説明

有機半導体素子及び有機半導体薄膜

【課題】低温(例えば室温)で有機溶媒に溶解させることができ、塗布プロセスでの使用に適した有機半導体材料から構成された有機半導体薄膜に基づく有機半導体薄膜を備えた有機半導体素子を提供する。
【解決手段】有機半導体素子は、2つのπ電子を単位とした酸化若しくは還元機構を有し、2次元的若しくは3次元的な伝導経路を有する有機半導体材料から構成された有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体薄膜、及び、係る有機半導体薄膜から構成された有機半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多くの電子機器に用いられている薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor,TFT)を含む電界効果型トランジスタ(FET)は、例えば、シリコン半導体基板あるいはシリコン半導体層に形成されたチャネル形成領域及びソース/ドレイン領域(ソース/ドレイン電極)、シリコン半導体基板表面あるいはシリコン半導体層表面に形成されたSiO2から成るゲート絶縁層、並びに、ゲート絶縁層を介してチャネル形成領域に対向して設けられたゲート電極から構成されている。あるいは又、支持体上に形成されたゲート電極、ゲート電極上を含む支持体上に形成されたゲート絶縁層、並びに、ゲート絶縁層上に形成されたチャネル形成領域及びソース/ドレイン領域(ソース/ドレイン電極)から構成されている。そして、これらの構造を有する電界効果型トランジスタの作製には、非常に高価な半導体製造装置が使用されており、製造コストの低減が強く要望されている。
【0003】
そこで、近年、所謂有機半導体装置の研究が鋭意、進められている。例えば、ポリアセン化合物の一種で有機半導体材料であるペンタセン薄膜を蒸着法によって成膜することにて得られたチャネル形成領域にあっては、移動度(易動度)が1cm2・V-1・秒-1を超えるFETの作製が可能であることが知られている。従って、ペンタセンを用いれば、優れた特性を示すFETが製造可能であるとの期待が大きい。
【0004】
しかしながら、ポリアセン化合物は、ベンゼン環が直線状に繋がった化合物であり、置換基を有さないポリアセン化合物は、ベンゼン環の数が増えるに従い、有機溶媒に溶け難くなる性質を有している。特に、ベンゼン環が5つ連なったペンタセン以上のポリアセン化合物にあっては、殆どの有機溶媒に対して溶解性を失い、スピンコーティング法等に基づき均一な膜を形成することは非常に困難であり、たとえ可能であるとしても、極く限られた有機溶媒、温度条件(例えば、トリクロロベンゼン、60〜180゜C)となってしまう。また、ベンゼン環の数が増えるに従い、安定性が悪くなるし、ペンタセンは空気中の酸素で酸化されることが広く知られている。即ち、ペンタセンは、酸化耐性が悪い。
【0005】
ポリアセン化合物に置換基を導入した例として、2,3,9,10−テトラメチルペンタセンが報告されている(Wudl and Bao, Adv. Mater Vol 15, No 3 (1090-1093), 2003 参照)。しかしながら、この2,3,9,10−テトラメチルペンタセンは、温めたo−ジクロロベンゼンに僅かに溶ける程度であり、実際には、真空蒸着法にてFETを構成するチャネル形成領域を形成している。
【0006】
また、特開2004−256532にも、2,3,9,10−テトラメチルペンタセンや2,3−ジメチルペンタセンはo−ジクロロベンゼンに溶解することが記載されている。しかしながら、120゜Cにて溶解させており、実際に室温にて溶解する旨の記載はない。
【0007】
【特許文献1】特開2004−256532
【非特許文献1】Wudl and Bao, Adv. Mater Vol 15, No 3 (1090-1093), 2003
【非特許文献2】Bengt Thulin et. al.,"Simple Synthesis of [2.2.2.2]Paracycrophane-1,9,17,25-tetraene by Wittig Reaction", Acta Chem. Scand. B 29 (1975) No. 1 pp 138-139
【非特許文献3】Anders Strand et. al., "Synthesis of [24](2,5)Thiopheneophanetetraene or [24]Annulene Tetrasulfide", Acta Chem. Scand. B 31 (1977) No. 6 pp 521-523
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上に説明したように、ポリアセン化合物は、有機半導体材料として優れた機能が期待されている化合物であるが、低温(例えば、室温)で有機溶媒に溶解させることが難しく、スピンコーティング法、印刷法、スプレー法に例示される真空技術を用いない方法での使用に適していない。
【0009】
従って、本発明の目的は、低温(例えば室温)で有機溶媒に溶解させることができ、塗布プロセスでの使用に適した有機半導体材料から構成された有機半導体薄膜、並びに、係る有機半導体材料に基づく有機半導体薄膜を備えた有機半導体素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の第1の態様に係る有機半導体素子は、2つのπ電子を単位とした酸化若しくは還元機構を有し、2次元的若しくは3次元的な伝導経路を有する有機半導体材料から構成された有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域を有することを特徴とする。
【0011】
上記の目的を達成するための本発明の第2の態様に係る有機半導体素子は、下記の一般式(1)を有する有機半導体材料(但し、ベンゼン環を構成する水素原子は置換されることがあり、nは0若しくは正の整数である)から構成された有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域を有することを特徴とする。

【0012】
上記の目的を達成するための本発明の第3の態様に係る有機半導体素子は、下記の一般式(2)を有する有機半導体材料(但し、チオフェン環を構成する水素原子は置換されることがあり、nは0若しくは正の整数である)から構成された有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域を有することを特徴とする。

【0013】
上記の目的を達成するための本発明の第1の態様に係る有機半導体薄膜は、上記の一般式(1)を有する有機半導体材料(但し、ベンゼン環を構成する水素原子は置換されることがあり、nは0若しくは正の整数である)から構成されていることを特徴とする。
【0014】
上記の目的を達成するための本発明の第2の態様に係る有機半導体薄膜は、上記の一般式(2)を有する有機半導体材料(但し、チオフェン環を構成する水素原子は置換されることがあり、nは0若しくは正の整数である)から構成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の第2の態様あるいは第3の態様に係る有機半導体素子、あるいは、本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係る有機半導体薄膜において、置換基は、アルキル基(Cm2m+1−であり、m=1,2,3・・・)、又は、ハロゲン原子(具体的には、F原子、Cl原子、Br原子あるいはI原子)とすることができる。このように、上述した物質の共役環に付する水素原子を各種置換基で置換することによって、分子のイオン化ポテンシャルや溶解性、立体障害を制御することが可能となる。ベンゼン環あるいはチオフェン環を構成する水素原子の全て若しくは一部に、置換基を導入することが可能である。
【0016】
本発明の第2の態様あるいは第3の態様に係る有機半導体素子、あるいは、本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係る有機半導体薄膜において、n=0の場合には4量体が構成され、n=1の場合には6量体が構成され、n=2の場合には8量体が構成され、n=3の場合には10量体が構成されるが、これらを総称して、類縁体と呼ぶことがある。
【0017】
本発明の有機半導体材料は、室温で多種多様な有機溶媒に溶解することができ、常温において、スピンコーティング法;浸漬(ディップコーティング)法;エアドクタコーティング法、ブレードコーティング法、ロッドコーティング法、ナイフコーティング法、スクイズコーティング法、リバースロールコーティング法、トランスファーロールコーティング法、グラビアコーティング法、キスコーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スリットオリフィスコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法といった各種コーティング法;スクリーン印刷法やインクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法といった各種印刷法;キャスティング法;スプレー法等の塗布プロセスに必要とされる量を、炭化水素系溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン)、エステル系溶媒(例えば、酢酸エチル、ブチルラクトン)、アルコール系溶媒(例えば、オクタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール)、芳香族系溶媒(例えば、トルエン、メシチレン、ベンゼン)、エーテル系溶媒(例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン)、ハロゲン系溶媒(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン)、ケトン系溶媒(例えば、アセトン、シクロペンタノン)等の、多種多様な有機溶媒に溶解することができる。
【0018】
本発明の有機半導体素子は、ソース/ドレイン電極、ソース/ドレイン電極とソース/ドレイン電極とによって挟まれたチャネル形成領域、ゲート絶縁層、並びに、ゲート絶縁層を介してチャネル形成領域と対向して設けられたゲート電極から成り、有機半導体薄膜によってチャネル形成領域が構成されている構成、即ち、有機電界効果型トランジスタ(有機FET)とすることができる。
【0019】
ここで、有機電界効果型トランジスタの具体的な構造として、以下の4種類の構造を例示することができる。尚、本発明の第1の態様〜第3の態様に係る有機半導体素子を構成する有機半導体薄膜、若しくは、本発明の第1の態様あるいは第2の態様に係る有機半導体薄膜を総称して、以下、単に、本発明の有機半導体薄膜と呼ぶ場合がある。
【0020】
即ち、第1の構造を有する有機電界効果型トランジスタは、所謂ボトムゲート/ボトムコンタクト型の有機電界効果型トランジスタであり、
(A)基体上に形成されたゲート電極、
(B)ゲート電極及び基体上に形成されたゲート絶縁層、
(C)ゲート絶縁層上に形成されたソース/ドレイン電極、並びに、
(D)ソース/ドレイン電極の間であってゲート絶縁層上に形成された、本発明の有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域、
を備えている。
【0021】
また、第2の構造を有する有機電界効果型トランジスタは、所謂ボトムゲート/トップコンタクト型の有機電界効果型トランジスタであり、
(A)基体上に形成されたゲート電極、
(B)ゲート電極及び基体上に形成されたゲート絶縁層、
(C)ゲート絶縁層上に形成された、本発明の有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域、並びに、
(D)有機半導体薄膜上に形成されたソース/ドレイン電極、
を備えている。
【0022】
更には、第3の構造を有する有機電界効果型トランジスタは、所謂トップゲート/トップコンタクト型の有機電界効果型トランジスタであり、
(A)基体上に形成された、本発明の有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域、
(B)有機半導体薄膜上に形成されたソース/ドレイン電極、
(C)ソース/ドレイン電極及び有機半導体薄膜上に形成されたゲート絶縁層、並びに、
(D)ゲート絶縁層上に形成されたゲート電極、
を備えている。
【0023】
また、第4の構造を有する有機電界効果型トランジスタは、所謂トップゲート/ボトムコンタクト型の有機電界効果型トランジスタであり、
(A)基体上に形成されたソース/ドレイン電極、
(B)ソース/ドレイン電極及び基体上に形成された、本発明の有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域、
(C)有機半導体薄膜上に形成されたゲート絶縁層、並びに、
(D)ゲート絶縁層上に形成されたゲート電極、
を備えている。
【0024】
ここで、ゲート絶縁層を構成する材料として、酸化ケイ素系材料、窒化ケイ素(SiNY)、Al23、金属酸化物高誘電絶縁膜にて例示される無機系絶縁材料だけでなく、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリビニルフェノール(PVP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリイミドにて例示される有機系絶縁材料を挙げることができるし、これらの組み合わせを用いることもできる。尚、酸化ケイ素系材料として、二酸化シリコン(SiO2)、BPSG、PSG、BSG、AsSG、PbSG、酸化窒化シリコン(SiON)、SOG(スピンオングラス)、低誘電率SiOX系材料(例えば、ポリアリールエーテル、シクロパーフルオロカーボンポリマー及びベンゾシクロブテン、環状フッ素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化アリールエーテル、フッ化ポリイミド、アモルファスカーボン、有機SOG)を例示することができる。
【0025】
ゲート絶縁層の形成方法として、スクリーン印刷法やインクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法といった各種印刷法;エアドクタコーティング法、ブレードコーティング法、ロッドコーティング法、ナイフコーティング法、スクイズコーティング法、リバースロールコーティング法、トランスファーロールコーティング法、グラビアコーティング法、キスコーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スリットオリフィスコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法といった各種コーティング法;浸漬法;キャスティング法;スピンコーティング法;スプレー法;各種CVD法;及び、各種PVD法の内のいずれかを挙げることができる。ここで、PVD法として、(a)電子ビーム加熱法、抵抗加熱法、フラッシュ蒸着等の各種真空蒸着法、(b)プラズマ蒸着法、(c)2極スパッタリング法、直流スパッタリング法、直流マグネトロンスパッタリング法、高周波スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、バイアススパッタリング法等の各種スパッタリング法、(d)DC(direct current)法、RF法、多陰極法、活性化反応法、電界蒸着法、高周波イオンプレーティング法、反応性イオンプレーティング法等の各種イオンプレーティング法を挙げることができる。
【0026】
あるいは又、ゲート絶縁層は、ゲート電極の表面を酸化あるいは窒化することによって形成することができるし、ゲート電極の表面に酸化膜や窒化膜を成膜することで得ることもできる。ゲート電極の表面を酸化する方法として、ゲート電極を構成する材料にも依るが、熱酸化法、O2プラズマを用いた酸化法、陽極酸化法を例示することができる。また、ゲート電極の表面を窒化する方法として、ゲート電極を構成する材料にも依るが、N2プラズマを用いた窒化法を例示することができる。あるいは又、例えば、金(Au)からゲート電極を構成する場合、一端をメルカプト基で修飾された直鎖状炭化水素のように、ゲート電極と化学的に結合を形成し得る官能基を有する絶縁性分子によって、浸漬法等の方法で自己組織的にゲート電極表面を被覆することで、ゲート電極の表面にゲート絶縁層を形成することもできる。
【0027】
更には、ゲート電極やソース/ドレイン電極、各種の配線を構成する材料として、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ネオジム(Nd)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銅(Cu)、ルビジウム(Rb)、ロジウム(Rh)、チタン(Ti)、インジウム(In)、錫(Sn)等の金属、あるいは、これらの金属元素を含む合金、これらの金属から成る導電性粒子、これらの金属を含む合金の導電性粒子、ポリシリコン、アモルファスシリコン、錫酸化物、酸化インジウム、インジウム・錫酸化物(ITO)を挙げることができるし、これらの元素を含む層の積層構造とすることもできる。更には、ゲート電極やソース/ドレイン電極、各種の配線を構成する材料として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)といった有機導電性材料を挙げることもできる。
【0028】
ソース/ドレイン電極やゲート電極、各種の配線の形成方法として、これらを構成する材料にも依るが、スピンコーティング法;各種導電性ペーストや各種導電性高分子溶液を用いた上述の各種印刷法;上述した各種コーティング法;リフトオフ法;シャドウマスク法;電解メッキ法や無電解メッキ法あるいはこれらの組合せといったメッキ法;スプレー法;上述した各種のPVD法;及び、MOCVD法を含む各種のCVD法の内のいずれか、あるいは、更には必要に応じてパターニング技術との組合せを挙げることができる。
【0029】
基体として、各種のガラス基板や、表面に絶縁膜が形成された各種ガラス基板、石英基板、表面に絶縁膜が形成された石英基板、表面に絶縁膜が形成されたシリコン基板を挙げることができる。更には、基体として、ポリエーテルスルホン(PES)やポリイミド、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(ポリメタクリル酸メチル,PMMA)やポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルフェノール(PVP)に例示される高分子材料から構成されたプラスチック・フィルムやプラスチック・シート、プラスチック基板を挙げることができ、このような可撓性を有する高分子材料から構成された基体を使用すれば、例えば曲面形状を有するディスプレイ装置や電子機器への有機半導体素子の組込みあるいは一体化が可能となる。基体として、その他、導電性基板(金等の金属、高配向性グラファイトから成る基板)を挙げることができる。また、有機半導体素子の構成、構造によっては、有機半導体素子が支持部材上に設けられている場合もあるが、このような場合における支持部材も上述した材料から構成することができる。
【0030】
有機半導体素子を、ディスプレイ装置や各種の電子機器に適用、使用する場合、基体に多数の有機半導体素子を集積したモノリシック集積回路としてもよいし、各有機半導体素子を切断して個別化し、ディスクリート部品として使用してもよい。また、有機半導体素子を樹脂にて封止してもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明における有機半導体材料は、分子が共役電子系で結ばれた対称な環状構造を有し、ベンゼン環あるいはチオフェン環といった共役環とその間を結ぶエチレン鎖から構成されている。そして、本発明における有機半導体材料にあっては、π電子の数は、ベンゼン環から構成されている場合には、基本的には「8」の倍数であり、チオフェン環から構成されている場合には、基本的には「4」の倍数であり、全体としては、4L(但し、Lは0若しくは正の整数)で表すことができる。そして、芳香化により共役系が安定となる4L±2のπ電子数を実現するために、π電子が2つ単位で酸化若しくは還元され易いという特徴を有する。云い換えれば、2つのπ電子を単位とした酸化若しくは還元機構(即ち、電子を放出し若しくは電子を与えられる)を有する。そして、2次元的若しくは3次元的な伝導経路が形成される結果、高い伝導性を安定して得ることができる。しかも、本発明における有機半導体材料は、室温で多種多様な有機溶媒に溶解することができ、常温において、種々の塗布法に基づき成膜を行うことができる。従って、例えばスピンコーティング法やインクジェット印刷法といった塗布法で高移動度の半導体装置の作製が可能となり、例えば大面積のTFTアレイを簡便な装置で安価に作製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明する。
【実施例1】
【0033】
実施例1は、本発明の第1の態様及び第2の態様に係る有機半導体素子、並びに、本発明の第1の態様に係る有機半導体薄膜に関する。ここで、実施例1の有機半導体素子は、2つのπ電子を単位とした酸化若しくは還元機構を有し、2次元的若しくは3次元的な伝導経路を有する有機半導体材料から構成された有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域を有する。あるいは又、下記の一般式(1)、あるいは、一般式(1’)を有する有機半導体材料(但し、ベンゼン環を構成する水素原子は置換されることがあり、nは0若しくは正の整数である)から構成された有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域を有する。
【0034】

【0035】

【0036】
尚、一般式(1’)あるいは後述する一般式(2’)中、X1,X2,X3,X4,X5,X6,X7,X8は、水素原子、アルキル基(Cm2m+1−であり、m=1,2,3・・・)、又は、ハロゲン原子(具体的には、F原子、Cl原子、Br原子あるいはI原子)を意味し、X1(2)とX2(1)といった表記は、X1とX2とが同じ原子あるいはアルキル基でない場合、X1が或る原子あるいはアルキル基(便宜上、「α」と呼ぶ)であり、X2が別の原子あるいはアルキル基(便宜上、「βと呼ぶ)である有機半導体材料と、X1がβであり、X2がαである有機半導体材料とが共存し得ることを意味する。X3(4)とX4(3)といった表記、X5(6)とX6(5)といった表記、X7(8)とX8(7)といった表記も同様である。但し、合成法による要請から式中の添字の同じ置換基は、それぞれ、同一でなければならない。
【0037】
以下に一般的な合成経路を示す。フォスフォニウムイリドとアルデヒドのウィッチヒ(Wittig)反応に基づき合成を行うことができる。尚、nの数は、合成条件等によって異なる。
【0038】

【0039】
実施例1にあっては、より具体的には、(2,2,2,2)−パラシクロファンテトラエン[(2,2,2,2)-paracycrophanetetraene。以下、PCTと略称する]を、以下に示すようなウィッチヒ反応により合成する。反応物は、4量体(n=0)以外に、6量体(n=1)や8量体(n=2)、10量体(n=3)といった類縁体を含むので、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法に基づきこれらを分離する。精製の結果、PCTを約10%の収率で得ることができた。尚、PCTの合成に関しては、例えば、Acta Chem. Scand. B 29 (1975) No. 1 pp 138-139 の "Simple Synthesis of [2.2.2.2]Paracycrophane-1,9,17,25-tetraene by Wittig Reaction", Bengt Thulin et. al. を参照のこと。
【0040】

【0041】
図1に、単結晶X線構造解析によって求めたPCTの結晶構造を示す。尚、PCTの結晶構造については公知である(例えば、Acta Cryst., B 34, 1889 を参照)。また、PCTはそのイオン化ポテンシャルからn型の半導体特性が期待されるため、この結晶構造を元に計算したPCTのLUMOのバンド分散を、図3の(A)に示す。バンドが全ての逆格子軸の方向に分散を有していることから、3次元的な電子の伝導が期待される。3次元的な伝導経路を有することは、有機半導体薄膜中において散乱因子が少なくなるという意味で良好な半導体特性を得るための重要な要素である。また、バンド分散から求めたバンド有効質量はkc軸方向に1.8meという軽い値である。尚、meは自由電子の質量である。バンド有効質量は移動度(易動度)と逆比例の関係にあり、小さなバンド有効質量を有する物質は本質的に高移動度の半導体材料となり得る。
【0042】
昇華法により精製し、気相法により成長させたPCTの単結晶を用い、二端子の電圧−電流特性を測定した。その結果を図4の(A)に示すが、高電界の領域において、電流値が電圧に対して比例関係ではなくなり、電圧の2乗に比例することが確認された。これは、トラップフリーの伝導機構を反映したものであり、この領域の電流密度の値から算出した移動度は1.1cm2・V-1・秒-1以上である。この結果は、膜質の向上や電極材料の選択によって、有機半導体素子においても、より高性能の薄膜デバイスが得られる可能性が大いにあることを示している。
【0043】
実施例1あるいは後述する実施例2の有機半導体素子(具体的には、有機電界効果型トランジスタ)は、ソース/ドレイン電極15、ソース/ドレイン電極15とソース/ドレイン電極15とによって挟まれたチャネル形成領域14、ゲート絶縁層13、並びに、ゲート絶縁層13を介してチャネル形成領域14と対向して設けられたゲート電極12から成る。より具体的には、図5の(A)に模式的な一部断面図を示すように、ボトムゲート/トップコンタクト型の実施例1あるいは後述する実施例2の有機電界効果型トランジスタは、
(a)基体10,11上に形成され、金薄膜から成るゲート電極12、
(b)ゲート電極12及び基体10,11上に形成され、SiO2から成るゲート絶縁層13、
(c)ゲート絶縁層13上に形成され、実施例1あるいは後述する実施例2の有機半導体薄膜によって構成されたチャネル形成領域14及びチャネル形成領域延在部14A、並びに、
(d)チャネル形成領域延在部14A上に形成され、金薄膜から成るソース/ドレイン電極15、
を備えている。尚、基体10,11は、ガラス基板から成る基板10、及び、その表面に形成されたSiO2から成る絶縁膜11から構成されており、ゲート電極12及びゲート絶縁層13は、より具体的には、絶縁膜11上に形成されている。
【0044】
以下、ボトムゲート/トップコンタクト型の有機電界効果型トランジスタ(具体的にはTFT)の製造方法の概要を説明する。
【0045】
[工程−100]
先ず、基体(ガラス基板10、及び、その表面にSiO2から成る絶縁膜11が形成されている)上にゲート電極12を形成する。具体的には、絶縁膜11上に、ゲート電極12を形成すべき部分が除去されたレジスト層(図示せず)を、リソグラフィ技術に基づき形成する。その後、密着層としてのクロム(Cr)層(図示せず)、及び、ゲート電極12としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法にて全面に成膜し、その後、レジスト層を除去する。こうして、所謂リフトオフ法に基づき、ゲート電極12を得ることができる。
【0046】
[工程−110]
次に、ゲート電極12を含む基体(絶縁膜11)上にゲート絶縁層13を形成する。具体的には、SiO2から成るゲート絶縁層13を、スパッタリング法に基づきゲート電極12及び絶縁膜11上に形成する。ゲート絶縁層13の成膜を行う際、ゲート電極12の一部をハードマスクで覆うことによって、ゲート電極12の取出部(図示せず)をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。
【0047】
[工程−120]
次に、ゲート絶縁層13上に、チャネル形成領域14及びチャネル形成領域延在部14Aを形成する。具体的には、先に説明した実施例1あるいは後述する実施例2の有機半導体材料の10グラムを1リットルのクロロホルムに溶解した溶液を、室温におけるスピンコーティング法といった塗布プロセスによってゲート絶縁層13上に塗布し、次いで、係る塗布液を乾燥させることで、チャネル形成領域14及びチャネル形成領域延在部14Aをゲート絶縁層13上に形成することができる。
【0048】
[工程−130]
その後、チャネル形成領域延在部14Aの上に、チャネル形成領域14を挟むようにソース/ドレイン電極15を形成する。具体的には、全面に、密着層としてのクロム(Cr)層(図示せず)、及び、ソース/ドレイン電極15としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法に基づき形成する。こうして、図5の(A)に示した構造を得ることができる。ソース/ドレイン電極15の成膜を行う際、チャネル形成領域延在部14Aの一部をハードマスクで覆うことによって、ソース/ドレイン電極15をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。
【0049】
[工程−140]
最後に、全面にパッシベーション膜である絶縁層(図示せず)を形成し、ソース/ドレイン電極15の上方の絶縁層に開口部を形成し、開口部内を含む全面に配線材料層を形成した後、配線材料層をパターニングすることによって、ソース/ドレイン電極15に接続された配線(図示せず)が絶縁層上に形成された、ボトムゲート/トップコンタクト型の有機電界効果型トランジスタを得ることができる。
【0050】
尚、有機電界効果型トランジスタは、図5の(A)に示したボトムゲート/トップコンタクト型に限定されず、その他、ボトムゲート/ボトムコンタクト型、トップゲート/トップコンタクト型、トップゲート/ボトムコンタクト型とすることもできる。
【0051】
図5の(B)に模式的な一部断面図を示す、ボトムゲート/ボトムコンタクト型の有機電界効果型トランジスタは、
(a)基体10,11上に形成されたゲート電極12、
(b)ゲート電極12及び基体10,11上に形成されたゲート絶縁層13、
(c)ゲート絶縁層13上に形成されたソース/ドレイン電極15、並びに、
(d)ソース/ドレイン電極15の間のゲート絶縁層13の部分の上に形成されたチャネル形成領域14、
を備えている。
【0052】
以下、ボトムゲート/ボトムコンタクト型のTFTの製造方法の概要を説明する。
【0053】
[工程−200]
先ず、[工程−100]と同様にして、基体(絶縁膜11)上にゲート電極12を形成した後、[工程−110]と同様にして、ゲート電極12及び絶縁膜11上にゲート絶縁層13を形成する。
【0054】
[工程−210]
次に、ゲート絶縁層13の上に金(Au)層から成るソース/ドレイン電極15を形成する。具体的には、ゲート絶縁層13上に、ソース/ドレイン電極15を形成すべき部分が除去されたレジスト層をリソグラフィ技術に基づき形成する。そして、[工程−100]と同様にして、レジスト層及びゲート絶縁層13上に、密着層としてのクロム(Cr)層(図示せず)、及び、ソース/ドレイン電極15としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法にて成膜し、その後、レジスト層を除去する。こうして、リフトオフ法に基づき、ソース/ドレイン電極15を得ることができる。
【0055】
[工程−220]
その後、[工程−120]と同様の方法に基づき、ソース/ドレイン電極15の間のゲート絶縁層13の部分の上にチャネル形成領域14を形成する。こうして、図5の(B)に示した構造を得ることができる。
【0056】
[工程−230]
最後に、[工程−140]と同様の工程を実行することで、ボトムゲート/ボトムコンタクト型の有機電界効果型トランジスタを得ることができる。
【0057】
図6の(A)に模式的な一部断面図を示す、トップゲート/トップコンタクト型の有機電界効果型トランジスタは、
(a)基体10,11上に形成されたチャネル形成領域14及びチャネル形成領域延在部14A、
(b)チャネル形成領域延在部14A上に形成されたソース/ドレイン電極15、
(c)ソース/ドレイン電極15及びチャネル形成領域14上に形成されたゲート絶縁層13、並びに、
(d)ゲート絶縁層13上に形成されたゲート電極12、
を備えている。
【0058】
以下、トップゲート/トップコンタクト型のTFTの製造方法の概要を説明する。
【0059】
[工程−300]
先ず、基体(ガラス基板10、及び、その表面にSiO2から成る絶縁膜11が形成されている)上に、[工程−120]と同様の方法に基づき、チャネル形成領域14及びチャネル形成領域延在部14Aを形成する。
【0060】
[工程−310]
次いで、チャネル形成領域延在部14A上に、チャネル形成領域14を挟むようにソース/ドレイン電極15を形成する。具体的には、全面に、密着層としてのクロム(Cr)層(図示せず)、及び、ソース/ドレイン電極15としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法に基づき形成する。ソース/ドレイン電極15の成膜を行う際、チャネル形成領域延在部14Aの一部をハードマスクで覆うことによって、ソース/ドレイン電極15をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。
【0061】
[工程−320]
次いで、ソース/ドレイン電極15及びチャネル形成領域14上に、ゲート絶縁層13を形成する。具体的には、PVAをスピンコーティング法にて全面に成膜することで、ゲート絶縁層13を得ることができる。
【0062】
[工程−330]
その後、ゲート絶縁層13上にゲート電極12を形成する。具体的には、密着層としてのクロム(Cr)層(図示せず)、及び、ゲート電極12としての金(Au)層を、順次、真空蒸着法にて全面に成膜する。こうして、図6の(A)に示した構造を得ることができる。ゲート電極12の成膜を行う際、ゲート絶縁層13の一部をハードマスクで覆うことによって、ゲート電極12をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。最後に、[工程−140]と同様の工程を実行することで、トップゲート/トップコンタクト型の有機電界効果型トランジスタを得ることができる。
【0063】
図6の(B)に模式的な一部断面図を示す、トップゲート/ボトムコンタクト型の有機電界効果型トランジスタは、
(a)基体10,11上に形成されたソース/ドレイン電極15、
(b)ソース/ドレイン電極15の間の基体10,11の部分の上に形成されたチャネル形成領域14、
(c)チャネル形成領域14上に形成されたゲート絶縁層13、並びに、
(d)ゲート絶縁層13上に形成されたゲート電極12、
を備えている。
【0064】
以下、トップゲート/ボトムコンタクト型のTFTの製造方法の概要を説明する。
【0065】
[工程−400]
先ず、基体(ガラス基板10、及び、その表面にSiO2から成る絶縁膜11が形成されている)上に、ソース/ドレイン電極15を形成する。具体的には、絶縁膜11上に、密着層としてのクロム(Cr)層(図示せず)、ソース/ドレイン電極15としての金(Au)層を真空蒸着法に基づき形成する。ソース/ドレイン電極15の成膜を行う際、基体(絶縁膜11)の一部をハードマスクで覆うことによって、ソース/ドレイン電極15をフォトリソグラフィ・プロセス無しで形成することができる。
【0066】
[工程−410]
その後、ソース/ドレイン電極15の間の基体(絶縁膜11)上に、[工程−120]と同様の方法に基づき、チャネル形成領域14を形成する。実際には、ソース/ドレイン電極15の上にチャネル形成領域延在部14Aが形成される。
【0067】
[工程−420]
次に、ソース/ドレイン電極15及びチャネル形成領域14上に(実際には、チャネル形成領域14及びチャネル形成領域延在部14A上に)、[工程−320]と同様にして、ゲート絶縁層13を形成する。
【0068】
[工程−430]
その後、[工程−330]と同様にして、ゲート絶縁層13上にゲート電極12を形成する。こうして、図6の(B)に示した構造を得ることができる。最後に、[工程−140]と同様の工程を実行することで、トップゲート/ボトムコンタクト型の有機電界効果型トランジスタを得ることができる。
【0069】
尚、上述したとおり、以下に説明する実施例2においても、有機半導体素子を、ボトムゲート/トップコンタクト型、ボトムゲート/ボトムコンタクト型、トップゲート/トップコンタクト型、トップゲート/ボトムコンタクト型の有機電界効果型トランジスタのいずれかとすることができるし、上述した方法に基づき製造することができる。
【0070】
更には、クロロホルムの代わりに、室温にて、実施例1あるいは後述する実施例2の有機半導体材料を、酢酸エチル、アセトン、トルエン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、シクロペンタノン、メシチレンを溶媒として調製した(濃度:10グラム/リットル)。そして、それぞれの調製液を用いて、同様の方法で有機電界効果型トランジスタのテスト品を作製し、動作を確認した。その結果、どの調製溶液を用いた場合でも有機半導体薄膜を形成・成膜することができ、更には、ゲート変調が確認でき、有機半導体薄膜はチャネル形成領域としての役割を果たしていることが確認できた。
【実施例2】
【0071】
実施例2は、本発明の第1の態様及び第3の態様に係る有機半導体素子、並びに、本発明の第2の態様に係る有機半導体薄膜に関する。ここで、実施例2の有機半導体素子も、2つのπ電子を単位とした酸化若しくは還元機構を有し、2次元的若しくは3次元的な伝導経路を有する有機半導体材料から構成された有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域を有する。あるいは又、下記の一般式(2)、あるいは、一般式(2’)を有する有機半導体材料(但し、チオフェン環を構成する水素原子は置換されることがあり、nは0若しくは正の整数である)から構成された有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域を有する。
【0072】

【0073】

【0074】
以下に一般的な合成経路を示す。フォスフォニウムイリドとアルデヒドのウィッチヒ(Wittig)反応に基づき合成を行うことができる。尚、nの数は、合成条件等によって異なる。
【0075】

【0076】
実施例2にあっては、より具体的には、2,5−チオフェノファンテトラエン[2,5-thiophenophanetetraene。以下、25TTと略称する]を、以下に示すようなウィッチヒ反応により合成するが、対応するフォスフォニウム塩は、チオフェンを出発物質として以下に示す経路に基づき合成することができる。実施例1と同様に、類縁体中から、4量体(n=0)以外の副生成物を分離すると、25TTを約7%の収率で得ることができた。尚、25TTの合成に関しては、例えば、Acta Chem. Scand. B 31 (1977) No. 6 pp 521-523 の "Synthesis of [24](2,5)Thiopheneophanetetraene or [24]Annulene Tetrasulfide", Anders Strand et. al. を参照のこと。
【0077】

【0078】
図2に単結晶X線構造解析によって求めた25TTの結晶構造を示す。結晶学的データは、以下の表1のとおりである。また、25TTはp型の半導体特性が期待されるため、得られたこの結晶構造を元に計算した25TTのHOMOのバンド分散を、図3の(B)に示す。バンドはkb軸、及び、kc軸に大きな分散を有していることから、2次元的な電子の伝導が期待される。2次元的な伝導経路を有することも、有機半導体薄膜中において散乱因子が少なくなるという意味で良好な半導体特性を得るための重要な要素である。また、バンド分散から求めたバンド有効質量は、kc軸方向のΓ点近傍において、約1.5meという軽い値であり、優良な半導体物質として知られるペンタセンのバンド有効質量(1.6me)よりも小さく、良好な伝導特性が期待される。
【0079】
[表1]
単斜晶系
空間群:P21/n
a= 9.6432(6) Å
b=12.1612(7) Å
c=17.5978(11)Å
β=95.795(2)゜
V=2053.2(2)Å3
Z=4
R/Rw=0.0334/(0.0939)
【0080】
25TTのクロロホルム溶液(濃度:10グラム/リットル)を用いて室温におけるスピンコーティング法といった塗布プロセスに基づき形成されたチャネル形成領域を有する有機電界効果型トランジスタのテスト品(図7の模式的な一部断面図を参照)の動作を確認した。具体的には、高ドープシリコン半導体基板(ゲート電極として機能する)の表面を酸化してゲート絶縁層を形成し、次いで、厚さ50nmの金薄膜を蒸着してソース/ドレイン電極(長さ15μm)を形成した後、25TTのクロロホルム溶液(濃度:10グラム/リットル)を用いて室温におけるスピンコーティング法にて有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域を形成した。尚、ソース/ドレイン電極とソース/ドレイン電極の間隔(ゲート長に相当する)を5μmとした。その結果、図4の(B)に示すように、ゲート変調が確認でき、p型の導電性を有する有機半導体薄膜はチャネル形成領域としての役割を果たしていることが確認できた。このときの飽和領域における移動度として、スピンコーティングの条件等に依存するが、1×10-5cm2・V-1・秒-1を得ることができた。また、オン/オフ比は103程度であった。
【0081】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。有機半導体素子の構造や構成、製造条件、製造方法は例示であり、適宜変更することができる。本発明によって得られた有機半導体素子を、ディスプレイ装置や各種の電子機器に適用、使用する場合、基体や支持部材に多数の有機半導体素子を集積したモノリシック集積回路としてもよいし、各有機半導体素子を切断して個別化し、ディスクリート部品として使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、(2,2,2,2)−パラシクロファンテトラエンの単結晶X線構造解析を示す写真を代用する図である。
【図2】図2は、2,5−チオフェノファンテトラエンの単結晶X線構造解析を示す写真を代用する図である。
【図3】図3の(A)は、結晶構造を元に計算した(2,2,2,2)−パラシクロファンテトラエンのLUMOのバンド分散を示す図であり、図3の(B)は、結晶構造を元に計算した2,5−チオフェノファンテトラエンのHOMOのバンド分散を示す図である。
【図4】図4の(A)は、実施例1における(2,2,2,2)−パラシクロファンテトラエン単結晶の二端子の電圧−電流特性を測定した結果を示すグラフであり、図4の(B)は、実施例2において試作した有機電界効果型トランジスタのテスト品におけるゲート電圧とドレイン電流の関係(I−V特性)を求めたグラフである。
【図5】図5の(A)は、ボトムゲート/トップコンタクト型の有機電界効果型トランジスタの模式的な一部断面図であり、図5の(B)は、ボトムゲート/ボトムコンタクト型の有機電界効果型トランジスタの模式的な一部断面図である。
【図6】図6の(A)は、トップゲート/トップコンタクト型の有機電界効果型トランジスタの模式的な一部断面図であり、図6の(B)は、トップゲート/ボトムコンタクト型の有機電界効果型トランジスタの模式的な一部断面図である。
【図7】図7は、実施例2における有機電界効果型トランジスタテスト品の模式的な一部断面図である。
【符号の説明】
【0083】
10・・・基板、11・・・絶縁膜、12・・・ゲート電極、13・・・ゲート絶縁層13、14・・・チャネル形成領域、14A・・・チャネル形成領域延在部、15・・・ソース/ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのπ電子を単位とした酸化若しくは還元機構を有し、2次元的若しくは3次元的な伝導経路を有する有機半導体材料から構成された有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域を有することを特徴とする有機半導体素子。
【請求項2】
下記の一般式(1)を有する有機半導体材料(但し、ベンゼン環を構成する水素原子は置換されることがあり、nは0若しくは正の整数である)から構成された有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域を有することを特徴とする有機半導体素子。

【請求項3】
置換基は、アルキル基又はハロゲン原子であることを特徴とする請求項2に記載の有機半導体素子。
【請求項4】
下記の一般式(2)を有する有機半導体材料(但し、チオフェン環を構成する水素原子は置換されることがあり、nは0若しくは正の整数である)から構成された有機半導体薄膜から成るチャネル形成領域を有することを特徴とする有機半導体素子。

【請求項5】
置換基は、アルキル基又はハロゲン原子であることを特徴とする請求項4に記載の有機半導体素子。
【請求項6】
下記の一般式(1)を有する有機半導体材料(但し、ベンゼン環を構成する水素原子は置換されることがあり、nは0若しくは正の整数である)から構成されていることを特徴とする有機半導体薄膜。

【請求項7】
置換基は、アルキル基又はハロゲン原子であることを特徴とする請求項6に記載の有機半導体薄膜。
【請求項8】
下記の一般式(2)を有する有機半導体材料(但し、チオフェン環を構成する水素原子は置換されることがあり、nは0若しくは正の整数である)から構成されていることを特徴とする有機半導体薄膜。

【請求項9】
置換基は、アルキル基又はハロゲン原子であることを特徴とする請求項8に記載の有機半導体薄膜。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−243048(P2007−243048A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66166(P2006−66166)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】