説明

接着剤とそれを用いた仮接着方法

【課題】高い接着性を有しているにも拘わらず、酸の作用により分解して優れた剥離性を発現できる接着剤を提供する。
【解決手段】接着剤は、下記式(1)及び(2)で表される単位を繰り返し単位として有する重合体を含む。


(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基などを示し、Rは置換基を有していてもよいアリール基などを示す)酸発生剤を含有させることにより、活性エネルギー線の照射に伴って重合体を分解できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセタール構造を有する重合体を含む接着剤、及びこの接着剤を用いた接着方法(仮接着方法)並びに被着体の加工方法(又は加工された被着体の製造方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造工程には、パターンを形成したウエハの裏面を研磨(又は研削)する工程(バックグラインド工程)や、研磨により薄膜化されたウエハをチップに切断する工程(ダイシング工程)が含まれる。バックグラインド工程では、通常、研磨の際にウエハを保護するため、予め、少なくとも粘着層(接着層)からなり、かつ保護シートとしてのバックグラインドテープを用いてウエハ(ウエハの回路面など)と固定部材とを接着・積層し、ウエハの裏面を研磨したのち、バックグラインドテープをウエハから剥離し、薄膜化されたウエハを得ている。
【0003】
そのため、バックグラインドテープの粘着層には、研磨によってもウエハを十分に保護(固定)できるだけの十分な接着性と研磨後の剥離容易性とが要求される。このような粘着層は、現状では、粘着性(接着性)と硬化収縮による剥離性を利用するため、一般的には硬化性樹脂で形成されている。例えば、特開2001−200215号公報(特許文献1)には、半導体ウエハ加工時において用いられる、半導体ウエハ表面に貼り付けて半導体ウエハを保持保護するための粘着シートであって、基材の片面に実質的に放射線非硬化型の粘着剤層を形成し、基材の他方の面に放射線によって硬化し、粘着力が低下する放射線硬化型粘着剤層を設けた半導体ウエハ加工用粘着シート(バックグラインドシート又はバックグラインドテープ)が開示されている。
【0004】
このような粘着シートは、接着剤又は粘着剤が硬化に伴って収縮することを利用して剥離性を発現させている。しかし、このような硬化性樹脂を利用する方法では、十分な剥離性を担保できない。また、剥離後も、粘着層がウエハ上に残存したり、また、このような残存した粘着層を十分にウエハから分離できなくなる場合がある。さらに、粘着層の硬化後、ウエハと保護シート(粘着層)との剥離工程では、既に薄膜化されたウエハに割れが生じる場合がある。
【0005】
なお、特開2010−261000号公報(特許文献2)には、ベンズアルデヒド類と電子吸引性基を有するアルキルビニルエーテル類との交互共重合体が、酸により加水分解して低分子化合物となり、感光性樹脂などの機能性ポリマーとして利用できることが記載されている。しかし、接着剤としての有用性は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−200215号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2010−261000号公報(特許請求の範囲、[発明の効果])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、アセタール構造を有する重合体を接着成分とする接着剤およびこの接着剤を用いた接着方法(仮接着又は仮止め方法)を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、高い接着性(例えば、熱接着性)を有しているにも拘わらず、酸の作用により分解して優れた剥離性を発現できる接着剤およびこの接着剤を用いた接着方法(仮接着又は仮止め方法)を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、互いに強固に接着した被着体を簡便に剥離可能な接着剤と、この接着剤を用いる、加工された被着体の製造方法(又は被着体の加工方法)を提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、被加工部材の表面を接着剤又は粘着剤層で被覆し、被加工部材の裏面を加工した後、接着剤又は粘着剤層からの被加工研磨部材の分離性(剥離性)を向上又は改善できる仮接着テープ又は保護テープ、及び被加工部材の製造方法(又は加工方法)、例えば、被研磨部材(半導体ウエハなどのウエハなど)を研磨加工(バックグラインド処理など)した後、研磨された被研磨部材を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、カルボニル化合物(例えば、アルデヒド化合物)とビニルエーテル系化合物との反応などにより得られるアセタール構造を有する重合体が粘着性又は接着性(例えば、ホットメルト接着性又は熱接着性)を有し、接着剤として好適に利用できること、しかも、このような接着剤は、酸の作用により分解(低分子化)するためか、容易に接着性を低下させて高い剥離性を発現でき、被着体を仮止め(仮止め固定)するための仮止め用接着剤や研磨加工に供されるウエハなどの被研磨部材の保護シートの接着剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の接着剤は、下記式(1)及び(2)で表される単位を繰り返し単位として有する重合体(又は共重合体)を含んでいる。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rは、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示し、Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基を示し、前記アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基及び複素環基から選択された少なくとも1つの基は、置換基を有していてもよい)
前記式(1)において、Rは、直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状C2−10アルケニル基又はC5−10シクロアルキル基であってもよく、これらのアルキル基、アルケニル基及びシクロアルキル基は、ハロゲン原子及びアルコキシ基から選択された少なくとも1つの置換基を有していてもよい。さらに、Rは、ハロゲン原子及び直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ基から選択された少なくとも1つの置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基であってもよい。
【0015】
また、前記式(2)において、Rは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ニトロ基から選択された少なくとも1つの置換基を有していてもよいアリール基であってもよい。さらに、Rは、ハロゲン原子、直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ基、C1−4アルコキシ−C1−4アルキル基から選択された少なくとも1つの置換基を有していてもよいC6−12アリール基であってもよい。
【0016】
さらに、前記重合体において、式(2)で表される単位は、下記式(2a)で表される単位であってもよい。
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、Rは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、又はアルコキシアルキル基を示し、pは0又は1〜5の整数を示し、係数pが2以上であるとき、Rの種類は異なっていてもよい。Rは前記に同じ)
さらには、前記重合体は、下記式(3)で表される繰り返し単位を有する交互共重合体であってもよい。
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、R及びRは前記に同じ)
前記重合体(又は共重合体)は、通常、常温で固体であり、ホットメルト接着性を有する。本発明の接着剤は、さらに、酸発生剤(熱又は光酸発生剤)を含んでいてもよい。このような接着剤は、分解性接着剤(熱又は光分解性接着剤)を形成し、活性エネルギー線(熱線、光線)の照射により酸発生剤から酸を発生させ、この酸により重合体を分解できる。そのため、前記接着剤は、活性エネルギー線の照射により、互いに接着した被着体を剥離するための仮止め接着剤、被加工部材の表面を被覆して保護し、裏面を加工した後、加工された部材の表面から被覆層を分離するための接着剤(例えば、研磨の際にウエハの表面を保護する保護層を形成するための接着剤)として有用である。従って、本発明は、前記接着剤で形成された接着層を備えた仮接着テープ(又は仮接着フィルム);前記接着剤で形成された接着層を備えた保護テープ(バックグラインドテープ又はバックグラインドフィルムなど)も包含する。
【0021】
本発明の被着体の仮接着方法では、前記酸発生剤を含む接着剤を用いて被着体を互いに接着する接着工程と、接着された被着体のうち、少なくとも接着界面に活性エネルギー線(活性光線、熱線など)を照射(又は付与)して重合体を分解する分解工程(酸発生剤から発生した酸により重合体を分解する分解工程)と、互いに接着された被着体を分離する分離工程(被着体を、重合体が分解した接着剤から分離する分離工程)とを含む。
【0022】
また、本発明は、酸発生剤を含む接着剤を用いて、被着体としての被加工部材の一方の面と、加工手段に対して相対的に運動可能な被固定部材とを接着させる接着工程と、加工手段により被加工部材の他方の面を加工する加工工程と、少なくとも接着界面に活性エネルギー線を照射して重合体を分解する分解工程と、被固定部材と加工された被加工部材とを分離する分離工程とを含む、加工された部材の製造方法(又は被加工部材の加工方法)も包含する。
【0023】
本発明は、被着体としての被加工部材の一方の面を、少なくとも接着剤(酸発生剤を含む接着剤)で被覆する被覆工程と、加工手段により被加工部材の他方の面を加工する加工工程と、少なくとも接着界面に活性エネルギー線を照射して重合体を分解する分解工程と、加工された被加工部材と被覆接着剤層とを分離する分離工程とを含む、加工された部材の製造方法(被加工部材の加工方法又は被加工部材の保護方法)も含む。
【0024】
本発明は、さらに、被着体としての被研磨部材(ウエハなど)の一方の面(回路面などの保護面)を、少なくとも接着剤(酸発生剤を含む接着剤)で被覆する被覆工程と、研磨手段により被研磨部材の他方の面(接着面とは反対側の面)を研磨する研磨工程と、少なくとも接着界面に活性エネルギー線を照射(又は付与)して重合体を分解する分解工程と、研磨された被研磨部材と被覆接着剤層とを分離する分離工程とを含む、研磨された部材(ウエハなど)の製造方法(被研磨部材の加工方法又は被研磨部材の保護方法)も包含する。
【0025】
これらの方法において、接着工程では、接着剤を加熱してホットメルトにより接着させてもよい。例えば、接着工程において、接着剤と被着体とを50〜150℃で接着させてもよい。また、光酸発生剤を含む接着剤を用い、分解工程で、活性エネルギー光線を照射して加熱し、酸発生剤から発生した酸により重合体を分解してもよい。さらに、重合体の分解により接着性が低下するので、分離工程では、被固定部材(又は接着剤層)に対して被着体をスライドさせて(接着面に対してほぼ平行な方向へ相対的に移動させて)分離してもよい。さらには、前記方法は、分離工程の後、さらに、被着体の剥離面(接着剤との接着面)を洗浄する洗浄工程を含んでいてもよい。
【0026】
なお、本明細書において、「接着剤」とは、2つの固体部材を接着させる成分に限らず、固体部材の表面(保護面など)を被覆又は保護する被覆層又は保護層を形成する成分をも意味する。「テープ」とは特に断りがない限りフィルム又はシートを含む意味に用いる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の接着剤は、アセタール構造を有する特定の重合体を含んでおり、高い接着性(例えば、熱接着性)を有している。そのため、種々の被着体の接着に有用である。また、高い接着性(例えば、熱接着性)を有しているにも拘わらず、酸の作用により分解して優れた剥離性を発現できる。そのため、互いに強固に接着した被着体を簡便に剥離でき、接着性と剥離性との両立が要求される被加工部材の仮止め接着剤などとして好適である。また、被加工部材を被覆して保護し、加工した後、加工された部材を分離又は剥離するための仮接着テープ又は保護テープとして有用であり、例えば、保護テープ(バックグラインドテープなど)の接着剤などとして好適である。さらに、重合体の分解による剥離性を利用して、接着剤層又は保護層に対する加工された被加工部材の分離性(剥離性)を向上又は改善できる。そのため、本発明は、加工された部材(例えば、バックグラインド処理後又研磨されたウエハなどの研磨された部材)の製造方法、又は被加工部材(例えば、研磨に供されるウエハなどの被研磨部材)の加工方法としても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の接着剤は、繰り返し単位として、前記式(1)及び(2)で表される単位を有する重合体を含んでおり、この重合体は、特定のアセタール構造(アセタールの一方の酸素原子(エーテル結合)を主鎖に有し、他方の酸素原子(エーテル結合)を側鎖に有する構造)を有している。
【0029】
式(1)において、Rは、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。Rで表されるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキル基などが例示できる。好ましいアルキル基は、例えば、直鎖状又は分岐鎖状C1−8アルキル基、特に直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基である。
【0030】
アルケニル基としては、例えば、2−プロペニル基(アリル基)、2−ブテニル基などの直鎖状又は分岐鎖状C2−10アルケニル基などが例示できる。好ましいアルケニル基は、例えば、直鎖状又は分岐鎖状C2−6アルケニル基、特に直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルケニル基である。
【0031】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル、シクロへキシル、シクロオクチル、シクロデカニル基などのC3−12シクロアルキル基が例示できる。シクロアルキル基には、例えば、ビシクロオクチル基、トリシクロデカニル基などの脂肪族C7−12橋架け環式炭化水素基(二環又は三環式炭化水素基など)も含まれる。好ましいシクロアルキル基は、C5−10シクロアルキル基である。
【0032】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などのC6−12アリール基が例示できる。好ましいアリール基は、C6−10アリール基である。アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6−12アリール−C1−4アルキル基などが例示できる。
【0033】
好ましいRは、直鎖状又は分岐鎖状アルキル基(例えば、C1−10アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基)、直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基(例えば、C2−10アルケニル基、好ましくはC2−6アルケニル基、さらに好ましくはC2−4アルケニル基)、又はシクロアルキル基(例えば、C5−10シクロアルキル基、好ましくはC6−10シクロアルキル基)、特にアルキル基(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基)である。
【0034】
は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルコキシ基など)、カルボニル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルコキシ−カルボニル基など)、シクロアルキルオキシカルボニル基(シクロヘキシルオキシカルボニル基などのC5−10シクロアルキルオキシ−カルボニル基など)、アリールオキシカルボニル基(フェニルオキシカルボニル基などのC6−10アリールオキシ−カルボニル基など)、アラルキルオキシカルボニル基(ベンジルオキシカルボニル基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ−カルボニル基など)、アシル基(ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル−カルボニル基、(メタ)アクリロイル基などの直鎖状又は分岐鎖状C2−6アルケニル−カルボニル基、(メタ)アクリロイルオキシ(モノ又はポリ)C2−4アルコキシ基、シクロヘキシルカルボニル基などのC5−10シクロアルキル−カルボニル基、ベンゾイル基、ナフトイル基などのC6−10アリール−カルボニル基など)、スルホニルアルキル基、アルキルスルホニルアルキル基、ホルミル基、カルボニル基(ケトン基)、シアノ基、ニトロ基などが例示できる。これらの置換基は、Rとの関係で電子吸引性基であってもよい。これらの置換基の数は、0〜3程度である場合が多く、複数の置換基が置換する場合、同種又は異種の置換基が置換していてもよい。
【0035】
好ましい置換基は、ハロゲン原子(塩素原子など)及びアルコキシ基(メトキシ、エトキシ、ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ基など)である。このような置換基を有するアルキル基としては、例えば、ハロアルキル基(クロロメチル、クロロエチル、ブロモエチル、クロロプロピル、2,2,2−トリクロエチルトリフルオロエチル基などのハロC1−6アルキル基など)、アルコキシアルキル基[例えば、2−メトキシエチル、2−エトキシエチル、4−メトキシブチル基などのC1−4アルコキシ−C1−4アルキル基など)]などが例示できる。また、重合性基を含む基、例えば、アルケニルカルボニルオキシアルキル基[(メタ)アクリロイルオキシエチル基などのC2−6アルケニル−カルボニルオキシ−C2−6アルキル基など]、アルケニルカルボニルオキシ(モノ又はポリ)アルコキシ基[(メタ)アクリロイルオキシエトキシ基、(メタ)アクリロイルオキシジエトキシ基などのC2−6アルケニル−カルボニルオキシ−(モノ又はポリ)C2−4アルコキシ−C2−6アルキル基など]も好ましい。このような重合性基を利用すると、高エネルギー線や重合開始剤と組み合わせることにより、接着剤の強度、接着強度などを調整できる。
【0036】
式(2)において、Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基を示す。Rで表されるアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基及びアリール基としては、Rと同様の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基、シクロアルキル基及びアリール基が例示できる。好ましいRもRについて記載した基と同様に、直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキル基(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C1−8アルキル基、特に直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基)、直鎖状又は分岐鎖状C2−10アルケニル基(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C2−6アルケニル基、特に直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルケニル基)、C5−10シクロアルキル基(例えば、C6−10シクロアルキル基)、C6−12アリール基(例えば、C6−10アリール基)である。複素環基としては、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選択された少なくとも一種のヘテロ原子を環の構成原子として含む複素環基、例えば、ピリジル、フリル、チオフェニル基などの5又は6員複素環基、これらの複素環基を含む縮合複素環基などが例示できる。
【0037】
好ましいRは、芳香族同素環又は複素環基、例えば、アリール基(フェニル基、ナフチル基などのC6−12アリール基、特にC6−10アリール基)である。
【0038】
で表されるアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基など)、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルコキシ基など)、アルコキシアルキル基(メトキシメチル基、エトキシメチル、エトキシエチル基、エトキシブチル基などのC1−6アルコキシ−C1−6アルキル基など)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルコキシ−カルボニル基など)、シクロアルキルオキシカルボニル基(シクロヘキシルオキシカルボニル基などのC5−10シクロアルキルオキシ−カルボニル基など)、アリールオキシカルボニル基(フェニルオキシカルボニル基などのC6−10アリールオキシ−カルボニル基など)、アラルキルオキシカルボニル基(ベンジルオキシカルボニル基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ−カルボニル基など)、アシル基(ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル−カルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基などのC5−10シクロアルキル−カルボニル基、ベンゾイル基、ナフトイル基などのC6−10アリール−カルボニル基など)、ニトロ基、シアノ基などが例示できる。
【0039】
これらの置換基の種類及び置換基の数は、Rの種類に応じて選択でき、置換基の数は0〜5程度である場合が多い。複数の置換基が置換する場合、同種又は異種の置換基が置換していてもよい。例えば、置換基を有するアルキル基としては、例えば、アリール基を有するアルキル基(例えば、ベンジル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などが例示でき、置換基を有するアルケニル基としては、例えば、アリール基を有するアルケニル基(例えば、2−フェニルビニル基などのC6−10アリール−C2−4アルケニル基など)などが例示できる。
【0040】
好ましいRは置換基を有していてもよいアリール基である。特に、好ましい重合体は、前記式(2a)で表される単位を有する。すなわち、Rが置換基Rを有していてもよいフェニル基である重合体が好ましい。
【0041】
式(2a)において、好ましい置換基は、ハロゲン原子(塩素原子など)、アルキル基(直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基など)、アルコキシ基(直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ基など)、アルコキシアルキル基(C1−4アルコキシ−C1−4アルキル基など)、ニトロ基などである。
【0042】
がアリール基であるとき、代表的な置換基を有するアリール基としては、例えば、ハロアリール基(2−、3−又は4−クロロフェニル基、2,3−、2,4−、2,5−、3,5−ジクロロフェニル基などのハロC6−10アリール基など)、アルキルアリール基(トリル基、キシリル基、4−エチルフェニル基などのC1−4アルキル−C6−10アリール基など)、アルコキシアリール基(2−、3−又は4−メトキシフェニル基、4−エトキシシフェニル基、4−ブトキシフェニル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ−C6−10アリール基など)、アルコキシアルキルアリール基(メトキシメチルフェニル基、エトキシメチルフェニル基、メトキシブチルフェニル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ−C1−4アルキル−C6−10アリール基など)、ニトロアリール基(2−、3−又は4−ニトロフェニル基などのニトロC6−10アリール基など)などが例示できる。
【0043】
式(2a)において、pは、0又は1〜5の整数、好ましくは0又は1〜3の整数(例えば、0、1又は2)である。
【0044】
なお、Rに複数の置換基が置換している場合、複数の置換基の種類は同一又は異なっていてもよい。例えば、式(2a)において係数pが2以上であるとき、Rの種類は同一又は異なっていてもよく、例えば、複数のハロゲン原子、複数のアルキル基又は複数のアルコキシ基などがフェニル基に置換していてもよく、ハロゲン原子及びアルキル基の双方、アルキル基及びアルコキシ基の双方がフェニル基に置換していてもよい。
【0045】
[重合体の構造と特性]
本発明の重合体(共重合体)は、繰り返し単位として、前記式(1)及び(2)で表される単位を有していればよく、ランダム重合体、ブロック重合体、交互共重合体などであってもよい。また、本発明の重合体(共重合体)において、式(1)で表される単位と式(2)で表される単位との割合(モル比)は、例えば、前者/後者=30/70〜70/30、好ましくは40/60〜60/40、さらに好ましくは45/55〜55/45程度であってもよい。特に好ましい重合体(共重合体)は前記式(3)で表される交互共重合体である。この交互共重合体は完全交互共重合体であってもよく、例えば、前記割合(モル比)が前者/後者=45/55〜55/45程度の部分的に不規則な単位(又は繰り返し単位)を有する重合体であってもよい。交互共重合体は、熱又は光による分解に伴って、比較的分子量の大きなオリゴマーなどを残存させることなく、個々の単位に対応する低分子量の化合物を生成するようである。そのためか、交互共重合体は、分解に伴って接着性を大きく低下でき、生成した低分子量化合物は洗浄により容易に除去できるという利点がある。
【0046】
前記重合体の数平均分子量Mnは、例えば、0.1×10〜50×10、好ましくは0.5×10〜25×10、さらに好ましくは1×10〜10×10(例えば、1×10〜5×10)程度である。重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、例えば、1〜3、好ましくは1.1〜2.5、さらに好ましくは1.2〜2(例えば、1.3〜1.5)程度であってもよい。Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量を示す。なお、上記分子量や分子量分布は、例えば、GPC(ゲルパーミエ―ションクロマトグラフィー)を用いたポリスチレン換算での値などとして測定できる。
【0047】
重合体は、通常、常温(例えば、15〜25℃)で固体状である。また、重合体は、接着性(又は粘着性)、特にホットメルト接着(熱接着性)性を有している。そのため、重合体の溶融温度[ホットメルト接着温度(ホットメルト接着可能な温度)]は、30〜150℃、好ましくは50〜140℃、さらに好ましくは80〜120℃程度であってもよい。
【0048】
重合体のガラス転移温度は、示差走査熱量計による測定において、例えば、−20℃〜100℃、好ましくは0〜80℃、さらに好ましくは20〜60℃程度である。
【0049】
なお、重合体の粘度(又は溶融温度)は、100℃において、例えば、0.01〜100Pa・s、好ましくは0.03〜10Pa・s、さらに好ましくは0.05〜5Pa・s(例えば、0.07〜2.5Pa・s)程度であってもよい。なお、粘度は、例えば、レオメーターなどにより測定可能である。
【0050】
前記重合体(共重合体)は、通常、汎用の溶媒に溶解可能である。そのため、コーティング用途にも好適である。このような溶媒としては、例えば、芳香族系溶媒(例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類)、ハロゲン系溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロアルカン類)、アルコール系溶媒(例えば、エタノール、イソプロパノールなどのアルカノール類、3−メトキシブタノールなどのアルコキシアルカノール類など)、エステル系溶媒(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、3−メトキシブチルアセテートなどの酢酸エステル類)、ケトン系溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル系溶媒(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテルなどの鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、グリコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなど)、グリコールエーテルエステル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなど)、ニトリル系溶媒(例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリルなど)、ニトロ系溶媒(例えば、ニトロベンゼンなど)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなど)、ニトリル類(アセトニトリル、ベンゾニトリルなど)、これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0051】
本発明の重合体(共重合体)は、酸により容易に分解するという特性を有するため、酸応答性材料(又は酸感応性樹脂)として使用できる。
【0052】
[アセタール構造を有する重合体の製造方法]
本発明の重合体(又は共重合体)は、下記式(1b)で表されるビニルエーテル化合物と、下記式(2b)で表されるアルデヒド化合物とを反応(カチオン重合)させることにより得ることができる。
【0053】
【化4】

【0054】
(式中、R及びRは前記に同じ)
式(1b)で表されるビニルエーテル化合物としては、前記式(1)に対応する化合物(単量体)が使用できる。代表的なビニルエーテル化合物としては、例えば、アルキルビニルエーテル類(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、s−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ペンチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテルなどの直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルキルビニルエーテルなど);アルケニルビニルエーテル類(アリルビニルエーテルなど);シクロアルキルビニルエーテル類(シクロヘキシルビニルエーテルなどのC5−10シクロアルキル−ビニルエーテル、好ましくはC5−8シクロアルキル−ビニルエーテル);アリールビニルエーテル類(フェニルビニルエーテルなど);アラルキルビニルエーテル類(例えば、ベンジルビニルエーテル、フェネチルビニルエーテルなどのC6−10アリール−C1−4アルキル−ビニルエーテル)などが例示できる。置換基を有する代表的なビニルエーテル化合物としては、例えば、ハロアルキルビニルエーテル類(2−クロロエチルビニルエーテル、2−ブロモエチルビニルエーテル、3−クロロプロピルビニルエーテル、3−ブロモプロピルビニルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチルビニルエーテルなどのハロC1−10アルキル−ビニルエーテル、好ましくはハロC1−6アルキル−ビニルエーテル);C2−10アルケニル−ビニルエーテル類(1−プロペニルビニルエーテル、2−プロペニルビニルエーテル、1−ブテニルビニルエーテルなど);(メタ)アクリロイルオキシアルキル−ビニルエーテル類[例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシ)エチル−ビニルエーテルなどの(メタ)アクリロイルオキシC2−6アルキル−ビニルエーテル、好ましくは(メタ)アクリロイルオキシC2−4アルキル−ビニルエーテルなど];(メタ)アクリロイルオキシ(ポリ)アルコキシアルキル−ビニルエーテル類[例えば、2−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)エチル−ビニルエーテルなどの(メタ)アクリロイルオキシ−(ポリ)C2−6アルコキシ−C2−6アルキル−ビニルエーテル、好ましくは(メタ)アクリロイルオキシ−モノ乃至ヘキサC2−4アルコキシ−C2−4アルキル−ビニルエーテル、さらに好ましくは(メタ)アクリロイルオキシモノ乃至テトラC2−3アルコキシC2−3アルキル−ビニルエーテルなど];シアノアルキルビニルエーテル類(2−シアノエチルビニルエーテルなど);アルコキシカルボニルアルキルビニルエーテル類((2−メトキシカルボニルエチル)ビニルエーテル、(2−エトキシカルボニルエチル)ビニルエーテルなど);アリールオキシカルボニルアルキルビニルエーテル類((2−フェノキシカルボニルエチル)ビニルエーテルなど);アラルキルオキシカルボニルアルキルビニルエーテル類((2−ベンジルオキシカルボニルエチル)ビニルエーテルなど);オキソアルキルビニルエーテル類((3−オキソブチル)ビニルエーテルなど)などが例示できる。これらのビニルエーテル化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0055】
式(2b)で表されるアルデヒド化合物としては、前記式(2)に対応する化合物(単量体)が使用できる。代表的なアルデヒド化合物としては、例えば、アルカナール類(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレリルアルデヒド、イソバレリルアルデヒドなどの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルカナール、好ましくはC2−8アルカナールなど);アルケニルアルデヒド類(アクロレインなどの直鎖状又は分岐鎖状C3−10アルケニルアルデヒドなど);シクロアルキルアルデヒド類(シクロヘキシルアルデヒドなどのC5−10シクロアルキルアルデヒドなど);アリールアルデヒド類(ベンズアルデヒド、ナフチルアルデヒドなどのC6−10アリールアルデヒドなど);芳香族又は非芳香族複素環式アルデヒド類(フルフラール、チオフェンアルデヒド、ニコチンアルデヒドなどの窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選択された少なくとも一種のヘテロ原子を含む5又は6員複素環アルデヒド、又は前記5又は6員複素環がベンゼン環と縮合した縮合複素環アルデヒドなど)などが例示できる。
【0056】
置換基を有する代表的なアルデヒド化合物としては、アリール基を有するアルキルアルデヒド類(フェニルアセトアルデヒド、ナフチルアセトアルデヒドなど);アリール基を有するアルケニルアルデヒド類(シンナムアルデヒドなど);ハロゲン原子を有するアリールアルデヒド類(4−クロロベンズアルデヒド、3−クロロベンズアルデヒド、2−クロロベンズアルデヒド、2,4−ジクロロベンズアルデヒド、3,5−ジクロロベンズアルデヒドなどのハロC6−10アリール−アルデヒドなど);アルキル基を有するアリールアルデヒド類(トリルアルデヒド(2−、3−又は4−メチルベンズアルデヒド)、4−エチルベンズアルデヒド、4−t−ブチルベンズアルデヒド、キシリルアルデヒド(2,3−、2,4−、2,5−又は2,6−ジメチルベンズアルデヒド)などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル−C6−10アリール−アルデヒドなど);アルコキシ基を有するアリールアルデヒド類(4−メトキシベンズフルデヒド(アニスアルデヒド)、3−メトキシベンズフルデヒド、4−エトキシシベンズフルデヒド、4−ブトキシベンズフルデヒドなどの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ−C6−10アリール−アルデヒドなど);アルコキシアルキル基を有するアリールアルデヒド類(メトキシメチルベンズフルデヒド、エトキシメチルベンズフルデヒドなどの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ−C1−4アルキル−C6−10アリール−アルデヒドなど);ニトロ基を有するアリールアルデヒド類(ニトロベンズフルデヒド(4−、3−又は2−ニトロベンズフルデヒド)などのニトロC6−10アリール−アルデヒドなど)などが例示できる。これらのアルデヒド化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0057】
なお、電子吸引性基のないビニルエーテル化合物(前記アルキルビニルエーテル類など)であっても、置換基を有するアルデヒド化合物(前記置換基を有するベンするアルデヒド類など)と反応(カチオン重合)させると、共重合性比を高めることができ、前記交互共重合体を得ることもできる。
【0058】
前記式(1b)で表されるビニルエーテル化合物と、前記式(2b)で表されるアルデヒド化合物との割合(モル比)は、例えば、前者/後者=40/60〜60/40、好ましくは45/55〜55/45、さらに好ましくは48/52〜52/48程度である。
【0059】
前記重合体(共重合体)は、添加塩基と、ルイス酸を含む開始剤との存在下、前記式(1b)で表されるビニルエーテル化合物と、前記式(2b)で表されるアルデヒド化合物とを反応(カチオン重合)することにより得ることができる。
【0060】
添加塩基としては、ルイス塩基(弱いルイス塩基)、例えば、エステル類、エーテル類などが使用できる。エステル類としては、例えば、アルカンカルボン酸エステル(ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどのC1−6アルカン−カルボン酸C1−4アルキルエステル)、アレーンカルボン酸エステル(安息香酸メチル、安息香酸エチルなどのC6−10アレーン−カルボン酸C1−4アルキルエステル)、ハロアルカンカルボン酸エステル(クロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル、クロロ酢酸メチル、クロロ酢酸エチル、トリクロロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸エチルなどのハロC1−6アルカン−カルボン酸C1−4アルキルエステル)などが例示できる。これらのエステル類のうち、アルカンカルボン酸エステル、ハロアルカンカルボン酸エステルが好ましい。
【0061】
前記エーテル類としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテルなどの鎖状エーテル;1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテルなどが挙げられる。これらのエーテル類のうち、環状エーテルが好ましい。
【0062】
添加塩基の使用量は、通常、アルデヒド化合物1モルに対して、例えば、0.001〜100モル、好ましくは0.1〜25モル、さらに好ましくは1〜5モル程度である。
【0063】
ルイス酸としては、例えば、周期表4族元素(チタン、ジルコニウム、ハフニウムなど)、8族元素(鉄など)、12族元素(亜鉛など)、13族元素(アルミニウム、ガリウム、インジウムなど)、14族元素(ケイ素、ゲルマニウム、スズなど)、15族元素(ビスマスなど)を含む化合物が使用できる。ルイス酸を形成する化合物は、ハロゲン化物(塩化物、フッ化物など)、硫酸塩などであってもよい。好ましいルイス酸は、鉄、アルミニウム、ガリウム、スズなどのハロゲン化物(例えば、塩化物)である。代表的なルイス酸としては、例えば、FeCl、SnCl、GaClなどが挙げられる。
【0064】
ルイス酸の使用量は、アルデヒド化合物1モルに対して、例えば、0.0001〜0.1モル、好ましくは0.0005〜0.05モル、さらに好ましくは0.001〜0.02モル程度である。
【0065】
このようなルイス酸は、プロトン酸又はカチオン源と組み合わせて開始剤系を形成してもよい。前記プロトン酸としては、例えば、塩化水素などの無機酸;酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸などの有機カルボン酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのハロアルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などのアリールスルホン酸などの有機スルホン酸などが挙げられる。これらのプロトン酸のうち有機スルホン酸(エタンスルホン酸などのハロアルカンスルホン酸など)が好ましい。前記カチオン源としては、ハロゲン化トリメチルシリル(トリメチルシリルアイオダイドなど)などが挙げられる。
【0066】
プロトン酸又はカチオン源の使用量は、アルデヒド化合物1モルに対して、例えば0.0001〜0.1モル、好ましくは0.0005〜0.05モル、さらに好ましくは0.001〜0.02モル程度である。
【0067】
このような開始剤を用いると、前記カチオン重合がリビング的に進行し、分子量分布の狭い重合体(共重合体)が得られる。
【0068】
反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われ、溶媒としては、反応に不活性な溶媒、例えば、脂肪族炭化水素(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなど)、脂環式炭化水素(シクロペンタン、シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロホルムなど)などが例示できる。これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0069】
なお、必要であれば、副生物の生成を抑制するため、反応系にプロトントラップ剤(例えば、2,6−ジ−t−ブチルピリジン(DTBP)など)を存在させてもよい。プロトントラップ剤の使用量は、通常、前記プロトン酸又はカチオン源の使用量と同様である。
【0070】
反応は、例えば、−120℃〜50℃、好ましくは−100℃〜20℃(例えば、−100℃〜−20℃)程度の温度で行うことができる。反応は、不活性ガス(ヘリウム、窒素、アルゴンなど)の雰囲気下又は流通下で行ってもよい。また、反応は、常圧下、加圧下で行ってもよい。反応終了後、例えば、アンモニア性メタノール溶液などでクエンチし、濾過、濃縮、溶解又は溶出、沈殿などの慣用の方法で精製し、重合体を得ることができる。
【0071】
[接着剤とその用途]
本発明の接着剤は、接着性が高いため、前記重合体(共重合体)を含んでいればよく、さらに、酸発生剤を含んでいてもよい。酸発生剤を含有させると、接着性(例えば、ホットメルト接着性)と酸による分解性とを付与でき、熱分解性接着剤又は光分解性接着剤を形成できる。
【0072】
酸発生剤としては、熱により酸を発生する熱酸発生剤[例えば、スルホン酸系熱酸発生剤(例えば、アレーンスルホン酸エステル(例えば、ベンゾイントシラート、ニトロベンジルトシラートなど)などのスルホン酸エステル)、カルボン酸系熱酸発生剤(例えば、脂肪酸(例えば、クエン酸、酢酸、マレイン酸など)又はその塩、芳香族カルボン酸(例えば、安息香酸、フタル酸など)又はその塩など)、リン酸系熱酸発生剤(例えば、リン酸、有機リン酸エステルなど)など]、光酸発生剤などが挙げられる。酸発生剤は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0073】
なお、ホットメルト接着性重合体と熱酸発生剤とを組み合わせる場合、ホットメルト接着温度においては酸を発生しない熱酸発生剤が好適に使用される。好ましい酸発生剤は、光酸発生剤である。光酸発生剤を用いると、ホットメルト接着性を有する重合体であっても、被着体を接着した後、光照射により重合体を効率よく分解できる。
【0074】
光酸発生剤は、熱によっても酸を発生する酸発生剤であってもよいが、代表的には、活性光線(例えば、可視光線、紫外線、電子線、X線など)の照射により酸を発生する酸発生剤である。代表的な活性光線としては、可視光線、紫外線などが挙げられる。代表的な光酸発生剤としては、例えば、キノンジアジド化合物、オニウム塩(例えば、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、セレニウム塩)、フェノール類、スルホン酸又はそのエステル、カルボン酸又はそのエステルなどが例示できる。なお、オニウム塩の対イオンとしては、例えば、ボレート(例えば、BF、B(Cなど)、ホスフェート(例えば、PFなど)、スルホネート(例えば、CFSOなど)、アンチモネート(例えば、SbFなど)などのアニオンが挙げられる。
【0075】
具体的な光酸発生剤としては、例えば、キノンジアジド化合物(例えば、ナフトキノンジアジド化合物など)、スルホニウム塩[例えば、アルキルスルホニウム塩(例えば、トリアルキルスルホニウム塩など)、アリールスルホニウム塩(例えば、ジアリールスルホニウム塩、トリアリールスルホニウム塩)など]、ホスホニウム塩[例えば、アリールホスホニウム塩(例えば、トリアリールホスホニウム塩など)など]、ジアゾニウム塩(例えば、アリールジアゾニウム塩)、ヨードニウム塩[例えば、アリールヨードニウム塩(例えば、ジアリールヨードニウム塩)など]、セレニウム塩[例えば、アリールセレニウム塩(例えば、トリアリールセレニウム塩など)]、フェノール類(例えば、フェノール、レゾルシノール、ピロガロール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレンなど)、スルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸;ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などのアレーンスルホン酸;カンファースルホン酸など)又はそのエステル(例えば、アレーンスルホン酸エステル)などが挙げられる。光酸発生剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0076】
酸発生剤の割合は、重合体(共重合体)100重量部に対して、例えば、0.01〜20重量部、好ましくは0.1〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部程度であってもよい。
【0077】
接着剤又は接着剤組成物は、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤など)、着色剤(顔料など)、増粘剤、消泡剤、界面活性剤、帯電防止剤、難燃剤、充填剤、増感剤などを含んでいてもよい。また、接着剤又は接着剤組成物は、重合開始剤(熱又は光重合開始剤)又は重合開始剤系を含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0078】
また、接着剤又は接着剤組成物は、用途に応じて、溶媒を含まない無溶剤型接着剤であってもよく、溶媒を含む溶剤型接着剤であってもよい。溶媒としては、前記例示の重合体(共重合体)の溶媒が挙げられる。溶媒の使用量は、例えば、接着剤が塗布可能な範囲、例えば、重合体の含有量又は固形分含有量1〜70重量%、好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜30重量%程度であってもよい。
【0079】
本発明の接着剤は、固体状(粉末状、顆粒状、ペレット状、棒状、シート状など)の形態、又は液状の形態で使用でき、シート状接着剤は、通常、被着体に積層可能である。シート状接着剤の厚みは、例えば、1〜300μm(例えば、2〜200μm)、好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜80μm程度であってもよい。
【0080】
本発明の接着剤(シート状接着剤など)は、必要に応じて、基材シート(又は基材フィルム)に積層した積層シートの形態で使用することもできる。基材シートの材質としては、特に限定されず、プラスチック(例えば、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体など)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどなど)、ポリアミド系樹脂(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12など)、スチレン系樹脂(ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体など)、塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロースエステル系樹脂など)、ガラス、セラミックス、金属などが例示できる。なお、光酸発生剤を含む接着剤は、基材シートとしては透光性シートが好適に使用される。
【0081】
基材シートの厚みは、例えば、5〜300μm(例えば、7〜200μm)、好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは15〜80μm程度であってもよい。なお、基材シートには、慣用の表面処理、例えば、酸化処理[表面酸化処理、例えば、放電処理(コロナ放電処理、グロー放電など)、酸処理(クロム酸処理など)、紫外線照射処理、焔処理など]、表面凹凸処理(溶剤処理、サンドブラスト処理など)などの表面処理が施されていてもよい。
【0082】
なお、積層シートは、基材シートに接着剤をコーティングする方法、基材シートとシート状接着剤とを積層する(接着させる)方法などにより得ることができる。
【0083】
本発明の接着剤に含有される重合体は、高い接着性(特に、ホットメルト接着性)を有しているとともに、重合体は酸により容易に分解するという特性を有する。すなわち、本発明の接着剤は、被着体を接着するだけでなく、酸発生剤から発生した酸により、重合体が分解して接着力が低下し、容易に剥離可能(非接着状態)となる。そのため、本発明の接着剤(特に、酸発生剤を含む接着剤)は、活性エネルギー線の照射により、互いに接着した被着体を剥離するための仮止め又は仮接着用接着剤として有用である。
【0084】
このような仮止め接着剤は、被加工部材の加工又は保護に適している。例えば、仮止め接着剤は、一時的に被着体を接着させた後、被着体と接着層とを分離又は剥離するための仮接着テープの接着剤として適している。
【0085】
本発明の接着方法では、上記接着剤を用いて被着体を互いに接着する工程(接着工程)を含む。さらに、本発明の仮止め方法(仮止め接着方法又は仮接着方法)では、前記接着剤(酸発生剤を含む接着剤)を用いて被着体を互いに接着する接着工程と、接着された被着体のうち、少なくとも接着界面(接着剤により接着された接着界面)に活性エネルギー線を照射して重合体を分解する分解工程と、互いに接着された被着体を分離する分離工程とを含む。
【0086】
より具体的には、本発明の仮止め接着剤(仮接着剤)は、例えば、被着体としての被加工部材の一方の面と、被固定部材とを接着させる接着工程と、加工手段により被加工部材の他方の面を加工する加工工程と、少なくとも接着界面に活性エネルギー線を照射して重合体を分解する分解工程と、被固定部材と加工された被加工部材とを分離する分離工程とを含む、加工された部材の製造方法(又は被加工部材の加工方法)に適用するのに有用である。
【0087】
さらに、本発明の接着剤は、被着体の表面を一時的に保護するための保護テープの接着剤としても利用できる。すなわち、被着体の表面を、少なくとも前記接着剤で被覆又は保護し、被着体を加工し、少なくとも接着界面(接着剤により接着された接着界面)に活性エネルギー線を照射し、接着剤で形成された被覆又は保護層から被着体を分離することにより、加工された部材を製造できる。具体的には、本発明の接着剤(仮接着剤)は、被着体としての被加工部材の一方の面を、少なくとも接着剤(酸発生剤を含む接着剤)で被覆又は保護する被覆工程と、加工手段により被加工部材の他方の面を加工する加工工程と、少なくとも接着界面に活性エネルギー線を照射して重合体を分解する分解工程と、加工された被加工部材と被覆接着剤層とを分離する分離工程とを含む、加工された部材の製造方法(又は被加工部材の加工方法)に遊離に適用できる。
【0088】
なお、仮接着テープ及び保護テープは、前記接着剤で形成された単層構造を有していてもよく、前記のように、基材シートと接着剤層との積層構造を有していてもよい。また、接着剤層の表面(単層構造のテープでは接着剤層の両面、積層構造のテープでは、接着剤層の表面)は、離型シートで被覆又は積層してよい。仮接着テープ及び保護テープとしては、通常、離型面(接着面)に離型シートが積層された積層構造のテープが利用される。
【0089】
接着工程又は被覆工程では、接着剤により被着体を接着又は被覆すればよく、被着体の種類は、特に制限されず、接着面を有する種々の成形体又は加工品、例えば、プラスチック成形品、ガラス基板、セラミックス基板、金属基板などであってもよく、電気絶縁体、半導体、導体のいずれであってもよい。また、被着体の形状は、ブロック状、シリコンウエハなどの板状又はシート状などであってもよい。なお、接着剤を前記基材シートとの積層構造の形態で使用する場合、前記基材シートは保護層を形成してもよい。
【0090】
接着剤は、被着体にコーティングして、必要により乾燥してもよく、シート状の接着剤は被着体上に熱ラミネートなどの方法で積層してもよい。乾燥後の接着剤層の厚みは、例えば、0.1〜300μm、好ましくは1〜200μm、さらに好ましくは2〜100μm(例えば、5〜50μm)程度であってもよい。
【0091】
接着工程では、接着剤を加熱してホットメルト(熱融着)により接着させてもよい。ホットメルト接着において、加熱温度(ホットメルト接着温度)は、例えば、30〜150℃、好ましくは50〜130℃、さらに好ましくは80〜120℃程度であってもよい。なお、接着工程では、必要に応じて、加圧下で被着体に接着剤層又は保護層を形成してもよい。また、保護層は、被着体のうち非加工面の全面に限らず、印刷技術(パターンコーティングなどを含む)などを利用して、非加工面又は加工面の所望の部位に規則的に又は非規則的に部分的に形成してもよく、所定のパターンで形成してもよい。
【0092】
なお、被着体の加工において、被固定部材と加工手段とは、互いに相対的に運動又は移動可能であればよく、例えば、被固定部材及び加工手段のうち、一方が他方に対して近接又は離反可能であってもよく、双方が近接又は離反可能であってもよい。また、一方が他方に対して回転可能であってもよく、双方が回転可能(同一又は異なる方向に回転可能)であってもよい。
【0093】
加工工程では、種々の加工、例えば、例えば、塗布などによる耐蝕加工、エッチング液などによる腐食又はエッチング加工、メッキ加工(化学メッキ、電解メッキ加工など)などの化学的加工;プラズマエッチングなどの電気的加工;レーザー光などの光線による光学的加工(凹凸加工など);ポリッシング加工、切削又は研削、研磨などの機械的加工などが採用できる。特に、仮止め接着剤(シート状仮止め接着剤)は、保護テープ、例えば、バックグラインドテープ用の接着剤(又はバックグラインドテープの接着層を形成する接着剤)として適しているため、被加工部材は、ウエハなどの被研磨部材であってもよい。なお、保護テープ(バックグラインドテープ)は、被加工部材の一方の面(例えば、ウエハの回路面などの凹凸加工面など)に貼り合わせて表面を保護し、他方の面を加工(研磨加工など)する場合に使用できる。この保護テープでは、被加工部材の一方の面(保護面)を、外的異物、クラックの生成、粒子付着などから保護できる。
【0094】
なお、バックグラインド工程では、適当な固定手段で被固定部材を固定しつつ、被研磨部材の他方の面(接着面とは反対側の面)を研磨することにより、被研磨部材(ウエハなど)を研磨することができる。研磨後の被研磨部材(ウエハなど)の厚みは、例えば、1〜1000μm、好ましくは5〜700μm、さらに好ましくは10〜500μm(例えば、30〜400μm)程度であってもよい。
【0095】
分解工程では、少なくとも接着界面に活性エネルギー線を照射する。活性エネルギー線は、熱線、活性光線のいずれであってもよく、双方であってもよい。通常、熱酸発生剤では、少なくとも熱線を付与(加熱)し、光酸発生剤では、少なくとも活性光線を付与(照射)する。
【0096】
加熱温度は、例えば、60〜170℃、好ましくは80〜160℃、さらに好ましくは100〜150℃程度であってもよい。
【0097】
活性光線は、放射線、紫外線、可視光線などが利用でき、通常、紫外線であってもよい。光源としては、例えば、紫外線の場合は、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、レーザー光源などを用いることができる。なお、照射光量(照射エネルギー)は、例えば、10〜10000mJ/cm、好ましくは30〜7000mJ/cm、さらに好ましくは100〜5000mJ/cm程度であってもよい。照射時間は、特に限定されず、例えば、5秒以上(例えば、10秒〜10分)、好ましくは15秒以上(例えば、20秒〜5分)程度であってもよい。
【0098】
好ましい方法では、光酸発生剤を含む接着剤を用い、分解工程で、活性エネルギー光線を照射して、酸発生剤から酸を発生させる。特に、活性光線の照射後に加熱(アフターキュア又はポストベーク)してもよい。加熱処理の温度は、例えば、80〜180℃、好ましくは100〜170℃、さらに好ましくは120〜160℃程度であってもよい。加熱処理時間は、例えば、3秒以上(例えば、5秒〜10分)、好ましくは5秒以上(例えば、7秒〜5分)程度であってもよい。
【0099】
このような分解工程では、重合体が分解して、接着剤による接着力が大きく低下する。そのため、分離工程では、容易に被着体(研磨されたウエハなどの加工された被加工部材など)を接着剤層から分離できる。なお、通常の分離では、被着体及び接着剤層のうち、一方に対して他方を剥離させる(例えば、被着体に対して接着剤層の端部を斜め上方向に持ち上げて剥離する)ことにより行われるが、このような方法では、加工が施された強度の小さな被加工部材(研磨処理されたウエハなどの厚みの薄い被加工部材など)に応力が作用し、割れが生じる場合がある。これに対して、本発明の接着剤は、分解後においては極めて接着性が低下するため、被着体を接着剤層から容易に分離できる。例えば、被着体に応力が作用しない方向、例えば、被着体(ウエハ)を接着面に対してスライドさせる(接着界面に沿って被着体をスライドさせる)だけで被着体を分離することができる。そのため、バックグラインド処理後のウエハなどのように被着体に過度の負荷を作用できない場合(例えば、被着体が破損するおそれがある場合など)、特に、被固定部材又は接着剤層に対してスライドさせて被着体を接着剤層から分離するのが好ましい。
【0100】
なお、分解工程の後、分解した重合体を含む接着剤が被着体(例えば、ウエハなどの被研磨部材)上に残存している場合がある。そのため、本発明の方法は、分離工程後、被着体(例えば、ウエハなどの被研磨部材)の剥離面(接着剤との接着面)を洗浄する洗浄工程を含んでいてもよい。洗浄は、被着体の剥離面(接着面)の拭き取りなどにより行ってもよく、溶媒による洗浄であってもよい。溶媒としては、前記重合体を可溶な有機溶媒が使用でき、被着体の剥離面に残存する接着剤成分を容易に除去できる。
【0101】
[接着剤および接着方法]
特に、このような仮止め方法(仮止め接着方法)は、前記のような被研磨部材(ウエハなど)のバックグラインド処理に応用できる。具体的には、本発明の被研磨部材(ウエハなど)の加工方法(研磨方法、研磨された被研磨部材(ウエハなど)の製造方法)は、前記接着剤と被着体としてのウエハとを接着させて(又は被研磨部材(ウエハなど)上に前記接着剤を積層して)積層体を得る接着工程と、
積層体を構成する被研磨部材(ウエハなど)のうち、接着面とは反対側の面を研磨する(バックグラインド処理する)研磨工程(バックグラインド工程)と、
研磨後の積層体のうち、少なくとも接着界面に活性エネルギー線を照射して酸発生剤から発生した酸により接着剤を分解する分解工程と、
積層体から被着体としての研磨された被研磨部材(ウエハなど)と分解された接着剤とを分離する分離工程とを含む。
【0102】
なお、本発明の接着剤は、特に温度に限定されず、幅広い温度において、酸により分解可能である。そのため、分解工程は、酸発生剤が熱酸発生剤であるか否かにかかわらず、幅広い温度範囲(例えば、常温〜150℃)で行うことができる。
【実施例】
【0103】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0104】
なお、重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)は、ポリスチレン換算であり、クロロホルム溶媒を使用し40℃で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。標準物質として、分子量の異なる3つのポリスチレンゲルカラム(Mn=292〜1.09×10)を用いた。
【0105】
粘度は、レオメーター(Physica製 MCR301)を用い、振り角(γ(gamma)=5%)を設定し、10Hzの周波数で振動を与えながら測定した。
【0106】
実施例1(2−クロロエチルビニルエーテル−ベンズアルデヒド共重合体)
反応容器にトルエン2.96mL、1,4−ジオキサン0.43mL、2−クロロエチルビニルエーテル(CEVE)0.3mL、ベンズアルデヒド(BzA)0.31mLを順次加えた。この混合液に、40mMエタンスルホン酸溶液(エタンスルホン酸の200mM溶液[DCM(ジクロロメタン)]をトルエンで希釈して調製)0.5mL及び40mM塩化ガリウム溶液0.5mLを−78℃で添加し、48時間反応させた。アンモニア性メタノール溶液を用いてクエンチし、抽出などの後処理操作を行い、固体0.5686gを得た(収率89%)。H−NMR分析(CDCl溶媒)の結果、BzA単位の含有量が47モル%であり、CEVEとBzAとの交互共重合体であることが確認できた。得られた共重合体の数平均分子量(Mn)は18100、分子量分布(Mw/Mn)は1.11であった。なお、得られた共重合体の100℃における粘度は0.1Pa・sであった。
【0107】
【化5】

【0108】
得られた共重合体の0.75重量%アセトン溶液を、30℃で30分間、塩酸(0.50M)で処理したところ、単一の低分子量化合物が得られた(GPCで確認)。
【0109】
得られた共重合体の接着性試験を次のようにして行った。すなわち、共重合体を酢酸エチルに溶解して50重量%溶液を調製し、さらに、共重合体100重量部に対して酸発生剤(トリフェニルスルホニウムパーフルオロ−1−ブタンスルホネート)5重量部を混合して混合樹脂溶液を得た。この混合樹脂溶液をシリコン基板にスピンコート(1000rpm)により塗布して100℃で1時間真空乾燥させて厚み3μmの塗膜(接着剤層)を形成し、さらに、接着剤層と石英ガラスとを100℃で加圧しながら貼り合わせた。なお、100℃での加熱により接着剤層は粘着となり、ホットメルト接着性を示した。また、塗膜(接着部)のサイズは5cm(20mm×25mm)とした。
【0110】
接着剤層の接着強度を、室温にて、石英ガラス(およびシリコン)を接着面(塗膜面)に対して平行に引っ張り、剥がれる時の最小の単位面積当たりの強度(引張強度)として測定したところ、35N/cmであった。
【0111】
そして、接着部に紫外光照射機(ウシオ電機製、SPOT CURE UIS-25102、高圧水銀ランプ)を用いて紫外光(365nm、800mJ、40秒)を照射し、150℃で10秒間ベークした後、上記と同様に引張強度を測定したところ0.2N/cmであり、接着力が著しく低下して剥がれやすい状態となっていた(接着面に対して平行に石英ガラスをスライドさせるだけで剥がすことができた)。なお、シリコン基板の塗膜形成部分(接着剤残渣)をテトラヒドロフランで洗浄したところ、溶け残りなく容易にシリコン基板を洗浄できた。
【0112】
実施例2(イソブチルビニルエーテル−p−トルベンズアルデヒド共重合体)
2−クロロエチルビニルエーテル(CEVE)0.3mL及びベンズアルデヒド(BzA)0.31mLに代えて、イソブチルビニルエーテル(IBVE)0.32mL及びp−トルアルデヒド(p−MeBzA)0.35mLを順次加える以外、実施例1と同様にして、固体0.5684gを得た(収率89%)。H−NMR分析(CDCl溶媒)の結果、MOBzA単位の含有量が47モル%であり、IBVEとp−MeBzAとの交互共重合体であることが確認できた。得られた共重合体の数平均分子量(Mn)は14400、分子量分布(Mw/Mn)は1.22であった。得られた共重合体の100℃での粘度は0.1Pa・sであった。
【0113】
【化6】

【0114】
得られた共重合体の0.75重量%アセトン溶液を、30℃で30分間、塩酸(0.50M)で処理したところ、単一の低分子量化合物が得られた(GPCで確認)。
【0115】
得られた共重合体の接着性試験を実施例1と同様にして行った。その結果、100℃での加熱により接着剤層は粘着となり、ホットメルト接着性を示した。また、室温にて、石英ガラス(およびシリコン)を接着面(塗膜面)に対して平行に引っ張り、接着剤層の接着強度を測定したところ、37N/cmであった。さらに、接着部に紫外光(365nm、800mJ、40秒)を照射し、150℃で10秒間ベークした後、上記と同様に引張強度を測定したところ0.3N/cmであり、接着力が著しく低下して剥がれやすい状態となっていた(接着面に対して平行に石英ガラスをスライドさせるだけで剥がすことができた)。なお、シリコン基板の塗膜形成部分(接着剤残渣)をテトラヒドロフランで洗浄したところ、溶け残りなく容易にシリコン基板を洗浄できた。
【0116】
実施例3(イソブチルビニルエーテル−p−メトキシベンズアルデヒド共重合体)
2−クロロエチルビニルエーテル(CEVE)0.3mL及びベンズアルデヒド(BzA)0.31mLに代えて、イソブチルビニルエーテル(IBVE)0.32mL及びp−メトキシベンズアルデヒド(MOBzA)0.42mLを用いる以外、実施例1と同様にして、固体0.6383gを得た(収率89%)。H−NMR分析(CDCl溶媒)の結果、MOBzA単位の含有量が47モル%であり、IBVEとMOBzAとの交互共重合体であることが確認できた。得られた共重合体の数平均分子量(Mn)は18100、分子量分布(Mw/Mn)は1.11であった。得られた共重合体の100℃での粘度は0.1Pa・sであった。
【0117】
【化7】

【0118】
得られた共重合体の0.75重量%アセトン溶液を、30℃で30分間、塩酸(0.50M)で処理したところ、単一の低分子量化合物が得られた(GPCで確認)。
【0119】
得られた共重合体の接着性試験を実施例1と同様にして行った。その結果、100℃での加熱により接着剤層は粘着となり、ホットメルト接着性を示した。また、室温にて、石英ガラス(およびシリコン)を接着面(塗膜面)に対して平行に引っ張り、接着剤層の接着強度を測定したところ、33N/cmであった。さらに、接着部に紫外光(365nm、800mJ、40秒)を照射し、150℃で10秒間ベークした後、上記と同様に引張強度を測定したところ0.4N/cmであり、接着力が著しく低下して剥がれやすい状態となっていた(接着面に対して平行に石英ガラスをスライドさせるだけで剥がすことができた)。なお、シリコン基板の塗膜形成部分(接着剤残渣)をテトラヒドロフランで洗浄したところ、溶け残りなく容易にシリコン基板を洗浄できた。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の接着剤は、優れた接着性を有し、しかも接着性と分解性とを両立できる。そのため、仮止め用接着剤などとして好適である。特に、本発明の接着剤は、接着後の剥離容易性が要求される用途、例えば、バックグラインド処理における接着剤などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)及び(2)
【化1】

(式中、Rは、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示し、Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基又は複素環基を示し、前記アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基及び複素環基から選択された少なくとも1つの基は、置換基を有していてもよい)
で表される単位を繰り返し単位として有する重合体を含む接着剤。
【請求項2】
が、直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状C2−10アルケニル基又はC5−10シクロアルキル基であり、これらのアルキル基、アルケニル基及びシクロアルキル基は、ハロゲン原子及びアルコキシ基から選択された少なくとも1つの置換基を有していてもよく;Rが、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ニトロ基から選択された少なくとも1つの置換基を有していてもよいアリール基である請求項1記載の接着剤。
【請求項3】
が、ハロゲン原子及び直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ基から選択された少なくとも1つの置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基であり、Rが、ハロゲン原子、直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ基、C1−4アルコキシ−C1−4アルキル基から選択された少なくとも1つの置換基を有していてもよいC6−12アリール基である請求項1記載の接着剤。
【請求項4】
式(2)で表される単位が、下記式(2a)
【化2】

(式中、Rは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基を示し、pは0又は1〜5の整数を示し、係数pが2以上であるとき、Rの種類は異なっていてもよい。Rは前記に同じ)
で表される単位である請求項1〜3のいずれかに記載の接着剤。
【請求項5】
重合体が、下記式(3)
【化3】

(式中、R及びRは前記に同じ)
で表される繰り返し単位を有する交互共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤。
【請求項6】
重合体が、ホットメルト接着性を有する請求項1〜5のいずれかに記載の接着剤。
【請求項7】
さらに、酸発生剤を含む請求項1〜6のいずれかに記載の接着剤。
【請求項8】
活性エネルギー線の照射により、互いに接着した被着体を剥離するための仮止め接着剤である請求項7記載の接着剤。
【請求項9】
請求項7又は8記載の接着剤で形成された接着層を備えた仮接着テープ。
【請求項10】
請求項7又は8記載の接着剤で形成された接着層を備えた保護テープ。
【請求項11】
請求項7又は8記載の接着剤を用いて被着体を互いに接着する接着工程と、接着された被着体のうち、少なくとも接着界面に活性エネルギー線を照射して重合体を分解する分解工程と、互いに接着された被着体を分離する分離工程とを含む被着体の仮接着方法。
【請求項12】
請求項7又は8記載の接着剤を用いて、被着体としての被加工部材の一方の面と、加工手段に対して相対的に運動可能な被固定部材とを接着させる接着工程と、加工手段により被加工部材の他方の面を加工する加工工程と、少なくとも接着界面に活性エネルギー線を照射して重合体を分解する分解工程と、被固定部材と加工された被加工部材とを分離する分離工程とを含む加工された部材の製造方法。
【請求項13】
被着体としての被加工部材の一方の面を、少なくとも請求項7又は8記載の接着剤で被覆する被覆工程と、加工手段により被加工部材の他方の面を加工する加工工程と、少なくとも接着界面に活性エネルギー線を照射して重合体を分解する分解工程と、加工された被加工部材と被覆接着剤層とを分離する分離工程とを含む加工された部材の製造方法。
【請求項14】
被着体としての被研磨部材の一方の面を、少なくとも請求項7又は8記載の接着剤で被覆する被覆工程と、研磨手段により被研磨部材の他方の面を研磨する研磨工程と、少なくとも接着界面に活性エネルギー線を照射して重合体を分解する分解工程と、研磨された被研磨部材と被覆接着剤層とを分離する分離工程とを含む研磨された部材の製造方法。
【請求項15】
光酸発生剤を含む接着剤を用い、分解工程で、活性エネルギー光線を照射して加熱し、酸発生剤から発生した酸により重合体を分解する請求項11〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
接着工程において、接着剤を加熱してホットメルトにより接着させる請求項11〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
分離工程において、接着剤層に対して被着体をスライドさせて分離する請求項11〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
分離工程後、さらに、被着体の剥離面を洗浄する洗浄工程を含む請求項11〜17のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2012−211254(P2012−211254A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77448(P2011−77448)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】