説明

植物成分含有エマルション製剤及びその製造方法

【課題】空気中又は水中で容易に酸化される植物由来の水溶性成分を安定的に含有する植物成分含有エマルション製剤及びその製造方法を提供するもので、特に、カテキン類を代表とする茶葉中の諸々の有効成分を総合的に利用することが可能で、茶葉の用途を大きく広げることが可能な、植物成分を油相中に安定的に含有する茶葉成分含有エマルション製剤を提供する。
【解決手段】空気中又は水中で容易に酸化される植物由来の水溶性成分が油相に分散し、該油相が水相中に分散していることを特徴とする植物成分含有エマルション製剤であり、特に、植物由来の水溶性成分が茶葉成分としてのカテキン類であり、このカテキン類が油相に分散し、該油相が水相中に分散した植物成分含有エマルション製剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物成分を含有するエマルション製剤及びその製造方法に関する。より詳しくは、植物成分として空気中又は水中で容易に酸化される水溶性のカテキン類等の水溶性成分が油相に分散し、この油相が水相に分散するo/w型エマルション製剤及びその製造方法に関する。
【0002】
植物の葉、茎、果実、種実、花弁等には人体にとって有用な多くの成分が含まれており、また、その中には空気中又は水中で容易に酸化される不安定な水溶性成分が多数存在する。このような酸化安定性に欠ける水溶性成分としては、例えば、緑茶葉、紅茶葉、コーヒー、ブドウ等に含まれる抗酸化、抗菌、消臭効果のあるカテキン等のポリフェノールや、ブドウ、ブルーベリー、プルーン等に含まれるロドプシンの再合成促進効果のあるアントシアニンや、レモン、オレンジ等に含まれる活性酸素の活性化抑制、コラーゲン生成促進効果のあるビタミンC等、例示すれば限りが無い。
本発明は、このような空気中又は水中で容易に酸化される不安定な水溶性成分を安定的に含有するエマルション製剤及びその製造方法であり、以下に、茶葉成分を例にしてより具体的に説明する。
【背景技術】
【0003】
【特許文献1】特開2002−142677
【非特許文献1】「化学と生物」vol.38,No.2,2000(104−114頁)
【0004】
天然物である緑茶等の茶葉中には種々の薬理成分が含まれている。茶葉中の水溶性成分としては、カテキン類、カフェイン、アスコルビン酸(ビタミンC)、γ−アミノ酪酸、テアニン、ビタミンP、水溶性食物繊維、サポニン、ミネラル等があり、不溶性成分としては、食物繊維、カロテン、トコフェロール(ビタミンE)、タンパク質、クロロフィル等がある。特に、茶葉中には水溶性であるカテキン類が多量に含まれており、カテキン類を高濃度に含有する容器詰茶飲料が一般にも市販されている(特許文献1)。カテキン類の作用に関する近年の研究によれば、カテキン類は、大腸がん予防作用、腎不全改善や体脂肪低減効果、抗酸化作用、殺菌・抗菌作用、消臭作用、アトピー性皮膚炎の抑制作用、血圧上昇抑制作用、その他の薬理作用を有している。
【0005】
緑茶中に含まれるカテキン類には、エピガロカテキンガレート(EGCg)、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート等がある。これらのうち、特に、EGCgは緑茶中のカテキン類の50〜60%を占め、分子内にフェノール性水酸基を8個と数多くもち、カテキン類の中でも抗酸化作用の活性が最も強いことが知られ、広範な生理活性が期待される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、カテキン類はそのフェノール性水酸基によるラジカルの補足作用により強い抗酸化力を有すると同時に、その性質の為に逆に水溶液中では不安定である。また、経口摂取されるEGCgのうち、消化管から体内への吸収量は摂取量の5〜8%と乏しく、更に血中に移行するEGCgの量は、摂取量のおおよそ2%程度と見積もられている(非特許文献1)。
【0007】
本願発明者らの研究によれば、カテキン類はその構造上、低温では水よりもむしろ油に良く溶解するものも存在すると考えられる。したがって、カテキン類を含む茶葉成分を油相に均一に分散させ、これを用いて、o/w型エマルション製剤とすれば、水溶性であるカテキン類が油相中に存在するので、化学的安定性及び体内吸収性の向上が図られ、かつ、水溶性の製剤となるので、経口等体内摂取の容易化が期待できる。
【0008】
本発明は、以上のような茶葉に関する種々の研究の中で見い出されたものであり、空気中又は水中で容易に酸化される植物由来の水溶性成分を安定的に含有する植物成分含有エマルション製剤及びその製造方法を提供することを目的とし、特に好適には、植物成分が茶葉成分であり、カテキン類を代表とする茶葉中の諸々の有効成分を総合的に利用することが可能で、茶葉の用途を大きく広げることが可能な、茶葉成分を油相中に安定的に含有する茶葉成分含有エマルション製剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、空気中又は水中で容易に酸化される植物由来の水溶性成分が油相に分散し、該油相が水相中に分散していることを特徴とする植物成分含有エマルション製剤である。特に、植物由来の水溶性成分が茶葉成分としてのカテキン類であり、このカテキン類が油相に分散し、該油相が水相中に分散していることを特徴とする、植物成分含有エマルション製剤である。
【0010】
また、本発明は、空気中又は水中で容易に酸化される水溶性成分を含む植物材料を粉砕し、この予め粉砕した植物材料と油性基材とを混合しつつ微細粉末化処理し、植物微細粉末を除去して油性溶液を分取し、更に、得られた油性溶液と、界面活性剤と、水とを撹拌して、水相中に油相を乳化又は可溶化することを特徴とする植物成分含有エマルション製剤の製造方法である。特に、植物材料が茶葉であって、植物成分として茶葉成分を含有する、緑茶成分含有エマルション製剤の製造方法である。
【0011】
本発明の植物成分含有エマルション製剤においては、空気中又は水中で容易に酸化される植物由来の水溶性成分(以下、「植物由来の易酸化性水溶性成分」という。)が油相中に分散し、かつ、この植物由来の易酸化性水溶性成分を含む油相が水相中に分散している。ここで、分散とは、混濁若しくは半透明の状態に分散(乳化)するか又は透明な状態に分散(可溶化)することを云う。ただし、「可溶化」は、肉眼では透明であっても、微視的には、油相と水相とがあって、油相が水相中に分散している。本発明において、エマルション製剤とは、食品、化粧品、又は医薬品等の分野に、直接又は間接に利用可能に調製されたエマルションを云う。
【0012】
本発明においては、植物由来の易酸化性水溶性成分を油相中に分散し剤形的に油性にすることで、植物成分含有エマルション製剤を経口した際や、皮膚や粘膜へ塗布した際に、植物由来の易酸化性水溶性成分の生体膜透過性すなわち体内吸収性を高めることが期待できる。一般に、生体膜に対しては、イオンなどの水溶性物質は透過しにくいが、分子型である脂溶性物質は比較的容易に生体膜を通過することが知られている。したがって、植物由来の易酸化性水溶性成分を油性基材で包み脂溶性とすることで、体内吸収を増大させることが可能になると考えられる。
【0013】
本発明で使用する植物材料としては、これまでに人体にとって有用であるとされた多くの植物の葉、茎、果実、種実、花弁等を例外なく挙げることができるが、好適な代表例としては茶葉を挙げることができる。ここで、茶葉とは、植物名 Thea sinensisまたはその栽培変種の葉である。茶葉には、緑茶のごとき不発酵茶、紅茶のごとき発酵茶、その他、半発酵茶や不完全発酵茶等があるが、何れも本発明の植物成分含有エマルション製剤を製造するための原料として使用できる。また、カテキン類は一度使用した、所謂、茶殻にも多量に残留しているため、茶殻も原料として使用可能であり、従って、本発明でいう茶葉は、かかる茶殻も含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明の植物成分含有エマルション製剤においては、植物由来の水溶性成分が油相に分散し、この油相が水相に分散したo/w型エマルションとなっているので、この水溶性成分がたとえ空気中又は水中で容易に酸化される茶葉由来のカテキン類等の易酸化性の水溶性成分であっても、空気や水との直接的な接触が回避されて酸化され難くなり、この易酸化性水溶性の有効成分を長期に亘って安定的に維持することができる。
【0015】
また、本発明の植物成分含有エマルション製剤の製造方法によれば、このようにカテキン類等の易酸化性水溶性の有効成分を長期に亘って安定的に維持することができる植物成分含有エマルション製剤を容易に製造することができる。
【0016】
本発明の植物成分含有エマルション製剤は、油相を水相中に可溶化あるいは乳化して水溶性のエマルション製剤としているので、経口飲料として飲み易く、皮膚や粘膜へ塗布際には取り扱いが極めて優れる。また、通常、抽出された緑茶のカテキン類等の植物由来の易酸化性水溶性成分は体内への吸収が乏しいのに比べて、本発明の植物成分含有エマルション製剤は、水溶性又は脂溶性の植物成分を油相中に安定的に分散させているので、体内への吸収が格段に優れ、その有用性が飛躍的に増大するものと考えられる。
【0017】
更に、本発明の植物成分含有エマルション製剤は、カテキン類等の植物由来の易酸化性水溶性成分を含む植物成分を油相中に高濃度に含有させることができ、カテキン類の吸収性に特に優れたエマルション製剤であるので、植物成分のカテキン類等の機能を有効に発揮させることができ、食品分野、化粧品分野、医薬品分野等へ利用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の植物成分含有エマルション製剤において、油相には100gの油相当たり0.01〜70gの植物成分を含むことが好ましく、100gの油相当たり0.1〜30gの植物成分を含むことがより好ましく、100gの油相当たり0.1〜10gの植物成分を含むことが特に好ましい。
【0019】
また、本発明において、植物由来の易酸化性水溶性成分が茶葉由来のカテキン類である場合、油相には100gの油相当たり10〜7000mgのカテキン類を含むことが好ましく、100gの油相当たり50〜500mgのカテキン類を含むことがより好ましく、100gの油相当たり80〜300mgのカテキン類を含むことが特に好ましい。
【0020】
本発明において植物由来の植物成分が茶葉由来の茶葉成分である場合、茶葉成分含有エマルション製剤は、
100gの茶葉成分含有エマルション製剤当たり、10〜7000mgのカテキン類と、300〜1200μg(レチノール当量)のビタミンAと、2000〜12000μg(β−カロテン当量)のカロテンと、0.5〜150mgのアスコルビン酸(ビタミンC)と、6〜40mg(α−トコフェロール当量)のビタミンEと、25〜220mgのクロロフィルと、を含むことが好ましく、
100gの茶葉成分含有エマルション製剤当たり、20〜500mgのカテキン類と、400〜1000μg(レチノール当量)のビタミンAと、3000〜8000μg(β−カロテン当量)のカロテンと、0.8〜8mgのアスコルビン酸(ビタミンC)と、10〜30mg(α−トコフェロール当量)のビタミンEと、40〜200mgのクロロフィルと、を含むことがより好ましい。
【0021】
更に、本発明の植物成分含有エマルション製剤において、植物由来の植物成分が茶葉由来の茶葉成分である場合、茶葉成分の大部分は油相中に含有することが好ましく、油相には、
100gの油相当たり、10〜7000mgのカテキン類と、300〜1200μg(レチノール当量)のビタミンAと、2000〜12000μg(β−カロテン当量)のカロテンと、0.5〜150mgのアスコルビン酸(ビタミンC)と、6〜40mg(α−トコフェロール当量)のビタミンEと、25〜220mgのクロロフィルと、を含むことがより好ましく、また、
100gの油相当たり、20〜500mgのカテキン類と、400〜1000μg(レチノール当量)のビタミンAと、3000〜8000μg(β−カロテン当量)のカロテンと、0.8〜8mgのアスコルビン酸(ビタミンC)と、10〜30mg(α−トコフェロール当量)のビタミンEと、40〜200mgのクロロフィルと、を含むことが特に好ましい。
【0022】
このように、カロテン類やビタミンE等の脂溶性の茶葉成分と共に、カテキン類等の水溶性の茶葉成分を含むことにより、茶葉成分をバランス良く好適に摂取することができる。また、これらの脂溶性の茶葉成分を同時に含む油相中では、水溶性であるカテキン類をも均一に分散させることが可能である。
【0023】
また、茶葉成分を総合的に含む本発明の茶葉成分含有エマルション製剤では、茶葉成分中の水溶性であるビタミンCや脂溶性であるビタミンEがいずれも抗酸化作用を有するので、カテキン類の抗酸化作用と同時に働かせて相乗的に利用することができる。また、茶葉成分とは別に、水溶性であるビタミンCを水相中に添加することや、脂溶性であるビタミンEを油相中に更に添加することも可能であり、その相乗効果を期待することが可能である。
【0024】
本発明の植物成分含有エマルション製剤において、エマルション製剤の体内摂取を容易化し、取り扱いを改善するために、油滴の平均粒径はより小さく設計することが好ましい。油相の油滴の平均粒径は1000μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが特に好ましい。また、本発明においては、水相と油相との割合や界面活性剤の種類と添加割合、分散方法等を適宜調整することにより、油滴の平均粒径が50nm〜1000μmの乳化状態の植物成分含有エマルション製剤を調製することもでき、油滴の平均粒径が200nm以下の可溶化状態の植物成分含有エマルション製剤を調製することもできる。
【0025】
本発明において、植物成分含有エマルション製剤の全体に対する油相の割合としては、用途に応じて、100gの植物成分含有エマルション製剤当たり0.01〜74gの油相を水相中に分散させることができる。安定なo/w型エマルション製剤の為に、100gの植物成分含有エマルション製剤当たりの油相は、より好ましくは0.02〜20gの範囲であり、特に好ましくは0.05〜10gの範囲である。
【0026】
本発明の植物成分含有エマルション製剤の油相を構成する油性基材としては、植物成分との相溶性の良いものであれば限定されないが、植物性油、動物性油等の食用油が好ましい。ここで、植物性油としては、ごま油、こめ油、パーム油、オリーブ油、落花生油、ヤシ油、なたね油、大豆油、コーン油、サンフラワー油、ひまわり油、綿実油、椿油、グレープシード油等を例示することができ、動物性油としてはスクワラン等を例示することができる。中でも、中鎖脂肪酸トリグリセリドを多く含むヤシ油は、本発明の植物成分含有エマルション製剤のために使用する油性基材としてより好ましい。またはこれ等の混合物を用いることもできる。
【0027】
また、本発明の植物成分含有エマルション製剤のために使用する油性基材としては、中鎖脂肪酸トリグリセリドを主成分とすることが特に好ましい。ここで、中鎖脂肪酸トリグリセリドとは、C8〜C12の飽和脂肪酸トリグリセリドを云う。中鎖脂肪酸トリグリセリドは化学的に不活性(ラジカルフリー)であるので、中鎖脂肪酸トリグリセリドを主成分として含む油相中では、カテキン類の化学的安定性は水相中よりも飛躍的に向上し、更に、他の不飽和脂肪酸トリグリセリドを多く含む油性基材を用いた場合よりも、水溶性であるカテキン類を油相中により安定に分散させることができる。しかも、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、カテキン類等の植物由来の易酸化性水溶性成分の体内吸収性をも改善する効果が期待できる。本発明の植物成分含有エマルション製剤中の油相には、100gの油脂成分当たり50g以上の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含むことが好ましく、70g以上含むことが好ましく、80g以上含むことが特に好ましい。ここで、脂肪酸トリグリセリドの含有量は、植物成分含有エマルション製剤を油相と水相とに分離してから、高速液体クロマトグラフィーにより容易に測定することができる。
【0028】
また、本発明において、水相を構成する水性基材としては、精製水、飲用水、イオン交換水等を用いることができる。また、茶葉をこれらの水性基材により抽出して得られる茶抽出液を用いることもでき、必要に応じ、香料等が配合された水性基材を用いることもできる。
【0029】
また、本発明においては、水相中に油相をより安定に分散させるために乳化剤又は可溶化剤として界面活性剤を用いることが好ましく、100gの植物成分含有エマルション製剤当たり、0.01〜40gの界面活性剤を用いることが好ましく、0.2〜20gの界面活性剤を用いることがより好ましく、0.5〜10gの界面活性剤を用いることが特に好ましい。本発明のo/w型植物成分含有エマルション製剤には、HLB値が7〜40の界面活性剤を用いることが可能であるが、基本的にHLB値の高い界面活性剤を用いる程エマルションは安定である。用いる界面活性剤のHLB値の至適値は、水相、油相、界面活性剤の三者の相性に依存するが、概ね、HLB値は、7〜20であることがより好ましく、10〜20であることが特に好ましい。また、HLB値が比較的高い界面活性剤とHLB値が比較的低い界面活性剤とを調合して用いることもできる。
【0030】
油性溶液を水相中に可溶化又は乳化するために用いる界面活性剤としては、食品添加用、化粧品添加用、又は医薬品添加用の界面活性剤を広く用いることができる。具体的には、日光ケミカル社製TWEEN80(T80:HLB値15.0)、シグマ社製TWEEN80(sT80:HLB値15.0)、日光ケミカル社製ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(HC060:HLB値14.0),第一工業製薬社製シュガーエステルSS(S−SS:HLB値19.0)、第一工業製薬社製シュガーエステルF110(S−F110HLB値11.0)、第一工業製薬社製シュガーエステルF160(S−F160HLB値15.0)等を用いることができる。
【0031】
本発明の植物成分含有エマルション製剤を製造する方法としては種々の態様が考えられるが、大別して、植物成分を含有する油性溶液と水とを撹拌して乳化又は可溶化する製法と、植物成分を含有する油性ペーストと水とを撹拌して乳化又は可溶化する製法と、を挙げることができる。ここで、植物成分を含有する油性溶液の製造方法としては、油性基材に茶葉等の植物材料から抽出して得られる成分を溶解させることによる油性溶液の製法を挙げることができ、また、微細粉末化した植物材料その物を油性基材に浸漬させ植物成分を溶出させる方法を挙げることができる。
【0032】
植物成分の抽出は、常法により行うことができ、乾燥させた茶葉等の植物材料を粉末状または細断し、加熱水処理、水蒸気蒸留、或いはアルコールまたはアルコールと水の混合物に浸漬することにより行われる。或いは、常温の水で1〜10日間抽出し、次いで、アルコールで処理することによりカテキン類に富んだ成分を溶液の状態で得ることができる。かくして得られる抽出液を、必要に応じてろ過し、ろ液を濃縮し、更に、要すれば乾燥工程に付す。濃縮は、減圧蒸留が一般的である。乾燥には、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などがあり、適宜選んで採用することができる。
【0033】
かくして得られる植物成分を油性基材に混合溶解させることにより油性溶液とし、この油性溶液を水中に加え撹拌して乳化又は可溶化することにより本発明の植物成分含有エマルション製剤を得ることができる。混合割合は適宜選択することができるが、油性基材1リットル当たりの植物成分の量は、通常は、10〜100g、好ましくは、20〜50gである。植物成分を油性基材に溶解させるためには、超音波処理や、高速攪拌による物理的手段が採用される。かくして得られる植物成分含有油性基材に、必要に応じ、香料など他の成分を配合することもできる。
【0034】
植物成分を含有する油性溶液の製法として、例えば、油性基材に直接茶葉等の植物材料を加え、植物成分を油性基材に移行させる方法を挙げることができる。この場合、予め乾燥させ粉砕した植物材料と油性基材とを混合し、植物成分を油性基材に移行させることが好ましい。植物材料の量は、種類、乾燥の程度等の状態により変わるが、常温において、油性基材1リットル当たり30〜800g、好ましくは100〜500g、より好ましくは250〜400gである。抽出時間は、3〜48時間、好ましくは6〜24時間、より好ましくは10〜18時間である。抽出後、ろ過することにより残渣を除去して植物成分を含有する油性溶液を得る。更に、得られた油性溶液と、水とを撹拌して乳化又は可溶化することにより、植物成分含有エマルション製剤を得ることができる。植物成分を含有する油性溶液及び/又は植物成分含有エマルション製剤に対して、必要に応じ、香料など他の成分を配合することもできる。
【0035】
予め粉砕した茶葉等の植物材料を油性基材に加えた後、油性基材と共に混合しつつ更に微細粉末化処理を行うことにより、植物成分の油性基材への移行が促進され、植物成分を高い濃度で含有する油性溶液を得ることができる。この場合、植物材料が、好ましくは平均粒径0.01〜40μm、より好ましくは〜10μmになるまで微細粉末化処理を行う。微細粉末化処理工程は、好ましくは5〜20分間、より好ましくは10〜15分間かけて行う。微細粉末化処理工程終了後、ろ過或いは遠心分離により、不溶物である植物材料の微細粉末を含む油性ペーストを除去すれば、高濃度で植物成分を含有する油性溶液を分取することができる。特に、連続式遠心分離機を用いて6000〜13500rpm、液体供給量50〜60リットル/時間で、分離すると、抽出効果が促進される。この方法によれば、植物成分を抽出する工程が簡易であり、しかも高濃度にカテキン類その他を油性基材に溶解させることができる。更に、得られた油性溶液と、水とを撹拌して乳化又は可溶化することにより、植物成分含有エマルション製剤を得ることができる。ここで、油相には100gの油相当たり10〜1000mgのカテキン類を含ませることができる。この場合においても、植物成分を含有する油性溶液及び/又は植物成分含有エマルション製剤に対して、必要に応じ、香料等を配合してもよい。
ここで分離された、不溶物である植物材料の微細粉末を含む油性ペーストと水とを撹拌して乳化又は可溶化することにより、本発明の植物成分含有エマルション製剤とすることもできる。ここで、油相には100gの油相当たり20〜7000mgのカテキン類を含ませることができる。この場合においても、植物成分を含有する油性ペースト及び/又は植物成分含有エマルション製剤に対して、必要に応じ、香料等を配合してもよい。
【0036】
更に、得られた油性溶液又は油性ペーストと水とを撹拌して分散させる際には、更に乳化剤又は可溶化剤として界面活性剤を加えることにより、乳化状態又は可溶化状態のより安定に持続するエマルションを得ることができる。
【0037】
分散化(乳化又は可溶化)の処理としては、超音波処理や高圧ホモジナイザー処理を採用することができる。例えば、適切な超音波処理により油滴の平均粒径が180nmのエマルション(乳化製剤)が調製可能であり、さらに高圧ホモジナイザーで処理すると処理回数の増加とともに油滴の平均粒径は小径化し、20回処理では130nmを有する製剤が調製可能であった。1週間後のエマルション製剤の観察から判断して、超音波処理による乳化においても安定なエマルションは調製可能であった。油滴の粒径を考慮して安定化をはかるためには高圧ホモジナイザーの処理が好適である。
【0038】
以下に茶葉を用いた実施例を挙げて、本発明の植物成分含有エマルション製剤及びその製造方法をより具体的に説明するが、本発明は、これらの態様に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
水分含量5%以下にまで乾燥させた緑茶6.0kgを、摩擦粉砕機で平均粒径約15μmまで粉末化させた。これにヤシ油15kg(16.7リットル)を加え、更に湿式超微粒摩砕機(埼玉県、増幸産業株式会社製、製品名スーパーマスコロイダーMKZA8−10、グラインダー直径150mm)で約11分間かけて微細粉末化処理し、粒径が4〜10μmの茶葉微粉末とヤシ油との混合物を得た。当初、ヤシ油の温度は16℃であったが、微細粉末化処理の過程で43℃にまで上昇した。微細粉末化処理の終了後、混合物を連続式遠心分離機(東京都、巴工業株式会社製、製品名 TOMO−EDECANTER PTM006、6000rpm、3200G、処理温度80℃、供給液量50リットル/時間)にかけ、清澄液を固形分から分離した。僅かに緑色を呈した油性溶液5.6kgを得た。得られた油性溶液を高速液体クロマトグラフ法により分析した結果を下記に示す。
【0040】
エピカテキン 18mg/100g
エピガロカテキン 23mg/100g
エピカテキンガレート 10mg/100g
エピガロカテキンガレート 60mg/100g
ビタミンA(レチノール当量) 800μg/100g
カロテン(β−カロテン当量) 4800μg/100g
α−カロテン 400μg/100g
β−カロテン 4300μg/100g
総アスコルビン酸 1.3mg/100g
総トコフェロール 14mg/100g
α−トコフェロール 14mg/100g
β−トコフェロール 検出せず
γ−トコフェロール 0.3mg/100g
δ−トコフェロール 検出せず
総クロロフィル 60mg/100g
【0041】
また、脂肪酸組成を下記に示す。
C6 カプロン酸 0.1質量%
C8 カプリル酸 85.7質量%
C10 カプリン酸 0.1質量%
C12 ラウリル酸 13.7質量%
C16 パルミチン酸 0.1質量%
C183 リノレン酸 0.1質量%
その他 0.2質量%
【0042】
得られた油性溶液を用いて、次の方法で茶葉成分含有エマルション製剤を調製した。
【0043】
可溶化又は乳化するために用いる界面活性剤として、日光ケミカル社製TWEEN80(T80)、日光ケミカル社製ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(HC060),第一工業製薬社製シュガーエステルSS(S−SS)、第一工業製薬社製シュガーエステルF110(S−F110)、第一工業製薬社製シュガーエステルF160(S−F160)の5種類を選択した。
【0044】
最終的に得られる茶葉成分含有エマルション製剤に対する油相の濃度を1,5,又は10質量%とし,各油相濃度に対して界面活性剤の濃度を、それぞれ6種類又は7種類ずつ変化させた。
【0045】
50ml広ロガラス瓶に、所定量の界面活性剤を入れ、所定量の油性溶液を加え、最後に所定量の精製水を加えて全量を20gにした。すなわち、油相濃度1%の場合、50ml広ロガラス瓶に(全量20gに対して)界面活性剤濃度を0.1,0.5,1,2,5又は10質量%となるように秤量し、油性溶液及び精製水を加えて全量を20gにした。油相濃度5%の場合、(全量20gに対して)界面活性剤濃度を1,2,5,10,15又は20質量%となるように秤量し、油性溶液及び精製水を加えて全量を20gにした。なお、T80、HC060の場合はこれに加えて25質量%も行った。油相濃度10%の場合、(全量20gに対して)界面活性剤濃度を5,10,20,30,40又は50%となるように秤量し、油性溶液及び精製水を加えて全量を20gにした。
【0046】
これらをプルーブ型超音波発生装置(TAlTEC、VP−30S、20KHz)で処理することにより乳化又は可溶化させた。超音波の発振は間欠的に1分間照射、20秒休止を5回繰り返し行った。
【0047】
調製した茶葉成分含有エマルション製剤をデジタル光学顕微鏡(島津製作所社製、GLBB1500MBlTa、×100)で観察し、その分散容易性をエマルション中の油滴の粒径の均一性および目視に基づいたクリーミング層の分離の有無により評価した。さらに、20mlのサンプル瓶に移し20℃で1カ月保存後に再度顕微鏡で観察することにより、油滴の発生やクリーミング現象の結果から分散安定性の評価を行った。評価結果を表1、表2及び表3に示す。
【0048】
〔分散容易性(調製直後)の評価〕
◎:良好に可溶化できたもの、○:良好に乳化できたもの、△:やや乳化性に難があったもの、×:乳化困難であったもの、の4段階で評価した。ただし、粘:高粘性になったもの、固:調製後固化したもの、はそれぞれ評価不能であった。
【0049】
〔分散安定性(1カ月後)の評価〕
◎:良好に可溶化できたもの、○:安定に乳化したもの、△:分離が認められたもの、×:評価不能、の4段階で評価した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
No.58の茶葉成分含有エマルション製剤を、分画分子量300,000のメンブランフィルター(商品名:モルカット、ミリポア社(加圧下))を用いて、油相と水相とに分離した。油相は緑色であり、水相は概ね無色透明であった。
また、No.58の茶葉成分含有エマルション製剤とこのNo.58の茶葉成分含有エマルション製剤から分離された水相とについて、高速液体クロマトグラフ法によりそれぞれビタミンA(レチノール当量)、ビタミンE(α-トコフェロール当量)、フィロキノン(ビタミンK1)及びエピガロカテキンガレードの定量分析を行うと共に、吸光光度法(可視)により総クロロフィルの定量分析を行い、No.58の茶葉成分含有エマルション製剤中の上記各成分が油相中に存在するか、あるいは、水相中に存在するかを調べた。
結果を表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
結果は、表4に示す製剤とその水相の分析結果から明らかなように、易酸化性水溶性成分のエピガロカテキンガレードも含めて、全ての分析対象の成分が油相に存在することが判明した。このことから、このNo.58の茶葉成分含有エマルション製剤においては、植物由来の水溶性成分は、油相中にあって空気や水から遮断されて酸化され難く、安定的に存在していることが分かる。
【0056】
本実施例で調製した茶葉成分含有エマルション製剤のうち、最適に可溶化したNo.18(油相:1質量%、S−SS:10質量%)及び最適に乳化したNo.58(油相:5質量%、F160:2質量%)について、更に、高圧ホモジナイザー500kg/cmで1〜20回処理した。
このとき、油相の油滴の平均粒径は、最適に乳化したNo.58の茶葉成分含有エマルション製剤では、高圧ホモジナイザー処理なしの約180nmから、高圧ホモジナイザー処理20回の約130nmと、高圧ホモジナイザー処理回数が増えるにつれて徐々に小さくなった(図1)。それぞれ、調製1週間後に平均粒径を再測定したが、油滴の大きさに変化はなかった。また、最適に可溶化したNo.18の茶葉成分含有エマルション製剤でも、油滴の平均粒径は、高圧ホモジナイザー処理なしの約190nmから、高圧ホモジナイザー処理20回の約80nmと、高圧ホモジナイザー処理回数が増えるにつれて徐々に小さくなった。
【0057】
No.18(油相:1質量%、S−SS:10質量%)及び最適に乳化したNo.58(油相:5質量%、F160:2質量%)について、更に、高圧ホモジナイザー1000kg/cmで1〜20回処理した。
このとき、油相の油滴の平均粒径は、No.58の茶葉成分含有エマルション製剤では、高圧ホモジナイザー処理なしの約180nmから、高圧ホモジナイザー処理20回の約80nmと、高圧ホモジナイザー処理回数が増えるにつれて徐々に小さくなった。それぞれ、調製1週間後に平均粒径を再測定したが、油滴の大きさに変化はなかった。また、最適に可溶化したNo.18の茶葉成分含有エマルション製剤でも、油滴の平均粒径は、高圧ホモジナイザー処理なしの約190nmから、高圧ホモジナイザー処理20回の約70nmと、高圧ホモジナイザー処理回数が増えるにつれて徐々に小さくなった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明においては、植物由来の水溶性成分が油相に分散し、この油相が水相に分散したo/w型エマルションとなっており、この水溶性成分がたとえ空気中又は水中で容易に酸化される易酸化性水溶性成分であっても、空気や水との直接的な接触が回避されて酸化され難くなり、カテキン類等の易酸化性水溶性の有効成分を長期に亘って安定的に維持することができる植物成分含有エマルション製剤を提供することができ、食品、化粧品、又は医薬品等の分野において、植物由来の易酸化性水溶性成分を有効成分とする種々の製品に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、No.58の茶葉成分含有エマルション製剤について、高圧ホモジナイザー(圧力:500kg/cm)の処理回数と油滴の平均粒径との関係を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中又は水中で容易に酸化される植物由来の水溶性成分が油相に分散し、該油相が水相中に分散していることを特徴とする植物成分含有エマルション製剤。
【請求項2】
植物由来の水溶性成分が茶葉成分としてのカテキン類であることを特徴とする請求項1に記載の植物成分含有エマルション製剤。
【請求項3】
前記油相が100gの油相当たり0.01〜70gの茶葉成分を含むことを特徴とする請求項に記載の植物成分含有エマルション製剤。
【請求項4】
前記油相が100gの油相当たり10〜7000mgのカテキン類を含むことを特徴とする請求項に記載の植物成分含有エマルション製剤。
【請求項5】
前記油相が、100gの油相当たり、
10〜7000mgのカテキン類と、
300〜1200μg(レチノール当量)のビタミンAと、
2000〜12000μg(β−カロテン当量)のカロテンと、
0.5〜10mgのアスコルビン酸と、
6〜40mg(α−トコフェロール当量)のビタミンEと、
25〜220mgのクロロフィルと、
を含むことを特徴とする請求項に記載の植物成分含有エマルション製剤。
【請求項6】
前記油相の油滴の平均粒径が1000μm以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の植物成分含有エマルション製剤。
【請求項7】
100gの前記植物成分含有エマルション製剤当たり0.01〜74gの前記油相が前記水相中に分散していることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の植物成分含有エマルション製剤。
【請求項8】
前記油相が、100gの油脂成分当たり50g以上の中鎖脂肪酸トリグリセリドを含むことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の植物成分含有エマルション製剤。
【請求項9】
100gのエマルション製剤当たり、0.01〜40gの界面活性剤により、油相が水相中に分散していることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の植物成分含有エマルション製剤。
【請求項10】
前記界面活性剤のHLB値が、7〜40であることを特徴とする請求項に記載の植物成分含有エマルション製剤。
【請求項11】
空気中又は水中で容易に酸化される水溶性成分を含む植物材料を粉砕し、この予め粉砕した植物材料と油性基材とを混合しつつ微細粉末化処理し、植物微細粉末を除去して油性溶液を分取し、更に、得られた油性溶液と、界面活性剤と、水とを撹拌して、水相中に油相を乳化又は可溶化することを特徴とする植物成分含有エマルション製剤の製造方法。
【請求項12】
植物材料が茶葉であることを特徴とする請求項11に記載の植物成分含有エマルション製剤の製造方法。
【請求項13】
茶葉が平均粒径0.01〜40μmになるまで微細粉末化処理することを特徴とする請求項1記載の植物成分含有エマルション製剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−249078(P2006−249078A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34091(P2006−34091)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(501213583)ピュア・グリーン株式会社 (5)
【Fターム(参考)】