説明

支承装置

【課題】被支承体の鉛直面内における回転運動に対して十分に回転追従することを可能とした支承装置を提供する。
【解決手段】単一の仮想球体Kの表面の一部を外周面2aとする第一剛性体2と、前記第一剛性体2の外周面2aに沿う内周面4aを有し、当該外周面2aに対向して前記第一剛性体2を側方から囲う側抱体4と、前記第一剛性体2に対向し、前記側抱体4と一体的に配設される第二剛性体3と、前記第一剛性体2と前記第二剛性体3と前記側抱体4に囲繞される弾性体5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建築物や橋梁等の各種構造物を支承する支承装置に関する。
【背景技術】
【0002】
元来、建築物や橋梁等の構造物の支承装置には、大別して、水平方向の荷重を支承する水平荷重支承機能、鉛直方向の荷重を支承する鉛直荷重支承機能、鉛直面内における回転荷重を支承する鉛直回転支承機能等が求められる。特に、橋梁用支承装置にあっては、平成7年の大震災以来、ゴムを主たる構成要素としたゴム支承装置が求められるようになった。中でも鉛直荷重支持性能があって、水平力分散性能の高い積層ゴム支承装置は、広範に使用されるようになった。
【0003】
この積層ゴム支承装置は、例えば特許文献1に記載されているように、ゴム板と鉄板を交互に積層し、これらが加硫接着によって相互に接着されて構成され、その上部が橋梁の橋桁等の上部構造物に固定され、その下部が橋脚等の下部構造物に固定されて設置されて使用されている。
【0004】
しかしながら積層ゴム支承装置にあっては、構造上、積層構造を採るため、必然的に所要厚さが大きくなって嵩張る上、高荷重を支持させるには広面積化する必要があり、特に長大橋向けには大型化する欠点がある。従って、性能要求上、支承装置が大型化してしまった場合には、下部構造物である橋脚や橋台の上面の面積がより大きく要求されることになり、橋梁全体として高コスト化してしまうという欠点がある。
【0005】
また、大型の支承装置が求められる場合であって、新設でない場合には、既存の支承装置が設置されていることから設置スペースが限定されるために支承装置の大きさが特に問題となり、高さが低く面積が狭い小型の支承装置でなければ交換設置出来ないという不具合があった。
【0006】
まして近時、建築物や橋梁等の構造物の大型化や予想される地震規模の大型化に伴い、支承装置に求められる機能や性能も高度化してきており、積層ゴム支承で対応しようとした場合、大型化してしまうことは避けられない。
【0007】
この様な背景から先述のような鉛直高荷重支持性能の向上に伴う大型化という積層ゴム支承装置の問題の改善を図ったものとして、例えば特許文献2乃至4に記載された機能分離型の固定支承としての弾性支承装置が提案されている。
【0008】
これらの弾性支承装置は、積層ゴム支承装置の持つ水平力分散機能は持たず、この機能を別の支承装置に持たせ、鉛直荷重支持機能を高度化するものであって、下面に環状溝が形成された上板と、上面に環状溝が形成された下板とが互いの環状溝に隙間無く固着されて介在する弾性層を介して対向配置され、上板と下板の中央に設けられた貫通孔に剪断変形を拘束する芯状の突起が配設されて構成されたり、或いは、上沓と下沓がそれぞれ互いに嵌合する同心円状の複数の円筒部と中心に位置する円柱部とからなる凸部と凹部とを有し、嵌合状態の直径鉛直断面視において、これら互いに嵌合する凸部と凹部がそれぞれ断面矩形状又は断面台形状をなし、それらの隣接する側面同士と互いに対向する底面と頂面との間にゴム等の一様な弾性体が実質的に隙間無く充填され、連続するゴム層が挟持されて結合された構成になっている。
【0009】
このように構成される上述の如くの弾性支承装置は、弾性層が厚くなく、弾性層と交互に積層されるような鋼板層が存在せず、支承装置としても積層ゴム支承装置に比して高さが低く、全体としてコンパクトに設定され、支承装置の大型化問題に対する解決策として提案されている。
【0010】
ところで、積層ゴム支承装置を含め、ゴム等の弾性体を用いた弾性支承装置の場合、特に橋梁用支承装置の場合には、鋼製支承装置と異なり、鉛直可撓性能があることから橋軸直角方向における鉛直面内での回転は、回転性能によってなされるのではなく、鉛直可撓性によって達せられ、橋軸方向における鉛直面内における回転は鉛直方向の圧縮撓みによってなされることになる。
【0011】
しかしながら、圧縮撓み性能、即ち鉛直可撓性能を向上させるには鉛直弾性を改善する必要が生じるが、この改善を図ろうとすると鉛直荷重支持性能が低下するという二律背反が生じる。更に道路橋示方書によれば、ゴム支承においては剪断変形は許容されるが構成ゴムに引張力が作用することは許容されていないことから積層ゴム支承装置において鉛直面内における回転性能を持たせることは困難であった。況してや特許文献2乃至4の弾性支承装置にあっては、弾性層の厚みが薄く、鉛直可撓性が低く、圧縮撓みが殆どとれないことから橋軸直角方向に対する鉛直回転性能と、橋軸方向に対する鉛直回転性能のいずれも良好な回転性能を得ることが出来なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−181129号公報
【特許文献2】特許第4377429号公報
【特許文献3】特開2008−25683号公報
【特許文献4】特開2007−23647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、例えば橋桁等の上部構造体を、適宜間隔の支間を存して橋脚等の下部構造体で支承装置を介して支持した場合、上部構造体の支間の中間に大重量物が位置した際には、その重量によって、支承による支持位置を支点とし、上部構造体の中間位置が力点となって上部構造体が撓むことがあり、従って、支承位置では支承装置に鉛直面内における回転力が作用することになる。この場合には、上部構造体と下部構造体との間に配設されている支承装置は、上部構造体の変形に回転追従する必要がある。
【0014】
しかしながら既述のとおり、従来の支承装置では、十分な回転追従性能が得られないという問題があった。特に、特許文献2に記載された支承装置にあっては、水平変位を拘束しつつ、芯状の突起が回転追従を阻害するものとなっている。
【0015】
更に、特許文献2の支承装置においては、支承装置中央の突起が占有する面積相当の鉛直荷重支持能力の低下を来すという問題があった。
【0016】
また、特許文献3及び4の支承装置においては、上揚力が作用した場合には、上沓と下沓とが乖離して損壊する虞があった。
【0017】
つまり、これらの如くの弾性支承装置には、鉛直可撓性能を向上させる必要性と、鉛直荷重支持性能とを向上させる必要性という二律背反要素の改善が要求され、且つ、鉛直面内における回転性能の向上が求められている。しかしながらが、従来の弾性支承装置においては、これらの要請を同時的に満たすものは皆無であった。
【0018】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、被支承体の鉛直面内における回転運動に対しても十分に回転追従することを可能とすると共に、より大きな鉛直荷重を支承することが可能であって、上揚力等にも十分に対抗出来、且つ支承装置の損壊状態や交換の必要性を外部から目視確認することが可能で、固定支承としても可動支承としても応用可能な支承装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の支承装置は、単一の仮想球体の表面の一部を外周面とする第一剛性体と、前記第一剛性体の外周面に沿う内周面を有し、当該外周面に対向して前記第一剛性体を側方から囲う側抱体と、前記第一剛性体に対向し、前記側抱体と一体的に配設される第二剛性体と、前記第一剛性体と前記第二剛性体と前記側抱体に囲繞される弾性体とを備えることを特徴とする。
【0020】
また、前記第一剛性体の最大外形が、前記側抱体の内周面の開口の最小内形よりも大きいことを特徴とする。
【0021】
また、前記第一剛性体の外周面と前記側抱体の内周面とが摺接面とされて前記第一剛性体と前記第二剛性体と前記側抱体とによって形成される密閉空間を有し、前記弾性体が当該密閉空間に隙間無く充満されていることを特徴とする。
【0022】
また、前記第一剛性体と前記第二剛性体との間に前記弾性体が設けられていない空間を有することを特徴とする。
【0023】
また、前記空間には、充填材が充填されていることを特徴とする。
【0024】
また、充填材は、前記弾性体と異種の弾性体であることを特徴とする。
【0025】
また、前記充填材は、非圧縮性の流体であることを特徴とする。
【0026】
また、前記充填材は、前記第一剛性体と前記第二剛性体とを嵌合するより前に予め充填されていることを特徴とする。
【0027】
また、前記充填材は、前記第一剛性体と前記第二剛性体とを嵌合した後に充填されることを特徴とする。
【0028】
また、前記弾性体の周面が、前記仮想球体の表面の一部を成し、前記第一剛性体の周面を構成する領域に連続する領域を成すことを特徴とする。
【0029】
また、前記第一剛性体、前記第二剛性体及び前記側抱体のいずれか或いは二者以上が分割可能に構成されていることを特徴とする。
【0030】
また、前記第一剛性体、前記第二剛性体及び前記側抱体のいずれか或いは二者以上の分割方向が、支承方向と同方向であることを特徴とする。
【0031】
また、前記第一剛性体、前記第二剛性体及び前記側抱体のいずれか或いは二者以上の分割方向が、支承方向と異方向であることを特徴とする。
【0032】
また、前記第一剛性体が前記第二剛性体から離間する方向に所定以上の力を受けた場合に前記側抱体より先に損壊すると共に、損壊による変化が外側に現れる脆弱部を備えることを特徴とする。
【0033】
また、前記脆弱部は、前記側抱体よりも剪断面積の少ないボルト/ナットであることを特徴とする。
【0034】
前記第一剛性体、前記第二剛性体及び前記側抱体のいずれか或いは二者以上が分割可能に構成され、分割部位同士を締結するボルト/ナットが前記脆弱部とされていることを特徴とする。
【0035】
前記脆弱部は、前記第一剛性体、前記第二剛性体及び前記側抱体のいずれか或いは二者以上に対して設けられた肉薄部であることを特徴とする。
【0036】
前記弾性体が、前記第一剛性体及び前記第二剛性体のいずれか或いは両方に対して接着されていないことを特徴とする。
【0037】
前記第一剛性体の支承方向における外面又は前記第二剛性体の支承方向における外面には、摺滑板が配設されることを特徴とする。
【0038】
前記第一剛性体が上部構造物に固定される上沓として、前記第二剛性体が下部構造物に固定される下沓として設定されるものであることを特徴とする。
【0039】
前記第二剛性体が上部構造物に固定される上沓として、前記第一剛性体が下部構造物に固定される下沓として設定されるものであることを特徴とする。
【0040】
前記上部構造物が橋桁であり、前記下部構造物が橋脚あるいは橋台であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0041】
本発明においては、第一剛性体を側方から囲う側抱体が第二剛性体と一体的に配設されている。このため、第一剛性体の第二剛性体に対する側方への移動を、側抱体の存在によって抑制することが出来る。つまり、第一剛性体の側方方向を水平方向とした場合には、側抱体によって第一剛性体の水平方向への移動を規制し、また側抱体によって水平荷重を支持することが出来る。このように本発明によれば、側抱体によって水平荷重を支持することが出来るため、第一剛性体、第二剛性体及び側抱体によって囲繞された空間(即ち、弾性体が配設される空間)に剪断変形を拘束する芯状の突起を設ける必要がなく、当該芯状の突起によって弾性体の回転追従が阻害されることがない。
【0042】
更に本発明においては、第一剛性体の外周面が単一の仮想球体の表面の一部から成り、側抱体の内周面が第一剛性体の外周面に沿っている。このため、第一剛性体或いは側抱体が一体化された第二剛性体が鉛直面内において回転運動した場合に、第一剛性体と側抱体とが干渉することを防ぎ、弾性体の回転追従が阻害されることがない。
【0043】
このように本発明においては、弾性体の回転追従が阻害されることがないため、被支承体の鉛直面内における回転運動に対して十分に回転追従することが可能となる。
【0044】
また、第一剛性体の最大外形が側抱体の内周面によって形成される開口の最小内形よりも大きい場合には、第一剛性体と第二剛性体とが離間する方向に移動した際に、側抱体によって第一剛性体が押さえられることより、第一剛性体と第二剛性体とが乖離することが防止される。従って、支承方向を鉛直方向とした場合には、側抱体によって、第一剛性体に対して第二剛性体が相対的に上揚することを抑止することが出来る。
【0045】
また、第一剛性体の外周面と側抱体の内周面とが摺擦面とされて第一剛性体と第二剛性体と側抱体とによって形成される密閉空間を有し、弾性体が当該密閉空間に隙間無く充満されている場合には、弾性体の密閉力が高く、高荷重支持特性を向上させることが出来る。また、第一剛性体と第二剛性体との間に雨水等の水分が浸入することを抑制し、第一剛性体、第二剛性体及び側抱体が当該水分によって劣化することを抑制することが出来、耐環境性を向上させることが出来る。
【0046】
また、第一剛性体と前記第二剛性体との間に前記弾性体が設けられていない空間を有する場合には、弾性体が荷重を受けて変形する場合に当該空間に入り込むことが可能となり、弾性体の許容変形量を大きくすることが出来、バネ定数を低下させることが出来る。つまり、当該空間を設けることによって、バネ定数の調整を行うことが出来る。
【0047】
また、当該空間に充填材を充填することが出来る。この充填材の構成材料や充填量、充填位置、充填空間の形状等の設定により、支承装置のバネ定数や高さ、荷重支持性能、荷重減衰性能、鉛直面内における回転追従性能等々多用な機能や性能の調整を図ることが出来るようになる。
【0048】
尚、充填材としては、例えば、第一剛性体と第二剛性体との間に介挿される弾性体と異種の弾性体や非圧縮性の流体を用いることが出来る。充填材の種類を選択することによって上述のように支承装置のバネ定数や高さ、荷重支持性能、荷重減衰性能、鉛直面内における回転追従性能等々多用な機能や性能の調整を図ることが出来る。
【0049】
充填材として流体を用いる場合には、例えば、充填時には流体であるが適宜時間が経過した後に固化するものであってもよい。また、一つの空間内に充填される充填材の種類は、一種類であっても或いは複数種類であってもよい。例えば、二液硬化性の流体をそれぞれ適宜量充填して硬化させて適宜の弾性係数を発現する一固体化させてもよく、勿論、予め二液を混合しておいてから充填することも出来る。また、充填材としては、流体の内部に固体や粒体、気体を混入させたものであってもよい。
【0050】
また、充填材は、気体、液体、ゲル状体から選択される一つ以上の流体から構成することができる。気体は、圧縮率が大きいことから高荷重支持には不向きであるが、比較的低荷重を支持する場合には例えば空気バネのような作用をさせることが可能であり、また加圧状態で充填してもよい。また、不連続気泡のように気泡を内包する流体を充填して置きながら硬化させて、発泡体の如くの充填材とすることも可能である。また例えば、液体やスラリー状乃至ゲル状の非硬化性の充填材を充填した場合、充填空間の変形に自在に対応しつつ、荷重を支持することが可能であり、また寒冷地等の低温下においても凍結しない不凍流体を選択することが可能である。
【0051】
充填材が、非圧縮性の流体である場合には、充填空間の変形に自在に対応しつつも高荷重を支持することが可能となる。
【0052】
充填材が、液体やスラリー状乃至ゲル状の非硬化性で高粘性の高粘性流体である場合には、充填空間を囲繞する弾性体が変形した際に、当該空間内の高粘性の充填材の粘性抵抗によって変形エネルギーを減衰させる効果を期待出来る。
【0053】
また、上述のように、充填材を異種の弾性体とすることも出来る。勿論、充填材が弾性体となるためには、充填時には流動性を示すものであることが好ましい。例えば、弾性体が熱可塑性を示すものであれば、これを充填材として使用する場合には、当該弾性体を適宜温度に加熱して流動可能な状態にしておきながら充填する。また例えば弾性体が、熱硬化性を示すものであれば、硬化前の流動可能な状態の時点で充填する。
【0054】
充填材を予め充填する場合には、予めの設計通り、また手順通りに製造段階や出荷前に充填することが可能であり、これによれば、製造上高効率化することが出来る。
【0055】
また、充填材を後から充填する場合には、出荷後、例えば施工現場において、施工空間の高さ等の大きさに合わせて調整しながら充填することが可能であり、これによれば、従来施工上における微調整が困難であった問題を解消することが出来る。
【0056】
また、弾性体の周面が、仮想球体の表面の一部を成し、第一剛性体の周面を構成する領域に連続する領域を成す場合には、第一剛性体の表面と弾性体の表面とが滑らかに接続されることになり、第一剛性体と弾性体との境界に隙間が発生し難くなるため、第一剛性体と弾性体との境界に水分等が浸入して第一剛性体及び弾性体が劣化することを抑制することが出来る。更に、側抱体の内周面を第一剛性体の周面及び弾性体の周面に沿わせる場合には、側抱体の内周面を滑らかな曲面とすることが出来るため、側抱体の強度を向上させると共に側抱体の製作を容易にすることが出来る。
【0057】
また、第一剛性体、第二剛性体及び側抱体のいずれか或いは二者以上が分割可能に構成されている場合には、本発明の支承装置を容易に組み立てることが可能となる。具体的には、第一剛性体、第二剛性体及び側抱体のいずれか或いは二者以上の分割方向を、支承方向と同方向或いは支承方向と異方向とすることが出来る。
【0058】
また、第一剛性体が前記第二剛性体から離間する方向に所定以上の力を受けた際に側抱体より先に損壊すると共に、損壊による変化が外側に現れる脆弱部を備える場合には、側抱体が損壊することを防止することが出来、側抱体によって支えられた部材が側抱体の損壊によって脱落することを防止することが出来る。この脆弱部としては、例えば、側抱体よりも剪断面積の少ないボルト/ナットを用いることが出来、より具体的には、第一剛性体、第二剛性体及び側抱体のいずれか或いは二者以上が分割可能に構成された場合の分割部位同士を締結するボルト/ナットを用いることが出来る。また、脆弱部を、第一剛性体、第二剛性体及び側抱体のいずれか或いは二者以上に対して設けられた肉薄部とすることも可能である。
【0059】
また、第一剛性体又は第二剛性体の上面或いは下面に摺滑手段を設けることが可能であり、この摺滑手段を設定した場合、元々固定支承であった本発明の支承装置を可動支承として利用することが可能となる。
【0060】
また、上記第一剛性体が上部構造物に配設される上沓として、上記第二剛性体が下部構造物に配設される下沓として設定することが出来、その反対に、上記第二剛性体が上部構造物に配設される上沓として、上記第一剛性体が下部構造物に配設される下沓としてそれぞれ設定することも出来る。何れの場合であっても、優れた回転追従性にて、上部構造物を下部構造物に対して支承することが可能となる。
【0061】
上記上部構造物が橋桁であり、上記下部構造物が橋脚あるいは橋台であるとすることが出来、この場合には、優れた回転追従性にて、橋桁及び橋脚あるいは橋台を支承することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施例における支承装置の概略構成図であり、(a)が平面図、(b)が(a)のA−A’断面図である。
【図2】ゴム層が存在しない空間を有する本発明の一実施例における支承装置の変形例の断面図である。
【図3】本発明の一実施例における支承装置の変形例が備える分割可能とされた下沓の平面図である。
【図4】本発明の一実施例における支承装置の変形例が備える分割可能とされた上沓の平面図である。
【図5】側抱体に肉薄部を有する本発明の一実施例における支承装置の変形例の断面図である。
【図6】下沓に肉薄部を有する本発明の一実施例における支承装置の変形例の断面図である。
【図7】上沓に肉薄部を有する本発明の一実施例における支承装置の変形例の断面図である。
【図8】上沓の上面にすべり板を有する本発明の一実施例における支承装置の変形例の断面図である。
【図9】下沓の下面にすべり板を有する本発明の一実施例における支承装置の変形例の断面図である。
【図10】下沓の外周面と側抱体の内周面との間に間隙を設け、この間隙に弾性体によって構成される弾性層を設けた本発明の一実施例における支承装置の変形例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下に本発明の実施形態の支承装置の構成を詳細に説明する。本発明の支承装置は、建築物や橋梁等の構造物を支承するための支承装置であって、互いに間隙を存して位置する二つ構造体のうち、一方の構造体側に配設される第一剛性体と、この第一剛性体に対向して他方の構造体側に配設される第二剛性体と、この第二剛性体と一体的に配設され第一剛性体の側周に沿った内周面を有して設けられる側抱体と、これらの第一剛性体と第二剛性体と側抱体とによって囲繞される弾性体とを備えて構成される。ここで例えば、上述の一方の構造体を上部構造体、他方の構造体を下部構造体とする。より具体的な例としては、本発明の支承装置は、上部構造体としての橋桁と下部構造体としての橋脚或いは橋台との間、即ち橋桁と橋脚或いは橋台との間に配設して使用するものであり、この場合には水平荷重や鉛直荷重、回転荷重等の各種の荷重を支えると共に、荷重伝達を果たしながら地震や風、或いは動的或いは静的な交通荷重等による揺動や振動、応力を吸収分散しつつ、支承するものである。以下、上部構造体と下部構造体との間に配設して使用する例を以て本発明の支承装置の実施形態の説明をする。
【0064】
支承装置は、少なくとも、下部構造体に直接或いは間接的に固定される第一剛性体である下沓と、下沓を囲う側抱体と、上部構造体に直接的或いは間接的に固定されると共に側抱体と一体的に配設される第二剛性体である上沓と、これら上沓、下沓及び側抱体とで囲繞される弾性体とを備えて構成される。勿論、上沓と下沓とが入れ替わった構成とすることも可能である。
【0065】
下部構造体に対する下沓の固定手段は、例えばボルト、ナット等の締結手段を用いて下沓を下部構造体に対して直接的に固定してもよく、或いは下沓よりも広面積の板状をなす下部プレートの如くの下部固定手段を介して下沓を下部構造体に対して間接的に固定したり、適宜の方法で固定することが出来る。また、下沓の下部に摺滑手段を配設して、下部構造体と支承装置とを相対変位可能に固定しても好い。この摺滑手段としては、例えば、PTFEの如くの低摩擦係数の表面を有するプレート等を、下沓の下面に固定したり、或いは下部構造体や下部構造体に固定される取付手段側の上面に固定することによって構成することが可能である。尚、上沓や下沓の直接的乃至間接的な固定は、着脱可能な方法とするのが好ましく、ボルト、ナット等による締結はその一例である。
【0066】
下沓は、上沓同様、金属やセラミックス、或いは硬質樹脂やFRPの如くの強化樹脂等の鋼製素材によって構成することが好ましいが、必ずしも剛性素材に限定されるものではなく、弾性素材や剛性素材と弾性素材との組合せによって構成される材料によって構成することが出来る。
【0067】
下沓は、ある単一の仮想球体の表面の一部を外周面とする形状を有している。具体的には、仮想球体をある平行な二つの面により切断し、これらの面の間に挟まれた形状(すなわち仮想球体を複数に輪切りした場合に得られる複数の分割体の一つの形状であり、以下球体輪切り形状と称する)を下沓の形状とすることにより、下沓の外周面全体が仮想球体の表面の一部から成ることになる。なお、下沓の形状は、このような球体輪切り形状に限定されるものではなく、例えば、当該球体輪切り形状に対して外周面の一部が突出あるいは陥没した形状とすることも可能である。また、下沓の下面全体を仮想球体の表面から成るように形状設定することも出来る
【0068】
尚、仮想球体の中心よりも下方に位置する表面が下沓の外周面とされていることが好ましい。具体的には、下沓を球体輪切り形状とする場合には、その形状は、仮想球体のうち、中心よりも下方にて切り出した形状とすることが好ましい。これによって、下沓の外周面が下方を向くこととなり、後に詳説する側抱体に下方から支えられることによって下沓が脱落することを防止することが可能となる。
【0069】
下沓の上面は、勿論平面とすることも出来る他、上面側から凹設される凹部及び/又は対向する基盤に向かって凸設される凸部を設けたり、粗面としたり、曲面としたり、テーパー面としたり、或いはこれらの複合した面とすることが可能である。
【0070】
上部構造体に対する上沓の固定手段は、例えばボルト、ナット等の締結手段を用いて上沓を上部構造体に対して直接的に固定してもよく、或いは上沓よりも広面積の板状をなす上部プレートの如くの上部固定手段を介して上沓を上部構造体に対して間接的に固定したり、適宜の方法で固定することが出来る。また、上沓の上部に摺滑手段を配設して、上部構造体と支承装置とを相対変位可能に固定しても好い。この摺滑手段としては、例えば、PTFEの如くの低摩擦係数の表面を有するプレート等を、上沓の上面に固定したり、或いは上部構造体や上部構造体に固定される取付手段側の下面に固定することによって構成することが可能である。
【0071】
上沓は、金属やセラミックス、或いは硬質樹脂やFRPの如くの強化樹脂等の鋼製素材によって構成することが好ましいが、必ずしも剛性素材に限定されるものではなく、弾性素材や剛性素材と弾性素材との組合せによって構成される材料によって構成することが出来る。各種素材から構成される上沓は、平面形状が略多角形、略円形、略長円径、略楕円形等の適宜の形状に設定することが出来るが、方形又は円形とすることが製造上、或いは施工上、交換上有利である。尚、上沓は、外表面を全体的に弾性体等の被覆層で覆って、耐候性、防錆効果を得るように構成することが出来る。
【0072】
更に、上沓の下面は、勿論平面とすることも出来る他、下面側から凹設される凹部及び/又は対向する下沓に向かって凸設される凸部を設けたり、粗面としたり、曲面としたり、テーパー面としたり、或いはこれらの複合した面とすることが可能である。
【0073】
側抱体は、仮想球体の表面の一部を外周面とする下沓の当該外周面に沿う内周面を有し、下沓の外周面に対向して上沓を側方から囲うものであり、上沓と一体的に設置されている。勿論、側抱体を上沓と一体形成してもよいことはいうまでもない。この側抱体は、支承方向から見て、下沓の全周を囲う環状形状とすることが出来るが、これに限られるものではなく、下沓の周方向に分散して複数配列されるようにしても良い。
【0074】
また、側抱体の内周面によって形成される開口の最小内形が下沓の最大外形よりも小さい(つまり、下沓の最大外形が側抱体の内周面によって形成される開口の最小内形よりも大きい)ことが好ましい。これによって、下沓が側抱体によって囲まれた空間に内包されることによって、下沓が側抱体によって囲まれた空間から外側に飛び出すことを防止し、下沓が脱落することを防止することが出来る。尚、このような構成は、例えば、上述のように、想球体の中心よりも下方に位置する表面を下沓の外周面とし、側抱体を支承方向から見て環状に形状設定することにより実現することが出来る。
【0075】
尚、例えば、側抱体の内周面によって形成される開口の最小内形が下沓の最大外形よりも小さい場合には、下沓を側抱体によって囲われた空間に収容することが容易ではない。そこで、上沓、下沓及び側抱体のいずれか或いは複数が分割可能に構成されていることが好ましい。この分割方向としては、組立て性及び荷重支持特性を考慮して、支承方向及び支承方向と異なる方向とのいずれかを任意に選択することが出来る。更に、この分割状態から組立状態にするに当たって、それらの部材同士を結合させる締結手段を敢えて脆弱に構成し、所定以上の外力が作用した際には、他の部位に先行して損壊するように設定することも可能である。
【0076】
弾性体は、上沓と下沓と側抱体によって囲繞されて所望量配設される。この配設部位と配設量によって、鉛直荷重支持性能や水平荷重支持性能、並びに鉛直回転性能を調節することが出来る。勿論、弾性体として採用する材料によっても荷重支持性能や回転追従性などの設定を行うことが出来る。また、上沓と下沓の間に配設される弾性体は、上沓及び下沓に接着していてもいなくてもどちらでもよい。一般的には、応力集中や経年変化等によっても弾性体が乖離したり剥離して機能不全を生じさせないようにするために、弾性体を例えば加硫接着乃至接着剤による接着等によって上沓と下沓とのそれぞれに対して接合することが好ましいと考えられる。ただし、本実施形態の支承装置では、弾性体が上沓と下沓と側抱体によって囲繞されているために、弾性体が乖離及び剥離し難い構成となっている。このため、配設作業の簡易化及び製造コストの低減のために、弾性体が上沓及び下沓の少なくとも一方に対して接着されていない構成を採用することも可能である。
【0077】
また、弾性体の外周面は、下沓の外周面を含む仮想球体の表面の一部から成り、下沓の外周面と連続することが好ましい。このような場合には、下沓の表面と弾性体の表面とが滑らかに接続されることになり、下沓と弾性体との境界に隙間が発生し難くなるため、下沓と弾性体との境界に水分等が浸入して下沓及び弾性体が劣化することを抑制することが出来る。更に、側抱体の内周面を下沓の周面及び弾性体の周面に沿わせてわせて滑らかな曲面とすることが出来るため、側抱体の強度を向上させると共に側抱体の製作を容易にすることが出来る。
【0078】
更に、仮想球体の中心よりも上方に位置する表面が弾性体の外周面とされていることが好ましい。具体的には、弾性体を球体輪切り形状とする場合には、その形状は、仮想球体のうち、中心よりも上方にて切り出した形状とすることが好ましい。これによって、弾性体の外周面が上方を向くこととなり、弾性体の周面にて垂直荷重を支持することが出来、垂直荷重支持特性を向上させることが可能となる。
【0079】
また、下沓の外周面と側抱体の内周面との間に、僅かながらも敢えて間隙を設け、この間隙に弾性体によって構成される弾性層を設けてもよく、この場合、当該弾性体と、上沓と下沓との間に介挿される弾性体とを、一連のものとすることも可能である。但し、当該弾性層の厚みが薄過ぎると支承装置の回転追従時などに弾性層が損傷する恐れがあるので薄くし過ぎないことが肝要である。
【0080】
弾性体の主たる構成素材となるエラストマとしては、天然ゴムや合成ゴム、熱可塑性エラストマや熱硬化性エラストマを用いることができ、これらの中でも天然ゴムを主成分として使用することが好ましい。具体的なエラストマ成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(臭素化、塩素化等)、アクリルゴム、ポリウレタン、シリコーンゴム、フッ化ゴム、多硫化ゴム、ハイパロン、エチレン酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム、エチレン−メチルアクリレート共重合体、スチレン系エラストマ、ウレタン系エラストマ、ポリオレフィン系エラストマ、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)、エポキシ化天然ゴム、trans−ポリイソプレン、ノルボルネン開環重合体(ポリノルボルネン)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ハイスチレン樹脂、イソプレンゴム等のゴムを1種単独、或いは2種以上を併用することが出来る。
【0081】
また、下沓の外周面と側抱体の内周面とが摺擦面とされて下沓と上沓と側抱体とによって形成される密閉空間が存在する場合には、上記弾性体を当該密閉空間に充満させても良いし、一部に弾性体が設けられていない空間が残るように上記弾性体を当該密閉空間に充填しても良い。そして、密閉空間が形成される場合に限られるものではないが、下沓と上沓との間に弾性体が設けられていない空間が残っている場合には、当該空間(以下、充填空間と称する)に充填材を充填することが出来る。
【0082】
充填材は、上沓と下沓の間の適宜の部位に設定される弾性体の配設されていない空間、即ち充填空間の内部に適宜量充填されるものであり、その充填量は充填空間の容積よりも少量であっても、等量であっても、或いは多量であってもよく、少量の場合には、残存空隙分だけ圧縮乃至変形し得る余地が出来、支承装置の厚みを薄く設定出来、等量とした場合には、残存容積が無く元々の設計通りの支承装置の厚みを実現出来、また多量とした場合には、充填空間の容積が元々の設計値よりも増量して支承装置の厚みを厚く設定することが可能となり、充填材の充填量によって支承装置の厚み若しくは高さを調整し得るようにすることが出来る。
【0083】
充填材は、少なくとも充填時には流体であることが好ましい。勿論、充填後も流体であってもよい。充填時に流体である充填材のうち、例えば、充填時には流体であるが適宜時間が経過した後に固化するものを採用することも可能である。また、一つの空間内に充填される充填材の種類は、一種類であっても或いは複数種類であってもよい。例えば、二液硬化性の流体をそれぞれ適宜量充填して硬化させて適宜の弾性係数を発現する一固体化させてもよく、勿論、予め二液を混合して置いてから充填することも出来る。また、充填材としては、流体の内部に固体や粒体を混入させて支承装置に対する外部入力の減衰性能を改善したり、気体を混入させてバネ定数や弾性を改質或いは調整するようにしてもよい。
【0084】
充填材は、気体、液体、ゲル状体から選択される一つ以上の流体から構成することが可能である。充填材の主成分として気体を採用する場合には、気体は圧縮率が大きいことから高荷重支持には不向きとなるが、比較的低荷重を支持する場合には例えば空気バネのような作用をさせることが可能であり、また加圧状態で充填してもよい。また、不連続気泡のように気泡を内包する流体を充填して置きながら硬化させて、発泡体の如くの充填材とすることも可能である。また例えば、充填材の主成分として液体やスラリー状乃至ゲル状の非硬化性の流体を採用した場合には、充填空間の変形に自在に対応しつつ、荷重を支持することが可能であり、また寒冷地等の低温下においても凍結しない不凍流体を選択することが可能である。
【0085】
充填材には、非圧縮性の流体を採用することが可能であり、充填材として非圧縮性の流体を採用した場合には、充填空間の変形に自在に対応しつつも高荷重を支持することが可能となる。
【0086】
また充填材には、高粘性の流体を採用することも可能であり、液体やスラリー状乃至ゲル状の非硬化性で高粘性の充填材を充填した場合、充填空間を囲繞する弾性体が変形した際には、当該空間内の高粘性の充填材が粘性抵抗によって変形エネルギーを減衰させる効果を期待出来る。勿論、非圧縮性を有し高粘性の流体を採用した場合には、非圧縮性流体を充填材として採用した場合に得られる効果と、高粘性流体を充填材として採用した場合に得られる効果と、両者の効果を得ることが可能となる。
【0087】
或いは、充填材には、上沓と下沓との間に介在させる弾性体と異種又は同種の弾性体を採用することが可能である。勿論、充填材が弾性体となるためには、充填時には流動性を示すものである必要がある。例えば、弾性体が熱可塑性を示すものであれば、これを充填材として使用する場合には、当該弾性体を適宜温度に加熱して流動可能な状態にしておきながら充填する。また例えば弾性体が、熱硬化性を示すものであれば、硬化前の流動可能な状態の時点で充填し、適宜の条件で硬化させる。
【0088】
充填材の充填は、予めの充填であってもよく、或いは製造後に充填してもよい。予め充填材を充填する場合には、充填材の充填は予めの設計通り、また手順通りに製造段階や出荷前に充填することになり、これによれば、製造上高効率化することが出来る。また、後から充填材を充填する場合には、充填材の充填は、出荷後、例えば施工現場において、施工空間の高さ等の大きさに合わせて調整しながら充填することも可能となり、これによれば、従来施工上における微調整が困難であった問題を解消することが出来る。
【0089】
尚、上沓と下沓の間に設定する充填空間は、一つだけであっても複数設定してもよく、また一定の狭い範囲に設定したり、広範な領域に断続的に設定してもよいが、各充填空間を連通路を以て一連とすることにより、充填の容易性を向上させることが可能となる。
【0090】
更に、本実施形態の支承装置は、下沓が上沓から離間する方向に所定以上の力を受けた場合に側抱体の内側領域よりも先に損壊すると共に、損壊による変化が外側に現れる脆弱部を備えている。具体的には、上述のように下沓、上沓及び側抱体のいずれか或いは複数を分割可能に構成している場合には、これらの分割部位同士を締結するボルト/ナットを脆弱部として用いることが出来る。このようなボルト/ナットは、側抱体よりも剪断面積を減少させることによって脆弱部として機能することになる。尚、下沓、上沓及び側抱体の外側領域に露出して形成される肉薄部を脆弱部として用いることも可能である。このような脆弱部を備えることにより、地震等によって大きな荷重が作用した場合に、視認可能な外側に損壊が現れるため、支承装置の損壊の状況を容易に目視にて確認することが可能となる。
【実施例】
【0091】
本発明の支承装置の実施例について添付図面を参照しながら以下に説明する。先ず、本発明の支承装置の第一実施例を図1を参照しながら説明する。
図1に示す支承装置1は、例えば橋梁において、橋桁(図示省略)と橋脚(図示省略)或いは橋台(図示省略)との間に装着して水平荷重や鉛直荷重、回転荷重等の各種の荷重を支えると共に、地震や風、動的或いは静的交通荷重等による揺動や振動、応力を吸収、分散しつつ、支承する橋梁用支承装置である。尚、図1(a)が平面図、(b)が図1(a)のA−A’断面図である。
【0092】
支承装置1は、下沓2と、上沓3と、側抱体4と、ゴム層5とを備えており、ゴム層5を挟んで配置される下沓2と上沓3とが相対変位可能とされている。下沓2は、下部構造物として例えば橋脚を、二点鎖線で示す下部プレート7を介して下面に固定している。上沓3は、上部構造物として例えば橋桁を、二点鎖線で示す上部プレート6を介して上面に固定している。勿論、ここでいう上部プレートや下部プレートは、必須ではなく、上沓と上部プレートを一体的に構成したり、下沓と下部プレートを一体的に構成したりして、上沓や下沓にそれぞれに対応する構成を持たせてもよい。尚、図1(a)において、上部プレート6及び下部プレート7についてはその図示を省略している。
【0093】
下沓2は、略円形の板状部材から成り、図1(b)に示すように単一の仮想球体Kの一部を水平な2つの平面によって切断することによって得られる分割体の形状(以下、球体輪切り形状と称する)に形状設定されている。これによって、下沓2の外周面2aが、仮想球体Kの表面の一部から成っている。
【0094】
尚、本実施例の支承装置1では、上述した仮想球体Kを切断する2つの平面のうち、上方の平面が仮想球体Kの中心O上方に位置し、下方の平面が仮想球体Kの中心Oの下方に位置している。この結果、下沓2の外周面2aには、下側に向く領域が設けられることとなる。
【0095】
上沓3は、下沓2よりも一回り大きな略円板形状を有しており、その縁部に側抱体4が一体的に設けられている。そして、上沓3は、下沓2に対して、ゴム層5を介挿可能な距離だけ離間して配置されている。
【0096】
側抱体4は、上沓3の縁部から下方に突出して設けられると共に下沓2を側方から囲うように環状に形状設定されており、下沓2の外周面2aに沿うと共に当該外周面2aを摺擦面とする内周面4aを有している。そして、側抱体4の内周面4aと下沓2の外周面2aとが摺擦面となることにより、上沓3と下沓2とが相対変位、特に相対的な回転変位が可能となっている。
【0097】
また、側抱体4の内周面4aに囲まれた開口空間の最小内形は、下沓2の最大外形よりも小さく設定されている。これによって、下沓2が側抱体4によって囲まれた空間に収容され、下沓2は、外周面2aが下方から側抱体4に当接されることによって当該側抱体4に下方から支持されている。
【0098】
尚、側抱体4に囲まれた空間に下沓2を収容可能とするために、本実施例において側抱体4は、支承方向に2つに分割可能に構成されている。より詳細には、図1(b)に示すように、2つの分割体4b,4cがフランジ部4dを介して互いに当接すると共にボルト/ナット8によって締結されることによって側抱体4が形成される構成となっている。尚、本実施例においてボルト/ナット8は、支承装置1に対して大きな荷重が作用した場合に、最も先に損壊する部位であり、外側から視認可能な箇所に配置されている。
【0099】
本実施例においては、下沓2の上面、上沓3の下面、及び側抱体4の内周面に囲まれることによって密閉空間が形成されており、ゴム層5は、当該密閉空間に隙間無く充満して設けられている。つまり、ゴム層5は、上沓3と下沓2と側抱体4によって囲繞されて配設されている。
【0100】
ゴム層5は、下沓2に連続し、当該下沓2よりも上方の仮想球体Kの領域を球体輪切り形状に切り出すことによって形成される形状を有しており、中心Oよりも上方にて仮想球体Kを切り出した形状に形状設定されている。このため、ゴム層5の外周面は、下沓2の外周面2aと連続されており、また僅かに上沓3側に向いている。
【0101】
尚、上沓2、下沓3、側抱体4の材質は、適宜の公知の材質を採用することが出来、例えば公知の鋼板等の金属板、セラミックス、強化プラスチックを含むプラスチック等で形成することが出来る。同様に、ゴム層4も天然ゴム等の公知の素材を採用することが出来る。
【0102】
このような本実施例の支承装置1では、下沓2を側方から囲う側抱体4が上沓3に対向し、更に当該側抱体4が上沓3と一体的に配設されている。このため、下沓2の側方への移動を、側抱体4の存在によって抑制することが出来る。つまり、本実施例では下沓2の側方方向が水平方向であるため、側抱体4によって下沓2の水平方向への移動を規制し、また側抱体4によって水平荷重を支持することが出来る。このように本実施例の支承装置1によれば、側抱体4によって水平荷重を支持することが出来るため、下沓2、上沓3及び側抱体4によって囲繞された空間(即ち、ゴム層5が配設される空間)に剪断変形を拘束する芯状の突起を設ける必要がなく、当該芯状の突起によってゴム層5の回転追従が阻害されることがない。
【0103】
更に、本実施例の支承装置1においては、下沓2の外周面2aが単一の仮想球体Kの表面の一部から成り、側抱体4の内周面4aが下沓2の外周面2aに沿っている。このため、下沓2或いは上沓3が鉛直面内において回転運動した場合に、下沓2と側抱体4とが干渉することを防ぎ、ゴム層5の回転追従が阻害されることがない。
【0104】
このように本実施例の支承装置1においては、ゴム層5の回転追従が阻害されることがないため、被支承体の鉛直面内における回転運動に対して十分に回転追従することが可能となる。また、本実施例の支承装置1は、大きくは下沓2と上沓3とゴム層5とによって構成される単純な構成を有しているため設計性が良い。また、このような単純な構成によりコンパクトにすることが出来、施工性や交換性が良好なものとなる。
【0105】
また、下沓2の最大外形が側抱体4の内周面4aによって形成される開口の最小内形よりも大きく設定されている。このため、下沓2と上沓3とが離間する方向に移動しようとした際に、側抱体4によって下沓2が押さえられることになり、下沓2と上沓3とが乖離することが防止される。従って、側抱体4によって、下沓2に対して上沓3が相対的に上揚することを抑止することが出来る。
【0106】
また、本実施例の支承装置1においては、下沓2の外周面2aと側抱体4の内周面4aとが摺擦面とされて下沓2と上沓3と側抱体4とによって形成される密閉空間を有し、ゴム層5が当該密閉空間に隙間無く充満されている。このため、ゴム層5の密閉力が高く、高荷重支持特性を向上させることが出来る。また、下沓2と上沓3との間に雨水等の水分が浸入することを抑制し、下沓2、上沓3及び側抱体4が当該水分によって劣化することを抑制することが出来、耐環境性を向上させることが出来る。
【0107】
また、本実施例の支承装置1においては、ゴム層5が仮想球体Kの中心より上部を切り出した球体輪切り形状を有しているため、ゴム層5の周面が上沓3に向いて配置される。このため、上沓3側から作用する荷重をゴム層5の周面にて受けることが出来、支承方向における荷重支持特性を向上させることが出来る。
【0108】
また、本実施例の支承装置1は、下沓2が前記上沓3から離間する方向、即ち支承方向やこの支承方向に直行する方向に所定以上の力を受けた場合に側抱体4より先に損壊すると共に、損壊による変化が外側に現れる脆弱部としてボルト/ナット8を備えている。このため、外部から視認出来ない側抱体4の内部が損壊することを防止することが出来、損壊の程度を外部から容易に視認することが可能となる。また、側抱体4によって支えられた部材が側抱体4の損壊によって脱落することを防止することが出来る。
【0109】
尚、本実施例において、下沓2に対する側抱体4の引っ掛かり量ΔRは、仮想球体Kの半径をR、側抱体4と当接する領域における下沓2の最大外形位置Pと最小外形位置P’との高低差をΔTとすると、下式(1)によって示される。
【0110】
【数1】

【0111】
例えば、2R=230、即ち曲率半径R=115、高低差厚ΔT=40 とすると、上式より、引っ掛かり量ΔR≒7.2となる。この引っ掛かりが、剪断厚さt=ΔTで2πR分だけ剪断抗力に寄与すると考えられ、すると剪断抗力に寄与する剪断面積Sは、t×2πR=2πRΔTよりS≒28903となり、一方、直径2πr=24のボルトを30本使用して締結したと仮定してもボルトの総断面積はπr×30≒13572であって、ボルト/ナット8よりも圧倒的に大きく、上述のように、上揚力に対する損壊部位は側抱体4ではなく、脆弱点であるボルト/ナット8による締結部位となる。従って、メンテナンス時などに外部からの視認性が得られる。
【0112】
尚、本発明による支承装置は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。以下の変形例について図面を参照して説明する。尚、本発明における支承装置では、以下に説明する変形例が備える特徴を組み合わせて備える構成を採用することも可能である。
【0113】
上記実施例においては、下沓2、上沓3及び側抱体4に囲まれた密閉空間にゴム層5を充満して配置する構成であったが、図2に示すように、当該密閉空間に積極的にゴム層5を配置しない空間10を設ける構成を採用することも出来る。そして、この空間10を充填空間として、当該充填空間に充填材を充填する構成を採用することも出来る。例えば、充填材として、加圧空気を充填する場合には、加圧空気の充填量によってゴム層5のバネ定数を調整出来る。
【0114】
尚、上述のように充填材としては、加圧空気に限られるものではなく、気体、液体、ゲル状体から選択される一つ以上の流体、非圧縮性の流体、高粘性の流体、ゴム層4と異種又は同種の弾性体を用いることができ他、エチレングリコール等の不凍性を有する流体を用いることも可能である。
【0115】
また、空間10内に空気等の気体や充填材等の流体を充填させる場合、空間10を密閉状態に封止しておくことが好ましい。
【0116】
また、上記実施例においては、側抱体4が分割可能とされた構成について説明したが、例えば図3に示す下沓2が分割可能とされた構成や、図4に示す上沓3が分割可能とされた構成を採用することも可能である。尚、下沓2或いは上沓3を分割可能とする場合には、上部プレート6や下部プレート7との接合を考慮し、図3及び図4に示すように水平方向に分割可能な構成を採用することが好ましい。また、これらの構成を採用する場合には、各分割部位同士を締結するボルト/ナット8a,8bが脆弱部として機能することとなる。更に、下沓2を図3に示すように分割構造とした場合には、フランジ部の形成領域において側抱体4を設置することが出来ないため、当該領域を避けて側抱体4を形成する。
【0117】
また、上記実施例においては、ボルト/ナット8が脆弱部として機能する構成について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、図5に示すように、側抱体4に肉薄部11を設け、当該肉薄部11が最も先に損壊する脆弱部として機能するように構成しても良い。尚、図6に示すように肉薄部11を下沓2に設けても良いし、図7に示すように肉薄部11を上沓3に設けても良い。尚、このように側抱体4、下沓2及び上沓3に対して肉薄部11を設ける場合には、これらの肉薄部11が外部から目視可能なように、肉薄部11を側抱体4、下沓2及び上沓3の側面まで到達するように設けることが好ましい。
【0118】
更に、図8に示すように、第一の実施例の支承装置1において、上沓3の上面にすべり板12を摺滑手段として固設することが可能であり、この場合、元々固定支承であった支承装置1を可動支承として利用することが可能となる。すべり板12は、例えばPTFE製とされる。
【0119】
また、図9に示すように、第一の実施例の支承装置1において、下沓2の下面にすべり板12を備える構成を採用することもできる。勿論、すべり板12の設定は第一の実施例の支承装置1に限らず、本発明の主旨を逸脱しない構成の支承装置に対して設定することが可能である。
【0120】
また、図10に示すように、下沓2の外周面と側抱体4の内周面との間に、間隙を設け、この間隙に弾性体によって構成される弾性層13を設けてもよい。この場合、図10に示すように、当該弾性層13と、上沓3と下沓2との間に介挿されるゴム層4とを、一連のものとすることも可能である。この弾性層13の厚みは、支承装置1の回転追従時などに損傷する恐れがなくなる程度に設定されている。図10に示す支承装置1によれば、金属部品同士(下沓2と上沓3)の摺接が無くなり発錆を防ぐことが出来る。
【0121】
尚、上述の説明では、本発明の支承装置として橋梁用支承装置について説明したが、本発明は橋梁用支承装置に限定されることはなく、各種の構造物の制震、免震用の支承装置として採用することが出来る。
【0122】
また、支承装置を上下反転し、下沓2を上沓として、上沓3を下沓として用いることも可能である。
【符号の説明】
【0123】
1 支承装置
2 下沓
2a 外周面
3 上沓
4 側抱体
4a 内周面
5 ゴム層
8 ボルトナット
10 空間
11 肉薄部
K 仮想球体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の仮想球体の表面の一部を外周面とする第一剛性体と、
前記第一剛性体の外周面に沿う内周面を有し、当該外周面に対向して前記第一剛性体を側方から囲う側抱体と、
前記第一剛性体に対向し、前記側抱体と一体的に配設される第二剛性体と、
前記第一剛性体と前記第二剛性体と前記側抱体に囲繞される弾性体と
を備えることを特徴とする支承装置。
【請求項2】
前記第一剛性体の最大外形が、前記側抱体の内周面の開口の最小内形よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の支承装置。
【請求項3】
前記第一剛性体の外周面と前記側抱体の内周面とが摺接面とされて前記第一剛性体と前記第二剛性体と前記側抱体とによって形成される密閉空間を有し、前記弾性体が当該密閉空間に隙間無く充満されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の支承装置。
【請求項4】
前記第一剛性体と前記第二剛性体との間に前記弾性体が設けられていない空間を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の支承装置。
【請求項5】
前記空間には、充填材が充填されていることを特徴とする請求項4に記載の支承装置。
【請求項6】
前記充填材は、前記弾性体と異種の弾性体であることを特徴とする請求項5に記載の支承装置。
【請求項7】
前記充填材は、非圧縮性の流体であることを特徴とする請求項5に記載の支承装置。
【請求項8】
前記充填材は、前記凸部と前記凹部とを嵌合するより前に予め充填されていることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の支承装置。
【請求項9】
前記充填材は、前記凹部と前記凸部とを嵌合した後に充填されることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の支承装置。
【請求項10】
前記弾性体の周面が、前記仮想球体の表面の一部を成し、前記第一剛性体の周面を構成する領域に連続する領域を成すことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の支承装置。
【請求項11】
前記第一剛性体、前記第二剛性体及び前記側抱体のいずれか或いは両方が分割可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の支承装置。
【請求項12】
前記第一剛性体、前記第二剛性体及び前記側抱体のいずれか或いは二者以上の分割方向が、支承方向と同方向であることを特徴とする請求項11に記載の支承装置。
【請求項13】
前記第一剛性体、前記第二剛性体及び前記側抱体のいずれか或いは二者以上の分割方向が、支承方向と異方向であることを特徴とする請求項11に記載の支承装置。
【請求項14】
前記第一剛性体が前記第二剛性体から離間する方向に所定以上の力を受けた場合に前記側抱体より先に損壊すると共に、損壊による変化が外側に現れる脆弱部を備えることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の支承装置。
【請求項15】
前記脆弱部は、前記側抱体よりも剪断面積の少ないボルト/ナットであることを特徴とする請求項14に記載の支承装置。
【請求項16】
前記第一剛性体、前記第二剛性体及び前記側抱体のいずれか或いは両方が分割可能に構成され、分割部位同士を締結するボルト/ナットが前記脆弱部とされていることを特徴とする請求項15に記載の支承装置。
【請求項17】
前記脆弱部は、前記第一剛性体、前記第二剛性体及び前記側抱体のいずれか或いはこれらから選択される二つ以上に対して設けられた肉薄部であることを特徴とする請求項15に記載の支承装置。
【請求項18】
前記弾性体が、前記第一剛性体、前記第二剛性体のいずれか或いは両方に対して接着されていないことを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載の支承装置。
【請求項19】
第一剛性体又は第二剛性体の上面或いは下面に摺滑手段を固設することを特徴とする請求項1乃至18のいずれかに記載の支承装置。
【請求項20】
前記第一剛性体が上部構造物に固定される上沓であり、前記第二剛性体が下部構造物に固定される下沓であることを特徴とする請求項1乃至19のいずれかに記載の支承装置。
【請求項21】
前記第二剛性体が上部構造物に固定される上沓であり、前記第一二剛性体が下部構造物に固定される下沓であることを特徴とする請求項1乃至19のいずれかに記載の支承装置。
【請求項22】
前記上部構造物が橋桁であり、前記下部構造物が橋脚あるいは橋台であることを特徴とする請求項20又は21に記載の支承装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−87865(P2012−87865A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234584(P2010−234584)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(509338994)株式会社IHIインフラシステム (104)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【出願人】(510202167)Next Innovation合同会社 (30)
【Fターム(参考)】