説明

樹脂カバーの成形方法

【課題】成形時における樹脂材の流動性が阻害されるのを防止できるとともに、冷却工程での樹脂材の収縮によって蓋体と開口部との間の隙間が大きくなることも防止できる樹脂カバーの成形方法を提供する。
【解決手段】カバー本体の一部に蓋体によって開閉される開口部があり、この蓋体がヒンジ部によってカバー本体と一体に接合されている樹脂カバーの成形方法であって、カバー本体10の成形時に、ヒンジ部22を除く蓋体20の輪郭線上に、結合膜を残した深さの切断溝30を成形する工程と、カバー本体10の成形後に切断溝30の結合膜を引き裂くことによって蓋体20を開閉可能な状態に仕上げる工程とからなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジンアンダーカバーのように、カバー本体の一部に蓋体によって開閉されるメンテナンスなどのための開口部を備えた樹脂カバーの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、例えば特許文献1に開示された樹脂パネルの成形方法が既に知られている。この技術では、樹脂パネルの成形時において開口部と、この開口部を開閉できる蓋体とがそれぞれ成形される。この蓋体は開口部の一辺において、ヒンジ部によって樹脂パネルと接合されている。
【特許文献1】特開2000−198466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示された技術では、樹脂パネルの成形時に開口部および蓋体を共に成形している。すなわち樹脂パネルの成形時において、ヒンジ部を除く蓋体(開口部)の輪郭に沿ってスリットが成形され、樹脂パネルと蓋体とを分離させている。このため成形時における樹脂材の流動性がスリットによって阻害される場合があるとともに、成形後の冷却工程における樹脂材の収縮によって蓋体と開口部との間の隙間が大きくなってしまう。この対策として樹脂パネルの成形後に、二次加工のトリミングによって蓋体の輪郭を切断する手段も実施されている。しかし蓋体の輪郭線上にトリミング加工の困難な立ち上がり壁などがあると、適正に切断できない場合がある。
【0004】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、成形時における樹脂材の流動性が阻害されるのを防止できるとともに、冷却工程での樹脂材の収縮によって蓋体と開口部との間の隙間が大きくなることも防止でき、またトリミング加工の困難な形状が存在しても蓋体をカバー本体から簡単に切り離すことができる樹脂カバーの成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の目的を達成するためのもので、以下のように構成されている。
請求項1に記載の発明は、カバー本体の一部に蓋体によって開閉される開口部があり、この蓋体がヒンジ部によってカバー本体と一体に接合されている樹脂カバーの成形方法であって、カバー本体の成形時に、ヒンジ部を除く蓋体の輪郭線上に、結合膜を残した深さの切断溝を成形する工程と、カバー本体の成形後に切断溝の結合膜を引き裂くことによって蓋体を開閉可能な状態に仕上げる工程とからなっている。
【0006】
これにより、カバー本体の成形時に蓋体の輪郭に沿ってスリットを成形するのと異なり、樹脂材の流動性がスリットによって阻害されることがなく、また冷却工程での樹脂材の収縮によって蓋体とカバー本体の開口部との間の隙間が大きくなることもない。しかも蓋体の輪郭線上に、二次加工によるトリミング加工の困難な立ち上がり壁などがあっても切断溝に沿って蓋体をカバー本体から簡単に切り離すことができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載された樹脂カバーの成形方法であって、切断溝を成形する工程において、この切断溝をヒンジ部の両端部から蓋体の輪郭線に沿ってカバー本体の外縁にまで到達させる。
【0008】
これにより、切断溝の結合膜をカバー本体の外縁から引き裂くことができ、作業が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を用いて説明する。
図1は樹脂製のエンジンアンダーカバーを表した斜視図である。図2はエンジンアンダーカバーの一部を表した平面図である。図3は図2のA-A矢視方向の拡大断面図である。図4は図2のB-B矢視方向の拡大断面図である。これらの図面で示すカバー本体10は、樹脂材のインジェクション成形などによる一体成形品である。カバー本体10は、その複数箇所において該カバー本体10を車両のボデー側(図示省略)にボルトで取り付けるための取付け部12を備え、各取付け部12にはボルト挿通孔14がそれぞれ開けられている。
【0010】
カバー本体10には、オイルエレメントのメンテナンスなどを行うために、平常時は蓋体で閉ざされた作業用の開口部を要する場合がある。本実施の形態では、カバー本体10の成形時において、その開口部となる部分を閉ざした状態の蓋体20が一体に成形されている。この蓋体20の一辺は、ヒンジ部22によってエンジンアンダーカバーの完成時においてもカバー本体10と接合された状態に保持される。ヒンジ部22の両端部には、カバー本体10の表裏に貫通した貫通孔24がそれぞれ開けられている。
【0011】
蓋体20の輪郭線(開口部となる部分の輪郭線)のうち、ヒンジ部22両端の貫通孔24からカバー本体10の外縁まで延びる二本の輪郭線上に切断溝30がそれぞれ設けられている。これらの切断溝30は、その一方の断面形状を表した図4から明らかなように、薄肉の結合膜32を残した深いV字形状をしている。また蓋体20はヒンジ部22の反対側の端部において取付け部26を備え、この取付け部26にはボルト挿通孔28が開けられている。
【0012】
両切断溝30はカバー本体10の成形時に金型形状によって成形されるのであり、両切断溝30が図2の右側に位置する溝のように直線である場合はもちろんのこと、図2の左側に位置する溝のように曲がっていても難なく成形できる。またカバー本体10と蓋体20とは、両切断溝30の箇所においても個々の結合膜32によって互いにつながっているので、これらの切断溝30によって樹脂成形時における樹脂材の流動性が阻害されることはない。
【0013】
カバー本体10が蓋体20と共に成形されたら金型から取り出して冷却する。この後、両切断溝30の結合膜32をカバー本体10の外縁側からヒンジ部22両端の貫通孔24に向けて引き裂く。これによりカバー本体10と蓋体20とが両切断溝30の箇所で分断され、蓋体20がヒンジ部22によって開閉可能な状態となる。この状態が図5の斜視図によって示されている。この図面から明らかなようにカバー本体10には、蓋体20によって開閉できるメンテナンス用の開口部16が開けられたこととなる。なおカバー本体10が車両のボデー側に取り付けられた状態においては、蓋体20の取付け部26をボデー側にボルト留めすることにより、蓋体20は開口部16を閉ざした状態に保持される。
【0014】
このように両切断溝30に沿って切断された開口部16と蓋体20との相互間の隙間は、成形時につくられるスリットと異なり、カバー本体10の冷却工程における樹脂材の収縮の影響を受けないため微少な寸法となる。また両切断溝30の結合膜32を引き裂く作業は、カバー本体10の形状にトリミング加工の困難な立ち上がり壁11などがあってもカバー本体10に損傷を与えることなく容易に切断できる。
なお以上は本発明を実施するための最良の形態であるエンジンアンダーカバーを対象として説明したが、例えば車両のトランクルームのホイールカバーに本発明を適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】樹脂製のエンジンアンダーカバーを表した斜視図
【図2】エンジンアンダーカバーの一部を表した平面図
【図3】図2のA-A矢視方向の拡大断面図
【図4】図2のB-B矢視方向の拡大断面図
【図5】蓋体をカバー本体から分断した状態を図1と対応させて表した斜視図
【符号の説明】
【0016】
10 カバー本体
16 開口部
20 蓋体
22 ヒンジ部
30 切断溝
32 結合膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバー本体の一部に蓋体によって開閉される開口部があり、この蓋体がヒンジ部によってカバー本体と一体に接合されている樹脂カバーの成形方法であって、
カバー本体の成形時に、ヒンジ部を除く蓋体の輪郭線上に、結合膜を残した深さの切断溝を成形する工程と、カバー本体の成形後に切断溝の結合膜を引き裂くことによって蓋体を開閉可能な状態に仕上げる工程とからなる樹脂カバーの成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載された樹脂カバーの成形方法であって、
切断溝を成形する工程において、この切断溝をヒンジ部の両端部から蓋体の輪郭線に沿ってカバー本体の外縁にまで到達させる樹脂カバーの成形方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−160843(P2007−160843A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363162(P2005−363162)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【Fターム(参考)】