説明

斜板式可変容量型圧縮機

【課題】駆動軸に対して揺動可能に設けられる斜板のハンチングを抑制可能な斜板式可変容量型圧縮機を得る。
【解決手段】斜板8の傾斜方向を変更させる外力を作用させる外力発生手段22と、斜板8のハンチングを検知するハンチング検知手段23と、このハンチング検知手段23のハンチング検知情報に基づいて外力発生手段22の駆動を制御する制御部24とを設け、外力発生手段22は、斜板8の揺動用孔8aの内面に配置され、駆動軸5の凹部5aに挿入された抵抗体34と、この抵抗体34と駆動軸5の凹部5aの面に介在された転動体35と、抵抗体34に連結されるととも駆動軸5の内部を貫通し、電磁弁31の電磁力によって軸方向に移動する電磁弁軸32とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置等の冷凍サイクルにおいて冷媒ガスの圧縮に用いられる斜板式可変容量型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来技術として、特許文献1に開示された斜板式可変容量型圧縮機がある。
【0003】
この従来の斜板式可変容量型圧縮機は、図5に示すように、複数のシリンダボア1を有する略円柱状のシリンダブロック2、およびこのシリンダブロック2の前端面に接合され、内部にクランク室3を形成するフロントハウジング4を有し、このフロントハウジング4のクランク室3内に、駆動軸5により駆動されるロータ6と、駆動軸5に対して揺動可能に設けられ、ヒンジ機構7を介してロータ6と連結される斜板8と、この斜板8に相対回転可能に設けられ、シリンダボア1内を往復動する複数のピストン9がロッド10を介して連結される駆動板11とを備えている。シリンダブロック2の後端側には、吸入室12および吐出室13を形成するリアハウジング14が弁体15を介して接合されている。斜板8は、駆動軸5が挿通される揺動用孔8aを有し、略円環状に形成されている。
【0004】
上記構成では、斜板8および駆動板11の傾斜角が、ピストン9に対してクランク室3側から作用する圧力とその反対側から作用する圧力(冷媒の吸入圧力)とがバランスする位置に保たれる。そして、クランク室3内の圧力を調整することにより、斜板8がヒンジ機構7の案内で駆動軸5上をスライドしながら斜板8および駆動板11の傾斜角が変わるので、ピストン9のストローク量が変更され、その結果、シリンダブロック2から吐出される冷媒の吐出量が増減する。
【特許文献1】特開2007−192085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されている従来技術では、ピストン9にクランク室3側からあるいは反対側から作用する圧力が増減することによって、斜板8が揺動して斜板8のハンチングが発生しやすく、その結果、圧縮機の稼動トルクが変動するので、駆動源(エンジン)に掛かる負荷トルクが不安定となるという問題があった。
【0006】
特に、ロータ6と斜板8がボール16および長孔溝17で連結され、この連結部にてころがり抵抗のみが生じて斜板8の揺動時の摺動抵抗が小さい場合、上記ピストン9に作用する圧力変動に対する斜板8の応答性が向上する一方、クランク室3内の比較的小さな圧力変動により斜板8が揺動するため、上記のハンチングが発生する傾向が顕著であった。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術を考慮してなされたもので、その目的は、駆動軸に対して揺動可能に設けられる斜板のハンチングを抑制することができる斜板式可変容量型圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、複数のシリンダボアを有する略円柱状のシリンダブロック、およびこのシリンダブロックの前端面に接合され、該シリンダブロックとの間にクランク室を形成するフロントハウジングを有し、このフロントハウジングのクランク室内に、駆動軸により駆動されるロータと、前記駆動軸に対して揺動可能に設けられ、前記ロータと連結される斜板と、この斜板に相対回転可能に設けられ、前記シリンダボア内を往復動する複数のピストンが連結される駆動板とを備え、前記斜板の傾斜角を変えることにより、前記ピストンのストローク量を変更する斜板式可変容量型圧縮機において、前記斜板の傾斜方向を変更させる外力を作用させる外力発生手段と、前記斜板のハンチングを検知するハンチング検知手段と、このハンチング検知手段のハンチング検知情報に基づいて前記外力発生手段の駆動を制御する制御部とを設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1記載の斜板式可変容量型圧縮機であって、前記外力発生手段は、前記斜板の揺動用孔の内面に配置され、且つ、前記駆動軸の凹部に挿入された抵抗体と、この抵抗体と前記駆動軸の凹部の面に介在された転動体と、前記抵抗体に連結されるととも前記駆動軸の内部を貫通し、電磁力発生部の電磁力によって軸方向に移動する電磁弁軸とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、何らかの原因で斜板のハンチングが発生し、これをハンチング検知手段が検知すると、制御部によりハンチング検知手段のハンチング検知情報に基づいて外力発生手段の駆動を制御するとともに、外力発生手段により斜板の傾斜方向を変更させる外力が作用するので、斜板のハンチングを抑制することができる。これにより、圧縮機の稼動トルク変動を少なくすることができるので、駆動源に掛かる負荷トルクを安定させることができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、抵抗体が転動体を介して駆動軸の凹部の面に当接するとともに、抵抗体が斜板に対して常に接触して斜板と駆動軸との調芯を行なうことにより、斜板と駆動軸間のクリアランスを吸収するので、斜板の最小傾斜時などに外部から大きな振動が加わった場合であっても、斜板ががたついて他の部材と衝突することを防止でき、騒音や振動の発生、および衝突部位の摩耗を抑制できる。また、抵抗体が転動体を介して駆動軸の凹部の面に当接しているので、斜板は駆動軸に対して揺動可能であり、斜板の傾斜角を円滑に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る斜板式可変容量型圧縮機を図に基づいて説明する。
【0013】
図1〜図4は本発明の一実施形態を示し、図1は斜板式可変容量型圧縮機を示す図、図2は外力発生手段を示す分解斜視図、図3は外力発生手段の動作を示す組立断面図、図4は斜板および駆動軸を示す断面図である。なお、本実施形態にかかる斜板式可変容量型圧縮機1は、前述した図5に示す従来例と同様の構成要素を備えている。よって、それら同様の構成要素には共通の符号を付すとともに、重複する説明を省略する。
【0014】
本発明が適用された斜板式可変容量型圧縮機21は、斜板8の傾斜方向を変更させる外力を作用させる外力発生手段22と、斜板8のハンチングを検知するハンチング検知手段23と、このハンチング検知手段23のハンチング検知情報に基づいて外力発生手段22の駆動を制御する制御部24とを備えており、これ以外の構成は前述した図5に示す従来例と同様である。
【0015】
外力発生手段22は、駆動軸5の後端側に設けられる電磁弁31と、駆動軸5の内部を貫通し、電磁弁31の電磁力により軸方向に移動する電磁弁軸32と、この電磁弁軸32と連結リンク33を介して連結され、駆動軸5の凹部5aに挿入される抵抗体34と、この抵抗体34と駆動軸5の凹部5aの面に介在される転動体、例えば硬球35と有している。
【0016】
駆動軸5には、抵抗体34および硬球35が収納される凹部5aと、電磁弁軸32が貫通する貫通孔5bとが軸方向に延設されるとともに、これらの凹部5aおよび貫通孔5bが連通している。
【0017】
抵抗体34は、底部が斜板8の揺動用孔8aの内面に配置され、上部に硬球35を受け入れるV字形溝34aが形成されている。すなわち、抵抗体34のV字形溝34aに硬球35を受け入れた状態で、この硬球35が駆動軸5の凹部5aの面に当接している。
【0018】
ハンチング検知手段23は、図示しないエバポレータを通過した空気温度を検知する温度センサ、および冷凍サイクルの高圧側(当該圧縮機1の冷媒吐出側)の冷媒圧力を検知する圧力センサ等である。あるいは、電磁弁31自体に付設され、電磁弁軸32の移動を直接検知するストローク検知手段であってもよい。
【0019】
この実施形態にあっては、斜板8が駆動軸5に対して揺動可能に設けられているので、図4に示すように、斜板8の揺動用孔8aの内径Aは、軸方向の中央部で最も小さく、軸方向の両側端に向かうにつれて次第に大きくなっている。また、駆動軸5の外径Dは、上記揺動用孔8aの中央部の内径Aより小さく設定されているため、駆動軸5の外周面と揺動用孔8aの中央部の内周面との間にはクリアランスがある。そこで、抵抗体34が硬球35を介して駆動軸5の凹部5aの面に当接するとともに、抵抗体34が斜板8に対して常に接触して斜板8と駆動軸5との調芯を行なうことによって、駆動軸5の外周面と揺動用孔8aの中央部の内周面との間の上記クリアランスを吸収するようになっている。さらに、抵抗体34が硬球35を介して駆動軸5の凹部5aの面に当接しており、すなわち硬球35が凹部5aの面にほぼ点接触しているので、斜板8は駆動軸5に対して揺動可能であり、斜板8の傾斜角を円滑に制御することができる。
【0020】
図1および図3(a)に示すように斜板8の最大傾斜時には、電磁弁31の駆動により電磁弁軸32が抵抗体34の方向(図3(a)の矢印A1の方向)に押圧されるので、抵抗体34により斜板8の傾斜角が大きくなる方向(図3(a)の矢印A2の方向)へ押圧され、その結果、斜板8の最大傾斜状態が維持される。
【0021】
図3(b)に示すように斜板8の最小傾斜時には、電磁弁31の駆動により電磁弁軸32が電磁弁31の方向(図3(b)の矢印A3の方向)に引張されるので、抵抗体34により斜板8の傾斜角が小さくなる方向(図3(b)の矢印A4の方向)へ押圧され、その結果、斜板8の最小傾斜状態が維持される。
【0022】
また、図3(c)に示すようにピストン9にクランク室3側および反対側から作用する圧力より斜板8の傾斜角が制御される場合、何らかの原因で斜板8のハンチングが発生し、これをハンチング検知手段23が検知すると、制御部24によりハンチング検知手段23のハンチング検知情報に基づいて外力発生手段22の駆動を制御するので、外力発生手段22により斜板8の傾斜方向を変更させる外力が作用される。具体的には、ハンチング検知手段23のハンチング検知情報に応じて電磁弁31の駆動により電磁弁軸32で連結リンク33を介して抵抗体34を押圧または引張するので、斜板8の傾斜角が調整される。
【0023】
上記のように構成した本実施形態では、何らかの原因で斜板8のハンチングが発生すると、そのハンチングをキャンセルするような外力が外力発生手段22によって斜板8に作用するので、斜板8のハンチングを抑制することができる。これによって、圧縮機1の稼動トルク変動を少なくすることができるので、駆動源に掛かる負荷トルクを安定させることができる。
【0024】
また、本実施形態では、抵抗体34が斜板8に対して常に接触して斜板8と駆動軸5との調芯を行なうことにより、斜板8と駆動軸5間のクリアランスを吸収しているので、斜板8の最小傾斜時などに外部から大きな振動が加わった場合であっても、斜板8ががたついて他の部材と衝突することを防止でき、騒音や振動の発生、および衝突部位の摩耗を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態を示し、斜板式可変容量型圧縮機を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態を示し、外力発生手段を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態を示し、外力発生手段の動作を示す組立断面図である。
【図4】本発明の一実施形態を示し、斜板および駆動軸を示す断面図である。
【図5】従来の斜板式可変容量型圧縮機を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 シリンダボア
2 シリンダブロック
3 クランク室
4 フロントハウジング
5 駆動軸
5a 凹部
5b 貫通孔
6 ロータ
8 斜板
8a 揺動用孔
9 ピストン
21 斜板式可変容量型圧縮機
22 外力発生手段
23 ハンチング検知手段
24 制御部
31 電磁弁
32 電磁弁軸
33 連結リンク
34 抵抗体
34a V字形溝
35 硬球(転動体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシリンダボア(1)を有する略円柱状のシリンダブロック(2)、およびこのシリンダブロック(2)の前端面に接合され、内部にクランク室(3)を形成するフロントハウジング(4)を有し、このフロントハウジング(4)のクランク室(3)内に、駆動軸(5)により駆動されるロータ(6)と、前記駆動軸(5)に対して揺動可能に設けられ、前記ロータ(6)と連結される斜板(8)と、この斜板(8)に相対回転可能に設けられ、前記シリンダボア(1)内を往復動する複数のピストン(9)が連結される駆動板(11)とを備え、前記斜板(8)の傾斜角を変えることにより、前記ピストン(9)のストローク量を変更する斜板式可変容量型圧縮機(21)において、
前記斜板(8)の傾斜方向を変更させる外力を作用させる外力発生手段(22)と、前記斜板(8)のハンチングを検知するハンチング検知手段(23)と、このハンチング検知手段(23)のハンチング検知情報に基づいて前記外力発生手段(22)の駆動を制御する制御部(24)とを設けたことを特徴とする斜板式可変容量型圧縮機(21)。
【請求項2】
請求項1記載の斜板式可変容量型圧縮機(21)であって、
前記外力発生手段(22)は、前記斜板(8)の揺動用孔(8a)の内面に配置され、且つ、前記駆動軸(5)の凹部(5a)に挿入された抵抗体(34)と、この抵抗体(34)と前記駆動軸(5)の凹部(5a)の面に介在された転動体(35)と、前記抵抗体(34)に連結されるととも前記駆動軸(5)の内部を貫通し、電磁弁(31)の電磁力によって軸方向に移動する電磁弁軸(32)とを有することを特徴とする斜板式可変容量型圧縮機(21)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−185783(P2009−185783A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29411(P2008−29411)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】