説明

有機電界効果トランジスタを用いたセンサ

【課題】濃度0の場合に出力が0となる有機電界効果トランジスタを用いたガスセンサ。
【解決手段】1.Aの有機電界効果トランジスタ100は、導電性基板10表面に絶縁膜20を形成する。この絶縁膜20の表面20sを、疎水化処理をしたものと、しないものとで1組とする、或いは親水化処理をしたものと、しないものとで1組とする。その上にチャネル形成層である有機半導体層30を形成する。導電性基板10裏面にはゲート電極40gを形成し、有機半導体表面には、チャネル長を空けてソース電極40sとドレイン電極40dが形成される。1組とした2つの有機電界効果トランジスタ100の、ガス濃度0の時の出力を、等しくなるように増幅調整した上で、差分をとれば、ガス濃度0の場合に出力が0となる構成とできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料をチャネル形成層として有する有機電界効果トランジスタを用いた、極性分子を検出するセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子が画像表示装置として実用化され、有機半導体が脚光を浴びている。この中で、有機材料をチャネル形成層として有する有機電界効果トランジスタを、悪臭を有するガス或いは有毒なガスの検出器(センサ)として用いうることが報告されている。
【特許文献1】特開2002−310969
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett. 78, 2229 (2001)
【非特許文献2】IEEE Trans. Electron Devices, 44,325 (1997)
【0003】
特許文献1の発明者は非特許文献1の著者と大部分共通している。特許文献1と非特許文献1では、いずれもオリゴアルキルチオフェンをチャネル形成層とした有機電界効果トランジスタを用いた、極性基を有する有機低分子化合物蒸気のセンサが開示されている。有機低分子化合物の極性基とは、アルコール性又はフェノール性水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基その他の、有機低分子化合物に極性(双極子モーメント)を付与する原子団を言うものとする。尚、良く知られているように、トルエンもメチル基とフェニル基の間で双極子モーメントが生じており、極性基を有する有機低分子化合物に含まれるものとする。
特許文献1及び非特許文献1にある通り、ドレインに負電位、ゲートに負電位を印加すると、ドレイン電流は減衰曲線を描く。この時pチャネルが形成される。また、極性基を有する有機低分子化合物にチャネル形成層が暴露されると、当該有機低分子化合物がチャネル形成層に侵入してドレイン電流が低下し、より低い減衰曲線を描く。
非特許文献2には、ペンタセンをpチャネル形成層に使用した有機電界効果トランジスタの、二酸化ケイ素から成るゲート絶縁膜のチャネル形成層との界面を、オクタデシルトリクロロシラン又はトリエトキシフェニルシランで疎水化処理して、ゲート電圧の閾値を変化させ、ノーマリオンとノーマリオフの2種類のトランジスタが形成可能であることが記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばオクタデシルトリクロロシラン等のオルガノシリル化処理を行ったゲート絶縁膜上に有機材料からなるチャネル形成層を形成しても、ドレイン電流が減衰曲線を描くことは同じである。すると、検出すべき極性分子が濃度0の場合のドレイン電流のピークは0ではなく、検出すべき極性分子の濃度が大きいほどドレイン電流のピークの絶対値は0に近づく。この場合、検出感度を上げるために増幅器を用いることが困難であった。
【0005】
本発明は、有機電界効果トランジスタを用いたセンサとして、検出感度を上げるために増幅器を用いることを前提とし、検出すべき極性分子が濃度0の場合に出力が0、検出すべき極性分子の濃度が大きいほど出力の絶対値が大きくなる構成のセンサを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、一方の面が外部に暴露された状態の膜状に形成された有機材料から成るチャネル形成層を有する有機電界効果トランジスタを用いた、極性分子を検出するセンサであって、
有機電界効果トランジスタとして、第1トランジスタと第2トランジスタの2個のトランジスタを有し、第1トランジスタと第2トランジスタとは、形成層とゲート電極との間に形成された絶縁層の、チャネル形成層との界面状態が異なる他は全て同一に構成されており、第1トランジスタの出力と第2トランジスタの出力に基づいて、膜状に形成された有機材料が暴露された空間の、極性分子の不存在を含む濃度を測定することを特徴とする有機電界効果トランジスタを用いたセンサである。
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、極性分子が存在しない場合の第1トランジスタの出力と第2トランジスタの出力とが等しくなるように、第1トランジスタの出力の増幅度と第2トランジスタの出力の増幅度を調整した後に、極性分子の濃度を測定する際に、当該増幅度が調整済みの、第1トランジスタの出力と第2トランジスタの出力の差に基づいて、当該濃度を測定することを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る発明は、第1トランジスタの絶縁層のチャネル形成層との界面状態と、第2トランジスタの絶縁層のチャネル形成層との界面状態との差異は、親水性の差であることを特徴とする。
請求項4に係る発明は、絶縁層は酸化物であって、第1トランジスタの絶縁層と第2トランジスタの絶縁層の一方に、チャネル形成層との界面にオルガノシリル化処理を行ったものであることを特徴とする。
請求項5に係る発明は、有機電界効果トランジスタがpチャネルFETであることを特徴とする。
請求項6に係る発明は、有機材料がペンタセンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
下記に示す通り、チャネル形成層が接するゲート絶縁膜の表面状態が異なる他は、全く同一構成の2つの有機電界効果トランジスタを用いると、それらの出力を調整することで、検出すべき極性分子が濃度0の場合に出力が0、検出すべき極性分子の濃度が大きいほど出力の絶対値が大きくなるように構成可能となる(請求項1、2)。
この場合、チャネル形成層が接するゲート絶縁膜の表面状態が疎水性(hydrophobic)であるほど、チャネル形成層が暴露される外部における極性分子の濃度変化に対するドレイン電流の変化が大きく、ゲート絶縁膜の表面状態が親水性(hydrophilic)であるほど、チャネル形成層が暴露される外部における極性分子の濃度変化に対するドレイン電流の変化が小さいので、2つのトランジスタのゲート絶縁膜の表面状態は親水性の差が大きいほど良い(請求項3)。
同じ材料からなるゲート絶縁膜の表面状態を異なるようにするためには、例えば水酸基を有する化合物又は材料を用いて、一方はそのまま、又は更に酸化し、他方は例えば水酸基と反応する有機試薬で水酸基をアルコキシル基等に変換すれば良い。例えばゲート絶縁膜の材料が二酸化ケイ素ならば、オルガノクロロシラン、オルガノアルコキシシランを用いて容易にオルガノシリル化処理が可能である(請求項4)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1.A及び図1.Bは、現在広く開発されている有機電界効果トランジスタ100及び200の構成を示す断面図である。本発明は、これらの何れかの構成を採用して、ゲート絶縁膜の表面状態が異なる有機電界効果トランジスタを2個用意する。
以下、まずは個々のトランジスタの構成例を説明する。
図1.Aは素子基板として、導電性の材料を用いる場合の構成の一例である。
図1.Aの有機電界効果トランジスタ100は、導電性基板10表面に絶縁膜20を形成する。この絶縁膜20の表面20sを、疎水化処理をしたものと、しないものとで1組とする、或いは親水化処理をしたものと、しないものとで1組とする。その上にチャネル形成層である有機半導体層30を形成する。導電性基板10裏面にはゲート電極40gを形成し、有機半導体表面には、チャネル長を空けてソース電極40sとドレイン電極40dが形成される。各層の膜厚等は任意であるが、絶縁膜20は例えば100nm〜1μm、有機半導体層30は例えば5〜100nmの範囲で形成すると良い。チャネル長は10μm〜1mmの範囲で設計される。チャネル幅は任意であるが、100μm〜10mmぐらいとすると良い。
【0010】
図1.Bは素子基板として、誘電体材料を用いる場合の構成の一例である。
図1.Bの有機電界効果トランジスタ200は、誘電体基板11表面にゲート電極41gを形成し、それを覆うように絶縁膜21を形成する。この絶縁膜21の表面21sを、疎水化処理をしたものと、しないものとで1組とする、或いは親水化処理をしたものと、しないものとで1組とする。表面には、チャネル長を空けてソース電極41sとドレイン電極41dが形成される。こうして、ソース電極41sとドレイン電極41dとに挟まれた絶縁膜21表面を少なくとも覆うように、有機半導体層31を形成する。各層の膜厚等は任意であるが、絶縁膜21のゲート電極41gと有機半導体層30とで挟まれた領域の厚さは例えば100nm〜1μm、有機半導体層31のソース電極41sとドレイン電極41dとに挟まれた絶縁膜21表面上の厚さは例えば5〜100nmの範囲で形成すると良い。尚、ソース電極41sとドレイン電極41dとは当該有機半導体層31の厚さより薄く形成する。チャネル長は10μm〜1mmの範囲で設計される。チャネル幅は任意であるが、100μm〜10mmぐらいとすると良い。
【0011】
図1.Aの導電性基板10としては、所望の任意の導電性材料から成る基板を用いることができるが、例えば導電性シリコン基板(n型が好ましい)を用いると、絶縁膜20の形成を熱酸化により形成できるので好適である。
図1.Bの誘電体基板11としては、所望の任意の誘電体材料から成る基板を用いることができる。例えば任意のプラスチック基板、ガラス基板、石英基板、セラミック基板を用いることができる。
図1.Aの絶縁膜20及び図1.Bの絶縁膜21としては、SiO2、Si34、SiON、Al23、Ta25 アモルファスシリコン、ポリイミド樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、ポリパラキシリレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等の材料を用い、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、RFスパッタ法、陽極酸化法または印刷法等の周知の膜作製方法により形成することもできる。
図1.Aの絶縁膜20及び図1.Bの絶縁膜21の表面の疎水化処理としては、シランカップリング剤による処理が挙げられる。シランカップリング剤としては、オクタデシルトリクロロシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好ましい例として挙げられるが、本発明はこれらに限らない。親水化処理としては、紫外線照射によるオゾン処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理等が好ましい例として挙げられるが、本発明はこれらに限らない。
図1.Aの有機半導体層30及び図1.Bの有機半導体層31としては、ペンタセン、チオフェン、ポリチオフェン、フタロシアニンなどの既に公知となった有機半導体を用い得ることは勿論、任意の有機半導体を適用し得る。また、有機半導体層は、真空蒸着法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等の周知の膜作製方法により形成できる。
図1.Aのゲート電極40g及び図1.Bのゲート電極41gとしては、アルミニウム、金、白金、クロム、タングステン、タンタル、ニッケル、銅、銀、マグネシウム、カルシウム等の金属、あるいはそれらの合金、およびポリシリコン、アモルファスシリコン、グラファイト、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛、導電性ポリマー等の材料を用い得る。これらを、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、RFスパッタ法または印刷法等の周知の膜作製方法によりゲート電極40g及び41gを形成することができる。
ドレイン電極40d、41dおよびソース電極40s、41sも、ゲート電極と同様の材料から選択し、同様の形成方法から選択することで、形成可能である。密着性をあげるために、積層構造としても良い。
【実施例1】
【0012】
まず、1個ずつの有機電界効果トランジスタの特性を次のように調べた。
図1.Aに示す積層構造の有機電界効果トランジスタ100を作製した。導電性基板10にはアンチモン(Sb)がドープされ,抵抗率が0.02Ωcm以下のシリコン(Si)ウェハを用いた。シリコン(Si)から成る導電性基板10の表面を熱酸化して、厚さ300nmのSiO2から成る絶縁膜20を形成した。絶縁体容量は10nF/cm2であった。
次に、絶縁膜20の表面処理を行った。表面処理は、紫外線によるオゾン処理(親水化)を施したもの、当該オゾン処理後にオクタデシルトリメトキシシラン蒸気により疎水化処理をしたもの、当該オゾン処理後にヘキサメチルジシラザン蒸気により疎水化処理をしたものの3種類と、表面処理を行わないものの、合わせて4種類とした。
次に、有機半導体として、ペンタセン(C2214)を真空蒸着法により30nmの厚さで成膜し、有機半導体層30を形成した。有機半導体層30上に、メカニカルマスクを用いて金(Au)を蒸着し、各々厚さ30nmのソース電極40sならびにドレイン電極40dを形成した。チャンネル長は0.1mm、チャンネル幅は6mmとした。この後、シリコン(Si)から成る導電性基板10裏面にアルミニウム(Al)を蒸着し、厚さ100nmのゲート電極40gを形成した。
【0013】
図1.Aの有機電界効果トランジスタ100の特性を次のように調べた。
まず、有機電界効果トランジスタ100を、エタノール(EtOH)蒸気を導入可能な密閉容器に配置した。この際、有機半導体層30の表面30sは当該密閉容器内の気体に暴露された状態となった。
次に、ソース電極40sを接地電位とし、ドレイン電極40dに−50V印加し、保持した。
ゲート電極40gには、有機半導体層30にpチャネルが形成されてトランジスタがオンとなる負電位として−50Vの印加と、有機半導体層30からpチャネルが消滅する電位の印加とを、各々1秒ずつ連続的に印加した。
この後、エタノール蒸気を順次密閉容器に導入して、密閉容器内のエタノール濃度を、0%、0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、1%と段階的に上昇させた。
こうして、ゲート電極40gが−50Vになった後のドレイン電流のピーク値を、2秒毎に測定し、プロットした結果を図2.A乃至図2.Dに示す。
【0014】
図2.Aは、図1.Aに示す1個の有機電界効果トランジスタ100の、ゲート絶縁膜20の表面20sが、オゾン処理後にオクタデシルトリメトキシシラン(OTS)蒸気により疎水化処理をしたものの特性図である。
図2.Bは、図1.Aに示す1個の有機電界効果トランジスタ100の、ゲート絶縁膜20の表面20sが、オゾン処理後にヘキサメチルジシラザン(HMDS)蒸気により疎水化処理をしたものの特性図である。
図2.Cは、図1.Aに示す1個の有機電界効果トランジスタ100の、ゲート絶縁膜20の表面20sが、何ら処理されていないものの特性図である。
図2.Dは、図1.Aに示す1個の有機電界効果トランジスタ100の、ゲート絶縁膜20の表面20sが、紫外線照射によるオゾン処理(UV/O3、親水化処理)をしたものの特性図である。
いずれも、エタノール濃度が0の場合も電流が流れており、有機電界効果トランジスタ100単体での信号処理は、特に微弱なドレイン電流の増幅の点で困難である。
【0015】
図3は、図2.A乃至図2.Dの結果のうち、エタノール(EtOH)濃度0.2%までについて、エタノール(EtOH)濃度0%の時のドレイン電流ID0に対する、各濃度におけるドレイン電流の減少分ΔIDの比ΔID/ID0を示すものである。
図2.A乃至図2.Dからも、疎水化処理をした場合に、エタノール(EtOH)濃度の上昇に対するドレイン電流の減少分ΔIDが大きいことが示されたが、図3に示すように、特にオクタデシルトリメトキシシラン(OTS)処理の場合に比ΔID/ID0が高いことがわかる。また、未処理(図3でUntreated)の場合よりも、紫外線照射によるオゾン処理(UV/O3)により親水化処理した方が、エタノール(EtOH)濃度の上昇に対するドレイン電流の減少量が小さいことがわかる。
【0016】
図4.A及び図4.Bは本発明により2つのトランジスタの出力を組み合わせて、新たな出力とする場合を示すグラフ図である。
図4.Aは、オクタデシルトリメトキシシラン(OTS)処理の絶縁膜を有する有機電界効果トランジスタ100と、他の処理の絶縁膜を有する3つの有機電界効果トランジスタ100の出力を調整して、新たな出力とした場合のグラフ図、図4.Bは、その他の3つの場合の新たな出力とした場合のグラフ図である。
グラフ図の意味するところは、時刻0分の、エタノール濃度0の場合の2つのトランジスタのドレイン電流の初期値が1:1となるように出力を増幅調整した上で差分を求め(差分の初期値は当然に0)、エタノール濃度が変化した後に、当該増幅調整した上での差分を求めたものである。
図2.A乃至図2.Dにおいては、エタノール(EtOH)濃度を変化させる時刻及び1つの濃度に保持した時間に若干のずれがあったので、これを調整した上で図4.A及び図4.Bに示した。エタノール濃度を切り替えた時刻を40分、80分、…として示したものであるが、図4.A及び図4.Bにおける「時刻」は、当該エタノール濃度を切り替えた時刻からの経過時間以外には意味を有しない。
【0017】
図4.A及び図4.Bに示される通り、エタノール濃度が0の時の、出力増幅調整後の2つのトランジスタのドレイン電流の差分を0とすることが可能である。これにより増幅のための信号処理が容易になり、高感度化が可能になる。
特に、疎水化処理と親水化処理との増幅調整後のドレイン電流の差分において、極性分子濃度による出力差が大きくなり、時間による出力変化も少なく良好なデータが得られている(図4.AのOTS_UV/O3と、図4.BのHMDS_UV/O3)。
また、疎水化処理したもの同士での差分においても良好なデータが得られている(図4.AのOTS_HMDS)。
【実施例2】
【0018】
図1.Bに示す積層構造の有機電界効果トランジスタ200を作製した。誘電体基板11には厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた。
PETから成る誘電体基板11表面に、ITOから成る厚さ100nmのゲート電極41gを形成した。この際、ITOターゲットを用い、1%の酸素を含むアルゴンガス(3.0×10-3Torr)中、200Wでスパッタ成膜を実施した。
ITOから成るゲート電極41gの上に、ポリビニルフェノールコポリマーから成る絶縁膜11を形成した。濃度200g/LのN−メチルピロリドン溶液を用いたスピンコート法を用いた。回転数は2000rpm、150℃の熱処理を行った。絶縁体容量は9.2nF/cm2であった。
次に、絶縁膜21の表面処理を行った。表面処理は、紫外線によるオゾン処理(親水化)を施したもの、当該オゾン処理後にオクタデシルトリメトキシシラン蒸気により疎水化処理をしたもの、当該オゾン処理後にヘキサメチルジシラザン蒸気により疎水化処理をしたものの3種類と、表面処理を行わないものの、合わせて4種類とした。
この上に、メカニカルマスクを用いてクロム(Cr)、金(Au)の順に蒸着し、各々厚さ5nm、25nmの二重層であるソース電極41sならびにドレイン電極41dを形成した。チャンネル長は0.2mm、チャンネル幅は5mmとした。最後にペンタセンを0.1nm/分で20nmの厚さに蒸着して、有機半導体層31を形成した。
図1.Bの有機電界効果トランジスタ200の特性を調べたところ、実施例1と同様の傾向が見られた。即ち、絶縁膜21の表面処理の異なる2個の有機電界効果トランジスタ200を用いることで、エタノール濃度が0の時の、出力増幅調整後の2つのトランジスタのドレイン電流の差分を0とすることが可能である。これにより増幅のための信号処理が容易になり、高感度化が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、極性低分子有機化合物の検出、特に呼気からエタノール濃度を測定するためのセンサの使用方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】1.Aは有機電界効果トランジスタ100の構成を示す断面図、1.Bは有機電界効果トランジスタ200の構成を示す断面図。
【図2.A】有機電界効果トランジスタ100の絶縁膜20の表面20sの処理をOTSによって行った場合のガスセンサ特性を示すグラフ図。
【図2.B】有機電界効果トランジスタ100の絶縁膜20の表面20sの処理をHMDSによって行った場合のガスセンサ特性を示すグラフ図。
【図2.C】有機電界効果トランジスタ100の絶縁膜20の表面20sの処理を何ら行わなかった場合のガスセンサ特性を示すグラフ図。
【図2.D】有機電界効果トランジスタ100の絶縁膜20の表面20sの処理をUV/O3によって行った場合のガスセンサ特性を示すグラフ図。
【図3】有機電界効果トランジスタ100の、エタノール(EtOH)濃度0%の時のドレイン電流ID0に対する、各濃度におけるドレイン電流の減少分ΔIDの比ΔID/ID0を示すグラフ図。
【図4.A】絶縁膜20の表面20sの処理の異なる2つの有機電界効果トランジスタ100を用いた場合のガスセンサ特性を示すグラフ図。
【図4.B】絶縁膜20の表面20sの処理の異なる2つの有機電界効果トランジスタ100を用いた場合のガスセンサ特性を示す別のグラフ図。
【符号の説明】
【0021】
100、200:有機電界効果トランジスタ
10:導電性基板
11:誘電体基板
20、21:絶縁膜
20s、21s:絶縁膜の、疎水化処理された表面、又は親水化処理された表面、或いは何ら処理されていない表面
30、31:有機半導体層(有機材料からなるチャネル形成層)
40g、41g:ゲート電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面が外部に暴露された状態の膜状に形成された有機材料から成るチャネル形成層を有する有機電界効果トランジスタを用いた、極性分子を検出するセンサであって、
前記有機電界効果トランジスタとして、第1トランジスタと第2トランジスタの2個のトランジスタを有し、
前記第1トランジスタと前記第2トランジスタとは、前記形成層とゲート電極との間に形成された絶縁層の、前記チャネル形成層との界面状態が異なる他は全て同一に構成されており、
前記第1トランジスタの出力と前記第2トランジスタの出力に基づいて、前記膜状に形成された有機材料が暴露された空間の、前記極性分子の不存在を含む濃度を測定することを特徴とする有機電界効果トランジスタを用いたセンサ。
【請求項2】
前記極性分子が存在しない場合の前記第1トランジスタの出力と前記第2トランジスタの出力とが等しくなるように、前記第1トランジスタの出力の増幅度と前記第2トランジスタの出力の増幅度を調整した後に、
前記極性分子の濃度を測定する際に、当該増幅度が調整済みの、前記第1トランジスタの出力と前記第2トランジスタの出力の差に基づいて、当該濃度を測定することを特徴とする請求項1に記載の有機電界効果トランジスタを用いたセンサ。
【請求項3】
前記第1トランジスタの前記絶縁層の前記チャネル形成層との界面状態と、
前記第2トランジスタの前記絶縁層の前記チャネル形成層との界面状態との差異は、親水性の差であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機電界効果トランジスタを用いたセンサ。
【請求項4】
前記絶縁層は酸化物であって、前記第1トランジスタの前記絶縁層と前記第2トランジスタの前記絶縁層の一方に、前記チャネル形成層との界面にオルガノシリル化処理を行ったものであることを特徴とする請求項3に記載の有機電界効果トランジスタを用いたセンサ。
【請求項5】
前記有機電界効果トランジスタがpチャネルFETであることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の有機電界効果トランジスタを用いたセンサ。
【請求項6】
前記有機材料がペンタセンであることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の有機電界効果トランジスタを用いたセンサ。

【図1】
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【図2.A】
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【図2.B】
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【図2.C】
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【図2.D】
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【図3】
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【図4.A】
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【図4.B】
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【公開番号】特開2009−150714(P2009−150714A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327647(P2007−327647)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】