説明

排ガス浄化装置

【課題】排ガス浄化装置に関し、アンモニアの大気中への放出を抑制しながら、排ガス浄化効率を向上させることができるようにする。
【解決手段】内燃機関11の排気通路13に設けられ、鉄イオン交換されたゼオライトを含み自身の温度に応じて排ガス中の窒素酸化物を吸着又は脱離可能な鉄型ゼオライト触媒15と、鉄型ゼオライト触媒15よりも上流側の排気通路13に設けられ、触媒温度の昇温に伴い排ガス中の窒素酸化物からアンモニアを生成するアンモニア生成触媒14と、鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度を第一触媒温度として算出する第一温度算出手段21と、第一温度算出手段21で算出された第一触媒温度に基づき、アンモニア生成触媒14の触媒温度である第二触媒温度を上昇させる昇温制御を実施する制御手段23と、を備えるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排ガス浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球環境の保護が強く求められる近年、車両の駆動源として一般的に用いられるディーゼルエンジンやガソリンエンジンといったエンジンにおいては、窒素酸化物(以下、NOxという)、炭化水素(以下、HCという)、一酸化炭素(以下、COという)あるいは、粒子状物質(Particulate Matter;以下、PMという)といった排ガス成分を浄化する技術の重要性が高まっている。
【0003】
このうち、PMの大気排出量を低減する技術の一例としては、排気通路の途中にディーゼルパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate Filter;以下、フィルタという)を設け、このフィルタでPMを捕集する排ガス浄化装置が一般に広く知られている。
また、排ガス成分の一つであるNOxの大気排出量を低減する技術の一例としては、尿素添加型の選択還元触媒〔尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒〕を用いる手法が知られている。すなわち、尿素添加装置から還元剤としての尿素水溶液を選択還元触媒の上流側の排気通路内に噴射し、加水分解によりアンモニア(以下、NHという)を生成して、NOxをNHで還元させるものである。この手法は、ディーゼルエンジンの排気ガスのように酸素濃度が比較的高い雰囲気下におけるNOxの浄化にも効果的である。
【0004】
しかしながら、選択還元触媒の動作には排ガス温度や触媒自体の温度が高いことが必要であり、低温域では触媒の活性が低く良好な浄化性能が得られない。
そこで、選択還元触媒の中でもエンジン始動直後の低温時におけるNOxを一時的に吸着する吸着材として、遷移金属イオン(例えば鉄)を含んだゼオライトを担持したもの(以下、鉄型ゼオライト触媒という)を用いることが提案されている。この鉄型ゼオライト触媒に担持される鉄ゼオライトは、低温時でのNOx吸着性能に優れており、触媒温度が上昇するに従い吸着したNOxを脱離する特性を持っている。したがって、NOxの脱離タイミングに合わせて尿素水溶液を選択還元触媒に供給することで、NOxを浄化することが可能である。
【0005】
一方、鉄型ゼオライト触媒と尿素添加装置との双方を排気系に設けると、システムが複雑になるうえに、コストの増大を招くという問題がある。そこで、尿素水溶液添加のための尿素添加装置を用いることなくNHを生成してNOxを浄化する技術も提案されている。
例えば特許文献1には、固体酸触媒を選択還元触媒に隣接して配置した排ガス浄化装置が開示されている。この固体酸触媒とは、酸化雰囲気(即ち、リーン雰囲気)下で固体酸触媒にNOxを吸着し、排ガス中の酸素濃度が低下する(即ち、リッチ雰囲気になる)と排ガス中のHCおよびCO等の成分によりNOxからNHを生成する触媒である。つまり、ここでは固体酸触媒が尿素添加装置の代わりにNHを選択還元触媒に供給する役割を担っており、生成されたNHをNOxの還元反応に利用することで、尿素添加装置を不要のものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−274807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば、選択還元触媒からのNOxの脱離タイミングと固体酸触媒でのNHの生成タイミングが一致せず、脱離したNOxが十分にNHと反応できない場合には、そのNOxが大気中へ放出されるという事態を招いてしまう。また、脱離したNHが十分にNOxと反応できない場合には、余剰NHが大気中へ放出されるという事態を招いてしまう。つまり、上述のような従来の手法では、排ガス浄化装置によるNOxの還元反応を効率よく行わせることが難しいという課題がある。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、NHの大気中への放出を抑制しながら、排ガス浄化効率を向上させることができるようにした、排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の排ガス浄化装置は内燃機関の排気通路に設けられ、鉄イオン交換されたゼオライトを含み自身の温度に応じて排ガス中の窒素酸化物を吸着又は脱離可能な鉄型ゼオライト触媒と、該鉄型ゼオライト触媒よりも上流側の該排気通路に設けられ、触媒温度の昇温に伴い該排ガス中の窒素酸化物からアンモニアを生成するアンモニア生成触媒と、該鉄型ゼオライト触媒の触媒温度を第一触媒温度として算出する第一温度算出手段と、該第一温度算出手段で算出された該第一触媒温度に基づき、該アンモニア生成触媒の触媒温度である第二触媒温度を上昇させる昇温制御を実施する制御手段と、を備えることを特徴としている。
【0010】
また、該制御手段が、該第一温度算出手段で算出された該第一触媒温度が、該窒素酸化物の脱離を開始する第一閾値よりも小さい第二閾値以上である場合に、該昇温制御を開始するとともに、該第一温度算出手段で算出された該第一触媒温度が、該第一閾値よりも大きい第三閾値以上である場合に、該昇温制御を終了することも特徴としている。
また、該制御手段が、該昇温制御において、該第一触媒温度が該第一閾値以上になる第一時刻に、該第二触媒温度が該アンモニアの生成される第四閾値以上になる第二時刻を一致させることも特徴としている。
【0011】
また、該昇温制御が該アンモニア生成触媒に流入する排ガス温度を制御することにより実施され、該第二触媒温度を算出する第二温度算出手段をさらに備え、該制御手段が、該第一温度算出手段で算出された該第一触媒温度の上昇勾配に基づき、該第一時刻を演算する第一演算手段と、該第二温度算出手段で算出された該第二触媒温度の上昇勾配に基づき、該第二時刻を演算する第二演算手段と、該第一時刻と該第二時刻との比較により、該アンモニア生成触媒に流入する排ガスの昇温量を増減制御する排気昇温量制御手段と、を有することも特徴としている。
【0012】
また、該アンモニア生成触媒よりも下流側の該排気通路に設けられ、該排ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段をさらに備え、該制御手段が、該第二触媒温度が該第四閾値以上であるときに、該酸素濃度検出手段で検出される該酸素濃度が所定濃度に維持されるように該内燃機関からの該排ガスに対する燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御手段を有することも特徴としている。
【0013】
また、該燃料噴射量制御手段が、該昇温制御の終了と同時に該燃料噴射量の制御を終了することも特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の排ガス浄化装置によれば、NHの大気中への放出を抑制しつつ、排ガス浄化効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置に使用された鉄型ゼオライト触媒のNOx吸着量およびHCトラップ量に関する作用を主に示す模式的なタイムチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置のNOx,NHおよびHCの排出量に対するOセンサの出力特性を示す模式的なグラフである。
【図4】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置おいて実行されるルーチンのフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置による制御に関する模式的なタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面により、本発明の一実施形態について説明する。
[1.装置構成]
[1−1.内燃機関]
図1に示すように、車両10には、駆動源としてのディーゼルエンジン11(エンジン)が搭載されている。このディーゼルエンジン11は、所定の沸点範囲の炭化水素(以下、HCという)を含有する石油留分(いわゆる軽油)を燃料とする内燃機関である。ディーゼルエンジン11の排気ポート(図示略)には、エキゾーストマニホールド12(ターボチャージャを含む)および排気通路13が接続されており、燃焼後の排ガス(以下、単に排気ともいう)はこれらのエキゾーストマニホールド12,排気通路13を介して外部へ排出されている。
【0017】
また、ディーゼルエンジン11の燃焼室での燃焼反応に係る空燃比は、後述するECU19(電子制御装置;Electric Control Unit)によって制御されている。なお、ECU19には、図示しないエンジン回転数センサやエアフローセンサ,スロットル開度センサ,エンジン冷却水温センサ,吸気温度センサ等の各種センサ類で検出された情報が入力されている。これらの一般的なディーゼルエンジン11の制御に係る具体的なセンサおよび入力情報の種類については記載を省略する。
【0018】
[1−2.酸化触媒]
エキゾーストマニホールド12の下流端には、エンジン11に近接して、ディーゼル用酸化触媒(アンモニア生成触媒;以下、酸化触媒という)14が接続されている。図1では、酸化触媒14がエキゾーストマニホールド12と排気通路13との間に介装されたものを例示する。
【0019】
酸化触媒14とは、その表面に触媒貴金属(例えば、白金;以下、Ptという)を含有する(担持された)触媒であり、排ガス中の各種成分に対する酸化能を有する。酸化触媒14によって酸化される排ガス中の成分には、酸化窒素や未燃燃料中の炭化水素(以下、HCという),一酸化炭素(以下、COという)等が挙げられる。
この酸化触媒14は、触媒温度が活性化温度まで上昇し、かつ、排ガスがリーン雰囲気である場合には、排ガス中の一酸化窒素(以下、NOという)を二酸化窒素(以下、NOという)へ酸化する。また、排ガス中のCOとHCとを酸化して無害化する機能も有する。
【0020】
一方、その触媒温度が活性化温度まで上昇し、かつ、排ガスがリッチ雰囲気である場合には、排ガス中のCOやHC等の還元剤を用いてNOxを無害な窒素(以下、Nという)へと還元する。なお、リーン雰囲気下の酸化で生成されるNOは強力な酸化性能を有し、後述するディーゼルパティキュレートフィルタに捕集された粒子状物質(Diesel Particulate Matter;以下、PMという)の燃焼性を向上させる。
【0021】
さらに、本実施形態の酸化触媒14は、リッチ雰囲気の場合に主に下記の式(1)、(2)で示される化学反応によって、アンモニア(以下、NHという)を生成する。本実施形態の酸化触媒14でNHが生成される酸化触媒14の触媒温度は、約250℃以上であるとする。ここで生成されたNHは酸化触媒14よりも下流側の排気通路13内に供給される。なお、(2)の化学反応で使用される水素は、主に下記の式(3)、(4)で示される化学反応によって生成されるものである。
NO+HC+HO→CO+NH ・・・(1)
2NO+5H→2HO+2NH ・・・(2)
CO+HO→CO+H ・・・(3)
HC+HO→CO+CO+H ・・・(4)
なお、本実施形態では、低温の酸化触媒14の触媒温度を徐々に上昇させた場合に、酸化触媒14でNHが生成されはじめる温度のことを「第四閾値」と定義する。
【0022】
[1−3.鉄型ゼオライト触媒]
排気通路13を介した酸化触媒14の下流側には、鉄ゼオライトを含有する鉄型ゼオライト触媒15が配置されている。鉄型ゼオライト触媒15は、鉄(Fe)を含有したゼオライト触媒であり、極低温時に、窒素酸化物(以下、NOxという)を吸着する機能や、HCをトラップするHCトラップ型触媒としての機能を有するとともに、その触媒作動温度帯でNOxをNに還元する還元触媒としての機能も併せ持っている。
【0023】
ゼオライトとは、多数の珪素(シリコン;以下、Siという)およびアルミニウム(以下、Alという)が酸素を介して結合した三次元網状構造を有する結晶性多孔体(合成珪酸塩)の総称であり、その内部にSiやAlを配した分子構造となっている。
本実施形態の鉄型ゼオライト触媒15には、上記のような各種ゼオライトの骨格構造をなすSi又はAlを鉄元素にイオン交換(すなわち、置換)したもの、あるいは、ゼオライトの分子構造内における陽イオン交換サイト内に鉄イオンをドーピングしたもの等が含まれる。
【0024】
ここで、鉄型ゼオライト触媒15の極低温時のNOx吸着特性について説明する。
図2は、本実施形態で用いた鉄型ゼオライト触媒15のNOx吸着および、HCトラップに関する作用を主に示す模式的なタイムチャートであり、ガソリンエンジンで試験した結果を示している。
図2(B)において、鉄型ゼオライト触媒15の入口のNOx量(NOx濃度)を破線で示し、鉄型ゼオライト触媒15の出口のNOx量(NOx濃度)を実線で示す。この図のエンジン11の冷態始動時である時点t1から時点t2までの区間においては、触媒入口よりも触媒出口で検出されるNOx量が少ない。つまり、鉄型ゼオライト触媒15が多くのNOxを吸着していることがわかる。一方、温度がある程度上昇した時点t3以降の区間においては、触媒入口で検出されるNOx量よりも触媒出口で検出されるNOx量の方が多い。つまり、鉄型ゼオライト触媒15からNOxが脱離していることがわかる。
【0025】
このように、鉄型ゼオライト触媒15は、その触媒温度が所定温度未満であるときにNOxを吸着し、所定温度以上になると吸着したNOxを脱離させる性質を持っている。なお、一般に触媒温度が低いほど、鉄型ゼオライト触媒15のNOx吸着効率が高く、触媒温度が上昇するに連れてNOx吸着効率が低下する。本実施形態では、低温の鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度を徐々に上昇させた場合に、鉄型ゼオライト触媒15からNOxが脱離を開始する温度のことを「第一閾値」と定義する。本実施形態での第一閾値は、例えば100℃程度とする。
【0026】
また、鉄型ゼオライト触媒15は、排ガス中のNHを利用して、自らが吸着、脱離するNOxをNに還元する性質を持っている。NOxの還元反応式を以下に例示する。
4NH+4NO+O→4N+6HO ・・・(5)
2NH+NO+NO→2N+3HO ・・・(6)
【0027】
[1−4.フィルタ]
なお、鉄型ゼオライト触媒15の下流側に、ディーゼルパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate Filter;以下、フィルタという)(図示略)を設けてもよい。
【0028】
フィルタは、ディーゼルエンジン11から排出される排ガス中に含まれるPMを捕集することで、このPMが大気中に排出されることを防ぐものである。また、このフィルタは、捕集したPMを加熱し燃焼させることで無害化することができるようになっている。このPMは、主として炭素からなる粒子状の物質である。
また、例えばPt等の貴金属が含有されたフィルタは、酸化触媒14で生成されるNHを用いて、上記(5),(6)に示す化学反応により、鉄型ゼオライト触媒15から脱離したNOxをNに還元する性質も持つ。この場合、鉄型ゼオライト触媒15とフィルタとの両方でNOxの還元反応が生じうることになる。
【0029】
[2.制御関係の構成]
[2−1.周辺機器]
酸化触媒14および鉄型ゼオライト触媒15の出口(下流側)のそれぞれには、第一温度センサ16および第二温度センサ17が設けられている。酸化触媒14の直下流側の第二温度センサ17は、酸化触媒14の触媒温度(第二触媒温度)の推定のための下流温度を検出する。また、鉄型ゼオライト触媒15の直下流側の第一温度センサ16は、鉄型ゼオライトの触媒温度(第一触媒温度)の推定のための下流温度を検出する。
【0030】
さらに、酸化触媒14の下流側には排ガス中の酸素濃度を検出するOセンサ18(酸素濃度検出手段)が設けられている。このOセンサ18は、排ガス中の酸素濃度に応じた大きさの電圧を出力するリニアセンサであり、酸素濃度が高い(大気濃度に近い)ほど低電圧を出力し、酸素濃度が低いほど高電圧を出力する特性を有する。なお、排気通路13においては、排気空燃比がリーン雰囲気であるほどOセンサ18の出力電圧が低下し、リッチ雰囲気であるほど出力電圧が上昇する傾向にある。
【0031】
これらの第一温度センサ16,第二温度センサ17で検出されたそれぞれの下流温度およびOセンサ18で測定された酸素濃度は、ECU19へ入力されている。
【0032】
[2−2.ECU]
ECU19は、ディーゼルエンジン11に設けられた図示しないインジェクタから噴射される燃料量および燃料噴射タイミングを制御する電子制御装置であり、周知のマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスとして提供されている。ECU19の入力側には、上述の温度センサおよびOセンサ18が接続されている。
【0033】
ECU19は、第一温度センサ16,第二温度センサ17,Oセンサ18で検出された下流温度,酸素濃度に基づいてディーゼルエンジン11を制御する。ECU19で実施される具体的な制御内容は、以下に示す二種類の制御〔A〕,〔B〕に大別され、さらにそれらのうちの一方の制御〔A〕は二つの制御〔A−1〕,〔A−2〕を含んでいる。
〔A〕酸化触媒昇温制御
〔A−1〕増減制御
〔A−2〕浄化制御
〔B〕リッチ化制御
酸化触媒昇温制御とは、排ガス温度を調整して酸化触媒14の触媒温度を上昇させる制御である。この酸化触媒昇温制御には、酸化触媒14の昇温量の増減制御と浄化制御とが含まれる。昇温量の増減制御とは、酸化触媒14でのNHの生成時刻が鉄型ゼオライト触媒15でのNOx脱離時刻と一致するように、酸化触媒14の昇温量を増減させる制御である。つまり、この増減制御は、鉄型ゼオライト触媒15で吸着したNOxが脱離を開始するまでの間、あるいは、酸化触媒14でNHが生成され始めるまでの間に実施される。
【0034】
一方、浄化制御とは、増減制御によって鉄型ゼオライト触媒15でNOxが脱離を開始した後に、酸化触媒14で実施される制御である。この制御では、酸化触媒14の触媒温度がNHの生成を開始する温度よりもさらに高温の所定温度範囲で安定し、且つ、鉄型ゼオライト触媒15がNOxの脱離を開始する温度よりもさらに高温の所定温度範囲で安定するように、ディーゼルエンジン11が制御される。このとき、酸化触媒14でのNHの生成と鉄型ゼオライト触媒15でのNOxの脱離とが同時に進行し、鉄型ゼオライト触媒15のNOx吸着サイトから脱離したNOxが酸化触媒14から供給されたNHによってNに還元される。つまり、浄化制御は、増減制御中に鉄型ゼオライト触媒15に吸着したNOxを浄化する制御ともいえる。
【0035】
これらの増減制御,浄化制御は、酸化触媒14を昇温させるという点では共通しており、具体的には、燃料噴射量の調整、燃料噴射時期の調整、ポスト噴射の実施、吸入空気量の調整、エンジン回転速度の調整等によって行われる。なお、増減制御,浄化制御は、酸化触媒14を昇温させるような制御であれば良く、酸化触媒上流の排気系に燃料添加弁を設け、その燃料添加弁から燃料を噴射して昇温させても良い。
【0036】
また、リッチ化制御とは、酸化触媒14におけるNHの生成を促進しつつ、過度のHC,COスリップを抑制すべく、排気空燃比を所定のリッチ状態に保つ制御である。この制御では、Oセンサ18の出力が所定の電圧値近傍に保持されるようにディーゼルエンジン11における燃料噴射量が制御される。例えば、排ガスの空燃比(以下、空気過剰率ともいう)が所定のリッチ雰囲気値である空気過剰率=0.9〜1.0となるように制御がなされる。このリッチ化制御は、具体的には、ディーゼルエンジン11における燃料噴射量の調整、燃料噴射時期の調整、ポスト噴射の実施、吸入空気量の調整等によって行われる。また、酸化触媒上流等に燃料噴射弁を設け、その燃料噴射弁から燃料の噴射を行ってもよい。
【0037】
[2−3.ソフトウェア構成]
[2−3−1.概要]
上記の各制御を実施するためのソフトウェア構成として、ECU19は、第一温度算出部(第一温度算出手段)21,第二温度算出部(第二温度算出手段)22および制御部(制御手段)23を備えている。ここに示された各ソフトウェアは図示しないメモリや記憶装置に記録されており、随時マイクロプロセッサに読み込まれることによって以下に説明する機能を実現する。なお、これらの機能をハードウェア(例えば、電子回路)で実現する構成としてもよい。
【0038】
[2−3−2.第一温度算出部,第二温度算出部]
第一温度算出部21は、第一温度センサ16で検出された鉄型ゼオライト触媒15の下流温度に基づき、鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度(第一触媒温度)を算出する。また、第二温度算出部22は、第二温度センサ17で検出された酸化触媒14の下流温度に基づき、酸化触媒14の触媒温度(第二触媒温度)を算出する。また、これらの第一温度算出部21および第二温度算出部22は、算出した鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度および酸化触媒14の触媒温度を制御部23へと入力する。
【0039】
制御部23は、上記の酸化触媒昇温制御およびリッチ化制御を実施するものであり、第一演算部(第一演算手段)24と、第二演算部(第二演算手段)25と、排気昇温量制御部(排気昇温量制御手段)26と、燃料噴射量制御部(燃料噴射量制御手段)27とを有する。排気昇温量制御部26は、酸化触媒昇温制御を実施するものであり、燃料噴射量制御部27はリッチ化制御を実施するものである。また、第一演算部24および第二演算部25は、酸化触媒昇温制御に係る演算を実施するものである。
【0040】
[2−3−3.第一演算部,第二演算部]
第一演算部24は、第一温度算出部21から入力される鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度の上昇勾配に基づき、その触媒温度が第一閾値以上になる第一時刻を演算する。つまり、第一演算部24は、鉄型ゼオライト触媒15からNOxが脱離を開始する時刻を演算する。
【0041】
第二演算部25は、第二温度算出部22から入力される酸化触媒14の触媒温度の上昇勾配に基づき、その触媒温度が第四閾値以上になる第二時刻を演算する。つまり、第二演算部25は、酸化触媒14においてNHの生成が開始される時刻を演算する。
【0042】
[2−3−4.排気昇温量制御部]
排気昇温量制御部26は、酸化触媒昇温制御に含まれる二種類の制御(増減制御,浄化制御)を実施する。増減制御の開始条件は、鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度が第一閾値よりも小さい第二閾値(例えば、50℃程度)以上の温度であること、である。
【0043】
なお、ディーゼルエンジン11の冷態始動時において、鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度が第二閾値未満である状態ではNOx吸着効率が高いため、排ガス中のNOxが効率的に鉄型ゼオライト触媒15に吸着される。その後、触媒温度は徐々に上昇するものの、第二閾値の温度ではまだNOxが脱離されない。一方、触媒温度が第一閾値まで達してしまうとNOxの脱離が開始されてしまうため、それよりも早くから酸化触媒昇温制御を開始しておくことが望ましいことになる。したがって、第二閾値は第一閾値よりも小さい値とする。
【0044】
また、排気昇温量制御部26は、演算された第一時刻と第二時刻との比較を行い、酸化触媒14に流入する排ガスの昇温量の増減制御を実施する。例えば、第一時刻と比較して第二時刻が遅れている場合には、酸化触媒14の単位時間当たりの昇温量が増加するように、排ガスの温度上昇を促進する。一方、第一時刻と比較して第二時刻が進んでいる場合には、酸化触媒14の単位時間当たりの昇温量が減少するように、排ガスの温度上昇を抑制する。このような制御により、排気昇温量制御部26は第一時刻に第二時刻を一致させる制御を実施する。
【0045】
一般に、排ガスの温度変化に対する酸化触媒14の温度変化の応答速度は、その下流側に配置された鉄型ゼオライト触媒15の温度変化の応答速度よりも速いという昇温特性が認められる。したがって、このような触媒温度変化の応答速度の相違を利用して排ガス温度を調整すれば、第一時刻と第二時刻とが一致する。
また、排気昇温量制御部26は、酸化触媒14でNOxが脱離を開始する時刻以降には浄化制御を実施する。浄化制御の開始条件(すなわち、増減制御から浄化制御への切り換え条件)は「実際の時刻が第二時刻を過ぎたこと」とする。なお、増減制御は、第一時刻と第二時刻とが一致するような制御であるから、浄化制御への切り換え条件として「実際の時刻が第一時刻を過ぎたこと」としてもよい。あるいは、「酸化触媒14の触媒温度が第四閾値以上となったこと」としてもよいし、「鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度が第一閾値以上となったこと」としてもよい。
【0046】
なお、排気昇温量制御部26は、鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度が第一閾値よりも大きい第三閾値(例えば、200℃程度)に達するまでの間、浄化制御を実施する。つまり、鉄型ゼオライト触媒15の温度が第三閾値以上の温度に達すると、酸化触媒昇温制御が終了する。第三閾値の値は少なくとも第一閾値よりも大きければよく、具体的な設定値は任意である。例えば、鉄型ゼオライト触媒15からのNOxの脱離がほぼ完了したとみなすことができる温度とする。
【0047】
[2−3−5.燃料噴射量制御部]
燃料噴射量制御部27は、鉄型ゼオライト触媒15でNOxが脱離を開始しているときに、リッチ化制御を実施するものである。リッチ化制御の開始条件は、排気昇温量制御部26における浄化制御の開始条件と同様に設定する。例えば、実際の時刻が第一時刻又は第二時刻を過ぎたことや、鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度が第一閾値以上となったこと、酸化触媒14の触媒温度が第四閾値以上となったこと等とする。
【0048】
リッチ化制御では、Oセンサ18の出力が所定電圧値となるように、燃料噴射量制御部27が排ガスの空燃比を制御する。例えば、燃料噴射量制御部27は、Oセンサ18の出力が所定電圧値未満であると、排ガスの空燃比がよりリッチ雰囲気となるように燃料噴射量を増大させ、一方、Oセンサ18の出力が所定電圧値以上であると、排ガスの空燃比がよりリーン雰囲気となるように燃料噴射量を減少させる。
【0049】
この所定電圧値は、酸化触媒14でのNHの生成がなされ、かつ、過度にHC,COがスリップしない排気空燃比(空気過剰率)に対応する電圧値である。例えば、図3(A),(B),(C)に示すように、NOx排出量を十分に抑制しうる電圧値の範囲内における最小電圧値の近傍(ここでは、0.85V)とすればよい。
なお、本願の一実施形態に係る排ガス浄化装置ではリッチ化制御を行う場合にOセンサ18の出力を所定電圧値近傍に保持することが好ましい理由について、図3を用いて説明する。
【0050】
図3(A)は本願の一実施形態に係る排ガス浄化装置のNOx排出量、つまり排ガス浄化装置に搭載されたディーゼルエンジン11で排出されるNOx排出量を示す。このグラフでは、Oセンサ18の出力が約0.85V以上になるとNOx量がほぼゼロとなることが示されている。
図3(B)は本願の一実施形態に係る排ガス浄化装置のNH生成量、つまり排ガス浄化装置に搭載された酸化触媒14で生成されるNH生成量を示す。このグラフでは、Oセンサ18の出力が約0.85V未満ではNHはあまり生成されず、一方、約0.85V以上になると酸化触媒14においてNHの生成が増大することが示されている。
【0051】
したがって、ディーゼルエンジン11においてNOxが排出されつつも、酸化触媒14において生成されるNHによってこのNOxをNへと還元し、同時に、余剰NHが生じて大気中に放出されてしまうような事態を抑制するには、Oセンサ18の出力が約0.85V近傍となるように燃料噴射量を制御することが好ましい。
なお、図3(C)に示すように、電圧値が0.85Vを超えて高まるほど(すなわち、過剰にリッチ雰囲気になるほど)、HCの排出量も過剰となることがわかる。
【0052】
また、燃料噴射量制御部27によるリッチ化制御の終了条件は酸化触媒昇温制御の終了条件と同一であり、酸化触媒昇温制御の終了と同時にリッチ化制御も終了する。つまり、鉄型ゼオライト触媒15の温度が第三閾値以上の温度に達すると、燃料噴射量制御部27はリッチ化制御を終了させる。
【0053】
[3.フローチャート]
本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置で実施される制御について、図4のフローチャートを用いて説明をする。なお、図4のフローチャートはエンジン11の始動に伴い、ECU19で実行されるものである。
【0054】
まず、ステップS10では、エンジン11の運転条件が図示しない各種センサ類に検出され、これに係る情報がECU19で読み込まれる。ここで読み込まれる情報は、酸化触媒昇温制御やリッチ化制御に用いられる情報であり、例えばエンジン回転数,吸入空気量,スロットル開度,エンジン冷却水温度,吸気温度等の情報である。
続くステップS20では、鉄型ゼオライト触媒15の下流温度が第一温度センサ16によって検出される。また、これに基づき、第一温度算出部21では鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度が算出される。
【0055】
ステップS30では、排気昇温量制御部26により、増減制御の開始条件が成立するか否かが判定される。ここで、鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度が第二閾値未満である場合には増減制御の開始条件が不成立となるため、ステップS30のNoルートを進んでステップS20へ制御が差し戻される。
このようなステップS20〜ステップS30のループ制御の間に、排ガス中のNOxは、極低温の鉄型ゼオライト触媒15の表面に吸着される。また、車両10の排気通路13はエンジン11の稼働によって徐々に暖められ、酸化触媒14および鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度も緩やかに上昇する。
【0056】
一方、鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度が第二閾値以上の温度になると、ステップS30のYesルートを進んでステップS40へ進む。
ステップS40では、鉄型ゼオライト触媒15,酸化触媒14のそれぞれの下流温度が第一温度センサ16,第二温度センサ17によって検出される。また、これらに基づき、第一温度算出部21では鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度が算出され、第二温度算出部22では酸化触媒14の触媒温度が算出される。
【0057】
続くステップS50では、排気昇温量制御部26によって酸化触媒昇温制御のうち、増減制御が実施される。この増減制御では、酸化触媒14でのNHの生成時刻が鉄型ゼオライト触媒15でのNOx脱離時刻と一致するように、酸化触媒14の昇温量(すなわち、排ガス温度の昇温量)が調整される。このとき、鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度はまだ低温であり、排ガス中のNOxは鉄型ゼオライト触媒15に吸着される。
【0058】
また、続くステップS60では、第一演算部24において、第一温度算出部21で算出された鉄型ゼオライト触媒15の温度の上昇勾配に基づき、鉄型ゼオライト触媒15温度が第一閾値以上になる第一時刻が演算される。また、第二演算部25において、第二温度算出部22で算出された酸化触媒14の温度の上昇勾配に基づき、酸化触媒14の触媒温度が第四閾値以上になる第二時刻が演算される。
【0059】
そしてステップS70では、排気昇温量制御部26において、浄化制御の開始条件が成立するか否かが判定される。つまりここでは、増減制御から浄化制御への切り換え条件が判定される。ここで、実際の時刻がまだ第二時刻を過ぎていなければ、ステップS70のNoルートを進み、ステップS40へ制御が差し戻される。この場合、酸化触媒14の触媒温度がまだ第四閾値に満たないため、引き続き増減制御が実施され、第一時刻と第二時刻とを一致させる制御が継続される。一方、実際の時刻が第二時刻に達したときには、増減制御によって同時に第一時刻にも達していることになるため、ステップS70のYesルートを進みステップS80へ進む。
【0060】
なお、この時点で第一時刻と第二時刻とが一致するため、増減制御の目的が果たされ、酸化触媒昇温制御は増減制御からステップ80の浄化制御へと移行する。したがって、排気昇温量制御部26により、鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度が第三閾値になるまでの間、浄化制御が実施される。この時、浄化制御時において、酸化触媒14ではNHが生成され、下流側の鉄型ゼオライト触媒15に供給される。一方、鉄型ゼオライト触媒15ではそれまで吸着されていたNOxが脱離される。したがって、鉄型ゼオライト触媒15で、上記の式(5),(6)に示す化学反応が生じ、NOxがNに還元される。
【0061】
一方、浄化制御時においても排気空燃比が適切に制御されなければ、酸化触媒14で過剰にNHが生成されたり、逆にNHが十分に生成されないおそれがある。そこで、以下のフローでは浄化制御と平行してリッチ化制御が遂行される。
まず、ステップS90ではOセンサ18から出力される電圧値がECU19に入力される。続くステップS100では、燃料噴射量制御部27において、Oセンサ18の出力が所定電圧値未満であるか否かが判定される。ここで、Oセンサ18の出力が所定電圧値未満であればステップS110に進み、燃料噴射量制御部27によって、排ガスの空燃比がよりリッチ雰囲気となるように燃料噴射量が増大される(リッチ化制御によるリッチ化)。一方、検出されたOセンサ18の出力が所定電圧値以上である場合にはステップS120へ進み、燃料噴射量制御部27によって、排ガスの空燃比がよりリーン雰囲気となるように燃料噴射量が減少される(リッチ化制御によるリーン化)。
【0062】
これらのステップS110およびS120により、空気過剰率が0.9〜1.0となるように排気空燃比が制御され、酸化触媒14で生成されるNH量が適切に調節される。したがって、鉄型ゼオライト触媒15におけるNOxの還元反応に係るNH量に過不足が生じることがなく、排ガスの浄化効率が向上する。
続くステップS130では、鉄型ゼオライト触媒15の下流温度が第一温度センサ16によって検出されるとともに、第一温度算出部21で鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度が算出される。さらに続くステップS140では、燃料噴射量制御部27において、リッチ化制御の終了条件が成立するか否かが判定される。
【0063】
ここで鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度が第三閾値未満であれば、ステップS140のNoルートを進み、制御がステップS80へ差し戻される。この場合、鉄型ゼオライト触媒15からのNOxの脱離がまだ完全に終了していないものとみなされて、NHを利用したNOxの浄化が継続される。
一方、鉄型ゼオライト触媒15の触媒温度が第三閾値以上の温度になると、鉄型ゼオライト触媒15からのNOxの脱離がほぼ終了したものとみなされ、ステップS140のYesルートを進んでステップS150へ進み、制御部23が浄化制御を終了させ、酸化触媒昇温制御を終了させる。また、続くステップ160では、酸化触媒昇温制御の終了に伴い、燃料噴射量制御部27がリッチ化制御を終了させる。これにより、ディーゼルエンジン11の冷態始動時に吸着されたNOxの浄化が完了する。
【0064】
[4.効果]
ここで、図5の(A)および(B)を参照しながら、他の排ガス浄化装置に比べて、本実施形態に係る排ガス浄化装置が、どのような点で優れたNOx浄化機能を発揮しているのかについて説明する。
図5は、エンジン始動後の温度の上昇勾配に関して、本実施形態に係る排ガス浄化装置(図中実線)と、本実施形態の比較例として以下を特徴とする排ガス浄化装置(図中破線、以下、比較例の排ガス浄化装置という)との関係を示している。そして、図5(A)は、第一温度算出部21で算出される鉄型ゼオライト触媒15の温度の上昇勾配を示し、図5(B)は第二温度算出部22で算出される酸化触媒14の温度の上昇勾配を示している。
【0065】
比較例の排ガス浄化装置は、本実施形態に係る排ガス浄化装置が備える『第一温度算出部21で算出された鉄型ゼオライト触媒15の温度が、鉄型ゼオライト触媒15においてNOxの脱離が開始される温度である第一閾値よりも小さい第二閾値以上の温度になると、制御部23の備える排気昇温量制御部26が酸化触媒14の温度を上昇させる』制御を備えていない。また、比較例の排ガス浄化装置は、本実施形態に係る排ガス浄化装置が備える『第一演算部24が、第一温度算出部21で算出された鉄型ゼオライト触媒15の温度の上昇勾配に基づき演算する第一時刻(鉄型ゼオライト触媒15の温度が第一閾値以上になる時刻)と、第二演算部25が、第二温度算出部22で算出された酸化触媒14の温度の上昇勾配に基づき演算する第二時刻(酸化触媒14の温度が酸化触媒14においてNHの生成が開始される第四閾値以上になる時刻)との比較を制御部23が行い、排気昇温量制御部26を介した制御部23の制御によって、酸化触媒14に流入する排ガスの昇温量が増減され、第一時刻と第二時刻とが一致される』制御を備えていない。すなわち、比較例の排ガス浄化装置は、本実施形態に係る排ガス浄化装置が備える酸化触媒昇温制御の増減制御を備えていない。
【0066】
なお、比較例の排ガス浄化装置と本実施形態に係る排ガス浄化装置とは、ここで説明した点を除き、同様の構成としているものとする。
図5(A)の温度TZ1は鉄型ゼオライト触媒15からNOxが脱離を開始する第一閾値の温度(例えば約100℃)であり、温度TZ2は第一閾値よりも小さい第二閾値の温度(例えば約50℃)である。さらに、温度TZ3は第一閾値よりも大きく鉄型ゼオライト触媒15からのNOxの脱離がほぼ完了する温度である第三閾値の温度(例えば約200℃)を示し、また図5(B)の温度TD1は酸化触媒14でNHが生成されはじめる温度である第四閾値の温度(例えば約250℃)を示している。
【0067】
つまり、図5(A)の温度TZ1と温度TZ3とで挟まれた斜線部分は、鉄型ゼオライト触媒15においてディーゼルエンジン11の冷態始動時に一時的に吸着したNOxが脱離される温度領域を示している。また、図5(B)の温度TD1以上で見られる斜線部分は、酸化触媒14においてNHが生成される温度領域を示している。
図5に示すように、エンジン11が始動してから鉄型ゼオライト触媒15の温度がTZ2に達する時点taまでは、本実施形態に係る排ガス浄化装置および比較例の排ガス浄化装置のいずれも、酸化触媒14の温度はほぼ同様の上昇勾配を示す。
【0068】
しかしながら、本実施形態に係る排ガス浄化装置では、鉄型ゼオライト触媒15が温度TZ2に達すると、排気昇温量制御部26によって酸化触媒昇温制御の増減制御が開始され、酸化触媒14に流入する排ガスの昇温量が調整される。この図の例では、比較例よりも本実施形態に係る排ガス浄化装置の昇温量(触媒の温度上昇勾配)が増大しており、実線のグラフが破線のグラフよりも上方(左方)に位置している。
【0069】
この時、第一演算部24によって演算され鉄型ゼオライト触媒15の温度がTZ1以上になる第一時刻と、第二演算部25によって演算され酸化触媒14の温度がTD1以上になる第二時刻とが、制御部23によって比較される。そして、引き続き実施される排気昇温量制御部26による増減制御によって第一時刻に第二時刻が一致するように酸化触媒14の昇温量が調整されるため、時点tbにおいて鉄型ゼオライト触媒15が温度TZ1に到達するのとほぼ同時に、酸化触媒14は温度TD1に達する。
【0070】
続いて、本実施形態に係る排ガス浄化装置では、時点tbから酸化触媒昇温制御が増減制御から浄化制御へと移行し、Oセンサ18から出力される電圧値がECU19に入力され、Oセンサ18の電圧値が所定電圧値近傍に保持されるように、燃料噴射量制御部27はディーゼルエンジン11における燃料噴射量を制御する。例えば燃料噴射量制御部27は、Oセンサ18の出力が所定電圧値未満であれば燃料噴射量を増加させ、Oセンサ18の出力が所定電圧値以上であれば燃料噴射量を減少させる。このようなリッチ化制御により、排ガスの空気過剰率が所定のリッチ雰囲気値である空気過剰率=0.9〜1.0となり、HC,COのスリップ量が抑えられるとともにNHが適切に生成される。
【0071】
そして、本実施形態に係る排ガス浄化装置では、時点tdにおいて鉄型ゼオライト触媒15が温度TZ3に達し、制御部23によって酸化触媒昇温制御の浄化制御が終了される。また、この浄化制御の終了に伴い、燃料噴射量制御部27によるリッチ化制御が終了される。
一方、比較例の排ガス浄化装置はこのような制御を備えていない。
【0072】
したがって、比較例の排ガス浄化装置は時点taにおいて酸化触媒昇温制御の増減制御が開始されず、酸化触媒14に流入する排ガスの昇温量が調整されないため、時点tbにおいて、酸化触媒14の温度はまだTD1に達していない。また、比較例の鉄型ゼオライト触媒15では酸化触媒14に流入する排ガスの昇温量が増加されないため、酸化触媒14の下流側に配置された鉄型ゼオライト触媒15へ流入する排ガスの温度も時点tbにおいて本実施形態に係る排ガス浄化装置よりも低くなり、温度はTZ1に達していない。
【0073】
そして、比較例の排ガス浄化装置では、その後、時点tcにおいて鉄型ゼオライト触媒15の温度がTZ1に到達するものの、酸化触媒14の温度がまだTD1に達しておらず、時点tdにおいてTD1に到達する。
このように、比較例の排ガス浄化装置では、鉄型ゼオライト触媒15の温度がNOxの脱離が開始される第一閾値に到達しても、酸化触媒14の温度は依然としてNHの生成が開始される温度である第四閾値に到達していない。そのため、鉄型ゼオライト触媒15においてディーゼルエンジン11の冷態始動時に一時的に吸着したNOxが脱離されるが、このNOxをNHによってNに還元することができず、酸化触媒14の温度が第四閾値に到達しNHの生成が開始されるまで、NOxは大気中に放出されることとなる。
【0074】
一方、本実施形態に係る排ガス浄化装置では、鉄型ゼオライト触媒15の温度が第一閾値に到達すると、鉄型ゼオライト触媒15においてディーゼルエンジン11の冷態始動時に一時的に吸着したNOxの脱離が開始される。この時、酸化触媒14の温度は第四閾値に到達し、酸化触媒14において同時にNHの生成が開始される。したがって、鉄型ゼオライト触媒15の温度に基づいて酸化触媒14の昇温制御を実施することにより、第一時刻に第二時刻を一致させることができる。また、鉄型ゼオライト触媒15の温度が第一閾値に到達した時点から、NOxの脱離がほぼ完了する温度である第三閾値に到達する時点まで、NOxの脱離期間とNHの生成期間とが一致するため、酸化触媒14で生成されるNHが酸化触媒14の下流側に流れ、鉄型ゼオライト触媒15から脱離されるNOxをこのNHを用いた上記の式(5)、(6)で示される化学反応によって、Nへと還元することができ、大気中へ放出されるNOx量の抑制効率を高めることができる。
【0075】
また、本実施形態に係る排ガス浄化装置では、鉄型ゼオライト触媒15がNOxの脱離を開始する温度である第一閾値に到達する時点、および酸化触媒14がNHの生成を開始する温度である第四閾値に到達する時点、よりも以前の時点から、排気昇温量制御部26によって酸化触媒14に流入する排ガスの昇温量の増減制御を開始するため、NOxの脱離期間とNHの生成期間とをより正確に一致させ、排ガスの浄化効率をより向上させることができる。
【0076】
また、本実施形態に係る排ガス浄化装置では、鉄型ゼオライト触媒15がNOxの脱離がほぼ完了する温度である第三閾値に到達する時点において、酸化触媒14の昇温制御が終了されるため、NOxの脱離期間中は酸化触媒14の温度がNHの生成温度以上に維持され、脱離されるNOxをより確実にNへと還元することができ、大気中へ放出されるNOx量の抑制効率をより高めることができる。
【0077】
また、この酸化触媒14の昇温制御の終了に伴い、制御部23は燃料噴射量制御部27によるリッチ化制御を終了するため、NOxの脱離が終了する時点にNHの生成も終了となる。つまり、NOxと反応することがない余剰NHの生成量をより確実に低減することができるため経済的であり、さらに大気中へNHが放出されてしまうような事態を確実に抑制することができる。
【0078】
また、酸化触媒14においてNHの生成が可能な温度である第四閾値以上であるときに、Oセンサ18の出力が所定電圧値となるように、燃料噴射量制御部27はディーゼルエンジン11における燃料噴射量を制御し、排ガスの空燃比をリッチ雰囲気とするので、タイミングに応じた適切な燃料噴射を行うことができる。これにより、ディーゼルエンジン11の燃費効率を向上させることができ、経済的である。
【0079】
また、鉄型ゼオライトを成分とする鉄型ゼオライト触媒15を用いたことで、ディーゼルエンジン11の冷態始動時においてNOxを鉄型ゼオライト触媒15内に吸着することができるため、排ガス浄化装置による浄化可能な温度域を拡大することができる。
【0080】
[5.その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更しうるものである。
本願の一実施形態では、車両10にディーゼルエンジン11が搭載されている場合について述べたが、本発明の適用対象となる車両はこれに限定されるものではなく、例えばディーゼルエンジンに代えてガソリンエンジンが搭載されたものとしてもよい。なお、ガソリンエンジン車両の場合、酸化触媒の代わりに貴金属を含み酸化能力を有する触媒、例えば三元触媒を用いることが考えられる。また、ガソリンエンジン車両の場合、リッチ化制御を、さらに、ガソリンエンジンにおけるに点火時期の調整によって行ってもよい。
【0081】
また、本願の一実施形態では詳述されていないが、ターボチャージャを備えた排気系に本発明の排ガス浄化装置を適用してもよい。その場合には、ターボチャージャはエキゾーストマニホールドに設けられたものでも、ターボチャージャがエキゾーストマニホールドとは別に設けられたものでもよい。
また、本発明に使用する鉄型ゼオライト触媒15を担持する触媒担体の構造は任意である。例えば、ハニカム状のセル孔を多数有し、前端部分と後端部分に交互に目封じする構造であって、いわゆる、ウォールフロー型と呼ばれるフィルタを形成しているものを使用してもよい。これにより、排ガス中のPMをより確実にフィルタリングしながら、排ガス中の有害成分を無害化することが可能となる。さらに、メタル箔を用いたメタル担体を用いてもよい。これにより、鉄型ゼオライト触媒15の昇温にかかる時間を短縮することができる。
【0082】
また、本願の一実施形態では、酸化触媒14に貴金属としてPtを用いた場合を記載したが、触媒貴金属の種類をこれに限定する意図はない。例えば、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、又はイリジウムを単独で用いてもよい。あるいは、貴金属として、Pt、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、およびイリジウムから適宜選択して混合したもの用いてもよい。いずれの貴金属を用いた酸化触媒も、排ガス中のNOをNOへ酸化する。また、排ガス中のCOとHCとを酸化して無害化する機能を有する。さらに、活性化温度まで上昇し、排ガスがリッチ雰囲気である場合には、排ガス中のCOやHC等の還元剤を用いてNOxをNへと還元する機能を有する。また、リッチ雰囲気の場合には、主に上記の式(1)、(2)で示される化学反応によって、NHを生成することができる。
【0083】
また、上述の実施形態の鉄型ゼオライト触媒15に、貴金属を担持させたものを使用してもよい。例えば、Pt、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、又はイリジウムを単独で含有させてもよいし、これらの貴金属を混合したもの用いてもよい。いずれの貴金属を含有する鉄型ゼオライト触媒も、自ら吸着,脱離するNOxを酸化触媒で生成されるNHを利用して、上記(5),(6)に示す化学反応によりNに還元することができる。
【0084】
また、鉄型ゼオライト触媒15の下流にアルカリ金属やアルカリ土類金属を含むNOxトラップ触媒を装着してもよい。
また、上述の実施形態のリッチ化制御では、ディーゼルエンジン11における燃料噴射量が調整されているが、このような構成に加えてあるいは代えて、排気管内噴射量を調整することとしてもよい。この場合、鉄型ゼオライト触媒よりも上流側の排気通路上に燃料噴射用のインジェクタを設け、制御部の燃料噴射量制御部がこのインジェクタからの燃料噴射量を調整する構成とする。これにより、上述の実施形態と同様のリッチ化制御を実現することが可能となる。
【0085】
また、本願の一実施形態では、制御部23が、演算された第一時刻と演算された第二時刻との比較を行い、排気昇温量制御部26を介して酸化触媒14に流入する排ガスの昇温量の増減制御を実施し、第一時刻に第二時刻を一致させているが、具体的な制御手法はこれに限定されない。例えば、制御部が、第二時刻に第一時刻を一致させるような制御を実施することとしてもよい。
【0086】
また、上述の実施形態に例示された第一閾値,第二閾値,第三閾値および第四閾値の具体的な設定値は任意である。排ガス浄化装置に使用される物質や材質、排ガス浄化装置が使用される環境等の条件に応じて適宜設定してもよい。
また、本願の一実施形態では、リッチ化制御を行なう場合、Oセンサ18の出力が所定電圧値である約0.85V近傍となるように制御する、と記載したが、閾値となるセンサ出力の具体的な値はこれに限定されるものではない。使用されるOセンサの種類や特性,設置位置等に応じて、所定電圧値を適宜設定してもよい。
【0087】
また、本願の一実施形態では、排ガス中の有害物質がNOxである場合を例にとって説明をしたが、鉄型ゼオライト触媒15はHCについても極低温時のトラップ特性を有するため、吸着したHCの脱離浄化を向上することを狙って、制御の閾値を変更してもよい。
なお、本願の一実施形態では、酸化触媒昇温制御では、排ガス温度を調整することによって酸化触媒14の触媒温度を上昇させているが、酸化触媒14の触媒温度を上昇させるための手段はこれに限定されるものではない。例えば、任意の加熱手段により、酸化触媒14又はその周囲を直接的に昇温させてもよい。このような手法を用いても、上述の実施形態と同様に排ガス浄化効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0088】
10 車両
11 ディーゼルエンジン(エンジン,内燃機関)
12 エキゾーストマニホールド(ターボチャージャを含む)
13 排気通路
14 ディーゼル用酸化触媒(酸化触媒,アンモニア生成触媒)
15 鉄型ゼオライト触媒
16 第一温度センサ
17 第二温度センサ
18 Oセンサ(酸素濃度検出手段)
19 ECU
21 第一温度算出部(第一温度算出手段)
22 第二温度算出部(第二温度算出手段)
23 制御部(制御手段)
24 第一演算部(第一演算手段)
25 第二演算部(第二演算手段)
26 排気昇温量制御部(排気昇温量制御手段)
27 燃料噴射量制御部(燃料噴射量制御手段)
TZ1 第一閾値の温度
TZ2 第二閾値の温度
TZ3 第三閾値の温度
TD1 第四閾値の温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、鉄イオン交換されたゼオライトを含み自身の温度に応じて排ガス中の窒素酸化物を吸着又は脱離可能な鉄型ゼオライト触媒と、
該鉄型ゼオライト触媒よりも上流側の該排気通路に設けられ、触媒温度の昇温に伴い該排ガス中の窒素酸化物からアンモニアを生成するアンモニア生成触媒と、
該鉄型ゼオライト触媒の触媒温度を第一触媒温度として算出する第一温度算出手段と、
該第一温度算出手段で算出された該第一触媒温度に基づき、該アンモニア生成触媒の触媒温度である第二触媒温度を上昇させる昇温制御を実施する制御手段と、
を備えることを特徴とする、排ガス浄化装置。
【請求項2】
該制御手段が、
該第一温度算出手段で算出された該第一触媒温度が、該窒素酸化物の脱離を開始する第一閾値よりも小さい第二閾値以上である場合に、該昇温制御を開始するとともに、
該第一温度算出手段で算出された該第一触媒温度が、該第一閾値よりも大きい第三閾値以上である場合に、該昇温制御を終了する
ことを特徴とする、請求項1記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
該制御手段が、
該昇温制御において、該第一触媒温度が該第一閾値以上になる第一時刻に、該第二触媒温度が該アンモニアの生成される第四閾値以上になる第二時刻を一致させる
ことを特徴とする、請求項2記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
該昇温制御が該アンモニア生成触媒に流入する排ガス温度を制御することにより実施され、
該第二触媒温度を算出する第二温度算出手段をさらに備え、
該制御手段が、
該第一温度算出手段で算出された該第一触媒温度の上昇勾配に基づき、該第一時刻を演算する第一演算手段と、
該第二温度算出手段で算出された該第二触媒温度の上昇勾配に基づき、該第二時刻を演算する第二演算手段と、
該第一時刻と該第二時刻との比較により、該アンモニア生成触媒に流入する排ガスの昇温量を増減制御する排気昇温量制御手段と、を有する
ことを特徴とする、請求項3記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
該アンモニア生成触媒よりも下流側の該排気通路に設けられ、該排ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段をさらに備え、
該制御手段が、
該第二触媒温度が該第四閾値以上であるときに、該酸素濃度検出手段で検出される該酸素濃度が所定濃度に維持されるように該内燃機関からの該排ガスに対する燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御手段を有する
ことを特徴とする、請求項4記載の排ガス浄化装置。
【請求項6】
該燃料噴射量制御手段が、該昇温制御の終了と同時に該燃料噴射量の制御を終了する
ことを特徴とする、請求項5記載の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−163121(P2011−163121A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23082(P2010−23082)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】