説明

有機半導体薄膜用材料、該材料を用いた有機半導体薄膜の形成方法および有機薄膜トランジスタ

【課題】印刷製膜法により形成された有機半導体薄膜を大面積にわたり均一に作成することが容易であり、高い電子移動度および高いオン/オフ値を有するとともに、微粒子を用いた分散液塗布法により有機半導体薄膜を形成することのできる有機半導体薄膜用材料、有機半導体薄膜および有機トランジスタを提供すること。
【解決手段】n型有機半導体素子として使用可能な有機半導体薄膜用材料であって、80℃〜250℃の温度領域に相転移温度を有し、下記一般構造式(1)で表されるナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体を含むことを特徴とする有機半導体薄膜用材料、有機半導体薄膜および有機トランジスタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体薄膜用材料、該材料を用いた有機半導体薄膜の形成方法および該形成方法で形成した有機半導体薄膜を有してなる有機薄膜トランジスタに関する。詳しくは、n型有機半導体素子として使用できる有機半導体材料であって、80℃〜250℃の温度に加熱されると液晶状態へと相転移する有機半導体薄膜用材料、さらには、該材料を用いて有機半導体薄膜を形成する方法、該方法によって形成した有機半導体薄膜を有する有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化社会の進展は目覚ましく、デジタル技術の発展は、コンピュータ、コンピュータ・ネットワークなどの通信技術を日常生活に浸透させている。それとともに、薄型テレビ、ノートパソコン、携帯電話の普及が進んでおり、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパーなど、表示ディスプレイへの要求も高まりつつある。特に近年、ディスプレイの大型化とともに精細化も進みつつあり、これまで以上に、画素数に対応した多数の電界効果トランジスタの組み込みが要求されている。液晶ディスプレイにおいては、電界効果トランジスタをアクティブ素子として各画素に配置し、信号のオン/オフ制御を行うことによって液晶を駆動できる。
【0003】
アクティブ素子に使用されている電界効果トランジスタとしては、薄膜トランジスタを用いることができる。薄膜トランジスタの性能は、用いられる半導体材料や構造によって決まる。そして、特に、大きなキャリア移動度および高いオン/オフ比を得ることは、大きな電流を得ることを可能とし、有機ELなどの駆動などが可能となるばかりでなく、薄膜トランジスタの微細化およびコントラストの向上ができる。
【0004】
アクティブ素子に使用されている薄膜トランジスタには、アモルファスシリコンやポリシリコンなどのシリコン系半導体を用いることができる。これらのシリコン半導体を多層化し、ソース、ドレインおよびゲート電極を基板上に形成していくことで薄膜トランジスタが製造されている。
【0005】
シリコン半導体を用いた薄膜トランジスタの製造には、大規模で高価な製造設備が必要であり、また、フォトリソグラフィを用いるため多くの工程を経る必要があり、製造コストが高くなるという実用上の課題がある。また、その製造温度は300℃から500℃以上の高温を必要とするため、製造コストが高くなるばかりでなく、プラスチック基板やフレキシブルなプラスチックフィルムへの薄膜形成が困難となるといった、材料の適用性についての課題もある。
【0006】
一方、有機半導体材料からなる有機半導体薄膜を使用した有機薄膜トランジスタは、蒸着法(真空製膜法)や溶液塗布法(印刷製膜法)により作成され、低コスト化、大面積化、軽量化の可能性がある。また、有機半導体薄膜は、無機半導体層に比べて低温での作成が可能となるので、低コスト化がなされる。さらに、これに加えて、プラスチック基板や、フレキシブルなプラスチックフィルムに有機半導体薄膜を形成ができるので、軽量化を達成でき、フレキシブルな電子デバイスなどへの適用も可能となる。
【0007】
これまで、多くの有機半導体材料が研究されており、低分子化合物や共役高分子化合物を有機半導体薄膜として利用したものが知られている。しかしながら、共役高分子化合物は、溶媒への溶解性が優れ簡便な溶液塗布法による有機半導体膜の形成が可能であるものの、有機薄膜トランジスタとした場合の性能は、十分に満足できるものとは言い難い。一方、低分子化合物は有機薄膜トランジスタとして高い性能を示すが、溶媒への溶解性が乏しく、薄膜化が難しいという課題があった。ここで、半導体薄膜を製造する方法としては、蒸着法による半導体膜の形成、もしくは、希薄溶液を用いた溶液塗布法により有機半導体膜を形成することが挙げられ、特に、簡便な溶液塗布法によって形成できれば非常に有用である。しかし、溶液塗布法では、上記のような化合物を溶媒に溶解した希薄溶液を用いて薄膜を形成しているため、有機トランジスタとして安定な性能得るに十分な膜厚を、安定して得ることは困難であるという課題があった。すなわち、溶解性の高い有機半導体材料が望まれるが、高い溶解性と高い性能はトレードオフの関係にあり、高い溶解性と高い性能を両立した半導体薄膜材料は、いまだ開発されていない。
【0008】
さらに、有機半導体材料には、n型半導体を得るためのn型半導体材料と、p型半導体を得るためのp型半導体材料があるが、下記に述べるように、特にn型半導体材料として高い性能を発揮できる材料の開発が待望されている。n型半導体材料は、電子が主たるキャリアとして移動することにより電流が生じ、p型半導体材料ではホール(正孔)が主たるキャリアとして移動することで電流が生じる。高い性能を示す有機半導体材料として知られるペンタセン系材料やチオフェン系材料は、p型特性を示す半導体材料であり、高性能のn型有機半導体材料についての報告は限られている。
【0009】
上記した現状に対し、有機エレクトロニクスが、さらに発展するためには、低電力消費、より単純な回路などが必須であり、相補型金属酸化物半導体(CMOS)のような有機相補型MOS回路が必要となる。有機相補型MOS回路は、少なくとも一つのn型チャンネルを有する有機薄膜トランジスタと、少なくとも一つのp型チャンネルを有する有機薄膜トランジスタの両方を必要とする。このような回路においては、n型チャンネルを有する有機薄膜トランジスタとp型チャンネルを有する有機薄膜トランジスタの電子および正孔の電荷移動度、オン/オフ比は同じ大きさであることがしばしば要求される。したがって、電子移動度、オン/オフ比の高いn型有機薄膜トランジスタ、および正孔移動度、オン/オフ比の高いp型有機薄膜トランジスタ両方の有機半導体材料が必要となる。これまでp型有機薄膜トランジスタ材料については、ペンタセン、オリゴチオフェンなど、高い移動度をもつ有機半導体材料が報告されているが、n型有機薄膜トランジスタについては、p型に比べ低い移動度のものしか報告されていない。このため、以前にもまして、高性能のn型有機半導体材料が望まれている。
【0010】
これまで、n型有機半導体材料としては、ペリレンおよびこれらのジイミド誘導体、フラーレンおよびその誘導体が知られている。しかし、これらのn型有機半導体材料では、生産コスト、有機半導体材料の生産性などの実用面を満足し、かつ、印刷法・塗布法により大量生産が可能であるといった、高いトランジスタ性能を有する薄膜トランジスタについての報告はされていない。
【0011】
一方で、ナフタレンテトラカルボン酸誘導体を用いた有機薄膜トランジスタとしては、特許文献1に、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド(NTCDI)、テトラシアノキノメタン(TCNQ)からなる有機半導体薄膜を用いた有機薄膜トランジスタの電子移動度が、10-3〜10-5cm2/Vsとなることが記載されている。
【0012】
また、特許文献2に、アルキル基、フッ素含有基で置換されたアルキル基を有する1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体を含む有機半導体材料層からなる薄膜トランジスタが、移動度0.005〜0.2cm2/Vs、オン/オフ比は104〜105であり、空気中の安定性、および優れた再現性を示すことが記載されている。特許文献3に、フッ素含有基で置換されたアルキル基を有する1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体を含む有機半導体溶液から形成した有機半導体薄膜層からなる薄膜トランジスタが、移動度0.005cm2/Vs、0.07cm2/Vsであり、空気中の安定性、および優れた再現性を示すことが記載されている。
【0013】
特許文献4には、シクロアルキル基を有する1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体を含む有機半導体溶液から形成した有機半導体薄膜層からなる薄膜トランジスタが、移動度0.07〜2.5cm2/Vs、オンオフ比104〜105であり、空気中の安定性、および優れた再現性を示すことが記載されている。特許文献5には、シクロアルキル基を有する1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体を含む有機半導体溶液から形成した有機半導体薄膜層からなる薄膜トランジスタが、移動度0.07〜2.5cm2/Vs、オンオフ比104〜105であり、空気中の安定性、および優れた再現性を示すことが記載されている。
【0014】
また、非特許文献1には、ナフタレン−チオフェン誘導体が溶解性に優れ、印刷法により作製した有機薄膜トランジスタが電子移動度0.1〜0.8cm2/Vsという高いトランジスタ特性を示すことが報告されている。さらに、上記特許文献5には、液晶性スチリル誘導体からなる有機半導体層をスメクチック液晶状態の温度範囲に加熱処理し有機半導体素子を形成する方法についても記載されている。
【0015】
前述した真空製膜法や印刷製膜法(溶液塗布法)などの方法により形成された有機半導体薄膜は、一般に微結晶が集合した多結晶構造であり、多くの粒界や欠陥が存在し、これらの結晶粒界や欠陥は電荷の輸送を阻害する。そのために、真空製膜法や印刷製膜法により形成された有機半導体薄膜は、大面積にわたり均一にすることが困難であり、これらの方法で、安定したデバイス性能を有する有機半導体デバイスを作成することは事実上困難であった。
【0016】
このような課題を解決するために、本発明者らは、これまでに、下記の提案をしている。分解温度以下にサーモトロピック液晶相を有する有機半導体材料であるN,N’−ジトリデシル−3,4,9,10−ペリレンジカルボン酸イミドを、真空製膜法により作成した有機半導体薄膜を利用し、スメクチック液晶相を呈する温度で熱処理した有機薄膜トランジスタを提案している(非特許文献2:電子移動度2.1cm2/Vs)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1,041,653号明細書
【特許文献2】米国特許第6,252,245号明細書
【特許文献3】特開2000−307173号公報
【特許文献4】特開2009−516930号公報
【特許文献5】特開2009−538653号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】H. Yan et al, Nature, 457, 679(2009)
【非特許文献2】Ichikawa et al, Appl, Phys,Lett, 89(11), 112108 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明者らは、さらに検討を進め、分解温度以下にサーモトロピック液晶相を有する有機半導体材料であるN,N’−ジアルキル−1,4,5,8−ナフタレンジカルボン酸イミドを、液媒体に分散してなる微粒子分散液とすることで高濃度化を達成し、印刷製膜法によって形成された有機半導体薄膜を、スメクチック液晶相を呈する温度で熱処理することで、高い電子移動度および高いオン/オフ値を有する有機薄膜トランジスタとなることを知見した。かかる知見に基づき、さらに優れた実用化技術を目指して、ナフタレン化合物を可溶性とすることで、有機半導体膜を溶液塗布法によって形成し、これを有機薄膜の相転移温度で熱処理をして、有機薄膜トランジスタに適用することについて、さらに検討を進めている。
【0020】
上記検討を進めていく過程で、上述した有機半導体材料は、溶媒への溶解度が低く、溶液塗布法による有機半導体膜形成では塗布工程、乾燥工程において膜が不均一となる場合があった。すなわち、上記技術では均一な大面積膜を得ることが難しく、大面積膜を得るためには、真空蒸着法によって有機半導体膜を形成する必要があることがわかった。上記したように、現状では、印刷製膜法による製膜が可能な有機半導体材料であり、しかも、印刷製膜法により形成された有機半導体薄膜を、大面積にわたり均一に作成することが容易にできる有機半導体材料は見いだされていない。
【0021】
また、前述したナフタレンテトラカルボキシジイミドおよびその誘導体を有機半導体材料として用いて作成された有機薄膜トランジスタは、高いトランジスタ性能を得るために、その材料を合成する際に、チオフェン基を導入する必要があり、また、ナフタレン骨格や側鎖のアルキル基にフッ素などのハロゲン基を導入する必要があった。このため、製造工程の複雑化や多段化により、有機半導体材料は高価なものとなっており、安価なデバイスの作成が困難になる、という工業化にとって重要な実用上の課題があった。このため、有機半導体材料の製造が多くの工程を経ずに容易にでき、より安価に製造することができると同時に、有機半導体材料としての高い性能を有する材料開発が望まれる。さらに、上記に加えて、溶液塗布法の利用が可能であり、印刷製膜法によって形成された有機半導体薄膜を大面積にわたり均一に作成することが容易にでき、しかも、上記した簡便な方法で形成した薄膜でありながら、優れた電子移動度、オン/オフ比を有する有機半導体層や有機薄膜トランジスタとして利用できる技術開発が待望されている。
【0022】
従って、本発明の目的は、これまでに開発してきたn型有機半導体薄膜用材料をさらに進展させ、溶媒への溶解性に優れた有機半導体薄膜用材料とすることで、該材料の高濃度の溶解液を得ることができ、該有機半導体薄膜用材料を利用することで、印刷製膜法によって形成された有機半導体薄膜を大面積にわたり均一に作成することが容易にでき、しかも形成した有機薄膜が、高い電子移動度および高いオン/オフ値を有する有機半導体薄膜を形成することが可能になる、極めて有用な有機半導体薄膜用材料を提供することにある。
【0023】
また、本発明の目的は、有機薄膜トランジスタにおける電子移動度を主課題の一つとし、上記有機半導体薄膜材料を利用した、経済性および性能に優れる有機薄膜トランジスタを提供することにある。また、本発明の目的は、熱処理により均一化された安定な有機半導体膜からなる有機トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、n型有機半導体素子として使用可能な有機半導体薄膜用材料であって、80℃〜250℃の温度領域に相転移温度を有し、かつ、下記一般構造式(1)で表されるナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体を含むことを特徴とする有機半導体薄膜用材料を提供する。
【0025】

(但し、式中、R1、R2は、それぞれ独立に、炭素数が10〜22の分岐または非分岐のアルキル基であり、さらにN、O、S、Pのヘテロ原子を含んでいてもよい。X1、X2、X3、X4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基から選ばれる。)
【0026】
上記有機半導体薄膜用材料の好ましい形態としては、前記一般構造式(1)中のR1およびR2が、nの数が同一であるか又は互いに異なるCn2n+1(nは10〜18の整数を表す)であること;前記一般構造式(1)で表される誘導体が、下記構造式(1)で表わされるN,N’−ジウンデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド、下記構造式(2)で表わされるN,N’−ジトリデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド、下記構造式(3)で表わされるN,N’−ジペンタデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド、或いは下記構造式(4)で表わされるN,N’−ジヘプタデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドのいずれかが挙げられる。

【0027】
また、上記有機半導体薄膜用材料の好ましい形態としては、前記一般構造式(1)中のR1およびR2が、nの数が同一であるか又は互いに異なるCn2n+1−O−C36(nは7〜19の整数を表す)であること;前記一般構造式(1)で表される誘導体が、下記構造式(5)で表わされるN,N’−ビス(3−(n−ドデシルオキシ)−n−プロピル)−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドであることが挙げられる。

【0028】
また、本発明は、別の実施形態として、前記いずれかの形態の有機半導体薄膜用材料を用い、該材料を、有機溶媒に溶解又は/及び分散させた状態で基板上に塗工し、乾燥後、形成した塗工膜を80℃〜350℃の温度で加熱処理して該塗工膜を加熱し、さらに冷えた後の塗工膜の膜厚を10nm〜10μmとすることを特徴とする有機半導体薄膜の形成方法を提供する。
【0029】
また、上記有機半導体薄膜の形成方法の好ましい形態としては、前記塗工膜を80℃〜250℃の温度に加熱すること;前記加熱処理を、10-5〜50,000Paの減圧雰囲気下において行うこと;前記加熱処理を、不活性ガス雰囲気下において行うことが挙げられる。
【0030】
さらに本発明は、別の実施形態として、基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁層、有機半導体薄膜ならびにソース電極およびドレイン電極が少なくとも形成されている有機薄膜トランジスタにおいて、上記有機半導体薄膜が、上記いずれかの有機半導体薄膜の形成方法で形成されたものであることを特徴とする有機薄膜トランジスタを提供する。該有機薄膜トランジスタの好ましい形態は、そのキャリア移動度が0.01cm2/Vs以上であることである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、有用な有機半導体材料として期待できるN,N’−ジアルキル−1,4,5,8−ナフタレンカルボキシジイミドのナフタレンジイミド骨格に長鎖アルキル基を導入することにより、さらに、高い電子移動度および高いオン/オフ値を有する有機半導体薄膜を形成することが可能な有機半導体薄膜用材料の提供が可能になる。また、本発明によれば、上記優れた特性を有する本発明の有機半導体薄膜用材料によって、溶媒に溶解または分散した溶液を、これを用いる簡便な印刷製膜法によって、大面積にわたり均一で特性に優れた有機半導体薄膜の形成が可能となる。さらに、本発明によれば、形成された有機半導体薄膜を相転移温度領域で熱処理することで、さらに分子配列の揃った均一な有機半導体薄膜の形成を可能にできる。本発明によれば、上記した有機半導体薄膜を適用することで、経済性およびトランジスタ性能に優れる極めて有用な有機薄膜トランジスタの提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタの構造の1例を表す断面図。
【図2】本発明のトップコンタクト型有機薄膜トランジスタの構造の1例を表す断面図。
【図3】N,N’−ジトリデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド薄膜(未処理・熱処理後)のX線回折パターンを表す図。
【図4】実施例4の電流変調特性(ドレイン電流とドレイン電圧)の関係を示す図。
【図5】実施例4の電流変調特性(ドレイン電流とゲート電圧)の関係を示す図。
【図6】N,N’−ジトリデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド薄膜のAFM像を表す図。
【図7】N,N’−ジトリデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドの示走査熱量測定による熱流の変化図。
【図8】N,N’−ジオクタデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドの、DSCによる熱流の変化図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、実施することができる。先ず、本発明の有機半導体薄膜用材料について説明する。
【0034】
本発明の有機半導体薄膜用材料は、n型有機半導体素子として使用可能であって、80℃から250℃の温度領域に相転移温度を有し、かつ、下記一般構造式(1)で表されるナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体を含むことを特徴とする。本発明の有機半導体薄膜用材料は、サーモトロピック液晶性を有することによって、熱処理工程により、分子の配列の揃った均一で性能に優れる有用な有機半導体膜の形成を可能にできる。なお、下記一般構造式(1)において、「さらにN、O、S、Pのヘテロ原子を含んでいてもよい」とは、炭素数が10〜22のアルキル基内に炭素とは別にヘテロ原子を含んでよいことを意味している。
【0035】

(ただし、式中、R1、R2は、それぞれ独立に、炭素数が10〜22の分岐または非分岐のアルキル基であり、さらにN、O、S、Pのヘテロ原子を含んでいてもよい。X1、X2、X3、X4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基から選ばれる。)
【0036】
上記の構成を満足する有機半導体薄膜用材料としては、具体的には、以下のものが挙げられる。例えば、N,N’−ジアルキル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドや、N,N’−ジアルキルエーテル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド、および、これらのハロゲン化化合物、シアノ化化合物などがある。
【0037】
上記に挙げた化合物は、π共役骨格構造とアルキル基および/または、アルキルエーテル基を有するものであるが、本発明者らは、鋭意検討の結果、このような材料は、加熱することで液晶状態へ相転移し、サーモトロピック液晶性を示すことを知見した。そして、サーモトロピック液晶性を有する材料であれば、熱処理工程によって、半導体特性に優れた、より均一な有機半導体薄膜の形成が可能になるので、かかる特性は、工業上、極めて有用であると考えられる。したがって、このようなものであれば、本発明の有機半導体薄膜として問題なく使用することができる。
【0038】
ここで、ナフタレンテトラカルボン酸誘導体は、酸素原子が二重結合により炭素と結合しているカルボニル基2個を両末端に有しており、該カルボニル基による強い電子吸引性が生じることにより、n型有機半導体特性を示す材料となる。したがって、ナフタレンテトラカルボン酸誘導体は、深いHOMOを有しており、大気中に含まれる酸素や水などの不純物の存在にもかかわらず、安定したトランジスタ性能を発現する有機薄膜トランジスタを提供できる可能性がある。また、芳香族環からなるナフタレン骨格構造同士の強い分子間の相互作用により、強いスタッキングを形成し、電子移動材料として特性を発現することができる。さらに、本発明を特徴づける一般構造式(1)で示されるような、アルキル基を有するナフタレンテトラカルボン酸誘導体は、蒸着法や溶液塗布法による基板への有機薄膜の形成において基板に対して垂直な配置をとる有機半導体薄膜を形成し、ナフタレン骨格構造の水平方向の広がりにより、高い電子移動度を達成する。さらに、本発明で規定する構造を有するものは、サーモトロピック液晶性を有するため、有機半導体膜を相転移温度付近まで加熱処理することにより、さらに分子配列の揃った膜の均一化が可能となり、電子移動度も大きくなり、オン/オフ比が大きくなり、閾電圧も小さくなる。
【0039】
本発明を特徴づける下記一般構造式(1)で表わされるナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体の両末端窒素原子に結合する置換基R1、R2は、炭素数が10〜22までの分岐または非分岐のアルキル基である。
【0040】

【0041】
上記において、アルキル基の炭素数が10未満であると熱処理による分子配列の効果が小さく、加熱処理による均一な膜の形成がなされない。一方、アルキル基の数が22を超えるものは、化合物中でのアルキル基の比率が大きくなり半導体特性が低下するとともに、溶媒への溶解性が低下するため溶液塗布法による膜の形成が困難となる。
【0042】
上記したアルキル基の具体的なとしては、例えば、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘネイコシル基、ドコシル基の炭素数10から22の直鎖アルキル基、または、これらの分岐したアルキル基などが挙げられる。
【0043】
原材料の入手し易さや反応の容易さ、および、ナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体の半導体特性などを考慮すると、上記一般構造式(1)のR1およびR2が、同一か、又は互いに異なるCn2n+1(nが10〜18の整数)で表わされものが好ましい。具体的には、R1およびR2は、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基である炭素数10から18の直鎖アルキル基、または、これらの分岐したアルキル基であることが好ましい。
【0044】
さらに、本発明を特徴づける前記一般構造式(1)で表わされるナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体の特に好ましいものとしては、例えば、下記構造式(1)で表わされるN,N’−ジウンデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド、下記構造式(2)で表わされるN,N’−ジトリデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド、下記構造式(3)で表わされるN,N’−ジペンタデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド、または、下記構造式(4)で表わされるN,N’−ジヘプタデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドが挙げられる。
【0045】

【0046】
本発明者らの検討によれば、上記に挙げた奇数の炭素数からなるアルキル基を有するナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体は、偶数の炭素数からなるアルキル基を有するナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体に比べ、相転移が起きる温度領域が広く、熱処理による効果が得られる温度領域が広いため、熱処理温度の制御が容易にできることとなる。このため、熱処理によってもたらされる分子の配列の効果を確実に得ることができ、さらに、安定して均一の膜を得ることができる。例えば、本発明で規定する有機半導体薄膜用材料である、アルキル基の炭素数が10であるN,N’−ジデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドの相転移温度は、146.8℃、165.6℃である。同様に本発明で規定する有機半導体薄膜用材料である、アルキル基の炭素数が13で奇数である、N,N’−ジトリデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドの相転移温度は、109.2℃、144.7℃、161.3℃であり、上記したアルキル基の炭素数が偶数である場合と比べて相転移温度領域が広い。このように相転移温度領域が広い有機半導体薄膜用材料を用いた場合には、該材料を塗工して形成される有機半導体薄膜の熱処理工程の温度調整が容易であり、さらに、該有機半導体薄膜を形成してなる有機薄膜トランジスタの半導体特性のバラつきを小さくすることができる。
【0047】
また、本発明らの検討によれば、前記一般構造式(1)で表わされる誘導体の有機溶媒への溶解は、ナフタレンテトラカルボキシジイミドの両末端窒素原子のそれぞれに、先に説明したような、アルキル基、および/または、N、O、S、Pなどから選ばれたヘテロ原子を有するアルキル基を有する構造のものとすることで、サーモトロピック液晶性を有するとともに、溶解安定性に優れたものとなり、これにより、塗布法による有機半導体薄膜を安定して形成することが可能になる。
【0048】
また、本発明の有機半導体薄膜用材料は、本発明を特徴づける前記一般構造式(1)のR1およびR2が、同一か又は互いに異なる、Cn2n+1−O−C36(nは7〜19の整数を表す)で表わされるアルキルエーテル基を有するものであってもよい。アルキルエーテル基は、アルキル基中に酸素原子を含んでいることにより、溶媒との親和性に優れるため溶媒に対する溶解度が高くなり、溶媒に溶解した高濃度溶液を塗工することができ、膜の欠損・欠陥がほとんどない有機半導体薄膜を形成することができる。上記した材料を用いて形成された有機半導体薄膜や、該有機半導体薄膜を用いた有機薄膜トランジスタは、素子間の半導体特性においてバラつきを小さくすることができる。
【0049】
上記におけるアルキルエーテル基としては、以下のものが挙げられる。例えば、3−(n−ヘプチルオキシ)−n−プロピル基、3−(n−オクチルオキシ)−n−プロピル基、3−(n−ノナオキシ)−n−プロピル基、3−(n−デシルオキシ)−n−プロピル基、3−(n−ウンデシルオキシ)−n−プロピル基、3−(n−ドデシルオキシ)−n−プロピル基、3−(n−ドデシルオキシ)−n−プロピル基、3−(n−トリデシルオキシ)−n−プロピル基、3−(n−テトラデカオキシ)−n−プロピル基3−(n−エイコサオキシ)−n−プロピル基、3−(2−エチルヘキシルオキシ)−n−プロピル基、などヘテロ原子を含む分岐または非分岐のアルキル基などが挙げられる。
【0050】
原材料の入手し易さや反応の容易さ、および、ナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体の半導体特性、膜形成能力などを考慮すると、上記におけるアルキルエーテル基が、3−(n−ドデシルオキシ)−n−プロピル基、3−(n−テトラデシルオキシ)−n−プロピル基のいずれかであるものが好ましい。該アルキルエーテル基をもつ化合物としては、例えば、下記構造式(5)で表される、N,N’−ビス(3−(n−ドデシルオキシ)−n−プロピル)−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドが挙げられる。

【0051】
本発明を特徴づける一般構造式(1)で表されるナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体は、下記のような公知の方法で合成できる。例えば、高沸点有機溶媒中で、ナフタレンテトラカルボン酸無水物を、該当するアミン類と反応させる、或いは、ナフタレンテトラカルボン酸を一旦カリウム塩にした後、該当するハロゲン化アルキルと反応させることにより、一般構造式(1)で表されるナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体を得ることができる。
【0052】
また、本発明を特徴づける一般構造式(1)で表される誘導体において、該式(1)中のX1、X2、X3、X4は、水素原子でもよいが、必要に応じて、それぞれ独立に、フッ素、塩素、または臭素などのハロゲン元素やシアノ基を、そのナフタレン骨格に導入することができる。ナフタレン骨格にハロゲン基やシアノ基を導入することで有機溶媒への溶解性がさらに高くなり、塗布方法によって有機半導体薄膜を容易に形成することができる。さらに、本発明の有機半導体薄膜用材料によって形成された有機半導体薄膜によれば、大気中において、トランジスタ特性を安定して実現することが可能となる。また、本発明者らの検討によれば、本発明を特徴づける前記した一般構造式(1)において、該式中のR1およびR2の一部がフッ素で置換されたアルキル基である材料を用いることにより、形成される薄膜は、水、酸素、空気などの不純物が浸入することを防止可能なものとなり、安定してn型半導体特性を発現できる有用な有機半導体膜となる。
【0053】
本発明の有機半導体薄膜用材料を特徴づけるナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体を合成する際に使用する、ナフタレンテトラカルボン酸無水物としては、以下のものが挙げられる。例えば、無置換の1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸無水物、2,6−ジシアノ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸無水物、2,6−ジクロロ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸無水物、2,6−ジフルオロ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸無水物、2,3,6,7−テトラフルオロ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸無水物などが挙げられる。これらの中でも、原材料の入手のし易さや、反応の容易さ、そして合成されたナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体の半導体特性などを考慮すると、ナフタレン骨格に置換基を導入していない、無置換のナフタレンテトラカルボン酸無水物を使用することが好ましい。
【0054】
先に述べたように、本発明の有機半導体薄膜用材料には、前記一般構造式(1)で表される誘導体において、該式(1)中のR1およびR2が同一か、又は異なるアルキル基、アルキルエーテル基を有するものが利用できるが、これらは、例えば、以下のようにして得られる。まず、R1およびR2が同一の誘導体の合成は、単段階であり、ナフタレンテトラカルボン酸と該当するアミンを混合し加熱することにより得ることができる。一方、R1およびR2が、互いに異なるアルキル基、アルキルエーテル基である誘導体の合成は多段階となるが、得られた誘導体は、その構造の非対称性により有機溶媒への溶解度が高く、高濃度で溶媒に溶解した高濃度溶液で塗工することができる。このような高濃度溶液で塗工して膜を形成すると膜厚は厚くなり、膜の欠損・欠陥がほとんどない有機半導体薄膜を形成でき、これらの膜を用いて形成された有機薄膜トランジスタは、素子間の半導体特性において生じるバラつきを小さくすることができる。
【0055】
本発明の有機半導体薄膜用材料によって形成される有機半導体膜を、有機薄膜トランジスタに使用する場合は、より純度の高い一般構造式(1)で表される化合物を使用することが好ましい。すなわち、有機半導体薄膜用材料中の不純物を減らすことは、有機半導体薄膜における電子の移動を妨げる要因を減らし、有機薄膜トランジスタの電子移動度を高め、トランジスタの性能を向上させることができる。純度を高める方法としては、特に限定されるものではないが、クロマト法、再結晶法、昇華精製法、ゾーンリファイン法、超臨界法などの精製方法、或いはこれらの方法を併用して、純度を高めた化合物を使用することが有効である。
【0056】
上記したように、本発明の有機半導体薄膜用材料は、溶媒への溶解性に優れ、該材料の高濃度の溶解液を得ることができるので、印刷製膜法によって形成された有機半導体薄膜を、大面積にわたり均一に作成することが容易にできる。さらに、このようにして形成された有機半導体薄膜を、相転移温度を含む温度領域で熱処理することによって、さらに分子配列の揃った均一な有機半導体薄膜の形成を可能にできる。すなわち、本発明の有機半導体薄膜の形成方法は、上記で説明した有機半導体薄膜用材料を用い、該材料を、有機溶媒に溶解又は/及び分散させた状態で基板上に塗工し、乾燥後、形成した塗工膜を80℃〜350℃の温度で加熱処理して該塗工膜を加熱し、さらに冷えた後の塗工膜の膜厚を10nm〜10μmとすることを特徴とする。
【0057】
本発明によって有機半導体薄膜を形成する場合は、その膜厚を10nm〜10μmになるようにすればよい。本発明の有機半導体薄膜用材料によって形成した有機半導体薄膜を有機薄膜トランジスタとして利用する場合は、基板表面に単分子層の薄膜が形成されていれば、半導体特性を得ることができる。また、膜厚が厚い場合においても電子が移動するチャネルとして機能する膜領域は、基板から数分子に限られる。したがって、有機半導体薄膜の厚さは、膜厚が薄いと膜の欠損・欠陥が発生する確率が高くなるので、10nm以上、好ましくは20nm以上とし、特に50nm以上とすることがより好ましい。また、膜が厚い場合は、有機薄膜トランジスタとして問題なく機能するが、コスト面から、10μm以下、好ましくは1μm以下とするとよい。
【0058】
本発明の有機薄膜トランジスタは、上記で説明した本発明の有機半導体薄膜用材料によって形成されてなる有機半導体薄膜を有することを特徴とするが、該有機半導体膜は、本発明の有機半導体薄膜用材料を特徴づける一般構造式(1)で表される誘導体が単独で形成されたものでも、種類の異なる誘導体を複数併用して形成したものでもよい。さらに、有機半導体薄膜の形成に用いられる本発明の有機半導体薄膜用材料は、上記した誘導体に加え、80℃〜250℃の温度領域で液晶状態へ相転移するn型半導体特性を示す有機半導体薄膜用材料を併用した形態とすることもできる。例えば、ペリレンジイミド及びその誘導体と併用することができる。この場合に併用し得るペリレン誘導体としては、N,N’−ジトリデシル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシジイミド、N,N’−ビス(n−ドデシルオキシプロピル)−1,4,5,8−ペリレンテトラカルボキシジイミドなど、長鎖アルキル基、長鎖アルキルエーテル基を有するペリレン誘導体などが好ましい。
【0059】
有機半導体薄膜を形成する際に、本発明の有機半導体薄膜用材料を特徴づける一般構造式(1)で表される誘導体と、上記に挙げたようなペリレン誘導体と併用する場合は、例えば、ペリレン誘導体を有機溶媒に添加する方法、ペリレン誘導体微粒子を分散させる方法を利用することができる。また、この場合には、有機半導体薄膜の形成に用いる材料100質量%中における一般構造式(1)の誘導体の含有量は、20質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは、90質量%以上とする。かかる含有量が50質量%以下であると均一な膜の形成が困難となり、有機半導体膜としての十分な膜厚を得ることができず、20質量%以下であると安定した有機半導体膜を得ることが困難となる。
【0060】
本発明の有機半導体薄膜用材料を用い、有機半導体薄膜を形成する本発明の有機半導体薄膜の形成方法について説明する。まず、本発明の有機半導体薄膜用材料を、有機溶媒に溶解又は/及び分散させた状態で基板上に塗工、乾燥して塗工膜を形成する。好適には、上述した一般構造式(1)の誘導体を含む有機半導体薄膜用材料を有機溶媒に溶解させ、溶液とした状態で基板上に塗工することで、容易に塗工膜を形成できる。また、溶解性が低い貧溶媒を用いて有機半導体膜を形成する場合には、本発明の有機半導体薄膜用材料を固体状態で溶媒に分散させ、該分散液を用いることで塗工膜を形成できる。この際に使用する有機溶媒としては、適当な濃度の分散液、または、溶解液が得られるものであれば、特に制限はなく使用できる。例えば、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロナフタレンなどのハロゲン系炭化水素溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、n−ヘキサノールなどのアルコール系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族系炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、スルフォラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどの非プロトン系極性溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で使用してもよく、或いは複数を併用してもよい。上記有機溶媒とともに使用するのであれば、水を併用することも可能である。
【0061】
本発明の有機半導体薄膜用材料を有機溶媒に溶解又は/及び分散させてなる有機半導体の溶液・分散液(以下、塗工液という場合がある)の調製においては、必要に応じて、塗工液の安定性や、得られる有機半導体の塗工膜の造膜性を高めるために、低分子界面活性剤や高分子活性剤、分散剤、シリカなどの無機化合物を添加することができる。これにより、例えば、分散状態が安定し、凝集を防ぐことができる。
【0062】
有機半導体薄膜用材料を有機溶媒に溶解又は/及び分散させた場合における、有機半導体薄膜用材料の濃度は、塗工液全量100質量%に対して0.001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、0.01質量%以上である。有機半導体薄膜用材料の溶媒に対する濃度の上限は、特になく、有機薄膜を形成する塗工機・印刷機に適した分散液粘度が得られる濃度であれば、問題なく使用することができる。
【0063】
本発明の有機半導体薄膜用材料から形成される有機半導体薄膜は、上記のようにして得た塗工液を基板に塗布し、乾燥後、形成した塗工膜を80℃〜350℃の温度にて加熱処理して該塗工膜を加熱することによって、より良好で性能に優れた有機半導体薄膜が形成できる。例えば、溶媒に分散した分散液、または、溶媒に溶解した溶解液を、基板上に印刷・塗布後、加熱することで、より均一で性能に優れる有機半導体薄膜を形成することができる。
【0064】
塗工液を塗布する印刷方法の適用を可能とできる本発明の有機半導体薄膜の形成方法によれば、さらなる装置の簡素化と、さらなるコストの低減化を可能にし、大面積において有機半導体薄膜が形成され、均一であり十分な膜厚のものを得ることができる。上記において使用する印刷方法としては、公知の印刷方法が使用でき、例えば、スピンコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、平版印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法などの印刷方法、加圧エアによって霧吹きの原理によって塗装するエアスプレー法、静電気印加スプレー法、エアレススプレー法などにより、基板上に、有機半導体薄膜用材料からなる有機半導体薄膜(塗工膜)を形成することができる。また、本発明の有機半導体薄膜用材料を用いて有機半導体膜を形成する方法としては、有機溶媒や水などの溶媒を用いない100%固形分の有機半導体薄膜用材料を帯電させ、アースの取れた基板(加熱されていてもよい)に静電気を使って塗布する静電粉体塗装法などにより、有機半導体薄膜用材料からなる有機半導体薄膜(塗工膜)を形成することも適用可能である。このような方法は、溶剤除去工程が無く、工程が少ない点では、環境やコスト面で、好ましい方法の一つである。
【0065】
本発明の有機半導体薄膜の形成方法では、上記のようにして塗工液を基板上に塗工し、乾燥後、形成した塗工膜を、80℃〜350℃の温度で加熱処理して該塗工膜を加熱することを要する。本発明の有機半導体薄膜用材料により、良好な有機半導体薄膜を形成するために必須となる温度変化による有機半導体薄膜用材料の相変化は、ナフタレンテトラカルボキシジイミド基に結合しているアルキル鎖の導入、または、鎖中にヘテロ原子を有するアルキル鎖の導入により、80℃から250℃の温度領域において、液晶相(スメクチック液晶)へ相転移を示すと考えられる。長鎖アルキルペリレンテトラカルボキシジイミドの相変化については、C.W.Struijk et al., J. Am. Chem. Soc. 122 (2000)に記載されている。上記したことから、本発明の有機半導体薄膜の形成方法では、有機半導体薄膜用材料の相変化が確実に起こる80℃〜350℃の温度で加熱処理を行って、塗工膜を加熱することとした。
【0066】
図7に、本発明の有機半導体薄膜用材料に使用できるN,N’−ジトリデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドの示走査熱量測定(以下、DSCと略記)による熱流の変化を示した。長鎖アルキル基であるトリデシル基を有していることにより、109℃、145℃、161℃付近で吸熱が起こり、相転移が起きていることが確認できる。また、図8に、N,N’−ジオクタデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドの、DSCによる熱流の変化を示した。長鎖アルキル基であるトリデシル基を有していることにより、138℃、149℃付近で吸熱が起こり、相転移が起きていることが確認できる。一方、アルキル鎖の短いN,N’−ジオクチル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドのDSCでは、185℃付近に融点となる吸熱が確認されたものの、相転移は起きていない。
【0067】
本発明者らは、ペリレンテトラカルボキシジイミド誘導体により形成された有機半導体薄膜を、相変化温度付近で熱処理することにより、有機薄膜トランジスタのトランジスタ性能が向上することを報告している(前記の非特許文献2)。
【0068】
本発明の有機半導体薄膜用材料の分散液、または、溶解液の塗布により形成された塗工膜は、多くの結晶粒界や欠陥が存在し、微結晶が集合した多結晶構造も存在し、このままであると、多くの結晶粒界や欠陥が存在し、電荷の輸送が阻害された有機半導体膜となっていた。しかし、本発明では、有機半導体薄膜用材料により形成された薄膜(塗工膜)を熱処理することにより、下記の顕著な効果を得ている。薄膜(塗工膜)を熱処理すると、本発明の有機半導体薄膜用材料を特徴づける一般構造式(1)で表されるナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体が液晶状態になり、均一な塗工膜の形成を可能とし、その後、冷めると再び結晶状態になって有機半導体特性を示すようになる。このため、結晶状態になる際に、[1]分子の再配列による強いスタック状態の形成、[2]結晶化する際に不純物が排出、[3]グレインサイズが増大し、結晶粒界、欠陥および欠損の減少、[4]電極との密着性の向上などの複合的な作用により、トランジスタ特性の向上、すなわち、電子移動度が増加する。
【0069】
上記の結果、膜厚が厚く、膜の欠損・欠陥がほとんどない優れた有機半導体薄膜の形成が可能になる。さらに、このようにして形成した有機半導体薄膜を有機薄膜トランジスタに用いた場合には、素子間の半導体特性においてバラつきを小さくすることができる。上記の方法においては、塗工膜の加熱処理を、80℃〜350℃の温度で行うことが好ましい。加熱処理温度を上記範囲にすることにより、有機半導体薄膜用材料に含まれる一般構造式(1)の誘導体における相転移が確実に起こり、液晶状態から結晶状態となる際に、上記した[1]〜[4]の作用が発現することで、膜の欠損・欠陥のない優れた有機半導体薄膜を得ることができる。
【0070】
本発明の有機半導体薄膜用材料は、サーモトロピック液晶性を有するため、本発明の有機半導体薄膜用材料を基板に印刷・塗布後、さらにスメクチック液晶、ネマチック液晶、等方性液晶となる温度領域における熱処理工程により、さらなる膜の均一化を行うことができる。本発明の有機半導体薄膜用材料は、80℃〜250℃の温度領域で、スメクチック液晶またはネマチック液晶のいずれかの液晶状態へ相転移するサーモトロピック液晶であることを特徴とする。80℃以下であると有機薄膜トランジスタとして利用する温度環境によりトランジスタ特性が大きく変わる可能性がある。また、250℃以上であると、プラスチック基板の使用が困難となるばかりでなく、有機半導体薄膜用材料のメリットである低コスト、安価な製造設備での製造が困難となる。特に、コスト面、トランジスタ性能面と共に、フレキシブルなプラスチック基板上に有機トランジスタが形成される可能性もあるため、100℃〜200℃の温度領域に相転移温度を有するものであることが好ましい。
【0071】
本発明の有機半導体薄膜用材料を特徴づけるN,N’−ジトリデシル−1,4,5、8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドからなる有機半導体薄膜を100℃、125℃、150℃で加熱処理した有機半導体薄膜のX線回折パターンを図3に示した。図3から明らかなように、加熱処理により、確認されるピークの数が減少し、有機半導体薄膜内の分子の配列が揃った層状構造による回折パターンのみ確認される。また、この有機半導体薄膜時の原子間力顕微鏡(AFM)像を図6に示した。未処理(加熱処理しないことを意味する)では、結晶状物質が多く確認されたが、125℃、150℃と加熱処理を行うことにより、結晶状物質のサイズが大きくなり、更に、結晶と別の結晶との間の不連続な境界面(結晶粒界)が存在しない単結晶のような薄膜となる。
【0072】
本発明の有機半導体薄膜を形成する際における熱処理する環境雰囲気は、大気中、不活性ガス中または真空中で行うことができる。真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下で熱処理を行うことは、各材料の劣化や酸化などを防げるので好ましい。熱処理雰囲気に使用される不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどのほか、窒素、水素、二酸化炭素など有機半導体薄膜、有機薄膜トランジスタおよびその基材を腐食および劣化するものでなければ問題なく利用できる。不活性ガスは、酸素など有機半導体薄膜用材料を劣化する気体が含まれないことが必要となり、高純度のガスが必要となる。真空中で処理は、高純度のガスを使用する必要がなくコスト的に有利となる。真空中で熱処理を行う場合は、圧力が10-5〜50,000Paである減圧雰囲気下で行うことが好ましい。より好ましくは、1〜50,000Pa、さらに好ましくは、100〜10,000Paである。真空度が高い場合には、熱処理を効果的に行うため、金属板の上に有機薄膜、または、有機薄膜トランジスタを設置することが有効であり、このようにすれば効果的に熱を伝達できる。
【0073】
また、熱処理の方法としては、特に限定されないが、オーブン、熱ロールまたは熱プレスなどが利用できる。また、印刷法により有機半導体薄膜を形成後、乾燥ゾーンにおいて、熱処理と乾燥を兼ねることもできる。また、熱処理の時間は、有機半導体薄膜が所定の温度に達すれば、特に限定されないが、長時間の熱処理は基材の劣化を促進するので、10時間以内が望ましい。
【0074】
本発明の有機半導体薄膜用材料よりなる有機半導体膜は、有機溶媒の蒸気中に保持することにより、有機半導体微粒子の再配列が起き、より均一で、平滑な膜を与える。このような溶媒としては、先に挙げた分散に使用する溶媒であれば問題なく使用できるが、特に好ましい溶媒として、クロロホルム、トリクロロメタン、トリクロロエチレンなどハロゲンを含む有機溶媒、ピリジン、n−メチルピロリドン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。溶媒の処理の方法としては、溶媒を含む密閉された容器中に有機薄膜を保持する方法、溶媒蒸気を有機薄膜にふきつける方法などがある。
【0075】
前述した本発明を特徴づける一般構造式(1)で表される化合物は、n型有機半導体薄膜用材料としての特性を発現し、上記化合物を有機半導体薄膜の形成材料として利用することにより、より有用な有機薄膜トランジスタを製造することができる。以下、本発明による有機系の有機薄膜トランジスタについてより詳細に説明するが、本発明はこれら構造には限られない。
【0076】
一般に、有機薄膜トランジスタの構造は、ゲート電極が絶縁膜で絶縁されているMIS構造(Metal-Insulator-Semiconductor構造)がよく用いられる。本発明で用いることができる有機薄膜トランジスタは、有機半導体薄膜よりなる有機半導体層を有しており、さらに、ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極とゲート絶縁層からなるものである。本発明の有機薄膜トランジスタにおいては、有機半導体薄膜が有機半導体薄膜用材料により形成されるものである。
【0077】
次に、本発明の有機薄膜トランジスタの形態について説明する。図1、2は、本発明の有機薄膜トランジスタの構造の1例をそれぞれ表す断面図である。図1の有機薄膜トランジスタの形態においては、基板16の上にゲート電極14が設けられ、ゲート電極上に絶縁層11が積層されており、その上に所定の間隔で形成されたソース電極12およびドレイン電極13が形成されており、さらにその上に有機半導体薄膜15が積層されているボトムゲートボトムコンタクト型を示す。図2の有機薄膜トランジスタの形態においては、基板16の上にゲート電極14が設けられ、ゲート電極上に絶縁層11が積層されており、その上に有機半導体薄膜15が積層され、さらにその上に所定の間隔で形成されたソース電極12およびドレイン電極13が形成されているボトムゲートトップコンタクト型を示す。
【0078】
このような構成を有するトランジスタ素子では、ゲート電極とソース電極の間に電圧を印加し、印加される電圧により有機半導体薄膜がチャネル領域を形成し、ソース電極とドレイン電極の間に流れる電流が制御されることによってスイッチング動作する。
【0079】
次に、本発明の有機薄膜トランジスタを形成する基材について説明する。基板としては、絶縁性のある材料であればよく、ガラス、アルミナなどの無機材料、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネートなどのプラスチック基板を用いて作製することができる。プラスチック基板を用いた場合は、軽量で耐衝撃性に優れたフレキシブルな有機薄膜トランジスタを作製することができる。これら基板は、単独で使用してもよく、或いは併用してもよい。なお、導電性のある基板、例えば、シリコンを基板に用いた場合、その基板はゲート電極を兼ねることもできる。
【0080】
次に、本発明の有機薄膜トランジスタを形成する絶縁体層について説明する。本発明において、ゲート絶縁層を構成する材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、SiO2、ZrO2、Ta25、La23、Al23、HfO2などの無機材料が挙げられる。また、高分子系絶縁膜材料としては、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタラート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネートなどの有機材料が利用できる。ゲート絶縁層に使用する絶縁材料は、単独で使用してもよく、或いは併用してもよい。
【0081】
これら、絶縁体層の形成方法は、特に限定するものではないが、例えば、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法などのドライプロセス、さらには、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、エアーナイフ法、スライドホッパー法、エクストリュージョン法などの塗布法、各種印刷法やインクジェット法などのウェットプロセスを挙げることができ、使用する材料の特性に応じて適宜選択して適用することができる。例えば、シリコン基板上に熱酸化、水蒸気酸化またはプラズマ酸化でSiO2層を形成させたものでもよい。
【0082】
なお、ゲート絶縁膜は、化学的表面処理により疎水化することにより、絶縁体層と有機半導体薄膜の親和性が向上し、均一な有機半導体薄膜の形成を可能とし、リーク電流も抑制することが可能となる。特に制限されるものではないが、例えば、OTS(オクタデシルトリクロロシラン)、ODS(オクタデシルトリメトキシシラン)、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)などのシランカップリング剤、フッ素含有アルキルシランカップリング剤をゲート絶縁膜上に溶液塗布または真空成膜し、形成される。
【0083】
次に、本発明の有機薄膜トランジスタを形成する電極材料について説明する。ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極に用いる電極材料は、導電性を有する材料が用いられる。例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、チタン、インジウム、パラジウム、マンガンモリブデン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、クロム、タングステン、タンタル、ニッケル、コバルト、銅、鉄、鉛、錫などの金属材料、およびこれらの合金、InO2、ZnO2、SnO2、酸化インジウムスズ(以下、ITOと略記)、酸化インジウム亜鉛(以下、IZOと略記)などの導電性酸化物、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイトなどの炭素材料、導電性高分子化合物などが使用できる。なお、有機半導体薄膜との接触面において電気抵抗が小さい金、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ITO、IZO、金/クロム合金がより好ましい。
【0084】
これらの電極の形成方法としては、特に限定するものではないが、例えば、導電性材料を溶液に分散させた分散液を用いた印刷法、導電性材料を溶液に溶解させた溶解液を用いた印刷法、蒸着法やスパッタリング法などの方法を用いて形成することができる。
【0085】
また、ソース電極とドレイン電極は、互いに対向して配置されるが、電極間の距離(チャネル長)がトランジスタ特性を決める要因のひとつとなる。電極間の距離(チャネル長)は、通常5,000μm以下であれば問題なく使用できるが、好ましくは1,000μm以下であり、ソースとドレイン電極間の幅(チャネル幅)は特に制限なく使用できるが、好ましくは1mm以下である。また、このチャネル幅は電極の構造がくし型の構造になる時などは、さらに長いチャネル幅を形成してもよい。形成されたソース電極、ドレイン電極の厚さは、数nmから数百μmの範囲であれば問題なく使用できるが、30nmから200μmがより好ましい。
【0086】
また、本発明の有機薄膜トランジスタは、大気中の酸素や水分などの影響を軽減する目的で、有機薄膜トランジスタの外周面の全面、または一部にガスバリア層を設けることもできる。ガスバリア層を形成する材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、などを挙げることができる。
【0087】
なお、本発明の有機薄膜トランジスタは、電子(キャリア)移動度(cm2/Vs)、オン/オフ比、閾値電圧(V)により、トランジスタ特性を評価できる。特に、電子移動度は有機薄膜トランジスタにおいて、大きな電流を得られるなど、大きな値であることが重要である。電子移動度は、0.001cm2/Vs以上であることが望ましい。また、0.01cm2/Vsであれば、メモリ、電子ペーパー用駆動素子として使用できるが、0.1cm2/Vs以上であれば、アモルファスシリコンの代替品として、アクティブマトリックスの駆動素子などへの使用が可能となる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明の実施例について説明する。
[製造例1:化合物Aの合成]
ナフタレンテトラカルボン酸無水物2.23gと、トリデシルアミン4.15gとを、ジメチルホルムアミド20ml中に分散させ、窒素気流下、還流下で6時間撹拌する。冷却後、濾過し、濾物をメタノール・希塩酸、次いで水の順に洗浄する。洗浄後、乾燥して3.27gのN,N’−ジトリデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドを得た(収率62%)。得られた化合物は、カラムクロマトを用いて分取し、再結晶により精製し、NTCDI−C13(化合物A)を得た。示差走査熱量測定熱分析(DSC)による吸熱ピーク(室温〜250℃まで測定)は、109℃、145℃、161℃に存在した(図7参照)。

【0089】
[製造例2:化合物B〜G合成]
製造例1のトリデシルアミンに変えて、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、3−(ドデシルオキシ)プロピルアミン、及び、オクチルアミンをおのおの用いて化合物B、C、D、E、F、Gを得た。得られた化合物A〜Fを実施例に、化合物Gを比較例の化合物として用いた。得られた化合物の相転移温度を表1に示した。
【0090】

【0091】

【0092】
[薄膜トランジスタの評価]
薄膜トランジスタの電気特性は、Agilent社製半導体デバイスアナライザー(B1500A)で室温・真空下にて測定した。ID(ドレイン電流)−VD(ソース−ドレイン間電圧)特性(伝達特性)は、VG(ゲート電圧)を、100V、80V、60V、40V、20V、それぞれ印加した各条件において、ドレイン電圧VDを0から100Vへと掃引して測定した。また、ID−VG特性(出力特性)は、VD=100Vにおいて、VGを0から100Vまで掃引して測定した。
(ID1/2−VG特性の直線領域と式(1)から移動度を算出した。

なお、上記式(1)中、Ciはゲート誘電体の静電容量(nF/cm2)、VTは閾電圧である。電界効果移動度(μ)は、(ID1/2−VG特性の傾きから式(1)を用いて求め、フィッティング直線のX切片から、閾電圧(VT)を算出した。
【0093】
[参考例1]
「化合物A(NTCDI−C13)を用いた有機薄膜トランジスタの作製」
ゲート絶縁体層となる酸化シリコン膜(厚さ200nm)を表面に有するシリコン基板を用意し、ITO(150nm)をスパッタ成膜し、フォトリソグラフィとウェットエッチングを用いて、ソース電極、およびドレイン電極をパターニングした。このときのチャネル長、チャネル幅はそれぞれ100μm、2,000μmであった。その後、製造例1で得た化合物Aをクロロホルムに濃度0.50%となるように溶解し、該溶液を用いて、スピンコーター(1,500r.p.m./60s)にてシリコン基板上に有機半導体薄膜を形成し、真空中において1時間の減圧乾燥を行った。
【0094】
上記で得られたトランジスタについて、ID−VD特性は、VG(ゲート電圧)を100V、80V、60V、40V、20Vでそれぞれ印加した各条件において、ソース−ドレイン電圧(VD)を0から100Vへと掃引して測定した。また、ID−VG特性は、VD=100Vにおいて、VGを、0から100Vまで掃引して測定した。
【0095】
[実施例1〜3]
参考例1で作成したデバイスを用い、真空雰囲気下(2,000Pa)において、表1に示した所定の温度でそれぞれ熱処理を2時間行い、処理したものを実施例1〜3のデバイスとした。得られた各デバイスの(ID1/2−VG特性より算出したトランジスタ特性を表2に示した。
【0096】

【0097】
実施例3の測定の結果得られた、ドレイン電流とゲート電圧の関係(出力特性)を図3に示し、ドレイン電流とドレイン電圧の関係(伝達特性)を図4にそれぞれ示した。その結果、ID−VD特性において、ドレイン電流−ドレイン電圧曲線に明澄な飽和領域が認められたことから、典型的なn型特性を有する電界効果トランジスタとして駆動することが示された。(ID1/2−VG特性から算出した電子移動度は、2.1×10-1cm2/Vs、閾電圧値は25V、ON/OFF比:105であった。また、このときの、熱処理による有機半導体薄膜のグレインサイズの成長を図6に示した。
【0098】
[実施例4〜7]
「化合物A(NTCDI−C13)を用いた有機薄膜トランジスタの作製」
参考例1と同様に作成した有機薄膜トランジスタを、窒素雰囲気下(高純度ガス:G3)において、表3に示す所定の温度でそれぞれ1時間の熱処理し、有機薄膜トランジスタを作成し、これらをデバイスとした。得られた各デバイスの(ID1/2−VG特性より算出したトランジスタ特性を表3に示した。
【0099】

【0100】
[実施例8]
「化合物C(NTCDI−C12)を用いた有機薄膜トランジスタの作製」
ゲート絶縁体層となる酸化シリコン膜(厚さ200nm)を表面に有するシリコン基板を用意し、ITO(150nm)をスパッタ製膜し、フォトリソグラフィとウェットエッチングを用いてソース電極、およびドレイン電極をパターニングした。このときのチャネル長、チャネル幅は100μm、2,000μmであった。その後、合成例3で得た化合物Cをクロロホルムに濃度1.0%となるように溶解し、スピンコーター(1,500r.p.m./60s)にてシリコン基板上に有機半導体薄膜を形成した。そして、常温において減圧乾燥した後、真空中において150℃で、それぞれ1時間の熱処理を行った。
【0101】
上記で得たトランジスタについて、異なるゲート電圧毎でのドレイン電圧とドレイン電流とを測定した。ドレイン電流−ドレイン電圧曲線に明澄な飽和領域が認められたことから、典型的なn型特性を有する電界効果トランジスタとして駆動することが示された。
その結果、ID−VD特性において、ドレイン電流−ドレイン電圧曲線に明澄な飽和領域が認められたことから、典型的なn型特性を有する電界効果トランジスタとして駆動することが示された。(ID1/2−VG特性から算出した電子移動度は、1.72×10-1cm2/Vs、閾電圧値は24V、ON/OFF比:105であった。
【0102】
[実施例9]
「化合物F(NTCDI−C12−O−C3−)を用いた有機薄膜トランジスタの作製」
実施例3の化合物Aを化合物Fに代えた以外は、実施例3と同様に有機薄膜トランジスタを作製した。得られた有機薄膜トランジスタは高い移動度と高いオンオフ比を示し、バランスのよいトランジスタ特性を示した。
【0103】
[比較例1]
「化合物G(NTCDI−C8)を用いた有機薄膜トランジスタの作製」
実施例1の化合物Aを化合物Fに代えた以外は、実施例1と同様にして、比較例1の有機薄膜トランジスタを作製した。得られた有機薄膜トランジスタを真空オーブンで2時間乾燥した。得られたトランジスタについて、トランジスタ特性を実施例1と同様に測定した。その結果、実施例と比較すると、移動度及びオン/オフ比の値は、共に小さかった。本有機薄膜トランジスタは、熱処理を行わなかった。表1に、(ID1/2−VG特性から算出した電子移動度は、0.005cm2/Vs、閾電圧は43Vであった。
【0104】
[評価結果]
本発明を特徴づける、一般構造式(1)で表わされるナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体によれば、簡便な方法である印刷法によって、良好な有機半導体薄膜の形成が可能となった。本発明の有機半導体薄膜により作成された有機薄膜トランジスタは液晶状態への転移温度付近での熱処理を行うことで、電子移動度を一桁以上増大させることが、良好なトランジスタ特性を示すことが確認された。
【0105】
一方、熱処理をしないナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体によって作製された有機薄膜トランジスタは、移動度、ON/OFF比ともに値が低く、また、加温により相転移することがない有機半導体薄膜用材料は、熱処理の効果は小さかった。
以上、本発明を好ましい実施例を挙げて説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、高い電子移動度および高いオン/オフ値を有するとともに、有機半導体薄膜用材料を用いた塗布法・印刷法により、簡便に、大面積にわたり均一で特性に優れた有機半導体薄膜の形成することのできるn型有機半導体素子として使用可能な有用な有機半導体薄膜用材料を提供することができる。また、上記有機半導体薄膜用材料を用いて製造される有用な有機薄膜トランジスタを提供することができる。
【符号の説明】
【0107】
11:絶縁層
12:ソース電極
13:ドレイン電極
14:ゲート電極
15:有機半導体薄膜
16:基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型有機半導体素子として使用可能な有機半導体薄膜用材料であって、80℃〜250℃の温度領域に相転移温度を有し、かつ、下記一般構造式(1)で表されるナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体を含むことを特徴とする有機半導体薄膜用材料。

(但し、式中、R1、R2は、それぞれ独立に、炭素数が10〜22の分岐または非分岐のアルキル基であり、さらにN、O、S、Pのヘテロ原子を含んでいてもよい。X1、X2、X3、X4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基から選ばれる。)
【請求項2】
前記一般構造式(1)中のR1およびR2が、nの数が同一であるか又は互いに異なるCn2n+1(nは10〜18の整数を表す)である請求項1に記載の有機半導体薄膜用材料。
【請求項3】
前記一般構造式(1)で表される誘導体が、下記構造式(1)で表わされるN,N’−ジウンデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド、下記構造式(2)で表わされるN,N’−ジトリデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド、下記構造式(3)で表わされるN,N’−ジペンタデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミド、或いは下記構造式(4)で表わされるN,N’−ジヘプタデシル−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドのいずれかである請求項1又は2に記載の有機半導体薄膜用材料。

【請求項4】
前記一般構造式(1)中のR1およびR2が、nの数が同一であるか又は互いに異なるCn2n+1−O−C36(nは7〜19の整数を表す)である請求項1に記載の有機半導体薄膜用材料。
【請求項5】
前記一般構造式(1)で表される誘導体が、下記構造式(5)で表わされるN,N’−ビス(3−(n−ドデシルオキシ)−n−プロピル)−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシジイミドである請求項4に記載の有機半導体薄膜用材料。

【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機半導体薄膜用材料を用い、該材料を、有機溶媒に溶解又は/及び分散させた状態で基板上に塗工し、乾燥後、形成した塗工膜を80℃〜350℃の温度で加熱処理して該塗工膜を加熱し、さらに冷えた後の塗工膜の膜厚を10nm〜10μmとすることを特徴とする有機半導体薄膜の形成方法。
【請求項7】
前記塗工膜を80℃〜250℃の温度に加熱する請求項6に記載の有機半導体薄膜の形成方法。
【請求項8】
前記加熱処理を、10-5〜50,000Paの減圧雰囲気下において行う請求項6又は7に記載の有機半導体薄膜の形成方法。
【請求項9】
前記加熱処理を、不活性ガス雰囲気下において行う請求項6〜8のいずれか1項に記載の有機半導体薄膜の形成方法。
【請求項10】
基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁層、有機半導体薄膜ならびにソース電極およびドレイン電極が少なくとも形成されている有機薄膜トランジスタにおいて、上記有機半導体薄膜が、請求項6〜9のいずれか1項に記載の有機半導体薄膜の形成方法で形成されたものであることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項11】
そのキャリア移動度が0.01cm2/Vs以上である請求項10に記載の有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−190851(P2012−190851A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50792(P2011−50792)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】