説明

揺動軸受およびエアディスクブレーキ装置

【課題】潤滑性能の高い揺動軸受を提供する。
【解決手段】揺動軸受11は、円弧形状の揺動軸受用外輪12と、表面にランダムに形成した無数の微小凹形状のくぼみを有し、揺動軸受用外輪12の内径面に沿って配置される複数のころ15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、揺動軸受、特に、エアディスクブレーキ装置等に使用される揺動軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の揺動軸受は、例えば、WO2006/002905A1(特許文献1)に記載されている。同公報に記載されている揺動軸受は、内径面に軌道面を有する円弧形状の揺動軸受用外輪と、軌道面に沿って配置される複数のころと、複数のころを保持する保持器とを備える。また、ころおよび保持器の幅方向への移動を規制するために、揺動軸受用外輪の円周方向の全域にわたって幅方向両端部から径方向内側に突出する鍔部が形成されている。
【0003】
上記構成の揺動軸受は、例えば、エアディスクブレーキ装置に使用されている。また、エアディスクブレーキ装置に採用される揺動軸受は、一般的にグリースによる潤滑を行っている。
【特許文献1】WO2006/002905A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
揺動軸受は円周方向の両端部が開放されているので、揺動時にグリースが外部に押し出され、軸受内部のグリースが不足するおそれがある。これは、異常発熱や異常摩耗の原因となり、結果として揺動軸受の寿命が低下する。
【0005】
そこで、この発明の目的は、潤滑性能の高い揺動軸受を提供することである。また、このような揺動軸受を採用することにより、長寿命で信頼性の高いエアディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る揺動軸受は、円弧形状の揺動軸受用外輪と、表面にランダムに形成した無数の微小凹形状のくぼみを有し、揺動軸受用外輪の内径面に沿って配置される複数のころとを備える。また、ころの表面積に対するくぼみの面積率は10%〜40%とするのが好ましい。
【0007】
上記構成とすることにより、ころの油膜形成性が向上する。その結果、低粘度希薄潤滑下でも長寿命の揺動軸受を得ることができる。なお、くぼみの面積率が10%未満の場合、油膜形成能力が低く、特に始動直後などには十分な厚さの油膜を形成することができない。一方、くぼみの面積率が40%を超えると、ころと揺動軸受用外輪との接触面積が減少して潤滑性能が劣化する。
【0008】
さらに好ましくは、ころの表面におけるSk値は、−1.6以下である。Sk値を上記範囲内に設定することにより、油膜形成性が向上し、長寿命の揺動軸受を得ることができる。
【0009】
なお、本明細書中「Sk値」とは、粗さ曲線の歪度(スキューネス)を指し(ISO4287:1997)、凹凸分布の非対称性を知る目安の統計量を指すものとし、この値は、ガウス分布のような対称な分布ではSk値は0に近くなり、凹凸の凸部を削除した場合は負、逆の場合は正の値をとることになる。また、Sk値のコントロールは、バレル研磨機の回転速度、加工時間、ワーク投入量、チップの種類と大きさ等を選択することにより行うことができる。
【0010】
好ましくは、揺動軸受用外輪は、内径面に前記ころを受け入れる転動面を有する円弧形状の軌道部材と、軌道部材の幅方向両端部から径方向内側に突出する鍔部とを備える。
【0011】
一実施形態として、軌道部材の円周方向長さをL、鍔部の円周方向長さをLとすると、0.2≦L/L≦0.8を満たす。
【0012】
他の実施形態として、鍔部は、第1の鍔部と第1の鍔部と円周方向に隣接する位置に突出長さが相対的に小さい第2の鍔部とを含む。
【0013】
さらに他の実施形態として、軌道部材と前記鍔部とのなす角は鋭角である。
【0014】
この発明に係るエアディスクブレーキ装置は、上記のいずれかに記載の揺動軸受を備える。これにより、長寿命で信頼性の高いエアディスクブレーキを得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、ころの表面に無数のくぼみを形成することより油膜形成性が向上し、長寿命の揺動軸受を得ることができる。また、このような揺動軸受を採用することにより、長寿命で信頼性の高いエアディスクブレーキ装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1〜図4を参照して、この発明の一実施形態に係る揺動軸受11を説明する。なお、図1は揺動軸受11の斜視図、図2は揺動軸受用外輪12の斜視図、図3は保持器16の斜視図、図4は図1のIV−IVにおける断面図である。
【0017】
まず、図1を参照して、揺動軸受11は、揺動軸受用外輪12と、揺動軸受用外輪12の内径面に沿って配置される複数のころ15と、複数のころ15を保持する保持器16とを備える。
【0018】
次に、図2を参照して、揺動軸受用外輪12は、内径面に軌道面13aを有する円弧形状(この実施形態では中心角が180°の半円形状)の軌道部材13と、軌道部材13の幅方向両端部から径方向内側に突出して、ころ15および保持器16の幅方向の移動を規制する鍔部14とを含む。なお、この実施形態において、鍔部14は、軌道部材13の円周方向の全域に亘って形成されている。
【0019】
軌道部材13には、その円周方向両端部に外向き突出片13bと、円周方向一方側端部(図1中の左側)に内向き突出片13cと、円周方向他方側端部(図1中の右側)に爪部13dとが設けられている。鍔部14には、その先端から軌道部材13の幅方向内側に向かって延びる突出部14aが設けられている。
【0020】
外向き突出片13bは、軌道部材13の円周方向両端面の幅方向中央部から径方向外側に向かって延びている。この外向き突出片13bは、ハウジング(図示省略)に係合して、揺動軸受用外輪12の円周方向の移動、すなわち、揺動軸受用外輪12がハウジング内部で回転するのを防止する。
【0021】
内向き突出片13cは、外向き突出片13bの幅方向両側の2箇所から径方向内側に向かって延びている。この内向き突出片13cは、保持器16の円周方向端面に当接して保持器16の円周方向一方側への抜けを防止する。
【0022】
爪部13dは、軌道部材13の幅方向の端面から径方向内側に向かって延びている。この爪部13dは、鍔部14よりも軌道部材13の幅方向の内側に位置する。そして、爪部13dは、保持器16の突起16dと係合して保持器16の円周方向他方側への抜けを防止する。
【0023】
上記構成の揺動軸受用外輪12は、例えば、鋼板をプレス加工して製造する。具体的には、まず、打ち抜き加工によって鋼板から略長方形状の平板を得る。次に、曲げ加工によって軌道部材13および鍔部14を形成する。具体的には、平板の長手方向を所定の曲率に湾曲させることにより軌道部材13を形成することができる。また、平板の短手方向の両端部を軌道部材13に対して直角に折り曲げることにより鍔部14を形成することができる。
【0024】
なお、軌道部材13の形成工程では複数回の曲げ加工を行い、徐々に所定の曲率に近づけていく。同様に、鍔部14の形成工程でも複数回の曲げ加工を行い、少しずつ折り曲げていく。また、軌道部材13を形成するための曲げ加工と、鍔部14を形成するための曲げ加工とを交互に行い、徐々に揺動軸受用外輪12の形状に近づけていくのが望ましい。また、鍔部14の先端を軌道部材13の幅方向内側に向かって折り曲げることにより突出部14aを形成する。さらに、曲げ加工によって外向き突出片13b、内向き突出片13c、および爪部13dを形成する。
【0025】
次に、所定の機械的性質を付与するために揺動軸受用外輪12に熱処理を施す。具体的には、浸炭窒化処理や浸炭焼入れ処理を施す。これにより、表面は硬く、内部は軟らかく靭性の高い性質が得られる。さらに、上記の熱処理によって生じた残留応力や内部ひずみを低減し、靭性の向上や寸法を安定化させるために、上記の熱処理の後に焼戻を行うのが望ましい。
【0026】
次に、軌道面13aとなる軌道部材13の内径面の表面粗さを所定値以下にするために、揺動軸受用外輪12にバレル研磨を施す。軌道面13aの表面粗さを所定値以下とすることにより、軌道面13aところ15との間の摩擦抵抗を低減して、揺動時のトルク損失や発熱を抑制することができる。その結果、長寿命で信頼性の高い揺動軸受11を得ることができる。
【0027】
次に、図3を参照して、保持器16は、円周方向に所定の間隔を空けて配置される複数の柱部16aと、柱部16aの長手方向両端部に配置される円弧形状の一対の連結部16bとを含み、隣接する柱部16aの間にころ15を収容するポケット16cが形成されている。また、連結部16bの幅方向の端面(「揺動軸受用外輪12に組み込んだときに鍔部14に対面する壁面」を指す。)には、幅方向外側に向かって突出する複数の突起16dが円周方向に所定の間隔を空けて配置されている。
【0028】
さらに、保持器16の円周方向両端部には、ポケット16cの形成されていない空白領域16eが設けられている。円周方向一方側(図1中の左側)の空白領域16eは、保持器16の円周方向の端面が内向き突出片13cに衝突したときに、ポケット16cの変形に伴うころ15の回転不良を防止する。一方、円周方向他方側(図1中の右側)の空白領域16eは、保持器16が円周方向他方側に最大限偏ったときに、揺動軸受用外輪12からはみ出す部分なので、ころ15を配置することができない。
【0029】
上記構成の揺動軸受11の組立方法を説明する。まず、保持器16のポケット16cにころ15を組み込む。そして、内向き突出片13cの形成されていない側の揺動軸受用外輪12の円周方向端部領域から保持器16を軌道面13aに沿って挿入する。
【0030】
次に、図4を参照して、鍔部14の先端に設けられた突出部14aは、保持器16の突起16dを径方向内側から保持して、保持器16が揺動軸受用外輪12の径方向に抜けるのを防止している。
【0031】
また、突起16dの鍔部14に対面する壁面は、径方向外側に向かって突出量を減少させる方向に傾斜する傾斜面16fを含む。さらに、突出部14aの先端にも径方向内側に向かって突出部14aの突出長さを減少させる方向に傾斜する傾斜面14bが設けられている。これらの傾斜面14b,16fは、保持器16を揺動軸受用外輪12の径方向から組み込む際の挿入案内面として機能する。このように、保持器16を揺動軸受用外輪12の径方向から組み込み可能とすれば、揺動軸受11の組立性がさらに向上する。
【0032】
なお、上記の実施形態においては、突出部14aで突起16dを径方向内側から保持する例を示したが、これに限ることなく、突出部14aで連結部16bを直接保持するようにしてもよい。この場合、突起16dは省略することができる。
【0033】
ただし、突出部14aで連結部16bを直接保持する場合、鍔部14の突出長さを保持器16の厚み寸法より長くしなければならない。一方、突出部14aで突起16dを保持する場合には、鍔部14の突出長さは突起16dの厚み寸法より長ければよい。つまり、図4に示すように、突起16dを保持器16の径方向外側に偏らせて設ければ、鍔部14の突出長さを短くすることができる。したがって、鍔部16の突出長さを短くする観点からは、保持器16の幅方向端面に突起16dを設けて、突出部14aと突起16dとを係合させるのが望ましい。
【0034】
また、外向き突出片13b、内向き突出片13c、および爪部13dは、この発明の必須の構成要素ではなく、省略することができる。また、上記の実施形態における爪部13dは、保持器16の突起16dと係合する例を示したが、これに限ることなく、保持器16の幅方向の端面に爪部13dと係合する突起を別途設けてもよい。
【0035】
また、上記の実施形態においては、軌道部材13の円周方向一方側端部に内向き突出片13cを、円周方向他方側端部に爪部13dをそれぞれ設けた例を示したが、これに限ることなく、爪部13dを省略して軌道部材13の円周方向両端部に内向き突出片13cを設けてもよいし、反対に、内向き突出片13cを省略して軌道部材13の円周方向両端部に爪部13dを設けてもよい。
【0036】
図5〜図9を参照して、この発明の他の実施形態に係る揺動軸受21を説明する。なお、揺動軸受11との共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。また、図5は揺動軸受21の斜視図、図6は揺動軸受用外輪22の斜視図、図7は保持器26の斜視図、図8は図6の矢印VIIIの方向から見た矢視図、図9は図8の他の実施形態を示す図である。
【0037】
まず、図5を参照して、揺動軸受21は、揺動軸受用外輪22と、揺動軸受用外輪22の内径面に沿って配置される複数のころ25と、複数のころ25を保持する保持器26とを備える。
【0038】
次に、図6を参照して、揺動軸受用外輪22は、内径面に軌道面23aを有する円弧形状(この実施形態では中心角が180°の半円形状)の軌道部材23と、軌道部材23の幅方向両端部から径方向内側に突出して、ころ25および保持器26の幅方向の移動を規制する鍔部24とを含む。
【0039】
軌道部材23には、その円周方向両端部に外向き突出片23bと、円周方向一方側端部(図5中の左側)に内向き突出片23cと、円周方向他方側端部(図5中の右側)に爪部23dとが設けられている。鍔部24には、その先端から軌道部材23の幅方向内側に向かって延びる突出部24aが設けられている。
【0040】
なお、外向き突出片23b、内向き突出片23c、爪部23dおよび突出部24aの構成および機能は、それぞれ外向き突出片13b、内向き突出片13c、爪部13d、および突出部14aと共通するので、説明は省略する。また、図5のIV−IVにおける断面図は図4と共通するので、説明は省略する。
【0041】
次に、図8を参照して、鍔部24は、軌道部材23の円周方向の一部にのみ形成されている。具体的には、軌道部材23の円周方向の中央部領域(「揺動軸受21の揺動中心を含む領域」を指す)に位置している。そして、軌道部材23の円周方向長さをL、鍔部24の円周方向長さをLとすると、0.2≦L/L≦0.8を満たすように、鍔部24の円周方向長さLを設定する。
【0042】
ここで、L/L≦0.8とすれば、揺動軸受用外輪22の剛性を十分に低下させることができる。一方、L/L<0.2とすれば、鍔部24の剛性が低くなりすぎて、保持器26の幅方向への移動を適切に規制することができなくなる。その結果、揺動軸受21の円周方向に対する保持器26の傾きが大きくなり、ころ25および保持器26の挙動が不安定となる。
【0043】
そこで、上記構成のように、鍔部24を軌道部材23の円周方向の一部にのみ形成することによって、揺動軸受用外輪22の剛性を低下させることができる。その結果、適切な予圧で揺動軸受用外輪22をハウジングに密着させることができると共に、保持器26の幅方向への移動を適切に規制することができる。
【0044】
なお、図8においては、外向き突出片23b、内向き突出片23c、および爪部23dの図示を省略している。また、爪部23dは鍔部24とは異なる役割を担っており、鍔部24の円周方向長さLには、爪部23dを含まないものとする。
【0045】
揺動軸受用外輪22の製造方法は揺動軸受用外輪12と共通するので、詳しい説明は省略する。なお、この実施形態においては、鍔部24を軌道部材23の円周方向の一部に限定して形成するので、図1に示すように鍔部14を軌道部材13の円周方向全域に設ける場合と比較して、軌道部材23および鍔部24の形成が容易となる。
【0046】
次に、図7を参照して、保持器26は、円周方向に所定の間隔を空けて配置される複数の柱部26aと、柱部26aの長手方向両端部に配置される円弧形状の一対の連結部26bとを含み、隣接する柱部26aの間にころ25を収容するポケット26cが形成されている。また、連結部26bの幅方向の端面(「揺動軸受用外輪22に組み込んだときに鍔部24に対面する壁面」を指す。)には、円周方向に連続する突条26dが形成されている。
【0047】
さらに、保持器26の円周方向両端部には、ポケット26cの形成されていない空白領域26eが設けられている。円周方向一方側(図5中の左側)の空白領域26eは、保持器26の円周方向の端面が内向き突出片26cに衝突したときに、ポケット26cの変形に伴うころ25の回転不良を防止する。一方、円周方向他方側(図5中の右側)の空白領域26eは、保持器26が円周方向他方側に最大限偏ったときに、揺動軸受用外輪22からはみ出す部分なので、ころ25を配置することができない。
【0048】
上記構成の揺動軸受21の組立方法を説明する。まず、保持器26のポケット26cにころ25を組み込む。そして、鍔部24の形成されていない揺動軸受用外輪22の円周方向端部領域から保持器26を軌道面23aに沿って挿入する。
【0049】
なお、上記の実施形態において、図6に示す揺動軸受用外輪22に図3に示す保持器16を組み込むと、突起16dが鍔部24の円周方向の端部に引っ掛かって、揺動軸受のスムーズな揺動を阻害する。したがって、揺動軸受用外輪22には図7に示す保持器26が適している。一方、図2に示す揺動軸受用外輪12には、図7に示す保持器26を組み込んでもよい。
【0050】
また、上記の実施形態においては、鍔部24を軌道部材23の円周方向中央部領域に配置した例を示したが、これに限ることなく、任意の位置に任意の個数だけ設けることができる。図9を参照して、この発明の他の実施形態に係る揺動軸受用外輪32を説明する。図9は揺動軸受用外輪32の図8に対応する図である。なお、図6および図8に示した揺動軸受用外輪22との共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0051】
図9を参照して、揺動軸受用外輪32は、軌道部材33と、鍔部34a,34b(これらを総称して「鍔部34」という)とを含む。鍔部34aは軌道部材33の円周方向一方側(図9中の左側)の端部領域に、鍔部34bは軌道部材33の円周方向他方側(図9中の右側)の端部領域にそれぞれ配置されている。
【0052】
このように、鍔部34a,34bを任意の位置に設けた場合でも、軌道部材33の円周方向長さLと、鍔部34の円周方向長さLとが0.2≦L/L≦0.8を満たしていれば、この発明の効果を得ることができる。なお、この場合における鍔部34の円周方向長さLは、鍔部34aの円周方向長さLと鍔部34bの円周方向長さLとの和に一致する。
【0053】
図10および図11を参照して、この発明のさらに他の実施形態に係る揺動軸受41を説明する。なお、揺動軸受11,21との共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。また、図10は揺動軸受41の斜視図、図2は揺動軸受用外輪42の斜視図である。
【0054】
まず、図10を参照して、揺動軸受41は、揺動軸受用外輪42と、揺動軸受用外輪42の内径面に沿って配置される複数のころ45と、複数のころ45を保持する保持器46とを備える。なお、保持器46は図7に示す保持器26と共通するので、説明は省略する。
【0055】
次に、図11を参照して、揺動軸受用外輪42は、内径面に軌道面43aを有する円弧形状(この実施形態では中心角が180°の半円形状)の軌道部材43と、軌道部材43の幅方向両端部から径方向内側に突出して、ころ45および保持器46の幅方向の移動を規制する鍔部44とを含む。
【0056】
軌道部材43には、その円周方向両端部に外向き突出片43bと、円周方向一方側端部(図10中の左側)に内向き突出片43cと、円周方向他方側端部(図10中の右側)に爪部43dとが設けられている。
【0057】
なお、外向き突出片43b、内向き突出片43c、爪部43dおよび突出部44aの構成および機能は、それぞれ外向き突出片13b、内向き突出片13c、爪部13d、および突出部14aと共通するので、説明は省略する。また、図10のIV−IVにおける断面図は図4と共通するので、説明は省略する。
【0058】
鍔部44は、第1の鍔部44aと、第1の鍔部44aと円周方向に隣接する位置に第1の鍔部44aより突出長さが相対的に小さい第2の鍔部(図示せず)とを含む。ただし、この実施形態においては、第2の鍔部の突出長さが0mm、すなわち、第2の鍔部が設けられていない。また、第1の鍔部44aには、その先端から軌道部材43の幅方向内側に向かって延びる突出部44bが設けられている。
【0059】
上記構成のように鍔部44の円周方向の一部について、その突出長さを減じることにより、揺動軸受用外輪42の剛性を低下させることができる。その結果、適切な予圧で揺動軸受用外輪42をハウジングに密着させることができる。
【0060】
揺動軸受用外輪42の製造方法は揺動軸受用外輪12と共通するので、詳しい説明は省略する。なお、この実施形態においては、鍔部44を軌道部材43の円周方向の一部に限定して形成する(隣接する第1の鍔部44aの間には鍔部の形成されていない領域が存在する)ので、鍔部を軌道部材の円周方向全域に設ける場合と比較して、軌道部材43および鍔部44の形成が容易となる。
【0061】
なお、上記の実施形態においては、複数の第1の鍔部44aを円周方向に所定の間隔を空けて配置した(第2の鍔部の突出長さが0mm)例を示したが、これに限ることなく、第1の鍔部44aと円周方向に隣接する位置に第2の鍔部を設けてもよい。第2の鍔部の突出長さを第1の鍔部44aより小さくし、かつ第2の鍔部の先端に軌道部材43の幅方向内側に延びる突出部を設けなければ、従来の揺動軸受用外輪と比較して剛性を低下させることができる。
【0062】
図12〜図14を参照して、この発明のさらに他の実施形態に係る揺動軸受51を説明する。なお、揺動軸受11,21,41との共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。また、図12は揺動軸受51の斜視図、図13は図12に示す揺動軸受用外輪52の斜視図、図14は図12のXIV−XIVにおける断面図である。
【0063】
まず、図12を参照して、揺動軸受51は、揺動軸受用外輪52と、揺動軸受用外輪52の軌道面上に配置される複数のころ55と、複数のころ55を保持する保持器56とを備える。なお、保持器56は図7に示す保持器26と共通するので、説明は省略する。
【0064】
次に、図13および図14を参照して、揺動軸受用外輪52は、内径面に軌道面53aを有する円弧形状(この実施形態では中心角が180°の半円形状)の軌道部材53と、軌道部材53の幅方向両端部から径方向内側に突出して、ころ55および保持器56の幅方向の移動を規制する鍔部54とを含む。
【0065】
軌道部材53には、その円周方向両端部に外向き突出片53bと、円周方向一方側端部(図12中の左側)に内向き突出片53cと、円周方向他方側端部(図12中の右側)に爪部53dとが設けられている。鍔部54は、軌道部材53の幅方向両端部から径方向に向かって、かつ軌道面53aに対して鋭角に延びている。
【0066】
なお、外向き突出片53b、内向き突出片53c、および爪部53dの構成および機能は、それぞれ外向き突出片13b、内向き突出片13c、および爪部13dと共通するので、説明は省略する。また、図13の矢印VIIIの方向から見た矢視図は図8と共通するので、説明は省略する。
【0067】
次に、図14を参照して、保持器56は、軌道面53aと一対の鍔部54とで囲まれる領域に位置する。また、鍔部54の先端の距離は、保持器56の最大幅寸法よりも短く設定されている。具体的には、左右の突条56dの頂点を結んだ位置が保持器56の最大幅寸法となる。また、鍔部54の先端は突条56dよりも径方向内側に位置し、突条56dを径方向内側から保持している。上記構成とすることにより、保持器56が揺動軸受用外輪52の径方向に抜けるのを防止する。
【0068】
揺動軸受用外輪52の製造方法は揺動軸受用外輪52と共通するので、詳しい説明は省略する。なお、鍔部54の形成工程では、平板の短手方向の両端部を起点として軌道面53aに対して鋭角に折り曲げる。
【0069】
なお、上記の実施形態においては、鍔部54を軌道部材53の円周方向の一部にのみ設けた例を示したが、これに限ることなく、図2に示すように鍔部を軌道部材の円周方向の全域に設けてもよい。この場合、保持器56としては、図3に示す保持器16および図7に示す保持器26のどちらを採用してもよい。
【0070】
上記の各実施形態において、揺動時の潤滑性能を向上させるため、少なくともころの表面(特に転動面)、さらには揺動軸受用外輪の軌道面にランダムに無数の微小凹形状のくぼみを設ける。これにより、油膜形成能力が向上し、希薄潤滑下で極端に油膜厚さが薄い条件下でも長寿命となる。
【0071】
このとき、くぼみを設けた面の面粗さパラメータRqniを0.10以上、かつSk値を−1.6以下に設定し、軸受部品(「ころ」および「揺動軸受用外輪」を指す)の表面積に対するくぼみの面積率を10%〜40%の範囲内に設定する。加工方法としては、特殊なバレル研磨によって所望の仕上げ面を得ることができるが、ショットピーニングやショットブラスト等を用いてもよい。なお、このような加工をHL(High Lubrication)加工といい、HL加工よって得られた表面をHL表面という。
【0072】
なお、「Rqni」とは、粗さ中心線から粗さ曲線までの高さの偏差の自乗を測定長さの区間で積分し、その区間で平均した値の平方根を指すものとし、別名自乗平均平方根粗さともいう(ISO4287:1997)。
【0073】
これにより、微小凹形状のくぼみが油溜りとなり、油膜形成が向上し、表面損傷を極力抑える効果がある。なお、くぼみの面積率が10%未満である場合、微小凹形状のくぼみが少なすぎて長寿命効果が小さくなる。一方、くぼみの面積率が40%より大きい場合には、軌道面ところの接触面積が減少して長寿命効果が小さくなる。
【0074】
RqniおよびSk値の測定方法および条件の一例を以下に示す。この測定方法によって、例えばころの表面性状を測定する場合、一箇所の測定値でも代表値として信頼できるが、直径方向に対向する2箇所を測定することにより、より信頼性の高い測定結果を得ることができる。
【0075】
パラメータ算出規格:ガウシアン
測定長さ:5λ
カットオフ波長:0.25mm
測定倍率:10000倍
測定速度:0.30mm/s
測定箇所:ころ中央部
測定数:2箇所
測定装置:面粗さ測定器サーフコム1400A(東京精密株式会社)
また、凹形状のくぼみの定量的測定は、例えば、ころの表面を拡大し、その画像から市販されている画像解析システムを使用して行うことができる。さらには、特開2001−186424号公報に記載されている表面検査方法および表面性状検査装置を用いれば、安定して精度よく測定することができる。この方法でくぼみの定量的測定を行う場合、画像の白い部分は表面平坦部、黒い部分は微小なくぼみとして解析する。
【0076】
上記公報に記載されている測定装置による測定条件の一例を以下に示す。この場合も、一箇所の測定値でも代表値として信頼できるが、2箇所以上を測定することにより、さらに信頼性の高い測定結果を得ることができる。
【0077】
観察視野:826μm×620μm
(ころの直径がφ4未満の場合、413μm×640μmが望ましい)
測定位置:ころ中央部
測定箇所:2箇所
次に、この発明の効果を確認するために、図15に示すようなラジアル荷重試験61を用いて、回転軸62の両側に取り付けた試験軸受63に荷重を加えながら回転試験を行った。なお、回転軸62および試験軸受63の軌道輪の表面粗さRaは、0.10μm〜0.16μmの範囲内に設定されており、試験条件は以下の通りである。
【0078】
軸受ラジアル荷重:2000kgf
回転数:4000rpm
潤滑油:クリセフオイルH46
上記の試験に用いる軸受として、揺動軸受に代えて図16に示すような針状ころ軸受64を採用した。針状ころ軸受64は、針状ころ65と、針状ころを収容するポケットを有する保持器66とを備える。また、針状ころ軸受64の外径Dr=66mm、内径dr=25mm、針状ころ65の直径D=4mm、ころ長さL=25.8mmであって、針状ころ65が15本収容されている。
【0079】
また、この発明の一実施形態に係る針状ころを採用した針状ころ軸受(本発明品)は、表1上段の表面性状を得るために表面処理を施しており、表面状態を図17に示す。一方、比較対象となる従来の針状ころを最小した針状ころ軸受(従来品)は、特段の表面処理を施しておらず、表面性状は表1下段に、表面状態は図18に示す通りである。
【0080】
【表1】

【0081】
表1を参照して、本発明品は、従来品と比較して1.7倍の剥離寿命が得られることが確認された。
【0082】
次に、図19および図20を参照して、この発明の一実施形態に係るエアディスクブレーキ装置71を説明する。なお、図19はエアディスクブレーキ装置71の概略断面図、図20は制動機構80の拡大断面図である。
【0083】
まず、図19を参照して、エアディスクブレーキ装置71は、タイヤ(図示省略)と一体回転するブレーキディスク72(「ロータ」ともいう)と、一対のブレーキパッド73,74と、ブレーキシリンダ75と、制動機構80とを主に備える。
【0084】
一対のブレーキパッド73,74は、ブレーキディスク72の軸方向に隣接する位置に配置されている。また、ブレーキディスクとブレーキパッド73,74との間には、非制動状態(ブレーキペダルを踏み込んでいない状態を指す)において、所定の隙間が設けられている。
【0085】
ブレーキシリンダ75は、容積が可変の空気室76と、空気室76への空気の供給および排出を行う吸排気口77と、空気室76の容積の変化に伴って軸方向(「図19中の矢印Aの方向およびその反対方向」を指す)に移動するアクチュエータロッド78と、アクチュエータロッド78を空気室76の容積を減じる方向に付勢する弾性部材としてのコイルばね79とを含む。
【0086】
制動機構80は、一方側端部に揺動部材81を有し、他方側端部でアクチュエータロッド78と連結し、揺動部材81の揺動中心Gを中心として回動する回動レバー82と、揺動部材81を揺動自在に支持するこの発明の一実施形態に係る揺動軸受11と、揺動部材81の揺動中心Gから外れた位置に取り付けられて、軸方向(「図19中の矢印Bの方向およびその反対方向」を指す)に移動するトラバース83と、トラバース83をブレーキパッド73,74から遠ざける方向に付勢する弾性部材としてのコイルばね84とを含む。
【0087】
上記構成のエアディスクブレーキ装置71は、例えば、大型商用車、トラック、またはバス等の大型で大きな制動力を必要とする車両等に採用される。
【0088】
上記構成のエアディスクブレーキ装置71の動作を説明する。まず、ブレーキペダル(図示省略)を踏み込むと、吸排気口77から空気室76に空気が供給され、空気室76の容積が増大する。空気室76の容積の増大に伴って、アクチュエータロッド78がコイルばね79の弾性力に逆らって矢印Aの方向に移動する。アクチュエータロッド78に押された回動レバー82は、揺動中心Gの周りを反時計回りに回動する(回動後の回動レバー82の位置を図20に一点鎖線で示す)。揺動部材81の揺動中心Gから外れた位置に取り付けられたトラバース83は、コイルばね84の弾性力に逆らって矢印Bの方向に移動する。これにより、ブレーキパッド73,74がブレーキディスク72に押し付けられて、タイヤの回転が制動される。
【0089】
一方、ブレーキペダルを緩めると、空気室76内の空気が吸排気口77から排出され、空気室76の容積が減少する。空気室76の容積の減少に伴って、コイルばね79がアクチュエータロッド78を矢印Aと反対方向に移動させる。アクチュエータロッド78に連結された回動レバー82は、揺動中心Gの周りを時計回りに回動する。そして、コイルばね84がトラバース83を矢印Bと反対方向に移動させる。これにより、ブレーキディスク72とブレーキパッド73,74との間に所定の隙間が形成されて、タイヤの制動が解除される。
【0090】
上記構成のエアディスクブレーキ装置71において、揺動部材81を揺動自在に支持する軸受として、この発明の一実施形態に係る揺動軸受11を採用することにより、長寿命で信頼性の高いエアディスクブレーキ装置71を得ることができる。また、この発明の他の実施形態に係る揺動軸受21,41,51を採用しても、同様の効果を得ることができる。
【0091】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
この発明は、揺動軸受に有利に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】この発明の一実施形態に係る揺動軸受の斜視図である。
【図2】図1に示す揺動軸受用外輪の斜視図である。
【図3】図1に示す保持器の斜視図である。
【図4】図1のIV−IVにおける断面図である。
【図5】この発明の他の実施形態に係る揺動軸受の斜視図である。
【図6】図5に示す揺動軸受用外輪の斜視図である。
【図7】図5に示す保持器の斜視図である。
【図8】図6の矢印VIIIの方向から見た矢視図である。
【図9】図8の他の実施形態を示す図である。
【図10】この発明のさらに他の実施形態に係る揺動軸受の斜視図である。
【図11】図10に示す揺動軸受用外輪の斜視図である。
【図12】この発明のさらに他の実施形態に係る揺動軸受の斜視図である。
【図13】図2に示す揺動軸受用外輪の斜視図である。
【図14】図12のXIV−XIVにおける断面図である。
【図15】この発明の効果確認試験で使用したラジアル荷重試験機の概略図である。
【図16】効果確認試験に使用した針状ころ軸受を示す図である。
【図17】表1の表面処理を施した後の構成部品表面状態を示す図である。
【図18】表面処理を施していない構成部品の表面状態を示す図である。
【図19】この発明の一実施形態に係るエアディスクブレーキ装置を示す図である。
【図20】図19の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0094】
11,21,41,51 揺動軸受、12,22,32,42,52 揺動軸受用外輪、13,23,33,43,53 軌道部材、13a,23a,43a,53a 軌道面、13b,23b,43b,53b 外向き突出片、13c,23c,43c,53c 内向き突出片、13d,23d,43d,53d 爪部、14,24,34,34a,34b,44,54 鍔部、14a,24a,44a 突出部、15,25,45,55 ころ、16,26,46,56 保持器、16a,26a,46a,56a 柱部、16b,26b,46b,56b 連結部、16c,26c,46c,56c ポケット、16d 突起、26d,46d,56d 突条、16e,26e,46e,56e 空白領域、14b,16f 傾斜面、61 ラジアル荷重試験、62 回転軸、63 試験軸受、64 針状ころ軸受、65 ころ、66 保持器、71 エアディスクブレーキ装置、72 ブレーキディスク、73,74 ブレーキパッド、75 ブレーキシリンダ、76 空気室、77 吸排気口、78 アクチュエータロッド、79,84 コイルばね、80 制動機構、81 揺動部材、82 回動レバー、83 トラバース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円弧形状の揺動軸受用外輪と、
表面にランダムに形成した無数の微小凹形状のくぼみを有し、前記揺動軸受用外輪の内径面に沿って配置される複数のころとを備える、揺動軸受。
【請求項2】
前記ころの表面積に対する前記くぼみの面積率は、10%〜40%である、請求項1に記載の揺動軸受。
【請求項3】
前記ころの表面におけるSk値は、−1.6以下である、請求項1または2に記載の揺動軸受。
【請求項4】
前記揺動軸受用外輪は、
内径面に前記ころを受け入れる転動面を有する円弧形状の軌道部材と、
前記軌道部材の幅方向両端部から径方向内側に突出する鍔部とを備える、請求項1〜3のいずれかに記載の揺動軸受。
【請求項5】
前記軌道部材の円周方向長さをL、前記鍔部の円周方向長さをLとすると、
0.2≦L/L≦0.8を満たす、請求項4に記載の揺動軸受。
【請求項6】
前記鍔部は、第1の鍔部と、前記第1の鍔部と円周方向に隣接する位置に突出長さが相対的に小さい第2の鍔部とを含む、請求項4に記載の揺動軸受。
【請求項7】
前記軌道部材と前記鍔部とのなす角は、鋭角である、請求項4に記載の揺動軸受。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の揺動軸受を備える、エアディスクブレーキ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−24711(P2009−24711A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185407(P2007−185407)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】