説明

新規化合物及びその用途

【課題】 海洋生物より分離された新規化合物又はそのエステル或いはその塩及びそれらを有効成分として含有する抗酸化剤及び/又は抗癌剤を提供する。
【解決手段】 式(1)、(2)等で表される化合物又はそのエステル或いはその塩及びそれらを有効成分として含有する抗酸化剤及び/又は抗癌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋生物より分離された新規化合物又はそのエステル或いはその塩及びその用途に関する。
詳細には、上記化合物又はそのエステル或いはその塩を含有する、抗酸化作用が有効な種々の疾病及び癌に対する有効な予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、多くの生物は好気的条件下、例えば大気中、大気が流通する地中、大気が溶け込んだ水中等で生息している。この種の生物は大気中の酸素による酸化作用を利用して生存のためのエネルギーを得ているので、生存上酸素は必要不可欠である。しかしながら、生体内での酸素の利用に際し、反応性の高い、すなわち生体にとって毒性の高い分子種(活性酸素種)が生体内に生じる。そのために生体は、活性酸素種の生成を抑制することができ、または生成した活性酸素種を消去することができる自己防御機構を有している。
【0003】
しかしながら、生体内での活性酸素種の生成抑制および消去は、これらを行う自己防御機構の微妙なバランスの下で可能であり、種々の原因で前記バランスが崩れると、生体成分が活性酸素種によって酸化傷害を受ける。生体内における活性酸素種の標的は、脂質、核酸、蛋白などが主なものであり、これらが傷害を受けると種々の疾病が引き起こされる。すなわち、生体内に生じた活性酸素種は種々の疾病、例えば、精神分裂症、躁鬱病などの脳障害、成人性呼吸窮迫症候群、動脈硬化、高血圧症、血栓症などの循環器障害、腎炎、腎不全などの腎障害、アルコール性肝炎、肝硬変などの肝障害、白内障、抹消神経障害などの糖尿病合併症、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化管障害、その他慢性関節リウマチ、発癌、老化促進、紫外線障害にも関与することが分かっている。これらの種々の疾病の原因の一つである活性酸素種を消去することが疾病の予防及び治療に重要である。そのために活性酸素種を消去することができる抗酸化剤の利用に期待が寄せられている。
【0004】
従来、抗酸化剤は、一般的に化粧品や食品に含有される油脂成分の酸化による変質を防止するため、化粧品や食品に適量配合される。抗酸化剤としては、合成抗酸化剤、天然抗酸化剤またはこれらの組み合わせを用いることができる。例えば、合成抗酸化剤としては、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)やジブチルヒドロキシアニソールなどが用いられ、天然抗酸化剤としては、アスコルビン酸、トコフェロールなどが用いられる。前記のBHTなどの従来の合成抗酸化剤は、抗酸化能はすぐれているものの、安全性の面で問題が少ない天然抗酸化剤は、化粧品や食品への応用は期待できるものの、一般的に生体内での効力は低い。このような現状から、生体に対して有効且つ安全な医薬品としての抗酸化剤の開発が望まれている。
【0005】
一方、従来より、抗癌剤を用いる化学療法は、外科的治療や放射線療法とともに癌の治療法として重要な位置を占め、種々の抗癌剤が提供されている。抗癌剤の中には、アドリアマイシン、マイトマイシン、ブレオマイシン、ビンクリスチン等の天然物に由来する抗癌剤が数多く知られている。しかしながら、これまでの抗癌剤は必ずしも満足のいかない治療成績の点や重篤な副作用の点で問題が残っているばかりか多剤耐性の問題などもあるため、更により優れた抗癌剤の出現が求められている。これまでにない新規な構造を有する化合物は新たな作用機構を示し、より有効で、より副作用の少ない薬剤となる可能性が高い。またその作用機構により、抗癌剤以外の医薬としての効果も期待できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた抗酸化作用及び抗癌作用を有する天然由来の新規化合物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、海洋生物より分離された新規化合物が、抗癌作用及び抗酸化作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、
1. 式(1)、(2)、(3)又は(4)
【化1】

【化2】

で表される化合物又はそのエステル或いはその塩、
2. 1.に記載の化合物又はそのエステル或いはその塩を有効成分として含有する医薬、
3. 1.に記載の化合物又はそのエステル或いはその塩を有効成分として含有する抗酸化剤、
4. 1.に記載の化合物又はそのエステル或いはその塩を有効成分として含有する抗癌剤、及び
5. 1.に記載の化合物又はそのエステル或いはその塩を有効成分として含有する脳障害、循環器障害、腎障害、肝障害、糖尿病合併症、消化管障害、慢性関節リウマチ、癌、
老化促進又は紫外線障害の予防或いは治療剤に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の新規化合物又はそのエステル或いはその塩は、優れた抗酸化作用及び抗癌作用を有し、医薬品又はその関連品として有効利用することができる。また、本発明の新規化合物は、天然に大量に存在する海藻、例えばホンダワラ科の海藻トゲモクから容易に充分な量を得ることができる。前記の海藻トゲモクは、これまで利用されていないため、資源も豊富であり、また、必要であれば大量生産することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の化合物又はそのエステル或いはその塩は、以下に示す式(1)、(2)、(3)又は(4)
【化3】

【化4】

で表される化合物又はそのエステル或いはその塩である。
式(1)、(2)、(3)又は(4)で表される化合物は、海洋生物から分離することにより得ることができる。海洋生物の具体例としては、ホンダワラ科に属する海藻トゲモクが挙げられ、分離方法としては、抽出が挙げられる。
抽出方法としては、温水又は有機溶媒での抽出が挙げられ、好ましくは有機溶媒による抽出が挙げられる。
使用する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、酢酸エチル、アセトニトリル、クロロホルム及び上述の2種以上の混合溶媒が挙げられる。抽出率を高めるために抽出工程を2回以上繰り返すのが好ましい。また、抽出工程を2回以上繰り返す場合、各抽出工程に使用する溶媒は同一又は異なっていてもよい。抽出に用いる海洋生物は新鮮なもの又は乾燥したものを用いることができる。得られた抽出溶液から溶媒を留去するために、例えば、遠心分離機又は回転式蒸発濃縮機のような分離、濃縮手段を用いることができる。
【0010】
これらの工程を経て得られた抽出物は、直接、食品、化粧品、医薬品などの多様な用途に使用することができるが、必要に応じて抽出物をエタノール等の有機溶媒に溶解し、これに溶解しない物質を除去するか、或いは極性の異なる溶媒に溶解し、分画するすることにより精製することができる。更に精製する場合は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどにより、精製し、式(1)、(2)、(3)又は(4)で表される化合物をそれぞれ単離することができる。
【0011】
式(1)、(2)、(3)又は(4)で表される化合物のエステルとしては、各化合物の有する水酸基をアシル化することにより製造することができるが、水酸基を2つ以上有する化合物におけるアシル化される水酸基の数は、有する水酸基の数の範囲内で任意に選ぶことができ、アシル化される水酸基の部位も任意に選ぶことができる。
具体的なエステルの種類としては、化合物の水酸基がアセチル化、パルミトイル化、プロパノイル化、ピバロイル化、スクシニル化、フマリル化、アラニル化及びジメチルアミノメチルカルボニル化されているものが挙げられ、水酸基を2つ以上有する化合物で2箇所以上がエステル化されている場合、各エステルは同一又は異なっていてもよい。
【0012】
上述のエステルは、式(1)、(2)、(3)又は(4)で表される化合物を公知のエステル化の条件で反応することにより製造することができる。
具体的には、塩基の存在下、式(1)、(2)、(3)又は(4)で表される化合物とハロゲン化アシル又は酸無水物を反応させることにより製造することができる。
塩基としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウム等の無機塩基、トリエチルアミン、ピリジン及びコリジン等の有機塩基等が挙げられる。
尚、上述のエステルは、プロドラッグとして使用することもできる。
【0013】
式(1)、(2)、(3)又は(4)で表される化合物又はそのエステルの塩としては、例えば金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩等が挙げられる。金属塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩等が挙げられる。有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6−ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'−ジベンジルエチレンジアミン等との塩が挙
げられる。無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩が挙げられる。有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等との塩が挙げられる。塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチン等との塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸等との塩が挙げられる。
【0014】
このうち、薬学的に許容し得る塩が好ましい。例えば、化合物内に酸性官能基を有する場合にはアルカリ金属塩(例、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例
、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩等)等の無機塩、アンモニウム塩等が、また、化合物内に塩基性官能基を有する場合には、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等無機酸との塩、または酢酸、フタル酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸との塩が好ましい。
【0015】
本発明の化合物又はそのエステル或いはその塩は、その抗酸化作用(例えば、抗脂質過酸化作用)に基づき、医療分野では、例えば精神分裂症、躁鬱病などの脳障害、成人性呼吸窮迫症候群、動脈硬化、高血圧症、血栓症などの循環器障害、腎炎、腎不全などの腎障害、アルコール性肝炎、肝硬変などの肝障害、白内障、抹消神経障害などの糖尿病合併症、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化管障害、その他慢性関節リウマチ、癌、老化促進、紫外線障害に対する予防又は治療薬として有用である。
【0016】
本発明の化合物又はそのエステル或いはその塩は、紫外線障害予防薬として、日焼け防止、香粧品(例えば、ローション、エッセンス、乳液、クリーム、ハップ剤、ペースト剤、ゲル剤、パウダー、ファンデーション、化粧水、パック剤などの化粧品、石鹸、洗顔料、ボディーソープなどの皮膚洗浄剤、シャンプー、リンス、ヘアートニック、養毛剤などのヘアケア製品、浴剤、美白剤、UVケア製品等)、化粧品(例えば、クリーム、乳液、ローション、洗顔料、パック等の基礎化粧料、口紅、ファンデーション等のメイクアップ化粧料、ボディソープ、石鹸等に適用することができる。また、頭髪に関するヘアートニック、ヘアーリキッド、ヘアーセットローション、ヘアーブロー剤、ヘアークリーム、ヘアーコート等のヘアー製品やシャンプー、リンス、ヘアートリートメント等の頭髪用トイレタリー等のヘアーケア製品等)などの有効成分としても利用することができる。
【0017】
更に、本発明の化合物又はそのエステル或いはその塩は、安全性の高い抗酸化剤として、各種の飲食物、例えば、レトルト食品、缶詰、瓶詰、練り物、乾燥食品、粉末食品、加工食品、燻製食品、パン類、ご飯類、飲料品、酒類、菓子類などに広く適用可能である。
【0018】
また、本発明の化合物又はそのエステル或いはその塩は、その抗癌作用に基づき、癌(例、大腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、結腸癌、脳腫瘍、血液腫瘍など)の予防薬又は治療薬として有用であり、特に結腸癌の予防薬又は治療薬として有用である。
【0019】
本発明は、式(1)、(2)、(3)又は(4)で表される化合物又はそのエステル或いはその塩の有効量を含有する医薬組成物又は獣医薬組成物を提供する。
本発明の化合物又はそのエステル或いはその塩の投与形態としては、注射剤(皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内注射)、軟膏剤、坐剤、エアゾール剤等による非経口投与又は錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁液剤等による経口投与をあげることができる。
本発明の化合物又はそのエステル或いはその塩を含有する上記の医薬的又は獣医薬的組成物は、全組成物の重量に対して、本発明に係る化合物を約0.01〜99.5%、好ましくは、約0.1〜30%を含有する。
【0020】
本発明の化合物又はそのエステル或いはその塩に又は該化合物又はそのエステル或いはその塩を含有する組成物に加えて、他の医薬的に又は獣医薬的に活性な化合物を含ませることができる。
また、これらの組成物は、本発明の化合物又はそのエステル或いはその塩の複数を含ませることができる。
本発明の化合物又はそのエステル或いはその塩の臨床的投与量は、年令、体重、患者の感受性、症状の程度等により異なるが、通常効果的な投与量は、成人一日0.003〜1.5g、
好ましくは、0.01〜0.6g程度である。しかし必要により上記の範囲外の量を用いること
もできる。
本発明の化合物又はそのエステル或いはその塩は、製薬の慣用手段によって投与用に製剤化される。
【0021】
即ち、経口投与用の錠剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤は、賦形剤、例えば白糖、乳糖、ブドウ糖、でんぷん、マンニット;結合剤、例えばヒドロキシプロピルセルロース、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガント、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン;崩壊剤、例えばでんぷん、カルボキシメチルセルロース又はそのカルシウム塩、微結晶セルロース、ポリエチレングリコール;滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸マグネシウム又はカルシウム、シリカ;潤滑剤、例えばラウリル酸ナトリウム、グリセロール等を使用して調製される。
注射剤、液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤及びエアゾール剤は、活性成分の溶剤、例えば水、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、1,3−ブチ
レングリコール、ポリエチレングリコール;界面活性剤、例えばソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、水素添加ヒマシ油のポリオキシエチレンエーテル、レシチン;懸濁剤、例えばカルボキシメチルナトリウム塩、メチルセルロース等のセルロース誘導体、トラガント、アラビアゴム等の天然ゴム類;保存剤、例えばパラオキシ安息香酸のエステル、塩化ベンザルコニウム、ソルビン酸塩等を使用して調製される。
経皮吸収型製剤である軟膏には、例えば白色ワセリン、流動パラフィン、高級アルコール、マクロゴール軟膏、親水軟膏、水性ゲル基剤等が用いられる。
坐剤は、例えばカカオ脂、ポリエチレングリコール、ラノリン、脂肪酸トリグリセライド、ココナット油、ポリソルベート等を使用して調製される。
【0022】
本発明の化合物又はそのエステル或いはその塩を含有する製剤例を以下に示す。
製剤例1
錠剤
本発明化合物 10g
乳 糖 260g
微結晶セルロース 600g
コーンスターチ 350g
ヒドロキシプロピルセルロース 100g
CMC−Ca 150g
ステアリン酸マグネシウム 30g
全 量 1,500g
上記成分を常法により混合したのち1錠中に1mgの活性成分を含有する糖衣錠10,000錠を製造する。
製剤例2
カプセル剤
本発明化合物 10g
乳 糖 440g
微結晶セルロース 1,000g
ステアリン酸マグネシウム 50g
全 量 1,500g
上記成分を常法により混合したのちゼラチンカプセルに充填し、1カプセル中に1mgの活性成分を含有するカプセル剤10,000カプセルを製造する。
製剤例3
軟カプセル剤
本発明化合物 10g
PEG400 479g
飽和脂肪酸トリグリセライド 1,500g
ハッカ油 1g
ポリソルベート(Polysorbate)80 10g
全 量 2,000g
上記成分を混合したのち常法により3号軟ゼラチンカプセルに充填し、1カプセル中に1mgの活性成分を含有する軟カプセル剤10,000カプセルを製造する。
製剤例4
軟膏
本発明化合物 1.0g
流動パラフィン 10.0g
セタノール 20.0g
白色ワセリン 68.4g
エチルパラベン 0.1g
l−メントール 0.5g
全 量 100.0g
上記成分を常法により混合し、1%軟膏とする。
製剤例5
坐剤
本発明化合物 1g
ウィッテップゾールH15* 478g
ウィッテップゾールW35* 520g
ボリソルベート(Polysorbate)80 1g
全 量 1,000g
「* トリグリセライド系化合物の商標名
ウィッテップゾール=Witepsol」
上記成分を常法により溶融混合し、坐剤コンテナーに注ぎ冷却固化して1mgの活性成分を含有する1g坐剤1,000個を製造する。
製剤例6
注射剤
本発明化合物 1mg
注射用蒸留水 5mL
用時、溶解して用いる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳述するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
実施例1:化合物(1)及び(2)の抽出、精製
採集したホンダワラ科の海藻トゲモク(学名:Sargassum micracanthum)2.3kgをメタノール抽出(3L×3回)し、溶媒を留去して、メタノール抽出物(442g)を得た。この抽出物にクロロホルム−メタノール混合液(3:1)を加えて、塩類等の不純物を沈殿除去し、溶媒を留去して濃縮した。この油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(4/1、2/1、1/1)、メタノール)で分離し、2画分(A1、A2)を得た。A1(39.6g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(4/1、2/1、1/1)、酢酸エチル、メタノール)で分離し、4画分(A1−1〜A1−4)を得た。A1−2(2.67g)を逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:メタノール/水(5/1、8/1)、メタノール/アセトン(3/1))で分離し、3画分(A1−2−1、A1−2−2、A1−2−3)を得た。画分A1−2−1についてシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(4/1、3/1、1/
1)、酢酸エチル)を行い、4画分(A1−2−1−1〜A1−2−1−4)を得た。画分A1−2−1−3を中圧液体クロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル(3/1))で精製し、化合物(1)8.0mg、化合物(2)10.7mgを得た。
【0024】
実施例2:化合物(1)及び(2)の化学構造解析
実施例1で得られた化合物(1)の性質を以下に示す。化合物(1)は、高分解能電子衝撃質量分析(HREIMS)から分子式は、C27384であることが判った。また、
赤外線吸収スペクトルの測定では、(フィルム(film))Vmax 1645、171
0であった。1H−NMRスペクトル(CDCl3)、及び13C−NMRスペクトル(CDCl3)を表1に示した。これらの結果より、化合物(1)の構造は、式(1)で表され
る化合物であることを確認した。
また、実施例1で得られた化合物(2)の性質を以下に示す。化合物(2)は、高分解能電子衝撃質量分析(HREIMS)から分子式は、C27404であることが判った。
また、赤外線吸収スペクトルの測定では、(フィルム(film))Vmax 1710(
カルボニル基)であった。1H−NMRスペクトル(CDCl3)、及び13C−NMRスペクトル(CDCl3)を表2に示した。これらの結果より、化合物(2)の構造は、式(
2)で表される化合物であることを確認した。
【表1】

【表2】

【0025】
実施例3:化合物(3)及び(4)の抽出、精製
実施例1で得られた画分A−1−2−3についてシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/アセトン(8/1、6/1、4/1)、アセトン)、逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:メタノール/水(19/1)、アセトン)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/アセトン(5/1、3/1)、アセトン)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/アセトン(4/1、5/2)、アセトン)で順次分離精製し、化合物(3)及び(4)を得た。
【0026】
実施例4:化合物(3)及び(4)の化学構造解析
実施例3で得られた化合物(3)の性質を以下に示す。化合物(3)は、高分解能電子
衝撃質量分析(HREIMS)から分子式は、C45745であることが判った。また、
赤外線吸収スペクトルの測定では、(フィルム(film))Vmax 3460、174
0、1655であった。1H−NMRスペクトル(CDCl3)、及び13C−NMRスペクトル(CDCl3)を表3に示した。これらの結果より、化合物(3)の構造は、式(3
)で表される化合物であることを確認した。
また、実施例3で得られた化合物(4)の性質を以下に示す。化合物(4)は、高分解能電子衝撃質量分析(HREIMS)から分子式は、C45765であることが判った。
また、赤外線吸収スペクトルの測定では、(フィルム(film))Vmax 3460、
1739、1655であった。1H−NMRスペクトル(CDCl3)、及び13C−NMRスペクトル(CDCl3)を表4に示した。これらの結果より、化合物(4)の構造は、
式(4)で表される化合物であることを確認した。
【表3】

【表4】

【0027】
実施例5:抗酸化活性の測定1
実施例1で得た化合物(2)、実施例2で得た化合物(3)及び(4)を用いてDPPHラジカル消去活性を測定した。
(1)試験方法
抗酸化活性は、ブロイス法により、分子内に遊離ラジカルを有する1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)のラジカル消去活性を測定して行った。すなわち、0.1mM DPPHエタノール溶液1.5mLに各被検物(100μg/mL)のエタノール溶液0.5mLを加えて37℃で20分間反応させた後、517nmで吸光度を測定した。対照群(被検物濃度0μg/mL)に対する吸光度の減少率をDPPHラジカル消去活性とした。
(2)試験結果
化合物(2)〜(4)のDPPHラジカル消去活性は、下記の表5に示すように、IC50値が、それぞれ3.0±0.5、32.3±12.3及び52.6±1.7μg/mLであった。以上のことより化合物(2)〜(4)が非常に強い抗酸化活性を有することが判った。
【表5】

【0028】
実施例6:抗酸化活性の測定2
実施例1で得た化合物(2)、実施例2で得た化合物(3)及び(4)を用いて、脂質過酸化抑制作用を測定した。
(1)測定方法
7mM MgCl2を含む50mM トリス塩酸緩衝液(pH7.5)920μLにラ
ット肝臓ミクロソーム画分(タンパク濃度30mg/mL)10μL、被検物質のエタノール溶液10μLを添加して、37℃で5分間前処理した。次にNADPH再生系(0.2M ADPを含む12mM硫酸第一鉄水溶液20μL、12.5Uグルコース6リン酸脱水素酵素及び160mMグルコース6リン酸を含む10mM β−NADPH 40μL)を加えて、37℃で10分間反応させた。反応後、この溶液に0.25M塩酸(0.375%チオバルビツール酸及び15%トリクロロ酢酸含有)2mLを添加して、沸騰水中で15分間反応させ、この反応により過酸化脂質から生成したマロンジアルデヒドの量を、波長530nmで吸光度を測定することにより求めた。対照群(被検物濃度0μg/mL)に対して減少した吸光度を脂質過酸化抑制の指標として、脂質過酸化を50%抑制する濃度(IC50)を求めた。
(2)試験結果
化合物(2)〜(4)の脂質過酸化抑制活性は、下記の表6に示すように、IC50値が、それぞれ0.95±0.25、1.15±0.55及び44.3±22.2μg/mLであった。以上のことより化合物(2)〜(4)が非常に強い抗酸化活性を有することが判った。
【表6】

【0029】
実施例7:癌細胞株に対する細胞毒性
実施例1で得た化合物(2)、実施例2で得た化合物(3)及び(4)を用いて、癌細胞株に対する細胞毒性を測定した。
(1)試験方法
試験に用いたマウス結腸癌細胞株:colon26−L5は、10%の非働化ウシ胎児血清:FBS(ギブコ製)、100U/mLのペニシリン(和光製)、0.1mg/mLのストレプトマイシン(和光製)及び55μMの2−メルカプトエタノール(和光製)を含むRPMI−1640培地(ギブコ製)中にて継代、維持した。
細胞増殖は、WST−1 Cell Counting Kit(和光製)を用いて評価した。5%FBSを含むRPMI−1640培地で癌細胞を2×105個/mLの細胞
密度に調整し、96ウェルプレート(イワキ製)の各ウェル当たり0.5〜2×104
を播種した。細胞がプレートに接着後、被検物質を各濃度で添加し、インキュベーター内(37℃、5%CO2)で24〜72時間培養した。コントロールにはジメチルスルホキ
シド(和光製)を同様にして添加した。培養終了後、各ウェルの培地を、WST−1を10%含む10%FBS−RPMI−1640培地に交換し、さらに2〜2.5時間培養した後、波長450nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダー(トーワラボ製)にて測定し、コントロールに対する吸光度の減少率を求め、細胞増殖抑制率として表した。
(2)試験結果
化合物(2)〜(4)は、図1に示すように、マウス結腸癌細胞に対して、非常に強い細胞毒性活性を有することが判った。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】化合物(2)〜(4)及びシスプラチンのマウス結腸癌細胞に対する細胞増殖抑制率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)、(2)、(3)又は(4)
【化1】

【化2】

で表される化合物又はそのエステル或いはその塩。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物又はそのエステル或いはその塩を有効成分として含有する医薬。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物又はそのエステル或いはその塩を有効成分として含有する抗酸化剤。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物又はそのエステル或いはその塩を有効成分として含有する抗癌剤。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物又はそのエステル或いはその塩を有効成分として含有する脳障害、循環器障害、腎障害、肝障害、糖尿病合併症、消化管障害、慢性関節リウマチ、癌、老化促進又は紫外線障害の予防或いは治療剤。


【図1】
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【公開番号】特開2006−298807(P2006−298807A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121251(P2005−121251)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(591051885)リードケミカル株式会社 (18)
【Fターム(参考)】