説明

有機金属化合物の精製方法及び該方法により得られた有機金属化合物を用いた金属含有膜の製造方法

【課題】有機金属化合物に不純物として含まれる副生成物を低減できる。
【解決手段】副生成物を不純物として含む有機金属化合物を有機溶媒に溶解して第1溶解液を調製し、第1溶解液の溶媒と同一種類の溶媒を第1移動相として第1分離カラムに通過させ、第1移動相の通過に随伴して第1溶解液を第1分離カラムに供給して第1溶解液中の化合物成分を分子量の大きさごとに分離し、分離した各成分を分取する。分取した成分のうち、その分子量が有機金属化合物に相当する成分を濃縮乾燥する。得られた固形分を第1溶解液の溶媒と同一又は異なる種類の溶媒に溶解して第2溶解液を調製し、第2溶解液の溶媒と同一種類の溶媒を第2移動相として第2分離カラムに通過させ、第2移動相の通過に随伴して第2溶解液を酸素ガスとともに第2分離カラムに供給して第2溶解液中に含まれる化合物成分を分子量の大きさごとに分離し、分離した各成分を分取する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition、以下、MOCVD法という。)の原料として使用するのに好適な純度の高い有機金属化合物に精製する方法及び該方法により得られた有機金属化合物を用いた金属含有膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属含有薄膜を形成する際の一手法として、MOCVD法が一般的に使用されている。純度の低い有機金属化合物をMOCVD用原料として用いた場合、気化特性の経時劣化が大きいために、成膜の再現性が悪いという問題があった。従って、有機金属化合物純度の向上を図る必要がある。
この問題を解決する方策として、アルコールと、1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物とを反応させてアルカリ土類金属アルコキシドを得、これをβ−ジケトンと反応させることを特徴とするアルカリ土類金属のβ−ジケトネート金属錯体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に示される方法により、水和物の生成が抑制された高純度のアルカリ土類金属のβ−ジケトネート金属錯体を製造できるとある。
【特許文献1】特開2003−81908号公報(請求項1、段落[0041])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記特許文献1に示される方法では、水和物の生成は抑制されているが、得られる金属錯体中には錯体を構成する金属と配位子とが相互作用により複数結合した多量体やオリゴマーのような副生成物が含まれており、上記製造方法ではMOCVD法に使用するのに十分な純度を有する金属錯体が得られているとはいえなかった。
【0004】
本発明の目的は、不純物として含まれる副生成物を低減でき、MOCVD法で原料として使用したときに、高い成長速度が得られ、優れた気化安定性及び長期成膜安定性を有し、成膜室への汚染を抑えることができ、形成する膜の段差被覆性に優れた純度の高い有機金属化合物が得られる、有機金属化合物の精製方法及び該方法により得られた有機金属化合物を用いた金属含有膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、主として副生成物を不純物として含む有機金属化合物を有機溶媒に溶解して第1溶解液を調製する工程と、第1溶解液に使用した有機溶媒と同一種類の有機溶媒を第1移動相として第1分離カラムに通過させ、第1移動相の第1分離カラムの通過に随伴して第1溶解液を第1分離カラムに供給することにより、第1溶解液中に含まれる化合物成分を分子量の大きさごとに分離し、分離した各成分を分取する工程と、分取した成分のうち、その分子量が有機金属化合物に相当する成分を濃縮乾燥する工程と、濃縮乾燥により得られた固形分を第1溶解液で使用した有機溶媒と同一又は異なる種類の有機溶媒に溶解して第2溶解液を調製する工程と、第2溶解液で使用した有機溶媒と同一種類の有機溶媒を第2移動相として第1分離カラムと同一種類又は異なる種類の第2分離カラムに通過させ、第2移動相の第2分離カラムの通過に随伴して第2溶解液を酸素ガスとともに第2分離カラムに供給することにより、第2溶解液中に含まれる化合物成分を分子量の大きさごとに分離し、分離した各成分を分取する工程とを含むことを特徴とする有機金属化合物の精製方法である。
請求項1に係る発明では、上記工程を経ることで不純物として含まれる副生成物を低減でき、MOCVD法で原料として使用したときに、高い成長速度が得られ、優れた気化安定性及び長期成膜安定性を有し、成膜室への汚染を抑えることができ、形成する膜の段差被覆性に優れた純度の高い有機金属化合物が得られる。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の精製方法により得られた有機金属化合物をMOCVD法用原料として用い、MOCVD法により金属含有膜を作製することを特徴とする金属含有膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の有機金属化合物の精製方法は、主として副生成物を不純物として含む有機金属化合物を第1分離カラムに通過させ、有機金属化合物に相当する分子量成分を分取し、更に、分取した成分を酸素ガスとともに第2分離カラムに通過させることにより、不純物として含まれる副生成物を低減でき、MOCVD法で原料として使用したときに、高い成長速度が得られ、優れた気化安定性及び長期成膜安定性を有し、成膜室への汚染を抑えることができ、形成する膜の段差被覆性に優れた純度の高い有機金属化合物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の精製方法は、金属としてPb、Zr、Ti、Hf、Si、Ba、Sr、Nb、Ta、Laが、配位子としてβジケトナート、炭素数1〜4のアルコキシド、炭素数1〜4のアルキルアミンから構成される有機金属化合物を精製するのに特に好適である。
【0009】
本発明の有機金属化合物の精製方法は、主として副生成物を不純物として含む有機金属化合物を有機溶媒に溶解して第1溶解液を調製する工程と、第1溶解液に使用した有機溶媒と同一種類の有機溶媒を第1移動相として第1分離カラムに通過させ、第1移動相の第1分離カラムの通過に随伴して第1溶解液を第1分離カラムに供給することにより、第1溶解液中に含まれる化合物成分を分子量の大きさごとに分離し、分離した各成分を分取する工程と、分取した成分のうち、その分子量が有機金属化合物に相当する成分を濃縮乾燥する工程と、濃縮乾燥により得られた固形分を第1溶解液で使用した有機溶媒と同一又は異なる種類の有機溶媒に溶解して第2溶解液を調製する工程と、第2溶解液で使用した有機溶媒と同一種類の有機溶媒を第2移動相として第1分離カラムと同一種類又は異なる種類の第2分離カラムに通過させ、第2移動相の第2分離カラムの通過に随伴して第2溶解液を酸素ガスとともに第2分離カラムに供給することにより、第2溶解液中に含まれる化合物成分を分子量の大きさごとに分離し、分離した各成分を分取する工程とを含むことを特徴とする。本発明の有機金属化合物は、金属含有物と配位子前駆体とを反応させることにより得られる。金属含有物としてはPb、Zr、Ti、Hf、Si、Ba、Sr、Nb、Ta又はLaを含む化合物が、配位子前駆体としては、βジケトナート、炭素数1〜4のアルコキシド又は炭素数1〜4のアルキルアミンからなる群より選ばれた1種又は2種以上が挙げられる。
【0010】
本発明の精製方法は、分析手法として使用されるサイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography;以下SEC法という。)のうち、溶離液として有機溶媒を用いるゲル浸透クロマトグラフ法(Gel Permeation Chromatography;以下GPC法という。)を利用した精製方法である。SEC法は、液体クロマトグラフィーの一種であり、溶離液(移動相)中に溶解させた試料成分分子を分子サイズの差に基づいて分離を行い、その分子量分布や平均分子量を測定するために用いられる。SEC法による分離の基本は、固定相である充填剤(ゲル)が有する細孔(ポア)を利用し、大きな分子の順に溶出することにある。
【0011】
先ず、市販されている有機金属化合物を用意する。市販されている有機金属化合物を製造する場合、一般的に知られている製造方法や製造条件によって多少の割合は異なるが、粗生成物が生成された時点では、有機金属化合物の他に複数種類の多量体やオリゴマー等が副生成物として少量存在している。例えば、有機金属化合物がPb(DPM)2である場合、あるPb(DPM)2のPb原子と別のPb(DPM)2のDPM配位子とが相互作用によってPb−O…Pb−Oのように複数結合して構成された多量体が副生成物として存在し、その他には、未反応物等の残渣分、溶媒等が含まれる。この副生成物が存在する粗生成物から、残渣分を濾過等の分離操作により除去し、更に、溶媒を蒸留等の手法により取除き、再結晶などの手法で有機金属化合物の純度を高めた後、製品として市場に出荷されている。しかし、粗生成物に含まれる副生成物は有機金属化合物に含まれる成分や有機金属化合物自体を構成単位として構成されているものが大部分であり、その性質も似通っていることから、再結晶などの手法では取除くことが難しい。従って、市販されている有機金属化合物には主として副生成物が不純物として含まれている。
【0012】
この副生成物を不純物として含む有機金属化合物を有機溶媒に溶解して第1溶解液を調製する。第1溶解液を調製するための有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、クロロホルム、DMF(ジメチルホルムアミド)、HFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)、キノリン、o-ジクロロベンゼン、酢酸メチル、テトラクロロエタンなどが挙げられる。次いで、第1溶解液に使用した有機溶媒と同一種類の有機溶媒を第1移動相として第1分離カラムに通過させ、この第1移動相の第1分離カラムの通過に随伴して第1溶解液を第1分離カラムに供給することにより、第1溶解液中に含まれる化合物成分を分子量の大きさごとに分離し、分離した各成分を分取する。この工程では次の図1に示すGPC装置を使用することが好ましい。図1に示すように、GPC装置は、第1移動相となる有機溶媒1aが貯留された溶媒槽1と、この有機溶媒1a中に含まれるガス成分を除去するデガッサ2と、有機溶媒1aを一定流量で供給する送液ポンプ3と、有機金属化合物が溶解した第1溶解液9をカラムに送り込む注入口4と、第1溶解液9中の成分を分子の大きさ毎に分離する第1分離カラム5と、注入口4と第1分離カラム5を所定の温度に保持するカラムオーブン6と、分離した成分を検出する検出器7と、検出後に排出される回収液8aを回収する回収容器8から構成される。第1移動相に使用する有機溶媒1aとしては、前述した第1溶解液9で使用した有機溶媒と同一種類の有機溶媒が使用される。第1分離カラム5には、細孔を有する充填剤が充填されたカラムが使用される。具体的には東ソー株式会社製のTSKgel G2500HXL(7.8mmID×30cm)が好適である。また、検出器7としては示差屈折計が好適である。カラムオーブン6による加熱温度は、第1分離カラム5に充填する充填剤や使用する有機溶媒の種類、精製対象である有機金属化合物の種類によって、適宜決定することが好ましい。例えば、精製対象がTi(i-Pr)2(DPM)2であり、有機溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を、分離カラムとして上記TSKgel G2500HXLをそれぞれ選択したとき、カラムオーブンの温度は40℃程度に設定することが好ましい。
【0013】
このように構成されたGPC装置では、先ず、溶媒槽1に貯留した有機溶媒1aを送液ポンプ3によって一定の流量で流して第1分離カラム5に通過させ続け、第1移動相とする。デガッサ2を通過した有機溶媒1aは脱気されて第1分離カラム5等を通過する。次いで、注入口4から先に調製した第1溶解液9を一定の割合で注入する。注入した第1溶解液9は第1移動相である有機溶媒1aに随伴して第1分離カラム5に供給され、第1分離カラム5内を通過する際に細孔を有する充填剤によって、第1溶解液中に含まれる化合物成分が分子量の大きさごとに所定の時間ごとに分離されて溶出する。溶出された各成分は、検出器7を通ることで、その分子量の大きさが検出される。この検出データによって分離された各成分の分子量が判るので、分離した各成分を成分毎に回収容器8により分取する。
【0014】
次に、分取した成分のうち、その分子量が有機金属化合物に相当する成分を濃縮乾燥する。第1分離カラム5から溶出した各成分は検出器7により、それぞれ成分の分子量分布が検出されるため、分収した成分のうち、有機金属化合物に相当する成分のみを濃縮乾燥する。有機金属化合物に相当する成分には、第1溶解液、第1移動相の有機溶媒が含まれており、例えば、減圧濃縮等の一般的に知られている手法により有機溶媒を除去し、乾燥する。次に、濃縮乾燥により得られた固形分を有機溶媒に溶解して第2溶解液を調製する。第2溶解液に使用する有機溶媒は、前述した第1溶解液に使用した有機溶媒と同一種類の有機溶媒を使用しても良いし、異なる種類の有機溶媒を使用しても良い。
【0015】
次に、第2溶解液で使用した有機溶媒と同一種類の有機溶媒を第2移動相として第1分離カラムと同一種類又は異なる種類の第2分離カラムに通過させ、この第2移動相の第2分離カラムの通過に随伴して第2溶解液を酸素ガスとともに第2分離カラムに供給することにより、第2溶解液に含まれる化合物成分を分子量の大きさごとに分離し、分離した各成分を分取する。この工程では、図1の破線で示すように、GPC装置の送液ポンプ3と注入口4との間から酸素ガスを一定の流量で供給する。供給する酸素ガスの流量は100cc/分〜120cc/分が好ましい。先の工程で分取した成分のうち、その分子量が有機金属化合物に相当する成分には、その一部に残留している多量体等の副生成物が存在する。有機金属化合物の他に、副生成物として存在する複数種類の多量体等が、有機溶媒1a内並びに第2分離カラム内で酸素ガスと接触することにより、多量体を構成する相互作用を有する結合が弱められる。また、上記相互作用を有する結合は酸素ガスに不安定であるため、多量体等の副生成物の大部分が分解して所望の有機金属化合物を新たに生成するものと考えられる。第2分離カラム内を通過する際に細孔を有する充填剤によって、第2溶解液に含まれる化合物成分、並びに酸素ガスとの接触で分解した多量体等の副生成物成分が分子量の大きさごとに所定の時間ごとに分離されて溶出する。溶出された各成分は、検出器7を通ることで、その分子量の大きさが検出される。この検出データによって分離された各成分の分子量が判るので、分離した各成分のうち、有機金属化合物のみを回収容器8により分取する。このように本発明の精製方法を施すことで、不純物として含まれる副生成物を低減でき、高い収率で所望の高純度有機金属化合物が得られる。得られた高純度有機金属化合物はMOCVD法で原料として使用したときに、高い成長速度が得られ、優れた気化安定性及び長期成膜安定性を有し、成膜室への汚染を抑えることができる。また形成する膜の段差被覆性に優れる。
【実施例】
【0016】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
先ず市販されているビスイソプロポキシビスジピバロイルメタナトチタン(Ti(i-Pr)2(DPM)2)を用意し、この市販Ti(i-Pr)2(DPM)2を所定の割合でTHFに溶解して溶解液を調製した。この調製した溶解液を第1溶解液9とした。次いで図1に示すGPC装置を用い、先に調製した第1溶解液9の有機溶媒と同一種類の有機溶媒1aであるTHFを第1移動相として第1分離カラム5に通過させ続けた。次に、第1溶解液9を注入口4より注入し、第1移動相の第1分離カラム5の通過に随伴して第1溶解液9を第1分離カラム5に供給することにより、分子量の大きさごとに分取した。なお、第1分離カラム5には東ソー株式会社製TSKgel G2500HXL(7.8mmID×30cm)を使用した。また、送液ポンプ3によるTHFの流速を0.5ml/分とし、カラムオーブンの温度を40℃に維持した。次に分収した成分のうち、Ti(i-Pr)2(DPM)2に相当する成分のみを濃縮乾燥した。濃縮乾燥により得られた固形分を所定の割合でTHFに溶解して第2溶解液を調製した。
次に、GPC装置から第1分離カラム5を取外して、図示しない第2分離カラムに付替え、先に調製した第2溶解液の有機溶媒と同一種類の有機溶媒であるTHFを第2移動相として第2分離カラムに通過させ続けた。次に、第2溶解液を注入口4より注入し、かつ図1の破線で示すように、GPC装置の送液ポンプ3と注入口4との間から酸素ガスを一定の流量で供給して、第2移動相の第2分離カラムの通過に随伴して第2溶解液を酸素ガスとともに第2分離カラムに供給することにより、第2溶解液に含まれる化合物成分を分子量の大きさごとに分離し、分離した各成分を分取した。具体的には、第2分離カラムは先の工程で使用した第1分離カラム5と同一種類のカラムを用い、送液ポンプ3によるTHFの流速、カラムオーブンの温度も先の工程と同様の条件とした。また供給する酸素ガスの流量は100cc/分の流量とした。分取して得られた回収物のうち、検出器で検出したTi(i-Pr)2(DPM)2に相当する分子量の成分のみを回収して、目的物であるTi(i-Pr)2(DPM)2を得た。最後に精製したTi(i-Pr)2(DPM)2を酸素ガスが充填された容器に保存した。
【0017】
<比較例1>
先ず、イソプロポキシチタン10gをヘキサン100mlに懸濁させて懸濁液を調製した。次いで、この懸濁液にジピバロイルメタン50gを添加し、反応させることにより粗生成物を得た。次にこの粗生成物を濾過し、残渣分と濾液とに分離した。続いて、得られた濾液を濃縮してヘキサンを除去した。次に、濃縮物を窒素ガス雰囲気下で130℃、10分間に維持する処理を施した。処理を終えた濃縮物を回収し、製造目的物であるTi(i-Pr)2(DPM)2を得た。
【0018】
<比較試験1>
実施例1及び比較例1で得られたTi(i-Pr)2(DPM)2をMOCVD原料として用い、成膜時間当たりの膜厚試験を行った。先ず、基板として表面にSiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を9枚ずつ用意し、この基板を図2に示すMOCVD装置の成膜室に設置した。図2に示すように、MOCVD装置は、成膜室10と蒸気発生装置11を備える。成膜室10の内部にはヒータ12が設けられ、ヒータ12上には基板13が保持される。この成膜室10の内部は圧力センサー14、コールドトラップ15及びニードルバルブ16を備える配管17により真空引きされる。成膜室10にはニードルバルブ36、ガス流量調節装置34を介してO2ガス導入管37が接続される。蒸気発生装置11は原料容器18を備え、この原料容器18は本発明の有機金属化合物を貯蔵する。原料容器18にはガス流量調節装置19を介してキャリアガス導入管21が接続され、また原料容器18には供給管22が接続される。供給管22にはニードルバルブ23及び溶液流量調節装置24が設けられ、供給管22は気化器26に接続される。気化器26にはニードルバルブ31、ガス流量調節装置28を介してキャリアガス導入管29が接続される。気化器26は更に配管27により成膜室10に接続される。また気化器26には、ガスドレイン32及びドレイン33がそれぞれ接続される。
次いで、基板温度を450℃、気化温度を200℃、圧力を約1330Pa(10Torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてO2ガスを用い、その分圧を500ccmとした。次に、キャリアガスとしてHeガスを用い、原料を0.2cc/分の割合でそれぞれ供給し、成膜時間が1分、5分、10分、20分、30分、40分、50分、60分及び70分となったときにそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。成膜を終えた基板上のTiO2薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から膜厚を測定した。また、成膜時間が5分の基板上のTiO2薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から段差被覆性を測定した。得られた成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果を表1にそれぞれ示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表1より明らかなように、比較例1で得られたTi(i-Pr)2(DPM)2は、成膜時間に対する膜厚が不均一であり、十分な膜厚も得られていなかった。また、成膜後にMOCVD装置の成膜室内を確認したところ、成膜室内の壁面もかなり汚れが見られた。このような結果となった背景としては、成膜時間が長くなるにつれて気化室内で分解物が蓄積したため、十分な膜厚が得られなかったためと考えられる。これに対して実施例1で得られたTi(i-Pr)2(DPM)2は、成膜時間あたりの膜厚の結果から、成膜時間あたりの膜厚が厚く、かつ長時間の成膜でも膜が安定して成膜されており、長期成膜安定性が得られていた。段差被覆性については1.0が得られており、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されており、優れた気化安定性が得られていた。また、成膜後にMOCVD装置の成膜室内を確認したところ、壁面に汚れは殆ど見られず、成膜室への汚染を抑えることができていた。
【0021】
<比較評価2>
実施例1及び比較例1で得られたTi(i-Pr)2(DPM)2をそれぞれ用い、アルゴン雰囲気中、10℃/分の昇温温度で熱重量分析を行った。図3に実施例1及び比較例1で得られたTi(i-Pr)2(DPM)2の熱重量分析結果をそれぞれ示す。
図3の熱重量分析結果より明らかなように、比較例1で得られたTi(i-Pr)2(DPM)2は、十分な揮発が行われておらず、約12重量%と多くの残渣が生じていた。これに対して実施例1で得られたTi(i-Pr)2(DPM)2は、殆ど残渣を生じることがなく、揮発性に優れる結果となっていた。
【0022】
<実施例2>
先ず市販されているテトラキス(2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン)ジルコニウム(Zr(DMHD)4)を用意し、この市販Zr(DMHD)4を所定の割合でTHFに溶解して溶解液を調製した。この調製した溶解液を第1溶解液9とした。次いで図1に示すGPC装置を用い、第1溶解液9の有機溶媒と同一種類の有機溶媒1aであるTHFを第1移動相として第1分離カラム5に通過させ続けた。次に、第1溶解液9を注入口4より注入し、第1移動相の第1分離カラム5の通過に随伴して第1溶解液9を第1分離カラム5に供給することにより、分子量の大きさごとに分取した。なお、第1分離カラム5には東ソー株式会社製TSKgel G2500HXL(7.8mmID×30cm)を使用した。また、送液ポンプ3によるTHFの流速を0.5ml/minとし、カラムオーブンの温度を40℃に維持した。次に分収した成分のうち、Zr(DMHD)4に相当する成分のみを濃縮乾燥した。濃縮乾燥により得られた固形分を所定の割合でTHFに溶解して第2溶解液を調製した。
次に、GPC装置から第1分離カラム5を取外して、図示しない第2分離カラムに付替え、先に調製した第2溶解液の有機溶媒と同一種類の有機溶媒であるTHFを第2移動相として第2分離カラムに通過させ続けた。次に、第2溶解液を注入口4より注入し、かつ図1の破線で示すように、GPC装置の送液ポンプ3と注入口4との間から酸素ガスを一定の流量で供給して、、第2移動相の第2分離カラムの通過に随伴して第2溶解液を酸素ガスとともに第2分離カラムに供給することにより、第2溶解液に含まれる化合物成分を分子量の大きさごとに分離し、分離した各成分を分取した。具体的には第2分離カラムは先の工程で使用した第1分離カラム5と同一種類のカラムを用い、送液ポンプ3によるTHFの流速、カラムオーブンの温度も先の工程と同様の条件とした。また供給する酸素ガスの流量は100cc/分の流量とした。分取して得られた回収物のうち、検出器で検出したZr(DMHD)4に相当する分子量の成分のみを回収して、目的物であるZr(DMHD)4を得た。最後に精製したZr(DMHD)4を酸素ガスが充填された容器に保存した。
【0023】
<比較例2>
先ず、n-ブトキシジルコニウム10gをヘキサン100mlに懸濁させ、懸濁液を調製した。次いで、この懸濁液にジメチルヘプタンジオン50gを添加し、反応させることにより粗生成物を得た。次にこの粗生成物を濾過し、残渣分と濾液とに分離した。続いて、得られた濾液を濃縮してヘキサンを除去した。次に、濃縮物を窒素ガス雰囲気下で150℃、15分間に維持する処理を施した。処理を終えた濃縮物を回収し、目的物であるZr(DMHD)4を得た。最後に製造したZr(DMHD)4を酸素ガスが充填された容器に保存した。
【0024】
<比較試験3>
実施例2及び比較例2で得られたZr(DMHD)4をMOCVD原料として用い、成膜時間当たりの膜厚試験を行った。先ず、基板として表面にSiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を9枚ずつ用意し、この基板を図2に示すMOCVD装置の成膜室に設置した。次いで、基板温度を550℃、気化温度を200℃、圧力を約1330Pa(10Torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてO2ガスを用い、その分圧を500ccmとした。次に、キャリアガスとしてHeガスを用い、原料を0.2cc/分の割合でそれぞれ供給し、成膜時間が1分、5分、10分、20分、30分、40分、50分、60分及び70分となったときにそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。成膜を終えた基板上のZrO2薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から膜厚を測定した。また、成膜時間が5分の基板上のZrO2薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から段差被覆性を測定した。得られた成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果を表2にそれぞれ示す。
【0025】
【表2】

【0026】
表2より明らかなように、比較例2で得られたZr(DMHD)4は、成膜時間に対する膜厚が不均一であり、十分な膜厚も得られていなかった。また、成膜後にMOCVD装置の成膜室内を確認したところ、成膜室内の壁面もかなり汚れが見られた。このような結果となった背景としては、成膜時間が長くなるにつれて気化室内で分解物が蓄積したため、十分な膜厚が得られなかったためと考えられる。これに対して実施例2で得られたZr(DMHD)4は、成膜時間あたりの膜厚の結果から、成膜時間あたりの膜厚が厚く、かつ長時間の成膜でも膜が安定して成膜されており、長期成膜安定性が得られていた。段差被覆性については1.0に近い数値が得られており、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されており、優れた気化安定性が得られていた。また、成膜後にMOCVD装置の成膜室内を確認したところ、壁面に汚れは殆ど見られず、成膜室への汚染を抑えることができていた。
【0027】
<比較評価4>
実施例2及び比較例2で得られたZr(DMHD)4をそれぞれ用い、アルゴン雰囲気中、10℃/分の昇温温度で熱重量分析を行った。図4に実施例2及び比較例2で得られたZr(DMHD)4の熱重量分析結果をそれぞれ示す。
図4の熱重量分析結果より明らかなように、比較例2で得られたZr(DMHD)4は、十分な揮発が行われておらず、約25重量%と多くの残渣が生じていた。これに対して実施例2で得られたZr(DMHD)4は、殆ど残渣を生じることがなく、揮発性に優れる結果となった。
【0028】
<実施例3>
先ず市販されているビス(ジピバロイルメタナート)鉛(Pb(DPM)2)を用意し、この市販Pb(DPM)2を所定の割合でTHFに溶解して溶解液を調製した。この調製した溶解液を第1溶解液9とした。次いで図1に示すGPC装置を用い、第1溶解液9の有機溶媒と同一種類の有機溶媒1aであるTHFを第1移動相として第1分離カラム5に通過させ続けた。次に、第1溶解液9を注入口4より注入し、第1移動相の第1分離カラム5の通過に随伴して第1溶解液9を第1分離カラム5に供給することにより、分子量の大きさごとに分取した。なお、第1分離カラム5には東ソー株式会社製TSKgel G2500HXL(7.8mmID×30cm)を使用した。また、送液ポンプ3によるTHFの流速を0.5ml/minとし、カラムオーブンの温度を40℃に維持した。次に分収した成分のうち、Pb(DPM)2に相当する成分のみを濃縮乾燥した。濃縮乾燥により得られた固形分をTHFに溶解して第2溶解液を調製した。
次に、GPC装置から第1分離カラム5を取外して、図示しない第2分離カラムに付替え、先に調製した第2溶解液の有機溶媒と同一種類の有機溶媒であるTHFを第2移動相として第2分離カラムに通過させ続けた。次に、第2溶解液を注入口4より注入し、かつ図1の破線で示すように、GPC装置の送液ポンプ3と注入口4との間から酸素ガスを一定の流量で供給して、第2移動相の第2分離カラムの通過に随伴して第2溶解液を酸素ガスとともに第2分離カラムに供給することにより、第2溶解液に含まれる化合物成分を分子量の大きさごとに分離し、分離した各成分を分取した。具体的には第2分離カラムは先の工程で使用した第1分離カラム5と同一種類のカラムを用い、送液ポンプ3によるTHFの流速、カラムオーブンの温度も先の工程と同様の条件とした。また供給する酸素ガスの流量は100cc/分の流量とした。分取して得られた回収物のうち、検出器で検出したPb(DPM)2に相当する分子量の成分のみを回収して、目的物であるPb(DPM)2を得た。最後に精製したPb(DPM)2を酸素ガスが充填された容器に保存した。
【0029】
<比較例3>
先ず、酸化鉛10gをヘキサン100mlに懸濁させ、懸濁液を調製した。次いで、この懸濁液にジピバロイルメタン50gを添加し、反応させることにより粗生成物を得た。次にこの粗生成物を濾過し、残渣分と濾液とに分離した。続いて得られた濾液を濃縮してヘキサンを除去した。次に、濃縮物を窒素ガス雰囲気下で130℃、10分間に維持する処理を施した。処理を終えた濃縮物を回収し、目的物であるPb(DPM)2を得た。
【0030】
<比較試験5>
実施例3及び比較例3で得られたPb(DPM)2をMOCVD原料として用い、成膜時間当たりの膜厚試験を行った。先ず、基板として表面にSiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を9枚ずつ用意し、この基板を図2に示すMOCVD装置の成膜室に設置した。次いで、基板温度を550℃、気化温度を220℃、圧力を約1330Pa(10Torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてO2ガスを用い、その分圧を500ccmとした。次に、キャリアガスとしてHeガスを用い、原料を0.1cc/分の割合でそれぞれ供給し、成膜時間が1分、5分、10分、20分、30分、40分、50分、60分及び70分となったときにそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。成膜を終えた基板上のPbO薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から膜厚を測定した。また、成膜時間が5分の基板上のPbO薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から段差被覆性を測定した。得られた成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果を表3にそれぞれ示す。
【0031】
【表3】

【0032】
表3より明らかなように、比較例3で得られたPb(DPM)2は、成膜時間に対する膜厚が不均一であり、十分な膜厚も得られていなかった。また、成膜後にMOCVD装置の成膜室内を確認したところ、成膜室内の壁面もかなり汚れが見られた。このような結果となった背景としては、成膜時間が長くなるにつれて気化室内で分解物が蓄積したため、十分な膜厚が得られなかったためと考えられる。これに対して実施例3で得られたPb(DPM)2は、成膜時間あたりの膜厚の結果から、成膜時間あたりの膜厚が厚く、かつ長時間の成膜でも膜が安定して成膜されており、長期成膜安定性が得られていた。段差被覆性については1.0に近い数値が得られており、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されており、優れた気化安定性が得られていた。また、成膜後にMOCVD装置の成膜室内を確認したところ、壁面に汚れは殆ど見られず、成膜室への汚染を抑えることができていた。
【0033】
<比較評価6>
実施例3及び比較例3で得られたPb(DPM)2をそれぞれ用い、アルゴン雰囲気中、10℃/分の昇温温度で熱重量分析を行った。図5に実施例3及び比較例3で得られたPb(DPM)2の熱重量分析結果をそれぞれ示す。
図5の熱重量分析結果より明らかなように、比較例3で得られたPb(DPM)2は、十分な揮発が行われておらず、約15重量%と多くの残渣が生じていた。これに対して実施例3で得られたPb(DPM)2は、殆ど残渣を生じることがなく、揮発性に優れる結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の精製方法に用いるGPC装置の概略図。
【図2】MOCVD装置の概略図。
【図3】実施例1及び比較例1で得られたTi(i-Pr)2(DPM)2の熱重量分析によるTG曲線の結果を示す図。
【図4】実施例2及び比較例2で得られたZr(DMHD)4の熱重量分析によるTG曲線の結果を示す図。
【図5】実施例3及び比較例3で得られたPb(DPM)2の熱重量分析によるTG曲線の結果を示す図。
【符号の説明】
【0035】
1a 有機溶媒
5 第1分離カラム
9 第1溶解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として副生成物を不純物として含む有機金属化合物を有機溶媒に溶解して第1溶解液を調製する工程と、
前記第1溶解液に使用した有機溶媒と同一種類の有機溶媒を第1移動相として第1分離カラムに通過させ、前記第1移動相の第1分離カラムの通過に随伴して前記第1溶解液を前記第1分離カラムに供給することにより、前記第1溶解液中に含まれる化合物成分を分子量の大きさごとに分離し、前記分離した各成分を分取する工程と、
前記分取した成分のうち、その分子量が前記有機金属化合物に相当する成分を濃縮乾燥する工程と、
前記濃縮乾燥により得られた固形分を前記第1溶解液で使用した有機溶媒と同一又は異なる種類の有機溶媒に溶解して第2溶解液を調製する工程と、
前記第2溶解液で使用した有機溶媒と同一種類の有機溶媒を第2移動相として前記第1分離カラムと同一種類又は異なる種類の第2分離カラムに通過させ、前記第2移動相の第2分離カラムの通過に随伴して前記第2溶解液を酸素ガスとともに前記第2分離カラムに供給することにより、前記第2溶解液中に含まれる化合物成分を分子量の大きさごとに分離し、前記分離した各成分を分取する工程と
を含むことを特徴とする有機金属化合物の精製方法。
【請求項2】
請求項1記載の精製方法により得られた有機金属化合物を有機金属化学気相成長法用原料として用い、有機金属化学気相成長法により金属含有膜を作製することを特徴とする金属含有膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−112791(P2007−112791A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252977(P2006−252977)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】