説明

排ガス処理触媒およびそれを用いた排ガス浄化方法ならびに排ガス浄化装置

【課題】排ガス温度が200℃以下の低温であっても、排ガス中の窒素酸化物を効率良く除去することができる排ガス処理触媒を提供する。
【解決手段】La(FeyNb1-y-z)Pdz3(ただし、0.30≦y≦0.95であり、0.01≦z≦0.10である。)にて表される複合酸化物を有するようにし、この複合酸化物は、排ガス中の窒素酸化物を吸蔵すると共に、還元剤との接触により吸蔵された窒素酸化物を還元除去する触媒能を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス処理触媒およびそれを用いた排ガス浄化方法ならびに排ガス浄化装置に関し、特にディーゼルエンジンや燃焼機器などから排出される排ガス中の窒素酸化物、炭化水素、一酸化炭素を除去する場合に用いて有効な排ガス処理触媒およびそれを用いた排ガス浄化方法ならびに排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等から排出される排ガス中の窒素酸化物を除去する排ガス処理触媒として、例えば、貴金属と、NOxを吸蔵する吸蔵材とが担持される担体をハニカム状の基材に塗布してなるものが挙げられる。前記担体として、アルミナ、セリア、ジルコニア、チタニア等が挙げられる。また、前記貴金属として、白金、ロジウム、パラジウムが挙げられる。前記吸蔵材として、カリウムなどのアルカリ金属やバリウムなどのアルカリ土類金属が挙げられる。
【0003】
このような排ガス処理触媒をディーゼルエンジン等の排気管に設置することで、排ガス中の窒素酸化物を除去するようにしている。すなわち、排ガスがリーン状態(酸素濃度が高い(3%以上))の場合には、貴金属上にてNOと酸素とが反応してNOxを生成し、このNOxを吸蔵材に吸蔵している。
【0004】
また、排ガス処理触媒に還元剤となる有機化合物や燃料を噴霧したり、エンジンにて燃料の噴射量を多くしたりして、排ガスがリッチ状態(酸素濃度が低い)である還元雰囲気を作ることで、吸蔵材に吸蔵されていたNOxが貴金属上に移動し、このNOxと炭化水素およびCOとが反応して水,窒素,二酸化炭素を生成し、これらが排出している。そのため、排ガス処理触媒では、窒素酸化物の吸蔵と、吸蔵された窒素酸化物を窒素としての排出(触媒の再生処理)が繰り返し行われている。
【0005】
ところが、上述した吸蔵材の塩基性金属(アルカリ金属、アルカリ土類金属)は燃料に含まれる硫黄分で被毒して、その窒素酸化物の吸蔵性能が低下する。このような硫黄被毒した吸蔵材を高温で還元雰囲気にさらすことで硫黄を脱離除去している。前記還元雰囲気を、例えば燃料の噴射や排ガス温度の上昇などで作ることができるが、このような運転により燃費が悪化してしまう。また、触媒が高温に曝されるため、熱劣化が生じてしまう。さらには、活性金属がシンタリングしてしまい排ガス処理触媒の性能が低下してしまう。さらに、排ガスに含まれる微粒子状物質(PM)を除去するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)を排気管に設置している場合、DPFで捕集したPMを燃焼除去しており、排ガス処理触媒が高温にさらされてしまう機会が増加する。
【0006】
ところで、NOx吸蔵触媒などの脱硝触媒において耐硫黄性および耐熱性が高い触媒としては、ペロブスカイト型触媒、いわゆる複合酸化物を含む排ガス処理触媒が種々開発されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−346602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した複合酸化物を含む排ガス処理触媒にて、排ガス温度が200℃を超えた高温で排ガスに含まれる窒素酸化物を除去することができるものの、排ガス温度が200℃以下の低温であっても排ガス中の窒素酸化物の除去効率をさらに向上させることが望まれていた。
【0009】
以上のことから、本発明は前述した課題を解決するために為されたものであって、排ガス温度が200℃以下の低温であっても、排ガス中の窒素酸化物を効率良く除去することができる排ガス処理触媒およびそれを用いた排ガス浄化方法ならびに排ガス処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決する第1の発明に係る排ガス処理触媒は、
La(FeyNb1-y-z)Pdz3(ただし、0.30≦y≦0.95であり、0.01≦z≦0.10である。)にて表される複合酸化物を有する
ことを特徴とする。
前記複合酸化物は、排ガス中の窒素酸化物を吸蔵すると共に、還元剤との接触により吸蔵された窒素酸化物を還元除去する触媒能を備えるものである。
【0011】
上述した課題を解決する第2の発明に係る排ガス浄化方法は、
排ガス中の窒素酸化物を還元除去する還元触媒として第1の発明に係る排ガス処理触媒を用い、
排ガス中の酸素ガス濃度が所定値未満となるように当該排ガスを調整し、前記還元触媒に吸蔵される窒素酸化物の吸蔵量と、前記排ガスの温度とに対応して前記酸素ガスとの反応量よりも前記窒素酸化物との反応量が多くなるように前記排ガスに水素を添加して、前前記還元触媒と接触させることにより当該排ガス中の窒素酸化物を還元除去する
ことを特徴とする。
【0012】
上述した課題を解決する第3の発明に係る排ガス浄化方法は、
第2に発明に係る排ガス浄化方法であって、
前記水素の添加時間を4秒以上15秒以下とする
ことを特徴とする。
【0013】
上述した課題を解決する第4の発明に係る排ガス浄化方法は、
第2または第3に発明に係る排ガス浄化方法であって、
前記水素の濃度を2%以上6%以下とする
ことを特徴とする。
【0014】
上述した課題を解決する第5の発明に係る排ガス浄化装置は、
排ガス中の窒素酸化物を還元して浄化する排ガス浄化装置であって、
前記排ガス中の微粒子状物質を捕集する捕集手段と、
前記捕集手段よりも前記排ガスの流通方向下流側に配置された第1の発明に係る排ガス処理触媒と、
前記排ガス処理触媒よりも前記排ガスの流通方向上流側に水素を供給する水素供給手段とを備えている
ことを特徴とする。
【0015】
上述した課題を解決する第6の発明に係る排ガス浄化装置は、
第5の発明に係る排ガス浄化装置であって、
前記捕集手段よりも前記排ガスの流通方向上流側に配置された酸化触媒をさらに備えている
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明に係る排ガス処理触媒によれば、La(FeyNb1-y-z)Pdz3(ただし、0.30≦y≦0.95であり、0.01≦z≦0.10である。)にて表される複合酸化物を有することにより、排ガス温度が200℃以下の低温であっても、排ガス中の窒素酸化物を効率良く除去することができる。
【0017】
第2の発明に係る排ガス浄化方法によれば、排ガス中の窒素酸化物を還元除去する還元触媒として第1の発明に係る排ガス処理触媒を用い、排ガス中の酸素ガス濃度が所定値未満となるように当該排ガスを調整し、前記還元触媒に吸蔵される窒素酸化物の吸蔵量と、前記排ガスの温度とに対応して前記酸素ガスとの反応量よりも前記窒素酸化物との反応量が多くなるように前記排ガスに水素を添加して、前前記還元触媒と接触させることにより当該排ガス中の窒素酸化物を還元除去するので、排ガス温度が200℃以下の低温であっても、還元触媒での脱硝反応と燃焼反応とをバランスして、還元触媒で還元剤を効率良く作用させることができる。
【0018】
第3、第4の発明に係る排ガス浄化方法によれば、第2の発明に係る排ガス浄化方法と同様、排ガス温度が200℃以下の低温であっても、還元触媒での脱硝反応と燃焼反応とをバランスして、還元触媒で還元剤を効率良く作用させることができる。
【0019】
第5の発明に係る排ガス浄化装置によれば、排ガス中の窒素酸化物を還元して浄化する排ガス浄化装置であって、前記排ガス中の微粒子状物質を捕集する捕集手段と、前記捕集手段よりも前記排ガスの流通方向下流側に配置された第1の発明に係る排ガス処理触媒と、前記排ガス処理触媒よりも前記排ガスの流通方向上流側に水素を供給する水素供給手段とを備えていることにより、排ガス処理触媒の排ガス流通方向上流側にて、捕集手段が排ガス中の微粒子状物質を捕集し除去することができるので、前記微粒子状物質の付着による排ガス処理触媒の経年劣化を抑制することができ、運用コストの増加を抑制することができる。
【0020】
第6の発明に係る排ガス浄化装置によれば、前記捕集手段よりも前記排ガスの流通方向上流側に配置された酸化触媒をさらに備えているので、第5の発明に係る排ガス浄化装置と同様な作用効果を奏する他、酸化触媒により排ガス処理触媒の排ガス流通方向上流側にて排ガス中の未燃炭化水素類、一酸化炭素、窒素酸化物や黒鉛炭素成分を酸化することができ、還元触媒で還元剤を効率良く作用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一番目の実施形態に係る排ガス処理触媒の脱硝率と排ガス温度との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の第二番目の実施形態に係る排ガス浄化装置の概略構成図である。
【図3】本発明の第三番目の実施形態に係る排ガス浄化装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る排ガス処理触媒およびそれを用いた排ガス浄化方法ならびに排ガス浄化装置について、各実施形態で具体的に説明する。
【0023】
[第一の実施形態]
本発明の第一の実施形態に係る排ガス処理触媒は、排ガス中の窒素酸化物を吸蔵すると共に、還元剤との接触により吸蔵された窒素酸化物を窒素に還元して当該排ガスを浄化する触媒能を有するペロブスカイト型の複合酸化物、具体的には、以下の一般式(1)にて表される複合酸化物を含有する触媒である。
【0024】
A(ByB´(1-y-z))(PM)z3 ・・・(1)
ただし、A成分をランタン(La)とし、B成分を鉄(Fe)とし、B´成分をニオブ(Nb)とし、PM(貴金属)をパラジウムとする。
【0025】
上述した一般式(1)にて、yが0.30以上0.95以下の範囲であり、zが0.01以上0.10以下の範囲である。好適にはyが0.63以上0.88以下の範囲であり、zが0.02以上0.04以下の範囲である。さらに好適には、yが0.776であり、zが0.03である。言い換えると、ニオブの含有量が0.05mol以上0.69mol以下の範囲であり、好適には、0.09mol以上0.35mol以下の範囲である。ニオブの含有量が0.05molを下回ると、パラジウムに作用して吸蔵したNOxとH2ガス(還元剤)との反応を促進しなくなる。また、パラジウムの含有量が0.01molを下回ると、貴金属を含有することによる効果を発現できない。他方、パラジウムの含有量が0.10を上回ると、コストメリットが小さくなってしまう。
【0026】
上述した一般式(1)にて表される複合酸化物を含有する排ガス処理触媒に窒素酸化物を含有する排ガスを接触させることにより、排ガス温度が200℃以下であっても、当該触媒での脱硝反応と燃焼反応とをバランスして、触媒で還元剤をより確実に作用させることができる(具体例は後述する)。このような排ガス処理触媒の調製方法として、以下の2種(液相法および固相法)が挙げられるが、特にこれに限定するものではない。
【0027】
<液相法>
この方法では、出発原料として、LaとFeとPdとを含む金属塩溶液と、上述したNb成分を含む有機酸水溶液(酢酸、シュウ酸、アミノ酸、二酸化ニオブの過酸化水素水溶液やシュウ酸水素ニオブ水溶液など)とが用いられる。ただし、前述した出発原料は、以下の調製工程前に任意の濃度の水溶液に調製される。
【0028】
[シュウ酸水素ニオブ水溶液の調製]
上述したシュウ酸水素ニオブ水溶液を、例えば以下のように調製する。
シュウ酸水素ニオブn水和物(Nb25換算で10.7重量%)に蒸留水を加え、密栓した後、室温で48時間攪拌して溶解させた。次に、Nb換算で0.04mol/Lになるように蒸留水を加え、濃度調整後の溶液を密栓したガラス瓶で保管した。
【0029】
<調製手順>
(1)最初に、上述した各金属塩水溶液と有機酸水溶液などの有機化合物を所定の元素比となるようにそれぞれ秤量する。
(2)続いて、秤量された各金属塩水溶液を反応器内に添加し混合する。この液を混合液と以下称する。
(3)続いて、混合液を攪拌しながら上述した有機酸水溶液を徐々に加え、全量が溶解するまで攪拌する。
(4)続いて、エバポレータにて水分を蒸発させて濃縮する。
(5)続いて、乾燥器内に入れ、この器内雰囲気を250℃として乾燥し、粉末にする。
(6)続いて、この粉末を乳鉢で粉砕した後、必要に応じてバインダーを混ぜて成形し、600〜1200℃にて5時間焼成し、排ガス処理触媒が得られる。
【0030】
<固相法>
この方法では、出発原料として、LaとFeとNbとPdとを含む酸化物または炭酸化物と、分散剤と、各種溶媒(H2O、エタノール、メタノール等)が用いられる。ただし、前述した出発原料は、以下の調製工程前に内部の雰囲気が120℃の乾燥器に入れられ十分に乾燥される。
【0031】
<調製手順>
(1)最初に、各種出発原料(120℃で乾燥済み)と分散剤と溶媒とを秤量する(分散剤量を粉体重量の5wt%とし、溶媒を原料粉末と同量とする。)。
(2)続いて、秤量された各種出発原料と、分散剤と、溶媒と、粉砕用ボールとを容器に入れる。
(3)続いて、ボールミルにて粉砕、攪拌、および混合を行う。
(4)続いて、エバポレータにて水分を蒸発させて濃縮する。
(5)続いて、乾燥器内に入れ、この器内雰囲気を120℃として乾燥し、粉末にする。
(6)続いて、この粉末を乳鉢で粉砕した後、必要に応じてバインダーを混ぜて成形し、800〜1200℃にて5時間焼成し、排ガス処理触媒が得られる。
【0032】
上述した排ガス処理触媒の調製法にて用いられるバインダーとしては、セリウム酸化物を主成分とするものが特に有効である。
【0033】
排ガス処理触媒が上述した一般式(1)で表される複合酸化物で構成されることにより、排ガス温度が200℃以下の低温であっても、排ガス処理触媒での脱硝反応と燃焼反応とがバランスし、排ガス処理触媒で還元剤(水素)を効率良く作用させることができる(具体例は後述する)。
【実施例】
【0034】
本発明に係る排ガス処理触媒の効果を確認するために行った確認試験を以下に説明するが、本発明は以下に説明する確認試験のみに限定されるものではない。
【0035】
[試験体1の調製]
硝酸ランタン6水和物、硝酸鉄9水和物、上記シュウ酸水素ニオブ水溶液および硝酸パラジウム溶液(Pd=50g/L)を、それぞれ、水を用いて、1mol/L、0.5mol/L、0.04mol/Lおよび0.05mol/Lの濃度の溶液を調製する。
【0036】
続いて、所定の濃度に調製された溶液を所定量分取する。具体的には、硝酸ランタン水溶液量を100mlとし、硝酸鉄水溶液量を155mlとし、シュウ酸水素ニオブ水溶液量を485mlとし、硝酸パラジウム水溶液量を60mlとして、各金属イオン量のモル比(La:Fe:Nb:Pd)が1:0.776:0.194:0.03となる。
【0037】
最初に、硝酸ランタン水溶液および硝酸鉄水溶液を混合し、密栓した後、この混合液を攪拌しながら50℃まで加温する。50℃に到達後、グリシン120gを添加し溶解させる。さらに硝酸パラジウム水溶液とシュウ酸水素ニオブ水溶液を順次加えた後、60℃まで加温し、60℃に到達後、密栓しながら60℃で2時間攪拌する。
【0038】
さらに、上記混合溶液をロータリーエバポレータにより濃縮してゲル化させた。ゲル化した試料を乾燥器中に入れ、220℃にて熱処理し、粉砕した後、400℃にて空気中で5時間焼成する。得られた粉末をさらに粉砕した後、試料を700℃にて5時間焼成して複合酸化物(LaFe0.776Nb0.194Pd0.033)を有する排ガス処理触媒を20g得た。得られた排ガス処理触媒を試験体1とした。
【0039】
[試験体2の調製]
セリア、ジルコニアまたはアルミナからなる基材に、炭酸バリウム及び白金、パラジウム、ロジウムのうちの少なくとも一種を含む貴金属を塗布もしくは担持などして付着させて窒素酸化物吸蔵触媒(試験体2)を得た。
【0040】
[確認試験]
[脱硝性能評価試験]
本試験にて、試験体1,2の脱硝性能について評価を行った。
【0041】
上記試験体1に対して、下記の表1に示す評価条件1で排ガスを流通させて、脱硝性能を測定し、この測定結果を試験結果1とした。上記試験体1に対して下記の表1に示す評価条件2で排ガスを流通させて、脱硝性能を測定し、この測定結果を試験結果2とした。上記試験体1に対して下記の表1に示す評価条件3で排ガスを流通させて、脱硝性能を測定し、この測定結果を試験結果3とした。
【0042】
また、上記試験体2に対して下記の表1に示す評価条件1で排ガスを流通させて、脱硝性能を測定し、この測定結果を試験結果4とした。
【0043】
表1において、空間速度は流体の流量/触媒の体積を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
上述した試験結果1,2,3,4を図1に示す。
図1において、脱硝率は、排ガス(処理ガス)がリーン状態である場合の脱硝率と、排ガス(処理ガス)がリッチ状態である場合の脱硝率との平均である。
【0046】
試験結果1(試験体1、評価条件1)における排ガス温度と脱硝率は、150℃で29.8%、200℃で28.5%、250℃で51.6%、300℃で50.7%、350℃で55.4%であった。
【0047】
試験結果2(試験体1、評価条件2)における排ガス温度と脱硝率は、150℃で41.8%、200℃で31.2%、250℃で54.9%、300℃で60.4%、350℃で62.4%であった。
【0048】
試験結果3(試験体1、評価条件3)における排ガス温度と脱硝率は、150℃で41.3%、200℃で37.2%、250℃で61.2%、300℃で71.5%、350℃で75.4%であった。
【0049】
試験結果4(試験体2、評価条件1)における排ガス温度と脱硝率は、150℃で0%、200℃で23%、250℃で81%、300℃で85%、350℃で88%であった。
【0050】
試験結果1〜3と試験結果4とを対比すると、排ガス温度が150℃および200℃においては、試験結果1〜3における脱硝率が試験結果4における脱硝率よりも高いことが分かった。言い換えると、排ガス温度が150℃以上200℃以下の範囲にあるときには、La(FeyNb(1-y-z))Pdz3で表される複合酸化物に水素を接触させたときの脱硝率が、従来の窒素酸化物吸蔵触媒に水素を接触させたときの脱硝率よりも高くなることが分かった。
【0051】
したがって、本実施形態に係る排ガス処理触媒によれば、La(FeyNb(1-y-z))Pdz3(ただし、0.30≦y≦0.95であり、0.01≦z≦0.10である。)で表される複合酸化物を有することにより、還元剤として水素を用いることにより、排ガス温度が200℃以下の低温であっても、排ガス処理触媒での脱硝反応と燃焼反応とがバランスし、排ガス処理触媒で還元剤を効率良く作用させることができる。これにより、セリア、ジルコニアまたはアルミナからなる基材に、炭酸バリウム及び白金、パラジウム、ロジウムのうちの少なくとも一種を含む貴金属を塗布もしくは担持などして付着させた従来の窒素酸化物吸蔵触媒と比べて、脱硝率を向上させることができる。さらに、その結果、エンジンの運転状況が高回転、高負荷のような排ガス温度が高い場合にも、従来の触媒と比較して高い脱硝率を有することができ、さらに排気圧力が上昇し排ガス温度が上昇してしまう高比表面積の触媒基材を使用でき脱硝装置をコンパクトにできる。さらに貴金属元素としてパラジウムを使用しているため、白金を含有する触媒と比較して大幅に安価に製造することができ、また高温での耐熱性に優れる。よって触媒性能劣化時に必要となる硫黄除去処理(再生処理)を実施する場合に、触媒劣化が少ない。
【0052】
なお、上記では、液相法により調製した排ガス処理触媒を用いて説明したが、固相法により調製した排ガス処理触媒とすることも可能である。このような手法により調製した排ガス処理触媒であっても、上述した排ガス処理触媒と同様な作用効果を奏する。
【0053】
[第二番目の実施形態]
以下に、上述した排ガス処理触媒を用いた排ガス浄化装置の第二番目の実施形態について説明する。
【0054】
本実施形態に係る排ガス浄化装置10は、図2に示すように、ディーゼルエンジンから排出される排ガス30の浄化処理に利用される。この排ガスは、窒素酸化物、硫黄酸化物、パティキュレートマター(粒子状物質、以下PMと称す)を含有する。
【0055】
排ガス浄化装置10は、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFと称す)11、排ガス処理触媒(還元触媒)12、水素供給装置13、および電子制御装置(以下、ECUと称す)20を具備する。
【0056】
この排ガス浄化装置10では、排ガス30が排ガス流通管1を通じてDPF11に導入され、DPF11で排ガス30中の微粒子状物質(PM)が捕集されて当該排ガス30からPMが除去される。PMが除去された排ガス31が連絡配管2を通じて排ガス処理触媒12に導入される。連絡配管2内へ水素32を供給可能に水素供給装置13が設けられている。これにより、PMが除去された排ガス31とともに、水素32が排ガス処理触媒12へ供給され、排ガス処理触媒12で排ガス中の窒素酸化物が浄化される。窒素酸化物が浄化された排ガス33が排ガス排出管3を通じて系外に排出される。すなわち、排ガス浄化装置10では、排ガス流通方向上流側から、DPF11、排ガス処理触媒12の順序で配置される。
【0057】
上述したDPF11は、排ガス中のPMを吸着し、所定量吸着した場合には、DPF11の排ガス流通方向上流側に配置される電子制御燃焼噴射弁(図示せず)により主噴射の後の副噴射であるポスト噴射を行い、排ガス温度を高温にしてDPF13に吸着したPMを燃焼除去することができる。
【0058】
上述した排ガス処理触媒12としては、排ガス中の窒素酸化物を吸蔵すると共に、還元剤の水素との接触により吸蔵された窒素酸化物を窒素に還元して当該排ガスを浄化する触媒能を有する触媒であって、上述した一般式(1)で表される複合酸化物を含有する触媒が挙げられる。
【0059】
上述した水素供給装置13としては、水素を製造しそのまま供給したり、製造した水素あるいは系外から供給された水素をタンクや吸着剤などに貯蔵し当該水素を供給したりする装置が挙げられる。水素を製造する装置としては、水蒸気と排ガス中の燃料および酸素とから水素を生成するマイクロリアクターや、水を電気分解して水素を生成する水電解装置などが挙げられる。これらを単独で用いることもこれらを併用して用いることも可能である。水素の吸着剤(水素吸蔵手段)としては、カーボン系材料、またはパラジウムなどの金属系材料(水素吸蔵合金)などが挙げられる。前記水電解装置では、排ガス中の水分を凝縮して得られるあるいは系外から供給され、タンクなどに貯蔵される水が利用される。
【0060】
上述した排ガス流通管1、連絡配管2、および排ガス排出管3には、排ガス温度およびその成分(NOx,O2,H2,NH3)を常時計測するための排ガス計測手段であるセンサ21,22,23がそれぞれ設けられる。各センサ21,22,23としては、分子のレーザ光吸収型高速応答性のガス成分濃度センサなどレーザ光を用いたセンサが挙げられる。このようなセンサを用いることで、リアルタイムに排ガス温度および排ガス中のガス成分を計測することができる。
【0061】
上述した各センサ21,22,23とECU20とがそれぞれ信号線で接続されており、各センサ21,22,23にて計測されたデータは、ECU20に送られる。また、図示しないエンジンの(運転)状態(エンジンの回転数、トルク、および吸入空気に対する燃料量など)を計測するセンサ(図示せず)および上述した電子制御燃料噴射弁などとECU20とが図示しない燃焼制御用信号線で接続される。該センサにより計測されたエンジンの状態がECU20に送信される一方、ECU20により当該電子制御燃料噴射弁などが制御される。ECU20は、所定の制御フローに基づき、図示しないEGR弁の開閉制御や、図示しない電子制御燃料噴射弁によるポスト噴射の制御が行われる。ECU20は、水素供給装置13の制御(還元剤の水素の濃度の特定および水素の添加時間の特定)などが行われる。
【0062】
ここで、上述したECU20における制御フローについて以下に説明する。
【0063】
最初に、内燃機関の状態を計測して得られたデータ(上述したエンジンの回転数、トルク、吸入空気量に対する燃料量、および冷却水の温度など)がECU20に入力される。
【0064】
続いて、得られた内燃機関の状態のデータに相関して、予め作成された排ガス温度分布および排ガス中の一酸化窒素の濃度分布のマップに基づき、排ガス温度、排ガス中の酸素濃度CO2、および一酸化窒素濃度CNOを推定する。例えばECU20は、低回転および低トルクの場合には、排ガスが低温であり、排ガスが低濃度の一酸化窒素を含有し、高回転および高トルクの場合には、排ガスが高温であり、排ガスが高濃度の一酸化窒素を含有するなど、排ガス温度T、排ガス中の酸素濃度CO2、および一酸化窒素濃度CNOを推定する。また、ECU20は、高負荷域および高速回転時において、減速時および加速時で次の瞬間の排ガス中の窒素酸化物の濃度をマップにて予測できない場合、前記内燃機関の状態、および変化量に基づく以下の予測式に基づき、排ガス中の窒素酸化物濃度DNOXを予測する。
【0065】
NOxの予測式:DNOX=f(n,P1,・・・,Px,T1,・・・,Tx,・・・,Δn,・・・,ΔX)
n:内燃機関の現在の回転数
Px:エンジン特定部分の圧力(例えば筒内圧力)
Tx:エンジン特定部分の温度(例えば筒内における燃焼ガスの温度)
Δn:現在の回転数変化量
ΔX:現在のエンジン特定部分の変化量(アクセルの踏み込み量、エンジン負荷(坂道やスリップ)等も含む)
【0066】
さらに、その運転時間と予測値、ガス量(エンジンの回転数と1回転当たりの排気量より算出可能)を積算(NOxの瞬時予測値×運転時間×ガス量)することにより、触媒へのNOx暴露量が算出される。
【0067】
続いて、通常の運転時の触媒への暴露量に対するNOx吸蔵率(脱硝率)の温度マップより、吸蔵されるNOxの量が推定される。このNOx量と排ガス温度に併せて望む脱硝率となるようにECU20が水素供給装置13を制御して水素32を連絡配管2内へ供給する。
【0068】
よって、上述した排ガス浄化装置10によれば、上述した構成とすることにより、排ガス中の酸素ガス濃度が所定値未満となるように当該排ガスを調整し、前記排ガス中の窒素酸化物を還元浄化する排ガス処理触媒12に吸蔵される窒素酸化物の吸蔵量と、前記排ガスの温度とに対応して前記酸素ガスとの反応量よりも前記窒素酸化物との反応量が多くなるように前記排ガスに水素32を供給(添加)して、排ガス処理触媒12と接触させることにより当該排ガス中の窒素酸化物を還元除去することができる。その結果、上述した第一番目の実施形態と同様、排ガス温度が200℃以下の低温であっても、酸素ガスとの反応に比べて窒素酸化物との反応にて水素の消費量が多くなり、排ガス処理触媒12での脱硝反応と燃焼反応とがバランスし、排ガス処理触媒12で水素32を効率良く作用させることができる。
【0069】
なお、上記では、内燃機関のデータに相関して、予め作成された排ガス温度分布および排ガス中の一酸化窒素の濃度分布のマップにのみ基づき、排ガス温度、排ガス中の酸素濃度CO2、および一酸化窒素濃度CNOを推定して還元剤の種類を選定し、その濃度を特定する制御を行う排ガス浄化装置10を用いて説明したが、センサー21,22,23にて計測し、ECU20に送られた排ガス温度およびそのガス成分のデータを前述したデータマップに反映して制御することも可能であり、ECU20に送られた排ガス温度およびそのガス成分のデータを用いてフィードバック制御で直接微調整することも可能である。このように制御するようにした排ガス浄化装置によれば、上述した排ガス浄化装置10と同様な作用効果を奏する他、還元剤の水素の濃度の特定および水素の添加時間の特定をより高精度に行うことができ、脱硝性能を向上させることができる。さらに、エンジンの状態に応じて制御することができ、トランジェント対応することができる。
【0070】
排ガス処理触媒12の排ガス流通方向下流側の水素の濃度を計測することにより、排ガス処理触媒12における還元剤の水素の使用量を特定することができる。よって、還元剤の添加量を制御することができ、排ガスをより一層効率良く浄化することができる。
【0071】
[第三の実施形態]
本発明の第三番目の実施形態に係る排ガス浄化方法を排ガス浄化装置に適用した場合について図3を参照して説明する。
本実施形態にて、上述した第二番目の実施形態の排ガス浄化装置10が具備する機器と同一機器には同一符号を付記する。
【0072】
本実施形態の排ガス浄化装置50では、図3に示すように、排ガス流通管1に酸化触媒14が連結され、酸化触媒14に排ガス導入管4が連結される。
【0073】
この排ガス浄化装置50では、ディーゼルエンジンから排出される排ガス40が排ガス導入管4を通じて酸化触媒14に導入され、酸化触媒14にて排ガス40中のHC,CO,NOが酸化される。HC,CO,NOが酸化された排ガス41が排ガス流通管1を通じてDPF11に導入される。DPF11でPMが除去された排ガス42と水素供給装置13から供給された水素32とが連絡配管2を通じて排ガス処理触媒12に供給される。排ガス処理触媒12で排ガス中の窒素酸化物が浄化され、窒素酸化物が浄化された排ガス43が排ガス排出管3を通じて系外へ排出される。すなわち、排ガス浄化装置50では、排ガス流通方向上流側から、酸化触媒14、DPF11、排ガス処理触媒12の順序で配置される。
【0074】
排ガス導入管4には、排ガス温度およびその成分(NOx,O2,H2,NH3)を常時計測するための排ガス計測手段であるセンサ24が設けられる。センサ24としては、分子のレーザ光吸収型高速応答性のガス成分濃度センサなどレーザ光を用いたセンサが挙げられる。このようなセンサを用いることで、リアルタイムに排ガス温度および排ガス中のガス成分を計測することができる。
【0075】
上述した酸化触媒14は、白金、パラジウム、イリジウムなどの貴金属系触媒、またはペロブスカイトなどの複合酸化物系触媒などが挙げられる。酸化触媒14は、ハニカム状に形成されており、200℃以上にて酸化反応が生じる触媒である。酸化触媒14で排ガス中のHC,CO,NOが酸化されるため、排ガス流通方向下流側に配置される排ガス処理触媒12の還元率が向上する。
【0076】
よって、上述した排ガス浄化装置50によれば、上述した構成とすることにより、排ガス中の酸素ガス濃度が所定値未満となるように当該排ガスを調整し、前記排ガス中の窒素酸化物を還元浄化する排ガス処理触媒12に吸蔵される窒素酸化物の吸蔵量と、前記排ガスの温度とに対応して前記酸素ガスとの反応量よりも前記窒素酸化物との反応量が多くなるように前記排ガスに水素32を添加して、排ガス処理触媒12と接触させることにより当該排ガス中の窒素酸化物を還元除去することができる。その結果、上述した第一番目および第二番目の実施形態と同様、排ガス温度が200℃以下の低温であっても、酸素ガスとの反応に比べて窒素酸化物との反応にて水素の消費量が多くなり、排ガス処理触媒12での脱硝反応と燃焼反応とがバランスし、排ガス処理触媒12で水素32を効率良く作用させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る排ガス浄化触媒およびそれを用いた排ガス浄化方法ならびに排ガス浄化装置によれば、排ガス温度が200℃以下の低温であっても、排ガス中の窒素酸化物を処理する触媒で還元剤を効率良く作用させることができるため、ディーゼルエンジンや燃焼機器から排出される排ガスを処理する産業にとって有用である。
【符号の説明】
【0078】
10,50 排ガス浄化装置
11 DPF
12 排ガス処理触媒
13 水素供給装置
14 酸化触媒
20 電子制御装置(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
La(FeyNb1-y-z)Pdz3(ただし、0.30≦y≦0.95であり、0.01≦z≦0.10である。)にて表される複合酸化物を有する
ことを特徴とする排ガス処理触媒。
【請求項2】
排ガス中の窒素酸化物を還元除去する還元触媒として請求項1に記載の排ガス処理触媒を用い、
排ガス中の酸素ガス濃度が所定値未満となるように当該排ガスを調整し、前記還元触媒に吸蔵される窒素酸化物の吸蔵量と、前記排ガスの温度とに対応して前記酸素ガスとの反応量よりも前記窒素酸化物との反応量が多くなるように前記排ガスに水素を添加して、前前記還元触媒と接触させることにより当該排ガス中の窒素酸化物を還元除去する
ことを特徴とする排ガス浄化方法。
【請求項3】
請求項2に記載の排ガス浄化方法であって、
前記水素の添加時間を4秒以上15秒以下とする
ことを特徴とする排ガス浄化方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の排ガス浄化方法であって、
前記水素の濃度を2%以上6%以下とする
ことを特徴とする排ガス浄化方法。
【請求項5】
排ガス中の窒素酸化物を還元して浄化する排ガス浄化装置であって、
前記排ガス中の微粒子状物質を捕集する捕集手段と、
前記捕集手段よりも前記排ガスの流通方向下流側に配置された請求項1に記載の排ガス処理触媒と、
前記排ガス処理触媒よりも前記排ガスの流通方向上流側に水素を供給する水素供給手段とを備えている
ことを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項6】
請求項5に記載された排ガス浄化装置であって、
前記捕集手段よりも前記排ガスの流通方向上流側に配置された酸化触媒をさらに備えている
ことを特徴とする排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−136278(P2011−136278A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297231(P2009−297231)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度経済産業省 地球環境保全等試験研究に基づく委託研究「粗悪燃料を用いる舶用および固定発生源からの大気汚染物質除去」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】