説明

排気浄化装置

【課題】パティキュレートフィルタの再生温度の低温化を実現する。
【解決手段】排気管11途中にパティキュレートフィルタ13を装備した排気浄化装置に関し、排気空燃比がリーンの時に排気ガス中のO2を一時的に吸蔵し且つ排気空燃比がリッチの時にO2を放出する性質を備えたセリア(酸素吸蔵物質)と、該セリアから放出されたO2を触媒作用により活性酸素種とする酸化銀(金属触媒)とを混合した混合物を前記パティキュレートフィルタ13に担持させ、該パティキュレートフィルタ13の入側の排気管11内に燃料を断続的に添加し得る燃料添加ノズル17(燃料添加手段)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス中のパティキュレートをパティキュレートフィルタにより捕集して前記排気ガスの浄化を図る排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレート(Particulate Matter:粒子状物質)は、炭素質から成る煤と、高沸点炭化水素成分から成るSOF分(Soluble Organic Fraction:可溶性有機成分)とを主成分とし、更に微量のサルフェート(ミスト状硫酸成分)を含んだ組成を成すものであるが、この種のパティキュレートの低減対策としては、排気ガスが流通する排気管の途中に、パティキュレートフィルタを装備することが従来より行われている。
【0003】
この種のパティキュレートフィルタは、コージェライト等のセラミックから成る多孔質のハニカム構造を成し、格子状に区画された各流路の入口が交互に目封じされ、入口が目封じされていない流路については、その出口が目封じされるようになっており、各流路を区画する多孔質薄壁を透過した排気ガスのみが下流側へ排出される一方、排気ガス中のパティキュレートが多孔質薄壁の内側表面に捕集されるようになっている。
【0004】
そして、排気ガス中のパティキュレートは、前記多孔質薄壁の内側表面に捕集されて堆積するので、目詰まりにより排気抵抗が増加しないうちにパティキュレートを適宜に燃焼除去してパティキュレートフィルタの再生を図る必要があるが、通常のディーゼルエンジンの運転状態においては、パティキュレートが自己燃焼するほどの高い排気温度が得られる機会が少ない為、白金やパラジウム等を活性種として含む酸化触媒をパティキュレートフィルタに一体的に担持させるようにしている。
【0005】
即ち、このような酸化触媒を担持させたパティキュレートフィルタを採用すれば、捕集されたパティキュレートの酸化反応が触媒作用により促進されて着火温度が低下し、従来より低い排気温度でもパティキュレートを燃焼除去することが可能となるのである。
【0006】
ただし、斯かるパティキュレートフィルタを採用した場合であっても、排気温度の低い運転領域では、パティキュレートの処理量よりも捕集量が上まわってしまうので、このような低い排気温度での運転状態が続くと、パティキュレートフィルタの再生が良好に進まずに該パティキュレートフィルタが過捕集状態に陥る虞れがある。
【0007】
そこで、パティキュレートフィルタの入側にフロースルー型の酸化触媒を付帯装備させ、パティキュレートの堆積量が増加してきた段階でパティキュレートフィルタより上流側に燃料を添加してパティキュレートフィルタの強制再生を行うことが考えられている。
【0008】
つまり、このようにすれば、燃料添加で生じた高濃度の炭化水素が酸化触媒を通過する間に酸化反応し、その反応熱で昇温した排気ガスの流入により直後のパティキュレートフィルタの床温度が上げられてパティキュレートが燃やし尽くされ、パティキュレートフィルタの再生化が図られることになる(例えば、下記の特許文献1参照)。
【0009】
尚、この種の燃料添加を実行するための具体的手段としては、圧縮上死点付近で行われる燃料のメイン噴射に続いて圧縮上死点より遅い非着火のタイミングでポスト噴射を行うことで排気ガス中に燃料を添加するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−193824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、斯かる従来の排気浄化装置においては、パティキュレートフィルタの再生温度として約650℃程度の床温度が必要であったため、例えば都市部の路線バス等のように渋滞路ばかりを走行するような運行形態の車両等では、排気温度の低い運転状態が長く続いてしまい、パティキュレートフィルタの再生温度を約650℃に維持するのに添加燃料のコストが嵩んでしまうという問題があり、パティキュレートフィルタの再生温度の更なる低温化が望まれている。
【0012】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、パティキュレートフィルタの再生温度の低温化を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、排気管途中にパティキュレートフィルタを装備した排気浄化装置において、排気空燃比がリーンの時に排気ガス中のO2を一時的に吸蔵し且つ排気空燃比がリッチの時にO2を放出する性質を備えた酸素吸蔵物質と、該酸素吸蔵物質から放出されたO2を触媒作用により活性酸素種とする金属触媒とを混合した混合物を前記パティキュレートフィルタに担持させ、該パティキュレートフィルタの入側の排気管内に燃料を断続的に添加し得る燃料添加手段を設けたことを特徴とするものである。
【0014】
而して、パティキュレートフィルタの強制再生を行う必要が生じた際に、燃料添加手段により断続的に燃料添加を行うと、その燃料添加を休止している間の排気空燃比がリーンとなり、その燃料添加を実行している間の排気空燃比がリッチとなるので、パティキュレートフィルタに担持されている酸素吸蔵物質でO2の吸蔵と放出が交互に繰り返され、該酸素吸蔵物質から放出されたO2が金属触媒の表面で触媒作用により強い酸化力を持つ活性酸素種となり、該活性酸素種により捕集済みパティキュレートの酸化反応が著しく促進されて従来よりも低い床温度からパティキュレートフィルタの強制再生が開始される。
【0015】
また、本発明においては、酸素吸蔵物質をセリア、ジルコニア、チタニアのうちの少なくとも一種類以上とし、金属触媒を酸化銀、酸化鉄、酸化銅のうちの少なくとも一種類以上することが可能であり、より好ましくは、酸素吸蔵物質としてセリアを選定し且つ金属触媒として酸化銀を選定して組み合わせると良い。
【0016】
更に、パティキュレートフィルタと燃料添加手段との間には、酸化触媒を介装することが可能であり、このようにすれば、燃料添加手段による燃料添加で生じた高濃度の炭化水素の一部が酸化触媒を通過する間に酸化反応し、その反応熱で昇温した排気ガスの流入により直後のパティキュレートフィルタの床温度が上げられ、捕集済みパティキュレートの酸化反応が助勢される。
【発明の効果】
【0017】
上記した本発明の排気浄化装置によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0018】
(I)本発明の請求項1、2、3に記載の発明によれば、燃料添加手段によりパティキュレートフィルタの入側の排気管内に燃料を断続的に添加することによって、パティキュレートフィルタに担持された酸素吸蔵物質にO2の吸蔵と放出を交互に行わしめ、その放出されたO2を金属触媒の表面で触媒作用により強い酸化力を持つ活性酸素種とし、この活性酸素種により捕集済みパティキュレートの酸化反応を著しく促進して従来よりも低い床温度からパティキュレートフィルタの強制再生を開始することができるので、パティキュレートフィルタの再生温度の大幅な低温化を実現することができ、排気温度の低い運転状態が長く続いてしまうような運行形態の車両であっても添加燃料のコストを大幅に削減することができる。
【0019】
(II)本発明の請求項4に記載の発明によれば、燃料添加手段による添加燃料の一部が酸化触媒で酸化反応することにより生じた反応熱でパティキュレートフィルタの床温度を上げることができ、これにより捕集済みパティキュレートの酸化反応を助勢することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【図2】燃料添加制御による排気空燃比の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1及び図2は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図1中における1はターボチャージャ2を装備したディーゼルエンジンを示しており、エアクリーナ3から導かれた吸気4が吸気管5を通し前記ターボチャージャ2のコンプレッサ2aへと送られ、該コンプレッサ2aで加圧された吸気4がインタークーラ6へと送られて冷却され、該インタークーラ6から更に吸気マニホールド7へと吸気4が導かれてディーゼルエンジン1の各気筒8(図1では直列6気筒の場合を例示している)に分配されるようになっている。
【0023】
更に、このディーゼルエンジン1の各気筒8から排出された排気ガス9は、排気マニホールド10を介しターボチャージャ2のタービン2bへと送られ、該タービン2bを駆動した排気ガス9が排気管11を介し車外へ排出されるようにしてある。
【0024】
そして、この排気管11の途中には、フィルタケース12が介装されており、該フィルタケース12内には、酸化触媒を一体的に担持して成る触媒再生型のパティキュレートフィルタ13が収容されている。
【0025】
このパティキュレートフィルタ13は、セラミックから成る多孔質のハニカム構造となっており、格子状に区画された各流路の入口が交互に目封じされ、入口が目封じされていない流路については、その出口が目封じされるようになっており、各流路を区画する多孔質薄壁を透過した排気ガス9のみが下流側へ排出されるようにしてある。
【0026】
しかも、このパティキュレートフィルタ13には、排気空燃比がリーンの時に排気ガス9中のO2を一時的に吸蔵し且つ排気空燃比がリッチの時にO2を放出する性質を備えた酸素吸蔵物質であるセリア(CeO2)と、該セリアから放出されたO2を触媒作用により活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS、より具体的には、スーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一重項酸素)とする酸化銀(Ag2O)とを混合した混合物を担持させている。
【0027】
ここで、酸素吸蔵物質としては、セリア、ジルコニア、チタニアのうちの少なくとも一種類以上を採用すれば良く、また、金属触媒としては、酸化銀、酸化鉄、酸化銅のうちの少なくとも一種類以上すれば良いが、本形態例のように、酸素吸蔵物質としてセリアを選定し且つ金属触媒として酸化銀を選定して組み合わせた際に最も良好な結果が得られることが確認されている。
【0028】
更に、フィルタケース12内におけるパティキュレートフィルタ13の直前位置には、ハニカム構造を有するフロースルー型の酸化触媒14が収容されており、該酸化触媒14とパティキュレートフィルタ13との間に、排気ガス9の温度を測定する温度センサ15が装備され、該温度センサ15の温度信号15aが制御装置16に対し入力されるようになっている。
【0029】
また、フィルタケース12の入側には、燃料添加手段として燃料添加ノズル17が貫通装着されており、該燃料添加ノズル17には、燃料タンク18から供給ポンプ19及び燃料添加弁20を介して燃料が送給されるようになっていて、前記制御装置16からの制御信号19a,20aにより前記供給ポンプ19及び燃料添加弁20が制御されて前記燃料添加ノズル17から排気管11内に燃料が断続的に添加されるようになっている。
【0030】
即ち、制御装置16の燃料添加制御によって、図2にグラフで示す如く、排気ガス9中の空燃比(A/F)が交互にリッチとリーンを繰り返すように燃料添加が制御されるようになっている。
【0031】
ここで、前記燃料添加ノズル17の設置箇所より上流の排気管11と、フィルタケース12の出側のテールパイプ11’には、排気ガス9中の空燃比を検出する空燃比センサ21,22が夫々装備されており、該各空燃比センサ21,22の検出信号21a,22aに基づき前記制御装置16による燃料添加が適切に制御されるようになっている。
【0032】
即ち、上流側の空燃比センサ21の検出信号21aに基づき、現状の空燃比に対してどの程度の添加燃料を追加すれば酸素吸蔵物質からO2が放出する空燃比にできるかが算出されて燃料添加量が過不足のないように制御されると共に、下流側の空燃比センサ22の検出信号22aに基づき、空燃比が結果として制御値となっているか否かがフィードバックされて燃料添加量が補正されるようになっている。
【0033】
また、前記温度センサ15により酸化触媒14とパティキュレートフィルタ13との間で測定される排気温度は、前記パティキュレートフィルタ13の床温度の代用値として検出されており、この温度に基づき不活性低温域での無駄な燃料添加や、パティキュレートフィルタ13の過昇温が回避されるようにもなっている。
【0034】
尚、図1中における23は未反応のままパティキュレートフィルタ13を通過した余剰の炭化水素を酸化処理して車外へ排出されないようにするための酸化触媒、24は排気マニホールド10から排気ガス9の一部を抜き出して吸気マニホールド7の入口に再循環するEGRパイプを示している。
【0035】
而して、パティキュレートフィルタ13の強制再生を行う必要が生じた際に、燃料添加ノズル17により断続的に燃料添加を行うと、その燃料添加を休止している間の排気空燃比がリーンとなり、その燃料添加を実行している間の排気空燃比がリッチとなるので(図2参照)、パティキュレートフィルタ13に担持されているセリアでO2の吸蔵と放出が交互に繰り返され、該セリアから放出されたO2が酸化銀の表面で触媒作用により強い酸化力を持つ活性酸素種となり、該活性酸素種により捕集済みパティキュレートの酸化反応が著しく促進されて従来よりも低い約270〜350℃の床温度からパティキュレートフィルタ13の強制再生が開始される。
【0036】
従って、上記形態例によれば、燃料添加ノズル17によりパティキュレートフィルタ13の入側の排気管11内に燃料を断続的に添加することによって、パティキュレートフィルタ13に担持されたセリアにO2の吸蔵と放出を交互に行わしめ、その放出されたO2を酸化銀の表面で触媒作用により強い酸化力を持つ活性酸素種とし、この活性酸素種により捕集済みパティキュレートの酸化反応を著しく促進して従来(約650℃)よりも大幅に低い約270〜350℃の床温度からパティキュレートフィルタ13の強制再生を開始することができるので、パティキュレートフィルタ13の再生温度の大幅な低温化を実現することができ、排気温度の低い運転状態が長く続いてしまうような運行形態の車両であっても添加燃料のコストを大幅に削減することができる。
【0037】
また、特に本形態例においては、パティキュレートフィルタ13と燃料添加ノズル17との間に酸化触媒14を介装しているので、燃料添加ノズル17による燃料添加で生じた高濃度の炭化水素の一部を酸化触媒14を通過する間に酸化反応させ、その反応熱で昇温した排気ガス9の流入により直後のパティキュレートフィルタ13の床温度を上げることができ、これにより捕集済みパティキュレートの酸化反応を助勢することができる。
【0038】
尚、本発明の排気浄化装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
9 排気ガス
11 排気管
13 パティキュレートフィルタ
14 酸化触媒
17 燃料添加ノズル(燃料添加手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気管途中にパティキュレートフィルタを装備した排気浄化装置において、排気空燃比がリーンの時に排気ガス中のO2を一時的に吸蔵し且つ排気空燃比がリッチの時にO2を放出する性質を備えた酸素吸蔵物質と、該酸素吸蔵物質から放出されたO2を触媒作用により活性酸素種とする金属触媒とを混合した混合物を前記パティキュレートフィルタに担持させ、該パティキュレートフィルタの入側の排気管内に燃料を断続的に添加し得る燃料添加手段を設けたことを特徴とする排気浄化装置。
【請求項2】
酸素吸蔵物質がセリア、ジルコニア、チタニアのうちの少なくとも一種類以上であり、金属触媒が酸化銀、酸化鉄、酸化銅のうちの少なくとも一種類以上であることを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項3】
酸素吸蔵物質としてセリアを選定し且つ金属触媒として酸化銀を選定して組み合わせたことを特徴とする請求項1又は2に記載の排気浄化装置。
【請求項4】
パティキュレートフィルタと燃料添加手段との間に酸化触媒を介装したことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−21581(P2011−21581A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169697(P2009−169697)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】