説明

排ガス浄化フィルタとその製造方法

【課題】貴金属の活性の低下を抑制するとともに、PM及びNOx を効率よく浄化できるフィルタ触媒とする。
【解決手段】流出側触媒層22には流入側触媒層20における貴金属濃度以上の濃度で貴金属が含まれ、流入側触媒層20、細孔触媒層21及び流出側触媒層22には流入側触媒層20が流出側触媒層22より多い含有量でNOx 吸蔵材を含む。
主として流入側でPMが浄化され、主として流出側でNOx が浄化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル排ガスなどに含まれる粒子状物質(PM)とNOx を効率よく浄化できる排ガス浄化フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンについては、排ガスの厳しい規制とそれに対処できる技術の進歩とにより、排ガス中の有害成分は確実に減少している。一方、ディーゼルエンジンについては、有害成分がPM(炭素微粒子、サルフェート等の硫黄系微粒子、高分子量炭化水素微粒子( SOF)等)として排出されるという特異な事情から、ガソリンエンジンの場合より排ガスの浄化が難しい。
【0003】
そこで従来より、セラミック製の目封じタイプのハニカム体(ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下 DPFという))が知られている。この DPFは、セラミックハニカム構造体のセルの開口部の両端を例えば交互に市松状に目封じしてなるものであり、排ガス下流側で目詰めされた流入側セルと、流入側セルに隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セルと、流入側セルと流出側セルを区画するセル隔壁とよりなり、セル隔壁の細孔で排ガスを濾過してPMを捕集する。
【0004】
また近年では、例えば特公平07−106290号公報に記載されているように、 DPFのセル隔壁の表面にアルミナなどに白金(Pt)などの触媒金属を担持してなる触媒層を形成したフィルタ触媒が開発されている。このフィルタ触媒によれば、捕集されたPMが触媒金属の触媒反応によって酸化燃焼するため、捕集と同時にあるいは捕集に連続して燃焼させることでフィルタ触媒を連続的に再生することができる。
【0005】
さらに特開平09−094434号公報には、セル隔壁のみならず、セル隔壁の細孔内にも触媒層を形成したフィルタ触媒が記載されている。細孔内にも触媒層を形成することで、PMと触媒金属との接触確率が高まり、細孔内に捕集されたPMを酸化燃焼させることができる。また触媒層では、排ガス中のNOが酸化されて酸化活性の高いNO2 が生成し、このNO2 によるPMの酸化反応も期待される。
【0006】
そして特開平09−125931号公報には、コート層を形成することなく貴金属とNOx 吸蔵材を含有したフィルタ触媒が記載されている。このように貴金属とNOx 吸蔵材とを含有することで、リーン雰囲気においてNOx を吸蔵し、間欠的にリッチ雰囲気とすることで吸蔵されたNOx を放出させて還元浄化することができる。したがって排ガス中のPMとNOx とを効率よく浄化することができる。
【0007】
ところがリッチ雰囲気で供給された還元剤は、先ずフィルタ触媒の上流側で消費されるために、上流側と下流側あるいは流入側セルと流出側セルとで濃度分布が生じる。したがってNOx 吸蔵材を均一に担持したフィルタ触媒では、NOx 吸蔵材上でのNOx と還元剤との反応量に分布が生じ、効率的なNOx 浄化ができない。すなわちNOx 吸蔵材量が多くても還元剤が少なく、反対にNOx 吸蔵材が少ないのに還元剤が多い、といった状況が生じる。
【0008】
そこで特開2001−207836号公報には、コート層を形成することなく、流入側に触媒物質の担持量を多く分布させたフィルタ触媒が提案されている。この公報に記載のフィルタ触媒によれば、流入側に貴金属の担持量を多く分布させることで、PMなどの有害物質の濃度が高い流入側でより活発な排ガスの浄化を行うことができる。また流入側にNOx 吸蔵材の担持量を多く分布させることで、還元剤濃度が高い流入側においてNOx 還元効率が高く、全体としてバランスのよいNOx 還元浄化を行うことができる。
【0009】
NOx 吸蔵量を多くしてNOx 浄化率を向上させるためには、NOx 吸蔵材を多く担持する必要がある。ところがコート層を形成せずにフィルタ基材に直接NOx 吸蔵材を含有させると、NOx 吸蔵材と基材との反応が生じる場合が多く、必要量のNOx 吸蔵材を含有させることができない。またアルミナなどの多孔質担体からなるコート層に触媒成分を担持した触媒層を形成したフィルタ触媒に比べて、活性が低いという問題もある。
【特許文献1】特公平07−106290号公報
【特許文献2】特開平09−094434号公報
【特許文献3】特開平09−125931号公報
【特許文献4】特開2001−207836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで触媒層を形成したフィルタ触媒において、特開2001−207836号公報に記載の技術を応用することが考えられる。ところがフィルタ触媒においては、セル隔壁の細孔内にも触媒層を形成するものであるために、触媒層のコート量が多くなると圧損が上昇する。そのため、フロースルー構造のモノリス触媒に比べて触媒層の形成量を少なくせざるを得ない。するとアルミナなどの多孔質担体の量が少なくなる結果、貴金属あるいはNOx 吸蔵材の含有密度が高くなる。
【0011】
したがって触媒層を形成したフィルタ触媒において、貴金属とNOx 吸蔵材の含有量を流入側に多くした場合には、流入側において貴金属の粒成長が生じるという不具合がある。また、貴金属がNOx 吸蔵材で覆われるために貴金属の活性が低下するという問題もある。さらに、流出側では貴金属の含有量が少ないために、リッチ時に流入側に多量に含有されたNOx 吸蔵材から放出されたNOx を還元しきれず、過剰のNOx が排出されるという不具合もあった。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、貴金属の活性の低下を抑制するとともに、PM及びNOx を効率よく浄化できるフィルタ触媒とすることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明のフィルタ触媒の特徴は、排ガス下流側で目詰めされた流入側セルと、流入側セルに隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セルと、流入側セルと流出側セルを区画し多数の細孔を有する多孔質のセル隔壁とを有するウォールフロー構造のフィルタ基材と、
セル隔壁の流入側セル側表面に形成された流入側触媒層と、流出側セル側表面に形成された流出側触媒層と、セル隔壁中の細孔に形成された細孔触媒層と、よりなる排ガス浄化フィルタであって、
流出側触媒層には流入側触媒層における貴金属濃度以上の濃度で貴金属が含まれ、
流入側触媒層、細孔触媒層及び流出側触媒層にはアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれるNOx 吸蔵材が含まれ、NOx 吸蔵材の含有量は流入側触媒層が流出側触媒層より多いことにある。
【0014】
また本発明のフィルタ触媒の製造方法の特徴は、セル隔壁の流入側セル側表面、流出側セル側表面及び細孔に多孔質酸化物よりなるコート層を形成するコート層形成工程と、コート層にアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる元素のイオンが溶解した溶液を含浸させた後に乾燥する乾燥工程とを含み、
乾燥工程は、流入側セルから流出側セルへ向かって熱風を送風して行うことにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明の排ガス浄化フィルタでは、NOx 吸蔵材の含有量が流入側で多く流出側で少ない。したがって特開2001−207836号公報と同様に、リッチ時に還元剤濃度が高い流入側においてNOx 還元効率が高く、全体としてバランスのよいNOx 還元浄化を行うことができる。この場合、流入側においてはNOx 吸蔵材の濃度が高いので、貴金属の活性が低下するという問題が避けられない。しかし流出側では、NOx 吸蔵材の含有量が少ないので、貴金属の活性低下が抑制される。
【0016】
またカリウム自体は、PMを 300℃程度から酸化可能であることが明らかとなっている。したがってNOx 吸蔵材としてカリウムを用いれば、流入側のカリウム濃度を高くすることで、流入側の貴金属含有量が少なくても、あるいは流入側に貴金属を含有しなくてもPMを酸化することができる。PMは流入側に多く捕集されるので、流入側にカリウムを多く含有させておくことはPMの酸化浄化にきわめて効果的である。
【0017】
そして還元剤の供給時に流入側に存在するNOx 吸蔵材から放出されたNOx は流出側に流れ、流出側に多く含有され活性低下が防止された貴金属の触媒作用によって還元剤で還元浄化される。
【0018】
さらに、排ガス中に含まれる硫黄酸化物が流入側に多く含有されたNOx 吸蔵材に捕捉される結果、流出側でのNOx 吸蔵材の硫黄被毒が抑制され、硫黄被毒によるNOx 浄化能の低下を抑制することができる。
【0019】
すなわち本発明のフィルタ触媒によれば、主として流入側でPMを浄化し、主として流出側でNOx を浄化する。このように一つのフィルタ触媒内で機能を分離したので、それぞれの機能を最大に発現させることができ、貴金属の活性の低下を抑制するとともに、PMとNOx を効率よく浄化することができる。
【0020】
また本発明の排ガス浄化フィルタの製造方法によれば、コート層にNOx 吸蔵元素のイオンが溶解した溶液を含浸させた後に、流入側セルから流出側セルへ向かって熱風を送風して乾燥させる。この乾燥時には、流入側セルの表面に形成された流入側コート層の表面から乾燥するが、流入側コート層の内部、細孔コート層、流出側コート層に含まれる溶液が乾燥した部分に移行する現象が生じる。そのため溶液中に溶解しているNOx 吸蔵元素のイオンも溶液と共に乾燥した部分へ移行する。したがってNOx 吸蔵材の含有量には、流入側触媒層が流出側触媒層より多くなるような分布が生じ、本発明のフィルタ触媒を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の排ガス浄化フィルタは、ハニカム形状のフィルタ基材と、フィルタ基材のセル隔壁に形成された触媒層と、からなる。このうちフィルタ基材は、排ガス下流側で目詰めされた流入側セルと、流入側セルに隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セルと、流入側セルと流出側セルを区画し多数の細孔を有する多孔質のセル隔壁とをもつ従来の DPFと同様のウォールフロー構造のものである。
【0022】
フィルタ基材は、金属フォームや耐熱性不織布などから形成することもできるし、コージェライト、炭化ケイ素などの耐熱性セラミックスから製造することもできる。例えば耐熱性セラミックスから製造する場合、コージェライト粉末を主成分とする粘土状のスラリーを調製し、それを押出成形などで成形し、焼成する。コージェライト粉末に代えて、アルミナ、マグネシア及びシリカの各粉末をコージェライト組成となるように配合することもできる。その後、一端面のセル開口を同様の粘土状のスラリーなどで市松状などに目封じし、他端面では一端面で目封じされたセルに隣接するセルのセル開口を目封じする。その後焼成で目封じ材を固定することでハニカム構造のフィルタ基材を製造することができる。流入側セル及び流出側セルの形状は、断面三角形、断面四角形、断面六角形、断面円形など、特に制限されない。
【0023】
またコージェライトに代えて、アルミナあるいは炭化ケイ素、窒化ケイ素などから形成されたフィルタ基材を用いることも好ましい。コージェライトはNOx 吸蔵材と反応する場合があり、こうした反応が生じると強度が低下するという不具合がある。アルミナなどNOx 吸蔵材と反応しない材料から形成されたフィルタ基材を用いれば、このような不具合を回避できるからである。
【0024】
セル隔壁は、排ガスが通過可能な多孔質構造である。セル隔壁に細孔を形成するには、上記したスラリー中にカーボン粉末、木粉、澱粉、樹脂粉末などの可燃物粉末などを混合しておき、可燃物粉末が焼成時に消失することで細孔を形成することができ、可燃物粉末の粒径及び添加量を調整することで細孔の径と細孔容積を制御することができる。この細孔により流入側セルと流出側セルは互いに連通し、PMは細孔内に捕集されるが気体は流入側セルから流出側セルへと細孔を通過可能となる。
【0025】
セル隔壁の気孔率は、40〜70%であることが望ましく、平均細孔径が10〜40μmであることが望ましい。気孔率及び平均細孔径がこの範囲にあることで、触媒層を 100〜 200g/Lと多く形成しても圧損の上昇を抑制することができ、強度の低下もさらに抑制することができる。そしてPMをさらに効率よく捕集することができる。
【0026】
触媒層は、セル隔壁の流入側セル側表面に形成された流入側触媒層と、流出側セル側表面に形成された流出側触媒層と、セル隔壁中の細孔に形成された細孔触媒層と、から構成される。これらの触媒層は、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、あるいはこれらから選ばれる複数種からなる複合酸化物の一種又は混合物などから選ばれる多孔質酸化物よりなる担体と、この担体に含まれた触媒物質とからなる。これらの触媒層は、全体の合計で、フィルタ基材の容積1リットルあたり 100〜 200g形成することができる。触媒層の形成量が 200g/Lより多いと圧損が上昇するため好ましくなく、 100g/Lより少ない場合には貴金属を所定量含有させるとその粒成長が顕著となるので好ましくない。
【0027】
流出側触媒層には、流入側触媒層における貴金属濃度以上の濃度で貴金属が含まれている。この貴金属としては、酸化活性の高いPt(白金)が特に好ましいが、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)など、他の貴金属を含有してもよい。流入側触媒層又は細孔触媒層には、貴金属は必須ではないが、流出側触媒層と同濃度以下で含ませることもできる。また流入側触媒層から細孔触媒層、流出側触媒層に向かって濃度が高くなるように貴金属を含有させることも好ましい。貴金属の含有量は、全体の合計として、フィルタ基材の1リットルあたり 0.1〜 5.0gの範囲とすることが好ましい。含有量がこれより少ないと活性が低すぎて実用的でなく、この範囲より多く含有しても活性が飽和するとともにコストアップとなってしまう。
【0028】
なお触媒層に貴金属を含有するには、予めセル隔壁に多孔質酸化物からコート層を形成しておき、貴金属の硝酸塩などを溶解した溶液を用い、吸着担持法、含浸担持法などによって含有させることができる。あるいは、アルミナ粉末などに予め貴金属を担持し、その触媒粉末を用いてセル隔壁に触媒層を形成してもよい。
【0029】
流入側触媒層、細孔触媒層及び流出側触媒層には、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれるNOx 吸蔵材が含まれている。アルカリ金属としてはK(カリウム)、Na(ナトリウム)、Cs(セシウム)、Li(リチウム)などから選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましく、K(カリウム)が特に好ましい。K(カリウム)は、PMを 300℃以上で酸化する特性を有するからである。またアルカリ土類金属としては、Ba(バリウム)、Sr(ストロンチウム)、Mg(マグネシウム)などから選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0030】
本発明の排ガス浄化フィルタにおいては、NOx 吸蔵材の含有量は流入側触媒層が流出側触媒層より多い。この条件を満たせば、NOx 吸蔵材の含有量の差は特に制限されないが、流入側触媒層と流出側触媒層とで 1.5倍以上の含有量の差を形成することが好ましい。例えば、流出側触媒層における含有量に対する流入側触媒層における含有量の比を、2:1〜10:1の範囲とすることが好ましい。この含有量の差が 1.5倍より小さいと本発明の効果が奏されにくく、10倍より大きくなると流入側における貴金属の活性が低下することがある。
【0031】
NOx 吸蔵材の含有量は、全体としてフィルタ基材の容積1リットルあたり 0.3モル〜 1.0モルの範囲が好ましい。また流入側触媒層には、フィルタ基材の容積1リットルあたり 0.2モル〜 1.0モルのNOx 吸蔵材を含有し、流出側触媒層には、フィルタ基材の容積1リットルあたり0.01モル〜 0.3モルのNOx 吸蔵材を含有することが好ましい。
【0032】
特にNOx 吸蔵材としてK(カリウム)を用いる場合には、流入側触媒層ではフィルタ基材の容積1リットルあたり 0.2モル以上が好ましく、流出側触媒層ではフィルタ基材の容積1リットルあたり0.05モル以下に規制する必要がある。
【0033】
細孔触媒層におけるNOx 吸蔵材の含有量は、流入側触媒層又は流出側触媒層と同量であってもよいし、流入側触媒層から細孔触媒層、流出側触媒層に向かってNOx 吸蔵材の含有量が低下した傾斜組成としてもよい。
【0034】
触媒層にNOx 吸蔵材を含有させるには、アルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩などの水溶液を用い、予めセル隔壁に形成されたコート層に含浸させた後に乾燥・焼成して行う。流入側触媒層と流出側触媒層とで含有量を異ならせるには、濃度の異なる溶液をそれぞれ用いてコート層に含浸させてもよいが、本発明の製造方法を利用するのが好ましい。
【0035】
すなわち、セル隔壁の流入側セル側表面、流出側セル側表面及び細孔に多孔質酸化物よりなるコート層を形成するコート層形成工程と、コート層にNOx 吸蔵元素のイオンが溶解した溶液を含浸させた後に乾燥する乾燥工程とを含み、乾燥工程は、流入側セルから流出側セルへ向かって熱風を送風して行う。
【0036】
この製造方法によれば、流入側セルの表面に形成された流入側コート層の表面から乾燥するが、流入側コート層の内部、細孔コート層、流出側コート層に含まれる溶液が乾燥した部分に移行する現象が生じる。そのため溶液中に溶解しているNOx 吸蔵元素のイオンも溶液と共に乾燥した部分へ移行する。したがってNOx 吸蔵材の含有量には、流入側触媒層が流出側触媒層より多くなるような分布が生じ、本発明のフィルタ触媒を容易に製造することができる。
【0037】
熱風の温度は80℃〜 130℃の範囲が望ましい。80℃より低温であると流入側と流出側でのNOx 吸蔵材の濃度差が小さくなり、 130℃より高くしても効果が飽和する。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
【0039】
(実施例1)
図1及び図2に本実施例の排ガス浄化フィルタの模式図を示す。この排ガス浄化フィルタは、排ガス下流側で目詰めされた流入側セル10と、流入側セル10に隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セル11と、流入側セル10と流出側セル11を区画するセル隔壁12と、からなるフィルタ基材1を基材とする。セル隔壁12内部には、流入側セル10と流出側セル11に連通する細孔13が形成されている。
【0040】
セル隔壁12の流入側セル10側の表面には流入側触媒層20が形成され、セル隔壁12の細孔13の内表面には細孔触媒層21が形成され、セル隔壁12の流出側セル11側の表面には流出側触媒層22が形成されている。
【0041】
以下、各触媒層の製法を説明し、排ガス浄化フィルタの構成の詳細な説明に代える。
【0042】
直径 130mm、長さ 150mmのコージェライト製フィルタ基材1(ウォールフロー構造、12mil/300cpsi )を用意した。次にγ-Al2O3(アルミナ)粉末、TiO2(チタニア)粉末、ZrO2(ジルコニア)粉末をアルミナゾル及びイオン交換水とともに粘度が100cps以下となるように混合してスラリーを調製し、固形分粒子の平均粒径が1μm以下となるようにミリングした。そして上記フィルタ基材1をこのスラリーに浸漬してセル内部にスラリーを流し込み、引き上げて浸漬側と反対側の端面から吸引することで余分なスラリーを除去し、 120℃で2時間通風乾燥後 600℃で2時間焼成した。この操作は2回行われ、流入側セル10及び流出側セル11にほぼ同量のコート層が形成されるように調整した。コート層の形成量は、フィルタ基材1の1リットルあたり 100gである。
【0043】
次に、所定濃度のジニトロジアンミン白金水溶液の所定量をコート層の全体に吸水させ、60℃で温風乾燥後に 120℃で2時間通風乾燥してPt(白金)を担持した。また硝酸パラジウム水溶液と硝酸ロジウム水溶液を用い、同様にしてRh(ロジウム)とPd(パラジウム)をそれぞれ担持した。フィルタ基材1の容積1リットルあたりの担持量は、Pt(白金)が2g、Pd(パラジウム)が1g、Rh(ロジウム)が 0.5gである。
【0044】
次に、酢酸バリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウムが所定濃度で溶解した混合水溶液を用意し、貴金属が担持された上記フィルタ基材1を2分間浸漬し、引き上げて余分な水溶液を吹き払った後、 120℃に加熱された空気を3m/秒の流速で流入側セル10から流出側セル11に10分間流通させ、急速乾燥させた。その後 600℃で2時間空気中で焼成した。これによりコート層には、全体の合計値でフィルタ基材1の1リットルあたりBa(バリウム)が 0.2モル、K(カリウム)が 0.4モル、Li(リチウム)が 0.4モル担持された。
【0045】
得られた排ガス浄化フィルタをEPMA分析したところ、流入側触媒層20には流出側触媒層22の4倍量のBa(バリウム)、流出側触媒層22の4倍量のK(カリウム)、流出側触媒層22の4倍量のLi(リチウム)がそれぞれ観察された。なお細孔触媒層21は、流入側触媒層20の表層と流出側触媒層22の内層の濃度をそれぞれ最大及び最小として、流入側触媒層20から流出側触媒層22へ向かって減少する傾斜組成となっていた。
【0046】
(実施例2)
コージェライト製のフィルタ基材に代えて、直径 130mm、長さ 150mmの活性アルミナ製のフィルタ基材(12mil/300cpsi )を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の排ガス浄化フィルタを調製した。
【0047】
得られた排ガス浄化フィルタをEPMA分析したところ、流入側触媒層20には流出側触媒層22の5倍量のBa(バリウム)、流出側触媒層22の5倍量のK(カリウム)、流出側触媒層22の5倍量のLi(リチウム)がそれぞれ観察された。なお細孔触媒層21は、流入側触媒層20と流出側触媒層22の濃度をそれぞれ最大及び最小として、流入側触媒層20から流出側触媒層22へ向かって減少する傾斜組成となっていた。
【0048】
(比較例1)
実施例1と同様にして、コート層が形成されたフィルタ基材1に各貴金属を実施例1と同量担持した。次に、酢酸バリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウムが所定濃度で溶解した混合水溶液を用意し、貴金属が担持された上記フィルタ基材1を2分間浸漬し、引き上げて余分な水溶液を吹き払った後、マイクロウェーブ乾燥機内で乾燥させ、 600℃で2時間空気中で焼成した。これによりコート層には、全体の合計値でフィルタ基材1の1リットルあたりBa(バリウム)が 0.2モル、K(カリウム)が 0.4モル、Li(リチウム)が 0.4モル担持された。
【0049】
得られた排ガス浄化フィルタをEPMA分析したところ、流入側触媒層20、細孔触媒層21、流出側触媒層22共にBa(バリウム)、K(カリウム)、Li(リチウム)が均一に担持されていることが観察された。
【0050】
(比較例2)
コージェライト製のフィルタ基材に代えて、実施例2と同様のフィルタ基材を用いたこと以外は比較例1と同様にして、比較例2の排ガス浄化フィルタを調製した。
【0051】
得られた排ガス浄化フィルタをEPMA分析したところ、流入側触媒層20、細孔触媒層21、流出側触媒層22共にBa(バリウム)、K(カリウム)、Li(リチウム)が均一に担持されていることが観察された。
【0052】
<試験・評価>
実施例及び比較例の排ガス浄化フィルタを直径30mm、長さ50mm(35cc)のテストピ−スに切り出し、評価装置にそれぞれ配置した。そして、表1に示すリーンガスを55秒間流通させた後にリッチガスを5秒間流通させるのを交互に繰り返し、その後リーンに切り替えた後のNOx 吸蔵量を測定した。触媒床温度は 300℃と 450℃の2水準で行い、ガス流量はそれぞれ20L/分である。結果を比較例1のNOx 吸蔵量に対する相対比率として表2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
また、実施例及び比較例の排ガス浄化フィルタを 2.2Lエンジンの排気系に装着し、2000rpm 、30Nm、入りガス温度 210℃の条件で、PMを2g/L相当になるように捕集した。これをテストピースサイズに切り出し、評価装置にそれぞれ配置した後、表1に示したリーンガス中にて、触媒床温を室温から 600℃まで10℃/分の速度で昇温した。その際に捕集されたPMの酸化反応が開始される温度を測定し、結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2より、実施例1及び実施例2の排ガス浄化フィルタは、対応する比較例1及び比較例2の排ガス浄化フィルタに比べてNOx 吸蔵量が多く、PMが低温域から燃焼していることがわかる。これは、NOx 吸蔵材の含有量を流入側触媒層が流出側触媒層より多くしたことによる効果であることが明らかである。
【0057】
また実施例1と実施例2との比較から、NOx 吸蔵材の含有量の差が大きいほどNOx 吸蔵量が多く、PMの燃焼開始温度が低いことも明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施例に係る排ガス浄化フィルタの斜視図である。
【図2】本発明の一実施例に係る排ガス浄化フィルタの断面図と要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1:フィルタ基材 10:流入側セル 11:流出側セル
12:セル隔壁 13:細孔 20:流入側触媒層
21:細孔触媒層 22:流出側触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス下流側で目詰めされた流入側セルと、該流入側セルに隣接し排ガス上流側で目詰めされた流出側セルと、該流入側セルと該流出側セルを区画し多数の細孔を有する多孔質のセル隔壁とを有するウォールフロー構造のフィルタ基材と、
該セル隔壁の該流入側セル側表面に形成された流入側触媒層と、該流出側セル側表面に形成された流出側触媒層と、該セル隔壁中の細孔に形成された細孔触媒層と、よりなる排ガス浄化フィルタであって、
該流出側触媒層には該流入側触媒層における貴金属濃度以上の濃度で貴金属が含まれ、
該流入側触媒層、該細孔触媒層及び該流出側触媒層にはアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれるNOx 吸蔵材が含まれ、該NOx 吸蔵材の含有量は該流入側触媒層が該流出側触媒層より多いことを特徴とする排ガス浄化フィルタ。
【請求項2】
前記NOx 吸蔵材の含有量は、前記流入側触媒層から前記細孔触媒層、前記流出側触媒層に向かって低下している請求項1に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項3】
前記流入側触媒層にはフィルタ基材の容積1リットルあたり 0.2モル〜 1.0モルの前記NOx 吸蔵材を含有し、前記流出側触媒層にはフィルタ基材の容積1リットルあたり0.01モル〜 0.3モルの前記NOx 吸蔵材を含有する請求項1又は請求項2に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項4】
前記流入側触媒層におけるNOx 吸蔵材はカリウムを含む請求項1〜3のいずれかに記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項5】
請求項1〜4に記載のいずれかの排ガス浄化フィルタを製造する方法であって、前記セル隔壁の前記流入側セル側表面、前記流出側セル側表面及び前記細孔に多孔質酸化物よりなるコート層を形成するコート層形成工程と、該コート層にアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる元素のイオンが溶解した溶液を含浸させた後に乾燥する乾燥工程とを含み、
該乾燥工程は、前記流入側セルから前記流出側セルへ向かって熱風を送風して行うことを特徴とする排ガス浄化フィルタの製造方法。
【請求項6】
前記熱風の温度は80℃〜 130℃である請求項5に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−253961(P2008−253961A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101810(P2007−101810)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】