説明

有機薄膜形成材料、有機薄膜、該薄膜の製造方法、有機薄膜素子およびn型の有機薄膜トランジスタ

【課題】製造コストを抑制できる簡便な、溶液を用いた溶液塗布法によって有機半導体薄膜の形成ができる、ウェットプロセスに適用可能な有機薄膜の形成材料の提供、および、当該材料を用いた、有機薄膜、有機薄膜素子、n型の有機薄膜トランジスタなどの提供。
【解決手段】芳香族環からなる環状π共役系骨格構造を有する化合物(X)とメラミン誘導体とを反応してなる下記一般式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする有機薄膜材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜の形成材料に関し、溶媒可溶性の色素材料を利用した有機薄膜トランジスタに適用できる有機薄膜形成材料に関する。詳しくは、有機薄膜の形成ができる、水素結合を形成するトリアミノトリアジン(メラミン)置換基を有する環状π共役系骨格構造をもつ色素材料、該材料を用いた有機薄膜、該色素材料が水素結合により薄膜を形成する有機薄膜の製造方法、該有機薄膜を利用した有機薄膜素子および有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化社会の進展は目覚しく、デジタル技術の発展は、コンピュータ、コンピュータ・ネットワークなどの通信技術を日常生活に浸透させている。それとともに、薄型テレビやノートパソコンの普及が進んでおり、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパーなど、表示ディスプレイへの要求も高まりつつある。特に近年、ディスプレイの大型化とともに精細化も進みつつあり、これまで以上に画素数に対応した多数の電界効果トランジスタの組み込みが要求され、液晶ディスプレイにおいては、電界効果トランジスタをアクティブ素子として各画素に配置し、信号のオン/オフ制御を行うことにより、液晶を駆動できる。
【0003】
アクティブ素子に使用されている電界効果トランジスタとして、薄膜トランジスタが使用され、その性能は、用いられる半導体材料や構造によって決まる。特に、大きなキャリア移動度および高いオン/オフ比を得ることは、大きな電流を得ることが可能となり、有機ELなどの駆動などが可能となるばかりでなく、薄膜トランジスタの微細化、コントラストの向上が実現できる。
【0004】
アクティブ素子に使用されている薄膜トランジスタには、アモルファスシリコン、ポリシリコンなどのシリコン系半導体を用いることができる。これらのシリコン半導体を多層化し、ソース、ドレイン、ゲート電極を基板上に形成していくことで薄膜トランジスタが製造されている。
【0005】
従来のシリコン半導体を用いた薄膜トランジスタの製造には大規模で高価な製造設備が必要とし、また、フォトリソグラフィーを用いるため多くの工程を経る必要があり、製造コストが高くなるという実用上の課題がある。また、その製造温度は、300℃から500℃以上の高温を必要とするため、製造コストが高くなるばかりでなく、プラスチック製基板やプラスチック製フィルムへの薄膜の形成は困難となるといった課題もある。
【0006】
一方、有機半導体材料(有機薄膜材料)からなる有機半導体薄膜(有機薄膜)を使用した有機薄膜トランジスタは、蒸着法や溶液塗布法により作成されるため、今後の、低コスト化、大面積化、軽量化などの将来的な可能性がある。また、有機半導体層(薄膜)は、無機半導体層に比べて低温での作成が可能であるため、低コスト化が期待できる。さらに、これに加えて、プラスチック製基板や、フレキシブルなプラスチック製フィルムなどにも有機半導体層(薄膜)を形成することが可能となるため、軽量化、フレキシブルな電子デバイスなどへの適用も可能となる。
【0007】
これまで、多くの有機半導体材料(有機薄膜の形成材料)が研究されており、共役高分子化合物や低分子化合物を有機半導体層として利用したものが知られている。ここで、半導体には、n型半導体とp型半導体があり、n型半導体材料は電子が主たるキャリアとして移動することにより電流が生じ、p型半導体材料ではホール(正孔)が主たるキャリアとして移動することで電流が生じる。そして、有機エレクトロニクスがさらに、発展するためには、低電力消費、より単純な回路などが必須となり、n型、p型の両方の有機半導体材料を必要とする相補型金属酸化物半導体(CMOS)のような有機相補型MOS回路が必要となっている。
【0008】
これに対し、有機薄膜トランジスタとして高い性能を示す有機半導体材料としては、ペンタセン系材料、チオフェン系材料が知られているが、これらはいずれもp型特性を示す半導体材料である。一方、下記に述べるように、高性能のn型有機半導体材料についての報告は限られており、特に、高性能のn型有機半導体材料、すなわち、n型有機半導体として機能し得る有機薄膜の形成材料の開発が望まれている。将来を期待されている有機エレクトロニクスのさらなる発展を実現するためには、n型有機半導体として機能する有機薄膜の形成材料の提供が急務となっている。
【0009】
n型有機半導体材料としては、これまで、ナフタレンイミド、ナフタレンジイミドおよび、これらの誘導体が知られている。しかし、これらの有機半導体材料に関して、薄膜トランジスタとしての高い性能の報告はされていない。また、ペリレン骨格を有する低分子化合物が高い性能を発現する有機薄膜トランジスタに使用できる可能性についての報告がある(非特許文献1:電子移動度0.6cm2/Vs)(非特許文献2:電子移動度2.1cm2/Vs)。しかしながら、これらの材料は、大きな芳香族環を有するため、溶媒への溶解性がほとんどなく、簡便な溶液塗布法による薄膜トランジスタの作成は困難であるという実用上の課題がある。
【0010】
また、フラーレン(以下、単に「C60」と記載する場合がある)を用いた有機薄膜トランジスタは、n型特性を示すことが知られており、フラーレンの蒸着薄膜を有機半導体層として使用した薄膜トランジスタの作成についての報告がある(非特許文献3:電子移動度0.56cm2/Vs)。
【0011】
また、フラーレンへの置換基の導入により、可溶化したフラーレン誘導体を用いた、溶液塗布法により形成された有機半導体薄膜を用いた薄膜トランジスタが報告されている。例えば、フェニルC61酪酸メチルエステルを導入したフラーレンを有機半導体層として用いた薄膜トランジスタの電子移動度は、0.0035cm2/Vsであることが報告されており(非特許文献4)、また、長鎖アルキル基を導入したC60誘導体(C60-fused pyrrolidine-meta-C12 phenyl)では、電子移動度0.067cm2/Vsであることが開示されている(特許文献1)。
【0012】
しかしながら、フラーレンやフラーレン誘導体を有機半導体材料として用いて作成された有機薄膜トランジスタは、フラーレンが高価な材料であり、さらに、その誘導体である有機半導体材料も高価なものとなるため、安価なデバイスの作成が困難であるという実用上の課題がある。
【0013】
また、n型有機半導体材料として、π電子系環を含む骨格構造を有し、該骨格の両末端にパーフルオロアルキルフェニル基を有するπ電子化合物が、溶液の塗布やインクジェットなどの印刷法、並びに蒸着法によって簡便に製膜することができる可能性についての開示がされている(特許文献2)。しかしながら、特許文献2には、溶液塗布法による有機薄膜の作成については記載されているものの、溶液塗布法で作成した有機薄膜トランジスタの作成例は記載されていない。本発明者らの検討によれば、これは、該π電子化合物が、溶液に対して十分な溶解性を有していないため、印刷プロセスへの応用が困難なためと考えられる。
【0014】
また、オリゴチオフェンの末端にカルボニル基を有する化合物をn型半導体材料として作成した有機薄膜トランジスタについての提案がある(特許文献3)。しかしながら、この化合物は、カルボニル基が直接オリゴチオフェンに結合しており、安定した性能を得るためにはチオフェンが4つ以上結合していることが必要である。しかし、このチオフェンが4つ以上結合した化合物の高い溶解性を得ることが困難である。そのため、該化合物を溶液塗布法へ適用するには、前駆体を利用する必要があり、酸処理などの工程を必要とするため、製法上のコスト面などで、その実用化には多くの課題があった。
【0015】
さらに、有機薄膜材料を用いた有機薄膜トランジスタは、従来使用されているシリコンなど無機トランジスタでは為し得ない、大面積化が可能になるという利点があり、この点からの期待も大きく、その技術開発が待望されており、様々な提案がなされている。例えば、製造コスト面で有効な有機半導体材料として、ジベンゾテトラチアフルバレン誘導体を含む有機半導体材料を用いることについての提案がある(特許文献4)。また、光記録媒体、エレクトロルミネッセンスデバイス、カラーフィルター、太陽電池などの様々な分野において、シアニン、フタロシアニンなどの有機色素を成膜した有機色素薄膜としての使用に関するものが提案されている。例えば、有機色素を溶剤に溶解して有機色素溶液を調製し、該有機色素溶液を成膜面に塗工し、成膜面から溶剤を留去する有機色素薄膜の製造方法についての提案がある(特許文献5)。
【0016】
更に、有機半導体材料として、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、アゾ顔料など、各種の顔料色素が使用されている。特に、ペリレン顔料誘導体は、優れた半導体特性を有しており、ペリレン骨格の一部をシアノ化して半導体特性を向上させたペリレン誘導体(特許文献6)や、フッ素化されたアルキル基の導入により耐久性を向上させたペリレン誘導体(特許文献7)などが開示されている。
【0017】
ペリレンビスイミド材料は、高い性能を示す数少ないn型有機半導体材料(有機薄膜材)として有機トランジスタ、有機太陽電池への応用が行われている。大きな縮合環を含むペリレンビスイミド分子は、基本的には難溶性であるが、近年、置換基の導入などにより塗布プロセスへの応用が検討されている。その一方で、トリアジン置換基を両末端に有するペリレンなどの色素分子をホスト分子として、置換基を有するシアヌル酸誘導体であるゲスト分子との混合溶液から塗布・乾燥させ、3点水素結合により、様々な集積構造を創出する研究が展開されている(非特許文献5、6)。
【0018】
この他にも、芳香族環含有トリアジン置換基を両末端に有するペリレン誘導体から、位相性色素膜を形成することについての提案がある(特許文献8)。また、太陽電池用色素など有機エレクトロニクス素子として、トリアジン基を有するペリレン誘導体とシアヌル酸誘導体との水素結合を形成することにより得られる会合体についての提案がある(特許文献9)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Reid J Chesterfield et al,J.Phys. Chem. B, 108(50) 19281, (2004)
【非特許文献2】M. Ichikawa et al,Appl, Phys,Lett, 89(11), 112108 (2006)
【非特許文献3】S. Kobayashi et al,Appl,Phys,Lett, 82,25,4581,(2003)
【非特許文献4】M. Chikamatsuet al, Appl, Phys,Lett, 87,20, 3504, (2005)
【非特許文献5】S. Yagai et al, J. Am. Chem. Soc., 2007, 129 (43), pp 13277-13287
【非特許文献6】S.Yagai et al,Org,Lett.,9,6.,1137(2007)
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2006−60169号公報
【特許文献2】特開2006−206503号公報
【特許文献3】特表2008−513544号公報
【特許文献4】特開2009−238927号公報
【特許文献5】特開2005−329629号公報
【特許文献6】特表2007−527114号公報
【特許文献7】特表2008−524846号公報
【特許文献8】特開2006−328157号公報
【特許文献9】特開2009−185163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記したように、従来の有機半導体材料では、該材料で有機薄膜を形成する際に、真空蒸着法によるドライプロセスを経ることが一般的であるため、分散工程も含め製造コスト面での課題が多く、実用化の妨げとなっている。その一方で、有機薄膜を形成できる有機半導体材料は、従来使用されているシリコンなど無機トランジスタでは為し得ない、大面積化を可能とするという大きな利点があり、困難な分散工程を経ず、製造面でも低コストなるウェットプロセスでの使用が可能な有機半導体材料(有機薄膜の形成材料)、それを用いた有機トランジスタなどの技術が提供されれば、極めて有用である。
【0022】
しかしながら、特許文献4に記載の如く、有機半導体材料として、ジベンゾテトラチアフルバレン誘導体を含む有機半導体材料の使用は、有機トランジスタとして安定した性能が得られるが、材料を得るには多段階の合成経路を必要とし、全体としての収率は低いものとなり、有機半導体材料の特徴である低コスト化を実現するには困難である。
【0023】
また、特許文献5に記載の如く、エレクトロルミネッセンスデバイスなどの分野において、シアニン、フタロシアニンなどの有機色素を成膜した有機色素薄膜としての使用は、膜内部の構造が制御されておらず、光学フィルタ、発光層に使用することはできるが、電子(正孔)の流れを制御することを必要とする有機薄膜素子や有機トランジスタへの応用は困難である。
【0024】
さらに、特許文献6、特許文献7に記載されているペリレン誘導体などの各種顔料誘導体は、可視光領域に吸収を持つ染料などに比べて、耐光性或いは耐熱性に優れた点を有するものの、十分に有機半導体材料の使用目的を満たすだけの特性を有する有用な材料が得られていないのが現状である。
【0025】
また、特許文献8、9、非特許文献6の如く、有機エレクトロニクスの分野において、トリアジン基を有するペリレン誘導体を有機半導体材料として利用している。しかしながら、水素結合によるナノチューブなどの形成は容易であるが、有機薄膜トランジスタなどに利用できるような、均一で、内部の構造が制御された有機薄膜は得られてないのが現状である。
【0026】
したがって、本発明の目的は、製造コストを抑制できる簡便な、溶液を用いた溶液塗布法によって有機半導体薄膜の形成ができる、ウェットプロセスに適用可能な有機薄膜の形成材料を提供すること、さらに、当該有機薄膜の形成材料を用いて得られる有機薄膜、有機薄膜素子、有機薄膜トランジスタ、特にn型の有機薄膜トランジスタなどを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、上記した本発明の目的を達成できる有機薄膜の形成材料を見出だして、本発明に至った。すなわち、当該材料を低コストな製法によって得ること、当該材料をウェットプロセスに有効な溶液状態とすべく、当該材料を有機溶媒への溶解性が良好になる誘導体とすることによって本発明の目的を達成した。本発明の有機薄膜の形成材料によれば、簡便な溶液の塗布法によって有機薄膜の作製が可能になり、かつ、有機薄膜は、有機薄膜素子、有機薄膜トランジスタ、特にn型の有機薄膜トランジスタとして極めて有用なものになる。すなわち、本発明は、以下の構成からなる、有機薄膜形成材料、有機薄膜、該薄膜の製造方法、有機薄膜素子およびn型の有機薄膜トランジスタを提供する。
【0028】
1.芳香族環からなる環状π共役系骨格構造を有する化合物(X)と、メラミン誘導体とを反応してなる下記一般式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする有機薄膜の形成材料。

(式1中、Rは、N、O、S、Pのヘテロ原子を含んでもよいアルキル基、または、X(CH2nである。Xは、ペリレン、アントラセン、フタロシアニン、イソインドリン、イソインドリノン、フェナントロリン、ナフタレン、ピレン、トリフェニレン、ナフタセン、ペンタセン、ビチオフェン、ターチオフェン、クオターチオフェン、キンキチオフェン、セプチチオフェン、セキシチオフェン、オクチチオフェン、ベンゾチオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェンで表される骨格構造を持ち、これらは置換基としてアルキル基、および/または、トリアジン基を有していてもよく、アルキル基はN、O、S、Pのヘテロ原子を含んでいてもよい。nは、0〜18の整数を表わす。)
【0029】
2.前記一般式(1)の化合物が、下記一般式(2−a)で表されるシアヌル酸誘導体または下記一般式(2−b)で表わされるバルビツール酸誘導体をゲスト分子として会合体を形成する上記1に記載の有機薄膜の形成材料。

(式2−a中、R’は、N、O、S、Pのヘテロ原子を含んでもよいアルキル基を表わし、式2−b中、R’’、R’’’は、それぞれ独立に、N、O、S、Pのヘテロ原子を含んでもよいアルキル基を表わす。)
【0030】
3.前記一般式(1)で表わされる化合物が、下記一般式(3−a)または一般式(3−b)で表わされるペリレンテトラカルボン酸誘導体である上記1または2に記載の有機薄膜の形成材料。

(式3−a中、Rは、N、O、S、Pのヘテロ原子を含んでもよいアルキル基である。R1、R2は、それぞれ独立に、C1〜C20で表わされる非分岐または分岐のアルキル基であり、アルキル基はN、O、S、Pのヘテロ原子を含んでいてもよい。nは、0〜18の整数を表わす。)
【0031】
4.上記1〜3のいずれかに記載の有機薄膜の形成材料によって形成された有機薄膜であり、かつ、該薄膜がラメラ構造を有する液晶膜であることを特徴とする有機薄膜。
5.上記1〜3のいずれかに記載の有機薄膜の形成材料を有機溶媒に溶解してなる溶液を基板に塗工し、その後、有機溶媒を除去する過程において、上記材料が水素結合によって薄膜を形成することを特徴とする有機薄膜の製造方法。
6.上記4に記載の有機薄膜を用いてなることを特徴とする有機薄膜素子。
7.上記6に記載の有機薄膜素子と、絶縁体層としてポリビニルフェノールを用いてなることを特徴とするn型の有機薄膜トランジスタ。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、芳香族環からなる環状π共役系骨格構造を有する化合物Xとメラミン誘導体よりなる下記一般式(1)で表される溶剤可溶性な有機色素材料が提供され、該有機色素材料を使用することにより、簡便で経済的な溶液塗布法によって均一な有機薄膜の形成が可能となり、該薄膜によって実用化が可能な有機薄膜素子およびn型の有機薄膜トランジスタが提供される。特に、本発明によれば、電荷輸送キャリアが電子となるn型半導体として有効な有機半導体素子が提供される。
【0033】
より具体的には、例えば、メラミンで連結されたペリレンビスイミド二量体分子である下記式で表わされる化合物2(以下、PPM4と記載する場合がある)をホスト分子、下記式で表わされるバルビツール酸誘導体(以下、Barと略記する場合がある)をゲスト分子として、ホスト・ゲスト相互作用に基づいた有機薄膜の形成によって、有機電界効果トランジスタ(有機FET)への応用を可能とする。
【0034】

【0035】
上記したように、本発明によって提供される技術は、有効な色素誘導体の利用を主体とした低コストな製法を特徴とするものである。すなわち、本発明では、ウェットプロセスに有効な溶液とするために、有機溶媒への溶解性を有し、溶液塗布法による有機薄膜の作製を可能としたn型有機半導体材料の提供を可能とする。このような有機半導体材料はこれまでになく、特に、本発明が提供する有機薄膜の形成材料は、従来、開発が遅れていたn型の有機半導体材料であるため、有機半導体素子、有機薄膜トランジスタへの展開は、今後の有機エレクトロニクスの発展に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明で用いる化合物1および化合物2の各種溶剤における紫外・可視光線吸収スペクトルを示すグラフ。
【図2】本発明で用いる化合物1および化合物2の溶媒濃度依存の紫外・可視光線吸収スペクトルを示すグラフ。
【図3】(a)化合物1をdCAで滴定した際の紫外/可視光線吸収スペクトル。 (b)化合物1をdCAで滴定した際の可視光(波長:487nm)での吸収強度とdCA濃度の関係を表わすグラフ。
【図4】(a)化合物1単独、(b)化合物1+dCA、(c)化合物1+BarのMCH溶液の温度依存紫外・可視光スペクトルを示すグラフ、(d)各温度における凝集体のモル分率を示すグラフ。
【図5】(a)化合物2をdCAで滴定した際の紫外/可視光吸収スペクトル。 (b)化合物2をdCAで滴定した際の可視光(470nm)での吸収強度とdCA濃度の関係を表わすグラフ。
【図6】(a)化合物2単独、(b)化合物2+dCA、(c)化合物2+BarのMCH溶液の温度依存紫外・可視光スペクトルを示すグラフ、(d)各温度における凝集体のモル分率を示すグラフ。
【図7】(a)原子間力顕微鏡画像:化合物2+Barのトルエン溶液からのキャスト(b)原子間力顕微鏡画像:化合物2+BarのMCH:トルエン=9:1溶液からのキャスト
【図8】示差熱走査熱量測定結果を示した図。
【図9】化合物1の集積構造を表わした図。
【図10】化合物2の集積構造を表わした図。
【図11】(a)化合物1の膜構造模式図、(b)化合物1+dCA会合体の膜構造模式図、(c)化合物1+Bar会合体の膜構造模式図。
【図12】(a)化合物2の膜構造模式図、(b)化合物2+dCA会合体の膜構造模式図、(c)化合物2+Bar会合体の膜構造模式図。
【図13】本発明のボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタの構造の1例を表す断面図。
【図14】本発明のトップコンタクト型有機薄膜トランジスタの構造の1例を表す断面図。
【図15】実施例4で作製した有機薄膜トランジスタ(a)異なるゲート電圧毎でのドレイン電圧とドレイン電流示す図(b)電流変調特性(ドレイン電流とゲート電圧)の関係を示す図。
【図16】実施例5で作製した有機薄膜トランジスタの(a)異なるゲート電圧毎でのドレイン電圧とドレイン電流示す図(b)電流変調特性(ドレイン電流とゲート電圧)の関係を示す図。
【図17】実施例6で作製した有機薄膜トランジスタの(a)異なるゲート電圧毎でのドレイン電圧とドレイン電流示す図(b)電流変調特性(ドレイン電流とゲート電圧)の関係を示す図。
【図18】実施例7で作製した有機薄膜トランジスタの(a)異なるゲート電圧毎でのドレイン電圧とドレイン電流示す図(b)電流変調特性(ドレイン電流とゲート電圧)の関係を示す図。
【図19】実施例8で作製した有機薄膜トランジスタの(a)異なるゲート電圧毎でのドレイン電圧とドレイン電流示す図(b)電流変調特性(ドレイン電流とゲート電圧)の関係を示す図。
【図20】実施例9で作製した有機薄膜トランジスタの(a)異なるゲート電圧毎でのドレイン電圧とドレイン電流示す図(b)電流変調特性(ドレイン電流とゲート電圧)の関係を示す図。
【図21】スピンコートによって作製した膜のX線回折。
【図22】スピンコートによって作製した膜の原子間力顕微鏡の画像。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
本発明の有機薄膜の形成材料(以下、有機薄膜材料)は、芳香族環からなる環状π共役系骨格構造を有する化合物(X)とメラミン誘導体よりなる前記一般式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする。また、前記一般式(1)の化合物が、前記一般式(2−a)で表されるイソシアヌール酸誘導体または前記一般式(2−b)で表わされるバルビツール酸誘導体との会合体として含まれることを特徴とする。具体的には、前記一般式(1)で表わされる化合物が、前記一般式(3−a)または一般式(3−b)で表わされるペリレンテトラカルボン酸誘導体であることが好ましい。上記化合物を含む有機薄膜材料は、塗工し、薄膜を形成した際に、ラメラ構造を有する液晶膜となり、これを、用いることによって優れた有機薄膜素子、有機薄膜トランジスタを提供することが可能となる。以下に、各成分について、詳細に説明する。
【0038】
<有機薄膜材料>
[化合物(1)]
本発明の有機薄膜材料は、下記一般式(1)で表わされる化合物を含むが、一般式(1)の化合物は、化合物(X)とメラミン誘導体を反応させることにより得られる。
【0039】

(式1中、Rは、N、O、S、Pのヘテロ原子を含んでもよいアルキル基、または、X(CH2nである。Xは、ペリレン、アントラセン、フタロシアニン、イソインドリン、イソインドリノン、フェナントロリン、ナフタレン、ピレン、トリフェニレン、ナフタセン、ペンタセン、ビチオフェン、ターチオフェン、クオターチオフェン、キンキチオフェン、セプチチオフェン、セキシチオフェン、オクチチオフェン、ベンゾチオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェンで表される骨格構造を持ち、これらは置換基としてアルキル基、および/または、トリアジン基を有していてもよく、アルキル基はN、O、S、Pのヘテロ原子を含んでいてもよい。nは、0〜18の整数を表わす。)
【0040】
上記本発明で用いる一般式(1)で表わされる化合物は、後述する化合物(X)に由来する芳香族環からなる環状π共役系骨格構造を有するため、分子間の相互作用により、半導体材料として特性を発現することができる。該芳香族環からなる環状π共役系骨格構造(以下、骨格構造Aと略記する)は、蒸着法、溶液塗布法により形成された有機半導体薄膜において、強いスタックを形成し、高い電子移動度を達成することが可能となる。
【0041】
また、骨格構造Aは、置換基としてアルキル基を有していてもよい。骨格構造Aがアルキル基を有していると、一般式(1)の骨格構造Aの溶媒への溶解性を高めるとともに、加熱によるラメラ構造の形成の際に分子の配列を高くする作用する。このような、アルキル基としては、特に制限なく使用することができるが、たとえば、炭素数6から18のヘテロ原子を含んでもよい直鎖アルキル基、または、測鎖に炭素数1から18までの分岐してもよく、ヘテロ原子を含んでもよいアルキル基があげられる。特に、好ましいアルキル基として1−メチルエチル、1−エチルブチル、1−ブチルペンチル、1−プロピルブチル、1−ペンチルヘキシル、1−ヘキシルセプチル、1−セプチルオクチル、1−オクチルノニルなどの対象となるアルキル基が挙げられる。
【0042】
また、一般式(1)において、骨格構造Aを2個有する場合も、n=0〜18のアルキル基が利用できる。これら2つのアルキル基は、その長さが同じであると均一なラメラ構造を形成すると共に環状π共役系骨格構造のπ共役の重なりが大きくなるので、好ましい。
【0043】
また、一般式(1)において、骨格構造Aを含むXとトリアジン基とは、アルキレン基により結合されてもよいし、直接結合されてもよい。結合するアルキレン基は、炭素数1〜18のアルキレン基が好ましい。アルキレン基の炭素数18以上であると、化合物(1)の相転移温度が低くなり、常温においても液晶性を示すため、骨格構造Aのスタックが弱くなり、光学特性、電気特性の低下を招く可能性がある。特に強いスタックを形成する好ましいアルキレン基として、炭素数2から6が挙げられる。
【0044】
(化合物X)
本発明で用いる化合物(X)は、芳香族環からなる環状π共役系骨格構造(骨格構造A)を有することを特徴とする。具体的には、ペリレン、アントラセン、フタロシアニン、イソインドリン、イソインドリノン、フェナントロリン、ナフタレン、ピレン、トリフェニレン、ナフタセン、ペンタセン、ビチオフェン、ターチオフェン、クオターチオフェン、キンキチオフェン、セプチチオフェン、セキシチオフェン、オクチチオフェン、ベンゾチオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェンで表される骨格構造を有する化合物である。該化合物は、置換基としてアルキル基を有していてもよく、該アルキル基は、N、O、S、Pのヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0045】
また、これら骨格構造Aを有する化合物(X)は、複素環化合物を用いることもできる。特に好ましい化合物としては、ペリレン基を含有するペリレンテトラカルボン酸誘導体である骨格構造が挙げられる。ペリレンテトラカルボン酸誘導体は、合成の容易さと、カルボニル基を含有していることによる低いエネルギーレベルをとり、n型半導体材料として利用されている。すなわち、共役π結合の重なりを多くし、ペリレン骨格のπスタックを強くするためには、ペリレン骨格が歪を生じない無置換体であることが好ましい。一方、これら骨格構造Aは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン元素、シアノ基、ニトロ基などで置換されることにより、πスタックは弱くなるが、溶媒への溶解性を向上することができ、さらに大気中での安定したトランジスタ特性を実現することが可能となる。
【0046】
(メラミン誘導体)
本発明で用いるメラミン誘導体は、その構造中にメラミン骨格を有していれば、公知の化合物を用いることができる。例えば、2−アミノ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジンが挙げられるが、これに限定されない。該メラミン誘導体は、1級アミノ基1個と2級アミノ基2個からなり、1級アミノ基と2級アミノ基に挟まれている2つの窒素原子により、水素結合を形成することができる。
【0047】
(合成方法)
上記の化合物(X)とメラミン誘導体を反応させることで、本発明で用いる一般式(1)で表わされる化合物が合成される。該化合物の合成方法としては、公知の方法で合成でき、特に限定されない。例えば、ペリレンテトラカルボン酸モノイミドの合成方法としては、高沸点有機溶媒中で、ペリレンテトラカルボン酸無水物を、該当するアミン類と反応させることによりペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体を得る。その後、得られたペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体を、アルカリとアルコール中で加熱することにより、一方のイミド基を開環させ、再び、酸により閉環させることにより得ることができる。さらに、ペリレンテトラカルボン酸モノイミドと1級ジアミン(H2N(CH2nNH2)とを反応させた後に、ジクロロアミノトリアジンと反応させることにより得ることができる。
【0048】
具体的な合成例としては、ぺリレンビスイミドモノカルボン酸を出発物質として、末端アミノアルキル鎖を導入した後、アミノトリアジンと混合することにより下記一般式(3−a)または一般式(3−b)で表される化合物が得られる。下記一般式(3−a)または一般式(3−b)で表される化合物は、本発明の有機薄膜材料おいて好適に用いられる。
【0049】

(式3−a中、Rは、N、O、S、Pのヘテロ原子を含んでもよいアルキル基である。R1、R2は、それぞれ独立にC1〜C20で表わされる非分岐または分岐のアルキル基であり、アルキル基はN、O、S、Pのヘテロ原子を含んでいてもよい。nは、0〜18の整数を表わす。)
【0050】
前記一般式(3−a)および(3−b)において、R1およびR2で表わされるアルキル基は、一般式(1)で表される化合物の溶媒への溶解を可能とし、溶液塗布法による有機半導体薄膜の形成を可能とする。R1およびR2は前記の定義に該当すれば特に限定されるものではないが、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基などの炭素数1から18の直鎖アルキル基が挙げられる。また、分岐したアルキル基を導入することにより、一般式(1)で表される化合物の溶解性を高め、高濃度溶液での溶液塗布が可能となる。
【0051】
また、前記一般式(1)において、R1およびR2は、フッ素で置換されたアルキル基を用いることにより、水、酸素、空気などの不純物が有機半導体薄膜へ浸入することを防ぐことが可能となり、安定したn型半導体特性を発現できる。
【0052】
また、前記一般式(1)で表わされる化合物は、下記一般式(2−a)で表されるシアヌル酸誘導体(以下、CAまたはxCAと略記する場合がある:xはアルキル基の鎖長に対応)または下記一般式(2−b)で表わされるバルビツール酸誘導体(以下、Barと略記する場合がある)をホスト分子として会合体を形成していてもよい。
【0053】

(式2−a中、R’は、N、O、S、Pのヘテロ原子を含んでもよいアルキル基を表わし、式2−b中、R’’、R’’’は、それぞれ独立に、N、O、S、Pのヘテロ原子を含んでもよいアルキル基を表わす。)
【0054】
上記一般式(2−a)で表されるシアヌル酸誘導体または下記一般式(2−b)で表わされるバルビツール酸誘導体をゲスト化合物とし、骨格構造Aを有する一般式(1)であらわされる化合物をホスト化合物として、ホスト・ゲスト相互作用に基づいた薄膜形成をなす構造体となる。
【0055】
(性質)
以下、上記一般式(3−a)で表わされる化合物の1つである、下記化合物1、および、上記一般式(3−b)で表わされる化合物の1つである、下記化合物2を例に、前記一般式(1)の化合物の性質について、以下に詳細に説明する。また、該化合物1および2と、前記シアヌル酸誘導体およびバルビツール酸誘導体との会合体の性質についても説明する。その際、シアヌル酸誘導体およびバルビツール酸誘導体は、下記に示すxCAおよびBarを例として用いた。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】

【0057】
上記化合物1および化合物2は、以下の反応式によって製造することができる。

【0058】
〔紫外/可視光分光測定:化合物1および2〕
上記化合物1および2について、紫外・可視分光測定(以下、「UV/vis測定」と略記する場合がある)を行った。化合物1および2は、導入されているペリレンビスイミド(以下、PBIと記載する)の数により、極めて異なる吸収挙動を示した。化合物1は、メチルシクロヘキサン(以下、MCHと略記する)中で図1(a)に示すように、典型的なH会合体の吸収スペクトルを示すが、トルエンやトリクロロメタン(以下、CHCl3と略記する)中においてはPBIに特徴的な振動構造や高い吸光度を示すため、トルエンやCHCl3中では、ほぼモノマー状態であるといえる。
【0059】
一方で、化合物2は、図1(b)に示すように、MCH中では化合物1と同様に典型定期なH会合体の吸収を示すが、スペクトルの形はわずかに異なり、化合物1よりは極大吸収がなだらかでなくなり、長波長側の吸収の肩が化合物1の場合に比べて短波長側に観測された。スタッキングの形成に不利なトルエン中では、極大吸収が494nmと529nmにみられるが、モノマーに特有な振動構造とは明らかに異なり、H会合状態にあることを示している。化合物1が、完全なモノマー(α=0)となるCHCl3中での化合物2の会合度は0.6ほどであった。なお、αは会合度を表わす。
【0060】
図1に示したように、各溶媒中での化合物1および2のスペクトルは互いに大きく異なっていた。これは溶媒依存UVスペクトル測定からもはっきりと確認できる。化合物1は、図2(a)に示すように、CHCl3濃度の増加に伴い、ただちにモノマーのスペクトルに変化したが、一方の化合物2は、図2(b)に示すように、CHCl3濃度を上昇させてもスペクトル変化に乏しかった。なお、表2(b)中に示した(1)は、化合物1のモノマーのスペクトルである。また、図2(c)からも、100%のCHCl3中でもPBIがスタッキングを形成していることが確認できる。これは、化合物2が極めて強固な分子内スタッキングを形成していることを示しているといえる。この化合物1および2の対照的なスペクトル変化は、会合度をプロットした図2(c)からも確認できる。
【0061】
〔紫外・可視光分光測定:化合物1とその会合体〕
そこで、化合物1の化学量論を調査すべく、化合物1を下記dCAによって滴定した。結果を図3(a)、(b)に示した。なお、(a)は、紫外/可視吸収スペクトルであり、MCH溶液中、化合物1の濃度(以下、[1]と記載)=1.4×10-5mol/dm3(以下、Mと略記)、dCAの濃度(以下、[dCA]と記載)=0〜2.8×10-5Mで測定した結果示したグラフである。また、(b)は、487nmの吸収強度における化合物1とdCA濃度の関係([dCA]/[1])を示したグラフである。dCAの添加によって、ブロードな吸収極大(λmax=489nm)と、より長波長側の肩(λmax=553nm)が、短波長側にシフトし、この変化が1当量のdCAによって飽和していることより、1:1の会合比であることが確認された。
【0062】

【0063】
次に、ゲストの有無やその種類による溶液中の安定性を比較するために、化合物1単独、およびゲスト分子であるdCAやBarとの会合体の温度可変紫外・可視光分光スペクトルを測定した。
【0064】
図4は、(a)化合物1単独、(b)化合物1+dCA、(c)化合物1+BarのMCH溶液の温度依存紫外・可視光分光スペクトルを示すグラフである。なお、濃度は、1.4×10-5Mとし、スペクトル測定用の溶媒を用いた。なお、溶液の温度依存紫外・可視光分光スペクトルは、日本電子社製JASCO V660分光光度計を用いて測定した。
【0065】
図4(a)に示すように、化合物1単独では、典型的なH会合状態から昇温によるモノマー分解(モノマーとして存在)を確認することができた。また、図4(d)に示す、各温度における凝集体のモル分率より得られた分解曲線より、モノマー分解状態となる温度(Tm)は70℃と算出される。これは、メラミン同士の水素結合がスタッキングの形成を安定化することが示唆される。
【0066】
一方、dCAとの混合によって、化合物1は高温でも完全なモノマー状態にまで分解せず、dCAとの3点水素結合が、化合物1のスタッキングを化合物1単独の場合よりも安定化していることがわかった(図4(b):Tm=88℃)。
【0067】
そして、化合物1とBarは、室温で典型的なPBIのH会合体の吸収を示さず、モノマー状態に由来すると考えられる振動構造を示した(図4(c))。これは、2点水素結合によって安定化された化合物1単独でのスタッキングを、Barがメラミンと水素結合を形成することで阻害していることを示している。40℃まで昇温すると吸光度の減少が観測され、545nmに肩を持ち、500nm付近にブロードな吸収を示した。これは、Barとメラミンの間の水素結合の解離を示しているためと考えられる。さらに90℃まで昇温すると、化合物1単独と似た分解曲線を描き、完全なモノマー状態に変化した。これら一連の挙動は濃度を変えても再現性がある。化合物1のTmが、化合物1とBarとのTmよりも低いのは、高温領域で解離したBarが不純物として化合物1とBarとのTmを上昇させているためだと考えられる。
【0068】
一方、化合物2は、上述したように、MCH中では分子内スタッキングに由来して強固にスタッキングを形成しているため、ゲスト分子の有無やその種類に応じた比較が困難である。すなわち、ゲスト分子の有無によらず90℃まで昇温してもそのスペクトルは不変であった。そこで、溶媒をMCHからトルエンとしてゲスト分子の有無による分光挙動の比較を行った。
【0069】
まず、ゲスト分子との会合の化学量論を調べるべく、化合物1と同様に、化合物2をdCAの添加によって滴定した。結果を図5(a)、(b)に示す。なお、(a)は、紫外/可視吸収スペクトルであり、トルエン溶液中、化合物2の濃度(以下、[2]と略記)=1.4×10-5M、[dCA]=0〜2.8×10-5Mで測定した結果示したグラフである。また、(b)は、470nmの吸収強度における化合物2とdCA濃度の関係([dCA]/[2])を示したグラフである。1当量のdCAの添加によって470nmの吸収強度の増加が飽和したので、1:1の会合比であることが確認された。
【0070】
さらに、化合物2の濃度を14μMに固定して、(a)化合物2単独、(b)化合物2+dCA、(c)化合物2+Barにおいて温度可変UVスペクトルを測定した。いずれの場合も、温度の上昇に対してわずかなスペクトル変化しか示さなかったが、会合度を温度に対してプロットすることで安定性の違いが確認された。なお、その際にα=1は140μMのデータを、α=0は化合物1のトルエン中での吸収を用いて測定した。
【0071】
上記において、化合物2+dCAは、20℃でα=0.87であり、理想的なH会合状態に最も近いといえる(図6(a))。また、化合物2単独や化合物2+Barが会合度の減少挙動がやや直線的であるのに対して、化合物1+dCAは20〜45℃の温度レンジにおいて、変化量は少ないもののシグモイダルな減少挙動を示しており、これより高温領域では他と同様にリニアに減少している点も特徴的である(図6(b))。
【0072】
同様の特徴は濃度を変化させても定性的に観測された。「シグモイダルな会合度の減少=水素結合の関与した共同的なスタッキングの解離」であり、「直線的な会合度の減少=分子内スタッキングの解離」を示していると考えられる。この観点から化合物2+Barはメラミン−バルビツール酸の水素結合は殆ど形成していないと考えられる。このことは、解離定数Kが、Kメラミン-シアヌル酸>Kメラミン-バルビツール酸であることと、3点水素結合のKが小さいトルエン中で溶液濃度が希薄であることと一致しているといえる。
【0073】
〔ゲル化特性〕
メラミン−CA/Barが形成する集合体に機能性色素を導入した系で、低極性溶媒をゲル化する例が報告されている。本発明の化合物1および2の単独、及びdCAやBarとの会合体に関して、ゲル化実験をおこなった。結果を表1にまとめた。なお、表1中、cgcは、最低ゲル化濃度を示し、Tmは、5mMのゲルを加熱した際にゲルが崩壊する温度を示す。
【0074】

【0075】
化合物1は、単独及びdCAとの混合系において、MCHに溶解した場合に、非常に透明度の高いMCHのゲルを形成した。両者は、最低ゲル化濃度(cgc)こそ変わらないが、5mMのゲルを加熱した際にゲルが崩壊する温度(Tm)は、20℃の差があり、化合物1とdCAとの会合によってゲルの強度が向上したことがわかった(表中No.1、2)。一方、Barをゲストとした場合は、MCHへの溶解性に乏しくゲルの形成は見られなかった(表中No.3)。
【0076】
一方、化合物2は、単独ではMCHには不溶であり、トルエン中ではゲルを与えず均一溶液を与えた(表中No.4)。また、化合物2+dCAはMCHに不溶だが、一部溶解した溶液は粘性が向上しており、脆いが部分的にゲル化していた(表中No.5)。化合物2にBarを混合すると化合物1の場合同様に、MCHには溶解しなかった。しかしながら、化合物2+Barは、他の全ての組み合わせにおいて均一な溶液を与えたトルエン中で、透明なゲルを与え、最低ゲル化濃度も0.8mMと非常に低いものであった。また、5mMのゲルを加熱しでもトルエンの沸点まで、ゲルが崩壊せず、そのTmは130℃であり、MCH中で形成された化合物1単独及び化合物1+dCAで得られたゲルに比べて、非常に強固なものであった(表中No.6)。
【0077】
〔形態〕
上記において、ゲルを与える3つの組み合わせ、i)化合物1単独(表中No.1)、ii)化合物1+dCA(表中No.2)、iv)化合物2+Bar(表中No.6)と、部分的なゲルを与えるiii)化合物2+dCA(表中No.3)に関して、そのナノ構造を可視化するべく走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と記載する場合がある)と原子間力顕微鏡(以下、「AFM」と記載する場合がある)による測定および観察を行った。
【0078】
i)化合物1単独
化合物1のゲルを希釈し、AFM測定を行ったが、ゲルを形成しているにも関わらず明確なナノ構造は見られなかった。ゲルをフリーズドライしたSEM像では、シート状のナノ構造が可視化された。
【0079】
ii)化合物1+dCA
化合物1+dCAのゲルを希釈して測定したAFM像では、きわめて明確なファイバー状のナノ構造が観測できた。このことから、化合物1はdCAの有無によらずにゲルを形成するが、そのナノ構造は大きく異なることがわかった。またSEM観察では化合物1単独の場合と同様に、シート状のナノ構造が観測できた。
【0080】
iii)化合物2+dCA
化合物2+dCAは、粘性のある部分ゲルを与えるが、これを140μMに希釈したAFM観察、及びフリーズドライしたサンプルのSEM観察では、共に明確なナノ構造を可視化することができなかった。この原因として、ナノ構造体の凝集が考えられたため、これを防ぐベくMCH溶液にトルエンを10%混合した溶液を調整し、再びAFM観察を行い、ファイバー状のナノ構造を観測することができた。
【0081】
iv)化合物2+Bar
化合物2+Barは、SEM観察では明確なナノ構造を観測することができなかった。希釈したトルエン溶液からのAFM像では複雑に入り組んだナノ構造が観測された。得られた画像を図7(a)に示す。これとは対照的に、上述した、化合物2+dCAでファイバーを可視化することに成功した際に使用したMCH:トルエン=9:1溶液における、化合物2+BarのAFM像は、ファイバー状ではなく、全く異なる像が観測された(図7(b))。このため、化合物2はゲスト分子がdCAであるかBarであるかによって、互いに異なるナノ構造を形成している事が示唆される。これは、ゲル化挙動が異なることと一致している。
【0082】
〔分子構造とサーモトロピック性〕
表1に示した6種の組み合わせに関して、その分子構造を調査するために、偏光顕微鏡(以下、POMと略記)、示差熱走査熱量測定(以下、DSCと略記)及びX線回折(以下、XRDと略記)による測定を行った。また、DSCとXRD測定に関しては、分子構造を明確に帰属するべく、アルキル鎖の長さが異なるシアヌル酸である下記に示すoCAやhCAも化合物1および2のゲスト分子として混合し、測定を行った。
【0083】

【0084】
(1)POM観察
まず、乾燥ゲルや粉末を用いてPOM観察を行った。化合物1の粉末は約150℃で液晶相に転移し複屈折を示すPOM像が観測された。また、約180℃で等方相へ転移し冷却過程でも液晶相が再び観測された。一方、化合物2は、加熱過程では複屈折は見られず、等方相からの冷却過程において結晶性のPOM像が観測された。化合物2の融点は化合物1よりも100℃以上も高かった。
【0085】
次に、化合物1+dCAの乾燥ゲルについて、POM観察を行った。加熱過程では中間相への転移は見られなかったが、等方相からの冷却過程において極めて結晶性の高いPOM像が得られた。さらに、室温まで冷却しても、複屈折を示す結晶状態は保たれていた。一方、化合物2+dCAは、加熱過程では相転移を示すような変化は見られなかったが、等方相から2℃/min程度で冷却することにより、液晶相を発現した。さらにゆっくりと、0.5℃/min程度で冷却することにより、球状のテクスチャーを可視化することに成功した。しかし、化合物2+dCAの液晶相は、不安定であるため、発現させるには的確な温度制御を必要とする。
【0086】
さらに、化合物1+Barについて、POM観察を行った。加熱によって明確な複屈折は観測されなかったが、等方相に転移する温度よりわずかに低温で弱い復屈折が観測された。他のサンプルに比べると複屈折の程度はあまり大きくなかった。冷却過程では複屈折は全く観測されなかった。一方、化合物2+Barの乾燥ゲルは、加熱過程では相転移は観測されなかったが、等方相からの冷却によって結晶性が高くドメインの小さな複屈折が観測された。
【0087】
(2)DSC測定
6種の組み合わせについて、DSC測定を行った。結果を図8に示す。なお、DSC測定では、ゲルを形成する組み合わせである化合物1単独、化合物1+xCA、化合物2+Barに関しては、乾燥ゲルをサンプルに用いてた。一方、ゲルを形成しない化合物2はシンプルに粉末を、化合物1+Bar、化合物2+xCAはCHCl3中で混合した均一溶液を乾燥して用いた。
【0088】
1回目の加熱過程を示す、図8のそれぞれのDSCチャートの下段では、全てのサンプルに関して、中間相(結晶または液晶)及び等方相への相転移を示す2つのピークが観測された。一方の冷却過程を示す、図8のそれぞれのDSCチャートの上段では、1つだけピークが観測されるかまったく観測されないかのいずれかであった。中間相状態を示す温度範囲はPOMによる観察と概ね一致しているものの、ゲストとの混合物である、化合物1+xCA、化合物1+Bar、化合物2+xCA、化合物2+Barに関しては、POM観察では冷却過程でのみ複屈折が見られるにも関わらず、DSCにおいて加熱過程で中間相への転移を示すピークが発熱側に観測された。
【0089】
2回目の加熱過程では、中間相への転移を示すピークはいずれのサンプルからも得られず、この転移の不可逆性が確認された。また中間相が液晶であるのか結晶であるのかに関しては、POM観察によって帰属した。以下順に議論する。
【0090】
化合物1は、125℃という比較的低温で液晶相に転移し、148℃で等方相へと相転移した。これはPOM観察の結果とほぼ一致している。また、化合物1+xCA(x=o、d、h)は、化合物1単独に比べ中間相へ遷移する温度が約100℃向上し、中間相を示す温度範囲も約20℃から約70℃と長くなった。また、化合物1単独では液晶であった中間相が、化合物1+xCAでは結晶相であった。CAのアルキル鎖の長さで比較すると、アルキル基が長くなる、すなわちoCA→dCA→hCAとなるにつれて、中間相への遷移温度、融点がいずれも低下する事がわかった。また中間相への転移を示すDSCピークが、発熱側、すなわち、加熱過程で上にピークに観測されるのも特徴的である。これは、加熱によって中間相へ転移することで、乾燥ゲル状態よりも熱的に安定化する分子の再配列が起こっていることを示唆するものであるといえる。
【0091】
化合物1+Barでは、中間相への発熱ピークと等方相への吸熱ピークがそれぞれ149℃と205℃で観測された。一方、冷却過程で全くピークが見られないことから、等方相から冷却過程では化合物1とBar間で水素結合を再形成しないことが示唆された。化合物1がBarと会合しない場合、冷却過程で化合物1単独と同様のDSC挙動が見られることも予想されるが、Barがその組織化の妨げとなり、冷却過程では相転移は見られなかったものと考えられる。
【0092】
化合物2のDSCの曲線は、単独及びゲスト共存下で対応する化合物1のDSC曲線に比べ明瞭なピークが少なかった。化合物2単独では、加熱過程において、232℃でなんらかの相転移を示す吸熱ピークが観測された。等方相への転移を示すピークは明瞭ではなかったが、POM観察によって285℃と算出された。冷却過程では結晶相への転移を示す明確なピークは得られなかったが、275℃で複屈折を示すPOM像が得られたので、この温度を結晶相への転移温度として帰属した。
【0093】
さらに、化合物2+dCAは、201℃で微弱な発熱ピークが得られ、何らかの相転移が確認されたが、POM観察では、対応するテクスチャーの変化は観測できなかった。295℃で観測される等方相へ転移を示す吸熱ピークは、POM観察の結果と一致している。また、POM観察では等方相からの冷却過程でのみ280℃で液晶相への転移を示したが、DSCでは、冷却過程で対応するピークは見られなかった。このことはPOM観察で液晶相の発現には極めて慎重な温度コントロールを要することと関連づけられる。
【0094】
化合物2+Barは、化合物1+xCAと同様に発熱過程(221℃)を経て結晶相に転移し、251℃で等方性液体となった。等方層への転移温度はPOM観察と一致していた。一方、中間相への転移はDSCでは加熱過程でのみ、POM観察では冷却過程でのみ観測された。得られた結果を以下の表2にまとめた。
【0095】
なお、表2は主にDSCのピークを元に作成した。表中、DG=乾燥ゲル、DS=乾燥ゾル(CHCl3を乾燥);Cr:高秩序結晶相;LC:液晶相;Iso:アイソトロピック相;X:それ以外、のそれぞれのフェーズを表わす。また、POMと記した箇所は、POM観察の結果を元に相転移温度を帰属した。下線POMと記した相転移は、DSC測定では対応するピークが得られなかったので、POM観察の結果を元に帰属した。

【0096】
(3)XRD測定
最後にXRD測定を行った。いずれのサンプルも、室温では明確な回折が得られなかったので、DSCとPOM測定によって決定した中間相状態を示す温度範囲、もしくは一度等方相まで加熱し室温へと自然放冷することで中間相へ転移した薄膜を用いてXRD測定を行った。得られた結果を表3に記す。高温測定及びアニーリングすることで、いずれの場合もラメラ状のパッキングに由来する回折が得られた。
【0097】

【0098】
化合物1単独では、分子長(29Å)よりもやや長い、層間隔(33.0Å)が得られた。希薄溶液中でもメラミンの2点水素結合の形成が確認できていることから、図9中央に示すように、2点水素結合によって上下2層(約55Å)のテープ状会合体を形成し、このテープ状会合体が傾いて階層的に集積しラメラ構造を形成していると考えられる。
【0099】
化合物1+xCA及び化合物1+Barはメラミン−xCA/Barの3点水素結合によって形成したテープ状会合体が傾いて集合しラメラ構造を形成していると考えられる。このことは、ゲストのアルキル鎖の長さが短くなるのに応じて、すなわち、hCA→dCA→oCA→ジエチルバルビツール酸の順に、層間隔が狭くなっていることとも一致している。
【0100】
また、化合物2単独では、図10に示すように、2点水素結合によって2層構造のテープ状会合体を55Åで形成し、これらが傾いて階層的に集積することで41Åの層間隔を持つラメラ構造を形成していると考えられる。さらに、化合物2+Barの場合には、メラミンとバルビツール酸が、3点水素結合によってテープ状会合体を形成すると、そのテープ状会合体の高さは33Åである。これは、1次回折の44Åよりも短い。よって、化合物2+Barは、単層ではなくステアリル基側鎖とBarのジエチル基が絡み合った2層構造のテープ状会合体を形成し、これらが傾いて集積しラメラ構造を形成していると考えられる。2層構造を提案できることは化合物2+Barのみがトルエンをゲル化することと関係付けられる可能性がある。
【0101】
化合物2+xCAは、室温で製膜するとブロードな回折を示す。しかし、250〜320℃程度でアニーリングし室温で測定するとピークがシャープになり30〜33Åに相当する回折を与えた。これより、化合物1+xCA同様に単層(44Å)からなるテープ状会合体が傾いて集積しラメラ構造を形成していると考えられる。
【0102】
以上のことから予想される6種の組み合わせにおける膜構造模式図を、図11、12に示す。
【0103】
<有機薄膜、有機薄膜素子、有機薄膜トランジスタ>
以下に、上述した一般式(1)で表わされる化合物を含む本発明の有機薄膜材料を使用した有機薄膜、有機薄膜素子、有機薄膜トランジスタについての好ましい実施形態を説明する。
【0104】
本発明の有機薄膜材料からなる有機薄膜を形成するには、有機薄膜材料を溶媒に溶解した溶解液、または、溶媒によりゲル化した部分ゲル化液を塗布することにより得られる。該有機薄膜は、溶液塗布後にホスト分子、ゲスト分子による水素結合により、連続した膜を形成することが可能となり、ムラのない、均一で、大きな面積の膜を形成できる。また、該有機薄膜は、ラメラ構造を有する液晶膜であるを特徴とし、これは本発明の有機薄膜材料を用いることによって可能となる。
【0105】
本発明の有機薄膜を形成する溶液塗布法は、さらなる装置の簡素化とさらなるコストの低減化がなされ、大面積において有機薄膜(有機半導体薄膜)が形成され、より好ましい。また、有機半導体材料が溶媒によりゲル化した部分ゲル化液を塗布することにより、有機半導体層を形成する溶液塗布法を用いることも好ましい。例えば、スピンコート法、インクジェット法、スクリーン印刷、平版印刷、凸版印刷法、凹版印刷法などの方法で有機半導体薄膜を形成することができる。
【0106】
本発明の有機薄膜を形成する溶液塗布法に使用される溶媒としては、適当な濃度の溶解液が得られるものであれば、特に制限はなく使用できる。例えば、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロナフタレンなどのハロゲン系炭化水素溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族系炭化水素溶媒、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンなどの脂環族系炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、スルフォラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン系極性溶媒などを挙げることができる。これらの溶媒は単独で使用してもよく、あるいは複数を併用してもよい。
【0107】
本発明の有機薄膜は、100〜300℃の熱処理後、冷却することにより、ラメラ構造の形成・再構築が起こり、トランジスタ特性を向上させることができる。
【0108】
本発明の有機薄膜(有機半導体薄膜)の温度変化による相変化は、ペリレンテトラカルボキシジイミド基に結合しているアルキル基(一般式中のR1、R2)、および、メラミンに結合しているアルキル基(例えば、一般式3−aにおけるR)により、100℃から300℃の温度領域において、液晶相(スメチック液晶)などへ相転移を示す(図10参照)。また、長鎖アルキルペリレンテトラカルボキシジイミドの相変化については、C. W. Struijk et al., J. Am. Chem. Soc. 122 (2000)にも記載されている。
【0109】
本発明の有機半導体材料により形成された有機半導体薄膜を、熱処理することによってトランジスタとしての性能が向上する理由は、ゲスト分子、および、ホスト分子の間の水素結合により、基板表面上にラメラ構造である均一で秩序化された分子層が形成されることによる。また、形成された有機薄膜は、微結晶が集合した多結晶構造であり、多くの結晶粒界や欠陥が存在し、これらの存在が電荷の輸送を阻害していたが、熱処理により有機半導体が液晶状態になり、冷却され再び結晶状態になる際に、分子の再配列によりラメラ構造が形成され、強いスタック状態が形成されるとともに、グレインサイズが増大し、結晶粒界、欠陥および欠損が減少するなど、複合的な作用によりトランジスタ特性の向上、すなわち、電子移動度が増加すると考えられる。
【0110】
有機半導体薄膜の熱処理温度は、100℃から300℃の温度領域が好ましい。100℃以下では、トランジスタ性能の向上が十分ではなく、250℃以上では、各原材料の劣化が起こる可能性があり、コスト面でも不利となる。特に好ましい温度としては、フレキシブルなプラスチック基板上に有機トランジスタが形成される可能性もあり、100℃〜200℃での熱処理が好ましい。
【0111】
熱処理を行う環境雰囲気は、大気中、不活性ガス中または真空中で行うことができる。真空雰囲気下または不活性ガス雰囲気下で熱処理を行うことは、各材料の劣化や酸化などを防げるので好ましい。
【0112】
上記のようにして得られた有機薄膜を用いて、有機薄膜素子を得ることができる。有機薄膜素子の製造方法については、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0113】
さらに、上記のようにして得られた有機薄膜素子を用いることにより、本発明のn型の有機薄膜トランジスタが得られる。以下、詳細に説明する。
【0114】
一般に、有機薄膜トランジスタの構造は、ゲート電極が絶縁膜で絶縁されているMIS構造(Metal-Insulator-Semiconductor構造)がよく用いられる。本発明で用いることができる有機薄膜トランジスタは、有機薄膜よりなる有機半導体層を有しており、さらに、ソース電極、ドレイン電極、および、ゲート電極とゲート絶縁層からなるものである。本発明のn型の有機薄膜トランジスタにおいては、有機半導体層が、一般式(1)で表される化合物を含む有機薄膜材料からなるものである。
【0115】
次に、本発明の有機薄膜トランジスタの形態について説明する。図13、14は本発明の有機薄膜トランジスタの構造の1例をそれぞれ表す断面図である。図13の有機薄膜トランジスタの形態においては、基板16の上にゲート電極14が設けられ、ゲート電極上に絶縁層11が積層されており、その上に所定の間隔で形成されたソース電極12およびドレイン電極13が形成されており、さらにその上に有機半導体層15が積層されているボトムゲートボトムコンタクト型を示す。図14の有機薄膜トランジスタの形態においては、基板16の上にゲート電極14が設けられ、ゲート電極上に絶縁層11が積層されており、その上に有機半導体層15が積層され、さらにその上に所定の間隔で形成されたソース電極12およびドレイン電極13が形成されているボトムゲートトップコンタクト型を示す。
【0116】
このような構成を有するトランジスタ素子では、ゲート電極とソース電極の間に電圧を印加し、印加される電圧により有機半導体層がチャネル領域を形成し、ソース電極とドレイン電極の間に流れる電流が制御されることによってスイッチング動作する。
【0117】
次に、本発明のn型の有機薄膜トランジスタを形成する基材について説明する。基板としては、絶縁性のある材料であればよく、ガラス、アルミナなどの無機材料、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネートなどのプラスチック基板を用いて作成することができる。プラスチック基板を用いた場合は、軽量で耐衝撃性に優れたフレキシブルな有機薄膜トランジスタを作製することができる。これら基板は、単独で使用してもよく、あるいは併用してもよい。なお、導電性のある基板、例えば、シリコンを基板に用いた場合、その基板はゲート電極を兼ねることもできる。
【0118】
次に、本発明の有機薄膜トランジスタを形成する絶縁体層について説明する。本発明において、ゲート絶縁層を構成する材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、SiO2、ZrO2、Ta25、La23、Al23、HfO2などの無機材料が挙げられる。また、高分子系絶縁膜材料としては、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタラート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネートなどの有機材料が利用できる。中でも、ポリビニルフェノールが好ましい。ゲート絶縁層に使用する絶縁材料は、単独で使用してもよく、あるいは併用してもよい。
【0119】
これら、絶縁体層の形成方法は電極の形成方法としては、特に限定するものではないが、例えば、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法などのドライプロセス、さらには、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、エアーナイフ法、スライドホッパー法、エクストリュージョン法などの塗布法、各種印刷法やインクジェット法などのウェットプロセスを挙げることができ、使用する材料の特性に応じて適宜選択して適用することができる。例えば、シリコン基板上に熱酸化、水蒸気酸化またはプラズマ酸化でSiO2を層形成させたものでもよい。
【0120】
なお、ゲート絶縁膜は、化学的表面処理により疎水化することにより、絶縁体層と有機半導体層の親和性が向上し、均一な有機半導体薄膜の形成を可能とし、リーク電流も抑制することが可能となる。特に制限されるものではないが、例えば、OTS(オクタデシルトリクロロシラン)、ODS(オクタデシルトリメトキシシラン)、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)などのシランカップリング剤をゲート絶縁膜上に溶液塗布または真空成膜し、形成される。
【0121】
次に、本発明の有機薄膜トランジスタを形成する電極材料について説明する。ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極に用いる電極材料は、導電性を有する材料が用いられる。例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、チタン、インジウム、パラジウム、マンガンモリブデン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、クロム、タングステン、タンタル、ニッケル、コバルト、銅、鉄、鉛、錫などの金属材料、およびこれらの合金、InO2、ZnO2、SnO2、ITO、IZOなどの導電性酸化物、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイトなどの炭素材料、導電性高分子化合物などが使用できる。なお、有機半導体層との接触面において電気抵抗が小さい金、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ITO、IZO、金/クロム合金がより好ましい。
【0122】
これら、電極の形成方法としては、特に限定するものではないが、例えば、導電性材料を溶液に分散させた分散液を用いた印刷法、導電性材料を溶液に溶解させた溶解液を用いた印刷法、蒸着法やスパッタリング法などの方法を用いて形成することができる。
【0123】
また、ソース電極とドレイン電極は、お互い対向して配置されるが、電極間の距離(チャネル長)がトランジスタ特性を決める要因のひとつとなる。電極間の距離(チャネル長)は、通常500μm以下であれば問題なく使用できるが、好ましくは100μm以下であり、ソースとドレイン電極間の幅(チャネル幅)は特に制限なく使用できるが、好ましくは1mm以下である。また、このチャネル幅は電極の構造がくし型の構造になる時などは、さらに長いチャネル幅を形成してもよい。形成されたソース電極、ドレイン電極の厚さは、数nmから数百μmの範囲であれば問題なく使用できるが、30nmから30μmがより好ましい。
【0124】
本発明の有機薄膜トランジスタは、有機半導体層に本発明の一般式(1)で表される化合物、または、一般式(1)の化合物と、一般式(2−a)のシアヌル酸誘導体または一般式(2−b)バルビツール酸誘導体との会合体を少なくとも1層含有してなるものである。本発明の一般式(1)で表される化合物は、単独で使用してもよく、複数併用してもよい。また、上記で説明した本発明で規定した以外のペリレンテトラカルボン酸ジイミドおよびその誘導体、ナフタレンジイミドおよびその誘導体と併用して使用することもできる。この場合、有機半導体層を形成材料中における本発明の有機半導体材料の含有量は、60質量%以上とすることが好ましい。
【0125】
また、本発明の有機薄膜トランジスタは、大気中の酸素、水分などの影響を軽減する目的で、有機薄膜トランジスタの外周面の全面、または一部にガスバリア層を設けることもできる。ガスバリア層を形成する材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどを挙げることができる。
【0126】
なお、本発明の有機薄膜トランジスタは、電子移動度(cm2/Vs)、オン/オフ比、しきい値電圧(V)により、トランジスタ特性を評価できる。とくに、電子移動度は有機薄膜トランジスタにおいて、大きな電流を得られるなど大きな値であることが重要である。電子移動度は、0.00001cm2/Vs以上であることが望ましい。また、0.01cm2/Vsであれば、メモリ、電子ペーパ用駆動素子として使用できるが、0.1cm2/Vs以上であれば、アモルファスシリコンの代替品として、アクティブマトリックスの駆動素子などへの使用が可能となる。
【実施例】
【0127】
以下、本発明の実施例について説明する。
[化合物1の合成](以下、PML4と呼ぶことがある)
(化合物4の合成)
下記反応式1に示す化合物3を830mg(1.44mmol)、N−Boc−ジアミノブタン412mg(2.19mmol)、無水酢酸亜鉛250mgとイミダゾール6.2gを混合し、窒素雰囲気下で、9時間還流させた。その後、室温まで冷却し、クロロホルムを加えた。得られた化合物を2M塩酸で洗浄した後、硫酸ナトリウム上で乾燥し、真空下で溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、下記反応式1に示す化合物4の赤色粉末を得た(収量990mg、収率69.5%)。
【0128】

【0129】
得られた化合物4は、NMRにより同定した。
1H NMR(500MHz,CDCl3,60℃):δ=8.73−8.52(m,8H),5.18(m,1H),4.88(br,1H),4.21(m,2H),3.29(m,2H),2.27(m,2H),1.86(m,4H),1.67(m,2H),1.56−1.12(m,16H),0.83(t,6H)
【0130】
(化合物5の合成)
上記で得られた化合物4(990mg:1.33mmol)を含むジクロロメタン溶液をトリフルオロ酢酸13gに加え、保護基をはずした。室温にて3時間撹拌後、炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。ジクロロメタンを蒸発させ、ろ過した濾物を水洗、真空中で乾燥させることにより、下記反応式2に示す化合物5の赤色粉末を得た(収量805mg、収率94.1%)。
【0131】

【0132】
得られた化合物5は、NMRおよびマススペクトル測定により同定した。
1H NMR(400MHz,CDCl3,67℃):δ=8.64(m,4H),8.56(m,4H),5.18(m,1H),4.23(t,2H),3.39(t,1H),2.82(t,2H),2.22(m,2H),1.85(m,4H),1.62(m,2H),1.40−1.12(m,16H),0.82(t,6H)
マススペクトル測定(FAB):643(MH+
【0133】
(化合物6の合成)
上記で得られた化合物5(151mg:0.234mmol)、2−アミノ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン32mg(0.195mmol)、N,N−ジイソプロピルエチルアミンを1ml乾燥したテトラヒドロフランに混合し、窒素雰囲気下、室温で27時間撹拌した。溶媒を除去し、残渣をクロロホルムに溶解した。ろ過した混合物を2M塩酸、炭酸水素ナトリウム水溶液、水で洗い、硫酸ナトリウム上で乾燥した。真空中で溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、下記反応式3に示す化合物6の赤色粉末を得た(収量130mg、収率86.0%)。
【0134】

【0135】
得られた化合物6は、NMRにより同定した。
1H NMR(500MHz,CDCl3,60℃):δ=8.65(d,4H),8.58(m,4H),5.99(s,1H),5.19(m,2H),4.32(t,2H),3.49(m,2H),2.24(m,2H),2.08(m,2H),1.89(m,2H),1.59(m,8H),1.42−1.19(m,16H),0.84(m,6H).
【0136】
(化合物1の合成)
上記で得られた化合物6(194mg:0.25mmol)、n−ドデシルアミン(2.51mmol)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン 1mlを乾燥した1,4−ジオキサンに混合し、窒素雰囲気下、19時間還流した。室温まで冷却後、溶媒を除去し、残渣をクロロホルムに溶解した。ろ過した混合物を2M塩酸、炭酸水素ナトリウム水溶液、水で洗い、硫酸ナトリウム上で乾燥した。真空中で溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、クロロホルム−ヘキサンから再結晶することにより、化合物1の赤色粉末を得た(収量77mg、収率33.5%)。
【0137】

【0138】
得られた化合物1は、NMRにより同定し、相転移温度を測定した。
1H NMR(500MHz,CDCl3,60℃):δ=8.66(d,4H),8.59(m,4H),5.18(m,1H),4.90(s,1H),4.90(s,1H),4.74(s,1H),4.63(s,2H),4.25(t,2H),3.46(q,4H),3.31(q,4H),2.25(m,2H),1.86(m,4H),1.71(m,2H),1.49−1.18(m,34H),0.82(m,9H).
相転移温度(DSC):125.0℃、147.5℃
【0139】
[化合物2の合成](以下PPM4と呼ぶことがある)
化合物1の合成過程で得られた化合物5(202mg:0.314mmol)、2−アミノ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン(0.122mmol)、N,N−ジイソプロピルエチルアミンを1ml、乾燥した1,4−ジオキサンに混合し、窒素雰囲気下、22時間還流した。室温まで冷却後、溶媒を除去し、残渣をクロロホルムに溶解した。ろ過した混合物を2M塩酸、炭酸水素ナトリウム水溶液、水で洗い、硫酸ナトリウム上で乾燥した。真空中で溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、クロロホルム−ヘキサンから再結晶して化合物2の赤色粉末を得た(収量51mg、収率30.5%)。
【0140】

【0141】
得られた化合物2は、NMRにより同定し、相転移温度を測定した。
1H NMR(500MHz, 1,1,2,2−tetrachloroethane−d2,97℃):δ=8.45(t,4H),8.31(m,4H),5.09(t,2H),5.09(t,2H),4.98(m,1H),4.62(m,1H),4.17(t,4H),3.45(m,4H),2.18(m,4H),1.87(m,8H),1.71(m,4H),1.60−1.14(t,32H),0.82(m,12H)
相転移温度(DSC):232.3℃、280℃
【0142】
<有機薄膜トランジスタの作製>
[実施例1]
化合物1(PML4)を用いた有機薄膜トランジスタの作製
ゲート絶縁体層となる酸化シリコン膜(厚さ300nm)を表面に有するシリコン基板を用意し、その表面にポリビニルフェノール(以下、PVPと記載)処理を行った。化合物1からなる有機薄膜は、化合物1のクロロホルム溶液(5mmol/L)からスピンコート法により基板上に形成した。次に、シャドーマスクを介して、ソース/ドレイン電極として金電極のパターンを形成し(30nm)、トップコンタクト型有機薄膜トランジスタを作成した。このときのチャネル長、チャネル幅は、それぞれ50μm、5500μmとした。前記のとおり作製した電界効果トランジスタの特性を評価した。
【0143】
〔薄膜トランジスタの評価方法〕
薄膜トランジスタの電気特性は、室温・真空下において半導体デバイスアナライザーを用いて測定した。ID(ドレイン電流)−VD(ソース−ドレイン電圧)特性は、VG(ゲート電圧)を100V、80V、60V、40V、20V、0Vにした各条件において、ドレイン電圧VDを0から100Vへと掃引して測定した。また、ID−VG特性は、VD=100VにおいてVGを0から100Vまで掃引して測定した。
(ID1/2−VG特性の直線領域と式(1)から移動度を算出した。

上記式(1)中、Ciはゲート誘電体の静電容量(nF/cm2)、VTはしきい電圧である。電界効果移動度:μは、(ID1/2−VG特性の傾きから式(1)を用いて求め、フィッティング直線のX切片からしきい電圧(VT)を算出した。
【0144】
実施例1のトランジスタについて、異なるゲート電圧毎でのドレイン電圧とドレイン電流とを測定した。ドレイン電流−ドレイン電圧曲線に明澄な飽和領域が認められたことから、典型的なn型特性を有する電界効果トランジスタとして駆動することが示された。この曲線から算出した電子移動度は、1.5×10-6cm2/Vs、しきい電圧値は−4V、オン/オフ比は2.7×102であった。結果を表2に示す。
【0145】
[実施例2]
化合物1(PML4)+Barを用いた有機薄膜トランジスタの作製
ゲート絶縁体層となる酸化シリコン膜(厚さ300nm)を表面に有するシリコン基板を用意した。化合物1からなる有機薄膜は、化合物1(PML4)+Barのクロロホルム溶液(5mmol/L;モル比1:1)からスピンコート法により基板上に形成した。次に、シャドーマスクを介して、ソース/ドレイン電極として金電極のパターンを形成し(30nm)、トップコンタクト型有機薄膜トランジスタを作成した。このときの、チャネル長、チャネル幅は、それぞれ50μm、5500μmとした。前記のとおり作製した電界効果トランジスタの特性を評価した。
【0146】
このトランジスタについて、異なるゲート電圧毎でのドレイン電圧とドレイン電流とを測定した。ドレイン電流−ドレイン電圧曲線に明澄ではないが飽和領域が認められたことから、典型的なn型特性を有する電界効果トランジスタとして駆動することが示された。この曲線から算出した電子移動度は、2.3×10-5cm2/Vs、しきい電圧値は20V、オン/オフ比は1.1×101であった。結果を表2に示す。
【0147】
[実施例3]
化合物1(PML4)+dCAを用いた有機薄膜トランジスタの作製
実施例2のBarに代えてdCAを用いて、実施例2と同様にして、実施例3の有機薄膜トランジスタを作成した。
【0148】
このトランジスタについて、異なるゲート電圧毎でのドレイン電圧とドレイン電流とを測定した。ドレイン電流−ドレイン電圧曲線に明澄ではないが飽和領域が認められたことから、典型的なn型特性を有する電界効果トランジスタとして駆動することが示された。この曲線から算出した電子移動度は、5.4×10-7cm2/Vs、しきい電圧値は−22V、オン/オフ比は6.9×100であった。結果を表2に示す。
【0149】
[実施例4、5、6]
化合物2(PPM4)用いた有機薄膜トランジスタの作製
実施例1のPML4に代えて、PPM4単独(実施例4)、PPM4+Bar(実施例5)、PPM4+dCA(実施例6)を用いて、実施例1と同様に有機薄膜トランジスタを作製した。その結果を図15〜17に示した。また、得られたトランジスタの性能を表2に示す。
【0150】
[実施例7、8、9]
化合物2(PPM4)用いた有機薄膜トランジスタの作製
実施例4〜6に従って、シリコン基板上に有機薄膜を形成した。得られた有機薄膜を真空中200℃において、2時間加熱処理し、冷却後、シャドーマスクを介して、ソース/ドレイン電極として金電極のパターンを形成し(30nm)、トップコンタクト型有機薄膜トランジスタを作成した。このときの、チャネル長、チャネル幅は、それぞれ50μm、5500μmとした。前記の通り作製した電界効果トランジスタの特性を評価した。この時の熱処理温度、トランジスタ性能を表4に記載する。この時得られた電流変調特性(ドレイン電流とドレイン電圧)の関係を図18〜20に示した。
【0151】

【0152】
[実施例10]
化合物2(PPM4)+Barを用いたAuソース・ドレイン電極の作製
+−Si/SiO2基板にPVP表面処理を加えた後、PPM4+BarのCHCl3溶液からスピンコートによる成膜を行った。真空下200℃で2時間アニーリングを行った後、真空蒸着によりAuソース・ドレイン電極を作製した。FET特性の測定は、半導体パラメーターアナライザーを用いて行い、薄膜構造についてはAFM、XRD、レーザー顕微鏡を用いて評価した。
【0153】
スピンコートによって作製した膜の、XRDパターンおよびAFM画像を、それぞれ図21、図22に示す。単純なスピンコート膜でありながら、広い範囲において分子ステップが観測される良好な結晶性薄膜が形成されていることが分かった。図21のXRDパターンの結果からも、分子が垂直に配向していることが示された。FET変調特性から求めた移動度は、2.3×10.5cm2/Vsと低い値にとどまったが、良好な出力電流変調波形が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明によれば、製造コストを抑制できる簡便な、溶液を用いた溶液塗布法によって有機半導体薄膜の形成ができる、ウェットプロセスに適用可能な有機薄膜材料が提供され、これによって均一な有機薄膜の形成が可能となり、該薄膜によって実用化が可能な有機薄膜素子およびn型の有機薄膜トランジスタが提供される。特に、本発明によれば、電荷輸送キャリアが電子となるn型半導体として有効な有機半導体素子が提供されるので、将来を期待されている有機エレクトロニクスのさらなる発展の実現に資することができる。
【符号の説明】
【0155】
11:絶縁層
12:ソース電極
13:ドレイン電極
14:ゲート電極
15:有機半導体薄膜
16:基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族環からなる環状π共役系骨格構造を有する化合物(X)と、メラミン誘導体とを反応してなる下記一般式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする有機薄膜の形成材料。

(式1中、Rは、N、O、S、Pのヘテロ原子を含んでもよいアルキル基、または、X(CH2nである。Xは、ペリレン、アントラセン、フタロシアニン、イソインドリン、イソインドリノン、フェナントロリン、ナフタレン、ピレン、トリフェニレン、ナフタセン、ペンタセン、ビチオフェン、ターチオフェン、クオターチオフェン、キンキチオフェン、セプチチオフェン、セキシチオフェン、オクチチオフェン、ベンゾチオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェンで表される骨格構造を持ち、これらは置換基としてアルキル基、および/または、トリアジン基を有していてもよく、アルキル基はN、O、S、Pのヘテロ原子を含んでいてもよい。nは、0〜18の整数を表わす。)
【請求項2】
前記一般式(1)の化合物が、下記一般式(2−a)で表されるシアヌル酸誘導体または下記一般式(2−b)で表わされるバルビツール酸誘導体をゲスト分子として会合体を形成する請求項1に記載の有機薄膜の形成材料。

(式2−a中、R’は、N、O、S、Pのヘテロ原子を含んでもよいアルキル基を表わし、式2−b中、R’’、R’’’は、それぞれ独立に、N、O、S、Pのヘテロ原子を含んでもよいアルキル基を表わす。)
【請求項3】
前記一般式(1)で表わされる化合物が、下記一般式(3−a)または一般式(3−b)で表わされるペリレンテトラカルボン酸誘導体である請求項1または2に記載の有機薄膜の形成材料。

(式3−a中、Rは、N、O、S、Pのヘテロ原子を含んでもよいアルキル基である。R1、R2は、それぞれ独立に、C1〜C20で表わされる非分岐または分岐のアルキル基であり、アルキル基はN、O、S、Pのヘテロ原子を含んでいてもよい。nは、0〜18の整数を表わす。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機薄膜の形成材料によって形成された有機薄膜であり、かつ、該薄膜がラメラ構造を有する液晶膜であることを特徴とする有機薄膜。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機薄膜の形成材料を有機溶媒に溶解してなる溶液を基板に塗工し、その後、有機溶媒を除去する過程において、上記材料が水素結合によって薄膜を形成することを特徴とする有機薄膜の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の有機薄膜を用いてなることを特徴とする有機薄膜素子。
【請求項7】
請求項6に記載の有機薄膜素子と、絶縁体層としてポリビニルフェノールを用いてなることを特徴とするn型の有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−46460(P2012−46460A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191603(P2010−191603)
【出願日】平成22年8月29日(2010.8.29)
【出願人】(509131786)
【出願人】(510233677)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】