説明

有機半導体素子及びその製造方法

【課題】シリコン電極の自然酸化を防止でき、電極表面の抵抗を一定に保つことができる有機半導体素子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリシリコン層10の表面の酸化シリコン膜(SiO2)12を除去して水素終端化させSi−Hを形成し、次に、水素終端化された表面に有機鎖14を結合させSi−有機鎖を形成し、疎水性の有機鎖14による単分子層を形成させる。次に、Si−有機鎖が形成された表面にピロールモノマー溶液13をキャストして、キャストされた溶液に陰極16を挿入し陰極16がポリシリコン層10に接触しないように配置し、ポリシリコン層10の表面に陽極17を接触させて、電解重合を行なって、ポリピロール層15を形成する。密着性が良好で安定したポリピロール層15を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体層を含む有機半導体素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報端末のディスプレイとしてフラットパネルディスプレイのニーズ、薄型で軽量のモバイル用表示媒体として電子ペーパー又はデジタルペーパーのニーズが高い。液晶、有機EL等の一般のディスプレイ装置では、アクティブ駆動素子(薄膜トランジスタ、TFT素子)を使用して画素が駆動される場合がある。例えば、通常のディスプレイでは、ガラス基板上にTFT素子が形成され、液晶、有機EL等が封止される。TFT素子は、アモルファスシリコン(a−Si)、ポリシリコン(p−Si)等の電極が使用され、例えば、プラスチック基板にSi半導体が多層化され、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極が基板上に順次形成されTFT素子が形成される。また、TFT素子の活性半導体層として有機材料が検討されている。
【0003】
シリコンの表面改質、有機トランジスタに関して種々の検討がされている。
【0004】
まず、「電子写真感光体」と題する後記の特許文献1に、電子写真感光体に関して、次の記載がある。
【0005】
特許文献1の発明は、a−Siからなる感光層を備えた電子写真感光体において、前記感光層の表面を疎水基により化学修飾処理したことを特徴としたものであり、上記疎水基によるa−Si感光層の化学修飾処理手段としては、次に列挙する方法があるとしている。
【0006】
(1)a−Si感光層表面のシラノール基に熱濃硫酸の存在下でアルコールを作用させ、120〜160℃の温度で感光層表面のシラノール基とアルコールとを脱水縮合させて、a−Si感光層表面にアルコキシ基を導入して化学修飾を行なう。
【0007】
(2)a−Si感光層表面のシラノール基を塩酸化して塩素を該感光層表面に導入した後、グリニャル試薬を作用させてa−Si感光層表面にアルキル基を導入して化学修飾を行なう。
【0008】
(3)a−Si感光層表面のシラノール基にプロピレングリコールを作用させてa−Si感光層表面にイソプロポキシ基を導入して化学修飾を行なう。
【0009】
(4)a−Si感光層表面のシラノール基に塩化チオ二ルを作用させた後、フェ二ルリチウムを作用させてa−Si感光層表面にフェニル基を導入して化学修飾を行なう。
【0010】
(5)a−Si感光層表面のシラノール基に四塩化チタンを作用させた後、スチレンを作用させてa−Si感光層表面にポリスチレンを導入して化学修飾を行なう。
【0011】
また、上記化学修飾方法の他に、カップリング剤を使用することにより容易にa−Si感光層表面に疎水性の表面処理層を形成できる。
【0012】
また、「シリコンウェハー上の有機単分子膜の光パターニング」と題する後記の特許文献2に、次の記載がある。
【0013】
特許文献2の発明に従えば、末端に不飽和結合を有する炭化水素を溶解させた無水有機溶媒中に水素終端化シリコンウェハーを浸漬することにより、この水素終端化シリコンウェハー上に有機単分子膜(SAM)を形成させる。炭化水素としては、末端に不飽和結合を有し、自己組織的に単分子膜を形成し得るような分子構造を有するものであれば脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素(各種の官能基又は原子団で修飾されていてもよい)の何れも使用可能であるが、緻密な単分子膜構造を形成する点からは、一般に、脂肪族炭化水素が好ましい。また、不飽和結合をもたない側の末端に、有機単分子膜(SAM)上での反応や反応によって他の物質を結合させるために、官能基を持たせることもできるとしている。
【0014】
そのような官能基としては、例えば、アミノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、又はそれの塩、水酸基等が挙げられる。また、不飽和結合とは、二重結合及び三重結合の両方を包含するが、シリコン(ケイ素)との反応性を考慮すると二重結合が好ましい。これらの点から、特許文献2の明において用いられる末端に不飽和結合を有する炭化水素として特に好ましいのは、炭素数4〜18のアルケンである。
【0015】
また、「基板及びその製造方法」と題する後記の特許文献3に、生化学的電子デバイスの構築のために用いることができる基板に関して、次の記載がある。
【0016】
特許文献3の発明は、アルキル鎖長が比較的短いアルキル基、特に末端に置換基を有するアルキル基が表面上に固定された基板、特にケイ素基板を提供すること、及び、そのような基板を、不純物である酸化膜の生成を抑制しつつ、簡便に製造し得る方法を提供することを目的としている。
【0017】
特許文献3の発明の基板は、基板上にアルキル基を有する基板であって、前記基板は、ケイ素基板、炭化ケイ素基板、ゲルマニウム基板、又は炭素基板であり、前記アルキル基は、基板に含まれるケイ素原子、炭素原子、又はゲルマニウム原子とアルキル基に含まれる炭素原子との共有結合を介して基板上に固定されている。ここで、「基板に含まれるケイ素原子、炭素原子、又はゲルマニウム原子」とは、基板を構成する原子である。特許文献3の発明の基板では、アルキル基は、酸化膜を介さずに、直接基板表面に固定されている。
【0018】
特許文献3の発明の基板には、基板に含まれる原子とアルキル基に含まれる炭素原子との共有結合を介して、基板上にアルキル基が固定されている。基板がケイ素基板である場合、前記共有結合はSi−C共有結合であり、基板が炭化ケイ素基板である場合には、前記共有結合としては、Si−C共有結合及びC−C共有結合が共存し、基板がゲルマニウム基板である場合、前記共有結合はGe−C共有結合であり、基板が炭素基板である場合、前記共有結合は、C−C共有結合である。
【0019】
前記アルキル基は、直鎖アルキル基であることもでき、分岐アルキル基であることもでき、目的に応じて選ぶことができるが、生体高分子等のリンカーとしては、直鎖アルキル基であることが好ましい。また、前記アルキル基は、飽和アルキル基であることもでき、少なくとも一部に不飽和結合を含むものであることもできる。また、製造の容易性からは、前記アルキル基の炭素数は、2〜17の範囲であることが好ましい。また、アルキル基が長くなるほど、基板近傍の結合状態の制御が困難となるため、純度の維持の点からは、前記アルキル基の炭素数は、2〜5であることが好ましい。
【0020】
基板上にアルキル基を有する基板は、水素終端ケイ素基板を、紫外線照射下で炭化水素ガス雰囲気に曝すことにより、基板に含まれる原子とアルキル基に含まれる炭素原子との共有結合を介して基板上にアルキル基を固定する工程を含む方法によって得ることができる。
【0021】
また、「有機基で修飾されたシリコン基板の製造方法」と題する後記の特許文献4に、次の記載がある。
【0022】
特許文献4の発明では、シリコン基板表面に有機基を導入するために水素終端化シリコンと容易にヒドロシリル化反応を行なう化合物を使用する。そのような化合物として、シリコンとのヒドロシリル化反応に対して反応性が高く、また有用な官能基となる電子吸引性又は共役系置換基を含む活性アルキンを用いることで、温和な条件でのシリコン表面の有機基修飾を達成するとしている。
【0023】
即ち、特許文献4の発明の有機基修飾シリコン基板の製造方法は、シリコン基板を有機反応液に浸漬して攪拌する反応工程を含むが、その有機反応液に浸漬する際のシリコン基板は表面が水素終端化されたものであり、その有機反応液は電子吸引性又は共役系置換基をもって不飽和結合部分が活性化された活性アルキンを含む液であり、且つその反応工程では有機反応液にエネルギー源としての光照射を行なわないことを特徴としている。
【0024】
有機基を導入しようとするシリコン基板は、表面がシリコン層であればよく、シリコン単結晶基板のほか、絶縁基板の表面にシリコン層を形成したSOI(Silicon on Insulator)基板でもよく、また、表面のシリコン層は単結晶に限らず、多結晶でも非晶質でもよいとしている。
【0025】
また、後記の非特許文献1に、Si表面のアルキル化についての記載がある。
【0026】
有機トランジスタ或いは有機薄膜トランジスタの構成について、有機半導体材料、電極材料等についての検討がなされており(例えば、後記する特許文献5、特許文献6を参照。)、「有機半導体及び有機トランジスタ」と題する後記の特許文献5に、有機トランジスタのゲート絶縁層に使用する材料の表面改質に関してして、次の記載がある。
【0027】
ゲート絶縁層に使用する材料としては、無機又は有機材料等種々の絶縁性材料を用いることができ、機材料として単金属酸化物或いは複合酸化物を用いる場合には、酸化物表面と有機半導体との密着性を高めるために、親水的な酸化物表面をオクタデシルトリクロロシラン等のアルキルトリクロロシラン、オクタデシルトリメトキシシラン及びその他のアルキルトリメトキシシラン、フッ素化アルキルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、及びその他のシリル化剤によって疎水的な表面に改質することが望ましいとしている。
【0028】
【特許文献1】特開昭61−12651号公報(第2頁左上欄第3行〜同頁右上欄第15行)
【特許文献2】特開2003−309061号公報(段落0012)
【特許文献3】特開2005−265459号公報(段落0009〜0014)
【特許文献4】特開2006−210844号公報(段落0007〜0009、図1)
【特許文献5】特開2006−245131号公報(段落0034〜0057、図1、図2)
【特許文献6】特開2008−10676号公報(段落0009〜0010)
【非特許文献1】中戸、「界面ナノ制御による高効率太陽エネルギー変換」、表面技術、vol. 57, No. 3 (2006) p194 - p200(p.297、2.3 表面アルキル化による安定性の向上)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
周知のように、ポリシリコンを大気に曝すと、表面に膜厚が数nmの自然酸化膜が形成され、自然酸化膜は、時間経過と共に膜厚が徐々に増大する。自然酸化膜は絶縁体である。ポリシリコンで作製された所定のナノギャップを置いて形成された電極(ナノ電極)にまたがるように、このナノギャップに有機半導体を配置してチャネルを形成して、半導体素子(分子素子)を作製することを考える。電極表面に数nmの自然酸化膜が形成され、この酸化膜が更に大気に曝されると、酸化膜厚は増大し、電極表面の抵抗が変化してしまい、分子素子の電気特性が時間的に変化してしまうことになる。
【0030】
また、ポリシリコン表面には自然酸化膜が形成され、この酸化膜は親水性であることから、疎水性の有機半導体との親和性は低く、有機半導体を電極上に形成しても、有機半導体層はすぐに剥離されてしまい、ポリシリコンで作製された電極間に正常に接続されたチャネルを形成することができない。
【0031】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、シリコン等の電極の自然酸化を防止すると共に有機半導体層を安定に形成でき、電極表面の抵抗を一定に保つことができる有機半導体素子及びその製造方法を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0032】
即ち、本発明は、表面に有機鎖が結合されてなる疎水性の膜が形成された電極と、前記膜の表面に形成された有機半導体層とを有する有機半導体素子に係るものである。
【0033】
また、本発明は、電極の表面を水素終端化させる第1工程と、水素終端化された前記電極の表面に有機鎖を結合して疎水性の膜を形成する第2工程と、前記膜の表面に有機半導体層を形成する第3工程とを有する有機半導体素子の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、表面に有機鎖が結合されてなる疎水性の膜が形成された電極と、前記膜の表面に形成された有機半導体層とを有するので、前記電極に形成された前記膜によって前記電極における自然酸化膜の形成を防止すると共に、前記膜上に前記有機半導体層が形成されるので、前記電極から剥離しにくい有機半導体層を安定に形成することができ、前記電極表面の抵抗を一定に保ち、電気特性の時間変化を抑制することができる有機半導体素子を提供することができる。
【0035】
また、本発明によれば、電極の表面を水素終端化させる第1工程と、水素終端化された前記電極の表面に有機鎖を結合して疎水性の膜を形成する第2工程と、前記膜の表面に有機半導体層を形成する第3工程とを有するので、前記電極に形成された前記膜によって前記電極における自然酸化膜の形成を防止すると共に、前記膜上に前記有機半導体層が形成されるので、前記電極から剥離しにくい有機半導体層を安定に形成することができ、前記電極表面の抵抗を一定に保ち、電気特性の時間変化を抑制することができる有機半導体素子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の有機半導体素子では、前記膜が単分子膜であり、前記電極がシリコンによって形成されたシリコン電極であり、前記有機半導体層が電解重合によって形成された構成とするのがよい。このような構成によれば、前記有機半導体層を形成するための有機モノマー溶液が前記シリコン電極の一部を覆うように滴下され、第1の電極が前記シリコン電極に接触しないように有機モノマー溶液中に浸漬され、有機モノマー溶液に覆われていない部分で第2の電極が前記シリコン電極に接触されて、第1及び第2の電極間に電圧が印加されることにより電解重合が行なわれるので、前記シリコン電極を、電解重合を行なうための電極、及び、前記有機半導体層が形成された後に有機半導体素子として作用させるための電極としてそのまま残して使用することができる。また、前記シリコン電極に形成された前記単分子膜によって前記シリコン電極における自然酸化膜の形成を防止すると共に、前記単分子膜上に電解重合によって前記有機半導体層が形成されるので、前記シリコン電極から剥離しにくい有機半導体層を安定に形成することができ、前記シリコン電極表面の抵抗を一定に保ち、電気特性の時間変化を抑制することができる有機半導体素子を提供することができる。
【0037】
また、前記シリコン電極がポリシリコンによって形成された構成とするのがよい。このような構成によれば、低コストで有機半導体素子を提供することができる。
【0038】
また、前記有機鎖がアルキル鎖である構成とするのがよい。このような構成によれば、前記単分子膜をより疎水性とすることができ、前記有機鎖と前記有機半導体層との接触性を向上させ、前記有機半導体層を前記シリコン電極から剥離しにくくすることができる。
【0039】
また、前記有機半導体層がポリピロール層である構成とするのがよい。このような構成によれば、前記有機半導体層を前記有機鎖に密着させて安定に形成することができ、必要に応じてアニオンをドープすることができる。
【0040】
また、前記シリコン電極が所定の間隙をおいて形成されたソース電極及びドレイン電極であり、前記有機半導体層が前記所定の間隙に形成されチャネルをなし、有機半導体素子がトランジスタである構成とするのがよい。このような構成によれば、前記有機半導体層を形成するための有機モノマー溶液が前記所定の間隙を含み前記ソース電極及び前記ドレイン電極の一部を覆うように滴下され、第1の電極が前記ソース電極及び前記ドレイン電極に接触しないように有機モノマー溶液中に浸漬され、有機モノマー溶液に覆われていない部分で第2の電極が前記ソース電極及び前記ドレイン電極に接触されて、第1及び第2の電極間に電圧が印加されることにより電解重合が行なわれるので、電解重合によってポリマーからなる有機半導体が前記単分子膜の形成された前記ソース電極及び前記ドレイン電極面に析出して成長していき、前記所定の間隙、例えば、ナノギャップを埋めるように、前記有機半導体層が形成されてチャネルをなし、前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、電解重合を行なうための電極、及び、前記有機半導体層が形成された後に有機半導体素子として作用させるための電極としてそのまま残して使用されて、電界効果型トランジスタを形成することができる。
【0041】
また、本発明の有機半導体素子の製造方法では、前記膜が単分子膜であり、前記電極がシリコンによって形成されたシリコン電極であり、前記有機半導体層が電解重合によって形成される構成とするのがよい。このような構成によれば、前記有機半導体層を形成するための有機モノマー溶液が前記シリコン電極の一部を覆うように滴下され、第1の電極が前記シリコン電極に接触しないように有機モノマー溶液中に浸漬され、有機モノマー溶液に覆われていない部分で第2の電極が前記シリコン電極に接触されて、第1及び第2の電極間に電圧が印加されることにより電解重合が行なわれるので、前記シリコン電極を、電解重合を行なうための電極、及び、前記有機半導体層が形成された後に有機半導体素子として作用させるための電極としてそのまま残して使用することができる。また、前記シリコン電極に形成された前記単分子膜によって前記シリコン電極における自然酸化膜の形成を防止すると共に、前記単分子膜上に電解重合によって前記有機半導体層が形成されるので、前記シリコン電極から剥離しにくい有機半導体層を安定に形成することができ、前記シリコン電極表面の抵抗を一定に保ち、電気特性の時間変化を抑制することができる有機半導体素子の製造方法を提供することができる。
【0042】
また、前記シリコン電極がポリシリコンによって形成される構成とするのがよい。このような構成によれば、低コストで有機半導体素子を製造することができる。
【0043】
また、前記有機鎖がアルキル鎖である構成とするのがよい。このような構成によれば、前記単分子膜をより疎水性とすることができ、前記有機鎖と前記有機半導体層の接触性を向上させ、前記有機半導体層を前記シリコン電極から剥離しにくい有機半導体素子を製造することができる。
【0044】
また、前記有機半導体層がポリピロール層である構成とするのがよい。このような構成によれば、前記有機半導体層を前記有機鎖に密着させて安定に形成することができ、必要に応じてアニオンをドープすることができる有機半導体素子を実現することができる。
【0045】
また、前記シリコン電極が所定の間隙をおいてソース電極及びドレイン電極として形成される工程を有し、前記有機半導体層が前記所定の間隙に形成されチャネルをなし、有機半導体素子がトランジスタである構成とするのがよい。このような構成によれば、前記有機半導体層を形成するための有機モノマー溶液が前記所定の間隙を含み前記ソース電極及び前記ドレイン電極の一部を覆うように滴下され、第1の電極が前記ソース電極及び前記ドレイン電極に接触しないように有機モノマー溶液中に浸漬され、有機モノマー溶液に覆われていない部分で第2の電極が前記ソース電極及び前記ドレイン電極に接触されて、第1及び第2の電極間の電圧の印加により電解重合が行なわれるので、電解重合によってポリマーからなる有機半導体が前記単分子膜の形成された前記ソース電極及び前記ドレイン電極面に析出して成長していき、前記所定の間隙、例えば、ナノギャップを埋めるように、前記有機半導体層が形成されてチャネルをなし、前記ソース電極及び前記ドレイン電極が、電解重合を行なうための電極、及び、前記有機半導体層が形成された後に有機半導体素子として作用させるための電極としてそのまま残して使用される、電界効果型トランジスタの製造方法を提供することができる。
【0046】
本発明に基づく有機半導体素子では、ポリシリコン、アモルファスシリコン等によって形成されたシリコン電極、その他、ゲルマニウム電極、炭素電極、炭化珪素電極等の電極を、有機鎖で修飾して(電極を構成するSi(シリコン電極、炭化珪素電極の場合)、Ge(ゲルマニウム電極の場合)、C(炭素電極の場合)等と有機鎖(例えば、アルキル鎖)のCとの共有結合によって、電極は有機鎖で修飾される。)、単分子膜を形成し、電極表面を疎水的にし、この単分子膜の表面に有機半導体層を電解重合によって形成するので、上記の単分子膜によって電極表面への自然酸化膜形成を防止することができ、有機鎖による単分子膜を電極保護膜とすることができ、電極表面の抵抗の時間変化をなくすことができ、電気特性の時間変化を阻止することができ、また、電極表面と有機半導体層との親和性を向上させることができ、有機半導体層が電極表面から剥離されることがなくなり、安定した状態で保持され、有機半導体素子の信頼性が向上する。電解重合によって有機半導体層を形成する際に使用される電極の一部は、有機半導体素子において使用される電極として使用される。
【0047】
電解重合以外の方法、例えば、ディップ法やインクジェット法等により、ポリマーからなる有機半導体そのものを使用する有機半導体層を形成する方法がある。ただ、電解重合以外の方法では、ナノギャップを置いて形成された2個の上記の電極(ナノ電極)にまたがるように、2個の電極に密着させて所定のナノギャップにチャネルを形成し、しかも、電気特性の時間変化を生じないようにするには、電解重合によるのが望ましい。
【0048】
即ち、電解重合によって有機半導体層を形成すれば、所定のナノギャップを置いて形成された2個の上記の電極(ナノ電極)にまたがるようにナノギャップにチャネルを形成することができ、しかも、電気特性の時間変化を生じないような半導体素子(分子素子)を作製することができる。
【0049】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0050】
実施の形態
図1は、本発明の実施の形態におけるポリシリコン層の表面改質を説明する断面図である。
【0051】
図1に図示しないシリコン基板に形成されたポリシリコン層10の表面は自然酸化され、酸化シリコン膜(SiO2)12が形成されているので、これを除去して水素終端化させ、ポリシリコン層10の表面にSi−Hを形成させる処理を行なう。次に水素終端化された表面に有機鎖14を結合させSi−有機鎖を形成し、疎水性の有機鎖14による単分子層(膜)を形成させる。
【0052】
次に、Si−有機鎖が形成された表面にピロールモノマー溶液13をキャストする。キャストされたピロールモノマー溶液13に陰極(対極)16を挿入し、陰極16がポリシリコン層10に接触しないように配置し、ポリシリコン層10の表面に陽極17を接触させて配置する。
【0053】
次に、陰極16と陽極17の間に電流を流して、電解重合を行なって、ポリピロール層15を形成する。疎水性の有機鎖14による単分子層上に、電解重合によってポリピロール層15が形成されるので、ポリピロール層15のポリシリコン層10への密着性は良好であり、安定したポリピロール層15を形成することができる。
【0054】
図2は、本発明の実施の形態におけるポリシリコン層への有機鎖の結合を説明する図である。
【0055】
熱励起又は光励起して生成されるシリコンラジカルと有機分子との反応によって、図2に示す例のように、ポリシリコン層の水素終端化されたSi−Hと有機分子R−Yを反応させて、ポリシリコン層へ有機鎖を結合することができる。ここで、Rは、例えば、アルキル基(−Cn2n+1、n=1〜20とする。)であり、Yは、例えば、CH=CH2、C三CH、CH、CHO、MgX(Xはハロゲン原子(Cl,Br,I)である。)等である。
【0056】
図2(a)は、水素終端化されたSi−Hとアルケンの反応により、有機鎖−CH2−CH2−Rが結合されたSi−CH2−CH2−Rが形成される例である。
【0057】
図2(b)は、水素終端化されたSi−Hとアルキンの反応により、有機鎖−CH=CH−Rが結合されたSi−CH=CH−Rが形成される例である。
【0058】
図2(c)は、水素終端化されたSi−Hとアルカノールの反応により、有機鎖−O−Rが結合されたSi−O−Rが形成される例である。
【0059】
図2(d)は、水素終端化されたSi−Hとアルカナールの反応により、有機鎖−O−CH2−Rが結合されたSi−O−CH2−Rが形成される例である。
【0060】
図2(e)は、水素終端化されたSi−Hとグリ二ア試薬の反応により、有機鎖−Rが結合されたSi−Rが形成される例である。
【0061】
なお、図2において、Rはアルキル基に限らず、疎水的な置換基であればよく、例えば、フェニル基(Ph)、フェニルアルキル基Ph−Cn2n+1(n=1〜20とする。)、フェニルアルコキシ基Ph−OCn2n+1(n=1〜20とする。)、ビフェニル基等でもよい。
【0062】
以上では、水素終端化シリコンS−Hと有機分子R−Yを反応させて、ポリシリコン層へ有機鎖を結合する例を説明したが、水素終端化シリコンS−HにおけるHをハロゲン化したハロゲン終端化シリコンSi−X(X=Cl,Br,I)と有機分子R−Yを反応させて、ポリシリコン層へ有機鎖を結合することもできる。ここで、Yは、例えば、CH=CH2、C三CH、CH、CHO、MgX(Xはハロゲン原子(Cl,Br,I)である。)等である。
【0063】
以上説明したポリシリコンの表面改質は、非晶質シリコン、結晶シリコンの表面改質に適用できることは言うまでもない。
【0064】
次に、本発明に基づく表面改質を用いた有機トランジスタについて説明する。
【0065】
図3は、本発明の実施の形態における有機トランジスタの一例を説明する断面図であり、図3(A)はボトムゲート型電界効果型トランジスタ、図3(B)はトップゲート型電界効果型トランジスタを示す。
【0066】
図3(A)に示されるボトムゲート型電界効果型有機トランジスタでは、基板30上に図示しない絶縁層上にゲート電極36が形成されており、更にゲート電極36上にはゲート絶縁層38が形成されている。また、ゲート絶縁層38上には、ソース電極34、ドレイン電極32が形成されている。更に、ソース電極34、ドレイン電極32の表面領域に、ゲート絶縁層38、ソース電極34、ドレイン電極32を被覆するように、有機半導体を含む有機半導体層(有機半導体材料により形成された活性半導体層)40が形成されている。
【0067】
チャネルとなる有機半導体層40はゲート電極36より上部に形成されている。有機半導体層40は、ゲート絶縁層38上に所定の間隔をおいて配置されたソース電極34、ドレイン電極32にまたがるように配置されている。ソース電極34とドレイン電極32の間にチャネルが形成されている。有機半導体層40は図示しない絶縁層で被覆されている。
【0068】
図3(B)に示されるトップゲート型電界効果型有機トランジスタでは、基板30上に図示しない絶縁層上にソース電極34、ドレイン電極32が形成されている。更に、基板30の表面、ソース電極34、ドレイン電極32を被覆するように、有機半導体層(活性半導体層)40が形成され、有機半導体層40の上にゲート絶縁層38、ゲート電極36が形成されている。
【0069】
ゲート電極36はチャネルとなる有機半導体層40より上部に形成されている。有機半導体層40は、基板30上の図示しない絶縁層上に所定の間隔をおいて配置されたソース電極34、ドレイン電極32にまたがるように配置されている。ソース電極34とドレイン電極32の間にチャネルが形成されている。ゲート電極36は図示しない絶縁層で被覆されている。
【0070】
チャネルとなる活性半導体層を形成する有機半導体材料としてπ共役系高分子化合物、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p−フェニレン)、ポリフラン、ポリフルオレン、ポリフェ二レンビ二レン、ポリトリアリルアミン、ポリピリジン、ポリフエニレンスルフィド、ポリビニレンスルフィド、ポリインドール、ポリピリダジン等のπ共役系高分子化合物、及び、これらの誘導体を使用することができる。
【0071】
また、活性半導体層を形成する有機半導体材料として、TTF−TCNQ(テトラチアフルバレン−テトラシアノキノジメタン)錯体、BEDTTTF(ビスエチレンテトラチアフルバレン)−過塩素酸錯体、BEDTTTF−ヨウ素錯体、TCNQ−ヨウ素錯体等の電荷移動錯体を使用することができる。
【0072】
図3(A)、図3(B)に示す有機半導体層40は次のようにして形成される。ポリシリコンによって形成されたドレイン電極32及びソース電極34の表面が水素終端化された後に、有機鎖が結合され有機鎖による単分子層が形成され、この単分子層の上に有機半導体層40が、例えば、電解重合によって形成される。
【0073】
図4は、本発明の実施の形態におけるポリシリコン層の表面改質を模式的に説明する図であり、図4(A)は酸化シリコン層へのポリシリコン層の形成を説明する平面及び断面図(A−A断面図)、図4(B)は酸化シリコン膜の除去と水素終端化を説明する断面図(A−A断面図)、図4(C)は有機ポリマー層の形成を説明する断面図(A−A断面図)である。なお、図4では、酸化シリコン膜(SiO2)20は、図示しないシリコン基板に形成されたものである。
【0074】
図4に示す、2つのポリシリコン電極22は、電界効果型トランジスタのソース電極、ドレイン電極であり、有機ポリマー層26は有機半導体層(活性半導体層層)である。図4(A)に示すように、ナノギャップgを有するポリシリコン電極(ナノ電極)22が酸化シリコン膜(SiO2)20上に形成され、図4(B)に示すように、ポリシリコン電極22面が水素終端化され水素原子層24が形成される。次に、ナノギャップgを含む所望の領域の水素終端化されたポリシリコン電極22面に疎水性の有機鎖が結合され単分子層(図示せず。)が形成される。
【0075】
次に、図4(B)に示すように、単分子層が形成されたポリシリコン電極22に有機モノマー溶液27、例えば、ピロールモノマー溶液が、ナノギャップgを含み、2個のポリシリコン電極22(ソース電極及びドレイン電極を構成する)の一部を覆うように滴下される。第1の電極としての陰極16aが、2個のポリシリコン電極22の何れにも接触しないように、有機モノマー溶液27中に浸漬される。第2の電極としての陽極17a、17bが、有機モノマー溶液27に覆われていない部分で2個のポリシリコン電極22に接触されて配置される。なお、参考のために、有機モノマー溶液27が滴下される領域を点線で図4(A)に示す。
【0076】
陰極16aと陽極17bの間に電流を流して、電解重合が行なわれる。単分子層が形成された2個のポリシリコン電極22の面に、電解重合によってポリマーからなる有機半導体が析出して成長していき、ナノギャップgを埋めるように、有機半導体層(有機ポリマー層26)、例えば、ポリピロール層が形成されてチャネルをなす。2個のポリシリコン電極22が、電解重合を行なうための電極、及び、有機半導体層(有機ポリマー層26)が形成された後に有機半導体素子として作用させるための電極(ソース電極及びドレイン電極)として使用され、電界効果型トランジスタが作成される。
【0077】
なお、図4では、電界効果型トランジスタが形成される基板、電界効果型トランジスタを構成するゲート絶縁層等の絶縁層、ゲート電極等は、周知のものであるので、図示を省略し説明を省いている。
【0078】
ナノギャップgを含む領域にキャストされた有機モノマー溶液27、例えば、ピロールモノマー溶液から、電解重合によって、ポリピロールが上記の単分子層の形成されたポリシリコン電極22面に析出し、有機ポリマー層26が成長していく。そして、ナノギャップgを埋めるように、ポリピロールによる有機ポリマー層26が形成される。疎水性の有機鎖による単分子層に有機ポリマー層26が形成されるので、有機ポリマー層26のポリシリコン電極22への密着性は良好であり、安定した有機ポリマー層26を、2つのポリシリコン電極22によるナノギャップgを埋めるようにチャネルとして形成することができる。
【0079】
次に、図5によって、水素終端化されSi−Hが形成されたポリシリコン層の面に疎水性の有機鎖が結合されてなる単分子層によって表面改質されたポリシリコン層への有機半導体層の形成について概要を説明する。
【0080】
図5は、本発明の実施の形態における表面改質されたポリシリコン層への有機半導体層の形成を模式的に説明する平面図である。
【0081】
図5の最上部に示すように、単分子層が形成され表面改質されたポリシリコン電極(ポリシリコン層)22aに有機モノマー溶液27、例えば、ピロールモノマー溶液が、ナノギャップgを含み、2個のポリシリコン電極22aの一部を覆うように滴下される(図5の最上部では、有機モノマー溶液27が滴下される領域を点線で示している。)。
【0082】
第1の電極としての陰極16aが、2個のポリシリコン電極22aの何れにも接触しないように有機モノマー溶液27中に浸漬される。第2の電極としての陽極17a、17bが、有機モノマー溶液27に覆われていない部分で2個のポリシリコン電極22aに接触されて配置される。
【0083】
陰極16aと陽極17bの間に電流を流して、電解重合が行なわれる。単分子層が形成された2個のポリシリコン電極22aの面に、電解重合によってポリマーからなる有機半導体が析出して成長していき、A’−A’部断面に示されるナノギャップgを埋めるように、有機半導体層、例えば、ポリピロール層がチャネルをなすように形成される。なお、2個のポリシリコン電極22aの面積は、最終的に形成される有機半導体素子における2個のポリシリコン電極22の面積よりも大きく形成されている。
【0084】
ナノギャップgを含む領域にキャストされた有機モノマー溶液27から電解重合によってポリマーからなる有機半導体が上記の単分子層の形成されたポリシリコン電極22aの面に析出して成長していき、ナノギャップgを埋めるように、有機半導体層が形成される。疎水性の有機鎖による単分子層に有機半導体層が形成されるので、有機半導体層のポリシリコン電極22aへの密着性は良好であり、安定した有機半導体層を、2つのポリシリコン電極22aによるナノギャップgを埋めるようにチャネルとして形成することができる。
【0085】
最終的に形成される有機半導体素子では、有機半導体層により形成されるチャネルは、暗電流を抑制するためにナノギャップgに限定され形成されていることが望ましいので、2個のポリシリコン電極22aの面積をトリミングする。このトリミングによって、図5の最下部に拡大して示すように、最終的に形成される有機半導体素子における2個のポリシリコン電極22の面積とすると共に、2個のポリシリコン電極22aに形成された有機半導体層も可能な限りトリミングする。このトリミングによって、ナノギャップgの間にだけチャネルが限定されるように有機半導体層28を残す。
【0086】
上記のトリミングは、レーザエッチング或いはイオンエッチングによって行なうことができ、ポリシリコン電極22aのエッチング条件と有機半導体層のエッチング条件と異ならせて行なう。
【0087】
2個のポリシリコン電極22aは、電解重合を行なうための電極として作用すると共に、2個のポリシリコン電極22a間のナノギャップgの近傍におけるポリシリコン電極22の一部がトリミングによって残され、有機半導体素子として作用させるための電極(ソース電極及びドレイン電極)として使用される。
【0088】
以上のようにして、電界効果型トランジスタが作成される。なお、図5では、電界効果型トランジスタが形成される基板、電界効果型トランジスタを構成するゲート絶縁層等の絶縁層、ゲート電極等は、周知のものであるので、図示を省略し説明を省いている。
【0089】
このように、本発明に基づくポリシリコン層の表面改質はナノギャップを有するポリシリコン電極(ナノ電極)に適用することができ、ナノギャップに安定して有機半導体層をチャネルとして形成することができる。
【0090】
実施例
図6は、図4に対応する図であり、本発明の実施例における酸化シリコン層上へのポリシリコン層の形成を説明する平面図及び断面図(B−B断面図)である。
【0091】
図6に示すように、厚さ0.7mmのシリコン(Si)基板18に形成された厚さ100nmの酸化シリコン膜(SiO2)20上に、ナノギャップg=40nmを有する2つの厚さ50nmのポリシリコン電極(ナノ電極)22が対向して形成されている。2つのポリシリコン電極22は、電界効果型トランジスタのソース電極、ドレイン電極に相当する。
【0092】
図6に示す、ポリシリコン電極(ナノ電極)22の表面にアルキル鎖を修飾する方法を説明する。先ず、ポリシリコン電極22の自然酸化膜SiO2を除去するために、1%HF水溶液に2分間浸す。その後すばやく、事前に窒素ガスで1時間バブリングしたメシチレン(C63(CH33)(200mL)と1−ヘプタノール(n−C715OH)(5.64mL)の入ったフラスコにポリシリコン電極22を浸漬し、窒素バブリングしながら21時間反応させた。反応終了後、ポリシリコン電極22をヘキサン、ジクロロメタンで洗浄して、真空乾燥を行った。
【0093】
ポリシリコン電極22の表面に自然酸化膜SiO2が形成されているか否かは、XPS(X線光電子分光)測定より確認することができる。ナノ電極表面をXPS測定する場合、表面積が非常に小さいのでSN比が悪くなるので、ナノ電極を作製したものと同じ条件で作製したポリシリコン基板にアルキル鎖を修飾したものを用いて、自然酸化膜SiO2の確認を行った。XPS測定には、JEOL製、JPS−9010MX PHOTOELECTRON SPECTROMETER(照射X線はMgKαである。)を使用した。
【0094】
図7は、本発明の実施例におけるポリシリコン層に1−ペタノールを結合した層の酸素のXPSスペクトルを示す図である。
【0095】
図7に示すように、ピーク分離されたO1sに基づくXPSスペクトルは、Si−O−Cに由来する533.6eVのスペクトル成分Bが存在しており、ポリシリコン電極22の表面がアルキル鎖で修飾されていることが確認された。なお、532.1eVのスペクトル成分Aは、異なる種々のサンプルを測定しても出現するので、厳密に帰属を決定することは困難であるが、SiO2に由来するピークではなく、装置内の取り除けないコンタミネーションに由来するものと想定される。
【0096】
図8は、本発明の実施例におけるポリシリコン層に1−ペタノールを結合した層のシリコンのXPSスペクトルを示す図である。
【0097】
図8に示すピークC、Eを含むXPSスペクトルは、ポリシリコン層に1−ペタノールを結合しない場合に測定されたものである。ピークCはポリシリコン層に由来するSi、101eV〜104eV付近に出現するブロードなピークEは自然酸化膜SiO2に由来する酸素(O)にそれぞれ基づくものである。
【0098】
図8に示すピークDを含むXPSスペクトルは、アルキル鎖を修飾してから1週間後に測定したものであり、ピークDはポリシリコン層に1−ペタノールを結合した層のシリコンSi2p(Si−O−C)に基づくものである。このように、ポリシリコン層をヘプタノールで修飾することによって、大気中に長時間放置しつづけても、自然酸化膜SiO2は形成されないことが確認された。
【0099】
図9は、本発明の実施例におけるポリシリコン層に1−ペタノールを結合した層の炭素のXPSスペクトルを示す図である。
【0100】
図9に示す、ポリシリコン層に1−ペタノールを結合した層の炭素のXPSスペクトルは、アルキル鎖(ペプチル基)に基づくスペクトルと考えられる。なお、図9に示す、自然酸化膜SiO2が形成されたサンプルにおけるピークは、装置内の取り除けないコンタミネーションに由来するものと想定される。
【0101】
次に、ポリシリコン電極表面に電解重合によって導電性高分子であるポリピロールを析出させる場合について説明する。
【0102】
図10は、本発明の実施例におけるポリシリコン電極上へのポリピロール層の形成を説明する平面図であり、図10(A)はポリシリコン電極に1−ペタノールを結合した層へポリピロール層を形成した結果、図10(B)はポリシリコン電極上へポリピロール層を直接形成した結果を示す。
【0103】
炭酸プロピレン(C463、プロピレングリコールサイクリックカルボナート)に電解質であるテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(C254NBF4(1mol/L)と、ピロールモノマーである1−(3−ヒドロキシプロピル)−1H−ピロール(C711O)(0.1mol/L)を溶かした溶液をポリシリコン電極22の表面に1μLキャストする。
【0104】
キャストされた溶液に陰極(対極)を挿入しこの陰極がポリシリコン電極22に接触しないように配置する。ポリシリコン電極22の表面に陽極を接触させて配置する。陰極と陽極との間に、1×10-6Aの定電流を30分間流して電解重合を行なって、ポリピロール25を形成する。定電流値(1×10-6A)をピロールモノマー溶液がキャストされた部分の面積で割った値である電流密度は1.4×10-4A/cm-2であり、ピロールモノマー溶液がキャストされた部分だけにポリピロールが析出される。その後、電解質(C254NBF4を除去するために、炭酸プロピレンで洗浄し、更にアセトン洗浄後、真空乾燥をおこなった。
【0105】
図10(A)に示すように、ポリシリコン電極22に1−ペタノールが結合された層へポリピロール25を形成した場合には、ポリピロール25とポリシリコン電極22の表面との親和性が高いために、ポリピロール25が剥離されないことが確認された。
【0106】
一方、ポリシリコン電極22に1−ペタノールが結合されていない層へポリピロールを形成した場合(ポリシリコン電極表面にアルキル鎖を修飾しなかった場合)には、電解質(C254NBF4を除去するための洗浄工程でポリピロールが剥離されてしまった。この結果、図10(B)に点線で示すように、ピロールモノマー溶液がキャストされた部分が痕跡として残るだけであった。
【0107】
以上の事実から、図10(A)に示すようにポリピロール25が剥離されないで安定して形成されるのは、アルキル鎖として、1−ペタノールがポリシリコン電極22に結合された効果といえる。ポリシリコン電極22がアルキル鎖で修飾されていない場合には、ポリシリコン電極22の表面に自然酸化膜が形成されており、この自然酸化膜が親水性であることから疎水性の有機ポリマー層との親和性は低く、自然酸化膜面には安定して有機ポリマー層を形成することができない。ポリシリコン電極22をアルキル鎖で修飾することによって、ポリシリコン電極22と有機ポリマー層との親和性が高まり、ポリシリコン電極22の表面と有機ポリマー層との接触性が向上すると考えられる。
【0108】
以上説明したように、Si電極表面に疎水性の単分子膜を形成することによって、電極表面を疎水的にし、この単分子膜の面に導電性ポリマーを電解重合により析出させることによって、Si電極表面と導電性ポリマーとの親和性が向上するので、導電性ポリマーがSi電極表面から剥離されなくなる。また、疎水性の単分子膜の形成によって、Si電極表面への自然酸化膜形成を防止することができ、Si電極表面の抵抗を一定に保つことができ電気特性の時間変化を招くことがなく、安定した分子素子を形成することができる。
【0109】
以上、本発明を実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形が可能である。例えば、ポリピロールの電解重合について説明したが、上述と同様にして、電解重合によってポリチオフェン、ポリアニリン等を形成することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0110】
以上説明したように、本発明によれば、シリコン電極の自然酸化を防止することができ電極表面の抵抗を一定に保つことができる有機半導体素子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の実施の形態におけるポリシリコン層の表面改質を説明する断面図である。
【図2】同上、ポリシリコン層への有機鎖の結合を説明する図である。
【図3】同上、有機トランジスタの一例を説明する断面図である。である。
【図4】同上、ポリシリコン層の表面改質を説明する図である。
【図5】同上、ポリシリコン層への有機半導体層の形成を模式的に説明する図である。
【図6】本発明の実施例における、酸化シリコン層上へのポリシリコン層の形成を説明する図である。
【図7】同上、ポリシリコン層に1−ペタノールを結合した層の酸素のXPSスペクトルを示す図である。
【図8】同上、ポリシリコン層に1−ペタノールを結合した層のシリコンのXPSスペクトルを示す図である。
【図9】同上、ポリシリコン層に1−ペタノールを結合した層の炭素のXPSスペクトルを示す図である。
【図10】同上、ポリシリコン電極上へのポリピロール層の形成を説明する平面図である。
【符号の説明】
【0112】
10…ポリシリコン層、12、20…SiO2(酸化シリコン)、
13…ピロールモノマー溶液、14…有機鎖、15…ポリピロール層、
16、16a…陰極、17,17a、17b…陽極、18…Si(シリコン)、
22…ポリシリコン電極、24…水素原子層、25…ポリピロール、
26…有機ポリマー層、27…有機モノマー溶液、30…基板、32…ドレイン電極、
34…ソース電極、36…ゲート電極、38…ゲート絶縁層、40…有機半導層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に有機鎖が結合されてなる疎水性の膜が形成された電極と、
前記膜の表面に形成された有機半導体層と
を有する有機半導体素子。
【請求項2】
前記膜が単分子膜であり、前記電極がシリコンによって形成されたシリコン電極であり、前記有機半導体層が電解重合によって形成された、請求項1に記載の有機半導体素子。
【請求項3】
前記シリコン電極がポリシリコンによって形成された、請求項2に記載の有機半導体素子。
【請求項4】
前記有機鎖がアルキル鎖である、請求項1又は2に記載の有機半導体素子。
【請求項5】
前記有機半導体層がポリピロール層である、請求項1又は2に記載の有機半導体素子。
【請求項6】
前記シリコン電極が所定の間隙をおいて形成されたソース電極及びドレイン電極であり、前記有機半導体層が前記所定の間隙に形成されチャネルをなし、有機半導体素子がトランジスタである、請求項2に記載の有機半導体素子。
【請求項7】
電極の表面を水素終端化させる第1工程と、
水素終端化された前記電極の表面に有機鎖を結合して疎水性の膜を形成する第2工程
と、
前記膜の表面に有機半導体層を形成する第3工程と
を有する有機半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記膜が単分子膜であり、前記電極がシリコンによって形成されたシリコン電極であり、前記有機半導体層が電解重合によって形成される、請求項7に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記シリコン電極がポリシリコンによって形成される、請求項8に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記有機鎖がアルキル鎖である、請求項7又は8に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記有機半導体層がポリピロール層である、請求項7又は8に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項12】
前記シリコン電極が所定の間隙をおいてソース電極及びドレイン電極として形成される工程を有し、前記有機半導体層が前記所定の間隙に形成されチャネルをなし、有機半導体素子がトランジスタである、請求項8に記載の有機半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−259855(P2009−259855A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103563(P2008−103563)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】