説明

板状被研削物の研削方法及び研削装置

【課題】板状研削物の仕上がり面精度を低下させることなく、研削時間を短くする。
【解決手段】第2のエアーベアリング26に支持された研削ホイール25の研削砥石27を第1のエアーベアリング13に支持されたチャックテーブル10上のウェーハ9に押し付け、研削砥石27がウェーハ9を実際に研削し始めるときの第1のエアーベアリング13に設けた1対のチャック側圧力ポート41,42の圧力差P0Ac又は、第2のエアーベアリング26に設けた1対の砥石側圧力ポート43,44の圧力差P0Bwを計測し、記憶する。研削砥石27の切り込みを停止して研削ホイール25とチャックテーブル10とに溜まった撓みを開放するときに計測される1対のチャック側圧力ポート41,42の圧力差PAC又は1対の砥石側圧力ポート43,44の圧力差PBWが、記憶された圧力差P0Ac又はP0Bwまで低下したときに研削砥石をウェーハ9から離脱させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハなどの板状被研削物の研削方法及び研削装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体ウェーハをチャックテーブルに吸引保持した状態で回転させ、回転する研削ホイールの下面に配置した研削砥石で半導体ウェーハを研削する研削装置は知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、研削ホイールやチャックテーブルをエアーベアリングで支持することで、クッション性を持たせ、脆性材料であるシリコンが破損しないように研削するエアーベアリングを備えた半導体ウェーハの研削装置が開示されている。この研削装置では、砥石を取り付けるホイールマウンタと所定の間隔を空けてスラストプレートを配置し、研削ホイールが撓まないようにしている。
【特許文献1】特開平11−138432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の研削装置のように研削ホイールが撓まないように工夫されたものでも、ウェーハ及び研削砥石は、それぞれエアーベアリングに隙間を空けて支持された状態にあるので、実際に研削砥石がウェーハに当接してから、さらに切り込んである研削程度研削圧力が加わるまで研削が開始されない。
【0005】
そして、切り込みを停止したときにも、エアーベアリングから反力を受けているので、急激に研削砥石をウェーハから離すと、最後に研削砥石がウェーハに当接した場所に1本の研削条痕が残って仕上げ面精度が低下するという問題がある。
【0006】
したがって、従来、切り込みを停止した場合でも、すぐには研削砥石をウェーハから離すことができず、徐々にウェーハから離して、できるだけ研削条痕が発生しないようにしているので、研削時間が長くなるという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、板状研削物の仕上がり面精度を低下させることなく、研削時間を短くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、実際に研削が開始されるときの研削砥石が板状被研削物を押さえ付け、実際に研削が始まる最小の圧力を記憶して、研削砥石を板状被研削物から離す工程で該記憶した値と同じ値にまで研削圧力が低下したときに、研削砥石を板状被研削物から離脱させるようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明では、板状被研削物を研削する方法を前提とし、
第1のエアーベアリングに回転可能に支持されたチャックテーブルに上記板状被研削物を吸引保持すると共に、該板状被研削物を研削する円環状の研削砥石を有し、第2のエアーベアリングに回転可能に支持された研削ホイールを、上記研削砥石が上記チャックテーブルの回転中心上に載るように配置する準備工程と、
上記チャックテーブルを回転させると共に、上記研削ホイールを回転させ、上記研削砥石を上記板状被研削物に近付けて当接させ、押し付けながら切り込んで研削する荒研削工程と、
上記研削砥石が所定の研削圧力を受けて上記板状被研削物を実際に研削し始めるときの上記第1のエアーベアリングに設けた1対のチャック側圧力ポートの圧力差又は、上記第2のエアーベアリングに設けた1対の砥石側圧力ポートの圧力差を計測し、記憶する記憶工程と、
上記研削砥石の切り込みを停止して研削ホイールとチャックテーブルとに溜まった撓みを開放する最終仕上げ工程と、
上記最終仕上げ工程において、計測される1対のチャック側圧力ポートの圧力差又は上記1対の砥石側圧力ポートの圧力差が、上記記憶された圧力差まで低下したときに上記研削砥石を板状被研削物から離脱させる離脱工程とを含む構成とする。
【0010】
すなわち、チャックテーブルと研削ホイールとは、それぞれ第1又は第2のエアーベアリングにそれぞれ回転可能に支持されているので、研削中に研削砥石を切り込んで研削砥石から板状被研削物に研削圧力が負荷されると、チャックテーブル及び研削ホイールが傾く。研削圧力が小さい段階では、研削砥石が板状被研削物の表面を滑るだけで、実際には研削は行われない。そして、ある程度研削圧力が上昇した段階で実際に研削が開始され、板状被研削物の表面が除去される。切り込みを停止して研削圧力を低下させるときに、急激に研削砥石をウェーハから離すと、第1又は第2エアーベアリングから反力を受けているので、最後に研削砥石がウェーハに当接した場所に1本の研削条痕が残る。しかし、上記の構成によると、研削圧力が上昇して実際に研削が開始されるときの1対のチャック側圧力ポートと1対の砥石側圧力ポートとで検出した圧力差を記憶することで、研削砥石の切り込みを停止して研削ホイールとチャックテーブルとに溜まった撓みを開放する最終仕上げ工程において研削圧力を低下させながら研削砥石を離脱させても研削条痕が許容される程度以下になるタイミングが判明するので、それ以降に研削砥石を板状被研削物から離脱させれば研削条痕が許容される程度以下になる。
【0011】
第2の発明では、上記板状被研削物は、半導体ウェーハとする。
【0012】
上記の構成によると、脆性材料であり、極めて高精度な仕上げを要求される半導体ウェーハが研削条痕を残すことなく研削される。
【0013】
第3の発明では、第1のエアーベアリングに回転可能に支持され、板状被研削物を吸引保持するチャックテーブルと、
該板状被研削物を研削する円環状の研削砥石を有し、第2のエアーベアリングに回転可能に支持された研削ホイールとを備え、
上記研削砥石が上記チャックテーブルの回転中心上に載るように該チャックテーブルの回転中心と上記研削ホイールの回転中心とがオフセットして配置された研削装置であって、
上記第1のエアーベアリングに設けられた少なくとも1対のチャック側圧力ポート又は、
上記第2のエアーベアリングに設けられた少なくとも1対の砥石側圧力ポートと、
上記研削砥石が所定の研削圧力を受けて上記板状被研削物を実際に研削し始めるときの上記チャック側圧力ポート又は上記砥石側圧力ポートとで検出した圧力差を記憶し、切り込み停止後、上記チャック側圧力ポート又は上記砥石側圧力ポートで検出した圧力差が、上記記憶された圧力差まで低下したときに、研削ホイールを離脱させる制御手段とを備えている。
【0014】
すなわち、チャックテーブルと研削ホイールとは、それぞれ第1又は第2のエアーベアリングにそれぞれ回転可能に支持されているので、研削中に研削砥石を切り込んで研削砥石から板状被研削物に研削圧力が負荷されると、チャックテーブル及び研削ホイールが傾く。研削圧力が小さい段階では、研削砥石が板状被研削物の表面を滑るだけで、実際には研削は行われない。そして、ある程度研削圧力が上昇した段階で実際に研削が開始され、板状被研削物の表面が除去される。切り込みを停止して研削圧力を低下させるときに、急激に研削砥石をウェーハから離すと、第1又は第2エアーベアリングから反力を受けているので、最後に研削砥石がウェーハに当接した場所に1本の研削条痕が残る。しかし、上記の構成によると、制御手段が、研削圧力が上昇して実際に研削が開始されるときの1対のチャック側圧力ポート又は1対の砥石側圧力ポートで検出した圧力差を記憶することで、研削砥石の切り込みを停止して研削ホイールとチャックテーブルとに溜まった撓みを開放する最終仕上げ工程において、研削圧力を低下させながら研削砥石を離脱させても研削条痕が許容される程度以下になるタイミングが判明するので、それ以降に研削砥石を板状被研削物から離脱させれば研削条痕が許容される程度以下になる。
【0015】
第4の発明では、1対のチャック側圧力ポートは、平面視でチャックテーブルの中心を通り、上記研削砥石及び上記板状被研削物の外周端の交点と、上記チャックテーブルの回転中心とを結んだ基準直線に対して略平行な直線上に該中心から等しい距離を空けてそれぞれ配置され、
1対の砥石側圧力ポートは、平面視で研削ホイールの中心を通り、上記基準直線に対して略垂直な直線上に該中心から等しい距離を空けてそれぞれ配置されている。
【0016】
上記の構成によると、基準直線に対して圧力ポートが適切に配置されているので、基準直線に対するチャックテーブル及び研削ホイールの傾き具合が圧力差から容易に検出される。このことで、板状被研削物に加わる研削圧力が推定されるので、研削砥石を離脱させても研削条痕が許容される程度以下になるタイミングが推定される。
【0017】
第5の発明では、上記板状被研削物は、半導体ウェーハとする。
【0018】
上記の構成によると、脆性材料であり、極めて高精度な仕上げを要求される半導体ウェーハが研削条痕を残すことなく研削される。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、上記第1及び第3の発明によれば、研削砥石が所定の研削圧力を受けて板状被研削物を実際に研削し始めるときの1対のチャック側圧力ポートの圧力差又は、1対の砥石側圧力ポートの圧力差を計測することで、研削砥石を離脱させても研削条痕が許容される程度以下になる研削圧力を記憶し、最終仕上げ工程において計測された1対のチャック側圧力ポートの圧力差又は1対の砥石側圧力ポートの圧力差が、記憶した圧力差よりも小さくなった後、研削砥石を板状被研削物から離脱させている。このため、板状研削物の仕上がり面精度を低下させることなく、研削時間を短くすることができる。
【0020】
上記第2及び第5の発明によれば、研削対象である板状被研削物を脆性材料であり、極めて高精度な仕上げを要求される半導体ウェーハとしている。このため、本発明の作用効果が顕著に発揮される。
【0021】
上記第4の発明では、基準直線に対して圧力ポートを適切に配置して基準直線に対するチャックテーブル及び研削ホイールの傾き具合を圧力差から容易に検出し、板状被研削物に加わる研削圧力を推定している。このため、研削砥石を離脱させても研削条痕が許容される程度以下になるタイミングを正確に推定できるので、板状研削物の仕上がり面精度を低下させることなく、研削時間を極めて効率的に短くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1に本発明の実施形態にかかる研削装置1を示し、この研削装置1は、基台2と、この基台2から略垂直に立設された縦壁部3とを備えている。この縦壁部3の正面側には、1対のレール4が基台2に対して略垂直に配設されている。このレール4には、スライド板5が上下方向にスライド移動可能に取り付けられている。このスライド板5から略垂直に縦壁部3に向かって推進部6が設けられている。この推進部6には、雌ネジが設けられている。
【0024】
すなわち、上記縦壁部3の上端には、推進モータ7が設けられ、その駆動軸である推進軸8には、推進ネジ(ボールネジ)が設けられている。この推進ネジに上記推進部6の雌ネジが嵌合し、推進モータ7を駆動することで、上記スライド板5が上下にスライド移動可能となっている。
【0025】
上記研削装置1は、図示しない制御手段としてのコントローラを備え、研削装置1全体の制御を行うように構成されている。
【0026】
上記基台2には、板状被研削物としての半導体ウェーハ9を吸引保持するチャックテーブル10が設けられている。すなわち、基台2の上面には、中央に貫通孔11aが設けられたベース11が配置されている。このベース11の貫通孔11aにベアリングハウジング12が配置されている。ベアリングハウジング12内には、第1のエアーベアリング13が配置され、この第1のエアーベアリング13にチャックテーブル10が回転可能に支持されている。
【0027】
図2に示すように、上記チャックテーブル10は、回転中心Xを頂点とする極めて小さい勾配の傾斜面からなる多孔質材料で形成された円錐面10aを有している。チャックテーブル10は、下方に向かって伸びる中心軸10bを有し、その中心には、空気孔10cが設けられている。この空気孔10cから空気を吸引することで、円錐面10aの多数の孔から空気を吸引して半導体ウェーハ9が吸引保持されるようになっている。円錐面10aの反対側には、平坦な表面を有する円板状の底部10dが形成されている。
【0028】
上記第1のエアーベアリング13は、表面がカーボンなどの多孔質材料で構成され、図示しない圧力源から供給される加圧気体を小さな孔からチャックテーブル10の中心軸10b及び底部10dに吹き付けて発生した静圧によって、チャックテーブル10を回転可能に支持するようになっている。
【0029】
図1に示すように、チャックテーブル10の中心軸10bの下端部は、カップリング14でチャック回転軸15に傾斜可能に連結されている。このチャック回転軸15は、その下端側にチャック側プーリー16が設けられている。このチャック側プーリー16に嵌められたベルト17がチャック回転用モータ18に駆動されるようになっている。
【0030】
一方、上記スライド板5には、砥石回転用モータ20が設けられている。この砥石回転用モータ20のホイール回転軸21は、ステータ22に対して傾斜可能な状態で回転可能となっている。図2に示すように、このホイール回転軸21には、研削ホイール25の中心軸25aが連結されている。この研削ホイール25の中心軸25aは下端部に円板状に広がった表面が平坦な円板部25bを有し、その下側に砥石取付部25cが設けられている。この砥石取付部25cの下端にウェーハ9を研削する円環状の研削砥石27が着脱可能に取り付けられている。例えば、この研削砥石27は、円環状のアルミフレームにダイヤモンド砥石が取り付けられた構造となっている。
【0031】
上記砥石回転用モータ20の下端側内面には、第2のエアーベアリング26が設けられている。この第2のエアーベアリング26も、上記第1のエアーベアリング13と同様に構成され、加圧気体を小さな孔から研削ホイール25の中心軸25a及び円板部25bに吹き付けて発生した静圧によって、研削ホイール25を回転可能に支持するようになっている。
【0032】
そして、上記研削砥石27が上記チャックテーブル10の回転中心X上に載るように該チャックテーブル10の回転中心Xと上記研削ホイール25の回転中心Yとがオフセットして配置されている。
【0033】
図1に示すように、上記第1のエアーベアリング13のベアリングハウジング12は、上記ウェーハ9の研削砥石27に対する当たり面の傾斜角を調整可能に構成されている。すなわち、基台2上のベース11には、1つのボール形状のチルト支点30と1対のボールネジ31,32とが設けられている。
【0034】
ボールネジ31はベアリングハウジング12に固定され内面に雌ネジを有するボールネジナット31aに嵌合し、減速機31bを介してボールネジ駆動モータ31cを駆動することによりボールネジナット31aが上下する構造となっている。ボールネジ駆動モータ31cはサーボモータ又はステッピングモータよりなる。ボールネジ32も同様の構造となっている。
【0035】
上記チルト支点30と1対のボールネジ31,32との位置関係について、図3を用いて具体的に説明する。平面視で研削砥石27とウェーハ9の外周との交点C1とチャックテーブル10の中心点C2とを結んで基準直線Zを引く。この基準直線Zに対して略平行となる位置に第1のボールネジ31と第2のボールネジ32とを配置する。この1対のボールネジ31,32に対して正三角形をつくるように上記チルト支点30を配置する。この正三角形の中心は、チャックテーブル10の中心と一致している。このように配置することで、ベアリングハウジング12が3点で支持され、チャックテーブル10が研削砥石27のウェーハ9に対する当たり面に対して傾斜可能に構成されている。
【0036】
そして、上記基準直線Zに略平行となる第1のエアーベアリング13の中心に対して対向する位置に1対のチャック側圧力ポート41,42が設けられている。この1対のチャック側圧力ポート41,42は、第1圧力ポート41及び第2圧力ポート42からなる。図4に示すように、第1圧力ポート41で第1のエアーベアリング13表面とチャックテーブル10の底部10dとの間における第1のボールネジ31側の圧力P1 が検出され、第2圧力ポート42で第2のボールネジ32側の圧力P2 が検出されるようになっている。すなわち、図5に示すように、研削加工中は研削負荷によりチャックテーブル10が第2のボールネジ32側へ傾くので、第1のエアーベアリング13表面とチャックテーブル10の底部10dとの間の隙間が狭くなって、P2 が大きくなり(P2 >P1 )、その圧力差PAC(PAC=P2 −P1 )が生じる。
【0037】
同様に上記基準直線Zに略垂直となる第2のエアーベアリング26における中心に対して対向する位置に1対の砥石側圧力ポート43,44を設ける。この1対の砥石側圧力ポート43,44は、第3圧力ポート43及び第4圧力ポート44からなる。図2に示すように、第3圧力ポート43で第2のエアーベアリング26の表面と円板部25bとの間におけるチャックテーブル10と反対側の圧力P3 が検出され、第4圧力ポート44でチャックテーブル10側の圧力P4 が検出されるようになっている。すなわち、研削加工中は研削負荷により研削砥石27がチャックテーブル10側へ傾くので、第2のエアーベアリング26の表面と円板部25bとの間の隙間が狭くなって、P4 が大きくなり(P4 >P3 )、その圧力差PBW(PBW=P4 −P3 )が生じる。
【0038】
−運転動作−
次に、本実施形態にかかる研削装置1の運転動作について説明する。
【0039】
(ティーチング作業)
予め、上記ウェーハ9の形状が目標とする形状に研削できるようにチャックテーブル10の傾きを調整しておく。目標とする形状とは、研削後の要求される製品の板厚に仕上がった形状をいう。
【0040】
(研削作業)
次いで、図6を用いて研削作業について説明する。図6には、砥石回転用モータ20の消費電力である研削電力及びウェーハに設けたゲージ(図示せず)から送られてくるゲージ信号が示されている。
【0041】
研削時には、まず、チャックテーブル10にウェーハ9を吸引保持し、チャック回転用モータ18を駆動してチャックテーブル10を回転させる。
【0042】
次いで、準備工程において、砥石回転用モータ20を駆動して研削ホイール25を回転させると共に、研削砥石27がチャックテーブル10の回転中心X上に載るまで、推進モータ7を駆動して研削ホイール25を下降させる。すると、チャックテーブル10は、第1のエアーベアリング13に、研削ホイール25は、第2のエアーベアリング26に、それぞれ隙間を空けて載置されているので、チャックテーブル10又は研削ホイール25は、傾斜して研削砥石27がウェーハ9上を滑り砥石に目つぶれを生じるのみで、すぐに研削は始まらない。
【0043】
そして、P1において、ある程度ウェーハ9に荷重(実際に加工が始まるときの最小の力)が負荷された段階で研削が開始される。このときの研削中の1対のチャック側圧力ポート41,42の圧力差P0Ac(P0Ac=P2 −P1 )又は、1対の砥石側圧力ポート43,44の圧力差P0Bw(P0Bw=P4 −P3 )を計測してコントローラに記憶しておく(記憶工程)。
【0044】
次いで、研削ホイール25を下降させてさらに荷重を加え、ウェーハ9を研削する。P2以降では、一定のスピードで安定して研削ホイール25を下降させて荒削りする(荒研削工程)。このとき研削砥石27は自生発刃を行って、砥石自身も削れながらウェーハ9が研削される。
【0045】
次いで、P3において、研削ホイール25の下降スピードを緩めて仕上げ工程を行う。
【0046】
次いで、P4以降の最終仕上げ工程において、切り込みを停止させ、研削砥石27とウェーハ9との間に溜まった撓みを開放する。この最終仕上げ工程では、形状変化速度が最少となり、最終形状が決まる。なお、最終仕上げ工程において、ゲージ信号が平坦なのは、測定子を上昇させているためである。
【0047】
この研削中の上記1対のチャック側圧力ポート41,42の圧力差PAC又は、上記1対の砥石側圧力ポート43,44の圧力差PBWを計測する。すると、圧力差PAC、又はPBWは、徐々に小さくなる。
【0048】
そして、上記1対のチャック側圧力ポート41,42の圧力差PACが記憶された上記圧力差P0Acと等しくなるか、又は1対の砥石側圧力ポート43,44の圧力差が記憶された上記P0Bwと等しくなったときに、一気に推進モータ7を駆動して研削砥石27をウェーハ9から離脱させる(離脱工程)。
【0049】
−実施形態の効果−
したがって、本実施形態にかかる研削方法及び研削装置1によると、研削砥石27が所定の研削圧力を受けてウェーハ9を実際に研削し始めるときの1対のチャック側圧力ポート41,42の圧力差P0Ac又は、1対の砥石側圧力ポート43,44の圧力差P0Bwを計測することで、研削砥石27がウェーハ9上を滑り始め、研削砥石27を離脱させても研削条痕が許容される程度以下になる研削圧力を記憶し、最終仕上げ工程において、計測される圧力差PAC、又はPBWが、記憶された圧力差P0Ac、又はP0Bwよりも小さくなった後に研削砥石27をウェーハ9から離脱させている。このため、ウェーハ9の仕上がり面精度を低下させることなく、研削時間を短くすることができる。
【0050】
また、基準直線Zに対して圧力ポート41〜44を適切に配置して基準直線Zに対するチャックテーブル10及び研削ホイール25の傾き具合を圧力差PAC、PBWから容易に検出し、ウェーハ9に加わる研削圧力を推定している。このため、研削砥石27を離脱させても研削条痕が許容される程度以下になるタイミングを正確に推定できるので、ウェーハ9の仕上がり面精度を低下させることなく、研削時間を極めて効率的に短くすることができる。
【0051】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0052】
すなわち、上記実施形態では、第1のエアーベアリング13及び第2のエアーベアリング26にそれぞれ1対の圧力ポート41〜44を設けたが、1対の圧力ポートは第1のエアーベアリング13又は第2のエアーベアリング26のどちらか一方のみに設けてもよい。また、圧力ポートは1対ではなく2対の圧力ポートを90度の間隔を空けて設けてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、第1のエアーベアリング13又は第2のエアーベアリング26に設けた圧力ポートの圧力差が記憶された圧力差より小さくなった後に研削砥石27をウェーハ9から離脱させているが、第1のエアーベアリング13と第2のエアーベアリング26の両者に設けた圧力ポートの圧力差がそれぞれ記憶された両者の圧力差より小さくなった後に研削砥石27をウェーハ9から離脱させてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、研削砥石27を離脱させても研削条痕が許容される程度以下になるタイミングを圧力から求めているが、そのときの研削電力としてもよい。すなわち、仕上げ電力を記憶し、その仕上げ電力と等しくなったときに離脱工程に移るようにしてもよい。
【0055】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明は、エアーベアリングを使用した半導体ウェーハなどの板状被研削物の研削装置及び研削方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態にかかる研削装置を一部破断して示す側面図である。
【図2】チャックテーブル、研削ホイール及びその周辺を拡大して示す側方断面図である。
【図3】チャックテーブル、研削ホイール及びその周辺の位置関係の概略を示す平面図である。
【図4】研削砥石が当たる前のチャックテーブルの傾きを示す側方断面図である。
【図5】研削砥石が当たっているときのチャックテーブルの傾きを示す側方断面図である。
【図6】研削電力及びゲージ信号を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
1 研削装置
9 ウェーハ(板状被研削物)
10 チャックテーブル
13 第1のエアーベアリング
25 研削ホイール
26 第2のエアーベアリング
27 研削砥石
41 第1圧力ポート(チャック側圧力ポート)
42 第2圧力ポート(チャック側圧力ポート)
43 第3圧力ポート(砥石側圧力ポート)
44 第4圧力ポート(砥石側圧力ポート)
Z 基準直線
LW 砥石軸直径
AC 1対のチャック側圧力ポートの圧力差
BW 1対の砥石側圧力ポートの圧力差
P0Ac 記憶された1対のチャック側圧力ポートの圧力差
P0Bw 記憶された1対の砥石側圧力ポートの圧力差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状被研削物を研削する方法において、
第1のエアーベアリングに回転可能に支持されたチャックテーブルに上記板状被研削物を吸引保持すると共に、該板状被研削物を研削する円環状の研削砥石を有し、第2のエアーベアリングに回転可能に支持された研削ホイールを、上記研削砥石が上記チャックテーブルの回転中心上に載るように配置する準備工程と、
上記チャックテーブルを回転させると共に、上記研削ホイールを回転させ、上記研削砥石を上記板状被研削物に近付けて当接させ、押し付けながら切り込んで研削する荒研削工程と、
上記研削砥石が所定の研削圧力を受けて上記板状被研削物を実際に研削し始めるときの上記第1のエアーベアリングに設けた1対のチャック側圧力ポートの圧力差又は、上記第2のエアーベアリングに設けた1対の砥石側圧力ポートの圧力差を計測し、記憶する記憶工程と、
上記研削砥石の切り込みを停止して研削ホイールとチャックテーブルとに溜まった撓みを開放する最終仕上げ工程と、
上記最終仕上げ工程において、計測される1対のチャック側圧力ポートの圧力差又は上記1対の砥石側圧力ポートの圧力差が、上記記憶された圧力差まで低下したときに上記研削砥石を板状被研削物から離脱させる離脱工程とを含んでいることを特徴とする板状被研削物の研削方法。
【請求項2】
請求項1に記載の板状被研削物の研削方法において、
上記板状被研削物は、半導体ウェーハであることを特徴とする板状被研削物の研削方法。
【請求項3】
第1のエアーベアリングに回転可能に支持され、板状被研削物を吸引保持するチャックテーブルと、
該板状被研削物を研削する円環状の研削砥石を有し、第2のエアーベアリングに回転可能に支持された研削ホイールとを備え、
上記研削砥石が上記チャックテーブルの回転中心上に載るように該チャックテーブルの回転中心と上記研削ホイールの回転中心とがオフセットして配置された研削装置であって、
上記第1のエアーベアリングに設けられた少なくとも1対のチャック側圧力ポート又は、
上記第2のエアーベアリングに設けられた少なくとも1対の砥石側圧力ポートと、
上記研削砥石が所定の研削圧力を受けて上記板状被研削物を実際に研削し始めるときの上記チャック側圧力ポート又は上記砥石側圧力ポートとで検出した圧力差を記憶し、切り込み停止後、上記チャック側圧力ポート又は上記砥石側圧力ポートで検出した圧力差が、上記記憶された圧力差まで低下したときに、研削ホイールを離脱させる制御手段とを備えていることを特徴とする研削装置。
【請求項4】
請求項3に記載の研削装置において、
上記1対のチャック側圧力ポートは、平面視でチャックテーブルの中心を通り、上記研削砥石及び上記板状被研削物の外周端の交点と、上記チャックテーブルの回転中心とを結んだ基準直線に対して略平行な直線上に該中心から等しい距離を空けてそれぞれ配置され、
上記1対の砥石側圧力ポートは、平面視で研削ホイールの中心を通り、上記基準直線に対して略垂直な直線上に該中心から等しい距離を空けてそれぞれ配置されていることを特徴とする研削装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の研削装置において、
上記板状被研削物は、半導体ウェーハであることを特徴とする研削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−125656(P2007−125656A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320839(P2005−320839)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】