説明

振動素子及び振動素子の製造方法

【課題】絶縁性の基板の一面に設けられた基板側電極と、該基板側電極に対向配置された対向電極を有する対向板とを備える振動素子であって、インピーダンスの低減及びキャパシタンス変換、信号増幅などの機能を行うと共に、素子自体のコンパクト化を図ることが出来る振動素子、及び該振動素子を製造する製造方法を提供する。
【解決手段】基板側電極2に対向するように、シリコン単結晶からなる上部板1を配置し、上部板1に、例えば、熱拡散法又はイオン注入法によって形成される、IC回路の不純物領域である集積回路部5を設け、振動素子10にて変換効率の向上及び生産性向上、実装システムのコンパクト化を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性の基板の一面に設けられた基板側電極と、該基板側電極に対向配置された対向電極を有する対向板とを備える振動素子及び振動素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は従来のCMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer)型超音波振動子の構成の一例を示す断面図である。従来のCMUT型超音波振動子は、基板104と、超音波を送受信する振動膜105と、基板104の一面に設けられ、基板104と対向するように振動膜105を支持する振動膜支持部101とを備えている。さらに、振動膜105に形成された膜側電極102と、基板104に形成された基板側電極103とが対向配置されている。
【0003】
このような構成のCMUT型超音波振動子は、受信した超音波(音圧)によって振動膜105及び膜側電極102が振動し、この際に起きる膜側電極102及び基板側電極103の間の静電容量変化に基づき、受信した超音波に係る電気信号を取得し、又は膜側電極102及び基板側電極103の間にDC及びAC電圧を印加することによって振動膜105を振動させ、超音波を送信するものであり、広帯域、高感度等の優れた周波数応答特性を有している。
【0004】
例えば、非特許文献1には、このような従来のCMUT型超音波振動子及びその製造方法が開示されている。非特許文献1のCMUT型超音波振動子においては、シリコン基板の上に、後述するウェットエッチングの際、基板を保護するための窒化物層を形成し、該窒化物層の上に多結晶シリコンからなるいわゆる犠牲層を蒸着する。その後、該犠牲層の上に窒化物からなる振動膜及び振動膜支持部を共に蒸着し、該振動膜に上記犠牲層を除去するための孔をあけて、ウェットエッチングにて上記犠牲層を除去する。次いで、上記孔を埋めて、上記振動膜の上に膜側電極を蒸着した後、その上に保護層を形成することにより製造される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducers:Theory andTechnology」、JOURNAL OF AEROSPACE ENGINEERING、USA、April、VOL.16、NO.2、p.76−84
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、上述したような従来の超音波振動素子においては、実際の使用において、様々な問題が生じていた。詳しくは、当該超音波振動素子の高周波数での使用の場合、インピーダンスが増加(例えば、数㏀)し、これによって実際に電極に与えられる駆動電圧が入力電圧に比べて低下される問題があった。また、複数の超音波振動素子を備えるアレイにおいては、振動素子の数が少ない場合に、当該アレイにおける基本キャパシタンスが小さいためにインピーダンスが上昇され、S/N比が低下されるなどの問題が生じていた。
【0007】
上記超音波振動素子又はアレイを搭載したデバイスからの信号はキャパシタンス変化として現れるため、この信号を電圧信号に変換する変換回路及びその信号の増幅回路等が必要になり、従来においてはデバイスの周辺に斯かる回路が別途に設けられていた。しかし、デバイスの超小型においては、こういう周辺回路を効率よく設置できるスペースの確保が難しい上に、スペースが有っても実装などを行うためのプロセスが複雑であるため、全体システムの生産性低下の原因となっていた。
【0008】
更に、基板としてシリコン単結晶を使用する場合には、斯かるシリコン単結晶の伝導性により、いわゆる寄生キャパシタンスが発生するので、当該デバイスの変換効率が低下するといった問題もあった。しかしながら、上述の非特許文献1の超音波振動子ではこのような問題を解決することができない。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、絶縁性基板の一面に設けられた基板側電極と、該基板側電極に対向配置された対向電極を有する対向板とを備える振動素子であって、インピーダンスの上昇を改善できると共に、素子自体、ひいては該素子を有するデバイス及び該デバイスを含める実装システムのコンパクト化を図ることが出来る振動素子、及び該振動素子を製造する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る振動素子は、絶縁性基板の一面に設けられた基板側電極と、前記基板側電極に対向配置された対向電極を有する対向板とを備え、前記基板側電極及び対向電極の間隔変化に基づく信号を発する振動素子において、前記対向板は、シリコン単結晶からなり、前記信号に係る処理を行う集積回路部を有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る振動素子は、前記集積回路部は不純物領域であり、前記対向電極と電気的に接続されてあることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る振動素子は、前記基板に突設され、前記対向板を保持する保持部を備え、前記集積回路部は、前記保持部との整合位置に設けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る振動素子は、前記基板と対向する、前記対向板の一面であって、前記保持部との当接位置に、前記前記対向板が設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る振動素子の製造方法は、絶縁性基板の一面に設けられた基板側電極と、前記基板側電極に対向配置された対向電極を有する対向板とを備え、前記基板側電極及び対向電極の間隔変化に基づく信号を発する振動素子の製造方法において、シリコン単結晶からなる対向板に前記信号に係る処理を行う集積回路部を形成する集積回路部形成工程を有することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る振動素子の製造方法は、前記集積回路部は不純物領域であり、前記対向電極と電気的に接続されることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る振動素子の製造方法は、前記集積回路部形成工程では、前記対向電極が共に形成されることを特徴とする。
【0017】
本発明にあっては、上記基板側電極に対向するように、シリコン単結晶からなる対向板を配置し、該対向板には上記集積回路部を設け、当該振動素子に必要な信号処理を行う。例えば、該集積回路部は、インピーダンスを低減させ、キャパシタンスの変換、信号の増幅などの機能を行う。
【0018】
本発明にあっては、上記集積回路部は、例えば、熱拡散法又はイオン注入法によって形成される、IC回路の不純物領域であり、上記対向電極と電気的に接続され、当該デバイスに必要な信号処理を行う。例えば、該集積回路部は、インピーダンスを低減させ、キャパシタンスの変換、信号の増幅などの機能を行う。
【0019】
本発明にあっては、該集積回路部は、当該対向板における、該対向板を保持する保持部との整合位置に設けられている。
【0020】
本発明にあっては、該集積回路部は、例えば当該対向板における、該対向板を保持する保持部との当接位置に設けることが出来る。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、当該集積回路部によってインピーダンス上昇の改善及びキャパシタンス変換、増幅などが可能になり、当該振動素子における電気的特性が高まるという効果を奏する。また、該集積回路部が当該対向板に形成された不純物領域であることから、該効果のために別途の要素を取り付けることがないので、素子自体、該素子を有するデバイス及び該デバイスを含める実装システムのコンパクト化及び生産性向上を図ることが出来る。
【0022】
また、本発明によれば、該集積回路部が形成される際、対向電極のような他の周辺回路も共に形成されるので、斯かる製造工程が短くなり、製造コストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来のCMUT型超音波振動子の構成の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る振動素子アレイをZ軸方向から見た部分的模式図である。
【図3】図2のA−B線による断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る振動素子の構成を説明するための模式的要部断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る振動素子及び振動素子アレイの製造方法を説明する説明図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る振動素子及び振動素子アレイの製造方法を説明する説明図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係る振動素子及び振動素子アレイの製造方法を説明する説明図である。
【図8】本発明の実施の形態2に係る振動素子の構成を説明するための模式的要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明に係る振動素子及び該振動素子の製造方法について具体的に説明する。説明は、該振動素子を複数備える振動素子アレイを例に挙げて行う。
(実施の形態1)
図2は本発明の実施の形態1に係る振動素子アレイをZ軸方向から見た部分的模式図であり、図3は図2のA−B線による断面図である。図中、10は、本発明に係る振動素子であり、100は、振動素子10を複数備える振動素子アレイである。以下の説明においては、説明の便宜上、Z軸方向を上下方向として説明する。
【0025】
振動素子アレイ100は、一枚の基板3上に、複数の振動素子10がX軸方向及びY軸方向に並設されている。振動素子アレイ100は、各振動素子10によって受信された超音波を電気信号に変えて外部装置に送信し、該外部装置は振動素子アレイ100(振動素子10)からの電気信号に基づき、画像データを生成する。
【0026】
図4は本発明の実施の形態1に係る振動素子10の構成を説明するための模式的要部断面図である。
【0027】
本発明の実施の形態1に係る振動素子アレイ100の振動素子10は、基板3と、基板3に対向するように基板3の上側に配置された上部板1とを備えている。また、上部板1の下面と対向する基板3の上面には凹部32が形成されており、該凹部32の底には基板側電極2が設けられている。
【0028】
上部板1は、超音波の送信又は受信の際に振動する振動膜部11と、Z軸方向において後述する保持部31の位置に整合しており、保持部31に当接する当接部12とを有する。当接部12の下面が保持部31の上端部と接合されることにより、上部板1は基板3に固定される。
【0029】
振動膜部11は、基板側電極2と対向する位置に該当する、上部板1の一部分であり、当接部12を挟んで、隣り合う振動膜部11同士が隔てて形成されている。すなわち、振動膜部11は周囲を当接部12によって取り囲まれており、当接部12が保持部31に接合されているので、振動が可能になる。
【0030】
基板3は、例えば、パイレックス(Pyrex)ガラス(登録商標)、石英、テンバックス(登録商標)、Foturanガラス(登録商標)等のガラス製であり、例えば、500μm以上の厚みを有する。また、上述したように、基板3の上面には凹部32が形成されており、凹部32の底の中心部には基板側電極2が蒸着されている。
【0031】
なお、基板3の厚みは、上述の記載に限るものでなく、1μm〜10cm範囲の基板を含める。例えば、300μm以上、かつ500μm以下であっても良い。
【0032】
凹部32は平面視六角形になるように基板3の上面に凹設されている。各振動素子10の凹部32同士の間には、凹部32の凹設による残余部分からなるランドが形成されており、該ランドは上部板1を保持する保持部31としての役割をなしている。すなわち、上部板1(当接部12)が保持部31の上端面に接合されることによって基板3に保持されている。
【0033】
基板側電極2は、凹部32に倣う六角形の板状をなしており、面積は、例えば、700μm2 以下である。また、基板側電極2の厚みは、例えば、0.1〜1.0μmであり、Ni、Cr、Al、Pt、Au等の材料からなる。また、基板側電極2の上面には、例えば、酸化物からなり、上部板1(振動膜部11)と基板側電極2とを絶縁させる絶縁膜(図示せず)が蒸着されている。
【0034】
凹部32の内側は、例えば、横断面視六角形である筒状をなしてある。該六角形の一辺の寸法が22μmであって、対向辺間の距離は38μmである。また、凹部32の形状は、六角形の筒状に限るものでなく、円形の筒状であっても良い。
【0035】
保持部31の縦方向における寸法、換言すれば、上部板1の下面と基板3の上面との間隔は、例えば、0.05〜10μmである。更に望ましくは、0.1〜3μmである。また、保持部31は横方向における寸法、すなわち肉厚が、例えば、8〜16μmである。なお、保持部31の上面、換言すれば、基板3の上面に、いわゆる陽極接合法によって、上部板1の当接部12が接合されている。
【0036】
陽極接合法とは、一般的には約400℃以下にてガラスと、シリコン又は金属とを密着接合する方法である。ガラスと、シリコン又は金属とを重ね合わせ、加熱及び電圧を加える方法であり、これにより、ガラス中の陽イオンを強制的にシリコン又は金属中に拡散させ、ガラス、シリコン、金属等の間に静電引力が生じると共に、化学結合が行われ、比較的に低温でも良好な接合が出来る方法である。
【0037】
従って、本発明の実施の形態1に係る振動素子10は、高温での接合の工程に発生しがちな変形による応力集中が保持部31と上部板1との接合部にて生じることを抑制でき、上記応力の振動膜部11への影響により、変換効率又は感度が低下することを防止できるうえ、ひいては製造上の構造再現性に優れている。
【0038】
本実施の形態においては、保持部31の肉厚が8〜16μmである場合を例として挙げているが、これに限るものでなく、例えば、1〜16μmであれば良い。
【0039】
上部板1は、基板3に対向し、凹部32を覆うように設けられている。従って、凹部32の内周面及び上部板1の下面によって空間が形成されている。
【0040】
上部板1の厚みは、例えば、1.5μmであるが、これに限るものでなく、0.5〜3μmであれば良い。上部板1は例えば、抵抗値が10000Ωcm以上であるシリコン単結晶からなる。従って、本発明の実施の形態1に係る振動素子10及び振動素子アレイ100においては、電圧印加の際に振動膜部11に電荷がたまり、数〜数十MHzのAC電圧印加による振動膜部11の作動において、チャージ現象が生じることを防止することが出来る。
【0041】
振動膜部11の下面には、基板側電極2と対応する対向電極4が形成されている。対向電極4は基板側電極2の真上側に形成された不純物領域である。対向電極4は平面視円状をなす範囲に形成されており、例えば、Nタイプ又はPタイプの元素を熱拡散又はイオン注入して形成された、いわゆる導電性型不純物領域である。
【0042】
例えば、当接部12の下面には集積回路部5が形成されている。集積回路部5は保持部31の上面と対向する位置に形成された不純物領域である。詳しくは、集積回路部5は、上部板1の斯かる位置に、例えば、5族(N−type)であるAs、P、Sb等、又は3族(P−type)であるAl、B、Ga等の元素を熱拡散又はイオン注入して形成されたIC回路である。
【0043】
なお、集積回路部5の形成位置は当接部12の下面に限るものでない。対向電極4に係る領域以外であれば上部板1の何処であっても良い。
【0044】
集積回路部5は、例えば、インピーダンスを低減させる可変容量コンデンサ、抵抗、キャパシター等の役割をなすように形成されている。集積回路部5は対向電極4と電気的に接続されており、振動素子10又は振動素子アレイ100において発生するインピーダンスを低減させ、キャパシタンス変換、信号増幅などの機能を行う。
【0045】
本発明の実施の形態1に係る振動素子10は、上述したように集積回路部5を有することから、高周波数でのインピーダンス増加の問題、振動素子の数が少ない場合に、インピーダンスが増加する問題、更に、振動膜としてシリコン単結晶を使用する場合に、いわゆる寄生キャパシタンスが発生して、効率が低下するといった問題を未然に防止することができる。
【0046】
また、本発明の実施の形態1に係る振動素子10は、上述したように集積回路部5が当接部12に形成された不純物領域であるので、インピーダンスの低減及び信号処理のための周辺回路を付加的に取り付けることを必要とせず、振動膜部11の振動に影響を及すことなく、素子自体及び機器のコンパクト化を図ることが出来る。
【0047】
また、本発明の実施の形態1に係る振動素子10は、上部板1の下面に対向電極4及び集積回路部5が形成されているので、対向電極4及び集積回路部5を保護するための保護膜を必要としない。
【0048】
なお、本発明の実施の形態1に係る振動素子10においては、上部板1に対向電極4が不純物領域として形成されており、上部板1の一部(振動膜部11)がいわゆる振動膜としての役割を兼ねているので、更に機器のコンパクト化を図ることが出来る。
【0049】
本発明の実施の形態1に係る振動素子アレイ100においては、複数の振動素子10の基板側電極2と、該基板側電極2に対応する上部板1の対向電極4との間に電圧を印加することにより振動膜部11を振動させて超音波を外部に送信し、また、外部から反射してくる超音波による振動膜部11の振動に伴う基板側電極2と対向電極4との間の静電容量の変化に係る電気信号を取得でき、上記電気信号に基づき、いわゆる超音波像を得ることが出来る。
【0050】
以下において、本発明の実施の形態1に係る振動素子10及び振動素子アレイ100の製造方法について説明する。図5〜図7は本発明の実施の形態1に係る振動素子10及び振動素子アレイ100の製造方法を説明する説明図である。
【0051】
まず、上部板1側に関しては、図5(a)に示すように、SOI(Silicon On Insulator)ウェハWの一面に熱拡散又はイオン注入を施し、対向電極4及び集積回路部5の夫々になるべき不純物領域を形成する(集積回路部形成工程)。すなわち、本発明の実施の形態1に係る振動素子の製造方法においては、対向電極4及び集積回路部5が同時的に形成されるので、製造工程を短縮でき、製造コストを削減できる。
【0052】
一方、基板3側に関しては、図5(b)に示すように、パイレックスガラスの基板3の上面にパターニングを行い、凹部32を形成する。また、この基板3のパターニングの際には、保持部31も共に形成される。
【0053】
次いで、基板側電極2になるべき蒸着物(例えば、Ni、Cr、Al、Pt、Au等)の蒸着を施す。その上、更に、基板側電極2を対向電極4から絶縁する絶縁膜(図示せず)を蒸着する工程を設けても良い。
【0054】
次いで、SOIウェハWの上記一面が、既に用意しておいた基板3(図5(b)参照)の上面(又は凹部32の底)と対向するように、該SOIウェハWの上下を反転させ、基板3の上面、すなわち保持部31の上面に、該SOIウェハWを固定させる。詳しくは、SOIウェハWの上記一面を上述の陽極接合法によって保持部31の上面に接合する。(図6参照)
【0055】
この後、図7に示すように、上記SOIウェハWの他面側、すなわち、上部のSi層及びoxide層に対して、TMAH、KOH、HF等を用いてウェットエッチング(図中、矢印にて表示)を施し、上部板1になるべき部分だけを残して除去することにより、上部板1が完成される。
【0056】
なお、これに限るものでなく、SOIウェハに代えて、Si/Si(low stress)構成を有するSiウェハを用いても良い。
【0057】
本発明に係る振動素子の製造方法においては、上述したように、上部板1(振動膜部11)を保持するいわゆる振動膜保持部を別に設ける必要がないため、更に工程の数が少なくなる上に、上記振動膜保持部を基板3に固定する際に発生する固定部分での応力集中等を考慮する必要がなく、製造上の自由度が拡大される。
【0058】
また、以下において、本発明の実施の形態1に係る振動素子10及び振動アレイ100の作用について説明する。説明の便宜上、上述したように振動素子10及び振動アレイ100に電圧を印加して被対象物に向けて超音波を送信し、上記被対象物から反射されてくる超音波を受信する場合を例として説明する。
【0059】
本発明の実施の形態1に係る振動素子アレイ100の振動素子10が、上記被対象物から反射された超音波を受信した場合、上記超音波(音圧)によって振動膜部11が振動する。振動膜部11が振動する際、振動膜部11と基板3の基板側電極2との間隔が変動する。従って、振動膜部11の下面に形成された対向電極4と基板側電極2との間の静電容量が変化するようになる。斯かる対向電極4と基板側電極2との間の静電容量変化に基づき、容量変化を電圧変化信号に変換させて電気信号を取得することができ、取得した電気信号に基づき、上記被対象物の超音波像を得ることができる。
【0060】
また、超音波の送信においては、対向電極4と基板側電極2との間にDC及びAC電圧を印加することによって振動膜部11が振動され、超音波が送信される。他の作用については超音波を受信した場合と同様であり、詳しい説明は省略する。
【0061】
(実施の形態2)
【0062】
図8は本発明の実施の形態2に係る振動素子10の構成を説明するための模式的要部断面図である。
【0063】
本発明の実施の形態2に係る振動素子アレイ100の振動素子10は、基板3と、基板3に対向するように基板3の上側に配置された上部板1とを備えている。また、上部板1の下面と対向する基板3の上面には凹部32が形成されており、該凹部32の底には基板側電極2が設けられている。
【0064】
上部板1は、超音波を送信又は受信する振動膜部11と、保持部31に整合しており、保持部31と当接する当接部12とを有する。当接部12の下面が保持部31の上面に接合されることにより、上部板1は基板3に固定される。
【0065】
振動膜部11は、上部板1において基板側電極2と対向する部分であり、当接部12を挟んで、隣り合う振動膜部11同士が隔てて形成されている。すなわち、振動膜部11は周囲を当接部12によって取り囲まれており、当接部12が保持部31に接合されているので、振動が可能になる。
【0066】
上部板1は、基板3に対向し、凹部32を覆うように設けられている。上部板1の厚みは、例えば、1.5μmであるが、これに限るものでなく、0.1〜10μmであれば良い。上部板1は例えば、抵抗値が10000Ωcm以上であるシリコン単結晶からなる。従って、本発明の実施の形態2に係る振動素子10及び振動素子アレイ100においては、電圧印加の際に振動膜に電荷がたまり、数〜数十MHzのAC電圧印加による振動膜の作動において、チャージ現象が生じることを防止することが出来る。
【0067】
振動膜部11の上面には対向電極4が形成されている。対向電極4は基板側電極2の真上側に形成された不純物領域である。対向電極4は平面視円状になす範囲であり、例えばN type又はP typeの元素を熱拡散又はイオン注入して形成された、いわゆる導電性型不純物領域である。
【0068】
当接部12の上面には集積回路部5が形成されている。集積回路部5は保持部31の上面と整合する位置に形成された不純物領域である。詳しくは、集積回路部5は、上部板1の斯かる位置に、例えば、5族(N−type)であるAs、P、Sb等、又は3族(P−type)であるAl、B、Ga等の元素を熱拡散又はイオン注入して形成されたIC回路である。
【0069】
集積回路部5は、例えば、インピーダンスを低減させる可変容量コンデンサ、抵抗、キャパシター等の役割をなすように形成されている。集積回路部5は対向電極4と電気的に接続されており、振動素子10及び振動素子アレイ100にて発生するインピーダンスを低減させる。また、集積回路部5はキャパシタンス変換、信号増幅などの役割も果たす。
【0070】
また、本発明の実施の形態2に係る振動素子10の構成は以上の記載に限るものでなく、上部板1の上面に、対向電極4及び集積回路部5を保護するための保護膜を形成した構成であっても良い。
【0071】
また、本発明の実施の形態2に係る振動素子10は、上述したように集積回路部5が当接部12に形成された不純物領域であるので、実施の形態1と同様、インピーダンスを低減させるための構成要素を付加的に取り付けることを必要とせず、振動膜部11の振動に影響を及すことなく、機器のコンパクト化を図ることが出来る。
【0072】
なお、本発明の実施の形態2に係る振動素子10においては、上部板1に対向電極4が不純物領域として形成されており、上部板1が振動膜部11としての役割を兼ねているので、実施の形態1と同様、更に機器のコンパクト化を図ることが出来る。
【0073】
他の構成については、実施の形態1と同様であり、実施の形態1と同様の部分については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0074】
以上の実施の形態の説明においては、上部板1に対向電極4を別途に設けた場合を例として説明したがこれに限るものでなく、言わば、上部板1が対向電極4としての役割を兼ねるようにした構成であっても良い。
【0075】
更に、本発明に係る振動素子10及び振動素子アレイ100の構成は、以上の記載に限るものでない。例えば、以上の記載においては、上部板1にのみ集積回路部5が形成された場合を例に挙げて説明したが、集積回路部5の一部を保持部31に形成しても良い。すなわち、上部板1及び保持部31共に不純物領域を形成し、これらの不純物領域が全体として1つの集積回路部5をなすように構成しても良い。
【0076】
また、上部板1又は保持部31に不純物領域を形成する場合においても、一か所でなく、上部板1の複数個所又は保持部31の複数個所に形成した構成であっても良い。
【0077】
なお、保持部31の複数個所に不純物領域を形成する場合においては、上部板1及び基板3の対向方向において、保持部31が多層構造となるように構成したうえ、各層に不純物領域を形成した構成であっても良い。
【符号の説明】
【0078】
1 上部板(対向板)
2 基板側電極
3 基板
4 対向電極
5 集積回路部
10 振動素子
11 振動膜部
12 当接部
31 保持部
100 振動素子アレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板の一面に設けられた基板側電極と、前記基板側電極に対向配置された対向電極を有する対向板とを備え、前記基板側電極及び対向電極の間隔変化に基づく信号を発する振動素子において、
前記対向板は、シリコン単結晶からなり、前記信号に係る処理を行う集積回路部を有することを特徴とする振動素子。
【請求項2】
前記集積回路部は不純物領域であり、前記対向電極と電気的に接続されてあることを特徴とする請求項1に記載の振動素子。
【請求項3】
前記基板に突設され、前記対向板を保持する保持部を備え、
前記集積回路部は、前記保持部との整合位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の振動素子。
【請求項4】
前記基板と対向する、前記対向板の一面であって、前記保持部との当接位置に、前記前記対向板が設けられていることを特徴とする請求項1から3の何れか1つに記載の振動素子。
【請求項5】
絶縁性基板の一面に設けられた基板側電極と、前記基板側電極に対向配置された対向電極を有する対向板とを備え、前記基板側電極及び対向電極の間隔変化に基づく信号を発する振動素子の製造方法において、
シリコン単結晶からなる対向板に前記信号に係る処理を行う集積回路部を形成する集積回路部形成工程を有することを特徴とする振動素子の製造方法。
【請求項6】
前記集積回路部は不純物領域であり、前記対向電極と電気的に接続されることを特徴とする請求項5に記載の振動素子の製造方法。
【請求項7】
前記集積回路部形成工程では、前記対向電極が共に形成されることを特徴とする請求項5又は6に記載の振動素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−9233(P2013−9233A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141581(P2011−141581)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(510054647)株式会社Ingen MSL (6)
【Fターム(参考)】