説明

振動ミラーおよびレーザスキャニングユニット

【課題】特性ばらつきを抑制した金属材料からなる振動ミラーおよび当該振動ミラーを使用したレーザスキャニングユニットを提供する。
【解決手段】梁をねじり回転軸として往復振動する、プレス加工により成形された金属材料からなる振動子と、当該振動子に支持されたミラー5とを備える振動ミラーにおいて、振動子が、同一プレス方向のプレス加工により成形された、ミラー5を支持する支持部4を備える。支持部4のプレス加工方向の上流側の面には、当該面外に一部が突出する状態でミラー5が支持される。また、支持部4のプレス加工方向の下流側の面内には、永久磁石6が配置される。これにより、プレス加工によるバリの有無に関わらず、ミラーと永久磁石とを常に同一の状態で支持部に固定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動ミラーおよびレーザスキャニングユニットに関し、特に、梁をねじり回転軸として往復振動する、プレス加工により成形された金属材料からなる振動子と、前記振動子に支持されたミラーとを備える振動ミラーおよび当該振動ミラーを備えたレーザスキャニングユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザプリンタ等の画像形成装置は、レーザ光を走査することにより、感光体(感光ドラム)上に潜像を形成する。このようなレーザ光の走査は、レーザスキャニングユニットにより実現される。レーザスキャニングユニットは、光源から形成画像に応じて変調されて出射したレーザ光をミラーにより偏向し、偏向したレーザ光を感光体上にスポット状に結像する。この種のレーザスキャニングユニットに使用される偏向ミラーとして、複数の反射面を有するポリゴンミラーが広く知られている。ポリゴンミラーを備えるレーザスキャニングユニットは、モータ等の駆動手段によりポリゴンミラーを一方向に回転させることによりレーザ光を偏向する。
【0003】
近年の書込速度高速化の要求に応じて、ポリゴンミラーの回転速度は高まっているが、ポリゴンミラーの回転数を高めると、風切音やモータの振動等に起因して発生する音が大きくなり静寂性を確保することが困難になる。また、ポリゴンミラーを備えるレーザスキャニングユニットは、モータ等の駆動手段を備える必要があるため、小型化や軽量化が困難であるという問題もある。このため、レーザスキャニングユニットに往復型の偏向ミラーが使用されることもある。
【0004】
このような往復型の偏向ミラーとして振動ミラーが知られている。この振動ミラーは、レーザ光の走査方向に対して垂直方向に配置されたねじり回転軸を有する機械的振動子により構成されている。そして、振動子に支持されたミラーを往復振動させることでレーザ光を走査させる。
【0005】
近年、このような振動ミラーの製造に半導体製造技術が適用されるようになっている。このような振動ミラーは、単結晶シリコン基板等の半導体基板を加工することにより形成され、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動ミラーとして注目されている(例えば、特許文献1、2等参照。)。
【特許文献1】特開2003−84226号公報
【特許文献2】特開2001−305472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような半導体製造技術を適用したMEMS振動ミラーを製造するためには、リソグラフィ装置等の非常に高価な製造設備が必要であり、低コストで製造することが困難である。また、シリコン単結晶基板等の半導体基板を基材として形成されたMEMS振動ミラーは、比較的容易にへき開するためハンドリングの際に破損しやすいという問題もある。
【0007】
一方、金属材料を加工することにより、振動ミラーを形成することも可能である。例えば、エッチング技術を適用して金属薄板を加工することにより、比較的容易に振動ミラーを製造することができる。しかしながら、金属材料はシリコン単結晶と比較すると許容応力が低いため、同一性能の振動ミラーを形成する場合、振動軸の長さを長くする必要があり、振動ミラーの外形サイズが大きくなってしまう。また、加工精度の観点では、エッチング技術は半導体製造技術に比べると精度が劣るため、完成品の特性にばらつきが生じやすいという問題もある。
【0008】
本発明は、このような実情を鑑みて提案されたものであって、特性ばらつきを抑制した、金属材料からなる振動ミラーおよび当該振動ミラーを使用したレーザスキャニングユニットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の技術的手段を採用している。まず、本発明は、梁をねじり回転軸として往復振動する、プレス加工により成形された金属材料からなる振動子と、前記振動子に支持されたミラーとを備える振動ミラーを前提としている。そして、本発明に係る振動ミラーは、振動子が、同一プレス方向のプレス加工により成形され、上記ミラーを支持する支持部を備える。当該支持部のプレス加工方向の上流側の面には、当該面外に一部が突出する状態で上記ミラーが支持される。また、上記支持部のプレス加工方向の下流側の面内には、永久磁石が配置される。
【0010】
これにより、プレス加工によるバリの有無に関わらず、ミラーと永久磁石とを常に同一の状態で支持部に固定することができる。
【0011】
また、本発明は、当該振動ミラーと、当該振動ミラーを往復振動させる駆動手段と、ミラーの反射面に向けて所定波長の光を照射する光源と、を備えたレーザスキャニングユニットを提供することもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プレス加工により成形された金属材料からなる振動子を備えた振動ミラーを、低コストに安定して製造することが可能となる。また、本発明に係る振動ミラーはハンドリングが容易であり、レーザスキャニングユニットの組立時等に破損することもない。さらに、本発明に係る振動ミラーは、バリの有無に関わらず、ミラーと永久磁石とを常に同一の状態で支持部に固定できるため、振動ミラーをプレス加工により低コストで安定して製造することができる。加えて、共振周波数が所望の範囲内になっているため、レーザスキャニングユニットの組立時の調整作業を大幅に軽減できる。その結果、レーザスキャニングユニットを極めて低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
(レーザスキャニングユニットの構成)
まず、往復振動する振動ミラーを備えるレーザスキャニングユニットの構成について説明する。図1は、当該レーザスキャニングユニットを示す概略構成図である。レーザスキャニングユニット50は、光源52、偏向器53、結像レンズ系54を筐体51内に備える。
【0015】
光源52は、回路基板63上に実装されたレーザダイオード61と、コリメータレンズ62とを備える一体のユニットとして構成されている。回路基板63は、外部から入力される画像信号にしたがってレーザダイオード61が出射するレーザ光の強度変調を行う。変調されたレーザ光はコリメータレンズ62に入射される。コリメータレンズ62は、円筒形状のガラスレンズからなり、レーザダイオード61から出力されたレーザ光をコリメータレンズ62の光軸と一致した平行光に変換して出力する。なお、レーザダイオード61の発光点は、コリメータレンズ62の焦点に配置されている。
【0016】
光源52から出力されたレーザ光は、アパーチャ55、シリンドリカルレンズ56を通じて偏向器53の反射面に入射される。偏向器53は、感光体上でのレーザ光の走査方向に対して垂直方向に配置されたねじり回転軸を有する振動ミラー10(以下で詳述する)と、当該振動ミラー10を正弦的に往復振動させる駆動手段11とにより構成されている。シリンドリカルレンズ56は、振動ミラー10の反射面上に、レーザ光のねじり回転軸方向のみを収束させた状態でレーザ光を投影する。
【0017】
偏向器53により偏向されたレーザ光は結像レンズ系54に入射される。ここでは、結像レンズ系54は、2枚のアクリルレンズにより構成されており、偏向器53により偏向されたレーザ光を、感光体上の走査速度が略同一となる状態で感光体上にスポット状に結像させる。すなわち、結像レンズ系54は、正弦的に振動する反射ミラー10により反射され、入射角が時間とともに三角関数的に変化するレーザ光を、感光体上に等間隔なスポット列として結像させるアークサインθレンズになっている。
【0018】
(振動ミラーの構成)
続いて、上述のレーザスキャニングユニットに搭載される振動ミラー10の構造について詳細に説明する。図2は、本実施形態の振動ミラー10の構造を示す概略斜視図である。図2に示すように、振動ミラー10は、後述するプレス加工により成形された振動子1と、ミラー5と、永久磁石6とを備える。振動子1は、ミラー5および永久磁石6が固定される支持部4が同一直線上に配置された2本の梁3により支持された構造を有する。梁3の他端は、振動子1として一体に成形された矩形状の枠体2に支持されており、振動子1は梁3をねじり回転軸として往復振動する。この往復振動は、永久磁石6に交番磁場を付与することで持続される。
【0019】
永久磁石6に付与する交番磁場は、例えば、電磁石に交流電力を印加する駆動手段11により生成できる。この場合、往復振動の周波数、すなわち、電磁石に印加する交流電力の周波数(以下、駆動周波数という。)と振動ミラー1の共振周波数とが一致していると、振動ミラー10の駆動のための消費電力を小さくすることができる。振動ミラー10が共振周波数で往復振動する場合、振動を維持するために必要な外力の大きさが最小になるからである。
【0020】
振動ミラー10を介してレーザ光を感光体上で走査させるレーザスキャニングユニットでは、駆動周波数は感光体上の記録密度および印字速度(感光体の送り速度)に密接に関係する。すなわち、駆動周波数fは、記録密度D(dpi)、印字速度V(mm/sec)により以下の式1で示される。
【0021】
【数1】

【0022】
式1は、振動ミラー10がねじり回転軸に対していずれの方向に回転している場合にも印字を行う往復印字を前提としている。振動ミラー10がねじり回転軸に対して一方向に回転している場合にのみ印字を行う片方向印字の場合には、駆動周波数fは2倍になる。例えば、記録密度Dが600dpiであり、印字速度Vが180mm/secである場合、駆動周波数fは、約2126Hz(往復印字)である。
【0023】
また、以上の構造を有する振動ミラー10の共振周波数f0は、梁3のばね定数K(両方の梁3の合計)と、ミラー5および永久磁石6を含む支持部4の慣性モーメントJとにより、以下の式2で示される。
【0024】
【数2】

【0025】
一方、本実施形態では、振動子1が金属材料により構成されているため、往復振動中に梁3に付加されるせん断応力が梁3の許容応力を超えると、振動子1が破損してしまう。このため、構造上、振動子1には、梁3に付加されるせん断応力が、梁3の許容応力以下であることが求められる。各梁3のねじり回転軸方向の長さをL、梁3の幅をb、梁3の厚さをt(ここでは、t≦b)、梁3に付与されるトルクをTとすると、梁3の幅方向の中点でのせん断応力τAは、以下の式3により表現される。
【0026】
【数3】

【0027】
また、梁3の厚さ方向の中点でのせん断応力τBは、以下の式4により表現される。
【0028】
【数4】

【0029】
さらに、梁3の単位長さあたりのねじれ角ω(共振周波数で往復振動しているときの最大振り角θ/梁長L)は、梁3の横方向弾性係数Gを用いて、以下の式5により表現される。
【0030】
【数5】

【0031】
この場合、ばね定数Kは、以下の式6を満足する。
【0032】
【数6】

【0033】
したがって、梁3は、式3および式4に示すせん断応力τAとτBとが、梁3の許容応力以下であり、かつ式2、式5および式6を満足する必要がある。金属材料はシリコン単結晶と比較すると許容応力が小さい。そのため、梁3をシリコン単結晶で形成された振動ミラーと同一寸法とした場合、梁3に付与可能なトルクTの大きさはシリコン単結晶で形成された振動ミラーよりも小さくなる。したがって、シリコン単結晶で形成された振動ミラーと同一特性の振動ミラーを金属材料により構成する場合、梁3の断面の寸法を同一にすると、シリコン単結晶で形成された振動ミラーよりも梁長Lを長くしなければならない。このため、振動ミラー10のねじり回転軸方向のサイズが大きくなってしまう。
【0034】
そこで、本実施形態では、振動ミラー10のねじり回転軸方向のサイズを小さくするために、梁3の断面形状として、ミラー5の反射面に平行な方向(以下、幅方向という。)を長辺とし、ミラー5の反射面に垂直な方向(以下、厚さ方向という。)を長辺の1/2倍以下の長さを有する短辺とした矩形形状を採用している。
【0035】
図3は、せん断応力τA、τBが一定となる条件下で、梁3の幅bと厚さtとの比(b/t)と、同一の共振周波数f0が得られる梁3の長さとの関係を示す図である。図3において、横軸が梁断面比率(b/t)に対応し、縦軸が梁長に対応する。なお、図3では、梁長は、b=t(断面が正方形)であるときの梁長を基準として規格化している。
【0036】
図3に示すように、梁長は、梁断面比率の増大に伴って一旦増大し、その後に減少する。したがって、梁断面比率を2以上にすれば梁長を短縮でき、振動ミラー10のねじり回転軸方向のサイズを小さくすることができる。
【0037】
また、本実施形態では、このような断面形状を採用することにより、プレス加工に起因する成形誤差が共振周波数f0に与える影響を緩和している。すなわち、後述のように振動子1はマルチステージのプレス加工(順送プレス加工)により成形されるため、梁3の各短辺(厚さ方向の辺)は少なくとも2回のプレス工程を経て形成される。各プレス工程では、ワークは金型に対して厳密に位置合わせされるが、位置合わせのクリアランスの範囲内での位置ずれは発生しうる。このような位置ずれが発生した場合、個々の振動子1において梁幅bの寸法が変動することになる。
【0038】
図4は、共振周波数f0およびせん断応力τA、τBが一定となる条件下で、梁断面比率(b/t)が異なる梁3をプレス加工により形成した場合に、梁幅bの変動量が共振周波数f0に与える影響を示す図である。図4において、横軸は、梁幅bの変動量に対応し、縦軸は共振周波数f0の変動量に対応する。また、図4では、梁断面比率が1(b=1、t=1)、2(b=1.48、t=0.74)、3(b=1.89、t=0.63)、5(b=2.59、t=0.52)である場合の、梁幅bの変動量と共振周波数f0の変動量との関係を示している。なお、図4では、梁断面比率が1である場合の梁厚tは0.155mmである。
【0039】
図4から理解できるように、梁断面比率が大きいほど、共振周波数f0の変動量が小さくなる。これは、梁幅bの変動量はプレス加工のクリアランスのみに依存するため、梁断面比率に関わらずほぼ一定になるからである。すなわち、共振周波数f0およびせん断応力τA、τBが一定となる条件下では、梁断面比率が大きいほど梁幅bが大きくなる。そのため、プレス加工のクリアランスのみに依存する梁幅変動量が梁幅bに占める割合は、梁断面比率の増大に伴って相対的に小さくなり、結果として、共振周波数f0の変動が小さくなる。したがって、梁厚tが梁幅bの1/2以下となる矩形断面形状を有する梁3を採用することにより、振動ミラー10のねじり回転軸方向のサイズを小さくできるとともに、プレス加工の成形誤差に起因する共振周波数f0の変動を抑制することができる。このような構成は、金属材料をプレス加工することにより振動子1を形成する場合に極めて好適である。
【0040】
以下、振動ミラー10の具体的な構造をその設計手順とともに説明する。振動ミラー10を設計する場合、まず、振動子1を構成する金属材料を選定する。上述のように、振動子1はプレス加工により成形される。このような成形を可能とするために、金属材料はフープ材である必要がある。また、往復振動に起因する金属疲労を生じることがなく、かつ梁3の許容応力を大きくするという観点では、振動子1を構成する金属材料は、大きな疲労限度を有することが望ましい。さらに、慣性モーメントJを小さくする(共振周波数f0を大きくする)観点では、密度が小さいことが好ましく、往復振動の振り角θを大きくする観点では、横弾性係数Gが小さいことが好ましい(上記式5参照)。また、往復振動の際に発生する熱による形状変形が大きい場合、慣性モーメントJが変動し、往復振動の過程で共振周波数f0が変動してしまう。このため、熱膨張係数が小さいことも求められる。加えて、耐環境性能の観点からは材料的に安定しており、価格も安価であることが好ましい。そこで、本実施形態では、以上の条件を全て満足する金属材料としてチタン合金(Ti−15V−3Cr−3Sn−3Al、AMS4914)を採用している。当該チタン合金の疲労強度は350MPaであり、密度は4.7g/cm3である。なお、振動子1を構成する金属材料として、他のチタン合金や純チタンを採用することも可能である。
【0041】
振動子1を構成する金属材料を選定した後、振動ミラー10の振り角、ミラー5の材質およびサイズ、永久磁石6の材質およびサイズを決定する。振動ミラー10の振り角およびミラー5のサイズは、レーザスキャニングユニットとして所望のビーム特性を得るのに必要な振り角およびサイズに決定される。当該ビーム特性は、振動ミラー10と、振動ミラー10により反射されたビームを感光体上に結像するレンズとの間の距離等のレーザスキャニングユニットの構造に依存して決まる。例えば、記録密度Dが600dpiであり、印字速度Vが180mm/secである場合、振り角は±23度、ミラー5のサイズは幅4.7mm×長さ(ねじり回転軸方向)0.8mm×厚さ0.15mmとすることができる。なお、ここではミラー5の平面形状を矩形としているが、所望のビーム形状のレーザ光を反射可能であれば、楕円形状等の他の平面形状であってもよい。また、ミラー5の材質はレーザ光を反射可能な材質であればよく、ここではガラスベース誘電体多層膜を採用している。
【0042】
次いで、上記チタン合金の疲労強度に基づいて許容応力を決定する。許容応力は、チタン合金の疲労強度曲線(S−N曲線)に基づいて決定することができる。図5は、上記チタン合金のS−N曲線を示す図である。上述のように、当該チタン合金の疲労限度は350MPaであり、最大振り角時に梁3に付与される最大応力が当該疲労限度以下とすれば、半永久的な寿命を実現することができる。ここでは、疲労限度350MPaに対して100MPaのマージンを設けた250MPaを許容応力としている。
【0043】
続いて、決定されたミラー5のサイズに基づいて、振動子1の支持部4のサイズを決定する。当該支持部4のサイズが大きいと、慣性モーメントJが大きくなり共振周波数f0が小さくなる(式2参照)。このため、支持部4のサイズは、ミラー5を固定することができる最小限のサイズに決定することが好ましい。ここでは、支持部4のサイズを幅2.0mm×長さ(ねじり回転軸方向)1.2mmとしている。なお、永久磁石6は、この支持部4に固定可能なサイズで、振動ミラー10を往復振動させる外力を発生しうるものであればよい。ここでは、永久磁石6として、径0.8mm×厚さ0.4mmの希土類磁石を使用している。
【0044】
続いて、振動子1の厚みを仮設定し、ミラー5および永久磁石6を固定した状態、すなわち、ミラー5、永久磁石6、ミラー5を支持部4に固定するための接着部材および永久磁石6を支持部4に固定するための接着部材を含めた状態で、慣性モーメントJを算出する。そして、当該慣性モーメントJおよび式2より、所望の共振周波数f0が得られるばね定数Kを算出する。そして、算出したばね定数Kと式3〜式6を用いて、式3および式4のせん断応力τA、τBが許容応力250MPa以下になる条件下で、梁幅bおよび梁長Lを決定する。なお、梁厚tは、上記仮設定した支持部4の厚さと同一である。また、上述のように梁幅bは、梁厚tの2倍以上に設定される。梁幅bの上限は特に限定されるものではないが、慣性モーメントJへの影響を考慮すると、梁厚tの10倍以下が目安となる。例えば、振動子1の厚みtを0.11mmに仮設定した場合、慣性モーメントJは、3.1×10-12kgm2であり、ばね定数Kは、5.53×10-4Nm/radである。このため、梁幅bは0.243mm、梁長Lは8.7mmに設定することができる。なお、梁長Lが極端に大きくなる場合には、振動子1の厚み(梁厚t)を再設定して、慣性モーメントJおよびばね定数Kを再計算し、梁幅bと梁長Lを再設計すればよい。
【0045】
(振動ミラーの製造方法)
次に、以上の構成を有する振動ミラー10の製造方法について説明する。図6は、振動ミラー10を構成する振動子1の製造に使用する金型の一例を示す平面図である。なお、図6では、ダイパンチの形状と位置のみを模式的に示している。
【0046】
図6に示すように、金型30は、マルチステップの順送プレス加工により振動子1を成形する構造を有している。図6の例では、5ステップのプレス加工により振動子1が成形される。すなわち、領域31では、板状の金属材料にガイド孔が形成される。領域32では、梁3の幅方向の一方の端面が形成される。この時点では、支持部4は枠体2から分離されない。領域33では、梁3の幅方向の他方の端面が形成される。領域32と同様に、この時点では、支持部4は枠体2から分離されない。領域34では、支持部4の幅方向の一方が枠体2から分離されて端面が形成される。そして、領域35では、支持部4の幅方向の他方が枠体2から分離されて端面が形成される。
【0047】
振動子1の製造工程では、以上の金型30に対して、コイルフィーダー等を使用して帯状の金属材料が送り込まれる。図7は、図6に示す金型30による振動子1の製造過程を示す平面図である。図7に示す矢印は金属材料40の送り方向を示している。図7において、金属材料40の領域41、42、43、44、45が金型30の領域31、32、33、34、35によりそれぞれ成形された部分である。図7に示すように、金型30の各領域31〜35を通過し、5回のプレス加工が完了すると、振動子1の成形が完了する。5回のプレス加工が完了した金属材料40は、順次、振動子1として切断分離される。以上のようなプレス加工を使用することにより、枠体2、梁3、支持部4が一体に形成された振動子1を容易に製造することができる。
【0048】
以上のようにして形成された振動子1の支持部4には、永久磁石6およびミラー5が順に装着される。永久磁石6の装着には、支持部4の永久磁石搭載面を上方に向けて振動子1を固定支持する機能と、永久磁石6をピックアップして永久磁石搭載面上に搬送する機能とを有する実装装置を使用する。当該実装装置としては、例えば、プリント基板等に電子部品を実装する公知のマウンタ等を流用することができる。
【0049】
上記実装装置に振動子1が永久磁石搭載面を上方に向けて固定支持されると、実装装置の搬送手段が備える真空コレット等の吸着手段により、当該振動子1に搭載される永久磁石6がピックアップされる。永久磁石6を吸着した搬送手段は、振動子1の永久磁石搭載面の上方に移動する。この移動の過程で、永久磁石6の永久磁石搭載面との接触面にエポキシ樹脂等の接着部材が塗布される。そして、搬送手段は、永久磁石6の接着部材が塗布された面を永久磁石搭載面に接触させ、永久磁石6を永久磁石搭載面上に配置する。なお、永久磁石搭載面上における永久磁石6の配置位置は、公知の画像認識等により、振動ミラー10の対称性を維持した状態に厳密に位置合わせされる。永久磁石6が装着された振動子1は、実装装置から搬出される。
【0050】
永久磁石6が固定されると、当該振動子1のミラー搭載面にミラー5が装着される。ミラー5の装着には、永久磁石6が固定された支持部4のミラー搭載面を上方に向けて振動子1を固定支持する機能と、ミラー5をピックアップしてミラー搭載面上に搬送する機能とを有する実装装置を使用する。当該実装装置としては、例えば、プリント基板等に電子部品を実装する公知のマウンタ等を流用することができる。
【0051】
上記実装装置に永久磁石6が固定された振動子1がミラー搭載面を上方に向けて固定支持されると、実装装置の搬送手段が備える真空コレット等の吸着手段により、当該振動子1に搭載されるミラー5がピックアップされる。このとき、吸着手段はミラー5を反射面側から吸着する。また、吸着手段は、ミラー5の反射面の光学特性を劣化させないように、ミラー5外縁を支持する。ミラー5を吸着した搬送手段は、振動子1のミラー搭載面の上方に移動する。この移動の過程で、ミラー5のミラー搭載面との接触面にエポキシ樹脂やUV(Ultra Violet)硬化樹脂等の接着部材が塗布される。そして、搬送手段は、ミラー5の接着部材が塗布された面をミラー搭載面に接触させ、ミラー5をミラー搭載面上に配置する。なお、ミラー搭載面上におけるミラー5の配置位置は、公知の画像認識等により、振動ミラー10の対称性を維持した状態に厳密に位置合わせされる。ミラー5が装着された振動子1は、実装装置から搬出される。なお、接着部材がUV硬化樹脂である場合には、ミラー搭載面上に配置されたミラー5に、反射面側からUV光が照射され、UV硬化樹脂の硬化が行われる。なお、この場合、ミラー5の反射面は当該UV光の波長を透過する光学特性を有することになる。
【0052】
以上のようにして振動ミラー10を構成することにより、従来のように、半導体製造装置等の極めて高価な製造設備を使用することなく、低コストで振動ミラーを製造することができる。
【0053】
なお、本実施形態では、支持部4を成形するための複数回のプレス工程を同一方向から実施している。そして、支持部4のプレス加工方向上流側の面をミラー搭載面とし、プレス加工方向下流側の面を永久磁石搭載面にしている。図8は、図2のX−X線における断面構造を示す断面図である。図8に示すように、プレス加工により金属材料を成形する場合、プレス加工方向の下流側にバリが発生することがある。上述のように、支持部4のミラー搭載面のサイズは、ミラー5のサイズよりも小さくなっている。したがって、ミラー5をミラー搭載面に固定した場合、ミラー5の一部がミラー搭載面の外方へ突出する。しかしながら、ミラー5をプレス加工方向上流側の面に固定する構成とすることで、バリの有無に関わらずミラー5をミラー搭載面に密着して固定することができる。また、永久磁石6のサイズは、支持部4の永久磁石搭載面のサイズより小さいため、バリが形成された状況下であっても、永久磁石6と支持部4とを密着して固定することができる。したがって、本構成によれば、バリの有無に関わらず、ミラー5と永久磁石6とを常に同一の状態で支持部4に固定することができる。このため、プレス加工の過程でバリが形成された場合であっても、バリを除去する必要がなくバリ除去工程の追加による製造コストの増大を防止できる。
【0054】
(共振周波数の調整方法1)
ところで、以上で説明した手法により設計、製造された振動ミラー10は、プレス加工の加工精度、ミラー5や永久磁石6の固定に使用する接着部材の付着量の差異等に起因する個々の振動ミラー10の個体差が、半導体製造技術を使用した形成された振動ミラーに比べると大きくなってしまう。このような個体差は、各振動ミラー10の共振周波数f0の差異として顕在化する。上述のように、レーザスキャニングユニットでは、共振周波数f0は感光体上の記録密度および印字速度を決定するパラメータである。このため、共振周波数f0は一定の範囲内に属している必要がある。
【0055】
図9は、駆動周波数fと共振周波数f0との差異がレーザスキャニングユニットに与える影響を示す図である。図9(a)は、電磁石に印加する交流電力が一定である場合の、周波数比(f/f0)と振幅(振り角)との関係を示している。また、図9(b)は、振幅を一定にする場合の、周波数比と交流電力の大きさとの関係を示している。図9(a)において、横軸は周波数比に対応し、縦軸は振幅比に対応する。ここで、振幅比は、駆動周波数fと共振周波数f0とが一致する場合の振幅を基準として規格化している。また、図9(b)において、横軸は周波数比に対応し、縦軸は消費電力に対応する。
【0056】
図9(a)および図9(b)に示すように、振動ミラー10の共振周波数f0と駆動周波数fとが一致している場合、非常に小さな消費電力で大きな振幅が得られている。そして、図9(a)から理解できるように、駆動周波数fと共振周波数f0との間に不一致が発生すると、同一の印加電力により得られる振幅が急激に小さくなる。このため、駆動周波数fと共振周波数f0とが一致している場合と同一の振幅を得るために印加が必要な電力は急激に増大する(図9(b))。レーザスキャニングユニットとして使用する場合、振り角が所望の範囲内でなければ正常な画像形成を行うことができない。また、振動ミラー10を駆動する駆動手段11が電磁石に供給する電力を大幅に調整可能な構成を採用することはレーザスキャニングユニットの製造コストが増大するとともに、全体の消費電力も大きくなるため好ましくない。このため、製造される振動ミラー10のそれぞれの共振周波数f0は、目標とする周波数の±0.5%の範囲内であることが望ましい。しかしながら、図3に示したように、金属材料をプレス加工により成形した振動子1を使用した振動ミラー10では、共振周波数f0の固体差は、目標とする周波数の±0.5%以上の範囲で変動する可能性がある。このため、上記振動ミラー10は、共振周波数f0を調整できる必要がある。
【0057】
図10は、振動ミラー10の共振周波数f0の調整方法を示す図である。ここでは、梁3の支持端部を一部除去する形状加工を施すことにより梁3のばね定数を変更し、共振周波数f0を調整する手法について説明する。なお、梁3の支持端部とは、梁3と枠体2との接続部および梁3と支持部4との接続部の双方を指す。また、図10では、梁3の支持端部のみを拡大して示している。
【0058】
例えば、図10(a)に示すように、梁3の厚さ方向に沿う面と枠体2の厚さ方向に沿う面との接続部に曲率半径rのR面取りを有する状態で梁3と枠体2とを接続すると、共振周波数f0は曲率半径Rに応じて以下の表1に示すように変化する。表1においてr=0は、梁3の厚さ方向に沿う面と枠体2の厚さ方向に沿う面とが垂直に接続している状態である(図10(b))。
【0059】
【表1】

【0060】
したがって、梁3の支持端部の形状加工により、R面取りの曲率半径rを変更することで、1.5%程度のレンジで共振周波数f0を調整することができることになる。なお、このような形状加工は、例えば、レーザ光を照射することにより実現することができる。この場合、レーザ光のビーム径を変更することにより支持端部の曲率半径rを変更してもよく、また、レーザ光照射の走査経路を変更することにより、支持端部の曲率半径rを変更してもよい。また、形状加工は、レーザ照射に限らず、放電加工等によって行ってもよい。また、形状加工は、所定の曲率半径のR面取りを有する支持端部の曲率半径を小さくする加工およびR面取りを有しない支持端部にR面取りを形成する加工のいずれであってもよい。
【0061】
また、例えば、図10(c)に示すように、梁3の厚さ方向に沿う面と枠体2の厚さ方向に沿う面との接続部に長さ0.15のC面取りを有する状態で梁3と枠体2とを接続すると、共振周波数f0は2058.5Hzになる。このC面取り部の一方を曲率半径0.15のR面取りに変更すると、共振周波数f0は2055.5Hzになる。また、両方のC面取り部を曲率半径0.15のR面取りに変更すると(図10(d)参照)、共振周波数f0は2052.6Hzになる。このような形状加工を行うことによっても、共振周波数f0を調整することができる。当該形状加工は、所定のC面取りを有する支持端部にR面取りを形成する加工および所定の曲率半径のR面取りを有する支持端部にC面取りを形成する加工のいずれであってもよい。
【0062】
また、上記では、梁3と枠体2との接続部のみに形状加工を施す事例を説明したが、当該形状加工は、梁3と支持部4との接続部に対して実施してもよく、全支持端部に対して形状加工を施してもよい。全支持端部に対して形状加工を施す場合、共振周波数f0の調整可能レンジはさらに広くなる。なお、梁3と枠体2との接続部では、振動ミラー10が往復振動している状態であっても、ほとんど変位が発生しない。このため、当該箇所に対する形状加工は、振動ミラー10を往復振動させた状態で実施することもできる。
【0063】
以上のように、梁3の支持端部を形状加工することで、共振周波数f0を調整することができるが、調整可能レンジが十分に大きいとはいえない。調整可能レンジをさらに大きくするため、振動ミラーは一部または全部が除去される共振周波数調整片を備えていてもよい。図11は、共振周波数調整片を備えた共振ミラーの支持部構造の一例を示す平面図である。図11に示すように、支持部4は、同一平面内の外方に延出された共振周波数調整片21を備える。図11の例では、ミラー5の外縁よりも外方に突出する状態でねじり回転軸方向に延出された共振周波数調整片21が、支持部本体4aの四隅のそれぞれに設けられている。なお、共振周波数調整片21は、プレス加工により振動子1として一体に形成される。
【0064】
この例では、レーザ照射等により各共振周波数調整片21の一部または全部を除去することにより振動ミラーの慣性モーメントJを減少させることができる。なお、振動ミラーの対称性を維持するため、各共振周波数調整片21はそれぞれ同一長さだけ除去することが好ましい。この場合、慣性モーメントJの減少量は、各共振周波数調整片21の除去長さに応じて調整することができる。
【0065】
当該調整方法により調整できる共振周波数のレンジは、調整前の慣性モーメントJおよび慣性モーメントJの減少量に依存するため一概にはいえないが、3%以上のレンジで共振周波数を調整することができる。図12は、共振周波数調整片21の除去長と共振周波数f0の変動量との関係の一例を示す図である。ここでは、支持部本体4aが幅2mm、長さ1.2mm、厚さ0.11mmであり、各共振周波数調整片21が、突出長さ1mm、幅0.4mmである。図12に示すように、除去長が増大するにつれて共振周波数f0は単調に増加する。本例の場合、除去量を1mm(全除去)にすると共振周波数f0を8%程度変動させることができる。
【0066】
また、当該共振周波数調整片の除去による共振周波数調整と上述の支持端部の形状加工による共振周波数調整とを併用することも可能である。この場合、共振周波数調整片の除去により共振周波数を粗調整し、支持端部の形状加工により共振周波数を微調整することができる。なお、共振周波数調整片21はレーザ照射や放電加工により除去可能であればよく、その形状および数は限定されない。また、共振周波数調整片が支持部本体4aから突出していることも必須ではなく、支持部本体4aの一部が共振周波数調整片として機能する構成であってもよい。例えば、矩形形状の支持部4の四隅をミラー5の外縁よりも外側に突出するサイズとすれば、支持部4の四隅を共振周波数調整片として機能させることができる。
【0067】
(共振周波数の調整方法2)
以上では、振動子1の一部を除去することにより共振周波数f0を調整する構成を説明したが、振動子1の一部を除去することなく共振周波数f0を調整することも可能である。図13は、振動子1の一部を除去することなく共振周波数f0を調整する共振周波数調整片を備える振動ミラーの支持部構造の一例を示す図である。図13(a)に示すように、支持部4は、同一平面内の外方に延出された共振周波数調整片22を備える。図13(a)の例では、ミラー5の外縁よりも外方に突出する状態でねじり回転軸方向と垂直な方向に延出された共振周波数調整片22が、支持部本体4aの四隅のそれぞれに設けられている。本例では、支持部本体4aは幅2mm、長さ2.4mmであり、各共振周波数調整片22は突出長さ1mm、幅0.5mmである。なお、共振周波数調整片22は、プレス加工により振動子1として一体に形成されるため、共振周波数調整片22の厚さは支持部4aの厚さと同一である。
【0068】
共振周波数調整片22が溶断するエネルギー照射量より小さいエネルギー照射量でレーザ光を照射した場合、共振周波数調整片22は、レーザ光照射位置を基点としてレーザ光照射側へ向けて屈曲する。これは、レーザにより照射された箇所の材料が一旦加熱された後冷却することで熱収縮するからである。例えば、図13(a)に示すように、支持部4の永久磁石搭載面に対向する方向から、共振周波数調整片22の根元の幅方向中央部(矢指部A)にレーザ光を照射すると、図13(b)に示すように、レーザ光照射位置を基点として共振周波数調整片22の先端が永久磁石搭載面側へ向かって屈曲する。すなわち、共振周波数調整片22の先端が梁3を含む面外に配置される。図14は、共振周波数調整片22の先端を梁3を含む面外に屈曲させた場合の、各共振周波数調整片22の曲げ角度αと慣性モーメントJとの関係を示す図である。ここで、曲げ角度αは、梁3を含む面と各共振周波数調整片22とがなす角であり、α=0度がレーザ光を照射していない状態である。レーザ光のビーム径および照射エネルギーを固定した場合、曲げ角度αは照射時間により調整することができる。また、図15は、曲げ角度αと共振周波数f0の変動量との関係を示す図である。図14および図15では、横軸が曲げ角度αに対応する。また、図14では、縦軸が慣性モーメントJに対応し、図15では縦軸が共振周波数f0に対応する。
【0069】
図14および図15から理解できるように、曲げ角度αが増大するにつれて慣性モーメントJは単調に減少する。また、慣性モーメントJの減少に伴って、共振周波数f0は単調に増加する。本例の場合、曲げ角度を30度にすると共振周波数f0を0.5%程度変動させることができる。
【0070】
また、図16に示すように、支持部4の永久磁石搭載面と対向する方向から、共振周波数調整片22の根元の幅方向の一端(矢指部B)にレーザ光を照射すると、レーザ光照射位置を基点として共振周波数調整片22の先端がレーザ光照射側へ向かって屈曲する。この場合、共振周波数調整片22の先端は同一面内(梁3を含む面内)に配置される。図17は、各共振周波数調整片22を同一平面内で屈曲させた場合の、各共振周波数調整片22の曲げ角度βと慣性モーメントJとの関係を示す図である。ここでは、振動子1の対称性を維持するため、各共振周波数調整片22の先端を隣り合う梁3の方向に屈曲させている。曲げ角度βは、ねじり回転軸に垂直な面と共振周波数調整片22とがなす角であり、β=0度がレーザ光を照射していない状態である。また、図18は、曲げ角度βと共振周波数f0の変動量との関係を示す図である。図17および図18では、横軸が曲げ角度βに対応する。また、図17では、縦軸が慣性モーメントJに対応し、図18では、縦軸が共振周波数f0に対応する。
【0071】
図17および図18から理解できるように、曲げ角度βが増大するにつれて慣性モーメントJは単調に減少する。また、慣性モーメントJの減少に伴って、共振周波数f0は単調に増加する。本例の場合、曲げ角度βを30度とすると共振周波数を0.8%程度変動させることができる。
【0072】
このように、振動子1の一部を除去することなく共振周波数f0を調整すれば、加工くずの発生がない。したがって、加工くずがミラー5に付着してミラー5の光学特性を劣化させることもない。
【0073】
なお、以上説明した共振周波数f0の調整は、図1に示したレーザスキャニングユニット50として組み立てる際に、筐体51に固定されるフレームに振動ミラー10を装着した状態で実施される。そして、共振周波数f0の調整が完了した振動ミラー10のフレームに駆動手段11が装着された後、当該フレームがレーザスキャニングユニット50の筐体51に固定される。
【0074】
以上説明したように、本発明によれば、プレス加工により成形された金属材料からなる振動子を備えた振動ミラーを、低コストに安定して製造することが可能となる。また、本発明に係る振動ミラーはハンドリングが容易であるためレーザスキャニングユニットの組立時等に破損することがない。さらに、本発明に係る振動ミラーは、共振周波数が所望の範囲内になっているため、レーザスキャニングユニットの組立時の調整作業を大幅に軽減できる。その結果、レーザスキャニングユニットを極めて低コストで製造することができる。
【0075】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において、種々の変形および応用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、特性が均一な振動ミラーを低コストで実現できるという効果を有し、振動ミラーおよびレーザスキャニングユニットとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施形態におけるレーザスキャニングユニットの構造を示す概略構成図
【図2】本発明の一実施形態における振動ミラーの構造を示す概略斜視図
【図3】せん断応力が一定となる条件下で、梁幅と梁厚との比と、同一の共振周波数が得られる梁長との関係を示す図
【図4】共振周波数およびせん断応力が一定となる条件下で、梁幅の変動量が共振周波数に与える影響を示す図
【図5】チタン合金のS−N曲線を示す図
【図6】本発明の一実施形態における振動ミラーの製造に使用する金型を示す平面図
【図7】本発明の一実施形態における振動ミラーの製造過程を示す平面図
【図8】図2のX−X線における断面構造を示す断面図
【図9】駆動周波数と共振周波数との差異がレーザスキャニングユニットに与える影響を示す図
【図10】本発明の一実施形態における振動ミラーの共振周波数の調整方法を示す図
【図11】本発明の一実施形態における共振周波数調整片を備えた共振ミラーの支持部構造の一例を示す平面図
【図12】本発明の一実施形態における共振周波数調整片の除去長と共振周波数f0の変動量との関係を示す図
【図13】本発明の一実施形態における共振周波数調整片を備えた共振ミラーの支持部構造の一例を示す図
【図14】本発明の一実施形態における曲げ角度αと慣性モーメントJとの関係を示す図
【図15】本発明の一実施形態における曲げ角度αと共振周波数f0の変動量との関係を示す図
【図16】本発明の一実施形態における共振周波数調整片を備えた共振ミラーの支持部構造の一例を示す平面図
【図17】本発明の一実施形態における曲げ角度βと慣性モーメントJとの関係を示す図
【図18】本発明の一実施形態における曲げ角度βと共振周波数f0の変動量との関係を示す図
【符号の説明】
【0078】
1 振動子
2 枠体
3 梁(ねじり回転軸)
4 支持部
5 ミラー
6 永久磁石
10 振動ミラー
21 共振周波数調整片
22 共振周波数調整片
30 金型
40 金属材料(フープ材)
50 レーザスキャニングユニット
51 光源
52 偏向器
53 結像レンズ系(アークサインθレンズ)
L 梁長
b 梁幅
t 梁厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁をねじり回転軸として往復振動する、プレス加工により成形された金属材料からなる振動子と、前記振動子に支持されたミラーとを備える振動ミラーであって、
前記振動子が、
同一プレス方向のプレス加工により成形され、前記ミラーを支持する支持部と、
前記支持部のプレス加工方向の上流側の面に、当該面外に一部が突出する状態で支持された前記ミラーと、
前記支持部のプレス加工方向の下流側の面に、当該面内に配置された永久磁石と、
を備えたことを特徴とする振動ミラー。
【請求項2】
請求項1に記載の振動ミラーと、
前記振動ミラーを往復振動させる駆動手段と、
前記ミラーの反射面に向けて所定波長の光を照射する光源と、
を備えたレーザスキャニングユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−175513(P2009−175513A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14831(P2008−14831)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】