説明

排気バルブ

【課題】
本発明は、異物を巻き上げることなく、排気時間を短縮することが可能な排気バルブの提供を目的とするものである。
【解決手段】
異物を巻き上げずに排気すること、排気時間を短縮することの相反する2つの要求を解決するために、バルブの開き始めは異物を巻き上げないよう大きな排気抵抗を有し、バルブの動作ストロークとともに排気抵抗が連続的に減少し、バルブ全開時には排気ポンプを有効に活用できるように、小さな排気抵抗をもったスロー排気バルブを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空の試料チャンバを持つ半導体製造装置、及び半導体検査装置において真空の試料チャンバへウェーハを搬送するための真空予備室の排気装置で使用する排気バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
真空の試料チャンバを持つ半導体製造装置、及び半導体検査装置において真空の試料チャンバへウェーハを搬送するための真空予備室の排気時間を短縮することでスループットを向上させることができる。そのため、より大きな排気速度を持った排気ポンプを接続することが排気時間を短縮する有効な手段となる。一方半導体パターンの微細化に伴い、ウェーハへの異物付着によるパターン欠陥の問題が顕在化している。真空予備室において真空排気時の気体の流れにより異物が巻上がりウェーハを汚染する問題がある。真空排気においては真空バルブを開いた瞬間に、大気状態の真空予備室とポンプにより排気された真空状態のバルブから下流の配管との間に非常に大きな圧力差が生じる。この非常に大きな圧力差により衝撃波が生じ、真空予備室内の異物が巻き上がりウェーハに付着する現象がおこる。特に昨今の微細化パターンを有する半導体素子においては非常に小さな異物においてもウェーハに付着すると、パターンの欠陥を引き起こし、歩留まりを低下させる。
【0003】
上記課題に対して、従来はバルブを開いた瞬間には大きな排気抵抗を持つ小さな弁座を開き排気を行い、次に排気ポンプの排気速度を有効に活用できるよう小さな排気抵抗を得られる大きな弁座を開いて排気する2段排気を行うスロースタート排気が実用化されている。
【0004】
特許文献1には、真空チャンバと真空源に接続される真空バルブにおいて、真空排気による真空チャンバ内の急激な圧力の変化による異物の巻き上がりを防ぐ目的で、真空排気始めは小径の弁座を持つピストンが開き排気抵抗の大きい流路を保ち、真空チャンバ内がある圧力に達すると排気ポンプの排気速度を有効に活用できるよう小さな排気抵抗を得られる大径の弁座を持つピストンが開く。大きい排気抵抗から小さい排気抵抗の流路に切り替わる構造を持つ、2段排気動作を持つスロー排気バルブが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−137879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1に示すのが一般的な2段排気動作を行う真空バルブである。図1において、真空バルブの基本構成は、バルブ容器1と、ボンネット部2から成る。バルブ容器1には、真空チャンバに接続されるチャンバポート3と、真空源に接続されるポンプポート4が接続されている。これらのポート間における、気体の排気として、弁座5と弁座6による2つのバルブが開閉し2つの排気流路が用意される。
【0007】
図2において、真空の引き始めは圧縮空気をポート7に送り込むことで、ピストン8が押しバネ9の保持力に打ち勝って下降する。そのピストン8と、シャフト10によって結合された弁座5も、連動して下降する。この作用により、真空バルブが開きチャンバポート3からポンプポート4へ矢印で示すように排気抵抗の大きい流路11を通って、真空排気が行われる。
【0008】
次に図3において、チャンバポート3側が異物の巻き上がり影響がない真空域に達すると、ポート7の圧縮空気の供給が止まり、ピストン8が押しバネ9の力により上昇する。次に圧縮空気がポート12に送り込まれる。この圧縮空気により、ピストン13が押しバネ14の力に打ち勝って下降を始める。ピストン13と、シャフト15によって結合された弁座6も、連動して下降する。弁座6に押しバネで押し付けられた弁座5及び弁座5に結合されたシャフト10及びピストン9も連動して下降する。この動作により、チャンバポート3からポンプポート4へ矢印で示すように排気抵抗の小さい流路16を通って、真空排気が行われる。
【0009】
図4は既存の2段排気バルブの排気抵抗とバルブ動作時間の関係を表したものである。2段排気によりスロースタート排気を行う際に、19に示す1段目の排気では異物の巻上げを抑えるために排気抵抗を大きくし排気速度を抑えているのに対して、20に示す2段目の排気では排気ポンプの性能を有効に活用するために排気抵抗を小さくしているため、1段目から2段目の排気へ切り替える際に20に示す不連続で大きな排気抵抗の変化が起こる。この際に排気時間を短縮する目的で排気速度の大きな排気ポンプを接続した場合、急激な圧力変化が発生し、2段目の排気へ切り替えた際に異物の巻上げが発生してしまう。そのため異物の巻上げの影響が少ない数100Pa程度まで1段目の排気を行う必要がある。真空予備室の容量が大きくなるほど22に示す1段目の排気に時間が必要となり全体の排気時間が短縮できなくなる問題が発生する。
【0010】
本発明は、異物を巻き上げることなく、排気時間を短縮することが可能な排気バルブの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
異物を巻き上げずに排気すること、排気時間を短縮することの相反する2つの要求を解決するために、バルブの開き始めは異物を巻き上げないよう大きな排気抵抗を有し、バルブの動作ストロークとともに排気抵抗が連続的に減少し、バルブ全開時には排気ポンプを有効に活用できるように、小さな排気抵抗をもったスロー排気バルブを実現する。
【0012】
本発明の真空バルブは、真空源に接続されるポンプポート、真空チャンバに接続されるチャンバポート及びこれらを接続するボディ、真空バルブの開閉を行う弁座および弁座の駆動部を持った真空バルブにおいて、弁座の動作ストロークによりバルブの排気抵抗を連続的に変化させる弁体を持ち、動作ストロークの速度制御を行うことで、排気のはじめには排気速度を抑え、バルブ全開時には有効な排気速度が得られ、且つそれらを滑らかにつなぐスロー排気をすることができる。
【0013】
弁体は、排気はじめの時期に大きな排気抵抗を維持できるように円筒状とし、チャンバポート及びボディとの隙間を小さくすることで流路開口面積を極めて小さくし、バルブ全開時の小さな排気抵抗へ連続的に変化するように円筒状の弁体の上に円錐台の形状をもち流路開口面積が動作ストロークと共に徐々に増加させる形状を持つことを特徴とする。図5は本発明のスロー排気バルブのバルブ動作時間と排気抵抗の関係を表したグラフである。図示23は大きな排気抵抗を維持できるように円筒状とした動作ストローク領域、図示24は円錐台の形状をもち流路開口面積が動作ストロークと共に徐々に増加する領域となる。図4と比較して、排気抵抗が滑らかに繋がっており圧力の急激な変化を抑えることができる。
【0014】
また動作ストロークの速度制御を行うために駆動用の圧縮空気配管にスピードコントローラを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスロースタート排気バルブは、弁体に凸型の形状を持ち、真空排気を行う際バルブの開口面積が徐々に大きくなる機能を持つため、真空チャンバ内の急激な圧力の変化を抑えて排気する事が出来る。そのため、真空の試料チャンバを持つ半導体製造装置、及び半導体検査装置に本真空バルブを実装すれば、排気時間を短縮してスループットを向上させながら、真空排気時の異物の巻き上がりを防ぐことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(構成の説明)
以下発明の実施例を、図面を用いて説明する。図6は本発明の特徴を最も良く表している真空バルブの断面図である。
【0017】
この図6において真空バルブの基本構成は、バルブ容器25と、ボンネット部26から成る。バルブ容器25には、真空チャンバに接続されるチャンバポート27と、真空源に接続されるポンプポート28が接続されている。これらのポートの間には、真空バルブの開閉を行う弁座29、及び弁座29上に設けられた凸形状の弁体30により、開閉動作時に気体の排気抵抗が制御される流路31が設置されている。
【0018】
上記弁体30は弁座29の上面に位置し、この弁座29には真空バルブが閉じた状態にある時に気体の流路31を遮断するための弁シール材32が取り付けられている。また弁座29とバルブ容器25との間には真空ベローズ33が取り付けてあり、駆動部と流路領域の遮断を行っている。
【0019】
ボンネット部26内部に貫通しているシャフト34には、作用室35と作用室36を分離するピストン37が取り付けられており、そのピストン37には上記2つの作用室間の流路を封鎖するピストンシール材38が取り付けられている。ピストン37とボンネット部26内部の下面には、バルブを閉じる力を発生する押しばね39がそれぞれ接続されている。また各作用室には、圧縮空気を作用室35に送り込むポート40が、作用室36の空気を外部に排出するポート41が接続されている。作用室35の流量はポート40上に設けられたスピードコントローラ42によって、調節することが出来る。
【0020】
(動作の説明)
本発明は、上記の構成を備えているので、下記に示す動作を制御出来る。
【0021】
図6において、作用室35に圧縮空気が供給されていない状態を示す。ピストン37は押しばね39の力により上昇し、弁座29がバルブ容器25のシール面に押し付けられて静止している。チャンバポート27とポンプポート28を繋ぐ流路31が弁座29により塞がれたバルブが閉まった状態を示す。
【0022】
真空排気する場合、圧縮空気を作用室35に供給する。作用室35内の圧力が上昇すると図7に図示するように、押しばね39の力に打ち勝ってピストン37を下降させる。ピストン37が下降する速度はスピードコントローラ42によって圧縮空気の流量を変化させることで、制御することができる。図8に図示するように、流路31が開かれると、真空ポンプによりポンプポート28,バルブ容器25,チャンバポート27を通じて排気が行われる。ポンプポート28に接続される真空ポンプの排気速度は一定のため、チャンバポート27の排気速度は真空バルブ内の流路31の排気抵抗に依存する。この発明は弁座29上に、凸型の弁体30を設けて、その排気抵抗の変化で排気速度の制御を行う。
【0023】
弁体30の開き始めにおいては、弁体の形状を、円筒状とし、チャンバポート27及びバルブ容器25のボディとの隙間を小さくすることで流路31の開口面積を極めて小さくし、排気はじめの時期に矢印で示すように大きな排気抵抗を維持できるようにして速度を下げて真空予備室の異物を巻き上げないように排気を行う。また円筒状の弁体の上に円錐台の形状を用意して流路31の開口面積が動作ストロークと共に徐々に増加させる形状とすることでバルブ全開時の小さな排気抵抗へ連続的に変化させ、矢印で示すように有効な排気速度を得る。
【0024】
(その他の実施例)
図9は、本発明の第二実施例である。図6における真空ベローズ33の変わりに、バルブボディ部45とボンネット部46の間に、シャフトシール材47が固着され、バルブ容器内48と作用室49内の気体の流通を封鎖している。動作自体は図6で説明した第一実施例と変わりはない。図10は、第三実施例である。チャンバポート50側の流路51の壁面が、バルブの開き始めに円錐台形状の弁体部分においても排気抵抗を大きくできるように弁体形状に沿った形状としている。
【0025】
図11は第四実施例である。押しばね52がボンネットではなく、バルブ容器内に配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一般的な2段排気動作を行う真空バルブを示す図である。
【図2】図1の真空バルブの真空を引き始めたときの状態を説明する図である。
【図3】図1の真空バルブの圧縮空気の供給が止まった状態を説明する図である。
【図4】2段排気バルブの排気抵抗とバルブの動作時間の関係を説明する図である。
【図5】提案するスロー排気バルブのバルブ動作時間と排気抵抗の関係を表したグラフ。
【図6】提案するスロー排気バルブの構造を説明する図。
【図7】図6のスロー排気バルブのピストン下降時の状態を説明する図。
【図8】図6のスロー排気バルブのバルブ全開時の状態を説明する図。
【図9】スロー排気バルブの他の一例を説明する図。
【図10】スロー排気バルブの更に他の一例を説明する図。
【図11】スロー排気バルブの更に他の一例を説明する図。
【符号の説明】
【0027】
25 バルブ容器
26 ボンネット部
27 チャンバポート
28 ポンプポート
29 弁座
30 弁体
31 流路
32 弁シール材
33 真空ベローズ
34 シャフト
35,36 作用室
37 ピストン
38 ピストンシール材
39 押しばね
40,41 ポート
42 スピードコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁シール材により真空を封じる弁座上に、円柱に円錐台が乗った形状の弁体を設けた真空バルブ。
【請求項2】
真空封じを行う弁座に凸形状の弁体が設けられたバルブにおいて、バルブが開いた際に完全に排気流路から弁体が外れた位置まで移動する真空バルブ。
【請求項3】
圧縮空気によりバルブ弁体の動作を行う真空バルブにおいて、ストローク動作速度をコントロールするためのスピードコントローラを有する真空バルブ。
【請求項4】
請求項1,2及び3のいずれかにおいて弁体のストロークによりバルブの弁体部の排気抵抗が連続的に減少し、ストロークの速度制御が出来ることで、バルブが開き始めた際には排気抵抗が大きく、ストロークと共に排気抵抗が減少しバルブ全開時には排気ポンプの排気速度を有効に活用することが出来るスロースタート排気動作を行う真空バルブ。
【請求項5】
真空封じを行う弁座に凸形状の弁体が設けられたバルブにおいて、ポート壁面が弁体に沿った形状を設けた真空バルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−216105(P2009−216105A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57159(P2008−57159)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】