説明

有機EL表示装置の製造方法

【課題】有機EL素子の各画素に同一マスクを用いて複数の非共通層を蒸着した場合の位置ずれによる蒸着欠陥を低減する。
【解決手段】有機EL素子のキャリア輸送層と発光層を同一のマスク20を用いて連続的に成膜する。キャリア輸送層の蒸着によって発生するマスク20と基板10の熱膨張に伴う変位の差分に応じて、発光層の蒸着工程においては、両側のポイントソース31a、31cの放射角θ2をキャリア輸送層の蒸着時より広げて蒸着する。キャリア輸送層の外縁を囲むように発光層の外縁部を回り込ませることで発光層に欠陥が発生するのを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置は複数の有機EL素子を含み、各有機EL素子が画素を構成する。各有機EL素子では、電子注入電極およびホール注入電極からそれぞれ電子及びホールが発光層に注入され、それらキャリアが発光層とキャリア輸送層との界面または界面近傍の発光層内部で再結合する。それにより、有機分子が励起状態になり、この有機分子が励起状態から基底状態に戻るときに蛍光あるいは燐光が発生する。
【0003】
有機EL表示装置では、その駆動方式はパッシブ駆動とアクティブ駆動の2種類に大別されるが、大面積かつ高精細な表示を画素ごとに精度よく制御するにはアクティブ駆動が適しており、平面表示装置としてはアクティブ駆動方式が主流になると考えられている。アクティブ駆動の有機EL表示装置では、複数の有機EL素子がマトリクス状に配置されており、各画素に薄膜トランジスタ(TFT)をスイッチング素子として備えている。
【0004】
フルカラーの有機EL表示装置は、赤色に発光する有機EL素子からなる画素(R画素)、緑色に発光する有機EL素子からなる画素(G画素)、青色に発光する有機EL素子からなる画素(B画素)により構成される。
【0005】
各有機EL素子は、ホール注入電極(アノード)と電子注入電極(カソード)との間に、少なくともキャリア輸送層、発光層、電子輸送層が順次形成された積層構造を有する。
【0006】
ところで近年では、有機EL表示装置をモバイル機器へ搭載した製品が出始めているが、未だ消費電力が高すぎるという課題が残されている。このため有機EL表示装置では、既存の表示品位を損なうことなく消費電力の低減を図る手段として、基板面法線方向への光取り出し効率を向上させることが重要な課題となっている。
【0007】
このような課題に対し、有機EL素子内部で発光した光を素子の厚さ方向に干渉させ、強め合った光を外部に効率よく取り出せる光共振構造を応用した技術が活発に研究開発されるようになってきた。
【0008】
この光共振構造を利用する有機EL素子は、アノードとカソードから成る一対の電極を反射面とし、それら反射面間に挟まれた複数の層内にて共振させた発光を外部に取り出す仕組みになっている。
【0009】
R、G、Bの各画素の光取り出し効率をそれぞれで高めるには、各画素の発光波長に対して最適な共振条件を設定するのが好ましく、反射面間に挟まれた層の膜厚を発光色ごとに設定する。たとえば膜厚をR、G、B各画素で発光層とキャリア輸送層は異なる膜厚に設定するのが好ましい。
【0010】
一般に、有機EL表示装置の有機層の形成には真空蒸着が用いられる。
【0011】
基板に形成された有機EL素子を構成する複数の層には、R、G、B各画素で共通の材料を共通の厚さで形成した共通層と、画素毎で異なる厚さ、あるいは異なる材料で形成した非共通層と、を含んでいる。上記した光共振構造を備えた有機EL素子では発光層とキャリア輸送層が非共通層に該当する。
【0012】
通常、有機EL表示装置の有機層の形成には真空蒸着装置が用いられ、非共通層は微細な開口を備えたマスクを用いて選択的に蒸着し、塗り分けを行う。
【0013】
図5に示す真空蒸着装置は、真空チャンバー内の蒸着源130の上方に距離Lの間隔をおいてマスク120及び基板110が配置され、また距離gの間隔をおいてマスク120と基板110が配置されている。蒸着源130の近傍には防着板155が設けられ、基板110に向かって蒸発する材料の放射角θを任意に制御できるようになっている。さらに、基板110及びマスク120に対して、相対的に蒸着源130が移動できるような機構を備えている。
【0014】
このような装置を用いて、同一の画素に複数の非共通層を積層する場合、同一のマスクを用いて各層を連続して蒸着する製造方法が特許文献1などで知られている。この製造方法によれば、各層に合わせて別のマスクを用いた蒸着をする場合に比べアライメント回数を減らせるため、位置ずれ精度の低下を抑制でき、またタクトを短縮することができるメリットがある。
【特許文献1】特開2003−317958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし上記従来の有機EL表示装置の製造方法には、以下のような課題があった。
【0016】
有機EL素子に含まれる有機層を蒸発させるときの蒸着源は高温に加熱されるため、それと対向して配置されるマスク及び基板は蒸着源からの輻射熱を受け、熱変形を起こす。
【0017】
たとえば熱変形したマスクは模式的には図6に示すようになる。基板及びマスク中央にある点Aの下方に蒸着源が配置されている場合、図6に破線で示すような楕円形の温度分布が形成され、X方向及びY方向にマスクが膨張する。このため熱膨張前後の変位はマスクの点Bを含む外周部近傍でY方向に最も大きくなる。ここではマスクの変位について記載しているが、基板もほぼ同様の傾向をもった変形を生じる。
【0018】
基板の支持体にはガラスを、また蒸着用のマスクには金属を用いており、互いの熱膨張率が異なることから熱変形に伴う基板とマスクの変位には差が生ずる。このため蒸着前での基板とマスクとのアライメント位置は、蒸着過程においてずれを生じる。
【0019】
また、基板の熱容量がマスクに比べて十分に大きく、基板の温度変化の時定数がより大きいため、蒸着期間においてマスクは飽和温度にほぼ到達するが、基板は飽和温度に至らない。このため複数の非共通層を順に蒸着する過程において、蒸着期間でのマスクと基板との上昇温度の差は減少する傾向を示す。すなわち、蒸着時間が経過するにつれて、マスクの熱変位よりも基板の熱変位が大きくなる。
【0020】
また多くの場合、蒸着源の温度は蒸着材料によって異なるので、蒸着材料によってもマスク及び基板の熱変位には差が生じる。
【0021】
図5の装置を用いて、非共通層としてキャリア輸送層と発光層を連続して蒸着した場合の、基板とマスクとのアライメント状態を詳細に説明する。
【0022】
図5の蒸着装置において、L=200mm、g=0.01mm、θ=20°とし、そのときの点Bにおける基板やマスクの温度変化を解析的に求めた結果を表1に示す。また、基板及びマスクの広さを400mm×500mmとした場合の点BにおけるY方向の熱変位も表1に示した。
【0023】
【表1】

ここに示した解析では、熱膨張率はそれぞれ基板で約4ppm、マスクで約1.5ppmとし、熱変位δの算出には下式を用いた。下式では熱膨張率をα、変位に寄与する部材の長さをS、上昇温度をΔTとした。
【0024】
[数1]
δ= α×S×ΔT
まず蒸着前にマスクと基板のアライメントを行う。この工程では、真空チャンバー内に設置されている基板及びマスクは加熱されていないため、それらの温度は23℃で等しい。
【0025】
次に、350℃に加熱された蒸着源によりキャリア輸送層を蒸着する過程で、基板とマスクは互いに温度上昇し、それに応じて熱変形を生じる。マスクの上昇温度(ΔTm)は約37℃、基板の上昇温度(ΔTs)は約16℃となる。この結果、マスクの外周近傍(図6の点B(点Aから180mmの箇所))における熱変位は約10μm、基板の外周近傍(図6の点B)の熱変位は約12μmで、その差分は約2μmとなる。
【0026】
連続して400℃に加熱された蒸着源により発光層を蒸着する過程で、基板とマスクはさらに蒸着源からの熱輻射を受け、熱変位を生じる。マスクの上昇温度は約10℃、基板の上昇温度は約10℃となる。この結果、マスクの外周近傍(図6の点B)における熱変位はさらに約2μm、基板の外周近傍(図6の点B)の熱変位はさらに約7μmであり、その差分はさらに約5μm増え、全部で7μmの差分になる。
【0027】
上述からわかるように、同一のマスクを使っている場合、蒸着過程における熱変形によりマスクに対して基板の位置ずれが数μmのオーダーで生じ、またそのずれは経時的に変化を起こす。
【0028】
このような位置ずれが生じると、有効発光領域内においてキャリア輸送層と電子輸送層が接触する部分が形成され、電流リーク欠陥の原因となる。またそれらキャリア輸送層の材料によっては、欠陥箇所で所望の発光色とは異なる色を発光し、画素内で混色する場合もある。特に、このようなアライメントずれに伴う問題は、基板の大判化、また表示の高精細化に伴う画素の微細化において顕著になるため、生産の高効率化と表示装置の高品位化との両立を図る際に大きな障害となると考えられる。
【0029】
例えば、モバイル機器等に搭載される高精細な有機EL表示装置において要求される位置ずれ精度は±3μm〜±10μmの範囲である。位置ずれの要因は、熱膨張以外にもアライメント機器精度、マスク加工精度、基板加工精度などがあり、実際の製造工程で生じる位置ずれはこれら複数の要因で決まる。このため、熱膨張による経時的な位置ずれが数μmのオーダーで生じると、同一の画素に複数の非共通層を精度よく成膜することが困難になる。
【0030】
本発明は、同一マスクを用いて複数の非共通層を蒸着した場合の位置ずれを低減して歩留まりを向上させるとともに、高精細な表示においても有効発光面積の低下を抑制して表示品位を確保できる有機EL表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の有機EL表示装置の製造方法は、異なる色の画素を構成する複数の有機EL素子を備え、前記複数の有機EL素子は、それぞれ、基板の電極に形成された画素分離膜、キャリア輸送層及び発光層を含む有機EL表示装置の製造方法において、基板に対向するマスクを用いてキャリア輸送層を蒸着する第1工程と、前記第1工程と同一のマスクを用いてキャリア輸送層の上に発光層を蒸着する第2工程と、を有し、前記第1工程で発生するマスクと基板の熱膨張に伴う位置ずれに応じて、前記第2工程における発光層の蒸着源の放射角を前記第1工程におけるキャリア輸送層の蒸着源の放射角より大きくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
同一マスクを用いて異なる層を連続して蒸着した場合の位置合わせ精度を向上させ、画素欠陥数を低減することで歩留まりを向上することができる。同時に、有効発光面積の低下を抑制できるため、高精細な表示においても表示品位を確保しやすくなる。
【0033】
その結果、高品質な有機EL表示装置を安定的に生産できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基いて説明する。
【0035】
図1は、一実施形態による有機EL表示装置の製造方法を説明する図である。また、図2は、製造された有機EL素子の画素を示すもので、基板10の上に形成されたアノード(電極)11、画素分離膜12、キャリア輸送層13及び発光層14を有する。
【0036】
図1の(a)は、有機EL素子の基板10にマスク20を介してキャリア輸送層13を形成するための蒸着装置を示し、真空チャンバー内にY方向に間隔Yをおいて配置した複数のポイントソース(蒸着源)30a〜30cを有する。ポイントソース30a〜30cの上方に、距離Lの間隔をおいてマスク20及び基板10が配置され、両者は互いに距離gの間隔をおいて対向する。各ポイントソース30a〜30cの近傍には防着板50a〜50fが設けられ、基板10に向かって蒸発する材料の放射角θ1を制限している。さらに、基板10及びマスク20に対して、相対的にポイントソース30a〜30cがX方向に移動できるような機構を備えている。
【0037】
図1の(a)、(b)に示す蒸着装置は、Y方向に並列配置したポイントソースを3つ備えている。ポイントソースの数は基板の大きさによって決定される。また、ポイントソース以外の蒸着源であってもかまわない。たとえば一般的なリニアソースや面蒸着源であってもよい。
【0038】
図1の(a)は、キャリア輸送層13の蒸着装置のY−Z断面を示す。各ポイントソース30a、30b、30cと基板10との距離Lは同一で、また防着板50a〜50fにより制限されるY方向への放射角θ1も揃っている。各ポイントソース30a、30b、30cは等間隔で配置される。
【0039】
図1の(b)は、発光層14を蒸着するときの蒸着装置のY−Z断面を示す。ポイントソース(蒸着源)31a、31cと基板10との距離L2はポイントソース(蒸着源)31bと基板10との距離L1よりも短くなっており、また放射角もポイントソースごとに異なるように設定してある。
【0040】
中央のポイントソース31bは防着板51c、51dによる左右対称の放射角θ1であるのに対し、両側のポイントソース31a、31cの防着板51a51b、51e、51fによる放射角θ2、θ3は左右で非対称である。そして、基板外側に向いた放射角θ2に比べて内側に向いた放射角θ3は小さい。ポイントソース31a〜31cは間隔Y1で等間隔に配置される。
【0041】
図1の(b)の間隔Y1は、(a)の間隔Yと同じでもよいが、実際には放射角θ2及びθ3を如何に設定するかによって決定される。
【0042】
主に基板外周の蒸着を担っているポイントソース31a、31cをこのような設定にしているのは、点Bを含む基板外周では基板10への入射角をキャリア輸送層の蒸着時よりも広く(大きく)して、画素内の膜厚均一性を維持するためである。
【0043】
次に、マスクアライメントから発光層を蒸着するまでの工程を説明する。
【0044】
なお、説明の都合上、熱変位及び着膜ずれに関する説明はY方向に限定して記載する。輻射熱によりマスク及び基板はX及びY方向にそれぞれ膨張するが、図1に示した構造をもつ蒸着装置では、X方向には温度勾配が形成されるのに対し、Y方向はほぼ基板中心温度と同じとなる。このため、熱膨張に伴うマスク20と基板10の変位差はY方向で顕著になるからである。
【0045】
まず、23℃に管理された真空チャンバーにおいてマスク20と基板10とをアライメントする。アライメント後は基板10とマスク20とは一定の間隔gで対向する状態となる。
【0046】
次に、図1の(a)に示す装置においてキャリア輸送層13を所定の時間蒸着する(第1工程)。次に、キャリア輸送層13の蒸着で用いたマスク20と基板10の状態を維持したまま、図1の(b)の装置において引き続き発光層14を所定の時間蒸着する(第2工程)。蒸着の際にはポイントソース群がX方向に往復移動して蒸着を行うことで、基板全面に均一な膜を形成する。
【0047】
このような蒸着過程を経て形成された基板上の点A及び点Bにおける画素の断面を図2に示した。
【0048】
図2の(a)に示すように、基板中央にある点Aでは蒸着過程における熱変位の影響を無視できるので、2層を連続して蒸着する間にマスク20に対して基板10がずれることがない。したがってキャリア輸送層13と発光層14との位置ずれをほとんど生じない。このため素子分離膜12で囲まれたアノード11に相当する有効発光領域において蒸着欠陥は発生し得ない。
【0049】
一方、図2の(b)に示すように、基板外周にある点Bでは、連続した蒸着過程においてマスク20及び基板10の温度が上昇して熱膨張を起こす。このため、発光層14を蒸着する時にはマスク20と基板10の間に数μmオーダーの位置ずれが発生し、有効発光領域の一部がマスク20の影になる領域に重なってしまう。
【0050】
ただしマスク20及び基板10の熱変形の方向には再現性があるため、予めその方向を見込むことが可能である。そこで、ポイントソース31a、31cの基板10への放射角θ2を放射角θ1より大きく設定することで、点B近傍の領域にだけ基板10とマスク20との間に回り込み蒸着を行わせる。
【0051】
つまり、図1の(b)に示すようにマスク20に対して基板10が+Y方向にずれる場合には、予め発光層14の蒸着における放射角θ2をキャリア輸送層13での放射角θ1よりも大きく、広めに設定する。これによって、マスク20の影となる領域を含む幅W2の領域にも発光層14を蒸着できる。このように、素子分離膜12の上に発光層14の端部を形成できるため、有効発光領域において蒸着欠陥は発生しない。
【0052】
図3の(a)、(b)は、図2で示した点A及び点Bにおける画素を示す平面図である。点Bを示した図3の(b)からわかるように、発光層14の境界は画素間の非発光領域内に形成されたキャリア輸送層13の境界を囲むように蒸着される。
【0053】
本実施形態によれば、同一マスクを用いて異なる層を連続して蒸着した場合のアライメント精度を向上させ、画素欠陥数を低減することで歩留まりを向上させることができる。また同時に、有効発光面積の低下を抑制できるため、高精細な表示においても表示品位を確保しやすくなる。したがって、同一画素に複数の非共通層を備えた光共振構造を利用した有機EL表示装置を安定生産できるようになる。
【0054】
なお、本実施形態では、基板とマスクの位置関係については、相対的に基板が上側、マスクが下側に存在するものとしているが、真空蒸着装置においては、基板がマスクに対して下方に保持されることもある。また、リニアソース蒸着等においは、基板及びマスクが縦に保持されることもある。
【実施例】
【0055】
光共振構造を備えた有機EL素子を画素ごとに設けたRGBカラー有機EL表示装置を、以下の方法により作製した。
【0056】
広さ500mm(X方向)×400mm(Y方向)の基板上に、解像度200ppi相当、有効発光面積率50%の有機EL表示装置を形成した。副画素ピッチは60μm(X方向)×120μm(Y方向)、隣接する有効発光領域間の間隔は15μmとし、そこに素子分離膜を配置する。また許容できる蒸着膜の位置ずれ精度を±7μmとした。
【0057】
まず支持体としてのガラス基板上に低温ポリシリコンからなるTFTを含む駆動回路を形成し、TFTを含む駆動回路表面には、それらを保護するために窒化珪素膜SiNxと酸化珪素膜SiOxからなる積層膜を配置した。さらにその上にアクリル樹脂からなる平坦化膜を積層して、基板を作製した。
【0058】
基板上にはアノードとして、アルミニウム合金(AlNiNd)と透明導電膜(IZO)をスパッタリング法により連続成膜し、その後フォトリソ工程及びウェットエッチング工程を通して所定の形状にパターニングした。なお、アノードとTFTのドレイン電極とは、コンタクトキャリアを介して電気的に接続してある
次に感光性ポリイミド樹脂を用いて素子分離膜を形成した。素子分離膜の側面には緩やかな傾斜を設けた。素子分離膜を形成後、UV/オゾン洗浄を行いアノード表面にわずかに残った樹脂を十分に除去した。
【0059】
次に図1の(a)に示した蒸着装置により、複数の有機化合物を順次堆積した。
【0060】
まず、23℃に管理された真空チャンバーにおいてR画素に対応した個所に開口を備えたマスク20と基板10とをアライメントし、アライメントが完了した状態において基板10とマスク20との距離(間隔)gを10μmとし、互いを離間した状態を安定に維持した。
【0061】
次に、350℃に加熱されたポイントソース30a〜30cをX方向に移動させつつ、キャリア輸送層を2分間蒸着した。ポイントソース30a〜30cとマスク20との距離Lを200mmとし、放射角θ1を20°とした。また3つのポイントソース間の間隔Yを130mmとした。
【0062】
この過程で基板10とマスク20は互いに温度上昇し、点Bを含む基板外周近傍におけるマスク20の熱変位は約10μm、また基板10の熱変位は約12μmとなった。この結果、熱膨張の影響でマスク20よりも基板10が約2μm膨張したが、これは位置ずれ精度の許容範囲にあり、有効発光領域内での蒸着欠陥を生じなかった。
【0063】
続いて、マスク20と基板10との位置関係を維持した状態で、図1の(b)に示すように、400℃に加熱されたポイントソース31a〜31cをX方向に移動させつつ、R画素用の発光層を2分間蒸着した。ポイントソース31bとマスク20との距離L1を200mmとし、ポイントソース31a、31cとマスク20との距離L2を150mmとし、またポイントソース間の距離Y1を120mmとした。このとき放射角θ3は20°、θ2は25°とした。
【0064】
この段階でも基板10とマスク20は蒸着源からの熱輻射を受けるため、点Bにおけるマスク20の熱変位は約2μm、点Bに対応する基板10の熱変位は約7μmとなり、熱膨張の影響でマスク20よりも基板10がさらに約5μm膨張した。
【0065】
つまり図2の(b)に示すように、点Bにおける画素はマスク20の開口に対して約5μmの熱変位によるずれW1を生じた。しかし点Bにおいては、前述の通り熱変位によってずれが生じる方向に対応させて基板10への放射角θ2を広くし、発光層を基板10とマスク20との間に約5μmの幅W2だけ回り込ませた。
【0066】
この結果、点Bを含む基板外周近傍の画素でもキャリア輸送層及び発光層の端部は素子分離膜上にあり、有効発光領域での蒸着欠陥は発生しなかった。
【0067】
次に、G画素、B画素のキャリア輸送層及び発光層を、R画素と同様の手順で所定の厚さの膜厚に蒸着した。この結果、G画素及びB画素でも有効発光領域での蒸着欠陥は発生しなかった。
【0068】
次に、表示領域全面に共通層の電子輸送層を形成した。次に、カソードとして、銀合金(AgNdCu)の薄膜を蒸着法で成膜し、連続して透明導電膜(IZO)をその上にスパッタリングにより積層した。その後保護層として、窒化酸化シリコンをCVD法により成膜した。
【0069】
本実施例によれば、同一のマスクを用いて異なる層を連続して蒸着した場合にも、着膜ずれによる画素欠陥を低減できた。また有効発光面積の低下を抑制できたため、200ppiという高精細な表示においても50%の開口率を実現することができた。これらにより、光取り出し効率の高い光共振構造を備えた有機EL表示装置を安定して生産でき、歩留まりを向上させることができた。
(比較例)
図5の従来例による蒸着装置を用いて上記実施例と同様の条件で、光共振構造を備えた有機EL素子を画素ごとに設けたRGBカラー有機EL表示装置を作製した。
【0070】
図4に示すように、発光層114の蒸着装置は、アノード111上のキャリア輸送層113と同様とし、キャリア輸送層113と発光層114の基板面内における蒸着物の基板110への放射角θを同じにした。そして、同一のマスク120を用いてキャリア輸送層113と発光層114を連続して蒸着した。発光層114を蒸着する過程では、上記実施例と同様に、基板110とマスク120は蒸着源からの熱輻射を受けたため、点Bにおけるマスクの熱変位は約2μm、点Bに対応する基板の熱変位は約7μmとなった。このように、熱膨張の影響でマスク120よりも基板110が約5μm大きく変位した。この蒸着の過程を経て形成される点Aおよび点Bにおける画素の断面を図4に示した。
【0071】
図4の(a)に示した点Aにおける画素は、上記実施例と同じく蒸着ずれはなく欠陥は発生しないが、同図の(b)に示した点Bにおいては有効発光領域Pの一部がマスク120の影と重なり、幅W3の領域にだけ発光層114の蒸着欠陥が生じた。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】一実施形態を説明する図である。
【図2】基板とマスクの熱変形による画素のずれを断面で説明する図である。
【図3】図2の画素のずれを平面で示す図である。
【図4】比較例による画素のずれを説明する図である。
【図5】従来例による蒸着装置を示す図である。
【図6】マスクの熱変形を説明する図である。
【符号の説明】
【0073】
10 基板
11 アノード
12 素子分離膜
13 キャリア輸送層
14 発光層
20 マスク
30a〜30c、31a〜31c ポイントソース
50a〜50f、51a〜51f 防着板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる色の画素を構成する複数の有機EL素子を備え、前記複数の有機EL素子は、それぞれ、基板の電極に形成された画素分離膜、キャリア輸送層及び発光層を含む有機EL表示装置の製造方法において、
基板に対向するマスクを用いてキャリア輸送層を蒸着する第1工程と、
前記第1工程と同一のマスクを用いてキャリア輸送層の上に発光層を蒸着する第2工程と、を有し、
前記第1工程で発生するマスクと基板の熱膨張に伴う位置ずれに応じて、前記第2工程における発光層の蒸着源の放射角を前記第1工程におけるキャリア輸送層の蒸着源の放射角より大きくすることを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程において、キャリア輸送層を囲むように発光層を回り込ませることを特徴とする請求項1記載の有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−305560(P2008−305560A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148841(P2007−148841)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】