説明

樹脂シートの製造方法、絶縁基板用樹脂シート、絶縁基板、及び多層基板

【課題】 樹脂シートの表面に多数の孔が形成されており、表面にメッキにより導電膜を形成した際に導電膜の接着性を高め得る樹脂シートの製造方法、絶縁基板用樹脂シート、絶縁基板、及び多層基板を提供する。
【解決手段】 熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シートの表面を無機酸で処理した後、過マンガン酸塩を含む粗化水溶液を用いて、無機酸で処理した樹脂シートの表面を粗化させることにより、樹脂シートの表面に多数の孔が形成されている樹脂シートを得ることを特徴とする、樹脂シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートの製造方法、絶縁基板用樹脂シート、絶縁基板、及び多層基板に関し、より詳細には、表面にメッキにより導電膜を形成した際に高い接着性を発揮し得る樹脂シートの製造方法、絶縁基板用樹脂シート、絶縁基板、及び多層基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に用いられる多層プリント基板は、複数層の絶縁基板と、複数層の絶縁基板間に配置された回路パターンとを有する。従来、この種の絶縁基板、すなわち層間絶縁基板としては、例えば、熱硬化性樹脂組成物又は光硬化性樹脂からなる樹脂シートが用いられている。
【0003】
熱硬化性樹脂組成物などからなる樹脂シートには、無電解メッキ、スパッタリング又は真空蒸着などにより金属配線が形成されることがある。金属配線が形成された際には、樹脂シートと金属配線との接着性が高く、接続信頼性に優れることが求められている。高い接着性、優れた接続信頼性を発揮するために、樹脂シートの表面に多数の孔を形成する種々の試みがなされている。
【0004】
樹脂シートの表面に多数の孔を形成するには、従来、膨潤剤などを用いて樹脂シートの表面を膨潤させる前処理を行なった後、酸化剤を用いて樹脂シートの表面を粗化させる方法が行なわれている。
【0005】
下記特許文献1には、有機溶剤とアルカリとを用いた樹脂の膨潤工程と、酸化剤を用いた樹脂の粗化工程とを備える多層配線基板の製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献1では、硬化性樹脂からなる絶縁層の表面を膨潤するのに、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶剤と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリとを用いた処理が行なわれている。次に、過マンガン酸カリウムなどの酸化剤を用いて、絶縁層の粗化処理が行なわれて、多くの孔が形成されている。多くの孔が形成された絶縁層に対して、メッキ処理を行なうことにより、絶縁層の内部へメッキ液が浸透し易く、接着性が高まるとされている。
【0007】
他方、下記特許文献2には、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、樹脂硬化物、熱可塑性樹脂等からなる樹脂と、層状珪酸塩とを含有する樹脂シートの表面を、膨潤剤を用いて膨潤させた後、メタンスルホン酸を含有する粗化処理液を用いて粗化する樹脂シートの粗化方法が開示されている。
【0008】
特許文献2では、アミンを含む水溶液、又はアミンを含む水溶液にメタンホスホン酸を含有させた水溶液等を膨潤剤として用いて樹脂シートの表面を膨潤させている。次に、メタンホスホン酸を用いて、樹脂シートの表面を粗化させている。
【0009】
樹脂シートの膨潤処理及び粗化処理に用いられるメタンホスホン酸は、樹脂シートを構成する熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂及び層状珪酸塩を溶解することができる。従って、樹脂シートの表面を溶解して、表面に微細な凹凸を形成することができるとされている。よって、粗化された樹脂シートの表面に無電解メッキ、電気メッキ、スパッタリング又は真空蒸着により金属配線を形成すれば、樹脂シートと金属配線との接着強度が飛躍的に向上するとされている。
【特許文献1】特開2001−7528号公報
【特許文献2】特開2004−51973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載の膨潤処理・粗化処理では、樹脂表面に多数の孔が十分に形成されないことがあった。従って、樹脂シートの表面に無電解メッキ、電気メッキ、スパッタリング又は真空蒸着により金属配線を形成した際に、金属配線の接着性が十分ではなく、高い接続信頼性が得られないことがあった。特に、ブタジエン骨格を有する可撓性エポキシ樹脂などの不飽和二重結合を有する樹脂により構成されている樹脂シートや層状珪酸塩を含有する樹脂シートである場合には、上記特許文献1及び2に記載の膨潤処理・粗化処理では、樹脂表面に多数の孔を形成することが困難なことがあった。
【0011】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、樹脂シートの表面に多数の孔が形成されており、表面にメッキにより導電膜を形成した際に導電膜の接着性を高め得る樹脂シートの製造方法、絶縁基板用樹脂シート、絶縁基板、及び多層基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る樹脂シートの製造方法は、熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シートの表面を無機酸で処理した後、過マンガン酸塩を含む粗化水溶液を用いて、無機酸で処理した樹脂シートの表面を粗化させることにより、樹脂シートの表面に多数の孔が形成されている樹脂シートを得ることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る樹脂シートの製造方法のある特定の局面では、無機酸として硫酸を用いることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る樹脂シートの製造方法のある限定的な局面では、硫酸の濃度は、5〜50%である。
【0015】
本発明に係る樹脂シートの製造方法のある他の特定の局面では、熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ系樹脂と、エポキシ系樹脂硬化剤とを含むエポキシ系熱硬化性樹脂組成物である。
【0016】
本発明に係る樹脂シートの製造方法のさらに他の特定の局面では、エポキシ系樹脂は、ブタジエン骨格を有する可撓性エポキシ樹脂である。
【0017】
本発明に係る樹脂シートの製造方法のある限定的な局面では、エポキシ樹脂硬化剤は、フェノール基を有する化合物からなることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る樹脂シートの製造方法のさらに他の特定の局面では、熱硬化性樹脂組成物は、層状珪酸塩を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る絶縁基板用樹脂シートは、本発明の樹脂シートの製造方法により得られた樹脂シートからなることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る絶縁基板は、本発明の樹脂シートの製造方法により得られた樹脂シートと、該樹脂シートの少なくとも一方面にメッキにより形成された導電膜とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る多層基板は、本発明の樹脂シートの製造方法により得られた樹脂シートを層間絶縁層として含んでいる。
【発明の効果】
【0022】
熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シートの表面を無機酸で処理した後、過マンガン酸塩を含む粗化水溶液を用いて、無機酸で処理した樹脂シートの表面を粗化させると、樹脂シートの表面に多数の孔が均一に形成される。さらに、後述の実験例に示されているように、ブタジエン骨格を有する可撓性エポキシ樹脂などの炭素−炭素二重結合を有する樹脂を用いた場合でも、樹脂シートの表面に多数の孔を形成することができる。
【0023】
上記無機酸として硫酸を用いると、樹脂シートの表面に多数の孔がより一層均一に形成される。硫酸の濃度が、5〜50%の範囲にある場合には、樹脂シートの表面により一層多くの孔が均一に形成される。よって、樹脂シートの表面にメッキにより導電膜を形成した際には、樹脂シートと導電膜との接着性が高められる。
【0024】
熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ系樹脂と、エポキシ系樹脂硬化剤とを含むエポキシ系熱硬化性樹脂組成物である場合には、本発明に係る製造方法により得られる樹脂シートは優れた力学的特性を有する。エポキシ系樹脂が、ブタジエン骨格を有する可撓性エポキシ樹脂であると、硬化物は低温域から高温域までの広い温度範囲にわたり、高い伸度を有するとともに、より一層優れた力学的特性を発揮し得る。
【0025】
エポキシ樹脂硬化剤がフェノール基を有する化合物からなる場合には、樹脂シートの耐熱性、低吸水性や、寸法安定性を向上させることができる。
【0026】
熱硬化性樹脂組成物が層状珪酸塩を含んでいる場合には、本発明に係る製造方法により得られる樹脂シートは優れた力学的特性や透明性、耐湿性等を有し、分子鎖の拘束によるガラス転移点温度や耐熱変形温度の上昇に基づく、耐熱性の向上や熱線膨張率の低減、結晶形成における層状珪酸塩の造核効果や耐湿性の向上等に伴う膨潤抑制効果等に基づく寸法安定性の向上等が図られる。
【0027】
本発明に係る製造方法により得られる樹脂シートは、樹脂シートの表面を無機酸で処理した後、過マンガン酸塩を含む粗化水溶液を用いて、無機酸で処理した樹脂シートの表面を粗化させて得ているため、樹脂シートの表面に多数の孔が形成されている。よって、本発明により得られた樹脂シートの表面に導電膜を形成すると、樹脂シートと導電膜との密着性が効果的に高められる。従って、本発明に係る樹脂シートは、絶縁基板用樹脂シートとして好ましく用いることができ、樹脂シートの少なくとも一方面にメッキにより形成された導電膜を備える絶縁基板は優れた接続信頼性を有する。
【0028】
本発明に係る樹脂シートの表面に、導電膜が形成されてなる金属箔付き樹脂シートを用いてなる多層基板は、力学的特性、寸法安定性、耐熱性、難燃性に優れる。多層基板が過酷な環境下で使用された場合でも、導電膜が樹脂からはずれてショートや断線を起こし難く、高い信頼性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シートの表面を無機酸で処理した後、過マンガン酸塩を含む粗化水溶液を用いて、無機酸で処理した樹脂シートの表面を粗化させることにより、樹脂シートの表面に多数の孔が形成されている樹脂シートを得る樹脂シートの製造方法に関する。
【0030】
熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と熱硬化性樹脂の硬化剤とを含む。
【0031】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂とは、常温では液状、半固形状または固形状等であって、常温下又は加熱下で流動性を示す比較的低分子量の物質からなる。この物質が硬化剤、触媒または熱等の作用によって硬化反応や架橋反応等の化学反応を起こして、分子量を増大させながら網目状の三次元構造を形成してなる不溶不融となりうる樹脂を意味する。
【0032】
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱硬化型ポリイミド系樹脂、ケイ素系樹脂、ベンゾオキサジン系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、アリル系樹脂、フェノール系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ビスマレイミドトリアジン系樹脂、アルキド系樹脂、フラン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アニリン系樹脂等が挙げられる。中でも、エポキシ系樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱硬化型ポリイミド系樹脂、ケイ素系樹脂、ベンゾオキサジン系樹脂、及びメラミン系樹脂等が好適である。これらの熱硬化性樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0033】
本発明において、熱硬化性樹脂として、エポキシ系樹脂が好ましく用いられる。エポキシ系樹脂を用いた場合には、熱硬化性樹脂組成物の硬化物は、優れた力学的特性を有する。より具体的には、高い伸度を有する。
【0034】
上記エポキシ系樹脂とは、少なくとも1個のエポキシ基(オキシラン環)を有する有機化合物をいう。上記エポキシ樹脂中のエポキシ基の数としては、1分子当たり1個以上であることが好ましく、1分子当たり2個以上であることがより好ましい。ここで、1分子当たりのエポキシ基の数は、エポキシ系樹脂中のエポキシ基の総数をエポキシ系樹脂中の分子の総数で除算することにより求められる。
【0035】
上記エポキシ系樹脂としては、従来公知のエポキシ系樹脂を用いることができ、例えば、以下に示したエポキシ系樹脂(1)〜エポキシ系樹脂(11)等が挙げられる。これらのエポキシ系樹脂は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、エポキシ系樹脂として、これらのエポキシ系樹脂の誘導体又は水添物が用いられてもよい。
【0036】
芳香族エポキシ系樹脂である上記エポキシ系樹脂(1)としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等が挙げられる。ノボラック型エポキシ系樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、この他には、トリスフェノールメタントリグリシジルエーテル、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、およびナフタレン型エポキシ樹脂等の芳香族化合物からなるエポキシ系樹脂等も挙げられる。
【0037】
脂環族エポキシ系樹脂である上記エポキシ系樹脂(2)としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−2−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサノン−メタ−ジオキサン、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル等が挙げられる。このようなエポキシ系樹脂(2)のうち市販されているものとしては、例えば、ダイセル化学工業社製の商品名「EHPE
−3150」(軟化温度71℃)等が挙げられる。
【0038】
脂肪族エポキシ系樹脂である上記エポキシ系樹脂(3)としては、例えば、ネオペンチルグリコールのジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、炭素数が2〜9(好ましくは2〜4)のアルキレン基を含むポリオキシアルキレングリコールやポリテトラメチレンエーテルグリコール等を含む長鎖ポリオールのポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0039】
グリシジルエステル型エポキシ系樹脂である上記エポキシ系樹脂(4)としては、例えば、フタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ジグリシジル−p−オキシ安息香酸、サリチル酸のグリシジルエーテル−グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等が挙げられる。
【0040】
グリシジルアミン型エポキシ系樹脂である上記エポキシ系樹脂(5)としては、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、環状アルキレン尿素のN,N´−ジグリシジル誘導体、p−アミノフェノールのN,N,O−トリグリシジル誘導体、m−アミノフェノールのN,N,O−トリグリシジル誘導体等が挙げられる。
【0041】
グリシジルアクリル型エポキシ系樹脂である上記エポキシ系樹脂(6)としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートと、エチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル等のラジカル重合性モノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0042】
ポリエステル型エポキシ系樹脂である上記エポキシ系樹脂(7)としては、例えば、1分子当たり1個以上、好ましくは2個以上のエポキシ基を有するポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0043】
上記エポキシ系樹脂(8)としては、例えば、エポキシ化ポリブタジエン等の共役ジエン化合物を主体とする重合体またはその部分水添物の重合体における不飽和炭素の二重結合をエポキシ化した化合物等が挙げられる。
【0044】
上記エポキシ系樹脂(9)としては、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック又はその部分水添物の重合体ブロックとを同一分子内にもつブロック共重合体において、共役ジエン化合物が有する不飽和炭素の二重結合部分をエポキシ化した化合物等が挙げられる。このような化合物としては、例えば、エポキシ化SBS等が挙げられる。
【0045】
上記エポキシ系樹脂(10)としては、例えば、上記エポキシ系樹脂(1)〜(9)の構造中にウレタン結合やポリカプロラクトン結合を導入した、ウレタン変性エポキシ樹脂やポリカプロラクトン変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0046】
上記エポキシ系樹脂(11)としては、例えば、上記エポキシ系樹脂(1)〜(10)にアクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、末端カルボキシル基変性ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴム(CTBN)、ポリブタジエン、アクリルゴム等のゴム成分を含有させたゴム変性エポキシ樹脂等が挙げられる。また、エポキシ樹脂以外に、少なくとも1つのオキシラン環を有する樹脂、又はオリゴマーが添加されてもよい。
【0047】
低弾性成分を樹脂の構造で設計する場合は、上記エポキシ系樹脂として可撓性エポキシ樹脂が好ましく用いられる。可撓性エポキシ樹脂としては、熱硬化性樹脂硬化剤により硬化させた後においても、柔軟性を発現し得るものを好適に用いることができる。
【0048】
可撓性エポキシ樹脂としては、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、炭素数2〜9(好ましくは2〜4)のアルキレン基を含むポリオキシアルキレングリコールやポリテトラメチレンエーテルグリコール等を含む長鎖ポリオールのポリグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレートと、エチレン、酢酸ビニルもしくは(メタ)アクリル酸エステル等のラジカル重合性モノマーとの共重合体、共役ジエン化合物を主体とする(共)重合体またはその部分水添物の(共)重合体における不飽和炭素の二重結合をエポキシ化したもの、1分子当たり1個以上、好ましくは2個以上のエポキシ基を有するポリエステル樹脂、ウレタン結合やポリカプロラクトン結合を導入した、ウレタン変性エポキシ樹脂やポリカプロラクトン変性エポキシ樹脂、ダイマー酸またはその誘導体の分子内にエポキシ基を導入したダイマー酸変性エポキシ樹脂、NBR、CTBN、ポリブタジエン、アクリルゴム等のゴム成分の分子内にエポキシ基を導入したゴム変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0049】
好ましく用いられる可撓性エポキシ樹脂としては、分子内にエポキシ基及びブタジエン骨格を有する化合物を挙げることができる。ブタジエン骨格を有する可撓性エポキシ樹脂を用いると、熱硬化性樹脂組成物及びその硬化物の柔軟性をより一層高めることができ、硬化物は低温域から高温域までの広い温度範囲にわたり、高い伸度有するようになり、より一層優れた力学的特性を発揮し得る。
【0050】
より好ましくは、上記可撓性エポキシ樹脂としては、ダイマー酸またはその誘導体の分子内にエポキシ基を導入したダイマー酸変性エポキシ樹脂、あるいはNBR、CTBN、ポリブタジエンまたはアクリルゴムなどのゴム成分の分子内にエポキシ基を導入したゴム変性エポキシ樹脂が用いられる。
【0051】
本発明においては、さらに好ましくは、下記の化学式(A)で示される可撓性エポキシ樹脂が用いられる。
【0052】
【化1】

【0053】
式(A)中、Rは、−CH2−CH=CH−CH2−または−CH2−CH(CH=CH2)−であり、
Aは、−φ−C(CH32−φ−O−CH2−CH(OH)−CH2−O−(C=0)−
(φはベンゼン環)であり、
Bは、−(C=O)−O−CH2−CH(OH)−CH2−O−φ−C(CH32−φ−
(φはベンゼン環)であり、mは0または1、nは正の正数である。
【0054】
式(A)中のポリブタジエン成分が少ない場合には、電気的特性が良好となる。具体的には、誘電率かつ誘電正接を低くすることができる。ポリブタジエン単位の好ましい数nは100以下であり、より好ましくは40以下である。
【0055】
熱硬化性樹脂のひとつである熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂を構成するモノマーの一部の官能基がアミノ基、グリシジル基、イソシアネート基等の熱硬化性を有する官能基の中から1種又は2種以上によって置換された樹脂等が挙げられる。官能基が置換された結果、この熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル系樹脂は熱硬化性の性質を示すものであり、この樹脂の官能基が熱硬化した場合には、分子量を増大させながら不可逆的に3次元の網目状構造を形成することによって樹脂が熱硬化性の性質を示す。
【0056】
なお、上記熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル系樹脂は、熱可塑性樹脂として用いられるポリフェニレンエーテル系樹脂とは異なった性質を有する。これらの熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル系樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0057】
熱硬化性樹脂のひとつである熱硬化性ポリイミド系樹脂としては、分子主鎖中にイミド結合を有する樹脂であれば特に限定されず、具体的には、例えば、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸との縮合重合体、芳香族ジアミンとビスマレイミドとの付加重合体であるビスマレイミド樹脂、アミノ安息香酸ヒドラジドとビスマレイミドとの付加重合体であるポリアミノビスマレイミド樹脂、ジシアネート化合物とビスマレイミド樹脂とからなるビスマレイミドトリアジン樹脂等が挙げられる。これらのうち、ビスマレイミドトリアジン樹脂が好適に用いられる。これらの熱硬化性ポリイミド系樹脂は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0058】
熱硬化性樹脂のひとつであるユリア系樹脂としては、尿素とホルムアルデヒドとの付加縮合反応で得られる熱硬化性樹脂であれば特に限定されない。
【0059】
なお、ユリア系樹脂の硬化反応に用いられる硬化剤としては、例えば、顕在性硬化剤、潜在性硬化剤等が挙げられる。顕在性硬化剤としては、例えば、無機酸、有機酸、酸性硫酸ナトリウム等の酸性塩が挙げられる。潜在性硬化剤としては、カルボン酸エステル、酸無水物、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の塩が挙げられる。これらのうち、潜在性硬化剤は、貯蔵寿命が長いので好適に用いられる。
【0060】
熱硬化性樹脂のひとつであるアリル系樹脂としては、ジアリルフタレートモノマーの重合及び硬化反応によって得られるものであれば特に限定されない。上記ジアリルフタレートモノマーとしては、例えば、オルソ体、イソ体、テレ体が挙げられる。なお、硬化反応の触媒としては特に限定されないが、例えば、t−ブチルパーベンゾエートとジ−t−ブチルパーオキシドとの併用が好適である。
【0061】
熱硬化性樹脂のひとつであるケイ素系樹脂としては、分子鎖中にケイ素−ケイ素結合、ケイ素−炭素結合、シロキサン結合、ケイ素−窒素結合の少なくとも1つを含むものであれば特に限定されない。このようなケイ素系樹脂としては、例えば、ポリシロキサン、ポリカルボシラン、ポリシラザン等が挙げられる。
【0062】
熱硬化性樹脂のひとつであるベンゾオキサジン系樹脂としては、ベンゾオキサジンモノマーのオキサジン環の開環重合が可能なモノマー、および開環重合によって得られるものであれば特に限定されない。このようなベンゾオキサジンモノマーとしては、例えば、オキサジン環の窒素に対して、フェニル基、メチル基、シクロヘキシル基等の官能基が結合したもの、または2つのオキサジン環の窒素間にフェニル基、メチル基、シクロヘキシル基などの置換基が結合したもの等が挙げられる。
【0063】
(熱硬化性樹脂の硬化剤)
硬化剤は、上記熱硬化性樹脂を硬化させる。
【0064】
上記硬化剤としては特に限定されず、従来公知の熱硬化性樹脂用の硬化剤を用いることができ、例えば、アミン化合物、アミン化合物から合成される化合物、3級アミン化合物、イミダゾール化合物、ヒドラジド化合物、メラミン化合物、酸無水物、フェノール化合物、熱潜在性カチオン重合触媒、光潜在性カチオン重合開始剤、ジシアンジアミド及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらの硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、硬化剤とともに、アセチルアセトン鉄等の樹脂硬化触媒として、これらの硬化剤の誘導体が用いられてもよい。
【0065】
上記アミン化合物としては、例えば、鎖状脂肪族アミン化合物、環状脂肪族アミン、芳香族アミン等が挙げられる。
【0066】
鎖状脂肪族アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン等が挙げられる。
【0067】
環状脂肪族アミン化合物としては、例えば、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。
【0068】
芳香族アミン化合物としては、m−キシレンジアミン、α−(m/p−アミノフェニル)エチルアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、α,α−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0069】
上記アミン化合物から合成される化合物としては、例えば、ポリアミノアミド化合物、ポリアミノイミド化合物、ケチミン化合物等が挙げられる。
【0070】
上記ポリアミノアミド化合物としては、例えば、上記のアミン化合物とカルボン酸とから合成される化合物等が挙げられる。カルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカ二酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ジヒドロイソフタル酸、テトラヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等が挙げられる。
【0071】
上記ポリアミノイミド化合物としては、例えば、上記のアミン化合物とマレイミド化合物とから合成される化合物等が挙げられる。マレイミド化合物としては、例えば、ジアミノジフェニルメタンビスマレイミド等が挙げられる。
【0072】
上記ケチミン化合物としては、例えば、上記のアミン化合物とケトン化合物とから合成される化合物等が挙げられる。
【0073】
この他に、上記アミン化合物から合成される化合物としては、例えば、上記のアミン化合物と、エポキシ化合物、尿素化合物、チオ尿素化合物、アルデヒド化合物、フェノール化合物、アクリル系化合物等の化合物とから合成される化合物が挙げられる。
【0074】
上記3級アミン化合物としては、例えば、N,N−ジメチルピペラジン、ピリジン、ピコリン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,
6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビスシクロ(5,4,0)ウンデセン−1等が挙げられる。
【0075】
上記イミダゾール化合物としては、例えば、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。
【0076】
上記ヒドラジド化合物としては、例えば、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド、エイコサン二酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0077】
上記メラミン化合物としては、例えば、2,4−ジアミノ−6−ビニル−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0078】
上記酸無水物としては、例えば、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセロールトリスアンヒドロトリメリテート、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸−無水マレイン酸付加物、ドデセニル無水コハク酸、ポリアゼライン酸無水物、ポリドデカン二酸無水物、クロレンド酸無水物等が挙げられる。
【0079】
上記熱潜在性カチオン重合触媒としては特に限定されず、例えば、6フッ化アンチモン、6フッ化リン、4フッ化ホウ素等を対アニオンとした、ベンジルスルホニウム塩、ベンジルアンモニウム塩、ベンジルピリジニウム塩、ゼンジルスルホニウム塩等のイオン性熱潜在性カチオン重合触媒;N−ベンジルフタルイミド、芳香族スルホン酸エステル等の非イオン性熱潜在性カチオン重合触媒が挙げられる。
【0080】
上記光潜在性カチオン重合触媒としては特に限定されず、例えば、6フッ化アンチモン、6フッ化リン、4フッ化ホウ素等を対アニオンとした、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩及び芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩類、並びに鉄−アレン錯体、チタノセン錯体及びアリールシラノール−アルミニウム錯体等の有機金属錯体類等のイオン性光潜在性カチオン重合開始剤;ニトロベンジルエステル、スルホン酸誘導体、リン酸エステル、フェノールスルホン酸エステル、ジアゾナフトキノン、N−ヒドロキシイミドスルホナート等の非イオン性光潜在性カチオン重合開始剤が挙げられる。
【0081】
上記硬化剤がフェノール基を有する場合には、耐熱性、低吸水性や、寸法安定性を向上させることができる。
【0082】
上記フェノール基を有するフェノール化合物としては、例えば、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、t−ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール等が挙げられる。これらの誘導体も用いることができ、フェノール化合物は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0083】
上記硬化剤が下記の化学式(B)または(C)で示される疎水性フェノール化合物である場合には、耐熱性、低吸水性、及び熱履歴を与えた場合の寸法安定性に加えて、誘電率や誘電正接が低い樹脂シートを得ることができ、電気的特性を改善することができる。
【0084】
【化2】

【0085】
【化3】

【0086】
なお、上述した熱硬化性樹脂の硬化剤は、いずれもエポキシ系樹脂硬化剤として用いることができる。
【0087】
熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)と硬化剤との好適当量比は、1:0.5〜1:1.5の範囲である。硬化剤が当量比0.5より少ないいと、熱硬化性樹脂が十分硬化しないことがあり、硬化物の力学的特性などに劣ることがある。硬化剤が当量比1.5より多いと、熱硬化性樹脂を硬化するのに過剰となることがあり、過剰の硬化剤により硬化物の力学的特性が低くなることがある。
【0088】
(層状珪酸塩)
本明細書において、層状珪酸塩とは、層間に交換性金属カチオンを有する層状の珪酸塩鉱物を意味し、天然物であってもよく、合成物であってもよい。
【0089】
層状珪酸塩の層間に存在する交換性金属カチオンとは、層状珪酸塩の薄片状結晶表面に存在するナトリウムやカルシウム等の金属イオンを意味している。これらの金属イオンは、カチオン性物質とのカチオン交換性を有するので、カチオン性を有する種々の物質を上記層状珪酸塩の結晶層間に挿入(インターカレート)することができる。
【0090】
層状珪酸塩のカチオン交換容量としては特に限定されないが、50〜200ミリ等量/100gであることが好ましい。
【0091】
カチオン交換容量が50ミリ等量/100g未満であると、カチオン交換によって層状珪酸塩の結晶層間にインターカレートされるカチオン性物質の量が少なくなるために、結晶層間が充分に非極性化(疎水化)されないことがある。また、カチオン交換容量が200ミリ等量/100gを超えると、層状珪酸塩の結晶層間の結合力が強固になりすぎて、
層状珪酸塩の薄片状結晶の剥離が困難になる。
【0092】
また、層状珪酸塩は、下記式(1)で定義される形状異方性効果が大きいものであることが好ましい。形状異方性効果の大きい層状珪酸塩を用いることにより、熱硬化性樹脂硬化物は優れた力学的特性を有することができる。
【0093】
形状異方性効果=薄片状結晶の積層面の表面積/薄片状結晶の積層側面の断面積 …式
(1)
形状異方性効果が大きい層状珪酸塩としては、例えば、スメクタイト系粘土鉱物、膨潤性マイカ、バーミキュライト、ハロイサイト等が挙げられる。スメクタイト系粘土鉱物としては、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト等が挙げられる。
【0094】
これらのうち、層状珪酸塩として、モンモリロナイト、ヘクトライト、及び膨潤性マイカからなる群より選択される少なくとも1種が好適に用いられる。これらの層状珪酸塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0095】
層状珪酸塩は、熱硬化性樹脂中に均一に分散されているのが好ましく、熱硬化性樹脂中に微細な状態で分散されているのがより好ましい。層状珪酸塩が熱硬化性樹脂中に均一に分散され、又は熱硬化性樹脂中で微細な状態で分散されていることによって、熱硬化性樹脂と層状珪酸塩との界面面積を大きくすることができる。
【0096】
また、層状珪酸塩は所定数の層を有する薄片状結晶として分散されるため、得られる熱硬化性樹脂硬化物の物理的強度を高めることができ、熱硬化性樹脂硬化物を薄いシート状に加工しても高い物理的強度を得ることができる。更に、分散された層状珪酸塩同士の間隔が適度な距離であることが好ましい。
【0097】
熱硬化性樹脂中に層状珪酸塩を分散させる方法としては、例えば、有機化層状珪酸塩を用いる方法、発泡剤を用いる方法、分散剤を用いる方法等が挙げられる。これらの方法を用いることにより、樹脂中に層状珪酸塩をより均一かつ微細に分散させることができる。
【0098】
熱硬化性樹脂中に層状珪酸塩を分散させると、均一かつ微細に分散さることができるとともに、熱硬化性樹脂硬化物は、十分な強度および優れた力学的特性及び電気的特性を有する。さらに、燃焼時に有機化層状珪酸塩による燃結体が形成されるので、燃焼残渣の形状が保持され、燃焼後も形状崩壊が起こり難く、延燃を防止することができ、優れた難燃性が発現される。
【0099】
層状珪酸塩を分散させる方法のひとつである有機化層状珪酸塩を用いる方法としては、以下に示す化学修飾(1)法〜化学修飾(6)法によって化学修飾することにより得られる有機化層状珪酸塩を用いる方法が挙げられる。これらの化学修飾方法は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0100】
なお、有機化層状珪酸塩とは、層状珪酸塩を化学修飾することによって樹脂中への分散性が向上されたものをいう。
【0101】
化学修飾(1)法は、カチオン性界面活性剤によるカチオン交換法とも呼ばれる方法で、具体的には、カチオン性界面活性剤を用いて層状珪酸塩の層間をカチオン交換して、層状珪酸塩の層間を予め疎水化させる方法である。層状珪酸塩の層間が予め疎水化されることによって、層状珪酸塩と低極性樹脂との親和性が高まるため、層状珪酸塩をより均一かつ微細な状態で分散させることができる。
【0102】
このようなカチオン性界面活性剤としては特に限定されず、例えば、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩等が挙げられる。これらのうち、層状珪酸塩の結晶層間を充分に疎水化できることから、炭素数6以上のアルキルアンモニウムイオンを含有する、炭素数6以上のアルキル鎖を有する4級アンモニウム塩が好適に用いられる。
【0103】
上記炭素数6以上のアルキル基を有する4級アンモニウム塩としては、例えば、トリメチルアルキルアンモニウム塩、トリエチルアルキルアンモニウム塩、トリブチルアルキルアンモニウム塩、ジメチルジアルキルアンモニウム塩、ジブチルジアルキルアンモニウム塩、メチルベンジルジアルキルアンモニウム塩、ジベンジルジアルキルアンモニウム塩、トリアルキルメチルアンモニウム塩、トリアルキルエチルアンモニウム塩、トリアルキルブチルアンモニウム塩、芳香環を有する4級アンモニウム塩、トリメチルフェニルアンモニウム等の芳香族アミン由来の4級アンモニウム塩、ポリエチレングリコール鎖を2つ有するジアルキル4級アンモニウム塩、ポリプロピレングリコール鎖を2つ有するジアルキル4級アンモニウム塩、ポリエチレングリコール鎖を1つ有するトリアルキル4級アンモニウム塩、ポリプロピレングリコール鎖を1つ有するトリアルキル4級アンモニウム塩等が挙げられる。これらのうち、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、ジステアリルジメチルアンモニウム塩、ジ硬化牛脂ジメチルアンモニウム塩、ジステアリルジベンジルアンモニウム塩、N−ポリオキシエチレン−N−ラウリル−N,N−ジメチルアンモニウム塩等が好適に用いられる。これらの4級アンモニウム塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0104】
また、4級ホスホニウム塩としては、例えば、ドデシルトリフェニルホスホニウム塩、メチルトリフェニルホスホニウム塩、ラウリルトリメチルホスホニウム塩、ステアリルトリメチルホスホニウム塩、メチルトリオクチルホスホニウム塩、ジステアリルジメチルホスホニウム塩、ジステアリルジベンジルホスホニウム塩等が挙げられる。これらの4級ホスホニウム塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0105】
上記化学修飾(2)法は、化学修飾(1)法によって化学修飾された有機化層状珪酸塩の結晶表面に存在する水酸基に対して、この水酸基と化学結合し得る官能基又はこの水酸基との化学的親和性の大きい官能基を分子末端に1個以上有する化合物を用いて化学修飾する方法である。
【0106】
水酸基と化学結合し得る官能基又は水酸基との化学的親和性の大きい官能基としては、例えば、アルコキシ基、グリシジル基、カルボキシル基(二塩基性酸無水物も包含する)、水酸基、イソシアネート基、アルデヒド基等が挙げられる。
【0107】
また、これらの官能基を有する化合物としては、例えば、これらの官能基を有する、シラン化合物、チタネート化合物、グリシジル化合物、カルボン酸類、アルコール類等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0108】
これらの官能基を有するシラン化合物としては特に限定されず、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプ
ロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシラン化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0109】
上記化学修飾(3)法は、化学修飾(1)法によって化学修飾された有機化層状珪酸塩の結晶表面に存在する水酸基に対して、この水酸基と化学結合し得る官能基又はこの水酸基と化学的親和性の大きい官能基と、反応性官能基を分子末端に1個以上有する化合物とを用いて化学修飾する方法である。
【0110】
上記化学修飾(4)法は、化学修飾(1)法によって化学修飾された有機化層状珪酸塩の結晶表面に対して、アニオン性界面活性を有する化合物を用いて化学修飾する方法である。
【0111】
このようなアニオン性界面活性を有する化合物としては、イオン相互作用により層状珪酸塩を化学修飾できるものであれば特に限定されず、例えば、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、高級アルコール硫酸エステル塩、第2級高級アルコール硫酸エステル塩、不飽和アルコール硫酸エステル塩等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0112】
上記化学修飾(5)法は、アニオン性界面活性を有する化合物のうち、分子鎖中のアニオン部位以外に反応性官能基を1個以上有する化合物を用いて化学修飾する方法である。
【0113】
上記化学修飾(6)法は、化学修飾(1)法〜化学修飾(5)法のいずれか1つの方法で化学修飾された有機化層状珪酸塩に対して、層状珪酸塩と反応可能な官能基を有する樹脂を添加し、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の少なくとも1種からなる樹脂として用いる方法である。
【0114】
熱硬化性樹脂中に分散される前の層状珪酸塩は、直径が0.5μm以下であることが好ましい。層状珪酸塩の直径が0.5μm以下であることによって、樹脂と層状珪酸塩との界面面積をより大きくすることができる。
【0115】
なお、層状珪酸塩の直径は、熱硬化性硬化物の断面を電子顕微鏡等で観察することによって測定される。
【0116】
熱硬化性樹脂中に分散された層状珪酸塩は、その積層数が5層以下であることが好ましく、3層以下であることがより好ましく、1層であることが更に好ましい。
層状珪酸塩が熱硬化性樹脂中に5層以下で分散されることによって熱硬化性樹脂と層状珪酸塩との界面面積をより大きくすることができる。なお、5層以下の積層体とは、具体的には、層状珪酸塩の薄片状結晶間の相互作用が弱められたために薄片状結晶が5層以下となった状態であることを意味する。
【0117】
また、5層以下の層状珪酸塩として熱硬化性樹脂中に分散された割合は、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。
【0118】
熱硬化性樹脂中の層状珪酸塩の割合が10%未満の場合には、熱硬化性樹脂硬化物の強度が低下してしまう場合がある。
【0119】
ところで、積層数を小さくするためには、例えば、層状珪酸塩の分散性が向上するように、カチオン交換させるカチオン性界面活性剤の量などの化学処理量を多くする必要がある。しかしながら、多く配合されたカチオン性界面活性剤によって、物性低下が発生することがあり、さらに分散時の分散条件をより一層過酷にしなければならないことがある。例えば、押出機で分散させる場合には、押出中のせん断力を高めたり、ミキサーで攪拌する場合には、回転羽の回転数を高くしければならないことがある。
【0120】
しかしながら、層状珪酸塩は積層数が3層程度で分散していれば、上述の効果を充分に発揮することができる。従って、層状珪酸塩の積層体の30%以上が、3層以上の状態で分散していることが好ましい。また、3層以上の割合が過剰に増えると上述した物性が得られにくくなるために、3層以上の状態で分散している層状珪酸塩の積層体の割合は、70%以下であることが好ましい。
【0121】
ここで、5層以下の積層体として分散している層状珪酸塩のの割合、および、3層以上に分散している層状珪酸塩の割合は、本発明の熱硬化性樹脂硬化物を透過型電子顕微鏡により10万倍に拡大し、層状珪酸塩の分散状態を確認することにより求められる。一定面積中において観察できる層状珪酸塩の積層体の全層数(X)と、5層以下の積層体として分散している層状珪酸塩の層数(Y)と、3層以上の積層体として分散している層状珪酸塩の層数(Z)とを計測する。下記計算式により5層以下、及び3層以上の積層体として分散している層状珪酸塩の割合(%)を算出して、下記判定基準により層状珪酸塩の分散状態を評価する。
【0122】
5層以下の積層体として分散している層状珪酸塩の割合(%)=(Y/X)×100
3層以上の積層体として分散している層状珪酸塩の割合(%)=(Z/X)×100
樹脂中に分散された層状珪酸塩は、広角X線回折測定法により測定される(001)面の平均層間距離が3〜5nmであることが好ましい。なお、層状珪酸塩の平均層間距離とは、層状珪酸塩の薄片状結晶を層とみなした場合における層間の距離の平均を意味し、X線回折ピーク及び透過型電子顕微鏡撮影等の広角X線回折測定法により算出される距離である。
【0123】
また、平均層間距離が5nmを超えると、層状珪酸塩の薄片状結晶が層ごとに分離されて層状珪酸塩の相互作用が無視できるほど弱まるので、燃焼時の被膜形成が遅くなり、難燃性の向上が充分に得られないことがある。
【0124】
また、層状珪酸塩の平均層間距離が3〜5nmであり、かつ、層状珪酸塩の一部又は全部が5層以下の積層体として分散することにより、熱硬化性樹脂と層状珪酸塩との界面面積は充分に大きく、かつ、層状珪酸塩の薄片状結晶間の距離は適度なものとなる。このため、熱硬化性樹脂硬化物において、公知の無機充填剤を用いたときよりも優れた力学的特性及び難燃性を得ることができる。
【0125】
熱硬化性樹脂組成物における層状珪酸塩の配合割合は、熱硬化性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.5重量部〜50重量部である。より好ましくは、1重量部〜30重量部である。層状珪酸塩が0.5重量部より少ないと、力学的特性及び電気的特性が十分でないことがある。層状珪酸塩が50重量部より多いと、層状珪酸塩の分散性が悪くなることがある。
【0126】
(他の成分)
熱硬化性樹脂組成物には、本発明の課題達成を阻害しない限り、必要に応じて、熱可塑性エラストマー類、架橋ゴム、オリゴマー類、無機化合物、造核剤、酸化防止剤(老化防止剤)、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃助剤、帯電防止剤、防曇剤、充
填剤、軟化剤、可塑剤、および着色剤等の添加剤が配合されてもよい。これらはそれぞれ単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0127】
(樹脂シートの製造方法)
本発明では、上記熱硬化性樹脂組成物を適宜の方法により混練した後、樹脂シートが製造される。樹脂組成物を混練する方法としては、特に限定されず、例えば、遊星式撹拌装置、押出機、ホモジナイザー、メカのケミカル撹拌機、2本ロール、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練する方法が挙げられる。剪断力をかけることで、層状珪酸塩の平均長さを短くすることができることがある。 樹脂シートの成形方法は特に限定されず、例えば、押出機にて溶融混練した後に押出し、Tダイやサーキュラーダイなどを用いてフィルム上に形成する押出成形法、有機溶剤などの溶剤に溶解または分散させた後、キャスティングしてフィルム上に成形するキャスティング成形法などを挙げることができる。
【0128】
上記のようにして、本発明で用意される熱硬化性樹脂組成物を成形することにより、樹脂シートが得られる。
【0129】
本発明に係る樹脂シートの製造方法では、次に、上記樹脂シートの表面を無機酸で処理する。無機酸としては、例えば、塩酸、フッ化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸等を用いることができる。これらの中で、硫酸が樹脂シートの表面に多数の孔が均一に形成され易いため好適である。
【0130】
前記硫酸の濃度は、好ましくは、5〜50%である。硫酸の濃度が50%より高いと、樹脂が酸によりダメージを受けることがあり、濃度が5%より低いと、硫酸処理の効果が十分でないことがある。
樹脂シートの表面を無機酸で処理する条件は、例えば常温(25℃)で2〜20分間、好ましくは5〜10分間、樹脂シートの表面を硫酸に浸漬させる。浸漬時間が2分より短いと、硫酸処理の効果が十分でないことがある。20分より長いと樹脂全体が酸によりダメージを受けるおそれがある。
【0131】
なお、上記浸漬は加温下で行なってもよく、加温した場合にはより効果を高めることができる。例えば、30%硫酸を45℃にして3分程度処理すると、常温(25℃)下30%硫酸で10分処理した時と同様の効果が得られる。特に、熱硬化性樹脂組成物が、層状珪酸塩を含む場合には、樹脂シートの表面に孔が形成され難いため、有効な手法である。
【0132】
上記のようにして無機酸で処理した樹脂シートの表面を、過マンガン酸塩を含む粗化水溶液を用いて粗化させることにより、樹脂シートの表面に多数の孔を形成させる。
【0133】
粗化水溶液に含まれる過マンガン酸塩としては、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸アンモニウム等が挙げられるが、これらの中で、過マンガン酸カリウムが好適である。過マンガン酸塩は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なお、粗化用水溶液には、過マンガン酸塩の他にも、例えば、アルカリ(水酸化ナトリウム)等が配合されてもよい。
【0134】
過マンガン酸塩を含む粗化水溶液を用いて、前記無機酸で処理した樹脂シートの表面を粗化させる条件は、例えば45℃で3〜20分間、好ましくは5〜7分間、樹脂シートの表面を粗化水溶液に浸漬させる。浸漬時間が20分より長いと、過剰粗化になることがあり、浸漬時間が3分より短いと、過マンガン酸塩粗化処理の効果が十分でないことがある。
【0135】
なお、上記浸漬は加温下で行なった場合にはより粗化効果を高めることができる。特に
、熱硬化性樹脂組成物が、層状珪酸塩を含む場合には、該樹脂シートの表面に孔が形成され難いため、有効な手法である。
【0136】
上記のようにして無機酸で処理した樹脂シートの表面を、過マンガン酸塩を含む粗化水溶液を用いて粗化させることにより、樹脂シートの表面に多数の孔を効率よく形成することができる。
【0137】
表面が粗化された樹脂シートに導電膜を設ける方法として、例えば、上記の粗化された熱硬化性樹脂組成物に対して銅メッキを設けた後、150〜180℃で0.5〜2時間加熱する方法が挙げられる。
【0138】
本発明に係る製造方法では、上述した樹脂シートの表面を無機酸で処理した後、無機酸で処理した樹脂シートの表面を粗化させるため、樹脂シートの表面に微細な多数の孔が形成される。従って、本発明により得られた樹脂シートの表面に導電膜が形成されると、樹脂シートと導電膜との密着性が効果的に高められる。
【0139】
従って、本発明により得られた樹脂シートの表面に形成される導電膜は、銅以外の様々な金属により構成されることができ、そのような場合であっても、本発明に従って導電膜の樹脂シート表面への密着力が効果的にかつ適度に高められる。また、導電膜の形成方法についても、メッキに限らず、スパッタリングまたは蒸着等の適宜の形成方法を用いることができる。
【0140】
(樹脂シートの作用効果)
本発明の製造方法で得られる樹脂シートが上記ブタジエン骨格を有する可撓性エポキシ樹脂と、エポキシ系樹脂の硬化剤を含有する熱硬化性樹脂組成物からなる場合には、硬化物は低温域から高温域までの広い温度範囲にわたり、高い伸度を有するとともに、より一層優れた力学的特性を発揮し得る。また、エポキシ樹脂硬化剤がフェノール基を有する化合物からなる場合には、樹脂シートの耐熱性、低吸水性や、寸法安定性を向上させることができる。
【0141】
さらに、後述の実験例に示されているように、ブタジエン骨格を有する可撓性エポキシ樹脂などの炭素−炭素二重結合が存在する樹脂であっても、本発明に係る樹脂シート製造方法によって、樹脂シートの表面に多数の孔を形成することができる。
【0142】
本発明の製造方法で得られる樹脂シートが層状珪酸塩を含有する熱硬化性樹脂組成物からなる場合には、優れた力学的特性や透明性、耐湿性等を有し、分子鎖の拘束によるガラス転移点温度や耐熱変形温度の上昇に基づく、耐熱性の向上や熱線膨張率の低減、結晶形成における層状珪酸塩の造核効果や耐湿性の向上等に伴う膨潤抑制効果等に基づく寸法安定性の向上等が図られる。また、燃焼時には層状珪酸塩による燃結体が形成されるので燃焼残渣の形状が保持され、延燃を防止することができ、優れた難燃性を発現する。更に、金属水酸化物等のノンハロゲン難燃剤と組合わせることで、環境にも配慮しつつ、優れた力学的特性等と高い難燃性とを両立することができる。
【0143】
上記樹脂シートにおいては、層状珪酸塩が通常の無機充填剤のように多量に配合しなくとも優れた力学的特性等を付与することから薄い成形体に加工でき、多層プリント基板の高密度化、薄型化に対応して薄厚化した上記樹脂シートからなる絶縁基板材料は、優れた難燃性、力学的特性、高温物性、耐熱性、寸法安定性等の諸性能を発現できる。
【0144】
本発明に係る樹脂シートの製造方法は、無電解メッキ、スパッタリング又は真空蒸着により樹脂シートの表面に導電膜を形成したときの樹脂シートと導電膜との接着強度を飛躍
的に向上させることができるものである。
【0145】
従って、本発明に係る樹脂シートは、絶縁基板用樹脂シートとして好ましく用いることができ、樹脂シートの少なくとも一方面にメッキにより形成された導電膜を備える絶縁基板もまた本発明の1つである。
【0146】
本発明に係る樹脂シートの表面に、導電膜が形成されてなる金属箔付き樹脂シートを用いてなる多層基板は、力学的特性、寸法安定性、耐熱性、難燃性に優れる。多層基板が過酷な環境下で使用された場合でも、導電膜が樹脂からはずれてショートや断線を起こし難く、高い信頼性を有するものである。
【0147】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0148】
(樹脂シートの製造)
可撓性を有するエポキシ変性ポリブタジエン樹脂(日本曹達社製、品番:「EPB−13」、エポキシ当量598)58.3重量部、及びフェノール化合物(日本石油化学社製、PP−1000−240、水酸基等量:420)41.7重量部からなるエポキシ系熱硬化性樹脂組成物を用意した。このエポキシ系熱硬化性樹脂組成物100重量部に対して、無機化合物として、トリオクチルメチルアンモニウム塩で有機化処理が施された合成ヘクトライト(層状珪酸塩;コープケミカル社製、ルーセンタイトSTN)8重量部、及び有機溶媒としてジメチルホルムアミド(和光純薬社製、特級)400重量部をビーカー中でさらに加えた。これを撹拌機にて1時間撹拌した後、脱泡し、エポキシ系熱硬化性樹脂組成物溶液を得た。
【0149】
得られたエポキシ系熱硬化性樹脂組成物溶液をポリエチレンテレフタレートのシート上に塗布した状態で溶媒を除去し、厚み40ミクロンのフィルムを作成した。次に、FR4基板(利昌工業社製、材質:ガラス,エポキシ、サイズ:30×60×0.6mm)に真空加圧式ラミネーター(名機製作所社:装置型式MVLP−500)を用いてラミネート
した。次に、表面のPETを取ってギアオーブンに入れ、170℃の温度で1時間プレキュアを行い、樹脂シートを用意した。
【0150】
上記のようにして得られた樹脂シートの表面を、下記の硫酸処理及び/又は過マンガン酸塩処理した。
【0151】
(硫酸処理)
硫酸処理は、25℃の各硫酸水溶液が入ったビーカーに樹脂シートを入れて揺動させることにより行なった。硫酸処理が終了した樹脂シートを純水でよく洗浄した。
【0152】
(過マンガン酸塩処理)
過マンガン酸塩処理は、45℃の過マンガン酸カリウム(コンセントレートコンパクトCP、アトテックジャパン社製)粗化水溶液に、樹脂シートを入れて揺動させることにより行なった。また、過マンガン酸塩処理が終了した樹脂シートを、25℃の洗浄液(リダクションセキュリガントP、アトテックジャパン社製)を用いて2分間処理して還元し、Mnの酸化作用を終了させた。
【0153】
(実施例および比較例)
以下の実施例および比較例では、上記硫酸処理および/または上記過マンガン酸塩処理を行なった。
【0154】
(実施例1)
10%硫酸を用いて上記硫酸処理(硫酸処理時間10分)を1回実施した。硫酸処理後、上記過マンガン酸塩処理(過マンガン酸塩処理時間5分)を1回実施した。
【0155】
(実施例2)
30%硫酸を用いて上記硫酸処理(硫酸処理時間10分)を1回実施した。硫酸処理後、上記過マンガン酸塩処理(過マンガン酸塩処理時間5分)を1回実施した。
【0156】
(実施例3)
50%硫酸を用いて上記硫酸処理(硫酸処理時間10分)を1回実施した。硫酸処理後、上記過マンガン酸塩処理(過マンガン酸塩処理時間5分)を1回実施した。
【0157】
(実施例4)
70%硫酸を用いて上記硫酸処理(硫酸処理時間10分)を1回実施した。硫酸処理後、上記過マンガン酸塩処理(過マンガン酸塩処理時間5分)を1回実施した。
【0158】
(実施例5)
30%硫酸を用いて上記硫酸処理(硫酸処理時間10分)を1回実施した。硫酸処理後、上記過マンガン酸塩処理(過マンガン酸塩処理時間1分)を1回実施した。
【0159】
(実施例6)
30%硫酸を用いて上記硫酸処理(硫酸処理時間10分)を1回実施した。硫酸処理後、上記過マンガン酸塩処理(過マンガン酸塩処理時間3分)を1回実施した。
【0160】
(実施例7)
30%硫酸を用いて上記硫酸処理(硫酸処理時間10分)を1回実施した。硫酸処理後、上記過マンガン酸塩処理(過マンガン酸塩処理時間7分)を1回実施した。
【0161】
(実施例8)
30%硫酸を用いて上記硫酸処理(硫酸処理時間15分)を1回実施した。硫酸処理後、上記過マンガン酸塩処理(過マンガン酸塩処理時間5分)を1回実施した。
【0162】
(実施例9)
30%硫酸を用いて上記硫酸処理(硫酸処理時間20分)を1回実施した。硫酸処理後、上記過マンガン酸塩処理(過マンガン酸塩処理時間5分)を1回実施した。
【0163】
(実施例10)
30%硫酸を用いて上記硫酸処理(硫酸処理時間10分)を2回実施した。硫酸処理後、上記過マンガン酸塩処理(過マンガン酸塩処理時間5分)を1回実施した。
【0164】
(比較例1)
上記過マンガン酸塩処理(過マンガン酸塩処理時間3分)を1回実施した。
【0165】
(比較例2)
上記過マンガン酸塩処理(過マンガン酸塩処理時間5分)を1回実施した。
【0166】
(比較例3)
上記過マンガン酸塩処理(過マンガン酸塩処理時間7分)を1回実施した。
【0167】
(比較例4)
30%硫酸を用いて上記硫酸処理(硫酸処理時間10分)を1回実施した。
【0168】
(比較例5)
30%硫酸を用いて上記硫酸処理(硫酸処理時間15分)を1回実施した。
【0169】
(比較例6)
30%硫酸を用いて上記硫酸処理(硫酸処理時間20分)を1回実施した。
【0170】
(実施例3及び比較例2の評価)
30%硫酸処理を行なった後、過マンガン酸カリウムを含む粗化水溶液を用いて粗化処理を行なった実施例3の樹脂シート、および硫酸処理を行なわず、過マンガン酸カリウムを含む粗化水溶液を用いて粗化処理のみを行なった比較例2の樹脂シートの表面状態を評価した。
【0171】
(結果)
図1に実施例3の樹脂シートの走査型電子顕微鏡(SEM)画像、図2に比較例2の樹脂シートの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【0172】
図1及び図2から明らかなように、比較例2の樹脂シートに比べて、実施例3の樹脂シートの方が明らかに孔が多く形成されていた。よって、アンカー効果が増大し、後述のピール強度が向上したと考えられる。
【0173】
なお、実施例3及び比較例2の樹脂シートの反射IRを見ると、比較例2の樹脂シートに比べて、実施例3の樹脂シートの方が炭素−炭素二重結合の吸収ピークが減り、カルボニル基のピークがやや強く出ていた。これは、実施例3の樹脂シートの方がより粗化が促進されたことを表し、図1,2に示したSEM画像の結果とも一致する。よって、プレキュア後の樹脂シート表面に存在する炭素−炭素二重結合の一部が改質され、カルボニル基ができ、樹脂とメッキとの密着性が向上したと考えられる。
【0174】
従って、ブタジエン骨格を有する可撓性エポキシ樹脂などの炭素−炭素二重結合が存在する樹脂である場合には、樹脂シートの表面を無機酸で処理した後、過マンガン酸塩を含む粗化水溶液を用いて、無機酸で処理した樹脂シートの表面を粗化させることで、粗化が促進されると考えられる。
【0175】
(実施例1〜10及び比較例1〜6の評価)
次に、実施例1〜10及び比較例1〜6の樹脂シートの表面を無電解メッキ処理し、次に電解メッキ処理し、ピール強度を測定することによりメッキ膜の接着強度を評価した。硫酸処理および/または過マンガン酸塩処理が終了した実施例1〜10および比較例1〜6の樹脂シートを、60℃のアルカリクリーナ(クリーナーセキュリガント902)で5分間処理し、表面を脱脂洗浄した。次に、樹脂シートを25℃のプリディップ液(プリディ
ップネオガントB)で2分間処理した。その後、樹脂シートを40の℃のアクチベーター
液(アクチベーターネオガント834)で5分間処理し、パラジウム触媒を付けた。次に、30℃の還元液(リデューサーネオガントWA)で5分間処理した。
【0176】
次に、化学銅液(ベーシックプリントガントMSK−DK、カッパープリントガントM
SK、スタビライザープリントガントMSK)に入れ、無電解メッキをメッキ厚さが0.
5μm程度になるまで実施した。無電解メッキ後は残留水素ガス除去のため、120℃の温度で60分間アニールをかけた。無電解メッキの工程までのすべての工程においては、ビーカースケールで処理液を1Lとし、樹脂シートを揺動しながら各工程を実施した。
【0177】
次に、無電解メッキ処理された樹脂シートに、電解メッキをメッキ厚さが25μmとなるまで実施した。電気銅メッキとして硫酸銅(リデューサーCu)を用い、電流は0.6A/cm2とした。電解メッキ後はギアオーブンで170℃の温度で1時間アニールした

【0178】
(ピール強度の評価方法)
上記のようにしてメッキ膜が形成された実施例1〜10及び比較例1〜6の樹脂シートのピール強度(JIS C 6481)を測定した。樹脂シートのメッキした面をカッターで切り、切片を治具に固定した後、オートグラフを用いて、50mm/分の速度で90度粗化ピールを測定した。
【0179】
(結果)
各樹脂シートのピール強度の測定結果を表1及び図3に示す。各ピール強度は2枚の樹
脂シートの平均値を示した。
【0180】
【表1】

【0181】
表1から明らかなように、樹脂シートの表面を硫酸で処理した後、過マンガン酸カリウムを含む粗化水溶液を用いて、硫酸で処理した樹脂シートの表面を粗化させた実施例1〜10の樹脂シートにおいて、高いピール強度を示す結果となった。
【0182】
さらに、図3に示されているように、硫酸濃度が10%、30%、及び50%である実施例1〜3の樹脂シートにおいて、高いピール強度を示した。特に、硫酸濃度が10%、30%の樹脂シートにおいて、非常に高いピール強度を示した。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】30%硫酸処理を行なった後、過マンガン酸カリウムを含む粗化水溶液を用いて粗化処理を行なった樹脂シートの走査型電子顕微鏡(SEM)画像。
【図2】硫酸処理を行なわず、過マンガン酸カリウムを含む粗化水溶液を用いて粗化処理のみを行なった樹脂シートの走査型電子顕微鏡(SEM)画像。
【図3】本発明に係る樹脂シートのピール強度の評価結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シートの表面を無機酸で処理した後、過マンガン酸塩を含む粗化水溶液を用いて、前記無機酸で処理した樹脂シートの表面を粗化させることにより、樹脂シートの表面に多数の孔が形成されている樹脂シートを得ることを特徴とする、樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記無機酸として硫酸を用いることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記硫酸の濃度が、5〜50%である、請求項2に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂組成物が、エポキシ系樹脂と、エポキシ系樹脂硬化剤とを含むエポキシ系熱硬化性樹脂組成物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
前記エポキシ系樹脂が、ブタジエン骨格を有する可撓性エポキシ樹脂である、請求項4に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂硬化剤が、フェノール基を有する化合物からなることを特徴とする、請求項4または5に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂組成物が、層状珪酸塩を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法により得られた樹脂シートからなる絶縁基板用樹脂シート。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法により得られた樹脂シートと、該樹脂シートの少なくとも一方面にメッキにより形成された導電膜とを備えることを特徴とする、絶縁基板。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂シートの製造方法により得られた樹脂シートを層間絶縁層として含む、多層基板。


【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−233231(P2006−233231A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44862(P2005−44862)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】