説明

棒状体の測定方法

【課題】 リニアイメージセンサの出力から微小径の棒状体の縁部における単色光のフレネル回折パターンを解析して前記棒状体の径を求めるに際し、その誤検出を確実に防ぐことのできる棒状体の測定方法を提供する。
【解決手段】 光路中に位置付けられた棒状体により受光量が低下したリニアイメージセンサにおける受光セルの情報からその遮光領域の幅を求めると共に、上記遮光領域での受光量の総和の情報を求め、この受光量の総和の情報と、この情報に関して予め前記遮光領域の幅に応じて定めた閾値とを比較して、前記遮光領域に前記棒状体の径方向のエッジにおける回折光だけが回り込んでいる計測条件が成立しているか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル刃等の棒状体の径またはその回転時における芯振れ量の誤計測を確実に防止することのできる棒状体の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高密度実装用のプリント回路基板におけるスルーホールは、例えば直径が50〜100μm程度の微小なドリル刃を用いて穿孔される。この際、所定径のドリル刃を選択して用いることは勿論のこと、このドリル刃を芯振れのない状態でドリルのチャックに装着することが重要である。しかしこの種の微小径のドリル刃の径(ドリル径)を機械的に計測したり、その芯振れ量等を機械的に確認することは一般的には非常に困難であり、通常、光学的な計測手段が用いられる(例えば特許文献1,2,3を参照)。
【0003】
しかしながら特許文献1,2,3に示されるような光学的な計測手法は、ドリル刃による光の遮光を利用してその遮光幅をリニアイメージセンサ等により計測しているだけであり、直径が200μm以下の微小径のドリル刃の径等を正確に計測することが困難であった。そこで本発明者は先にフレネル回折を生じた単色光の回折パターン(強度分布)をハイパボリックセカンド関数sech(x)を用いて近似した近似式を用いて、そのエッジ位置を簡易にしかも高精度に求める手法を提唱した(例えば特許文献4を参照)。
【特許文献1】特開2003−170335号公報
【特許文献2】特開平7−306020号公報
【特許文献3】特開平7−260425号公報
【特許文献4】特開2004−177335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上述したフレネル回折光の強度分布からドリル刃や丸棒体の径を光学的に測定する場合、その光路中にドリル刃や丸棒体を完全に位置付けて、その径方向のエッジにおける回折光だけがリニアイメージセンサに到達するように設定することが重要である。換言すればドリル刃や丸棒体の先端が計測光路中に僅かに進入した状態にあり、その先端部における回折光までがリニアイメージセンサに入力すると、リニアイメージセンサにより検出される強度分布に誤差が生じるので、ドリル刃や丸棒体の径を正確に測定することができなくなる。しかもドリル刃や丸棒体をその軸方向に進退させ、その先端部から徐々に単色光の光路中に進入させながら計測を行う場合、どの時点でドリル刃や丸棒体の先端部での回折光の影響が無くなったかを判断することが困難である。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、単色光の光路中に位置付けられた棒状体による上記単色光の回折光を、上記棒状体の軸方向と交差する方向に複数の受光セルを配列したリニアイメージセンサにて受光し、このリニアイメージセンサの出力を解析して前記棒状体の径やその回転時における芯振れ量を正確に検出するに際し、上記棒状体の先端部における不本意な回折光に起因する誤検出を確実に防ぐことのできる棒状体の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するべく本発明は、例えば棒状体をその先端から徐々に単色光の光路中に位置付けたとき、棒状体によって上記単色光が次第に遮られて行く過程において棒状体の先端エッジおよびその径方向の両側部における回折光が上記単色光の遮光領域に回り込むとこと、その後、棒状体が単色光の光路内に完全に位置付けられると上記棒状体の先端エッジにおける回折光か消滅し、棒状体の径方向の縁部における回折光だけがその遮光領域に回り込むことに着目している。そして棒状体が中途半端に光路中に位置付けられている状態においては、棒状体の先端エッジにおける回折光の影響を受けることでその遮光領域での受光量が、光路内に棒状体が完全に位置付けられた状態のときよりも、つまり棒状体の先端エッジにおける回折光が回り込むことのない状態のときよりも大きくなることに着目している。
【0007】
そこで本発明に係る棒状体の測定方法は、単色光の光路中に位置付けられた棒状体による上記単色光の回折光を、上記棒状体の軸方向と交差する方向に複数の受光セルを配列したリニアイメージセンサにて受光し、このイメージセンサの出力を解析して求められる前記棒状体の径方向のエッジ位置から前記棒状体の径および/または前記棒状体の回転時における芯振れ量を求めるに際し、
前記光路中に位置付けられた棒状体に起因して受光量が低下した前記リニアイメージセンサにおける受光セルの情報から前記棒状体による遮光領域の幅を求めると共に、前記リニアイメージセンサの全ての受光セルまたは上記遮光領域に位置する受光セルでの受光量の総和(積分値)の情報を求め、
上記受光量の総和の情報と、この情報に関して予め前記遮光領域の幅に応じて定めた閾値とを比較して、前記遮光領域に前記棒状体の径方向のエッジにおける回折光だけが回り込んでいる状態を判定し、この状態が成立したときに前記棒状体の径または芯振れ量を算出することを特徴としている。
【0008】
ちなみに前記各受光セルの受光量は、請求項2に記載するように前記単色光の光路に棒状体が存在しない条件での前記各受光セルでの受光量を基準として前記各受光セルでの受光量をそれぞれ正規化したときの正規化受光量として求められる。また前記遮光領域については、前記正規化受光量が所定のレベル以下に低下した受光セルの並びとして求めることが望ましい。尚、上記遮光領域を判定するレベルは、単色光の光路に棒状体が存在しない条件での前記各受光セルでの受光量を“1”としたとき“0.75”等として設定される。
【0009】
また請求項3に記載するように前記リニアイメージセンサにおける全ての受光セルまたは上記遮光領域に位置する受光セルでの受光量の総和の情報は、該当する受光セルでの正規化受光量の総和Aopt自体として、或いはこの正規化受光量の総和Aoptの前記単色光の光路に棒状体が存在しないときの基準となる正規化受光量の総和Afullに対する差(Afull−Aopt)または比(Aopt/Afull),{(Afull−Aopt)/Afull}として、若しくは上記正規化受光量の総和Aoptの前記遮光領域を判定するレベルの正規化受光量の総和Amaxに対する差(Amax−Aopt)または比(Aopt/Amax),{(Amax−Aopt)/Amax}として求めるようにすれば良い。尚、遮光領域を判定するレベルが上述したように“0.75”として設定される場合には、上記遮光領域を判定するレベルの正規化受光量の総和Amaxは、光路に棒状体が存在しないときの正規化受光量の総和Afullの70%(0.75倍)として与えられる。
【0010】
また請求項4に記載するように前記閾値については、予め径の既知なる棒状体を用いて前記リニアイメージセンサの出力から前記棒状体の径が求められたときの前記受光量の総和の情報に、前記棒状体の径に応じた余裕値αを加えて設定しておけば良い。そして上記余裕値αについては、例えば請求項5に記載するように所定の太さ以上の前記棒状体の径に対して一定値として与え、上記所定の径に満たない前記棒状体の径に対しては、その径が細くなる程小さくなる値として与えるようにすれば良い。
【0011】
ちなみに前記単色光の光路は、請求項6に記載するように平行光束系または発散光束系の光路を形成したものからなる。また棒状体は、例えば請求項7に記載するようにドリル刃またはドリル刃に相当する丸棒体からなる。
【発明の効果】
【0012】
上述した棒状体の測定方法によれば、受光量が低下したリニアイメージセンサにおける受光セルの情報から前記棒状体による遮光領域の幅を求めると共に、前記リニアイメージセンサの全ての受光セルまたは上記遮光領域に位置する受光セルでの受光量の積分値の情報を求め、上記受光量の総和の情報に関して予め前記遮光領域の幅に応じて定めた閾値の下で前記受光量の総和の情報を判定して前記遮光領域に前記棒状体の径方向のエッジにおける回折光だけが回り込んでいる否かを判定している。そして棒状体の径方向のエッジにおける回折光だけが回り込んでいることが確認されたときにだけ、前記イメージセンサの出力を解析して求められる前記棒状体の径方向のエッジ位置から該棒状体の径または芯振れ量を求めるので、棒状体の先端エッジにおける回折光の影響を受けることなくその計測を正確に行い得る。
【0013】
即ち、棒状体による遮光領域の幅と受光セルでの受光量の積分値の情報とを求め、この受光量の積分値の情報を予め前記遮光領域の幅に応じて定めた閾値と比較することで上記遮光領域に棒状体の径方向のエッジにおける回折光だけが回り込んでいる状態を判定するので、非常に簡単に、しかも効果的に棒状体の径または芯振れ量の誤計測を防ぐことができる。特にドリル刃の径を測定するような場合には、その最大径を計測することが必要なので、ドリル刃の先端部における回折光の回り込みの影響を受けて実際よりも太めに計測される最大径を排除することができるので、その効果は非常に大きい。
【0014】
尚、請求項2に記載するようにリニアイメージセンサにおける各受光セルでの受光量をそれぞれ正規化受光量として求めれば、リニアイメージセンサの個体性のみならず、棒状体での単色光の反射等に起因する、いわゆる迷光の影響を除去することができるので、上述した測定条件の判定やその後の径計測時における精度を高めることができる。また回折光の影響は棒状体の径によって変化するので、遮光幅に応じた閾値を設定するための余裕値を、請求項5に記載するように棒状体の径に応じて変えるようにしておけば、幅広い径計測範囲において、その誤計測を効果的に防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る棒状体の測定方法について説明する。
本発明は、例えば図1に示すように構成された棒状体の測定装置に適用されて、その計測動作の制御に用いられる。特に本発明に係る測定方法は、上記測定装置においてドリル刃等の棒状体の径や芯振れ量の計測処理を実行するか否かを制御する制御アルゴリズムとして実現されて、例えば測定装置の動作制御部に組み込まれる。
【0016】
先ず図1に示す棒状体の測定装置について簡単に説明すると、この装置は概略的には一方向に所定のピッチwで配列した複数の受光セルを備えたリニアイメージセンサ(受光部)1と、このリニアイメージセンサ1の受光面に対峙して設けられて該リニアイメージセンサ1の複数の受光セルに向けて所定の光線束幅の単色平行光4を投光する投光部2とを備える。この投光部2は、例えばレーザダイオード(LD)からなる光源2aが発した単色光(レーザ光)を反射するミラー(例えばアルミ蒸着により鏡面処理を施したプリズム)2bと、このミラー2bを介して導かれた単色光の光線束形状をスリット状に規定するアパーチャマスク(投光窓)2cと、このアパーチャマスク2cを介した光を平行光線束に変換して投射する投射レンズ(コリメータレンズ)2dとを備える。
【0017】
一方、マイクロコンピュータ等により実現される装置本体3は、前記リニアイメージセンサ1の出力(各受光セルの受光量)を解析することで前記単色平行光4の光路に位置付けられた遮蔽物(棒状体)7の前記受光セルの配設方向におけるエッジ位置を高精度に検出する役割を担う。具体的には前記装置本体3は、前記リニアイメージセンサ1の出力(各受光セルの受光量)を取り込んで該リニアイメージセンサ1の受光面上における光強度分布を求める入力バッファ3aを備える。特に装置本体3は、その初期設定処理として予め前記投光部2から投光された所定の光線束幅の単色平行光の全てを前記リニアイメージセンサ1にて受光し、このときの光強度分布に基づいて前記投光部2が投光する単色平行光の前述したアパーチャマスク2cによる回折パターンを求めると共に、この回折パターンの逆数に従って前記各受光セルの受光量に対する正規化パラメータを求める回折パターン検出手段3bを備える。
【0018】
更に装置本体3は、上記回折パターン検出手段3bにより求められた正規化パラメータに従って前記リニアイメージセンサ1の出力を正規化する正規化手段3cと、この正規化手段3cにて正規化処理した前記リニアイメージセンサ1の出力(正規化出力)に従って前記棒状体7の端部(エッジ)の位置、具体的にはリニアイメージセンサ1における受光セルの配列方向の位置を検出するエッジ検出部3bとを備える。またこの計測装置においては上記装置本体3は、更に上記エッジ検出部3dの出力を利用して棒状体(ドリル刃)7の径を測定する径測定部3e、また上記棒状体7の回転時における芯ぶれを検出する芯ぶれ検出部3f、および棒状体7の先端位置を検出する先端位置検出部3gを備えて構成される。
【0019】
ちなみに上記エッジ検出部3dは、基本的には前記単色平行光の一部が棒状体7にて遮られたとき、棒状体(遮蔽物)7の端部(エッジ)においてフレネル回折が生じること、そしてフレネル回折を生じて前記リニアイメージセンサ1の受光面に到達する光の強度が、図2に示すようにそのエッジ位置近傍で急峻に立ち上がり、エッジ位置から離れるに従って振動しながら収束する分布特性を持つことに着目して、リニアイメージセンサ1の受光面上での光強度分布に従って前記棒状体7の端部(エッジ)の位置を高精度に検出するように構成される。このフレネル回折を利用したエッジ位置検出の手法については前述した特許文献4に詳しく紹介される通りである。
【0020】
ところで上述した測定装置は、基本的には単色光の光路4を完全に横切るように棒状体(ドリル刃)7を位置付けた状態において、上記棒状体(ドリル刃)7の径方向の両縁部にてそれぞれ生じた回折光だけがリニアイメージセンサ1の受光面上に到達するとして該リニアイメージセンサ1の受光面上での光強度分布から前記棒状体7の両端部(エッジ)の位置をそれぞれ検出し、これらの両エッジ位置から棒状体(ドリル刃)7の径を求めたり、或いはその回転時における芯振れ量を求めるものである。
【0021】
しかしながら、例えば図3に示すように棒状体7が単色光の光路7の一部だけを遮る位置に位置付けられた状態であると、棒状体7の径方向の両縁部(エッジ)で回折が生じるだけでなく、上記棒状体7の先端エッジにおいても回折が生じる。そしてこの先端エッジにおける回折光もリニアイメージセンサ1に到達することになる。これ故、例えば棒状体7を前述した光路4と交差する方向から、その軸方向に進退させながら上記光路7中に進入させ、このときに検出されるエッジ位置から該棒状体7の径を逐次計測した場合、その計測径は図4に示すように変化する。
【0022】
即ち、棒状体7として丸棒体をその軸方向に変位させてその先端部から徐々に光路4中に進入させたときに計測される上記丸棒体の計測径は、図4に示すようにその移動量に応じて変化する。この図4に示されるように棒状体(丸棒体)7の先端が光路4に進入すると、これによって生じる回折光からその進入量に応じた計測値が求められる。そして棒状体(丸棒体)7が光路4中に完全に進入してその先端での回折光の影響がなくなると、その計測径が一定値に落ち着く。しかし計測径が一定値に落ち着く直前においては、棒状体7の径方向における縁部での回折光と該棒状体7の先端部での回折光とが相乗して、図4において一点鎖線Xで囲むようにその計測径が一時的に大きくなることが否めない。特にドリル刃の径を測定する場合には、螺旋状に切り込まれたドリル刃による最大径を計測する必要があるので、上述した一時的に大きく求められる計測径をドリル刃の径として誤計測する虞がある。しかもドリル刃の場合、その刃長(軸方向の刃の長さ)が様々であり、また先端部における摩耗を考慮した場合、でき得る限りその先端部近傍でドリル径を計測することが望ましい。
【0023】
そこで本発明においては、図1に示すように装置本体3に付随して設けた動作制御部6において、前記リニアイメージセンサ1の出力から棒状体7の径方向の縁部において生じた回折光だけがリニアイメージセンサ1に到達している状態、つまり棒状体7の先端部における回折光の影響がなくなった状態を判定し、この状態が検出されたときにだけ前記装置本体3を作動させて棒状体(ドリル刃)7の径または芯振れ量の計測処理を実行させるものとなっている。
【0024】
具体的には上記動作制御部6は、前記リニアイメージセンサ1の出力である複数の受光セル1aによる各受光量を前記正規化処理手段3cの出力から監視して、例えば光路4に棒状体7が存在していないときの受光量に比較してその受光量が75%に低下した受光セルの連なりを棒状体7による単色光の遮光領域Wとして検出する遮光領域検出手段6aを備えている。尚、遮光領域の判定閾値である上記75%は、受光量の低下が棒状体7の存在によるものであると認められる経験的な設定値であり、装置の仕様等に応じて適宜変更可能なものである。
【0025】
また前記動作制御部6は、例えば上記遮光領域検出手段6aにて検出された遮光領域での受光セルによる受光量(正規化受光量)の総和Aoptを求め、この受光量の総和Aoptに従って前記棒状体(ドリル刃)7に対する径や芯振れ量の計測条件が成立しているか否かを判定する為の評価値を求める受光量検出手段6bを備えている。尚、上記計測条件は、前述した棒状体7の径方向の縁部において生じた回折光だけがリニアイメージセンサ1に到達している状態、つまり棒状体7の先端部における回折光等の迷光がリニアイメージセンサ1に混入しない状態を指す。
【0026】
ちなみに上記評価値は遮光領域における受光量の総和Aoptを評価し得る情報であれば良く、例えば上記受光量の総和Aoptそのものとして求められる。この受光量の総和Aoptの情報は測定条件判定手段6cに与えられ、予め閾値テーブル6dに上記遮光領域の幅に応じて登録されている閾値と比較されて前記計測条件が成立しているか否かが判定される。そして測定条件判定手段6cは、その計測条件が成立しているとき、つまり迷光の影響がなく、棒状体7の径方向の縁部において生じた回折光だけがリニアイメージセンサ1に到達していることが確認されたとき、前記装置本体3に対してその計測処理の実行を促すものとなっている。この結果、装置本体3は前記リニアイメージセンサ1に棒状体7の径方向の縁部において生じた回折光だけが到達している条件下において該棒状体7の径を計測し、或いは芯振れ量を計測してその計測出力を得ることになる。
【0027】
より具体的に説明すると遮光領域検出手段6aは、例えば図5(a)(b)にそれぞれ示すように求められるリニアイメージセンサ1の各受光セルでの受光量が、その基準値の75%以下まで低下している受光セルを検出し、これらの受光セルの並びにて示される領域を遮光物7による遮光領域として求めている。そしてこの遮光領域の情報を受光量検出手段6bに与え、この遮光領域における受光セルでの各受光量を積分することで、その総和Aoptを求めている。一方、前記閾値テーブル6dには、上述した受光量の総和Aoptに関して前記遮光領域の幅に応じた計測条件判定の為の閾値が登録されている。
【0028】
ちなみに上記閾値は、棒状体7の径方向の縁部において生じた回折光だけである場合における遮光領域での受光量の総和よりも、上記棒状体7の先端エッジにおける回折光等の迷光が含まれる場合には上記遮光領域での受光量の総和が大きくなることから、この状態を排除するべく設定されるもので、例えば径が既知の棒状体(ドリル刃)7を計測したときに求められる遮光領域での受光量の総和Aoptに所定の余裕値αを加算したものとして、上記遮光領域の幅に対応付けて設定される。そして実際の棒状体7の計測時には、前述した如く求められる受光量の総和Aoptと、そのときの遮光領域の幅Wに応じて前記閾値テーブル6dから求められる閾値と比較し、上記受光量の総和Aoptが閾値を下回る場合にだけ、計測条件が成立していると判定して装置本体3に対して計測処理の実行を指示することになる。
【0029】
尚、受光量の総和に関する情報としては、前述した遮光領域における受光量の総和Aopと、この遮光領域に該当する受光セルにおいて前記単色光の光路4に棒状体7が存在しないときに得られる基準受光量の総和Afullとの差(Afull−Aopt)、つまり遮光領域での受光量の低下量の総和として求めることも可能である。または受光量の総和に関する情報を、上記各受光量の総和の比(Aopt/Afull)とし、或いは上記差の基準受光量の総和Afullに対する比{(Afull−Aopt)/Afull}として求めることも可能である。
【0030】
また遮光領域における受光量については、前述したように基準受光量の75%以下の受光量に着目して求めているので、上記基準受光量の75%である遮光領域を判定するレベルの正規化受光量の総和Amax(前記基準受光量の総和Afullの75%)を基準として、前述した受光量の総和に関する情報を、その差(Amax−Aopt)や比(Aopt/Amax),{(Amax−Aopt)/Amax}として求めることも勿論可能である。更には遮光領域における受光セルでの受光量の低下に伴ってリニアイメージセンサ1の全体での受光量も相対的に低下するので、リニアイメージセンサ1における全受光セルでの受光量の総和に着目して前述した棒状体7による受光量の低下を判定することの勿論可能である。
【0031】
このようにして受光量の総和に関する情報を求める場合、前述した閾値についても、上記受光量の総和に関する情報に応じて、遮光領域の幅Wに対応付けて設定することは言うまでもない。特に受光量の総和に関する情報を、受光量の低下量の総和(前述した差)に着目して求める場合にはその判定論理が逆となるので、前述した如く設定した閾値を上回るとき、これをその計測条件が成立しているとして判定するようにすれば良い。
【0032】
ところで上述した計測条件を判定する為の閾値は、前述した遮光領域の幅Wに応じて予め設定されたものであり、例えば径の既知なる丸棒体7を用いたときにその径を正しく計測したときの遮光領域の幅Wと、前述した受光量の総和の情報との関係に基づき、この受光量の総和の情報に所定の余裕値αを加算(または減算)して設定される。具体的には受光量の総和の情報を、前述した正規化受光量の総和Aoptとして求める場合には、この正規化受光量の総和Aoptに余裕値αを加えた値を、そのときの遮光領域の幅Wにおける判定閾値として定めれば良い。
【0033】
また棒状体(ドリル刃)7の径が或る程度太くなると、遮光領域での受光量は殆ど変化しなくなる。例えば棒状体7の径が1000μm以上になると、棒状体7の径方向の両端部でそれぞれ回折した光が互いに重なり合うことがなくなるので、遮光領域での受光量は略一定となる。そして棒状体7の径が1000μm以下である場合には、その径が細くなるに従って棒状体7の径方向の両端部でそれぞれ回折した光が互いに重なり合う量が増えるので、遮光領域での受光量の変化が少なくなる。
【0034】
従ってこのような現象を踏まえて、例えば図6に示すように径の既知なる棒状体(丸棒体)7の径を正しく計測したときの遮光領域の幅Wと、そのときに求められる受光量の総和Aoptに対して、遮光領域の幅W(等価的に丸棒体の径)が1000μm以上である場合は一定の余裕値αを加えて判定閾値THを設定し、遮光領域の幅Wが1000μmに満たない場合には、遮光領域の幅が狭くなるに従って小さくなる余裕値αを加えて判定閾値THを設定するようにすれば良い。即ち、棒状体7の径が太く、該棒状体7による遮光領域の幅Wが上記棒状体7の径方向の両端部で回折光の重なりの影響を受けることのない場合(例えば1000μm以上)には、遮光領域での受光量の総和Aoptに対する閾値を一定値(Aopt+α)として設定する。そして棒状体7の径が細く、該棒状体7による遮光領域の幅Wが上記棒状体7の径方向の両端部で回折光の重なりの影響を受ける場合(例えば1000μm未満)には、その径(遮光領域の幅W)が細くなるに従って小さくなる余裕値αを用いて、遮光領域での受光量の総和Aoptに対する閾値を、例えば遮光領域の幅Wの変化に対して一定の傾きを以て変化する値として設定すれば良い。
【0035】
かくして上述した如く設定した閾値を用いて棒状体(ドリル刃,丸棒体)7による遮光領域での受光量の総和Aoptを判定し、この判定結果から上記遮光領域に棒状体7の径方向の両端部で回折光だけが到達している状態、つまり光路4中に棒状体7が完全に位置付けられた状態となったことを検出して装置本体3による計測処理を実行させる測定方法によれば、上記棒状体7の径または芯振れ量を正しく計測することができる。
【0036】
特に棒状体7をその軸方向に進退させ、その先端側から光路4中に進入させて径計測を実行する場合、図7に棒状体7の移動量に対するリニアイメージセンサ1による全体的な受光量(受光量の総和)Aoptの変化、この受光量Aoptに対する判定閾値TH、そしてリニアイメージセンサ1の出力から求められる棒状体7の径φとの関係を対比して示すように、上記受光量Aoptが判定閾値THを下回ったときから上記棒状体7の径φを有効とすることができる。この結果、光路4への遮光物7の進入時に一時的に太めに検出される誤った径φの出力を禁止することができ、ひいては上記遮光物7の径を正確に計測することが可能となる。また上述したように棒状体7を軸方向に進退させてその先端側から光路4中に進入させて径計測を実行する場合、その計測条件が成立した時点で逸早く径計測を実行することが可能となる。特に迷光に起因する誤計測を招来することなく、その径計測を常に安定に正しく実行することが可能となる。
【0037】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。実施形態においては径計測を例に説明したが、棒状体(ドリル刃)7を回転させてその芯振れを検出する場合にも同様な現象が生じるので、この芯振れ計測の場合にも本発明を同様に適用可能である。またここでは単色平行光を用いた計測装置を例に説明したが、図8に示すような点光源2aから発せられる発散光を用いた拡大光学系を用いて径計測や芯振れ検出を行う計測装置にも同様に適用可能である。この場合、その拡大率によって遮光物7による遮光領域の幅Wが変化するので、例えば予め設定した拡大率の下で前述した計測条件判定処理や計測処理を実行するようにしておけば良い。その他、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態に係る棒状体の測定方法を適用して構築される測定装置の概略構成を示す図。
【図2】棒状体の縁部において生じる単色光のフレネル回折の強度分布(回折パターン)を示す図。
【図3】棒状体(ドリル刃)の先端部だけが光路に位置付けられた状態での、リニアイメージセンサとの位置関係を示す図。
【図4】棒状体(ドリル刃)を軸方向に移動させてその先端から徐々に単色光路中に位置付けたときに計測される上記棒状体の径の変化を示す図。
【図5】光路中に位置付けた棒状体により部分的に遮光された単色光のリニアイメージセンサによる受光量分布の例を示す図。
【図6】棒状体の径の変化に対する該棒状体による遮光領域での受光量Aoptと、この受光量Aoptから計測条件を判定する為の閾値THとの関係を示す図。
【図7】棒状体(ドリル刃)を軸方向に移動させてその先端から徐々に単色光路中に位置付けたときの、リニアイメージセンサによる全体的な受光量Aoptの変化、この受光量Aoptに対する判定閾値TH、およびリニアイメージセンサの出力から求められる計測径との関係を対比して示す図。
【図8】本発明を適用して構築された測定装置の別の例を示す図。
【符号の説明】
【0039】
1 リニアイメージセンサ
4 単色光の光路
3 装置本体(計測処理部)
3c 正規化処理手段
3d エッジ検出手段
3e 径計測手段
3f 芯振れ検出手段
6 動作制御部
6a 遮光領域検出手段
6b 受光量検出手段
6c 測定条件判定手段
6d 閾値テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単色光の光路中に位置付けられた棒状体による上記単色光の回折光を、上記棒状体の軸方向と交差する方向に複数の受光セルを配列したリニアイメージセンサにて受光し、このイメージセンサの出力を解析して求められる前記棒状体の径方向のエッジ位置から前記棒状体の径および/または前記棒状体の回転時における芯振れ量を求めるに際し、
前記光路中に位置付けられた棒状体に起因して受光量が低下した前記リニアイメージセンサにおける受光セルの情報から前記棒状体による遮光領域の幅を求めると共に、前記リニアイメージセンサの全ての受光セルまたは上記遮光領域に位置する受光セルでの受光量の総和の情報を求め、
上記受光量の総和の情報と、この情報に関して予め前記遮光領域の幅に応じて定めた閾値とを比較して、前記遮光領域に前記棒状体の径方向のエッジにおける回折光だけが回り込んでいる状態を判定し、この状態が成立したときに前記棒状体の径または芯振れ量を算出することを特徴とする棒状体の測定方法。
【請求項2】
前記各受光セルの受光量は、前記単色光の光路に棒状体が存在しない条件での前記各受光セルでの受光量を基準として前記各受光セルでの受光量をそれぞれ正規化したときの正規化受光量として求められるものであって、
前記遮光領域は、前記正規化受光量が所定のレベル以下に低下した受光セルの並びとして求められるものである請求項1に記載の棒状体の測定方法。
【請求項3】
前記リニアイメージセンサにおける全ての受光セルまたは上記遮光領域に位置する受光セルでの受光量の総和の情報は、該当する受光セルでの正規化受光量の総和Aopt自体として、或いはこの正規化受光量の総和Aoptの前記単色光の光路に棒状体が存在しないときの基準となる正規化受光量の総和Afullに対する差または比として、若しくは上記正規化受光量の総和Aoptの前記遮光領域を判定するレベルの正規化受光量の総和Amaxに対する差または比として求められるものである請求項1に記載の棒状体の測定方法。
【請求項4】
前記閾値は、予め径の既知なる棒状体を用いて前記リニアイメージセンサの出力から前記棒状体の径が求められたときの前記受光量の総和の情報に、前記棒状体の径に応じた余裕値を加えて設定されたものである請求項1に記載の棒状体の測定方法。
【請求項5】
前記余裕値は、所定の太さ以上の前記棒状体の径に対して一定値として与えられ、上記所定の径に満たない前記棒状体の径に対しては、その径が細くなる程小さくなる値として与えられるものである請求項4に記載の棒状体の測定方法。
【請求項6】
単色光の光路は、平行光束系または発散光束系の光路として設定される請求項1に記載の棒状体の測定方法。
【請求項7】
前記棒状体は、ドリル刃またはドリル刃に相当する丸棒体である請求項1に記載の棒状体の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−250696(P2006−250696A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67391(P2005−67391)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】