説明

摺動部材およびその製造方法

【課題】優れた摺動特性と耐摩耗性の両立を図ることのできる摺動部材を提供する。
【解決手段】摺動面が、第1材料からなり複数の凹部が規則的に配列された基部1と、上記凹部を充填する第2材料からなる充填部2とを有し、前記第1材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種からなり、前記第2材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種以上からなり、前記第1材料と前記第2材料は、摩擦係数と硬度のうちの1以上が異なり、更には、前記基部1の表面と前記充填部2の表面が単一面を形成していることを特徴とする摺動部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動部材およびその製造方法に関するものであり、特には、優れた摺動特性と耐摩耗性の両立を図ることのできる摺動部材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車エンジンの部品等として用いられる摺動部材には、優れた耐摩耗性や摺動特性が要求されている。これらの特性を具備すべく、摺動部材の摺動面にダイヤモンドライクカーボンからなる皮膜(DLC膜)等の硬質皮膜をコーティングすることが従来より行われている。例えば特許文献1には、摺動部材の摺動側表面に、硬度、ヤング率、および膜厚の異なる2層のダイヤモンドライクカーボンからなる膜を積層させた膜をコーティングすることによって、耐久性と低摩擦係数の2つの特性を兼備できる旨示されている。
【0003】
また特許文献2には、摺動部材の摺動面に、水素を8.0原子%以上12.0原子%以下、および窒素を3.0原子%以上14.0原子%以下含む窒素含有非晶質炭素系皮膜を形成すれば、該摺動部材を高面圧下や油潤滑環境下で用いた場合であっても優れた耐久性を発揮する旨示されている。
【0004】
これらは、DLC膜が本来、基材との密着性に劣ることに鑑みて、この問題を解決すべく、密着性を高めて摺動部材そのものの耐久性を高めることに重点が置かれているが、近年では、優れた耐摩耗性と優れた摺動特性のどちらも兼備させることが求められている。
【0005】
しかし耐摩耗性を劣化させることなく、摺動特性(摩擦特性)を高めることは困難であり、上記両特性を兼備した摺動部材の実現が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−167512号公報
【特許文献2】特開2010−070848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、優れた摺動特性と耐摩耗性の両立を図ることのできる摺動部材とその製造方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し得た本発明の摺動部材とは、摺動面が、第1材料からなり複数の凹部が規則的に配列された基部と、上記凹部を充填する第2材料からなる充填部とを有し、
前記第1材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種からなり、
前記第2材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種以上からなり、
前記第1材料と前記第2材料は、摩擦係数と硬度のうちの1以上が異なり、
更には、前記基部の表面と前記充填部の表面が単一面を形成しているところに特徴を有する(この摺動部材を、以下「摺動部材(第1形態)」ということがある)。
【0009】
上記課題を解決し得た本発明の別の摺動部材とは、摺動面が、第1材料からなり複数の凹部が規則的に配列された基部と、上記凹部を充填する第2材料からなる充填部と、前記基部と前記充填部との間の、第3材料からなる界面層とを有し、
前記第1材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種からなり、
前記第2材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種以上からなり、
前記第3材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種以上からなり、
前記第1材料と前記第2材料は、摩擦係数と硬度のうちの1以上が異なり、かつ
前記第3材料は、前記第1材料および/または前記第2材料と親和性が高く、
更には、前記基部の表面、前記充填部の表面、およびこれらの表面に挟まれた界面層の表面が、単一面を形成しているところに特徴を有する(この摺動部材および下記の更に別の摺動部材の通り、界面層を有する摺動部材を、以下「摺動部材(第2形態)」ということがある)。
【0010】
上記課題を解決し得た本発明の更に別の摺動部材とは、摺動面が、第1材料からなり複数の凹部が規則的に配列された基部と、上記凹部を充填する第2材料からなる充填部と、前記基部と前記充填部との間の、第3材料からなる界面層とを有し、
前記第1材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種からなり、
前記第2材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種以上からなり、
前記第3材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種以上からなり、
前記第1材料と前記第2材料は、摩擦係数と硬度のうちの1以上が異なり、かつ
前記第3材料は、前記第1材料および/または前記第2材料と、摩擦係数と硬度のうちの1以上が異なり、
更には、前記基部の表面、前記充填部の表面、およびこれらの表面に挟まれた界面層の表面が、単一面を形成しているところに特徴を有する。
【0011】
前記基部として、基材である場合や、硬質皮膜である場合が挙げられる。
【0012】
摺動面に占める前記充填部の面積率は、0.05%以上55%以下であることが好ましい。
【0013】
前記複数の凹部としては、複数の穴を含むものであって、かつ、1つの穴の開口面積が0.5μm以上4mm以下であることが好ましい形態として挙げられる。
【0014】
また前記複数の凹部として、複数の溝を含むものであって、かつ、1つの溝の幅が0.8μm以上2mm以下であることも好ましい形態として挙げられる。
【0015】
前記凹部の最大深さは、0.05μm以上5.0μm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明は、上記摺動部材(第1形態)の製造方法も規定するものであって、該方法は、
凹部の施されていない基部の一部をマスクで被覆する工程と、
前記基部に対してエッチング処理を行う工程と、
エッチング処理された基部上に、前記第2材料からなる皮膜を気相成長法により成膜して充填部を形成する工程と、
前記基部からマスクを除去する工程と、
前記基部の表面と前記充填部の表面が単一面となるよう研磨する工程と
を含んでいるところに特徴を有する。
【0017】
また本発明は、上記摺動部材(第2形態)の製造方法も規定するものであって、該方法は、
凹部の施されていない基部の一部をマスクで被覆する工程と、
前記基部に対してエッチング処理を行う工程と、
エッチング処理された基部上に、前記第3材料からなる皮膜を気相成長法により成膜して界面層を形成する工程と、
前記界面層上に、前記第2材料からなる皮膜を気相成長法により成膜して充填部を形成する工程と、
前記基部からマスクを除去する工程と、
前記基部の表面、前記充填部の表面、およびこれらの表面に挟まれた界面層の表面が単一面となるよう研磨する工程と
を含んでいるところに特徴を有する。
【0018】
前記エッチング処理としては、イオンボンバード処理を行うことが好ましい。
【0019】
前記基部として、基材である場合や、硬質皮膜である場合が挙げられる。
【0020】
前記マスクとしては、被覆領域および露出領域をそれぞれ複数有し、かつ被覆領域および露出領域が規則的に配列されたものを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた摺動特性と耐摩耗性の両立を図ることができるため、厳しい摺動環境下や、潤滑剤の存在しない摺動環境下においても使用することのできる摺動部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、基部が基材である場合の摺動部材(第1形態)の断面を示した概略断面図である。
【図2】図2は、基部が硬質皮膜である場合の摺動部材(第1形態)の断面を示した概略断面図である。
【図3】図3は、基部が基材である場合の摺動部材(第2形態)の断面を示した概略断面図である。
【図4】図4は、基部が硬質皮膜である場合の摺動部材(第2形態)の断面を示した概略断面図である。
【図5】図5は、充填部の配列を例示した平面図である。
【図6】図6は、基部が基材である場合の摺動部材(第1形態)の製造方法を概略的に示した工程図である。
【図7】図7は、基部が硬質皮膜である場合の摺動部材(第1形態)の製造方法を概略的に示した工程図である。
【図8】図8は、基部が基材である場合の摺動部材(第2形態)の製造方法を概略的に示した工程図である。
【図9】図9は、基部が硬質皮膜である場合の摺動部材(第2形態)の製造方法を概略的に示した工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、摺動部材の摺動面を構成する基部に凹部を形成し、該凹部に、摩擦係数や硬度が基部とは異なる材料を充填すれば、基部が単一材料からなる摺動部材よりも耐摩耗性、摺動特性を高めて、優れた摺動特性と耐摩耗性を兼備する摺動部材を実現できることを見出し、本発明に想到した。
【0024】
以下、本発明の摺動部材について詳述する。
【0025】
本発明の摺動部材(第1形態および第2形態)は、摺動面が、第1材料からなり複数の凹部が規則的に配列された基部と、上記凹部を充填する第2材料からなる充填部とを有し、かつ基部を構成する第1材料と充填部を構成する第2材料は、摩擦係数と硬度のうちの1以上が互いに異なっている点に共通の特徴を有している。
【0026】
この様に充填部の材料として、摩擦係数が基部と異なる材料を用いることで、基部が本来有する潤滑性能を制御することができる。また、硬度が基部と異なる材料を用いることで、耐摩耗性を向上させることができる。例えば充填部の材料として、基部の材料よりも摩擦係数が低く、かつ、硬度の硬いものを用いることで、摺動面が基部を構成する材料のみからなる場合よりも、耐摩耗性の向上と摩擦係数の低減を同時に達成することが可能となる。
【0027】
次に、本発明の各摺動部材の構造について説明する。
【0028】
本発明の摺動部材(第1形態)は、摺動面が、第1材料からなり複数の凹部が規則的に配列された基部と、上記凹部を充填する第2材料からなる充填部とを有する点に特徴がある。上記基部として例えば基材や硬質皮膜が挙げられる。
【0029】
前記基部が基材である場合の摺動部材(第1形態)の概略断面図を図1に例示する。図1において、基材(基部)1に設けられた凹部に、摩擦係数と硬度のうちの1以上が基材1と異なる第2材料2が充填され(充填部2が形成され)、かつ前記基材1と前記充填部2からなる摺動面が単一面である構造となっている。
【0030】
また前記基部が硬質皮膜である場合の摺動部材(第1形態)の概略断面図を図2に例示する。図2において、基材1と、この基材1上に設けられた硬質皮膜(基部)3とを有し、かつこの硬質皮膜3に設けられた凹部に、摩擦係数と硬度のうちの1以上が硬質皮膜3と異なる第2材料2が充填され(充填部2が形成され)、前記硬質皮膜3と前記充填部2からなる摺動面が単一面である構造となっている。
【0031】
本発明の別の摺動部材(第2形態)は、前記第1形態の摺動部材における基部と充填部の間に、界面層を設けて、更なる特性の向上を図るものである。即ち、摺動部材(第2形態)は、摺動面が、第1材料からなり複数の凹部が規則的に配列された基部と、上記凹部を充填する第2材料からなる充填部と、前記基部と前記充填部との間の、第3材料からなる界面層とを有する点に特徴がある。この場合も、上記基部として例えば基材や硬質皮膜が挙げられる。
【0032】
前記基部が基材である場合の摺動部材(第2形態)の概略断面図を図3に例示する。図3において、基材(基部)1に設けられた凹部に、摩擦係数と硬度のうちの1以上が基材1と異なる第2材料2が充填され(充填部2が形成され)、かつ前記基材1(基部、第1材料)と前記充填部2(第2材料)との間の、
(A)前記第1材料および/または前記第2材料と親和性が高い;または、
(B)前記第1材料および/または前記第2材料と、摩擦係数と硬度のうちの1以上が異なる;第3材料からなる界面層10が形成されている。また図3において、前記基材1、前記充填部2、および前記界面層10からなる摺動面が単一面である構造となっている。
【0033】
次に、前記基部が硬質皮膜である場合の摺動部材(第2形態)の概略断面図を図4に例示する。図4において、基材1と、この基材1上に設けられた硬質皮膜(基部)3とを有すると共に、この硬質皮膜3に設けられた凹部に、摩擦係数と硬度のうちの1以上が硬質皮膜3と異なる第2材料2が充填され(充填部2が形成され)、かつ前記硬質皮膜3(基部)と前記充填部2(第2材料)との間の、
(A)前記第1材料および/または前記第2材料と親和性が高い;または、
(B)前記第1材料および/または前記第2材料と、摩擦係数と硬度のうちの1以上が異なる;第3材料からなる界面層10が形成されている。また図4において、前記硬質皮膜3、前記充填部2、および前記界面層10からなる摺動面が単一面である構造となっている。
【0034】
上記図1〜4に示す通り、前記基部の表面と前記充填部の表面(界面層を有する場合には、更に、基部の表面と充填部の表面に挟まれた界面層の表面)が単一面を形成していることによって、基部と充填部の両方の特性を損なうことのない摺動表面が形成される。
【0035】
また、摺動面に占める充填部の面積率は、0.05%以上55%以下であることが好ましい。摺動面に占める充填部の面積率が0.05%を下回ると、基部の性能が支配的となり充填部の性能が発現し難い。よって摺動面に占める充填部の面積率は、0.05%以上であることが好ましく、より好ましくは0.07%以上、更に好ましくは0.10%以上、より更に好ましくは0.12%以上、特に好ましくは0.15%以上である。一方、摺動面に占める充填部の面積率が55%を超えると、充填部の性能が支配的になり、充填部単独での性能と差が見られなくなる。よって摺動面に占める充填部の面積率は55%以下であることが好ましく、より好ましくは50%以下、更に好ましくは40%以下、より更に好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下である。
【0036】
上記複数の凹部の形態として、複数の穴を含む場合が挙げられる。この場合、1つの穴の開口面積は0.5μm以上4mm以下であることが好ましい。穴の開口面積が0.5μmよりも小さい場合、加工が困難になることに加え、基部の性能が支配的となり充填部の性能が発現し難い。よって穴の開口面積は0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上であり、更に好ましくは100μm以上である。一方、穴の開口面積が4mmを超える場合には、充填部の性能が支配的になり、充填部単独での性能と差が見られなくなる。よって穴の開口面積は4mm以下とすることが好ましく、より好ましくは0.25mm以下であり、更に好ましくは0.016mm以下である。
【0037】
上記複数の穴を含む場合の具体的形態として、例えば円、楕円、正方形、長方形、多角形、星型等種々の形態が考えられるが、これに限定されない。これらの配置方法については規則的に配列されていればよく、具体的な配置は特に限定されず、例えば整列でも千鳥格子でも良い。この様に凹部が規則的に配列していることで、その効果を存分にかつ安定的に発揮させることができる。
【0038】
上記複数の凹部の別の配置形態として、複数の溝を含む場合が挙げられる。この場合、1つの溝の幅は0.8μm以上2mm以下であることが好ましい。1つの溝の幅が0.8μmよりも小さい場合、加工が困難になることに加え、基部の性能が支配的となり充填部の性能が発現し難い。よって1つの溝の幅は0.8μm以上とすることが好ましく、より好ましくは1.0μm以上、更に好ましくは10μm以上である。一方、1つの溝の幅が2mmを超える場合には、充填部の性能が支配的になり、充填部単独での性能と差が見られなくなる。よって1つの溝の幅は2mm以下とすることが好ましく、より好ましくは1mm以下であり、更に好ましくは0.5mm以下である。
【0039】
上記複数の溝を含む場合の具体的形態として、例えば縞形状、同心円形状、スパイラル形状、クロス形状、碁盤目形状などが考えられるが、これに限定されない。いずれの形状においても線間隔などに規則性を持たせるようにする。この様に凹部が規則的に配列していることで、その効果を存分にかつ安定的に発揮させることができる。
【0040】
尚、本発明では、複数の凹部の配置形態として、上記穴構造と溝構造の複合構造でも良い。
【0041】
図5に、基部として、例えば円盤状のものを用いた場合の複数の凹部のパターン例を示す。図5において、(a)〜(e)は、複数の穴からなる形態を例示したものであり、(f)〜(h)は、複数の溝からなる形態を例示したものであるがこれに限定されない。
【0042】
上記凹部の最大深さは、0.05μm以上5.0μm以下であることが好ましい。
【0043】
凹部の最大深さが0.05μmよりも小さい場合には、摩耗によってすぐに充填部が消失してしまい効果の持続が困難である。よって凹部の最大深さは、0.05μm以上であることが好ましい。より好ましくは0.07μm以上、更に好ましくは0.1μm以上である。一方、凹部の最大深さが5.0μmを超える場合には、凹部加工に時間を要すると共に、充填部の埋め込みにも時間を要し、生産の観点から好ましくない。よって凹部の最大深さは、5.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは、3.0μm以下であり、更に好ましくは2.0μm以下である。
【0044】
次に、本発明の摺動部材(第1形態および第2形態)を構成する材料について説明する。
【0045】
上述の通り、基部を構成する第1材料と、充填部を構成する第2材料は、摩擦係数と硬度のうちの1以上が異なっていることが必須であるが、その具体的材料については、摺動部材に用いられるものであれば特に問わない。
【0046】
基部を構成する前記第1材料としては、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種からなるものが挙げられる。
【0047】
基部が例えば基材である場合、前記金属材料として、例えばステンレス鋼、その他の鋼、純チタン、チタン合金、純アルミニウム、アルミニウム合金、純銅、銅合金、マグネシウム、超硬合金等の純金属または合金を使用することが挙げられる。また前記セラミックス材料として、例えば各種炭化物、窒化物、ホウ化物や、これらを複合したセラミックス材料を使用することが挙げられる。基材表面は、窒化、浸炭等の表面改質技術によってセラミックス化していても良い。
【0048】
また、基部が硬質皮膜である場合には、前記金属材料として、例えばステンレス鋼、その他の鋼、純チタン、チタン合金、純アルミニウム、アルミニウム合金、純銅、銅合金、マグネシウム、超硬合金等の純金属または合金を使用することが挙げられる。また、前記セラミックス材料として、例えば各種炭化物、窒化物、ホウ化物や、これらを複合したセラミックス材料を使用することが挙げられる。更に、前記炭素系材料として、例えばグラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドなどを好適に用いることができる。
【0049】
基部が硬質皮膜である場合、該硬質皮膜は基材上に形成されるが、この場合の基材も特に限定されず、例えばステンレス鋼、その他の鋼、純チタン、チタン合金、純アルミニウム、アルミニウム合金、純銅、銅合金、マグネシウム、超硬合金等の純金属または合金や、セラミックス(例えば各種炭化物、窒化物、ホウ化物や、これらを複合したセラミックス材料)などを使用することができる。
【0050】
硬質皮膜は、基材の直上に形成される場合に限らず、基材上に形成された下地層を介して形成されていてもよい。即ち、基材と硬質皮膜との間には、密着性を高めるべく下地層として、例えば、基材や硬質皮膜に含まれる1種以上の金属元素からなる純金属または合金からなる下地層(下地層1)や、例えば、基材や硬質皮膜に含まれる1種以上の金属元素の窒化物または炭化物または炭窒化物からなる下地層(下地層2)を設けることが挙げられる。
【0051】
また下地層は、単一の組成を有する単層からなる場合の他、複数層からなるものであってもよく、また組成傾斜層であってもよい。上記複数層からなる場合、例えば基材側が基材構成材料と密着性の高い層であり、かつ硬質皮膜側が硬質皮膜構成材料と密着性の高い層である2層以上の積層構造を有するものが挙げられる。また組成傾斜層として、例えば基材側が基材の組成に近く、基材から硬質皮膜に向かって硬質皮膜の組成に近づく傾斜組成構造を有する皮膜(具体的に例えば、基材側が、基材構成材料からなるかまたは基材構成材料と密着性の高い材料からなり、硬質皮膜側に向かうにつれて、硬質皮膜構成材料の割合が高くなるか、または硬質皮膜構成材料と密着性の高い材料の割合が高くなる傾斜組成構造を有する皮膜)が挙げられる。
【0052】
基部が硬質皮膜である場合、この硬質皮膜の厚さは50μm以下であることが好ましい。硬質皮膜の厚さが50μmを超えると皮膜の内部応力が大きくなり、剥離が発生しやすくなる。より好ましくは40μm以下であり、更に好ましくは30μm以下である。また、硬質皮膜の厚さは0.1μm以上であることが好ましい。硬質皮膜といえども摩耗することから、0.1μmより薄い膜では耐摩耗性に劣る。より好ましくは0.4μm以上であり、さらに好ましくは0.5μm以上である。
【0053】
上記下地層は、膜厚(複数層の場合はトータルの膜厚をいう。以下同じ)が0.001μm以上であることが好ましい。これより薄いと基材表面に下地層が形成されない箇所ができるため、密着性を十分に確保することが難しくなる。より好ましくは0.005μm以上である。一方、上記膜厚が厚すぎると、下地層の結晶成長などにより表面の凹凸が大きくなり、その結果、下地層上に形成される硬質皮膜の表面粗さも大きくなりやすく、加工が困難になるため好ましくない。よって上記膜厚は10μm以下とすることが好ましい。より好ましくは5μm以下である。
【0054】
次に、充填部を構成する第2材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種以上であるが、その具体的材料については特に限定されない。
【0055】
前記金属材料としては、具体的に例えば、ステンレス鋼、その他の鋼、純チタン、チタン合金、純アルミニウム、アルミニウム合金、純銅、銅合金、マグネシウム、超硬合金等の純金属または合金が挙げられる。前記セラミックス材料としては、例えば各種炭化物、窒化物、ホウ化物やこれらを複合したセラミックス材料が挙げられる。また前記炭素系材料としては、例えばグラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドなどが挙げられる。
【0056】
界面層を構成する第3材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種以上からなる。
【0057】
前記金属材料としては、具体的に例えば、ステンレス鋼、その他の鋼、純チタン、チタン合金、純アルミニウム、アルミニウム合金、純銅、銅合金、マグネシウム、超硬合金等の純金属または合金が挙げられる。前記セラミックス材料としては、例えば各種炭化物、窒化物、ホウ化物やこれらを複合したセラミックス材料が挙げられる。また前記炭素系材料としては、例えばグラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドなどが挙げられる。
【0058】
尚、第3材料は、上記羅列した材料のうち、更に所望とする特性、および採用する第1材料や第2材料の種類を考慮して選択されるものである。
【0059】
更に所望とする特性が、基部(第1材料)と充填部(第2材料)の密着性向上である場合、上記(A)の通り、第3材料として、前記第1材料および/または前記第2材料との親和性の高いものを用いるのがよい。具体的には第3材料として、
(A−1)第1材料(基材または硬質皮膜)と同じ材料、および/または、第1材料(基材または硬質皮膜)との親和性が高い材料;
(A−2)第2材料(充填部)と同じ材料、および/または、第2材料(充填部)との親和性が高い材料;
(A−3)上記(A−1)および(A−2)の材料を混合して得られる複合材料、即ち、(I)上述した第1材料(基材または硬質皮膜)と同じ材料、および/または、上記第1材料(基材または硬質皮膜)との親和性が高い材料と、(II)上述した第2材料(充填部)と同じ材料、および/または、上記第2材料(充填部)との親和性が高い材料との複合材料;が挙げられる。
【0060】
前記第1材料および/または前記第2材料(以下、第1,2材料という)が、金属材料である場合、この金属材料と親和性の高い第3材料として、
(i)該金属材料(例えば、特に純金属)と合金を形成しやすい金属元素からなる純金属、または該金属元素を含む合金、またはこれらの純金属や合金を構成する金属元素を含む化合物、
(ii)第1,2材料を構成する金属元素を含む化合物(炭化物、窒化物、炭窒化物、ホウ化物)が挙げられる。
【0061】
より具体的には、第1,2材料がステンレス鋼の場合、これと親和性の高い第3材料として、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン等の純金属、またはこれらの金属からなる合金、またはこれらの金属を含む化合物(炭化物、窒化物、炭窒化物、ほう化物等)等が挙げられる。また、第1,2材料が構造用合金鋼(S15CK、SNC415、SNC836、SNCM220、SNCM415、SNCM630、SCr415、SCr445、SCM415、SCM445、SMn420、SMnC420、SMnC443等)である場合(浸炭処理または窒化処理されている場合を含む)、この構造用合金鋼と親和性の高い第3材料として、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン等の純金属、またはこれらの金属からなる合金、またはこれらの純金属や合金を構成する金属元素を含む化合物(炭化物、窒化物、炭窒化物、ほう化物等)等が挙げられる。
【0062】
第1,2材料が純チタンの場合、これと親和性の高い第3材料として、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン等の純金属、またはこれらの金属からなる合金、またはこれらの金属を含む化合物(炭化物、窒化物、炭窒化物、ほう化物等)等が挙げられる。第1,2材料がチタン合金の場合、これと親和性の高い第3材料として、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン等の純金属、またはこれらの金属からなる合金、またはこれらの金属を含む化合物(炭化物、窒化物、炭窒化物、ほう化物等)等が挙げられる。
【0063】
第1,2材料が純アルミニウムの場合、これと親和性の高い第3材料として、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン等の純金属、またはこれらの金属からなる合金、またはこれらの金属を含む化合物(炭化物、窒化物、炭窒化物、ほう化物等)等が挙げられる。第1,2材料がアルミニウム合金の場合、これと親和性の高い第3材料として、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン等の純金属、またはこれらの金属からなる合金、またはこれらの金属を含む化合物(炭化物、窒化物、炭窒化物、ほう化物等)等が挙げられる。
【0064】
第1,2材料が純銅の場合、これと親和性の高い第3材料として、アルミニウム、銅、チタン、クロム、タングステン等の純金属、またはこれらの金属からなる合金、またはこれらの金属を含む化合物(炭化物、窒化物、炭窒化物、ほう化物等)が挙げられる。第1,2材料が銅合金の場合、これと親和性の高い第3材料として、アルミニウム、銅、チタン、クロム、タングステン等の純金属、またはこれらの金属からなる合金、またはこれらの金属を含む化合物(炭化物、窒化物、炭窒化物、ほう化物等)等が挙げられる。
【0065】
第1,2材料がマグネシウムの場合、これと親和性の高い第3材料として、アルミニウム、マグネシウム、チタン、クロム、タングステン等の純金属、またはこれらの金属からなる合金、またはこれらの金属を含む化合物(炭化物、窒化物、炭窒化物、ほう化物等)が挙げられる。
【0066】
第1,2材料が超硬合金の場合、これと親和性の高い第3材料として、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン等の純金属、またはこれらの金属からなる合金(超硬合金含む)、またはこれらの金属を含む化合物(炭化物、窒化物、炭窒化物、ほう化物等)等が挙げられる。
【0067】
第1,2材料がセラミックス材料である場合、このセラミックス材料と親和性の高い第3材料として、第1,2材料のセラミックス材料を構成する金属元素(例えばアルミニウム、銅、マグネシウム、チタン、クロム、タングステン等)からなる金属材料(純金属、合金)や、第1,2材料のセラミックス材料を構成する金属元素を含み、かつ該セラミックス材料と非金属元素の異なる化合物(炭化物、窒化物、炭窒化物、ホウ化物)等が挙げられる。
【0068】
より具体的には、第1,2材料が炭化物の場合、これと親和性の高い第3材料として、該炭化物を構成する金属元素からなる純金属、該金属元素を含む合金、該金属元素を含む窒化物やホウ化物等が挙げられる。また、第1,2材料が窒化物の場合、これと親和性の高い第3材料として、該窒化物を構成する金属元素からなる純金属、該金属元素を含む合金、該金属元素を含む炭化物やホウ化物等が挙げられる。第1,2材料がホウ化物の場合、これと親和性の高い第3材料として、該ホウ化物を構成する金属元素からなる純金属、該金属元素を含む合金、該金属元素を含む窒化物や炭化物等が挙げられる。更に、第1,2材料が炭化物、窒化物、ホウ化物を複合したセラミックス材料である場合、これと親和性の高い第3材料として、複合材料を構成する炭化物、窒化物、またはホウ化物が挙げられる。
【0069】
更に具体的に、第1,2材料が、Ti、Cr、AlおよびSiよりなる群から選択される一種以上の元素の窒化物や炭化物、炭窒化物(例えば硬質皮膜がこれに該当する)である場合、これと親和性の高い第3材料として、該化合物を構成する上記金属元素を含み、かつ該化合物と非金属元素の異なる上記化合物(窒化物、炭化物、または炭窒化物)が挙げられる。
【0070】
第1,2材料が炭素系材料である場合、この炭素系材料と親和性の高い第3材料として、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン等の純金属、またはこれらの金属からなる合金、またはこれらの金属を含む炭化物、炭窒化物等が挙げられる。
【0071】
より具体的には、第1,2材料がグラファイトの場合、これと親和性の高い第3材料として、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン等の純金属、またはこれらの金属からなる合金、またはこれらの金属を含む炭化物、炭窒化物等が挙げられる。第1,2材料がダイヤモンドライクカーボンの場合、これと親和性の高い第3材料として、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン等の純金属、またはこれらの金属からなる合金、またはこれらの金属を含む炭化物、炭窒化物等が挙げられる。また、第1,2材料がダイヤモンドの場合、これと親和性の高い第3材料として、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン等の純金属、またはこれらの金属からなる合金、またはこれらの金属を含む炭化物、炭窒化物等が挙げられる。
【0072】
また、更に所望とする特性が、第1形態の摺動部材よりも摩擦係数を更に低減させることや、耐久性を更に向上させることである場合、上記(B)の通り、第3材料として、前記第1材料および/または前記第2材料と、摩擦係数と硬度のうちの1以上が異なるものを用いて、第1形態の摺動部材よりも、摩擦係数を更に低減させたり、耐久性を更に向上させることが挙げられる。
【0073】
界面層(第3材料)の膜厚(複数層の場合はトータルの膜厚をいう。以下同じ)は0.005μm以上とすることが好ましい。この膜厚が0.005μmを下回ると、薄すぎて界面層として機能していない部位が生じるためである。上記膜厚は0.01μm以上であることがより好ましい。一方、上記膜厚が2.0μmを超えると、厚すぎるため表面に影響を及ぼし充填部の効果を弱めてしまう。よって界面層の膜厚は2.0μm以下とすることが好ましい。より好ましくは1.0μm以下である。
【0074】
界面層は、組成が単一である単層の場合の他、複数層であってもよい。上記複数層の場合として、例えば基部(第1材料)側が第1材料と親和性(特には密着性)の高い層であり、かつ、充填部(第2材料)側が第2材料と親和性(特には密着性)の高い層である2層以上の積層構造のものが挙げられる。または、組成傾斜層であってもよい。詳細には、界面層の厚さ方向で組成の傾斜を有するもの、具体的に例えば、基部(第1材料)側は、第1材料や第1材料と親和性の高い材料の組成割合が大きく、充填部(第2材料)側に近づくにつれて、第1材料や第1材料と親和性の高い材料の組成割合が小さくなる一方、第2材料や第2材料と親和性の高い材料の組成割合が大きくなり、充填部(第2材料)側は第2材料や第2材料と親和性の高い材料の組成割合が大きい、といった傾斜組成構造を有するものであってもよい。
【0075】
基部が基材である場合、基材を構成する第1材料と、充填部を構成する第2材料の好ましい組み合わせとして、例えば下記の(i)〜(iv)が挙げられる。
【0076】
(i)基材(第1材料)が、浸炭処理を施した構造用合金鋼(S15CK、SNC415、SNCM415、SCr415、SCM415、SMn420、SMnC420など)であり、充填部(第2材料)が、Ti、Cr、AlおよびSiよりなる群から選択される一種以上の元素の窒化物や炭窒化物である組み合わせ
【0077】
(ii)基材(第1材料)が、窒化処理を施した構造用合金鋼(SNC415、SNC836、SNCM220、SNCM630、SCr415、SCr445、SCM415、SCM445、SMn420、SMnC443など)であり、充填部(第2材料)が、Ti、Cr、AlおよびSiよりなる群から選択される一種以上の元素の窒化物や炭窒化物、またはダイヤモンドライクカーボンである組み合わせ
【0078】
(iii)基材(第1材料)がアルミニウム合金であり、充填部(第2材料)が、Ti、Cr、AlおよびSiよりなる群から選択される一種以上の元素の窒化物や炭化物、炭窒化物である組み合わせ
【0079】
(iv)基材(第1材料)がチタン合金であり、充填部(第2材料)が、Ti、Cr、AlおよびSiよりなる群から選択される一種以上の元素の窒化物や炭化物、炭窒化物、またはダイヤモンドライクカーボンである組み合わせ
【0080】
また、基部が硬質皮膜である場合、硬質皮膜の下部に位置する基材の種類、硬質皮膜を構成する第1材料、および充填部を構成する第2材料の好ましい組み合わせとして、例えば下記の(v)〜(viii)が挙げられる。
【0081】
(v)基材が、窒化処理を施した構造用合金鋼(SNC415、SNC836、SNCM220、SNCM630、SCr415、SCr445、SCM415、SCM445、SMn420、SMnC443など)であり、硬質皮膜(第1材料)が、Ti、Cr、AlおよびSiよりなる群から選択される一種以上の元素の窒化物であり、充填部(第2材料)が、Ti、Cr、AlおよびSiよりなる群から選択される一種以上の元素の炭化物である組み合わせ
【0082】
(vi)基材が、窒化処理を施した構造用合金鋼(SNC415、SNC836、SNCM220、SNCM630、SCr415、SCr445、SCM415、SCM445、SMn420、SMnC443など)であり、硬質皮膜(第1材料)が、Ti、Cr、AlおよびSiよりなる群から選択される一種以上の元素の炭化物であり、充填部(第2材料)が、Ti、Cr、AlおよびSiよりなる群から選択される一種以上の元素の窒化物や炭窒化物、またはダイヤモンドライクカーボンである組み合わせ
【0083】
(vii)基材がアルミニウム合金であり、硬質皮膜(第1材料)が、Ti、Cr、AlおよびSiよりなる群から選択される一種以上の元素の窒化物であり、充填部(第2材料)がTi、Cr、AlおよびSiよりなる群から選択される一種以上の元素の炭化物、またはダイヤモンドライクカーボンである組み合わせ
【0084】
(viii)基材がチタン合金であり、硬質皮膜(第1材料)が、Ti、Cr、AlおよびSiよりなる群から選択される一種以上の元素の窒化物であり、充填部(第2材料)が、Ti、Cr、AlおよびSiよりなる群から選択される一種以上の元素の炭化物、またはダイヤモンドライクカーボンである組み合わせ
【0085】
上記(i)〜(viii)の好ましい各組み合わせにおいて、基部(第1材料)と充填部(第2材料)の密着性向上を目的に、界面層(第3材料)を更に形成する場合には、第3材料として、
(A−1)上記(i)〜(viii)の、各第1材料(基材または硬質皮膜)と同じ材料、および/または、各第1材料(基材または硬質皮膜)と親和性の高い材料や、
(A−2)上記(i)〜(viii)の、各第2材料(充填部)と同じ材料、および/または、各第2材料(充填部)と親和性の高い材料や、
上記(A−1)および(A−2)の材料を混合して得られる複合材料を用いることができる。
【0086】
また上記(i)〜(viii)の好ましい各組み合わせにおいて、第1形態の摺動部材よりも摩擦係数を更に低減させたり、耐久性を更に向上させることを目的に、界面層(第3材料)を更に形成する場合には、第3材料として、上記(i)〜(viii)の、各第1材料および/または第2材料と、摩擦係数と硬度のうちの1以上が異なるものを用いることができる。
【0087】
本発明は上記摺動部材(第1形態)の製造方法も含むものであり、該製造方法は、
(第1工程)凹部の施されていない基部(前記第1材料からなる基部)の一部をマスクで被覆する工程、
(第2工程)前記基部に対してエッチング処理を行う工程、
(第3工程)エッチング処理された基部上に、前記第2材料からなる皮膜を気相成長法により成膜して充填部を形成する工程、
(第4工程)前記基部からマスクを除去する工程、および
(第5工程)前記基部の表面と前記充填部の表面が単一面となるよう研磨する工程
とを含んでいるところに特徴を有している。
【0088】
本発明は上記摺動部材(第2形態)の製造方法も含むものであり、該製造方法は、
(第1工程)凹部の施されていない基部(前記第1材料からなる基部)の一部をマスクで 被覆する工程、
(第2工程)前記基部に対してエッチング処理を行う工程、
(第2’工程)エッチング処理された基部上に、前記第3材料からなる皮膜を気相成長法により成膜して界面層を形成する工程、
(第3工程)前記界面層上に、前記第2材料からなる皮膜を気相成長法により成膜して充填部を形成する工程、
(第4工程)前記基部からマスクを除去する工程、および
(第5工程)前記基部の表面、前記充填部の表面、およびこれらの表面に挟まれた界面層の表面が単一面となるよう研磨する工程
とを含んでいるところに特徴を有している。
【0089】
以下、各工程について説明する。
【0090】
第1工程では、凹部の施されていない基部(前記第1材料からなる基部)の一部をマスク(露出領域の形成されていないマスク)で被覆する。
【0091】
マスク形成前には、マスクを密着性よく基部に形成するため、基部の洗浄を行うことが好ましい。この洗浄には基部を変質させないものを選択する必要があり、例えば有機溶剤やアルカリ液などを用いて超音波洗浄をすることなどが挙げられる。尚、表面が十分に清浄であることが確認されている場合にはこの洗浄工程を省いても良い。
【0092】
マスクとして感光性樹脂(レジスト)を用いる。感光性樹脂(レジスト)をマスクとして基部をエッチングすることにより、凹部を形成する。感光性樹脂は光、紫外線、電子線などで露光された部位が変質する材料であり、露光して変質した部位を溶液でエッチングするポジ型のものと、露光して変質した部位以外をエッチングするネガ型のいずれも使用可能である。そのサイズ等に応じて適宜種々の感光性樹脂の選択ができる。簡便に実施できるものとしてプリント配線基板用に用いられているものがある。
【0093】
マスク(レジスト)の厚さは特に問題ではないが、5μm以上であれば、第2工程でマスク(ラミネートフィルム等)が消失することを防げるので好ましい。
【0094】
マスクは、あらかじめ規定の形状に作製したパターン作製用原版(詳細については後述する)を用い、光、紫外線、電子線などで露光することで、原版で覆われていない部分にのみ光、紫外線、電子線などで露光でき、変質させることができる。そしてアルカリ液(例えば炭酸ナトリウム水溶液等)中で洗浄することで、ネガ型、ポジ型に応じて露光によって変質したレジスト部あるいは非露光のレジスト部のみが脱落し、基部の一部が露出しかつ基部の一部がマスクで被覆された状態を形成することができる。
【0095】
前記マスクは、被覆領域および露出領域をそれぞれ複数有し、かつ該被覆領域と該露出領域とが規則的に配列された形態であることが好ましい。この様な形態のマスクを形成することで、充填部が例えば前記図5に示したように規則的に配列された摺動面を得ることができる。
【0096】
この様に、マスクとして、被覆領域および露出領域をそれぞれ複数有し、かつ該被覆領域と該露出領域とが規則的に配列されたものを形成するには、原版をあらかじめ規則的な配列パターンに加工しておくのがよい。原版の作製にはレーザー加工、化学エッチング加工を行うが、原版を一度作製すれば、何度でも使い回しが出来ることから、基材を直接レーザー加工や、化学エッチング加工を行うのに比べ、生産性が圧倒的に向上する。規則的な配列パターンについては、図5に例示するパターンの他、種々のパターンを採用することができるが、いずれにしても規則性を持たせることが重要である。
【0097】
第2工程では、マスクの形成された基部に対し、エッチング処理(好ましくはイオンボンバード処理)を行って、基部に凹部を形成する。
【0098】
凹部を形成する方法として、以下に示す通り、種々の方法を検討した。
【0099】
まず各種レーザー(ファイバーレーザー、フェムト秒レーザーなど)で凹部を形成する方法が考えられるが、本発明者らがこのレーザーによる方法について検討を行ったところ、深さ方向の加工制御が困難であったり、加工に時間がかかるなどの問題があった。また、切削や研削による加工についても検討を行ったが、加工端部にバリが発生し、このバリが摺動特性に悪影響を及ぼすことや、加工に時間がかかること、また、基材の材質によっては切削加工時に切削工具が損傷するなどの問題があることがわかった。さらに、本発明者らは金属製のマスクを形成し、該マスク上からショットブラストを実施して凹部を形成する方法についても検討したが、上記切削や研削による加工方法と同様に、加工端部にバリが生じ、バリが摺動特性に悪影響を及ぼすことや、深さの制御が困難であるといった問題があることがわかった。更には、腐食液を用いたウェットエッチングについても検討したが、この様な腐食液を用いた方法では、凹部の深さの制御が困難であり、また基部の材料の種類によっては、腐食液が非マスク部以外(マスク部で通常はエッチングされない部分)に浸入して基部全体が腐食するといった問題があった。
【0100】
これらの方法に対して、エッチング処理を行うこと、このエッチング処理の中でも例えば反応性ガスエッチングやイオンミリングなどのイオンビームエッチング等のドライエッチング処理を行うこと、その中でも特にイオンボンバード処理を行うことによって上記問題を解決できることを見出した。
【0101】
イオンボンバード処理によれば、加工端部でのバリの発生を抑えることができ、かつ深さ方向の制御を可能とし、更には加工時間の短縮も図ることができる。このイオンボンバード処理の実施には、エッチング専用の装置を用いても良いが、その後の充填部を埋め込む工程を続けて行い時間短縮を図るには、真空成膜チャンバーを利用することが有用である。
【0102】
イオンボンバード処理の具体的な方法について以下に示す。
【0103】
例えば、反応性の少ないアルゴンガス、キセノンガス等の希ガスを用い、化学蒸着(CVD)法によるイオンボンバード効果を利用することや、酸素ガス、窒素ガスなどの反応性ガスを用い、化学蒸着(CVD)法による反応性のイオンボンバード効果を利用すること、更にはアンバランスドマグネトロンスパッタ(UBMS)装置で実施されているフィラメント方式により、アルゴンガスやキセノンガス等の希ガス、または酸素ガスや窒素ガス等の反応性ガスをイオン化することで、CVD法と同様にイオンボンバード処理を行うことが可能である。イオンボンバードを用いる方法であれば上記方法に限らず有効である。
【0104】
イオンボンバード処理において、加工深さを調整するには、基材種に応じてガス種を選定した上で、CVD法、フィラメント法ともに基材に印加する負のバイアス電圧値を制御することや、処理時間を制御することにより可能である。バイアス印加用の電源にはDC電源、パルスDC電源、RF電源、ハイパワーパルスDC電源などいずれのタイプも使用可能であり、基材種や加工の方式に応じて適宜変更すれば良い。
【0105】
摺動部材(第2形態)を製造する場合には、前記第2工程と、後述する第3工程(第2材料からなる皮膜を気相成長法により成膜して充填部を形成する工程)の間に、第2’工程として、前記エッチング処理された基部上に、前記第3材料からなる皮膜を気相成長法により成膜して界面層を形成する工程が入る。
【0106】
第2’工程における上記気相成長法は、充填部の種類や凹部の加工深さに応じて適宜、種々の方法を選択することができる。
【0107】
前記気相成長法として、真空成膜プロセスである物理蒸着(PVD)法[蒸着法、スパッタ法(アンバランスドマグネトロンスパッタ法を含む)、アークイオンプレーティング(AIP)法]や、化学蒸着(CVD)法が挙げられる。物理蒸着法では、金属、炭素、ホウ素、それらの化合物の膜を成膜する際には、アルゴンガス等の希ガス中またはガスレスの状態で成膜を行うことが可能である。また、窒化物や炭化物の形成には、上記方法に加え、窒素ガス、炭化水素ガスを用いた反応性成膜も可能である。
【0108】
次に第3工程では、摺動部材(第1形態)を製造する場合は、上記第2工程でエッチング処理された基部上に、また摺動部材(第2形態)を製造する場合は、上記第2’工程で成膜された前記界面層上に、第2材料からなる皮膜を気相成長法により成膜して充填部を形成する。
【0109】
上記気相成長法として、充填部の種類や凹部の加工深さに応じて適宜、種々の方法を選択することができる。
【0110】
気相成長法として、真空成膜プロセスである物理蒸着(PVD)法[蒸着法、スパッタ法(アンバランスドマグネトロンスパッタ法を含む)、アークイオンプレーティング(AIP)法]や、化学蒸着(CVD)法が挙げられる。物理蒸着法では、金属、炭素、ホウ素、それらの化合物の膜を成膜する際には、アルゴンガス等の希ガス中あるいはガスレスの状態で成膜を行うことが可能である。また、窒化物や炭化物の形成には、上記方法に加え、窒素ガス、炭化水素ガスを用いた反応性成膜も可能である。
【0111】
第4工程では、上記成膜により凹部に第2材料[摺動部材(第2形態)については、第3材料および第2材料]が埋め込まれた基部から、マスクを除去する。
【0112】
マスク除去液はレジストの種類に応じて選択することができ、例えば水酸化ナトリウム溶液や有機溶剤(例えば、アセトンなど)中で超音波洗浄することで容易に剥離が可能である。尚、第2工程および第3工程で高温に曝されることによりマスクが一部変質し、マスクと硬質皮膜または基材とが反応することで密着が高まり、前記超音波洗浄で一部マスク材料が残存する場合があるが、この場合でも、次の研磨工程でマスク材料は容易に消失するため問題ない。
【0113】
第5工程では、前記基部の表面と前記充填部の表面[摺動部材(第2形態)については、前記基部の表面、前記充填部の表面、およびこれらの表面に挟まれた界面層の表面]が単一面となるよう研磨する。
【0114】
基部の表面と充填部の表面[摺動部材(第2形態)については、前記基部の表面、前記充填部の表面、およびこれらの表面に挟まれた界面層の表面]が単一面を形成するように研磨することで、基材と充填部の両方の特性を損なうことのない摺動面が形成される。基部よりも充填部の方が極端に高い場合、摺動時に悪影響を及ぼす場合がある。研磨の前には、エアロラップ装置によって充填部のコンタミ等(成膜時の異常放電によって形成されたマクロパーティクルなど)を取り除くことが望ましい。また研磨には、サンドペーパーによる研磨、タイヤモンドペーストを用いたバフ研磨、ダイヤモンドを埋め込んだ研磨紙による研磨など、基部と充填部の材種に応じて適宜、種々の研磨を行うことが可能である。単一面の確認には表面粗さ計などを用いて充填部と基部との界面の状態を計測し、基部と充填部の段差が±0.5μmの範囲内にあればよい。
【0115】
基部が基材である場合の摺動部材(第1形態)の製造工程を、図6を参照しながら説明する。尚、各工程の詳細については上述した通りであり、以下では説明を省略する(基部が硬質皮膜である場合、および摺動部材(第2形態)についても同じ)。
【0116】
(第1工程)凹部の施されていない基材1(図6(a))に対し、まず、マスク4(レジスト、露出領域の形成されていないマスク)を形成する(図6(b))。そして原版5を介して露光6させる(図6(c))。図6(d)は、前記露光後、露光した部分をアルカリ液等で洗浄して除去し、マスク4を形成した状態を示している。
【0117】
(第2工程)前記基材1に対してエッチング処理7を行う(図6(e))ことにより、基材1表面のうち、マスキングされていない部分が削られて凹部が形成される(図6(f))。
【0118】
(第3工程)上記エッチング処理された基材1上に、前記第2材料からなる皮膜を上述した方法により成膜8し、凹部を第2材料で充填させて充填部2を形成する(図6(g))。
【0119】
(第4、第5工程)前記基材1からマスク4(およびこのマスク4上の第2材料)を上述の方法で除去し、次いで前記基材1の表面と前記充填部2の表面が単一面となるように研磨する(図6(h))。
【0120】
基部が硬質皮膜である場合の摺動部材(第1形態)の製造工程を、図7を参照しながら説明する。
【0121】
(第1工程)凹部の施されていない硬質皮膜3(図7(a))に対し、まず、マスク4(レジスト、露出領域の形成されていないマスク)を形成する(図7(b))。そして原版5を介して露光6させる(図7(c))。図7(d)は、前記露光後、露光した部分をアルカリ液等で洗浄して除去し、マスク4を形成した状態を示している。
【0122】
尚、基材(または下地層)上に硬質皮膜を形成する方法は、特に限定されるものではなく、溶射、めっき、各種気相成長法を採用することができる。硬質膜が得られやすいという点では、真空成膜プロセスである物理蒸着(PVD)法[蒸着法、スパッタ法(アンバランスドマグネトロンスパッタ法も含む)、アークイオンプレーティング(AIP)法]や、化学蒸着(CVD)法が適している。硬質皮膜の厚さは、上述した通り0.1μm以上50μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0123】
また、図7(a)に示す通り、基材1と硬質皮膜3との間に下地層9を形成する場合、その形成方法は特に限定されるものではなく、溶射、めっき、各種気相成長法を採用することができる。硬質膜が得られやすいという点では、真空成膜プロセスである物理蒸着(PVD)法[蒸着法、スパッタ法(アンバランスドマグネトロンスパッタ法も含む)、アークイオンプレーティング(AIP)法]や、化学蒸着(CVD)法が適している。
【0124】
(第2工程)前記硬質皮膜3に対してエッチング処理7を行う(図7(e))ことにより、硬質皮膜3表面のうち、マスキングされていない部分が削られて凹部が形成される(図7(f))。
【0125】
(第3工程)上記エッチング処理された硬質皮膜3上に、前記第2材料からなる皮膜を上述した方法により成膜8し、凹部を第2材料で充填させて充填部2を形成する(図7(g))。
【0126】
(第4、第5工程)前記硬質皮膜3からマスク4(およびこのマスク4上の第2材料)を上述の方法で除去し、次いで前記硬質皮膜3の表面と前記充填部2の表面が単一面となるように研磨する(図7(h))。
【0127】
基部が基材である場合の摺動部材(第2形態)の製造工程を、図8を参照しながら説明する。
【0128】
(第1工程)凹部の施されていない基材1(図8(a))に対し、まず、マスク4(レジスト、露出領域の形成されていないマスク)を形成する(図8(b))。そして原版5を介して露光6させる(図8(c))。図8(d)は、前記露光後、露光した部分をアルカリ液等で洗浄して除去し、マスク4を形成した状態を示している。
【0129】
(第2工程)前記基材1に対してエッチング処理7を行う(図8(e))ことにより、基材1表面のうち、マスキングされていない部分が削られて凹部が形成される(図8(f))。
【0130】
(第2’工程)前記エッチング処理された基材1上に、前記第3材料からなる皮膜10を上述した方法(気相成長法)により成膜11して界面層10を形成する(図8(g))。
【0131】
(第3工程)前記第2’工程で成膜された前記界面層(第3材料からなる皮膜)10上に、前記第2材料からなる皮膜を上述した方法(気相成長法)により成膜8し、凹部を第2材料で充填させて充填部2を形成する(図8(h))。
【0132】
(第4、第5工程)前記基材1からマスク4(および、このマスク4上の第3材料と第2材料)を上述の方法で除去し、次いで前記基材1の表面、前記充填部2の表面、およびこれらの表面に挟まれた界面層10の表面が単一面となるように研磨する(図8(i))。
【0133】
基部が硬質皮膜である場合の摺動部材(第2形態)の製造工程を、図9を参照しながら説明する。
【0134】
(第1工程)凹部の施されていない硬質皮膜3(図9(a))に対し、まず、マスク4(レジスト、露出領域の形成されていないマスク)を形成する(図9(b))。そして原版5を介して露光6させる(図9(c))。図9(d)は、前記露光後、露光した部分をアルカリ液等で洗浄して除去し、マスク4を形成した状態を示している。
【0135】
尚、基材(または下地層)上に硬質皮膜を形成する方法は、特に限定されるものではなく、溶射、めっき、各種気相成長法を採用することができる。硬質膜が得られやすいという点では、真空成膜プロセスである物理蒸着(PVD)法[蒸着法、スパッタ法(アンバランスドマグネトロンスパッタ法も含む)、アークイオンプレーティング(AIP)法]や、化学蒸着(CVD)法が適している。硬質皮膜の厚さは、上述した通り0.1μm以上50μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0136】
また、図9(a)に示す通り、基材1と硬質皮膜3との間に下地層9を形成する場合、その形成方法は特に限定されるものではなく、溶射、めっき、各種気相成長法を採用することができる。硬質膜が得られやすいという点では、真空成膜プロセスである物理蒸着(PVD)法[蒸着法、スパッタ法(アンバランスドマグネトロンスパッタ法も含む)、アークイオンプレーティング(AIP)法]や、化学蒸着(CVD)法が適している。
【0137】
(第2工程)前記硬質皮膜3に対してエッチング処理7を行う(図9(e))ことにより、硬質皮膜3表面のうち、マスキングされていない部分が削られて凹部が形成される(図9(f))。
【0138】
(第2’工程)前記エッチング処理された硬質皮膜3上に、前記第3材料からなる皮膜10を上述した方法(気相成長法)により成膜11して界面層10を形成する(図9(g))。
【0139】
(第3工程)前記第2’工程で成膜された前記界面層(第3材料からなる皮膜)10上に、前記第2材料からなる皮膜を上述した方法(気相成長法)により成膜8し、凹部を第2材料で充填させて充填部2を形成する(図9(h))。
【0140】
(第4、第5工程)前記硬質皮膜3からマスク4(および、このマスク4上の第3材料と第2材料)を上述の方法で除去し、次いで前記硬質皮膜3の表面、前記充填部2の表面、およびこれらの表面に挟まれた界面層10の表面が単一面となるように研磨する(図9(i))。
【0141】
本発明の摺動部材とは、回転や往復運動によって相手材と接触する部材を意味する。ドライ環境、各種潤滑環境(油、水等)で用いられるもの全てを含み、例えば自動車、二輪車、建設機械、産業用ロボット等で使用される、駆動系や内燃機関、油圧機器、水圧機器の内部の各種摺動部材を指す。部品名を例に挙げると、ピストンリング、ピストンピン、カム、シムや各種ギア、 ベアリングなど回転や往復運動によって相手材と接触する部材が挙げられる。
【0142】
摺動環境としては、潤滑媒体(湯、水、油など)が存在する環境でも、ガス(窒素、アルゴン、酸素、水素)環境でも、真空環境でも、ドライ(大気)環境でもいずれの環境でも使用することができる。
【0143】
本発明の摺動部品の相手材としては、例えば超硬合金、ステンレス鋼や、純チタン、チタン合金、純アルミニウム、アルミニウム合金、純銅、銅合金、マグネシウム、超硬合金等の純金属または合金、セラミックス材料(各種炭化物、窒化物、ホウ化物やこれらを複合したセラミックス材料)、炭素系材料(グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドなど)であっても良いし、本発明と同様の構造を持つ摺動部材であっても良い。
【符号の説明】
【0144】
1 基材(基部)
2 第2材料(充填部)
3 硬質皮膜(基部)
4 マスク
5 原版
6 光または紫外線または電子線の露光
7 エッチング処理(例えばイオンエッチング)
8 (充填部を構成する皮膜の)成膜
9 下地層
10 界面層
11 (界面層を構成する皮膜の)成膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動面が、
第1材料からなり複数の凹部が規則的に配列された基部と、
上記凹部を充填する第2材料からなる充填部と
を有し、
前記第1材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種からなり、
前記第2材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種以上からなり、
前記第1材料と前記第2材料は、摩擦係数と硬度のうちの1以上が異なり、
更には、前記基部の表面と前記充填部の表面が単一面を形成していることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
摺動面が、
第1材料からなり複数の凹部が規則的に配列された基部と、
上記凹部を充填する第2材料からなる充填部と、
前記基部と前記充填部との間の、第3材料からなる界面層と
を有し、
前記第1材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種からなり、
前記第2材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種以上からなり、
前記第3材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種以上からなり、
前記第1材料と前記第2材料は、摩擦係数と硬度のうちの1以上が異なり、かつ
前記第3材料は、前記第1材料および/または前記第2材料と親和性が高く、
更には、前記基部の表面、前記充填部の表面、およびこれらの表面に挟まれた界面層の表面が、単一面を形成していることを特徴とする摺動部材。
【請求項3】
摺動面が、
第1材料からなり複数の凹部が規則的に配列された基部と、
上記凹部を充填する第2材料からなる充填部と、
前記基部と前記充填部との間の、第3材料からなる界面層と
を有し、
前記第1材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種からなり、
前記第2材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種以上からなり、
前記第3材料は、金属材料、セラミックス材料、および炭素系材料よりなる群から選択される1種以上からなり、
前記第1材料と前記第2材料は、摩擦係数と硬度のうちの1以上が異なり、かつ
前記第3材料は、前記第1材料および/または前記第2材料と、摩擦係数と硬度のうちの1以上が異なり、
更には、前記基部の表面、前記充填部の表面、およびこれらの表面に挟まれた界面層の表面が、単一面を形成していることを特徴とする摺動部材。
【請求項4】
前記基部は、基材である請求項1〜3のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項5】
前記基部は、硬質皮膜である請求項1〜3のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項6】
摺動面に占める前記充填部の面積率は、0.05%以上55%以下である請求項1〜5のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項7】
前記複数の凹部は、複数の穴を含むものであって、かつ、1つの穴の開口面積は0.5μm以上4mm以下である請求項1〜6のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項8】
前記複数の凹部は、複数の溝を含むものであって、かつ、1つの溝の幅は0.8μm以上2mm以下である請求項1〜7のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項9】
前記凹部の最大深さは、0.05μm以上5.0μm以下である請求項1〜8のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項10】
請求項1、4〜9のいずれかに記載の摺動部材の製造方法であって、
凹部の施されていない基部の一部をマスクで被覆する工程と、
前記基部に対してエッチング処理を行う工程と、
エッチング処理された基部上に、前記第2材料からなる皮膜を気相成長法により成膜して充填部を形成する工程と、
前記基部からマスクを除去する工程と、
前記基部の表面と前記充填部の表面が単一面となるよう研磨する工程と
を含んでいることを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項11】
請求項2〜9のいずれかに記載の摺動部材の製造方法であって、
凹部の施されていない基部の一部をマスクで被覆する工程と、
前記基部に対してエッチング処理を行う工程と、
エッチング処理された基部上に、前記第3材料からなる皮膜を気相成長法により成膜して界面層を形成する工程と、
前記界面層上に、前記第2材料からなる皮膜を気相成長法により成膜して充填部を形成する工程と、
前記基部からマスクを除去する工程と、
前記基部の表面、前記充填部の表面、およびこれらの表面に挟まれた界面層の表面が単一面となるよう研磨する工程と
を含んでいることを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項12】
前記エッチング処理は、イオンボンバード処理である請求項10または11に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項13】
前記基部は、基材である請求項10〜12のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【請求項14】
前記基部は、硬質皮膜である請求項10〜12のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
【請求項15】
前記マスクは、被覆領域および露出領域をそれぞれ複数有し、かつ被覆領域および露出領域が規則的に配列されたものである請求項10〜14のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−184841(P2012−184841A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255270(P2011−255270)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.エアロラップ
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】