説明

接合方法、接合体、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置

【課題】2つの部材同士を、接合面の一部の領域において選択的に、高い寸法精度で強固に接合可能な接合方法、2つの部材同士を、接合面の一部の領域において選択的に、高い寸法精度で強固に接合してなる接合体、かかる接合体を備えた信頼性の高い液滴吐出ヘッド、およびかかる液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置を提供すること。
【解決手段】本発明の接合方法は、2つの基材21、22の表面上に、それぞれプラズマ重合膜301、302を形成する工程と、各プラズマ重合膜301、302の表面の一部の所定領域311、312にそれぞれ紫外光を選択的に照射して、表面を活性化させる工程と、活性化させた表面同士を密着させるように、2つの基材21、22を貼り合わせ、2つの基材21、22が、所定領域311と所定領域312とが重なり合った部分、すなわち接合部313において、部分的に接合してなる接合体を得る工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合方法、接合体、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの部材(基材)同士を接合(接着)する際には、従来、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いて行う方法が多く用いられている。
接着剤は、部材の材質によらず、接着性を示すことができる。このため、種々の材料で構成された部材同士を、様々な組み合わせで接着することができる。
例えば、インクジェットプリンタが備える液滴吐出ヘッド(インクジェット式記録ヘッド)は、樹脂材料、金属材料、シリコン系材料等の異種材料で構成された部品同士を、接着剤を用いて接着することにより構成されている。
【0003】
このように接着剤を用いて部材同士を接着する際には、液状またはペースト状の接着剤を接着面に塗布し、塗布された接着剤を介して部材同士を貼り合わせる。その後、熱または光の作用により接着剤が硬化すると、部材同士がアンカー効果のような物理的相互作用や、化学結合のような化学的相互作用に基づいて接着される。
ところが、部材の接着面に接着剤を塗布する際には、印刷法等の煩雑な方法を用いる必要がある。
【0004】
また、接着面の一部の領域に対して選択的に接着剤を塗布する場合、塗布された接着剤の位置精度や厚さを制御することは、極めて困難である。このため、接着剤では、例えば、前述の液滴吐出ヘッドにおいて、部品の接着面の一部を選択的に、高い寸法精度で接着することができないという問題がある。その結果、プリンタの印字結果に悪影響を及ぼす等の問題を引き起こすおそれがある。
また、接着剤の硬化時間が非常に長くなるため、接着に長時間を要するという問題もある。
さらに、多くの場合、接着強度を高めるためにプライマーを用いる必要があり、そのためのコストと手間が接着工程を複雑化している。
【0005】
一方、接着剤を用いない接合方法として、固体接合による方法がある。
固体接合は、接着剤等の中間層が介在することなく、部材同士を直接接合する方法である(例えば、特許文献1参照)。
このような固体接合によれば、接着剤のような中間層を用いないので、寸法精度の高い接合体を得ることができる。
【0006】
しかしながら、部材の材質に制約があるという問題がある。具体的には、一般に、固体接合は、同種材料同士の接合しか行うことができない。また、接合可能な材料は、シリコン系材料や一部の金属材料等に限られている。
また、固体接合を行う雰囲気が減圧雰囲気に限られる上、高温(700〜800℃程度)の熱処理を必要とする等、接合プロセスにおける問題もある。
【0007】
さらに、固体接合では、2つの部材の各接合面のうち、互いに接触している面全体が接合してしまい、一部を選択的に接合するといった制御ができない。このため、熱膨張率の異なる異種材料同士を接合する場合には、熱膨張率差に伴って接合界面に大きな応力が発生し、接合体の反りや剥離等の問題を引き起こすおそれがある。
このような問題を受け、2つの部材同士を、接合面の一部の領域において選択的に、高い寸法精度で強固に接合する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−82404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、2つの部材同士を、接合面の一部の領域において選択的に、高い寸法精度で強固に接合可能な接合方法、2つの部材同士を、接合面の一部の領域において選択的に、高い寸法精度で強固に接合してなる接合体、かかる接合体を備えた信頼性の高い液滴吐出ヘッド、およびかかる液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の接合方法は、基材上にプラズマ重合膜を備えた第1の被着体の前記プラズマ重合膜の表面のうち、一部の所定領域に対して選択的にエネルギーを付与して、前記プラズマ重合膜の表面の前記所定領域を活性化させる第1の工程と、
前記活性化させたプラズマ重合膜の表面と第2の被着体とを密着させることにより、前記第1の被着体と前記第2の被着体とが、前記プラズマ重合膜の表面の前記所定領域において部分的に接合した接合体を得る第2の工程とを有し、
前記プラズマ重合膜は、Si−H結合を含むポリオルガノシロキサンを主材料として構成されたものであり、
前記ポリオルガノシロキサンの赤外光吸収スペクトルは、シロキサン結合が帰属するピーク強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピーク強度が0.001〜0.2であることを特徴とする。
これにより、2つの部材同士を、接合面の一部の領域において選択的に、高い寸法精度で強固に接合することができる。
【0011】
本発明の接合方法では、前記第2の被着体は、表面に、水酸基、および前記第2の被着体中の結合が切れてなる活性な結合手の少なくとも一方が存在しており、
前記第2の工程において、前記プラズマ重合膜と、前記第2の被着体の前記表面とを密着させることが好ましい。
これにより、第2の被着体とプラズマ重合膜との接合強度が向上することとなり、2つの被着体をより強固に接合することができる。
【0012】
本発明の接合方法では、前記第2の被着体は、前記表面が酸化膜で覆われていることが好ましい。
これにより、第2の被着体の表面に水酸基を結合させる処理を施さなくても、2つの被着体をより強固に接合することができる。
本発明の接合方法では、前記第2の被着体は、基材と、該基材上に設けられ、前記第1の被着体が備える前記プラズマ重合膜と同様のプラズマ重合膜とを有するものであり、
該第2の被着体が備えるプラズマ重合膜は、前記プラズマ重合膜の表面にエネルギーを付与され、該表面が活性化されたものであることが好ましい。
これにより、接合体における接合強度の向上を図ることができる。また、第2の被着体が備える基材が、接合強度が低下してしまうような材料で構成された基材であっても、該基材にあらかじめプラズマ重合膜を形成するようにしたので、第1の被着体と第2の被着体とをより強固に接合することができる。
【0013】
本発明の接合方法では、前記第2の被着体が備えるプラズマ重合膜は、その表面の一部の所定領域に対して選択的にエネルギーを付与して、該第2の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記所定領域を活性化させたものであることが好ましい。
これにより、第1の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面と、第2の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面とに、それぞれ簡単な形状の各所定領域を形成するだけで、第1の被着体と第2の被着体とを接合する接合部として、複雑な形状の接合部を形成することができる。
【0014】
本発明の接合方法では、前記第1の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記所定領域、および、前記第2の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記所定領域は、それぞれ、その平面視形状が、互いに交差する関係にあるストライプ状をなしていることが好ましい。
これにより、アイランド状の複雑な形状の接合部を効率よく複数形成することができる。
【0015】
本発明の接合方法では、前記第2の工程において、前記第1の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記所定領域と、前記第2の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記活性化された領域とが重なった部分において、前記第1の被着体と前記第2の被着体とが部分的に接合することが好ましい。
これにより、前記重なった部分、すなわち第1の被着体と第2の被着体との接合部を個別に形成する場合に比べ、該接合部の位置および形状を簡単かつ正確に制御することができる。その結果、接合体の接合強度をより簡単かつ正確に制御することができる。
【0016】
本発明の接合方法では、前記プラズマ重合膜の表面に対してエネルギー線を照射することにより、前記プラズマ重合膜の表面の前記活性化を行うことが好ましい。
これにより、プラズマ重合膜の表面を効率よく活性化させることができる。また、プラズマ重合膜中の分子構造を必要以上に切断しないので、プラズマ重合膜の特性が低下してしまうのを避けることができる。
【0017】
本発明の接合方法では、前記光は、波長150〜300nmの紫外光であることが好ましい。
これにより、プラズマ重合膜の特性の著しい低下を防止しつつ、広い範囲をムラなく、より短時間に処理することができる。このため、プラズマ重合膜の表面の活性化をより効率よく行うことができる。
本発明の接合方法では、前記エネルギー線の照射は、大気雰囲気中で行われることが好ましい。
これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、活性化処理をより簡単に行うことができる。
【0018】
本発明の接合方法では、前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物であることが好ましい。
これにより、接着性に特に優れたプラズマ重合膜が得られる。
本発明の接合方法では、前記ポリオルガノシロキサンについての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、メチル基に帰属するピーク強度が0.05〜0.45であることが好ましい。
これにより、メチル基がシロキサン結合の生成を必要以上に阻害してしまうのを防止しつつ、ポリオルガノシロキサン中に必要かつ十分な数の活性手が生じるため、プラズマ重合膜に十分な接着性が生じる。また、プラズマ重合膜には、メチル基に起因する十分な耐候性および耐薬品性が発現する。
本発明の接合方法では、前記プラズマ重合膜の平均厚さは、10〜10000nmであることが好ましい。
これにより、第1の被着体と第2の被着体とを接合した接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、より強固に接合することができる。
【0019】
本発明の接合方法では、前記第2の工程の後、前記接合体に熱処理を施す工程を有することが好ましい。
これにより、接合体における接合強度をより高めることができる。
本発明の接合方法では、前記第2の工程の後、前記接合体を加圧する工程を有することが好ましい。
これにより、接合体における接合強度をより高めることができる。
【0020】
本発明の接合方法では、前記第1の被着体は、あらかじめ、前記基材上にプラズマによる下地処理を施した後、該下地処理を施した領域に前記プラズマ重合膜を形成してなるものであることが好ましい。
これにより、基材の接合面を清浄化および活性化し、接合面上にプラズマ重合膜を形成したとき、接合面とプラズマ重合膜との接合強度を高めることができる。
【0021】
本発明の接合体は、第1の基材および第2の基材と、
プラズマ重合膜と、を有し、
該プラズマ重合膜のうちの一部の所定領域を介して、前記第1の基材と前記第2の基材とが部分的に接合されており、
前記プラズマ重合膜は、Si−H結合を含むポリオルガノシロキサンを主材料として構成されたものであり、
前記ポリオルガノシロキサンの赤外光吸収スペクトルは、シロキサン結合が帰属するピーク強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピーク強度が0.001〜0.2であることを特徴とする。
これにより、2つの部材同士を、接合面の一部の領域において選択的に、高い寸法精度で強固に接合してなる接合体が得られる。
本発明の液滴吐出ヘッドは、本発明の接合体を備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い液滴吐出ヘッドが得られる。
本発明の液滴吐出装置は、本発明の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い液滴吐出装置が得られる。
【0022】
本発明の接合方法は、基材上にプラズマ重合膜を備えた第1の被着体を用意する第1の工程と、
前記プラズマ重合膜の表面のうち、一部の所定領域に対して選択的にエネルギーを付与して、前記プラズマ重合膜の表面の前記所定領域を活性化させる第2の工程と、
第2の被着体を用意し、前記活性化させたプラズマ重合膜の表面と前記第2の被着体とを密着させることにより、前記第1の被着体と前記第2の被着体とが、前記プラズマ重合膜の表面の前記所定領域において部分的に接合した接合体を得る第3の工程とを有することを特徴とする。
これにより、2つの部材同士を、接合面の一部の領域において選択的に、高い寸法精度で強固に接合することができる。
【0023】
本発明の接合方法では、前記第2の被着体は、その表面に、水酸基、および前記第2の被着体中の結合が切れてなる活性な結合手の少なくとも一方が存在しており、
前記第3の工程において、前記プラズマ重合膜と、前記第2の被着体の前記表面とを密着させることが好ましい。
これにより、第2の被着体とプラズマ重合膜との接合強度が向上することとなり、2つの被着体をより強固に接合することができる。
【0024】
本発明の接合方法では、前記第2の被着体は、その表面が酸化膜で覆われていることが好ましい。
これにより、第2の被着体の表面に水酸基を結合させる処理を施さなくても、2つの被着体をより強固に接合することができる。
本発明の接合方法では、前記第2の被着体は、基材と、該基材上に設けられ、前記第1の被着体が備える前記プラズマ重合膜と同様のプラズマ重合膜とを有するものであり、
該第2の被着体が備えるプラズマ重合膜は、その表面にエネルギーを付与され、該表面が活性化されたものであることが好ましい。
これにより、接合体における接合強度の向上を図ることができる。また、第2の被着体が備える基材が、接合強度が低下してしまうような材料で構成された基材であっても、該基材にあらかじめプラズマ重合膜を形成するようにしたので、第1の被着体と第2の被着体とをより強固に接合することができる。
【0025】
本発明の接合方法では、前記第2の被着体が備えるプラズマ重合膜は、その表面の一部の所定領域に対して選択的にエネルギーを付与して、該第2の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記所定領域を活性化させたものであることが好ましい。
これにより、第1の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面と、第2の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面とに、それぞれ簡単な形状の各所定領域を形成するだけで、第1の被着体と第2の被着体とを接合する接合部として、複雑な形状の接合部を形成することができる。
【0026】
本発明の接合方法では、前記第1の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記所定領域、および、前記第2の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記所定領域は、それぞれ、その平面視形状が、互いに交差する関係にあるストライプ状をなしていることが好ましい。
これにより、アイランド状の複雑な形状の接合部を効率よく複数形成することができる。
【0027】
本発明の接合方法では、前記第3の工程において、前記第1の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記所定領域と、前記第2の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記活性化された領域とが重なった部分において、前記第1の被着体と前記第2の被着体とが部分的に接合することが好ましい。
これにより、前記重なった部分、すなわち第1の被着体と第2の被着体との接合部を個別に形成する場合に比べ、該接合部の位置および形状を簡単かつ正確に制御することができる。その結果、接合体の接合強度をより簡単かつ正確に制御することができる。
【0028】
本発明の接合方法では、前記プラズマ重合膜の表面に対してエネルギー線を照射することにより、前記プラズマ重合膜の表面の前記活性化を行うことが好ましい。
これにより、プラズマ重合膜の表面を効率よく活性化させることができる。また、プラズマ重合膜中の分子構造を必要以上に切断しないので、プラズマ重合膜の特性が低下してしまうのを避けることができる。
【0029】
本発明の接合方法では、前記光は、波長150〜300nmの紫外光であることが好ましい。
これにより、プラズマ重合膜の特性の著しい低下を防止しつつ、広い範囲をムラなく、より短時間に処理することができる。このため、プラズマ重合膜の表面の活性化をより効率よく行うことができる。
【0030】
本発明の接合方法では、前記エネルギー線の照射は、大気雰囲気中で行われることが好ましい。
これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、活性化処理をより簡単に行うことができる。
本発明の接合方法では、前記プラズマ重合膜は、ポリオルガノシロキサンまたは有機金属ポリマーを主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、第1の被着体と第2の被着体とをより強固に接合することができる。
【0031】
本発明の接合方法では、前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものであることが好ましい。
これにより、接着性に特に優れたプラズマ重合膜が得られる。
本発明の接合方法では、前記ポリオルガノシロキサンは、Si−H結合を含んでいることが好ましい。
Si−H結合は、シロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、ポリオルガノシロキサン中のSi骨格の規則性が低下する。その結果、ポリオルガノシロキサンを主材料とするプラズマ重合膜は、結晶性が低くなり、接合強度、耐薬品性および寸法精度の高いものとなる。
【0032】
本発明の接合方法では、前記Si−H結合を含むポリオルガノシロキサンについての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピーク強度が0.001〜0.2であることが好ましい。
これにより、シロキサン結合によってプラズマ重合膜中の骨格部分が構築され、これにより膜強度が高くなる作用と、Si−H結合によるポリオルガノシロキサンの結晶性低下の作用とを、高度に両立することができる。その結果、プラズマ重合膜は、接合強度、耐薬品性および寸法精度において特に優れたものとなる。
【0033】
本発明の接合方法では、前記ポリオルガノシロキサンについての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、メチル基に帰属するピーク強度が0.05〜0.45であることが好ましい。
これにより、メチル基がシロキサン結合の生成を必要以上に阻害してしまうのを防止しつつ、ポリオルガノシロキサン中に必要かつ十分な数の活性手が生じるため、プラズマ重合膜に十分な接着性が生じる。また、プラズマ重合膜には、メチル基に起因する十分な耐候性および耐薬品性が発現する。
本発明の接合方法では、前記有機金属ポリマーは、トリメチルガリウムまたはトリメチルアルミニウムの重合物を主成分とするものであることが好ましい。
これにより、第1の被着体と第2の被着体とを特に強固に接合するとともに、プラズマ重合膜に導電性を付与することができる。
【0034】
本発明の接合方法では、前記プラズマ重合膜の平均厚さは、10〜10000nmであることが好ましい。
これにより、第1の被着体と第2の被着体とを接合した接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、より強固に接合することができる。
本発明の接合方法では、前記第3の工程の後、前記接合体に熱処理を施す工程を有することが好ましい。
これにより、接合体における接合強度をより高めることができる。
【0035】
本発明の接合方法では、前記第3の工程の後、前記接合体を加圧する工程を有することが好ましい。
これにより、接合体における接合強度をより高めることができる。
本発明の接合方法では、前記第1の被着体は、あらかじめ、前記第1の基材上にプラズマによる下地処理を施した後、該下地処理を施した領域に前記プラズマ重合膜を形成してなるものであることが好ましい。
これにより、基材の接合面を清浄化および活性化し、接合面上にプラズマ重合膜を形成したとき、接合面とプラズマ重合膜との接合強度を高めることができる。
【0036】
本発明の接合体は、第1の基材および第2の基材と、
プラズマ重合膜とを有し、
該プラズマ重合膜のうちの一部の所定領域を介して、前記第1の基材と前記第2の基材とが部分的に接合されていることを特徴とする。
これにより、2つの部材同士を、接合面の一部の領域において選択的に、高い寸法精度で強固に接合してなる接合体が得られる。
本発明の液滴吐出ヘッドは、本発明の接合体を備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い液滴吐出ヘッドが得られる。
本発明の液滴吐出装置は、本発明の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い液滴吐出装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の接合方法に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図3】本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図4】本発明の接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図5】本発明の接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図6】本発明の接合方法の第3実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図7】本発明の接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図である。
【図8】図7に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図である。
【図9】図7に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の接合方法、接合体、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<接合方法>
本発明の接合方法は、2つの基材(第1の基材21および第2の基材22)を、プラズマ重合膜3を介して、接合面の一部の領域において位置選択的に接合する方法である。かかる方法によれば、2つの基材21、22を、接合面の一部の領域において、位置選択的に、高い寸法精度で強固に接合することができる。
【0039】
ここでは、本発明の接合方法を説明するのに先立って、まず、前述のプラズマ重合膜を形成するのに用いられるプラズマ重合装置について説明する。
図1は、本発明の接合方法に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図1に示すプラズマ重合装置100は、チャンバー101と、第1の基材21を支持する第1の電極130と、第2の電極140と、各電極130、140間に高周波電圧を印加する電源回路180と、チャンバー101内にガスを供給するガス供給部190と、チャンバー101内のガスを排気する排気ポンプ170とを備えている。これらの各部のうち、第1の電極130および第2の電極140がチャンバー101内に設けられている。以下、各部について詳細に説明する。
【0040】
チャンバー101は、内部の気密を保持し得る容器であり、内部を減圧(真空)状態にして使用されるため、内部と外部との圧力差に耐え得る耐圧性能を有するものとされる。
図1に示すチャンバー101は、軸線が水平方向に沿って配置されたほぼ円筒形をなすチャンバー本体と、チャンバー本体の左側開口部を封止する円形の側壁と、右側開口部を封止する円形の側壁とで構成されている。
【0041】
チャンバー101の上方には供給口103が、下方には排気口104が、それぞれ設けられている。そして、供給口103にはガス供給部190が接続され、排気口104には排気ポンプ170が接続されている。
なお、本実施形態では、チャンバー101は、導電性の高い金属材料で構成されており、接地線102を介して電気的に接地されている。
【0042】
第1の電極130は、板状をなしており、第1の基材21を支持している。
この第1の電極130は、チャンバー101の側壁の内壁面に、鉛直方向に沿って設けられており、これにより、第1の電極130は、チャンバー101を介して電気的に接地されている。なお、第1の電極130は、図1に示すように、チャンバー本体と同心状に設けられている。
【0043】
第1の電極130の第1の基材21を支持する面には、静電チャック(吸着機構)139が設けられている。
この静電チャック139により、図1に示すように、第1の基材21を鉛直方向に沿って支持することができる。また、第1の基材21に多少の反りがあっても、静電チャック139に吸着させることにより、その反りを矯正した状態で第1の基材21をプラズマ処理に供することができる。
【0044】
第2の電極140は、第1の基材21を介して、第1の電極130と対向して設けられている。なお、第2の電極140は、チャンバー101の側壁の内壁面から離間した(絶縁された)状態で設けられている。
この第2の電極140には、配線184を介して高周波電源182が接続されている。また、配線184の途中には、マッチングボックス(整合器)183が設けられている。これらの配線184、高周波電源182およびマッチングボックス183により、電源回路180が構成されている。
このような電源回路180によれば、第1の電極130は接地されているので、第1の電極130と第2の電極140との間に高周波電圧が印加される。これにより、第1の電極130と第2の電極140との間隙には、高い周波数で向きが反転する電界が誘起される。
【0045】
ガス供給部190は、チャンバー101内に所定のガスを供給するものである。
図1に示すガス供給部190は、液状の膜材料(原料液)を貯留する貯液部191と、液状の膜材料を気化してガス状に変化させる気化装置192と、キャリアガスを貯留するガスボンベ193とを有している。また、これらの各部とチャンバー101の供給口103とが、それぞれ配管194で接続されており、ガス状の膜材料(原料ガス)とキャリアガスとの混合ガスを、供給口103からチャンバー101内に供給するように構成されている。
【0046】
貯液部191に貯留される液状の膜材料は、プラズマ重合装置100により、重合して第1の基材21の表面に重合膜を形成する原材料となるものである。
このような液状の膜材料は、気化装置192により気化され、ガス状の膜材料(原料ガス)となってチャンバー101内に供給される。なお、原料ガスについては、後に詳述する。
【0047】
ガスボンベ193に貯留されるキャリアガスは、電界の作用により放電し、およびこの放電を維持するために導入するガスである。このようなキャリアガスとしては、例えば、Arガス、Heガス等が挙げられる。
また、チャンバー101内の供給口103の近傍には、拡散板195が設けられている。
拡散板195は、チャンバー101内に供給される混合ガスの拡散を促進する機能を有する。これにより、混合ガスは、チャンバー101内に、ほぼ均一の濃度で分散することができる。
【0048】
排気ポンプ170は、チャンバー101内を排気するものであり、例えば、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ等で構成される。このようにチャンバー101内を排気して減圧することにより、ガスを容易にプラズマ化することができる。また、大気雰囲気との接触による第1の基材21の汚染・酸化等を防止するとともに、プラズマ処理による反応生成物をチャンバー101内から効果的に除去することができる。
また、排気口104には、チャンバー101内の圧力を調整する圧力制御機構171が設けられている。これにより、チャンバー101内の圧力が、ガス供給部190の動作状況に応じて、適宜設定される。
【0049】
≪第1実施形態≫
次に、本発明の接合方法の第1実施形態について、上記のプラズマ重合装置100を用いた場合を例に説明する。
図2および図3は、本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図2および図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0050】
本実施形態にかかる接合方法は、第1の基材21を用意し、第1の基材21の表面上に、プラズマ重合膜3を形成する工程と、プラズマ重合膜3の表面のうち、一部の所定領域に対して選択的にエネルギーを付与して、この表面の所定領域を選択的に活性化させる工程(第1の工程)と、第2の基材22(第2の被着体)を用意し、第2の基材22と活性化させたプラズマ重合膜3の表面とが接触するように、第1の基材21と第2の基材22とを貼り合わせ、接合体を得る工程(第2の工程)と、接合体を加熱しつつ加圧する工程とを有する。
【0051】
以下、各工程について順次説明する。
[1]まず、第1の基材21を用意する。
このような第1の基材21の構成材料は、特に限定されないが、ポリフェニルサルファイド、アラミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料、ステンレス鋼、アルミニウム、タンタル、チタン、酸化インジウムスズ(ITO)のような金属材料、単結晶シリコン、多結晶シリコン、石英ガラスのようなシリコン系材料、アルミナのようなセラミックス材料、またはこれらの材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
【0052】
次に、必要に応じて、第1の基材21の接合面23に下地処理を施す。これにより、接合面23を清浄化および活性化する。その結果、後述する工程において、接合面23上にプラズマ重合膜3を形成したとき、接合面23とプラズマ重合膜3との接合強度を高めることができる。
この下地処理としては、特に限定されないが、例えば、酸素プラズマ処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外光照射処理等が挙げられる。
なお、下地処理を施す第1の基材21が、樹脂材料(高分子材料)で構成されている場合には、特に、コロナ放電処理、窒素プラズマ処理等が好適に用いられる。
【0053】
[2]次に、図2(a)〜(c)に示すように、第1の基材21の接合面23に、プラズマ重合膜3を形成する。これにより、第1の基材21とプラズマ重合膜3とを有する第1の被着体を形成する。
かかるプラズマ重合膜3は、強電界中に、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスを供給することにより、原料ガス中の分子を重合して得ることができる。
具体的には、まず、チャンバー101内に第1の基材21を収納して封止状態とした後、排気ポンプ170の作動により、チャンバー101内を減圧状態とする。
【0054】
次に、ガス供給部190を作動させ、チャンバー101内に原料ガスとキャリアガスの混合ガスを供給する。供給された混合ガスは、チャンバー101内に充填される(図2(a)参照)。
混合ガス中における原料ガスの占める割合(混合比)は、原料ガスやキャリアガスの種類や目的とする成膜速度等によって若干異なるが、例えば、混合ガス中の原料ガスの割合を20〜70%程度に設定するのが好ましく、30〜60%程度に設定するのがより好ましい。これにより、重合膜の形成(成膜)の条件の最適化を図ることができる。
また、供給するガスの流量は、ガスの種類や目的とする成膜速度、膜厚等によって適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、原料ガスおよびキャリアガスの流量を、それぞれ、1〜100ccm程度に設定するのが好ましく、10〜60ccm程度に設定するのがより好ましい。
【0055】
次いで、電源回路180を作動させ、一対の電極130、140間に高周波電圧を印加する。これにより、一対の電極130、140間に存在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、図2(b)に示すように、重合物が第1の基材21上に付着・堆積する。これにより、第1の基材21上にプラズマ重合膜3が形成される(図2(c)参照)。
【0056】
原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチル亜鉛、トリエチル亜鉛のような有機金属系化合物、各種炭化水素系化合物、各種フッ素系化合物等が挙げられる。
【0057】
このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜3は、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、すなわち、ポリオルガノシロキサン、有機金属ポリマー、炭化水素系ポリマー、フッ素系ポリマー等で構成されることとなる。
これらの中でも、プラズマ重合膜3は、特に、ポリオルガノシロキサンまたは有機金属ポリマーを主材料として構成されているのが好ましい。これにより、プラズマ重合膜3は、第1の基材21と第2の基材22とをより強固に接合することができる。
【0058】
また、このうち、ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性を示すが、各種の活性化処理を施すことにより、容易に有機基等の脱離基を脱離させることができ、親水性に変化することができる。すなわち、プラズマ重合膜3の撥水性と親水性の制御を容易に行えるという利点がある。
また、撥水性を示すポリオルガノシロキサンで構成されたプラズマ重合膜3は、後述する工程において、第2の基材と接触させても、プラズマ重合膜3の表面にある有機基等の脱離基によって接着が阻害されることとなり、極めて接着し難い。一方、親水性を示すポリオルガノシロキサンで構成されたプラズマ重合膜3は、第2の基材に接触させると、両者の接着が可能になる。すなわち、撥水性と親水性の制御を容易に行えるという利点は、接着性の制御を容易に行えるという利点に繋がるため、ポリオルガノシロキサンで構成されたプラズマ重合膜3は、本発明の接合方法において好適に用いられるものとなる。
【0059】
また、ポリオルガノシロキサンは、比較的柔軟性に富んでいるので、例えば、第1の基材21と第2の基材22との各構成材料が互いに異なる場合でも、各基材21、22間に生じる熱膨張に伴う応力を緩和することができる。これにより、最終的に得られる接合体1において、剥離を確実に防止することができる。
さらに、ポリオルガノシロキサンは、耐薬品性に優れているため、薬品類等に長期にわたって曝されるような部材の接合に際して効果的に用いることができる。具体的には、例えば、樹脂材料を浸食し易い有機系インクが用いられる工業用インクジェットプリンタの液滴吐出ヘッドを製造する際に、ポリオルガノシロキサンを主材料とするプラズマ重合膜3を用いることにより、その耐久性を向上させることができる。
【0060】
また、ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするプラズマ重合膜は、接着性に特に優れることから、本発明の接合方法において、特に好適に用いられるものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
【0061】
また、ポリオルガノシロキサンは、Si−H結合を含んでいるのが好ましい。このSi−H結合を適度に含んだポリオルガノシロキサンにおいては、Si−H結合がシロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。これにより、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、ポリオルガノシロキサン中のSi骨格の規則性が低下する。その結果、ポリオルガノシロキサンを主材料とするプラズマ重合膜3は、結晶性が低いものとなる。
【0062】
このような結晶性の低いプラズマ重合膜は、結晶材料特有の結晶粒界における転位やズレ等の欠陥が生じ難くなる。このため、プラズマ重合膜3自体が接合強度、耐薬品性および寸法精度の高いものとなり、最終的に得られる接合体においても、接合強度、耐薬品性および寸法精度の高いものが得られる。
一方、ポリオルガノシロキサン中のSi−H結合の含有率が多ければ多いほど前述したプラズマ重合膜3の特性が向上するわけではなく、Si−H結合の含有率は所定の範囲内にあるのが好ましい。すなわち、ポリオルガノシロキサンの赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピークの強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピークの強度は、0.001〜0.2程度であるのが好ましく、0.002〜0.05程度であるのがより好ましく、0.005〜0.02程度であるのがさらに好ましい。Si−H結合のシロキサン結合に対する割合が前記範囲内であることにより、シロキサン結合によってプラズマ重合膜3の骨格部分が構築され、これにより膜強度が高くなる作用と、Si−H結合によるポリオルガノシロキサンの結晶性低下の作用とを、高度に両立することができる。その結果、プラズマ重合膜3は、接合強度、耐薬品性および寸法精度において特に優れたものとなる。
【0063】
また、ポリオルガノシロキサンに活性化処理を施すことによって、プラズマ重合膜3から脱離する前述の脱離基は、ポリオルガノシロキサン中のSi骨格から脱離することによって、プラズマ重合膜3に活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないようSi骨格に確実に結合しているものである必要がある。
【0064】
このような脱離基としては、例えば、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子を含み、これらの各原子がポリオルガノシロキサン中のSi骨格に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものが好ましく用いられる。かかる脱離基は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、接合膜付き基材の接着性をより高度なものとすることができる。
【0065】
また、上記のような各原子がポリオルガノシロキサン中のSi骨格に結合するように配置された原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、ビニル基、アリル基のようなアルケニル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、メルカプト基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアネート基等が挙げられる。
これらの各基の中でも、前述の有機基は、特にアルキル基であるのが好ましい。アルキル基は化学的な安定性が高いため、アルキル基を含むプラズマ重合膜3は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
【0066】
ここで、前述の有機基がメチル基(−CH)である場合、その好ましい含有率は、赤外光吸収スペクトルにおけるピーク強度から以下のように規定される。
すなわち、ポリオルガノシロキサンの赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピークの強度を1としたとき、メチル基に帰属するピークの強度は、0.05〜0.45程度であるのが好ましく、0.1〜0.4程度であるのがより好ましく、0.2〜0.3程度であるのがさらに好ましい。メチル基のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対する割合が前記範囲内であることにより、メチル基がシロキサン結合の生成を必要以上に阻害してしまうのを防止しつつ、ポリオルガノシロキサン中に必要かつ十分な数の活性手が生じるため、プラズマ重合膜3に十分な接着性が生じる。また、プラズマ重合膜3には、メチル基に起因する十分な耐候性および耐薬品性が発現する。
【0067】
一方、有機金属ポリマーは、活性化処理を経ることにより、優れた導電性を発現するとともに、2つの基材21、22をより強固に接合することができる。したがって、有機金属ポリマーで構成されたプラズマ重合膜3は、後述する活性化処理を経ることにより、剥離等を確実に防止し得る信頼性の高い配線等として用いることが可能な接合体1を構成し得るものとなる。
また、有機金属ポリマーの中でも、特に、トリメチルガリウムまたはトリメチルアルミニウムの重合物を主成分とするものが好ましい。これらの成分は、有機金属ポリマーの中でも、2つの基材21、22を特に強固に接合するとともに、活性化処理を経ることにより、プラズマ重合膜に高い導電性を発現させることができる。
【0068】
プラズマ重合の際、一対の電極130、140間に印加する高周波の周波数は、特に限定されないが、1kHz〜100MHz程度であるのが好ましく、10〜60MHz程度であるのがより好ましい。
また、高周波の出力密度は、特に限定されないが、0.01〜100W/cm程度であるのが好ましく、0.1〜50W/cm程度であるのがより好ましく、1〜40W/cm程度であるのがさらに好ましい。高周波の出力密度を前記範囲内とすることにより、高周波の出力密度が高過ぎて原料ガスに必要以上のプラズマエネルギーが付加されるのを防止しつつ、プラズマ重合膜3を確実に形成することができる。すなわち、高周波の出力密度が前記下限値を下回った場合、原料ガス中の分子に重合反応を生じさせることができず、プラズマ重合膜3を形成することができないおそれがある。一方、高周波の出力密度が前記上限値を上回った場合、原料ガスが分解する等して、脱離基となり得る構造がポリオルガノシロキサン中のSi骨格から分離してしまい、得られるプラズマ重合膜3において脱離基の含有率が著しく低くなるため、プラズマ重合膜3の接合強度が低下するおそれがある。
【0069】
また、成膜時のチャンバー101内の圧力は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。
原料ガス流量は、0.5〜200sccm程度であるのが好ましく、1〜100sccm程度であるのがより好ましい。一方、キャリアガス流量は、5〜750sccm程度であるのが好ましく、10〜500sccm程度であるのがより好ましい。
【0070】
処理時間は、1〜10分程度であるのが好ましく、4〜7分程度であるのがより好ましい。
また、第1の基材21の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25〜100℃程度であるのがより好ましい。
このような条件を適宜設定することにより、緻密なプラズマ重合膜3をムラなく形成することができる。
【0071】
なお、本実施形態では、プラズマ重合装置を用いて、第1の基材21上にプラズマ重合膜3を形成する手順について説明しているが、プラズマ重合膜を備えた基材(被着体)をあらかじめ用意しておき、その被着体を用いるようにしてもよい。
また、プラズマ重合膜3の平均厚さは、10〜10000nm程度であるのが好ましく、50〜5000nm程度であるのがより好ましい。プラズマ重合膜3の平均厚さを前記範囲内とすることにより、第1の基材21と第2の基材22とを接合した接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、より強固に接合することができる。
【0072】
すなわち、プラズマ重合膜3の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、プラズマ重合膜3の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、接合体の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
さらに、プラズマ重合膜3の平均厚さが前記範囲内であれば、プラズマ重合膜3にある程度の形状追従性が確保される。このため、例えば、第1の基材21の接合面(プラズマ重合膜3に隣接する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するようにプラズマ重合膜3を被着させることができる。その結果、プラズマ重合膜3は、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。
なお、上記のような形状追従性の程度は、プラズマ重合膜3の厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、プラズマ重合膜3の厚さをできるだけ厚くすればよい。
【0073】
[3]次に、得られたプラズマ重合膜3の表面31のうち、一部の所定領域に対してエネルギーを付与する。これにより、表面31付近の結合の一部が切断され、表面31を活性化させる(第1の工程)。
プラズマ重合膜3の表面31にエネルギーを付与する方法としては、表面31を活性化し得る方法であれば、いかなる方法であってもよいが、エネルギー線を照射する方法が好ましい。かかる方法によれば、プラズマ重合膜3の表面31を効率よく活性化させる。また、この方法によれば、プラズマ重合膜3中の分子構造を必要以上に(例えば、第1の基材21との界面に至るまで)切断しないので、プラズマ重合膜3の特性が低下してしまうのを避けることができる。
【0074】
エネルギー線としては、例えば、紫外光、レーザー光のような光、電子線、粒子線等が挙げられる。
また、エネルギー線には、特に、図2(d)に示すように、波長150〜300nm程度の紫外光を照射する方法を用いるのが好ましい。かかる紫外光によれば、プラズマ重合膜3の特性の著しい低下を防止しつつ、広い範囲をムラなく、より短時間に処理することができる。このため、プラズマ重合膜3の表面31の活性化をより効率よく行うことができる。また、紫外光には、紫外ランプ等の簡単な設備で発生させることができるという利点もある。
【0075】
なお、紫外光の波長は、より好ましくは、160〜200nm程度とされる。
また、紫外光を照射する時間は、プラズマ重合膜3の表面31付近の結合を切断し得る程度の時間であればよく、特に限定されないが、0.5〜30分程度であるのが好ましく、1〜10分程度であるのがより好ましい。
また、プラズマ重合膜3に対するエネルギー線の照射は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよいが、大気雰囲気中で行われるのが好ましい。これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、活性化処理をより簡単に行うことができる。
【0076】
なお、プラズマ重合膜3の表面31のうち、一部の所定領域に対してエネルギー線を照射する場合、レーザー光、電子線のような指向性の高いエネルギー線であれば、目的の方向に向けて照射することにより、所定領域に対してエネルギー線を選択的にかつ簡単に照射することができる。
また、指向性の低いエネルギー線であっても、プラズマ重合膜3の表面31のうち、所定領域以外の領域を覆うようにして照射すれば、所定領域に対してエネルギー線を選択的に照射することができる。
【0077】
具体的には、図2(d)に示すように、プラズマ重合膜3の表面31上に、紫外光を照射すべき所定領域310の形状に対応する形状をなす窓部41を有するマスク4を設け、このマスク4を介して紫外光を照射するようにすればよい。このようにすれば、プラズマ重合膜3の表面31のうち、図2(d)に示す所定領域310に対して紫外光を選択的に照射することができる。
【0078】
このようにして活性化されたプラズマ重合膜3の表面31の所定領域310には、周囲の水分が接触することにより、水酸基(OH基)が自然に結合する。なお、前述の「活性化させる」とは、表面31付近および内部の結合が切断されて、終端化されていない結合手(ダングリングボンド)が生じた状態や、その切断された結合手に水酸基が結合した状態のいずれか一方、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
なお、プラズマ重合膜3が有機金属ポリマーで構成されている場合には、プラズマ重合膜3にエネルギーが付与されると、プラズマ重合膜3中から有機成分が除去され、導電性成分が支配的となる。その結果、エネルギーが付与された(活性化処理を経た)プラズマ重合膜3に導電性が発現する。
【0079】
[4]次に、第2の基材22を用意し、この第2の基材22と、前記工程[3]で活性化させたプラズマ重合膜3の表面31の所定領域310とが接触するように、2つの基材21、22を貼り合わせる(図3(e)参照)。
これにより、第1の基材21のプラズマ重合膜3と第2の基材22とが、図3(f)に示すように、所定領域310において接合される。その結果、接合体1を得る(第2の工程)。
【0080】
ここで、用意する第2の基材22の構成材料は、第1の基材21と異なっていても同じでもよい。
なお、2つの基材21、22の熱膨張率は、ほぼ等しいのが好ましいが、互いに異なっていてもよい。各基材21、22の熱膨張率がほぼ等しければ、2つの基材21、22を接合した際に、その接合界面に熱膨張に伴う応力が発生し難くなる。その結果、最終的に得られる接合体1において、剥離を確実に防止することができる。また、後に詳述するが、各基材21、22の熱膨張率が互いに異なる場合でも、後述する工程において、2つの基材21、22同士を貼り合わせる際の条件を最適化することにより、2つの基材21、22同士を高い寸法精度で強固に接合することができる。
【0081】
また、2つの基材21、22は、互いに剛性が異なるのが好ましい。これにより、2つの基材21、22をより強固に接合することができる。
また、2つの基材21、22のうち、少なくとも一方の構成材料は、樹脂材料で構成されているのが好ましい。樹脂材料は、その柔軟性により、2つの基材21、22を接合した際に、その接合界面に発生する応力(例えば、熱膨張に伴う応力等)を緩和することができる。このため、接合界面が破壊し難くなり、結果的に、接合強度の高い接合体1を得ることができる。
【0082】
このようにして得られた接合体1では、従来の接合方法で用いられていた接着剤のように、アンカー効果のような物理的結合に基づく接着ではなく、共有結合のように短時間で起こる強固な化学的結合に基づいて、第1の基材21と第2の基材22とが接合されている。このため、接合体1は、極めて剥離し難く、接合ムラ等も生じ難いものとなる。
また、本発明の接合方法によれば、従来の固体接合のように、高温(700〜800℃程度)での熱処理を必要としないことから、耐熱性の低い材料で構成された基材をも、接合に供することができる。これにより、基材の構成材料の選択の幅を広げることができる。
【0083】
また、本発明の接合方法によれば、第1の基材21と第2の基材22とを接合する際に、これらの接合面全体を接合するのではなく、一部の領域のみを選択的に接合することができる。この接合の際、プラズマ重合膜3に付与するエネルギーを制御することのみで、接合される領域を簡単に選択することができる。これにより、例えば、第1の基材21と第2の基材22との接合部の面積を制御することにより、接合体1の接合強度を容易に調整することができる。その結果、例えば、接合部を容易に分離可能な接合体1が得られる。
【0084】
また、第1の基材21と第2の基材22との接合部の面積を制御することにより、接合部に生じる応力の局所集中を緩和することができる。これにより、例えば、第1の基材21と第2の基材22との間で熱膨張率差が大きい場合でも、各基材21、22を確実に接合することができる。
さらに、本発明の接合方法によれば、第1の基材21が備えるプラズマ重合膜3の表面31のうち、接合される所定領域310以外の領域では、プラズマ重合膜3と第2の基材22との間にわずかな隙間が生じる。したがって、所定領域310の形状を適宜調整することにより、第1の基材21と第2の基材22との間に、閉空間や流路を形成したりすることができる。
【0085】
ここで、第2の基材22のうち、少なくとも、本工程において第1の基材21上に形成されたプラズマ重合膜3の所定領域310と接触する領域、すなわち、プラズマ重合膜3の所定領域310を密着(接合)させるべき領域の表面には、水酸基(OH基)が結合している状態になっているのが好ましい。第2の基材22の表面がこのような状態になっていると、第2の基材22とプラズマ重合膜3との接合強度が向上することとなり、2つの基材21、22をより強固に接合することができる。なお、かかる効果は、以下のような現象によるものと推察される。
【0086】
すなわち、本工程において、第2の基材22とプラズマ重合膜3とを接触(密着)させたときに、第2の基材22の表面に存在する水酸基と、プラズマ重合膜3の活性化させた表面に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合を伴って表面から脱離する。その結果、プラズマ重合膜3と第2の基材22との接触界面では、脱離したOH基が結合していた結合手同士が結合する。これにより、プラズマ重合膜3と第2の基材22とが化学的に強固に接合される。
【0087】
なお、第2の基材22のうち、プラズマ重合膜3を密着させるべき領域の表面に、水酸基が結合している状態を形成するためには、いかなる方法を用いてもよい。具体例を挙げれば、第2の基材22に酸素プラズマ等のプラズマ処理を施す方法、エッチング処理を施す方法、電子線を照射する方法、紫外光を照射する方法、オゾンに曝す方法、またはこれらを組み合わせた方法等がある。このような方法を用いることにより、第2の基材22の表面を清浄化するとともに、表面付近の結合の一部を切断して、表面を活性化することができる。このような状態の表面には、周囲の水分が接触することにより、水酸基(OH基)が自然に結合する。このようにして、水酸基が結合している状態を形成することができる。
【0088】
また、第2の基材22の構成材料によっては、上記のような処理を施さなくても、表面に水酸基が結合しているものもある。かかる構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウムような各種金属材料、シリコン、石英ガラスのようなシリコン系材料、アルミナのような酸化物系セラミックス材料等が挙げられる。なお、第2の基材22は、その全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも表面付近が上記のような材料で構成されていればよい。
このような材料で構成された第2の基材22は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、水酸基が結合している。したがって、このような材料で構成された第2の基材22を用いると、水酸基を露出させる処理を施さなくても、第1の基材21と第2の基材22とを強固に接合することができる。
【0089】
また、第2の基材22の表面および内部には、第2の基材22の結合が切断されて、終端化されていない活性な結合手(ダングリングボンド)が含まれていてもよい。さらに、水酸基とダングリングボンドとが混在した状態であってもよい。第2の基材22の表面および内部にダングリングボンドが含まれていると、プラズマ重合膜3の表面に露出したダングリングボンドとの間で、ネットワーク状に構築された共有結合に由来するより強固な接合がなされる。その結果、プラズマ重合膜3を介して第1の基材21と第2の基材22とをより強固に接合することができる。
【0090】
なお、前記工程[3]で活性化されたプラズマ重合膜3の表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[3]の終了後、できるだけ早く本工程[4]を行うようにする。具体的には、前記工程[3]の終了後、60分以内に本工程[4]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、プラズマ重合膜3の表面が十分な活性状態を維持しているので、貼り合せたときに十分な接合強度を得ることができる。
【0091】
換言すれば、活性化させる前のプラズマ重合膜3は、化学的に安定であり、耐候性に優れている。このため、前記工程[2]を終えた時点のプラズマ重合膜3は、長期にわたる保存に適したものである。したがって、そのようなプラズマ重合膜3を備えた第1の基材21(被着体)を多量に製造または購入して保存しておき、本工程[4]の貼り合わせを行う直前に、必要な個数のみに前記工程[3]を行うようにすれば、接合体の製造効率の観点から有効である。
【0092】
なお、従来のシリコン直接接合のような固体接合では、表面を活性化させても、その活性状態は、大気中では数秒〜数十秒程度の極めて短時間しか維持されない。このため、表面の活性化を行った後、接合する2つの部材を貼り合わせる等の作業を行う時間を十分に確保することができないという問題があった。
これに対し、本発明によれば、プラズマ重合膜の作用により、数分以上の比較的長時間にわたって活性状態を維持することができる。このため、作業に要する時間を十分に確保することができ、接合作業の効率化を高めることができる。
【0093】
以上のようにして接合体(本発明の接合体)1を得ることができる。
このようにして得られた接合体1は、第1の基材21と第2の基材22との間の所定領域310における接合強度が5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。所定領域310において、このような接合強度を有する接合体1は、その剥離を十分に防止し得るものとなる。そして、後述のように、接合体1を用いて液滴吐出ヘッドを構成した場合、耐久性に優れた液滴吐出ヘッドが得られる。また、本発明の接合方法によれば、第1の基材21と第2の基材22とが上記のような大きな接合強度で接合された接合体1を効率よく作製することができる。
【0094】
また、プラズマ重合膜3が有機金属ポリマーで構成されている場合には、このプラズマ重合膜3を活性化させることにより、導電性が発現する。このような活性化処理を経たプラズマ重合膜3の抵抗率は、構成材料の組成に応じて若干異なるものの、1×10−3Ω・cm以下であるのが好ましく、1×10−4Ω・cm以下であるのがより好ましい。活性化処理を経て導電性が発現したプラズマ重合膜3の抵抗率がこのように十分に低ければ、かかるプラズマ重合膜は、損失の少ない配線として十分に利用することができる。
【0095】
また、前述したように、第1の基材21と第2の基材22との接合部の面積を制御することができるので、これにより、接合体1の接合強度を調整可能であると同時に、接合体1を分離する際の強度(割裂強度)を調整可能である。
かかる観点から、分離可能な接合体1を作製する場合、接合体1の接合強度は、人の手で接合体1を分離可能な程度の大きさであるのが好ましい。これにより、接合体1を分離する際に、装置等を用いることなく、簡単に行うことができる。
【0096】
また、プラズマ重合膜3は、その厚さにもよるが比較的高い透光性を有したものとなる。そして、プラズマ重合膜3の形成条件(プラズマ重合の際の条件や原料ガスの組成等)を適宜設定することにより、プラズマ重合膜3の屈折率を調整することができる。具体的には、プラズマ重合の際の高周波の出力密度を高めることにより、プラズマ重合膜3の屈折率を高めることができ、反対に、プラズマ重合の際の高周波の出力密度を低くすることにより、プラズマ重合膜3の屈折率を低くすることができる。
【0097】
具体的には、シラン系ガスを原料とするプラズマ重合法によれば、屈折率の範囲が1.35〜1.6程度のプラズマ重合膜3が得られる。このようなプラズマ重合膜3は、その屈折率が、水晶や石英ガラスの屈折率に近いため、例えばプラズマ重合膜3を光路が貫通するような構造の光学部品を製造する際に好適に用いられる。また、プラズマ重合膜3の屈折率を調整することができるので、所望の屈折率のプラズマ重合膜3を作製することができる。
なお、接合体1を得た後、この接合体1に対して、必要に応じ、以下の2つの工程[5A]、[5B]のうちのいずれか一方または双方を行うようにしてもよい。
【0098】
[5A]図3(g)に示すように、得られた接合体1を、第1の基材21と第2の基材22とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、第2の基材22の表面にプラズマ重合膜3の表面がより近接し、接合体1における接合強度をより高めることができる。
このとき、接合体1を加圧する際の圧力は、できるだけ高い方が好ましい。これにより、この圧力に比例して接合体1における接合強度を高めることができる。
【0099】
なお、この圧力は、各基材21、22の構成材料や厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、基材21、22の構成材料や厚さ等に応じて若干異なるものの、1〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPa程度であるのがより好ましい。これにより、接合体1の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、各基材21、22の構成材料によっては、各基材21、22に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、接合体1を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くすることができる。
【0100】
[5B]図3(g)に示すように、得られた接合体1を加熱する。
これにより、接合体1における接合強度をより高めることができる。
このとき、接合体1を加熱する際の温度は、室温より高く、接合体1の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25〜100℃程度とされ、より好ましくは50〜100℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、接合体1が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
【0101】
また、前記工程[5A]、[5B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、図3(g)に示すように、接合体1を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、接合体1の接合強度を特に高めることができる。
なお、2つの基材21、22の熱膨張率がほぼ等しい場合には、上記のようにして接合体1を加熱するのが好ましいが、2つの基材21、22の熱膨張率が互いに異なっている場合には、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
【0102】
具体的には、2つの基材21、22の熱膨張率差にもよるが、25〜50℃程度の温度で接合を行うのが好ましく、25〜40℃程度の温度で接合を行うのがより好ましい。このような温度範囲であれば、2つの基材21、22の熱膨張率差がある程度大きくても、接合界面に発生する熱応力を十分に低減することができる。その結果、接合体1における反りや剥離等の発生を確実に防止することができる。
この場合、2つの基材21、22の熱膨張係数の差が、5×10−5/K以上あるような場合には、上記のようにして、できるだけ低温下で接合を行うことが強く推奨される。
以上のような工程[5A]、[5B]を行うことにより、接合体1における接合強度のさらなる向上を図ることができる。
【0103】
≪第2実施形態≫
次に、本発明の接合方法の第2実施形態について説明する。
図4および図5は、本発明の接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図4および図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0104】
以下、接合方法の第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態にかかる接合方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態にかかる接合方法では、第1の基材21上にプラズマ重合膜301を備える第1の被着体と、第2の基材22上にプラズマ重合膜302を備える第2の被着体とを接合するようにした以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0105】
すなわち、本実施形態にかかる接合方法は、第1の基材21を用意し、第1の基材21上にプラズマ重合膜301を形成する工程と、プラズマ重合膜301の表面のうち、一部の所定領域に対して選択的にエネルギーを付与して、この表面の所定領域を選択的に活性化させる(第1の工程)と、第2の基材22を用意し、第2の基材22上にプラズマ重合膜302を形成する工程と、プラズマ重合膜302の表面のうち、全面にエネルギーを付与して、この表面を活性化させる工程と、プラズマ重合膜301の前記所定領域とプラズマ重合膜302の表面とが接触するように、第1の被着体と第2の被着体とを貼り合わせ、接合体を得る工程(第2の工程)とを有する。以下、各工程について順次説明する。
【0106】
[1]まず、前記第1実施形態と同様にして、図4(a)〜(c)に示すように、第1の基材21上に、プラズマ重合膜301を形成する。
[2]次に、得られたプラズマ重合膜301の表面303のうち、一部の所定領域311に対して、前記第1実施形態と同様にしてエネルギーを付与する。これにより、表面303付近の結合の一部が切断され、表面303の所定領域311を活性化させる(第1の工程)。
【0107】
具体的には、例えば、図4(d)に示すように、マスク4を介して、所定領域311に紫外光を選択的に照射する。
活性化されたプラズマ重合膜301の表面303の所定領域311には、周囲の水分が接触することにより、水酸基(OH基)が自然に結合する。なお、前述の「活性化させる」とは、表面303の所定領域311付近および内部の結合が切断されて、終端化されていない結合手(ダングリングボンド)が生じた状態や、その切断された結合手に水酸基が結合した状態のいずれか一方、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
【0108】
[3]次に、第2の基材22を用意する。
[4]次に、図4(a)〜(c)に示すように、第2の基材22の接合面24上に、プラズマ重合膜302を形成する。
かかるプラズマ重合膜302は、プラズマ重合膜301と同様に、強電界中に、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスを供給することにより、原料ガスの分子を重合して得ることができる。
【0109】
ここで、プラズマ重合膜302を形成する際に用いる原料ガスは、プラズマ重合膜301を形成する際に用いる原料ガスと同種のものを用いる。これにより、プラズマ重合膜301とプラズマ重合膜302とを接合することが可能となる。
したがって、プラズマ重合膜302の構成材料としては、プラズマ重合膜301の構成材料と同様の材料が挙げられ、例えば、ポリオルガノシロキサン、有機金属ポリマー、炭化水素系ポリマー、フッ素系ポリマー等が挙げられる。
また、プラズマ重合膜302を形成する際の各種条件は、前記プラズマ重合膜301を形成する際の条件と同様とされる。
【0110】
[5]次に、得られたプラズマ重合膜302の表面304に対してエネルギーを付与する。これにより、表面304付近の結合の一部が切断され、表面304を活性化させる。
プラズマ重合膜302の表面304にエネルギーを付与する方法としては、特に限定されないが、エネルギー線を照射する方法が好ましい。
【0111】
このようにして活性化された表面304には、周囲の水分が接触することにより、水酸基(OH基)が自然に結合する。なお、前述の「活性化させる」とは、表面304付近および内部の結合が切断されて、終端化されていない結合手が生じた状態や、その切断された結合手に水酸基が結合した状態、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
また、プラズマ重合膜302の表面304を活性化させる際の各種条件は、前記プラズマ重合膜301の表面303を活性化させる際の条件と同様とされる。
【0112】
[6]次に、第1の被着体が備えるプラズマ重合膜301の表面303の所定領域311と、第2の被着体が備えるプラズマ重合膜302の表面304とが接触するように、第1の被着体と第2の被着体とを貼り合わせる(図5(e)参照)。これにより、プラズマ重合膜301とプラズマ重合膜302とが接合され、2つの基材21、22同士が接合される。
【0113】
ここで、この接合は、以下のような2つのメカニズム(i)、(ii)の双方または一方に基づくものであると推測される。
(i)2つの基材21、22同士を貼り合わせると、各プラズマ重合膜301、302の表面303、304にそれぞれ存在するOH基同士が隣接することとなる。この隣接したOH基同士は、水素結合によって互いに引き合い、OH基同士の間に引力が発生する。
【0114】
また、この水素結合によって互いに引き合うOH基同士は、温度条件等によって、脱水縮合を伴って表面から脱離する。その結果、2つのプラズマ重合膜301、302同士の所定領域311における接触界面では、脱離したOH基が結合していた結合手同士が結合する。すなわち、各プラズマ重合膜301、302を構成するそれぞれの母材同士が、所定領域311において直接結合して一体化される。
【0115】
(ii)2つの基材21、22同士を貼り合わせると、各プラズマ重合膜301、302の表面303、304の所定領域311や、所定領域311の内部に生じた終端化されていない結合手(ダングリングボンド)同士が再結合する。この再結合は、互いに重なり合う(絡み合う)ように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成される。これにより、各プラズマ重合膜301、302を構成するそれぞれの母材同士が、所定領域311において直接接合して一体化される。
【0116】
なお、プラズマ重合膜301およびプラズマ重合膜302が、それぞれ有機金属ポリマーで構成されている場合には、以下のようにするのが好ましい。
すなわち、この場合、前記工程[2]におけるプラズマ重合膜301に対するエネルギー線の照射や、前記工程[5]におけるプラズマ重合膜302に対するエネルギー線の照射、本工程における貼り合わせ作業は、それぞれ、不活性ガス雰囲気中、または、減圧雰囲気中で行われるのが好ましい。このような雰囲気中には、水分がほとんど含まれていないため、終端化されていない結合手に水酸基が結合するのを防止することができる。その結果、各プラズマ重合膜301、302の表面303、304付近および内部において、終端化されていない結合手が生じた状態が支配的になる。すなわち、それに伴って、終端化されていない結合手に水酸基が結合した状態は、相対的に生じ難くなる。
【0117】
このように、終端化されていない結合手が生じた状態が支配的になると、2つの被着体同士を貼り合せたときに、これらの結合手同士が再結合する。すなわち、前述のメカニズム(ii)による接合が支配的になる。かかるメカニズム(ii)による接合は、接合に水酸基が関与せず、各プラズマ重合膜301、302中の導電性成分が直接接合に関与したものであるため、接合界面における導電性の向上が図られる。
【0118】
逆に言えば、メカニズム(i)による接合が支配的になると、接合に水酸基が関与する。この水酸基は、プラズマ重合膜中で金属酸化物の生成を促し、電気的な抵抗成分として作用することとなる。このため、接合界面における導電性は得られるものの、導電性が若干低下するおそれがある。
以上のことから、各プラズマ重合膜301、302に対するエネルギー線の照射や、前述の貼り合わせ作業を、不活性ガス雰囲気中、または、減圧雰囲気中で行うことにより、接合界面における導電性をより高めることができる。
【0119】
以上のようなメカニズムにより、図5(f)に示すように、第1の基材21と第2の基材22とが、所定領域311において部分的に接合された接合体1が得られる(第2の工程)。
このようにして得られた接合体1では、前記第1実施形態にかかる接合体1と同様の作用・効果が得られる。
【0120】
また、各基材に、それぞれ、あらかじめプラズマ重合膜を形成し、これらのプラズマ重合膜同士を接合するようにしたので、前記第1実施形態と比べて接合体1における接合強度の向上を図ることができる。
また、前記第1実施形態と比較した場合、第2の基材上にあらかじめプラズマ重合膜を形成するので、第2の基材の構成材料によって接合体1における接合強度が影響を受けることがない。このため、例えば、前記第1実施形態にかかる接合方法では、接合強度が低下してしまうような材料で構成された第2の基材であっても、本実施形態にかかる接合方法によれば、第1の基材と第2の基材とをより強固に接合することができる。
【0121】
なお、前記工程[6]で活性化された各プラズマ重合膜301、302の表面303、304は、それぞれ、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[2]と前記工程[4]の終了後、できるだけ早く前記工程[6]を行うようにするのが好ましい。
また、接合体1を得た後、この接合体1に対して、必要に応じ、以下の2つの工程[7A]、[7B]のうちのいずれか一方または双方を行うようにしてもよい。
【0122】
[7A]図5(g)に示すように、得られた接合体1を、第1の基材21と第2の基材22とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、プラズマ重合膜301の表面303とプラズマ重合膜302の表面304とがより近接し、接合体1における接合強度をより高めることができる。
なお、接合体1を加圧する際の各種条件は、前記第1実施形態において接合体1を加圧する際の条件と同様である。
【0123】
[7B]図5(g)に示すように、得られた接合体1を加熱する。
これにより、接合体1における接合強度をより高めることができる。
なお、接合体1を加熱する際の各種条件は、前記第1実施形態において接合体1を加熱する際の条件と同様である。
また、前記工程[7A]、[7B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、図5(g)に示すように、接合体1を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが効果的に発揮され、接合体1の接合強度を特に高めることができる。
以上のような工程[7A]、[7B]を行うことにより、接合体1における接合強度のさらなる向上を図ることができる。
【0124】
≪第3実施形態≫
次に、本発明の接合方法の第3実施形態について説明する。
図6は、本発明の接合方法の第3実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
以下、接合方法の第3実施形態について説明するが、前記第1および前記第2実施形態にかかる接合方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0125】
本実施形態にかかる接合方法では、第1の被着体が備えるプラズマ重合膜301の表面303の一部の所定領域311と、第2の被着体が備えるプラズマ重合膜302の表面304の一部の所定領域312との重なり合った部分で、第1の被着体と第2の被着体とを接合するようにした以外は、前記第2実施形態と同様である。
本実施形態にかかる接合方法では、第1の被着体が備えるプラズマ重合膜301の表面303の所定領域311の平面視形状が、ストライプ状になっている。すなわち、プラズマ重合膜301の表面303のうち、ストライプ状の所定領域311に対して、選択的にエネルギーが付与され、この所定領域311が選択的に活性化されている。
【0126】
一方、第2の被着体が備えるプラズマ重合膜302の表面304の所定領域312の平面視形状も、ストライプ状になっている。すなわち、プラズマ重合膜302の表面304のうち、ストライプ状の所定領域312に対して、選択的にエネルギーが付与され、この所定領域312が選択的に活性化されている。
そして、ストライプ状の所定領域311と、ストライプ状の所定領域312とは、互いに交差する関係にある(図6(a)参照)。
このような第1の被着体および第2の被着体では、所定領域311と所定領域312とが重なった部分において、第1の被着体と第2の被着体とが部分的に接合する。これにより、図6(b)に示すような接合体1が得られる。
【0127】
以上のような本実施形態にかかる接合方法によれば、例えば、ストライプ状の窓部を有するマスクを用意し、このマスクのみを用いて、第1の被着体および第2の被着体にそれぞれ簡単な形状の所定領域311および所定領域312を形成するだけで、図6(b)に示すようなアイランド状の複雑な形状の接合部313を効率よく複数形成することができる。
また、アイランド状の各接合部313(重なった部分)を個別に形成する場合に比べて、各接合部313の位置および形状を簡単かつ正確に制御することができる。これにより、接合体1の接合強度をより簡単かつ正確に制御することができる。
【0128】
このようにして得られた接合体1では、前記第1および前記第2実施形態にかかる接合体1と同様の作用・効果が得られる。
また、接合部313における接合強度が大きいため、接合部313の面積をより小さくすることができる。このため、第1の基材21と第2の基材22が、それぞれ異なる材料で構成されていて、両者の熱膨張率差が大きい場合でも、接合界面に発生する熱膨張差に伴う応力を低減することができる。したがって、接合部313の位置および形状を適宜設定することにより、接合体1の剥離を確実に防止するとともに、接合体1の変形(反り)をも確実に防止することができる。
【0129】
<液滴吐出ヘッド>
次に、本発明の接合体をインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の実施形態について説明する。
図7は、本発明の接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図、図8は、図7に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図、図9は、図7に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。なお、図7は、通常使用される状態とは、上下逆に示されている。
【0130】
図7に示すインクジェット式記録ヘッド(本発明の液滴吐出ヘッド)10は、図9に示すようなインクジェットプリンタ(本発明の液滴吐出装置)9に搭載されている。
図9に示すインクジェットプリンタ9は、装置本体92を備えており、上部後方に記録用紙Pを設置するトレイ921と、下部前方に記録用紙Pを排出する排紙口922と、上部面に操作パネル97とが設けられている。
【0131】
操作パネル97は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等で構成され、エラーメッセージ等を表示する表示部(図示せず)と、各種スイッチ等で構成される操作部(図示せず)とを備えている。
また、装置本体92の内部には、主に、往復動するヘッドユニット93を備える印刷装置(印刷手段)94と、記録用紙Pを1枚ずつ印刷装置94に送り込む給紙装置(給紙手段)95と、印刷装置94および給紙装置95を制御する制御部(制御手段)96とを有している。
【0132】
制御部96の制御により、給紙装置95は、記録用紙Pを一枚ずつ間欠送りする。この記録用紙Pは、ヘッドユニット93の下部近傍を通過する。このとき、ヘッドユニット93が記録用紙Pの送り方向とほぼ直交する方向に往復移動して、記録用紙Pへの印刷が行なわれる。すなわち、ヘッドユニット93の往復動と記録用紙Pの間欠送りとが、印刷における主走査および副走査となって、インクジェット方式の印刷が行なわれる。
【0133】
印刷装置94は、ヘッドユニット93と、ヘッドユニット93の駆動源となるキャリッジモータ941と、キャリッジモータ941の回転を受けて、ヘッドユニット93を往復動させる往復動機構942とを備えている。
ヘッドユニット93は、その下部に、多数のノズル孔111を備えるインクジェット式記録ヘッド10(以下、単に「ヘッド10」と言う。)と、ヘッド10にインクを供給するインクカートリッジ931と、ヘッド10およびインクカートリッジ931を搭載したキャリッジ932とを有している。
【0134】
なお、インクカートリッジ931として、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック(黒)の4色のインクを充填したものを用いることにより、フルカラー印刷が可能となる。
往復動機構942は、その両端をフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸943と、キャリッジガイド軸943と平行に延在するタイミングベルト944とを有している。
【0135】
キャリッジ932は、キャリッジガイド軸943に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト944の一部に固定されている。
キャリッジモータ941の作動により、プーリを介してタイミングベルト944を正逆走行させると、キャリッジガイド軸943に案内されて、ヘッドユニット93が往復動する。そして、この往復動の際に、ヘッド10から適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0136】
給紙装置95は、その駆動源となる給紙モータ951と、給紙モータ951の作動により回転する給紙ローラ952とを有している。
給紙ローラ952は、記録用紙Pの送り経路(記録用紙P)を挟んで上下に対向する従動ローラ952aと駆動ローラ952bとで構成され、駆動ローラ952bは給紙モータ951に連結されている。これにより、給紙ローラ952は、トレイ921に設置した多数枚の記録用紙Pを、印刷装置94に向かって1枚ずつ送り込めるようになっている。なお、トレイ921に代えて、記録用紙Pを収容する給紙カセットを着脱自在に装着し得るような構成であってもよい。
【0137】
制御部96は、例えばパーソナルコンピュータやディジタルカメラ等のホストコンピュータから入力された印刷データに基づいて、印刷装置94や給紙装置95等を制御することにより印刷を行うものである。
制御部96は、いずれも図示しないが、主に、各部を制御する制御プログラム等を記憶するメモリ、圧電素子(振動源)14を駆動して、インクの吐出タイミングを制御する圧電素子駆動回路、印刷装置94(キャリッジモータ941)を駆動する駆動回路、給紙装置95(給紙モータ951)を駆動する駆動回路、および、ホストコンピュータからの印刷データを入手する通信回路と、これらに電気的に接続され、各部での各種制御を行うCPUとを備えている。
【0138】
また、CPUには、例えば、インクカートリッジ931のインク残量、ヘッドユニット93の位置等を検出可能な各種センサ等が、それぞれ電気的に接続されている。
制御部96は、通信回路を介して、印刷データを入手してメモリに格納する。CPUは、この印刷データを処理して、この処理データおよび各種センサからの入力データに基づいて、各駆動回路に駆動信号を出力する。この駆動信号により圧電素子14、印刷装置94および給紙装置95は、それぞれ作動する。これにより、記録用紙Pに印刷が行われる。
【0139】
以下、ヘッド10(本発明の液滴吐出ヘッド)について、図7および図8を参照しつつ詳述する。
ヘッド10は、ノズル板11と、インク室基板12と、振動板13と、振動板13に接合された圧電素子(振動源)14とを備えるヘッド本体17と、このヘッド本体17を収納する基体16とを有している。なお、このヘッド10は、オンデマンド形のピエゾジェット式ヘッドを構成する。
【0140】
ノズル板11は、例えば、SiO、SiN、石英ガラスのようなシリコン系材料、Al、Fe、Ni、Cuまたはこれらを含む合金のような金属系材料、アルミナ、酸化鉄のような酸化物系材料、カーボンブラック、グラファイトのような炭素系材料等で構成されている。
このノズル板11には、インク滴を吐出するための多数のノズル孔111が形成されている。これらのノズル孔111間のピッチは、印刷精度に応じて適宜設定される。
【0141】
ノズル板11には、インク室基板12が固着(固定)されている。
このインク室基板12は、ノズル板11、側壁(隔壁)122および後述する振動板13により、複数のインク室(キャビティ、圧力室)121と、インクカートリッジ931から供給されるインクを貯留するリザーバ室123と、リザーバ室123から各インク室121に、それぞれインクを供給する供給口124とが区画形成されている。
【0142】
各インク室121は、それぞれ短冊状(直方体状)に形成され、各ノズル孔111に対応して配設されている。各インク室121は、後述する振動板13の振動により容積可変であり、この容積変化により、インクを吐出するよう構成されている。
インク室基板12を得るための母材としては、例えば、シリコン単結晶基板、各種ガラス基板、各種樹脂基板等を用いることができる。これらの基板は、いずれも汎用的な基板であるので、これらの基板を用いることにより、ヘッド10の製造コストを低減することができる。
【0143】
一方、インク室基板12のノズル板11と反対側には、振動板13が接合され、さらに振動板13のインク室基板12と反対側には、複数の圧電素子14が設けられている。
また、振動板13の所定位置には、振動板13の厚さ方向に貫通して連通孔131が形成されている。この連通孔131を介して、前述したインクカートリッジ931からリザーバ室123に、インクが供給可能となっている。
【0144】
各圧電素子14は、それぞれ、下部電極142と上部電極141との間に圧電体層143を介挿してなり、各インク室121のほぼ中央部に対応して配設されている。各圧電素子14は、圧電素子駆動回路に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)するよう構成されている。
各圧電素子14は、それぞれ、振動源として機能し、振動板13は、圧電素子14の振動により振動し、インク室121の内部圧力を瞬間的に高めるよう機能する。
基体16は、例えば各種樹脂材料、各種金属材料等で構成されており、この基体16にノズル板11が固定、支持されている。すなわち、基体16が備える凹部161に、ヘッド本体17を収納した状態で、凹部161の外周部に形成された段差162によりノズル板11の縁部を支持する。
【0145】
以上のような、ノズル板11とインク室基板12との接合、インク室基板12と振動板13との接合、およびノズル板11と基体16との接合のうち、少なくとも1箇所に本発明の接合方法が用いられている。
換言すれば、ノズル板11とインク室基板12との接合体、インク室基板12と振動板13との接合体、およびノズル板11と基体16との接合体のうち、少なくとも1箇所に本発明の接合体が適用されている。
このようなヘッド10は、上記の接合界面にプラズマ重合膜が介挿されて接合されている。このため、接合界面の接合強度および耐薬品性が高くなっており、これにより、各インク室121に貯留されたインクに対する耐久性および液密性が高くなっている。その結果、ヘッド10は、信頼性の高いものとなる。
【0146】
また、非常に低温で信頼性の高い接合ができるため、線膨張係数の異なる材料でも大面積のヘッドができる点でも有利である。
また、ヘッド10の一部に本発明の接合体が適用されていると、寸法精度の高いヘッド10を構築することができる。このため、ヘッド10から吐出されたインク滴の吐出方向や、ヘッド10と記録用紙Pとの離間距離を高度に制御することができ、インクジェットプリンタ9による印字結果の品位を高めることができる。
【0147】
また、各接合体における接合部の面積や、その配置を適宜制御することにより、各接合体の接合界面に生じる応力の局所集中を緩和することができる。これにより、例えば、ノズル板11とインク室基板12との間、インク室基板12と振動板13との間、および、ノズル板11と基体16との間で、それぞれ両者の熱膨張率差が大きい場合でも、両者の部材を確実に接合することができる。
さらに、接合界面に生じる応力の局所集中を緩和することにより、接合体の剥離や変形(反り)等を確実に防止することができる。これにより、信頼性の高いヘッド10およびインクジェットプリンタ9が得られる。
【0148】
このようなヘッド10は、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力されていない状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に電圧が印加されていない状態では、圧電体層143に変形が生じない。このため、振動板13にも変形が生じず、インク室121には容積変化が生じない。したがって、ノズル孔111からインク滴は吐出されない。
【0149】
一方、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力された状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に一定電圧が印加された状態では、圧電体層143に変形が生じる。これにより、振動板13が大きくたわみ、インク室121の容積変化が生じる。このとき、インク室121内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル孔111からインク滴が吐出される。
【0150】
1回のインクの吐出が終了すると、圧電素子駆動回路は、下部電極142と上部電極141との間への電圧の印加を停止する。これにより、圧電素子14は、ほぼ元の形状に戻り、インク室121の容積が増大する。なお、このとき、インクには、インクカートリッジ931からノズル孔111へ向かう圧力(正方向への圧力)が作用している。このため、空気がノズル孔111からインク室121へ入り込むことが防止され、インクの吐出量に見合った量のインクがインクカートリッジ931(リザーバ室123)からインク室121へ供給される。
【0151】
このようにして、ヘッド10において、印刷させたい位置の圧電素子14に、圧電素子駆動回路を介して吐出信号を順次入力することにより、任意の(所望の)文字や図形等を印刷することができる。
なお、ヘッド10は、圧電素子14の代わりに電気熱変換素子を有していてもよい。つまり、ヘッド10は、電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用してインクを吐出する構成(いわゆる、「バブルジェット方式」(「バブルジェット」は登録商標))のものであってもよい。
【0152】
かかる構成のヘッド10において、ノズル板11には、撥液性を付与することを目的に形成された被膜114が設けられている。これにより、ノズル孔111からインク滴が吐出される際に、このノズル孔111の周辺にインク滴が残存するのを確実に防止することができる。その結果、ノズル孔111から吐出されたインク滴を目的とする領域に確実に着弾させることができる。
【0153】
以上、本発明の接合方法、接合体、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の接合方法では、必要に応じて、1以上の任意の目的の工程を追加してもよい。
また、本発明の接合体は、液滴吐出ヘッド以外のものに適用可能であることは言うまでもない。具体的には、本発明の接合体は、例えば、半導体装置、MEMS、マイクロリアクタ等に適用することができる。
【実施例】
【0154】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.接合体の製造
以下、各実施例および各比較例では、それぞれ接合体を20個作製する。
(実施例1)
まず、第1の基材として、縦20mm×横20mm×平均厚さ1mmの単結晶シリコン基板を用意し、第2の基材として、縦20mm×横20mm×平均厚さ1mmのガラス基板を用意した。
次いで、シリコン基板とガラス基板の双方を、図1に示すプラズマ重合装置100のチャンバー101内に収納し、酸素プラズマによる下地処理を行った。
次に、シリコン基板とガラス基板の下地処理を行った各面に、それぞれ平均厚さ200nmのプラズマ重合膜を成膜した。なお、成膜条件は以下に示す通りである。
【0155】
<成膜条件>
・原料ガスの組成 :オクタメチルトリシロキサン
・原料ガスの流量 :50sccm
・キャリアガスの組成:アルゴン
・キャリアガスの流量:100sccm
・高周波電力の出力 :100W
・高周波出力密度 :25W/cm
・チャンバー内圧力 :1Pa(低真空)
・処理時間 :15分
・基板温度 :20℃
【0156】
次に、得られたプラズマ重合膜に、それぞれ以下に示す条件で紫外線を照射した。なお、紫外線を照射した領域は、ガラス基板に形成したプラズマ重合膜の表面全体と、シリコン基板に形成したプラズマ重合膜の表面のうち、周縁部の幅3mmの枠状の領域とした。
<紫外線照射条件>
・雰囲気ガスの組成 :大気(空気)
・雰囲気ガスの温度 :20℃
・雰囲気ガスの圧力 :大気圧(100kPa)
・紫外線の波長 :172nm
・紫外線の照射時間 :5分
【0157】
次に、各プラズマ重合膜の紫外線を照射した面同士が接触するように、シリコン基板とガラス基板とを重ね合わせた。
そして、シリコン基板とガラス基板とを3MPaで加圧しつつ、80℃で加熱し、15分間維持した。これにより、シリコン基板とガラス基板とを、周縁部の幅3mmの枠状の領域で部分的に接合し、接合体を得た。
【0158】
(実施例2)
加熱の温度を80℃から25℃に変更した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
(実施例3、7〜9、11〜12)
第1の基材の構成材料および第2の基材の構成材料を、それぞれ表1に示す材料に変更した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
【0159】
(実施例4)
まず、第1の基材として、縦20mm×横20mm×平均厚さ1mmの単結晶シリコン基板を用意し、第2の基材として、縦20mm×横20mm×平均厚さ1mmのステンレス鋼基板を用意した。
次いで、シリコン基板を、図1に示すプラズマ重合装置100のチャンバー101内に収納し、酸素プラズマによる下地処理を行った。
【0160】
次に、下地処理を行った面に、平均厚さ200nmのプラズマ重合膜を成膜した。なお、成膜条件は、前記実施例1と同様である。
次に、前記実施例1と同様にして、プラズマ重合膜に紫外線を照射した。なお、紫外線を照射した領域は、シリコン基板に形成したプラズマ重合膜の表面のうち、周縁部の幅3mmの枠状の領域とした。
【0161】
次に、ステンレス鋼基板にも、シリコン基板と同様にして、酸素プラズマによる下地処理を行った。
次に、プラズマ重合膜の紫外線を照射した面と、ステンレス鋼基板の下地処理を行った面とが接触するように、シリコン基板とステンレス鋼基板とを重ね合わせた。
そして、各基板を3MPaで加圧しつつ、80℃で加熱し、15分間維持した。これにより、各基材を接合し、接合体を得た。
【0162】
(実施例5)
加熱の温度を80℃から25℃に変更した以外は、前記実施例4と同様にして接合体を得た。
(実施例6、10、13)
第1の基材の構成材料および第2の基材の構成材料を、それぞれ表1に示す材料に変更した以外は、前記実施例4と同様にして接合体を得た。
【0163】
(実施例14)
高周波電力の出力を150W(高周波出力密度を37.5W/cm)に変更した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
(実施例15)
高周波電力の出力を200W(高周波出力密度を50W/cm)に変更した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
【0164】
(実施例16〜18)
原料ガスを表1に示す組成のガスに変更し、プラズマ重合膜の組成を変更した以外は、それぞれ前記実施例1、3、4と同様にして接合体を得た。
(比較例1〜3)
第1の基材の構成材料および第2の基材の構成材料を、それぞれ表1に示す材料とし、各基材間をエポキシ系接着剤で接着した以外は、それぞれ前記実施例1、3、4と同様にして接合体を得た。
【0165】
(比較例4)
プラズマ重合膜に代えて、以下のようにして接合膜を形成するようにした以外は、前記実施例1と同様にして、接合体を得た。
まず、シリコーン材料としてポリジメチルシロキサン骨格を有するものを含有し、溶媒としてトルエンおよびイソブタノールを含有する液状材料(信越化学工業社製、「KR−251」:粘度(25℃)18.0mPa・s)を用意した。
【0166】
次いで、単結晶シリコン基板の表面に酸素プラズマによる表面処理を行った後、この面に液状材料を塗布した。
次いで、得られた液状被膜を常温(25℃)で24時間乾燥させた。これにより、接合膜を得た。
また、これと同様にして、ガラス基板に酸素プラズマによる表面処理を行った後、この面に接合膜を得た。
そして、各接合膜の周縁部の幅3mmの枠状の領域に選択的に紫外線を照射した。
次いで、接合膜同士が密着するようにシリコン基板とガラス基板とを加圧しつつ加熱した。これにより、シリコン基板とガラス基板とが接合膜を介して接合された接合体を得た。
【0167】
(比較例5〜10)
第1の基材の構成材料および第2の基材の構成材料を、それぞれ表1に示す材料に変更した以外は、前記比較例4と同様にして接合体を得た。
(比較例11)
プラズマ重合膜に代えて、以下のようにして接合膜を形成するようにした以外は、前記実施例1と同様にして、接合体を得た。
まず、単結晶シリコン基板の表面に酸素プラズマによる表面処理を行った後、この面の周縁部の幅3mmの枠状の領域に選択的にヘキサメチルジシラザン(HMDS)の蒸気をあてることによって、HMDSで構成された接合膜を得た。
また、これと同様にして、ガラス基板に酸素プラズマによる表面処理を行った後、この面にHMDSで構成された接合膜を得た。
そして、各接合膜の周縁部の幅3mmの枠状の領域に選択的に紫外線を照射した。
次いで、接合膜同士が密着するようにシリコン基板とガラス基板とを加圧しつつ加熱した。これにより、シリコン基板とガラス基板とが接合膜を介して接合された接合体を得た。
(参考例1〜3)
紫外線を照射する領域を変更し、ガラス基板に形成されたプラズマ重合膜とシリコン基板に形成されたプラズマ重合膜の各表面全体にそれぞれ紫外線を照射した以外は、前記実施例1、3、4と同様にして接合体を得た。
【0168】
2.接合体の評価
2.1 接合強度(割裂強度)の評価
各実施例、各比較例および各参考例で得られた接合体について、それぞれ接合強度を測定した。
その結果、各実施例で得られた接合体の接合強度は、いずれも各参考例で得られた接合体の接合強度より小さかった。このことから、接合する領域を、接合面の一部とするか、または全部とするかを選択することによって、すなわち接合部の面積を変えることによって、接合強度を調整可能であることが明らかとなった。
また、各実施例で得られた接合体の接合強度は、いずれも各比較例で得られた接合体の接合強度より大きかった。
【0169】
2.2 寸法精度の評価
各実施例、各比較例および各参考例で得られた接合体について、それぞれ厚さ方向の寸法精度を測定した。
寸法精度の測定は、正方形の接合体の各角部の厚さを測定し、4箇所の厚さの最大値と最小値の差を算出することにより行った。そして、この差を以下の基準にしたがって評価した。
<寸法精度の評価基準>
○:10μm未満
×:10μm以上
【0170】
2.3 耐薬品性の評価
各実施例、各比較例および各参考例で得られた接合体のうち各10個を、80℃に維持したインクジェットプリンタ用インク(エプソン社製、HQ4)に、以下の条件で3週間浸漬した。また、接合体の残りの10個を、同様のインクに50日間浸漬した。そして、各基材を引き剥がし、接合界面にインクが浸入していないかを確認した。そして、その結果を以下の基準にしたがって評価した。
【0171】
<耐薬品性の評価基準>
◎:全く浸入していない
○:角部にわずかに浸入している
△:縁部に沿って浸入している
×:内側に浸入している
【0172】
2.4 赤外線吸収(FT−IR)の評価
各実施例、各比較例および各参考例で得られた接合体中の接合膜について、それぞれ赤外光吸収スペクトルを取得した。そして、各スペクトルについて、(1)シロキサン(Si−O)結合に帰属するピークに対するSi−H結合に帰属するピークの相対強度と、(2)シロキサン結合に帰属するピークに対するメチル基に帰属するピークの相対強度とを算出した。
2.5 屈折率の評価
各実施例、各比較例および各参考例で得られた接合体中の接合膜について、それぞれ屈折率を測定した。
【0173】
2.6 光透過率の評価
各実施例、各比較例および各参考例で得られた接合体のうち、光透過率の測定が可能なものについて、光透過率を測定した。そして、得られた光透過率を以下の評価基準にしたがって評価した。
<光透過率の評価基準>
◎:95%超
○:90%超95%未満
△:85%超90%未満
×:85%未満
【0174】
2.7 形状変化の評価
各実施例、各比較例および各参考例で得られた接合体について、それぞれの接合体の接合前後における形状変化を測定した。
具体的には、接合体の反り量を、接合前後で測定し、以下の基準にしたがって評価した。
【0175】
<反り量の評価基準>
◎:接合前後で反り量がほとんど変化しなかった
○:接合前後で反り量がわずかに変化した
△:接合前後で反り量がやや大きく変化した
×:接合前後で反り量が大きく変化した
以上、2.2〜2.7の評価結果を表1に示す。
【0176】
【表1】

【0177】
表1から明らかなように、各実施例で得られた接合体は、寸法精度および耐薬品性のいずれの項目においても、各比較例で得られた接合体に比べて優れた特性を示した。
また、各実施例で得られた接合体は、各参考例で得られた接合体よりも反り量の変化が小さかった。
また、実施例5では、実施例4に比べて加熱温度を低く設定したことにより、得られた接合体の反り量の変化を抑えることができた。
以上のことから、各実施例で得られた接合体は、接合強度、寸法精度、耐薬品性および反り量の変化のいずれの項目においても、優れた特性を示すことが明らかとなった。
【符号の説明】
【0178】
1……接合体 21……第1の基材 22……第2の基材 23、24……接合面 3、301、302……プラズマ重合膜 31、303、304……表面 310、311、312……所定領域 313……接合部 4……マスク 41……窓部 100……プラズマ重合装置 101……チャンバー 102……接地線 103……供給口 104……排気口 130……第1の電極 139……静電チャック 140……第2の電極 170……ポンプ 171……圧力制御機構 180……電源回路 182……高周波電源 183……マッチングボックス 184……配線 190……ガス供給部 191……貯液部 192……気化装置 193……ガスボンベ 194……配管 195……拡散板 10……インクジェット式記録ヘッド 11……ノズル板 111……ノズル孔 114……被膜 12……インク室基板 121……インク室 122……側壁 123……リザーバ室 124……供給口 13……振動板 131……連通孔 14……圧電素子 141……上部電極 142……下部電極 143……圧電体層 16……基体 161……凹部 162……段差 17……ヘッド本体 9……インクジェットプリンタ 92……装置本体 921……トレイ 922……排紙口 93……ヘッドユニット 931……インクカートリッジ 932……キャリッジ 94……印刷装置 941……キャリッジモータ 942……往復動機構 943……キャリッジガイド軸 944……タイミングベルト 95……給紙装置 951……給紙モータ 952……給紙ローラ 952a……従動ローラ 952b……駆動ローラ 96……制御部 97……操作パネル P……記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にプラズマ重合膜を備えた第1の被着体の前記プラズマ重合膜の表面のうち、一部の所定領域に対して選択的にエネルギーを付与して、前記プラズマ重合膜の表面の前記所定領域を活性化させる第1の工程と、
前記活性化させたプラズマ重合膜の表面と第2の被着体とを密着させることにより、前記第1の被着体と前記第2の被着体とが、前記プラズマ重合膜の表面の前記所定領域において部分的に接合した接合体を得る第2の工程とを有し、
前記プラズマ重合膜は、Si−H結合を含むポリオルガノシロキサンを主材料として構成されたものであり、
前記ポリオルガノシロキサンの赤外光吸収スペクトルは、シロキサン結合が帰属するピーク強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピーク強度が0.001〜0.2であることを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記第2の被着体は、表面に、水酸基、および前記第2の被着体中の結合が切れてなる活性な結合手の少なくとも一方が存在しており、
前記第2の工程において、前記プラズマ重合膜と、前記第2の被着体の前記表面とを密着させる請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記第2の被着体は、前記表面が酸化膜で覆われている請求項2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記第2の被着体は、基材と、該基材上に設けられ、前記第1の被着体が備える前記プラズマ重合膜と同様のプラズマ重合膜とを有するものであり、
該第2の被着体が備えるプラズマ重合膜は、前記プラズマ重合膜の表面にエネルギーを付与され、該表面が活性化されたものである請求項2に記載の接合方法。
【請求項5】
前記第2の被着体が備えるプラズマ重合膜は、その表面の一部の所定領域に対して選択的にエネルギーを付与して、該第2の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記所定領域を活性化させたものである請求項4に記載の接合方法。
【請求項6】
前記第1の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記所定領域、および、前記第2の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記所定領域は、それぞれ、その平面視形状が、互いに交差する関係にあるストライプ状をなしている請求項5に記載の接合方法。
【請求項7】
前記第2の工程において、前記第1の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記所定領域と、前記第2の被着体が備えるプラズマ重合膜の表面の前記活性化された領域とが重なった部分において、前記第1の被着体と前記第2の被着体とが部分的に接合する請求項4ないし6のいずれかに記載の接合方法。
【請求項8】
前記プラズマ重合膜の表面に対してエネルギー線を照射することにより、前記プラズマ重合膜の表面の前記活性化を行う請求項1ないし7のいずれかに記載の接合方法。
【請求項9】
前記光は、波長150〜300nmの紫外光である請求項8に記載の接合方法。
【請求項10】
前記エネルギー線の照射は、大気雰囲気中で行われる請求項8または9に記載の接合方法。
【請求項11】
前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物である請求項1ないし10のいずれかに記載の接合方法。
【請求項12】
前記ポリオルガノシロキサンについての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、メチル基に帰属するピーク強度が0.05〜0.45である請求項1ないし11のいずれかに記載の接合方法。
【請求項13】
前記プラズマ重合膜の平均厚さは、10〜10000nmである請求項1ないし12のいずれかに記載の接合方法。
【請求項14】
前記第2の工程の後、前記接合体に熱処理を施す工程を有する請求項1ないし13のいずれかに記載の接合方法。
【請求項15】
前記第2の工程の後、前記接合体を加圧する工程を有する請求項1ないし14のいずれかに記載の接合方法。
【請求項16】
前記第1の被着体は、あらかじめ、前記基材上にプラズマによる下地処理を施した後、該下地処理を施した領域に前記プラズマ重合膜を形成してなるものである請求項1ないし15のいずれかに記載の接合方法。
【請求項17】
第1の基材および第2の基材と、
プラズマ重合膜と、を有し、
該プラズマ重合膜のうちの一部の所定領域を介して、前記第1の基材と前記第2の基材とが部分的に接合されており、
前記プラズマ重合膜は、Si−H結合を含むポリオルガノシロキサンを主材料として構成されたものであり、
前記ポリオルガノシロキサンの赤外光吸収スペクトルは、シロキサン結合が帰属するピーク強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピーク強度が0.001〜0.2であることを特徴とする接合体。
【請求項18】
請求項17に記載の接合体を備えることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項19】
請求項18に記載の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−74395(P2011−74395A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282279(P2010−282279)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【分割の表示】特願2008−145156(P2008−145156)の分割
【原出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】