供できる。これ以外にも多様な用途、例えば自動車他の車両のドアの内側に配置する用途、不要な音響の軽減のために室内(壁面に取り付ける、天井から吊すなど)に配置する用途など当業者に自明の用途に用いることができる。
【0080】
例[7](プロトタイプ)
種々のマス(包含物)形状、重量、間隔、埋込みの深さを用いて複数のプロトタイプを製造し、これらプロトタイプを試験した。大部分の試験では、重量6グラム乃至8グラムの包含物を用い、材料16平方フィートあたりの総重量増が300グラム乃至400グラムになるようにした。試験の結果、全周波数範囲で減衰の改善が得られ、とくに低周波数領域および1,000Hz以上の領域で改善が得られることが判った。包含物の寸法、配置位置および重量を変えることにより微調整を達成できることも判った。上記試験は、多様な大きさおよび多様な重量の包含物を特定の周波数で音響性能を高めるように配置したHGブランケットについて行った。包含物(マス)はランダムにまたは一つのパターンに従って配置した均一形状および均一重量の包含物でもよく、またランダムにまたは一つのパターンに従って配置した多様な形状および多様な重量の包含物でもよい。
【0081】
埋込みマスのマトリクスを含むHGブランケットの有用性は、上述のとおり、構造体由来の振動を軽減すること、基材のみの場合に比べて透過損失が著しく増加すること、および反響を軽減することの一つまたは二つ以上の組合せである。上述の包含物は、包含物なしの通常の振動吸収材に比べて、材料全体の重量の著増を伴うことなく吸収材の性能を高める。比較試験の結果、包含物なしの吸収材を接着剤で互いに接着した重ね合わせ吸収材では、包含物入りの吸収材の接着剤による重ね合わせ吸収剤のもたらす性能改善は得られないことが判った。
例[8]
個人用、産業用および商業用建物の中の内壁、外壁、床および天井の断熱および遮音に標準材料を用いる。HGブランケット技術を用いることによってこれら用途およびこれら以外の用途における遮音性能を高めることができる。図23および24は、壁構成物または天井構成物の中の間柱504および506の間にそれぞれ分布配置したHGブランケット500または502を備える実施例を示す。図23においては、HGブランケット500は、例えば薄石板壁508および510の間に配置してある。これ以外の構成、例えば薄鋼板、木材、コンクリート、金属板などを、工場や車庫や倉庫などで通常用いられるとおり、薄石板の代わりに用いた構成もできる。内部に空隙を伴う単一層の壁または二重壁を用いた構造物では、上記HGブランケット技術を利用できる。図24では、HGブランケット502を例えば薄石板512の上に配置してある。上記以外の天井構成物では、遮音タイル構成物および格子構成物の上に空間を有する。
【0082】
壁、天井またはそれらの関連の応用分野では二つのタイプのHGブランケット構成物を用いることができる。第1のタイプでは、遮音材または断熱材は内部支持構造物付きの拡張材で構成する。HGブランケットを形成するように遮音材または断熱材に上記マスを埋め込む。HG材料を上記空隙に適合した大きさに切断し、壁面、床面または天井面(天井格子構成物を含む)の中で間隙を開けて配置する。第2のタイプのHGブランケット構成物では、遮音/断熱材は不定形で壁、床の中の空隙または天井の表面に吹き付ける。空隙への吹きつけの前に、マスを遮音/断熱材に加える。これによって、遮音/断熱材の中にマスを分布させることができる。この応用例では(これ以外の応用例でも)、マスの形状をランダムにしたり、遮音/断熱材の中で万遍なく分散し底への落下を防止するように表面を凸凹の粘着性ある表面にすれば有利であろう。応用分野によっては、マス入りのHG材料を袋、ケースその他の種類の装填用の容器に吹き付けすることができる。
【0083】
この例では、母材は断熱および遮音材に用い得る任意の材料で構成できる。断熱材または遮音材としていくつかの種類の材料が現在市販されている。マスは母材とは別の構成素子であり、任意の大きさ、形状、密度、分布を備え、上述の諸材料(例えば、金属、繊維、セルロース、ポリマー、ゲル、液体、外表面が固体で内部が液体のマス、など)で構成できる。マスの材料および母材材料の一方および/または両方を均一組成または不均一組成のものとすることができる。
【0084】
上述の諸点に鑑み、図23乃至図25を参照して、HGブランケット500または502を、埋込みマス516を内部に分布させた遮音または断熱材514で構成するのが好ましい。このHGブランケット500または502は、例えば、マス516をロールの作成時または作成後に遮音または断熱材に堆積させることによって断熱材および/または遮音材ロールを製造する際に形成することができる。マス516の大きさ、重さおよび形状は変動しても差し支えない。マス516は、吸音断熱材料514の中に同じレベルでまたは互いに異なるレベルで堆積させることができる。図25は、遮音または断熱材528およびマス530を吹付管534を用いて壁構成物532に吹き付けるこの発明の特定の応用例を示す。この例では、設置の容易性を考慮して、遮音断熱材料528を定型的手法で壁構成物に吹き付けている。大きさ、形状および重さが様々に変わり得るマス530を遮音断熱材料528に加え、その材料528およびマス530を壁構成物532に同時並行的に吹き付けることによって、壁構成物内でマス530を遮音断熱材料528全体にわたってランダムに分布させることができる。吹付けによって形成した遮音断熱材料528とランダム分布のマス530との合成層によって、壁構成物532内にHGブランケットをその位置で形成できる。図23乃至図25は家屋または商業用建物の中でのHGブランケットの利用を想定しているが、この考え方は、機械、車輌、船舶、航空機などにおける利用に拡張できる。
【0085】
好ましい実施例についてこの発明を上に説明してきたが、この発明が添付の請求の範囲に記載した真意と範囲を逸脱することなく変形を伴って実施できることは当業者には認識されよう。
【産業上の利用可能性】
【0086】
航空機エンジンなどの振動体の発生する振動および騒音の抑制に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】この発明の第1の実施例の分布式能動型振動吸収器(DAVA)の概略図。
【図2】電気的駆動をかけたときのDAVAの能動弾性層の動きを示す図。
【図3】機械的駆動をかけたときのDAVAの能動弾性層の動きを示す図。
【図4】このDAVAの電極への接続線の概略図。
【図5】点吸収器と比較したこのDAVAの性能の測定に用いた実験用機器構成を示す図。
【図6】図5に示した実験用機器構成により重さ100gの6インチの分布式吸収器(駆動なし)、重さ100gの点吸収器および重さ100gの分布式マス層について測定した測定結果を示す図。
【図7】図5の機器構成シミュレーションの結果を表すグラフ。
【図8】この発明のDAVAを用いて行った能動型振動抑制実験を示す図。
【図9】この発明に用いる抑制器および試験機器のレイアウトを示す図。
【図10】一定質量分布式のDAVAを用いた能動型振動抑制実験の結果を示す図。
【図11】最適変化を示す質量分布を用いたDAVAを示す図。
【図12】種々の厚さのマス層を有する振動吸収器の断面図。
【図13】互いに異なる部位で互いに異なる厚さのマスを有する離散化マス(図12に示すとおり一体化されていない)のマス層を有する振動吸収器の断面図。
【図14】開孔付きのマス層、すなわち抑制対象の構造物の反対側でのDAVAへの振動音波またはそれ以外の振動入力が弾性層に通れるようにし、弾性層およびマス層の組合せの利用により緩和できるようにする開孔付きのマス層を有するDAVAを示し、最上のマス層からの不要音波輻射を抑制するのに利用可能な構成を示す図。
【図15】互いに異なるマス層の中で互いに異なる寸法および形状を備える離散化質量の振動吸収器の断面図。
【図16】管内に配置したPVDF、すなわち弾性材料を含む能動型または受動型バネ層で支持したマス層を示す図。
【図17】この発明による不均質ブランケットの例の断面図(例[1]参照)。
【図17A】図17の一部の拡大図。
【図18】この発明によるブランケットの断面図(例[2]参照)。
【図19】この発明によるブランケットの断面図(例[3]参照)。
【図19A】この発明によるブランケットの断面図(例[3]参照)。
【図20】この発明によるHGブランケットの種々の例(例[4]参照)。
【図21A】埋込みマスを含み少なくとも一つの波状表面を有する材料例の側面図。
【図21B】埋込みマスを含み少なくとも一つの等高線状表面を有する材料例の側面図。
【図21C】埋込みマスを含み少なくとも一つのギザギザの表面を有する材料例の側面図。
【図22A】埋込み薄マス層および埋込みHGマス層の両方を含むHGブランケットの断面側面図。
【図22B】埋込み薄マス層および埋込みHGマス層の両方を含むHGブランケットの断面側面図。
【図23】遮音材または断熱材の中に配置した埋込みマスを含む壁構成物の概略図。
【図24】遮音材または断熱材の中に埋込みマスを含む天井構成物の概略図。
【図25】遮音材または断熱材を埋込み用のマスとともに壁構成物または天井構成物に吹き付けるシステムの概略図。
【符号の説明】
【0088】
12 振動抑制対象の構造物
14 能動型弾性層
15 発泡体などの弾性材料
16 分布式マス層(吸収層)
17 電極
18 プラスチック薄板
20 リベット
22 接続用ワイヤ
24 プラスチック片
40 雑音発生器
42 増幅器
44 ステップアップ変圧器
46 レーザ速度計
48 捕捉システム
50 事後プロセッサ
60 加速度計
63 コントローラ
150,152 共振マス層
154,166 バネ材層
160,162,164,170,172,180,182 マス層
174,184 弾性層
171−174 発泡体(弾性)層
179,189 マス
191 音響装置材料
192 孔
193 栓
199 マス
200C,200Y,200R,200L,200B 非均質ブランケット
209 マス
400 連続マス層
400’ 半連続(セグメント化)マス層
404 埋込みマス
500,502 HGブランケット
504,506 間柱
508,510,512 薄石板
514 遮音または断熱材
516 埋込みマス
528 断熱材
530 マス
532 壁構成物
534 吹付管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の中の振動または音波を抑制する方法であって、
前記構造物の中または上に振動または音響吸収器、すなわち高さ、幅および深さの寸法を有するばらの遮音材料または断熱材料で構成した弾性層と前記弾性層の中に分布した複数の個別のマスとを含む振動または音響吸収器を配置または形成する過程を含み、
前記配置または形成する過程を、前記ばらの遮音材料または断熱材料を前記複数の個別のマスとともに前記構造物の中または上に、内部に前記複数の個別のマスを分布させた前記弾性層から成る前記振動または音響吸収器を形成するように吹付けすることによって行い、
前記複数の個別のマスが、前記振動または音響吸収器の中の互いに異なる高さの位置に前記高さ、幅および深さの寸法全体を通じて互いに隔たった状態で堆積し、前記複数の個別のマスの各々を支持する前記ばらの遮音材料または断熱材料の剛性を変動させ、それによって振動または音波の複数の共振周波数における減衰を可能にする方法。
【請求項2】
前記高さ、幅および深さの寸法を薄石板および薄石板壁で区画する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記複数の個別のマスが互いに異なる材料のマスを含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記複数の個別のマスを、金属、セラミック、プラスチックおよびゲルから成る群から選んだ請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記ばらの遮音材料または断熱材料を、発泡体、音響用ガラスファイバ、ガラスファイバ詰め物、分布式バネ材料、ウレタンおよびゴムから成る群から選んだ請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記複数のマスが互いに異なる大きさのマスを含む請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記複数のマスが互いに異なる形状のマスを含む請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記配置または形成する過程を、一つの建物の天井、壁または床の内側で行う請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記配置または形成する過程を、自動車、船および航空機から成る群から選んだ運搬手段の一部の中で行う請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記配置または形成する過程を、機械または装置のハウジング部分の内側で行う請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記ばらの遮音材料または断熱材料が繊維状の材料である請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記複数の個別のマスが粘着性あるまたは粗い表面を備える請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記複数の個別のマスが粘着性あるまたは粗い表面を備える請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図17A】
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【図18】
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【図19】
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【図19A】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【図21C】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−247063(P2012−247063A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−145547(P2012−145547)
【出願日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【分割の表示】特願2008−541485(P2008−541485)の分割
【原出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(508148884)ヴァージニア テック インテレクチュアル プロパティーズ,インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】