説明

振動片および振動子

【課題】下地層の拡散を抑制して良好な周波数温度特性を安定して得ることのできる振動
片、および振動子を提供する。
【解決手段】周波数温度依存性を有する振動体11の表面に、ヤング率と熱膨張係数の少
なくとも一方の温度特性曲線上に変曲点と極値の少なくとも一方を有する温度特性補正部
28を設け、温度特性補正部28の振動体11とは反対側に、温度特性補正部28を構成
する下地層32が拡散する性質を持つ電極部24を積層させ、温度特性補正部28と電極
部24との間に下地層32の拡散を防止する拡散防止層26を設け、温度特性補正部28
におけるヤング率と熱膨張係数の少なくとも一方が変曲点となる温度と極値となる温度の
少なくとも一方が、前記振動体の動作温度範囲内としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動片、およびこれを実装した振動子に係り、特に周波数温度特性の良好な振
動片および振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数温度依存性を有する振動体において、周波数温度特性を改善する事は長きに亙る
課題とされてきた。特に、周波数温度特性を示す曲線が2次関数的に変化することが知ら
れている水晶を用いた屈曲振動片では、その周波数温度特性を改善するための種々の技術
が開示されている。
【0003】
例えば特許文献1に開示されている技術は、音叉型振動片に関する技術であり、振動腕
の屈曲方向をXY′面、Y′Z′面の2方向とし、1つの屈曲振動片により2つの屈曲振
動を生じさせ、これらを結合させることでいずれか1方の振動の周波数温度特性を改善さ
せるというものである。
【0004】
また、特許文献2に開示されている技術は、やはり音叉型振動片に関するものであり、
従来コンタクトメタルとしてAuやAgの下層に形成されていたCrの膜厚を所定の範囲
で厚くすることで、Cr形成部分に生ずる応力が振動特性に影響を与え、周波数温度特性
が改善されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−40589号公報
【特許文献2】特開2005−136499号公報
【非特許文献】
【0006】
図3の引用元は以下の通り。
【非特許文献1】R.Street, ”Elasticity and Anelasticity of Chromium”, Physical Review Letters, Vol.10, No.6, pp.210-211, 1963. 図4の引用元は以下の通り。
【非特許文献2】D.F.McMorrow, J.Jensen, H.M.Ronnow, ”Magnetism in Metals”, Mat.Fys.Medd.Dan.Vid.Selsk.45(1997).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記技術によれば確かに、周波数温度特性の改善を見ることができる。しかし、特許文
献1に開示されている技術は2つの振動を結合するものであり、各振動の制御が困難であ
るという問題が生ずる。
【0008】
また、特許文献2に開示されている技術は、周波数温度特性が改善される原因が不明確
であると共に、電極層として形成されたAuやAgに対し、下層(下地層)に形成された
Crが拡散し、これにより金属膜の特性が変化し、周波数温度特性が経時的に変化したり
、不安定になったりするといった問題があった。
【0009】
そこで本発明では、金属膜の膜厚の変化により周波数温度特性が改善される要因を究明
すると共に、下地層の拡散を抑制して良好な周波数温度特性を安定して得ることのできる
振動片、および振動子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の
形態又は適用例として実現することが可能である。
【0011】
[適用例1]周波数温度依存性を有する振動体の表面に、ヤング率と熱膨張係数の少な
くとも一方の温度特性曲線上に変曲点と極値の少なくとも一方を有する第1金属層を設け
、前記第1金属層の前記振動体側とは反対側に第2金属層を積層させ、前記第1金属層と
前記第2金属層との間に前記第1金属層の拡散を防止する拡散防止層を設け、前記第1金
属層におけるヤング率と熱膨張係数の少なくとも一方が、変曲点となる温度と極値となる
温度の少なくとも一方を、前記振動体の動作温度範囲内に有することを特徴とする振動片

このような特徴を有する振動片であれば、良好な周波数温度特性を安定して得ることが
可能となる。
【0012】
[適用例2]適用例1に記載の振動片であって、前記第1金属層は多元素から成る合金
層または、複数の単元素から成る金属膜間の拡散によって生ずる合金層であり、前記第2
金属層は単元素から成る金属層または多元素から成る合金層であることを特徴とする振動
片。
このような特徴を有する振動片によれば、ヤング率と熱膨張係数の少なくとも一方の変
曲点となる温度や極値となる温度に基づいて、振動片の動作温度範囲内の温度を考慮して
適宜選択することが可能となり、目的、使用環境に応じて良好な周波数温度特性を得るこ
とのできる振動片を製造することが可能となる。
【0013】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の振動片であって、前記変曲点となる温度
または前記極値となる温度が、ネール温度であることを特徴とする振動片。
ネール温度は反強磁性体が常磁性状態へ転移する温度であるため、ヤング率の極値が現
れることとなり、周波数温度特性の改善を確実に成すことができる。
【0014】
[適用例4]適用例1乃至適用例3のいずれか1項に記載の振動片であって、前記第1
金属層がCrを下地層として上層をAuとした金属層またはCr−Au合金により構成さ
れる金属層から成り、前記第2金属層がAuから成ることを特徴とする振動片。
このような構成とした場合、製造段階において第1金属層を構成するCrとAu間にお
いて拡散が生じ、第1金属層に温度特性補正部としての合金が生成され、周波数温度特性
の良化が図られる。第1金属層と第2金属層との間には拡散防止層が設けられているため
、Crが第2金属層を構成するAuにまで拡散を生じさせる虞は無く、第1金属層におい
て合金が生成された後においては周波数温度特性が経時的に変化する虞が無い。
【0015】
[適用例5]適用例4に記載の振動片であって、前記Cr−Au合金により構成される
金属層におけるAuのCrに対する含有量が原子百分率で0.5%atm以下であること
を特徴とする振動片。
このような割合でCr膜とAu膜を成膜すれば、製造段階においてCrはAuに拡散し
きることができる。これにより振動片形成後に熱等が加えられたとしても、Auに対する
Crの拡散の進行に伴う周波数温度特性の変動が生ずる虞が無い。
【0016】
[適用例6]適用例1乃至適用例5のいずれか1項に記載の振動片であって、前記拡散
防止層がAgまたはNiのいずれか一方であることを特徴とする振動片。
AgやNiは、AuやCrに対する拡散も生じさせず、導電性も高いため、振動子とし
て見た場合の高いQ値を維持することができる。
【0017】
[適用例7]適用例1乃至適用例6のいずれか一項に記載の振動片をパッケージ内部に
実装したことを特徴とする振動子。
このような特徴を有する振動子によれば、広い温度範囲において良好な周波数温度特性
を得ることができる信頼性の高い振動子とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る振動片の構成を示す図である。
【図2】温度特性補正部としてのCrの膜厚変化に対する周波数温度特性の変化を示すグラフである。
【図3】Crのヤング率の変化と温度との関係を示すグラフである。
【図4】Crのネール温度の変化と合金化における金属の含有率との関係を示すグラフである。
【図5】第2の実施形態に係る振動片の特徴部分としての振動腕の構成を示す図である。
【図6】第3の実施形態に係る振動片の特徴部分としての振動腕の構成を示す図である。
【図7】第4の実施形態に係る振動片の特徴部分としての振動腕の構成を示す図である。
【図8】厚み滑り振動を主振動とする振動片の例を示す図である。
【図9】弾性表面波を主振動とする振動片の例を示す図である。
【図10】発明に係る振動子の断面構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の振動片および振動子に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細
に説明する。
まず、図1を参照して、本発明の振動片に係る第1の実施形態について説明する。なお
、図1において、図1(A)は振動片の平面図であり、図1(B)は同じ(A)における
A−A断面を示す図である。
【0020】
本実施形態に係る振動片10は、周波数温度依存性を有する振動体を構成する素子片の
材料として水晶を用いた場合を例に挙げて説明する。また、振動モードとしては、屈曲振
動を主振動とする音叉型の形態を例に挙げて説明することとする。
【0021】
本実施形態に係る振動片10は、振動体11と、この振動体11に形成された金属膜1
6とより成る。振動体11は圧電効果を奏する水晶で構成され、基部12と、この基部1
2から延設された一対の振動腕14a,14bとを有する、いわゆる音叉型の体を成す。
金属膜16は、第1金属層となる温度特性補正部28と、第2金属層となる電極部24と
を有し、第1金属層と第2金属層との間には、拡散防止層26が設けられて成る。換言す
ると、温度特性補正部28は振動体11の表面に形成され、電極部24は温度特性補正部
28における振動体11とは反対側に設けられ、温度特性補正部28と電極部24との間
に拡散防止層26が形成されるということができる。なお電極部24は、振動を励起する
ための励振電極、18a,18b、駆動信号や検出信号を入出力するための入出力電極2
2a,22b、および励振電極18a,18bと入出力電極22a,22bとを接続する
引出し電極20a,20bとに区分される。
【0022】
本実施形態では、第1金属層としての温度特性補正部28を下地層32(例えばクロム
(Cr))と上層30(例えば金(Au))で構成し、電極部24はAuで構成し、拡散
防止層26は銀(Ag)またはニッケル(Ni)で構成している。温度特性補正部28を
構成する金属のうち、下地層32としてのCrは振動体11として採用する水晶に対する
密着性が良好で、コンタクトメタルとして優れており、上層30としてのAuは詳細を後
述する理由によりCrを意図的に拡散させることでネール温度やスピンフリップ温度等を
制御する。また、Auは電気抵抗が極めて低く、安定しており、酸化等の影響を受け難く
、経年劣化による性質変化が少ないために、電極部24の構成部材としても採用した。さ
らに、拡散防止層26としてAgやNiを採用したことは、高温が加えられた場合であっ
ても、AuへのCrの拡散(第1金属層から第2金属層への拡散)を防止することができ
、周波数温度特性の経時的変化を防止することができるからである。
【0023】
ここで、温度特性補正部28を構成するCrとAuとの関係は、下地層32であるCr
を基準として上層30であるAuの割合を定めると良い。具体的には、原子百分率(原子
パーセント:%atm)で、AuはCrの0.5%atm以下の含有量とすると良い。こ
のような割合でCrとAuを成膜することで、製造段階においてAuに対してCrが拡散
しきることができ、金属膜16を形成した後に未拡散のAuの拡散が進行する虞を無くす
ことができるのである。
【0024】
Crが周波数温度特性に影響を与える事は、実験により得られた図2から読み取ること
ができる。実験は、振動体の表面にCr膜、Cr膜の上層にAu膜を形成して行ったもの
で、図2に示すように、Auの膜厚を一定(500Å)としてCrの膜厚を1500Å(
図2(A))、2000Å(図2(B))、2500Å(図2(C))と変化させること
により、振動子としての周波数温度特性がどのように変化するかを記録したものである。
周波数温度特性の変化の様子としては、Crの膜厚を厚くして行くことにより、頂点温度
(接線の傾きが0となる温度)の左側、すなわち頂点温度よりも低い温度側において、周
波数変動量が少なくなっていることが読み取れる。
【0025】
ここで、振動子の共振周波数は、振動体11における振動部の長さ、幅、厚さ、振動体
11を構成する物質の密度、境界条件、および弾性定数等の要素から算出することができ
る。そして、振動部に形成した金属膜の膜厚や特性の変化に起因して変動する要素として
は、弾性定数を挙げることができる。弾性定数を構成する要素のうち、温度変化により変
動する要素としてヤング率や熱膨張係数が存在する。このため、振動子の共振周波数の温
度依存は、ヤング率や熱膨張係数の変化によっても、もたらされるものであることが考え
られる。
【0026】
以下、Crの膜厚の変化に伴う低温側における周波数温度特性の改善に関して考察する

図3は、固体Crのヤング率の変化を示すグラフである。図3からも読み取れるように
、Crのヤング率は、120K(スピンフリップ温度:変曲点)と310K(ネール温度
:極値)において急激な変化を示すことが解る。
【0027】
振動子の動作温度範囲を−55℃〜+125℃、好適には−40℃〜+85℃とした場
合、120Kは−153℃であり、310Kは+37℃であるから、Crにおいてはネー
ル温度が振動子の動作温度範囲内に存在するといえる。ここでネール温度とは、反強磁性
体が常磁性体状態へ転移する温度をいう。なお、反強磁性とは、隣り合うスピンがそれぞ
れ反対方向を向いて整列し、全体として磁気モーメントを持たない物性の磁性である。ま
た、常磁性とは、外部磁場がないときには磁化を持たず、磁場を印加するとその方向に弱
く磁化する磁性である。つまり、ヤング率の急激な変化は、磁性体の状態転移に伴って生
ずるものであるといえる。
【0028】
そして、反強磁性体は、ネール温度において常磁性体からの転移を受けることで磁気モ
ーメントが消失することにより、大きな体積変化を生じさせることが知られていることよ
り、反強磁性体におけるネール温度では、熱膨張係数にも変化がもたらされるということ
ができる。
【0029】
Crは、膜厚の相違による圧縮応力、および伸張応力の変化に伴い、ネール温度が変化
することが知られている。具体的には、固体Crに比して薄膜化されたCrのネール温度
は、振動体11の熱膨張係数やCrの膜厚にも依存して、低温側あるいは高温側へシフト
するのである。図2を参酌すると、図2(A)では周波数変動量の改善(周波数変動量の
低減)に寄与する変曲点は見ることができず、図2(B)、図2(C)ではその変曲点が
頂点温度よりも低温側で発生している。そして図2(B)、図2(C)と膜厚を厚くする
毎に変曲点が頂点温度へ近づき(高温側へシフトし)、周波数変動量の改善される温度範
囲(温度が低くなるほど接線の傾きが小さくなる温度領域)も頂点温度に近づく。これは
、薄膜化したCrの膜厚を厚くすることにより、ネール温度が高温側へシフトしたことに
よるものである。図2から、少なくともCr膜厚を2000Å以上2500Å以下にする
ことで周波数変動量が低減されることは明らかであるが、Cr膜厚を2500Å以上にし
た場合においても、Cr膜のネール温度が振動子の動作温度範囲内に存在していれば、周
波数変動量の低減は達成できる。
【0030】
そして、Crの薄膜化に伴うネール温度の低下には、以下のような現象も起因している
と考える。ここで、CrとAuの間には、AuがCr層に拡散した合金層が存在する。こ
こで図4に示すCrの合金化に伴うネール温度の変化を参酌すると、Auの含有率の増加
は、Crのネール温度の低下を招くことを読み取ることができる。
【0031】
つまり、Crの膜厚が薄い場合には、拡散するAuの割合、すなわち合金層におけるA
uの含有率が高くなるため、単純にCrを薄膜化した場合よりもネール温度が低下したと
考えられる。そして、Crの膜厚を厚くした場合には、Auの含有率は当然に下がり、合
金化されない層も生ずることとなるため、実効的なネール温度が上昇し、Crの膜厚を2
500Åとした場合には、ネール温度が0℃近傍に至ったものと考えられる。なお、上記
実験からは、Crの膜厚を2000Å以上とすることで、温度特性補正部としての効果、
すなわち周波数温度特性改善効果を奏するということが言える。
【0032】
このため、本実施形態においては、温度特性補正部28を構成するAuの膜厚は、Cr
を2000Åとした際に、原子百分率において0.5%atm以下の含有量となるように
定めれば良い。このような構成とすることにより、周波数温度特性の改善を図れると共に
、金属膜16を形成した後に未拡散のAuの拡散の進行が生じ得なくなり、経時的に周波
数温度特性が変化してしまう虞が無くなる。なお、第2金属層としてのAuと第1金属層
との間には拡散防止層26としてのAg膜が設けられているため、表面における第2金属
層にCrの拡散が広がる虞も無い。
【0033】
また、実施形態に係る振動片10によれば上記のように、周波数温度特性が改善される
原因が明確となったため、シミュレーションによる振動特性の解析が可能となり、開発コ
ストの削減を図ることが可能となる。
【0034】
次に、本発明の振動片に係る第2の実施形態について、図5を参照して説明する。なお
、本実施形態に係る振動片の殆どの構成は、上述した第1の実施形態に係る振動片と同様
である。よって、その機能を同一とする箇所については図面に同一符号を付して詳細な説
明を省略すると共に、振動片の全体構造については、図1(A)に示した図を援用するこ
ととする。
【0035】
本実施形態に係る振動片は、温度特性補正部28を構成する金属膜を予め、Crを主体
とした合金、具体的にはCr−Au合金により構成したことを特徴としている。なおCr
に対するAuの含有率は、上記第1の実施形態と同様に、原子百分率で0.5%atm以
下とする。
【0036】
このような構成とすることによれば、CrとAuの膜厚比を定める必要が無くなり、か
つ製造工程においては、成膜工程を1つ減らすことが可能となり、生産性を向上させるこ
とができる。なお、周波数温度特性の改善効果を得るためには、本実施形態に係る温度特
性補正部28の膜厚を、上述した第1の実施形態に係る振動片10における温度特性補正
部28(下地層32(Cr膜)+上層30(Au膜))の厚みと同等とする必要がある。
【0037】
次に、本発明の振動片に係る第3の実施形態について、図6を参照して説明する。なお
、本実施形態に係る振動片も、その殆どの構成は上述した第1の実施形態に係る振動片と
同様である。よって、その機能を同一とする箇所については図面に同一符号を付して詳細
な説明を省略すると共に、振動片の全体構造については、図1(A)に示した図を援用す
ることとする。
【0038】
上述したように、温度特性補正部による周波数温度特性の改善効果は、膜厚の違いや合
金化により変化することが解る。そこで本実施形態に係る振動片10では、振動腕14a
,14bの表裏面と側面、すなわち電圧を印加する際に電位が異なることとなる金属膜1
6において、温度特性補正部28a,28bの膜厚、すなわちCr(下地層32)の膜厚
とこれを拡散させるAu(上層30)の膜厚を異ならせるか、Cr−Au合金の膜厚また
はCr−Au合金におけるAuの含有量を異ならせる構成とした。
【0039】
このような構成とすることにより、1つの振動体11に対してネール温度の異なる2つ
(2種類)の温度特性補正部28a,28bを備えることとなる。これにより、振動子の
周波数温度特性の改善は、それぞれの温度特性補正部28a,28bにおけるネール温度
にて成されることとなる。よって、動作温度範囲内における周波数変動量は、1種類の温
度特性補正部により補正される場合よりもさらに小さくなり、周波数温度特性を示す曲線
をよりフラットなものとすることができる。
【0040】
次に、本発明の振動片に係る第4の実施形態について、図7を参照して説明する。なお
、本実施形態に係る振動片も、その殆どの構成は上述した第1の実施形態に係る振動片と
同様である。よって、その機能を同一とする箇所については図面に同一符号を付して詳細
な説明を省略すると共に、振動片の全体構造については、図1(A)に示した図を援用す
ることとする。
【0041】
本実施形態に係る振動片10は、屈曲部において電位の異なる電極部の温度特性補正部
28a,28bを、種類の異なる金属を用いて構成したことを特徴としている。
【0042】
ここで、2種類の温度特性補正部28a,28bは、ヤング率の極値が振動子における
周波数温度特性の頂点温度よりも高温側に位置するものと、低温側に位置するものとする
ことが望ましい。第1の実施形態等で温度特性補正部として使用したCrは、ヤング率の
極値であるネール温度が周波数温度特性の頂点温度よりも低温側に位置していた。このた
め、周波数温度特性はもっぱら、頂点温度よりも低温側で改善されることとなっていた。
このため、ヤング率の極値が周波数温度特性の頂点温度よりも高温側に位置する部材を温
度特性補正部材の1つとして採用することによれば、周波数温度特性の頂点温度よりも高
温側においても、周波数温度特性の改善を図ることができると考えられるからである。
【0043】
具体的には、振動腕14aの表裏面に形成される励振電極18aの温度特性補正部28
aをCr(下地層32a)とAu(上層30)により構成した場合、振動腕14aの側面
に形成される励振電極18bの温度特性補正部28bはCrO(二酸化クロム:下地層
32b)とAu(上層30)により構成するのである。
【0044】
ここで、CrOは、強磁性体であるため、ヤング率が極値を示す温度はキュリー温度
と称される。なお、キュリー温度とは、強磁性体が常磁性体に変化する転移温度である。
CrOのキュリー温度は386K(113℃)であるため、図2に示した周波数温度特
性の頂点温度(約30℃)よりも高温側に位置し、かつ振動子の動作温度範囲を−55℃
〜+125℃としたならば、その範囲内に入る温度であり、Auとの合金化によれば低温
化され、−40℃〜+85℃の動作温度範囲内にも入るものと考えられる。よって、この
ような組み合わせで温度特性補正部28a,28bを構成した場合、周波数温度特性にお
ける頂点温度の高温側と低温側の双方で周波数変動量の減少を促すことができ、動作温度
範囲内の全範囲において周波数温度特性を改善することができる。
【0045】
また当然に、2つの温度特性補正部28a,28bをCr−Auの合金とCrO−A
uの合金で構成しても良い。
【0046】
また、上記実施形態ではいずれも、CrやCrOを主体としてAuへの拡散を前提に
温度特性補正部を構成する旨記載した。しかしながら、薄膜のネール温度やキュリー温度
が振動子の動作温度範囲内にある導電体であれば、温度特性補正部を単一の物質により構
成しても良い。このような場合であっても、第1金属層としての温度特性補正部と第2金
属層としての電極部との間には拡散防止層が配されるため、両者間での拡散に伴う周波数
温度特性の経時的変化を防止することができるため、本発明としての効果に変わりは無い
からである。
【0047】
また、上記実施形態ではいずれも、主振動を屈曲振動とし、振動片の形態を音叉型とし
て説明した。しかしながら本発明に係る振動片の形態はこれに限られるものでは無い。
【0048】
例えば、主振動を厚み滑り振動とした場合には、図8に示すような振動片とすれば良い
。具体的には、ATカットと呼ばれるカット角で切り出された平板状の振動体41と、金
属膜42とから構成される。金属膜42は、振動体41の表面に形成された第1金属層で
ある温度特製補正部50と、温度特性補正部50の上層に設けられる第2金属層としての
電極部49、および電極部49と温度特性補正部50との間に配される拡散防止層56と
から成る。ここで温度特性補正部50は、振動体41の表面に下地層54としてのCr膜
、振動体11と反対側のCr膜の主面に上層52としてのAu膜を形成している。なお電
極部49は、励振電極44、入出力電極48、および引出し電極46とに分別することが
でき、励振電極44は振動体41の表裏における主面の対応する位置に形成される。また
、温度特性補正部50は、励振電極44を構成する電極部49の下層にのみ設ける構成と
しても良い。
【0049】
このような構成の振動片40において温度特性補正部50を構成する部材としては、上
記種々の実施形態と同様に、Cr、あるいはCrを主体とした合金とすれば良い。また、
電極部49を構成する部材としては、Auとすれば良い。なおこのような構成の振動片4
0において、温度特性補正部50を構成する主体となる金属は、振動体41の表裏面にお
いて異なるネール温度、あるいはキュリー温度を示す材質としても良い。
【0050】
また、主振動を弾性表面波とした場合には、図9に示すような振動片(弾性表面波素子
片)とすれば良い。なお、図9において、図9(A)は弾性表面波素子片を示す平面図で
あり、図9(B)は同図(A)におけるA−A断面を示す図である。
【0051】
弾性表面波素子片60は、例えばSTカットと呼ばれる素子片を振動体61とし、当該
振動体61の一方の主面に、励振電極としてのIDT64や入出力電極68、および反射
器66としての役割を担う金属膜62を構成する。金属膜は、第1金属層としての温度特
性補正部70を下地層74であるCrと上層72であるAu、あるいはCrを主体とした
Cr−Au合金により構成し、第2金属層としての電極部78をAlで構成し、第1金属
層と第2金属層との間にAgから成る拡散防止層76を形成すれば良い。
【0052】
また、輪郭振動であるラーメモードを主振動とする振動片の構成については、振動体と
してLQ1TカットやLQ2Tカットと呼ばれるカット角で切り出された水晶片を用いれ
ば、金属膜の形成形態として厚み滑り振動を主振動とする振動片と同様な形態を採ること
で、本発明の振動片の一部とすることができる。
【0053】
なお、このような振動モードを主振動とする振動片の他にも、捻り振動や境界波(スト
ンリー波やメルフェル・ツルヌワ波)などを主振動とする振動片も、上記のようにして金
属膜を構成することで、本発明の一部とみなすことができる。
また、上記実施形態では振動体として水晶を用いたが、周波数温度特性の改善に関し、
上記実施形態と同様な効果を得ることができるものであれば、チタン酸ジルコン酸鉛(P
bZrTiO)やニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTa
)、リチウムトリボレート(LiB)、硝酸カリウム(KNO)等の圧電体
や、半導体、すなわち圧電体以外の物質であっても良い。
【0054】
次に、本発明に係る振動子について、図10を参照して説明する。
本実施形態に係る振動子100は、上述した振動片10(40,60)のいずれかと、
この振動片10を収容するパッケージ110、およびパッケージ110の開口部を封止す
るリッド120とを主な構成要素としている。
【0055】
パッケージ110は、セラミックグリーンシート等を積層して焼成した箱体であり、凹
状に形成されたキャビティ内部には、振動片10を実装するための内部実装電極112が
形成されている。パッケージ110の外部には、底面に、外部実装端子114が形成され
ている。外部実装端子114は、図示しないスルーホール等を介して、内部実装電極11
2と電気的に接続されている。
【0056】
リッド120は、本実施形態の場合には平板状を成す。構成部材としては、金属または
ガラスが採用されることが多い。いずれの部材を採用する場合であっても、線膨張係数が
パッケージ110の構成部材と近似したものを採用することが望ましい。
【0057】
上記のような構成のパッケージ110に対し、振動片10を実装する。振動片10の実
装には、導電性接着剤116を用いる。導電性接着剤116を内部実装電極112に塗布
し、塗布した導電性接着剤116に対して振動片10の入出力電極を接合させるのである

【0058】
振動片10を実装したパッケージ110の開口部を封止する際、リッド120は接合部
材118を介して接合される。接合部材118は、リッド120を構成する部材により異
なる。例えばリッド120が金属であった場合、接合部材118には低融点金属で構成さ
れたシールリングを用いる。一方、リッドがガラスであった場合、接合部材118には低
融点ガラスを採用する。
【0059】
このような構成の振動子は、周波数温度特性が改善され、広い温度範囲において高い信
頼性を持つ振動子とすることができる。
【符号の説明】
【0060】
10………振動片、11………振動体、12………基部、14a,14b………振動腕
、16………金属膜、18a,18b………励振電極、20a,20b………引き出し電
極、22a,22b………入出力電極、24………電極部、26………拡散防止層、28
………温度特性補正部、30………上層、32………下地層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数温度依存性を有する振動体の表面に、ヤング率と熱膨張係数の少なくとも一方の
温度特性曲線上に変曲点と極値の少なくとも一方を有する第1金属層を設け、
前記第1金属層の前記振動体側とは反対側に第2金属層を積層させ、
前記第1金属層と前記第2金属層との間に前記第1金属層の拡散を防止する拡散防止層
を設け、
前記第1金属層におけるヤング率と熱膨張係数の少なくとも一方が、変曲点となる温度
と極値となる温度の少なくとも一方を、前記振動体の動作温度範囲内に有することを特徴
とする振動片。
【請求項2】
請求項1に記載の振動片であって、
前記第1金属層は多元素から成る合金層または、複数の単元素から成る金属膜間の拡散
によって生ずる合金層であり、前記第2金属層は単元素から成る金属層または多元素から
成る合金層であることを特徴とする振動片。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の振動片であって、
前記変曲点となる温度または前記極値となる温度が、ネール温度であることを特徴とす
る振動片。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の振動片であって、
前記第1金属層がCrを下地層として上層をAuとした金属層またはCr−Au合金に
より構成される金属層から成り、前記第2金属層がAuから成ることを特徴とする振動片

【請求項5】
請求項4に記載の振動片であって、
前記Cr−Au合金により構成される金属層におけるAuのCrに対する含有量が原子
百分率で0.5%atm以下であることを特徴とする振動片。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の振動片であって、
前記拡散防止層がAgまたはNiのいずれか一方であることを特徴とする振動片。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の振動片をパッケージ内部に実装したこと
を特徴とする振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−219992(P2010−219992A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65702(P2009−65702)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】