説明

撮像装置、画像処理装置および画像処理方法

【課題】階調補正を行う際に生じるノイズ増幅の度合いに応じて、ノイズ成分を抑制することができる撮像装置を提供する。
【解決手段】本発明の撮像装置1000は、撮像された画像に対して、階調補正と、ウェーブレット変換を用いたノイズ低減とを行う。撮像装置1000は、階調補正の入出力特性を表す階調補正カーブに基づいて、画像信号のコントラストを補正する階調補正を行う階調補正処理部103と、画像信号を複数の周波数成分に分離するウェーブレット変換部106と、ウェーブレット変換部106により複数の周波数成分に分離された画像信号に対して、ノイズ低減のためのコアリングを行うコアリング処理部109と、コアリング閾値を階調補正カーブに基づいて設定するコアリング閾値設定部108とを備えている。コアリング処理部109は、コアリング閾値設定部108により設定されるコアリング閾値に基づいてコアリングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像に対して、階調補正と、ウェーブレット変換を用いたノイズ低減とを行う撮像装置、画像処理装置および画像処理方法に関する。撮像装置は、主にデジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等に代表される。
【背景技術】
【0002】
一般的なデジタルカメラ等の撮像装置では、階調補正カーブ(トーンカーブ)を用いて撮像画像の明暗を強調することにより、画像のコントラストを強くしたり、弱くしたりする階調補正が行われている。階調補正カーブは、入力画像の画素値と出力画像の画素値とを互いに対応付ける。撮像装置では、階調補正カーブに表される入出力特性に基づいて、画像の明暗を対応付け、輝度信号等の信号を増幅または減衰させる変換処理が行われて、画像の階調補正がなされる。
【0003】
ここで、ノイズが付加された画像に対して、上述の階調補正カーブを用いて階調補正を行うと、階調補正カーブに表される入出力特性次第では、本来強調したくないノイズ成分まで強調されてしまうことがあった。例えば、入力信号を増幅して出力信号を出力するように階調補正カーブが設定されていた場合、出力信号においては、もともと入力信号に含まれるノイズ成分も同じ比率で増幅されてしまい、本来強調したくないノイズ成分まで強調されてしまっていた。
【0004】
従来、画像のノイズを低減する方法として、例えば、注目画素と周辺画素の画素値の加算平均を算出することによって、ローパスフィルタと呼ばれる平滑化フィルタを作用させて、ノイズとみなされた高周波成分を抑制することにより、画像のノイズを除去する方法が知られている。
【0005】
また、画像のノイズを低減する別の方法として、多重解像度変換の1つであるウェーブレット変換(Wavelet Transform)を利用したノイズ低減方法が知られている。ウェーブレット変換を利用したノイズ低減方法の一例として、例えば、1994年にドノホ(Donoho)らにより提案されたウェーブレット縮退(Wavelet shrinkage)を利用した方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。このウェーブレット縮退を利用したノイズ低減方法では、次のようにして、画像のノイズを低減している。
【0006】
まず、ウェーブレット変換を用いて、画像信号を低域周波数帯および高域周波数帯のサブバンドに分離して、更に低域周波数帯の画像信号に対して同様の分離処理を繰り返す。これにより、画像信号を周波数成分毎のサブバンドに分離することができる。次に、ウェーブレット変換で得られた画像の高域周波数成分に対して、絶対値の小さいウェーブレット変換係数はノイズ成分であるとみなして、コアリング処理を行う。コアリング処理では、ウェーブレット変換により得られたウェーブレット変換係数の絶対値が予め設定された閾値よりも小さい場合、当該ウェーブレット変換係数を0に置き換える処理を行う。そして、コアリング処理後に、画像の高域周波数成分および低域周波数成分に対してウェーブレット逆変換を行うことにより、信号が再構成される。これにより、ノイズが低減された画像が得られる。
【0007】
なお、ウェーブレット変換を利用したノイズ低減法の一例が、例えば特許文献1にも開示されている。
【非特許文献1】中野宏毅、山本鎭男、吉田靖夫著、「ウェーブレットによる信号処理と画像処理」、初版、日本、共立出版、2004年4月10日 発行、p.101
【特許文献1】特開2004−173078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の撮像装置では、階調補正後のノイズ除去処理をローパスフィルタで行う場合、選択されたローパスフィルタの特性により、1つの画像に対して一律にノイズ除去の強さが決定されてしまう。また、ウェーブレット変換を利用する場合は、1つの画像に対して同一のコアリング閾値が適用されている。一方、ノイズ低減前に行われる階調補正では、階調補正カーブの入出力特性により、輝度毎にノイズ増幅の度合いが異なってくる。
【0009】
このように、従来は、階調補正の際に生じるノイズ増幅の度合いが考慮されておらず、ノイズ増幅度合いの変化に拘らず、フィルタ係数やコアリング閾値が一律に決まっていたため、ノイズ増幅度合いに応じたノイズ低減を行えず、本来強調されて欲しくないノイズ成分を抑制できないことがあるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたもので、階調補正を行う際に生じるノイズ増幅の度合いに応じて、ノイズ成分を抑制することができる撮像装置、画像処理装置および画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の撮像装置は、撮像された画像に対して、階調補正と、ウェーブレット変換を用いたノイズ低減とを行うように構成された撮像装置であって、階調補正の入出力特性を表す階調補正カーブに基づいて、画像信号のコントラストを補正する階調補正を行う階調補正部と、前記画像信号を複数の周波数成分に分離するウェーブレット変換部と、前記ウェーブレット変換部により前記複数の周波数成分に分離された画像信号に対して、ノイズ低減のためのコアリングを行うコアリング処理部と、前記コアリング処理部が前記コアリングを行うためのコアリング閾値を、前記階調補正カーブに基づいて設定するコアリング閾値設定部とを備え、前記コアリング処理部は、前記コアリング閾値設定部により設定される前記コアリング閾値に基づいて、前記コアリングを行う構成を有している。
【0012】
この構成により、コアリングを行うためのコアリング閾値が、階調補正カーブに表される入出力特性に対応して設定される。階調補正によるノイズ増幅度合いは、階調補正の入出力特性に応じて変わる。従って、階調補正カーブに基づいて、コアリング閾値を設定することにより、階調補正を行う際に生じるノイズ増幅の度合いに応じて、ノイズ成分を抑制することができる。
【0013】
また、本発明の撮像装置は、前記コアリング閾値設定部が、前記階調補正カーブに基づき、ウェーブレット変換の対象領域の輝度に対応する階調補正の入出力比に応じて、前記コアリング閾値を調整する構成を有している。
【0014】
この構成により、コアリングを行うためのコアリング閾値を、階調補正カーブに表される入出力比に応じて設定できるので、階調補正を行う際に生じるノイズ増幅の度合いに応じて、ノイズ成分を抑制することができる。
【0015】
また、本発明の撮像装置は、前記コアリング処理部により前記コアリングが行われた画像信号に対して、ウェーブレット逆変換を行って、画像信号を再構成するウェーブレット逆変換部を備えている。
【0016】
この構成により、ウェーブレット変換され、コアリングが行われた各周波数成分から、階調補正を行う際に生じるノイズ増幅の度合いに応じてノイズ成分が抑制された画像を再構成できる。
【0017】
また、本発明の画像補正装置は、画像に対して、階調補正と、ウェーブレット変換を用いたノイズ低減とを行うように構成された画像処理装置であって、階調補正の入出力特性を表す階調補正カーブに基づいて、画像信号のコントラストを補正する階調補正を行う階調補正部と、前記画像信号を複数の周波数成分に分離するウェーブレット変換部と、前記ウェーブレット変換部により前記複数の周波数成分に分離された画像信号に対して、ノイズ低減のためのコアリングを行うコアリング処理部と、前記コアリング処理部が前記コアリングを行うためのコアリング閾値を、前記階調補正カーブに基づいて設定するコアリング閾値設定部とを備え、前記コアリング処理部は、前記コアリング閾値設定部により設定される前記コアリング閾値に基づいて、前記コアリングを行う構成を有している。
【0018】
この構成は、撮像装置の画像処理技術に限定されない。すなわち、画像処理装置は、撮像装置に設けられても、設けられなくてもよい。そして、本発明の画像処理が、撮像装置で撮像された画像だけでなく、一般的な画像に対して施されてもよい。この構成によっても、上述した本発明の利点が得られる。
【0019】
また、本発明の画像処理プログラムは、画像に対して、階調補正と、ウェーブレット変換を用いたノイズ低減とをコンピュータに実行させる画像処理プログラムであって、階調補正の入出力特性を表す階調補正カーブに基づいて、画像信号のコントラストを補正する階調補正を行うステップと、前記画像信号を複数の周波数成分に分離するステップと、前記画像信号を分離するステップにより前記複数の周波数成分に分離された画像信号に対して、ノイズ低減のためのコアリングを行うステップと、前記コアリングを行うためのコアリング閾値を、前記階調補正カーブに基づいて設定するステップとを前記コンピュータに実行させ、前記コアリングを行うステップでは、前記コアリング閾値を設定するステップにより設定される前記コアリング閾値に基づいて、前記コアリングを行う構成を有している。
【0020】
この構成も撮像装置に限定されない。この構成によっても、上述した本発明の利点が得られる。
【0021】
また、本発明の別の態様は、上述の画像処理プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0022】
また、本発明の画像処理方法は、画像に対して、階調補正と、ウェーブレット変換を用いたノイズ低減とを行うための画像処理方法であって、階調補正の入出力特性を表す階調補正カーブに基づいて、画像信号のコントラストを補正する階調補正を行うステップと、前記画像信号を複数の周波数成分に分離するステップと、前記画像信号を分離するステップにより前記複数の周波数成分に分離された画像信号に対して、ノイズ低減のためのコアリングを行うステップと、前記コアリングを行うためのコアリング閾値を、前記階調補正カーブに基づいて設定するステップとを含み、前記コアリングを行うステップでは、前記コアリング閾値を設定するステップにより設定される前記コアリング閾値に基づいて、前記コアリングを行う。
【0023】
この画像処理方法の適用対象も、撮像装置に限定されない。この画像処理方法によっても、上述した本発明の利点が得られる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、ウェーブレット変換を用いたノイズ低減におけるコアリング閾値を、階調補正カーブに表される入出力特性に基づいて設定することにより、階調補正を行う際に生じるノイズ増幅の度合いに応じて、ノイズ成分を抑制することができるという効果を有する撮像装置、画像処理装置および画像処理方法を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態に係る撮像装置について、図を用いて説明する。
本発明の実施の形態に係る撮像装置のブロック図を図1に示す。図1に示されるように、本発明の実施の形態に係る撮像装置1000は、撮像素子101と、画像メモリ102と、階調補正処理部103と、階調補正カーブ生成部104と、輝度信号生成部105と、ウェーブレット変換部106と、コアリング閾値制御カーブ生成部107と、コアリング閾値設定部108と、コアリング処理部109と、ウェーブレット逆変換部110と、画像表示部111とを備えている。
【0026】
撮像素子101は、画像を撮像するためのもので、入力される被写体の画像を光電変換する。画像メモリ102は、撮像素子101で得られた画像を格納する。階調補正処理部103は、階調補正カーブに基づいて、画像信号のコントラストを補正する階調補正を行う。ここで、階調補正カーブはトーンカーブとも呼ばれ、階調補正の入出力特性を表すものである。階調補正カーブは、階調補正カーブ生成部104により生成される。なお、階調補正処理部103は、本発明の階調補正部に相当する。
【0027】
階調補正カーブの一例を図2に示す。図2に示されるように、階調補正カーブでは、横軸が元画像の階調(入力信号の輝度Ya)を示しており、左に行くほど画像の暗い部分であり、右に行くほど画像の明るい部分である。また、縦軸は、補正後の画像の階調(出力Yb)を示している。このように、階調補正カーブでは、入力信号の輝度Yaおよび出力Ybが互いに関係付けられている。
【0028】
従って、入力信号の輝度Yaが1つ決まると、出力Ybが階調補正カーブに基づいて1つ決定される。図2において、ラインAは画像信号のコントラストを強くする階調補正カーブであり、ラインBは画像信号の変換前後でコントラストの変化の無い階調補正カーブであり、ラインCは画像信号のコントラストを弱める階調補正カーブである。なお、図2で示される階調補正カーブは本実施態様を説明するための一例である。
【0029】
階調補正カーブ生成部104は、画像に対して階調補正を行うための階調補正カーブを生成する。階調補正カーブを生成する際に、階調補正カーブ生成部104では、図2で示されるようなラインA、ラインB、ラインCを事前に登録しておいてもよいし、ユーザがマニュアル操作により変更して、独自の階調補正カーブを作成してもよいし、ユーザが所望する画像が得られるように自動的に階調補正カーブを導き出してくれる何らかのアルゴリズムを適用してもよく、階調補正の基となる階調補正カーブを読み出すことが可能であれば、いかなる構成を適用しても構わない。
【0030】
輝度信号生成部105は、画像メモリ102に格納されている画像に対して、輝度信号を生成する。輝度信号とは、画像の明るさ(輝度)を表す信号で、Y信号とも呼ばれている。例えば、輝度信号をYとし、3原色画像信号の大きさをR、G、Bとしたとき、輝度信号Yは、Y=(R+G+B)/3という算出式を用いて算出することができる。なお、ここで示した輝度信号Yの算出式は、本実施形態を説明するための一例に過ぎず、輝度信号を例示した以外の算出式を用いて算出してもよい。
【0031】
ここで、階調補正カーブによる入出力比を説明するための図を図3に示す。図3では、図2に示されたラインAを階調補正カーブとしている。ここで、入力信号の輝度値Yaがαで、出力Ybがβであるとする。この場合において、階調補正カーブにおける階調補正の入出力比Rは、R=β/αとなる。
【0032】
次に、図2で示されるラインAを階調補正カーブとした場合の入出力信号の一例を、階調補正に伴うノイズ増幅度合いとともに、図4に示す。図4(a)は階調補正カーブにおける入力信号の輝度Yaと出力Ybとの関係を示す図であって、入力信号の輝度別に階調補正が施されることを説明する図であり、図4(b)は入力信号の輝度Ya1、Ya2、Ya3と出力Yb1、Yb2、Yb3との関係を示す図である。
【0033】
図4(a)に示されるように、階調補正カーブであるラインAに基づいて、入力信号の各輝度Ya1、Ya2、Ya3が出力Yb1、Yb2、Yb3に変換される。階調補正カーブは、上述した通り、階調補正の入出力特性を表している。例えば、入力信号の輝度Ya1については、Ya=Ya1の線とラインAとが交わる点まで増幅され、出力Yb1に変換される。同様にして、入力信号の輝度Ya2、Ya2も出力Yb2、Yb3に変換される。このようにして、階調補正カーブによる階調補正が入力信号の輝度毎に行われ、出力信号が出力される。
【0034】
ここで、図4(a)に示されるように、入力信号の輝度Yaには固定のノイズ成分Zaが含まれており、各入力信号の輝度Ya1、Ya2、Ya3も同じノイズ成分Zaを含んでいる。
【0035】
図4(b)では、図内の左から右に向けて、入力信号の輝度Ya1と出力Yb1との関係、入力信号の輝度Ya2と出力Yb2との関係、入力信号の輝度Ya3と出力Yb3との関係が示されている。
【0036】
図4(b)に示されるように、入力信号の輝度Yaの中に含まれているノイズ成分Zaが、階調補正の入出力比Rに応じて、増幅されている。すなわち、入力信号の輝度Ya1が出力Yb1に変換されることにより、ノイズ成分Zaが、入力信号の輝度Ya1に対応する入出力比R=Yb1/Ya1に応じて、ノイズ成分Zb1に増幅されている。同様に、入力信号の輝度Ya2が出力Yb2に変換されることにより、ノイズ成分Zaが、入力信号の輝度Ya2に対応する入出力比R=Yb2/Ya2に応じて、ノイズ成分Zb2に増幅されている。更に同様に、入力信号の輝度Ya3が出力Yb3に変換されることにより、ノイズ成分Zaが、入力信号の輝度Ya3に対応する階調補正の入出力比R=Yb3/Ya3に応じて、ノイズ成分Zb3に増幅されている。このように、入力信号の輝度が、階調補正カーブの入出力比に応じて増減されるとき、入力信号に含まれるノイズ成分も、階調補正カーブの入出力比に応じて増減される。輝度によって入出力比が異なるために、ノイズ増幅度合いも輝度によって変化する。なお、図の例のように、階調補正カーブが画像のコントラストを強めるラインAである場合、輝度が小さい信号の方が、ノイズ増幅度合いが大きく、変換後のノイズ成分が大きくなっている。
【0037】
ウェーブレット変換部106は、階調補正処理部103により階調補正された画像に対して、ウェーブレット変換を行う。ウェーブレット変換部106は、次のように画像信号を複数の周波数成分に分離することにより、階調補正された画像に対してウェーブレット変換を行う。ウェーブレット変換部106によるウェーブレット変換の一例を図に基づいて説明する。level−1のウェーブレット変換過程図を図4に示す。ウェーブレット変換とは、一種のサブバンド符号化であり、多重解像度変換の1つである。levelはサブバンド分解を行った回数を示し、level−1では1回のサブバンド分解を行い、level−2では2回のサブバンド分解を行っている。
【0038】
図5に示されるように、level−1のウェーブレット変換では、まず、ローパスフィルタ(LPF)およびハイパスフィルタ(HPF)を用いて、画像信号を低域周波数成分と高域周波数成分とに分離することにより、サブバンド分解している。更に、サブバンド分解後の画像信号の低域周波数成分および高域周波成分を、LPFおよびHPFを用いて、サブバンド分解する。
【0039】
このように、LPFによって低域信号成分を含む低周波帯域に、HPFによって高域信号成分を含む高周波帯域に、画像信号が順次サブバンド分解されて、低域信号成分(LLとする)と水平、垂直、斜めの高域信号成分(それぞれをHL、LH、HHとする)を得ることができる。この際、1段目のLPFおよびHPFを用いたサブバンド分解では、画像に対して水平分割がなされ、2段目のLPFおよびHPFを用いたサブバンド分解では、画像に対して垂直分解がなされる。更に、低域信号成分に対して、次々に上記同様のサブバンド分解することにより、上位レベルのウェーブレット変換を行うことができる。
【0040】
次に、ウェーブレット変換の計算方法を説明する。ここでは、Haar基底によるウェーブレット変換を例に、ウェーブレット変換の計算方法を図6、図7に基づいて説明する。Haar基底によるウェーブレット変換は、帯域分離の精度は低いが、フィルタ係数が「1」と「−1」の2つのみで構成されている点で、簡素な変換手法の一つとして知られている。
【0041】
図6はウェーブレット変換前後の過程を示す図であって、図6(a)は元画像を示す図であり、図6(b)はlevel−1のウェーブレット変換後の各周波数成分の分離状態を示す図であり、図6(c)はlevel−2のウェーブレット変換後の各周波数成分の分離状態を示す図である。図6(a)および図6(b)に示されるように、元画像の画像信号に対してウェーブレット変換を行うことにより、1LL、1LH、1HL、1HHの各周波数成分に分離される。ここで、LL、LH、HL、HHの前に付された数字は、ウェーブレット変換のレベルを示している。また、level−2のウェーブレット変換では、level−1のウェーブレット変換後の画像信号の低域成分1LLに対して、更にウェーブレット変換を行う。この結果、図6(c)に示されるように、level−1のウェーブレット変換後の画像信号の低域成分1LLが、2LL、2HL、2LH、2HHの各周波数成分に分離される。
【0042】
ウェーブレット変換の対象領域が水平2段、垂直2段の構成の場合について、ウェーブレット変換後の画素信号の各周波数成分の算出式について説明する。ウェーブレット変換の対象領域が水平2段、垂直2段の構成の場合における2次元の水平・垂直2画素の各成分を示す図を図7(a)に示す。また、ウェーブレット変換後の高域信号成分および低域信号成分を算出するための計算式を示す図を図7(b)に示す。
【0043】
図7(a)に示されるように、2次元の水平・垂直2画素の成分を[A、B、C、D]と表すことができる。そして、この場合において、level−1のウェーブレット変換後の画像信号の低域成分LLは、図7(b)に示されるように、LL=A+B+C+Dの算出式によって算出することができる。また、水平、垂直、斜めの各高域信号成分HL、LH、HHは、HL=A−B+C−D、LH=A+B−C−D、HH=A−B−C+Dの算出式によって算出することができる。LL、HL、LH、HHはウェーブレット係数やウェーブレット変換係数とも呼ばれる。なお、図7(b)で示される各算出式では、LL、LH、HL、HHの前に付されるべきウェーブレット変換のレベルの表示を省略している。
【0044】
図6(c)で示されたlevel−2のウェーブレット変換後の画像信号の低域成分2LLおよび高域成分2HL、2LH、2HHも、図7(b)に示される算出式に準じて算出することができる。
【0045】
以上のとおり、ウェーブレット変換部106は、画像信号を複数の周波数成分LL、HL、LH、HHに分離する。この際、ウェーブレット変換部106は、2次元の水平・垂直2画素の各成分[A、B、C、D]から画像信号の各周波数成分[LL、HL、LH、HH]を算出する。
【0046】
コアリング閾値制御カーブ生成部107は、コアリング処理部109が行うコアリング処理の閾値(コアリング閾値とする)の制御の基となる特性カーブ(コアリング閾値制御カーブとする)を生成する。コアリング閾値制御カーブは、コアリング閾値設定部108がコアリング閾値を設定する際に用いられる。なお、コアリング閾値の設定およびコアリング処理については、コアリング閾値設定部108およびコアリング処理部109の説明にて、詳しく説明する。
【0047】
ここで、コアリング閾値制御カーブは、下記の本発明の原理に従って、コアリング閾値を可変制御するためのものである。上述の図4(b)を用いて説明したように、階調補正処理部103により階調補正カーブに基づいて階調補正された後は、固定のノイズ成分Zaも、階調補正カーブに基づき、入力信号の輝度に対応する階調補正の入出力比R=β/αに応じて増幅される。そのため、輝度が小さいほど、変換後のノイズ成分が大きくなる場合がある。従って、ノイズ低減のためのコアリングを行うためのコアリング閾値を設定する際に、階調補正による変換結果が反映されるように、階調補正カーブの特性に基づいて、コアリング閾値を設定することにより、階調補正を行う際に生じるノイズ増幅の度合いに応じて、適応的なノイズ低減が可能となる。図4(b)で示した例では、輝度が小さい方が、変換後のノイズ成分が大きくなるので、ノイズ低減のためのコアリング閾値は低輝度側で大きくする必要があることが分かる。
【0048】
コアリング閾値制御カーブを階調補正カーブとの関係で具体的に示した図を図8に示す。図8(a)は、コントラストを強める階調補正カーブMを用いた場合におけるコアリング閾値制御カーブの一例を示す図であって、ここでの階調補正カーブMは図2で示されるラインAに対応している。図8(b)は、コントラストを弱める階調補正カーブNを用いた場合におけるコアリング閾値制御カーブの一例を示す図であって、ここでの階調補正カーブNは図2で示されるラインCに対応している。
【0049】
図8(a)および図8(b)において、R=β/α(点線)は、階調補正カーブM、Nから得られる入出力比のカーブである。コアリング閾値制御カーブRsは、入出力比のカーブRに沿って、コアリング閾値制御カーブRsが入出力比のカーブRと一致するように設定される。ただし、図示のように、入力信号の輝度が低い領域では、コアリング閾値制御カーブRsが調整され、これによりコアリング閾値制御カーブRsが入出力比のカーブRから離れる。なお、以下の説明では、コアリング制御閾値制御カーブRs上の点の値も、同じ符号を用いて、コアリング閾制御値Rsと呼ぶ。
【0050】
上記の低輝度領域でのコアリング閾値制御カーブRsの調整について説明する。図8(a)に示されるように、入力信号の輝度値が低い場合、階調補正カーブMにおける階調補正カーブMにおける入出力比Rの値が極端に大きくなり過ぎる場合がある。また、図8(b)に示されるように、入力信号の輝度値が低い場合、階調補正カーブNにおける入出力比Rの値が極端に小さくなり過ぎる場合がある。これに対して、極端に信号成分が小さく、輝度値が低い場合には、階調補正カーブによっては変換されたノイズ成分の変化が小さい場合がある。そこで、図示のように、輝度値が0のときのRsを適当な値(図の例ではRs=1)に設定する。そして、この点(輝度=0、Rs=1)を、入出力比Rのカーブと直線で結んで、コアリング閾値制御カーブRsを生成する。
【0051】
コアリング閾値制御カーブRsは、具体的には、下記のようにして生成される。上記のように、輝度値0のときのRsを1とする(図8(a)のi1、図8(b)のj1)。また、入出力比Rを所定輝度値以上で有効にするための閾値を設定する。この閾値をR有効化閾値と呼ぶ。有効化はR=Rsにすることを意味し、R有効化閾値は、R=Rsの範囲の開始端の輝度値である。輝度値がR有効化閾値のときのRsが、図8(a)のi2、図8(b)のj2に相当する。さらに、入出力比RをRsとしてサンプリングする間隔を決めるパラメータを設定する。上記のR有効化閾値が開始点とされて、このサンプリング間隔で入出力比RがRsとして順次算出される(図8(a)のi3、i4、i5・・・、図8(b)のj3、j4、j5・・・)。これらの点が結ばれて、コアリング閾値制御カーブが生成される。
【0052】
なお、R有効化閾値は、上記のように入出力比のカーブRとコアリング閾値制御カーブRsが同一になる開始点である。このR有効化閾値および上記のサンプリング間隔は自由に決めることが可能である。R有効化閾値に応じて、低輝度側のどの範囲でコアリング閾値制御カーブRsを入出力比Rから離れさせるかが決まる。また、サンプリング間隔により、コアリング閾値Rsの設定の細かさが変わる。そこで、要求される処理精度等に応じて、R有効化閾値とサンプリング間隔が設定される。
【0053】
コアリング閾値制御カーブを生成する処理を図9に示す。図9に示されるように、まず、コアリング閾値制御カーブ生成部107は、階調補正カーブの入出力特性により、階調補正カーブの入出力比R=β/αを計算し、当該Rの値を順次プロットして、Rカーブを作成する(ステップ(以下、Sと称する)901)。次に、Rカーブを基に、実際にコアリング閾値の制御の基となるRsを作成する(S902)。ここでは、コアリング閾値制御カーブ生成部107は、輝度値が0の時はRs=1と設定し、事前に設定してあるサンプリング開始輝度の閾値(上述のR有効化閾値)とサンプリング間隔とを読み込み、この設定を基にRsをサンプリングして、その結果を結ぶことにより、コアリング閾値制御カーブRsとする。
【0054】
図8(a)および図8(b)に示す例では、有効輝度値(R有効化閾値)を40、サンプリング間隔を20としたコアリング閾値制御カーブRsを示している。図8(a)に示す例では、入力信号の輝度値が0に対応する点i1、有効輝度値に対応する点i2およびサンプリングした結果である各点i3〜i13を結ぶことにより、コアリング閾値制御カーブRsが生成される。図8(b)に示す例では、入力信号の輝度値が0に対応する点j1、有効輝度値に対応する点j2およびサンプリングした結果である各点j3〜j13を結ぶことにより、コアリング閾値制御カーブRsが生成される。
【0055】
コアリング閾値設定部108は、コアリング閾値制御カーブRsに基づいて、コアリング処理部109がコアリングを行うためのコアリング閾値Thrを生成する。この際、コアリング閾値設定部108は、ウェーブレット変換部106でウェーブレット変換する対象領域の平均輝度値Yaveを、前述の輝度信号生成部105により生成された輝度信号から計算し、また、コアリング閾値制御カーブ生成部107により生成されたコアリング閾値制御カーブRsを読み出す。そして、コアリング閾値設定部108は、ウェーブレット変換の対象領域の平均輝度値Yaveに対応するRs値から、コアリング閾値Thrを設定する。コアリング閾値Thrは、上述の通り、コアリング処理部109がコアリングを行う際に用いる閾値である。
【0056】
コアリング閾値Thrは、Rs値から下記のように計算される。対象画像に対して、デフォルトとして持っているコアリング閾値をThdefとする。Thdefは、予め設定され、記憶されていてよい。コアリング閾値制御カーブRsと、ウェーブレット変換の対象領域の平均輝度値Yaveとから求められる値をRs’とする。Rs’は、Yaveに対応するコアリング閾値制御カーブRs上の値である。そして、実際にコアリングに使用されるコアリング閾値Thrは、Thr=Thdef×Rs’×tの算出式により算出される。ここで、tは微調整用係数である。
【0057】
コアリング閾値設定部により生成されたコアリング閾値Thrの一例を図10に示す。図10(a)はコントラストを強める階調補正カーブを用いた場合におけるコアリング閾値の一例を示す図であり、図10(b)はコントラストを弱める階調補正カーブを用いた場合におけるコアリング閾値の一例を示す図である。図10(a)では、図8(a)に示されたコアリング閾値制御カーブRsを基に、Thdef=5、t=0.5とした際に算出されたコアリング閾値Thrが、横軸を輝度とした曲線で示されている。図10(b)では、図8(b)に示されたコアリング閾値制御カーブRsを基に、Thdef=5、t=0.5とした際に算出されたコアリング閾値Thrが、横軸を輝度とした曲線で示されている。
【0058】
図10(a)および図10(b)に示されるように、コアリング閾値Thrは、輝度に応じて変化する曲線で表され、コアリング閾値制御カーブRsに基づいて設定されている。また、コアリング閾値制御カーブRsは、階調補正カーブにおける階調補正の入出力比R=β/αに基づいて設定されているので、コアリング閾値Thrは、階調補正カーブにおける階調補正の入出力比R=β/αに基づいて設定されている。従って、コアリング閾値設定部108は、階調補正カーブにおける階調補正の入出力比R=β/αに応じて、コアリング閾値Thrを調整することができる。
【0059】
ここで、図4(a)および図4(b)を用いて説明したように、入力信号の輝度の中に含まれているノイズ成分は、階調補正カーブにおける階調補正の入出力比R=β/αに応じて増幅されている。従って、コアリング閾値設定部108は、コアリング閾値Thrを設定する際に、階調補正カーブにおける階調補正の入出力比R=β/αを反映することにより、階調補正を行う際に生じるノイズの増幅度合いに応じたコアリング閾値Thrを設定することができる。すなわち、階調補正を行う際に生じるノイズの増幅度合いに応じて、ノイズ成分が大きくなる場合には、ノイズ除去または低減の強度を決定するコアリング閾値Thrを大きくする方向に作用させ、ノイズ成分が小さくなる場合には、コアリング閾値Thrを小さくする方向に作用させることができる。これにより、階調補正を行う際に生じるノイズ増幅の度合いに応じて、適応的なノイズ低減が可能となる。
【0060】
コアリング閾値を設定する処理を図11に示す。図11に示されるように、コアリング閾値設定部108は、まず、ウェーブレット変換の対象領域の画素の平均輝度値Yaveを求める(S1101)。次に、コアリング閾値設定部108は、コアリング閾値制御カーブ生成部107により生成されたコアリング閾値制御カーブRsを読み出し、Yaveに対応するコアリング閾値制御カーブ値Rs’を求める(S1102)。次に、コアリング閾値設定部108は、本画像にデフォルトとして設定されているコアリング閾値Thdefと微調整用係数tを読み出す(S1103)。そして、コアリング閾値設定部108は、コアリング閾値ThrをThr=Thdef×Rs’×tの算出式から計算する(S1104)。以上のようにして、コアリング閾値設定部108は、コアリング閾値Thrを、輝度値に応じて変化する曲線で設定する。
【0061】
ここで、コアリング処理部109がコアリングに実際に使用するコアリング閾値Thrは、次のように、ウェーブレット変換の対象領域の平均輝度値Yave毎に設定される。コアリング閾値Thrがウェーブレット変換の対象領域の平均輝度値Yave毎に設定されることを具体的に説明するための図を図12に示す。図12では、図11(a)の結果に基に、ウェーブレット変換の対象領域の平均輝度値YaveがYave=50、150であったときのコアリング閾値Thrを示している。
【0062】
図12に示されるように、例えば、ウェーブレット変換の対象領域の平均輝度値YaveがYave=50である場合、コアリング閾値ThrがThr=Thaに設定される。同様にして、例えば、ウェーブレット変換の対象領域の平均輝度値YaveがYave=150である場合、コアリング閾値ThrがThr=Thbに設定される。このように、コアリング処理部109がコアリングに実際に使用するコアリング閾値Thrは、コアリング閾値設定部108により、ウェーブレット変換の対象領域の平均輝度値Yave毎に設定される。
【0063】
図12では、より詳細には、ウェーブレット変換の対象領域の平均輝度値Yave毎に階調補正の入出力比R=β/αが異なっており、この入出力比Rからコアリング閾値が設定される。従って、コアリング閾値Thrが、ウェーブレット変換の対象領域毎の輝度に対する階調補正の入出力比Rに応じて設定できる。
【0064】
コアリング処理部109は、コアリング閾値設定部108により設定されるコアリング閾値Thrに基づいて、ウェーブレット変換部106により複数の周波数成分に分離された画像信号に対して、ノイズ低減のためのコアリングを行う。ここでは、コアリング処理部109は、ウェーブレット変換で得られた画像の高域周波数成分に対して、コアリング処理を行う。コアリング処理では、ウェーブレット変換により得られたウェーブレット変換係数の絶対値がコアリング閾値Thrよりも小さい場合、当該ウェーブレット変換係数を0に置き換える処理を行う。
【0065】
具体的には、コアリング処理部109は、ウェーブレット変換部106で分離された画像の高域成分信号と、コアリング閾値設定部108により設定されたコアリング閾値Thrとを用いて、画像の高域成分に対して、コアリング処理を行う。コアリング処理部109は、画像の高域成分の係数(ウェーブレット係数、ウェーブレット変換係数)の絶対値がコアリング閾値よりも小さい値の係数を0に置き換えることによってコアリング処理を行い、画像に含まれるノイズを低減する。なお、上記画像の高域成分は、例えば、図6(b)において、1HL、1LH、1HHであり、図6(c)において、1HL、1LH、1HH、2HL、2LH、2HHである。
【0066】
コアリング閾値に基づいたコアリング処理におけるコアリング入出力特性の一例を図13に示す。図13には、図12の結果を基に設定されたコアリング閾値Tha、Thbに基づいてコアリングを行った際のコアリング入出力特性が示されている。図13(a)には、コアリング閾値Thaに基づくコアリング入出力特性であり、図13(b)には、コアリング閾値Thbに基づくコアリング入出力特性である。図13(a)および図13(b)では、横軸を入力(in)、縦軸を出力(out)としている。
【0067】
図13(a)および図13(b)に示されるように、コアリング処理部109によるコアリング処理において、入力される係数(ウェーブレット係数、ウェーブレット変換係数)の値がコアリング閾値Tha、Thbの絶対値以下の場合、当該入力される係数の値は0に置き換えられる。一方、入力される係数(ウェーブレット係数、ウェーブレット変換係数)の値がコアリング閾値Tha、Thbの絶対値よりも大きい場合は、出力係数は入力係数からコアリング閾値Tha、Thbを減算した値になる(入力係数が負のときはコアリング閾値Tha、Thbが加算される)。このようなコアリング処理は、ソフトコアリングと呼ばれている。
【0068】
ウェーブレット逆変換部110は、コアリング処理部109によりコアリングが行われた画像信号に対して、ウェーブレット逆変換を行って、画像信号を再構成する。詳細には、ウェーブレット逆変換部109は、コアリング処理部109によりコアリングされた高域成分と、ウェーブレット変換部106で得られた低域成分とを用いて、ウェーブレット逆変換を行って、画像信号を再構成する。
【0069】
ウェーブレット逆変換部110によるウェーブレット逆変換の一例を図に基づいて説明する。level−1のウェーブレット逆変換過程図を図14に示す。図14に示されるように、帯域分割により得られた画像信号の各周波数成分LL、LH、HL、HHから、ウェーブレット変換時のサブバンド分割過程で使用した基底関数から生成される再構成用のLPF’とHPF’とを用いて、画像信号を再構成することができる。まず、LPF’を通過した低域成分LLと、HPF’を通過した垂直高域成分LHとが合成され、LPF’を通過した水平高域成分HLと、HPF’を通過した斜め高域成分HHとが合成される。そして、低域成分LLおよび垂直高域成分LHの合成信号がLPF’を通過し、水平高域成分HLおよび斜め高域成分HHの合成信号がHPF’を通過し、LPF’、HPF’を通過した各合成信号を合成すると、再構成信号として、画像信号が再構成される。
【0070】
次に、ウェーブレット逆変換の実際の計算方法の例を説明する。ここでは、図5、図6を用いて説明したHaar基底を用いる。そして、level−1のウェーブレット変換を行うことにより得られた結果である各周波数成分[LL、LH、HL、HH]から2次元の水平・垂直2画素の成分[A、B、C、D]を再構成する計算方法を図15、図16を用いて説明する。
【0071】
図15はウェーブレット逆変換前後の過程を示す図であって、図15(a)はlevel−1のウェーブレット変換後の各周波数成分の分離状態を示す図であり、図15(b)は再構成後の元画像を示す図である。図15(a)および図15(b)に示されるように、ウェーブレット変換されている画像信号の各周波数成分1LL、1LH、1HL、1HHに対して、ウェーブレット逆変換を行うことにより、元画像が再構成される。ここで、LL、LH、HL、HHの前に付された数字は、ウェーブレット変換のレベルを示している。
【0072】
ウェーブレット変換の対象領域が水平2段、垂直2段の構成であった場合について、ウェーブレット逆変換後の画素の成分の算出式について説明する。ウェーブレット変換の対象領域が水平2段、垂直2段の構成の場合における再構成画像を、図16(a)に示す。
図16(a)に示されるように、2次元の水平・垂直2画素の成分[A、B、C、D]となっており、図7(a)と同じ構成となっている。このときの画素の成分[A、B、C、D]の算出式を図16(b)に示す。
【0073】
図16(b)に示されるように、[A、B、C、D]の各画素の成分は、A=(LL+HL+LH+HH)/4、B=(LL―HL+LH―HH)/4、C=(LL+HL―LH―HH)/4、D=(LL―HL―LH+HH)/4の算出式によって算出することができる。以上の通り、ウェーブレット逆変換部110は、コアリング処理部109によりコアリングが行われた画像信号に対して、ウェーブレット逆変換を行って、画像信号を再構成する。この際、ウェーブレット逆変換部110は、画像信号の各周波数成分[LL、LH、HL、HH]から2次元の水平・垂直2画素の成分[A、B、C、D]を算出する。
【0074】
ここで、図16(b)で示される各算出式では、LL、LH、HL、HHの前に付されるべきウェーブレット変換のレベルの表示を省略している。なお、高域分割により得られた画像信号の各周波数成分がlevel−2以上のウェーブレット変換により得られていた場合、上位levelから再構成されたLL成分と、下位levelの高域成分を、図16(b)で示される算出式に従って同様に、順次ウェーブレット逆変換を施すことにより、画像を再構成することができる。
【0075】
画像表示部111は、ウェーブレット逆変換部110によって、ウェーブレット逆変換された画像を表示する。画像表示部111は例えば液晶表示装置や有機EL表示装置などにより構成される。
【0076】
次に、本発明の実施の形態に係る撮像装置の動作説明を行う。本発明の実施の形態に係る撮像装置の動作フローを図17に示す。図17に示されるように、まず、撮像素子101が被写体画像を撮像する(S1701)。撮像素子101により撮像された画像は、画像メモリ102に格納される。次に、階調補正処理部103が、画像メモリ102に格納されている画像に対して、画像信号のコントラストを補正する階調補正を行う(S1702)。このとき、階調補正処理部103は、階調補正カーブ生成部104により生成された階調補正カーブに基づいて、輝度信号生成部105により生成された輝度信号を、階調補正後の出力に変換する。ここで、図4(a)および図4(b)を用いて説明したように、入力信号の輝度が、階調補正カーブにおける階調補正の入出力比Rに応じて増減される。また、入力信号に含まれるノイズ成分も、階調補正カーブにおける階調補正の入出力比Rに応じて増減される。
【0077】
次に、ウェーブレット変換部106が、階調補正処理部103により階調補正された画像信号に対して、複数の周波数成分に分離するウェーブレット変換を行う(S1703)。ここでは、ウェーブレット変換部106は、画像信号を低域周波数成分および高域周波数成分に分離することにより、サブバンド分解する。例えばウェーブレット変換部106がlevel−1のウェーブレット変換を行うことにより、図5および図6(b)に示されるように、低域信号成分(LL)と水平、垂直、斜めの高域信号成分(HL、LH、HH)とを得ることができる。また、図7で説明したように、ウェーブレット変換部106は、階調補正処理部103により階調補正された画像信号に対してウェーブレット変換を行うことにより、各周波数成分LL、HL、LH、HHを算出する。
【0078】
次に、コアリング閾値設定部108がコアリング閾値を設定し(S1704)、コアリング処理部109が、コアリング閾値設定部108により設定されたコアリング閾値Thrに基づいて、ウェーブレット変換部106により分離された画像信号に対して、ノイズ低減のためのコアリングを行う(S1705)。コアリング閾値設定部108は、上述の通り、ウェーブレット変換部106でウェーブレット変換する対象領域の平均輝度値Yaveを、輝度信号生成部105により生成された輝度信号から計算し、コアリング閾値制御カーブ生成部107により生成されたコアリング閾値制御カーブRsを読み出し、ウェーブレット変換の対象領域の平均輝度値Yaveに対応するRs値からコアリング閾値Thrを設定する。コアリング処理部109は、図13(a)および図13(b)を用いて例示したように入力される係数(ウェーブレット係数、ウェーブレット変換係数)の値がコアリング閾値の絶対値よりも小さい場合、当該入力される係数の値を0に置き換えて出力する。コアリング処理部110によるコアリング処理は、ウェーブレット変換により分離された画像の周波数成分毎に行われる。
【0079】
ここで、上述の通り、コアリング閾値設定部108は、コアリング閾値Thrを設定する際に、階調補正カーブにおける階調補正の入出力比R=β/αを反映することにより、階調補正を行う際に生じるノイズの増幅度合いに応じたコアリング閾値Thrを設定することができる。すなわち、階調補正を行う際に生じるノイズの増幅度合いに応じて、ノイズ成分が大きくなる場合には、ノイズ除去または低減の強度を決定するコアリング閾値Thrを大きくする方向に作用させ、ノイズ成分が小さくなる場合には、コアリング閾値Thrを小さくする方向に作用させることができる。これにより、階調補正を行う際に生じるノイズ増幅の度合いに応じて、適応的なノイズ低減が可能となる。
【0080】
次に、ウェーブレット逆変換部110が、コアリング処理部109によりコアリングされた画像の各周波数成分に対して、ウェーブレット逆変換を行って、画像を再構成する(S1706)。ここでは、ウェーブレット逆変換部109は、コアリング処理部109によりコアリングされた高域成分と、ウェーブレット変換部106で得られた低域成分とを用いて、ウェーブレット逆変換を行って、画像信号を再構成する。これにより、図15、図16に例示したように、例えばHaar基底によるlevel−1のウェーブレット変換を行うことにより得られた結果である各周波数成分[LL、LH、HL、HH]から2次元の水平・垂直2画素の成分[A、B、C、D]を再構成して、元画像を再構成する。これにより、ウェーブレット変換され、コアリングが行われた輝度信号の各周波数成分を合成でき、階調補正を行う際に生じるノイズ増幅の度合いに応じてノイズ成分が抑制された画像を再構成できる。
【0081】
次に、ウェーブレット逆変換部110のウェーブレット逆変換によって再構成された画像が、画像表示部111により表示される(S1707)。
【0082】
以上のようにして、本発明の実施の形態に係る撮像装置1000によれば、ノイズ低減のためのコアリングを行うためのコアリング閾値Thrが、コアリング閾値設定部108により、階調補正カーブに基づいて設定される。階調補正によるノイズ増幅度合いは、階調補正カーブの入出力特性に応じて変わる。従って、階調補正の入出力特性に応じてコアリング閾値を設定することにより、階調補正を行う際に生じるノイズ増幅の度合いに応じて、ノイズ成分を抑制することができる。この結果、ノイズ除去不足や高域成分の過度の除去によるボケが軽減され、また、ノイズの強調を抑えつつ、適用した階調補正カーブによる階調補正の効果を反映した画像を得ることが可能となる。
【0083】
また、本発明の実施の形態に係る撮像装置1000によれば、ノイズ低減のためのコアリングを行うためのコアリング閾値が、コアリング閾値設定部108により、階調補正カーブに基づき、ウェーブレット変換の対象領域の輝度に対応する階調補正の入出力比Rに応じて調整されるので、コアリングを行うためのコアリング閾値Thrを、階調補正カーブに表される階調補正の入出力比Rに応じて設定でき、階調補正を行う際に生じるノイズ増幅の度合いに応じて、ノイズ成分を抑制することができる。
【0084】
以上、本発明の実施の形態を例示により説明したが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではなく、請求項に記載された範囲内において目的に応じて変更・変形することが可能である。
【0085】
上記実施の形態では、本発明に係る撮像装置、画像処理装置および画像処理方法について具体的に説明した。しかし、本発明はこれらに限定されない。本発明は、上述した画像処理方法の各ステップをコンピュータに実行させる画像補正プログラムであってもよく、また、この画像処理プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上のように、本発明は、コアリングを行うためのコアリング閾値が、階調補正カーブに表される入出力特性に対応して設定されるので、階調補正を行う際に生じるノイズ増幅の度合いに応じて、ノイズ成分を抑制することができるという効果を有し、撮像装置等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施の形態に係る撮像装置のブロック図
【図2】階調補正カーブの一例を示す図
【図3】階調補正カーブによる入出力比を説明するための図
【図4】(a)階調補正カーブにおける入力信号の輝度Yaと出力Ybとの関係を示す図であって、入力信号の輝度別に階調補正が施されることを説明する図 (b)入力信号の輝度Ya1、Ya2、Ya3と出力Yb1、Yb2、Yb3との関係を示す図
【図5】level−1のウェーブレット変換過程図
【図6】(a)元画像を示す図 (b)level−1のウェーブレット変換後の各周波数成分の分離状態を示す図 (c)level−2のウェーブレット変換後の各周波数成分の分離状態を示す図
【図7】(a)ウェーブレット変換の対象領域が水平2段、垂直2段の構成の場合における2次元の水平・垂直2画素の各成分を示す図 (b)ウェーブレット変換後の高域信号成分および低域信号成分を算出するための算出式を示す図
【図8】(a)コントラストを強める階調補正カーブを用いた場合におけるコアリング閾値制御カーブの一例を示す図 (b)コントラストを弱める階調補正カーブを用いた場合におけるコアリング閾値制御カーブの一例を示す図
【図9】コアリング閾値制御カーブを生成する処理を示す図
【図10】(a)コントラストを強める階調補正カーブを用いた場合におけるコアリング閾値の一例を示す図 (b)コントラストを弱める階調補正カーブを用いた場合におけるコアリング閾値の一例を示す図
【図11】コアリング閾値を設定する処理を示す図
【図12】コアリング閾値Thrがウェーブレット変換の対象領域の平均輝度値Yave毎に設定されることを具体的に説明するための図
【図13】コアリング閾値に基づいたコアリング処理におけるコアリング入出力特性の一例
【図14】level−1のウェーブレット逆変換過程図
【図15】(a)level−1のウェーブレット変換後の各周波数成分の分離状態を示す図 (b)再構成後の元画像を示す図
【図16】(a)ウェーブレット変換の対象領域が水平2段、垂直2段の構成の場合における再構成画像を示す図 (b)ウェーブレット逆変換後の2次元の水平・垂直2画素の成分を算出するための算出式を示す図
【図17】本発明の実施の形態に係る撮像装置の動作フロー
【符号の説明】
【0088】
101 撮像素子
102 画像メモリ
103 階調補正処理部
104 階調補正カーブ生成部
105 輝度信号生成部
106 ウェーブレット変換部
107 コアリング閾値制御カーブ生成部
108 コアリング閾値設定部
109 コアリング処理部
110 ウェーブレット逆変換部
111 画像表示部
1000 撮像装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像された画像に対して、階調補正と、ウェーブレット変換を用いたノイズ低減とを行うように構成された撮像装置であって、
階調補正の入出力特性を表す階調補正カーブに基づいて、画像信号のコントラストを補正する階調補正を行う階調補正部と、
前記画像信号を複数の周波数成分に分離するウェーブレット変換部と、
前記ウェーブレット変換部により前記複数の周波数成分に分離された画像信号に対して、ノイズ低減のためのコアリングを行うコアリング処理部と、
前記コアリング処理部が前記コアリングを行うためのコアリング閾値を、前記階調補正カーブに基づいて設定するコアリング閾値設定部とを備え、
前記コアリング処理部は、前記コアリング閾値設定部により設定される前記コアリング閾値に基づいて、前記コアリングを行うことを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記コアリング閾値設定部は、前記階調補正カーブに基づき、ウェーブレット変換の対象領域の輝度に対応する階調補正の入出力比に応じて、前記コアリング閾値を調整することを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記コアリング処理部により前記コアリングが行われた画像信号に対して、ウェーブレット逆変換を行って、画像信号を再構成するウェーブレット逆変換部を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の撮像装置。
【請求項4】
画像に対して、階調補正と、ウェーブレット変換を用いたノイズ低減とを行うように構成された画像処理装置であって、
階調補正の入出力特性を表す階調補正カーブに基づいて、画像信号のコントラストを補正する階調補正を行う階調補正部と、
前記画像信号を複数の周波数成分に分離するウェーブレット変換部と、
前記ウェーブレット変換部により前記複数の周波数成分に分離された画像信号に対して、ノイズ低減のためのコアリングを行うコアリング処理部と、
前記コアリング処理部が前記コアリングを行うためのコアリング閾値を、前記階調補正カーブに基づいて設定するコアリング閾値設定部とを備え、
前記コアリング処理部は、前記コアリング閾値設定部により設定される前記コアリング閾値に基づいて、前記コアリングを行うことを特徴とする画像処理装置。
【請求項5】
画像に対して、階調補正と、ウェーブレット変換を用いたノイズ低減とをコンピュータに実行させる画像処理プログラムであって、
階調補正の入出力特性を表す階調補正カーブに基づいて、画像信号のコントラストを補正する階調補正を行うステップと、
前記画像信号を複数の周波数成分に分離するステップと、
前記画像信号を分離するステップにより前記複数の周波数成分に分離された画像信号に対して、ノイズ低減のためのコアリングを行うステップと、
前記コアリングを行うためのコアリング閾値を、前記階調補正カーブに基づいて設定するステップとを前記コンピュータに実行させ、
前記コアリングを行うステップでは、前記コアリング閾値を設定するステップにより設定される前記コアリング閾値に基づいて、前記コアリングを行うことを特徴とする画像処理プログラム。
【請求項6】
請求項5に記載された画像処理プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項7】
画像に対して、階調補正と、ウェーブレット変換を用いたノイズ低減とを行うための画像処理方法であって、
階調補正の入出力特性を表す階調補正カーブに基づいて、画像信号のコントラストを補正する階調補正を行うステップと、
前記画像信号を複数の周波数成分に分離するステップと、
前記画像信号を分離するステップにより前記複数の周波数成分に分離された画像信号に対して、ノイズ低減のためのコアリングを行うステップと、
前記コアリングを行うためのコアリング閾値を、前記階調補正カーブに基づいて設定するステップとを含み、
前記コアリングを行うステップでは、前記コアリング閾値を設定するステップにより設定される前記コアリング閾値に基づいて、前記コアリングを行うことを特徴とする画像処理方法。

【図3】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−199448(P2008−199448A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34552(P2007−34552)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】