説明

斜面崩壊監視予測システム

【課題】 斜面崩壊をより正確に予測するための有効なデータを随時取得し、公開するとともに、そのデータに基づいて斜面崩壊を予測して警報を配信する。
【解決手段】 被測定斜面に伸縮計21、傾斜計22、雨量計23および地下水位計24を配設し、これらの測定器群2からの測定データをデータ収集設備3で収集し、インターネットNを介して随時測定データを中央監視設備4に送信する。そして、この測定データに基づいて、有限要素法による浸透流解析と斜面安定解析における斜面崩壊の安全率Fsを解析し、この安全率Fsに基づく警報情報を予め登録されたクライアントU1に電子メールとして配信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面崩壊が発生するおそれがある場所を監視し、その監視データを公開するとともに、その監視データに基づいて斜面崩壊を予測し、警報などを発する斜面崩壊監視予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
豪雨などの自然災害によって、地滑りなどの斜面崩壊が発生すると、交通路が土砂で塞がれたり、道路や鉄道盛土が変形したりすることによって、交通網が麻痺する被害を蒙る。さらには、崩壊した土砂が土石流となって、下流側の住民などに大きな被害をもたらす場合もある。このような被害を未然に防ぐため、あるいは、被害を最小限に抑えるためには、斜面崩壊のおそれがある場所の状況や斜面崩壊の予測(危険度)などについての情報を、その場所の地域住民や交通機関などに、一刻も早く提供することが有効な手段となる。このため、斜面崩壊を予測し、避難情報などを配信する斜面崩壊予測システムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この斜面崩壊予測システムは、斜面外に配置されたGPS基準局からの基準GPSデータと、斜面内に配置されたGPS局からのGPSデータとに基づいて、変位などの斜面状態データを算出する。そして、この斜面状態データと気象データ、および斜面崩壊の危険度を示す崩壊危険度スコアとに基づいて、斜面の崩壊を予測し、警戒や避難などの情報を配信するものである。同様に、GPSデータに基づいて観測点の位置、変位を観測し、この観測データをインターネットを介して公開する広域位置・変位観測システムも知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2004−280204号公報
【特許文献2】特開2002−243833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、斜面崩壊の発生の有無は、水の浸透速度や、飽和度(土中の間隙を水が占めている割合)、主応力などの諸条件によって決まるものである。しかしながら、上記特許文献1または2に記載されたシステムでは、GPSデータに基づいて変位を測定(算出)するため測定変位の精度が低く、しかも、この低い精度の測定変位に基づいて斜面崩壊を予測するため、その予測精度も低い。すなわち、斜面崩壊をより正確に予測するには、微小な変位(1mm以下)を正確に測定しなければならないのに対し、GPSデータに基づく測定では、そのような微小な変位を測定することはできない。また、特許文献1に記載された斜面崩壊予測システムでは、気象データからの雨量が考慮されて斜面崩壊の安全率(滑り安全率)が解析されているものの、その雨量は被測定地における雨水そのものではなく、また、地中の水位が考慮されていないため、斜面崩壊の安全率を精度高く解析することこと、すなわち、斜面崩壊を精度高く予測することができない。
【0005】
以上のことから、特許文献1または2に記載されたシステムでは、斜面崩壊を高い精度で予測することができず、また、斜面崩壊を高い精度で予測するための有効なデータを提供(公開)することにはならない。この結果、実際の危険度よりも過小に危険度を予測した(解析した安全率が高い)場合には、被害を未然に防ぎ、あるいは、被害を最小限に抑えることができないことになる。一方、実際の危険度よりも過多に危険度を予測した(解析した安全率が低い)場合には、誤った判断に基づく交通路の閉鎖などによって、交通の弊害などを引き起こしてしまうおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、斜面崩壊をより正確に予測するための有効なデータを随時取得し、公開するとともに、そのデータに基づいて斜面崩壊を予測して警報を配信することができる斜面崩壊監視予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、被測定斜面に配設される雨量計および変位計と、これらの測定器から測定データを収集するデータ収集装置と、このデータ収集装置から第1通信手段を介して随時測定データを取得し、この測定データに基づいて有限要素法による浸透流解析と斜面安定解析における斜面崩壊の安全率を解析する監視装置とを備えたことを特徴とする斜面崩壊監視予測システムである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の斜面崩壊監視予測システムにおいて、被測定斜面に配設される水分計を備え、この水分計による測定値を測定データに含めたことを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の斜面崩壊監視予測システムにおいて、被測定斜面に配設される地下水位計を備え、この地下水位計による測定値を測定データに含めたことを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の斜面崩壊監視予測システムにおいて、監視装置が取得した測定データおよび安全率などの情報を記憶する監視データベースと、この監視データベースに記憶された情報を読み出し可能な第2通信手段とを備えたことを特徴としている。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の斜面崩壊監視予測システムにおいて、安全率に基づく警報情報を予め登録された電子メールアドレスにインターネットを介して配信する警報配信手段を備えたことを特徴としている。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれかに記載の斜面崩壊監視予測システムにおいて、監視装置と第3通信手段を介して接続され、監視装置を介してデータ収集装置を制御する遠隔制御装置を備えたことを特徴としている。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれかに記載の斜面崩壊監視予測システムにおいて、第1通信手段、第2通信手段および第3通信手段はインターネットであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、被測定斜面に配設された雨量計と変位計とによる測定データに基づいて、斜面崩壊の安全率が解析されるため、より正確な安全率が解析(算出)される。すなわち、被測定斜面に直接配設された変位計(傾斜計や伸縮計など)によって、被測定斜面での変位が精度高く測定され、この高い精度の測定変位に基づいて安全率が解析されるため、より正確な安全率が得られる。しかも、被測定斜面に直接配設された雨量計によって測定された雨量も、安全率の解析にパラメータとして考慮されるため、さらに正確な安全率が得られる。また、データ収集装置から第1通信手段を介して随時測定データを取得するため、リアルタイムに安全率を解析することができ、斜面崩壊の監視、予測体制がリアルタイム化される。そしてこれらの結果として、斜面崩壊をより正確かつリアルタイムに予測して、被害を未然に防ぎ、あるいは、被害を最小限に抑えることが可能となり、また、誤った判断に基づく交通路の閉鎖などを引き起こすこともない。
【0015】
請求項2または請求項3に記載の発明によれば、被測定斜面に配設された水分計または地下水位計による測定値も測定データとし、これらの測定データにも基づいて斜面崩壊の安全率が解析されるため、より正確な安全率が得られる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、監視データベースに記憶された情報を読み出すことができる第2通信手段を備えているため、この第2通信手段を介して地域住民や交通機関などが監視データベース内の情報を読み出し、この情報に基づいて、斜面崩壊に対する対策などを講じることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、解析された安全率に基づいて警報配信手段から警報情報が配信されるため、例えば、斜面崩壊の発生率が高まった(安全率が1に近づいた)際に、避難注意報などを配信することで、斜面崩壊による被害を未然に防ぎ、あるいは、被害を最小限に抑えることがより可能となる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、第3通信手段および監視装置を介して、遠隔制御装置からデータ収集装置を制御することができるため、斜面崩壊の危険を伴う被測定地(現地)に赴かなくても、データ収集装置によるデータサンプリング間隔などを遠隔制御することができ、安全性、迅速性、データ収集の多様性(柔軟性)が高まる。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、データ収集装置からの測定データがインターネットを介して監視装置に取得されるため、よりリアルタイムで安定したデータ取得が可能となる。また、インターネットを介して監視データベースに記憶された情報を読み出すことができるため、より広域で、確実、かつリアルタイムな情報の公開が可能となる。さらに、遠隔制御装置をインターネットを介して監視装置に接続することでデータ収集装置を制御できるため、インターネット環境下であれば、場所や時間に制限されることなく、データ収集装置を随意遠隔制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る斜面崩壊監視予測システム1の概略構成図である。この斜面崩壊監視予測システム1は、主として被測定斜面(測定地点)に配設された測定器群2と、この測定器群2からの測定データを収集するデータ収集設備3(データ収集装置)と、このデータ収集設備3からの測定データを随時取得、解析する中央監視設備4(監視装置)と、この中央監視設備4を介してデータ収集設備3を制御する遠隔制御装置5(管理制御クライアント)とを備えている。そして、データ収集設備3と中央監視設備4および、中央監視設備4と遠隔制御装置5とは、インターネットN(第1、第3通信手段)を介してアクセス(通信)可能となっており、さらに、クライアントUはインターネットN(第2通信手段)を介して中央監視設備4にアクセス可能となっている。
測定器群2として、本実施形態では、伸縮計21(変位計)が3基、傾斜計22(変位計)が18基、雨量計23が1基、および地下水位計24が3基、斜面崩壊のおそれがある被測定斜面に配設されている。ここで、伸縮計21は、地表面に張られたインバー線の伸びを測定することで地表面の変位を測定するもので、傾斜計22は、被測定斜面に掘削された観測孔内に配設され、配設された深度におけるX−Y平面内の傾斜を測定するものである。
データ収集設備3は、被測定斜面の近くに設けられた現地測定室内に設置され、測定器群2からの測定データを切替ボックス31を介して収集するデータロガー32と、このデータロガー32から通信ケーブル33を介して測定データを取得、管理するとともに、データロガー32などを制御する測定用コンピュータ34とを備えている。この測定用コンピュータ34は、通信回線(電話回線など)によるインターネットNを介して中央監視設備4と通信可能となっており、測定器群2からの測定データが、測定用コンピュータ34を介して中央監視設備4に送られるようになっている。さらに、被測定斜面には監視カメラ(図示せず)が配設されており、この監視カメラからの映像データが測定用コンピュータ34を介して中央監視設備4に送られるようになっている。また、通信回線が使用不可能な場合に備え、無線通信によるインターネットNを介して中央監視設備4と通信できるようにもなっている。すなわち、無線発信装置35(パケット通信を可能とするICメモリーチップを装着したチップセットなど)が設けられ、一定時間ごとに測定器群2からの測定データを、無線発信装置35によって電子メールとして無線発信し、インターネットNを介して中央監視設備4に送信するものである。なお、通信ケーブル33は、RS232CやGB−IPなどの伝送ケーブルである。
中央監視設備4は、監視サーバー41と監視データベース42とを備え、主として、監視サーバー41は、データ収集設備3から測定データを受信し、斜面崩壊の安全率Fsを解析するものであり、監視データベース42は、測定データおよび安全率Fsなどの情報を記憶するものである。そして、後述する遠隔制御装置5とクライアントUとが、インターネットNを介して中央監視設備4にアクセス可能となっている。
ここで、監視サーバー41による斜面崩壊の安全率解析は、次のようにして行われる。すなわち、測定データである伸縮計21および傾斜計22による変位量、雨量計23による雨量、地下水位計24による水位に基づいて、有限要素法(FEM)による浸透流解析と斜面安定解析における斜面崩壊の安全率Fsを解析するものである。この有限要素法による解析は、本発明者らによる実験とその解析に基づくものである。例えば、三軸圧縮試験装置の中で被試験体にせん断応力を作用させ、この状態が常時の斜面に対応すると仮定し、水分を浸透させて破壊(崩壊)を生じさせる、という実験を行った。この結果、ほとんどの実験で、土粒子間隙の水による飽和度が90%に達した時点で、せん断ひずみが急増し、破壊することが確認された。また、小型の模型斜面に人工雨を降らせて、斜面を崩壊させる実験を行った。この結果、水分含有率が飽和度にして90%程度に達した時点で崩壊が生じ、崩壊の様子は法尻に配設された変位計によって測定(検知)され、さらに、この変位記録には、崩壊に先立って微小な変位が生じていることも確認された。そして、このような実験と解析とを重ね、被測定斜面の飽和度が90%に達した場合、または、微小な先行変位が発生した場合に、斜面崩壊の発生率(危険度)が高まっていると判断できる、という考えに至ったものである。さらに、こられの実験結果を有限要素法によって再現させるために、不飽和・飽和浸透流解析を行い、この解析によって実験結果を再現できることが確認された。そして、この有限要素法に基づき、監視サーバー41に記憶された地質図、事前調査や試験などで得られた土質力学特性および、測定器群2による測定データをパラメータ(フィードバックデータ)として、雨水浸透の数値解析を行い、浸透流解析を用いて斜面安定解析を行って斜面崩壊の安全率Fsを解析するものである。
【0022】
また、監視サーバー41には警報配信手段(図示せず)を備え、この警報配信手段によって、安全率Fsに基づく警報情報を、予め登録された電子メールアドレスにインターネットNを介して配信するようになっている。すなわち、警報配信手段には、予め、避難注意報や避難警報などの警報情報が記憶されている。そして、後述するように、安全率Fsが1.0に達するまでの到達時間Tf(推定時間)に基づいて警報情報を選択し、この警報情報を特定のクライアントUに配信するものである。
遠隔制御装置5は、インターネットN上の中央監視設備4を介して測定用コンピュータ34にアクセスし、測定用コンピュータ34を制御できる遠隔制御クライアントコンピュータである。すなわち、インターネットNを介して測定用コンピュータ34にアクセスし、遠隔制御装置5からの操作に基づいて、測定用コンピュータ34によるデータサンプリング間隔や測定の開始・停止、警報の配信条件、監視カメラの撮影方向などを制御できるようになっている(図5、6参照)。なお、この遠隔制御装置5は、限られた遠隔監視・制御クライアントとして、専用の管理ソフトがインストールされており、予め登録された者(測定管理者、業務担当者など)のみが測定用コンピュータ34にアクセスできるように、パスワードなどによってセキュリティーが確保されている。
クライアントUは、インターネットNを介して中央監視設備4と通信可能であり、随時、監視データベース42内の情報を読み出し(アクセス)できるようになっている。また、予め登録されたクライアント、例えばクライアントU1には、上述した警報情報が中央監視設備4から配信されるようになっている。なお、このクライアントUと上記の遠隔制御装置5とは、実際には、パソコン、携帯電話などの情報端末から構成されている。
【0023】
ところで、本斜面崩壊監視予測システム1は、マイクロソフト社のドットネット(ADO.NET)リモーティング技術,SOAP(Simple Object Access Protocol)とWebサービス技術および、RPC(Remote Procedure Call)技術とを導入して開発されており、これによりインターネット環境下であれば、世界中どこででもリアルタイムに遠隔監視、遠隔操作ができるようになっている。
【0024】
次に、このような構成の斜面崩壊監視予測システム1の動作について説明する。
【0025】
まず、測定器群2からの測定データが所定のサンプリング間隔ごとに、測定用コンピュータ34または無線発信装置35を介して中央監視設備4の監視サーバー41に送られる。そして、監視サーバー41では、受信した測定データを加工し監視データベース42に記憶する。例えば、傾斜計22からの測定データを、図2に示すような深さ方向全体の傾斜状態(測定ごとの変化量)を表すグラフとし、また、伸縮計21からの測定データを、図3に示すような累積変位量としてグラフ化し、地下水位計24からの測定データを、図4に示すような水位の変化としてグラフ化して記憶する。
【0026】
そして、監視データベース42に記憶されたこれらのデータは、後述する安全率Fsなどの情報とともに、Webページ(ホームページ)上で遠隔制御装置5およびクライアントUからインターネットNを介して読み出しできる。さらに、監視カメラからの映像データもインターネットNを介してリアルタイムに見ることができる。しかも、必要に応じて、これらのデータを監視データベース42からダウンロードすることもできる。
【0027】
また、測定用コンピュータ34では、図5に示すように、原位置でのデータサンプリングおよび機器類の制御を行う原位置アプリケーションが表示、実行される。さらに、遠隔制御装置5では、この原位置アプリケーションとともに、図6に示すような遠隔監視クライアントアプリケーションが表示、実行される。そして、これらのアプリケーションに基づいて、データ収集、遠隔監視、遠隔制御が行われる。
【0028】
一方、監視サーバー41では、図7に示すフローチャートに基づいて、斜面崩壊の安全率Fsを解析し、この解析に基づく警報情報を配信する。すなわち、まず上述したように、測定データに基づいて、有限要素法による浸透流解析と斜面安定解析(ステップS1)とによって、斜面崩壊の安全率Fsをリアルタイムに解析(算出)する(ステップS2)。次に、安全率Fsが1.0に達するまでの到達時間Tfを算出する(ステップS3)。すなわち、図8に示す安全率履歴曲線の先端部(最新の安全率の付近)の微小時間dtにおける変化率と、最新の安全率とから、安全率Fsが1.0に達するまでの到達時間Tfを推定算出する。そして、この到達時間Tfが所定の時間内であるか否かを判定し(ステップS4)、所定時間内の場合には、警報配信手段によって所定の警報情報を配信する(ステップS5)。例えば、到達時間Tfが10分以内である場合には、警報配信手段によって避難警報をクライアントU1の電子メールアドレスに配信し、到達時間Tfが30分以内である場合には、避難注意報を配信するものである。
【0029】
以上のように、本斜面崩壊監視予測システム1によれば、被測定斜面に配設された測定器群2からの測定データに基づいて、斜面崩壊の安全率Fsが解析されるため、より正確な安全率Fsが解析(算出)される。すなわち、被測定斜面に直接配設された伸縮計21と傾斜計22とによって、被測定斜面での変位が精度高く測定され、この高い精度の測定変位に基づいて安全率Fsが解析される。また、被測定斜面に直接配設された雨量計23によって測定された雨量および、地下水位計24によって測定された水位も、安全率Fsの解析にパラメータとして考慮されるため、土粒子間隙の水による飽和度が正確に解析され。そして、これらの測定データ、飽和度などに基づく解析は、上述したような実験とその解析に基づく有限要素法によって行われるため、より正確な安全率Fsが得られるものである。また、データ収集設備3からインターネットNを介して随時測定データが監視サーバー41に送信されるため、リアルタイムに安全率Fsを解析することができ、斜面崩壊の監視、予測体制がリアルタイム化される。そしてこれらの結果として、斜面崩壊をより正確かつリアルタイムに予測して、被害を未然に防ぎ、あるいは、被害を最小限に抑えることが可能となる。さらに、誤った予測判断に基づいて交通路を閉鎖することなどもなく、交通の弊害や地域住民への混乱などを適切に回避可能となる。
【0030】
また、監視データベース42に記憶された情報を、遠隔制御装置5およびクライアントUがインターネットNを介して随時読み出すことができるため、地域住民や交通機関などのクライアントUは、この情報に基づいて、斜面崩壊に対する適切な対策などを講じることができる。しかもその情報は、上述のように、測定データをグラフ化し、被測定斜面の状態を容易、迅速かつ的確に把握できるようになっており、かつ、監視カメラからの現地映像もリアルタイムに見ることができる。そしてこれらの結果として、斜面崩壊に関する有益な情報のリアルタイムな公開が実現され、地域住民などへの情報公開体制が充実される。
【0031】
一方、解析された安全率Fsに基づいて、予め登録されたクライアントU1に対して警報情報が配信されるため、この警報情報に基づいて対策などを講じ、斜面崩壊による被害を未然に防ぎ、あるいは、被害を最小限に抑えることがより可能となる。しかも、インターネットNの環境下であれば、いつでもどこででも、遠隔制御装置5から測定用コンピュータ34(データ収集設備3)を制御することができる。このため、斜面崩壊の危険を伴う被測定地(現地)に赴かなくても、データサンプリング間隔などを遠隔制御することができ、安全性、迅速性を確保した上で、データ収集の多様性(柔軟性)を高めることができる。また、遠隔制御装置5とクライアントUとは、パソコンや携帯電話などの汎用器でよいため、汎用性、利便性が高く、この結果、情報公開、監視体制がより実効的なものとなる。
【0032】
さらに、データ収集設備3と中央監視設備4間、および、中央監視設備4と遠隔制御装置5またはクライアントU間は、インターネットNによって通信可能となっており、しかも、上述のようにSOAPなどの技術が導入されている。このため、リアルタイムなデータ転送、遠隔監視、遠隔操作ができ、インターネット環境下であれば、世界中どこででも、いつでも監視、操作ができる。この結果、被測定斜面の監視体制が強化され、また、情報の公開性などが高まる。加えて、通信回線が使用不可能な場合に備え、無線発信装置35が設けられ、この無線発信装置35から中央監視設備4に測定データを送ることが可能であるため、測定データの送信、ひいては被測定斜面の監視体制が、より確保される。
【0033】
ところで、本実施形態では、安全率Fsに基づいて警報情報を配信するようにしているが、測定器群2からの測定データそのものに基づいて、警報情報を配信するようにしてもよい。例えば、伸縮計21による伸びが1mm/時を越える場合に、遠隔制御装置5(業務担当者など)に警報情報を配信し、2時間連続して伸びが1mm/時を越える場合には、役所などのクライアントUに警報情報を配信するようにしてもよい。そして、警報情報を受信したクライアントUは、この警報情報に基づく独自判断(独自の斜面崩壊予測など)が可能となり、より迅速かつ的確な対応をとることが可能となる。また、警報情報を配信する条件(基準値)については、各省庁による基準や各クライアントの要求仕様などに基づいて定めることができる。
【0034】
また、本実施形態では、測定器群2として、上述したような伸縮計21などを配設しているが、水分計を測定器群2に含めてもよい。そして、水分計による測定値(水分量)にも基づいて斜面崩壊の安全率Fsを解析することで、土粒子間隙の水による飽和度がより正確に算出され、より正確な安全率Fsが得られる。また、伸縮計21などの配設数を、本実施形態では上述したように設定しているが、被測定斜面の地形や状態などに応じて、より正確な安全率Fsの解析に必要な測定データが得られるように、配設数を決定すればよい。
【0035】
さらに、測定データをフィードバックデータとすることで、より正確な安全率Fsを解析することができる。すなわち、測定器群2からの測定データに基づく雨水浸透解析の結果を刻々に検証し、実測された水分量などにあわせて解析内容を修正するものである。これは、より正確に安全率Fsを解析するには、被測定斜面全体にわたる水分増加を把握することが重要であるが、水分計による測定は被測定点(ポイント)でのデータにすぎず、全体を正確に把握することができない。そして、これを補うのが数値解析であり、この数値解析の信頼性を高めるために、フィードバック補正を繰り返すことで、より正確に安全率Fsを解析することができるものである。
【0036】
なお、本実施形態では、測定器群2からのデータ送信(転送)をインターネットNを介して行っているが、衛星通信によるデータ送信であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る斜面崩壊監視予測システムの概略構成図。
【図2】本発明の実施形態に係る斜面崩壊監視予測システムにおいて、傾斜計による測定結果(測定ごとの変化量)を示す図。
【図3】本発明の実施形態に係る斜面崩壊監視予測システムにおいて、伸縮計による測定結果(累積変位)を示す図。
【図4】本発明の実施形態に係る斜面崩壊監視予測システムにおいて、地下水位計による測定結果(地下水位)を示す図。
【図5】本発明の実施形態に係る斜面崩壊監視予測システムにおいて、原位置でのデータサンプリングおよび機器類の制御を行う原位置アプリケーションを示す図。
【図6】本発明の実施形態に係る斜面崩壊監視予測システムにおいて、遠隔制御における遠隔監視クライアントアプリケーションを示す図。
【図7】本発明の実施形態に係る斜面崩壊監視予測システムにおいて、監視サーバーによる安全率解析および警報配信の処理フローを示すフローチャート。
【図8】本発明の実施形態に係る斜面崩壊監視予測システムにおいて、監視サーバーによる安全率履歴曲線を示す図。
【符号の説明】
【0038】
1 斜面崩壊監視予測システム
2 測定器群(雨量計、変位計、地下水位計、水分計)
3 データ収集設備(データ収集装置)
4 中央監視設備(監視装置)
41 監視サーバー
42 監視データベース
5 遠隔制御装置
U クライアント
N インターネット(第1、2、3通信手段)
Fs 斜面崩壊の安全率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定斜面に配設される雨量計および変位計と、
これらの測定器から測定データを収集するデータ収集装置と、
このデータ収集装置から第1通信手段を介して随時前記測定データを取得し、この測定データに基づいて有限要素法による浸透流解析と斜面安定解析における斜面崩壊の安全率を解析する監視装置とを備えたことを特徴とする斜面崩壊監視予測システム。
【請求項2】
前記被測定斜面に配設される水分計を備え、この水分計による測定値を前記測定データに含めた、
ことを特徴とする請求項1に記載の斜面崩壊監視予測システム。
【請求項3】
前記被測定斜面に配設される地下水位計を備え、この地下水位計による測定値を前記測定データに含めた、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の斜面崩壊監視予測システム。
【請求項4】
前記監視装置が取得した前記測定データおよび前記安全率などの情報を記憶する監視データベースと、
この監視データベースに記憶された情報を読み出し可能な第2通信手段とを備えた、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の斜面崩壊監視予測システム。
【請求項5】
前記安全率に基づく警報情報を予め登録された電子メールアドレスにインターネットを介して配信する警報配信手段を備えた、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の斜面崩壊監視予測システム。
【請求項6】
前記監視装置と第3通信手段を介して接続され、前記監視装置を介して前記データ収集装置を制御する遠隔制御装置を備えた、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の斜面崩壊監視予測システム。
【請求項7】
前記第1通信手段、第2通信手段および第3通信手段はインターネットである、
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の斜面崩壊監視予測システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−195650(P2006−195650A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5459(P2005−5459)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000210908)中央開発株式会社 (25)
【Fターム(参考)】