説明

有機半導体素子の製造方法、有機半導体素子および電子機器

【課題】良好な有機半導体単結晶薄膜/絶縁膜界面を有する有機半導体素子を製造することができる有機半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】親液性の表面S1 を有する成長制御領域およびこの成長制御領域の一辺にこの成長制御領域と連結されて設けられた少なくとも一つの核形成制御領域を一主面に有する基体を形成する。この基体の成長制御領域および核形成制御領域に、有機半導体および有機絶縁体を溶媒に溶解させた不飽和の有機溶液を供給する。この有機溶液中の有機絶縁体を基体の一主面に沈ませることにより有機絶縁体からなるゲート絶縁膜を形成する。続いて、有機溶液の溶媒を蒸発させることにより、ゲート絶縁膜上に有機半導体からなる有機半導体単結晶薄膜を成長させる。この有機半導体単結晶薄膜上にソース電極およびドレイン電極を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は有機半導体素子の製造方法、有機半導体素子および電子機器に関し、例えば、有機半導体単結晶薄膜を用いた有機トランジスタの製造方法、有機トランジスタおよびこの有機トランジスタを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機トランジスタの製造方法として、次のような方法が提案されている(非特許文献1参照。)。すなわち、基板上に有機半導体と絶縁性の高分子とを有機溶媒に溶解させた有機溶液をスピンコートした後、ベークする。これによって、有機半導体と高分子とが相分離することにより、大気に晒さずに良好な有機半導体薄膜/絶縁膜界面を形成することができ、キャリア移動度が改善するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−6794号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Richard Hamilton, Jeremy Smith, Simon Ogier, Martin Heeney,John E. Anthony, Iain McCulloch, Janos Veres, Donal D. C. Bradley, and Thomas D. Anthopoulos: Adv. Mater. 2009, 21, 1166-1171
【非特許文献2】N. Kobayashi, M. Sasaki and K. Nomoto: Chem. Mater. 21(2009)552
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に提案された従来の有機トランジスタの製造方法では、有機半導体単結晶薄膜を成長させることが困難であるため、有機半導体単結晶薄膜/絶縁膜界面を有する有機トランジスタを製造することができなかった。
【0006】
そこで、本開示が解決しようとする課題は、良好な有機半導体単結晶薄膜/絶縁膜界面を有する有機半導体素子を製造することができる有機半導体素子の製造方法およびその有機半導体素子を提供することである。
【0007】
本開示が解決しようとする他の課題は、上記の有機半導体素子を用いた電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は、
親液性の表面を有する成長制御領域およびこの成長制御領域の一辺にこの成長制御領域と連結されて設けられた少なくとも一つの核形成制御領域を一主面に有する基体の上記成長制御領域および上記核形成制御領域に、有機半導体および有機絶縁体を溶媒に溶解させた不飽和の有機溶液を供給する工程と、
上記有機溶液中の上記有機絶縁体を上記基体の上記一主面に沈ませることにより上記有機絶縁体からなる絶縁膜を形成する工程と、
上記有機溶液の上記溶媒を蒸発させることにより、上記絶縁膜上に上記有機半導体からなる有機半導体単結晶薄膜を成長させる工程とを有する有機半導体素子の製造方法である。
【0009】
また、本開示は、
親液性の表面を有する成長制御領域およびこの成長制御領域の一辺にこの成長制御領域と連結されて設けられた少なくとも一つの核形成制御領域を一主面に有する基体の上記成長制御領域および上記核形成制御領域に、有機半導体および有機絶縁体を溶媒に溶解させた不飽和の有機溶液を供給する工程と、
上記有機溶液中の上記有機絶縁体を上記基体の上記一主面に沈ませることにより上記有機絶縁体からなる絶縁膜を形成する工程と、
上記有機溶液の上記溶媒を蒸発させることにより、上記絶縁膜上に上記有機半導体からなる有機半導体単結晶薄膜を成長させる工程とを実行することにより製造される有機半導体素子である。
【0010】
また、本開示は、
親液性の表面を有する成長制御領域およびこの成長制御領域の一辺にこの成長制御領域と連結されて設けられた少なくとも一つの核形成制御領域を一主面に有する基体の上記成長制御領域および上記核形成制御領域に、有機半導体および有機絶縁体を溶媒に溶解させた不飽和の有機溶液を供給する工程と、
上記有機溶液中の上記有機絶縁体を上記基体の上記一主面に沈ませることにより上記有機絶縁体からなる絶縁膜を形成する工程と、
上記有機溶液の上記溶媒を蒸発させることにより、上記絶縁膜上に上記有機半導体からなる有機半導体単結晶薄膜を成長させる工程とを実行することにより製造される有機半導体素子を有する電子機器である。
【0011】
本開示においては、典型的には、基体の一主面の成長制御領域および核形成制御領域の外側の領域は、疎液性表面とする。こうすることで、成長制御領域および核形成制御領域に有機溶液を供給した場合、有機溶液をこれらの成長制御領域および核形成制御領域上にのみ確実に留めることができる。
【0012】
核形成制御領域は、典型的には、例えば、成長制御領域の一辺に対してほぼ垂直、具体的には、成長制御領域の一辺に対して90°±10°傾斜した直線状の形状を有する。あるいは、核形成制御領域は、成長制御領域と連結され、かつ成長制御領域の上記一辺に対して90°±10°傾斜した直線状の第1の部分およびこの第1の部分と連結され、かつ上記一辺に対して傾斜した直線状の第2の部分を有する。第2の部分は、例えば、成長制御領域の上記一辺に対して0°以上90°以下、例えば25°以上65°以下傾斜している。核形成制御領域の幅は、例えば、一般的には0.1μm以上50μm以下、好適には1μm以上50μm以下、より好適には1μm以上30μm以下、さらに好適には1μm以上20μm以下あるいは1μm以上10μm以下であるが、これに限定されるものではない。成長制御領域の形状は必要に応じて選ばれるが、典型的には、長方形または正方形の形状である。
【0013】
好適には、成長制御領域の大きさは核形成制御領域の大きさに比べて十分に大きく選ばれる。典型的な一つの例では、成長制御領域は長方形であり、核形成制御領域は成長制御領域の一辺にこの辺に垂直に設けられた上記成長制御領域よりも小さい長方形である。成長制御領域は、典型的には、例えば、上記の一辺の長さが1000μm以上10000μm以下、他の一辺の長さが100μm以上800μm以下の長方形の形状を有し、核形成制御領域に比べて十分に大きい。
【0014】
典型的には、有機溶液の溶媒を蒸発させることにより、成長制御領域では有機溶液の状態が有機溶液の溶解度−過溶解度図の溶解度曲線と過溶解度曲線との間の準安定領域にあり、核形成制御領域では有機溶液の状態が溶解度−過溶解度図の過溶解度曲線の下側の不安定領域にあるようにする。すなわち、成長制御領域および核形成制御領域への供給直後の有機溶液は溶解度−過溶解度図の溶解度曲線より上側の安定領域にあるが、有機溶液の溶媒が蒸発する過程で、成長制御領域では有機溶液の状態が溶解度曲線と過溶解度曲線との間の準安定領域にあり、核形成制御領域では有機溶液の状態が過溶解度曲線の下側の不安定領域にあるようにする。この状態は、核形成制御領域の面積を成長制御領域の面積に比べて十分に小さく選ぶことにより、容易に実現することができる。すなわち、核形成制御領域に蓄えられる有機溶液の量は、成長制御領域に蓄えられる有機溶液の量に比べて十分に小さいので、核形成制御領域に蓄えられる有機溶液からの溶媒の蒸発速度は、成長制御領域に蓄えられる有機溶液の溶媒の蒸発速度に比べて十分に速い。このため、核形成制御領域では、溶媒の速い蒸発により濃度が増加して有機溶液の状態が不安定領域に入り、一方、これと同時に、成長制御領域では、溶媒の蒸発が遅いことにより濃度の増加が遅く有機溶液の状態が準安定領域に入るようにすることができる。この場合、有機溶液の状態が不安定領域にある核形成制御領域においてのみ有機溶液から核形成を起こさせることができる。このとき、核形成制御領域では、有機溶液に有機半導体の結晶核が多数形成されるが、最終的には唯一つの結晶核が十分に大きく成長し、こうして成長した結晶が成長制御領域との連結部を塞ぐ。そして、この結晶から成長制御領域上に結晶が成長することにより、シングルドメインの結晶(単結晶)が成長する。ところで、成長制御領域上に蓄えられている有機溶液の過飽和度が最も高くなるのは有機溶液の表面であるから、結晶は、有機溶液の中を浮遊しながら横方向成長する。こうして、最終的には、予め基体の一主面に沈ませた絶縁膜上に有機半導体単結晶薄膜が成長する。この場合、有機半導体単結晶薄膜は、大気に晒されることなく絶縁膜上に成長するため、良好な有機半導体単結晶薄膜/絶縁膜界面を得ることができる。有機溶液の溶媒を蒸発させる際には、例えば、有機溶液を一定温度、例えば15℃以上20℃以下の一定温度に保持するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0015】
有機溶液中の有機絶縁体を有機半導体より先に基体の一主面に沈ませる方法としては、例えば、有機絶縁体の比重を有機半導体の比重よりも大きくする方法が挙げられる。あるいは、有機溶液として、有機半導体を第1の溶媒に溶解させた第1の有機溶液と、有機絶縁体を第2の溶媒に溶解させた第2の有機溶液とからなり、第1の溶媒の比重は第2の溶媒の比重よりも小さいものを用いる。有機溶液中の有機絶縁体を基体の一主面に沈ませる方法は、これに限定されるものではない。例えば、有機溶液からのスピノダル分解(spinodal decomposition)を利用して有機絶縁体を沈ませてもよい。すなわち、有機溶液は、有機半導体と有機絶縁体とを含む2成分混合系であるが、この有機溶液を高温度から急冷して不安定状態に置くことにより2相分離が起こり、その結果、有機絶縁体を沈ませることが可能である。
【0016】
有機半導体素子は、絶縁膜上に有機半導体単結晶薄膜が形成された構造を有するものである限り、基本的にはどのようなものであってもよいが、典型的には、絶縁ゲート型電界効果トランジスタ(特に、薄膜トランジスタ(TFT))の構成を有する有機トランジスタである。この有機トランジスタにおいては、基体の一主面にゲート電極を形成し、このゲート電極上にゲート絶縁膜として上記の絶縁膜を形成し、この絶縁膜上にチャネル層として上記の有機半導体単結晶薄膜を成長させる。ここで、一般的には、核形成制御領域の幅を狭くすることで有機半導体単結晶薄膜の結晶方位をより揃えることができる。このため、この有機トランジスタにおいては、好適には、チャネル長方向(ソース電極とドレイン電極とを結ぶ方向)を有機半導体単結晶薄膜のキャリア移動度が高い方向に設定する。これによって、高キャリア移動度の有機トランジスタあるいは有機トランジスタアレイを実現することができる。
【0017】
有機半導体としては、従来公知の各種のものを用いることができるが、例えば次のようなものを用いることができる。
(1)ポリピロールおよびその誘導体
(2)ポリチオフェンおよびその誘導体
(3)ポリイソチアナフテンなどのイソチアナフテン類
(4)ポリチェニレンビニレンなどのチェニレンビニレン類
(5)ポリ(p−フェニレンビニレン)などのポリ(p−フェニレンビニレン)類
(6)ポリアニリンおよびその誘導体
(7)ポリアセチレン類
(8)ポリジアセチレン類
(9)ポリアズレン類
(10)ポリピレン類
(11)ポリカルバゾール類
(12)ポリセレノフェン類
(13)ポリフラン類
(14)ポリ(p−フェニレン)類
(15)ポリインドール類
(16)ポリピリダジン類
(17)ナフタセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、ジベンゾペンタセン、テトラベンゾペンタセン、ピレン、ジベンゾピレン、クリセン、ペリレン、コロネン、テリレン、オバレン、クオテリレン、サーカムアントラセンなどのアセン類
(18)アセン類のうちの炭素の一部が窒素、硫黄、酸素などの原子あるいはカルボニル基などの官能基により置換された誘導体、例えば、トリフェノジオキサジン、トリフェノジアジン、ヘキサセン−6,15−キノンなど
(19)ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレンスルフィド、ポリビニレンスルフィドなどの高分子材料および多環縮合体
(20)(19)の高分子材料と同じ繰り返し単位を有するオリゴマー類
(21)金属フタロシアニン類
(22)テトラチアフルバレンおよびその誘導体
(23)テトラチアペンタレンおよびその誘導体
(24)ナフタレン1,4,5,8−テトラカルボン酸ジイミド、N,N’−ビス(4−トリフルオロメチルベンジル)ナフタレン1,4,5,8−テトラカルボン酸ジイミド、N,N’−ビス(1H,1H−ペルフルオロオクチル)、N,N’−ビス(1H,1H−ペルフルオロブチル)およびN,N’−ジオクチルナフタレン1,4,5,8−テトラカルボン酸ジイミド誘導体
(25)ナフタレン2,3,6,7−テトラカルボン酸ジイミドなどのナフタレンテトラカルボン酸ジイミド類
(26)アントラセン2,3,6,7−テトラカルボン酸ジイミドなどのアントラセンテトラカルボン酸ジイミド類に代表される縮合環テトラカルボン酸ジイミド類
(27)メロシアニン色素類またはヘミシアニン色素類などの色素
【0018】
有機半導体としては、好適には、芳香族化合物またはその誘導体が用いられる。芳香族化合物は、ベンゼン系芳香族化合物、複素芳香族化合物、非ベンゼン系ベンゼン系芳香族化合物に分類される。ベンゼン系芳香族化合物は、縮合環芳香族化合物、例えば、ベンゾ縮合環化合物などである。複素芳香族化合物は、例えば、フラン、チオフェン、ピロール、イミダゾールなどである。非ベンゼン系芳香族化合物は、例えば、アヌレン、アズレン、シクロペンタジエニルアニオン、シクロヘプタトリエニルカチオン(トロピリウムイオン)、トロポン、メタロセン、アセプレイアジレンなどである。これらの芳香族化合物の中でも、好適には、縮合環化合物が用いられる。縮合環化合物としては、アセン類(ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセンなど)、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、テトラフェン、ピレン、ピセン、ペンタフェン、ペリレン、ヘリセン、コロネンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。典型的な一つの例では、これらの芳香族化合物として、6,12−ジオキサアンタントレン(いわゆるペリキサンテノキサンテン、6,12-dioxaanthanthreneであり、「PXX」と略称される場合もある。)などのジオキサアンタントレン系化合物が用いられる(特許文献1および非特許文献2参照。)。
【0019】
電子機器は、有機半導体素子を一つまたは二つ以上用いる各種の電子機器であってよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含み、機能や用途も問わない。電子機器の具体例を挙げると、液晶ディスプレイや有機エレクトロルミネッセンスディスプレイなどのディスプレイ、携帯電話、モバイル機器、パーソナルコンピュータ、ゲーム機器、車載機器、家庭電気製品、工業製品などである。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、良好な有機半導体単結晶薄膜/絶縁膜界面を得ることができることにより、キャリア移動度が十分に高い有機トランジスタなどの高性能の有機半導体素子を実現することができる。そして、この高性能の有機半導体素子を用いることにより高性能の電子機器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施の形態による有機トランジスタを示す断面図である。
【図2】第1の実施の形態において有機半導体単結晶薄膜の成長に用いられる有機溶液に関する溶解度−過溶解度図を示す略線図である。
【図3】第1の実施の形態において用いる有機半導体単結晶薄膜の成長方法で用いる基板を示す平面図である。
【図4】第1の実施の形態において用いる有機半導体単結晶薄膜の成長方法を説明するための略線図である。
【図5】第1の実施の形態において用いる有機半導体単結晶薄膜の成長方法の成長メカニズムを検証するために行ったシミュレーションのモデルを示す略線図である。
【図6】第1の実施の形態において用いる有機半導体単結晶薄膜の成長方法の成長メカニズムを検証するために行ったシミュレーションの結果を示す略線図である。
【図7】第1の実施の形態において用いる有機半導体単結晶薄膜の成長方法により成長させたC2 Ph−PXX薄膜のマトリクスアレイおよび典型的な形状のC2 Ph−PXX薄膜の偏光光学顕微鏡写真を示す図面代用写真である。
【図8】第1の実施の形態において用いる有機半導体単結晶薄膜の成長方法により成長させたC2 Ph−PXX薄膜の制限視野電子線回折パターンを示す図面代用写真およびC2 Ph−PXX薄膜のファセットを示す略線図である。
【図9】第1の実施の形態において用いる有機半導体単結晶薄膜の成長方法により櫛形パターンの櫛歯部の幅を5μmとしてマトリクスアレイ状に成長させたC2 Ph−PXX薄膜の回転角の分布を示す略線図である。
【図10】第1の実施の形態において用いる有機半導体単結晶薄膜の成長方法により櫛形パターンの櫛歯部の幅を10μmとしてマトリクスアレイ状に成長させたC2 Ph−PXX薄膜の回転角の分布を示す略線図である。
【図11】第1の実施の形態において用いる有機半導体単結晶薄膜の成長方法の成長メカニズムを説明するための略線図である。
【図12】第1の実施の形態において用いる有機半導体単結晶薄膜の成長方法の成長メカニズムを説明するための略線図である。
【図13】第1の実施の形態において用いる有機半導体単結晶薄膜の成長方法の成長メカニズムを説明するための略線図である。
【図14】第1の実施の形態において有機半導体単結晶薄膜の成長に用いられる製膜装置を示す略線図である。
【図15】第1の実施の形態による有機トランジスタの製造方法を説明するための断面図である。
【図16】第1の実施の形態において有機半導体単結晶薄膜の成長に用いられる製膜装置を示す略線図である。
【図17】Auからなる細線パターン上に有機半導体単結晶薄膜の横方向成長を行った具体例を説明するための平面図および断面図である。
【図18】Auからなる細線パターン上に有機半導体単結晶薄膜の横方向成長を行った試料の断面透過型電子顕微鏡写真を示す図面代用写真である。
【図19】第2の実施の形態による有機トランジスタの製造方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」という。)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(有機トランジスタおよびその製造方法)
2.第2の実施の形態(有機トランジスタの製造方法)
3.第3の実施の形態(有機トランジスタの製造方法)
【0023】
〈1.第1の実施の形態〉
[有機トランジスタ]
図1は第1の実施の形態による有機トランジスタを示す。
【0024】
図1に示すように、この有機トランジスタにおいては、基板11上にゲート電極12が設けられている。このゲート電極12の外側の部分に絶縁膜13が埋設されている。絶縁膜13の上面はゲート電極12の上面と同一平面内にある。これらのゲート電極12および絶縁膜13を覆うようにゲート絶縁膜14が設けられている。このゲート絶縁膜14上にチャネル層となる有機半導体単結晶薄膜15が設けられている。この有機半導体単結晶薄膜15上にソース電極16およびドレイン電極17が互いに離れて設けられている。これらのゲート電極12、有機半導体単結晶薄膜15、ソース電極16およびドレイン電極17により、絶縁ゲート型電界効果トランジスタの構成を有するトップコンタクト・ボトムゲート型の有機トランジスタが構成されている。
【0025】
この有機トランジスタにおいては、好適には、チャネル長方向(ソース電極16とドレイン電極17とを結ぶ方向)が有機半導体単結晶薄膜15のキャリア移動度が高い方向に設定される。
【0026】
有機半導体単結晶薄膜15の厚さは、この有機トランジスタに要求される特性などに応じて適宜選ばれる。有機半導体単結晶薄膜15を構成する有機半導体としては、既に挙げたものを用いることができ、必要に応じて選ばれるが、そのうちペリキサンテノキサンテン(PXX)系化合物の具体例をいくつか挙げると次の通りである。
【0027】
【化1】

(ただし、Rはアルキル基、直鎖、分岐は問わない)
【化2】

(ただし、Rはアルキル基、直鎖、分岐は問わない)
【化3】

(ただし、Rはアルキル基、直鎖、分岐は問わない)
【化4】

(ただし、Rはアルキル基、Rの数は2〜5)
【化5】

(ただし、Rはアルキル基、Rの数は1〜5)
【化6】

(ただし、Rはアルキル基、Rの数は1〜5)
【化7】

(ただし、A1 、A2 は式(8)で表される)
【化8】

(ただし、Rはアルキル基または他の置換基、Rの数は1〜5)
【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【0028】
絶縁膜13およびゲート絶縁膜14は有機絶縁体からなる。有機絶縁体としては、例えば、ポリビニルフェノール、ポリメタクリル酸メチル、ポリイミド、フッ素樹脂、PVP−RSiCl3 、DAP、isoDAP、ポリ(α−メチルスチレン)、シクロオレフィン・コポリマーなどが挙げられる。ゲート絶縁膜14の厚さは、この有機トランジスタに要求される特性などに応じて適宜選ばれる。
【0029】
基板11の材料は、従来公知の材料の中から必要に応じて選ばれ、可視光に対して透明な材料であっても不透明な材料であってもよい。また、基板11は、導電性であっても非導電性であってもよい。また、基板11は、フレキシブル(可撓性)であってもフレキシブルでなくてもよい。具体的には、基板11の材料としては、ポリメチルメタクリレート(ポリメタクリル酸メチル,PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド、ポリカーボネ
ート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などの各種のプラスチック(有機ポリマー)、雲母、各種のガラス基板、石英基板、シリコン基板、ステンレス鋼などの各種の合金、各種の金属などが挙げられる。基板11の材料としてプラスチックを用いることにより、基板11をフレキシブルにすることができ、ひいてはフレキシブルな有機トランジスタを得ることができる。プラスチック基板としては、例えば、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォンなどからなるものが用いられる。
【0030】
ゲート電極12、ソース電極16およびドレイン電極17を構成する材料としては、例えば、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銅(Cu)、チタン(Ti)、インジウム(In)、錫(Sn)などの金属、あるいは、これらの金属元素を含む合金、これらの金属からなる導電性粒子、これらの金属を含む合金の導電性粒子、不純物を含有したポリシリコンなどの各種の導電性物質が挙げられる。ゲート電極12、ソース電極16およびドレイン電極17を構成する材料としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸[PEDOT/PSS]やテトラチアフルバレン−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TTF−TCNQ)などの有機導電材料(導電性高分子)も挙げられる。ゲート電極12、ソース電極16およびドレイン電極17は、これらの物質からなる二種以上の層の積層構造とすることもできる。チャネル長方向のゲート電極12の幅(ゲート長)やソース電極16とドレイン電極17との間の距離(チャネル長)は、この有機トランジスタに要求される特性などに応じて適宜選ばれる。
【0031】
[有機トランジスタの製造方法]
この有機トランジスタの製造方法を説明する前に、本発明者らが独自に開発した新規な有機半導体単結晶薄膜の成長方法について説明する。
【0032】
図2は、この有機半導体単結晶薄膜の成長に用いられる有機溶液(有機半導体を溶媒に溶解させた溶液)に関する溶解度−過溶解度図(solubility-supersolubility diagram)
を示す。図2に示すように、有機溶液の状態は、温度の減少および/または濃度の増加によって、溶解度曲線の上側の不飽和領域(安定領域)から、溶解度曲線の下側の過飽和領域に変化する。安定領域では、自発的な結晶化は起きない。結晶化は過飽和領域で進行可能である。過飽和領域は二つの領域に分けられる。一つの領域は、溶解度曲線と過溶解度曲線との間の準安定領域である。この準安定領域では、結晶成長だけが起き、核形成は起きない。他の領域は、過溶解度曲線の下側の不安定領域である。この不安定領域では、自発的な結晶化が可能である。
【0033】
図2に基づいて有機半導体単結晶薄膜の成長を行う方法の一例について説明する。図3に示すように、図示省略した基板上に、有機溶液に対して親液性(lyophilic)の表面S1 を有する櫛形パターンPを形成する。この親液性の表面S1 を有する櫛形パターンPは、有機溶液に対して濡れやすい領域であり、有機溶液を定着させる性質を有している。この櫛形パターンP以外の基板の表面は、有機溶液に対して疎液性(lyophobic)の表面S2 とする。この疎液性の表面S2 を有する領域は、有機溶液に対して濡れにくい領域であり、有機溶液をはじく性質を有している。櫛形パターンPは、長方形の背部P1 と、この背部P1 の一つの長辺に沿って等間隔に、かつこの長辺に対して垂直方向に突き出るように設けられた複数の長方形の櫛歯部P2 とからなる。背部P1 の面積は、各櫛歯部P2 の面積に対して十分に大きい。
【0034】
今、この櫛形パターンP上に有機溶液の液滴を載せると、この液滴は、この櫛形パターンPの親液性の表面S1 に留まり、この櫛形パターンPの外側の疎液性の表面S2 に移動しない。この有機溶液の液滴の状態の過飽和領域への移行は、溶媒の蒸発を利用して有機溶液の濃度を高くすることにより実現することができる。図2の破線ABCは、一例として、一定温度Tg で上記の操作を行う方法を示す。面積が大きく、多くの有機溶液を蓄えることができる背部P1 では、溶媒の急速な蒸発が抑制される。この背部P1 の領域は、成長制御領域(growth control region,GCR)として用いられる。一方、櫛歯部P2 の領域は、核形成制御領域(nucleation control region,NCR)として用いられる。櫛歯部P2 の面積は背部P1 の面積に比べて十分に小さく、従って各櫛歯部P2 上の有機溶液の量は背部P1 上の有機溶液の量に比べて十分に小さいため、各櫛歯部P2 、すなわち核形成制御領域からの溶媒の蒸発速度は、背部P1 、すなわち成長制御領域からの溶媒の蒸発速度に比べてずっと速い。このように、背部P1 、すなわち成長制御領域の上の部分の有機溶液と各櫛歯部P2 、すなわち核形成制御領域の上の部分の有機溶液との間で溶媒の蒸発速度に大きな差があることを利用することにより、有機溶液の液滴の局所的な過飽和度を高精度に制御することができる。
【0035】
図4A〜Cを用いて有機溶液からの溶液成長による有機半導体単結晶薄膜の成長モデルを説明する。図4Aは櫛形パターンPのうちの一つの櫛歯部P2 および背部P1 の一部を示す。この背部P1 および櫛歯部P2 の上に有機溶液の液滴を保持させる。この状態の有機溶液は図2の安定状態Aにある。有機溶液の蒸発を開始させると、背部P1 の上の部分の有機溶液に比べて櫛歯部P2 の上の部分の有機溶液の方が溶媒の蒸発が速く、従って有機溶液の濃度の増加が速いため、背部P1 の上の部分の有機溶液は図2の準安定状態Bにあり、一方、櫛歯部P2 の上の部分の有機溶液は図2の不安定状態Cにある状態が実現される。すなわち、背部P1 と櫛歯部P2 とは互いに隣接しているにもかかわらず、有機溶液の状態を背部P1 では準安定状態B、櫛歯部P2 では不安定状態Cと、互いに異なる状態に同時に設定することができる。有機溶液が不安定状態Cにある櫛歯部P2 、すなわち核形成制御領域では自発的な結晶化が可能であり、櫛歯部P2 の上の領域内の複数箇所で結晶核が形成され得るが、最終的には、図4Bに示すように、ただ一つの結晶Cだけが櫛歯部P2 を完全に塞ぐように十分な大きさに成長する。そして、図4Cに示すように、有機溶液が準安定状態Bにある背部P1 、すなわち成長制御領域に、この櫛歯部P2 を塞いだ安定な結晶Cから有機半導体単結晶薄膜Fが成長する。以上のことから分かるように、この方法によれば、櫛歯部P2 を起点として背部P1 上に有機半導体単結晶薄膜Fを成長させることができる。すなわち、有機半導体単結晶薄膜Fを成長させる位置を高精度に制御することができることが分かる。
【0036】
図3に示す破線で囲んだ長方形の領域について有機溶液の溶媒の蒸発の挙動を調べるために、有機溶液の液滴の形状および蒸発速度の計算流体力学シミュレーションを行った。計算を簡単にするために、溶媒の液滴の形状を、計算流体力学(CFD)ソフトウェアFLOW−3DR を用いて、溶媒の表面張力および接触角を考慮して計算した。溶媒の表面張力は35.9mN/mとした。溶媒の接触角θは、実験により、親液性表面に対しては6度、疎液性表面に対しては63度と求められた。また、溶媒の粘度はμ=0.01Pa・s、密度はρ=1030kg/m3 とした。図5AおよびBはそれぞれ、櫛形パターンP上の溶媒の液滴の初期および最終的な形状を模式的に示す。各部の寸法は図5AおよびBに示すとおりである。図5Aに示すように、溶媒の液滴Lは、初期には櫛形パターンP上に均一の厚さ(この例では10μm)で存在する。図5Bに示すように、最終的には、背部P1 の上では、溶媒の液滴Lは、表面張力により中央部が盛り上がった形状(ホグバック(hogback)形状)となる。溶媒の液滴Lの厚さは、背部P1 、すなわち成長制御領域の上では16.5μm、櫛歯部P2 、すなわち核形成制御領域では2.7μmである。従って、櫛歯部P2 、すなわち核形成制御領域上の溶媒の量は、背部P1 、すなわち成長制御領域上の溶媒の量に比べてずっと小さいことが分かる。この結果、櫛歯部P2 、すなわち核形成制御領域上の溶媒の蒸発速度は、背部P1 、すなわち成長制御領域上の溶媒の蒸発速度に比べてずっと速くなる。
【0037】
溶媒の蒸発速度は下記の微分方程式で表される。
dw/dt=−C(Psat.−P)
ここで、w、C、Psat.、Pおよびtはそれぞれ、溶媒の分子の質量、定数係数、溶媒の飽和蒸気圧、溶媒およびtの蒸気圧である。図6AおよびBは、櫛歯部P2 の上の溶媒の蒸発が終了する前のある時刻における溶媒の蒸気密度の計算結果を示す。ただし、温度は20℃とした。図6AおよびBはそれぞれ、櫛形パターンPの上方から見たときの溶媒の蒸気密度の分布および櫛形パターンPの断面内の溶媒の蒸気密度の分布を示す。図6AおよびBには等蒸気密度線も示す。等蒸気密度線の間隔は傾斜が大きい程狭くなっている。蒸気圧は溶媒の表面における飽和蒸気圧にほぼ等しいので、櫛歯部P2 、すなわち核形成制御領域における溶媒の蒸発速度は、背部P1 、すなわち成長制御領域における溶媒の蒸発速度に比べていつも速くなっている。これは、櫛歯部P2 は溶媒に囲まれていないため、櫛歯部P2 では、蒸発する溶媒分子の拡散速度が背部P1 より速くなるためである。
【0038】
上記のシミュレーション結果によれば、図2における安定状態Aから不安定状態Cへの移行は、櫛歯部P2 で最初に起こり、その結果、自発的な結晶化が起きることが裏付けられる。また、溶媒の量だけでなく、蒸発速度によっても、背部P1 、すなわち成長制御領域と櫛歯部P2 、すなわち核形成制御領域との間で溶媒の蒸発に大きな差が生じることも分かる。
【0039】
実際に有機半導体単結晶薄膜の成長を行って上述の成長メカニズムを検証した結果について説明する。
【0040】
有機半導体単結晶薄膜を成長させる基板として、不純物が高濃度にドープされ、表面にSiO2 膜が形成された4インチのシリコン基板を用いた。このシリコン基板の表面を清浄化した後、その上に次のようにして櫛形パターンPを形成した。すなわち、シリコン基板の表面のうちの櫛形パターンPを形成する部分以外の部分にリフトオフ法によりアモルファスフッ素樹脂膜(旭硝子株式会社製サイトップ)を形成し、疎液性表面S2 を形成した。この疎液性表面S2 の内側の部分の表面が親液性表面S1 であり、この部分が櫛形パターンPとなる。櫛形パターンPの背部P1 の大きさは200μm×6.5mmであり、この櫛形パターンPを互いに300μm離してかつ互いに平行に12本形成した。この櫛形パターンPの櫛歯部P2 の幅は5μmまたは10μm、長さは40μm、櫛歯部P2 の間隔は200μmとした。一つの櫛形パターンP当たりの櫛歯部P2 の数は32個とした。すなわち、櫛歯部P2 を12×32マトリックスアレイで形成した。有機半導体単結晶薄膜としてはC2 Ph−PXX薄膜を選択した。これは、C2 Ph−PXXは室温で溶媒に十分に溶解し、空気中で優れた安定性を有するためである。C2 Ph−PXX粉末を室温でテトラリンに溶解し、C2 Ph−PXX濃度が0.4重量%の有機溶液を調製した。空気中でこの有機溶液を上記のシリコン基板上に滴下した後、このシリコン基板を後述の製膜装置の内部に設けられたホルダー上に載せ、このシリコン基板上にC2 Ph−PXX薄膜を成長させた。ホルダーの温度は17℃に保持した。すなわち、成長温度は17℃である。このシリコン基板を製膜装置の内部に導入する際には、約60℃に保持されたガス導入管から窒素(N2 )ガスを0.3L/minの流量で流した。成長終了後、シリコン基板を真空オーブン中で80℃で8時間乾燥させ、シリコン基板表面に残存している溶媒を完全に除去した。
【0041】
図7Aは、上述のようにして成長させたC2 Ph−PXX薄膜の偏光光学顕微鏡写真を示す。ただし、櫛歯部P2 の幅は5μmとした。図7BおよびCは、これらのC2 Ph−PXX薄膜の典型的な形状を示す偏光光学顕微鏡写真を示す。図7A、BおよびCより、図2〜図4を参照して説明したとおりに成長が起きていることが分かる。すなわち、全てのC2 Ph−PXX薄膜は櫛歯部P2 と背部P1 との交差部から背部P1 にかけて成長しており、これはC2 Ph−PXX薄膜の成長位置を正確に制御することができることを示している。これらのC2 Ph−PXX薄膜の大きさは約100×100μm2 であった。また、これらのC2 Ph−PXX薄膜の厚さは約0.2μmであった。各C2 Ph−PXX薄膜におけるコントラストは厚さが場所によって異なることによるものである。全てのC2 Ph−PXX薄膜は82度または98度の同様なファセット角を有し、これはファセット成長が起きていることを示す。この結果は、全てのC2 Ph−PXX薄膜はシングルドメインの結晶、言い換えると単結晶薄膜であることを示す。加えて、これらのC2 Ph−PXX薄膜の数を櫛歯部P2 の数で割った値で定義される歩留まりは12×32のマトリックスアレイの98.2%であり、これはこの方法が大面積プロセスとしての可能性を有することを示す。
【0042】
上述のC2 Ph−PXX薄膜の構造を詳細に調べるため、透過型電子顕微鏡(TEM)(JEOL JEM−4000FXS)により、加速電圧400kVかつ低線量条件で電子顕微鏡観察を行った。図8Aは、平面TEM観察からのC2 Ph−PXX薄膜の制限視野電子線回折パターンを示す。図8Aから分かるように、各回折スポットが明確に観察されており、これはC2 Ph−PXX薄膜が単結晶であることを示す。平面(a軸およびb軸)内の格子定数は、回折パターンの周期よりそれぞれ1.1nmおよび1.3nmと得られる。a軸とb軸との二つの方向により形成される角度は90.5度である。断面TEM写真により、c軸方向の格子定数は2.2nmであることが分かり、これはC2 Ph−PXX分子の長さと完全に整合する。ただし、a軸とb軸との二つの方向により形成される角度は約90度であるので、C2 Ph−PXX薄膜の結晶構造は斜方晶系と仮定した。図8Bには82度および98度の特徴的なファセット角が見られる。図8Cに示すように、実空間においては、{110}ファセットにより囲まれた長方形は対角線の両端に82度および98度の角度の特徴的な頂点を有する。従って、図8Cにファセット成長が明らかに見られるので、全てのC2 Ph−PXX薄膜は単結晶であると結論することができる。
【0043】
2 Ph−PXX薄膜の結晶方位を詳細に調べるために、図7Aに示す全てのC2 Ph−PXX薄膜の回転角を調べた。〈−110〉方向が櫛歯部P2 、すなわち核形成制御領域の長手方向と平行なC2 Ph−PXX薄膜の形状が回転角0度に対応すると定義する。右向きおよび左向きの回転は、それぞれ+および−の回転角で表される。図9は、櫛歯部P2 の幅が5μmのときのC2 Ph−PXX薄膜の回転角のヒストグラムを示す。図9の上部の挿入図は各回転角に対応してC2 Ph−PXX薄膜の結晶の形状を示したものである。図9より、C2 Ph−PXX薄膜は、約−48度および0度の回転角を有することが明確に観察される。全てのC2 Ph−PXX薄膜のうちの回転角が約−48度±10度以内にあるものの割合および回転角が約0度±10度以内にあるものの割合はそれぞれ29.1%および13.1%と見積もられた。従って、回転角が約−48度の形状が支配的であった。この形状は図7Bに示すC2 Ph−PXX薄膜の形状に対応する。図10は、櫛歯部P2 の幅が10μmのときのC2 Ph−PXX薄膜のヒストグラムを示す。図10に示すように、この場合は特別な回転角は存在しない。この結果は、C2 Ph−PXX薄膜の結晶方位は櫛歯部P2 の幅に依存することを示唆する。櫛歯部P2 の幅が減少するに従って、図7Bに示す形状のC2 Ph−PXX薄膜が増加する。
【0044】
以上より、次のような重要な結果が得られた。第1に、シングルドメイン、すなわち単結晶のC2 Ph−PXX薄膜を成長させることができる。第2に、C2 Ph−PXX薄膜の結晶方位は櫛歯部P2 の幅に依存し、櫛歯部P2 の幅を狭くすると結晶方位が揃う傾向が見られる。これらの結果は、櫛歯部P2 の領域内の現象と密接に関係していると考えられる。図11AおよびBは、溶媒の蒸発初期における櫛歯部P2 の領域内の結晶化メカニズムを示す。また、図12AおよびBは、溶媒の蒸発末期における櫛歯部P2 の領域内の結晶化メカニズムを示す。ここで、図11Aおよび図12Aは断面図、図11Bおよび図12Bは上面図を示す。図11AおよびBに示すように、溶媒の蒸発初期には櫛歯部P2 の領域内で有機溶液の液滴Lの表面に複数の結晶核Nが形成されるが、溶媒の蒸発末期には、図12AおよびBに示すように、最終的にただ一つの結晶核Nが十分に大きく成長して安定な結晶Cとなり櫛歯部P2 を塞ぐ。その理由は、図13に示すように、成長速度に異方性があるためであると考えられる(同図中の破線の矢印の長さは成長速度を示す)。すなわち、蒸発初期には、不均一な核形成のエネルギーの方が均一な核形成のエネルギーよりも低いことにより、液滴Lと疎液性表面S2 との界面で不均一に多数の結晶核Nが形成される。結晶のファセットは安定な表面であるため、結晶核Nは液滴Lと疎液性表面S2 との界面に接触して{110}面が形成される。結晶核Nが液滴Lと疎液性表面S2 との界面に当たらず、液滴Lの最上部に移動すると、表面張力が最大になるように結晶核Nが配列する。櫛歯部P2 の幅が小さくなるほど、液滴Lの曲率半径が小さくなる。従って、櫛歯部P2 の幅が小さくなるほど、結晶核Nの形状が細長い方がずっと有利である。結晶核Nが直ぐに当たらない場合とゆっくりと当たらない場合との二つの場合がある。直ぐに当たらない場合には、図11Bの(1)に示すように、結晶核Nは等方的に成長し、その結果、回転角48度の形状が形成される。これとは逆に、ゆっくりと当たらない場合には、図11Bの(2)に示すように、成長している〈110〉あるいは〈1−10〉ファセット面は液滴Lと疎液性表面S2 との界面と接触していないことにより、結晶核Nは非等方的に成長する。従って、回転角0度付近の形状が非常に有利である。ここで、〈110〉あるいは〈1−10〉ファセット面が液滴Lと疎液性表面S2 との界面と接触すると考える。この場合、回転角約±90度付近の形状が得られると考えられる。これは、液滴Lと疎液性表面S2 との界面と{110}面との間の結合力が、液滴Lと疎液性表面S2 との界面と{1−10}面との間の結合力より大きいためであると考えられる。
【0045】
[製膜装置]
上述の有機半導体単結晶薄膜の成長に用いられる製膜装置の一例について説明する。
【0046】
図14は、有機半導体単結晶薄膜15の成長に用いられる製膜装置を示す。図14に示すように、この製膜装置は、チャンバー21と連結管22を介してこのチャンバー21と連結された溶媒タンク23とを有する。チャンバー21は溶媒タンク23と連結された状態において密閉可能となっている。チャンバー21には排気管24が設けられている。チャンバー21内には、温度制御可能なホルダー25が設けられており、このホルダー25上に製膜を行う基体(図示せず)が載置される。
【0047】
溶媒タンク23には、有機半導体単結晶薄膜15の成長に用いられる有機溶液中の溶媒と同じ種類の補助溶媒26が蓄積されている。この補助溶媒26の温度は、図示省略したオイルバスなどの加熱手段により調整可能になっている。この補助溶媒26には、溶媒タンク23の外部から内部に導入されたガス導入管27を通じてガスを導入可能になっている。溶媒タンク23は、連結管22を通じてチャンバー21に補助溶媒26の蒸気を含む蒸気を供給可能になっている。これにより、補助溶媒26の温度に応じて、有機溶液の周辺環境、すなわちチャンバー21の内部における蒸気の圧力(蒸気圧)Pが制御されるようになっている。なお、チャンバー21に供給された蒸気は必要に応じて排気管24を通じて外部に排気可能である。
【0048】
以上のことを前提としてこの有機トランジスタの製造方法について説明する。
図15Aに示すように、まず、従来公知の方法により、基板11上にゲート電極12を形成する。
次に、ゲート電極12を覆うように基板11の全面に例えばSiO2 膜などの絶縁膜13を形成した後、この絶縁膜13を例えば反応性イオンエッチング(RIE)法などによりゲート電極12の上面が露出するまでエッチバックする。こうして、絶縁膜13の上面がゲート電極12の上面と同じ高さになり、表面が平坦化される。
【0049】
次に、こうして平坦化された絶縁膜13およびゲート電極12の表面に、例えば図3に示すような、親液性表面S1 を有する櫛歯パターンPを形成する。必要に応じて、櫛歯パターンPを形成する前に、絶縁膜13およびゲート電極12上にゲート絶縁膜の一部となる絶縁膜を形成してもよい。
【0050】
次に、図16に示すように、ゲート電極12および絶縁膜13が形成された基板11を製膜装置のチャンバー21内に導入し、ホルダー25上に載せる。次に、排気管24を閉じてチャンバー21および溶媒タンク23を密閉した後、例えば、ガス導入管27から溶媒タンク23に窒素(N2 )などのガス28を導入する。これにより、補助溶媒26を含む蒸気29が溶媒タンク23から連結管22を通じてチャンバー21に供給されるため、このチャンバー21の内部は蒸気29が満たされた環境となる。基板11の温度は、ホルダー25を用いて図2に示すTg に設定する。必要に応じて、オイルバスなどを用いて補助溶媒26の温度もTg に設定することが好ましい。これにより、チャンバー21の内部の蒸気圧Pが温度Tg における飽和蒸気圧になるため、液相(有機溶液18)と気相(蒸気)とが平衡状態になる。このことは、溶媒タンク23の内部における液相(補助溶媒26)と気相(蒸気)とにおいても同様である。
【0051】
一方、有機半導体およびこの有機半導体よりも比重が大きい有機絶縁体を、これらの有機半導体および有機絶縁体よりも比重が小さい溶媒に溶解させた有機溶液18を調製する。溶媒としては、従来公知のものを用いることができ、必要に応じて選ばれるが、具体的には、例えば、キシレン、p−キシレン、メシチレン、トルエン、テトラリン、アニソール、ベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、シクロヘキサンおよびエチルシクロヘキサンのうちの少なくとも一つである。
【0052】
図15Aおよび図16に示すように、こうして調製された有機溶液18を絶縁膜13およびゲート電極12上に供給する。そして、図15Bに示すように、この有機溶液18中の有機絶縁体を沈ませてゲート絶縁膜14を形成する。
【0053】
次に、上述の成長方法と同様に有機溶液18の温度をTg に保って有機溶液18中の溶媒を蒸発させることにより、櫛歯部P2 上に蓄えられた有機溶液18から結晶核が形成され、この結晶核から成長した結晶Cが背部P1 との連結部の櫛歯部P2 を塞ぎ、この塞いだ唯一の結晶Cが背部P1 上に蓄えられた有機溶液18中で成長を始める。このとき、背部P1 上に蓄えられた有機溶液18は表面が最も過飽和度が高いので、有機溶液18の表面で結晶の成長が進み、結晶は有機溶液18の中を浮遊しながら横方向成長し、有機半導体単結晶薄膜15が成長する。そして、背部P1 上に蓄えられた有機溶液18の溶媒が蒸発してなくなった時点でこの有機半導体単結晶薄膜15が、ゲート絶縁膜14の表面に接触する。
【0054】
次に、必要に応じて、こうして形成された有機半導体単結晶薄膜15をエッチングなどにより所定形状にパターニングした後、この有機半導体単結晶薄膜15上に従来公知の方法によりソース電極16およびドレイン電極17を形成する。
以上により、目的とするトップコンタクト・ボトムゲート型有機トランジスタが製造される。
【0055】
上述のように、有機半導体単結晶薄膜15は、結晶が有機溶液18の中を浮遊しながら横方向成長することにより得られるが、これを示す実例について説明する。
【0056】
図17AおよびBに示すように、表面に有機絶縁体からなる絶縁膜が形成された基板31上にAuからなる細線パターン32を互いに平行に複数形成した後、C2 Ph−PXXを溶媒に溶解させた有機溶媒を用いて上述の成長方法により成長を行った。ここで、図17Aは平面図、図17Bは断面図である。
【0057】
図17AおよびBに示すように、細線パターン32上にC2 Ph−PXX単結晶薄膜33が成長した。図17Bの左から2番目の細線パターン32付近の断面透過型電子顕微鏡写真を図18Aに示す。図18Aでは、細線パターン32の左側に、この細線パターン32とC2 Ph−PXX単結晶薄膜33と基板31とにより囲まれた空隙(Void) が観察される。また、図17Bの一番左の細線パターン32の左の部分の断面透過型電子顕微鏡写真を図18Bに示す。図18Bでは、細線パターン32の左側に、C2 Ph−PXX単結晶薄膜33と基板31とにより囲まれた空隙(Void) が観察される。
【0058】
2 Ph−PXX単結晶薄膜33の平面内の大きさは約100μm、厚さは約0.7μmであった。これより、C2 Ph−PXX単結晶薄膜33の縦方向の成長速度に対する横方向の成長速度の比は約140であった。この結果より、C2 Ph−PXX単結晶薄膜33は横方向成長していると言える。
【0059】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、ゲート絶縁膜14上に有機半導体単結晶薄膜15を、途中でゲート絶縁膜14の表面を大気に晒すことなく成長させることができるので、有機半導体単結晶薄膜15とゲート絶縁膜14との界面を良好なものにすることができる。このため、半導体単結晶薄膜15のキャリア移動度を十分に高くすることができ、高移動度の高性能の有機トランジスタを実現することができる。
【0060】
〈2.第2の実施の形態〉
[有機トランジスタの製造方法]
図19A〜Dは第2の実施の形態による有機トランジスタの製造方法を示す。
図19Aに示すように、まず、第1の実施の形態と同様にして、基板11の一主面にゲート電極12をアレイ状に多数形成する。ゲート電極12の間の部分には絶縁膜13を埋設する。
【0061】
次に、図19Bに示すように、第1の実施の形態と同様にして、ゲート電極12および絶縁膜13が形成された基板11の一主面に有機溶液18を供給する。
【0062】
次に、図19Cに示すように、第1の実施の形態と同様にして、有機溶液18中の有機絶縁体を沈めてゲート電極12上にゲート絶縁膜14を形成する。
【0063】
次に、図19Dに示すように、第1の実施の形態と同様にして、ゲート絶縁膜14上に有機半導体単結晶薄膜15を成長させる。
【0064】
この後、有機半導体単結晶薄膜15をエッチングによりパターニングして各ゲート電極12を含む所定形状の領域に分割した後、各有機半導体単結晶薄膜15上にソース電極16およびドレイン電極17を形成する。
以上により、複数の有機トランジスタがアレイ状に多数形成される。
【0065】
この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0066】
〈3.第3の実施の形態〉
[有機トランジスタの製造方法]
第3の実施の形態による有機トランジスタの製造方法においては、有機溶液18を次のようにして調製する。すなわち、有機半導体をこの有機半導体よりも比重が小さい第1の溶媒に溶解させた第1の有機溶液を調製するとともに、有機絶縁体をこの有機絶縁体よりも比重が小さい第2の溶媒に溶解させた第2の有機溶液を調製する。第1の溶媒の比重は第2の溶媒の比重よりも小さい。このため、第1の有機溶液と第2の有機溶液とは互いに混ざらない。また、第2の溶媒としては第1の溶媒よりも速く蒸発(揮発)するものを用いる。これらの第1の有機溶液および第2の有機溶液を互いに混合したものを有機溶液18として用いる。この有機溶液18を激しく撹拌した後、ゲート電極12上に塗布または印刷する。有機溶液18の塗布の方法としては、スピンコート法などが挙げられる。有機溶液18の印刷の方法としては、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、反転オフセット印刷法、グラビア印刷法、マイクロコンタクト法などが挙げられる。有機溶液18の塗布または印刷の方法としては、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、ナイフコーター法、スクイズコーター法、リバースロールコーター法、トランスファーロールコーター法、グラビアコーター法、キスコーター法、キャストコーター法、スプレーコーター法、スリットオリフィスコーター法、カレンダーコーター法、浸漬法といった各種のコーティング法も挙げられる。
【0067】
ゲート電極12上に塗布または印刷された有機溶液18においては、有機絶縁体を第2の溶媒に溶解させた第2の有機溶液が下層に形成され、有機半導体を第1の溶媒に溶解させた第2の有機溶液が上層に形成され、両者は相分離する。最初にまず、第2の有機溶液中の有機絶縁体が沈んでゲート電極12上にゲート絶縁膜14が形成される。続いて、第2の溶媒が蒸発した後に、第1の実施の形態と同様にして、ゲート絶縁膜14上に有機半導体単結晶薄膜15を成長させる。
【0068】
この第3の実施の形態においては、上記以外のことは第1の実施の形態と同様である。
この第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0069】
以上、実施の形態について具体的に説明したが、本開示は、上述の実施の形態に限定されるものではない。
【0070】
例えば、上述の実施の形態において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
【0071】
なお、本技術は以下のような構成も取ることができる。
(1)親液性の表面を有する成長制御領域およびこの成長制御領域の一辺にこの成長制御領域と連結されて設けられた少なくとも一つの核形成制御領域を一主面に有する基体の上記成長制御領域および上記核形成制御領域に、有機半導体および有機絶縁体を溶媒に溶解させた不飽和の有機溶液を供給する工程と、
上記有機溶液中の上記有機絶縁体を上記基体の上記一主面に沈ませることにより上記有機絶縁体からなる絶縁膜を形成する工程と、
上記有機溶液の上記溶媒を蒸発させることにより、上記絶縁膜上に上記有機半導体からなる有機半導体単結晶薄膜を成長させる工程とを有する有機半導体素子の製造方法。
(2)上記有機溶液の上記溶媒を蒸発させることにより、上記成長制御領域では上記有機溶液の状態が上記有機溶液の溶解度−過溶解度図の溶解度曲線と過溶解度曲線との間の準安定領域にあり、上記核形成制御領域では上記有機溶液の状態が上記溶解度−過溶解度図の過溶解度曲線の下側の不安定領域にあるようにする前記(1)に記載の有機半導体素子の製造方法。
(3)上記有機溶液を一定温度に保持する前記(1)または(2)に記載の有機半導体素子の製造方法。
(4)上記有機絶縁体の比重は上記有機半導体の比重よりも大きい前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の有機半導体素子の製造方法。
(5)上記有機溶液は、有機半導体を第1の溶媒に溶解させた第1の有機溶液と、有機絶縁体を第2の溶媒に溶解させた第2の有機溶液とからなり、上記第1の溶媒の比重は上記第2の溶媒の比重よりも小さい前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の有機半導体素子の製造方法。
(6)上記成長制御領域は長方形であり、上記核形成制御領域は上記成長制御領域の一辺にこの辺に垂直に設けられた上記成長制御領域よりも小さい長方形である前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の有機半導体素子の製造方法。
(7)上記有機半導体素子は有機トランジスタであり、上記基体の上記一主面にゲート電極を形成し、このゲート電極上にゲート絶縁膜として上記絶縁膜を形成し、上記絶縁膜上にチャネル層として上記有機半導体単結晶薄膜を成長させる前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の有機半導体素子の製造方法。
【符号の説明】
【0072】
11…基板、12…ゲート電極、13…絶縁膜、14…ゲート絶縁膜、15…有機半導体単結晶薄膜、16…ソース電極、17…ドレイン電極、18…有機溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親液性の表面を有する成長制御領域およびこの成長制御領域の一辺にこの成長制御領域と連結されて設けられた少なくとも一つの核形成制御領域を一主面に有する基体の上記成長制御領域および上記核形成制御領域に、有機半導体および有機絶縁体を溶媒に溶解させた不飽和の有機溶液を供給する工程と、
上記有機溶液中の上記有機絶縁体を上記基体の上記一主面に沈ませることにより上記有機絶縁体からなる絶縁膜を形成する工程と、
上記有機溶液の上記溶媒を蒸発させることにより、上記絶縁膜上に上記有機半導体からなる有機半導体単結晶薄膜を成長させる工程とを有する有機半導体素子の製造方法。
【請求項2】
上記有機溶液の上記溶媒を蒸発させることにより、上記成長制御領域では上記有機溶液の状態が上記有機溶液の溶解度−過溶解度図の溶解度曲線と過溶解度曲線との間の準安定領域にあり、上記核形成制御領域では上記有機溶液の状態が上記溶解度−過溶解度図の過溶解度曲線の下側の不安定領域にあるようにする請求項1記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項3】
上記有機溶液を一定温度に保持する請求項2記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項4】
上記有機絶縁体の比重は上記有機半導体の比重よりも大きい請求項3記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項5】
上記有機溶液は、有機半導体を第1の溶媒に溶解させた第1の有機溶液と、有機絶縁体を第2の溶媒に溶解させた第2の有機溶液とからなり、上記第1の溶媒の比重は上記第2の溶媒の比重よりも小さい請求項1記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項6】
上記成長制御領域は長方形であり、上記核形成制御領域は上記成長制御領域の一辺にこの辺に垂直に設けられた上記成長制御領域よりも小さい長方形である請求項1記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項7】
上記有機半導体素子は有機トランジスタであり、上記基体の上記一主面にゲート電極を形成し、このゲート電極上にゲート絶縁膜として上記絶縁膜を形成し、上記絶縁膜上にチャネル層として上記有機半導体単結晶薄膜を成長させる請求項1記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項8】
親液性の表面を有する成長制御領域およびこの成長制御領域の一辺にこの成長制御領域と連結されて設けられた少なくとも一つの核形成制御領域を一主面に有する基体の上記成長制御領域および上記核形成制御領域に、有機半導体および有機絶縁体を溶媒に溶解させた不飽和の有機溶液を供給する工程と、
上記有機溶液中の上記有機絶縁体を上記基体の上記一主面に沈ませることにより上記有機絶縁体からなる絶縁膜を形成する工程と、
上記有機溶液の上記溶媒を蒸発させることにより、上記絶縁膜上に上記有機半導体からなる有機半導体単結晶薄膜を成長させる工程とを実行することにより製造される有機半導体素子。
【請求項9】
親液性の表面を有する成長制御領域およびこの成長制御領域の一辺にこの成長制御領域と連結されて設けられた少なくとも一つの核形成制御領域を一主面に有する基体の上記成長制御領域および上記核形成制御領域に、有機半導体および有機絶縁体を溶媒に溶解させた不飽和の有機溶液を供給する工程と、
上記有機溶液中の上記有機絶縁体を上記基体の上記一主面に沈ませることにより上記有機絶縁体からなる絶縁膜を形成する工程と、
上記有機溶液の上記溶媒を蒸発させることにより、上記絶縁膜上に上記有機半導体からなる有機半導体単結晶薄膜を成長させる工程とを実行することにより製造される有機半導体素子を有する電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図19】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2013−98487(P2013−98487A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242461(P2011−242461)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】