構造体及びレジントランスファモールディング成形方法
【課題】従来RTM成形が困難とされていた大型の構造体を、RTM成形によって成形する。
【解決手段】夫々別々に賦形したプリフォーム基材150、160R,160Lの端部同士を重ね合わせて成形型内に配置して、フロアトンネル部110及びフロアパネル部120R,120L部を一体的に成形することで、従来はRTM成形が困難であった大型で複雑な形状の車体フロア100をRTM成形することが可能となった。また、ラップ部170R,170Lのラップ長Lが板厚tの3倍に設定されているので、曲げ変形Mに対して効果的に強い構造となる。よって、RTM成形後に構造体の端部同士を接着する方法と比較し、接合部位125、125Lにおける強度が容易に確保される。
【解決手段】夫々別々に賦形したプリフォーム基材150、160R,160Lの端部同士を重ね合わせて成形型内に配置して、フロアトンネル部110及びフロアパネル部120R,120L部を一体的に成形することで、従来はRTM成形が困難であった大型で複雑な形状の車体フロア100をRTM成形することが可能となった。また、ラップ部170R,170Lのラップ長Lが板厚tの3倍に設定されているので、曲げ変形Mに対して効果的に強い構造となる。よって、RTM成形後に構造体の端部同士を接着する方法と比較し、接合部位125、125Lにおける強度が容易に確保される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジントランスファモールディング成形によって成形された構造体及びレジントランスファモールディング成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
予備成形された炭素繊維等によって構成されたプリフォーム基材を成形型内に配置し、母材樹脂(マトリックス樹脂)を型内に注入してプリフォーム基材に含浸させて成形するレジントランスファモールディング(Resin Transfer Molding(RTM))成形が知られている。
【0003】
ここで、大型のプリフォーム基材を予備成形することは困難とされている。このため、レジントランスファモールディング成形によって、大型の構造体をレジントランスファモールディング成形することは困難とされている。
【0004】
よって、レジントランスファモールディング成形によって成形された複数の構造体(レジントランスファモールディング成形後の構造体)の端部同士を重ね合わせて接着することで、大型の構造体とすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2008−143358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、レジントランスファモールディング成形後の構造体の端部同士を重ね合わせて接着する方法は、接合部位における強度確保に工夫が必要であった。よって、成形後に接着する方法でなく、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた大型の構造体を、レジントランスファモールディング成形よって成形することが求められている。
【0006】
本発明は、上記を考慮し、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた大型の構造体を、レジントランスファモールディング成形によって成形することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体は、夫々別々に賦形され、端部同士が重ね合わされた複数のシート状の基材と、複数の前記基材が埋設された構造体本体と、を備えることを特徴としている。
【0008】
したがって、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた大型の構造体がレジントランスファモールディング成形によって成形される。また、基材の端部同士が重ね合わされることで、構造体における基材が重ね合わされた部位の強度が容易に確保される。
【0009】
請求項2のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体は、請求項1に記載の構造体において、前記基材の端部同士が重ね合わされたラップ部のラップ長は、成形後の板厚の3倍以上に設定されていることを特徴としている。
【0010】
したがって、構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度が容易且つ確実に確保される。
【0011】
請求項3のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体は、請求項1に記載の構造体において、前記基材の端部同士が重ね合わされたラップ部のラップ長は、成形後の板厚の3倍に設定されていることを特徴としている。
【0012】
したがって、構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度が、ラップ長を必要以上に長くすることなく確保される。
【0013】
請求項4のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の構造体において、車体を構成する車体骨格部と車体パネル部とが一体的に構成された構造体に適用され、前記車体骨格部に対応する前記基材と、前記車体パネル部に対応する前記基材と、の端部同士が重ね合わされて埋設されていることを特徴としている。
【0014】
したがって、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた車体骨格部及び車体パネル部で構成された大型で複雑な形状の構造体が、強度を確保しつつ、レジントランスファモールディング成形によって成形される。
【0015】
請求項5のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体は、請求項4に記載の構造体において、前記車体骨格部は、車幅方向中央部に車体前後方向に沿って設けられたフロアトンネル部とされ、前記車体パネル部は、前記フロアトンネル部の車幅方向両外側に設けられた一対のフロアパネル部とされ、前記フロアトンネル部に対応する前記基材と、前記フロアパネル部に対応する前記基材と、の車幅方向端部同士が重ね合わされて埋設されていることを特徴としている。
【0016】
したがって、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた車体パネル部とフロアトンネル部とで構成される構造体(車体フロア)が、容易に強度を確保しつつ、レジントランスファモールディング成形によって成形される。
【0017】
請求項6のレジントランスファモールディング成形方法は、夫々別々に賦形した複数のシート状の基材の端部同士を重ね合わせて成形型内に配置し、前記型内に母材を注入し成形することを特徴としている。
【0018】
したがって、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた大型の構造体を、レジントランスファモールディング成形によって成形することができる。また、基材の端部同士が重ね合わされて成形することで、成形後の構造体における基材が重ね合わされた部位の強度が容易に確保される。
【0019】
請求項7のレジントランスファモールディング成形方法は、請求項6に記載のレジントランスファモールディング成形方法において、前記基材の端部同士を重ね合わせたラップ部のラップ長を、成形後の板厚の3倍以上に設定することを特徴としている。
【0020】
したがって、成形後の構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度が容易且つ確実に確保される。
【0021】
請求項8のレジントランスファモールディング成形方法は、請求項6に記載のレジントランスファモールディング成形方法において、前記基材の端部同士を重ね合わせたラップ部のラップ長を、成形後の板厚の3倍に設定することを特徴としている。
【0022】
したがって、成形後の構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度が、ラップ長を必要以上に長くすることなく確保される。
【0023】
請求項9のレジントランスファモールディング成形方法は、請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載のレジントランスファモールディング成形方法において、車体を構成する車体骨格部に対応する部位に埋設される前記基材と、車体を構成する車体パネル部に対応する部位に埋設される前記基材と、を夫々別々に賦形すると共に、各前記基材の端部同士を重ね合わせて成形型内に配置し、前記車体骨格部と前記車体パネル部とを一体的に成形することを特徴としている。
【0024】
したがって、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた車体骨格部及び車体パネル部で構成された大型で複雑な形状の構造体を、容易に強度を確保しつつ、レジントランスファモールディング成形によって成形することができる。
【0025】
請求項10のレジントランスファモールディング成形方法は、請求項9に記載のレジントランスファモールディング成形方法において、前記車体骨格部は、車体幅方向中央部に車体前後方向に沿って設けられたフロアトンネル部とされ、前記車体パネル部は、前記フロアトンネル部の車幅方向両外側に設けられた一対のフロアパネル部とされ、前記フロアトンネル部に対応する部位に埋設される前記基材と、前記フロアパネル部に対応する部位に埋設される前記基材と、を夫々別々に賦形すると共に、各前記基材の車幅方向端部同士を重ね合わせて成形型内に配置し、前記フロアトンネル部と前記フロアパネル部とを一体的に成形することを特徴としている。
【0026】
したがって、車体パネル部とフロアトンネル部とで構成される構造体(車体フロア)を、容易に強度を確保しつつ、レジントランスファモールディング成形によって成形することができる。
【発明の効果】
【0027】
請求項1に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体によれば、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた大型の構造体を、レジントランスファモールディング成形によって成形することができる。
【0028】
請求項2に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体によれば、構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度を、容易且つ確実に確保することがきる。
【0029】
請求項3に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体によれば、構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度を、必要以上にラップ長を長くすることなく、容易に確保することができる。
【0030】
請求項4に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体によれば、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた車体骨格部及び車体パネル部で構成された大型の構造体の強度を、容易に確保することができる。
【0031】
請求項5に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体によれば、車体パネル部とフロアトンネル部とで構成される構造体(車体フロア)の強度を、容易に確保することができる。
【0032】
請求項6に記載のレジントランスファモールディング成形方法によれば、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた大型の構造体や複雑な形状の構造体を、レジントランスファモールディング成形によって成形することができる。
【0033】
請求項7に記載のレジントランスファモールディング成形方法によれば、構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度を容易に確保しつつレジントランスファモールディング成形によって成形することがきる。
【0034】
請求項8に記載のレジントランスファモールディング成形方法によれば、構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度を、必要以上にラップ長を長くすることなく確保しつつ、レジントランスファモールディング成形によって成形することができる。
【0035】
請求項9に記載のレジントランスファモールディング成形方法によれば、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた車体骨格部及び車体パネル部で構成された大型で複雑な形状の構造体を、容易に強度を確保しつつ、レジントランスファモールディング成形によって成形することができる。
【0036】
請求項10に記載のレジントランスファモールディング成形方法によれば、車体パネル部とフロアトンネル部とで構成される構造体(車体フロア)を、容易に強度を確保しつつレジントランスファモールディング成形によって成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
図1〜図4を用いて、本発明にかかるレジントランスファモールディング(Resin Transfer Molding(RTM))成形によって成形された構造体としての車体フロア、及びこの車体フロアのレジントランスファモールディング成形方法を説明する。なお、レジントランスファモールディング成形の詳細は後述する。また以降「RTM成形」と記載する。
【0038】
図1は、本発明の実施形態としての車体フロアを備える自動車の車体を示す斜視図である。図2は、図1の2−2線に沿った縦断面図である(車両幅方向に沿った縦断面図である)。図3は、図2の要部(ラップ部)を拡大した部分拡大断面図である。図4は、本実施形態のRTM成形方法に用いるRTM成形装置の概略構成を模式的に示す構成図である。図5(A)は図4に示すRTM成形装置の成形型の型内にプリフォーム基材を配置した状態を模式的に示す断面図であり、(B)は成形型を閉締した状態を模式的に示す断面図である。なお、図中矢印FRは車体前方方向を、矢印UPは車体上方方向を、矢印INは車幅内側方向を示す。
【0039】
まず、本発明の実施形態に係る車体フロア100を備える自動車の車体10について図1と図2を用いて説明する。
【0040】
図1に示すように、自動車の車体10の床面を構成する構造体としての車体フロア100は、車体パネル部としてのフロアパネル部120R,120Lと、車体骨格部としてのフロアトンネル部110と、で構成されている。車体フロア100は車体前後方向及び車幅方向に延在する。また、車体フロア100の車幅方向中央部には、車体前後方向に延在し車体下方側が開口された前述したフロアトンネル部110が形成されている。言い換えると、図2に示すように、車体フロア100の車両幅方向に沿った縦断面は、車体下方側が開口された断面ハット形状とされている。
【0041】
また、図1に示すように、自動車の車体10は、車体フロア100の車両幅方向外側にそれぞれ車体前後方向を長手方向とする車体骨格部としてのサイドシル(ロッカ)12を備えている。なお、左右のサイドシル12の車幅方向内側端部と、車体フロア100を構成するフロアパネル部120L,120Rの車幅方向外側端部と、が接合されている。
【0042】
各サイドシル12は、それぞれの前端12Aが略車体上下方向に沿って延在する車体骨格部としてのフロントピラー18の下端18Aに連続するように構成されている。なお、左右のフロントピラー18は、図1に示すよりも車体上側方向に延出されており、延出されたフロントピラー18間にフロントウインドシールドガラス(図示略)が保持されている。更に、左右のフロントピラー18の下端部間には、車体パネル部としてのダッシュパネル20の車幅方向両端部が接合されている。
【0043】
ダッシュパネル20は、車幅方向及び車体上下方向に延在し、車室Cとこの車室Cよりも車体前方側の空間Rf(例えばエンジンルーム)とを隔てている。このダッシュパネル20には、車体骨格部としての左右一対のフロントサイドメンバ21の後端部21Aが接合されており、左右のフロントサイドメンバ21の前端間にはフロントバンパ(図示略)の骨格部材を構成するバンパリインフォースメント(図示略)が架け渡されている。また、ダッシュパネル20の下端部は車体フロア100の車体前方側端部と接合されていると共に、車幅方向中央下部には、フロアトンネル部110の前端を前方の空間Rfに開口する切欠部20Aが形成されている。
【0044】
左右のサイドシル12の後端12Bは、それぞれ略車体上下方向に沿って延在する車体骨格部としてのセンタピラー22の下端22Aと連続するように構成されている。また、左右のサイドシル12の後端12B、センタピラー22には、リヤサイドメンバ(図示省略)と連続するように構成されている。更に、左右のセンタピラー22には、それぞれ車体パネル部としてのルームパーティションパネル24の車幅方向両端部が接合されている。
【0045】
ルームパーティションパネル24は、車幅方向及び略車体上下方向に延在する傾斜面として構成されており、車室Cとこの車室Cよりも後方の空間Rr(例えば、トランクルーム)とを隔てている。ルームパーティションパネル24の車体前方側端部は車体フロア100の車体後方側端部と接合されていると共に、車幅方向中央部には前述したフロアトンネル部110の後端を後方の空間Rrに開口させる切欠部(図示省略)が形成されている。
【0046】
以上、説明した自動車の車体10を構成する車体骨格部としてのサイドシル12、フロントピラー18、フロントサイドメンバ21、センタピラー22、車体パネル部としてのダッシュパネル20、ルームパーティションパネル24、及び本発明が適用された構造体としての車体フロア100(フロアパネル120R,120L、フロアトンネル部110)は、それぞれ炭素繊維強化樹脂(CFRP)にて構成されている。なお、ガラス繊維強化樹脂(GFRP)等の他の繊維強化樹脂(FRP)であってもよい。
【0047】
つぎにフロアパネル部120R,120Lとフロアトンネル部110とで構成されている車体フロア100について、図2と図3を用いて説明する。
【0048】
図2に示すように、炭素繊維強化樹脂(CFRP)によって構成されている車体フロア100は、母材(マトリックス)である樹脂S(図4参照)からなるフロア本体130と、炭素繊維からなる強化材としてのシート状のプリフォーム基材150、160R,160Lと、で構成されている。別の言い方をすると、車体フロア100は、フロア本体130の中に3枚のプリフォーム基材150、160R,160Lが埋設された構成とされている。なお、プリフォーム基材160R,160Lは、フロアパネル部120R,120Lに対応する形状に賦形され、プリフォーム基材150は、フロアトンネル部110に対応する形状に賦形されている。
【0049】
そして、フロアトンネル部110に対応する部位に埋設された断面ハット形状のプリフォーム基材150のフランジ部152R,152Lの車体上方側面(上面)に、フロアパネル部120R,120Lに対応する部位に埋設されたプリフォーム基材160R,160Lの車幅方向内側端部162R,162Lが重なるように埋設されている(図3も参照)。
【0050】
このように、プリフォーム基材160R,160Lの車幅方向内側端部162R,162Lと、プリフォーム基材150のフランジ部152R,152Lと、が上下に重なったラップ部170R,170Lのラップ長(車幅方向の重なり幅)Lは、本実施形態においては車体フロア100の板厚tの3倍に設定されている(図3も参照)。
【0051】
なお、車体フロア100におけるプリフォーム基材150、160R,160Lの端部同士が重なった部位を接合部位125R,125Lとする。また、接合部位125R,125Lは他の部位よりも板厚が若干厚くなっている(図2、図3では、わかり易くするため実際よりも厚く図示されている)。
【0052】
そして、3枚のプリフォーム基材150、160R,160Lの端部同士を重ね合わせた状態でRTM(Resin Transfer Molding、レジントランスファモールディング)成形装置500(図4参照)で成形することによって、炭素繊維強化樹脂(CFRP)で構成された車体フロア100が成形される(図5(A)を参照)。
【0053】
なお、図3に示すように、プリフォーム基材150のフランジ部152Lとプリフォーム基材160Lとは略同一平面上に配置されているが、接合部位125L(ラップ部170L)においてはプリフォーム基材160Lの車幅方向内側端部162Lが上方側に持ち上げられてプリフォーム基材150のフランジ部152Lの上側面に重なった構造となっている(片側折返し構造)。よって、車幅方向内側端部162Lへと連続し、車両内側方向に向かって上り勾配となった傾斜面部163Lが形成されている。
【0054】
また、この傾斜面部163Lの上側と下側、言い換えると接合部位126Lの車幅方向外側には、樹脂リッチ部172L,173Lが形成されている。
【0055】
なお、反対側の接合部位125R(ラップ部170R)も、左右対称である以外は同様の構造となっているので、説明を省略する。
【0056】
つぎに、本実施形態の車体フロア100のRTM成形方法について図4と図5とを用いて説明する。
【0057】
まず、RTM成形装置500について説明する。なお、RTM成形装置500は、従来よりも大きくて複雑な形状の構造体を成形可能であること以外は、周知のRTM成形装置と同様の構成であるので、簡単に説明する。
【0058】
図4に示すように、RTM成形装置500は、成形型502、樹脂注入装置530、オーバーフロータンク540、及び吸引装置(真空ポンプ)550を備えている。
【0059】
成形型502は、上型510と下型520とで構成されている。これら上型510と下型520とが型合わせされた状態における成形型502内には、車体フロア100を成形するためのキャビティ504が形成される。
【0060】
また、成形型502の上型510の略中央部分には、キャビティ504に連通する注入口512が設けられている。また、上型510の端部には、キャビティ504に連通する吸引口514が設けられている。注入口512には樹脂Sが貯蔵された樹脂注入装置530が接続される。また、吸引口514にはオーバーフロータンク540が接続され、オーバーフロータンク540には吸引装置550が接続される。
【0061】
続いて、RTM成形装置500を用いて車体フロア100を成形する成形工程について説明する。
【0062】
図5(A)に示すように、プリフォーム基材150をフロアトンネル部110に対応する形状に賦形する。また、プリフォーム基材160R,160Lをフロアパネル部120R,120Lに対応する形状に賦形する(予備成形工程)。なお、予備成形(賦形)は、周知の成形方法が適用可能である。
【0063】
これら予備成形されたプリフォーム基材150、160R,160Lの端部同士を重ね合わせ、型開きした状態の成形型502内(上型510と下型520と間)に配置する。このとき、プリフォーム基材150、160R,160Lがずれないように、ラップ部170R,170Lの当接面にバインダーが塗布され、仮止めされている。
【0064】
なお、前述したように、ラップ部170R,170Lのラップ長L(図2、図3を参照)は、成形後の車体フロア100の板厚t(図2、図3参照)の3倍に設定する。そして、図5(B)に示すように、成形型502を構成する上型510と下型520とを型合わせして閉締する。
【0065】
図4に示すように、吸引装置550によって、オーバーフロータンク540を経由して成形型502のキャビティ504を減圧する。注入口512に設けられたバルブ(図示略)を開くことによって、内圧と外圧との圧力差によってキャビティ504内に樹脂Sが注入される。注入された樹脂Sはプリフォーム基材150、160R,160Lに含浸する。キャビティ504に樹脂Sの注入(充填)が完了後、樹脂Sを加熱硬化させる。そして、樹脂Sが硬化後に脱型し、成形された車体フロア100を取り出す。なお、樹脂Sの注入の際にオーバーフローした樹脂Sはオーバーフロータンク540で回収される。
【0066】
また、図4では図示(表現)されていないが、図2、図3に示すようにラップ部170R,170Lは片側折返し構造となっている。また、接合部位125R,125Lの板厚は他の部位よりも若干厚くなっている。更に、接合部位125R,125Lにおける傾斜面部163Lの上側と下側には樹脂リッチ部172R,172L,172R、173Lが形成される。
【0067】
なお、ここで説明したRTM成形装置500及びRTM成形方法は一例であって、ここで説明した以外の周知のRTM成形装置及びRTM成形方法も本発明に適用することができる。
【0068】
つぎに、本実施形態の作用について説明する。
【0069】
夫々別々に賦形したプリフォーム基材150、160R,160Lの端部同士を重ね合わせて成形型502内に配置して、フロアトンネル部110及びフロアパネル部120R,120L部を一体的に成形することで、従来はRTM成形が困難であった大型で複雑な形状の車体フロア100をRTM成形することが可能となった。
【0070】
また、図2に示すように、プリフォーム基材150、160R,160Lの端部同士を重ね合わせてあるので、接合部位125R,125における強度が確保される。更に、ラップ部170R,170Lのラップ長Lが板厚tの3倍に設定されているので、曲げ変形Mに対して効果的に強い構造となる。
【0071】
よって、例えば、RTM成形後に構造体の端部同士を接着する方法と比較し、接合部位125R、125Lにおける強度が容易に確保される。
【0072】
つぎに、接合部位125R,125Lにおけるラップ部170R,170Lのラップ長Lを板厚tの3倍に設定することが最適(好適)であることについて、CAE(Computer Aided Engineering、コンピュータ エイデッド エンジニアリング)で解析した結果(図7〜図9)に基づいて説明する。
【0073】
なお、接合部位125R,125L(ラップ部170R,170L)は左右対称である以外は、同様の構成であるので、接合部位125L(図3)を代表してモデル化してCAEによって解析する。また、接合部位125L(ラップ部170L)の端部(ラップ端Q(図6参照))にかかる主応力及び強度と、ラップ長L及び板厚tと、の関係をCAEによって解析した。
【0074】
まず、解析モデルについて図6を用いて説明する。図6(A)は、接合部位125L(図3参照)をモデル化した解析モデル600の斜視図であり、(B)は(A)の要部(一点破線で囲った部位)を拡大した部分拡大斜視図である。なお、解析モデル600の長手方向をY方向(車幅方向に対応)、幅方向をX方向(車体前後方向に対応)、厚み方向をZ方向(車体上下方向に対応)とする。
【0075】
図6に示すように、解析モデル600では、モデル作成を簡略化するために、板状のRTM部材602、604を単純に上下に重ねあわせた継手構造とした。なお、図3に示すように、ラップ部170Lを片側折返し構造とせず、また、樹脂リッチ部172L,173Lを設けなくても、強度差は殆どないことを別途行なった実験結果によって確認されている。
【0076】
また、別途行なった実験結果より、ラップ部(接合部位)の車幅方向端部Q(以降、「ラップ端Q」と記す)に最も応力がかかるので、ラップ端Qが最弱部位となることが判っている。よって、解析モデル600では、図6(B)に示すように、RTM部材602とRTM部材604との間に樹脂層610を挿入し、この樹脂層610の端部の応力を求めることで、ラップ端Qの応力を求めている。なお、この樹脂層610は、説明したように、あくまでも解析モデルを作成する際に設けるものであり(別の言い方をすると、CAEの解析テクニックとして設けるものであり)、実際の車体フロア100に存在するものではない。
【0077】
つぎに、解析条件について説明する。
【0078】
解析モデル600を構成する樹脂層610の層厚は0.05mmとし、ヤング率Eは2.7GPaとした。また、解析モデル600を構成する板状のRTM部材602、604のヤング率Eは500GPaとした。また、0.5mm幅でメッシュPを形成した。
【0079】
そして、解析モデル600の一方(RTM部材602)の端部600AをXYZ方向に拘束し、他方(RTM部材604)の端部600BをZ方向に拘束し、ラップ部の中心部をX方向全域に亘ってZ方向に負荷Fをかけた3点曲げとした。また、負荷Fの大きさは2kNとした。
【0080】
更に、解析モデル600の板厚t及びラップ長Lの条件は、図11の表に示すように、t=1.8mm、3.6mm及びラップ長はL=1.8mm、3.6mm、5.4mm、10.8mm、21.6mmとした。但し、t=1.8mmとラップ長L=3.6mmの組み合わせと、t=3.6mmとラップ長L=1.8mmの組み合わせの解析は、省略した(図11の表では「−」で表記)。また、図11の表には、ラップ長Lが板厚tの何倍に相当するかを記載している。
【0081】
つぎに解析結果について、図7〜図9を用いて説明する。なお、図7はt=1.8mmのときの、(A)はL=1.8mmの応力分布、(B)はL=5.4mmの応力分布、(C)はL=10.8mmの応力分布、(C)はL=21.6mmの応力分布を示す応力分布図である。図8はt=3.6mmのときの、(A)はL=3.6mmの応力分布、(B)はL=5.4mmの応力分布、(C)はL=10.8mmの応力分布、(C)はL=21.6mmの応力分布を示す応力分布図である。
【0082】
なお、図7、図8において、ドットが密である(濃い)ほど、応力が大きいことを示している。また、図9はラップ端Qにかかる主応力を示すグラフである。図10はラップ長Lと板厚tとの比(ラップ長L/板厚t)と強度との関係を示すグラフである。なお、板厚tが3.6mmで、ラップ長さLが10.8(L=3t)のときの強度を1とした場合の比強度で表している。
【0083】
図9に示すように、板厚tが1.8mmの場合は、ラップ長Lが5.4mm以上でラップ端Qにかかる主応力の変化が殆どなくなる(ラップ長Lが5.4mm以上でラップ端Qにかかる主応力が停留する)。また、板厚tが3.6mmの場合は、ラップ長さLが10.8mm以上でラップ端Qにかかる主応力の変化が殆どなくなる(ラップ長さLが10.8mm以上でラップ端Qにかかる主応力が停留する)。また、この結果に基づいて、比強度を示したものが図9である。
【0084】
このように、ラップ長Lが板厚tの3倍以上となると、ラップ端Qにかかる主応力及び強度の変化が殆どなくなる(ラップ長Lが板厚tの3倍以上となると、ラップ端Qにかかる主応力及び強度が停留する)。
【0085】
これにより、ラップ長Lを板厚tの3倍以上(L≧3t)に設定することで、強度が確実に確保されることが判る。また、ラップ長Lを板厚tの3倍よりも大きくしても(L>3tとしても)、強度は殆ど変わらないことが判る(ラップ長Lを板厚tの3倍よりも大きくしても、強度アップには殆ど繋がらない)。
【0086】
したがって、ラップ長Lを板厚tの3倍(L=3t)に設定することが最適であることが判る。そして、ラップ長Lを板厚tの3倍(L=3t)に設定することで、ラップ長Lを必要以上に長くし、重量増及びコスト増となることが防止される。
【0087】
つぎに、ラップ長Lを長くしても強度アップに繋がらないことについて説明する。
【0088】
図7と図8とに示すように、ラップ部(接合部位)における両端部分に応力が集中する(両端部分の応力が高い)。これに対して、ラップ部における中央部分Cは応力が低い。よって、ラップ部における応力が集中する両端部分が主に強度に影響を与える(応力が集中する両端部分によって主に強度が確保される)。これに対して、ラップ部における中央部分(低応力領域)Cは強度に与える影響が非常に少ない。そして、ラップ長Lを長くすると中央部分(低応力領域)Cも増えていく。つまり、ラップ長Lを長くしても、強度を確保する応力が集中する両端部分の領域は殆ど変化しない。
【0089】
したがって前述したように、ラップ長Lは板厚tの3倍(L=3t)が最適値(最適なラップ長L)とされ、これ以上ラップ長Lを長くしても殆ど強度アップされない。
【0090】
ここで、上記は図2に示す曲げ変形(モーメント)Mに対する解析であり、最適なラップ長Lである。一方、図2の矢印Wで示すように、車幅方向に荷重がかかるせん断引張り負荷に対しては、ラップ長Lが長いほうが強度は上がる。しかしながら、車体フロア100は、車幅方向への荷重はあまりかかからない(車幅方向に引っ張れる方向に荷重は小さい(せん断引張り負荷は小さい))。よって、車幅方向にかかるせん断引張り負荷に対する強度よりも、曲げ変形に対する強度が必要とされる。したがって、ラップ長Lを板厚tの3倍(L=3t)に設定することで、せん断引張り負荷に対する強度も十分に確保される。
【0091】
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。自動車の車体10を構成する他の構造体(部材)にも本発明を適用することができる。例えば、サイドシル12とフロアパネル120R、120L、フロアトンネル部110とを一体的に成形する場合にも、本発明を適用することができる(図2参照)。
【0092】
また、自動車の車体以外の構造体に、本発明を適用することも可能である。
【0093】
なお、本実施形態のように、曲げモーメントに対する強度が、せん断引張り負荷に対する強度よりも必要とされる場所の適用が望ましい。しかし、せん断引張り負荷強度が曲げモーメントに対する強度よりも必要とされる場合でも本発明を適用することができる。また、その場合は、せん断引張り負荷に応じてラップ長Lを長くすることで、必要な強度を容易に確保することができる。
【0094】
また、本実施形態のように、曲げモーメントに対する強度が、せん断引張り負荷に対する強度よりも必要とされる場所であっても、曲げモーメントに対する強度を、より確実に確保するため、ラップ長Lを板厚tの3倍以上(L≧3t)に設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の実施形態としての車体フロアを備える自動車の車体を示す斜視図である。
【図2】図1の2−2線に沿った縦断面図である。
【図3】図2の要部(ラップ部)を拡大した部分拡大断面図である。
【図4】本実施形態のRTM成形方法に用いるRTM成形装置を模式的に示す構成図である。
【図5】(A)は図4に示すRTM成形装置の成形型の型内にプリフォーム基材を配置した状態を模式的に示す断面図であり、(B)は成形型を閉締した状態を模式的に示す断面図である。
【図6】(A)は、接合部位125Lをモデル化した解析モデル600の斜視図であり、(B)は(A)の一点破線で囲った要部を拡大した部分拡大斜視図である。
【図7】板厚t=1.8mmのときの、(A)はラップ長L=1.8mmの応力分布、(B)はラップ長L=5.4mmの応力分布、(C)はラップ長L=10.8mmの応力分布、(C)はラップ長L=21.6mmの応力分布を示す応力分布図である。
【図8】板厚t=3.6mmのときの、(A)はラップ長L=3.6mmの応力分布、(B)はラップ長L=5.4mmの応力分布、(C)はラップ長L=10.8mmの応力分布、(C)はラップ長L=21.6mmの応力分布を示す応力分布図である。
【図9】ラップ端Qにかかる主応力を示すグラフである。
【図10】ラップ長Lと板厚tとの比(ラップ長L/板厚t)と強度との関係を示すグラフである。
【図11】板厚t及びラップ長Lの解析条件を示す表である。
【符号の説明】
【0096】
10 車体
100 車体フロア(構造体)
110 フロアトンネル部(車体骨格部)
120L フロアパネル部(車体パネル部)
120R フロアパネル部(車体パネル部)
130 フロア本体(構造体本体)
150 プリフォーム基材(基材)
160L プリフォーム基材(基材)
160R プリフォーム基材(基材)
170L ラップ部
170R ラップ部
L ラップ長
t 板厚
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジントランスファモールディング成形によって成形された構造体及びレジントランスファモールディング成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
予備成形された炭素繊維等によって構成されたプリフォーム基材を成形型内に配置し、母材樹脂(マトリックス樹脂)を型内に注入してプリフォーム基材に含浸させて成形するレジントランスファモールディング(Resin Transfer Molding(RTM))成形が知られている。
【0003】
ここで、大型のプリフォーム基材を予備成形することは困難とされている。このため、レジントランスファモールディング成形によって、大型の構造体をレジントランスファモールディング成形することは困難とされている。
【0004】
よって、レジントランスファモールディング成形によって成形された複数の構造体(レジントランスファモールディング成形後の構造体)の端部同士を重ね合わせて接着することで、大型の構造体とすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2008−143358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、レジントランスファモールディング成形後の構造体の端部同士を重ね合わせて接着する方法は、接合部位における強度確保に工夫が必要であった。よって、成形後に接着する方法でなく、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた大型の構造体を、レジントランスファモールディング成形よって成形することが求められている。
【0006】
本発明は、上記を考慮し、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた大型の構造体を、レジントランスファモールディング成形によって成形することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体は、夫々別々に賦形され、端部同士が重ね合わされた複数のシート状の基材と、複数の前記基材が埋設された構造体本体と、を備えることを特徴としている。
【0008】
したがって、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた大型の構造体がレジントランスファモールディング成形によって成形される。また、基材の端部同士が重ね合わされることで、構造体における基材が重ね合わされた部位の強度が容易に確保される。
【0009】
請求項2のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体は、請求項1に記載の構造体において、前記基材の端部同士が重ね合わされたラップ部のラップ長は、成形後の板厚の3倍以上に設定されていることを特徴としている。
【0010】
したがって、構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度が容易且つ確実に確保される。
【0011】
請求項3のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体は、請求項1に記載の構造体において、前記基材の端部同士が重ね合わされたラップ部のラップ長は、成形後の板厚の3倍に設定されていることを特徴としている。
【0012】
したがって、構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度が、ラップ長を必要以上に長くすることなく確保される。
【0013】
請求項4のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の構造体において、車体を構成する車体骨格部と車体パネル部とが一体的に構成された構造体に適用され、前記車体骨格部に対応する前記基材と、前記車体パネル部に対応する前記基材と、の端部同士が重ね合わされて埋設されていることを特徴としている。
【0014】
したがって、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた車体骨格部及び車体パネル部で構成された大型で複雑な形状の構造体が、強度を確保しつつ、レジントランスファモールディング成形によって成形される。
【0015】
請求項5のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体は、請求項4に記載の構造体において、前記車体骨格部は、車幅方向中央部に車体前後方向に沿って設けられたフロアトンネル部とされ、前記車体パネル部は、前記フロアトンネル部の車幅方向両外側に設けられた一対のフロアパネル部とされ、前記フロアトンネル部に対応する前記基材と、前記フロアパネル部に対応する前記基材と、の車幅方向端部同士が重ね合わされて埋設されていることを特徴としている。
【0016】
したがって、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた車体パネル部とフロアトンネル部とで構成される構造体(車体フロア)が、容易に強度を確保しつつ、レジントランスファモールディング成形によって成形される。
【0017】
請求項6のレジントランスファモールディング成形方法は、夫々別々に賦形した複数のシート状の基材の端部同士を重ね合わせて成形型内に配置し、前記型内に母材を注入し成形することを特徴としている。
【0018】
したがって、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた大型の構造体を、レジントランスファモールディング成形によって成形することができる。また、基材の端部同士が重ね合わされて成形することで、成形後の構造体における基材が重ね合わされた部位の強度が容易に確保される。
【0019】
請求項7のレジントランスファモールディング成形方法は、請求項6に記載のレジントランスファモールディング成形方法において、前記基材の端部同士を重ね合わせたラップ部のラップ長を、成形後の板厚の3倍以上に設定することを特徴としている。
【0020】
したがって、成形後の構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度が容易且つ確実に確保される。
【0021】
請求項8のレジントランスファモールディング成形方法は、請求項6に記載のレジントランスファモールディング成形方法において、前記基材の端部同士を重ね合わせたラップ部のラップ長を、成形後の板厚の3倍に設定することを特徴としている。
【0022】
したがって、成形後の構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度が、ラップ長を必要以上に長くすることなく確保される。
【0023】
請求項9のレジントランスファモールディング成形方法は、請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載のレジントランスファモールディング成形方法において、車体を構成する車体骨格部に対応する部位に埋設される前記基材と、車体を構成する車体パネル部に対応する部位に埋設される前記基材と、を夫々別々に賦形すると共に、各前記基材の端部同士を重ね合わせて成形型内に配置し、前記車体骨格部と前記車体パネル部とを一体的に成形することを特徴としている。
【0024】
したがって、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた車体骨格部及び車体パネル部で構成された大型で複雑な形状の構造体を、容易に強度を確保しつつ、レジントランスファモールディング成形によって成形することができる。
【0025】
請求項10のレジントランスファモールディング成形方法は、請求項9に記載のレジントランスファモールディング成形方法において、前記車体骨格部は、車体幅方向中央部に車体前後方向に沿って設けられたフロアトンネル部とされ、前記車体パネル部は、前記フロアトンネル部の車幅方向両外側に設けられた一対のフロアパネル部とされ、前記フロアトンネル部に対応する部位に埋設される前記基材と、前記フロアパネル部に対応する部位に埋設される前記基材と、を夫々別々に賦形すると共に、各前記基材の車幅方向端部同士を重ね合わせて成形型内に配置し、前記フロアトンネル部と前記フロアパネル部とを一体的に成形することを特徴としている。
【0026】
したがって、車体パネル部とフロアトンネル部とで構成される構造体(車体フロア)を、容易に強度を確保しつつ、レジントランスファモールディング成形によって成形することができる。
【発明の効果】
【0027】
請求項1に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体によれば、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた大型の構造体を、レジントランスファモールディング成形によって成形することができる。
【0028】
請求項2に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体によれば、構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度を、容易且つ確実に確保することがきる。
【0029】
請求項3に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体によれば、構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度を、必要以上にラップ長を長くすることなく、容易に確保することができる。
【0030】
請求項4に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体によれば、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた車体骨格部及び車体パネル部で構成された大型の構造体の強度を、容易に確保することができる。
【0031】
請求項5に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体によれば、車体パネル部とフロアトンネル部とで構成される構造体(車体フロア)の強度を、容易に確保することができる。
【0032】
請求項6に記載のレジントランスファモールディング成形方法によれば、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた大型の構造体や複雑な形状の構造体を、レジントランスファモールディング成形によって成形することができる。
【0033】
請求項7に記載のレジントランスファモールディング成形方法によれば、構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度を容易に確保しつつレジントランスファモールディング成形によって成形することがきる。
【0034】
請求項8に記載のレジントランスファモールディング成形方法によれば、構造体における基材が重ね合わされた部位にかかる曲げ変形に対する強度を、必要以上にラップ長を長くすることなく確保しつつ、レジントランスファモールディング成形によって成形することができる。
【0035】
請求項9に記載のレジントランスファモールディング成形方法によれば、従来レジントランスファモールディング成形が困難とされていた車体骨格部及び車体パネル部で構成された大型で複雑な形状の構造体を、容易に強度を確保しつつ、レジントランスファモールディング成形によって成形することができる。
【0036】
請求項10に記載のレジントランスファモールディング成形方法によれば、車体パネル部とフロアトンネル部とで構成される構造体(車体フロア)を、容易に強度を確保しつつレジントランスファモールディング成形によって成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
図1〜図4を用いて、本発明にかかるレジントランスファモールディング(Resin Transfer Molding(RTM))成形によって成形された構造体としての車体フロア、及びこの車体フロアのレジントランスファモールディング成形方法を説明する。なお、レジントランスファモールディング成形の詳細は後述する。また以降「RTM成形」と記載する。
【0038】
図1は、本発明の実施形態としての車体フロアを備える自動車の車体を示す斜視図である。図2は、図1の2−2線に沿った縦断面図である(車両幅方向に沿った縦断面図である)。図3は、図2の要部(ラップ部)を拡大した部分拡大断面図である。図4は、本実施形態のRTM成形方法に用いるRTM成形装置の概略構成を模式的に示す構成図である。図5(A)は図4に示すRTM成形装置の成形型の型内にプリフォーム基材を配置した状態を模式的に示す断面図であり、(B)は成形型を閉締した状態を模式的に示す断面図である。なお、図中矢印FRは車体前方方向を、矢印UPは車体上方方向を、矢印INは車幅内側方向を示す。
【0039】
まず、本発明の実施形態に係る車体フロア100を備える自動車の車体10について図1と図2を用いて説明する。
【0040】
図1に示すように、自動車の車体10の床面を構成する構造体としての車体フロア100は、車体パネル部としてのフロアパネル部120R,120Lと、車体骨格部としてのフロアトンネル部110と、で構成されている。車体フロア100は車体前後方向及び車幅方向に延在する。また、車体フロア100の車幅方向中央部には、車体前後方向に延在し車体下方側が開口された前述したフロアトンネル部110が形成されている。言い換えると、図2に示すように、車体フロア100の車両幅方向に沿った縦断面は、車体下方側が開口された断面ハット形状とされている。
【0041】
また、図1に示すように、自動車の車体10は、車体フロア100の車両幅方向外側にそれぞれ車体前後方向を長手方向とする車体骨格部としてのサイドシル(ロッカ)12を備えている。なお、左右のサイドシル12の車幅方向内側端部と、車体フロア100を構成するフロアパネル部120L,120Rの車幅方向外側端部と、が接合されている。
【0042】
各サイドシル12は、それぞれの前端12Aが略車体上下方向に沿って延在する車体骨格部としてのフロントピラー18の下端18Aに連続するように構成されている。なお、左右のフロントピラー18は、図1に示すよりも車体上側方向に延出されており、延出されたフロントピラー18間にフロントウインドシールドガラス(図示略)が保持されている。更に、左右のフロントピラー18の下端部間には、車体パネル部としてのダッシュパネル20の車幅方向両端部が接合されている。
【0043】
ダッシュパネル20は、車幅方向及び車体上下方向に延在し、車室Cとこの車室Cよりも車体前方側の空間Rf(例えばエンジンルーム)とを隔てている。このダッシュパネル20には、車体骨格部としての左右一対のフロントサイドメンバ21の後端部21Aが接合されており、左右のフロントサイドメンバ21の前端間にはフロントバンパ(図示略)の骨格部材を構成するバンパリインフォースメント(図示略)が架け渡されている。また、ダッシュパネル20の下端部は車体フロア100の車体前方側端部と接合されていると共に、車幅方向中央下部には、フロアトンネル部110の前端を前方の空間Rfに開口する切欠部20Aが形成されている。
【0044】
左右のサイドシル12の後端12Bは、それぞれ略車体上下方向に沿って延在する車体骨格部としてのセンタピラー22の下端22Aと連続するように構成されている。また、左右のサイドシル12の後端12B、センタピラー22には、リヤサイドメンバ(図示省略)と連続するように構成されている。更に、左右のセンタピラー22には、それぞれ車体パネル部としてのルームパーティションパネル24の車幅方向両端部が接合されている。
【0045】
ルームパーティションパネル24は、車幅方向及び略車体上下方向に延在する傾斜面として構成されており、車室Cとこの車室Cよりも後方の空間Rr(例えば、トランクルーム)とを隔てている。ルームパーティションパネル24の車体前方側端部は車体フロア100の車体後方側端部と接合されていると共に、車幅方向中央部には前述したフロアトンネル部110の後端を後方の空間Rrに開口させる切欠部(図示省略)が形成されている。
【0046】
以上、説明した自動車の車体10を構成する車体骨格部としてのサイドシル12、フロントピラー18、フロントサイドメンバ21、センタピラー22、車体パネル部としてのダッシュパネル20、ルームパーティションパネル24、及び本発明が適用された構造体としての車体フロア100(フロアパネル120R,120L、フロアトンネル部110)は、それぞれ炭素繊維強化樹脂(CFRP)にて構成されている。なお、ガラス繊維強化樹脂(GFRP)等の他の繊維強化樹脂(FRP)であってもよい。
【0047】
つぎにフロアパネル部120R,120Lとフロアトンネル部110とで構成されている車体フロア100について、図2と図3を用いて説明する。
【0048】
図2に示すように、炭素繊維強化樹脂(CFRP)によって構成されている車体フロア100は、母材(マトリックス)である樹脂S(図4参照)からなるフロア本体130と、炭素繊維からなる強化材としてのシート状のプリフォーム基材150、160R,160Lと、で構成されている。別の言い方をすると、車体フロア100は、フロア本体130の中に3枚のプリフォーム基材150、160R,160Lが埋設された構成とされている。なお、プリフォーム基材160R,160Lは、フロアパネル部120R,120Lに対応する形状に賦形され、プリフォーム基材150は、フロアトンネル部110に対応する形状に賦形されている。
【0049】
そして、フロアトンネル部110に対応する部位に埋設された断面ハット形状のプリフォーム基材150のフランジ部152R,152Lの車体上方側面(上面)に、フロアパネル部120R,120Lに対応する部位に埋設されたプリフォーム基材160R,160Lの車幅方向内側端部162R,162Lが重なるように埋設されている(図3も参照)。
【0050】
このように、プリフォーム基材160R,160Lの車幅方向内側端部162R,162Lと、プリフォーム基材150のフランジ部152R,152Lと、が上下に重なったラップ部170R,170Lのラップ長(車幅方向の重なり幅)Lは、本実施形態においては車体フロア100の板厚tの3倍に設定されている(図3も参照)。
【0051】
なお、車体フロア100におけるプリフォーム基材150、160R,160Lの端部同士が重なった部位を接合部位125R,125Lとする。また、接合部位125R,125Lは他の部位よりも板厚が若干厚くなっている(図2、図3では、わかり易くするため実際よりも厚く図示されている)。
【0052】
そして、3枚のプリフォーム基材150、160R,160Lの端部同士を重ね合わせた状態でRTM(Resin Transfer Molding、レジントランスファモールディング)成形装置500(図4参照)で成形することによって、炭素繊維強化樹脂(CFRP)で構成された車体フロア100が成形される(図5(A)を参照)。
【0053】
なお、図3に示すように、プリフォーム基材150のフランジ部152Lとプリフォーム基材160Lとは略同一平面上に配置されているが、接合部位125L(ラップ部170L)においてはプリフォーム基材160Lの車幅方向内側端部162Lが上方側に持ち上げられてプリフォーム基材150のフランジ部152Lの上側面に重なった構造となっている(片側折返し構造)。よって、車幅方向内側端部162Lへと連続し、車両内側方向に向かって上り勾配となった傾斜面部163Lが形成されている。
【0054】
また、この傾斜面部163Lの上側と下側、言い換えると接合部位126Lの車幅方向外側には、樹脂リッチ部172L,173Lが形成されている。
【0055】
なお、反対側の接合部位125R(ラップ部170R)も、左右対称である以外は同様の構造となっているので、説明を省略する。
【0056】
つぎに、本実施形態の車体フロア100のRTM成形方法について図4と図5とを用いて説明する。
【0057】
まず、RTM成形装置500について説明する。なお、RTM成形装置500は、従来よりも大きくて複雑な形状の構造体を成形可能であること以外は、周知のRTM成形装置と同様の構成であるので、簡単に説明する。
【0058】
図4に示すように、RTM成形装置500は、成形型502、樹脂注入装置530、オーバーフロータンク540、及び吸引装置(真空ポンプ)550を備えている。
【0059】
成形型502は、上型510と下型520とで構成されている。これら上型510と下型520とが型合わせされた状態における成形型502内には、車体フロア100を成形するためのキャビティ504が形成される。
【0060】
また、成形型502の上型510の略中央部分には、キャビティ504に連通する注入口512が設けられている。また、上型510の端部には、キャビティ504に連通する吸引口514が設けられている。注入口512には樹脂Sが貯蔵された樹脂注入装置530が接続される。また、吸引口514にはオーバーフロータンク540が接続され、オーバーフロータンク540には吸引装置550が接続される。
【0061】
続いて、RTM成形装置500を用いて車体フロア100を成形する成形工程について説明する。
【0062】
図5(A)に示すように、プリフォーム基材150をフロアトンネル部110に対応する形状に賦形する。また、プリフォーム基材160R,160Lをフロアパネル部120R,120Lに対応する形状に賦形する(予備成形工程)。なお、予備成形(賦形)は、周知の成形方法が適用可能である。
【0063】
これら予備成形されたプリフォーム基材150、160R,160Lの端部同士を重ね合わせ、型開きした状態の成形型502内(上型510と下型520と間)に配置する。このとき、プリフォーム基材150、160R,160Lがずれないように、ラップ部170R,170Lの当接面にバインダーが塗布され、仮止めされている。
【0064】
なお、前述したように、ラップ部170R,170Lのラップ長L(図2、図3を参照)は、成形後の車体フロア100の板厚t(図2、図3参照)の3倍に設定する。そして、図5(B)に示すように、成形型502を構成する上型510と下型520とを型合わせして閉締する。
【0065】
図4に示すように、吸引装置550によって、オーバーフロータンク540を経由して成形型502のキャビティ504を減圧する。注入口512に設けられたバルブ(図示略)を開くことによって、内圧と外圧との圧力差によってキャビティ504内に樹脂Sが注入される。注入された樹脂Sはプリフォーム基材150、160R,160Lに含浸する。キャビティ504に樹脂Sの注入(充填)が完了後、樹脂Sを加熱硬化させる。そして、樹脂Sが硬化後に脱型し、成形された車体フロア100を取り出す。なお、樹脂Sの注入の際にオーバーフローした樹脂Sはオーバーフロータンク540で回収される。
【0066】
また、図4では図示(表現)されていないが、図2、図3に示すようにラップ部170R,170Lは片側折返し構造となっている。また、接合部位125R,125Lの板厚は他の部位よりも若干厚くなっている。更に、接合部位125R,125Lにおける傾斜面部163Lの上側と下側には樹脂リッチ部172R,172L,172R、173Lが形成される。
【0067】
なお、ここで説明したRTM成形装置500及びRTM成形方法は一例であって、ここで説明した以外の周知のRTM成形装置及びRTM成形方法も本発明に適用することができる。
【0068】
つぎに、本実施形態の作用について説明する。
【0069】
夫々別々に賦形したプリフォーム基材150、160R,160Lの端部同士を重ね合わせて成形型502内に配置して、フロアトンネル部110及びフロアパネル部120R,120L部を一体的に成形することで、従来はRTM成形が困難であった大型で複雑な形状の車体フロア100をRTM成形することが可能となった。
【0070】
また、図2に示すように、プリフォーム基材150、160R,160Lの端部同士を重ね合わせてあるので、接合部位125R,125における強度が確保される。更に、ラップ部170R,170Lのラップ長Lが板厚tの3倍に設定されているので、曲げ変形Mに対して効果的に強い構造となる。
【0071】
よって、例えば、RTM成形後に構造体の端部同士を接着する方法と比較し、接合部位125R、125Lにおける強度が容易に確保される。
【0072】
つぎに、接合部位125R,125Lにおけるラップ部170R,170Lのラップ長Lを板厚tの3倍に設定することが最適(好適)であることについて、CAE(Computer Aided Engineering、コンピュータ エイデッド エンジニアリング)で解析した結果(図7〜図9)に基づいて説明する。
【0073】
なお、接合部位125R,125L(ラップ部170R,170L)は左右対称である以外は、同様の構成であるので、接合部位125L(図3)を代表してモデル化してCAEによって解析する。また、接合部位125L(ラップ部170L)の端部(ラップ端Q(図6参照))にかかる主応力及び強度と、ラップ長L及び板厚tと、の関係をCAEによって解析した。
【0074】
まず、解析モデルについて図6を用いて説明する。図6(A)は、接合部位125L(図3参照)をモデル化した解析モデル600の斜視図であり、(B)は(A)の要部(一点破線で囲った部位)を拡大した部分拡大斜視図である。なお、解析モデル600の長手方向をY方向(車幅方向に対応)、幅方向をX方向(車体前後方向に対応)、厚み方向をZ方向(車体上下方向に対応)とする。
【0075】
図6に示すように、解析モデル600では、モデル作成を簡略化するために、板状のRTM部材602、604を単純に上下に重ねあわせた継手構造とした。なお、図3に示すように、ラップ部170Lを片側折返し構造とせず、また、樹脂リッチ部172L,173Lを設けなくても、強度差は殆どないことを別途行なった実験結果によって確認されている。
【0076】
また、別途行なった実験結果より、ラップ部(接合部位)の車幅方向端部Q(以降、「ラップ端Q」と記す)に最も応力がかかるので、ラップ端Qが最弱部位となることが判っている。よって、解析モデル600では、図6(B)に示すように、RTM部材602とRTM部材604との間に樹脂層610を挿入し、この樹脂層610の端部の応力を求めることで、ラップ端Qの応力を求めている。なお、この樹脂層610は、説明したように、あくまでも解析モデルを作成する際に設けるものであり(別の言い方をすると、CAEの解析テクニックとして設けるものであり)、実際の車体フロア100に存在するものではない。
【0077】
つぎに、解析条件について説明する。
【0078】
解析モデル600を構成する樹脂層610の層厚は0.05mmとし、ヤング率Eは2.7GPaとした。また、解析モデル600を構成する板状のRTM部材602、604のヤング率Eは500GPaとした。また、0.5mm幅でメッシュPを形成した。
【0079】
そして、解析モデル600の一方(RTM部材602)の端部600AをXYZ方向に拘束し、他方(RTM部材604)の端部600BをZ方向に拘束し、ラップ部の中心部をX方向全域に亘ってZ方向に負荷Fをかけた3点曲げとした。また、負荷Fの大きさは2kNとした。
【0080】
更に、解析モデル600の板厚t及びラップ長Lの条件は、図11の表に示すように、t=1.8mm、3.6mm及びラップ長はL=1.8mm、3.6mm、5.4mm、10.8mm、21.6mmとした。但し、t=1.8mmとラップ長L=3.6mmの組み合わせと、t=3.6mmとラップ長L=1.8mmの組み合わせの解析は、省略した(図11の表では「−」で表記)。また、図11の表には、ラップ長Lが板厚tの何倍に相当するかを記載している。
【0081】
つぎに解析結果について、図7〜図9を用いて説明する。なお、図7はt=1.8mmのときの、(A)はL=1.8mmの応力分布、(B)はL=5.4mmの応力分布、(C)はL=10.8mmの応力分布、(C)はL=21.6mmの応力分布を示す応力分布図である。図8はt=3.6mmのときの、(A)はL=3.6mmの応力分布、(B)はL=5.4mmの応力分布、(C)はL=10.8mmの応力分布、(C)はL=21.6mmの応力分布を示す応力分布図である。
【0082】
なお、図7、図8において、ドットが密である(濃い)ほど、応力が大きいことを示している。また、図9はラップ端Qにかかる主応力を示すグラフである。図10はラップ長Lと板厚tとの比(ラップ長L/板厚t)と強度との関係を示すグラフである。なお、板厚tが3.6mmで、ラップ長さLが10.8(L=3t)のときの強度を1とした場合の比強度で表している。
【0083】
図9に示すように、板厚tが1.8mmの場合は、ラップ長Lが5.4mm以上でラップ端Qにかかる主応力の変化が殆どなくなる(ラップ長Lが5.4mm以上でラップ端Qにかかる主応力が停留する)。また、板厚tが3.6mmの場合は、ラップ長さLが10.8mm以上でラップ端Qにかかる主応力の変化が殆どなくなる(ラップ長さLが10.8mm以上でラップ端Qにかかる主応力が停留する)。また、この結果に基づいて、比強度を示したものが図9である。
【0084】
このように、ラップ長Lが板厚tの3倍以上となると、ラップ端Qにかかる主応力及び強度の変化が殆どなくなる(ラップ長Lが板厚tの3倍以上となると、ラップ端Qにかかる主応力及び強度が停留する)。
【0085】
これにより、ラップ長Lを板厚tの3倍以上(L≧3t)に設定することで、強度が確実に確保されることが判る。また、ラップ長Lを板厚tの3倍よりも大きくしても(L>3tとしても)、強度は殆ど変わらないことが判る(ラップ長Lを板厚tの3倍よりも大きくしても、強度アップには殆ど繋がらない)。
【0086】
したがって、ラップ長Lを板厚tの3倍(L=3t)に設定することが最適であることが判る。そして、ラップ長Lを板厚tの3倍(L=3t)に設定することで、ラップ長Lを必要以上に長くし、重量増及びコスト増となることが防止される。
【0087】
つぎに、ラップ長Lを長くしても強度アップに繋がらないことについて説明する。
【0088】
図7と図8とに示すように、ラップ部(接合部位)における両端部分に応力が集中する(両端部分の応力が高い)。これに対して、ラップ部における中央部分Cは応力が低い。よって、ラップ部における応力が集中する両端部分が主に強度に影響を与える(応力が集中する両端部分によって主に強度が確保される)。これに対して、ラップ部における中央部分(低応力領域)Cは強度に与える影響が非常に少ない。そして、ラップ長Lを長くすると中央部分(低応力領域)Cも増えていく。つまり、ラップ長Lを長くしても、強度を確保する応力が集中する両端部分の領域は殆ど変化しない。
【0089】
したがって前述したように、ラップ長Lは板厚tの3倍(L=3t)が最適値(最適なラップ長L)とされ、これ以上ラップ長Lを長くしても殆ど強度アップされない。
【0090】
ここで、上記は図2に示す曲げ変形(モーメント)Mに対する解析であり、最適なラップ長Lである。一方、図2の矢印Wで示すように、車幅方向に荷重がかかるせん断引張り負荷に対しては、ラップ長Lが長いほうが強度は上がる。しかしながら、車体フロア100は、車幅方向への荷重はあまりかかからない(車幅方向に引っ張れる方向に荷重は小さい(せん断引張り負荷は小さい))。よって、車幅方向にかかるせん断引張り負荷に対する強度よりも、曲げ変形に対する強度が必要とされる。したがって、ラップ長Lを板厚tの3倍(L=3t)に設定することで、せん断引張り負荷に対する強度も十分に確保される。
【0091】
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。自動車の車体10を構成する他の構造体(部材)にも本発明を適用することができる。例えば、サイドシル12とフロアパネル120R、120L、フロアトンネル部110とを一体的に成形する場合にも、本発明を適用することができる(図2参照)。
【0092】
また、自動車の車体以外の構造体に、本発明を適用することも可能である。
【0093】
なお、本実施形態のように、曲げモーメントに対する強度が、せん断引張り負荷に対する強度よりも必要とされる場所の適用が望ましい。しかし、せん断引張り負荷強度が曲げモーメントに対する強度よりも必要とされる場合でも本発明を適用することができる。また、その場合は、せん断引張り負荷に応じてラップ長Lを長くすることで、必要な強度を容易に確保することができる。
【0094】
また、本実施形態のように、曲げモーメントに対する強度が、せん断引張り負荷に対する強度よりも必要とされる場所であっても、曲げモーメントに対する強度を、より確実に確保するため、ラップ長Lを板厚tの3倍以上(L≧3t)に設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の実施形態としての車体フロアを備える自動車の車体を示す斜視図である。
【図2】図1の2−2線に沿った縦断面図である。
【図3】図2の要部(ラップ部)を拡大した部分拡大断面図である。
【図4】本実施形態のRTM成形方法に用いるRTM成形装置を模式的に示す構成図である。
【図5】(A)は図4に示すRTM成形装置の成形型の型内にプリフォーム基材を配置した状態を模式的に示す断面図であり、(B)は成形型を閉締した状態を模式的に示す断面図である。
【図6】(A)は、接合部位125Lをモデル化した解析モデル600の斜視図であり、(B)は(A)の一点破線で囲った要部を拡大した部分拡大斜視図である。
【図7】板厚t=1.8mmのときの、(A)はラップ長L=1.8mmの応力分布、(B)はラップ長L=5.4mmの応力分布、(C)はラップ長L=10.8mmの応力分布、(C)はラップ長L=21.6mmの応力分布を示す応力分布図である。
【図8】板厚t=3.6mmのときの、(A)はラップ長L=3.6mmの応力分布、(B)はラップ長L=5.4mmの応力分布、(C)はラップ長L=10.8mmの応力分布、(C)はラップ長L=21.6mmの応力分布を示す応力分布図である。
【図9】ラップ端Qにかかる主応力を示すグラフである。
【図10】ラップ長Lと板厚tとの比(ラップ長L/板厚t)と強度との関係を示すグラフである。
【図11】板厚t及びラップ長Lの解析条件を示す表である。
【符号の説明】
【0096】
10 車体
100 車体フロア(構造体)
110 フロアトンネル部(車体骨格部)
120L フロアパネル部(車体パネル部)
120R フロアパネル部(車体パネル部)
130 フロア本体(構造体本体)
150 プリフォーム基材(基材)
160L プリフォーム基材(基材)
160R プリフォーム基材(基材)
170L ラップ部
170R ラップ部
L ラップ長
t 板厚
【特許請求の範囲】
【請求項1】
夫々別々に賦形され、端部同士が重ね合わされた複数のシート状の基材と、
複数の前記基材が埋設された構造体本体と、
を備えることを特徴とするレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体。
【請求項2】
前記基材の端部同士が重ね合わされたラップ部のラップ長は、成形後の板厚の3倍以上に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体。
【請求項3】
前記基材の端部同士が重ね合わされたラップ部のラップ長は、成形後の板厚の3倍に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体。
【請求項4】
車体を構成する車体骨格部と車体パネル部とが一体的に構成された構造体に適用され、
前記車体骨格部に対応する前記基材と、前記車体パネル部に対応する前記基材と、の端部同士が重ね合わされて埋設されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体。
【請求項5】
前記車体骨格部は、車幅方向中央部に車体前後方向に沿って設けられたフロアトンネル部とされ、
前記車体パネル部は、前記フロアトンネル部の車幅方向両外側に設けられた一対のフロアパネル部とされ、
前記フロアトンネル部に対応する前記基材と、前記フロアパネル部に対応する前記基材と、の車幅方向端部同士が重ね合わされて埋設されていることを特徴とする請求項4に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体。
【請求項6】
夫々別々に賦形した複数のシート状の基材の端部同士を重ね合わせて成形型内に配置し、前記型内に母材を注入し成形することを特徴とするレジントランスファモールディング成形方法。
【請求項7】
前記基材の端部同士を重ね合わせたラップ部のラップ長を、成形後の板厚の3倍以上に設定することを特徴とする請求項6に記載のレジントランスファモールディング成形方法。
【請求項8】
前記基材の端部同士を重ね合わせたラップ部のラップ長を、成形後の板厚の3倍に設定することを特徴とする請求項6に記載のレジントランスファモールディング成形方法。
【請求項9】
車体を構成する車体骨格部に対応する部位に埋設される前記基材と、車体を構成する車体パネル部に対応する部位に埋設される前記基材と、を夫々別々に賦形すると共に、各前記基材の端部同士を重ね合わせて成形型内に配置し、
前記車体骨格部と前記車体パネル部とを一体的に成形することを特徴とする請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載のレジントランスファモールディング成形方法。
【請求項10】
前記車体骨格部は、車体幅方向中央部に車体前後方向に沿って設けられたフロアトンネル部とされ、
前記車体パネル部は、前記フロアトンネル部の車幅方向両外側に設けられた一対のフロアパネル部とされ、
前記フロアトンネル部に対応する部位に埋設される前記基材と、前記フロアパネル部に対応する部位に埋設される前記基材と、を夫々別々に賦形すると共に、各前記基材の車幅方向端部同士を重ね合わせて成形型内に配置し、
前記フロアトンネル部と前記フロアパネル部とを一体的に成形することを特徴とする請求項9に記載のレジントランスファモールディング成形方法。
【請求項1】
夫々別々に賦形され、端部同士が重ね合わされた複数のシート状の基材と、
複数の前記基材が埋設された構造体本体と、
を備えることを特徴とするレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体。
【請求項2】
前記基材の端部同士が重ね合わされたラップ部のラップ長は、成形後の板厚の3倍以上に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体。
【請求項3】
前記基材の端部同士が重ね合わされたラップ部のラップ長は、成形後の板厚の3倍に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体。
【請求項4】
車体を構成する車体骨格部と車体パネル部とが一体的に構成された構造体に適用され、
前記車体骨格部に対応する前記基材と、前記車体パネル部に対応する前記基材と、の端部同士が重ね合わされて埋設されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体。
【請求項5】
前記車体骨格部は、車幅方向中央部に車体前後方向に沿って設けられたフロアトンネル部とされ、
前記車体パネル部は、前記フロアトンネル部の車幅方向両外側に設けられた一対のフロアパネル部とされ、
前記フロアトンネル部に対応する前記基材と、前記フロアパネル部に対応する前記基材と、の車幅方向端部同士が重ね合わされて埋設されていることを特徴とする請求項4に記載のレジントランスファモールディング成形によって成形された構造体。
【請求項6】
夫々別々に賦形した複数のシート状の基材の端部同士を重ね合わせて成形型内に配置し、前記型内に母材を注入し成形することを特徴とするレジントランスファモールディング成形方法。
【請求項7】
前記基材の端部同士を重ね合わせたラップ部のラップ長を、成形後の板厚の3倍以上に設定することを特徴とする請求項6に記載のレジントランスファモールディング成形方法。
【請求項8】
前記基材の端部同士を重ね合わせたラップ部のラップ長を、成形後の板厚の3倍に設定することを特徴とする請求項6に記載のレジントランスファモールディング成形方法。
【請求項9】
車体を構成する車体骨格部に対応する部位に埋設される前記基材と、車体を構成する車体パネル部に対応する部位に埋設される前記基材と、を夫々別々に賦形すると共に、各前記基材の端部同士を重ね合わせて成形型内に配置し、
前記車体骨格部と前記車体パネル部とを一体的に成形することを特徴とする請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載のレジントランスファモールディング成形方法。
【請求項10】
前記車体骨格部は、車体幅方向中央部に車体前後方向に沿って設けられたフロアトンネル部とされ、
前記車体パネル部は、前記フロアトンネル部の車幅方向両外側に設けられた一対のフロアパネル部とされ、
前記フロアトンネル部に対応する部位に埋設される前記基材と、前記フロアパネル部に対応する部位に埋設される前記基材と、を夫々別々に賦形すると共に、各前記基材の車幅方向端部同士を重ね合わせて成形型内に配置し、
前記フロアトンネル部と前記フロアパネル部とを一体的に成形することを特徴とする請求項9に記載のレジントランスファモールディング成形方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−155403(P2010−155403A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335651(P2008−335651)
【出願日】平成20年12月29日(2008.12.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月29日(2008.12.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】
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