説明

材料の化学スムージング法及びデバイス

【課題】材料の表面平坦化並びに内部構造の均一化により、物理的あるいは化学的に高品質の材料を形成できる処理法の確立を課題とする。
【解決手段】ビーカー5内にトルエン4を入れ、カバー6で封じる。このカバー6の裏面には、材料としてSi基体2上に形成したポリシラン薄膜1が設置されている。そして、このポリシラン薄膜1は、ビーカー5内において溶解雰囲気であるトルエン蒸気3に暴露されることで、ポリシラン薄膜1の表面平坦化並びに内部構造均一化が化学的に誘起される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶性を有する材料を溶解雰囲気に暴露することにより、従来困難とされてきた材料表面の平坦化並びに内部構造の均一化を行うことが可能な材料の化学スムージング法及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々のマイクロ電子・光デバイスが創出される中、これらデバイスの小型化・高性能化・高機能化が今後の重要課題の一つである。材料、特に薄膜化された電子・光材料を、物理的或いは化学的に高品質に形成することが、小型化・高性能化・高機能化の鍵を握ると考えられている。そこで、材料の表面及び内部構造をいかに平坦に、かつ均一に形成できるかに、これまで多くの努力が払われていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように、従来より光デバイスを含む各種デバイスの材料の表面平坦化並びに内部構造の均一化により、物理的或いは化学的に高品質の材料を形成できる処理方法の確立が望まれていた。
【0004】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、可溶性を有する材料を、溶解雰囲気に暴露することにより、材料表面を平坦化並びに内部構造を均一化させることを可能とした化学スムージング法及びデバイスを提供することを目的とする。
【0005】
本発明のその他の目的や新規の特徴は後述の実施の形態において明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載の化学スムージング法は、可溶性を有する材料を、溶解雰囲気に暴露することにより、前記材料表面を平坦化並びに内部構造を均一化させることを特徴としている。
【0007】
請求項2記載の化学スムージング法は、可溶性を有する膜を、溶解雰囲気に暴露することにより、前記膜表面を平坦化並びに内部構造を均一化させることを特徴としている。
【0008】
請求項3記載の化学スムージング法は、基体上に位置選択的に形成された可溶性を有する膜を、溶解雰囲気に暴露することにより、前記膜表面を平坦化並びに内部構造を均一化させることを特徴としている。
【0009】
請求項4記載の化学スムージング法は、レーザーアブレーションによる薄膜形成法により形成した可溶性を有する膜を、溶解雰囲気に暴露することにより、前記膜表面を平坦化並びに内部構造を均一化させることを特徴としている。
【0010】
請求項5記載の化学スムージング法は、レーザーアブレーションによる薄膜形成法により、基体上に位置選択的に形成された可溶性を有する膜を、溶解雰囲気に暴露することにより、前記膜表面を平坦化並びに内部構造を均一化させることを特徴としている。
【0011】
請求項6記載のデバイスは、請求項1記載の化学スムージング法により、材料表面を平坦化並びに内部構造を均一化させたことを特徴としている。
【0012】
請求項7記載のデバイスは、請求項2〜5の何れかに記載の化学スムージング法により、膜表面を平坦化並びに内部構造を均一化させたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の化学スムージング法によれば、可溶性を有する材料を、溶解雰囲気に暴露するだけで、材料の表面を平坦化並びに内部構造を均一化させることができるため、物理的或いは化学的に高品質の材料を形成することができる。また、本発明の化学スムージング法を用いることで、エレクトロニクス、オプトエレクトロニクス、フォトニクス或いはバイオ/ メディカル等の種々の分野におけるデバイス作製の基盤技術として利用可能であるなど、小型・高性能・高機能化マイクロ/ ナノ電子・光デバイス作製のための必要不可欠な技術となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る化学スムージング法及びデバイスを実施するための最良の形態について、添付する図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明に係る化学スムージング法の構成を説明するための概略構成図であり、図2(a)、(b)は本発明に係る化学スムージング法による化学スムージング前後の材料表面の走査電子顕微鏡写真であり、図3は本発明に係る化学スムージング法による暴露時間毎の材料断面の走査電子顕微鏡写真であり、図4は本発明に係る化学スムージング法における溶解雰囲気への暴露時間とそれによるポリシラン薄膜の表面粗さとの関係を示す説明図であり、図5は本発明に係る化学スムージング法における溶解雰囲気への暴露時間とそれによるポリシラン薄膜の膜厚との関係を示す説明図であり、図6(a)、(b)はマイクロサイズ領域に形成されたポリシラン薄膜の走査電子顕微鏡写真である。
【0015】
本発明の化学スムージング法は、可溶性を有する材料を、その材料が溶解する溶解雰囲気中に暴露することにより、材料の表面平坦化並びに内部構造均一化を行うことで、物理的或いは化学的に高品質な材料を形成するものである。
【0016】
まず、図1を参照しながら、本発明に係る化学スムージング法について説明する。図1は、本例の化学スムージング法を実施するための実験構成例であり、材料1としてレーザアブレーションによる薄膜形成(pulsed laser deposition :PLD)法によりSi基体2上に形成したポリシラン(polysilane)薄膜を、溶解雰囲気3としてトルエン4が蒸発することにより生成するトルエン蒸気を用いた例である。
【0017】
具体的に説明すると、まず、ビーカー5内にトルエン4を入れ、カバー6で封じる。このカバー4の裏面には、材料としてSi基体2上に形成したポリシラン薄膜1が設置されている。そして、このポリシラン薄膜1は、ビーカー5内でトルエン4が蒸発することで生成するトルエン蒸気3に暴露されることにより、ポリシラン薄膜1の表面平坦化並びに内部構造均一化が化学的に誘起される。
【0018】
なお、上述した形態では、材料1としてSi基体2上に形成したポリシラン薄膜1を、溶解雰囲気2としてビーカー5内のトルエン4を蒸発させたトルエン蒸気3を用いた例で説明したが、これに限定されることはなく、材料1が可溶性であり、且つ選択された材料1を溶解可能な溶解雰囲気2であれば、その材料1や溶解雰囲気2の種類や組み合わせ等は使用目的に応じて適宜選択可能である。
【0019】
また、溶解雰囲気2は、上述したようにトルエン等の溶液を蒸発させて生成した溶解雰囲気2を用いた例で説明したが、これに限定されることはなく、例えば固体を昇華させた際の気体や溶解性を有する気体等を溶解雰囲気2として使用し、この溶解雰囲気2に対して材料1を暴露することで、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0020】
このように、本発明の化学スムージング法によれば、可溶性を有する材料1を、溶解雰囲気2に暴露することにより、従来困難とされてきた材料1の表面平坦化並びに内部構造の均一化を容易に、且つ確実に行うことができる。これにより、物理的或いは化学的に高品質の材料1を形成することができる。
【0021】
また、本発明の化学スムージング法により処理された材料1は、その膜厚、化学組成及び化学結合状態が著しく変化することなく、高品質な材料1を形成することができる。さらに、本発明の化学スムージング法では、大面積の材料のみならず、任意の基体上にミクロンオーダーで位置選択的に形成された微小膜でも適用可能であるため、様々な分野において実施可能である。
【0022】
以下、上述した化学スムージング法により作製したデバイスについて、実施例に基づき説明する。なお、下記の各実施例は、本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0023】
〔実施例〕
図1の実施形態と同様の構成で実施し、ビーカー5は100ml用のものを用い、その中に純度99.5%のトルエン4を約20ml入れた。材料1は、波長1.3μmの光パラメトリック増幅フェムト秒レーザーを用いたPLD法によって、Si基体2上にポリシラン薄膜1を室温で形成した。レーザーのパルスエネルギーは約50μJ、フルエンスは約1J/cm2 /Pulseであった。また、パルス繰り返し周波数は1kHzとした。レーザー照射時間は60分であった。溶解雰囲気2であるトルエン蒸気3への暴露時間は0〜50分の範囲で変化させた。
【0024】
図2は、化学スムージング前後の材料1表面の走査電子顕微鏡写真である。溶解雰囲気2であるトルエン蒸気3への暴露前(a)には、ポリシラン薄膜1に多くのドロップレットが見られるが、暴露30分後(b)ではポリシラン薄膜1が極めて平坦な膜になっていることがわかった。
【0025】
図3は、溶解雰囲気2への暴露時間毎の材料1断面の走査電子顕微鏡写真である。溶解雰囲気2であるトルエン蒸気3への暴露前(0min)には、ポリシラン薄膜1に多くのドロップレットが混入しているため内部構造が不均一であるが、(10min)、(20min)と暴露時間が経過する毎に徐々にその表面や膜内部がスムージングされ、暴露30分後(30min)には、ポリシラン薄膜1の膜表面のみならず膜内部も完全にスムージングされていることが明らかとなった。
【0026】
図4は、溶解雰囲気2であるトルエン蒸気3への暴露時間を0、5、10、15、20、30及び50分としたときの、ポリシラン薄膜1にの表面粗さの変化を示している。暴露時間が5分のとき、すでに膜の表面粗さは減少し始めていることがわかる。そして暴露後10分が経過すると、その表面は平坦になった。さらに50分まで暴露しても、その平坦性に顕著な変化は見られなかった。従って、ポリシラン薄膜1のトルエン蒸気3への暴露時間を20〜50分とすると、平均表面粗さを約60〜70nmまで平坦にできることが明らかとなった。
【0027】
図5は、溶解雰囲気2であるトルエン蒸気3への暴露による、ポリシラン薄膜1の膜厚の変化を示している。5μmの膜厚のポリシラン薄膜1を用いた場合、5分の暴露後、約4μmとなることがわかった。そして、その膜厚は、50分の暴露を行っても変化しなかった。従って、本発明の化学スムージング法では、著しい膜厚変化も起こらないことが明らかとなった。
【0028】
図6は、マイクロサイズ領域に形成したポリシラン薄膜1の走査電子顕微鏡写真である。図6(a)に示すように、マイクロサイズ領域へ形成したポリシラン薄膜1においても膜の表面粗さは粗いが、図6(b)に示すように、溶解雰囲気2であるトルエン蒸気3へ30分暴露することにより、ポリシラン薄膜1が化学スムージングされていることがわかる。
【0029】
そして、上記実施例における化学スムージング法前後の材料1を、フーリエ変換赤外分光分析により測定した結果、各材料1の化学組成並びに化学結合状態の著しい変化は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の化学スムージング法によって作製されるデバイスは、従来困難とされてきた材料の表面平坦化並びに内部構造の均一化が物理的に或いは化学的に可能となるため、例えばオプトエレクトロニクス、フォトニクス、バイオ/ メディカル或いは福祉工学分野でのデバイス作製に適用可能になるなど、その用途は電気、電子のみならず、あらゆる分野で有用である。
【0031】
以上、本願発明における最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術等はすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る化学スムージング法の構成を説明するための概略構成図である。
【図2】(a)、(b) 本発明に係る化学スムージング法による化学スムージング前後の材料表面の走査電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明に係る化学スムージング法による暴露時間毎の試料断面の走査電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明に係る化学スムージング法における溶解雰囲気への暴露時間とそれによるポリシラン薄膜の表面粗さとの関係を示す説明図である。
【図5】本発明に係る化学スムージング法における溶解雰囲気への暴露時間とそれによるポリシラン薄膜の膜厚との関係を示す説明図である。
【図6】(a)、(b) 本発明に係る化学スムージング法による化学スムージング前後のマイクロサイズ領域に形成されたポリシラン薄膜の走査電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0033】
1 材料(ポリシラン薄膜)
2 Si基体
3 溶解雰囲気(トルエン蒸気)
4 トルエン
5 ビーカー
6 カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性を有する材料を、溶解雰囲気に暴露することにより、前記材料表面を平坦化並びに内部構造を均一化させることを特徴とする化学スムージング法。
【請求項2】
可溶性を有する膜を、溶解雰囲気に暴露することにより、前記膜表面を平坦化並びに内部構造を均一化させることを特徴とする化学スムージング法。
【請求項3】
基体上に位置選択的に形成された可溶性を有する膜を、溶解雰囲気に暴露することにより、前記膜表面を平坦化並びに内部構造を均一化させることを特徴とする化学スムージング法。
【請求項4】
レーザーアブレーションによる薄膜形成法により形成した可溶性を有する膜を、溶解雰囲気に暴露することにより、前記膜表面を平坦化並びに内部構造を均一化させることを特徴とする化学スムージング法。
【請求項5】
レーザーアブレーションによる薄膜形成法により、基体上に位置選択的に形成された可溶性を有する膜を、溶解雰囲気に暴露することにより、前記膜表面を平坦化並びに内部構造を均一化させることを特徴とする化学スムージング法。
【請求項6】
請求項1記載の化学スムージング法により、材料表面を平坦化並びに内部構造を均一化させたことを特徴とするデバイス。
【請求項7】
請求項2〜5の何れかに記載の化学スムージング法により、膜表面を平坦化並びに内部構造を均一化させたことを特徴とするデバイス。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−24133(P2009−24133A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191031(P2007−191031)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【Fターム(参考)】