説明

有機EL表示装置の製造方法

【課題】有機EL表示装置に適したアニール方法を提供する。
【解決手段】
成膜対象物71上にマスク10を配置し、孔11を通過する有機薄膜材料の蒸気によって有機薄膜層を形成した後、マスク10と成膜対象物71との間の相対的な位置関係を変えずに、マスク10のレーザ光29を照射する。孔11を通過したレーザ光29は孔11底面に露出する有機薄膜層に照射され、その有機薄膜層のアニールが行われる。アニール後、マスク10と成膜対象物71との相対的な位置関係を変えずに、孔11を通過した有機蒸着材料の蒸気によって、アニール後の有機薄膜層表面に他の有機薄膜層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機EL表示装置の技術分野にかかり、特に、欠陥の無い有機薄膜層を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、有機薄膜層を用いた有機EL表示装置が注目されている。
図6の符号102は、従来技術の有機蒸着装置である。
この有機蒸着装置102は真空槽103を有しており、該真空槽103内の底壁側には有機蒸着源155が配置され、天井側には基板ホルダ130が配置されている。
【0003】
有機EL表示装置のパネルを形成する際には、予め真空槽103内を真空排気しておき、基板ホルダ130にガラス基板を保持させる。符号108はその状態のガラス基板を示している。このガラス基板108の表面には、予め透明電極膜109が形成されており、その透明電極膜109が有機蒸着源155に面するように、基板ホルダ130上に保持されている。
【0004】
有機蒸着源155は、容器121と、該容器121周囲に巻回されたヒータ123とを有しており、容器121内には、予め、有機材料122が配置されている。
この有機蒸着源155のヒータ123に通電し、有機材料122を昇温させると有機材料122の蒸気が発生し、容器121の開口部分から真空槽103内に放出される。
【0005】
この有機蒸着装置102では、ガラス基板108と有機蒸着源155の間の位置に、マスク110が配置されている。該マスク110は、板状のニッケル合金から成る遮蔽部材113と、該遮蔽部材113に形成された複数の孔111とで構成されている。
【0006】
有機蒸着源155からは、母材となる有機材料の蒸気と、母材中に微少量添加される有機材料(ドーパント)の蒸気とが放出されており、その蒸気によって形成される有機薄膜層は、ドーパントとなる有機材料により、RGBの三原色のうちの一色を発光するようになっている。
【0007】
真空槽103内に放出された有機材料122の蒸気は、孔111を通過し、ガラス基板108上の透明電極膜109表面に到達すると、孔111のパターンに対応するパターンで、透明電極膜109上に有機薄膜層が形成される。
真空槽103内で、有機薄膜層が所定膜厚に形成されたら、ガラス基板108を他の有機蒸着装置に搬送する。
【0008】
上述したように、カラー表示を行うためには、三原色の各一色に対応する有機薄膜層が形成される毎に、マスク110をずらし、三原色のドットが重なり合わないようにする必要がある。
【0009】
ところが、上記従来技術によって形成された有機薄膜層には欠陥があり、発光に寄与しないリーク電流が流れ、寿命が短いという欠点がある。
欠陥のない緻密な膜を作るためには成膜速度を遅くすればよいが、成膜時間が長くなると有機薄膜層の成長中に真空雰囲気中に含まれる水分が混入し、膜質が低下してしまう。また、成膜時間が長いとスループットが低下する。
【0010】
また、膜質を向上させるためには有機薄膜層を加熱アニールすることが考えられるが、基板ホルダ130内に配置されたヒータでガラス基板108を加熱するとマスク110も一緒に加熱され、マスク110の反りや歪みが生じてしまう。
【0011】
他方、加熱のためにマスク110を取り外すと、マスク110と基板108の位置合わせが再度必要になり、スループットが甚だしく低下する。
なお、後述する本発明のように有機薄膜層用の蒸着装置にレーザ照射装置を取りつけたものには下記特許文献1がある。
【特許文献1】特開2002−241925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記課題を解決するために創作されたものであり、その目的は、カラー表示のELパネルに適したアニール方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、一層乃至二層以上の有機薄膜層を積層し、表示ドットを形成する有機EL表示装置製造方法であって、蒸着源と成膜対象物との間にマスクを配置し、前記蒸着源から放出させ、前記マスクの孔を通過し、前記成膜対象物に到達した有機蒸着材料の蒸気によって前記孔の底面下に前記有機薄膜層を形成した後、前記マスクと前記成膜対象物との相対的な位置を変えずに前記孔底面下の前記有機薄膜層にレーザ光を照射し、前記有機薄膜層を昇温させる有機EL表示装置の製造方法である。
また、本発明は、前記レーザ光を照射する有機薄膜層の形成と、該有機薄膜層に対する前記レーザ光の照射は同じ真空槽内で行う有機EL表示装置の製造方法である。
また、本発明は、前記マスクと前記成膜対象物との相対的な位置を変えずに、前記レーザ光が照射された前記有機薄膜層上に他の有機薄膜層を積層させる有機EL表示装置の製造方法。
また、 前記レーザ光の照射と前記他の有機薄膜層の積層は同じ真空槽内で行う請求項3記載の有機EL表示装置の製造方法である。
また、本発明は、前記レーザ光が照射された前記有機薄膜層を形成した後、前記マスクと前記成膜対象物との相対的な位置を変え、前記成膜対象物上に更に他の有機薄膜層を形成する有機EL表示装置の製造方法である。
【0014】
本発明は上記のように構成されており、レーザ光を照射したい有機薄膜層が形成された直後にレーザ光が照射され、レーザ光の照射後は、直ちに次の有機薄膜層の形成を開始できるから、有機薄膜層の膜質が向上するだけでなく、有機薄膜層間の界面の状態が良好である。
【0015】
特に、マスクを除去せずにレーザ光を照射しているため、レーザ光を照射した有機薄膜層の上に他の有機薄膜層を積層する場合でも、位置合わせを行い直す必要が無く、スループットが高い。
【0016】
また、レーザ光を照射する対象となる色の有機薄膜層は孔の底面下に露出しているのに対し、他の色の有機薄膜層はマスクの遮蔽部材の底面下に位置しており、レーザ光が照射されないようになっている。従って、先に形成された色の有機薄膜層にレーザ光が繰り返し照射されることがない。
【発明の効果】
【0017】
レーザ光のアニールにより有機薄膜層の膜質を向上させることができる。アニール時に、マスクの取外し、取付、位置合わせしないで済むので、スループットを落とすことはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1を参照し、符号2は本発明の一例の有機蒸着装置を示しており、該有機蒸着装置2は、真空槽3を有している。
一般に、カラーの有機EL表示装置は、赤色、緑色、及び青色の三色のそれぞれ表示するドットを組み合わせ、所望の映像を表示している。
上記有機蒸着装置2はカラー表示を行う有機EL表示装置を形成するため、真空槽3内の底壁上に、RGBの三色に対応可能な有機蒸着源が配置されている。
【0019】
図3の符号70は、この有機蒸着装置2を用いて形成される有機EL表示装置を模式的に示した図であり、同図のR、G、Bは、RGBの三色に対応したドットを示している。
【0020】
該有機EL表示装置70は、ガラス基板等の透明な基板で構成された成膜対象物71上に、ITO膜から成る透明な陽極層72がパターニングされて配置されており、陽極層72の表面上には、有機蒸着装置2で形成された赤色ドット用ホール注入層74Rと、緑色ドット用ホール注入層74Gと、青色ドット用ホール注入層74Bとが形成されている。
【0021】
そして、赤色ドット用ホール注入層74R上には、赤色ドット用ホール輸送層75Rと、赤色ドット用発光層76Rと、赤色ドット用電子輸送層77Rとがこの順序で積層されており、同様に、緑色ドット用ホール注入層74G上には、緑色ドット用ホール輸送層75Gと、緑色ドット用発光層76Gと、緑色ドット用電子輸送層77Gとがこの順序で積層され、青色ドット用ホール注入層74B上には、青色ドット用ホール輸送層75Bと、青色ドット用発光層76Bと、青色ドット用電子輸送層77Bとがこの順序で積層されている。
【0022】
発光色は発光層76R、G、Bが含有する微量の添加物によって決定されるが、この有機EL表示装置70では、RGB各色の発色性や寿命を向上させるために、発光層76R、G、B以外の各層(ホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層)も、各色毎に最適な有機材料が選択されている。従って、後述するように、各色毎に異なる材質の有機薄膜層が積層される。
【0023】
電子輸送層77R、G、B上には、他の蒸着装置又はスパッタ装置で形成された陰極バッファ層78と陰極層79とがこの順序で積層されており、全体が容器81内に納められ、接着剤82によって密閉されている。
【0024】
陰極バッファ層78と陰極層79とはパターニングされており、外部電源85を陽極層72と陰極層79に接続し、所望の陽極層72と陰極層79を選択してそれらの間に電圧を印加すると、選択された陽極層72と陰極層79の間に挟まれたドットに電圧が印加され、そのドットに対応する色で発光するように構成されている。発光光は成膜対象物71を透過し、外部に射出される。
【0025】
この有機蒸着装置2の有機蒸着源は、上述したように、各種層用の蒸着源を有しており、赤色ドットR、緑色ドットG、青色ドットBの三色に対し、各色毎に異なるホール注入層用蒸着源と、ホール輸送層用蒸着源と、発光層用蒸着源と、電子輸送層用蒸着源が設けられている。
【0026】
図1の符号41R〜44Rは、赤色ドットRのホール注入層用蒸着源と、ホール輸送層用蒸着源と、発光層用蒸着源と、電子輸送層用蒸着源とを示している。緑及び青色ドットG、Bの蒸着源は省略する。
【0027】
赤色ドットのホール注入層用蒸着源41R、ホール輸送層用蒸着源42R、発光層用蒸着源43R、電子輸送層用蒸着源44Rの内部には、ホール注入層用蒸着材料51R、ホール輸送層用蒸着材料52R、発光層用蒸着材料53R、電子輸送層用蒸着材料54Rがそれぞれ配置されている。
【0028】
真空槽3内の天井側には、基板ホルダ30が配置されている。
基板ホルダ30は、マスク移動装置31と、マスク懸吊板32と、基板懸吊板33とを有している。
【0029】
マスク移動装置31は、その一端部が真空槽3の天井に取り付けられており、他端部には、マスク懸吊板32と基板懸吊板33とが、水平な状態で取り付けられている。
【0030】
マスク移動装置31は、真空槽3外に配置されたモータに接続されており、このモータの駆動力によって、マスク懸吊板32と基板懸吊板33とを水平方向に移動させ、また、水平面内で回転させるように構成されている。
【0031】
マスク懸吊板32と基板懸吊板33の四隅には、フック35、36が下方に向けて垂直に取り付けられている。各フック35、36の下端部は、水平方向であって、マスク懸吊板32や基板懸吊板33の辺に沿った方向に曲げられており、その曲げられた部分の上に板状の部材を載置できるように構成されている。
【0032】
図1の符号10は、マスク懸吊板32のフック35によって、基板ホルダ30内に載置されたマスクを示している。また、同図符号71は、基板懸吊板33のフック36によって、基板ホルダ30内に載置された状態のガラス基板から成る成膜対象物を示している。
【0033】
マスク懸吊板32に取り付けられたフック35の下端部は、基板懸吊板33に取り付けられたフック36の下端部よりも下方に位置しており、成膜対象物71はマスク10の真上に位置するようになっている。
【0034】
また、成膜対象物71とマスク10とは、フック35、36によって水平にされており、成膜対象物71は、マスク10に近接した位置に配置されるようになっている。
上記のような有機蒸着装置2を使用し、有機薄膜を積層させる工程について説明する。
【0035】
先ず、基板ホルダ30に成膜対象物71を配置せず、マスク10を装着した状態で真空槽3に接続された真空排気装置48を動作させ、予め真空槽3内を真空排気しておく。
【0036】
次に、所定の圧力に到達した後、真空槽3内の真空雰囲気を維持しながら、基板搬送ロボットによって成膜対象物71を真空槽3内に搬入する。この成膜対象物71はガラス等の透明基板であり、その表面には予めパターニングされた陽極層72が形成されている。陽極層72は露出されており、有機薄膜層は形成されていない状態である。
【0037】
成膜対象物71は、陽極層72が形成された面を下にして基板ホルダ30内に挿入され、上述したように、フック36の下端部上に載置される。
符号34は押さえ板であり、成膜対象物71の上方から降下させ、成膜対象物71表面に密着させ、成膜対象物71がフック36上で動かないようにする。
【0038】
真空槽3の天井にはCCDカメラ38が配置されており、このCCDカメラ38によって、マスク10に形成されたアラインメントマークと成膜対象物71に形成されたアラインメントマークとを観察しながらマスク移動装置31によって、マスク10と成膜対象物71とを相対的に移動させ、位置合わせを行う。
ここで、赤、緑、青の順番で各色のドットを形成するものとすると、孔11が赤色ドットが形成されるべき場所の真上に位置するように位置合わせが行われる。
【0039】
位置合わせ後、成膜対象物71とマスク10とが相対的に静止された状態で、成膜対象物71及びマスク10の中心軸線64を中心に水平面内で回転させながら、先ず、赤色ドット用のホール注入層用蒸着源41Rからホール注入層用蒸着材料51Rの蒸気を放出させる。
【0040】
図4に示すように、マスク10は、板状のニッケル合金で構成された遮蔽部材13を有しており、遮蔽部材13には、複数の孔11が一列に近接配置されたパターンが、一定間隔で繰り返し平行に設けられている。有機薄膜層は、孔11を通過して、成膜対象物71上に到達した有機蒸着材料の蒸気によって形成される。
【0041】
ホール注入層用蒸着材料51Rの蒸気が孔11を通過すると、成膜対象物71の陽極層72上の、赤色ドットが形成されるべき位置の表面に赤色ドット用ホール注入層74Rが形成される。
【0042】
次に、 ホール注入層用蒸着材料51Rの蒸気放出を停止させ、赤色ドット用のホール輸送層用蒸着源42Rからホール輸送層用蒸着材料52Rの蒸気を放出させると、その蒸気は孔11を通過し、赤色ドット用ホール注入層74Rの表面に到達し、その上に赤色ドット用ホール輸送層75Rが形成される。
【0043】
本発明の有機蒸着装置2は、レーザ光発生装置27と、反射手段21と、反射手段移動装置24とを有している。
レーザ光発生装置27は真空槽3の外部に配置されており、該レーザ光発生装置27が射出するレーザ光は、真空槽3に設けられた透明な窓26を通って真空槽3内に入射するように構成されている。
【0044】
反射手段21は、真空槽3内であって、真空槽3内に入射するレーザ光の光路上に配置している。従って、真空槽3内に入射したレーザ光は反射手段21に照射される。
【0045】
この反射手段21は、支持部材23を介して反射手段移動装置37に取り付けられており、反射手段移動装置37を動作させ、支持部材23を伸縮させることで、レーザ光の光路上を移動できるように構成されている。
反射手段21の照射されたレーザ光は、真空槽3の天井側、即ち、マスク10が配置されている方に反射させれる。
【0046】
反射手段21は、有機薄膜層の成膜中は、蒸着源と成膜対象物71の間の位置から退避されており、反射手段移動装置37によって反射手段21を移動させ、反射手段21をマスク10の下方に位置させた状態でレーザ光が照射されると、反射されたレーザ光はマスク10に照射される。
【0047】
図2の符号29は、レーザ光発生装置27から射出され、反射手段21によって反射されたレーザ光を示しており、マスク10に向かって反射されたレーザ光29は、遮蔽部材13に照射されると遮光され、成膜対象物71には到達せず、孔11に照射されると、孔11を通過し、孔11の後方に位置する赤色ドット用ホール輸送層75Rに照射される。レーザ光29の照射により、赤色ドット用ホール輸送層75Rは昇温しアニールされる。このアニールにより、赤色ドット用ホール輸送層75Rの膜質が向上し、欠陥が消失する。
【0048】
レーザ光29を照射しながら反射手段21を移動させ、マスク10上のレーザ光29の照射位置を走査し、孔11の底面下に位置する全ての赤色ドット用ホール輸送層75Rにレーザ光29を照射し、アニールを行う。レーザ光29を照射するときは、回転軸線64を中心としたマスク10と成膜対象物71の回転は停止しておき、後述するように、有機薄膜層の形成が再開されると、回転も再開する。
【0049】
レーザ光29を照射している間も真空排気装置48は動作しており、赤色ドット用ホール輸送層75Rから放出された不純物ガス成分は真空排気される。
レーザ光29は、ホール輸送層用蒸着材料52Rの蒸気が通過したのと同じ孔11を通過するので、赤色ドット用ホール輸送層75Rが形成されていない部分には照射されない。
【0050】
下記表1、2は、ホール輸送層蒸着材料52Rの物質の一例と、その一部の特性値を記載した表である。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
ホール輸送層のアニールはホール輸送層蒸着材料のガラス転移温度(Tg)よりも低い温度で行う。 なお、赤色ドット用ホール輸送層75Rにレーザ光29を照射する間、有機材料が配置された各蒸着源は、その上のシャッターを閉じておき、真空槽3内に放出された不純物成分が蒸着源内に浸入しないようにしておく。
図1、図2の符号22は反射手段21を収容する収容部材であり、真空槽3の壁面に設けられている。
【0054】
上記のようにレーザ光29を照射してアニールを行った後、反射手段21をマスク10の下方位置から退避させ、収容部材22内に収容しておき、各層の有機蒸着材料の蒸気が真空槽3中に放出される際に、反射手段21が蒸気の成膜対象物71への到達を邪魔することがないようにしておく。
【0055】
そして、赤色用の発光層用蒸着源43Rと電子輸送層用蒸着源44Rから、順次、赤色用の発光層用蒸着材料53Rと電子輸送層用蒸着材料54Rの蒸気を真空槽3内に放出させ、赤色ドット用発光層76Rと、赤色ドット用電子輸送層77Rとを、赤色ドット用ホール輸送層75Rの表面にこの順序で形成する。
【0056】
赤色ドット用ホール注入層74Rの形成から赤色ドット用電子輸送層77Rの形成までの間、マスク10は成膜対象物71に対して移動しておらず、即ち、マスク10と成膜対象物71は、相対的に同じ位置関係を維持している。
【0057】
従って、最初に形成された赤色ドット用ホール注入層74R上に、アニールされた赤色ドット用ホール輸送層75Rと、残りの赤色ドット用発光層76Rと赤色ドット用電子輸送層77とがこの順序で積層される。
【0058】
赤色ドット用電子輸送層77が形成された後、マスク10を移動させ、マスク10と成膜対象物71とを相対的に位置合わせし、緑色ドットが形成されるべき場所の真上に孔11を位置させる。
【0059】
その状態で緑色ドット用のホール注入層用蒸着源(41G)、ホール輸送層用蒸着源(42G)、発光層用蒸着源(43G)、電子輸送層用蒸着源(44G)から、緑色ドット用のホール注入層用蒸着材料(51G)、ホール輸送層用蒸着材料(52G)、発光層用蒸着材料(53G)、電子輸送層用蒸着材料(54G)の蒸気が真空槽3内にそれぞれ放出されると、緑色ドット用ホール注入層74Gと、緑色ドット用ホール輸送層75Gと、緑色ドット用発光層76Gと、緑色ドット用電子輸送層77Gとがこの順序で積層される。
【0060】
アニール対象の緑色ドット用ホール輸送層75Gが形成された後、その有機薄膜層に密着配置される緑色ドット用発光層76Gが形成される前に、反射手段21を移動させながらレーザ光発生装置27からレーザ光29を射出し、反射によって孔11の底面下に位置する緑色ドット用ホール輸送層75Gに照射し、アニールを行う。
【0061】
このとき、既に形成されている赤色ドット(赤色ドット用電子輸送層77Rやその他の赤色用有機薄膜層)の上には遮蔽部材13が位置しており、赤色ドット用電子輸送層77Rにはレーザ光29は照射されない。
【0062】
なお、緑色ドット用ホール注入層74Gの形成から緑色ドット用電子輸送層77Gの形成までの間、マスク10は成膜対象物71に対して移動しておらず、マスク10と成膜対象物71とは、相対的に同じ位置に配置されており、緑色の各有機薄膜層74G〜77Gは同じ位置に積層される。
【0063】
次に、緑色ドットが形成された後、緑色ドットの場合と同様に、マスク10を移動させ、マスク10と成膜対象物71とを相対的に位置合わせし、青色ドットが形成されるべき場所の真上に孔11を位置させる。
【0064】
そして、青色ドット用のホール注入層用蒸着源(41B)、ホール輸送層用蒸着源(42B)、発光層用蒸着源(43B)、電子輸送層用蒸着源(44B)から、青色ドット青色ドット用のホール注入層用蒸着材料(51B)、ホール輸送層用蒸着材料(52B)、発光層用蒸着材料(53B)、電子輸送層用蒸着材料(54B)の蒸気がそれぞれ放出されると青色ドット用ホール注入層74Bと、青色ドット用ホール輸送層75Bと、青色ドット用発光層76Bと、青色ドット用電子輸送層77Bとがこの順序で積層される。
【0065】
アニール対象の青色ドット用ホール輸送層75Bが形成された後、その表面に密着配置される青色ドット用発光層76Bが形成される前に、反射手段21を移動させながらレーザ光発生装置27からレーザ光29を射出し、反射させて孔11の底面下に位置する青色ドット用ホール輸送層75Bに照射し、アニールを行う。
このとき、既に形成されている赤色ドットと緑色ドットの上には遮蔽部材13が位置しており、レーザ光29は照射されない。
【0066】
以上のように、蒸着に対する遮蔽とレーザ光に対する遮光が同じマスク10で行われるため、マスクを移動させた後は、既に形成された色のドット上にはレーザ光29は照射されない。
【0067】
ホール輸送層75R、G、Bの種類によって最適なアニール温度が異なる場合、各色毎にレーザ光の強度を変えればよい。適切な強度のレーザ光29でマスク10上を走査した場合、孔11底面下のホール輸送層75R、G、Bに最適な強度のレーザ光29が照射され、最適な温度に昇温させることができる。
【0068】
図4の符号Dは、隣接する列の孔11の中心同士の間隔であり、図5のR、G、Bは、図4のマスク10によって形成された赤色ドットの列と、緑色ドットの列と、青色ドットの列を示している。隣接する色のドットの中心同士の間隔dは、マスク10の孔11の間隔Dの1/(色数=3)である。間隔dが、位置合わせの際のマスク10と成膜対象物71との間の相対的な移動量である。移動方向は、ドット列の長手方向とは垂直な方向である。
【0069】
青色ドット用電子輸送層77Bが形成された後、成膜対象物71を有機蒸着装置2から搬出し、他の成膜装置によって陰極バッファ層78と陰極層79とをこの順序で形成し、パターニングした後、容器81に封止すると有機EL表示装置70が得られる。
【0070】
なお、以上はホール輸送層をレーザ光でアニールする場合について説明したが、本発明のアニール対象はそれに限定されるものではなく、他の層をアニールすることも可能である。
【0071】
また、本発明を適用可能な有機EL表示装置はカラー表示の有機EL表示装置に限定されるものではなく、モノカラーの有機EL表示装置にも適用することができる。
【0072】
また、カラーの有機EL表示装置の場合、本発明は同色のドットが一列に並んでいるものに限定されるものではなく、同じマスクを用いて異なる色のドットを形成できるものに広く使用することができる。
【0073】
上記有機蒸着装置2は、一台の真空槽3内でRGB三色のドットを形成したが、本発明は異なる真空槽内でドットを形成する場合も含まれる。例えば、赤色ドットR用の真空槽と、緑色ドット用の真空槽と、青色ドット用の真空槽とが個別に設けられた有機蒸着装置も本発明に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に用いることができる有機蒸着装置
【図2】その有機蒸着装置を用いたアニール方法を説明するための図
【図3】本発明によって製造される有機EL表示装置
【図4】本発明に用いるマスクの一例
【図5】本発明によって形成されるカラードットを説明するための図
【図6】従来技術を説明するための図
【符号の説明】
【0075】
2……有機蒸着装置
3……真空槽
10……マスク
11……孔
13……遮蔽部材
29……レーザ光
41R〜44R……赤色ドット用の有機蒸着源(緑色ドット用の有機蒸着源(41G)〜(44G)と青色ドット用の有機蒸着源(41B)〜(44B)は不図示である)
51R〜54R……赤色ドット用有機蒸着材料の(緑色ドット用の有機蒸着材料(51G)〜(54G)と青色ドット用の有機蒸着材料(51B)〜(54B)は不図示である)
70……有機EL表示装置
71……成膜対象物
74R〜77R……赤色ドット用の有機薄膜層
74G〜77G……緑色ドット用の有機薄膜層
74B〜77B……青色ドット用の有機薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一層乃至二層以上の有機薄膜層を積層し、表示ドットを形成する有機EL表示装置製造方法であって、
蒸着源と成膜対象物との間にマスクを配置し、
前記蒸着源から放出させ、前記マスクの孔を通過し、前記成膜対象物に到達した有機蒸着材料の蒸気によって前記孔の底面下に前記有機薄膜層を形成した後、
前記マスクと前記成膜対象物との相対的な位置を変えずに前記孔底面下の前記有機薄膜層にレーザ光を照射し、前記有機薄膜層を昇温させる有機EL表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記レーザ光を照射する有機薄膜層の形成と、該有機薄膜層に対する前記レーザ光の照射は同じ真空槽内で行う請求項1記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項3】
前記マスクと前記成膜対象物との相対的な位置を変えずに、前記レーザ光が照射された前記有機薄膜層上に他の有機薄膜層を積層させる請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記レーザ光の照射と前記他の有機薄膜層の積層は同じ真空槽内で行う請求項3記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光が照射された前記有機薄膜層を形成した後、前記マスクと前記成膜対象物との相対的な位置を変え、前記成膜対象物上に更に他の有機薄膜層を形成する請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−140085(P2006−140085A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330376(P2004−330376)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】