新規カテキン誘導体及びその用途
【課題】ジャンボリーキ泡成分に含まれる有効成分を単離、精製し、その化学構造を決定して作用機序を明らかにすると共に、当該化合物を用いて種々の医薬品又は機能性食品を提供する。
【解決手段】ジャンボリーキ泡成分から単離された、エピガロカテキン誘導体若しくはその塩、カテキン配糖体又はそれらの2種以上からなるカテキン誘導体混合物。これら混合物はアルコール吸収抑制剤として、肝障害予防剤、血糖降下剤として有用である。
【解決手段】ジャンボリーキ泡成分から単離された、エピガロカテキン誘導体若しくはその塩、カテキン配糖体又はそれらの2種以上からなるカテキン誘導体混合物。これら混合物はアルコール吸収抑制剤として、肝障害予防剤、血糖降下剤として有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なカテキン誘導体及びその用途に関し、より詳細には、無臭ニンニク(英名:Jumbo Leek、和名:大粒ニラネギ)の有効成分として同定された新規なカテキン誘導体及びその医薬品、健康食品への用途に関する。
【背景技術】
【0002】
有臭ニンニクに比べ球根の大きさが数倍有り、茎の長さは160cm、根の長さは約2mにも達するジャンボリーキ(大粒ニラネギ)が知られている。本食材の形態はニンニクに類似しているが、染色体数とフレーバーが玉ねぎやニンニクとは異なり、リーキに一致することから、その学名はAllium ampeloprasum L.とされ、一般にはジャンボリーキ(大粒ニラネギ)と称される。このジャンボリーキを洗浄・粉砕して除菌・凍結乾燥した粉末ムシューリック(登録商標)PSIIは、大蔵製薬株式会社から販売され、ヒト又は小動物(マウス、ラット)に対し、生体防御機構の活性化作用、高脂血症軽減効果、抗酸化活性のあることが明らかにされている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
本発明者らは、ジャンボリーキの工業的加工プロセスにおいて多量に発生する泡成分の有効利用を目的として、この泡成分の生理作用を研究した結果、種々の肝障害を著しく改善する効果を見出している(例えば、特許文献1参照)。一般に、食品由来の泡成分にはサポニンが含まれることが知られている。サポニンは、植物界に広く分布している化合物の総称である。トリテルペン及びステロイド配糖体として検出されており、これらの配糖体の糖部分は水酸基が多いため親水性があり、アグリコン(非糖部)には親油性があるため、多くは界面活性作用を示す。サポニンの共通した性質には水溶液の気泡性があり、また、脂質の酸化抑制作用、肝障害防御活性等の生理作用が認められているが、大豆、アスパラガス、エレファントガーリック等のサポニンの含有量は数mg/kgと微量である。
【0004】
自然界では、大部分の糖質は多糖類(polysaccharides)として存在しており、多くのオリゴ糖や単糖あるいはそれらの誘導体は、これらの多糖類が酸あるいは各種の酵素によって加水分解を受けることにより生成する。多糖類には、ヒトの消化管で消化・吸収され、エネルギー貯蔵体や細胞壁の構成成分の役割をもつ多糖類と、ヒトの消化酵素で消化されにくい食物繊維の2種類がある。「第六の栄養素」と呼ばれる食物繊維はエネルギー源にならないが、動脈硬化や糖尿病の予防、ガンの予防といった食物繊維としての機能をもつ。このように多糖類は、生体調節機能の面からの研究も盛んに行われている。ジャンボリーキの71.9%は水分が占めており、炭水化物は20.7%である。従って、ジャンボリーキの炭水化物の乾燥物換算では74.6%となる。しかし、これまでの研究で、糖の種類は明らかにされていない。
【0005】
【特許文献1】特開2005−194216号公報
【非特許文献1】内田あゆみ、「天然ニンニク様植物(無臭ニンニク)の生体防御機構の活性化作用」、FOOD Style 21、1998年7月、第2巻、第7号、p.45−48
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ジャンボリーキ鱗片の工業的な洗浄工程で大量に発生する泡成分の有効利用が企図されているが、その化学物質としての構造は未だ明らかではない。本発明は、上記泡成分に含まれる有効成分を単離、精製し、その化学構造を決定して作用機序を明らかにすると共に、当該化合物を用いて種々の医薬品又は機能性食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは長野産無臭ジャンボリーキに含まれていると考えられる有効成分を探索するために、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による有効成分の分析や単離方法の検討を行い、精製した有効成分を高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC−MS)により分析した。また、ジャンボリーキ中から粗多糖を抽出し、糖の性質を調べると共に、加水分解法や酵素分解法を用い、薄層クロマトグラフィー(TLC)及びHPLCによりジャンボリーキ中に含まれる糖の分析を行った。その結果、ジャンボリーキ泡粉末から有効成分と考えられる下記の新規なカテキン誘導体を見出した。また、ジャンボリーキに含有される主要な糖としてイヌリンを同定した。本発明はこれらの結果に基づいてなされたものであって、少なくとも以下の発明を包含する。
【0008】
(1)ジャンボリーキ泡成分から単離され、下記式(I)〜(IV)で示される化合物の何れか1種のカテキン誘導体若しくはその塩、又はそれらの2種以上からなるカテキン誘導体混合物。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
【0011】
【化3】
【0012】
【化4】
【0013】
(2)上記(1)に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物と、生理的に許容しうる担体とを含む医薬組成物。
(3)有効量の上記(1)に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物を含むアルコール吸収抑制剤。
(4)有効量の上記(1)に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物を含むアルコール性肝障害予防治療剤。
(5)有効量の上記(1)に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物を含む血糖降下剤。
(6)上記(1)に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物とイヌリンとを有効成分として含む肝障害改善用及び/又は糖尿病改善用機能性食品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ジャンボリーキ中の有効成分の化学構造が明らかとなり、これらの有効成分の薬理効果や作用機序をより明らかにすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(新規カテキン誘導体)
本発明に係るカテキン誘導体は、上記(I)〜(IV)で示される化合物である。式(I)の化合物は、エピガロカテキンの3位と7位に酸素原子を介してイソカプリル酸と、プロトカテク酸がそれぞれ結合したものである(Epigallocatechin hydrate-3-O-isocaprylic acid-7-O-protocatechuic acid)。イソカプリル酸の末端カルボキシル基は塩の形態でも良い。式(II)の化合物は、カテキンの3位に2つのグルコースがβ配位で結合したものである(Catechin-3-O-β-D-glucopyranosyl-β-D-glucopyranoside)。式(III)の化合物は、エピガロカテキンの3位にアピゲニンが付加されたものである(Epigallocatechin-3-O-apigenin)。エピガロカテキン及びアピゲニンの水酸基は塩の形態であってもよい。式(IV)の化合物は、エピガロカテキンの3位にロイコシアニジンが付加したものである(Epigallocatechin hydrate-3-O-leucocyanidin)。上記化合物は何れも特定の水酸基がナトリウム、カリウム又はカルシウム等との塩の形態であってもよく、中でも1又は2ナトリウム塩が好ましい。これらのカテキン誘導体は1種又は2種以上の混合物の形態であってもよく、好ましくは4種類のカテキン誘導体を含む組成物が医薬又は機能性食品用途として適している。
【0016】
上記カテキン誘導体の製造方法としては、これらの化合物の構成単位であるカテキンやエピガロカテキン及びグルコース等は入手可能であり、これらをもとにして通常の有機合成方法にて製造することができるが、天然物、好ましくはジャンボリーキ泡成分から抽出することが好ましい。抽出、精製方法については特に制限はなく、溶媒抽出、液体クロマトグラフィー等公知の方法を組み合わせて行うことができる。
【0017】
(医薬組成物又は機能性食品組成物)
本発明に係るカテキン誘導体は、医薬組成物又は機能性食品組成物として投与又は摂取することができ、例えば錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、散剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、シロップ剤、液剤等として、経口的に安全に投与することができる。経口投与用製剤とするには、公知の方法に従い、有効成分であるサポニンを例えば、賦形剤(例、乳糖、白糖、デンプン等)、崩壊剤(例、デンプン、炭酸カルシウム等)、結合剤(例、デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース等)又は滑沢剤(例、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール 6000等)等を添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため公知の方法でコーティングすることにより経口投与製剤とすることができる。そのコーティング剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、ツイーン 80、プルロニック F68、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシメチルセルロースアセテートサクシネート、オイドラギット(ローム社製、ドイツ、メタアクリル酸・アクリル酸共重合)及び色素(例、ベンガラ、二酸化チタン等)等が用いられる。経口投与用製剤は速放性製剤、徐放性製剤のいずれであってもよい。あるいは、一般の飲食品の形態として摂取することができ、例えば、清涼飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料、ゼリー、菓子、ジャム、クリーム等の菓子類、かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産、畜産加工食品、その他種々の形態の健康、栄養補助食品等が考えられるがこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明の組成物を肝障害の予防治療剤として、又は糖尿病の予防改善剤として用いる場合の投与量は、患者の年齢、疾病の種類、程度などにより変動し、一概に規定することはできないが、一般成人に対して、経口投与の場合は、1日量0.1〜100g、好ましくは1〜10gである。非経口投与の場合は、1日量20〜1000mg、好ましくは50〜500mgであり、症状に応じて必要により1〜3回に分けて投与することが好ましい。
【0019】
(機能性食品としての用途)
ジャンボリーキは玉ねぎに似た臭気を持つため、肉類、例えばソーセージ等に添加することで肉の臭味を低下させることができる。また、上記カテキン誘導体及びジャンボリーキ中の糖の主要成分であるイヌリンは、肝障害に対してその機能低下を改善する効果及び高脂血症に対し予防効果を有しており、機能性食品又は健康補助食品としての開発が期待される。
【実施例】
【0020】
[実施例1]高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるジャンボリーキとジャンボリーキ泡成分の分析
1 実験材料および方法
1−1 実験材料
日本大学産ジャンボリーキは、日本大学生物資源科学部が所有する農場にて栽培し、2005年7月に収穫した鱗片を−20℃で保存したものを使用した。以下これを日本大学産ジャンボリーキとする。
【0021】
1−2 サンプルの調製
(1)ジャンボリーキ鱗片の調製
日本大学産ジャンボリーキ鱗片100gに70%メタノール100mlを加えてミキサー(BM−FT08−GA、象印マホービン株式会社、大阪)でホモジネートし、一晩放置後、濾過した。その溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し、フィルター濾過したものをHPLCに供した。
【0022】
(2)ジャンボリーキ泡粉末の調製
ジャンボリーキ鱗片1kgに純水1Lを加えミキサーで粉砕した。次に、ガーゼで濾過し、得られた濾液を加熱した。出てくる泡を柄杓で回収し、冷却後凍結乾燥して日本大学産ジャンボリーキ泡粉末を得た。収率は1.5%〜3%であった。ジャンボリーキ泡粉末3gに70%メタノール30mlを加え、(1)と同様の方法で調製し、HPLCに供した。
【0023】
1−3 HPLC分析条件
高速液体クロマトグラフ(C−R4A、株式会社島津製作所、京都)を使用し、ジャンボリーキ鱗片成分およびジャンボリーキ泡成分を分析した。
カラム:COSMOSIL(登録商標)5C18−MS−II(ナカライテスク株式会社、京都)5μm、4.6mm×250mm;
カラム温度:40℃
検出波長:280nm
分析時間:30分
サンプル注入量:10μl
流速:0.7ml/min
移動相:10%アセトニトリル+0.1%酢酸または、20%アセトニトリル+0.1%酢酸
【0024】
2 結果および考察
日本大学産ジャンボリーキのUVクロマトグラム(以下、「UVC」という。)を図1に示した。移動相に10%アセトニトリルを用いたところ、ピークの数が増え分離が良くなり、リテンションタイム8.15minにピークが検出された。日本大学産ジャンボリーキ泡粉末のUVCを図2に示した。先ほどと同様に移動相を変えて検討を行った。ジャンボリーキ鱗片と同様、10%アセトニトリルを用いたときに、リテンションタイム8.30minにピークを検出できた。
【0025】
また、抽出条件において、水、メタノール、エタノールの中では、メタノール抽出がより多い成分をジャンボリーキ中から抽出でき、50%、70%、100%メタノールの中では、70%メタノール抽出がリテンションタイム8.0min付近に大きなピークを検出できたことが判明した。
【0026】
[実施例2]ジャンボリーキ含有成分からカテキン化合物の分離
1 実験材料および方法
1−1 実験材料
日本大学産ジャンボリーキ鱗片および泡粉末は、実施例1と同様のものを用いた。
【0027】
1−2 サンプルの調製
ジャンボリーキ鱗片500gに70%メタノール800mlを加えミキサーですり潰し、一晩放置後、濾過した。その溶液をヘキサンで脱脂した。得られたメタノール層に水+水飽和ブタノールを加えて分配し、ブタノール層をロータリーエバポレーターで乾涸後、HPLC用100%メタノールに溶解し、フィルター濾過したものをLH−20カラムに供した。ジャンボリーキ泡粉末においても、同様の方法でサンプルを調製し、LH−20カラムに供した。
【0028】
1−3 カラムの条件
カラムはSephadex LH−20を用い、ジャンボリーキ鱗片ブタノール層および泡粉末ブタノール層をメタノールで流し、4mlずつ分画し、計50本分取した。そして、分光光度計(UVmini1240、株式会社島津製作所、東京)を用いて、各フラクションの280nmにおける吸光度を測定した。
−カラムの条件−
カラム:SephadexLH−20(ファルマシアバイオテク社、スウェーデン)
3cm×26.5cm
流速:2.0ml/min
溶出:100%メタノール
【0029】
1−4 液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)条件
高速液体クロマトグラフ(HP1100、ヒューレットパッカード株式会社、アメリカ)に質量分析計(AQA、サーモクエスト、東京)を接続したものを使用した。Sephadex LH−20カラムで精製したジャンボリーキ鱗片成分フラクションNo.28とジャンボリーキ泡成分フラクションNo.35をLC−MSにより分析した。
【0030】
−LC部−
カラム:InertsilODS−80A(ジーエルサイエンス株式会社、東京)
5μm,4.6mm×250mm;
カラム温度:40℃
検出波長:280nm
流速:0.7ml/min
溶出:10%アセトニトリル+0.1%酢酸
【0031】
−MS部−
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化(ESI)法positiveモード
スキャン範囲:m/z 0to1000
プローブ電圧:3.5kV
イオン化温度:350℃
【0032】
2 結果および考察
ブタノール抽出法によるジャンボリーキ鱗片成分およびジャンボリーキ泡粉末成分のLH−20カラム処理後の280nmにおける各フラクションの吸光度を、図3および図4に示した。LH−20カラム処理により、ブタノール層をさらに分画できた。ジャンボリーキ鱗片成分の各フラクションの中で、280nmにおいて、HPLCにより28番がジャンボリーキに含まれる有効成分を多く含有することが判明した。日本大学産ジャンボリーキ鱗片成分のブタノール抽出後のUVCと、ブタノール抽出後さらにLH−20カラムで精製したフラクション28番のUVCを図5に示した。ジャンボリーキ鱗片成分フラクション28番のUVCには、主要ピークが4本検出された。リテンションタイム3.187、4.034、5.771および8.548minをESIによりLC−MSで分析したが、解析不能であった。これは、ブタノール抽出の際、熱により有効成分が分解され、有効成分を検出できなかったことが考えられる。
【0033】
ジャンボリーキ泡粉末成分の各フラクションの中で280nmにおいて、HPLCにより17、23および35番がジャンボリーキに含まれる有効成分を多く含有することが判明した。しかしながら、17および23番のピークは、イオン化が困難であった。日本大学産ジャンボリーキ泡粉末のブタノール抽出後のUVCと、ブタノール抽出後さらにLH−20カラムで精製したフラクション35番のUVCを図6に示した。LH−20カラム処理で分離され、単一のピークを4本検出できた。また、LC−MSで測定したジャンボリーキ泡粉末成分フラクション35番のUVCを図7に示した。その結果、4本の主要ピークを確認できた。リテンションタイム5.03(ピークNo.1)、7.06(ピークNo.2)、15.68(ピークNo.3)および19.98min(ピークNo.4)のESIによるマススペクトルを図8〜11に示した。
【0034】
ピークNo.1においては、m/z=612.0に分子イオンピーク(C28H30O14Na)が、m/z=264.6に基準イオンピークが、またm/z=474.6にフラグメントイオンピークが認められた。したがって、本物質はEpigallocatechin hydrate-3-O-isocaprylic acid-7-O-protocatechuic acid+Naと推定した。したがって、観察されたマススペクトグラムの擬似分子イオンピークのフラグメントイオンへの開裂様式から、カテキンの基本骨格(m/z=290)の3位にイソカプリル酸、及び7位にプロトカテク酸が付加された分子構造を推定した(図8)。
【0035】
ピークNo.2においては、m/z=617.0に分子イオンピーク(C27H35O16)が、m/z=180.9に基準イオンピークが、またm/z=453.8にフラグメントイオンピークが認められた。したがって、本物質はCatechin-3-O-β-D-glucopyranosyl-β-D-glucopyranosideと推定した。したがって、観察されたマススペクトグラムの擬似分子イオンピークのフラグメントイオンへの開裂様式から、カテキンの基本骨格(m/z=290)にβ−D−ジグルコースが付加された分子構造を推定した(図9)。
【0036】
ピークNo.3においては、m/z=603.0に分子イオンピーク(C15H12O7Na)が、m/z=290.6に基準イオンピークが、またm/z=189.9にフラグメントイオンピークが認められた。したがって、本物質はEpigallocatechin-3-O-apigenin+2Naと推定した。したがって、観察されたマススペクトグラムの擬似分子イオンピークのフラグメントイオンへの開裂様式から、カテキンの基本骨格(m/z=290)にアピゲニンが付加された分子構造を推定した(図10)。
【0037】
ピークNo.4においては、m/z=657.2に分子イオンピーク(C28H26O14Na2)が、m/z=189.9に基準イオンピークが、またm/z=453.8にフラグメントイオンピークが認められた。したがって、本物質はEpigallocatechin hydrate-3-O-leucocyanidin+2Naと推定した。したがって、観察されたマススペクトグラムの擬似分子イオンピークのフラグメントイオンへの開裂様式から、カテキンの基本骨格(m/z=290)にロイコシアニジンが付加された分子構造を推定した(図11)。
【0038】
[実施例3]ジャンボリーキ含有糖の調製
1 実験材料および方法
1−1 実験材料
日本大学産ジャンボリーキは、実施例1と同様のものを用いた。
【0039】
1−2 サンプルの調製
日本大学産ジャンボリーキ鱗片500gに100%エタノールを加え、ミキサーでホモジネートし、石油エーテルを加え一晩放置後、濾過した。その残渣を4時間熱水抽出し、冷却後、濾過した。その溶液に4倍量の100%メタノールを加えて粗多糖を沈殿させた。沈殿物を乾燥させ、ミル(BM−FT08−GA、象印マホービン株式会社、大阪)で粉砕した。収率は0.4〜0.6%であった。以下これを日本大学産ジャンボリーキ含有糖とし、糖分析に供した。
【0040】
1−3 溶解性の検討
純水、メタノール、エタノールにジャンボリーキ糖を加え可溶化の測定を行った。
【0041】
1−4 糖度の測定
日本大学産ジャンボリーキをすり潰して溶液を分取し、手持屈折系糖業用(500型、株式会社アタゴ、東京)を用いて、ジャンボリーキ中の糖度を測定した。
測定範囲:0〜90%
最小目盛:0.2%
【0042】
2 結果および考察
得られた日本大学産ジャンボリーキ含有糖の収率は、0.4%〜0.6%であり、白色や黄土色を呈した。これは、皮の有無やサンプルの状況、大きさ等によって違いが生じるのだと考えられる。ジャンボリーキ含有糖は、水溶液中では可溶し透明に呈した。また、糖の量を増やすと白く濁り、粘り気を生じた。メタノール、エタノールにはほぼ不溶であり、糖は沈殿した。このことから、日本大学産ジャンボリーキ含有糖は水溶性であると考えられる。ジャンボリーキ中の糖度は23%であり、さくらんぼ(17%)やすいか(10%)など一般的に甘いとされている果物よりも高い数値を示した。比較としてニンニクの糖度を測定したところ33%を示し、ジャンボリーキと同様、鱗片中に多量の糖を含有することが判明した。ジャンボリーキよりも高い数値を示したのは、ニンニクの水分が少なかったためであると考えられる。
【0043】
[実施例4]ジャンボリーキ含有糖の分析
1 実験材料および方法
1−1 実験材料
日本大学産ジャンボリーキ及びジャンボリーキ泡粉末は、実施例1と同様のものを用いた。また、中国産有臭ニンニク、イヌリン(和光純薬工業株式会社、大阪)、イヌリナーゼ(和光純薬工業株式会社、大阪)も使用した。
【0044】
1−2 サンプルの調製
実施例3、1−2と同様の方法で、ジャンボリーキ中の糖を抽出した。また、中国産ニンニク含有糖においても、ジャンボリーキと同様の方法で調製した。
【0045】
1−3 加水分解法による糖の同定
(1)強酸による加水分解
ジャンボリーキ含有糖100mgに10N塩酸を5ml加えた。真空加水分解管に移して脱気し、ドライサーモバス(MG−2100、東京理化器械株式会社、東京)中で110℃、1,2,6,10時間加水分解を行った。分解後の溶液を水酸化ナトリウムで中和し、HPLCに供した。
(2)HPLC分析条件
高速液体クロマトグラフ(L−3300、株式会社日立製作所、東京)を使用し、加水分解前および加水分解1,2,6,10時間後のジャンボリーキ中の糖成分を分析した。
カラム:島津101N
カラム温度:40℃
流速:0.7ml/min
溶出:超純水装置:検出器(L−3300、株式会社日立製作所、東京)、ポンプ(LC−10AT、島津製作所、京都)、脱気装置(DGU−3A、島津製作所、京都)、カラムオーブン(CTO−10ARP、島津製作所、京都)、クロマトパック(C−R4AX、島津製作所、京都)
【0046】
1−4 酵素分解法による糖の同定
(1)イヌリナーゼによる酵素分解
サンプル:
(a)イヌリン50mg/ml:水に溶解
(b)イヌリン50mg/ml:水に溶解し、イヌリナーゼで反応させたもの
(c)ジャンボリーキ含有糖50mg/ml:水に溶解
(d)ジャンボリーキ含有糖50mg/ml:水に溶解し、イヌリナーゼで反応させたもの
(e)ニンニク含有糖50mg/ml:水に溶解
(f)ニンニク含有糖50mg/ml:水に溶解し、イヌリナーゼで反応させたもの
(g)泡粉末50mg/ml:水に溶解
(h)泡粉末50mg/ml:水に溶解し、イヌリナーゼで反応させたもの
(a)、(c)、(e)、(g)は、各試料50mgを水に溶解して調製した。(b)、(d)、(f)、(h)は、各試料50mgを水に溶解し、イヌリナーゼを添加し調製した。(a)〜(h)を恒温槽にて37℃で1時間酵素反応させた。1時間後、(a)〜(h)を恒温槽にて80℃で5分反応させ、酵素反応を停止させた。
【0047】
(2)薄層クロマトグラフィー(TLC)による糖の同定
固定相:Silica gel60(メルク株式会社、東京)
展開溶媒:クロロホルム:酢酸:水=30:35:5
発色剤:5%リンモリブデン酸
サンプル:1−3、(1)で調製した(a)〜(h)を用いた
サンプル(a)〜(h)は、薄層板Silica gel60にスポットし、クロロホルム:酢酸:水=30:35:5の展開溶媒で展開した。その後、5%リンモリブデン酸をスプレーし、180℃で加熱して発色させた。
【0048】
(3)HPLC分析条件
高速液体クロマトグラフ(L−3300、株式会社日立製作所、東京)を使用してサンプル(a)〜(d)中の糖成分を分析した。
カラム:島津101N
カラム温度:40℃
流速:0.7ml/min
溶出:超純水装置:検出器(L−3300、株式会社日立製作所、東京)、ポンプ(LC−10AT、島津製作所、京都)、脱気装置(DGU−3A、島津製作所、京都)、カラムオーブン(CTO−10ARP、島津製作所、京都)、クロマトパック(C−R4AX、島津製作所、京都)
【0049】
結果および考察
日本大学産ジャンボリーキ含有糖の加水分解前、加水分解1,2,6,10時間後のクロマトグラムを図12に示した。加水分解前と加水分解後のピークに変化がなく、また、時間毎の変化も見られなかった。このことから、ジャンボリーキ中には多量の多糖類を含有するのではないかと考えた。ニンニクには、イヌリンという水溶性で難消化性多糖類の多糖類を含むことが明らかにされている。そこで1−4では、イヌリンを分解するイヌリナーゼを用いて、TLC及びHPLCによりジャンボリーキ中に含まれている糖の分析を行った。
【0050】
未酵素分解および酵素分解したジャンボリーキ含有糖、ニンニク含有糖、ジャンボリーキ泡粉末およびイヌリンのTLC結果を図13に示した。酵素未分解のイヌリン(a)はRf値0を示し、酵素分解したイヌリン(b)はRf値0.30を示した。酵素未分解のジャンボリーキ含有糖(c)は展開されなかったのに対し酵素分解したジャンボリーキ含有糖(d)は展開され、Rf値は0.29を示した。この結果よりジャンボリーキ糖には、イヌリンを含有していることが判明した。また、比較として用いた酵素未分解のニンニク含有糖(e)は展開されなかったが、酵素分解したニンニク含有糖(f)にイヌリンのスポットが発見され、Rf値は0.29を示した。泡粉末においては、酵素未分解のジャンボリーキ泡粉末(g)は展開されなかったのに対し酵素分解したジャンボリーキ泡粉末(h)は展開され、Rf値は0.30を示した。泡粉末中にもイヌリンを含有することが判明した。しかし、(b)が酵素分解後、白濁の溶液が透明に呈したのに対し、(h)は酵素分解後も沈殿が生じた。この沈殿は、水に不溶で、メタノールに一部不溶だった。また、(h)はRf値0.30以外にも0.30〜1.00の間にスポットが検出された。これらのことから、ジャンボリーキ泡粉末中にはイヌリン以外にも、ビタミンE、ポリフェノールなどの成分を含有することが考えられる。
【0051】
HPLCで分析を行ったところ、(d)のリテンションタイム11.446minのピークが、(b)のリテンションタイム11.446minのピークと同じであると推察され、HPLCの結果からも、ジャンボリーキ糖には、イヌリンを含有していることが判明した(図14)。しかし、(d)は完全に酵素分解されなかった。使用した糖が完全に精製されなかったため、イヌリン以外の物質も含有するか、イヌリン以外の多糖類を含有するためであると考えられる。
【0052】
[実施例5]ジャンボリーキおよびジャンボリーキ泡粉末のアルコール吸収抑制作用
1 実験材料および方法
1−1 実験材料
日本大学産ジャンボリーキ泡粉末および長野県産無臭ジャンボリーキ粉末(商品名:ムシューリックパウダーPSII(大蔵製薬(株)ヘルスウェイ事業部、東京))を使用した。
【0053】
1−2 実験動物および飼育条件
6週齢のWistar系SPF雄性ラット(CLEA、東京)を一週間予備飼育した後実験に使用した。ラットは、温度22±1℃、湿度55±5%、光サイクルを12時間毎明暗という条件で流路にて飼育を行った。食餌は、マウス、ラット、ハムスター用飼育繁殖固形飼料CE−2(株式会社日本生物材料センター)を、飲料水は水道水をともに自由摂取させた。ただし、採血前18時間は絶食状態に保った。
【0054】
1−3 ラットへのエタノール投与
ジャンボリーキ泡粉末によるエタノール吸収抑制作用の検討の実験方法は、図15に示したように、40%エタノール1mlを胃ゾンデを用いて投与し、飲酒状態とした。日本大学産ジャンボリーキ泡粉末、クルクミンおよび長野県産無臭ジャンボリーキ粉末は、15mg/kgになるようにそれぞれ40%エタノール1mlに懸濁させ、胃ゾンデを用いて経口胃内投与した。ノーマル群には生理食塩水のみ、コントロール群には40%エタノールのみ経口胃内投与した。エタノール投与時間を0時間とし、1、2、4時間後にウレタン麻酔下で頚静脈より0.5ml採血した。各種血液サンプルに、0.33 mol/L過塩素酸を加え上清分離(4700G、15min)後、血中エタノール濃度の測定に供した。
【0055】
1−4 実験群の作製
動物は、次の4群、各4匹に分けて以下の方法で実施した。
第1群(ノーマル群:無処理群):生理食塩水のみを投与
第2群(コントロール群:エタノール投与群):40%エタノール1ml投与
第3群(泡粉末投与群):40%エタノール1ml投与+日本大学産ジャンボリーキ泡粉末15mg/kg投与
第4群(クルクミン投与群):40%エタノール1ml投与+クルクミン15mg/kg投与
第5群(PSII投与群):40%エタノール1ml投与+PSII15mg/kg投与
【0056】
1−5 測定方法
分光光度計(UVmini1240、島津、東京)を用いて、血中アルコール濃度を測定した。測定には、F−キットエタノール(J.K.インターナショナル、東京)を用いた。測定方法は、溶液A(二リン酸カリウム、NAD4mg、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(Al−DH)0.8U)3mlと10倍希釈した上清0.1mlを混和し、3分静置後340nmの波長で吸光度を測定した。これをE1とした。その後溶液B(アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)7000U)0.05mlと混和し、10分静置後340nmの波長で吸光度を測定した。これをE2とした。測定した値を、血中エタノール濃度E[g/L]=試料(E2−E1)−ブランク(E2−E1)×0.1152×8.98×10の計算式により血中エタノール濃度を測定した。
【0057】
2 結果および考察
エタノール投与ラットの血中エタノール濃度の経時変化を図16に示した。エタノール投与ラットと比べると、日本大学産ジャンボリーキ泡粉末およびPSIIはクルクミンと同様に、エタノール吸収を抑制した。40%エタノールを投与してから2時間後位からラットの血中エタノール濃度が減少した。よって、日本大学産ジャンボリーキ泡粉末およびPSIIは血中アルコール濃度の上昇を、軽減・緩和することが判明した。また、日本大学産のジャンボリーキ泡粉末でも長野県産のジャンボリーキ泡粉末でも同様の効果を示すことから、産地によって効果の生じ方に差異はないことが判明した。PSIIと日本大学産ジャンボリーキ泡粉末の効果の生じ方は、ほぼ同じように起こったことから、血中アルコール濃度の上昇を抑制している成分は、ほとんどジャンボリーキ中の泡成分中に含まれていると推察される。
【0058】
[実施例6]ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ラットに対するジャンボリーキおよびジャンボリーキ泡粉末の効果
1 実験材料および方法
1−1 実験材料
日本大学産ジャンボリーキ泡粉末および日本大学産ジャンボリーキ粉末(ムシューリックパウダーPSII、大蔵製薬株式会社ヘルスウェイ事業部、東京)を使用した。試薬においては、以下の通りに調製した。
0.9%生理食塩水
NaCl(和光純薬工業株式会社、大阪、特級)900mgに純水100mlを加えたものを0.9%生理食塩水とした。
10mmol/lクエン酸ナトリウム緩衝液
クエン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、大阪)177mgに純水60mlを加えた後0.1mol/l塩酸でpH4.0に調製した。
ネンブタール麻酔
25mgのペントバルビタール(和光純薬工業株式会社、大阪)を、20mlのプロピレングルコールと5mlエタノールで溶解後、純水で50mlにfill upした。
【0059】
1−2 実験動物および飼育条件
5週齢のWistar系SPF雄性ラット(日本クレア株式会社、東京)を一週間予備飼育した後、実験に使用した。ラットは、温度22±1℃、湿度55±5%、光サイクルを12時間毎明暗という条件で金網製個別ゲージにて飼育を行った。食餌は、マウス、ラット、ハムスター用飼育繁殖固形飼料CE−2(株式会社日本生物材料センター、東京)を、飲料水は水道水をともに自由摂取させた。ただし、採血前18時間は絶食状態に保った。
【0060】
1−3 STZ誘発糖尿病モデルの作製
STZ(シグマアルドリッチジャパン株式会社、東京)を10mmol/lクエン酸ナトリウムbufferに溶解し、腹腔内投与することにより糖尿病を誘発した。ノーマル群には同量の10mmol/lクエン酸ナトリウム緩衝液を投与した。
【0061】
1−4 実験群の作製
動物は以下の作成方法で実施した。
第1群(ノーマル群:無処理群):生理食塩水のみを投与
第2群(コントロール群:STZ群):STZ70mg/kg/ml投与
第3群(STZ処理+泡粉末100mg/kg/ml投与群):STZ70mg/kg/ml投与+泡粉末100mg/kg/ml投与
第4群(STZ処理+PSII100mg/kg/ml投与群):STZ70mg/kg/ml投与+PSII100mg/kg/ml投与
【0062】
STZ処理後の泡粉末投与実験の実験方法を図17に示した。すなわち、予備飼育後、試験−5日目にノーマル群以外の計3群に70mg/kgのSTZを腹腔内投与し、試験0日目より各サンプルを胃ゾンデにより用いて経口胃内投与した。日本大学産ジャンボリーキ泡粉末100mg/kg/mlおよびジャンボリーキ粉末(PSII)100mg/kg/mlは、生理食塩水に懸濁し、無処理群(ノーマル群)および対照群(コントロール群)には、生理食塩水のみをそれぞれ1ml与えた。試験14日後にネンブタール麻酔下で頸静脈より採血し、それぞれの血液サンプルは、血清分離(3000rpm、4℃、15min)後、各種成分の測定に供した。また、試験0日目、7日目、14日目に尾静脈より得た血液を得て、血糖値の測定に供した。体重は試験0日目より毎日一定時刻に測定し、摂食量および摂水量も毎日一定時刻に秤量した。
【0063】
1−5 測定方法
DEXTER−ZII(バイエルメディカル株式会社、ドイツ)を用いて血糖値を測定した。また、乾式臨床自動分析装置SPOTCHEMTMEZ(SP−4430、アークレイ株式会社、京都)を用いて、血清中の総コレステロール(T−Cho)、グルコース(Glu)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、尿素窒素(BUN)、および総ビリルビン(T−Bil)の5項目について測定した。なお、測定キットとしてスポットケムTMIIマルチ肝機能−2(アークレイ株式会社、京都)を用いた。
【0064】
2 結果および考察
ラット体重の経日変化を図18に示した。体重はいずれの群も経日とともに増加し、各群とともに順調な成長がみられた。群間での差は、STZ無処理群(ノーマル群)およびSTZ処理群(コントロール群、泡粉末群、PSII群)での差がみられ、STZ処理群は体重の増加が緩やかであった。糖尿病になると、インスリン欠乏により、脂肪動員の増加、タンパク質の分解促進、大量のブドウ糖の尿中排泄および水分喪失が生じ、体重減少に至る。ラットの摂食量の経日変化を図19示した。摂食量は、経日および群間での差にばらつきがみられたことから、いずれの飼料もラットに忌避されることなく十分に摂取されなかったと考えられた。本来インスリン欠乏状態では、背内側核中でブドウ糖の代謝が減少し、ブドウ糖がブドウ糖受容体細胞内に侵入できない。これにより血糖が少ないと感じ、実際は血糖が高いにもかかわらず空腹感が出現する。腹内側核中では、刺激の閾値の上昇し、満腹による摂食中止が不能になる。これらによって多食が生じる。
ラットの摂水量の経日変化を図20に示した。摂水量はいずれの群も経日とともに増加し、各群とともに順調な成長がみられた。群間での差は、STZ無処理群およびSTZ処理群での差がみられ、STZ処理群は摂水量が高かったことから、糖尿病の典型的な症状の一つである口渇・多飲を生じたと考えられる。また、多尿もみられた。インスリン作用不足により代謝異常が生じると、空腹時・食後の血糖値が上昇し、末梢組織で糖の利用が低下する。血中のブドウ糖は腎糸球体から多量に排泄する(血糖約180mg/dl以上になると尿糖として排泄)。尿の浸透圧が上昇し、多量の水分も排泄されることにより多尿(頻尿)が生じる。体内では脱水状態になり、視床下部の渇中枢が刺激され、口渇が生じる。
【0065】
STZ処理ラットの血糖値に対するジャンボリーキ泡粉末の変化を以下の表1、及び図21に示した。
【0066】
【表1】
【0067】
5週齢SPF Wistar系雄ラットにSTZを腹腔内投与させ(コントロール群)、生理食塩水を胃ゾンデで経口投与させると、STZ無処理群と比べ、血糖値が有意に上昇した。これに対し、STZ誘発ラットに泡粉末100mg/kgおよびPSII100mg/kgを経口投与すると、いずれも有意に血糖値を減少させ、ジャンボリーキ泡粉末およびPSIIが血糖値に予防効果を示すことが判明した。ブドウ糖が血液中に取り込まれると、すい臓から分泌されたインスリンが血液中のブドウ糖に働きかけ、エネルギーとして活用できるように細胞に取り込まれる。しかし、ストレスなどの環境的要因によりインスリン分泌が低下すると、血液中のブドウ糖はエネルギーに変わらず、次々に体内へ蓄積し、血糖値が上昇する。
【0068】
STZ処理ラットの血清中のGlu値、BUN値、およびAST活性の変化を以下の表2、及び図22〜24に示した。
【0069】
【表2】
【0070】
5週齢SPF Wistar系雄ラットにSTZを腹腔内投与させ(コントロール群)、生理食塩水を胃ゾンデで経口投与させると、STZ無処理群と比べ、血清中のGlu値、BUN値、およびAST活性が有意に上昇した。これに対し、STZ誘発ラットに泡粉末100 mg/kgを経口投与すると、いずれも有意に血清中のGlu値、BUN値、およびAST値を減少させ、ジャンボリーキ泡粉末が腎・肝障害および血糖値に予防効果を示すことが判明した。PSIIにおいては、Glu値およびBUN値の上昇に対し有意な抑制効果が見られたが、AST活性に対しては有意な抑制効果が見られなかった。また、この時点でT−Bil値、T−Cho値に著しい差が認められなかった。これらのことから、泡粉末およびPSIIは高脂血症にも両者投与量は関与しなかったものと推察された。
【0071】
[実施例7]ジャンボリーキ添加ソーセージの開発
1 実験材料および方法
1−1 実験材料およびソーセージ組成
日本大学産ジャンボリーキは、実施例1の実験材料と同様のものを用いた。ニンニクは、市販のニンニクを使用した。ジャンボリーキ泡粉末は、実施例1の1−2(2)と同様のものを用いた。ソーセージの組成は図25に示した。
【0072】
1−2 ソーセージ作製方法
ソーセージの作製方法は、塩せき肉、脂肪、調味料を混合後、バキュームミキサーで脱気し、羊腸に詰めた。これを燻製後、加熱・殺菌処理および冷却し、これをジャンボリーキ添加ソーセージとした。そのほか、ジャンボリーキ泡粉末およびニンニクにも同様に行った。
【0073】
1−3 官能検査
日本大学産ジャンボリーキ泡粉末0.2%添加ソーセージの官能検査をおこなった。男女約20名に、ジャンボリーキ泡粉末0.2%添加ソーセージを、ジャンボリーキ無添加ソーセージ(コントロール)とジャンボリーキ7%添加ソーセージそれぞれとの比較による味覚テストを行った。
【0074】
2 結果および考察
外観に関しては、ジャンボリーキ無添加、添加および泡粉末添加での違いはほぼないが、ニンニク添加では、ほかの二つより若干白色味を帯びていた。また、ジャンボリーキ泡粉末添加ソーセージの官能検査の評価を行った結果は、ジャンボリーキ7%添加ソーセージと比べると、違いがあらわれた。味や香りが改善され、くさみがなくなった。ノーマルソーセージとの差がほとんどなく、ほとんどのひとは味や香りの違いを感じることができなかった。ノーマルソーセージとの評価がほぼ変わらなかったので、添加しても変わらないということを商品価値ととらえて、今後健康補助食品として、商品化が期待できる。
【0075】
[実施例8]ジャンボリーキ添加ソーセージ投与によるD−GalN誘発肝障害ラットの効果
1 実験材料および方法
1−1 実験材料
実施例7で作成した日本大学産ジャンボリーキ添加したソーセージを用いた。
【0076】
1−2実験動物および飼育条件
5週齢のWistar系SPF雄性ラット(CLEA、東京)を実験に使用した。ラットは、温度22±1℃、湿度55±5%、光サイクルを12時間毎明暗という条件で金網製個別ゲージにて飼育を行った。食餌は、午前中にマウス、ラット、ハムスター用飼育繁殖固形飼料CE−2(株式会社日本生物材料センター)を与え、夕方にソーセージ(第一群には午前中と同様の固形試料)10gを2週間与えた。飲料水は水道水をともに自由摂取させた。ただし、採血前18時間は絶食状態に保った。
【0077】
1−3 GalN誘発肝障害モデルの作製15)
GalNとしてD−ガラクトサミン塩酸塩(シグマアルドリッチ、東京)を用い、生理食塩水に溶解後、1NのNaOHで中和、滅菌フィルターで濾過し、注射液を調製した。GalNは700mg/kgを各群6匹のラットに1mlを腹腔内投与した。GalN投与を0時間とし、48時間後にネンブタール麻酔下で頸静脈より採血し、それぞれの血液サンプルは、血清分離(4700G、4℃、15min)後、各種酵素活性の測定に供した。
【0078】
1−4実験群の作製
動物は、次の4群、各6匹に分けて以下の方法で実施した。
第1群:ソーセージ無投与群 (GalN無投与)
第2群:ソーセージ無投与群 (GalN投与)
第3群:ノーマルソーセージ投与群 (GalN投与)
第4群:ジャンボリーキ添加ソーセージ投与群(GalN投与)
【0079】
1−5 測定方法
乾式臨床自動分析装置SPOTCHEMTMEZ(SP−4430、アークレイ株式会社、京都)を用いて、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)と、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)、乳酸脱水素酵素(LDH)、アルカリホスファターゼ(ALP)活性を測定した。なお、測定キットとして、スポットケムTMIIマルチ肝機能−2(アークレイ株式会社、京都)を用いた。
【0080】
2 結果および考察
ラットのAST活性、ALT活性、LDH活性、ALP活性の変化に対するジャンボリーキおよび泡粉末添加ソーセージの効果を以下の表3及び図26〜29に示した。
【0081】
【表3】
【0082】
GalN投与により、48時間後に、コントロール群はノーマルソーセージ投与群に比べてALT、AST活性が有意に上昇した。この上昇に対して、ジャンボリーキ添加ソーセージ投与群は、有意な抑制効果が見られた。GalN肝障害の発生機序としては、GalNが肝細胞内においてuridinediphosphate−Glucose(UDP−Glucose)を消費してuridine diphosphate Galactosamine (UDP−GalN)を生成することにより細胞内に蓄積されたuridine triphospate(UTP)が減少し、欠乏する。これに伴いRNA合成低下、タンパク合成阻害が生じ、さらに糖、脂質代謝障害も加わり、肝細胞膜障害から細胞壊死を惹起させるといわれている。(Keppler et al.,1970)。このような直接的な肝細胞障害に加えGalN肝障害の発生には、腸管由来のエンドトキシンが重要な役割を果たしており、ガラクトサミンによって惹起された肝細胞膜障害に、エンドトキシン血症血中の肝細胞障害因子の作用が加わって、GalN肝障害が発生、進展するとされている。(岩城ら、1988)。すなわち、エンドトキシンによって肝マクロファージが活性化され、それによって生産される腫瘍壊死因子(TNF)やインターロイキン1(IL−1)などのサイトカイニン、ロイコトリエンD4などの関与が重要視されてきている。このように、肝臓はGalNにより直接的な障害を受ける。この障害により、ASTおよびALTは血液中に流出するので、血清中にこれら酵素の高い活性が認められるようになる。AST,ALT活性は、両方とも肝臓や心筋、骨格筋、腎臓の細胞に存在するが、特に肝細胞の破壊がおこると、血液中の値が高くなる。急性肝炎や慢性肝炎では、AST,ALT活性が共に高くなるが、ALT活性の方が敏感に反応するため、ASTの値よりもALTの値の方がより高くなることが多い。今回ジャンボリーキ投与群は、血清ASTおよびALT活性の上昇が抑制されたことより、ジャンボリーキ添加ソーセージは、肝障害に対しその機能低下を改善する効果を有していると推察された。
【0083】
LDH(乳酸脱水素酵素)は、ブドウ糖からエネルギーを産生するために行われる解糖系の最終段階の酵素である。生体内では腎臓に最も多量に存在し、骨格筋や、肝臓・心筋・膵臓・肺・脾臓などの細胞に含まれる。肝臓に障害が生じると、AST,ALTの上昇と共に高くなる。今回の実験では、LDH活性は、有意な差はみられず、GalN投与により、48時間後に、コントロール群はノーマルソーセージ投与群に比べて上昇傾向がみられた。この上昇に対して、ジャンボリーキ添加ソーセージ投与群は、抑制傾向が見られた。ALP活性は、GalN投与により、48時間後に、コントロール群はノーマルソーセージ投与群に比べて有意に上昇した。この上昇に対して、ジャンボリーキ添加ソーセージ群は、優位に抑制効果を示した。今回ジャンボリーキ添加ソーセージ群では、AST,ALT活性およびALP活性の値の上昇が抑制されたことより、ジャンボリーキ添加ソーセージが肝障害に対しその機能低下を改善する効果を有していると推察された。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】ジャンボリーキ成分のHPLCクロマトグラムである。
【図2】ジャンボリーキ泡成分のHPLCクロマトグラムである。
【図3】ブタノール抽出法によるジャンボリーキ鱗片成分のLH−20カラム処理後の280nmにおける各フラクションの吸光度を示す。
【図4】ブタノール抽出法によるジャンボリーキ泡粉末成分のLH−20カラム処理後の280nmにおける各フラクションの吸光度を示す。
【図5】ブタノール抽出法によるジャンボリーキ鱗片成分のHPLCクロマトグラムである。
【図6】ブタノール抽出法によるジャンボリーキ泡粉末成分のHPLCクロマトグラムである。
【図7】ブタノール抽出法によるジャンボリーキ泡粉末成分カラム処理後フラクションNo.35のUVクロマトグラムである。
【図8】フラクションNo.35のピーク1のESIによるマススペクトルである。
【図9】フラクションNo.35のピーク2のESIによるマススペクトルである。
【図10】フラクションNo.35のピーク3のESIによるマススペクトルである。
【図11】フラクションNo.35のピーク4のESIによるマススペクトルである。
【図12】加水分解法によるジャンボリーキ糖のHPLCクロマトグラムである。
【図13】薄層クロマトグラフィー(TLC)によるジャンボリーキ糖の分析結果である。
【図14】酵素分解法によるジャンボリーキ糖のHPLCクロマトグラムである。
【図15】ジャンボリーキによるアルコール吸収抑制作用の検討の実験方法である。
【図16】ジャンボリーキ泡粉末によるエタノール吸収抑制作用を示す。
【図17】ジャンボリーキの糖尿病に対する予防効果の検討方法を示す。
【図18】ラットの体重量の経日変化を示す。
【図19】ラットの摂食量の経日変化を示す。
【図20】ラットの摂水量の経日変化を示す。
【図21】STZ処理ラットの血糖値に対するジャンボリーキ泡粉末の効果を示す。
【図22】STZ処理ラットのグルコース値に対するジャンボリーキ泡粉末の効果を示す。
【図23】STZ処理ラットの尿素窒素値に対するジャンボリーキ泡粉末の効果を示す。
【図24】STZ処理ラットのAST活性に対するジャンボリーキ泡粉末の効果を示す。
【図25】機能性食材添加ソーセージの組成を示す。
【図26】GalN処理ラットのALT活性に対するジャンボリーキ添加ソーセージの効果を示す。
【図27】GalN処理ラットのAST活性に対するジャンボリーキ添加ソーセージの効果を示す。
【図28】GalN処理ラットのLDH活性に対するジャンボリーキ添加ソーセージの効果を示す。
【図29】GalN処理ラットのALP活性に対するジャンボリーキ添加ソーセージの効果を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なカテキン誘導体及びその用途に関し、より詳細には、無臭ニンニク(英名:Jumbo Leek、和名:大粒ニラネギ)の有効成分として同定された新規なカテキン誘導体及びその医薬品、健康食品への用途に関する。
【背景技術】
【0002】
有臭ニンニクに比べ球根の大きさが数倍有り、茎の長さは160cm、根の長さは約2mにも達するジャンボリーキ(大粒ニラネギ)が知られている。本食材の形態はニンニクに類似しているが、染色体数とフレーバーが玉ねぎやニンニクとは異なり、リーキに一致することから、その学名はAllium ampeloprasum L.とされ、一般にはジャンボリーキ(大粒ニラネギ)と称される。このジャンボリーキを洗浄・粉砕して除菌・凍結乾燥した粉末ムシューリック(登録商標)PSIIは、大蔵製薬株式会社から販売され、ヒト又は小動物(マウス、ラット)に対し、生体防御機構の活性化作用、高脂血症軽減効果、抗酸化活性のあることが明らかにされている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
本発明者らは、ジャンボリーキの工業的加工プロセスにおいて多量に発生する泡成分の有効利用を目的として、この泡成分の生理作用を研究した結果、種々の肝障害を著しく改善する効果を見出している(例えば、特許文献1参照)。一般に、食品由来の泡成分にはサポニンが含まれることが知られている。サポニンは、植物界に広く分布している化合物の総称である。トリテルペン及びステロイド配糖体として検出されており、これらの配糖体の糖部分は水酸基が多いため親水性があり、アグリコン(非糖部)には親油性があるため、多くは界面活性作用を示す。サポニンの共通した性質には水溶液の気泡性があり、また、脂質の酸化抑制作用、肝障害防御活性等の生理作用が認められているが、大豆、アスパラガス、エレファントガーリック等のサポニンの含有量は数mg/kgと微量である。
【0004】
自然界では、大部分の糖質は多糖類(polysaccharides)として存在しており、多くのオリゴ糖や単糖あるいはそれらの誘導体は、これらの多糖類が酸あるいは各種の酵素によって加水分解を受けることにより生成する。多糖類には、ヒトの消化管で消化・吸収され、エネルギー貯蔵体や細胞壁の構成成分の役割をもつ多糖類と、ヒトの消化酵素で消化されにくい食物繊維の2種類がある。「第六の栄養素」と呼ばれる食物繊維はエネルギー源にならないが、動脈硬化や糖尿病の予防、ガンの予防といった食物繊維としての機能をもつ。このように多糖類は、生体調節機能の面からの研究も盛んに行われている。ジャンボリーキの71.9%は水分が占めており、炭水化物は20.7%である。従って、ジャンボリーキの炭水化物の乾燥物換算では74.6%となる。しかし、これまでの研究で、糖の種類は明らかにされていない。
【0005】
【特許文献1】特開2005−194216号公報
【非特許文献1】内田あゆみ、「天然ニンニク様植物(無臭ニンニク)の生体防御機構の活性化作用」、FOOD Style 21、1998年7月、第2巻、第7号、p.45−48
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ジャンボリーキ鱗片の工業的な洗浄工程で大量に発生する泡成分の有効利用が企図されているが、その化学物質としての構造は未だ明らかではない。本発明は、上記泡成分に含まれる有効成分を単離、精製し、その化学構造を決定して作用機序を明らかにすると共に、当該化合物を用いて種々の医薬品又は機能性食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは長野産無臭ジャンボリーキに含まれていると考えられる有効成分を探索するために、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による有効成分の分析や単離方法の検討を行い、精製した有効成分を高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC−MS)により分析した。また、ジャンボリーキ中から粗多糖を抽出し、糖の性質を調べると共に、加水分解法や酵素分解法を用い、薄層クロマトグラフィー(TLC)及びHPLCによりジャンボリーキ中に含まれる糖の分析を行った。その結果、ジャンボリーキ泡粉末から有効成分と考えられる下記の新規なカテキン誘導体を見出した。また、ジャンボリーキに含有される主要な糖としてイヌリンを同定した。本発明はこれらの結果に基づいてなされたものであって、少なくとも以下の発明を包含する。
【0008】
(1)ジャンボリーキ泡成分から単離され、下記式(I)〜(IV)で示される化合物の何れか1種のカテキン誘導体若しくはその塩、又はそれらの2種以上からなるカテキン誘導体混合物。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
【0011】
【化3】
【0012】
【化4】
【0013】
(2)上記(1)に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物と、生理的に許容しうる担体とを含む医薬組成物。
(3)有効量の上記(1)に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物を含むアルコール吸収抑制剤。
(4)有効量の上記(1)に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物を含むアルコール性肝障害予防治療剤。
(5)有効量の上記(1)に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物を含む血糖降下剤。
(6)上記(1)に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物とイヌリンとを有効成分として含む肝障害改善用及び/又は糖尿病改善用機能性食品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ジャンボリーキ中の有効成分の化学構造が明らかとなり、これらの有効成分の薬理効果や作用機序をより明らかにすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(新規カテキン誘導体)
本発明に係るカテキン誘導体は、上記(I)〜(IV)で示される化合物である。式(I)の化合物は、エピガロカテキンの3位と7位に酸素原子を介してイソカプリル酸と、プロトカテク酸がそれぞれ結合したものである(Epigallocatechin hydrate-3-O-isocaprylic acid-7-O-protocatechuic acid)。イソカプリル酸の末端カルボキシル基は塩の形態でも良い。式(II)の化合物は、カテキンの3位に2つのグルコースがβ配位で結合したものである(Catechin-3-O-β-D-glucopyranosyl-β-D-glucopyranoside)。式(III)の化合物は、エピガロカテキンの3位にアピゲニンが付加されたものである(Epigallocatechin-3-O-apigenin)。エピガロカテキン及びアピゲニンの水酸基は塩の形態であってもよい。式(IV)の化合物は、エピガロカテキンの3位にロイコシアニジンが付加したものである(Epigallocatechin hydrate-3-O-leucocyanidin)。上記化合物は何れも特定の水酸基がナトリウム、カリウム又はカルシウム等との塩の形態であってもよく、中でも1又は2ナトリウム塩が好ましい。これらのカテキン誘導体は1種又は2種以上の混合物の形態であってもよく、好ましくは4種類のカテキン誘導体を含む組成物が医薬又は機能性食品用途として適している。
【0016】
上記カテキン誘導体の製造方法としては、これらの化合物の構成単位であるカテキンやエピガロカテキン及びグルコース等は入手可能であり、これらをもとにして通常の有機合成方法にて製造することができるが、天然物、好ましくはジャンボリーキ泡成分から抽出することが好ましい。抽出、精製方法については特に制限はなく、溶媒抽出、液体クロマトグラフィー等公知の方法を組み合わせて行うことができる。
【0017】
(医薬組成物又は機能性食品組成物)
本発明に係るカテキン誘導体は、医薬組成物又は機能性食品組成物として投与又は摂取することができ、例えば錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、散剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、シロップ剤、液剤等として、経口的に安全に投与することができる。経口投与用製剤とするには、公知の方法に従い、有効成分であるサポニンを例えば、賦形剤(例、乳糖、白糖、デンプン等)、崩壊剤(例、デンプン、炭酸カルシウム等)、結合剤(例、デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース等)又は滑沢剤(例、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール 6000等)等を添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため公知の方法でコーティングすることにより経口投与製剤とすることができる。そのコーティング剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、ツイーン 80、プルロニック F68、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシメチルセルロースアセテートサクシネート、オイドラギット(ローム社製、ドイツ、メタアクリル酸・アクリル酸共重合)及び色素(例、ベンガラ、二酸化チタン等)等が用いられる。経口投与用製剤は速放性製剤、徐放性製剤のいずれであってもよい。あるいは、一般の飲食品の形態として摂取することができ、例えば、清涼飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料、ゼリー、菓子、ジャム、クリーム等の菓子類、かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産、畜産加工食品、その他種々の形態の健康、栄養補助食品等が考えられるがこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明の組成物を肝障害の予防治療剤として、又は糖尿病の予防改善剤として用いる場合の投与量は、患者の年齢、疾病の種類、程度などにより変動し、一概に規定することはできないが、一般成人に対して、経口投与の場合は、1日量0.1〜100g、好ましくは1〜10gである。非経口投与の場合は、1日量20〜1000mg、好ましくは50〜500mgであり、症状に応じて必要により1〜3回に分けて投与することが好ましい。
【0019】
(機能性食品としての用途)
ジャンボリーキは玉ねぎに似た臭気を持つため、肉類、例えばソーセージ等に添加することで肉の臭味を低下させることができる。また、上記カテキン誘導体及びジャンボリーキ中の糖の主要成分であるイヌリンは、肝障害に対してその機能低下を改善する効果及び高脂血症に対し予防効果を有しており、機能性食品又は健康補助食品としての開発が期待される。
【実施例】
【0020】
[実施例1]高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるジャンボリーキとジャンボリーキ泡成分の分析
1 実験材料および方法
1−1 実験材料
日本大学産ジャンボリーキは、日本大学生物資源科学部が所有する農場にて栽培し、2005年7月に収穫した鱗片を−20℃で保存したものを使用した。以下これを日本大学産ジャンボリーキとする。
【0021】
1−2 サンプルの調製
(1)ジャンボリーキ鱗片の調製
日本大学産ジャンボリーキ鱗片100gに70%メタノール100mlを加えてミキサー(BM−FT08−GA、象印マホービン株式会社、大阪)でホモジネートし、一晩放置後、濾過した。その溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し、フィルター濾過したものをHPLCに供した。
【0022】
(2)ジャンボリーキ泡粉末の調製
ジャンボリーキ鱗片1kgに純水1Lを加えミキサーで粉砕した。次に、ガーゼで濾過し、得られた濾液を加熱した。出てくる泡を柄杓で回収し、冷却後凍結乾燥して日本大学産ジャンボリーキ泡粉末を得た。収率は1.5%〜3%であった。ジャンボリーキ泡粉末3gに70%メタノール30mlを加え、(1)と同様の方法で調製し、HPLCに供した。
【0023】
1−3 HPLC分析条件
高速液体クロマトグラフ(C−R4A、株式会社島津製作所、京都)を使用し、ジャンボリーキ鱗片成分およびジャンボリーキ泡成分を分析した。
カラム:COSMOSIL(登録商標)5C18−MS−II(ナカライテスク株式会社、京都)5μm、4.6mm×250mm;
カラム温度:40℃
検出波長:280nm
分析時間:30分
サンプル注入量:10μl
流速:0.7ml/min
移動相:10%アセトニトリル+0.1%酢酸または、20%アセトニトリル+0.1%酢酸
【0024】
2 結果および考察
日本大学産ジャンボリーキのUVクロマトグラム(以下、「UVC」という。)を図1に示した。移動相に10%アセトニトリルを用いたところ、ピークの数が増え分離が良くなり、リテンションタイム8.15minにピークが検出された。日本大学産ジャンボリーキ泡粉末のUVCを図2に示した。先ほどと同様に移動相を変えて検討を行った。ジャンボリーキ鱗片と同様、10%アセトニトリルを用いたときに、リテンションタイム8.30minにピークを検出できた。
【0025】
また、抽出条件において、水、メタノール、エタノールの中では、メタノール抽出がより多い成分をジャンボリーキ中から抽出でき、50%、70%、100%メタノールの中では、70%メタノール抽出がリテンションタイム8.0min付近に大きなピークを検出できたことが判明した。
【0026】
[実施例2]ジャンボリーキ含有成分からカテキン化合物の分離
1 実験材料および方法
1−1 実験材料
日本大学産ジャンボリーキ鱗片および泡粉末は、実施例1と同様のものを用いた。
【0027】
1−2 サンプルの調製
ジャンボリーキ鱗片500gに70%メタノール800mlを加えミキサーですり潰し、一晩放置後、濾過した。その溶液をヘキサンで脱脂した。得られたメタノール層に水+水飽和ブタノールを加えて分配し、ブタノール層をロータリーエバポレーターで乾涸後、HPLC用100%メタノールに溶解し、フィルター濾過したものをLH−20カラムに供した。ジャンボリーキ泡粉末においても、同様の方法でサンプルを調製し、LH−20カラムに供した。
【0028】
1−3 カラムの条件
カラムはSephadex LH−20を用い、ジャンボリーキ鱗片ブタノール層および泡粉末ブタノール層をメタノールで流し、4mlずつ分画し、計50本分取した。そして、分光光度計(UVmini1240、株式会社島津製作所、東京)を用いて、各フラクションの280nmにおける吸光度を測定した。
−カラムの条件−
カラム:SephadexLH−20(ファルマシアバイオテク社、スウェーデン)
3cm×26.5cm
流速:2.0ml/min
溶出:100%メタノール
【0029】
1−4 液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)条件
高速液体クロマトグラフ(HP1100、ヒューレットパッカード株式会社、アメリカ)に質量分析計(AQA、サーモクエスト、東京)を接続したものを使用した。Sephadex LH−20カラムで精製したジャンボリーキ鱗片成分フラクションNo.28とジャンボリーキ泡成分フラクションNo.35をLC−MSにより分析した。
【0030】
−LC部−
カラム:InertsilODS−80A(ジーエルサイエンス株式会社、東京)
5μm,4.6mm×250mm;
カラム温度:40℃
検出波長:280nm
流速:0.7ml/min
溶出:10%アセトニトリル+0.1%酢酸
【0031】
−MS部−
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化(ESI)法positiveモード
スキャン範囲:m/z 0to1000
プローブ電圧:3.5kV
イオン化温度:350℃
【0032】
2 結果および考察
ブタノール抽出法によるジャンボリーキ鱗片成分およびジャンボリーキ泡粉末成分のLH−20カラム処理後の280nmにおける各フラクションの吸光度を、図3および図4に示した。LH−20カラム処理により、ブタノール層をさらに分画できた。ジャンボリーキ鱗片成分の各フラクションの中で、280nmにおいて、HPLCにより28番がジャンボリーキに含まれる有効成分を多く含有することが判明した。日本大学産ジャンボリーキ鱗片成分のブタノール抽出後のUVCと、ブタノール抽出後さらにLH−20カラムで精製したフラクション28番のUVCを図5に示した。ジャンボリーキ鱗片成分フラクション28番のUVCには、主要ピークが4本検出された。リテンションタイム3.187、4.034、5.771および8.548minをESIによりLC−MSで分析したが、解析不能であった。これは、ブタノール抽出の際、熱により有効成分が分解され、有効成分を検出できなかったことが考えられる。
【0033】
ジャンボリーキ泡粉末成分の各フラクションの中で280nmにおいて、HPLCにより17、23および35番がジャンボリーキに含まれる有効成分を多く含有することが判明した。しかしながら、17および23番のピークは、イオン化が困難であった。日本大学産ジャンボリーキ泡粉末のブタノール抽出後のUVCと、ブタノール抽出後さらにLH−20カラムで精製したフラクション35番のUVCを図6に示した。LH−20カラム処理で分離され、単一のピークを4本検出できた。また、LC−MSで測定したジャンボリーキ泡粉末成分フラクション35番のUVCを図7に示した。その結果、4本の主要ピークを確認できた。リテンションタイム5.03(ピークNo.1)、7.06(ピークNo.2)、15.68(ピークNo.3)および19.98min(ピークNo.4)のESIによるマススペクトルを図8〜11に示した。
【0034】
ピークNo.1においては、m/z=612.0に分子イオンピーク(C28H30O14Na)が、m/z=264.6に基準イオンピークが、またm/z=474.6にフラグメントイオンピークが認められた。したがって、本物質はEpigallocatechin hydrate-3-O-isocaprylic acid-7-O-protocatechuic acid+Naと推定した。したがって、観察されたマススペクトグラムの擬似分子イオンピークのフラグメントイオンへの開裂様式から、カテキンの基本骨格(m/z=290)の3位にイソカプリル酸、及び7位にプロトカテク酸が付加された分子構造を推定した(図8)。
【0035】
ピークNo.2においては、m/z=617.0に分子イオンピーク(C27H35O16)が、m/z=180.9に基準イオンピークが、またm/z=453.8にフラグメントイオンピークが認められた。したがって、本物質はCatechin-3-O-β-D-glucopyranosyl-β-D-glucopyranosideと推定した。したがって、観察されたマススペクトグラムの擬似分子イオンピークのフラグメントイオンへの開裂様式から、カテキンの基本骨格(m/z=290)にβ−D−ジグルコースが付加された分子構造を推定した(図9)。
【0036】
ピークNo.3においては、m/z=603.0に分子イオンピーク(C15H12O7Na)が、m/z=290.6に基準イオンピークが、またm/z=189.9にフラグメントイオンピークが認められた。したがって、本物質はEpigallocatechin-3-O-apigenin+2Naと推定した。したがって、観察されたマススペクトグラムの擬似分子イオンピークのフラグメントイオンへの開裂様式から、カテキンの基本骨格(m/z=290)にアピゲニンが付加された分子構造を推定した(図10)。
【0037】
ピークNo.4においては、m/z=657.2に分子イオンピーク(C28H26O14Na2)が、m/z=189.9に基準イオンピークが、またm/z=453.8にフラグメントイオンピークが認められた。したがって、本物質はEpigallocatechin hydrate-3-O-leucocyanidin+2Naと推定した。したがって、観察されたマススペクトグラムの擬似分子イオンピークのフラグメントイオンへの開裂様式から、カテキンの基本骨格(m/z=290)にロイコシアニジンが付加された分子構造を推定した(図11)。
【0038】
[実施例3]ジャンボリーキ含有糖の調製
1 実験材料および方法
1−1 実験材料
日本大学産ジャンボリーキは、実施例1と同様のものを用いた。
【0039】
1−2 サンプルの調製
日本大学産ジャンボリーキ鱗片500gに100%エタノールを加え、ミキサーでホモジネートし、石油エーテルを加え一晩放置後、濾過した。その残渣を4時間熱水抽出し、冷却後、濾過した。その溶液に4倍量の100%メタノールを加えて粗多糖を沈殿させた。沈殿物を乾燥させ、ミル(BM−FT08−GA、象印マホービン株式会社、大阪)で粉砕した。収率は0.4〜0.6%であった。以下これを日本大学産ジャンボリーキ含有糖とし、糖分析に供した。
【0040】
1−3 溶解性の検討
純水、メタノール、エタノールにジャンボリーキ糖を加え可溶化の測定を行った。
【0041】
1−4 糖度の測定
日本大学産ジャンボリーキをすり潰して溶液を分取し、手持屈折系糖業用(500型、株式会社アタゴ、東京)を用いて、ジャンボリーキ中の糖度を測定した。
測定範囲:0〜90%
最小目盛:0.2%
【0042】
2 結果および考察
得られた日本大学産ジャンボリーキ含有糖の収率は、0.4%〜0.6%であり、白色や黄土色を呈した。これは、皮の有無やサンプルの状況、大きさ等によって違いが生じるのだと考えられる。ジャンボリーキ含有糖は、水溶液中では可溶し透明に呈した。また、糖の量を増やすと白く濁り、粘り気を生じた。メタノール、エタノールにはほぼ不溶であり、糖は沈殿した。このことから、日本大学産ジャンボリーキ含有糖は水溶性であると考えられる。ジャンボリーキ中の糖度は23%であり、さくらんぼ(17%)やすいか(10%)など一般的に甘いとされている果物よりも高い数値を示した。比較としてニンニクの糖度を測定したところ33%を示し、ジャンボリーキと同様、鱗片中に多量の糖を含有することが判明した。ジャンボリーキよりも高い数値を示したのは、ニンニクの水分が少なかったためであると考えられる。
【0043】
[実施例4]ジャンボリーキ含有糖の分析
1 実験材料および方法
1−1 実験材料
日本大学産ジャンボリーキ及びジャンボリーキ泡粉末は、実施例1と同様のものを用いた。また、中国産有臭ニンニク、イヌリン(和光純薬工業株式会社、大阪)、イヌリナーゼ(和光純薬工業株式会社、大阪)も使用した。
【0044】
1−2 サンプルの調製
実施例3、1−2と同様の方法で、ジャンボリーキ中の糖を抽出した。また、中国産ニンニク含有糖においても、ジャンボリーキと同様の方法で調製した。
【0045】
1−3 加水分解法による糖の同定
(1)強酸による加水分解
ジャンボリーキ含有糖100mgに10N塩酸を5ml加えた。真空加水分解管に移して脱気し、ドライサーモバス(MG−2100、東京理化器械株式会社、東京)中で110℃、1,2,6,10時間加水分解を行った。分解後の溶液を水酸化ナトリウムで中和し、HPLCに供した。
(2)HPLC分析条件
高速液体クロマトグラフ(L−3300、株式会社日立製作所、東京)を使用し、加水分解前および加水分解1,2,6,10時間後のジャンボリーキ中の糖成分を分析した。
カラム:島津101N
カラム温度:40℃
流速:0.7ml/min
溶出:超純水装置:検出器(L−3300、株式会社日立製作所、東京)、ポンプ(LC−10AT、島津製作所、京都)、脱気装置(DGU−3A、島津製作所、京都)、カラムオーブン(CTO−10ARP、島津製作所、京都)、クロマトパック(C−R4AX、島津製作所、京都)
【0046】
1−4 酵素分解法による糖の同定
(1)イヌリナーゼによる酵素分解
サンプル:
(a)イヌリン50mg/ml:水に溶解
(b)イヌリン50mg/ml:水に溶解し、イヌリナーゼで反応させたもの
(c)ジャンボリーキ含有糖50mg/ml:水に溶解
(d)ジャンボリーキ含有糖50mg/ml:水に溶解し、イヌリナーゼで反応させたもの
(e)ニンニク含有糖50mg/ml:水に溶解
(f)ニンニク含有糖50mg/ml:水に溶解し、イヌリナーゼで反応させたもの
(g)泡粉末50mg/ml:水に溶解
(h)泡粉末50mg/ml:水に溶解し、イヌリナーゼで反応させたもの
(a)、(c)、(e)、(g)は、各試料50mgを水に溶解して調製した。(b)、(d)、(f)、(h)は、各試料50mgを水に溶解し、イヌリナーゼを添加し調製した。(a)〜(h)を恒温槽にて37℃で1時間酵素反応させた。1時間後、(a)〜(h)を恒温槽にて80℃で5分反応させ、酵素反応を停止させた。
【0047】
(2)薄層クロマトグラフィー(TLC)による糖の同定
固定相:Silica gel60(メルク株式会社、東京)
展開溶媒:クロロホルム:酢酸:水=30:35:5
発色剤:5%リンモリブデン酸
サンプル:1−3、(1)で調製した(a)〜(h)を用いた
サンプル(a)〜(h)は、薄層板Silica gel60にスポットし、クロロホルム:酢酸:水=30:35:5の展開溶媒で展開した。その後、5%リンモリブデン酸をスプレーし、180℃で加熱して発色させた。
【0048】
(3)HPLC分析条件
高速液体クロマトグラフ(L−3300、株式会社日立製作所、東京)を使用してサンプル(a)〜(d)中の糖成分を分析した。
カラム:島津101N
カラム温度:40℃
流速:0.7ml/min
溶出:超純水装置:検出器(L−3300、株式会社日立製作所、東京)、ポンプ(LC−10AT、島津製作所、京都)、脱気装置(DGU−3A、島津製作所、京都)、カラムオーブン(CTO−10ARP、島津製作所、京都)、クロマトパック(C−R4AX、島津製作所、京都)
【0049】
結果および考察
日本大学産ジャンボリーキ含有糖の加水分解前、加水分解1,2,6,10時間後のクロマトグラムを図12に示した。加水分解前と加水分解後のピークに変化がなく、また、時間毎の変化も見られなかった。このことから、ジャンボリーキ中には多量の多糖類を含有するのではないかと考えた。ニンニクには、イヌリンという水溶性で難消化性多糖類の多糖類を含むことが明らかにされている。そこで1−4では、イヌリンを分解するイヌリナーゼを用いて、TLC及びHPLCによりジャンボリーキ中に含まれている糖の分析を行った。
【0050】
未酵素分解および酵素分解したジャンボリーキ含有糖、ニンニク含有糖、ジャンボリーキ泡粉末およびイヌリンのTLC結果を図13に示した。酵素未分解のイヌリン(a)はRf値0を示し、酵素分解したイヌリン(b)はRf値0.30を示した。酵素未分解のジャンボリーキ含有糖(c)は展開されなかったのに対し酵素分解したジャンボリーキ含有糖(d)は展開され、Rf値は0.29を示した。この結果よりジャンボリーキ糖には、イヌリンを含有していることが判明した。また、比較として用いた酵素未分解のニンニク含有糖(e)は展開されなかったが、酵素分解したニンニク含有糖(f)にイヌリンのスポットが発見され、Rf値は0.29を示した。泡粉末においては、酵素未分解のジャンボリーキ泡粉末(g)は展開されなかったのに対し酵素分解したジャンボリーキ泡粉末(h)は展開され、Rf値は0.30を示した。泡粉末中にもイヌリンを含有することが判明した。しかし、(b)が酵素分解後、白濁の溶液が透明に呈したのに対し、(h)は酵素分解後も沈殿が生じた。この沈殿は、水に不溶で、メタノールに一部不溶だった。また、(h)はRf値0.30以外にも0.30〜1.00の間にスポットが検出された。これらのことから、ジャンボリーキ泡粉末中にはイヌリン以外にも、ビタミンE、ポリフェノールなどの成分を含有することが考えられる。
【0051】
HPLCで分析を行ったところ、(d)のリテンションタイム11.446minのピークが、(b)のリテンションタイム11.446minのピークと同じであると推察され、HPLCの結果からも、ジャンボリーキ糖には、イヌリンを含有していることが判明した(図14)。しかし、(d)は完全に酵素分解されなかった。使用した糖が完全に精製されなかったため、イヌリン以外の物質も含有するか、イヌリン以外の多糖類を含有するためであると考えられる。
【0052】
[実施例5]ジャンボリーキおよびジャンボリーキ泡粉末のアルコール吸収抑制作用
1 実験材料および方法
1−1 実験材料
日本大学産ジャンボリーキ泡粉末および長野県産無臭ジャンボリーキ粉末(商品名:ムシューリックパウダーPSII(大蔵製薬(株)ヘルスウェイ事業部、東京))を使用した。
【0053】
1−2 実験動物および飼育条件
6週齢のWistar系SPF雄性ラット(CLEA、東京)を一週間予備飼育した後実験に使用した。ラットは、温度22±1℃、湿度55±5%、光サイクルを12時間毎明暗という条件で流路にて飼育を行った。食餌は、マウス、ラット、ハムスター用飼育繁殖固形飼料CE−2(株式会社日本生物材料センター)を、飲料水は水道水をともに自由摂取させた。ただし、採血前18時間は絶食状態に保った。
【0054】
1−3 ラットへのエタノール投与
ジャンボリーキ泡粉末によるエタノール吸収抑制作用の検討の実験方法は、図15に示したように、40%エタノール1mlを胃ゾンデを用いて投与し、飲酒状態とした。日本大学産ジャンボリーキ泡粉末、クルクミンおよび長野県産無臭ジャンボリーキ粉末は、15mg/kgになるようにそれぞれ40%エタノール1mlに懸濁させ、胃ゾンデを用いて経口胃内投与した。ノーマル群には生理食塩水のみ、コントロール群には40%エタノールのみ経口胃内投与した。エタノール投与時間を0時間とし、1、2、4時間後にウレタン麻酔下で頚静脈より0.5ml採血した。各種血液サンプルに、0.33 mol/L過塩素酸を加え上清分離(4700G、15min)後、血中エタノール濃度の測定に供した。
【0055】
1−4 実験群の作製
動物は、次の4群、各4匹に分けて以下の方法で実施した。
第1群(ノーマル群:無処理群):生理食塩水のみを投与
第2群(コントロール群:エタノール投与群):40%エタノール1ml投与
第3群(泡粉末投与群):40%エタノール1ml投与+日本大学産ジャンボリーキ泡粉末15mg/kg投与
第4群(クルクミン投与群):40%エタノール1ml投与+クルクミン15mg/kg投与
第5群(PSII投与群):40%エタノール1ml投与+PSII15mg/kg投与
【0056】
1−5 測定方法
分光光度計(UVmini1240、島津、東京)を用いて、血中アルコール濃度を測定した。測定には、F−キットエタノール(J.K.インターナショナル、東京)を用いた。測定方法は、溶液A(二リン酸カリウム、NAD4mg、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(Al−DH)0.8U)3mlと10倍希釈した上清0.1mlを混和し、3分静置後340nmの波長で吸光度を測定した。これをE1とした。その後溶液B(アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)7000U)0.05mlと混和し、10分静置後340nmの波長で吸光度を測定した。これをE2とした。測定した値を、血中エタノール濃度E[g/L]=試料(E2−E1)−ブランク(E2−E1)×0.1152×8.98×10の計算式により血中エタノール濃度を測定した。
【0057】
2 結果および考察
エタノール投与ラットの血中エタノール濃度の経時変化を図16に示した。エタノール投与ラットと比べると、日本大学産ジャンボリーキ泡粉末およびPSIIはクルクミンと同様に、エタノール吸収を抑制した。40%エタノールを投与してから2時間後位からラットの血中エタノール濃度が減少した。よって、日本大学産ジャンボリーキ泡粉末およびPSIIは血中アルコール濃度の上昇を、軽減・緩和することが判明した。また、日本大学産のジャンボリーキ泡粉末でも長野県産のジャンボリーキ泡粉末でも同様の効果を示すことから、産地によって効果の生じ方に差異はないことが判明した。PSIIと日本大学産ジャンボリーキ泡粉末の効果の生じ方は、ほぼ同じように起こったことから、血中アルコール濃度の上昇を抑制している成分は、ほとんどジャンボリーキ中の泡成分中に含まれていると推察される。
【0058】
[実施例6]ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ラットに対するジャンボリーキおよびジャンボリーキ泡粉末の効果
1 実験材料および方法
1−1 実験材料
日本大学産ジャンボリーキ泡粉末および日本大学産ジャンボリーキ粉末(ムシューリックパウダーPSII、大蔵製薬株式会社ヘルスウェイ事業部、東京)を使用した。試薬においては、以下の通りに調製した。
0.9%生理食塩水
NaCl(和光純薬工業株式会社、大阪、特級)900mgに純水100mlを加えたものを0.9%生理食塩水とした。
10mmol/lクエン酸ナトリウム緩衝液
クエン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、大阪)177mgに純水60mlを加えた後0.1mol/l塩酸でpH4.0に調製した。
ネンブタール麻酔
25mgのペントバルビタール(和光純薬工業株式会社、大阪)を、20mlのプロピレングルコールと5mlエタノールで溶解後、純水で50mlにfill upした。
【0059】
1−2 実験動物および飼育条件
5週齢のWistar系SPF雄性ラット(日本クレア株式会社、東京)を一週間予備飼育した後、実験に使用した。ラットは、温度22±1℃、湿度55±5%、光サイクルを12時間毎明暗という条件で金網製個別ゲージにて飼育を行った。食餌は、マウス、ラット、ハムスター用飼育繁殖固形飼料CE−2(株式会社日本生物材料センター、東京)を、飲料水は水道水をともに自由摂取させた。ただし、採血前18時間は絶食状態に保った。
【0060】
1−3 STZ誘発糖尿病モデルの作製
STZ(シグマアルドリッチジャパン株式会社、東京)を10mmol/lクエン酸ナトリウムbufferに溶解し、腹腔内投与することにより糖尿病を誘発した。ノーマル群には同量の10mmol/lクエン酸ナトリウム緩衝液を投与した。
【0061】
1−4 実験群の作製
動物は以下の作成方法で実施した。
第1群(ノーマル群:無処理群):生理食塩水のみを投与
第2群(コントロール群:STZ群):STZ70mg/kg/ml投与
第3群(STZ処理+泡粉末100mg/kg/ml投与群):STZ70mg/kg/ml投与+泡粉末100mg/kg/ml投与
第4群(STZ処理+PSII100mg/kg/ml投与群):STZ70mg/kg/ml投与+PSII100mg/kg/ml投与
【0062】
STZ処理後の泡粉末投与実験の実験方法を図17に示した。すなわち、予備飼育後、試験−5日目にノーマル群以外の計3群に70mg/kgのSTZを腹腔内投与し、試験0日目より各サンプルを胃ゾンデにより用いて経口胃内投与した。日本大学産ジャンボリーキ泡粉末100mg/kg/mlおよびジャンボリーキ粉末(PSII)100mg/kg/mlは、生理食塩水に懸濁し、無処理群(ノーマル群)および対照群(コントロール群)には、生理食塩水のみをそれぞれ1ml与えた。試験14日後にネンブタール麻酔下で頸静脈より採血し、それぞれの血液サンプルは、血清分離(3000rpm、4℃、15min)後、各種成分の測定に供した。また、試験0日目、7日目、14日目に尾静脈より得た血液を得て、血糖値の測定に供した。体重は試験0日目より毎日一定時刻に測定し、摂食量および摂水量も毎日一定時刻に秤量した。
【0063】
1−5 測定方法
DEXTER−ZII(バイエルメディカル株式会社、ドイツ)を用いて血糖値を測定した。また、乾式臨床自動分析装置SPOTCHEMTMEZ(SP−4430、アークレイ株式会社、京都)を用いて、血清中の総コレステロール(T−Cho)、グルコース(Glu)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、尿素窒素(BUN)、および総ビリルビン(T−Bil)の5項目について測定した。なお、測定キットとしてスポットケムTMIIマルチ肝機能−2(アークレイ株式会社、京都)を用いた。
【0064】
2 結果および考察
ラット体重の経日変化を図18に示した。体重はいずれの群も経日とともに増加し、各群とともに順調な成長がみられた。群間での差は、STZ無処理群(ノーマル群)およびSTZ処理群(コントロール群、泡粉末群、PSII群)での差がみられ、STZ処理群は体重の増加が緩やかであった。糖尿病になると、インスリン欠乏により、脂肪動員の増加、タンパク質の分解促進、大量のブドウ糖の尿中排泄および水分喪失が生じ、体重減少に至る。ラットの摂食量の経日変化を図19示した。摂食量は、経日および群間での差にばらつきがみられたことから、いずれの飼料もラットに忌避されることなく十分に摂取されなかったと考えられた。本来インスリン欠乏状態では、背内側核中でブドウ糖の代謝が減少し、ブドウ糖がブドウ糖受容体細胞内に侵入できない。これにより血糖が少ないと感じ、実際は血糖が高いにもかかわらず空腹感が出現する。腹内側核中では、刺激の閾値の上昇し、満腹による摂食中止が不能になる。これらによって多食が生じる。
ラットの摂水量の経日変化を図20に示した。摂水量はいずれの群も経日とともに増加し、各群とともに順調な成長がみられた。群間での差は、STZ無処理群およびSTZ処理群での差がみられ、STZ処理群は摂水量が高かったことから、糖尿病の典型的な症状の一つである口渇・多飲を生じたと考えられる。また、多尿もみられた。インスリン作用不足により代謝異常が生じると、空腹時・食後の血糖値が上昇し、末梢組織で糖の利用が低下する。血中のブドウ糖は腎糸球体から多量に排泄する(血糖約180mg/dl以上になると尿糖として排泄)。尿の浸透圧が上昇し、多量の水分も排泄されることにより多尿(頻尿)が生じる。体内では脱水状態になり、視床下部の渇中枢が刺激され、口渇が生じる。
【0065】
STZ処理ラットの血糖値に対するジャンボリーキ泡粉末の変化を以下の表1、及び図21に示した。
【0066】
【表1】
【0067】
5週齢SPF Wistar系雄ラットにSTZを腹腔内投与させ(コントロール群)、生理食塩水を胃ゾンデで経口投与させると、STZ無処理群と比べ、血糖値が有意に上昇した。これに対し、STZ誘発ラットに泡粉末100mg/kgおよびPSII100mg/kgを経口投与すると、いずれも有意に血糖値を減少させ、ジャンボリーキ泡粉末およびPSIIが血糖値に予防効果を示すことが判明した。ブドウ糖が血液中に取り込まれると、すい臓から分泌されたインスリンが血液中のブドウ糖に働きかけ、エネルギーとして活用できるように細胞に取り込まれる。しかし、ストレスなどの環境的要因によりインスリン分泌が低下すると、血液中のブドウ糖はエネルギーに変わらず、次々に体内へ蓄積し、血糖値が上昇する。
【0068】
STZ処理ラットの血清中のGlu値、BUN値、およびAST活性の変化を以下の表2、及び図22〜24に示した。
【0069】
【表2】
【0070】
5週齢SPF Wistar系雄ラットにSTZを腹腔内投与させ(コントロール群)、生理食塩水を胃ゾンデで経口投与させると、STZ無処理群と比べ、血清中のGlu値、BUN値、およびAST活性が有意に上昇した。これに対し、STZ誘発ラットに泡粉末100 mg/kgを経口投与すると、いずれも有意に血清中のGlu値、BUN値、およびAST値を減少させ、ジャンボリーキ泡粉末が腎・肝障害および血糖値に予防効果を示すことが判明した。PSIIにおいては、Glu値およびBUN値の上昇に対し有意な抑制効果が見られたが、AST活性に対しては有意な抑制効果が見られなかった。また、この時点でT−Bil値、T−Cho値に著しい差が認められなかった。これらのことから、泡粉末およびPSIIは高脂血症にも両者投与量は関与しなかったものと推察された。
【0071】
[実施例7]ジャンボリーキ添加ソーセージの開発
1 実験材料および方法
1−1 実験材料およびソーセージ組成
日本大学産ジャンボリーキは、実施例1の実験材料と同様のものを用いた。ニンニクは、市販のニンニクを使用した。ジャンボリーキ泡粉末は、実施例1の1−2(2)と同様のものを用いた。ソーセージの組成は図25に示した。
【0072】
1−2 ソーセージ作製方法
ソーセージの作製方法は、塩せき肉、脂肪、調味料を混合後、バキュームミキサーで脱気し、羊腸に詰めた。これを燻製後、加熱・殺菌処理および冷却し、これをジャンボリーキ添加ソーセージとした。そのほか、ジャンボリーキ泡粉末およびニンニクにも同様に行った。
【0073】
1−3 官能検査
日本大学産ジャンボリーキ泡粉末0.2%添加ソーセージの官能検査をおこなった。男女約20名に、ジャンボリーキ泡粉末0.2%添加ソーセージを、ジャンボリーキ無添加ソーセージ(コントロール)とジャンボリーキ7%添加ソーセージそれぞれとの比較による味覚テストを行った。
【0074】
2 結果および考察
外観に関しては、ジャンボリーキ無添加、添加および泡粉末添加での違いはほぼないが、ニンニク添加では、ほかの二つより若干白色味を帯びていた。また、ジャンボリーキ泡粉末添加ソーセージの官能検査の評価を行った結果は、ジャンボリーキ7%添加ソーセージと比べると、違いがあらわれた。味や香りが改善され、くさみがなくなった。ノーマルソーセージとの差がほとんどなく、ほとんどのひとは味や香りの違いを感じることができなかった。ノーマルソーセージとの評価がほぼ変わらなかったので、添加しても変わらないということを商品価値ととらえて、今後健康補助食品として、商品化が期待できる。
【0075】
[実施例8]ジャンボリーキ添加ソーセージ投与によるD−GalN誘発肝障害ラットの効果
1 実験材料および方法
1−1 実験材料
実施例7で作成した日本大学産ジャンボリーキ添加したソーセージを用いた。
【0076】
1−2実験動物および飼育条件
5週齢のWistar系SPF雄性ラット(CLEA、東京)を実験に使用した。ラットは、温度22±1℃、湿度55±5%、光サイクルを12時間毎明暗という条件で金網製個別ゲージにて飼育を行った。食餌は、午前中にマウス、ラット、ハムスター用飼育繁殖固形飼料CE−2(株式会社日本生物材料センター)を与え、夕方にソーセージ(第一群には午前中と同様の固形試料)10gを2週間与えた。飲料水は水道水をともに自由摂取させた。ただし、採血前18時間は絶食状態に保った。
【0077】
1−3 GalN誘発肝障害モデルの作製15)
GalNとしてD−ガラクトサミン塩酸塩(シグマアルドリッチ、東京)を用い、生理食塩水に溶解後、1NのNaOHで中和、滅菌フィルターで濾過し、注射液を調製した。GalNは700mg/kgを各群6匹のラットに1mlを腹腔内投与した。GalN投与を0時間とし、48時間後にネンブタール麻酔下で頸静脈より採血し、それぞれの血液サンプルは、血清分離(4700G、4℃、15min)後、各種酵素活性の測定に供した。
【0078】
1−4実験群の作製
動物は、次の4群、各6匹に分けて以下の方法で実施した。
第1群:ソーセージ無投与群 (GalN無投与)
第2群:ソーセージ無投与群 (GalN投与)
第3群:ノーマルソーセージ投与群 (GalN投与)
第4群:ジャンボリーキ添加ソーセージ投与群(GalN投与)
【0079】
1−5 測定方法
乾式臨床自動分析装置SPOTCHEMTMEZ(SP−4430、アークレイ株式会社、京都)を用いて、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)と、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)、乳酸脱水素酵素(LDH)、アルカリホスファターゼ(ALP)活性を測定した。なお、測定キットとして、スポットケムTMIIマルチ肝機能−2(アークレイ株式会社、京都)を用いた。
【0080】
2 結果および考察
ラットのAST活性、ALT活性、LDH活性、ALP活性の変化に対するジャンボリーキおよび泡粉末添加ソーセージの効果を以下の表3及び図26〜29に示した。
【0081】
【表3】
【0082】
GalN投与により、48時間後に、コントロール群はノーマルソーセージ投与群に比べてALT、AST活性が有意に上昇した。この上昇に対して、ジャンボリーキ添加ソーセージ投与群は、有意な抑制効果が見られた。GalN肝障害の発生機序としては、GalNが肝細胞内においてuridinediphosphate−Glucose(UDP−Glucose)を消費してuridine diphosphate Galactosamine (UDP−GalN)を生成することにより細胞内に蓄積されたuridine triphospate(UTP)が減少し、欠乏する。これに伴いRNA合成低下、タンパク合成阻害が生じ、さらに糖、脂質代謝障害も加わり、肝細胞膜障害から細胞壊死を惹起させるといわれている。(Keppler et al.,1970)。このような直接的な肝細胞障害に加えGalN肝障害の発生には、腸管由来のエンドトキシンが重要な役割を果たしており、ガラクトサミンによって惹起された肝細胞膜障害に、エンドトキシン血症血中の肝細胞障害因子の作用が加わって、GalN肝障害が発生、進展するとされている。(岩城ら、1988)。すなわち、エンドトキシンによって肝マクロファージが活性化され、それによって生産される腫瘍壊死因子(TNF)やインターロイキン1(IL−1)などのサイトカイニン、ロイコトリエンD4などの関与が重要視されてきている。このように、肝臓はGalNにより直接的な障害を受ける。この障害により、ASTおよびALTは血液中に流出するので、血清中にこれら酵素の高い活性が認められるようになる。AST,ALT活性は、両方とも肝臓や心筋、骨格筋、腎臓の細胞に存在するが、特に肝細胞の破壊がおこると、血液中の値が高くなる。急性肝炎や慢性肝炎では、AST,ALT活性が共に高くなるが、ALT活性の方が敏感に反応するため、ASTの値よりもALTの値の方がより高くなることが多い。今回ジャンボリーキ投与群は、血清ASTおよびALT活性の上昇が抑制されたことより、ジャンボリーキ添加ソーセージは、肝障害に対しその機能低下を改善する効果を有していると推察された。
【0083】
LDH(乳酸脱水素酵素)は、ブドウ糖からエネルギーを産生するために行われる解糖系の最終段階の酵素である。生体内では腎臓に最も多量に存在し、骨格筋や、肝臓・心筋・膵臓・肺・脾臓などの細胞に含まれる。肝臓に障害が生じると、AST,ALTの上昇と共に高くなる。今回の実験では、LDH活性は、有意な差はみられず、GalN投与により、48時間後に、コントロール群はノーマルソーセージ投与群に比べて上昇傾向がみられた。この上昇に対して、ジャンボリーキ添加ソーセージ投与群は、抑制傾向が見られた。ALP活性は、GalN投与により、48時間後に、コントロール群はノーマルソーセージ投与群に比べて有意に上昇した。この上昇に対して、ジャンボリーキ添加ソーセージ群は、優位に抑制効果を示した。今回ジャンボリーキ添加ソーセージ群では、AST,ALT活性およびALP活性の値の上昇が抑制されたことより、ジャンボリーキ添加ソーセージが肝障害に対しその機能低下を改善する効果を有していると推察された。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】ジャンボリーキ成分のHPLCクロマトグラムである。
【図2】ジャンボリーキ泡成分のHPLCクロマトグラムである。
【図3】ブタノール抽出法によるジャンボリーキ鱗片成分のLH−20カラム処理後の280nmにおける各フラクションの吸光度を示す。
【図4】ブタノール抽出法によるジャンボリーキ泡粉末成分のLH−20カラム処理後の280nmにおける各フラクションの吸光度を示す。
【図5】ブタノール抽出法によるジャンボリーキ鱗片成分のHPLCクロマトグラムである。
【図6】ブタノール抽出法によるジャンボリーキ泡粉末成分のHPLCクロマトグラムである。
【図7】ブタノール抽出法によるジャンボリーキ泡粉末成分カラム処理後フラクションNo.35のUVクロマトグラムである。
【図8】フラクションNo.35のピーク1のESIによるマススペクトルである。
【図9】フラクションNo.35のピーク2のESIによるマススペクトルである。
【図10】フラクションNo.35のピーク3のESIによるマススペクトルである。
【図11】フラクションNo.35のピーク4のESIによるマススペクトルである。
【図12】加水分解法によるジャンボリーキ糖のHPLCクロマトグラムである。
【図13】薄層クロマトグラフィー(TLC)によるジャンボリーキ糖の分析結果である。
【図14】酵素分解法によるジャンボリーキ糖のHPLCクロマトグラムである。
【図15】ジャンボリーキによるアルコール吸収抑制作用の検討の実験方法である。
【図16】ジャンボリーキ泡粉末によるエタノール吸収抑制作用を示す。
【図17】ジャンボリーキの糖尿病に対する予防効果の検討方法を示す。
【図18】ラットの体重量の経日変化を示す。
【図19】ラットの摂食量の経日変化を示す。
【図20】ラットの摂水量の経日変化を示す。
【図21】STZ処理ラットの血糖値に対するジャンボリーキ泡粉末の効果を示す。
【図22】STZ処理ラットのグルコース値に対するジャンボリーキ泡粉末の効果を示す。
【図23】STZ処理ラットの尿素窒素値に対するジャンボリーキ泡粉末の効果を示す。
【図24】STZ処理ラットのAST活性に対するジャンボリーキ泡粉末の効果を示す。
【図25】機能性食材添加ソーセージの組成を示す。
【図26】GalN処理ラットのALT活性に対するジャンボリーキ添加ソーセージの効果を示す。
【図27】GalN処理ラットのAST活性に対するジャンボリーキ添加ソーセージの効果を示す。
【図28】GalN処理ラットのLDH活性に対するジャンボリーキ添加ソーセージの効果を示す。
【図29】GalN処理ラットのALP活性に対するジャンボリーキ添加ソーセージの効果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャンボリーキ泡成分から単離され、下記式(I)〜(IV)で示される化合物の何れか1種のカテキン誘導体若しくはその塩、又はそれらの2種以上からなるカテキン誘導体混合物。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【請求項2】
請求項1に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物と、生理的に許容しうる担体とを含む医薬組成物。
【請求項3】
有効量の請求項1に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物を含むアルコール吸収抑制剤。
【請求項4】
有効量の請求項1に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物を含むアルコール性肝障害予防治療剤。
【請求項5】
有効量の請求項1に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物を含む血糖降下剤。
【請求項6】
請求項1に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物とイヌリンとを有効成分として含む肝障害改善用及び/又は糖尿病改善用機能性食品。
【請求項1】
ジャンボリーキ泡成分から単離され、下記式(I)〜(IV)で示される化合物の何れか1種のカテキン誘導体若しくはその塩、又はそれらの2種以上からなるカテキン誘導体混合物。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【請求項2】
請求項1に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物と、生理的に許容しうる担体とを含む医薬組成物。
【請求項3】
有効量の請求項1に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物を含むアルコール吸収抑制剤。
【請求項4】
有効量の請求項1に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物を含むアルコール性肝障害予防治療剤。
【請求項5】
有効量の請求項1に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物を含む血糖降下剤。
【請求項6】
請求項1に記載のカテキン誘導体若しくはその塩又はそれらの混合物とイヌリンとを有効成分として含む肝障害改善用及び/又は糖尿病改善用機能性食品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2008−195622(P2008−195622A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29690(P2007−29690)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本食品科学工学会第53回大会事務局発行 「日本食品科学工学会第53回大会講演集」 発行日:平成18年8月28日
【出願人】(597087804)大蔵製薬株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本食品科学工学会第53回大会事務局発行 「日本食品科学工学会第53回大会講演集」 発行日:平成18年8月28日
【出願人】(597087804)大蔵製薬株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
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