説明

末梢静脈栄養輸液

【課題】複室容器の一室に糖溶液を収容し、他室にアミノ酸を収容した複室容器入り末梢静脈投与用輸液において、使用時に隔壁を開通させなかった場合であっても電解質成分であるカリウムイオンが高濃度で投与される危険性がなく、保存時にアミノ酸の結晶が析出しにくい末梢静脈投与用輸液を供給すること。
【解決手段】連通可能に構成された多室容器にアミノ酸、糖および電解質が収容された末梢静脈投与用輸液であって、静脈への投与側の第一室には電解質を含まないアミノ酸溶液が収容されており、投与側から離れた第二室には電解質として40mEq/L以下のカリウムイオンを含有する糖溶液が収容され、両溶液を混合した後の輸液の生理食塩水に対する浸透圧比が3以下であり、且つ混合後の輸液のpHが6.0〜7.2の範囲内となることを特徴とする末梢静脈投与用輸液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖、電解質及びアミノ酸を含有する栄養補給用の輸液、特に末梢静脈投与用輸液に関する。
【背景技術】
【0002】
経口、経腸管栄養補給が不能又は不十分な患者、特に長期間の栄養不良状態や、高度の侵襲時に惹起される生体の筋蛋白崩壊、内臓蛋白の喪失・不足、あるいは免疫系の破綻、創傷治癒の遅延や臓器不全の予防及び治療を目的として、2週間以上にわたる栄養管理を必要とする場合に、一般に糖質、電解質及びアミノ酸からなる高カロリー輸液が中心静脈から投与されており、広く普及されている。
【0003】
一方、栄養状態の比較的良好な非侵襲あるいは軽度侵襲期にある患者の栄養状態を維持することを目的として、前腕静脈等から末梢留置針等を用いて末梢静脈投与用輸液が一般に投与されている。近年においては、患者の栄養状態は良くなってきており、また、内視鏡下手術等の発達により、手術侵襲の少ない外科的手術の開発及び普及により侵襲の程度がより軽い患者が増えてきており、末梢静脈投与用輸液の投与対象患者は増加する傾向にある。
【0004】
上記の栄養液に用いる製剤としては、糖質、アミノ酸及び電解質を含有する1日投与熱量として最大1000Kcalまで補給可能なものが市販されている。この容器形態としては1室形態(シングルバッグ製剤)のものが医療過誤投与の面から好ましいものであるが、製剤の保存安定性の面から、複式容器に収納した製剤が市販されている。すなわち、2室以上を有する輸液バッグに収納された、糖、アミノ酸及び電解質を含有する輸液製剤が登場してきている。
【0005】
このような輸液製剤は、糖とアミノ酸とがメイラード反応を引き起こすことを防止するために、輸液バッグの1室には糖と電解質成分の一部からなる溶液を、他室にはアミノ酸と電解質成分の残部からなる溶液がそれぞれ分離して収納されており、使用直前に2室を連通してそれぞれの液を混合し、投与することが行われている。
【0006】
しかしながら、この連通操作を行うことなく、或いは連通し忘れて一方の液のみを投与してしまう過誤投与が生じることがある。この様な場合には、各室に収納されている液が片方ずつ投与されることとなり、従来の輸液製剤では電解質としてのカリウムイオンは一方の液に配合されているため、比較的カリウム濃度が高い液が患者に投与されることとなり、その場合、カリウム濃度が過度に高いと、患者に高カリウム血症をきたし、最悪の場合には心停止により死に至らしめるおそれがある。
【0007】
かかる点を防止するために、電解質成分であるカリウムイオンを糖溶液側とアミノ酸溶液側の両者に分配することによって、誤って投与された場合であっても高カリウム血症の危険性が少ない製剤が提案され(特許文献1)、既に市販されている。また、本発明者らは、誤って投与された場合における高カリウム血症の危険性を回避する目的で、静脈への投与側の第一室にカルシウムイオンを含みかつ糖、リン酸イオンおよびカリウムイオンを含まないアミノ酸溶液を収容し、投与側から離れた第二室にカリウムイオンおよびリン酸イオンを含みかつアミノ酸およびカルシウムイオンを含まない糖溶液を収容した製剤を提案してきている(特許文献2)。
【0008】
しかしながら、上記製剤にあっては、例えば、特許文献1の製剤にあっては、高濃度のアミノ酸溶液中に更に電解質成分を含有するものであり、保存時におけるアミノ酸の結晶の析出が生じ易く、更なる改良が求められている。
【特許文献1】特開2004−189677号公報
【特許文献2】特願2004−151371号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の現状を鑑み、複室容器の一室に糖溶液を収容し、他の一室にアミノ酸溶液を収容した複室容器入り末梢静脈投与用輸液において、使用時に隔壁を開通させなかった場合であっても電解質成分であるカリウムイオンが高濃度で投与される危険性がなく、更に保存時にアミノ酸の結晶が析出しにくい末梢静脈投与用輸液を供給することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するべく本発明者は鋭意検討を重ねた結果、静脈への投与側の第一室にはpH調節剤以外の電解質成分を含まないアミノ酸溶液を収容し、投与側から離れた第二室には電解質としてカリウムイオンを収容するとともに、カリウムイオン濃度を40mEq/L以下とすることで、仮に誤って、投与時に第一室と第二室の隔壁を連通させずに最初に第一室のアミノ酸溶液を注入した後に第二室の糖溶液を注入したとしても、高濃度のカリウムイオンによる高カリウム血症等の障害が引き起こされないこと確認し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、連通可能に構成された多室容器にアミノ酸、糖および電解質が収容された末梢静脈投与用輸液であって、静脈への投与側の排出口部を有する第一室には電解質を含まないアミノ酸溶液が収容されており、投与側から離れた第二室には電解質として40mEq/L以下のカリウムイオンを含有する糖溶液が収容され、両溶液を混合した後の輸液の生理食塩水に対する浸透圧比が3以下であり、且つ混合後の輸液のpHが6.0〜7.2の範囲内となることを特徴とする末梢静脈投与用輸液である。
【0012】
より具体的には、本発明はアミノ酸溶液のアミノ酸濃度が、アミノ酸溶液と糖溶液を混合した後の輸液中の濃度として1.0〜5.0w/v%である末梢静脈投与用輸液である。
【0013】
さらに具体的には、本発明は糖としてブドウ糖濃度が2.0〜7.5w/v%である末梢静脈投与用輸液である。
【0014】
また本発明は、第一室に収容されたアミノ酸溶液の容積と、第二室の糖溶液の容積比率が1:5〜1:3である末梢静脈投与用輸液である。
【0015】
さらにまた本発明は、糖溶液がさらに電解質を含有する末梢静脈投与用輸液であり、好ましくは、以下の組成を有する末梢静脈投与用輸液である。
ブドウ糖 2.0〜7.5 w/v%
L−イソロイシン 0.1〜5.0 g/L
L−ロイシン 0.2〜9.0 g/L
L−バリン 0.2〜10.0 g/L
L−リジン 0.15〜6.0 g/L
L−メチオニン 0.1〜7.0 g/L
L−フェニルアラニン 0.1〜7.7 g/L
L−トレオニン 0.1〜5.0 g/L
L−トリプトファン 0.02〜3.0 g/
L−アラニン 0.1〜6.8 g/L
L−アルギニン 0.1〜11.3 g/L
L−アスパラギン酸 0.02〜5.0 g/L
L−システイン 0.01〜0.7 g/L
L−グルタミン酸 0.01〜3.6g/L
L−ヒスチジン 0.1〜4.1 g/L
L−プロリン 0.1〜5.9 g/L
L−セリン 0.05〜2.0 g/L
L−チロジン 0.0〜1.0 g/L
グリシン 0.1〜5.4 g/L
Na 20〜150 mEq/L
K 2〜32 mEq/L
Ca2+ 1〜15 mEq/L
Mg2+ 0〜15 mEq/L
Cl 20〜150 mEq/L
P 0〜20 mmol/L
Zn2+ 0〜20μmol/L
【0016】
さらに本発明は、上記組成にビタミン類を含んでもよい末梢静脈投与用輸液であり、そのようなビタミン類としてはビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD類、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンH、葉酸、パントテン酸類、ニコチン酸類である末梢静脈投与用輸液であり、ビタミン類としてビタミンBのみを含有してもよい末梢静脈投与用輸液である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、栄養状態が良好で、侵襲がないか侵襲度が軽度な患者に対して優れた栄養効果が得られる末梢静脈投与用輸液が提供される。
特に本発明の末梢静脈投与用輸液は、静脈への投与側の第一室にはカリウムイオンが含まれておらず、カリウムイオンが大容積の第二室に収容された糖溶液側に含まれ、かつカリウムイオンの濃度が低く保たれている結果、仮に投与時に第一室と第二室の隔壁を連通させずに最初に第一室のアミノ酸溶液を注入した後、第二室の糖溶液を注入した場合であっても、高濃度のカリウムイオン投与による高カリウム血症等の障害が起きない。
【0018】
また、糖溶液とアミノ酸溶液を連結可能な別々の室に収容されているので、pHを殊更低くしないでも両者を安定に保つことができ、その結果混合後の輸液のpHを血液のpHに近いものとすることができ、静脈炎の心配がない。
さらにアミノ酸溶液にはpH調節剤を除くアミノ酸以外の成分が含まれていないため、保存中に問題となるアミノ酸の結晶析出を抑制することができる。
【0019】
また、両溶液を混合した後の輸液の生理食塩水に対する浸透圧比が3以下となるように糖濃度がコントロールされているので、高濃度の糖溶液を末梢静脈に投与した場合に起きる血管痛がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の静脈投与用輸液において、使用できる糖としては、通常輸液製剤に用いられている糖であれば特に制限はない。例えば還元糖として、ブドウ糖、フルクトース、マルトースが、非還元糖としてはトレハロース、キシリトール、ソルビトール、グリセリンを挙げることができる。これらの各種糖のうち、栄養効果の点から、糖としてブドウ糖を配合することが好ましい。
【0021】
本発明が提供する静脈投与用輸液において、使用できるアミノ酸としては通常輸液に用いられるアミノ酸であれば特に制限はない。具体的には、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−バリン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン酸、L−システイン、L−グルタミン酸、L−ヒスチジン、L−プロリン、L−セリン、L−チロジン、グリシンを挙げることができる。
【0022】
これらのアミノ酸は1種類でも、また複数組み合わせて使用することができるが、タンパク質合成への利用という観点からみれば複数組み合わせて含有させるのが好ましく、なかでも、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−バリン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−ヒスチジンの9種の必須アミノ酸を使用することが好ましく、更に好ましくは、9種の必須アミノ酸と非必須アミノ酸を合わせて使用することが好ましい。
【0023】
なお、これらアミノ酸の組成は、患者の疾患の種類、状態により適宜調整すればよく、とりわけ特開昭60−123413号公報記載の術後患者に適したアミノ酸組成を好適に使用することができる。また、各アミノ酸は必ずしも遊離アミノ酸の形態として用いる必要はなく、無機酸塩、有機酸塩、或いは生体内で加水分解可能なエステル体などの形態で用いてもよい。さらに、同種あるいは異種のアミノ酸をペプチド結合させたジペプチド類の形態で用いてもよい。
【0024】
本発明に用いる電解質としては、一般に用いられる電解質であれば特に制限は無いが、具体的にはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、塩素及びリンの無機及び有機塩を挙げることができる。各無機及び有機塩については、既に上市されている輸液及び経腸栄養剤に配合された有効成分と同じものを用いることができる。なお、電解質は、生体の機能や体液の電解質バランスを維持するために必要である。
【0025】
また、電解質として微量元素も添加することができる。ここに於ける微量元素とは、微量ではあるが生体にとって必要不可欠とされる金属元素である。微量元素の補給は欠乏症の防止だけでなく蛋白合成の促進、創傷治癒の促進及びミトコンドリア内の酵素の活性を高めるために必要である。具体的には、亜鉛、鉄、マンガン、銅、クロム、モリブデン、セレン、フッ素及びヨウ素の無機及び有機塩を挙げることができる。この場合、高カロリー輸液用として上市されている微量元素製剤を配合しても良い。この場合の各微量元素は、一日必要量を考慮して配合すればよい。
【0026】
本発明の末梢静脈投与輸液にあっては、糖とアミノ酸を混合した場合のメイラード反応を避けるため、糖溶液とアミノ酸溶液を、連通可能な隔壁で仕切った多室容器に収容する。そのうえで、投与前に両溶液を混合しないという不測の事態にも対応できるように、静脈への投与側の第一室にカリウムイオンを含有しないアミノ酸溶液を収容し、投与側から離れた第二室にカリウムイオンを配合した糖溶液を収容する。
【0027】
この場合にあって、糖の濃度は、アミノ酸溶液と糖溶液を混合した後の輸液製剤として、生理食塩水(280mOs/L)に対する浸透圧比で3以下、好ましくは1〜2.5となるように調節する。したがって、糖濃度は混合後の濃度と糖溶液の容積を勘案して定められる。例えば、糖としてブドウ糖単独で用いる場合には、アミノ酸溶液と糖溶液を混合した輸液中のブドウ糖濃度は一般に10w/v%以下であることが好ましく、より好ましくは2.0〜7.5w/v%、さらに好ましくは2.0〜5.0w/v%である。
【0028】
第二室の糖溶液中に配合されるカリウムイオンは、その溶液中の濃度として40mEq/L以下であり、特に30mEq/L以下であることが望ましい。このように、大容量の糖溶液中にカリウムイオンが配合されることにより、カリウムイオンが20mEq/時間の投与速度を超えない安全域の高い輸液を提供できる。
【0029】
また、本発明の末梢静脈投与用輸液にあっては、リン元素を10mmol/L以上含むことが好ましい。
さらに本発明の末梢静脈投与用輸液にあっては、第一室に収容されたアミノ酸溶液の容積と、第二室の糖溶液の容積比率が1:5〜1:3であることが好ましい。この末梢静脈投与用輸液は、第二室には他の成分を投与直前に混入するための混注口が備わっていることが好ましい。また、本発明の末梢静脈投与用輸液は、第二室に収容されている糖溶液が亜硫酸イオンを含まないことが望ましい。
【0030】
糖溶液に加える電解質成分としてのカリウムイオン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、酢酸カリウム、グリセロリン酸二カリウム等が挙げられるが、リン酸イオンの供給源を兼ね、且つ少量でカリウムを供給する目的からみて、特にリン酸水素二カリウムを用いるのが望ましい。
【0031】
以上のように、糖溶液中のカリウムイオン濃度は、糖溶液をアミノ酸溶液と混合せずに投与したとしても、高濃度カリウムによる心臓機能に対する障害が生じることのない40mEq/L以下、特には30mEq/L以下とするのが好ましい。なお、この糖溶液は、亜硫酸イオンを含まないことが好ましい。亜硫酸イオンを含まない場合には、他の成分、例えば亜硫酸イオンにより分解が促進されるビタミン類をそのまま加えることが可能となる。
【0032】
また糖溶液は、滅菌時及び保存安定性の面から見れば低いpHに調整することが好ましいが、アミノ酸溶液と混合した場合の輸液のpHを、静脈炎が起きないpH6〜7に保つ必要性からアミノ酸溶液の容積を考慮して決められる。一般に、糖溶液のpHは5程度とするのが望ましい。
【0033】
一方、アミノ酸溶液のアミノ酸濃度として1〜20w/v%であることが好ましく、より好ましくは5〜12w/v%である。アミノ酸溶液のpHは特に限定されないが、ほぼ中性、例えばpH6.5〜7.4付近が好ましい。アミノ酸の安定化に必要な亜硫酸イオンを亜硫酸水素ナトリウム等として少量加えることができる。
【0034】
糖溶液及びアミノ酸溶液のpHを調整するには、輸液分野において通常用いられているpH調整剤を用いることができる。pH調整剤としては、塩酸等の無機酸、酢酸、クエン酸コハク酸、リンゴ酸等の有機酸を使用できるが、生理的な有機酸、特にクエン酸、酢酸を使用することが好ましい。
【0035】
本発明が提供する末梢静脈投与用輸液にあっては、上記した糖、アミノ酸、電解質の成分以外に、患者の状態に応じて必要とされる任意の成分を添加することができる。そのような成分としては、特にビタミン類を添加することができる。ビタミン類としては、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD類、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンH、葉酸、パントテン酸類、ニコチン酸類等を挙げることができる。
【0036】
これらのビタミン類を用いることによって、栄養状態の維持・改善を早期に実現させることが可能である。なお、ビタミンBは生体内における糖代謝の効率を増加させることができ、特に好ましいビタミン類である。このビタミンBはチアミンとして知られているが、従来から輸液に用いられているプロスルチアミン、アクトチアミン、チアミンジスルフイド、フルスルチアミン及びそれらの塩等のチアミン誘導体も本発明ではビタミン類として使うことができる。
【0037】
他の成分として好ましく配合されるビタミン類は、第二室の糖溶液が亜硫酸イオンを含まない場合には、糖溶液に入れることが好ましい。更に、ビタミン類を第一室及び第二室以外の室(第三室)に収容し、該室を第一室及び/又は第二室と連通可能に隔壁しておくこともできる。ビタミン類は、安定性を考慮して隔離した室に溶液又は粉末として入れておくことが可能である。更に、隔離された第一室及び第二室以外の室(第三室)には、微量元素やその他の医薬品を、必要に応じて、溶液もしくは粉末として入れておくことができる。
【0038】
本発明の輸液を調製するには、上記の糖、アミノ酸、電解質を上記の目的にそって混合し、注射用蒸留水等に溶解するか、あるいは予め作成した糖溶液、アミノ酸溶液、電解質溶液等を混合する等の方法により調製することができる。
【0039】
本発明においては、糖・電解質溶液とアミノ酸溶液を混合した後の輸液は、下記の組成であることが好ましい。
ブドウ糖 2.0〜7.5 w/v%、更に好ましくは2.0〜5.0 w/v%
アミノ酸総量 1.0〜5.0 w/v%
【0040】
各アミノ酸
L−イソロイシン 0.1〜5.0 g/L、更に好ましくは0.8〜5.0 g/L
L−ロイシン 0.2〜9.0 g/L、更に好ましくは1.0〜9.0 g/L
L−バリン 0.2〜10.0 g/L、更に好ましくは1.0〜10.0 g/L
L−リジン 0.15〜6.0 g/L、更に好ましくは0.8〜6.0 g/L
L−メチオニン 0.1〜7.0 g/L、更に好ましくは0.4〜5.0 g/L
L−フェニルアラニン 0.1〜7.7 g/L、更に好ましくは0.5〜5.0 g/L
L−トレオニン 0.1〜5.0 g/L、更に好ましくは0.5〜5.0 g/L
L−トリプトファン 0.02〜3.0 g/L、更に好ましくは0.05〜1.0 g/L
L−アラニン 0.1〜6.8 g/L、更に好ましくは0.5〜5.0 g/L
L−アルギニン 0.1〜11.3 g/L、更に好ましくは1.0〜10.0 g/L
L−アスパラギン酸 0.02〜5.0 g/L、更に好ましくは0.08〜2.0 g/L
L−システイン 0.01〜0.7 g/L、更に好ましくは0.02〜0.4 g/L
L−グルタミン酸 0.01〜3.6g/L、更に好ましくは0.04〜2.0g/L
L−ヒスチジン 0.1〜4.1 g/L、更に好ましくは0.3〜3.0 g/L
L−プロリン 0.1〜5.9 g/L、更に好ましくは0.4〜5.0 g/L
L−セリン 0.05〜2.0 g/L、更に好ましくは0.1〜1.0 g/L
L−チロジン 0.0〜1.0 g/L、更に好ましくは0.0〜0.5 g/L
グリシン 0.1〜5.4 g/L、更に好ましくは0.5〜4.0 g/L
【0041】
電解質
Na 20〜150 mEq/L、更に好ましくは30〜40 mEq/L
K 2〜32 mEq/L、更に好ましくは15〜25 mEq/L
Ca2+ 1〜15 mEq/L、更に好ましくは3〜6 mEq/L
Mg2+ 0〜15 mEq/L、更に好ましくは3〜6 mEq/L
Cl 20〜150 mEq/L、更に好ましくは30〜60 mEq/L
P 0〜20 mmol/L、更に好ましくは5〜15 mmol/L
Zn2+ 0〜20μmol/L、更に好ましくは2〜10μmol/L
【0042】
本発明が提供する末梢静脈投与用輸液における投与方法の例としては、サーフロー針あるいは注射針、翼状針などの留置針をいずれかの末梢血管より挿入し留置することにより投与することができる。このような投与方法においては、連続投与が可能であり、軽〜中等度手術侵襲後の経口摂取ができない状態において、手術侵襲の回復に適切な栄養管理が可能なものとなる。
【0043】
本発明における輸液容器の本体を構成する材料としては、可撓性、透明性に優れ、且つ低温保存後に落下しても破袋し難い軟質の樹脂材料が好ましい。特に、通常医療用容器に用いられているポリオレフィン類からなるものを好適に挙げることができる。ポリオレフィン類は例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−プテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン等の重合応体を挙げることができる。容器本体は、前記樹脂をブロー成形、インフレーションあるいはデフレーション成形したものいずれでも使用できる。また、2枚の樹脂シートの周縁部を溶着して形成したものでも良い。
【0044】
容器本体を複数の空間に区画するには、例えば使用時に外部からの押圧で剥離可能なシール部で区画し複数の空間を容器内に形成する方法(例えば、特開平2−4671号公報)や、破断により連通する薄肉部を有する連通部材を用いて作成することができる(例えば、特開2000−167022号公報、特開2001−87350号公報)。
【0045】
また、ビタミン類等の他の配合成分を容器内で分離・封入する場合は、複数の空間を持つ子袋を容器本体のいずれかの空間内部もしくは容器周縁部を設け、この小袋内に収納することができる。この際、子袋の材料としては、充填する成分を吸着し難い材質を選択することが好ましく、そのような材質としては、ポリ弗化エチレン(テフロン(登録商標)等)、環状オレフィンコポリマーを好適に挙げることができる。
【実施例】
【0046】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1:
糖溶液及びアミノ酸溶液を以下のように調製した。
(1)糖溶液の調製
リン酸水素二カリウムを除く表1記載のブドウ糖、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、グルコン酸カルシウム及び硫酸亜鉛とクエン酸30gを注射用水25Lに溶解した後、リン酸水素二カリウムを溶解し、クエン酸でpH5.0に調整し、さらに注射用水を加えて全量を30Lとし、糖溶液を調製した。
【0048】
【表1】

【0049】
(2)アミノ酸溶液の調製
下記表2に記載の各アミノ酸を注射用水に溶解し、氷酢酸でpH7.3に調整し、アミノ酸溶液6Lを調製した。
【0050】
【表2】

【0051】
(3)プラスチック製容器への充填、滅菌、包装
調製された糖溶液とアミノ酸溶液のそれぞれを0.2μmのメンブランフィルターを用いて、ろ過し、糖溶液の400mLを、隔壁で仕切られたプラスチック製の二室容器の第二室に充填した。第二室を密封後、プラスチック容器の第一室にアミノ酸溶液100mLを充填し、密封した。両溶液を充填・密封したプラスチック容器を高圧蒸気滅菌し、冷却後に脱酸素剤とともに外包装材で包装した。
【0052】
上記実施例で調製した末梢静脈投与輸液の保存開始直後及び40℃に3箇月間保存した後のL−システイン量及び着色度を、紫外可視吸光度法により測定した。また、不溶性異物の有無を目視により確認した。
その結果を下記表3に示した。
【0053】
【表3】

【0054】
上記した表の結果より判明するように、本発明の実施例の末梢静脈投与輸液は40℃/3箇月間保存した後も高濃度でL−システインを含有しており、糖液及びアミノ酸液に着色は認められなかった。また、不溶性異物を認めなかった。
なお、混合液のpHは6.2であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上記載のように、本発明により、成分の保存安定性が良く、糖溶液とアミノ酸溶液を投与前に混合しないという不測の事態があっても高濃度のカリウムイオンが注入されることがなく、低pHによる静脈炎のない優れた末梢静脈投与輸液を提供することができる。
本発明によれば、誤って高濃度のカリウムイオンが患者に投与されることがないので、患者が高カリウム血症を引き起こし、最悪の場合には、心停止に到る危険性を回避した末梢静脈投与輸液が提供され、その産業上の利用性は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通可能に構成された多室容器にアミノ酸、糖および電解質が収容された末梢静脈投与用輸液であって、排出口部を有する第一室には電解質を含まないアミノ酸溶液が収容されており、別の第二室には電解質として40mEq/L以下のカリウムイオンを含有する糖溶液が収容され、両溶液を混合した後の輸液の生理食塩水に対する浸透圧比が3以下であり、且つ混合後の輸液のpHが6.0〜7.2の範囲内となることを特徴とする末梢静脈投与用輸液。
【請求項2】
アミノ酸溶液のアミノ酸濃度が、アミノ酸溶液と糖溶液を混合した後の輸液中の濃度として1.0〜5.0w/v%である請求項1に記載の末梢静脈投与用輸液。
【請求項3】
糖としてブドウ糖濃度が2.0〜7.5w/v%である請求項1又は2に記載の末梢静脈投与用輸液。
【請求項4】
第一室に収容されたアミノ酸溶液の容積と、第二室の糖溶液の容積比率が1:5〜1:3である請求項1、2又は3に記載の末梢静脈投与用輸液。
【請求項5】
糖溶液がさらに他の電解質を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の末梢静脈投与用輸液。
【請求項6】
以下の組成を有する請求項5に記載の末梢静脈投与用輸液。
ブドウ糖 2.0〜7.5 w/v%
L−イソロイシン 0.1〜5.0 g/L
L−ロイシン 0.2〜9.0 g/L
L−バリン 0.2〜10.0 g/L
L−リジン 0.15〜6.0 g/L
L−メチオニン 0.1〜7.0 g/L
L−フェニルアラニン 0.1〜7.7 g/L
L−トレオニン 0.1〜5.0 g/L
L−トリプトファン 0.02〜3.0 g/
L−アラニン 0.1〜6.8 g/L
L−アルギニン 0.1〜11.3 g/L
L−アスパラギン酸 0.02〜5.0 g/L
L−システイン 0.01〜0.7 g/L
L−グルタミン酸 0.01〜3.6g/L
L−ヒスチジン 0.1〜4.1 g/L
L−プロリン 0.1〜5.9 g/L
L−セリン 0.05〜2.0 g/L
L−チロジン 0.0〜1.0 g/L
グリシン 0.1〜5.4 g/L
Na 20〜150 mEq/L
K 2〜32 mEq/L
Ca2+ 1〜15 mEq/L
Mg2+ 0〜15 mEq/L
Cl 20〜150 mEq/L
P 0〜20 mmol/L
Zn2+ 0〜20μmol/L
【請求項7】
さらにビタミン類を含む請求項1〜6のいずれかに記載の末梢静脈投与用輸液。
【請求項8】
ビタミン類がビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD類、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンH、葉酸、パントテン酸類、ニコチン酸類である請求項7に記載の末梢静脈投与用輸液。
【請求項9】
ビタミン類がビタミンBである請求項7に記載の末梢静脈投与用輸液。

【公開番号】特開2007−137836(P2007−137836A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335404(P2005−335404)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】