説明

放熱性に優れた塗装金属材およびこれを用いた電子機器部品

【課題】 熱源を内蔵する電子機器(熱源を内蔵する電気機器や光学機器を含む、以下同じ)などを収容する筺体(ケーシング)の素材として有用な放熱性に優れた塗装体を提供し、且つ該塗装体を用いた電子機器部品を提供すること。
【解決手段】 金属基材の片面もしくは両面に、少なくとも1層の樹脂塗膜が形成されている金属塗装体であって、最外層には、表面に開口した1〜1000nmの細孔を有する多孔質粒子が、最外層の表面から少なくとも一部が露出した状態で含まれており、好ましくはその下層側に、放射性添加剤を含む塗膜層が形成された、放熱性に優れた塗装金属材を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放熱性に優れた塗装金属材に関し、特に、熱源を内蔵する電子機器(熱源を内蔵する電気機器や光学機器を含む、以下同じ)を収容する筺体(ケーシング)の素材として有用な放熱性に優れた塗装金属材と、該塗装金属材を保護用の筺体として用いた電子機器部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器などの高性能化・小型化が進むにつれて、電子機器などの内部からの発熱による機器内部温度の上昇が問題となっており、IC、CPU(半導体素子)、ディスク、モータなどの耐熱温度を超えて安定操作に支障をきたす恐れが懸念されている。また電子機器の内部温度が上昇すると、半導体素子が壊れたり故障したりする原因にもなり、電子機器部品の寿命を短縮させる恐れもある。
【0003】
本発明者らはこうした状況に注目し、熱源を内蔵する電子機器部品から発生する熱を外部へ速やかに放散して内部温度の上昇を抑えることのできる筺体素材の開発に着手し、先に特許文献1に記載の技術を開発した。
【0004】
この発明は、基材の表面または表裏面に、放熱性添加剤を配合した放熱性塗膜を形成することにより放熱性を高めた塗装体で、該放熱性塗膜にはカーボンブラック等の放熱性添加剤と共に、Niなどの導電性フィラーを配合して導電性を持たせている。この塗装体は、100℃に加熱したときの赤外線(波長:4.5〜15.4μm)積分放射率が下記(1)式の関係を満たすもので、放熱性と電磁波シールドのための導電性に優れた電子機器(電子レンジ部品を除く)用の塗装体として注目を集めている。
a×b≧0.42……(1)
a:表面に放熱性塗膜が形成された塗装体の赤外線積分放射率
b:裏面に放熱性塗膜が形成された塗装体の赤外線積分放射率
【0005】
この塗装体は、放熱性添加剤を配合した放熱性塗膜を基材の片面もしくは両面に形成することで優れた熱放射特性を発揮することから、熱源による内部温度の上昇が問題となる各種電子機器用の筺体として広範な用途展開が期待されている。しかし、この技術を今後さらに発展させていくには、放熱特性の更なる向上が求められる。
【0006】
また特許文献2には、電池の外側最表面に空気対流を促進する対流促進膜を装着した対流促進膜付きの密閉電池が開示されており、対流促進膜として薄膜状のポリエチレンテレフタレート膜やポリテトラフルオロエチレン膜、ポリプロピレン膜などが挙げられている。
【0007】
しかし、該特許文献2に記載されている薄膜素材を本発明で意図する塗膜素材として使用しても、本発明で期待される様な放熱特性は発揮されない。
【0008】
更に特許文献3には、電子機器部品を収納した密閉構造の筺体と、該筺体内に設けられ、下部に吸気孔と上部に排気孔を有する通風路を備え、筺体内を自然空冷により冷却する構造とした空冷式密閉型電子機器筺体が開示されている。
【0009】
しかしこの技術は、発熱体の周辺構造を工夫することによって外部空気の流れを制御し放熱を促進するものであり、塗膜自体の放熱特性を高める技術とは本質的に異なる。
【特許文献1】特許第3563731号
【特許文献2】特開2001−313009号公報
【特許文献3】特開2001−291982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の様な状況の下でなされたものであり、その目的は、前記特許文献1に開示した様な放熱性塗装体の性能を更に向上させ、塗膜の放熱特性を一段と高めた塗装金属材を提供すると共に、該塗装金属材を用いた有用な電子機器部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決することのできた本発明の塗装金属材は、金属基材の片面もしくは両面に少なくとも1層の塗膜が形成されている塗装金属材であって、最外層には、表面に開口した1〜1000nmの細孔を有する多孔質粒子を、最外層の表面から少なくとも一部が露出した状態で含有せしめてなるところに特徴を有している。
【0012】
本発明の塗装金属材における上記最外層は、厚さ(x)が0.5〜4μmで、多孔質粒子の平均粒径(y)は1〜8μmであり、且つ「x<y」の関係を満たしていることが好ましい。また、該最外層の下面側には放射性添加剤を含む塗膜層が形成されており、該塗装金属体を100℃に加熱したときの赤外線(波長4.5〜15.4μm)の積分放射率が0.6以上を示すものは、一段と優れた放熱特性を有するので好ましく、また該塗膜にNiなどの導電性フィラーを配合して表面抵抗を100Ω以下に低減したものは、電磁波シールド効果も発揮するので好ましい。そして、こうした特性を備えた本発明の塗装金属体は、特に、熱源を有する電子機器の筺体用として極めて有効に活用できる。
【0013】
また、本発明の電子機器部品は、熱源を内蔵する電子機器部品であって、該電子機器部品の外壁の少なくとも一部を、前掲の塗装金属体で構成し、優れた放熱特性を与えたものであるところに特徴を有している。
【発明の効果】
【0014】
本発明の塗装金属材は、上記の様に塗膜の最外層に、表面に開口した1〜1000nmの細孔を有する多孔質粒子を、該多孔質粒子の少なくとも一部が最外層の表面から露出し細孔が開口した状態で含有せしめ、該多孔質粒子によって与えられる対流による外気への熱伝達促進作用を有効に活用して優れた放熱特性を発揮させるもので、発熱により内部温度の上昇を起こす様々の電子機器を保護する筺体用の素材として極めて有効に活用できる。
【0015】
特に、塗膜の最外層に上記多孔質粒子を配合すると共に、その下層側に放熱性添加剤を配合した塗膜を形成したものは、最外層の対流による熱伝達促進作用と下層皮膜の熱放射特性が相俟って格段に優れた放熱特性を発揮し、更には上記塗膜の少なくとも1方に導電性フィラーを配合して塗膜の電気抵抗を100Ω以下に低減したものは、導電性が良好で電磁波シールド効果においても優れた性能を有するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
電子機器などの内部発熱部品から発生する熱は、熱伝導、対流、熱放射などによって当該機器を保護する筺体(ケーシング)に伝達される。従って、この熱を筺体内で蓄積させることなく速やかに大気へ放散させることができれば、筺体の内部温度が過度に高まることもなく、電子機器の内部機能を安全に保つことができる。
【0017】
そこで前掲の特許文献1では、筺体の構成素材を放熱性塗膜で被覆した板材で筺体を構成することにより、機器内部で生じる熱を外気へ放散させ、電子機器の内部温度の上昇を抑えている。こうした放熱性塗膜は、先に説明した如くカーボンブラック等の放熱性添加剤を配合することによって放熱性を高めたもので、該塗膜に導電性フィラーを配合して導電性を与えると、電磁波シールド効果も付与できることを明らかにしている。
【0018】
これに対し本発明では、こうした放熱性添加剤の使用を排除するわけではないが、放熱作用の主体を、塗膜の最外層に含有させる、表面に開口した1〜1000nmの細孔を有する多孔質粒子によって発揮させるところに特徴を有している。即ち、表面に開口した所定サイズの細孔を有する多孔質粒子を、その一部が塗膜最外層の表面から露出した状態で含有させると、該多孔質粒子の露出した細孔が外気に対し対流による優れた熱伝達作用を発揮し、放熱特性を更に高めることが確認されたのである。
【0019】
この様に、多孔質粒子の表面に開口した所定サイズの細孔が特異な放熱特性を発揮する理由は、現在のところ明らかにされていない。しかし後述する実施例でも明らかにする如く、開口した細孔の平均径が1nm未満の微細なものでは殆ど放熱特性が改善されず、また、細孔が表面に開口していない閉気孔である場合も、本発明で意図する放熱特性が発現されないこと等から考えると、平均径で1nm以上の開口された細孔が放熱特性に少なからぬ影響を及ぼしていることは明白である。
【0020】
しかも上記多孔質粒子は、その少なくとも一部が塗膜最外層の表面から露出しており、開口した上記細孔が外表面に開口状態で存在していることが重要であり、その為には、最外層を構成する塗膜の膜厚(x)と上記多孔質粒子の平均粒径(y)が「x<y」の関係を満たす様に調整するのが最も簡便な方法である。即ち、多孔質粒子の平均粒径(y)と膜厚(x)が上記関係を満足するということは、多孔質粒子の少なくとも一部が最外層塗膜の表面から露出することを意味している。そのため、該露出した多孔質粒子の表面に存在する開口した細孔が、対流による外部雰囲気方向への熱伝達を促進し、放熱特性がより効果的に高められるのである。
【0021】
但し、膜厚(x)に対して多孔質粒子の平均粒径(y)が大き過ぎると、多孔質粒子が最外層の表面から大きく突出し、該突出した多孔質粒子が小さな摩擦力で最外層から脱落し易くなるので、好ましくは、多孔質粒子の平均粒径(y)を膜厚(x)の3/2〜2倍程度、即ち「(3/2)・x≦y≦2x」とし、多孔質粒子の1/3〜1/2程度が最外層の上面から露出する様に、膜厚と多孔質粒子の平均粒径を調整することが望ましい。但し、多孔質粒子の粒度分布が狭い場合は、更に高い割合の粒子を最外層の表面に露出させることができる。
【0022】
なお、該多孔質粒子の表面に開口した細孔のサイズは、外気方向への対流による熱伝達効率を高める上で極めて重要であり、本発明者らが実験で確認したところによると、そのサイズは少なくとも1nm以上でなければならないことが確認された。その理由は現在のところ明確にされていないが、1nm未満の微細な孔では、本発明で意図する放熱促進効果は発揮されないことを確かめている。実験によって確認しているより好ましい細孔の平均径は5nm以上、より好ましくは10nm以上である。
【0023】
細孔平均径の上限は特に存在しないが、本発明では該細孔を有する粒状の多孔質粒子を最外層塗膜中に混入させてその機能を発揮させるものであり、最外層の膜厚(x)は後述する如く0.5〜4μm程度が好ましく、また該膜厚(x)との関係で多孔質粒子の平均粒径(y)は1〜8μmの範囲が好ましいことを考慮すると、細孔が大き過ぎると多孔質粒子が脆弱となり圧壊し易くなるので、こうした問題を回避するための細孔径の上限は1000nm程度と考えられる。より好ましい細孔径の上限は500nm、更に好ましくは200nm程度である。
【0024】
なお、上記多孔質粒子の細孔径は、ユアサイオニクス社製の商品名「AUTOSORBI」を用いて窒素ガス吸着法によって測定し、また、多孔質粒子の平均粒径はLeed & Northrup社製の商品名「マイクロトラック9220FRA」を用いて測定した値である。
【0025】
なお上記最外層の好ましい膜厚を0.5〜4μmの範囲に定めたのは、該膜厚が余りに薄すぎると、最外層に必要量の多孔質粒子を保持することができないため、満足のいく放熱特性が得られ難くなり、逆に膜厚が4μmを超えて厚くなり過ぎると、該最外層を構成するビヒクル樹脂層により却って放熱が阻害される恐れが生じてくるからである。多孔質粒子の保持性や放熱性を考慮して最外層のより好ましい膜厚は、1μm以上、3μm以下である。
【0026】
なお本発明では、上記の様に塗膜最外層の表面から露出した多孔質粒子の開口した細孔による対流熱伝達の促進作用を活用して放熱特性を高めるものであるから、最外層表面に露出した多孔質粒子表面の細孔は開口状態に保たれていることが必要であり、その為には、該多孔質粒子含有層を形成する際の塗布液として、ヒビクル樹脂成分が揮発性溶剤で十分に希釈された固形分濃度の低い塗布液を使用するのがよい。
【0027】
即ち固形分濃度の高い塗布液を使用すると、塗膜最外層に塗布液を塗布乾燥して最外層塗膜を形成する際に、多孔質粒子の細孔内部まで侵入した樹脂がそのまま乾燥固化して細孔を塞いでしまう恐れがあるが、固形分濃度の低い塗布液を使用すると、乾燥固化後に残存する樹脂量が少ないため、細孔内壁面に樹脂膜を形成する程度で細孔を塞いでしまうような恐れがないからである。
【0028】
従って最外層塗膜を形成する際には、多孔質粒子を除いた樹脂固形分の濃度で10質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下、更に好ましくは5質量%程度以下の低濃度の塗布液を使用するのがよい。こうした低濃度の塗布液を使用することは、相対的に薄肉である0.5〜4μmレベルの膜厚の最外層を形成する上でも有利である。塗布液濃度の下限は特に存在しないが、塗布液中の多孔質粒子の分離安定性や塗装作業性などを考慮すると、多孔質粒子を除いた樹脂固形分の濃度で1質量%程度以上、より好ましくは2質量%程度以上である。
【0029】
本発明では、上記の様に塗膜の最外層に、開口した所定サイズの細孔を有する多孔質粒子を混入させ、塗膜表面から外気方向への対流による熱伝達を加速することによって放熱特性を高めたところに特徴を有しており、こうした作用のみを活用して放熱性を高めることも勿論可能であるが、こうした特性を、前掲の特許文献1に示した放熱性向上技術と組み合わせて発揮させることは極めて有効である。
【0030】
即ち、上記多孔質粒子を含む最外層の下層側に、前掲の特許文献1に開示されている様な放射性添加剤を含む下層塗膜を形成し、該下層塗膜による熱放射特性を利用して放熱特性を更に高めることも有効である。具体的には、放射性添加剤を配合することで放熱特性を高めた下層塗膜を形成することで、該塗装金属板を100℃に加熱したときの赤外線(波長4.5〜15.4μm)の積分放射率を0.6以上に高めてやれば、多孔質粒子を配合することで対流熱伝達性能の高められた最外層塗膜の存在とも相俟って、放熱特性は一段と向上する。
【0031】
なお、上記「赤外線の積分放射率」とは、赤外線(熱エネルギー)の放出し易さ(吸収し易さ)を意味する。従って、上記赤外線放射率が高い程、塗膜から放出される熱エネルギー量は大きくなる。例えば物体(本発明の場合は塗装金属材)に与えられる熱エネルギーの100%が放射される場合には、当該赤外線積分放射率は1となる。
【0032】
なお本発明では、上記の様に100℃に加熱したときの赤外線積分放射率を定めているが、これは、本発明の塗装金属材が通常の電子機器(用途によっても相違するが、通常の使用雰囲気温度は概ね50〜70℃で、最高で約100℃)に適用されることを考慮し、当該実用雰囲気温度と一致させるため、加熱温度を100℃に定めた。但し本発明者らの実験によると、200℃に加熱したときの赤外線積分放射率は、100℃の赤外線積分放射率に比べて僅か0.02(即ち、2%)程度高くなるだけで、概略同一となることを確認している。
【0033】
本発明で採用される赤外線積分放射率の測定法は、前掲の特許文献1でも明らかにしているが、再掲すると下記の通りである。
装置:日本電子社製の「JIR−5500型フーリエ変換赤外分光光度計」及び放射測定ユニット「IRR−200」
測定波長範囲:4.5〜15.4μm
測定温度:供試材の加熱温度を100℃に設定
積算回数:200回
分解能 :16cm−1
【0034】
上記装置を使用し、赤外線波長域(4.5〜15.4μm)における供試材の分光放射強度(実測値)を測定する。この実測値は、バックグラウンドの放射強度と装置関数が加算/付加された数値として測定されるので、これらを補正するため、放射率測定プログラム[日本電子社製の放射率測定プログラム]を用いて積分放射率を算出する。算出法の詳細は次の通りである。
【0035】
【数1】

【0036】
式中、ε(λ)は波長λにおける供試材の分光放射率(%)、E(T)は温度T(℃)における供試材の積分放射率(%)、M(λ,T)は波長λ、温度T(℃)における供試材の分光放射強度(実測値)、A(λ)は装置関数、KFB(λ)は波長λにおける固定バックグラウンド(供試材によって変化しないバックグラウンド)の分光放射強度、KTB(λ,TTB)は波長λ、温度TTB(℃)におけるトラップ黒体の分光放射強度、K(λ,T)は波長λ、温度T(℃)における黒体の分光放射強度(プランクの理論式からの計算値)、λ,λは積分する波長の範囲、をそれぞれ意味している。
【0037】
ここで、上記A(λ:装置関数)、及び上記KFB(λ:固定バックグラウンドの分光放射強度)は、2つの黒体炉(80℃、160℃)の分光放射強度の実測値と、当該温度域における黒体の分光放射強度(プランクの理論式からの計算値)に基づき、下記式によって算出したものである。
【0038】
【数2】

【0039】
式中、M160℃(λ,160℃)は、波長λにおける160℃の黒体炉の分光放射強度(実測値)、M80℃(λ,80℃)は、波長λにおける80℃の黒体炉の分光放射強度(実測値)、K160℃(λ,160℃)は、波長λにおける160℃の黒体炉の分光放射強度(プランクの理論式からの計算値)、K80℃(λ,80℃)は、波長λにおける80℃の黒体炉の分光放射強度(プランクの理論式からの計算値)、をそれぞれ意味する。
【0040】
尚、積分放射率E(T=100℃)の算出に当たり、KTB(λ,TTB)を考慮しているのは、測定に際し、供試材の周囲に水冷したトラップ黒体を配置している為である。該トラップ黒体の設置により、変動バックグランド放射(供試材によって変化するバックグラウンド放射を意味する。供試材の周囲からの放射が供試材表面で反射される為、供試材の分光放射強度の実測値は、このバックグランド放射が加算された数値として表れる)の分光放射強度を低くコントロールすることができる。上記トラップ黒体としては、放射率0.96の疑似黒体を使用しており、前記KTB[(λ,TTB):波長λ、温度TTB(℃)におけるトラップ黒体の分光放射強度]は、以下の様にして算出する。
TB(λ,TTB)=0.96×K(λ,TTB
式中、K(λ,TTB)は、波長λ、温度TTB(℃)における黒体の分光放射強度を意味する。
【0041】
放射性添加剤を含む下層塗膜が形成された塗装金属材は、この様にして測定した赤外線(波長4.5〜15.4μm)の積分放射率[上記E(T=100℃)]であって、該放熱性塗膜が形成された塗装金属材の赤外線積分放射率(a)が少なくとも0.6以上であることが望ましい。また、裏面にも同様の放熱性塗膜が形成されている塗装金属材の場合は、表裏面側の赤外線積分放射率(a),(b)の積(a×b)で0.6以上を満足するものが好ましい。
【0042】
即ち、塗装金属材から放出される赤外線積分放射率は、塗装金属材自体の放熱効果を示す指標として有用であり、この値が「0.6以上」を示すものは、上記赤外線波長域で平均して高い放射特性を発揮することから、本発明では好ましい積分放射率として上記値を定めている。より好ましくは0.64以上、更に好ましくは0.72以上である。
【0043】
なお本発明を実施する際には、筺体の外面側となる片面側の赤外線放射率が大きいものほど好ましく、該片面側の積分放射率で0.6以上、より好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.8以上である塗装金属材は、本発明における最も好ましい実施態様として推奨される。
【0044】
なお上記赤外線積分放射率は、多孔質粒子を配合した最外層塗膜の構成には殆ど影響を受けることがなく、放射性添加剤を含む下層塗膜の構成によってほぼ一義的に決まってくる。従って、該下層塗膜と最外層塗膜を複合した本発明の好ましい態様では、該下層塗膜の上記積分放射率と最外層塗膜の対流熱伝達による放熱効果が総合された放熱特性を発揮することになる。
【0045】
下層塗膜中に配合される放射性添加剤として最も好ましいのはカーボンブラックであるが、その他、Co,Ni,Cu,Mn,Ag,Snなどの酸化物、硫化物、カーバイドなど、更にはTiO、セラミックス、酸化鉄、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化ケイ素などを使用することもできる。これら放射性添加剤の好ましい配合量は、下層塗膜中に占める固形分比率で1質量%以上、より好ましくは2質量%以上である。
【0046】
放射性添加剤としてカーボンブラックを使用する場合の好ましいサイズは、平均粒径で5nm以上、100nm以下である。平均粒径が5nm未満では、所望の放熱特性が得られ難いばかりか、塗料の安定性が低下して塗装外観が悪くなる傾向があり、一方、平均粒径が100nmを超えて大き過ぎても放熱特性が低下し、且つ塗膜外観も不均一になる傾向があるからである。好ましくは10nm以上、90nm以下;より好ましくは15nm以上、80nm以下である。尚、放熱特性に加え、塗料安定性、塗装後外観の均一性等を総合的に勘案すると、カーボンブラックの最適平均粒径は概ね20〜40nmの範囲である。
【0047】
前述した最外層塗膜および上記下層塗膜のビヒクル成分として使用される樹脂(放熱塗膜を形成するベース樹脂)の種類は、放熱特性の観点からは特に限定されず、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、およびそれらのブレンド物や変性樹脂などを適宜使用できる。但し、本発明の塗装金属材は電子機器の筺体として使用されるため、放熱特性に加えて、耐食性や加工性なども要求されることが多いので、上記ベース樹脂としては、非親水性樹脂[具体的には、水との接触角が30°以上(より好ましくは50°以上、更に好ましくは70°以上)を満足するもの]を使用するのがよい。この様な非親水性樹脂は、混合度合いや変性度合い等にもよるが、例えばポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、およびそれらのブレンド物または変性樹脂が好ましく、中でも特に好ましいのは、ポリエステル系樹脂やその変性樹脂(エポキシ変性ポリエステル系樹脂、フェノール誘導体を骨格に導入したポリエステル系樹脂等の熱硬化性ポリエステル系樹脂または不飽和ポリエステル系樹脂)である。
【0048】
これらの樹脂には、必要により例えばメラミン系化合物やイソシアネート系化合物などの架橋剤を添加することができる。
【0049】
また、上記最外層塗膜や下層塗膜には、本発明の作用を損なわない範囲で、その他の添加剤、例えば防錆顔料や帯電防止剤、耐候性改善剤などを添加してもよい。他の添加剤の中でも、好ましくは下層塗膜側に配合することによって優れた性能を与える添加剤として導電性フィラーが挙げられる。
【0050】
即ち本発明が適用される電子機器部品は、放熱の問題の他、外部への電磁波障害を招くこともあるので、それら電子機器用の筺体として用いる本発明の塗装金属材は電磁波シールド性を有するものであることが望ましく、その為には、最外層塗膜や下層塗膜の一方もしくは両方(好ましくは下層塗料中)に導電性フィラーを配合することによって導電性を与え、電磁波シールド性能を付与することが推奨される。
【0051】
こうした目的で使用される導電性フィラーとしては、Ag、Zn、Fe、Ni、Cu等の金属単体や、FeP等の金属化合物が挙げられる。中でも特に好ましいのはNiである。その形状は特に限定されないが、より少ない配合量で優れた導電性を与えるには、鱗片状のものを使用するのがよい。導電性フィラーの配合量は、使用するベース樹脂の種類や、必要に応じて添加される架橋剤や放熱性添加剤その他の添加剤なども含めて、塗膜を構成する全ての成分中に占める比率(固形分換算)で5〜50質量%の範囲とするのがよい。5%未満では所望の導電性付与効果が得られないので、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上配合するのがよい。但し、導電性フィラーの量が50質量%を超えると、塗膜の加工性が低下する。特に、塗装金属板として高度の曲げ加工性が要求される部位に適用する場合は、優れた加工性を保つため40質量%以下、より好ましくは35質量%以下に抑えるのがよい。
【0052】
導電性の指標としては、電気抵抗で100Ω以下を基準とすればよく、より好ましくは10Ω以下である。ここで、電気抵抗は次の様な方法で測定できる。
【0053】
導電性測定装置として三菱化学製「ロレスタEP」、プローブは三菱化学製2探針プローブ(MCP−TP01)を使用し、測定に当たっては、プローブの探針と測定サンプルとの間に、厚さ0.8mm、大きさ20mm角の銅板を、銅板同士が接触しない様に2枚置いて供試材の抵抗(Ω)を測定する。
【0054】
また、基材として金属を使用する本発明においては、上記以外の添加剤として防錆剤を配合することも有効である。その具体例としては、シリカ系化合物、リン酸塩系化合物、亜リン酸塩系化合物、ポリリン酸塩系化合物、イオウ系有機化合物、ベンゾトリアゾール、タンニン酸、モリブデン酸塩系化合物、タングステン酸塩系化合物、バナジウム系化合物、シランカップリング剤等が挙げられ、これらを単独で若しくは併用することができる。特に好ましいのは、シリカ系化合物(例えばカルシウムイオン交換シリカ等)と、リン酸塩系化合物、亜リン酸塩系化合物、ポリリン酸塩系化合物(例えばトリポリリン酸アルミニウム等)との併用であり、シリカ系化合物:(リン酸塩系化合物、亜リン酸塩系化合物、またはポリリン酸塩系化合物)を、質量比率で0.5〜9.5:9.5〜0.5(より好ましくは1:9〜9:1)の範囲で併用することが推奨される。この様な範囲に制御することにより、優れた耐食性と加工性を兼ね備えた塗膜を得ることができる。
【0055】
以上、本発明の塗装体を特徴付ける塗膜について詳述したが、本発明の最重要ポイントは、塗膜、それも最外層塗膜、或いはこれと下層塗膜の構成を特定したところにあり、塗膜が形成される金属基材の種類は特に限定されない。従って本発明に用いられる金属基材としては、最も代表的な鋼板、具体的には冷延鋼板、熱延鋼板、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、Al−Znめっき鋼板、Al等の各種めっき鋼板、ステンレス鋼板等の鋼板類や、非鉄金属板等を全て適用することができ、更には、金属板以外の基材、具体的には管材、線材、棒材、異形材などが全て使用できる。
【0056】
尚、上記の金属材は、耐食性や塗膜の密着性向上などを目的として、クロメート処理やリン酸塩処理などの表面処理が施されたものでもよく、更には、環境汚染等を考慮して、ノンクロメート処理した金属材を使用してもよく、いずれの態様も本発明の技術的範囲に包含される。
【0057】
本発明の塗装体は、前述した様な成分を含む塗料を、公知の塗装法で基材の表面に塗布して乾燥し、或いは加熱焼付け処理することによって製造することができる。塗装方法は特に限定されないが、例えば表面を清浄化して、必要に応じて塗装前処理(例えばリン酸塩処理、クロメート処理など)を施した基材の表面に、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法などを用いて塗料を塗工し、熱風乾燥炉を通過させて乾燥し、或いは焼付け硬化させる方法などが挙げられる。
【0058】
最外層塗膜の下に下層塗膜を設けた多層構造の塗膜を形成する場合は、上述した様な方法で下層塗膜を形成した後、該下層塗膜が乾燥固化した後に最外層塗膜を形成するのがよい。ちなみに、下層塗膜と最外層塗膜を順次塗布したのち乾燥固化を同時に行なおうとすると、下層塗膜材と最外層塗膜材の相互拡散や混合が起こり、本発明で意図する様な最外層塗膜が得られ難くなるからである。
【0059】
かくして得られる本発明の塗装体は、最外層に前掲の多孔質粒子を含む薄肉の表皮塗膜が形成されて優れた対流熱伝導作用を有し、好ましくは更に、その下層側に放射性添加剤を含む下層塗膜を形成することで優れた放熱特性を有し、或いは更に、好ましくは下層側に導電性フィラーを配合して導電性塗膜とすることで電磁波シールド性を与えることができ、電子機器を保護収納するための筺体用素材として極めて有効に活用できる。
【0060】
また本発明の特徴が効果的に発揮される電子機器部品には、閉じられた空間に発熱体を内蔵する電子機器部品であって、該電子機器部品の外壁の全部または一部を上記塗装金属材で構成した電子機器部品も包含される。
【0061】
その様な電子機器部品としては、CD、LD、DVD、CD−ROM、CD−RAM、PDP、LCD等の情報記録製品;パソコン、カーナビ、カーAV等の電気・電子・通信関連製品;プロジェクター、テレビ、ビデオ、ゲーム機等のAV機器;コピー機、プリンター等の複写機;エアコン室外機等の電源ボックスカバー、制御ボックスカバー、自動販売機、冷蔵庫などが具体例として例示される。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
実施例
クロメート処理を施した電気亜鉛めっき鋼板(板厚;0.8mm、Cr付着量;20mg/mを原板として使用し、その片面に下記表1に示す添加剤を配合した塗料(ベース樹脂としてポリエステル系樹脂を使用し、架橋剤としてメラミン樹脂を用いたもの)を塗布した後、焼付け及び乾燥を行なって下層塗膜を形成した。
【0064】
次いでその上に、表1に示す微粒子を配合したポリエステル系樹脂塗料を塗布してから焼付け・乾燥することにより最外層塗膜を形成した。このポリエステル系樹脂塗料において、塗料中の樹脂固形分を50質量%としたもの、及び7.5質量%としたものの各々に、表面が開口した口径;約20nmの細孔を多数有する多孔質シリカ(水澤化学社製の商品名「Mizukasil P−707」)、または、表面が開口した口径;約0.3nmの細孔を多数有するゼオライト(日本化学社製の商品名「ゼオスターKA−100P」)を、乾燥塗膜中に占める比率で10質量%となる様に配合した。
【0065】
得られた各塗装金属板について、下記の方法で対流による熱伝達性を評価すると共に、100℃に加熱したときの赤外線(波長4.5〜15.4μm)積分放射率を調べた。
【0066】
「対流熱伝達性評価法」
各供試鋼板の対流・熱伝達性能を評価するため、下記の原理で、同一方向に均一な速度で加熱した供試鋼板の代表温度を計測し、供試鋼板間で相対評価を行なった。
【0067】
原理:
図1に示す如く、同じ寸法の供試鋼板A,Bの片面側を同じ熱量(Q0)で加熱し、反対面に同一温度T0で同一流速(V1)に設定した空気を流す。供試鋼板Aの熱通過性能が供試鋼板Bよりも優れておれば、供試鋼板Aの表面温度TAと供試鋼板Bの表面温度TBの間には「TA<TB」の関係が成立する。図中、ha,hbは供試鋼板A,Bの熱伝達係数、A0は供試鋼板A,Bのマクロ的表面積(即ち、表面に露出した多孔質粒子の細孔面積は無視した表面積で、実験では等しいサイズの供試板を用いたので同じ値である)を表わす。
【0068】
なお上記熱通過性能は、放射伝熱量と対流熱伝達量により決まってくるが、供試鋼板の放射率(ε0)と空気温度(T0)が明らかになれば、放射伝熱量(Q2)は下記式によって求めることができるので、残りの対流熱伝達量(Q1)は「Q1=Q0−Q2」として求めることができ、対流熱伝達性の向上の良否を判断できる。
Q2=5.67×ε0×A0×{[(TA+273)/100]−[(T0+273)/100]}
【0069】
【表1】

【0070】
上記表1から次の様に考えることができる。
【0071】
符号1は、何らの塗膜も形成されていない電気亜鉛めっき鋼板をそのまま用いたブランク材である。符号2は、前記特許文献1として示した先願発明に係る放射性添加物を含む下層皮膜のみからなる塗装金属板であり、高い熱放射率を有すると共に放熱性も良好で、ブランク材に較べて6.3℃もの降温(放熱)効果が得られている。
【0072】
符号3は、熱放射性の下層塗膜を形成すると共にその上に本発明の規定要件を満たす最外層塗膜を形成した本発明の実施例であり、符号2の従来材に比べて更に1.3℃の放熱効果が得られている。
【0073】
符号4は、符号3に対し最外層塗膜を形成するための塗料として樹脂固形分濃度の高いものを使用した例であり、多孔質粒子の細孔が樹脂で塞がれてしまったためか、最外層塗膜を形成した効果が全く発揮されていない。また符号5,6は、多孔質粒子として、細孔を有しているが平均細孔径が本発明で規定するサイズに達していない微細細孔のゼオライトを用いたものであり、放熱性は下層塗膜のみを設けた符号2よりも悪くなっている。これは、ゼオライトに対流熱伝達による放熱効果がないばかりか、下層塗膜の熱放射が該ゼオライトを含む最外層塗膜によって阻害されたためと考えている。
【0074】
なお熱放射率は専ら下層塗膜に依存しており、下層塗膜の構成が同一である符号2〜6の熱放射率は、最外層塗膜の如何を問わず一定の値を示している。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】塗装金属板の放射伝熱量(Q2)と対流熱伝達量(Q1)の算出法を示す原理説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の片面もしくは両面に、少なくとも1層の塗膜が形成されている塗装金属材であって、最外層には、表面に開口した1〜1000nmの細孔を有する多孔質粒子が、表層側に少なくとも一部が露出した状態で含まれていることを特徴とする放熱性に優れた塗装金属材。
【請求項2】
前記最外層の層厚(x)が0.5〜4μm、前記多孔質粒子の平均粒径(y)が1〜8μmであり、「x<y」の関係を満たすものである請求項1に記載の塗装金属材。
【請求項3】
前記最外層の下側に放射性添加剤を含む塗膜層が形成されており、塗装金属材を100℃に加熱したときの赤外線(波長4.5〜15.4μm)の積分放射率が0.6以上である請求項1または2に記載の塗装金属材。
【請求項4】
表面抵抗が100Ω以下である請求項1〜3のいずれかに記載の塗装金属材。
【請求項5】
熱源を有する電子機器の筺体用として使用されるものである請求項1〜4のいずれかに記載の塗装金属材。
【請求項6】
熱源を内蔵する電子機器部品であって、該電子機器部品の外壁の少なくとも一部が、前記請求項1〜5のいずれかに記載の塗装金属材で構成されていることを特徴とする電子機器部品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−281514(P2006−281514A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102100(P2005−102100)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】