説明

旋回構造及びこれを用いた水平風車

【課題】
旋回構造に作用するラジアル荷重、アキシャル荷重及びモーメント荷重を確実に負荷することができ、且つ、低コストで生産することが可能な旋回構造を提供する。
【解決手段】
一定曲率の複数の円弧状軌道レールから構成される無端円環状の固定リング、及び多数の転動体を介してこの固定リングに組み付けられると共にかかる固定リングに沿って自在に移動可能な複数のスライドブロックを有する転がりベアリング機構と、前記転がりベアリング機構のスライドブロックに固定されて円環状に形成されると共に旋回対象物を支持する旋回テーブル、及びこの旋回テーブルを前記旋回構造の軸方向から挟むようにして断面略コ字状に形成され、前記旋回テーブルと相まって滑り軸受を構成する軸受部材を有する滑りベアリング機構と、を備えた旋回構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回構造及びこれを用いた水平風車に関する。
【0002】
例えば、風力発電装置に用いられる水平風車は、発電機を収容したナセルに対して回転自在に支承されたハブと、このハブから放射状に延びる複数枚のブレードとから構成されている。各ブレードはハブに対する取付け角度(以下、「ピッチ角」という)を変化させることができるよう、旋回構造を介してハブと結合されている(特許文献1)。このようにブレードのピッチ角を適宜変更することで、弱風又は強風等の風力に応じた発電効率の制御や、台風等の強風時における風圧の抑制、水平風車そのものの過回転防止等を図ることが可能となっている。
【0003】
この種の旋回構造としては、特許文献1に示されるように、内輪と外輪との間に多数の転動体を配列した旋回軸受が知られている。具体的に、前記旋回軸受は、内周面に沿って転動体の転走面が形成された外輪と、この外輪側の転走面に対向する転走面が外周面に形成された内輪と、これら外輪と内輪との間で荷重を負荷しながら転走する多数の転動体とから構成されている。転動体としてはボール又はローラのいずれを使用することも可能であるが、ボールではなくローラを使用する場合には、荷重によって内輪と外輪が分離することのないよう、1条の転走面に対してローラをクロスローラ構造で配置するか、あるいは転走面を複列とし、各転走面でローラの傾斜方向を異ならせる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2007−061439(特表2009−516118)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、風力発電装置では定格出力の増強を図るための大型化が進行しており、それに伴って水平風車直径も大径化し、水平風車を構成するブレードの長さが数十mに及びものも登場している。このため、各ブレードとハブを結合する旋回軸受も大径化する傾向にある。
【0006】
しかし、そのような巨大な旋回軸受の生産には特殊な設備が必要であり、また、生産に適した大径の鋼材を調達しなければならないことから、生産コストが嵩むといったことがあった。
【0007】
一方、ブレードの旋回構造に作用する荷重としては、旋回構造の軸方向に作用するアキシャル荷重、軸方向と垂直な方向に作用するラジアル荷重、更にはモーメント荷重が考えられる。水平風車が回転すると各ブレードには遠心力が作用し、これがアキシャル荷重として旋回構造に作用する。また、ブレードが風を受けてハブを回転させる力はモーメント荷重として旋回構造に作用する。従って、ブレードの旋回構造に作用する荷重のうち、アキシャル荷重及びモーメント荷重はラジアル荷重に比べて極端に大きく、ブレードの全長が長くなる程にその傾向は顕著なものとなる。
【0008】
しかし、前述した従来の旋回軸受では、その構造上、ラジアル荷重及びアキシャル荷重の負荷能力が同程度なので、巨大なアキシャル荷重やモーメント荷重を考慮して、転動体個数の増加や転動体径の大径化を行って許容負荷荷重を大きく設定すると、ラジアル荷重の負荷能力は過大なものとならざるを得ない。すなわち、余剰な負荷能力のために無駄なコストが発生してしまうといった課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこのような課題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、旋回構造に作用するラジアル荷重、アキシャル荷重及びモーメント荷重を確実に負荷することが可能であって、且つ、低コストで生産することが可能な旋回構造を提供することにある。
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の旋回構造は、一定曲率の複数の円弧状軌道レールから構成される無端円環状の固定リング、及び多数の転動体を介してこの固定リングに組み付けられると共にかかる固定リングに沿って自在に移動可能な複数のスライドブロックを有する転がりベアリング機構と、前記転がりベアリング機構のスライドブロックに固定されて円環状に形成されると共に旋回対象物を支持する旋回テーブル、及びこの旋回テーブルを前記旋回構造の軸方向から挟むようにして断面略コ字状に形成され、前記旋回テーブルと相まって滑り軸受を構成する軸受部材を有する滑りベアリング機構とを備えている。
【発明の効果】
【0011】
このような本発明の旋回構造によれば、前記転がりベアリング機構が旋回構造に作用するラジアル荷重を確実に負荷し、前記滑りベアリング機構が旋回構造に作用するアキシャル荷重及びモーメント荷重を確実に負荷することが可能である。このため、アキシャル荷重及びモーメント荷重はラジアル荷重に比べて極端に大きい場合でも、従来の旋回構造のように、転動体個数の増加や転動体径の大径化を行う必要がない。その分無駄なコストが発生することがなく、低コストで生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の旋回構造を適用した風力発電装置の一例を示す正面図である。
【図2】本発明の旋回構造を示す断面図である。
【図3】旋回構造を構成する転がりベアリング機構の一例を示す斜視図である。
【図4】図3に示した転がりベアリング機構を構成する円弧状軌道レール及びスライドブロックの組み合わせを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の旋回構造を詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明の旋回構造を適用した風力発電装置1の一例を示すものである。この風力発電装置1は、水平風車2と、この水平風車2によって駆動される発電機を収容するナセル3と、このナセル3をヨー旋回可能に支持するタワー4とを具備している。前記水平風車2はタワー4によって地上から所定の高さに回転自在に保持され、風力エネルギによって回転して、前記ナセル3に収容された発電機を回転駆動するように構成されている。そして、前記発電機は水平風車2で発生した回転エネルギを電気エネルギに変換し、かかる電気エネルギを前記タワー4内に格納された送電線を通して変圧器などの地上設備に送電するようになっている。
【0015】
前記水平風車2は、前記ナセル3に対して回転自在に支承されたハブ5と、このハブ5から放射状に延びる三枚のブレード6とから構成されている。各ブレード6とハブ5との間には、当該ブレード6のハブ5に対するピッチ角を変化させるため、旋回構造7が設けられている。尚、図1に示す例では三枚のブレード6が設けられているが、風力エネルギによって回転する構成であれば、三枚でなくとも差し支えない。
【0016】
前記旋回構造7は、図2に示すように、前記ハブ5に対して固定されると共に前記ブレード6を旋回案内する転がりベアリング機構8と、この転がりベアリング機構8と共に前記ハブ5に固定されて滑り軸受を形成する滑りベアリング機構9とから構成されている。尚、図2中の一点鎖線Oは旋回構造7の旋回中心をなしている。
【0017】
図3は、前記転がりベアリング機構8を示す斜視図である。かかる転がりベアリング機構8は、前記ハブ5に配置された無端円環状の固定リング81と、多数のボールを介してこの固定リング81に組付けられた複数のスライドブロック82とから構成されている。
【0018】
前記固定リング81は複数本の円弧状軌道レール84を連続的に配置したものであり、各軌道レール84は一定の曲率で円弧状に形成されている。図3に示す例では3本の軌道レール84を連続的に配置して固定リング81を形成している。
【0019】
図4は、円弧状に形成された各軌道レール84と、この軌道レール84に組付けられたスライドブロック82の詳細を示す斜視図である。前記軌道レール84は前記旋回構造7の旋回中心Oに対して所定の曲率半径Rで円弧状に形成されており、長手方向に垂直な断面は略矩形状に形成されている。内周側面及び外周側面には長手方向に沿って2条のボール転走溝85が夫々形成されており、計4条のボール転走溝85が形成されている。
【0020】
一方、前記スライドブロック82は前記固定リング81を跨るようにして断面略チャネル状に形成され、外側面には後述する滑りベアリング機構9の旋回テーブル91が固定されるフランジ部86が設けられている。このフランジ部86には固定ボルトが螺合するボルト孔87が形成されている。
【0021】
また、当該スライドブロック82は軌道レール84のボール転走溝85を転走するボール83の無限循環路を具備しており、ボール83が当該無限循環路内を循環することで、スライドブロック82が軌道レール84に沿って連続的に移動することが可能となっている。更に、図3に示すように、端部同士が接した2本の軌道レール84はボール転走溝85が連続しており、スライドブロック82は軌道レール84から軌道レール84へ乗り移って移動することができる。従って、スライドブロック82は複数の軌道レール84から構成された固定リング81を自由に周回することが可能である。
【0022】
また、前記スライドブロック82は軌道レール84に形成された4条のボール転走溝85を転走するボール列によって当該軌道レール84に組付けられており、各ボール列の軌道レール84及びスライドブロック82に対する接触方向は前記ハブ5との固定面に対して45°で傾斜している。それ故、スライドブロック82は、前記旋回構造7の軸方向と垂直な方向に作用するラジアル荷重を負荷しながら軌道レール84に沿って移動可能である。
【0023】
尚、図4に示した軌道レール84とスライドブロック82の組み合わせでは、転動体としてボール83を用いているが、ボール83に代えて多数のローラを用いることも可能である。ローラを使用した場合の方が、スライドブロックの許容負荷荷重は大きく設定することが可能となる。
【0024】
一方、前記滑りベアリング機構9は、図2に示すように、前記ブレードの結合プレート61が固定された旋回テーブル91と、この旋回テーブル91と滑り軸受を形成する軸受部材92とから構成されている。
【0025】
前記旋回テーブル91は前記旋回中心Oの周りで周方向に連続する円環状に形成されている、すなわち、当該旋回テーブル91は前記転がりベアリング機構8を構成する固定リング81と同一円心上に設けられている。また、この旋回テーブル91には前記スライドブロック82のボルト孔87に連通連結するボルト孔93が周方向に沿って所定のピッチで形成されている。すなわち、当該旋回テーブル91は固定ボルトによって前記スライドブロック82に固定されるようになっている。
【0026】
更に、当該旋回テーブル91の外周端部の前記ブレード方向の上面及びその反対方向の下面には、前記旋回テーブル91の旋回運動を円滑化するため、自己潤滑性を有する摺動板94が配置され、かかる摺動板94には例えば、複合材料からなる織布が用いられている。この摺動板94は前記旋回テーブル91の外周端部を上面及び下面から挟むように周方向に連続して配置されている。尚、当該摺動板94は周方向に連続した円環状であっても差し支えない。また、本実施形態ではかかる摺動板94が前記旋回テーブル91側に固定されているが、前記軸受部材92側に固定されていても差し支えない。
【0027】
また、当該旋回テーブル91の内周端部の下方にはリング状に形成されたラック95が固定されており、このラック95にはピニオンギアが噛み合っている。このピニオンギアは前記ハブ5に搭載されたモータによって任意の回転が与えられるように構成されており、モータがピニオンギアを回転させると、前記旋回テーブル91がハブ5に対して旋回し、この旋回テーブル91上の結合プレート61に固定されたブレードのピッチ角を任意に変化させることができるようになっている。
【0028】
一方、前記軸受部材92は前記ハブ5に固定ボルトによって固定される一方、前記旋回テーブル91の上面及び下面に配置されている摺動板94を挟むようにして断面コ字状に形成されている。すなわち、当該軸受部材92は前記旋回テーブル91の外周端部に対して摺動板94を介して隙間なく嵌合しており、当該摺動板94との間で滑り軸受を構成している。このような軸受部材92は前記ハブ5に対して、前記転がりベアリング機構8の固定リング81と同一円心上に且つ周方向に等間隔で配置されている。
【0029】
以上のように構成された旋回構造7では、固定リング81には3基以上のスライドブロック82が組付けられているが(図3では4基)、これらスライドブロック82は単一の旋回テーブル91に固定されている。このため、かかる旋回テーブル91には旋回構造7の旋回中心Oの周囲における旋回運動のみが許容されている。
【0030】
そして、前記旋回テーブル91のラック95に噛み合うピニオンギアをモータで回転させると、このモータの回転量に応じて旋回テーブル91が前記転がりベアリング機構8によって案内されながら旋回運動を行うことになる。このとき、前記軸受部材92は前記旋回テーブル91の外周端部を挟むように構成されているため、仮に旋回中心Oが僅かに変位したとしても、当該旋回テーブル91の旋回運動は軸受部材92によって阻害されることはない。
【0031】
また、前記旋回テーブル91が旋回運動した際には、前記転がりベアリング機構8において、前記固定リング81とスライドブロック82との間でボール83が前記旋回構造7の軸方向と垂直な方向に作用するラジアル荷重を負荷することになる。その一方で、前記滑りベアリング機構9においては旋回テーブル91の摺動板94と軸受部材92との間で滑り軸受が構成されているので、当該滑り軸受が旋回構造7の軸方向に作用するアキシャル荷重やモーメント荷重を負荷することになる。
【0032】
この構成によれば、ブレードの旋回構造に作用するアキシャル荷重及びモーメント荷重がラジアル荷重に比べて極端に大きい場面であっても、これらアキシャル荷重及びモーメント荷重は前記滑りベアリング機構が確実に負荷するため、前記転がりベアリング機構において転動体の個数を増加させたり、転動体径を大径化させる必要がない。それ故、余剰な負荷能力のために無駄なコストが発生することがなく、その分低コストで生産することが可能となる。
【0033】
尚、上記実施形態では前記軸受部材92が旋回テーブル91の外周端部を挟むように構成されているが、当該軸受部材92を前記旋回テーブル91の内周端部を挟むように構成することも可能である。但し、前記軸受部材92を旋回テーブル91の外周端部を挟むようにして構成した方が、前記滑りベアリング機構9が構成する滑り軸受の旋回直径が大きくなるため、旋回構造7の軸方向に作用するアキシャル荷重及びモーメント荷重をより確実に負荷することが可能である。
【0034】
また、上記実施形態では前記摺動板94が旋回テーブル91の上面及び下面において、周方向に連続して設けられているが、前記軸受部材92との間で滑り軸受を形成する構成であれば、その周方向に沿って断続的に設けられていても差し支えない。
【0035】
更に、上記実施形態では前記旋回テーブル91及び軸受部材92は一部材から構成されているが、複数の円弧状部材を連続的に配置させる構成でも差し支えない。
【符号の説明】
【0036】
1…風力発電装置、2…水平風車、5…ハブ、6…ブレード、7…旋回構造、8…転がりベアリング機構、81…固定リング、82…スライドブロック、83…ボール(転動体)、84…軌道レール、9…滑りベアリング機構、91…旋回テーブル、92…軸受部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定曲率の複数の円弧状軌道レールから構成される無端円環状の固定リング、及び多数の転動体を介してこの固定リングに組み付けられると共にかかる固定リングに沿って自在に移動可能な複数のスライドブロックを有する転がりベアリング機構と、
前記転がりベアリング機構のスライドブロックに固定されて円環状に形成されると共に旋回対象物を支持する旋回テーブル、及びこの旋回テーブルを前記旋回構造の軸方向から挟むようにして断面略コ字状に形成され、前記旋回テーブルと相まって滑り軸受を構成する軸受部材を有する滑りベアリング機構と、を備えたことを特徴とする旋回構造。
【請求項2】
前記滑りベアリング機構を構成する前記旋回テーブル又は軸受部材のいずれか一方には、自己潤滑性を有する摺動板が固定されていることを特徴とする請求項1記載の旋回構造。
【請求項3】
回転中心をなすハブと、このハブに放射状に結合する複数のブレードとからなる水平風車であって、
前記ハブに対する各ブレードの結合構造が請求項1乃至請求項3に記載された旋回構造であることを特徴とする水平風車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−106508(P2011−106508A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260009(P2009−260009)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】